説明

シリコンウェーハの研磨方法及び研磨装置

【課題】研磨布のドレッシング状態の変化によって生じる研磨速度の変化による研磨代のばらつきを抑制し、仕上がり厚さを高精度に制御できるシリコンウェーハの研磨方法及び研磨装置を提供する。
【解決手段】所定の研磨代となるように研磨時間を設定し、タンク内に貯蔵された研磨剤を研磨布に供給しながらシリコンウェーハを研磨布に摺接させて設定した研磨時間で研磨し、供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させながらシリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返すシリコンウェーハの研磨方法において、研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程と、所定の研磨代となるように研磨時間を設定する際に、データベースに記録された研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて研磨時間を設定する工程とを有するシリコンウェーハの研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤を供給しながらシリコンウェーハを研磨布に摺接させて研磨する研磨方法及び研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にシリコンウェーハの製造方法は、シリコンインゴットをスライスして薄円板状のウェーハを得るスライス工程と、該スライス工程によって得られたウェーハの割れ、欠けを防止するためにその外周部を面取りする面取り工程と、面取りされたウェーハを平坦化するラッピング工程と、面取り及びラッピングされたウェーハに残留する加工歪みを除去するエッチング工程と、エッチングされたウェーハの表面を鏡面化する研磨(ポリッシング)工程と、研磨されたウェーハを洗浄して、これに付着した研磨剤や異物を除去する洗浄工程を有している。
【0003】
以上は、主な工程のみを示したもので、他に熱処理工程や平面研削工程等が加わったり、工程の順番が入れ換えられたりする。また、同一の工程を複数回実施することもある。その後、検査等を行い、デバイス製造工程に送られ、シリコンウェーハの表面上に絶縁膜や金属配線を形成し、メモリー等のデバイスが製造される。
【0004】
上記研磨工程は、研磨剤を供給しながらシリコンウェーハを研磨布に摺接させることによって表面を鏡面化する工程である。シリコンウェーハの研磨工程では、通常、粗研磨から仕上げ研磨へと複数の段階を経て研磨が行われる。一般に、両面研磨により1次研磨を行い、次いで1次研磨で発生したキズなど除去し、表面粗さを改善するため、片面研磨により2次研磨、さらに仕上げ研磨が行われる。
【0005】
両面研磨は、キャリアの保持孔にウェーハを保持し、キャリアを研磨布が貼り付けされた上下定盤の間に挟んで配置し、研磨布に研磨剤を供給しながら、上下定盤をお互いに反対方向に回転させることによって、ウェーハの両面を研磨布に摺接させて同時に研磨する(例えば、特許文献1参照)。また、両面研磨においては、複数のウェーハを一度に同時に研磨し、これをバッチ式に繰り返す方式が採用されることが多い。片面研磨は、研磨ヘッドでシリコンウェーハを保持し、定盤に貼り付けられた研磨布上に研磨剤を供給するとともに、定盤と研磨ヘッドをそれぞれ回転させてシリコンウェーハの表面を研磨布に摺接させることにより研磨する(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
このようなシリコンウェーハの研磨加工において、目標の仕上がり厚さを得るために、研磨中に直接ウェーハの厚さを測定し、目標の厚さに達したところで研磨を終了させるように仕上がり厚さを制御するモニタリングシステムが開発され、実用化されている。ウェーハの厚さを直接測定する代わりに、ウェーハと同時に研磨することで、ウェーハ厚さに比例してその厚さが変化するチップをモニタリングしてウェーハの厚さを制御する方法もある。この際、ウェーハの厚さの測定には光干渉方式や、渦電流方式の測定装置が用いられる。
【0007】
しかし、前者は一般に高価であり、後者は高純度な環境には適さなかったり、前述のチップを用いたモニタリングシステムの自動化が複雑となってしまうという問題がある。また、ウェットな研磨環境などのように研磨中に厚さの測定が困難な場合や、研磨装置に厚さのモニタリングシステムが備わっていない場合もある。
そこで、このようなモニタリングシステムを用いない場合、各バッチで研磨速度が一定であると仮定して、研磨前の厚さと目標の仕上がり厚さの差、すなわち研磨代と一定の研磨速度から研磨時間を算出し、この研磨時間で研磨することで目標の研磨代を得る方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−34462号公報
