説明

シアロアドヘシンファミリーメンバー−2(SAF−2)

【課題】 シアロアドヘシンファミリーメンバー−2(SAF−2)ポリペプチドおよびポリヌクレオチドを提供する。
【解決手段】 特定の配列からなるアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるSAF−2ポリペプチド、および特定の配列からなるヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるSAF−2ポリヌクレオチド。
【効果】 SAF−2ポリペプチドおよびポリヌクレオチドは癌、炎症、自己免疫、アレルギーを含む機能障害または疾病の治療と、このような疾病の診断アッセイに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに同定されたポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、前記ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの治療の際のまたは治療に有効でありうるアゴニスト、アンタゴニストおよび/またはインヒビターである化合物を同定する際の使用、並びに前記ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物探索プロセスには目下根本的な大変化が生じている。というのは、それが「機能的ゲノム学」(functional genomics) 、すなわち高処理量のゲノムまたは遺伝子ベースの生物学に及んでいるからである。このアプローチは「ポジショナルクローニング」に基づいた比較的初期のアプローチに急速に取って代わりつつある。表現型、つまり生物学的機能または遺伝病、が同定され、続いてその遺伝子地図の位置を手がかりとして病因遺伝子が突き止められるだろう。
機能的ゲノム学は、現在入手できる多くの分子生物学データベースから興味のもてそうな遺伝子配列を同定するための生物情報科学(bioinformatics)の様々なツールに大きく依存している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
依然として、まだ未解明の遺伝子およびその関連ポリペプチド/タンパク質を薬物探索の標的として同定し特性づける必要性が存在している。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、シアロアドヘシンファミリーメンバー−2(以後SAF−2と記す)、特にSAF−2ポリペプチドおよびSAF−2ポリヌクレオチド、組換え物質、並びにその産生方法に関する。もう一つの態様において、本発明は、癌、炎症、自己免疫、アレルギー、喘息、慢性関節リウマチ、CNS炎症、小脳変性、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、頭部損傷とその他の神経系の異常、敗血症性ショック、敗血症、卒中、骨粗しょう症、骨関節炎、虚血再灌流損傷、心臓血管疾患、腎臓病、肝臓病、虚血性損傷、心筋梗塞、低血圧、高血圧、エイズ、骨髄形成異常症候群とその他の血液異常、再生不良性貧血、男性型禿頭症、および細菌、真菌、原生動物、ウイルスによる感染症(以後まとめて「前記疾患」という)の治療をはじめとする、前記ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの使用方法に関する。他の態様では、本発明は、本発明により提供される物質を用いてアゴニストおよびアンタゴニスト/インヒビターを同定する方法、並びに同定された化合物を用いてSAF−2平衡異常と関連した症状を治療することに関する。さらに他の態様において、本発明は不適当なSAF−2活性またはSAF−2レベルと関連した疾病を検出するための診断アッセイに関する。
【0005】
一つの態様において、本発明はSAF−2ポリペプチドに関する。この種のペプチドには、配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97〜99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなる単離されたポリペプチドが含まれる。こうしたポリペプチドとしては配列番号2のアミノ酸配列を含むものがある。
【0006】
本発明の他のペプチドには、そのアミノ酸配列が配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは少なくとも97〜99%の同一性を有する単離されたポリペプチドが含まれる。こうしたポリペプチドとしては配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドがある。
本発明の更なるペプチドには、配列番号1に含まれるヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドによりコードされる単離されたポリペプチドが含まれる。
【0007】
本発明のポリペプチドはシアロアドヘシンファミリーのメンバーであると考えられる。それゆえ、それらには興味がもてる。なぜなら、シアロアドヘシン、CD33、CD22およびミエリン結合糖タンパク質(MAG)を含めたシアロアドヘシンファミリーのタンパク質は細胞相互作用分子として利用されているからである。これらのタンパク質はシアル酸に依存した様式で標的細胞上の特定の炭水化物と結合する。その細胞外ドメインはV様およびC2様サブタイプの免疫グロブリン様ドメインの様々な数から成り、その細胞内ドメインは既知のどのようなシグナル伝達モチーフに対しても相同性を持ち合わせていない。シアロアドヘシンの発現はマクロファージに制限されていて、それは17個のIg様ドメインを有し、その標的細胞上の特定の認識配列はNeu5Acα2,3Galβ13GalNAcである。既知の標的細胞としては、骨髄中の発生・分化しつつある骨髄細胞および脾臓とリンパ節中のリンパ球がある(Crocker, P.R.ら, EMBO J., 1994, 13:4490-4503)。CD22はB細胞上でのみ発現されており、それぞれ5個と7個のIg様ドメインを有するαおよびβイソフォームがある。CD22はN結合グリカン中のNeu5Acα2,6Galβ1,4Glc(NAc)を認識することによりT細胞、B細胞、単球、顆粒球および赤血球と結合することが知られている(Crocker, P.R.ら, EMBO J., 1994, 13:4490-4503; Stamenkovic, I. and Seed, B., Nature, 1990, 345:74-77; Wilson, G.L.ら, J. Exp. Med.., 1991, 173:137-146) 。ミエリン結合糖タンパク質(MAG)は末梢神経系のシュヴァン(Schwann)細胞および中枢神経系の乏突起膠細胞により発現されており、軸索への細胞接着に関与していると考えられる。MAGには異なるスプライシングを受けた2つの変異型、すなわち大型MAG(L−MAG)と小型MAG(S−MAG)があり、これらはそれぞれ胚発育中または成体内で発現されている。異なるスプライシングにより、細胞外ドメインが同じであるが細胞内ドメインを異にするMAGが発現される(Pedraza, L.ら, JCB, 1990, 111:2651-2661) 。
【0008】
CD33はSAF−2と最も関係が深い。というのは、それらがこのファミリーの全メンバーと最も密接な関係をもつからである。通常、CD33は発生・分化しつつある骨髄単球系統の細胞上に発現されている。これは初期の幹細胞上には存在しないが、顆粒球、赤血球、単球および巨核球のコロニー形成単位(CFU−GEMM)並びに顆粒球の前駆細胞および単核食細胞のコロニー形成単位(CFU−GM)上に存在する。CD33は成熟顆粒球によりダウンレギュレーションされるが、成熟単球およびマクロファージにより保持される(Andrews, R.G.ら, Blood, 1983, 62:124; Griffin, J.D.ら, Leuk. Res., 1984, 8:521)。CD33は2つのIg様ドメインを有し、NおよびO結合グリカン中にNeuAcα2,3Galを発現する標的細胞に対して親和性がある。CD33は染色体19q13.1-13.3にマップされ、それゆえ、このゲノム上でMAGおよびCD22と密接に連鎖している(Freeman, S.D.ら, Blood, 1995, 85:2005-2012)。
【0009】
また、CD33は急性骨髄性白血病(AML)患者の約85%の白血性骨髄芽球上に発現されることが見いだされ、しばしばAMLと急性リンパ芽球性白血病(ALL)とを区別するために用いられている。CD33に対するモノクローナル抗体が治療に供され、AMLの治療のためにex vivoで自己骨髄移植物から残留骨髄芽球をパージする目的で用いられた(Robertson, M.J.ら, Blood, 1992, 79:2229-2236)。近年、CD33に対するヒト化モノクローナル抗体はAMLの治療のためにin vivo評価を受けている(Caron, P.C.ら, Blood, 1994, 83:1760-1768)。これらの特性を以後「SAF−2活性」または「SAF−2ポリペプチド活性」または「SAF−2の生物学的活性」という。これらの活性の中には、前記SAF−2ポリペプチドの抗原性および免疫原性、特に配列番号2のポリペプチドの抗原性および免疫原性も含まれる。本発明のポリペプチドはSAF−2の少なくとも1つの生物学的活性を示すことが好ましい。
【0010】
