説明

シリンダ装置

【課題】シリンダ装置において、組付け時の作業性を向上し、生産性を向上する。
【解決手段】シリンダ部材3にピストンロッド2が連結されたピストン12を嵌装し、コイルスプリング27でクラッチ部材24を介してピストンロッド2を付勢する。コイルスプリング27は、クラッチ部材24と、スプリングガイド6とで支持する構成である。スプリングガイド6に形成される通路6kの通路面積S1をピストン12の連通路14の通路面積S2よりも大としたので、組付け時にスプリングガイド6による流路抵抗を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダ装置に関し、例えば扉の開閉の補助器具として使用するのに適するシリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作動油が充填されたシリンダ部材の内部に、ロッドと共に移動するピストンと緩衝作用を為すためのばねを支持するスプリングガイドと、を備えるシリンダ装置の検討が為されている。このようなタイプのシリンダ装置の一例は、特許文献1に記載されており、その使用目的の一つが開き戸の開閉の補助器具である。
【0003】
開き戸の補助器具としてシリンダ装置を使用する場合に、扉の開あるいは閉に対してばね力あるいは減衰力を単純に利用するようにしても良いし、またより高機能に開き戸の開き角度に基づいてばね力あるいは減衰力の大きさ、すなわち作用状態を変えるようにしても良い。一つの例として、扉の閉動作状態で、扉が完全に閉鎖される手前の第1角度範囲において、扉が閉まる速度が抑えられるように上記シリンダ装置が動作し、また扉の開動作状態で、扉が完全な開状態手前の第2角度範囲において、扉がゆっくりと開くように上記シリンダ装置が動作するようにしても良い。なお、この様に高機能に動作するシリンダ装置の一例が上記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−299453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作動油が充填されたシリンダ部材の内部に、ロッドに固定されて移動するピストンと緩衝作用を為すためのばねを支持するスプリングガイドと、を備えるシリンダ装置が、上述の特許文献1に記載されているように、提案されている。しかし、このような構造のシリンダ装置の提案は大変少なく、また提案されたシリンダ装置についてもこの生産性に係る問題点の検討にまで至っていない。
【0006】
本特許出願の発明者達は、量産化に向けての課題について検討し、試作なども行った。その結果、更なる課題を幾つか明確にでき、その解決案を見つけ出した。生産性向上の課題の一つは次のとおりである。シリンダ装置のシリンダ部材の内部へのピストンやスプリングガイドの組み付けに関し、上記シリンダ部材には作動油が充填されており、作動油が充填されたシリンダ部材の内部にロッドに予め組みつけられた上記ピストン、スプリングガイドが挿入されることとなる。この場合に作動油に対する挿入物の流体抵抗が大きくなると、組み付け作業において生産性向上の妨げになることが分かった。
【0007】
本発明の目的は、生産性を向上できるシリンダ装置の提供である。なお、以下に説明する実施の形態では上記課題だけでなくそれ以外にもシリンダ装置の製品化あるいは生産性向上、その他、に係る課題を解決しており、これらについては以下で具体的に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために本発明では、上記スプリングガイドの形状に改良を加えており、上記スプリングガイドの挿入時に作動油に対する流体抵抗が小さくなるように、上記スプリングガイドの形状が決められている。上記ピストンの作動油に対する流体抵抗はシリンダ装置の減衰特性に影響を及ぼし、良好な特性を得る観点からピストンの流体抵抗が定められる。このため上記ピストンの流体抵抗を、良好な特性を得るためとは異なる課題のために変更することはできるだけ避けることが望ましい。一方上記スプリングガイドの作動油に対する流体抵抗はその値を小さくしてもシリンダ装置の特性に悪影響を与える可能性が少ない。従って上記スプリングガイドの作動油に対する流体抵抗をより小さくすることで上述の課題である生産性の改善を図ることができる。