説明

シャフト型熱分解炉及びその安定操業方法

【課題】炭素質資源のガスエネルギーへの高効率な転換において、安定操業を達成するために、棚吊り傾向を判断し、解消する方法を提供する技術を提供する。
【解決手段】炭素質資源を熱分解して熱分解ガス、タール、及び固体の炭化物を生成するための移動層シャフト型熱分解炉1であって、前記熱分解炉の高さ方向の所定位置において、周方向に少なくとも2箇所の加熱ガスのガス吹き込み口2が配置され、当該各ガス吹き込み口の上方に、少なくとも高さ方向2箇所に、炉内圧力取り出し口3が配置され、前記各ガス吹き込み口の上方に配置される各箇所の圧力取り出し口どうしは、略同一水平面上に配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種炭素質資源を安定して原燃料ガスに転換するためのシャフト型熱分解炉及びその安定操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、3R(reduce:削減、reuse:再使用、recycle:再利用)の考え方が、政策の後押しもあり、共通概念として認知され始めている。使用後または故障・破壊後の製品や製品製造時の副生品等のいわゆる廃棄物は、焼却あるいは埋め立てが主な処理方法であり、最終処分場の逼迫する現実と相まって、それらを有効に利用することは、地球温暖化問題への対応の一つの解答となるであろう。しかしながら、廃棄物は種々雑多な性状を有しており、エネルギー密度の低いものが多く含まれることや、処理後のガス精製負担が大きいこと等の理由で、その処理には作業と設備に手間とコストが掛かり、特に小規模で経済的に自立可能なプロセスは少ない。
【0003】
廃棄物の多くは炭素を含んでおり、発熱量は一般的には低いものの、石炭、石油、天然ガス等と変わりないエネルギー資源と見ることができる。
【0004】
廃棄物の処理の代表的な例としては、一般廃棄物ゴミ(家庭ゴミ)を対象とし、ゴミ焼却に蒸気発電を組み合わせて電力として回収するゴミ焼却発電方式がある。近年、従来の10〜15%の送電端効率から、ボイラ材質改良や原料調整(RDF化)、外部燃料使用による効率向上(スーパーゴミ発電)等により、30%近い送電端効率で発電している焼却炉が実機運用され始めた。ただし、これら高効率型の処理設備は、廃棄物の事前処理やボイラ材質の向上、外部燃料導入が必要であり、設備コスト・運用コスト高、適用制限(対象廃棄物の限定等)等で問題点があることから、試験的運用であったり、トラブルで採用が減少したりしており、従来型のゴミ燃焼発電方式が依然として主流である。
【0005】
また、最終処分場の逼迫やダイオキシン規制により自治体での実機採用が増加しつつある処理方法として、灰分の減容・無害化処理やダイオキシン低減を狙い、高温でガス化溶融して灰分を溶融・スラグ化し、発電まで持ってゆくいわゆる廃棄物ガス化溶融技術がある。
【0006】
この技術は種類が多く、大きく分けると、i)直接溶融型(シャフト炉等を使い、熱分解、ガス化、燃焼・溶融を前段の反応器で行い、後段では燃焼してボイラ、蒸気タービンでエネルギー回収を行うものが主。)、ii)熱分解+燃焼・溶融型(キルン等で低温熱分解して生成したガス、タール、チャーを充分な空気で高温燃焼し、ボイラ、蒸気タービンでエネルギー回収。)、iii)熱分解+ガス化型(流動床、シャフト炉等で低温熱分解して生成したガス、チャーを高温ガス化し、可燃性ガスを発生させ、除塵、ガス精製工程を経てクリーンアップしたあとガスタービン、ガスエンジンによる発電または化学原料としてガスを利用。)に分けられる。
【0007】
i)及びii)の燃焼−蒸気発電方式では、廃棄物中に含まれる塩素等によるボイラーチューブ腐食のために、チューブ側(蒸気)温度を酸腐食温度以下とする必要があり、回収する蒸気条件に制約があることから、発電効率を現状よりも上げることは難しい。
【0008】