本発明のポリペプチドは「成熟」タンパク質の形であっても、融合タンパク質のような、より大きいタンパク質の一部であってもよい。しばしば、追加のアミノ酸配列を含めることが有利であり、このようなアミノ酸配列としては、分泌すなわちリーダー配列、プロ配列、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、または組換え生産の間の安定性を確保する付加的配列などがある。
【0011】
また、前記ポリペプチドの変異体、すなわち同類アミノ酸置換(ある残基が性質の似ている他の残基により置換される)により基準ポリペプチドと相違しているポリペプチドも本発明に含まれる。典型的なこうした置換は、Ala, Val, Leu および Ileの間;Ser とThr の間;酸性残基 AspとGlu の間;Asn とGln の間;塩基性残基 LysとArg の間;または芳香族残基 PheとTyr の間で起こる。特に、数個、5〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個または1個のアミノ酸が任意の組合せで置換、欠失または付加されている変異体が好適である。
【0012】
本発明のポリペプチドは任意の適当な方法で製造することができる。このようなポリペプチドには、単離された天然のポリペプチド、組換え的に生産されたポリペプチド、合成的に製造されたポリペプチド、またはこれらの方法の組合せにより製造されたポリペプチドが含まれる。こうしたポリペプチドを製造するための手段は当業界でよく理解されている。
【0013】
本発明の更なる態様において、本発明は、SAF−2ポリヌクレオチドに関する。このようなポリヌクレオチドには、配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドが含まれる。これに関して、少なくとも97%の同一性を有するポリペプチドが一層好ましいが、少なくとも98〜99%の同一性を有するものがより一層好ましく、少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドが最も好ましいものである。かかるポリヌクレオチドとして、配列番号2のポリペプチドをコードする配列番号1に含まれるヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0014】
本発明の更なるポリヌクレオチドには、配列番号2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に対して、その全コード領域にわたって、少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドが含まれる。これに関して、少なくとも97%の同一性を有するポリヌクレオチドが一層好ましいが、少なくとも98〜99%の同一性を有するものがより一層好ましく、少なくとも99%の同一性を有するポリヌクレオチドが最も好ましいものである。
【0015】
本発明の更なるポリヌクレオチドには、配列番号1の全長にわたる配列番号1のポリヌクレオチドに対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなる単離されたポリヌクレオチドが含まれる。これに関して、少なくとも97%の同一性を有するポリヌクレオチドが一層好ましいが、少なくとも98〜99%の同一性を有するものがより一層好ましく、少なくとも99%の同一性を有するポリヌクレオチドが最も好ましいものである。かかるポリヌクレオチドとして、配列番号1のポリヌクレオチドを含んでなるポリヌクレオチドおよび配列番号1のポリヌクレオチドが挙げられる。
本発明はまた、上記の全てのポリヌクレオチドに対して相補的なポリヌクレオチドを提供する。
【0016】
配列番号1のヌクレオチド配列はCD33との相同性を示す(Simmons, D. and
Seed, B., JI 141:2797-2800, 1988)。配列番号1のヌクレオチド配列はcDNA配列であり、431個のアミノ酸からなる配列番号2のポリペプチドをコードするポリペプチドコード配列(ヌクレオチド61〜1356)を含む。配列番号2のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1に含まれるポリペプチドコード配列と同一であっても、遺伝子コードの重複性(縮重)のため、やはり配列番号2のポリペプチドをコードする、配列番号1に含まれる配列以外の配列であってもよい。配列番号2のポリペプチドはシアロアドヘシンファミリーの他のタンパク質と構造的に関連しており、CD33との相同性および/または構造類似性を有する(Simmons, D. and Seed, B., JI 141:2797-2800, 1988)。
【0017】
本発明の好適なポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、とりわけ、それと相同なポリペプチドおよびポリヌクレオチドと同様の生物学的機能/性質をもつことが期待される。さらに、本発明の好ましいポリペプチドおよびポリヌクレオチドは少なくとも1つのSAF−2活性を有する。
【0018】
また、本発明は、配列番号1および配列番号2の対応する全長配列の決定に先立って最初に同定された部分的なまたは他のポリヌクレオチドおよびポリペプチドに関する。
したがって、更なる態様において、本発明は、
(a) 配列番号3の全長にわたる配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは97〜99%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(b) 配列番号3のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(c) 配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、または
(d) 配列番号4の全長にわたる配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは97〜99%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、
(a) 配列番号4の全長にわたる配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性、好ましくは少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらに好ましくは少なくとも95%の同一性、最も好ましくは97〜99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、
(b) 配列番号4のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、
(c) 配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または
(d) 配列番号3に含まれるヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、
を提供する。
【0020】
配列番号3のヌクレオチド配列およびそれによりコードされるペプチド配列はEST(Expressed Sequence Tag) 配列から誘導される。当業者であれば、EST配列中に若干のヌクレオチド配列読み取り誤差が必然的に存在することを理解するであろう(Adams, M.D.ら, Nature 377 (supp)3, 1995を参照のこと)。したがって、配列番号3のヌクレオチド配列およびそれによりコードされるペプチド配列は配列精度において同一の固有限界を受ける。さらに、配列番号3によりコードされるペプチド配列は、相同性または構造類似性が最も高いタンパク質と同一の領域、または相同性および/または構造類似性(例えば、同類アミノ酸の差異)が高い領域を含んでいる。
【0021】
本発明のポリヌクレオチドは、標準的なクローニングおよびスクリーニングにより、ヒト好酸球の細胞中のmRNAから誘導されたcDNAライブラリーから、EST分析(Adams, M.D.ら, Science (1991) 252:1651-1656; Adams, M.D.ら, Nature (1992) 355:632-634; Adams, M.D.ら, Nature (1995) 377 Supp:3-174)を用いて得ることができる。また、本発明のポリヌクレオチドはゲノムDNAライブラリーのような天然源から得ることができ、商業的に入手可能な公知の技法を用いて合成することもできる。
【0022】
本発明のポリヌクレオチドを本発明のポリペプチドの組換え生産のために用いる場合、そのポリヌクレオチドには、成熟ポリペプチドのコード配列単独、または他のコード配列(例えば、リーダーもしくは分泌配列、プレ−、プロ−もしくはプレプロ−タンパク質配列、または他の融合ペプチド部分をコードするもの)と同じリーディングフレーム内にある成熟ポリペプチドのコード配列が含まれる。例えば、融合ポリペプチドの精製を容易にするマーカー配列がコードされ得る。本発明のこの態様の好ましい具体例として、マーカー配列は、pQEベクター(Qiagen, Inc.)により提供されかつGentzら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1989) 86:821-824に記載されるようなヘキサ−ヒスチジンペプチド、またはHAタグである。また、このポリヌクレオチドは5'および3'非コード配列、例えば、転写されるが翻訳されない配列、スプライシングおよびポリアデニル化シグナル、リボソーム結合部位、およびmRNA安定化配列を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の更なる具体例としては、数個、例えば5〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個、または1個のアミノ酸残基が任意の組合せで置換、欠失または付加されている、配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド変異体をコードするポリヌクレオチドがある。