【特許文献2】特開2008−93811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば研磨剤を調整するなどして、各バッチ間で研磨速度が一定になるように安定させて研磨する場合、目標の研磨代と一定の研磨速度から算出した研磨時間を設定して研磨することで、目標の仕上がり厚さが得られるはずである。
ところが、研磨バッチを繰り返していくと、研磨布の目つぶれや目詰まりが進み研磨力が低下するので、これを解消するために研磨布のドレッシングを定期的に行う必要がある。従って、各バッチ間で研磨布の状態の変化による研磨速度の差が生じ、特にドレッシングの前後のバッチ間で研磨速度の差が大きくなる。そのため、目標の研磨代からのずれが各バッチ間で大きくなり、仕上がり厚さにばらつきが発生するという問題が生じている。
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、研磨布のドレッシング状態の変化によって生じる研磨速度の変化による研磨代のばらつきを抑制し、仕上がり厚さを高精度に制御できるシリコンウェーハの研磨方法及び研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば、所定の研磨代となるように研磨時間を設定し、タンク内に貯蔵された研磨剤を定盤上に貼り付けられた研磨布に供給しながらシリコンウェーハを前記研磨布に摺接させて前記設定した研磨時間で研磨し、前記供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させながら前記シリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返し、一定のバッチ回数毎に前記研磨布をドレッシングするシリコンウェーハの研磨方法において、前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程と、前記所定の研磨代となるように前記研磨時間を設定する際に、前記データベースに記録された前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて前記研磨時間を設定する工程とを有することを特徴とするシリコンウェーハの研磨方法が提供される。
【0012】
このような研磨方法であれば、研磨布のドレッシング状態の変化によって生じる研磨代のばらつきを確実に抑制でき、仕上がり厚さを高精度に制御してウェーハを目標の厚さに研磨できる。
【0013】
このとき、前記研磨速度をデータベースに記録しておく工程において、前記研磨布をドレッシングした後の各バッチ、或いは所定のバッチ毎の前記研磨速度を記録しておくことができる。
このように各バッチの前記研磨速度を記録しておけば、より正確に研磨時間を設定でき、所定のバッチ毎の前記研磨速度を記録すれば、研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程の時間を削減できる。
【0014】
またこのとき、前記シリコンウェーハの研磨前、研磨中、又は研磨後に新研磨剤、アルカリ、及び水を前記タンク内に加えて前記研磨剤の組成が変化しないように調整することが好ましい。
このようにすれば、各バッチ間で研磨剤が起因のばらつきが減少して研磨速度がより安定するので、仕上がり厚さをより高精度に制御できる。
【0015】
また、本発明によれば、研磨布が貼り付けられた定盤と、シリコンウェーハを保持する保持手段と、タンク内に貯蔵された研磨剤を前記研磨布に供給し、該供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させる循環システムと、所定の研磨代となるように研磨時間を設定するための制御手段とを有し、前記循環システムで前記研磨剤を前記研磨布に供給しながら前記シリコンウェーハを前記研磨布に摺接させて前記制御手段で設定した研磨時間で研磨し、前記供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させながら前記シリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返す研磨装置において、さらに、前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく記録手段を有し、前記制御手段は、前記所定の研磨代となるように前記研磨時間を設定する際に、前記記録手段に記録された前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて前記研磨時間を設定するものであることを特徴とする研磨装置が提供される。
【0016】
このような研磨装置であれば、研磨布のドレッシング状態の変化によって生じる研磨代のばらつきを確実に抑制でき、仕上がり厚さを高精度に制御してウェーハを目標の厚さに研磨できるものとなる。
【0017】
このとき、前記記録手段を、前記研磨布をドレッシングした後の各バッチ、或いは所定のバッチ毎の前記研磨速度を記録するものとして構成できる。