本発明は、廃棄物を含む炭素質原料の高効率エネルギー転換を指向し、主に前述iii)の技術範疇のうち、熱分解炉としてシャフト炉を採用する技術に関する。この範囲に属する技術の特許としては、本発明者らが特許文献1において、熱分解(シャフト型炉)、ガス化、改質を組み合わせ、従来技術より高効率に廃棄物をガス化する方式を、またさらに熱分解炉内の安定物流を達成する方式を特許文献2において提案している。
【0009】
また、それより以前の従来技術・特許としては、特許文献3において廃棄物を熱分解し、熱分解チャーの部分酸化ガスで熱分解タールを改質して可燃ガスを製造する方法及び装置が提案されている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−41848号公報
【特許文献2】特開2004−75852号公報
【特許文献3】特開平11−294726号公報、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3に見られる、移動層シャフト型熱分解炉を採用し、各種炭素質資源より可燃性ガスを製造する高効率エネルギー転換技術においては、熱交換効率の良いシャフト炉での対向流熱分解反応を特徴としているが、シャフト炉での熱分解時の棚吊り、吹き抜けや、それに伴うクリンカ生成を抑制することが課題の一つである。特に、移動層では炉壁との摩擦、引っかかりにより降下が滞ることが多い。通常は自重により崩れ、正常な降下状態になるが、長時間ブリッジを組みその下に空間が生じることがあり、この状態を棚吊りと呼んでいる。
【0012】
図4に棚吊りの模式図を示す。移動層シャフト型熱分解装置1内を矢印の方向に下降する炭素質資源9、ガス発生装置6で生成したガスを投入するガス吹き込み口2、が図に示してあり、棚吊り空間13が存在する。棚吊り自体はガス吹き込み口2を棚吊り空間13に含むとは限らないが、棚吊り後の空間が成長する過程でガスの影響が大きいことから図中にはガス吹き込み口2を含む空間として描いている。棚吊りが解消しないと、ガスの抵抗が少ないことでその空間近傍にさらにガスが流れやすくなり、ガス流れの不均衡が広がる。ガスは高温であり、ガスが流れやすい部分の反応が進み、さらに空間が増すためよけいに流れやすくなる悪循環が生じ、崩落するまで流れの格差が拡大する。
【0013】
充填層(移動層)の下部から上部まで空間がつながってしまった状態が吹き抜けと呼ぶ状態であり、抵抗の少ない吹き抜けた空間をガスが優先的に流れることになる。このとき、吹き抜け空間の周りはガスにより高温になるが、吹き抜け空間から離れた部分においては温度はほぼ原料を伝わる伝熱でしか供給されず、全量を熱分解するのに十分な熱を供給しているにもかかわらず未反応物の多い状態(同時に高温のままガスが吹き抜ける)が生じてしまう。
【0014】
さらに、高温ガス中に酸素がある場合には、原料中の可燃分を消費し、灰分だけが残る状況となり、灰分が溶融して集合(成長)する、いわゆるクリンカが生成することになる。クリンカが炉壁に付着成長した場合、崩落によって棚吊り・吹き抜け解消後にも、クリンカが次の棚吊りの基点となることが多いため、クリンカが生成する前に棚吊り、吹き抜けを解消する必要がある。
【0015】
本発明は、これら従来技術の課題点を解決し、単純で安価な検知方法を元に棚吊り傾向を判断し、解消することができる、シャフト型熱分解炉及びその安定操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以上の課題を解決するに有効な方法であり、
(1)炭素質資源を熱分解して熱分解ガス、タール、及び固体の炭化物を生成するための移動層シャフト型熱分解炉であって、前記熱分解炉の高さ方向の所定位置において、周方向に少なくとも2箇所の加熱ガス吹き込み口が配置され、当該各ガス吹き込み口の上方に、少なくとも高さ方向2箇所に、炉内圧力取り出し口が配置され、前記各ガス吹き込み口の上方に配置される各箇所の圧力取り出し口は、略同一水平面上に配置されていることを特徴とするシャフト型熱分解炉、