【0024】
配列番号1に含まれるヌクレオチド配列と同一であるか実質的に同一であるポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードする全長cDNAおよびゲノムクローンを単離するために、また、配列番号1に対して高い配列類似性を有する他の遺伝子(ヒト以外の種に由来する相同体およびオーソログ体(ortholog)をコードする遺伝子を含む)のcDNAおよびゲノムクローンを単離するために、cDNAおよびゲノムDNA用のハイブリダイゼーションプローブとして、または核酸増幅(PCR)反応用のプライマーとして用いることができる。一般的に、これらのヌクレオチド配列は基準のヌクレオチド配列と好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%同一である。プローブまたはプライマーはたいてい15個以上のヌクレオチドを含み、好ましくは30個以上を含み、50個以上のヌクレオチドを有していてもよい。特に好ましいプローブは30〜50個の範囲のヌクレオチドを有するものである。
【0025】
本発明のポリペプチド(ヒト以外の種に由来する相同体およびオーソログ体を含む)をコードするポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド配列またはその断片を有する標識プローブを用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で適当なライブラリーをスクリーニングし、該ポリヌクレオチド配列を含む全長cDNAおよびゲノムクローンを単離する各工程を含んでなる方法により得られる。このようなハイブリダイゼーション技法は当業者に公知である。好ましいストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、50% ホルムアミド、5×SSC (150mM NaCl, 15mM クエン酸三ナトリウム) 、50mMリン酸ナトリウム (pH7.6)、5×Denhardt溶液、10% デキストラン硫酸および20μg/mlの変性し剪断したサケ精子DNAを含有する溶液中42℃で一夜インキュベートし、次いでフィルターを 0.1×SSC 中約65℃で洗浄することを含む。かくして、本発明は、配列番号1のヌクレオチド配列またはその断片を有する標識プローブを用いて、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で適当なライブラリーをスクリーニングすることにより得られるポリヌクレオチドをも包含する。
【0026】
当業者には理解されるように、多くの場合、ポリペプチドをコードする領域がそのcDNAの5'末端で短く切断されることから、単離されたcDNA配列は不完全であるだろう。それは逆転写酵素のためであり、この酵素はもともと「プロセシビティ」(processivity:重合中に鋳型に結合した状態でいる該酵素の能力の尺度)が低く、第一鎖cDNA合成の間にmRNA鋳型のDNAコピーを完成させることができない。
【0027】
全長cDNAを得るための、または短鎖cDNAを伸長させるための、当業者に公知で利用可能な方法がいくつかあり、例えば、cDNA末端迅速増幅法(RACE)に基づいた方法がある(例えば、Frohmanら, PNAS USA 85, 8998-9002,
1988を参照のこと)。例えばMarathonTM技術(Clontech Laboratories Inc.)により示されるような、この技法の最近の改良により、より長いcDNAの検索が大いに簡便化された。MarathonTM技術では、所定の組織より抽出されたmRNAからcDNAを作製し、各末端に「アダプター」配列を連結する。続いて核酸増幅(PCR)を行って、遺伝子特異的およびアダプター特異的なオリゴヌクレオチドプライマーの組合せを用いてcDNAの「欠失」5'末端を増幅する。次に、「nested」プライマー、すなわち増幅産物の内部にアニールするように設計されたプライマー(典型的には、アダプター配列のさらに3'側にアニールするアダプター特異的プライマーと既知遺伝子配列のさらに5'側にアニールする遺伝子特異的プライマー)を用いてPCR反応を繰り返す。その後、この反応の産物をDNA塩基配列決定により解析し、この産物を既存のcDNAに直接結合するか、または5'プライマー設計用の新たな配列情報を用いて別の全長PCRを行うことにより、全長cDNAを構築することができる。
【0028】
本発明の組換え体ポリペプチドは、当業界で公知の方法を用いて、発現系を含有する遺伝子操作宿主細胞から生産することができる。したがって、更なる態様において、本発明は、本発明の1以上のポリヌクレオチドを含有する発現系、該発現系により遺伝子操作された宿主細胞、および組換え技法による本発明ポリペプチドの生産に関する。本発明のDNA構築物から誘導されたRNAを用いてこの種のタンパク質を生産するために、無細胞翻訳系を使用することもできる。
【0029】
組換え体生産に関しては、宿主細胞を遺伝子操作して本発明のポリヌクレオチド用の発現系またはその一部を組み入れる。宿主細胞へのポリヌクレオチドの導入は、Davisら, Basic Methods in Molecular Biology (1986) および Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989) などの多くの標準的な実験室マニュアルに記載された方法により行うことができる。好適なこうした方法として、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、トランスベクション(transvection)、マイクロインジェクション、カチオン性脂質媒介トランスフェクション、エレクトロポレーション、形質導入、スクレープローディング(scrape loading)、弾丸導入(ballistic introduction)または感染などがある。
【0030】
適当な宿主の代表的な例として、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSf9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C 127、3T3、BHK、HEK 293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞が挙げられる。
【0031】
多種多様な発現系を使用することができる。こうした発現系として、特に、染色体、エピソームおよびウイルス由来の系、例えば、細菌プラスミド由来、バクテリオファージ由来、トランスポゾン由来、酵母エピソーム由来、挿入因子由来、酵母染色体要素由来、ウイルス(例:バキュロウイルス、SV40のようなパポバウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、仮性狂犬病ウイルス、レトロウイルス)由来のベクター、およびこれらの組合せに由来するベクター、例えば、コスミドやファージミドのようなプラスミドとバクテリオファージの遺伝的要素に由来するものがある。この発現系は発現を起こさせるだけでなく発現を調節する制御配列を含んでいてもよい。一般的に、宿主内でのポリペプチドの産生のためにポリヌクレオチドを維持し、増やし、発現することができる系またはベクターはどれも使用しうる。Sambrookら, Molecular Cloning:
A Laboratory Manual (前掲) に記載されるような、日常的に用いられる公知の技法のいずれかにより、適当なヌクレオチド配列を発現系に挿入することができる。翻訳されたタンパク質を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0032】
スクリーニングアッセイで使用するため本発明のポリペプチドを発現させようとする場合、一般にそのポリペプチドを細胞の表面に産生させることが好適である。その場合は、スクリーニングアッセイでの使用に先立って細胞を回収する。該ポリペプチドが培地に分泌される場合は、そのポリペプチドを回収し精製するために培地を回収する。細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する必要がある。
【0033】
組換え細胞培養物から本発明のポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。最も好ましくは、高性能液体クロマトグラフィーが精製に用いられる。ポリペプチドが単離および/または精製中に変性されるときは、タンパク質を再生させるための公知の技法を用いて、活性のあるコンフォメーションを復元することが可能である。
【0034】
本発明はまた、診断薬としての本発明のポリヌクレオチドの使用に関する。機能障害と関連した、配列番号1のポリヌクレオチドにより特徴づけられる遺伝子の変異型の検出は、該遺伝子の過少発現、過剰発現または変化した発現により生ずる疾病またはその疾病への罹りやすさの診断に追加しうる、またはその診断を下しうる診断用ツールを提供するだろう。該遺伝子に突然変異がある個体を、さまざまな技法によりDNAレベルで見つけ出すことができる。
【0035】