このように各バッチの前記研磨速度を記録するものであれば、より正確に研磨時間を設定でき、所定のバッチ毎の前記研磨速度を記録するものであれば、研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程の時間を削減できる装置となる。
【0018】
またこのとき、前記シリコンウェーハの研磨前、研磨中、又は研磨後に新研磨剤、アルカリ、及び水を前記タンク内に加えて前記研磨剤の組成が変化しないように調整する機構を有することが好ましい。
このようなものであれば、各バッチ間で研磨剤が起因のばらつきが減少して研磨速度がより安定するので、仕上がり厚さをより高精度に制御できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、シリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返す研磨装置において、研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておき、この記録した研磨速度に基づいて研磨時間を設定するので、研磨布のドレッシング状態の変化によって生じる研磨代のばらつきを確実に抑制でき、仕上がり厚さを高精度に制御してウェーハを目標の厚さに研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】両面研磨する場合の本発明の研磨装置の一例を示す概略図である。(A)側面断面図。(B)上方から見た内部構造図。
【図2】片面研磨する場合の本発明の研磨装置の一例を示す概略図である。
【図3】研磨布のドレッシング状態の変化に対して研磨速度が変化する様子を説明する説明図である。
【図4】実施例1の結果を示す図である。
【図5】実施例2の結果を示す図である。
【図6】比較例の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
従来のシリコンウェーハの研磨において、目標の研磨代と一定の研磨速度から算出した研磨時間を設定して研磨することにより、目標の仕上がり厚さに制御する方法が用いられている。この方法では、例えば研磨剤を調整するなどして、各バッチ間で研磨速度を高度に安定させて研磨する場合においては、比較的精度良く目標の仕上がり厚さを得ることができる。
【0022】
しかし、研磨布のドレッシング状態によって研磨速度が変化することによって、目標の研磨代からのずれが各バッチ間で大きくなり、仕上がり厚さにばらつきが発生する。近年、仕上がり厚さの精度の要求が高まるにつれ、このばらつきが問題となってきており、例えば、仕上がり厚さのずれを0.5μm以下、さらには0.2μm以下にするといった、より高精度に仕上がり厚さを制御することが求められている。
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、研磨剤を調整するなどして各バッチ間で研磨速度を高度に安定させて研磨する場合、上記した研磨布のドレッシング状態に応じた研磨速度の変化に一定のパターンがあることを見出した。そして、その変化パターンを考慮に入れることにより、高精度に研磨速度を予測できることを想到し、本発明を完成させた。
【0023】
以下、本発明の研磨装置について説明する。まず、両面研磨を行う場合の研磨装置について図1を参照して説明する。
図1(A)(B)に示すように、研磨装置1は上下に相対向して設けられた上定盤2と下定盤3を備えており、上下定盤2、3には、それぞれ研磨布4が貼付されている。そして上下定盤2、3の間の中心部にはサンギヤ9が、周縁部にはインターナルギヤ10が設けられている。キャリア5にはシリコンウェーハWを保持するための保持孔6が設けられ、複数のキャリア5が上下定盤2、3の間に挟まれるようになっている。
【0024】
また、サンギヤ9及びインターナルギヤ10の各歯部にはキャリア5の外周歯が噛合しており、上下定盤2、3が上回転軸7、及び下回転軸8により所定の回転速度でそれぞれ回転されるのに伴い、それぞれのキャリア5は自転しつつサンギヤ9の周りを公転する。キャリア5の保持孔6に保持されたシリコンウェーハWは、上下の研磨布4と摺接されて両面が同時に研磨される。
【0025】
この際、タンク12内の研磨剤13をノズル11から研磨布4に供給する。供給された研磨剤13は、例えば、研磨中に一部が飛び散ったり、ミストとして排気されるなどにより回収できない分を除いて、定盤受け18に流れ落ちて配管(不図示)に集められた後、タンク12内に回収され、以降の研磨に用いられる。このように、研磨剤13は循環システム14によってタンク12と研磨布4(及び上下定盤2、3)との間を循環する。
また、研磨装置1は研磨前に、所定の研磨代となるように研磨時間を設定するための制御手段15を有している。この制御手段15は、循環システム14、上下回転軸7、8に接続されており、研磨が設定した研磨時間で行われるように研磨の開始と終了を制御する。
【0026】