なお、上述のとおり、上記ピストンはシリンダ装置の特性の関係から流体抵抗を有しており、このピストンの作動油に対する流体抵抗を考慮して上記スプリングガイドの作動油に対する流体抵抗を定めることで効果的な改善が可能となる。以下の実施の形態では、上記スプリングガイドの作動油に対する流体抵抗を、少なくとも上記ピストンの作動油に対する流体抵抗より小さくするように、上記スプリングガイドの形状を定めている。すなわち上記ピストンによって分けられる2つの室をつなぐ通路となる、上記ピストンを介する通路の開口面積より、上記スプリングガイドによって分けられる2つの室をつなぐ通路となる上記スプリングガイドを介する通路の開口面積が大きくなるように上記スプリングガイドが作られている。このことにより生産性の改善が図られる。なお、ここで上記ピストンあるいは上記スプリングガイドを介する通路とは、上記ピストンあるいは上記スプリングガイドの内部に形成された通路だけでなく、上記ピストンあるいは上記スプリングガイドによって分けられる両側の室をつなぐ通路の全体を意味している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によればシリンダ装置の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係るシリンダ装置の縦断面図である。
【図2】図1のシリンダ装置のスプリングガイドの端面図である。
【図3】図2のスプリングガイドのA−A縦断面図である。
【図4A】図1のシリンダ装置のうち、フリーピストンが組みつけられたシリンダ部材の断面図である。
【図4B】図1のシリンダ装置のうち、ピストンロッドに一体的に組みつけられたピストン、スプリングガイド等の縦断面図である。
【図5】図1のシリンダ装置のスプリングガイド部分の拡大縦段面図である。
【図6】図1のシリンダ装置のクラッチ部材部分の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の実施の形態に記載のシリンダ装置は製品化あるいは量産化に関係する色々な課題を解決しており、上記発明が解決しようとする課題の欄や本発明の目的、発明の効果の欄の記載内容だけでなく、これら記載の内容を含め、これら記載の内容以外の課題をも解決している。本発明の実施の形態の説明の前に、以下の実施の形態で解決される課題および解決策の主なものについて列挙する。
〔生産性の向上〕
作動油が充填されたシリンダ部材3内にスプリングガイド6が挿入され、固定される、組み立て工程で、スプリングガイド6が作動油の流れを阻止する作用をするため、スプリングガイド6を速やかに挿入できない問題が生じる。
【0012】
上記スプリングガイド6の一方の側から上記スプリングガイド6の反対の側へ作動油を流すための通路の流体抵抗が大きいためであり、以下に示す説明の実施の形態では、上記スプリングガイド6を介して両側を繋ぐ通路の断面積を大きくしており、これにより作動油が移動するための流体抵抗を小さくしている。特に以下に示す実施の形態では、ピストン12を介する通路の流体抵抗より、上記スプリングガイド6を介する通路の流体抵抗の方が小さくなるように上記スプリングガイド6が作られている。これにより作動油が充填されたシリンダ部材3へのスプリングガイド6の挿入がよりスムーズとなり、生産性が改善される。
【0013】
ピストン12によって分けられる両側の室を繋ぐための上記ピストン12を介する通路の流体抵抗は、シリンダ装置1の減衰特性に大きな影響を与え、上記ピストン12を介する通路の流体抵抗は良好な特性を得るとの観点で定められる。一方上記スプリングガイド6の流体抵抗は、その値を小さくしてもシリンダ装置1の特性に悪影響を及ぼさない。このため作動油が充填されたシリンダ部材3へスプリングガイド6を挿入する際の流体抵抗が小さくなるように上記スプリングガイド6の形状を定め、これにより生産性の向上を図っている。
【0014】
他の観点として、上記スプリングガイド6のシリンダ部材3への固定を上記スプリングガイド6の外周側で行っている。上記スプリングガイド6の外周を上記シリンダ部材3の内周面に密着されると共に、上記シリンダ部材3をその外周側からかしめることにより上記スプリングガイド6を固定している。このような構造により、上記シリンダ部材3の固定作業を上記シリンダ部材3の外から行うことができ、作業が容易であり、生産性が向上する。また、上記スプリングガイド6の外周側を上記シリンダ部材3の内周にほとんど隙間がない状態で密着させる構造とすることにより、上記スプリングガイド6の内周側とピストンロッドとの間に隙間を作ることが可能となり、上述した流体抵抗を低減することが可能となる。
