説明

シリンダボアの研削加工装置

【課題】研削工具の構造や加工時の制御の複雑化を抑制しつつ、シリンダボアの内周面を任意の非真円形状に成形可能なシリンダボアの研削加工装置を提供する。
【解決手段】移動制御部39は、所定の経路に従って研削工具29を移動させ、回転制御部38は、研削工具29を回転させ、温度制御部41は、研削工具29へ流入する前の研削液の温度を、所定の経路における研削工具29の位置に対応して予め設定された目標温度に近づけるように制御し、研削作用面部56がシリンダボア43の内周面43aと接触することにより、シリンダボア43の内周面43aを研削する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダボアの内周面を非真円形状に成形するシリンダボアの研削加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、外周部分に砥石を備えたホーニング工具をシリンダボア内に挿入し回転駆動する際に、砥石を微小移動させてシリンダボアの内周面に対する砥石の押付圧を変化させることにより、シリンダボアの内周面を非真円形状に成形するシリンダボアの研削加工装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4193086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、ホーニング工具を回転駆動する際に、砥石を微小移動させる必要があるため、ホーニング工具の構造や加工時の制御が複雑となる。
【0005】
そこで、本発明は、研削工具の構造や加工時の制御の複雑化を抑制しつつ、シリンダボアの内周面を任意の非真円形状に成形することが可能なシリンダボアの研削加工装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく、本発明のシリンダボアの研削加工装置は、最終加工前のシリンダボアの内周面を非真円形状に加工するシリンダボアの研削加工装置であり、研削工具と工具制御手段と研削液と温度検出手段と研削液供給手段と温度制御手段とを備える。
【0007】
研削工具は、工具本体と研削作用面部と内部流路とを有する。工具本体は、回転軸を中心とした外周面を有する。研削作用面部は、工具本体の外周面上で砥粒を保持する。内部流路は、回転軸側の流入口から研削作用面部側の流出口まで工具本体の内部を巡回する。研削工具は、回転軸を中心とした回転時に研削作用面部がシリンダボアの内周面に接触することによってシリンダボアの内周面を研削する。工具制御手段は、シリンダボアの中心軸を中心とした仮想円周面上に設定された所定経路に従って研削工具を移動させるとともに、回転軸を中心として研削工具を回転させる。研削液は、研削工具の流入口へ流入し内部流路を流通して流出口から流出し、研削作用面部とシリンダボアの内周面との接触部分に供給される。研削液供給手段は、研削液の温度を変更して研削工具の流入口へ研削液を供給する。温度検出手段は、研削工具の流入口へ流入する前の研削液の温度を検出する。温度制御手段は、研削液供給手段を制御して、温度検出手段が検出する温度を、所定の経路における研削工具の位置に対応して予め設定された目標温度に近づける。
【0008】
上記構成では、研削工具の回転時に、研削液は、研削工具の流入口から流入し内部流路を流通して流出口から流出し、研削作用面部とシリンダボアの内周面との接触部分に供給され、研削作用面部は、シリンダボアの内周面に接触することによってシリンダボアの内周面を研削する。研削液供給手段は、研削工具の流入口へ研削液を供給し、内部流路は、回転軸側の流入口から研削作用面部側の流出口まで工具本体の内部を巡回する。また、工具制御手段は、シリンダボアの中心軸を中心とした仮想円周面上に設定された所定の経路に従って研削工具を移動させるとともに、研削工具を回転させ、温度制御手段は、研削液供給手段を制御して、研削工具の流入口へ流入する前の研削液の温度を、所定の経路における研削工具の位置に対応して予め設定された目標温度に近づける。すなわち、研削液は、所定経路における研削工具の位置に対応して、その温度が変更された状態で工具本体の内部を巡回し、研削作用面部とシリンダボアの内周面との接触部分に供給される。これにより、所定経路における研削工具の位置に対応して、研削液が流通した内部流路近傍の工具本体が膨張又は収縮し、工具本体の径が変化し、研削作用面部は工具本体の径の変化に応じてシリンダボアの内周面を研削する。すなわち、研削液の温度を変更して、工具本体の膨張量を任意に制御することによって、単純な円運動を行う加工機(加工装置)を用いて、シリンダボアの内周面を所望の非真円形状に加工することができる。従って、研削工具の構造や加工時の制御の複雑化を抑制しつつ、工具本体の熱膨張を利用してシリンダボアの内周面を任意の非真円形状に加工することができる。