(2)(1)記載のシャフト型熱分解炉を用いて炭素質資源を熱分解する際の安定操業方法であって、前記各ガス吹き込み口の上方に配置された前記少なくとも高さ方向2箇所の圧力取り出し口から、2箇所の圧力取り出し口を選択して炉内の圧力を測定し、上段側の当該測定値と下段側の当該測定値とから両者の差圧を算出し、各ガス吹き込み口の上方の測定値にて算出された前記差圧どうしを比較し、最も差圧の低い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を減少し、且つ、最も差圧の高い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を増加することを特徴とするシャフト型熱分解炉の安定操業方法、
(3)前記最も差圧の低い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を減少した分を、最も差圧の高い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を増加する分で補うことを特徴とする(2)記載のシャフト型熱分解炉の安定操業方法、
(4)前記投入する加熱ガスが、前記移動層シャフト型熱分解炉の外部にて燃料を燃焼又は部分燃焼させて生成したガスであることを特徴とする(2)又は(3)に記載のシャフト型熱分解炉の安定操業方法、
(5)前記投入する加熱ガスが、酸素含有ガスであり、前記炉内の熱分解により発生する炭化物を前記酸素含有ガスにより燃焼して、前記熱分解に必要な顕熱を有するガスを生じさせることを特徴とする(2)2又は(3)に記載のシャフト型熱分解炉の安定操業方法、
からなる。
【0017】
尚、本発明における炭素質資源とは、バイオマスやプラスチック、一般廃棄物ゴミ等を指し、具体的には、農業系バイオマス(麦わら、サトウキビ、米糠、草木等)、林業系バイオマス(製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等)、畜産系バイオマス(家畜廃棄物)、水産系バイオマス(水産加工残滓)、廃棄物系バイオマス(生ゴミ、RDF:ゴミ固形化燃料;Refused Derived Fuel、庭木、建設廃材、下水汚泥)、硬質プラスチック、軟質プラスチック、シュレッダーダスト等を指す。一般廃棄物ゴミとは産廃指定19種類以外のゴミのことで、自治体単位で収集する家庭系ゴミや事業者から出る紙類を多く含む事業系ゴミである。ただし、本発明は炭素質のエネルギー転換に関するものであるため、炭素質をほとんど含まないもの、すなわち分別された金属、ガラス類等は対象とはしない。炭素質資源としては、熱分解してガス、タールを発生させるという本発明の方法から考えて、地球温暖化対策上は好ましいとはいえないが、石炭やオイルシェール、オイルサンド等の化石燃料を使用してもかまわない。
【発明の効果】
【0018】
本発明を適用することで、シャフト型熱分解炉を使用して炭素質資源を高効率にガスエネルギーに転換する方法において、単純な検知方法を元に棚吊り傾向を判断し、解消することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1に、 本発明に係る設備を示した。主設備は、移動層シャフト型熱分解装置1で、代表的な形状として円筒で記述している。
【0020】
原料(炭素質資源9)は移動層シャフト型熱分解装置1の上方より投入され、充填層(移動層)を構成し、炉内を降下し、炉下部より排出される。降下する間に、炉下部より投入されて炉内を上昇する加熱ガスにより乾燥、昇温、熱分解され、炉下部からは炭化物(熱分解残渣)が排出される。
【0021】
熱分解時には、熱分解ガス、タールが発生するが、これらは上昇する加熱ガスに同伴して、移動層シャフト型熱分解装置1の上部より排出される。
【0022】
図1に示されるように、移動層シャフト型熱分解装置1の周方向には、最低限の2箇所の加熱ガスのガス吹き込み口2と、そのガス吹き込み口2各々の上方に高さ方向に最低限の2箇所の圧力取り出し口3が設置される。2箇所の圧力取り出し口3には各々圧力計4が接続され、圧力計4から発信される信号を元に演算器5でそれらの差圧を計算する。