【0015】
さらに他の観点として、以下の実施の形態では、上記スプリングガイド6を粉末冶金による製法で生産している。詳述すると鉄系などの粉末状の金属を、金型を使用してプレス加工することにより上記スプリングガイド6を生産している。上記スプリングガイド6は後述するコイルばね27を保持するための構造を備えると共に、上記シリンダ部材3に固定するためのくぼみ6eを有している。上記スプリングガイド6を粉末冶金による製法で生産しているので、複雑な形状を比較的容易に形成できる。
〔静寂化の改善〕
以下の実施の形態では、弾性材で作られたOリング21、22がガイドスリープ17Aに形成される周方向溝19,20に設けられている。このためクラッチ機構により生じた音の外部への伝達が低減され、望ましい静寂性が維持される。
【0016】
また他の観点で、ガスダンパ室10のガス圧は、高いと扉を動作する際のフィーリングが悪くなり、低いとスイッシュ音が発生するという背反の関係の中、試作を行う中で望ましいガス圧範囲を見出した。これにより望ましい静寂性が維持される。なお、以下の実施の形態では適正なガス圧は2気圧から5気圧の間である。
〔信頼性の向上〕
以下の実施の形態では、クラッチ部材24のばね受部28を備えており、該ばね受部は先端部の外径が狭くなるテーパ形状を為しており、これによりコイルばね27を構成する線材の干渉を低減できる。異音の発生も低減できる。
【0017】
さらに他の観点で、スプリングガイド6は、ばねの外周を維持する保持部6Bとガイド部6Cとを有しており、コイルばねを構成する線材を適切に保持でき、さらにコイルばねを構成する線材の干渉を低減できる。異音の発生も低減できる。
〔コスト低減〕
以下の実施の形態では、ばね受部28を備えるクラッチ部材24を樹脂材で形成でき、安価となる。ばね受部28を備えるクラッチ部材24はボール26を保持するものであり、クラッチ部材24には大きな力が加わらない構造となっているため、金属材ではなく樹脂材とすることができる。





以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係るシリンダ装置を図1に示す。シリンダ装置1は、ピストンロッド2に反発力を付与するように構成されており、底部33を有する略円筒状のシリンダ部材3を備え、その開口端部には、ロッドガイド4が設けられている。ロッドガイド4は、内周部に円筒状で内周面にフッ素樹脂がコーティングされたガイドブッシュ4Aが圧入されており、ピストンロッド2を摺動可能に支持する機能を備える。前記ロッドガイド4は、シリンダ部材3の開口端部に挿入され、さらに前記開口端部をかしめることにより固定されている。前記ロッドガイド4の前記ピストンロッド2の移動軸に沿う内側には、前記シリンダ部材3の内部と外部との間をシールするための、ゴム製で内部に金属環が埋め込まれたオイルシール5が装着されている。
【0018】
前記シリンダ部材3にはスプリングガイド6が固定されている。本実施の形態では、前記スプリングガイド6は、シリンダ部材3の内周面に嵌合し、シリンダ部材3の側壁を内側にかしめることによって前記シリンダ部材3に固定されている。なお、本実施の形態では周方向3箇所でかしめる構成としているが、全周に亘ってかしめる構成としてもよい。
【0019】
前記スプリングガイド6の底部側7には作動油が充填されたオイルダンパ室11が設けられ、前記オイルダンパ室11にはピストン12が設けられている。前記ピストン12は前記ピストンロッド2の端部に固定され、前記ピストン12の外周面は前記シリンダ部材3の内周面を摺動する。前記ピストン12の外周にはシール手段としてのOリング13が装着され、前記ピストン12の前記外周と前記シリンダ部材3の内周面との間を通って漏洩する作動油をほとんどなくする作用を為す。このことにより、前記ピストン12によって分けられる両側の室の間を行き来する作動油は前記ピストン12に形成された連通路14を介して移動することとなり、前記ピストン12によるダンパ(減衰)特性を良好に維持できる。
【0020】