また、研磨布4をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく記録手段17が設けられている。この記録手段17は制御手段15に接続され、制御手段15からデータベースに記録した研磨速度を参照できるようになっている。制御手段15は、所定の研磨代となるように研磨時間を設定する際に、データベースに記録された研磨布4をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて研磨時間を設定する。なお、記録手段と制御手段は、パーソナルコンピュータなどで構成することができる。
【0027】
このように構成された研磨装置1により、循環システム14で研磨剤13を研磨布4に供給しながらシリコンウェーハWを研磨布4に摺接させて制御手段15で設定した研磨時間で研磨する。そして、供給した研磨剤13をタンク12内に回収して循環させながらシリコンウェーハWの研磨をバッチ式に繰り返す。
このような研磨装置を用いれば、研磨布のドレッシング状態が変化することによって発生する研磨速度の変化による研磨代のばらつきを確実に抑制できる。その結果、仕上がり厚さを高精度に制御してウェーハを目標の厚さに研磨できる。
【0028】
このとき、記録手段17によって、研磨布4をドレッシングした後から次のドレッシングを行うまでの間の各バッチの研磨速度を記録するようにすれば、研磨布のドレッシング状態が変化することによって発生する研磨速度の変化をより精度良く研磨時間に反映でき、研磨代のばらつきをより確実に抑制できる。この場合の、制御手段15によって研磨時間を設定する際に用いる研磨速度をデータベースから求める具体的方法の一例を以下に説明する。
ここで、以下の式中の[D]はn回目のドレッシング後のm回目のバッチにおける研磨速度を示す。
【0029】
最も研磨速度の変化量が大きいドレッシング直後の1バッチ目は以下の式1で示すように、データベースに記録されているドレッシング直後の1バッチ目の研磨速度の平均値を用いる。

ドレッシング直後の1バッチ目以外のバッチでは、直前に行った研磨における研磨速度からの変化予測量をデータベースを参照することによって求め、その変化予測量を適用した研磨速度を用いる。具体的には、式2に示すように、差の平均から求めた変化予測量を用いて研磨速度を求める。或いは、式3に示すように、割合の平均から求めた変化予測量を用いて研磨速度を求める。


【0030】
記録手段が、上記したように、研磨布をドレッシングした後の各バッチの研磨速度を記録するのではなく、研磨布をドレッシングした後から次のドレッシングを行うまでの間、所定のバッチ毎の研磨速度を記録するものであっても良い。例えば、10バッチ毎にドレッシングする場合において、ドレッシング後の1バッチ目、3−5バッチ目のいずれか、6−7バッチ目のいずれか、8−10バッチ目のいずれかの研磨速度をデータベースに記録する。このように所定のバッチ毎の研磨速度のみを記録することでも、研磨速度の変化を十分精度良く研磨時間に反映して研磨代のばらつきを抑制しつつ、研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程の時間を削減できる。
【0031】
また、研磨速度以外にも、例えば、シリコンウェーハの厚さ、抵抗率、及び結晶軸や、スラリーライフなどを記録し、これらを状態変数化して研磨時間を設定することもできる。
また、研磨装置1は、シリコンウェーハWの研磨前、研磨中、又は研磨後の少なくともいずれかで新研磨剤、アルカリ、及び水をタンク12内に加えて研磨剤13の組成が変化しないように調整する機構16を有していることが好ましい。
この機構を用いて研磨中に研磨剤の組成が変化しないように調整することによって、各バッチ間で研磨剤の変化に起因したばらつきが抑制され、研磨速度がより安定して、研磨布のドレッシング状態に応じた研磨速度の変化の一定パターンの精度も高まるので、結果として仕上がり厚さをより高精度に制御できる。
【0032】
ここで、研磨布のドレッシング状態の変化に対して研磨速度が変化する様子を図3に示す。図3は、5バッチ、又は10バッチ毎にドレッシングを行った際の各バッチにおける研磨速度の変化を示したものである。尚、研磨速度は、最初のバッチにおける研磨速度を100%としたときの相対値で示されている。図3に示すように、ドレッシング後の研磨速度が相対的に周期性をもって変化していることが分かる。例えば、丸で囲んだ点はドレッシング直後の1バッチ目を示しており、ほぼ同じ研磨速度になっていることが分かる。
【0033】
次に、片面研磨を行う場合の研磨装置について図2を参照して説明する。
図2に示すように、研磨装置21は、研磨布24が貼り付けられた定盤23と、ノズル25と、研磨ヘッド22を有している。このような研磨装置21では、研磨ヘッド22でシリコンウェーハWを保持し、タンク12内の研磨剤13をノズル25を介して研磨布24上に供給するとともに、定盤23と研磨ヘッド22をそれぞれ回転させてワークWの表面を研磨布24に摺接させることにより研磨する。
【0034】