【0023】
炉に炭素質資源9が充填している場合、ガスが下方から上方に流れると、通気抵抗により、上下で圧力差が生じるため、これを算出する。炉形状に関しては特に制限はなく、円錐、円錐台、矩形、四角錐、四角錐台等、炭素質資源9の物流に問題がなければ良い。また、差圧計算に関しては、圧力計4と演算器5の組み合わせを差圧計にて代用しても構わないし、演算器5の代わりに、目視型圧力計を操業者が読み取って算出しても良い。
【0024】
図1の場合、2箇所のガス吹き込み口2の位置に対応する2種類の差圧演算結果が得られる。ガス吹き込み口2には、ガス発生装置6(例えばLPGバーナー、生成ガス燃焼バーナー)で発生したガス(例えば1200℃の高温還元ガス)が、管路7及び流量調節器8(例えば高温バタフライ弁)を通して供給され、移動層シャフト型熱分解装置1に投入される。本ケースは、移動層シャフト炉の外部にて燃料を燃焼又は部分燃焼させて生成したガスを加熱ガスとして投入する場合にあたる。
【0025】
ガス吹き込み口2は、同等の条件下で比較することを狙いとして、略同一水平断面上に配置すること(充填層高さに対し、同一高さ±1割以内、望ましくは同一高さ)が必要である。また、水平断面上で炉の周方向に適当な間隔に配置されていることが好ましい。水平断面上の配置としては、例えば、水平断面が円や楕円の場合は均等間隔での配置、矩形断面の場合は、断面中心に対して点対称配置や断面長辺間の中心軸に対し線対称配置、あるいは長辺上に均等配置、等のような圧力の測定点が可能な限り均等で、棚吊りが検知できない範囲を最低限とする配置が好ましい。
【0026】
また、各箇所の圧力取り出し口3は、ガス吹き込み口2と同様に略同一水平断面上に配置することが必要であり、さらに、圧力取り出し口3の高さ方向の配置は、炭素質資源9の正常な積み上がり状態と棚吊り検知を目的とするため、図1のように棚吊りのない状態で、圧力取り出し口3のうち少なくとも下方の口は原料の積み上がった層に配置されることが望ましい。本発明の大きな特徴は、差圧を算出して棚吊り検知をする場合、とる差圧が一組だと経時変化や過去の値との比較を行わないと棚吊り判断ができず、更には、経時変化をとっても棚つりが生じているかどうかの判断は難しいが、本発明のように二組以上とることで、経時変化や絶対値に寄らず相対的に棚吊り判断が可能なところにある。
【0027】
圧力取り出し口3の高さ方向配置は少なくとも2箇所あれば充分効果を発現できるが、3箇所以上の場合には、圧力検知部分が閉塞するなど特殊な誤判断要因を排除可能であるため、設備コスト等を勘案して多めに設置することが望ましい。その場合の操業方法は、ガス吹き込み口ごとに、高さ方向に3箇所以上の圧力取り出し口3から2箇所の圧力取り出し口を選択し、上段側の圧力測定値と下段側の圧力測定値の差圧を算出し、比較する。棚吊りの判断基準(差圧の差が生じる)は同じだが、それに加えて、下段側は必ず原料の積み上がった層を選択することとし誤認することがないようにする。また各圧力取り出し口に対し、最下段に対する各段の差圧を取り、比較することで(通常上段側との差圧ほど高くなる)検知口が健全であることを判断する。
【0028】
圧力取り出し口3のガス吹き込み口2に対する位置は、吹き込み口2近傍の状況を正確に把握し、ガス量調整の効果を最大限とするために、通常は垂直上方に配置されるが、例えば垂直上方に対し±15°程度以内のずれた方向に設置されても同等の効果は得られ、±30°以内では垂直上方に比べ効力は落ちるが効果は得られる。
【0029】
本発明に係る操業方法は、複数の差圧(図1の場合2個所)を制御器10に取り込んで比較し、最も差圧が低いガス吹き込み口2へのガスの量を減らし、差圧が高いガス吹き込み口2のガスの量を増やす制御を行う操業である。これは、差圧が低くなった状態、すなわちガス通気抵抗が少ないことでガスが流れていないこと、即ち吹き抜けの可能性があると判断し、差圧が高い側にガス量を移行させることで、炭素質資源9への均等な熱供給と、棚吊りの解消を達成する方法である。特に、一箇所で増やした量と同じ量のガスを減らすことで総ガス量を変えずに炭素質資源9への熱供給を平均化する場合は、総ガス量変動が少ないことで、より一層の安定化が可能である。