前記ピストン12の底部側にはフリーピストン9が設けられ、シリンダ部材3とフリーピストン9と底部33とにより形成されるガスダンパ室10には2気圧〜5気圧程度の窒素ガスが封入されている。このガスの圧力は低いとシリンダ装置1の動作中にスイッシュ音が発生しやすくなる。また前記ガスの圧力が高いと、扉の静止可能な範囲を十分に確保することが困難となったり、扉を開閉する際のフィーリングが悪化したりする。従って望ましくは、一般的な室内扉のシリンダ装置1や扉等の取付側のフリクションより小さい力となる、上述の圧力範囲とすることが望ましい。また、封入するガスは窒素ガス以外でもよく、例えば大気を導入してもよい。この場合、ピストンロッド2の最大伸長時に大気をガスダンパ室10に導入し、ピストンロッド2が縮むときにガスダンパ室10の圧力が高くなるようにすることもできる。あるいは、ガスダンパ室10の圧力は低くなるがガスダンパ室10を大気開放としてもよい。この場合、大気開放する孔には、異物の侵入を防止するフィルタを設けることが望ましい。
【0021】
図1あるいは図5に記載のピストン12において、上記ピストン12によって分けられたオイルダンパ室のロッド側室11Aと底部側室11Bとを連通させる連通路14が軸方向に沿って形成されており、上記連通路14には、減衰力発生機構15を形成する弁体が設けられている。すなわち減衰力発生機構15は、ピストン12のロッド側室11Aの側の端面に取付けられて連通路14を開閉するディスク状の2枚の弁体からなり、ピストン12側の弁体には外径に複数の切欠が形成され、ロッド側室11A側となる弁体には切欠や穴など設けていない。また、何れの弁体も外径はピストン12に形成される連通路14を塞ぐような大きさとしている。そして、ロッド側室11A側となる弁体は、ピストン12側の切欠を有する弁体をピストン12に向けて押付けるためのバネ力を与える構成としている。これにより、通常は連通路14を閉じて、底部側室11Bからロッド側室11Aへの作動液の流通のみを許容する逆止弁として機能する。但し、前記ピストン12側の弁体には外径に複数の切欠は、常時連通しており、この切欠の有効面積分は、常時双方向の作動液の流通が可能である。
【0022】
スプリングガイド6の開口側8には、ピストンロッド2にばね力を付与するばね機構16が設けられている。ばね機構16の構成については以下で説明する。スプリングガイド6の開口側8には円筒状のガイドスリーブ17が挿入され、ガイドスリーブ17の両端部はオイルシール5及びスプリングガイド6に当接して軸方向に固定されている。ガイドスリーブ17の途中には、その内周側に溝18が形成されており、この溝18は後述するクラッチ作用を為すために使用される、この溝18を以下、内周クラッチ溝18と記す。ガイドスリーブ17は、内周クラッチ溝18の加工性を考慮して、内周クラッチ溝18のスプリングガイド6側の端部で軸方向に2分割されて第1ガイドスリーブ17A及び第2ガイドスリーブ17Bから構成される。オイルシール5側の第1ガイドスリーブ17Aに内周クラッチ溝18となる凹部が形成されている。本実施の形態では、第1ガイドスリーブ17Aを金属製とし、第2ガイドスリーブ17Bは合成樹脂により構成している。なお、第1ガイドスリーブ17Aは、強度上、金属製が望ましいが、軽量化のためには、強化された合成樹脂を用いてもよい。第2ガイドスリーブ17Bは以下に記載のボール26が摺動することが無いので合成樹脂を用いても強度的に問題が無い。むしろ上述のように合成樹脂を用いることで軽量化やコスト低減、静寂性の低減の観点から大きなメリットがある。
【0023】
第1及び第2ガイドスリーブ17A、17Bは、外径がシリンダ部材3の内径よりも僅かに小さく、第1ガイドスリーブ17Aの両端部付近には外周溝19、20が形成され、外周溝19、20には、それぞれOリング21、22が嵌合されている。これにより、第1ガイドスリーブ17Aは、スプリングガイドの開口側8に位置するシリンダ部材3の内周面との間に僅かな隙間を有し、Oリング21、22を介して弾性的に支持されている。これにより後述するクラッチ手段が発する音を軽減できる。なお、第2ガイドスリーブ17Bは合成樹脂で構成しているため、Oリングを不要とすることができる。第1、第2ガイドスリーブ17A、17Bは上述した材料の組み合わせが望ましいが、何れも金属製としてもよい。
【0024】