【0009】
また、研削液供給手段は、研削液を低温及び低圧で貯留する第1タンクと、研削液を高温及び高圧で貯留する第2タンクと、第1タンクと研削工具の流入口とを連通して第1タンクの研削液を研削工具の流入口へ供給する第1管路と、第2タンクと第1管路とを連通して第1管路を流通する研削液に対して第2タンクの研削液を混入する第2管路と、第2管路を開閉する制御バルブと、を有してもよく、温度制御手段は、温度検出手段が検出する温度が目標温度に近づくように制御バルブを開閉制御してもよい。
【0010】
上記構成では、第1管路は低温で第1タンクに貯留される研削液を研削工具の流入口へ供給し、第2管路は第1管路を流通する研削液に対して高温で第2タンクに貯留される研削液を混入するため、単体のタンクに貯留される研削液の温度を変更する場合に比べ、迅速に研削液の温度を変更することができる。
【0011】
また、予め第2タンクに高圧で貯留された高温の研削液を、第1管路を流通する低温低圧の研削液に対して混入させるので、低温の研削液に高温の研削液をポンプによって加圧して混入する必要がなく、ポンプを駆動させるモータの発熱の影響を回避することができ、研削工具の流入口へ供給される研削液の温度を容易に管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施形態のシリンダボア研削加工装置の外観図である。
【図2】シリンダボア研削加工装置のブロック構成図である。
【図3】図1の工具ユニットの断面図である。
【図4】研削工具を示す図であり、(a)は(b)のIVa-IVa矢視断面図、(b)は(a)のIVb-IVb矢視断面図である。
【図5】図4の内部流路と異なる形状の内部流路を有する研削工具を示す図であり、(a)は(b)のVa-Va矢視断面図、(b)は(a)のVb-Vb矢視断面図である。
【図6】工具ユニットの下側部分の要部断面図である。
【図7】開閉制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は本実施形態のシリンダボア研削加工装置の外観図、図2はシリンダボア研削加工装置のブロック構成図である。なお、以下の説明における上下方向は、図1における上下方向に対応する。
【0015】
図1及び図2に示すように、シリンダボア研削加工装置1は、研削液供給システム2と工具ユニット3とモータ25と移動機構32とを備える。
【0016】
図3に示すように、工具ユニット3は、スピンドルシャフト23と軸継手(カップリング)24とメカニカルシール28と研削工具29と押さえ具30とを有し、研削工具29の研削作用面部56がシリンダボア43の内周面43aに接触することによって最終加工前のシリンダボア43の内周面43aを研削する。
【0017】
シリンダボア43は、シリンダブロックに形成され、所定の内径の内周面43aを有する。
【0018】
スピンドルシャフト23の上端部65は、ベアリング26を介して移動機構32の取付部32aに回転自在に支持される。スピンドルシャフト23は、軸継手24を介して接続されるモータ25によって回転駆動される。スピンドルシャフト23の下端部66は、研削工具29へ研削液を供給するスピンドルスルークーラント27を一体的に有する。スピンドルスルークーラント27には、押さえ具30が螺合する雌ネジ27aが形成されている。
【0019】
スピンドルシャフト23の内部には、その外周面から回転軸47に向かって延びる通液孔54と、その上端から下端へ回転軸47に沿って貫通する貫通孔53とが形成されている。貫通孔53の上部領域53aは、下部領域53bよりも僅かに大きい内径を有する。この上部領域53aの下端には、上部領域53aと下部領域53bとを遮蔽するシール44が固定され、下部領域53bを流通する研削液の上部領域53aへの流出はシール44によって阻止される。
【0020】
メカニカルシール28は、内側の回転環(図示省略)と外側の固定環(図示省略)とを有し、回転環と固定環とは相対回転する。また、メカニカルシール28は、通液孔54を覆うようにスピンドルシャフト23に取り付けられ、スピンドルシャフト23の回転に伴う研削液の漏れを防ぐ。メカニカルシール28の外周面には、取付穴49が形成されている。取付穴49には、研削液供給システム2の第1管路11の一端部11aが取り付けられ、取付穴49を介して、第1管路11と通液孔54とが連通する。