【0030】
吹き抜け可能性判断と操作の指標としては、例えば経験的ではあるが、最高差圧と最低差圧の平均値に対し、最低差圧が80%を下回った場合に第一弾操作(差圧が低い側のガス量を10%減、高い側のガス量を10%増)を実施し、差圧の差が解消する方向に移行するまで10%刻みで減、増操作を追加、解消方向に移行した場合にはその逆である10%刻みの増、減操作を実施する。
【0031】
ガス吹き込み口2が2箇所で、総ガス量を変えない制御の場合などは、ガス発生装置6は共通(一つ)で、途中からガスを分岐して各々のガス吹き込み口2に接続する形とし、分岐後の配管途中にバタフライ弁等を入れ、弁開度で抵抗差をつけて流量を変化さる方法(総ガス量が一緒で残りが反対側に供給される)等が考えられる。例えば総ガス量1200Nm3/h(2箇所のガス吹き込み口2に600Nm3/hずつ)で、2個所の差圧が2.2kPaと1.4kPa(平均値1.8kPa)になったとき、平均の80%(1.44kPa)を低い方の差圧が下回ったため、差圧が低い方の流路のバタフライ弁開度を閉側に調整し、差圧ガス量を10%(60Nm3/h−wet)減少させ、高い方のガス量を同量増加させた。
【0032】
操業安定という意味では2箇所という最低限のガス吹き込み口2ではなく、多くのガス吹き込み口を持つことできめ細かい調整を実施することが好ましいが、ガス吹き込み口2を増やすことによる熱ロスや設備過剰(設備コスト)等のマイナス面もあるため、通常は2〜8箇所程度のガス吹き込み口2が好ましい。ガス吹き込み口2が4個所以上の場合には、全てのガス吹き込み口2ごとの差圧を並べ、最高値の差圧を出したガス吹き込み口2と最低値の差圧を出したガス吹き込み口2を一つのペア、二番目に高い差圧と二番目に低い差圧を出したガス吹き込み口2をペアというように順番に組み合わせ、それぞれのペアごとに数値を比較して上記調整を実施するとよい。
【0033】
図2に、本発明に係る移動層シャフト型熱分解装置1において、最低限の2個所の酸素含有ガス吹き込み口11と、その酸素含有ガス吹き込み口11の上方に各々2段の圧力取り出し口3を保有する設備を示した。2段の圧力取り出し口3には各々圧力計4が接続され、圧力計4からの発進信号を元に演算器5で差圧を計算する。本ケースは、加熱ガスとして酸素含有ガスを用い、これにより炉内の熱分解により発生する炭化物を燃焼して熱分解に必要な顕熱を発生する場合にあたる。
【0034】
図2の場合、2個所の酸素含有ガス吹き込み口11の位置に対応する2種類の差圧演算結果が得られる。酸素含有ガス吹き込み口11には、酸素含有ガス供給装置12からの酸素含有ガスが流量調節器8を通して移動層シャフト型熱分解装置1に定量供給される。
【0035】
操業の指標は、炉の外部で燃料を燃焼又は部分燃焼して得られた高温ガスを入れたケースと同じく、複数の差圧(図2の場合2個所)を制御器10に取り込んで比較し、最も差圧が低い酸素含有ガス吹き込み口11への酸素含有ガスの量を減らし、その分最も差圧が高い酸素含有ガス吹き込み口11の酸素含有ガスの量を増やす制御を行う操業である。炉の外部で燃料を燃焼又は部分燃焼して得られた高温ガスを入れたケースの操業では操作する量は燃焼ガス量であったが、この場合は酸素含有ガス量になる。
【0036】
操作の判断は、これは、差圧が低くなった状態、すなわちガス通気抵抗が少ないことでガスが流れていないこと、即ち吹き抜けの可能性があると判断し、差圧が高い側にガス量を移行させることで、炭素質資源9への均等な熱供給と、棚吊りの解消を達成する方法である。特に、一箇所で増やした量と同じ量のガスを減らすことで総ガス量を変えずに炭素質資源9への熱供給を平均化する場合は、総ガス量変動が少ないため、最も安定操業が望める。