ピストンロッド2には、ガイドスリーブ17に対向して外周側に溝である外周クラッチ溝23が形成されている。内周クラッチ溝18と外周クラッチ溝23とは、深さがほぼ等しく以下で説明のボール26の半径より小さく、ボール26が上述の内周クラッチ溝18に移動することにより、上記外周クラッチ溝23から外れるように作られている。このため、この外周クラッチ溝23の深さがボール26の半径より大きいと上記外周クラッチ溝23から外れにくくなる。また、上記外周クラッチ溝23はクラッチがスムーズに動作するように、ピストンロッドの移動軸方向の両端部にテーパ状の傾斜が形成されている。
【0025】
ガイドスリーブ17とピストンロッド2との間には、円筒状のクラッチ部材24が軸方向に沿って摺動可能に設けられている。図6に記載のように、クラッチ部材24の側壁には、放射状で等間隔に配置された複数のボール孔25が貫通されている。それぞれのボール孔25には、カム部材となる転動体である例えば鋼球のボール26が、クラッチ部材24の径方向に沿ってボール孔25内を移動可能に挿入されている。ボール26の直径は、ボール孔25の直径とほぼ等しく、また、クラッチ部材24の肉厚と内周クラッチ溝18の深さの和にほぼ等しくなっている。これにより、ボール26は、クラッチ部材24がガイドスリーブ17とピストンロッド2との間に挿入された状態では、必ず、ピストンロッド2の外周クラッチ溝23に係合した状態(図1参照)又はガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18に係合した状態となる。ボール26の保持部材であるクラッチ部材24と、ボール26とにより、ピストンロッド2に係脱するクラッチ手段を構成している。すなわちガイドスリーブ17に形成された内周クラッチ溝18にボール26が位置する状態では、ピストンロッド2とクラッチ部材24とは互いに開放状態となり、クラッチ部材24の内側をピストンロッドが移動する。一方ガイドスリーブ17に形成された内周クラッチ溝18から脱出した状態では、クラッチ部材24とピストンロッド2とがボール26により固定され、クラッチ部材24とピストンロッド2とは一体に移動する。またクラッチ部材24に作用するばね力がクラッチ部材24とボール26とを介してピストンロッド2に作用する。
【0026】
スプリングガイド6とクラッチ部材24との間には、ばね手段であるコイルばね27(圧縮ばね)が介装されて、そのばね力によってクラッチ部材24を常時オイルシール5側へ向かって付勢している。クラッチ部材24の一端部には、円筒状のばね受部28が同心上に一体的に形成されており、コイルばね27の一端部がばね受部28の外周に嵌合されてクラッチ部材24に結合されている。また、スプリングガイド6の開口側8には、円筒状のばね受部6Bが同心上に一体的に形成されており、コイルばね27の他端部がばね受部6Bに嵌合されてスプリングガイド6に結合されている。このようにばね受部28、6Bにより、コイルばね27の両端部を位置決めするので、コイルばね27を円滑に伸縮させることができる。また、クラッチ部材24のばね受部28の先端部は、テーパ状に形成されており、コイルばね27が伸縮したとき、コイルばね27を構成する線材がばね受部28に干渉しないようにしている。これにより、コイルばね27を確実に位置決めしつつ、線材の干渉による異音の発生を防止することができる。
【0027】
次に、スプリングガイド6について図3、5を用いて詳述する。スプリングガイド6の開口側8には、ばね受部6B、該ばね受部6Bから連続して延びるテーパ部6Cが形成される。ばね受部6Bはコイルばね27の端を拘束するため、コイルばね27の外径よりも僅かに径の大きいストレート形状としている。これにより、コイルばね27が伸縮する際、コイルばね27の端をガイドすることができる。また、テーパ部6Cはコイルばね27が伸縮する際の案内部として機能する。よって、コイルばね27の伸縮動作を円滑に行うことができ、異音の発生を防止する。
【0028】
スプリングガイド6の外周側にはシリンダ部材3の内周面と嵌合する嵌合部6f、嵌合部6fよりも外径が小径である小径部6e、該小径部6eと嵌合部6fとを繋ぎシリンダ部材3のかしめ部分と当接する段部としてのかしめ当接部6gが形成される。嵌合部6fと比して小径部6eの軸方向長さを長くしているので、シリンダ部材3の外側から小径部6eに向けてかしめる際、それぞれの部材の公差を吸収し、確実に小径部6eに向けてかしめることができる。また、かしめ当接部6gと嵌合部6fとによりシリンダ部材3に対し、スプリングガイド6を固定することができる。
