説明

サスペンション装置

【課題】弾性体ブッシュのコンプライアンスを適切に設定して操縦安定性を向上したサスペンション装置を提供する。
【解決手段】ハウジング110と、前輪Wの車軸中心より前方に配置されたタイロッド152と、車体1及びハウジング110に対して揺動可能とされたサスペンションアーム130と、サスペンションアームと車体との連結部に設けられたフロントブッシュ190及びリアブッシュ200とを備えるサスペンション装置を、リアブッシュは中心軸を上下方向に略沿わせて配置されサスペンションアームに固定される外筒210と、車体に固定される内筒220と、外筒と内筒との間に充填された弾性体230とを備え、弾性体が充填される内筒の外周面と外筒の内周面との間隔を、車幅方向内側において車幅方向外側に対して小さくした構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の前輪を支持するサスペンション装置に関し、特に弾性体ブッシュのコンプライアンスを適切に設定し操縦安定性を向上したものに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の前輪用として広く用いられているマクファーソンストラット式のサスペンション装置は、前輪のハブベアリングを保持するハウジングの上部を、ショックアブソーバ及びスプリングを組み合わせかつ車体に対して回動可能とされたサスペンションストラットにより支持するとともに、ハウジングの下部を車体に対して揺動可能なサスペンションアーム(ロワアーム)によって支持する構成が一般的である。
【0003】
サスペンションアームは、一般に上方から見た平面形が略L字型に形成され、車体側との連結部は前後方向に離間して2箇所設けられる。この連結部には、同心に配置された内筒及び外筒の間隔にゴム等の弾性体を充填した円筒状のブッシュがそれぞれ設けられる。
このようなフロントサスペンションに関する従来技術として、例えば特許文献1には、シミー振動を防止する目的でサスペンションアーム後方のブッシュの一部に高減衰のゴム材を配設することが記載されている。
また、特許文献2には、前後一対のゴムブッシュによって車体に対して揺動可能に取り付けられたL字状のサスペンションアームを有するサスペンション装置において、前輪舵角の確保や部品構成の簡素化、強度耐久性の向上等を図るため、後方側のブッシュの中心軸を鉛直方向に略沿わせて配置したものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平02−54707号公報
【特許文献2】特開2008−189078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転舵時の前輪の幾何学的配置として、タイヤの引き摺りを防止するため旋回内輪の切れ角を旋回外輪に対して大きくしたアッカーマンジオメトリが知られている。しかし、実際の車両ではサスペンション装置の各構成部品、ステアリングギアボックス等の配置や車体との干渉といった問題から、理想的なアッカーマンジオメトリをとることは難しく、内外輪の切れ角が等しいパラレルステアジオメトリと上述したアッカーマンジオメトリとの中間的な特性としている場合が多い。
この場合、十分な内輪舵角が得られないと内輪が旋回の妨げとなって操舵フィーリングを悪化させる。また、内輪が発生するコーナリングフォースが低くなるため、車両のヨー応答性が低下するなど旋回性能が低下してしまう。さらに、低速での大転舵時にタイヤの引き摺りによるタイトコーナーロック減少が発生し、振動等の原因ともなる。
【0006】
また、サスペンションアームのブッシュは、振動、騒音を十分に遮断するためには弾性体のボリュームを適度に確保して剛性を低下させる必要があるが、この場合、ハードブレーキング時にタイヤ踏面に作用する後引き力によるサスペンションアームの後上がり方向へのピッチング挙動や、前輪のトー変化が問題となる。
本発明の課題は、弾性体ブッシュのコンプライアンスを適切に設定して操縦安定性を向上したサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、前輪を回転可能に支持するハブベアリングを収容するハウジングと、ステアリングギアボックスと前記ハウジングとを連結して前記ハウジングを操向するとともに、前記前輪の車軸中心より前方に配置されたタイロッドと、前記ハウジングと車体との間にわたして設けられ、前記車体及び前記ハウジングのそれぞれに対して揺動可能とされたサスペンションアームと、前記サスペンションアームと前記車体との連結部に設けられ、車両の前後方向に離間して配置されたフロントブッシュ及びリアブッシュとを備えるサスペンション装置であって、前記リアブッシュは、中心軸を上下方向に略沿わせて配置され、前記サスペンションアームに固定される外筒と、前記外筒内へ挿入され、前記車体に固定される内筒と、前記外筒の内周面と前記内筒の外周面との間に充填された弾性体とを備え、前記弾性体が充填される前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間隔を、車幅方向内側において車幅方向外側に対して小さくしたことを特徴とするサスペンション装置である。