【0021】
研削工具29は、図4に示すように、工具本体55と研削作用面部56と内部流路57とを有し、スピンドルシャフト23の回転とともに回転する。
【0022】
工具本体55は、金属製で且つ回転軸47を中心とする円板状の台金58と、台金58の上面及び下面を覆い台金に固定される上下のカバー59とを有する。台金58の径D1はカバー59の径D2よりも大きく設定され、台金58の外周面はカバー59の外縁より外側に位置する。工具本体55の中心部には、工具本体55の上下面を貫通する挿通孔60が形成されている。挿通孔60は、スピンドルシャフト23の貫通孔53の内径とほぼ同じ径を有する。台金58の上面及び下面には、工具本体55の内周面から外周面に向かってほぼ等間隔であり、回転軸47を中心として渦巻状である溝62が形成されている。台金58の上面及び下面の溝62の上方及び下方は上下のカバー59により閉止され、溝62とカバー59とによって内部流路57が区画される。溝62の内側の端部は、挿通孔60と内部流路57とを連通し、挿通孔60から研削液が流入する内部流路57の流入口45となる。また、台金58のうちカバー59の外縁より外側の部分はその上面及び下面が開放され、溝62のうちカバー59の外縁よりも外側で開放された外周部分は、研削液が流出する内部流路57の流出口46となる。なお、台金58の上面及び下面の溝62は、工具本体55の内周面から外周面に向かって、広範囲に形成されていればよく、渦巻状に限定されない。例えば、図5に示すように、内周面から外周面に向かってほぼ等間隔であり回転軸47を中心とする複数の同心円状の溝63と、径方向に隣接する溝63同士を内周側から外周側に向かって互い違いに連通する溝67とから成る形状でもよい。また、後述するように台金58に形成された溝62を流通する研削液の温度を変更することによって、台金58を膨張及び収縮させてシリンダボア43の内周面43aを所望の形状に研削するため、熱膨張係数が比較的高い金属製の台金58を用いることが好ましく、例えばアルミニウム合金やステンレス鋼が好適に用いられる。
【0023】
研削作用面部56は、砥粒を保持するリング状の部材であり、工具本体55の外径とほぼ同径の内周面を有する。研削作用面部56の内周面は、工具本体55の外周面に接着される。研削作用面部56は、その外周面が回転しながらシリンダボア43の内周面43aと接触することによってシリンダボア43の内周面43aを研削する。なお、研削作用面部56の外周面に流出口46を形成し、研削作用面部56の外周面から研削液を流出させてもよい。
【0024】
図6に示すように、押さえ具30は、面部50と軸部51とを一体的に有する。軸部51は、面部50の上面から上方へ延び、その外周面には、スピンドンルスルークーラント27の雌ネジ27aと螺合する雄ネジ51aが形成されている。軸部51の内部には、断面U状の空洞部52が形成されている。軸部51の下端部には、研削工具29の流入口45へ研削液を供給する供給穴48が形成されている。
【0025】
スピンドルシャフト23の下端面と研削工具29の上面とを接触させ、押さえ具30の軸部51が挿通孔60を挿通した状態で、押さえ具30の雄ネジ51aがスピンドルスルークーラント27の雌ネジ27aに螺合し、押さえ具30を締め付けることにより、研削工具29はスピンドルシャフト23と押さえ具30とに挟まれて支持される。なお、本実施形態では、研削工具29をスピンドルシャフト23に直接取り付けているが、例えば、荒加工と仕上げ加工等の複数の工程を行う等によって研削工具29の交換が必要な場合、フェイスミルアーバ等を介して、研削工具29をスピンドルシャフト23に取り付けてもよい。
【0026】
研削液供給システム2は、室温タンク(第1タンク)5と高温タンク(第2タンク)6と第1管路11と第2管路12と貯留槽4と第3管路10と温度センサ9とリリーフ弁15と圧力制御弁16、17と逆止弁18、19と流量制御弁20、21と電磁弁22とを有する。
【0027】
貯留槽4は所定量の研削液を貯留し、貯留槽4に貯留される研削液の温度は熱源64によって所定の室温に調整される。第3管路10は、貯留槽4と室温タンク5及び高温タンク6とを連通し、室温タンク5及び高温タンク6へ貯留槽4内の研削液を供給する。室温タンク5及び高温タンク6へ供給される研削液は、モータ14により駆動するポンプ13で加圧される。第3管路10には、リリーフ弁15が設けられ、室温タンク5及び高温タンク6が研削液で満たされた場合、第3管路10を流通する研削液を貯留槽4へ戻す。
【0028】