診断用の核酸は、被験者の細胞、例えば血液、尿、唾液、組織の生検または剖検材料から得ることができる。検出のためにゲノムDNAを直接使用してもよいし、分析前にPCRまたは他の増幅法を使ってゲノムDNAを酵素的に増幅してもよい。同様の方法でRNAまたはcDNAを使用することもできる。欠失および挿入突然変異は、正常な遺伝子型と比較したときの増幅産物のサイズの変化により検出できる。点突然変異は増幅DNAを標識SAF−2ヌクレオチド配列とハイブリダイズさせることで同定できる。完全にマッチした配列とミスマッチの二重鎖とはRNアーゼ消化により、または融解温度の差異により区別できる。また、DNA配列の差異は、変性剤を含むもしくは含まないゲルでのDNA断片の電気泳動の移動度の変化により、または直接DNA塩基配列決定によっても検出できる(例えば、Myersら, Science (1985) 230:1242 を参照のこと)。特定位置での配列変化はヌクレアーゼプロテクションアッセイ(例えば、RNアーゼおよびS1プロテクション)または化学的開裂法によっても確認できる(Cottonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 85:4397-4401を参照のこと)。別の実施態様では、例えば、遺伝子変異の効率のよいスクリーニングを行うため、SAF−2ヌクレオチド配列またはその断片を含むオリゴヌクレオチドプローブのアレイ(array)を構築することができる。アレイ技法は公知で、一般的な適用可能性を有し、遺伝子発現、遺伝的連鎖および遺伝的変異性を含めた分子遺伝学のさまざまな問題を解きあかすために用いられている(例えば、M. Cheeら, Science, Vol.274, pp.610-613 (1996) を参照のこと)。
【0036】
診断アッセイは、前記の方法によりSAF−2遺伝子の変異を検出することで、前記疾患への罹りやすさを診断または判定する方法を提供する。さらに、被験者から得られたサンプルからポリペプチドまたはmRNAのレベルの異常な低下または増加を測定する方法により、前記疾患の診断を下すことができる。発現の低下または増加は、当業界で公知のポリヌクレオチドの定量法、例えば核酸増幅(例:PCR、RT−PCR)、RNアーゼプロテクション、ノーザンブロッティング、その他のハイブリダイゼーション法のいずれかによりRNAレベルで測定することができる。宿主から得られたサンプル中の本発明ポリペプチドのようなタンパク質のレベルを測定するアッセイ法は当業者によく知られている。こうしたアッセイ法として、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウエスタンブロット分析、ELISAアッセイ、フローサイトメトリー分析などがある。
【0037】
かくして、もう一つの態様において、本発明は、
(a) 本発明のポリヌクレオチド(好ましくは、配列番号1のヌクレオチド配列)もしくはその断片、
(b) (a) のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列、
(c) 本発明のポリペプチド(好ましくは、配列番号2のポリペプチド)もしくはその断片、または
(d) 本発明のポリペプチド(好ましくは、配列番号2のポリペプチド)に対する抗体、
を含んでなる診断用キットに関する。このようなキットにおいて、(a) 、(b) 、(c) または (d)が実質的な構成成分であることが理解されよう。かかるキットは疾患または疾患への罹りやすさ、特に癌、炎症、自己免疫、アレルギー、喘息、慢性関節リウマチ、CNS炎症、小脳変性、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、頭部損傷とその他の神経系の異常、敗血症性ショック、敗血症、卒中、骨粗しょう症、骨関節炎、虚血再灌流損傷、心臓血管疾患、腎臓病、肝臓病、虚血性損傷、心筋梗塞、低血圧、高血圧、エイズ、骨髄形成異常症候群とその他の血液異常、再生不良性貧血、男性型禿頭症、および細菌、真菌、原生動物、ウイルスによる感染症を診断するうえで有用である。
【0038】
また、本発明のヌクレオチド配列は染色体の同定にも有用である。この配列は個々のヒト染色体上の特定の位置を標的指向し、その特定位置とハイブリダイズすることができる。本発明に従って関連配列の染色体地図を作成することは、これらの配列と遺伝子関連疾患とを相関させるうえで重要な第一段階である。ひとたび配列が正確な染色体位置にマッピングされたら、その染色体上のその配列の物理的位置を遺伝地図データと相関させることができる。この種のデータは、例えば、V. McKusick, Mendelian Inheritance in Man (Johns Hopkins University Welch Medical Library からオンラインで入手可能) 中に見いだせる。その後、同一の染色体領域にマッピングされた遺伝子と疾患との関係を連鎖分析(物理的に隣接した遺伝子の共遺伝)により確認する。
【0039】
罹患個体と非罹患個体とのcDNAまたはゲノム配列の差異も調べることができる。罹患個体の一部または全部に突然変異が観察されるが、どの正常個体にも観察されない場合は、その突然変異が疾患の原因である可能性がある。
本発明の遺伝子はヒト染色体19q13.1-13.3にマップされる。
【0040】
本発明のポリペプチドまたはその断片もしくは類似体、またはそれらを発現する細胞は、本発明のポリペプチドに免疫特異的な抗体を生産するための免疫原としても使用することができる。「免疫特異的」とは、その抗体が従来技術における他の関連ポリペプチドに対するその親和性よりも本発明のポリペプチドに対して実質的に高い親和性を示すことを意味する。
【0041】
本発明のポリペプチドに対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外の動物)に該ポリペプチドまたはエピトープを含む断片、類似体もしくは細胞を投与することにより得られる。モノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物から抗体を産生させる任意の技法を用いることができる。例を挙げると、ハイブリドーマ技法 (Kohler, G.およびMilstein, C., Nature
(1975) 256:495-497)、トリオーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法 (Kozborら, Immunology Today (1983) 4:72) およびEBV−ハイブリドーマ技法 (Coleら, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, pp.77-96, Alan R. Liss, Inc., 1985) などがある。
【0042】
本発明のポリペプチドに対する一本鎖抗体をつくるために、米国特許第4,946,778 号に記載されるような一本鎖抗体の調製法を適応させることができる。また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニックマウスまたは他の哺乳動物を含む他の生物を利用することができる。
前記の抗体を用いて、そのポリペプチドを発現するクローンを単離・同定したり、アフィニティークロマトグラフィーでそのポリペプチドを精製することもできる。
【0043】
本発明のポリペプチドに対する抗体は、とりわけ、前記疾患の治療に使用できる可能性がある。また、SAF−2ポリペプチドに対する抗体は、造血系の発生・分化中の細胞集団を特性づけるために、異なる形態の癌を識別する診断マーカーとして、SAF−2を発現している癌細胞をex vivoで骨髄からパージするために、SAF−2を発現している造血前駆細胞のex vivo増殖および/または分化を助けるツールとして、幹細胞を末梢に動員するためのin vivo刺激剤として、並びにin vivo化学保護剤として、使用することもできる。
【0044】
本発明の更なる態様において、本発明は、本発明のポリペプチドまたはその断片と、各種サブクラス(IgG、IgM、IgA、IgE)の免疫グロブリンのH鎖またはL鎖の定常領域の様々な部分と、を含んでなる遺伝子工学的に作製された可溶性融合タンパク質に関する。免疫グロブリンとしてはヒトIgG、特にIgG1のH鎖の定常部が好ましく、その場合は融合がヒンジ領域で起こる。特定例では、血液凝固因子Xaで開裂され得る開裂配列を組み込むことで、Fc部分を簡単に除去できる。さらに、本発明は、これら融合タンパク質の遺伝子工学的作製方法、並びに薬物スクリーニング、診断および治療におけるそれらの使用に関する。もう一つのアプローチでは、内因性SAF−2と競合してリガンドとなお結合できる可溶性形態のSAF−2ポリペプチドを投与してもよい。このような競合物質の典型的な例としてはSAF−2ポリペプチドの断片がある。一つの例は、特に癌、炎症、自己免疫およびアレルギーの治療に使用しうる、ヒト免疫グロブリンFc領域に融合されたSAF−2の細胞外ドメインを使用するものである。また、SAF−2/Fcポリペプチドは、SAF−2リガンドを発現している癌細胞をex vivoで骨髄からパージするために、SAF−2リガンドを発現している造血前駆細胞のex vivo増殖および/または分化を助けるツールとして、幹細胞を末梢に動員するためのin vivo刺激剤として、並びにin vivo化学保護剤として、使用することもできる。また、本発明の更なる態様はこのような融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する。融合タンパク質技術の例は国際特許出願WO94/29458 およびWO94/22914に見いだせる。
【0045】