また、研磨装置21は、上記した両面研磨する研磨装置1と同様に、供給した研磨剤13を回収して循環させる循環システム14、所定の研磨代となるように研磨時間を設定するための制御手段15、研磨布24をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく記録手段17を有しており、制御手段15は、研磨装置1と同様に、データベースに記録された研磨布24をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて研磨時間を設定する。なお、供給された研磨剤13は、上記研磨装置1と同様に一部を除いて、定盤受け18に流れ落ちて配管(不図示)に集められた後、タンク12内に回収され、以降の研磨に用いられる。
【0035】
次に、本発明のシリコンウェーハの研磨方法について説明する。ここでは、図1に示すような本発明の研磨装置1を用いた場合について説明する。
まず、実験を行うなどして、図3に示したような研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を記録手段17により予めデータベースに記録する。
次に、制御装置15により、データベースに記録された研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて、研磨が所定の研磨代で行われるように研磨時間を設定する。ここで、研磨時間の設定時に用いる研磨速度は、上記した本発明の研磨装置1の説明で記載した方法によって決定することができる。
【0036】
次に、タンク12内に貯蔵された研磨剤13を定盤2、3上に貼り付けられた研磨布4に供給しながらシリコンウェーハWを研磨布4に摺接させて研磨する。この際、設定した研磨時間で研磨が終了するように制御装置15により制御する。そして、供給された研磨剤13をタンク12内に回収して循環させながらシリコンウェーハWの研磨をバッチ式に繰り返す。この研磨を繰り返す間、一定のバッチ回数毎に研磨布4をドレッシングする。
このような研磨方法であれば、研磨布のドレッシング状態が変化することによって発生する研磨速度の変化による研磨代のばらつきを確実に抑制できる。その結果、仕上がり厚さを高精度に制御してウェーハを目標の厚さに研磨できる。
【0037】
このとき、研磨後のシリコンウェーハの研磨代を測定し、その測定した研磨代と設定した研磨時間とで算出した研磨速度を、次回以降の研磨で使用するために、データベースに追加していくこともできる。このようにすれば、より高精度に研磨速度を予想できるようになる。
またこのとき、研磨速度をデータベースに記録しておく工程において、研磨布をドレッシングした後の各バッチ、或いは所定のバッチ毎の研磨速度を記録しておくことができる。
このように各バッチの研磨速度を記録しておけば、より正確に研磨時間を設定でき、所定のバッチ毎の研磨速度を記録すれば、研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程の時間を削減できる。
【0038】
またこのとき、シリコンウェーハの研磨前、研磨中、又は研磨後の少なくともいずれかで新研磨剤、アルカリ、及び水を前記タンク内に加えて研磨剤の組成が変化しないように調整することが好ましい。
このようにすれば、各バッチ間で研磨剤の変化に起因したばらつきが抑制され、研磨速度がより安定して、仕上がり厚さをより高精度に制御できる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
図1に示すような本発明の研磨装置を用い、本発明のシリコンウェーハの研磨方法に従って、直径300mmのシリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返した。ここで、1バッチ当たりの研磨枚数を5枚とした。また、エッチング済みのシリコンウェーハを、研磨前の厚さが793±2μm程度から777μmとなるように、すなわち、研磨代が16μm程度となるように研磨時間を設定し、研磨圧200g/cmで研磨した。また、研磨速度をデータベースに記録しておく工程において、研磨布をドレッシングした後の各バッチの研磨速度を記録しておいた。
【0041】
研磨後のシリコンウェーハの目標仕上がり厚さからのずれを評価した結果を図4に示す。図4に示すように、後述する比較例の結果と比べ、目標厚さからのずれが改善されており、0.5μm以下と非常に良好な結果が得られた。また、全体の80%以上のバッチにおいて目標の0.2μm以下のずれを達成できた。
このように、本発明により、研磨布のドレッシング状態の変化によって生じる研磨速度の変化による研磨代のばらつきを抑制し、仕上がり厚さを高精度に制御できることが確認できた。
【0042】
(実施例2)
研磨速度をデータベースに記録しておく工程において、研磨布をドレッシングした後の所定のバッチ毎の研磨速度を記録しておいた以外、実施例1と同様にしてシリコンウェーハを研磨し、同様に評価した。ここで、ドレッシングした後の1、3、6、8バッチ目における研磨速度を予めデータベースに記録しておいた。
その結果を図5に示す。図5に示すように、実施例1の結果と比べ、目標厚さからのずれが若干大きくなるが、後述する比較例の結果と比べ、改善されていることが分かった。実施例2では、全体の70%程度のバッチにおいて目標の0.2μm以下のずれを達成できた。