【0037】
吹き抜け可能性判断と操作の指標としては、例えば経験的ではあるが、最高差圧と最低差圧の平均値に対し、最低差圧が80%を下回った場合に第一弾操作(差圧が低い側のガス量を5%減、高い側のガス量を5%増)を実施し、差圧の差が解消する方向に移行するまで5%刻みで減増を追加、解消方向に移行した場合にはその逆の操作を実施する。
【0038】
例えばガス吹き込み口2が2箇所で、総ガス量を変えない制御の場合、空気110Nm3/h、酸素25Nm3/h、蒸気105kg/hを投入していたが、2個所の差圧が1.0kPaと0.6kPa(平均値0.8kPa)になったとき、平均の80%(0.64kPa)を低い方の差圧が下回ったため、差圧が低い方のガス量を5%増加させ(空気116Nm3/h、酸素26.3Nm3/h、蒸気110.3g/h)、高い方のガス量を同量減少させた。
【0039】
燃焼又は部分燃焼して生成したガスにより制御するケースとガス量増減刻みが異なる(10%に対し5%)のは、酸素含有ガスの方が燃焼による発熱で棚吊り解消効果が大きいことによる。
【0040】
操業安定という意味では酸素含有ガス吹き込み口11を多くし、きめ細かい調整を実施することが好ましいが、酸素含有ガス吹き込み口11を増やすことによる設備過剰等のマイナス面もあるため、通常は2〜8箇所程度の酸素含有ガス吹き込み口11が好ましい。
【0041】
酸素含有ガス吹き込み口11が4箇所以上の場合には、全ての酸素含有ガス吹き込み口11ごとの差圧を並べ、最高値の差圧を出した酸素含有ガス吹き込み口11と最低値の差圧を出した酸素含有ガス吹き込み口11を一つのペア、二番目に高い差圧と二番目に低い差圧を出した酸素含有ガス吹き込み口11をペアというように順番に組み合わせ、それぞれのペアごとに数値を比較して上記調整を実施するとよい。酸素含有ガスが空気の場合は、酸素含有ガス供給装置12は例えばブロアになり、高濃度酸素の場合は例えば酸素PSA等になる。
【0042】
図2の設備についても、圧力計4と演算器5の組み合わせを差圧計にて代用しても構わないし、演算器5の代わりに、目視型圧力計を操業者が読み取って算出しても良い。
【実施例】
【0043】
(実施例1)
図3に、加熱ガスとして、燃料を燃焼又は部分燃焼して生成した高温ガスを投入する方法において、調整対策を講じないケース(無対策)と、高温ガス流量を調整する本方法を用いたケース、さらに、酸素含有ガスを入れることで炭化物を燃焼し、乾燥・熱分解用の高温ガスを生成する方法において、酸素含有ガス流量を調整したケースについて安定性を比較したグラフを示した。燃料を燃焼又は部分燃焼して生成した高温ガスを投入するケースでは外部で高温ガスを生成するため、そのガス量を縦軸の値とした。酸素含有ガスを投入するケースでは、内部での燃焼反応も考慮し、燃焼生成ガスを算出して縦軸の値とした(総生成ガスより熱分解ガス、水分を差し引いた)。安定性指標として、操業条件を同一にした場合の、発生ガス量(ガス量に生成熱分解ガス量を加えたもの。湿基準Nm3/h)の経時変化を採用した。
【0044】
操業条件:
10トン/日で原料(複合廃棄物:都市ゴミ)を処理した。熱分解炉は矩形で、サイズは、横1.2m、奥行き0.75m、高さは6m(原料充填高さは約3m)である。燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケース及び酸素含有ガスを入れるケース共通に、ガス吹き込み口2は各ケース2個所ずつで、炉底から0.75m高さで下記に示した2個所から水平方向に吹き込んだ。燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケースでは、加熱ガスとして、LPG24Nm3/h、空気220Nm3/h、酸素50Nm3/h、蒸気210kg/hを投入(2個所合計;無対策ケースは各口から1/2量)し、1200℃狙いで部分燃焼することで高温ガスを製造した。また、酸素含有ガスを入れるケースでは、LPGは無しで、他の空気、酸素、蒸気は同量投入した。炉外、炉内に寄らず燃焼量を同等とするために、投入される酸素(空気、酸素中の酸素と水蒸気中の酸素元素)量を同じにするためである。