室温タンク5に供給された研削液は、圧力制御弁16によって所定の内圧(低圧)で貯留される。第1管路11は、室温タンク5と工具ユニット3とを連通し、室温タンク5に貯留される研削液を工具ユニット3へ供給する。第1管路11には流量制御弁20が設けられ、室温タンク5から流出する研削液の流量が所定値に設定される。第1管路11には逆止弁18を設けられ、第1管路11を流通する研削液の逆流を防ぐ。第1管路11のうち、第1管路11と第2管路12との接続点から一端部11aまでの部分には、温度センサ9が設けられる。
【0029】
高温タンク6に供給された研削液は、圧力制御弁17によって室温タンク5よりも高い内圧(高圧)で貯留され、その温度はヒータ7及び温度センサ8によって所定の室温よりも数十度高い温度に調整される。第2管路12は、高温タンク6と第1管路11とを連通し、第1管路11を流通する研削液に対して、高温タンク6に貯留される研削液を混入する。
【0030】
第2管路12には流量制御弁21が設けられ、高温タンク6から流出する研削液の流量が所定値に設定される。また、第2管路12には逆止弁19が設けられ、第2管路12を流通する研削液の逆流を防ぐ。さらに、第2管路12には、電磁弁22が設けられ、電磁弁22が開いたとき、高温タンク6に貯留される研削液は第2管路12を流通する。従って、電磁弁22は、第2管路12を開閉する制御バルブとして機能する。なお、流量制御弁19と電磁弁22とに代え、第2管路12にサーボバルブを設け、サーボバルブの開度を調整してもよい。さらに、流量制御弁18、19と電磁弁22とに代え、第2管路12と第1管路11との接続点において、2液混合バルブを設け、第1管路11を流通する研削液に対し、第2管路12を流通する研削液の混入を制御してもよい。また、第1管路11又は第2管路12を流通し、工具ユニット3に供給される研削液の温度は、可能な限り低下させないことが好ましく、高温タンク6、第1管路11及び第2管路12は断熱されていることが好ましい。
【0031】
次に、シリンダボア研削加工装置1の温度センサ9と電磁弁22とモータ25と入力部31と移動機構32と表示装置33と情報処理装置34について説明する。
【0032】
情報処理装置34は、CPU(Central Processing Unit)35と記憶部42とを有する。情報処理装置34は、汎用のパーソナルコンピュータであってもよく、専用の装置であってもよい。
【0033】
記憶部42は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などによって構成され、CPU35が各種処理を実行するための各種プログラムや各種データが記憶されている。各種プログラムには、CPU35が経路情報設定処理を実行するための経路情報設定プログラム、工具制御処理を実行するための工具制御プログラム及び開閉制御処理を実行するための開閉制御プログラムが含まれる。経路情報設定プログラムには、工具制御処理及び開閉制御処理で用いられる経路情報記憶テーブルが含まれる。経路情報設定プログラム、工具制御プログラム及び開閉制御プログラムは、各種CDメディア(Compact Disc Media)などの外部の記憶媒体から読み出されて記憶部42に記憶されてもよく、インターネットなどのネットワークを介して取得されて記憶部42に記憶されてもよい。また、経路情報記憶テーブルは、上記各プログラムとは別に記憶部42に記憶されてもよい。
【0034】
経路情報設定処理、工具制御処理及び開閉制御処理を実行するCPU35は、経路情報設定部36、画像制御部37、回転制御部38、移動制御部39、温度検出部40及び温度制御部41として機能する。なお、CPU35の機能の一部を抽出して他の情報処理装置に設けてもよい。
【0035】
入力部31は、例えば操作ボタンやキーボードなどであり、作業者からの入力操作を受ける。作業者が入力部31に対して入力操作を行うと、これに対応した操作信号が入力部31から情報処理装置34へ入力する。経路条件設定処理は、工具制御処理の開始前の作業者からの所定の入力操作により実行される。工具制御処理は、作業者が入力部31に対して所定の入力操作を行うことにより実行される。
【0036】
経路情報設定処理において、画像制御部37は、所定の経路における研削工具29の位置情報及びその位置情報に対応する研削液の目標温度の設定入力を求める要求画面を表示装置33に表示させる。作業者は、所定の経路における研削工具29の位置情報及びその位置情報に対応する研削液の目標温度を、入力部31から入力することにより、所定の経路における研削工具29の位置情報及びその位置情報に対応する研削液の目標温度の設定を行う。経路条件設定部36は、入力された所定の経路における研削工具29の位置情報及びその位置情報に対応する研削液の目標温度を、記憶部42の経路情報記憶テーブルに記憶する。