【0008】
請求項2の発明は、前記内筒は中心軸と直交する面で切って見た断面形状が車幅方向に略沿った長軸方向を有する長円状に形成され、前記内筒の内周面は長円形状の長軸方向中央部に対して車幅方向外側に偏心して配置されることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置である。
請求項3の発明は、前記内筒の上端部近傍に車幅方向外側に向けて突出した突出部を設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサスペンション装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)リアブッシュの弾性体が充填される内筒の外周面と外筒の内周面との間隔を、車幅方向内側において車幅方向外側に対して小さくしたことによって、内筒に対して外筒を車幅方向内側に変位させる方向の荷重に対する剛性を、反対方向の荷重に対する剛性に対して低くすることができる。これによって、旋回内輪側ではタイヤのコーナリングフォースによってサスペンションアームが車幅方向外側(旋回中心側)へ引かれた際に、サスペンションアームがフロントブッシュ近傍を中心としてリアブッシュ側が車幅方向内側へ変位するよう回転し、トーアウト側へのトー角変化が発生して前輪の切れ角が大きくなる。このように内輪舵角を増加させ転舵時のトー角を適正化することによって、旋回性能、操舵フィーリングの改善やコーナリングフォースの増加によるヨー応答性の向上を図ることができる。さらに、タイトコーナーロック現象も防止することができる。一方、旋回外輪側では、コーナリングフォースに起因するサスペンションアームの回転が旋回内輪側に対して抑制され、振動、騒音、乗り心地を改善するためにゴム部の剛性を低下させた場合であってもトー変化を抑制して操縦安定性を確保することができる。
(2)内筒の断面形状が車幅方向に沿った長軸方向を有する長円状に形成され、内筒の内周面は長円形状の長軸方向中央部に対して車幅方向外側に偏心して配置されることによって、上述した効果を確実に得られ、また、サスペンションアームの前後方向の支持剛性は適度に低下させることができ、ハーシュネスを抑制して乗り心地を向上できる。
(3)内筒の上端部近傍に車幅方向外側に向けて突出した突出部を設けたことによって、前輪の後引き力でサスペンションアームのリアブッシュ側が持ち上がるブレーキング時においては、外筒と内筒との車幅方向変位が左右両方向ともに抑制され、前輪のトー変化を抑制してブレーキング時の安定性を向上できる。また、タイヤの偏摩耗も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用したサスペンション装置の実施例1を車体床下側の前方側から見た状態を示す外観斜視図である。
【図2】図1のサスペンション装置を車体床下側の車幅方向中央部側から見た状態を示す外観斜視図である。
【図3】図1のサスペンション装置の構成を示す模式図であって、車両前方側から見た状態を示している。
【図4】図1のサスペンション装置におけるリアブッシュを示す図であって、図4(a)は上方から見た平面図、図4(b)は図4(a)のb−b部矢視断面図、図4(c)は旋回内輪側でのリアブッシュの変形を示す図であって、図4(b)に相当する断面を示す図である。
【図5】図1のサスペンション装置における旋回内輪側のコンプライアンスステアを示す模式的平面図である。
【図6】本発明を適用したサスペンション装置の実施例2におけるリアブッシュを示す図であって、図6(a)は上方から見た平面図、図6(b)は図6(a)のb−b部矢視断面図、図6(c)はブレーキング時のリアブッシュの変形を示す図であって、図6(b)に相当する断面を示す図である。