【0045】
圧力計3の位置は、ガス吹き込み口2または酸素含有ガス吹き込み口11に対し、上方1m位置及び2m位置の二個所(1ケースで計4個所)とした。
【0046】
燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケース:
ガス吹き込み口を矩形熱分解炉の横方向(長辺)に断面中心に対し点対称に設置した。ガス吹込位置は長辺の角から0.8m(逆から0.4m)位置とした。操作は、最高差圧と最低差圧の平均値に対し、最低差圧が80%を下回った場合に差圧が低い側のガス量を10%減(LPG、空気、酸素、水蒸気を全て10%減)、高い側のガス量を10%増(LPG、空気、酸素、水蒸気を全て10%増)を実施し、安定を待ち(2分)、差圧の差が解消する方向に移行するまで10%刻みで減、増を追加した。解消方向に移行した場合にはその逆の操作を、最高差圧と最低差圧の平均値に対し、最低差圧が80%を上回るまで実施した。例えば、開始時点で高温ガス量が1200Nm3/h−wetの時2個所から600Nm3/h−wetずつ投入していたが、2個所の差圧が2.2kPaと1.4kPa(平均値1.8kPa)になったとき、平均の80%(1.44kPa)を低い方の差圧が下回ったため、差圧が低い方のガス量を10%(60Nm3/h−wet)増加させ、高い方のガス量を同量減少させた。実施例では、ガス分配の弁を調整し、660Nm3/hと540Nm3/hとした(総量不変)。
【0047】
酸素含有ガスを入れるケース:
ガス吹き込み口を矩形熱分解炉の横方向(長辺)に断面中心に対し点対称に設置した。酸素含有ガス吹込位置は長辺の角から0.8m(逆から0.4m)位置とした。操作は、最高差圧と最低差圧の平均値に対し、最低差圧が80%を下回った場合に差圧が低い側のガス量を5%減(空気、酸素、水蒸気を全て5%減)、高い側のガス量を5%増(空気、酸素、水蒸気を全て5%増)を実施し、安定を待ち(2分)、差圧の差が解消する方向に移行するまで5%刻みで減、増を追加した。解消方向に移行した場合にはその逆の操作を、最高差圧と最低差圧の平均値に対し、最低差圧が80%を上回るまで実施した。例えば、開始時点で二個所から空気110Nm3/h、酸素25Nm3/h、蒸気105kg/hを投入していたが、2個所の差圧が1.0kPaと0.6kPa(平均値0.8kPa)になったとき、平均の80%(0.64kPa)を低い方の差圧が下回ったため、差圧が低い方のガス量を5%増加させ(空気116Nm3/h、酸素26.3Nm3/h、蒸気110.3g/h)、高い方のガス量を同量減少させた。
【0048】
無対策ケースについては、燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケースと同じ操業条件で、変動対策を実施しなかった。
【0049】
図3のデータから、各ケースに付き最大ガス量、最小ガス量、平均ガス量、最大増え幅(最大ガス量と平均ガス量の差)、最大減り幅(平均ガス量と最小ガス量の差)、増え割合(最大増え幅/平均ガス量×100)、減り割合(最大減り幅/平均ガス量×100)を算出し、表1に示した。棚吊りの指標としては、生成するガスの変動を見るのが有効である。その中で、原料投入時に乾燥等で一気に発生するガス量変動はやむを得ないため、通常は±20%まで許容する。従って、これを超える振れ幅が生じたときには棚吊りが起こっていると結論づけられる。
【0050】