【0037】
工具制御処理において、回転制御部38は、モータ25によってスピンドルシャフト23を回転させる。従って、回転制御部38は、研削工具29を支持するスピンドルシャフト23を回転軸47を中心として回転させる工具制御手段として機能する。
【0038】
移動制御部39は、記憶部42に記憶された研削工具29の位置情報を読み取り、移動機構32を制御して、所定の経路に従ってスピンドルシャフト23を所定速度で移動させる。従って、移動制御部39は、研削工具29が支持されるスピンドルシャフト23を、所定の経路に沿って移動させる工具制御手段として機能する。
【0039】
開閉制御処理において、温度検出部40は、温度センサ9からの検出信号に基づいて、第1管路11を流通する研削液の温度を、所定時間毎に検出する。従って、温度検出部40は、研削工具29の流入口45へ流入する前の研削液の温度を検出する温度検出手段として機能する。
【0040】
温度制御部41は、移動制御部39が読み出した研削工具29の位置情報に対応する研削液の目標温度を経路情報記憶テーブルから読み出し、温度検出部40が検出した温度と読み出した目標温度とを比較し、その差分に応じた所定時間だけ電磁弁22を開く。所定時間は、室温タンク5内及び高温タンク6内の研削液の温度と圧力と流量制御弁20、21によって設定される流量と温度検出部40が検出した温度と読み出した目標温度との関係によって、予め設定される。従って、温度制御部41は、温度検出部40が検出する温度が、所定の経路における研削工具29の位置に対応して予め設定された目標温度に近づくように電磁弁22の開閉を制御する温度制御手段として機能する。なお、温度制御部41は、温度検出部40が検出した温度と読み出した目標温度とを比較し、その差分に応じて電磁弁22の開度を制御してもよい。
【0041】
次に、本実施形態のシリンダボア研削加工装置1の動作について説明する。なお、図1、図3、図4、図5及び図6における矢印は、研削液の流れる方向を示す。
【0042】
貯留槽4に貯留される研削液は、ポンプ13により加圧され、第3管路10を流通し、室温タンク5又は高温タンク6へ供給される。室温タンク5に貯留される研削液は、第1管路11を流通し、メカニカルシール28を介して、通液孔54及び貫通孔53の下部領域53bを流通し、研削工具29へ供給される。研削工具29へ供給された研削液は、流入口45から流入し、内部流路57を流通し、流出口46から流出する。研削作用面部56がシリンダボア43の内周面43aと接触した状態において、流出した研削液はその接触部分に供給され、研削工具29はシリンダボア43の内周面43aを研削する。
【0043】
また、高温タンク6に貯留される研削液は、電磁弁22が開いたとき、第2管路12を流通する。また、第2管路12を流通する高圧の研削液は、第1管路11を流通する低圧の研削液に対し混入する。第2管路12を流通する研削液の温度は、第1管路11を流通する研削液の温度よりも高いため、第1管路11を流通する研削液の温度が上昇する。これに伴い、内部流路57を流通する研削液の温度が上昇し、研削工具29が膨張する。この研削工具29の膨張に応じて、シリンダボア43の内周面43aが研削される。
【0044】
研削工具29が支持されるスピンドルシャフト23は、移動機構32によって、所定の経路に沿って移動する。所定の経路は、シリンダボア43の中心軸61からシリンダボア43の半径よりも小さい所定距離に仮想的に設定される仮想円周面上で螺旋を描くように設定される。
【0045】
電磁弁22は、所定の経路における研削工具29の位置情報に対応する研削液の目標温度に応じて、所定時間だけ開き、高温タンク6内の研削液を第2管路12に流通させる。使用時のシリンダボア43の内周面43aは、シリンダボア43を有するシリンダブロックへのシリンダヘッドの締め付けやエンジン燃焼等によって非真円形状に変形する。このため、本実施形態による加工後のシリンダボア43の内周面43aの形状は、上記変形が相殺されて使用時の内周面43aが真円形状となるように上記非真円形状の反転形状に設定される。設定された形状に応じて、研削液の目標温度が設定される。
【0046】
次に、情報処理装置34のCPU35が実行する開閉制御処理について、図7を参照して説明する。図7は開閉制御処理のフローチャートである。開閉制御処理は、移動制御部39が記憶部42に記憶された研削工具29の位置情報を読み取る毎に開始される。