【図7】実施例2のサスペンション装置におけるブレーキング時の状態を示す模式的平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、弾性体ブッシュのコンプライアンスを適切に設定して操縦安定性を向上したサスペンション装置を提供する課題を、ロワアーム後部に設けられるリアブッシュの内筒に、車幅方向内側に突きだした突出部を設け、また、内筒の上端部においては車幅方向外側に突出部を設けることによって解決した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明を適用したサスペンション装置の実施例1について説明する。
実施例1のサスペンション装置は、例えば乗用車等の自動車の前輪用として用いられるマクファーソンストラット式フロントサスペンションである。
車両の車体1は、図3等に示すように、ロワサイドフレーム10、アッパサイドフレーム20、ストラット収容部30、フロントクロスメンバ40を備えて構成されている。
車体1は、例えば鋼製のモノコックボディであって、図示しないキャビン(車室)の前方に独立したエンジンルームを備えており、フロントサスペンションはこのエンジンルームの両側部に配置されている。
【0013】
ロワサイドフレーム10は、キャビンの前部隔壁である図示しないトーボードから、車両前方側に突き出し、車両の前後方向にほぼ沿って配置された梁状の構造部材である。ロワサイドフレーム10は、車幅方向に離間して1対が設けられ、これらの間にはエンジン等のパワートレーンが収容される。
アッパサイドフレーム20は、トーボードの上方側に設けられたバルクヘッドから車両前方側に突き出し、車両の前後方向にほぼ沿って配置された梁状の構造部材である。アッパサイドフレーム20は、車幅方向に離間して1対が設けられ、ロワサイドフレーム10よりも上方側かつ車幅方向外側に配置されている。このアッパサイドフレーム20は、車両の図示しないフロントフェンダの上端部に沿って延びている。
【0014】
ストラット収容部30は、後述するストラット120が収容される部分である。ストラット収容部30は、例えば下側が開口したカップ状に形成され、その上端部(カップ形状の底部)には、ストラット120のストラットアッパマウント121が固定されるストラット支持部31が形成されている。
図3に示すように、ストラット収容部30の下端部は、ロワサイドフレーム10の上面部の車幅方向外側の端部に接続され固定されている。また、ストラット収容部30の上端部(ストラット支持部31近傍の部分)は、アッパサイドフレーム20の上面部の車幅方向内側の端部に接続され固定されている。
なお、以上のロワサイドフレーム10、アッパサイドフレーム20、ストラット収容部30は、車体1のホワイトボディの一部を構成しており、例えばスポット溶接等によって相互に接合されている。
【0015】
フロントクロスメンバ40は、車体1の下部に装着され、車幅方向に延在する梁状の部材であって、サスペンション装置を構成する各部材が装着される基部となるものである。
図3に示すように、フロントクロスメンバ40は、車幅方向における両端部の上面部が車体のロワサイドフレーム10の下面部に、例えばボルト・ナットによる締結等によって固定されている。
また、フロントクロスメンバ40には、その下部から突き出したブラケット41が形成されている。ブラケット41は、ロワアーム130の車体側の支点となる部分であって、左右のロワアーム130に対応して車幅方向に離間して1対が設けられている。
さらに、フロントクロスメンバ40の上部には、図示しないエンジン等のパワートレーンが、弾性体を有するエンジンマウント等を介して搭載されている。
【0016】
サスペンション装置は、ハウジング110、ストラット120、ロワアーム130、スタビライザ140等を有して構成されている。また、サスペンション装置には、ステアリングシステム150、フロントブレーキ160、ドライブシャフト170、サポートプレート180、フロントブッシュ190、リアブッシュ200等が設けられている。
【0017】
ハウジング(ナックル)110は、前輪Wが装着される図示しない前輪ハブが回転可能に支持されるハブベアリングを収容する、例えば鋳造鋼製の部材である。
ハウジング110は、その前方側に突き出して形成され、後述するステアリングシステム150のタイロッド152が接続されるナックルアームを備えている。
【0018】
ストラット120は、コイルスプリング及びショックアブソーバをアセンブリ化したものであって、その上端部にストラットアッパマウント121を備えている。ストラットアッパマウント121は、車体1のストラット収容部30のストラット支持部31に固定されている。一方、ストラット120の下端部は、ハウジング110の上端部に固定されている。