【0029】
スプリングガイド6の底部側7には、ピストン12と当接するピストン当接部6iと、該ピストン当接部6iの内周側であって、スプリングガイド6の開口側8に窪む窪み部6hが形成されている。窪み部6hは、減衰力発生機構15としての弁体を収納する収納部として機能する。
【0030】
次に、スプリングガイド6に形成する通路6kについて図2を用いて詳述する。スプリングガイド6の内周は、ロッドガイド4の内周径よりも僅かに大径とした円弧部6dと、該円弧部6dから径方向外方に突出する複数の突出部6aからなり、円弧部6dと突出部6aと、ピストンロッド2との間の隙間で、スプリングガイド6の底部側7とスプリングガイド6の開口側8とを連通する通路6kを形成している。円弧部6dの径は、コイルばね27の径よりも小さく、ロッドガイド4の内周径よりも大きくしている。これにより、コイルばね27の支持は確実に行うことで信頼性を向上し、かつロッドガイド4とスプリングガイド6との同心度を高くする必要がないため、製造性を向上することができる。そして、通路6kによる通路面積S1を、ピストン12の連通路14による通路面積S2よりも大きくなるように突出部6aの形状、数を決めている。このように、S1>S2としたことにより、組付け時にピストン12、スプリングガイド6をピストンロッド2に一体にした状態で作動液が封入されたシリンダ部材3内に挿入した際、スプリングガイド6部分での作動液の流通抵抗を小さくすることができ、組付け時間を短縮することができる。
【0031】
ここで、シリンダ装置1の組付け手順について図4A、図4Bを用いて詳述する。まず、シリンダ部材3に、フリーピストン9を挿入する。その際、フリーピストン9には予め外周側の溝にOリングを嵌めておく。次に、シリンダ部材3に作動油を注入する。その後、図4Bに示す、ピストンロッド2に対し、ピストン12、スプリングガイド6、ばね機構16、オイルシール5、ロッドガイド4などが一体に取り付けられたピストンロッドアッシー50を、作動油が注入されたシリンダ部材3に挿入する。次に、シリンダ部材3の開口端をロッドガイド4の外周に向けてかしめ、その後、シリンダ部材3の軸方向途中側の位置を、スプリングガイド6の小径部6eに向けてかしめ加工する。
【0032】
シリンダ部材3の底部33及びピストンロッド2の突出側の先端部には、それぞれシリンダ装置1をリンク結合するための取付部30、31が取付けられており、これらの取付部30、31の形状は、扉等の被取付部材に合わせた形状とすることができる。
【0033】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。シリンダ装置1は、シリンダ部材3側の取付部30を図示せぬ戸枠側に固定されたブラケットに回動可能にピン結合し、ピストンロッド2側の取付部31を図示せぬ扉側に固定されたブラケットに回動可能にピン結合して開き戸に装着し、扉の開閉を補助する扉開閉装置として使用することができる。このとき、ピストンロッド2は、扉が閉位置又は全開位置にあるとき、伸長長さが最大となり、中間位置にあるとき、伸長長さが最小となり、この位置では、開き戸のヒンジがシリンダ装置1の軸線の延長線上にある。
【0034】
扉が中間位置から開閉方向に所定範囲内にある場合、ピストンロッド2のシリンダ部材3からの突出長さは、最小位置から所定の範囲にある。このとき、ピストンロッド2の外周クラッチ溝23がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18に対してスプリングガイド6側にある。この状態では、クラッチ部材24のボール孔25に挿入されたボール26は、ガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18に係合し、ピストンロッド2の外周面に当接して径方向内側への移動が規制されて、クラッチ部材24をガイドスリーブ17に対して軸方向に固定すると共に、ピストンロッド2の軸方向の移動を許容する。これにより、コイルばね27のばね力は、ボール26によってガイドスリーブ17に対して軸方向に固定されたクラッチ部材24によって支持されることになり、ピストンロッド2には作用しない。この範囲をフリー区間という。
【0035】
