説明

シミュレータ及び記憶媒体及びプログラム及び制御装置及びシミュレータの制御方法

【課題】本発明は制御装置を代えずに制御システムを高機能化及び高速処理化することを課題とする。
【解決手段】シミュレータ10には、シーケンサ20と、軌道生成器30と、理想フィードバック制御器40と、ホルダ50と、実システムモデル60とがコンピュータ上の仮想機器として形成される。理想フィードバック制御器40は、シミュレータ10上において、制御対象モデル90の状態量と、動作指令パターンから実システムモデル60への入力を決定し、フィードバックループを策定すると共に、実システムモデル60への入力を時系列データとしてメモリ15に出力する。ホルダ50は、シミュレータ10上において、実システム110上のシーケンサ112のサーボサイクル毎に演算結果によって値が更新され、次のサーボサイクルまで値を保持する。ホルダ50で生成される理想制御入力の更新周期は、シーケンサ112と同じサーボサイクルになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシミュレーションにより得られたデータを実システムに反映させるよう構成されたシミュレータ及び記憶媒体及びプログラム及び制御装置及びシミュレータの制御方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、制御装置を製作する場合、当該制御装置が実システムの中でどの位の性能が得られるのかをシミュレータを用いて、コンピュータ上に生成された模擬的なモデルに対して動作指令パターンを入力し、各センサから得られる状態量を徐々に変化させながら制御特性をシミュレーションすることで実際の制御特性を推測することが行われている。
【0003】
このような制御方式を検討する手段としてシミュレーションを用いる方法は、一般的に行われている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、メカ動作解析部において、実際のモータ駆動装置、モータ、モータ負荷機械の各々のシミュレーション用モデルをソフトウェアによって作成すると共に、モータ負荷機械の機構部のモデルを作成する。そして、駆動仕様入力部によって必要なモデルに駆動仕様を入力した後、運転パターン入力部によってモータ駆動装置モデルに運転パターン等の制御パラメータを入力して機構部力学モデルをシミュレーション動作させ、メカ動作解析部において、機構部力学モデルの先端の速度及び位置の変化を計算する。
【0004】
また、フィードバック制御は、制御対象の目標値の誤差を減らすように制御入力値を調整する手法であるが、目標追従性能に限界があるので、より高精度が必要な装置においては、追従時間差が要求に応えられない場合がある。このようなフィードバック制御による動作の改善が難しいシステムでの動作改善のために逆モデルによるフィードフォワード制御を実施する方式もある(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2では、目標空燃比を設定する目標空燃比設定手段と、目標空燃比設定手段で設定された目標空燃比に応じて供給空燃比をフィードフォワード補正するフィードフォワード制御手段と、目標空燃比設定手段で設定された目標空燃比を規範モデルMで補正する目標空燃比補正手段と、空燃比センサの検出空燃比が目標空燃比補正手段で補正された目標空燃比と一致するように供給空燃比をフィードバック補正するフィードバック制御手段とから空燃比制御系を構成しており、フィードフォワード制御手段は、目標空燃比に対する所定の応答モデルと内燃機関モデルの逆モデルとからなる。
【特許文献1】特開2006−33929号公報
【特許文献2】特開2006−144721号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された制御方式では、シミュレータ上に構築された制御装置を実システムに実装しているため、シミュレーションにより得られた結果が実システムに反映させることができるといった優れた制御方式であるが、実施しようとする制御装置の性能が足りなかったり、あるいは高価な制御機器が必要になって実装できない場合があった。そのため、コスト的に実装可能な制御装置をシミュレータ上に構築し、制御方式、制御パラメータ等を検討して要求された性能に近づけるようにしていたので、実システムに実装するデータを得るのに多くの手間を要するという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献2に記載された逆モデルによるフィードフォワード制御を実施する制御方式では、制御対象によって逆モデルが存在しないか、あるいは逆モデルを求めることが非常に難しいことが有り、適用できない場合があるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、上記課題を解決したシミュレータ及び記憶媒体及びプログラム及び制御装置及びシミュレータの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