ストラット120は、前輪Wの転舵時にハウジング110とともに操向軸線(キングピン)回りに回転し、また、サスペンション装置のストロークに応じて伸縮する。ここで、キングピンは、ストラット120の上端部におけるショックアブソーバのピストンロッド軸線の位置と、ロワアーム130に対してハウジング110が支持されるボールジョイント131の回転中心とを結んだ直線となる。
【0019】
ストラットアッパマウント121は、ストラット120から車体1側へ伝達される振動等を低減するための防振ゴム、及び、ストラット120の本体を車体1に対してキングピン回りに回動可能に支持する軸受等を備えて構成されている。この軸受は、ストラット120のショックアブソーバのロッド軸線とほぼ同心に配置されている。
ストラットアッパマウント121は、上方側へ突き出したボルトを備え、ストラット120は、このボルトを車体1側のストラット支持部31に形成されたボルト孔に挿通し、ナットで締結することによって車体1に固定される。
【0020】
ロワアーム130は、フロントクロスメンバ40のブラケット41及び車体1とハウジング110との間にわたして配置されたサスペンションアームであって、例えばアルミニウム合金による鍛造や、スチールプレスによって形成されている。
ロワアーム130は、車体側においては、車両の前後方向に離間して配置された2箇所の接続部においてブラケット41等に接続され、サスペンション装置のストロークに応じて、この2箇所の接続部を結んだ直線である揺動中心軸回りに揺動(回転)する。ロワアーム130の前側の接続部はフロントクロスメンバ40のブラケット41に接続され、後側の接続部は、フロントクロスメンバ40を介さず車体1に接続されている。
【0021】
また、ロワアーム130は、ハウジング110の下端部とボールジョイント131を介して接続され、ハウジング110はロワアーム130に対してボールジョイント131の図示しないボールの中心点回りに揺動、回転が可能となっている。
ロワアーム130はほぼL字状に屈曲して形成されており、前後の車体等との接続部には、フロントブッシュ190及びリアブッシュ200が設けられている。
ロワアーム130には、円筒状のゴムブッシュであるフロントブッシュ190及びリアブッシュ200の外筒がそれぞれ圧入される円筒部132,133がそれぞれ設けられている。前側の円筒部132は、その軸方向を車両の前後方向とほぼ一致させて配置されている。フロントブッシュ190は、その内筒内に挿入されるボルトによって、フロントクロスメンバ40のブラケット41に固定されている。後側の円筒部133は、その軸方向がほぼ上下方向に配置されている。リアブッシュ200は、その内筒内に挿入されるボルトによって、車体1及びサポートプレート180に固定される。
【0022】
スタビライザ(アンチロールバー)140は、例えばバネ鋼線材を曲げ加工して形成され、車幅方向に延在する中間部分を有する部材であって、リンク141を介して左右のロワアーム130の前縁部にそれぞれ接続されている。スタビライザ140は、例えば車両のロール時等のように、左右のフロントサスペンションが逆相方向に相対変位した際に、中間部分が捻られてバネ反力を発生することによって、ロールを復元させる力を発生する。
【0023】
ステアリングシステム150は、図示しないステアリングホイールの操作に応じて前輪を操舵するものであって、ステアリングギアボックス151、タイロッド152を備えている。
ステアリングギアボックス151は、ステアリングホイールに接続された図示しないステアリングシャフトの回転運動を、車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構を備えている。
タイロッド152は、ステアリングギアボックス151とハウジング110の前端部に設けられたナックルアームとを接続し、図示しないステアリングラックの動きをハウジング110に伝達し、ハウジング110の操向を行うロッド状の部材である。タイロッド152は、その車幅方向外側の端部であるタイロッドエンドに設けられたボールジョイントを介して、ハウジング110のナックルアームに接続されている。
【0024】
フロントブレーキ160は、例えば車輪とともに回転するロータ、及び、このロータをブレーキパッドで挟持するキャリパを有するベンチレーテッドディスクブレーキである。
ドライブシャフト170は、図示しないディファレンシャルギアからハウジング110に装着された図示しないホイールハブに駆動力を伝達する駆動力伝達軸であり、その両端部には等速ジョイントが設けられ屈曲可能となっている。
サポートプレート180は、リアブッシュ200の下部を支持する部材であって、例えば板金によって形成され、ボルト等で車体1のフロア部に固定されている。