一方、ピストンロッド2の伸縮に対して、ピストン12が移動して、オイルダンパ室11内の作動液が連通路14を流通することにより、減衰力発生機構15によって減衰力が作用する。このとき、ピストンロッド2の伸び行程時には、連通路14のロッド側室11A側から底部側室11B側への作動液の流れに対して、減衰力発生機構15がオリフィスとして機能して所定の減衰力を発生する。また、縮み行程時には、減衰力発生機構15が連通路14の底部側室11B側からロッド側室11A側への作動液の流れを許容して、減衰力が小さくなる。
【0036】
前述のフリー区間では、ピストンロッド2の伸縮に対して、コイルばね27のばね力は作用せず、主にピストン12の移動による減衰力のみが作用する。このフリー区間ではシリンダ部材3に対するピストンロッド2の位置が第1の範囲にある。また、オイルダンパ室11内の容積変化によってガスダンパ室10内のガスが圧縮、膨張するが、ガスダンパ室10内は低圧であるため、この圧力はピストンロッド2の伸縮に殆ど影響しない。このように、フリー区間では、殆ど抵抗を生じることなくピストンロッド2を自由に伸縮させることができるので、扉を自由に開閉両方向に移動させることができる。
【0037】
扉をフリー区間を越えて閉位置又は全開位置付近まで移動させると、図1に示すように、ピストンロッド2が伸長して、その外周クラッチ溝23がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18を越えてオイルシール5側へ移動する。この区間ではシリンダ部材3に対するピストンロッド2の位置が第2の範囲にある。このとき、ピストンロッド2のシリンダ部材3からの突出長さが所定長さに達して、ピストンロッド2の外周クラッチ溝23がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18を通過する際、内周クラッチ溝18に係合してクラッチ部材24をガイドスリーブ17に固定していたボール26がピストンロッド2の外周クラッチ溝23に係合し、クラッチ部材24は、ガイドスリーブ17に対する軸方向の固定が解除されると共に、ピストンロッド2に対して軸方向に固定される。これにより、コイルばね27のばね力がクラッチ部材24を介してピストンロッド2に作用して、ピストンロッド2を伸長方向に付勢する。その結果、扉は、閉位置付近にある場合、閉位置まで自動的に移動し、また、全開位置付近にある場合、全開位置まで自動的に移動して保持されることになる。このような区間を付勢区間という。
【0038】
この付勢区間では、ピストンロッド2の伸長に対して、減衰力発生機構15が前述のようにオリフィスとして機能して所定の減衰力を発生させるので、扉の移動速度を適度に減速することができ、扉の開閉時の衝撃及び騒音を軽減することができる。
【0039】
ピストンロッド2のシリンダ部材3からの突出長さが所定長さとなって上述のフリー区間と付勢区間とが切換る際、ボール26がガイドスリーブ17の内周クラッチ溝18又はピストンロッド23の外周クラッチ溝23に係合することによって、いくらかの打音が発生することになる。これに対して、ガイドスリーブ17A、17Bは、Oリング21、22、またガイドスリーブ17B自体によって弾性的に支持され、シリンダ部材3に直接接触していないので、シリンダ部材3に伝達される打音を低減して騒音の発生を抑制することができる。
【0040】
なお、上記実施形態において、ボール26の代わりに、内周クラッチ溝18及び外周クラッチ溝23に係合することにより、クラッチ部材24をガイドスリーブ17又はピストンロッド2に選択的に固定できるものであれば、ローラ等の他の転動体、あるいは、転動せずに摺動するカム部材を用いてもよい。
【0041】
上記実施形態で示したように、円弧部6dと突出部6aと、ピストンロッド2との間の隙間で形成される通路6kによる通路面積S1を、ピストン12の連通路14による通路面積S2よりも大きくなるようにしたことにより、組付け時にピストン12、スプリングガイド6をピストンロッド2に一体にした状態で作動液が封入されたシリンダ部材3内に挿入した際、スプリングガイド6部分での作動液の流通抵抗を小さくすることができ、組付け時間を短縮することができる。よって、生産性の向上を図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態では、通路6kを円弧部6d、円弧部6dに連なって形成される突出部6aとピストンロッド2との間の隙間で形成したが、これに限らず、円弧部6dは全周同径とし、円弧部6dに連なって形成される突出部6aに替えて、スプリングガイド6のコイルばね27支持面6mから窪み部6hに向けて、スプリングガイド6の底部側7とスプリングガイド6の開口側8とを連通する連通孔開けるようにしてもよい。その場合、連通孔をパンチなどで形成する。本実施の形態に示す形状の場合は、型成形が可能なため、より生産性を向上することができる。