【0009】
本発明は、制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルと、前記実システムモデルに対する理想的な制御を行う理想フィードバック手段と、前記実システムモデルにおける動作指令パターンを生成するシミュレータ用動作指令パターン生成手段と、前記理想フィードバック手段から出力された制御データを記憶する記憶手段と、を備え、前記理想フィードバック手段は、前記制御対象モデルの状態量と前記シミュレータ用動作指令パターン生成手段による動作指令パターンとから前記実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを前記記憶手段に出力することにより、上記課題を解決するものである。
【0010】
本発明は、前記理想フィードバック手段の出力に前記実システムモデルの制御周期を反映したホルダを有することにより、上記課題を解決するものである。
【0011】
前記制御対象モデルの状態量は、前記実システムに用いられるセンサから得られる以外の状態量を含むことが望ましい。
【0012】
前記実システムモデルは、フィードバック制御器モデルと制御対象モデルとを有し、前記フィードバック制御器モデルと前記制御対象モデルとの間で閉ループを策定することが望ましい。
【0013】
前記制御対象モデルは、前記フィードバック制御器モデルからの出力に前記理想フィードバック手段からの理想制御入力を加算されたデータが入力されることが望ましい。
【0014】
前記フィードバック制御器モデルは、前記理想フィードバック手段からの理想制御入力を入力されることが望ましい。
【0015】
本発明は、シミュレータから転送された前記時系列データを格納し、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器に前記時系列データを出力する記憶媒体により、上記課題を解決するものである。
【0016】
本発明は、コンピュータに、制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルを形成する手順と、前記実システムモデルにおける動作指令パターンを生成する手順と、前記制御対象モデルの状態量と前記動作指令パターンとから前記実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを記憶手段に出力する手順と、を実行させるためのプログラムにより、上記課題を解決するものである。
【0017】
本発明は、前記プログラムが格納されたメモリを有する制御装置により、上記課題を解決するものである。
【0018】
本発明は、制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルを形成する手順と、前記実システムモデルにおける動作指令パターンを生成する手順と、前記制御対象モデルの状態量と前記動作指令パターンとから前記実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを記憶手段に出力する手順と、ことを特徴とするシミュレータの制御方法により、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、理想フィードバック手段により、制御対象の状態量と、動作指令パターンから実システムモデルへの入力を決定し、フィードバックループを策定すると共に、実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データとして記憶手段に出力するため、シミュレータの仮想空間上に存在するプログラムや演算式、関数を実システムに実装する必要がないので、理想フィードバック制御器及び制御対象モデルを高度なプログラムや複雑な演算によって構築したり、仮想的に高速な処理が実行可能としてシミュレーションを実施したり、実際には測定が困難な状態量をフィードバックしたりできる。また、実装する際には、シミュレーション結果として得られた理想制御入力としての時系列データのみを実システムの制御機器に入力すれば良いので、実システムの制御機器は、理想フィードバック制御器を実装できなくてもシミュレーションの結果を実システムに反映させて制御応答を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【実施例1】
【0021】
<本発明の概要>
本発明では、シミュレータにおいて、実システムに近似とされた実システムモデルを構築し、実システムモデルに対する理想フィードバックデータ(時系列データ)を得ると共に、このデータをメモリに保存し、さらに、メモリのデータを実システムのパターン発生器のメモリのインストールすることにより実システムにおける制御の高精度化を実現するものである。
【0022】
以下に、本発明におけるシミュレータ及び記憶媒体及びプログラム及び制御装置及びシミュレータの制御方法を好適に実施した形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