本発明の更なる態様は哺乳動物において免疫学的応答を引き出す方法に関し、この方法は、特に前記疾患から該動物を防御するための抗体および/またはT細胞免疫応答を生ずるのに十分な本発明のポリペプチドを哺乳動物に接種することを含んでなる。本発明のさらに別の態様は、哺乳動物を前記疾患から防御する抗体を産生させるような免疫学的応答を引き出すために、in vivo で本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を指令するベクターを介して該ポリペプチドを供給することを含んでなる、哺乳動物において免疫学的応答を引き出す方法に関する。
【0046】
本発明の更なる態様は、哺乳動物宿主に導入したとき、その哺乳動物において本発明のポリペプチドに対する免疫学的応答を引き出す免疫学的/ワクチン製剤(組成物)に関し、この組成物は本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドを含有する。ワクチン製剤は適当な担体をさらに含んでいてもよい。ポリペプチドは胃の中で分解される可能性があるので、非経口的(例えば、皮下、筋肉内、静脈内または皮内注射)に投与することが好ましい。非経口投与に適した製剤としては、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤およびこの製剤を受容者の血液と等張にする溶質を含みうる水性および非水性の無菌注射液、並びに懸濁化剤または増粘剤を含みうる水性および非水性の無菌懸濁液がある。こうした製剤は1回量容器または数回量容器(例えば、密閉アンプルおよびバイアル)で提供することができ、また、使用直前に無菌の液状担体を添加するだけでよい凍結乾燥状態で保管することもできる。ワクチン製剤はこの製剤の免疫原性を増強するためのアジュバント系、例えば水中油型のアジュバント系や当業界で公知の他のアジュバント系を含んでいてもよい。投与量はワクチンの比活性で変化するが、ルーチンな実験操作により簡単に決定できる。
【0047】
本発明のポリペプチドは、多くの病的状態、特に前記疾患を含めて、さまざまな生物学的機能に関与している。それゆえ、このポリペプチドの機能を刺激または抑制する化合物を同定するスクリーニング法を開発することが望ましい。したがって、更なる態様において、本発明は、このポリペプチドを刺激または抑制する化合物を同定するための化合物のスクリーニング法を提供する。一般的には、前記疾患の治療および予防目的のためにアゴニストまたはアンタゴニストが使用される。種々の供給源、例えば、細胞、無細胞調製物、化学物質ライブラリーおよび天然産物の混合物から化合物を同定することができる。このように同定されたアゴニスト、アンタゴニストまたはインヒビターは、場合により、該ポリペプチドの天然のまたは修飾された基質、リガンド、受容体、酵素などであってよく、また、その構造的または機能的なミメティックであってもよい(Coliganら, Current Protocols in Immunology 1(2): Chapter 5 (1991)を参照のこと)。
【0048】
スクリーニング法では、本発明のポリペプチド、または該ポリペプチドを担持する細胞もしくは膜、またはその融合タンパク質への候補化合物の結合を、候補化合物に直接または間接的に結合させた標識を用いて簡単に測定できる。あるいはまた、スクリーニング法では標識した競合物質との競合を用いることもある。さらに、こうしたスクリーニング法では、候補化合物がポリペプチドの活性化または抑制により生ずるシグナルを結果的にもたらすか否かを、該ポリペプチドを担持する細胞に適した検出系を用いて試験することができる。一般的には、既知のアゴニストの存在下で活性化インヒビターをアッセイして、アゴニストによる活性化に候補化合物の存在が与える影響を調べる。アゴニストまたはインヒビターの不在下で、候補化合物がポリペプチドの活性化を抑制するか否かを調べることによる逆アゴニストまたはインヒビターのスクリーニング法では、構成的に活性のあるポリペプチドが用いられる。さらに、これらのスクリーニング法は、候補化合物と本発明のポリペプチドを含む溶液とを混ぜ合わせて混合物をつくり、この混合物中のSAF−2活性を測定し、そしてこの混合物のSAF−2活性をスタンダードと比較する各ステップを単に含むだけでよい。本発明のポリペプチドのアンタゴニストを同定する高処理量スクリーニングアッセイでは、上記のようなFc部分とSAF−2ポリペプチドから作製されるような融合タンパク質も使用することができる(D. Bennettら, J. Mol. Recognition, 8:52-58 (1995) およびK. Johansonら, J. Biol. Chem., 270(16):9459-9471 (1995)を参照のこと)。
【0049】
また、本発明のポリヌクレオチド、ポリペプチドまたは該ポリペプチドに対する抗体を用いて、細胞内でのmRNAまたはポリペプチドの生産に及ぼす添加化合物の作用を検出するためのスクリーニング法を組み立てることができる。例えば、当業界で公知の標準方法によりモノクローナルまたはポリクローナル抗体を用いて、ポリペプチドの分泌レベルまたは細胞結合レベルを測定するためのELISAアッセイを構築することができ、これは適切に操作された細胞または組織からのポリペプチドの生産を抑制または増強する物質(それぞれアンタゴニストまたはアゴニストともいう)の探索に用いることができる。
【0050】
膜に結合した受容体または可溶性の受容体が存在するのであれば、当業界で公知の標準的な受容体結合法によりこの種の受容体を同定するために本発明のポリペプチドを用いることができる。こうした受容体結合法には、限定するものではないが、リガンド結合アッセイおよび架橋アッセイがあり、これらのアッセイでは、ポリペプチドを放射性アイソトープ(例:125I)で標識するか、化学的に修飾(例:ビオチン化)するか、または検出や精製に適したペプチド配列に融合させ、そして推定上の受容体源(細胞、細胞膜、細胞上清、組織抽出物、体液など)とインキュベートする。その他の方法としては、表面プラズモン共鳴および分光学のような生物物理的方法がある。これらのスクリーニング法は、該ポリペプチドまたは(存在するのであれば)その受容体への結合と競合する該ポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストを同定するために用いることもできる。スクリーニングアッセイを行うための標準的な方法は当業界でよく理解されている。
【0051】
本発明のポリペプチドの潜在的なアンタゴニストの例としては、抗体、ある場合には、該ポリペプチドのリガンド、基質、受容体、酵素などと密接な関係があるオリゴヌクレオチドもしくはタンパク質(例えば、リガンド、基質、受容体、酵素などの断片)、または本発明のポリペプチドと結合するが応答を誘導しない(それゆえ該ポリペプチドの活性を妨げる)小分子などがある。
【0052】
かくして、他の態様において、本発明は、本発明のポリペプチドのアゴニスト、アンタゴニスト、リガンド、受容体、基質、酵素など、またはこの種のポリペプチドの生産を低下または増加させる化合物を同定するためのスクリーニングキットに関し、このキットは、
(a) 本発明のポリペプチド、
(b) 本発明のポリペプチドを発現している組換え細胞、
(c) 本発明のポリペプチドを発現している細胞膜、または
(d) 本発明のポリペプチドに対する抗体、
を含んでなり、前記ポリペプチドは好ましくは配列番号2のポリペプチドである。このようなキットにおいて、(a) 、(b) 、(c) または (d)が実質的な構成成分であることが理解されよう。
【0053】
当業者であれば、本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドのアゴニスト、アンタゴニストまたはインヒビターを構造に基づいて設計する方法にも使用できることが容易に理解されよう。この方法は、
(a) 最初に該ポリペプチドの三次元構造を解析し、
(b) アゴニスト、アンタゴニストまたはインヒビターの確実と思われる反応部位または結合部位の三次元構造を想定し、
(c) 想定された反応部位または結合部位と結合または反応すると予想される候補化合物を合成し、そして
(d) その候補化合物が実際にアゴニスト、アンタゴニストまたはインヒビターであるか否かを調べる、
ことを含んでなる。これは通常相互作用プロセスであることがさらに理解されよう。
【0054】
更なる態様において、本発明は、SAF−2ポリペプチド活性の過剰量と不足量のいずれかに関係した癌、炎症、自己免疫、アレルギー、喘息、慢性関節リウマチ、CNS炎症、小脳変性、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、頭部損傷とその他の神経系の異常、敗血症性ショック、敗血症、卒中、骨粗しょう症、骨関節炎、虚血再灌流損傷、心臓血管疾患、腎臓病、肝臓病、虚血性損傷、心筋梗塞、低血圧、高血圧、エイズ、骨髄形成異常症候群とその他の血液異常、再生不良性貧血、男性型禿頭症、および細菌、真菌、原生動物、ウイルスによる感染症などの異常な状態の治療法を提供する。
【0055】
該ポリペプチドの活性が過剰である場合は、いくつかのアプローチが利用可能である。一つのアプローチは、例えば、リガンド、基質、受容体、酵素などの結合をブロックすることにより、または第2のシグナルを抑制することで異常な状態を軽減することにより、該ポリペプチドの機能を抑制するのに有効な量で、上記のインヒビター化合物(アンタゴニスト)を製剤学上許容される担体とともに患者に投与することを含んでなる。もう一つのアプローチでは、内因性のポリペプチドとの競合状態でリガンド、基質、酵素、受容体などと結合する能力がまだある可溶性形態のポリペプチドを投与することができる。このような競合物質の典型的な例はSAF−2ポリペプチドの断片である。
【0056】