【0025】
次に、上述したリアブッシュ200について、より詳細に説明する。
図4に示すように、リアブッシュ200は、外筒210、内筒220、ゴム部230等を備えて構成されている。
外筒210は、ロワアーム130の後方側の円筒部133に圧入される円筒状の部材である。
内筒220は、外筒210の内径側に挿入される略円筒状の部材である。内筒220は、例えば鋼系の材料を用いた鍛造によって一体に形成されている。内筒220の両端部は、外筒110の上下から突出している。内筒220の中心部には、内筒220を車体に締結するボルトが挿入されるボルト孔221が形成されている。ボルト孔221は、無負荷状態において外筒210と略同心となるように配置されている。
内筒220は、その外表面を車幅方向内側に突出させて形成された突出部222が設けられている。このため、内筒220を中心軸と直交する平面で切って見た横断面形状は、車幅方向に略沿った長軸方向を有する長円状となっている。また、上述したボルト孔221は、この長円の長軸方向中央部に対して、車幅方向外側に偏心して配置されている。
【0026】
ゴム部230は、外筒210の内周面と内筒220の中間部223の外周面との間に防振ゴムを充填し、外筒210及び内筒220と加硫接着によって接合したものである。
内筒220に上述した突出部222を設けたことによって、内筒220の車幅方向外側におけるゴム部230の厚みは、車幅方向内側よりも厚くなっている。
このため、内筒220を固定した状態で外筒210に対して車幅方向の荷重を入力した場合、外筒210を車幅方向内側へ変位させる方向の荷重に対するゴム部230の剛性は、車幅方向外側への荷重に対する剛性よりも低くなっている。
【0027】
以下、上述した実施例1の効果について説明する。
図5に示すように、旋回内輪側においては、前輪Wが発生するコーナリングフォースCFによって、ロワアーム130のボールジョイント131が車幅方向外側(旋回中心側)に引かれる。これによって、ロワアーム130を図5における反時計回りに回転させるモーメントが発生する。このとき、リアブッシュ200の外筒210が内筒220に対して車幅方向内側に変位し、ロワアーム130は図5に実線で図示するように反時計回りに回転する。
これによって、ボールジョイント131は車体に対して後退しつつ車幅方向内側へ引き込まれる。前輪Wは、ボールジョイント131とタイロッドエンドとの相対位置変化に起因して、旋回中心側へ切り込まれる(舵角増加)ことになる。
このように旋回内輪側の舵角が増加することによって、前輪のジオメトリがアッカーマンジオメトリに近づき、タイヤの引きずりが抑制されて旋回性能及び操舵フィーリングが改善されるとともに、タイトコーナーロック現象による振動の発生を防止することができる。また、旋回内輪が発生するコーナリングフォースCFが増大するため、車両の応答性を向上することができる。
一方、旋回外輪側ではリアブッシュ200の動きによるトー変化が旋回内輪側に対して抑制されることから、ゴム部230の剛性を過度に高めることなく操縦安定性を確保することができる。
また、内筒220を長円状に形成したことによって、内筒220の前後におけるゴム部230のボリュームを確保でき、前後方向の剛性を適度に低下させて振動、騒音、乗り心地の改善を図ることができる。
【実施例2】
【0028】
以下、本発明を適用したサスペンション装置の実施例2について説明する。なお、上述した実施例1と実質的に同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
実施例2のサスペンション装置は、実施例1のリアブッシュ200に代えて、以下説明するリアブッシュ200Aを備えている。
【0029】
リアブッシュ200Aは、実施例1のリアブッシュ200の内筒220に代えて、以下説明する内筒220Aを備えている。図6に示すように、内筒220Aは、その上端部に、突出部223が形成されている。突出部223は、内筒220Aの外周面を、車幅方向外側に突出されて形成されている。突出部223が設けられた領域においては、内筒220Aを中心軸と直交する面で切って見た横断面形状は略長円状に形成され、ボルト孔221の中心は、この長円形状の長軸方向における中央部に配置されている。
【0030】
突出部223の下面部は、テーパ状の斜面として形成され、ブレーキング時のタイヤからの反力によって外筒210が内筒220Aに対して相対的にリフトした際に、ゴム部230の上面と当接して外筒210のさらなる上昇を防止するストッパとして機能する。また、このように外筒210がリフトした状態では、突出部223は、外筒210の内筒220Aに対する車幅方向内側への相対変位を抑制するストッパとして機能する。