<本実施例における装置構成>
まず、本実施例におけるシミュレータについて図を用いて説明する。図1は、本実施例におけるシミュレータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【0024】
図1に示されるように、シミュレータ10は、入力装置11と、出力装置12と、ドライブ装置13と、補助記憶装置14と、メモリ15と、各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)16と、ネットワーク接続装置17とを有するよう構成されており、これらはシステムバスBで相互に接続されている。
【0025】
入力装置11は、ユーザが操作するキーボードやマウス等のポインティングデバイスを有しており、ユーザからのプログラムの実行等、各種操作信号を入力する。また、出力装置12は、本発明におけるシミュレーション処理を行うためのコンピュータ本体を操作するのに必要な各種ウィンドウやデータ等を表示するディスプレイを有し、CPU16が有する制御プログラムによりプログラムの実行経過や結果等を表示することができる。
【0026】
ここで、本発明において、シミュレーション処理を行うプログラムは、コンピュータに、制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルを形成する手順と、実システムモデルにおける動作指令パターンを生成する手順と、制御対象モデルの状態量と動作指令パターンとから実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを記憶手段に出力する手順とを実行させるプログラムである。
【0027】
このプログラムは、例えばCD−ROM等の記憶媒体18等を介してコンピュータ本体にインストールされる。また、プログラムを記憶した記憶媒体18は、ドライブ装置13にセット可能であり、記憶媒体18に含まれる実行プログラムが、記憶媒体18からドライブ装置13を介して補助記憶装置14にインストールされる。
【0028】
補助記憶装置14は、ハードディスク等のストレージ手段であり、本発明における実行プログラムや、コンピュータに設けられた制御プログラム、本発明におけるシミュレーションに必要な入力データや処理結果等を蓄積し、更に必要に応じて入出力を行うことができる。そのため、本実施例では、シミュレーション処理により得られたシミュレーション結果(理想制御入力となる時系列データ)が補助記憶装置14に記憶される。そして、実システムに理想制御入力データをインストールする際には、例えば、ドライブ装置13にセットされた記憶媒体100に格納され、記憶媒体100を介して実システム110の記憶装置などにインストールされる。
【0029】
メモリ15は、CPU16により補助記憶装置14から読み出された実行プログラムや理想制御入力となる時系列データ等を格納する記憶手段であり、例えば、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等からなる。
【0030】
CPU16は、OS(Operating System)等の制御プログラム、メモリ15により読み出され格納されている実行プログラム等に基づいて、各種演算や各ハードウェア構成部とのデータの入出力等、コンピュータ全体の処理を制御して各処理を実現することができる。また、CPU16は、プログラムの実行中に必要な各種情報を補助記憶装置14から取得することができ、また処理結果等を補助記憶装置14に格納することができる。
【0031】
ネットワーク接続装置17は、通信ネットワーク等と接続することにより、実行プログラムを通信ネットワークに接続されている他の端末等から取得したり、シミュレーション処理により得られたシミュレーション結果(理想制御入力データ)を実システムの制御器等に提供することができる。
【0032】
図2は本発明によるシミュレータ及び実システムの構成例を模式的に示す構成図である。図2に示されるように、シミュレータ10は、例えば、シミュレーションを行うプログラムをインストールされたコンピュータ装置であり、実システム110に対応したシステム構成となるように各機器のモデルがコンピュータ上に仮想的に構築されている。本実施例のシミュレータ10には、シーケンサ20と、軌道生成器(シミュレータ用動作指令パターン生成手段)30と、理想フィードバック制御器(理想フィードバック手段)40と、ホルダ50と、実システムモデル60とがコンピュータ上の仮想機器として形成される。実システムモデル60は、実システム110のフィードバック制御器160に対応するフィードバック制御器モデル80と制御対象モデル90とを有し、フィードバック制御器モデル80と制御対象モデル90との間で閉ループを策定している。
【0033】