さらに別のアプローチでは、発現阻止法を使って内因性SAF−2ポリペプチドをコードする遺伝子の発現を抑制することができる。こうした公知技術は、体内で産生されるか別個に投与されるアンチセンス配列の使用を必要とする(例えば、Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression (遺伝子発現のアンチセンスインヒビターとしてのオリゴデオキシヌクレオチド), CRC Press, Boca Raton, FL (1988) 中のO'Connor, J. Neurochem (1991) 56:560を参照のこと)。あるいはまた、この遺伝子と共に三重らせんを形成するオリゴヌクレオチドを供給することもできる(例えば、Leeら,Nucleic Acids Res (1979) 6:3073; Cooneyら, Science (1988) 241:456; Dervanら, Science (1991) 251:1360 を参照のこと)。これらのオリゴマーはそれ自体を投与することもできるし、関連オリゴマーをin vivo で発現させることもできる。
【0057】
SAF−2およびその活性の過少発現に関係した異常な状態を治療する場合も、いくつかのアプローチを取ることができる。一つのアプローチは、治療に有効な量の本発明ポリペプチドを活性化する化合物(すなわち、前記アゴニスト)を製剤学上許容される担体とともに患者に投与して、異常な状態を緩和することを含んでなる。別法として、患者の関連細胞においてSAF−2を内因的に産生させるために遺伝子治療を用いることができる。例えば、上で述べたような複製欠損レトロウイルスベクターによる発現のために本発明のポリヌクレオチドを遺伝子操作する。次にレトロウイルス発現構築物を単離し、本発明のポリペプチドをコードするRNAを含有するレトロウイルスプラスミドベクターで形質導入されたパッケージング細胞に導入する。その結果、パッケージング細胞は対象の遺伝子を含有する感染性のウイルス粒子を産生するようになる。in vivo 細胞操作およびin vivo ポリペプチド発現のために、これらの産生細胞を患者に投与する。遺伝子治療の概論に関しては、Human Molecular Genetics, T Strachan and A P
Read, BIOS Scientific Publishers Ltd (1996)中のChapter 20, Gene Therapy
and other Molecular Genetic-based Therapeutic Approaches(およびその中の引用文献) を参照のこと。もう一つのアプローチは治療量の本発明のポリペプチドを適当な製剤学上の担体とともに投与することである。
【0058】
更なる態様において、本発明は、治療に有効な量のポリペプチド(例えば、可溶性形態の本発明ポリペプチド)、アゴニストもしくはアンタゴニストペプチド、または小分子化合物を製剤学上許容される担体または賦形剤と共に含有する医薬組成物を提供する。この種の担体としては、食塩水、生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびこれらの組合せがあるが、これらに限らない。本発明はさらに、上記の本発明組成物の1以上の成分を充填した1以上の容器を含んでなる医薬パックおよびキットに関する。本発明のポリペプチドおよび他の化合物は単独で使用しても、他の化合物、例えば治療用化合物と一緒に使用してもよい。
【0059】
医薬組成物は投与経路、例えば全身または経口による投与経路に適合させることができる。全身投与に適した形態は、注入(注射)、典型的には静注である。皮下、筋肉内または腹腔内のような他の注入経路も使用できる。全身投与の別の手段には、胆汁酸塩、フシジン酸、その他の界面活性剤などの浸透剤を用いた経粘膜および経皮投与がある。さらに、本発明のポリペプチドまたは他の化合物を腸溶剤またはカプセル剤として製剤化し得るのであれば、経口投与も可能である。これらの化合物を軟膏、ペースト、ゲルなどの剤形で局所に投与しても、かつ/または局在化させてもよい。
【0060】
必要な投与量範囲は、本発明のペプチドまたは他の化合物の選択、投与経路、製剤の性質、患者の状態、そして医師の判断に左右される。しかし、適当な投与量は患者の体重1kgあたり0.1〜100μgの範囲である。入手可能な化合物が多様であること、投与経路の効率が異なることを考慮すれば、必要とされる投与量は広範に変動することが予測される。例えば、経口投与は静注による投与よりも高い投与量を必要とすると予想されよう。こうした投与量レベルの変動は、当業界でよく理解されているような、標準的経験的な最適化手順を用いて調整することができる。
【0061】
治療に用いるポリペプチドは、上述したような「遺伝子治療」と称する治療法において、患者の体内で産生させることもできる。例えば、患者由来の細胞を、ポリペプチドをコードするDNAまたはRNAのようなポリヌクレオチドにより、例えばレトロウイルスプラスミドベクターを用いて、ex vivo で遺伝子工学的に操作する。その後、これらの細胞を患者に導入する。
【0062】
ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの配列は、類似の相同性を有する別の配列を同定する際の価値ある情報源を提供する。これは、こうした配列をコンピュータ読み取り可能媒体中に保存し、次に保存したデータを用いてGCCのような公知の検索ツールにより配列データベースを検索することで最大限促進される。したがって、更なる態様において、本発明は、配列番号1の配列を含んでなるポリヌクレオチドおよび/またはそれによりコードされるポリペプチドを保存したコンピュータ読み取り可能媒体を提供する。
【0063】
以下の定義は上記の説明中でしばしば用いられた用語を理解しやすくするためのものである。
本明細書中で用いる「抗体」には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、さらにFabまたは他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を含むFabフラグメントが含まれる。
「単離された」とは、天然の状態から「人間の手によって」改変されたことを意味する。「単離された」組成物または物質が天然に存在するのであれば、それはそのもとの環境から変化しているか分離されており、またはその両方である。例えば、生存している動物の体内に自然界で存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは「単離された」ものではないが、その天然状態の共存物質から分離されたポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、本明細書中で用いられるように、「単離された」ものである。
【0064】
「ポリヌクレオチド」とは、一般に任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドをさし、これは修飾されていないRNAもしくはDNA、または修飾されたRNAもしくはDNAであり得る。「ポリヌクレオチド」には、制限するものではないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖領域と二本鎖領域が混じり合ったDNA、一本鎖および二本鎖RNA、一本鎖領域と二本鎖領域が混じり合ったRNA、DNAとRNAを含むハイブリッド分子(一本鎖でも、またはより典型的には二本鎖でもよく、一本鎖領域と二本鎖領域が混じり合ったものでもよい)が含まれる。加えて、「ポリヌクレオチド」はRNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方からなる三重鎖領域を意味する。「ポリヌクレオチド」という用語はまた、1個以上の修飾塩基を含有するDNAまたはRNA、および安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAも含む。「修飾」塩基としては、例えば、トリチル化された塩基およびイノシンのような特殊な塩基がある。DNAおよびRNAに対してさまざまな修飾を行うことができる。こうして、「ポリヌクレオチド」は、自然界に一般的に存在するポリヌクレオチドの化学的、酵素的または代謝的に修飾された形態、並びにウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態を包含する。また、「ポリヌクレオチド」は、しばしばオリゴヌクレオチドと称される比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0065】