このため、図7に示すように、前輪Wのタイヤ踏面に後引き力であるブレーキ力BFが作用し、ボールジョイント131が車両後方側へ引かれた場合であっても、ロワアーム130後端部のリフトによって内筒220Aの突出部223が外筒210の車幅方向内側への変位を抑制するため、ロワアーム130の鉛直軸回りの回転が防止され、トー角変化が抑制される。
【0031】
以上説明した実施例2によれば、上述した実施例1の効果と同様の効果に加えて、ブレーキング時のトー変化が抑制されることによって、車両の安定性を向上するとともに、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。
【0032】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)サスペンション装置の形式や各種部品の構造、形状、材質、製法等は上述した実施例に限定されず、適宜変更することができる。例えば、実施例のサスペンション装置は例えばマクファーソンストラット式であったが、本発明はこれに限らず、例えばダブルウィッシュボーン式サスペンションのロワアーム又はアッパアームにも適用することができる。
(2)実施例のリアブッシュの内筒は、鍛造によって一体に形成されているが、これに限らず、他の製法、材質を用いてもよい。例えば、アルミニウム合金による鋳造や、エンジニアリングプラスチックによるインジェクション成型によって形成してもよく、複数部材を組み合わせて内筒を構成するようにしてもよい。さらに、横断面形状も実施例のような略長円状に限定されない。
【符号の説明】
【0033】
1 車体
10 ロワサイドフレーム 20 アッパサイドフレーム
30 ストラット収容部 31 ストラット支持部
40 フロントクロスメンバ 41 ブラケット
110 ハウジング
120 ストラット 121 ストラットアッパマウント
130 ロワアーム 131 ボールジョイント
132,133 円筒部
140 スタビライザ 141 リンク
150 ステアリングシステム 151 ステアリングギアボックス
152 タイロッド 160 フロントブレーキ
170 ドライブシャフト 180 サポートプレート
190 フロントブッシュ 200 リアブッシュ
210 外筒 220 内筒
221 ボルト孔 222 突出部
230 ゴム部 200A リアブッシュ
220A 内筒 223 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を回転可能に支持するハブベアリングを収容するハウジングと、
ステアリングギアボックスと前記ハウジングとを連結して前記ハウジングを操向するとともに、前記前輪の車軸中心より前方に配置されたタイロッドと、
前記ハウジングと車体との間にわたして設けられ、前記車体及び前記ハウジングのそれぞれに対して揺動可能とされたサスペンションアームと、
前記サスペンションアームと前記車体との連結部に設けられ、車両の前後方向に離間して配置されたフロントブッシュ及びリアブッシュと
を備えるサスペンション装置であって、
前記リアブッシュは、
中心軸を上下方向に略沿わせて配置され、前記サスペンションアームに固定される外筒と、
前記外筒内へ挿入され、前記車体に固定される内筒と、
前記外筒の内周面と前記内筒の外周面との間に充填された弾性体と
を備え、
前記弾性体が充填される前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間隔を、車幅方向内側において車幅方向外側に対して小さくしたこと
を特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記内筒は中心軸と直交する面で切って見た断面形状が車幅方向に略沿った長軸方向を有する長円状に形成され、前記内筒の内周面は長円形状の長軸方向中央部に対して車幅方向外側に偏心して配置されること
を特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記内筒の上端部近傍に車幅方向外側に向けて突出した突出部を設けたこと
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−57019(P2011−57019A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206929(P2009−206929)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】