また、シミュレータ10は、前述したプログラムに基づいて、制御対象を有する実システム110を模擬的にモデル化した実システムモデル60を形成する手順と、実システムモデル60における動作指令パターンを生成する手順と、制御対象の状態量と動作指令パターンとから実システムモデル60への入力を決定する閉ループを策定すると共に、実システムモデル60へ入力される時系列データをメモリ15に出力する手順と、を有するシミュレータの制御方法を実行するように設定されている。
【0034】
ここで、実システム110を構成する各機器について説明する。実システム110は、シーケンサ120と、パターン発生器130と、ホルダ140と、軌道生成器150と、フィードバック制御器160と、加算器170と、制御対象180とを有する。実システム110の制御装置には、上記シーケンサ120と、パターン発生器130と、ホルダ140と、軌道生成器150と、フィードバック制御器160と、加算器170とがプログラムによって形成され、所定のサーボサイクルごとに演算が実行される。
【0035】
パターン発生器130のメモリには、制御対象180を制御するため制御データ及び制御データを生成するためのプログラムがインストールされている。パターン発生器130のメモリに格納される制御データは、シミュレータ10によるシミュレーション処理の結果、メモリ15に記憶された理想制御入力データ(時系列データ)であり、記憶媒体100を介して格納される。
【0036】
シーケンサ120は、実システム110上において、予め設定された制御プログラムに基づいてシーケンス信号を順次出力する。
【0037】
パターン発生器130は、実システム110上でシーケンサ120からの指令に基づいて記憶媒体100を介して内蔵メモリに格納された理想制御入力のデータの中から当該指令に対応する理想制御入力を抽出して出力する。
【0038】
軌道生成器150は、実システム110上において、シーケンサ120からの指令信号に基づいて動作指令パターンを生成する。
【0039】
フィードバック制御器160は、制御対象180からサンプラ145を介して入力された計測量と、軌道生成器150からの動作指令パターンから補正制御入力を生成する。
【0040】
サンプラ145は、制御装置112のサーボサイクル毎に制御対象180の計測手段により計測された計測量を取得する。制御装置112では、取得された値に基づいて演算を実施する。
【0041】
加算器170は、パターン発生器130で生成された理想制御入力とフィードバック制御器160で生成された補正制御入力とを加算し、制御入力を生成する。
【0042】
ホルダ140は、実システム110の制御装置112のサーボサイクル毎に演算結果によって値が更新され、次のサーボサイクルまで値を保持する。
【0043】
一方、シミュレータ10上には、上記のように構成された実システム110の構成に対応したモデル化された構成が構築されており、各機器において以下のような機能を有している。シミュレータ10上のシーケンサ20は、予め設定された制御プログラムに基づいてシーケンス信号を順次出力する。
【0044】
シミュレータ10上の軌道生成器30は、シミュレータ10上において、シーケンサ20からの指令信号に基づいて動作指令パターンを生成する。
【0045】
シミュレータ10上の理想フィードバック制御器40は、シミュレータ10上において、制御対象モデル90の状態量と、動作指令パターンから実システムモデル60への入力を決定し、フィードバックループを策定すると共に、実システムモデル60への入力を時系列データとしてメモリ15に出力する理想フィードバック手段である。また、理想フィードバック制御器40は、動作指令パターンを実現するために入力する信号を生成しているので、逆システムになっている。
【0046】
メモリ15では、理想制御入力の時系列データがシーケンス信号と共に記憶される。
【0047】
また、シミュレータ10上の理想フィードバック制御器40は、実装を目的としていないので、実システム110の制御装置112による制約を受けることなく、制御性の改善を図ることができる。
【0048】
例えば、シミュレータ10上でモデル化される制御対象モデル90の状態量のうち、理想制御出力は、制御性能を評価する状態量であり、理想フィードバック制御器40にフィードバックされる制御対象モデル90の状態量は、実システム110で計測される計測量の他、実際は計測されない状態量でも必要に応じて利用することができる。
【0049】
また、理想フィードバック制御器40は、実装を目的としていないので、高度なプログラムや複雑な演算により構築することや、仮想的に高速な処理が実行可能とすることができる。
【0050】
ホルダ50は、シミュレータ10上において、実システム110上の制御装置112のサーボサイクル毎に演算結果によって値が更新され、次のサーボサイクルまで値を保持する。そのため、理想フィードバック制御器40で高速なサーボサイクルを採用していても、ホルダ50で生成される理想制御入力の更新周期は、前述した実システム110の制御装置112と同じサーボサイクルになる。従って、実システム110の制御周期に沿った理想制御入力を実システム110の制御に用いることができる。
【0051】