「ポリペプチド」とは、ペプチド結合または修飾されたペプチド結合(すなわち、ペプチドアイソスター)により連結された2個以上のアミノ酸を含むペプチドまたはタンパク質を意味する。「ポリペプチド」は短鎖(通常はペプチド、オリゴペプチドまたはオリゴマーという)と長鎖(一般的にはタンパク質という)の両方をさす。ポリペプチドは20種類の遺伝子コード化アミノ酸以外のアミノ酸を含んでもよい。「ポリペプチド」は、翻訳後プロセシングのような天然のプロセスで、または当業界で公知の化学的修飾法のいずれかで修飾されたアミノ酸配列を含む。このような修飾は基本的な教科書、より詳細な学術論文および研究文献に詳述されている。修飾はペプチド骨格、アミノ酸側鎖、アミノまたはカルボキシル末端を含めてポリペプチドのどこでも行うことができる。同じタイプの修飾が所定のポリペプチドのいくつかの部位に同程度でまたはさまざまに異なる程度で存在してもよい。また、所定のポリペプチドが多くのタイプの修飾を含んでいてもよい。ポリペプチドはユビキチン化のために分枝していても、分枝のある又はない環状であってもよい。環状の、分枝した、または分枝した環状のポリペプチドは翻訳後の天然プロセスから生じることがあり、また、合成法によって製造することもできる。修飾としては、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合の形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ素化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化、硫酸化、アルギニル化のようなタンパク質へのアミノ酸の転移RNA媒介付加、ユビキチン化などがある(例えば、Proteins - Structure and Molecular Properties 2nd Ed., T.E. Creighton, W.H. Freeman and Company, New York, 1993; Posttranslational Covalent Modification of Proteins, B.C. Johnson編, Academic Press, New York,
1983中のWold, F., Post-translational Protein Modifications: Perspectives and Prospects, pgs.1-12; Seifterら, "Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors", Meth Enzymol(1990) 182:626-646; および Rattanら, "Protein Synthesis: Post-translational Modifications and Aging",
Ann NY Acad Sci (1992) 663:48-62 を参照のこと)。
【0066】
本明細書中で用いる「変異体」とは、基準のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと異なるが、不可欠な性質を保持しているポリヌクレオチドまたはポリペプチドのことである。典型的なポリヌクレオチドの変異体は基準ポリヌクレオチドとヌクレオチド配列の点で相違する。この変異体のヌクレオチド配列の変化は、基準ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を変更しても、しなくてもよい。ヌクレオチドの変化は、以下で述べるように、基準配列によりコードされるポリペプチドのアミノ酸の置換、付加、欠失、融合および末端切断(トランケーション)をもたらしうる。典型的なポリペプチドの変異体は基準ポリペプチドとアミノ酸配列の点で相違する。一般的には、基準ポリペプチドの配列と変異体の配列が全般的によく類似しており、多くの領域で同一となるような相違に限られる。変異体と基準ポリペプチドは任意に組み合わせた1以上の置換、付加、欠失によりアミノ酸配列が相違していてよい。置換または付加されるアミノ酸残基は遺伝子コードによりコードされるものであっても、なくてもよい。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの変異体はアレリック変異体のように天然に存在するものでも、天然に存在することが知られていない変異体であってもよい。ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの天然に存在しない変異体は、突然変異誘発法または直接合成により作製することができる。
【0067】
「同一性」はヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の同一性の尺度である。一般に、最大級のマッチ(match)が得られるように配列をアライメントする。「同一性」それ自体は当業界で認識された意味をもち、発表された技法を使って計算することができる(例えば、Computational Molecular Biology, Lesk, A.M. 編, Oxford University Press, New York, 1988; Biocomputing: Informatics and
Genome Projects, Smith, D.W. 編, Academic Press, New York, 1993; Computer Analysis of Sequence Data, Part I, Griffin, A.M. and Griffin, H.G. 編, Humana Press, New Jersey, 1994; Sequence Analysis in Molecular Biology, von Heinje, G., Academic Press, 1987; および Sequence Analysis Primer,
Gribskov, M. and Devereux, J.編, M Stockton Press, New York, 1991を参照のこと)。2つのポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列間の同一性を決定する方法は多数存在していると同時に、「同一性」なる用語は当業者には公知である (Carillo, H. and Lipton, D., SIAM J Applied Math (1988) 48:1073) 。2つの配列間の同一性または類似性を決定するために汎用される方法としては、Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop 編, Academic Press, San Diego, 1994 および Carillo, H. and Lipton, D., SIAM J Applied Math (1988) 48:1073 に記載される方法があるが、これらに限らない。同一性および類似性の決定方法はコンピュータプログラムに集成されている。2つの配列間の同一性および類似性を決定するための好適なコンピュータプログラム法としては、GCGプログラムパッケージ (Devereux, J.ら, Nucleic Acids Research (1984) 12(1):387)、BLASTP、BLASTN、FASTA (Atschul, S.F.ら, J Molec Biol (1990) 215:403)があるが、これらに限らない。
【0068】
例えば、本発明のポリヌクレオチド配列は、配列番号1の基準ヌクレオチド配列と同一である、すなわち基準ヌクレオチド配列に対して100%の同一性を有するか、または該基準配列と比べてある整数個までのヌクレオチド変異を含むことができる。このような変異は少なくとも1個のヌクレオチドの欠失、置換(トランジションおよびトランスバージョンを含む)および付加よりなる群から選択され、これらの変異は基準ヌクレオチド配列の5'もしくは3'末端位置、またはこれらの末端位置の間のどこかに存在し、基準配列中のヌクレオチドの間に個々に、または基準配列内に1以上の連続したグループとして配置することができる。ヌクレオチド変異の数は、配列番号1中のヌクレオチドの総数とそれぞれの(100で割った)同一性%の数値とを掛け、配列番号1中のヌクレオチドの総数からその積を引くことにより、すなわち次式により求められる:
n ≦xn −(xn×y)
ここで、nnはヌクレオチド変異の数であり、xnは配列番号1中のヌクレオチドの総数であり、yは50%については0.50、60%については0.60、70%については0.70、80%については0.80、85%については0.85、90%については0.90、95%については0.95、97%については0.97または100%については1.00であり、xnとyの非整数の積は、それをxnから引く前に、最も近似する整数に切り下げる。配列番号2のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を変化させてそのコード配列にナンセンス、ミスセンスまたはフレームシフト突然変異を生じさせ、こうした変異に従って該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドを変化させることもできる。
【0069】
同様に、本発明のポリペプチド配列は、配列番号2の基準配列と同一である、すなわち基準配列に対して100%の同一性を有するか、または同一性%が100%未満となるように基準配列に対してある整数個までのアミノ酸変異を含むことができる。このような変異は少なくとも1個のアミノ酸の欠失、置換(同類および非同類アミノ酸置換を含む)および付加よりなる群から選択され、これらの変異は基準ポリペプチド配列のアミノもしくはカルボキシ末端位置、またはこれらの末端位置の間のどこかに存在し、基準配列中のアミノ酸の間に個々に、または基準配列内に1以上の連続したグループとして配置することができる。所定の同一性%に関するアミノ酸変異の数は、配列番号2中のアミノ酸の総数とそれぞれの(100で割った)同一性%の数値とを掛け、配列番号2中のアミノ酸の総数からその積を引くことにより、すなわち次式により求められる:
a ≦xa −(xa×y)
ここで、naはアミノ酸変異の数であり、xaは配列番号2中のアミノ酸の総数であり、yは例えば70%については0.70、80%については0.80、85%については0.85などであり、xaとyの非整数の積は、それをxaから引く前に、最も近似する整数に切り下げる。
【0070】