即ち、表1において、増え割合、減り割合を把握することで、棚吊りの有無が判定できる。無対策時には最大30%の平均からの振れがあったが、対策を実施したケースでは10.9〜16.9%に減少したことから、無対策では棚吊りが生じ、燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケース、酸素含有ガスを入れるケースとも操業が安定していたことがわかる。また、酸素含有ガスを入れるケースの方が部分燃焼ガスを入れるケースより安定していたこともわかる。図3での経時変化としての振れ具合を見ても、無対策(実線)に比べ、燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケース、酸素含有ガスを入れるケースは1200Nm3/h近傍の小変動でとどまった。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】燃焼又は部分燃焼ガスを移動層シャフト型熱分解炉に投入する場合の基本的な構成図である。
【図2】酸素含有ガスを移動層シャフト型熱分解炉に投入する場合の基本的な構成図である。
【図3】燃焼又は部分燃焼ガスを入れるケース、酸素含有ガスを入れるケース及び無対策の場合のガス発生量の経時変化比較グラフである。
【図4】棚吊りの模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 移動層シャフト型熱分解装置
2 ガス吹き込み口
3 圧力取り出し口
4 圧力計
5 演算器
6 ガス発生装置
7 ガス
8 流量調節器
9 炭素質資源
10 制御器
11 酸素含有ガス吹き込み口
12 酸素含有ガス供給装置
13 棚吊り空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質資源を熱分解して熱分解ガス、タール、及び固体の炭化物を生成するための移動層シャフト型熱分解炉であって、前記熱分解炉の高さ方向の所定位置において、周方向に少なくとも2箇所の加熱ガスのガス吹き込み口が配置され、当該各ガス吹き込み口の上方に、少なくとも高さ方向2箇所に、炉内圧力取り出し口が配置され、前記各ガス吹き込み口の上方に配置される各箇所の圧力取り出し口は、略同一水平面上に配置されていることを特徴とするシャフト型熱分解炉。
【請求項2】
請求項1記載のシャフト型熱分解炉を用いて炭素質資源を熱分解する際の安定操業方法であって、
前記各ガス吹き込み口の上方に配置された前記少なくとも高さ方向2箇所の圧力取り出し口から、2箇所の圧力取り出し口を選択して炉内の圧力を測定し、上段側の当該測定値と下段側の当該測定値とから両者の差圧を算出し、各ガス吹き込み口の上方の測定値にて算出された前記差圧どうしを比較し、最も差圧の低い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を減少し、且つ、最も差圧の高い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を増加することを特徴とするシャフト型熱分解炉の安定操業方法。
【請求項3】
前記最も差圧の低い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を減少した分を、最も差圧の高い圧力取り出し口の下方に配置されたガス吹き込み口からの加熱ガス投入量を増加する分で補うことを特徴とする請求項2記載のシャフト型熱分解炉の安定操業方法。
【請求項4】
前記投入する加熱ガスが、前記移動層シャフト型熱分解炉の外部にて燃料を燃焼又は部分燃焼させて生成したガスであることを特徴とする請求項2又は3に記載のシャフト型熱分解炉の安定操業方法。
【請求項5】
前記投入する加熱ガスが、酸素含有ガスであり、前記炉内の熱分解により発生する炭化物を前記酸素含有ガスにより燃焼して、前記熱分解に必要な顕熱を有するガスを生じさせることを特徴とする請求項2又は3に記載のシャフト型熱分解炉の安定操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−120882(P2008−120882A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304304(P2006−304304)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】