実システムモデル60は、フィードバック制御器モデル80、加算器85、ホルダモデル87、制御対象モデル90、サンプラモデル92で構成され、夫々、実システム110のフィードバック制御器160、加算器170、ホルダ140、サンプラ145、制御対象180に対応している。ホルダモデル87は、前述したホルダ140と同様にサーボサイクル毎に演算結果によって値が更新され、次のサーボサイクルまで値を保持する。
【0052】
制御対象モデル90は、実システム110の制御対象180をモデル化したものである。制御対象モデル90は、実装を目的にしていないので、実システム110の制御装置112による制約を受けることなく、実システム110の制御対象180を正確にモデル化することができる。
【0053】
シーケンサ20からメモリ15に記憶されたシーケンスと、理想フィードバック制御器40からメモリ15に記憶された理想制御入力データは、例えば、前述したドライブ装置13を介してCD−RあるいはMOなどの記憶媒体100にコピーされ、さらに記憶媒体100を介してパターン発生器130のメモリにインストールされる。
【0054】
理想フィードバック制御器40からメモリ15に記憶された時系列データは、理想制御入力データであり、フィードバック制御器モデル80からの出力と加算され、ホルダモデル87を介して制御対象モデル90に入力され、これにより、制御対象モデル90が理想的に制御される。また、理想フィードバック制御器40では、予め決められた動作指令パターンに応じた理想制御入力データを生成することが可能なので、予め決められた動作パターンを繰り返し実行するようなシステムに適用されると有効である。
【0055】
実システム110において、シーケンス信号に従ってパターン発生器130から生成される時系列データは、理想制御入力データを再現したものである。この理想制御入力とフィードバック制御器160から出力された補正制御入力とを加算した制御入力がホルダ140を介して制御対象180に入力されることで、制御対象180が理想的に制御される。
【0056】
図3は制御対象180の一例としてステージ駆動装置を示す図である。図3に示されるように、制御入力は、モータドライバ200へのモータ電流指令である。計測量は、モータ210に取り付けられたエンコーダ240からの出力である。制御出力は、ステージ230の位置である。また、動作指令パターンは、ステージ230の目標位置の時系列データである。ステージ230は、動作指令パターンと計測量に基づいて制御される。
【0057】
ここで、図3に示すステージ装置を制御対象として、本発明を適用する場合について説明する。図2において、説明したように、シミュレータ10上でステージ装置を制御対象モデルとして構築する。
【0058】
これにより、シミュレータ10上で構築された制御対象モデルが出力するステージ230の位置を理想制御出力として制御に利用することができる。従って、シミュレータ10上において、動作指令パターンと理想制御出力とに基づいて、理想制御入力を出力する理想フィードバック制御器40を構築する。これにより、制御対象モデル90を理想的に制御することが可能になる。
【0059】
ここで、理想フィードバック制御器40が出力した理想制御入力を、ホルダ50を介してメモリ15に保存し、実システム110の制御周期に合った理想制御入力を制御対象、すなわち、ステージ230の位置制御に用いる。このように、本発明をステージ制御位置に適用することにより、実際には測定が困難な状態量をフィードバックすることができ、高性能な制御装置を実装することなく実システム110での制御応答性を向上させることができる。
【0060】
また、本実施例において、ボールネジ220の摩擦を制御対象モデル90が出力する状態量とすると好ましい。この場合、理想フィードバック制御器40によりその状態量(ボールネジ220の摩擦)をフィードバックすることにより、ボールネジ220の摩擦による外乱の影響を抑制することができる。
【0061】
また、モータ210のトルク変動を制御対象モデル90が出力する状態量とすると好ましい。この場合、理想フィードバック制御器40によりその状態量(モータ210のトルク)をフィードバックすることにより、モータ210のトルク変動を抑制することができる。
【0062】
また、シミュレータ10上の理想フィードバック制御器40のサーボサイクルを仮想的に高速であるとしてシミュレータを実施する。
【0063】
この結果、シミュレータ10上でステージ230の位置の目標に近い値で理想的に制御され、そのときのトルクパターン(理想制御入力)がメモリ15に保存される。
【0064】
このトルクパターン(理想制御入力)がパターン発生器130から生成されることにより、実システムでもステージ230の位置の目標とされた結果が近づき、ステージ230の位置を理想的に制御させることができる。
【0065】
本実施例では、上記のようなモータ駆動力をボールネジ220に伝達してステージ230を移動させる駆動方式を実システムの構成例として示したが、非線形性が問題となる制御システム(例えば、ギヤモータの制御、ロボットアームの制御、のほか、電磁石の吸着力制御、エアシリンダの制御、温度制御など)にも適用できるのは、勿論である。