【0047】
開閉制御処理が開始されると、温度制御部41は、移動制御部39が読み出した研削工具29の位置情報に対応する研削液の目標温度を読み出す(ステップS1)。
【0048】
次に、温度検出部40は、温度センサ9からの信号に基づいて、第1管路11を流通する研削液の温度を検出する(ステップS2)。
【0049】
次に、温度制御部41は、温度検出部40が検出した温度と読み出した目標温度とを比較し、その差分に応じた所定時間だけ電磁弁22を開く(ステップS3)。所定時間経過後、CPU35は本処理を終了する。
【0050】
なお、ステップS3の処理を実行した後、温度検出部40は再度第1管路11を流通する研削液の温度を検出し、温度制御部41は、温度検出部40が再度検出した温度と読み出した目標温度とを比較し、その差分に応じた所定時間だけ電磁弁22を開いてもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、研削工具29の回転時に、室温タンク5内の低温低圧の研削液は、第1管路11を流通し、研削工具29へ供給され、流入口45から流入し、渦巻き状の溝62とカバー59とによって区画された内部流路57を流通し、流出口46から流出する。研削作用面部56がシリンダボア43の内周面43aと接触した状態において、流出した研削液はその接触部分に供給され、研削工具29はシリンダボア43の内周面43aを研削する。回転制御部38は研削工具29が支持されるスピンドルシャフト23を回転させ、移動制御部39はスピンドルシャフト23を所定の経路に沿って移動させ、温度制御部41は温度検出部40が検出する温度が所定の経路における研削工具29の位置に対応して予め設定された目標温度に近づくように電磁弁22の開閉を制御する。電磁弁22が開いたとき、高温タンク6内の高温高圧の研削液は第1管路11を流通する低温低圧の研削液に対し混入し、第1管路11を流通する研削液の温度を上昇させる。これにより、温度上昇した研削液が、研削工具29へ供給される。すなわち、所定の経路における研削工具29の位置に対応して、内部流路57を流通する研削液の温度が上昇し、研削工具29が膨張し、シリンダボア43の内周面43aが研削される。従って、研削工具29の構造や加工時の制御の複雑化を抑制しつつ、工具本体55の熱膨張を利用して、シリンダボア43の内周面43aを任意の非真円形状に加工することができる。
【0052】
また、研削液は、その温度が上昇した状態で研削工具29へ供給され、内部流路57を流通するため、台金58の温度が上昇し、台金58は膨張する。従って、台金58には、カバー59とによって内部流路57を区画する溝62が形成されていればよく、特別な構造を設ける必要はない。
【0053】
また、第1管路11は室温タンク5に貯留されている低温の研削液を研削工具29の流入口45へ供給し、第2管路12は第1管路11を流通する研削液に対して高温タンク6に貯留されている高温の研削液を混入するため、単体のタンクに貯留されている研削液の温度を変更する場合に比べ、迅速に研削液の温度を変更することができる。
【0054】
また、予め高温タンク6に高圧で貯留された高温の研削液を、第1管路11を流通する低温低圧の研削液に対して混入させるので、低温の研削液に高温の研削液をポンプによって加圧して混入する必要がなく、ポンプを駆動させるモータの発熱の影響を回避することができ、研削工具29の流入口45へ供給される研削液の温度を容易に管理することができる。
【0055】
また、第1管路11及び第2管路12には、流量制御弁20、21が設けられ、室温タンク5及び高温タンク6から流出する研削液の流量が所定値に設定される。室温タンク5及び高温タンク6を流出する研削液の流量を所望の値に設定できるため、研削工具29の流入口45へ供給される研削液の温度を容易に管理することができる。
【0056】
また、メカニカルシール28を、スピンドルシャフト23の通液孔54を覆うように取り付け、研削工具29の近傍において、第1管路11を流通する研削液を工具3へ供給するため、スピンドルシャフト23の回転に伴うモータ25及びベアリング26の発熱の影響を回避することができ、研削工具29の流入口45へ供給される研削液の温度を容易に管理することができる。
【0057】
また、研削工具29の交換の際にフェイスミルアーバ等を用いる場合、マシニングセンタ等の熱源を有する装置を用いる場合に比べ、装置が作動した際の発熱の影響を回避でき、研削工具29の流入口45へ供給される研削液の温度を容易に管理することができる。
【0058】