「融合タンパク質」とは、2つの、しばしば無関係の、融合された遺伝子またはその断片によりコードされるタンパク質のことである。一例として、EP-A-0 464には、免疫グロブリン分子の定常領域の様々な部分と他のヒトタンパク質またはその一部とを含んでなる融合タンパク質が記載されている。多くの場合、治療および診断における使用には、融合タンパク質の一部として免疫グロブリンFc領域を使用することが有利であり、これにより例えば薬物速度論的性質が向上する(例えば、EP-A- 0232 262を参照のこと)。一方、いくつかの使用にとっては、その融合タンパク質を発現させ、検出し、精製した後でFc部分を除去することが望ましいだろう。
【0071】
本明細書中に引用された、特許および特許出願明細書を含めた全ての刊行物は、あたかも各刊行物が明確にかつ個々に示されているかのように、その全体を参考としてここに組み入れるものとする。
【0072】
配列情報
配列番号1:

配列番号2:

配列番号3:



配列番号4:


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)〜(iii) から選択される単離されたポリペプチド:
(i) 配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、
(ii) 配列番号2のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、および
(iii) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項2】
以下の(i)〜(vi)から選択される単離されたポリヌクレオチド、またはそのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド:
(i) 配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(ii) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に対して、その全長にわたって、少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(iii) 配列番号1の全長にわたる配列番号1のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(iv) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(v) 配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、および
(vi) 適当なライブラリーを、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、配列番号1のヌクレオチド配列またはその断片をもつ標識プローブでスクリーニングすることにより得られるポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリペプチドに対して免疫特異的な抗体。
【請求項4】
以下の(i)または(ii)の医薬組成物:
(i) 請求項1に記載のポリペプチドの活性または発現を増強する必要がある被験者を治療するための医薬組成物であって、治療に有効な量の、
(a) 該ポリペプチドに対するアゴニスト、および/または
(b) 該ポリペプチド活性のin vivo産生をもたらす形態の、該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
を含有する医薬組成物;または
(ii) 請求項1に記載のポリペプチドの活性または発現を抑制する必要がある被験者を治療するための医薬組成物であって、治療に有効な量の、
(a) 該ポリペプチドに対するアンタゴニスト、および/または
(b) 該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の発現を抑制する核酸分子、および/または
(c) 該ポリペプチドのリガンド、基質または受容体に関して該ポリペプチドと競合するポリペプチド、
を含有する医薬組成物。
【請求項5】
被験者における請求項1に記載のポリペプチドの発現または活性に関連した疾病または該疾病への罹りやすさを検査する方法であって、
(a) 該被験者のゲノム内の該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列に突然変異があるか否かを調べること、および/または
(b) 該被験者から得られたサンプル中の該ポリペプチド発現の存在または量を分析すること、
を含んでなる方法。
【請求項6】
請求項1に記載のポリペプチドの機能を刺激または抑制する化合物を同定するためのスクリーニング法であって、
(a) 候補化合物と、該ポリペプチド(または該ポリペプチドを担持している細胞もしくはその膜)またはその融合タンパク質と、の結合を、該候補化合物に直接または間接的に結合させた標識により測定すること、
(b) 候補化合物と、該ポリペプチド(または該ポリペプチドを担持している細胞もしくはその膜)またはその融合タンパク質と、の結合を、標識競合物質の存在下で測定すること、
(c) 候補化合物が該ポリペプチドの活性化または抑制により生ずるシグナルをもたらすか否かを、該ポリペプチドを担持している細胞または細胞膜に適した検出系を用いて調べること、
(d) 候補化合物と、該ポリペプチドを含有する溶液と、を一緒にして混合物を調製し、該混合物中の該ポリペプチドの活性を測定して、該混合物の活性をスタンダードと比較すること、および
(e) 候補化合物が細胞における該ポリペプチドをコードするmRNAおよび該ポリペプチドの産生に及ぼす効果を検出すること、
よりなる群から選択される方法を含んでなるスクリーニング法。
【請求項7】
請求項1に記載のポリペプチドのアンタゴニスト。
【請求項8】
下記発現系が適合性の宿主細胞内に存在するとき請求項1に記載のポリペプチドを産生し得るポリヌクレオチドを含有する発現系。
【請求項9】
宿主細胞が適当な培養条件下で配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを産生するように、請求項8に記載の発現系を用いて細胞を形質転換またはトランスフェクションすることを含んでなる、組換え宿主細胞の作製方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により得られる組換え宿主細胞。
【請求項11】
配列番号2の全長にわたる配列番号2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドを発現している請求項10に記載の組換え宿主細胞の膜。
【請求項12】
請求項10に記載の宿主細胞を前記ポリペプチドを産生させるのに十分な条件下で培養し、培養培地から該ポリペプチドを回収することを含んでなる、前記ポリペプチドの生産方法。
【請求項13】
以下の(a) 〜(d) から選択される単離されたポリヌクレオチド:
(a) 配列番号3の全長にわたる配列番号3のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(b) 配列番号3のヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド、
(c) 配列番号3のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、および
(d) 配列番号4の全長にわたる配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチド。
【請求項14】
以下の(a) 〜(d) から選択される単離されたポリペプチド:
(a) 配列番号4の全長にわたる配列番号4のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、
(b) 配列番号4のアミノ酸配列を含んでなるポリペプチド、
(c) 配列番号4のアミノ酸配列からなるポリペプチド、および
(d) 配列番号3に含まれるヌクレオチド配列を含んでなるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド。
【請求項15】
以下の(a) または(b) のポリペプチド:
(a) 配列番号2のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、少なくとも1個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシアロアドヘシンファミリーメンバー−2の活性を有するポリペプチド。
【請求項16】
請求項15に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項17】
以下の(a) または(b) のポリヌクレオチド:
(a) 配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、または
(b) (a) のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズしかつシアロアドヘシンファミリーメンバー−2の活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。

【公開番号】特開2006−325596(P2006−325596A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165346(P2006−165346)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【分割の表示】特願平11−267770の分割
【原出願日】平成10年4月2日(1998.4.2)
【出願人】(597173680)スミスクライン ビーチャム コーポレーション (157)
【Fターム(参考)】