【0066】
図4Aは動作指令パターンの一例を示す波形図である。図4Aに示されるように、動作指令パターンPaは、実システム110の起動生成器150により生成される信号であり、実システム110のステージ230の目標位置の時系列データである。
【0067】
図4Bは実システム110における従来の制御出力の一例を示す波形図である。図4Bに示されるように、パターンPbは、動作指令パターンPaに対して、遅れやオーバシュートが発生しており、指令に対して誤差を持って動作している状態である。
【0068】
図4Cはシミュレータ10における制御出力の一例を示す波形図である。図4Cに示されるように、シミュレータ10のシーケンサ20からの動作指令パターンPaと、制御対象モデル90からの制御出力Pbがほぼ一致している。実装を前提としない理想フィードバック制御器40で制御性能の向上を図ることで、指令に対して非常に小さい誤差で動作している状態を仮想的に実現している。
【0069】
図4Dは理想制御入力データの一例を示す波形図である。図4Dに示す理想制御入力データPdは、シミュレータ10における理想フィードバック制御器40のホルダ50を介した出力であり、メモリ15に記憶される時系列データである。また、理想制御入力データは、実システム110のパターン発生器130からシーケンス信号に応じて生成されるデータである。
【0070】
図4Eは実システム110における本発明による制御出力の一例を示す波形図である。図4Eに示されるように、制御出力Pbと動作指令パターンPaがほぼ一致している。システム10で生成された理想制御入力を実システム110のパターン発生器130で再現することにより、実システム110でも指令に対して非常に小さい誤差で動作している状態を実現している。
【0071】
従って、実システム110では、シミュレータ10により得られた理想制御入力データをパターン発生器130のメモリに格納することで、制御対象180を制御するのに最適な制御データである理想制御入力データがパターン発生器130により再現されるので、高価で高性能な制御装置により高速演算処理をしなくても、高速且つ高精度なフィードバック制御が可能になる。
【0072】
本発明により実システム110に追加されたのは、パターン発生器130であり、サーボサイクルが従来と同じであるので、実システム110の制御装置112は、従来と同等の性能で実現可能でありながら、制御性能を向上させることができる。
【0073】
また、シミュレータ10で仮想的に設計した理想フィードバック制御器40の性能や制御アルゴリズムは、実システム110に実現する必要がない。
【0074】
図5は変形例のシステム構成を示す図である。尚、図5において、図1に示すシステムと同一部分には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0075】
図5に示されるように、変形例の実システム410では、パターン発生器130から生成される時系列データがホルダ135に保持され、ホルダ135を介してフィードバック制御器160に時系列データが入力される。さらに、実システム410は、前述した実施例の軌道生成器150及び加算器170が無くなり、加算処理が削除された分、システム構成が簡素化されている。
【0076】
さらに、実システム410の制御装置412は、制御入力への加算機能が必要ないので、実装可能範囲が広くなり、適用されるシステムを増加させることができる。また、本発明は、実システムの構成に応じて変形して適用することが可能で、実システムが多重フィードバックループを持つシステムの場合や、フィードバックループが全くないシステムの場合でも適用できる。
【0077】
一方、変形例のシミュレータ310上には、上記実システム410を構成する各機器に対応してモデル化された実システムモデル360が形成される。実システムモデル360は、フィードバック制御器モデル80と制御対象モデル90を含んでいる。
【0078】
また、変形例のシミュレータ310では、理想フィードバック制御器40から出力された時系列データがホルダ50を介して直接フィードバック制御器モデル80に入力される。そして、フィードバック制御器モデル80で生成された時系列データは、そのまま制御対象モデル90に入力される。この変形例では、前述した実施例の加算器85が無くなり、加算処理が削除された分、システム構成が簡素化されている。
【0079】
理想フィードバック制御器40により生成された時系列データからなる理想制御入力データ(図4D参照)Pdは、前述した実施例と同様に、メモリ15に保存され、記憶媒体100を介してパターン発生器130のメモリにインストールされる。そして、実システム410では、制御対象180を制御するのに最適な制御データである理想制御入力データのパターンPdが得られるので、高価で高性能な制御装置により高速演算処理をしなくても、高速且つ高精度なフィードバック制御が可能になる。
【0080】