また、内部流路57は、工具本体55の内周面から外周面に向かってほぼ等間隔であり広範囲に形成されている溝62とカバー59とによって区画されるため、内部流路57を流通する研削液は、工具本体55の内周面から外周面に向かって、工具本体55の内部のほぼ全体を流通する。よって、工具本体55は、放射状に膨張又は収縮することができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、単体のシリンダボア43に対する研削加工について説明したが、複数のシリンダボア43に対して、本発明にかかるシリンダボア研削加工装置1により研削加工をすることが可能である。この場合、第1管路11及び第2管路12をシリンダボア43の数だけ分岐させ、各々の第1管路11は室温タンク5と各々の工具ユニット3とを連通し、各々の第2管路12は高温タンク6といずれかの第1管路を連通すればよい。また、シリンダボア43毎の加工後の変形を考慮した非真円形状に応じて、所定経路における研削工具29の位置情報に対応する研削液の目標温度を予め設定すればよい。
【0060】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、最終加工前のシリンダボアの内周面を非真円形状に加工するシリンダボアの研削加工装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 シリンダボア研削加工装置
2 研削液供給システム
3 工具ユニット
5 室温タンク(第1タンク)
6 高温タンク(第2タンク)
8、9 温度センサ
11 第1管路
12 第2管路
16、17 圧力制御弁
22 電磁弁
23 スピンドルシャフト
27 スピンドルスルークーラント
29 研削工具
34 情報処理装置
38 回転制御部(工具制御手段)
39 移動制御部(工具制御手段)
40 温度検出部(温度検出手段)
41 温度制御部(温度制御手段)
43 シリンダボア
47 回転軸
55 工具本体
56 研削作用面部
57 内部流路
61 中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終加工前のシリンダボアの内周面を非真円形状に加工するシリンダボアの研削加工装置であって、
回転軸を中心とした外周面を有する工具本体と、該工具本体の外周面上で砥粒を保持する研削作用面部と、前記回転軸側の流入口から前記研削作用面部側の流出口まで前記工具本体の内部を巡回する内部流路と、を有し、前記回転軸を中心とした回転時に前記研削作用面部が前記シリンダボアの内周面に接触することによって該シリンダボアの内周面を研削する研削工具と、
前記シリンダボアの中心軸を中心とした仮想円周面上に設定された所定の経路に従って前記研削工具を移動させるとともに、前記回転軸を中心として前記研削工具を回転させる工具制御手段と、
前記研削工具の前記流入口へ流入し前記内部流路を流通して前記流出口から流出し、前記研削作用面部と前記シリンダボアの内周面との接触部分に供給される研削液と、
研削液の温度を変更して前記研削工具の流入口へ研削液を供給する研削液供給手段と、
前記研削工具の流入口へ流入する前の研削液の温度を検出する温度検出手段と、
前記研削液供給手段を制御して、前記温度検出手段が検出する温度を、前記所定の経路における前記研削工具の位置に対応して予め設定された目標温度に近づける温度制御手段と、を備えた
ことを特徴とするシリンダボアの研削加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダボアの研削加工装置であって、
前記研削液供給手段は、研削液を低温及び低圧で貯留する第1タンクと、研削液を高温及び高圧で貯留する第2タンクと、前記第1タンクと前記研削工具の流入口とを連通して前記第1タンクの研削液を前記切削工具の前記流入口へ供給する第1管路と、前記第2タンクと前記第1管路とを連通して該第1管路を流通する研削液に対して前記第2タンクの研削液を混入する第2管路と、前記第2管路を開閉する制御バルブと、を有し、
前記温度制御手段は、前記温度検出手段が検出する温度が前記目標温度に近づくように、前記制御バルブを開閉制御する
ことを特徴とするシリンダボアの研削加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−224719(P2011−224719A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96721(P2010−96721)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】