【0043】
(比較例)
本発明の記録手段、制御手段を有さない従来の研磨装置を用い、研磨速度をデータベースに記録せず、研磨時間を直前に測定した研磨速度を用いて設定した以外、実施例1と同様な条件でシリコンウェーハを研磨し、実施例1と同様に評価した。
その結果を図6に示す。図6に示すように、実施例1、2に比べ、目標厚さからのずれが大幅に悪化していることが分かった。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0045】
1、21…研磨装置、 2…上定盤、 3…下定盤、 4…研磨布、
5…キャリア、 6…保持孔、 7…上回転軸、 8…下回転軸、
9…サンギア、 10…インターナルギア、 11、25…ノズル、
12…タンク、 13…研磨剤、 14…循環システム、 15…制御手段、
16…研磨剤調整機構、 17…記録手段、 18…定盤受け、
22…研磨ヘッド、 23…定盤、 24…研磨布、 W…シリコンウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の研磨代となるように研磨時間を設定し、タンク内に貯蔵された研磨剤を定盤上に貼り付けられた研磨布に供給しながらシリコンウェーハを前記研磨布に摺接させて前記設定した研磨時間で研磨し、前記供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させながら前記シリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返し、一定のバッチ回数毎に前記研磨布をドレッシングするシリコンウェーハの研磨方法において、
前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく工程と、
前記所定の研磨代となるように前記研磨時間を設定する際に、前記データベースに記録された前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて前記研磨時間を設定する工程とを有することを特徴とするシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項2】
前記研磨速度をデータベースに記録しておく工程において、前記研磨布をドレッシングした後の各バッチ、或いは所定のバッチ毎の前記研磨速度を記録しておくことを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項3】
前記シリコンウェーハの研磨前、研磨中、又は研磨後に新研磨剤、アルカリ、及び水を前記タンク内に加えて前記研磨剤の組成が変化しないように調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコンウェーハの研磨方法。
【請求項4】
研磨布が貼り付けられた定盤と、シリコンウェーハを保持する保持手段と、タンク内に貯蔵された研磨剤を前記研磨布に供給し、該供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させる循環システムと、所定の研磨代となるように研磨時間を設定するための制御手段とを有し、前記循環システムで前記研磨剤を前記研磨布に供給しながら前記シリコンウェーハを前記研磨布に摺接させて前記制御手段で設定した研磨時間で研磨し、前記供給した研磨剤を前記タンク内に回収して循環させながら前記シリコンウェーハの研磨をバッチ式に繰り返す研磨装置において、
さらに、前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度を予めデータベースに記録しておく記録手段を有し、
前記制御手段は、前記所定の研磨代となるように前記研磨時間を設定する際に、前記記録手段に記録された前記研磨布をドレッシングした後のバッチ回数の増加に伴って変化する研磨速度に基づいて前記研磨時間を設定するものであることを特徴とする研磨装置。
【請求項5】
前記記録手段は、前記研磨布をドレッシングした後の各バッチ、或いは所定のバッチ毎の前記研磨速度を記録するものであることを特徴とする請求項4に記載の研磨装置。
【請求項6】
前記シリコンウェーハの研磨前、研磨中、又は研磨後に新研磨剤、アルカリ、及び水を前記タンク内に加えて前記研磨剤の組成が変化しないように調整する機構を有することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の研磨装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−55143(P2013−55143A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190951(P2011−190951)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】