さらに、実システムモデル60,360は、フィードバック制御器モデル80と制御対象モデル90とを有し、フィードバック制御器モデル80と制御対象モデル90との間で閉ループを策定することが好ましい(請求項4に対応する)。これにより、実システム110,410において、フィードバックループを策定しているフィードバック制御器160と制御対象180とをシミュレータ10上でモデル化し、実システムモデル60,360に含ませることで、実装されているフィードバック制御器160の性能を考慮して実システムモデル60,360の理想フィードバック制御器40を設計することができる。
【0081】
また、制御対象モデル90は、フィードバック制御器モデル80からの出力に理想フィードバック制御器40からの理想制御入力を加算されたデータが入力されることが好ましい(請求項5に対応する)。これにより、シミュレータ10,310上の制御対象モデル90の制御器に、理想フィードバック制御器40の出力とフィードバック制御器モデル80の出力とを加算したデータが入力されることにより、さらに高性能な制御を実現することを可能にする。
【0082】
また、シミュレータ310上のフィードバック制御器モデル80は、理想フィードバック制御器40からの理想制御入力を入力されることが好ましい(請求項6に対応する)。これにより、制御対象モデル90の制御器に、理想フィードバック制御器40の出力が入力されることにより、さらに高性能な制御を実現することを可能にする。
【0083】
また、プログラムをコンピュータに読み込ませることにより、制御対象をモデル化した制御対象モデル90を含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデル60,360を形成する手順と、実システムモデル60,360における動作指令パターンを生成する手順と、制御対象モデル90の状態量と動作指令パターンとから実システムモデル60,360への入力を決定する閉ループを策定すると共に、実システム110,410で理想制御入力を生成するパターン発生器130へ入力される時系列データをメモリ(記憶手段)15に出力する手順と、を実行させることが好ましい(請求項8に対応する)。これにより、シミュレータ10,310の仮想空間上に存在するプログラムや演算式、関数を実システム110,410に実装する必要がないので、理想フィードバック制御器40及び制御対象モデル90を高度なプログラムや複雑な演算によって構築したり、仮想的に高速な処理が実行可能としてシミュレーションを実施したり、実際には測定が困難な状態量をフィードバックしたりできる。
【0084】
制御装置としてのパターン発生器130は、上記プログラムが格納されたメモリを有することが好ましい(請求項9に対応する)。これにより、パターン発生器130は、メモリに格納された上記プログラムを読み込んで各手順を実行することができるため、理想フィードバック制御器40を実システム110,410に実装できなくてもシミュレーションの結果を実システム110,410に反映させて制御応答を改善することができる。
【0085】
また、シミュレータ10,310は、制御対象をモデル化した制御対象モデル90を含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデル60,360を形成する手順と、実システムモデル60,360における動作指令パターンを生成する手順と、制御対象モデル90の状態量と動作指令パターンとから実システムモデル60,360への入力を決定する閉ループを策定すると共に、実システム110,410で理想制御入力を生成するパターン発生器130へ入力される時系列データをメモリ(記憶手段)15に出力する手順と、からなる制御方法を実行させることが好ましい(請求項10に対応する)。これにより、シミュレータ10,310の仮想空間上に存在するプログラムや演算式、関数を実システム110,410に実装する必要がないので、理想フィードバック制御器40及び制御対象モデル90を高度なプログラムや複雑な演算によって構築したり、仮想的に高速な処理が実行可能としてシミュレーションを実施したり、実際には測定が困難な状態量をフィードバックしたりできる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
上記実施例では、制御対象として図3に示すようなモータ駆動システムの構成例を例示したが、本発明は制御対象モデル90をシミュレータ上に構築することができれば、どのような構成のものにもシミュレーション処理により理想制御入力データをメモリ15に記憶させ、この理想制御入力データを実システム110,410のパターン発生器130のメモリにインストールすることで制御装置を変更せずに実システムを実質的に高機能化及び高性能化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本実施例におけるシミュレータのハードウェア構成の一例を示す図である。
【図2】本発明によるシミュレータ及び実システムの構成例を模式的に示す構成図である。
【図3】制御対象180の一例を示す図である。
【図4A】動作指令パターンの一例を示す波形図である。
【図4B】従来の制御出力の一例を示す波形図である。
【図4C】高速で制御可能な制御装置でフィードバック制御した場合の一例を示す波形図である。
【図4D】理想制御入力データの一例を示す波形図である。
【図4E】パターン発生器130で生成された理想制御入力データのパターンPdの一例を示す波形図である。
【図5】変形例のシステム構成を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
10,310 シミュレータ
11 入力装置
12 出力装置
13 ドライブ装置
14 補助記憶装置
15 メモリ
16 CPU
17 ネットワーク接続装置
20,120 シーケンサ
30 軌道生成器
40 理想フィードバック制御器
50 ホルダ
60 実システムモデル
80 フィードバック制御器モデル
85,170 加算器
90 制御対象モデル
100 記憶媒体
110,410 実システム
130 パターン発生器
140 ホルダ
150 軌道生成器
160 フィードバック制御器
180 制御対象
200 モータドライバ
210 モータ
220 ボールネジ
230 ステージ
240 エンコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルと、
前記実システムモデルに対する理想的な制御を行う理想フィードバック手段と、
前記実システムモデルにおける動作指令パターンを生成するシミュレータ用動作指令パターン生成手段と、
前記理想フィードバック手段から出力された制御データを記憶する記憶手段と、
を備え、
前記理想フィードバック手段は、前記制御対象モデルの状態量と前記シミュレータ用動作指令パターン生成手段による動作指令パターンとから前記実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを前記記憶手段に出力することを特徴とするシミュレータ。
【請求項2】
前記理想フィードバック手段の出力に前記実システムモデルの制御周期を反映したホルダを備えたことを特徴とする請求項1に記載のシミュレータ。
【請求項3】
前記制御対象モデルの状態量は、前記実システムに用いられるセンサから得られる以外の状態量を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のシミュレータ。
【請求項4】
前記実システムモデルは、フィードバック制御器モデルと前記制御対象モデルとを有し、前記フィードバック制御器モデルと前記制御対象モデルとの間で閉ループを策定することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のシミュレータ。
【請求項5】
前記制御対象モデルは、前記フィードバック制御器モデルからの出力に前記理想フィードバック手段からの理想制御入力を加算されたデータが入力されることを特徴とする請求項4に記載のシミュレータ。
【請求項6】
前記フィードバック制御器モデルは、前記理想フィードバック手段からの理想制御入力を入力されることを特徴とする請求項4に記載のシミュレータ。
【請求項7】
前記請求項1乃至6の何れかに記載のシミュレータから転送された前記時系列データを格納し、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器に前記時系列データを出力することを特徴とする記憶媒体。
【請求項8】
コンピュータに、
制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルを形成する手順と、
前記実システムモデルにおける動作指令パターンを生成する手順と、
前記制御対象モデルの状態量と前記動作指令パターンとから前記実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを記憶手段に出力する手順と、
を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
前記請求項8に記載のプログラムが格納されたメモリを有する制御装置。
【請求項10】
制御対象をモデル化した制御対象モデルを含み、少なくとも実システムの一部がモデル化された実システムモデルを形成する手順と、
前記実システムモデルにおける動作指令パターンを生成する手順と、
前記制御対象モデルの状態量と前記動作指令パターンとから前記実システムモデルへの入力を決定する閉ループを策定すると共に、前記実システムで理想制御入力を生成するパターン発生器へ入力される時系列データを記憶手段に出力する手順と、
を有することを特徴とするシミュレータの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−204002(P2008−204002A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36837(P2007−36837)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】