【0043】
なお、上記実施形態では、作動液の流れる流路面積を絞ることによって減衰力を得ているが、いわゆる摩擦ダンパのように、ピストンとシリンダ部材の間の摩擦によって減衰力を得てもよく、減衰力を発生できる構造であれば、他の構造であってもよい。但し、作動流体として油液を用いることで、最も安定した減衰力を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンダ装置、2 ピストンロッド、3 シリンダ部材、6 スプリングガイド 12 ピストン、17 ガイドスリーブ、16 ばね機構、18 内周クラッチ溝、21、22 Oリング(弾性部材)23 外周クラッチ溝、24 クラッチ部材(保持部材)、26 ボール(カム部材)、27 コイルスプリング(ばね手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油が充填された筒状のシリンダ部材と、
前記シリンダ部材に対して軸方向に移動可能に支持され、前記シリンダ部材の内部に設けられたロッドと、
前記ロッドに設けられ、その両側に一方と他方の部屋を形成するピストンと、
前記ピストンの一方の部屋において前記ロッドが貫通するようにして設けられ、前記シリンダ部材に固定されるスプリングガイドと、
前記ピストンの一方の部屋において前記ロッドが貫通するように設けられ、前記シリンダ部材に対する前記ロッドの位置が第1の範囲で前記ロッドに固定され、第2の範囲で開放されるクラッチ機構と、
前記スプリングガイドと前記クラッチ機構との間に設けられたばねと、を備え、
前記スプリングガイドは、そのスプリングガイドを介して移動する前記作動油の流体抵抗が、前記ピストンを介して移動する前記作動油の流体抵抗より小さくなるように形成されていることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダ装置において、
前記スプリングガイドは、その両側の面を繋ぐように前記スプリングガイドに形成された全開口面積が、前記ピストンの両側の面を繋ぐように形成された全開口面積より大きいことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に記載のシリンダ装置において、
前記スプリングガイドは、その外周と前記シリンダ部材の内周面との間の隙間より、その内周と前記ロッドとの間の隙間の方が大きい形状をなしていることを特長とするシリンダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のうちの一に記載のシリンダ装置において、
前記スプリングガイドは、その外周が径の大きい第1の部分と前記第1の部分より径の小さい第2の部分を有し、
前記第1の部分と前記第2の部分との間の段部で前記スプリングガイドが前記シリンダ部材に固定され、前記第1の部分は前記ばねと接する側であることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のシリンダ装置において、
前記スプリングガイドは、前記ばねと接する側に前記ばねを受けるための凹部が形成され、前記凹部の外周面はロッドの軸に沿った面とそれに続く徐々に径が拡大する面とを備えていることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項6】
前記ロッド、前記ピストン、前記スプリングガイド、前記クラッチ機構、前記ばねは一体的に組みつけられる組み立て体であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のシリンダ装置。
【請求項7】
作動油が封入されたシリンダ部材と、
該シリンダ部材内を2室に画成するピストンと、
該ピストンに連結されたロッドと、
該ロッドの外周に設けられるばね機構と、
該ばね機構と前記ピストンの間に配され、前記ばね機構を支持するスプリングガイドとからなり、
前記ロッドに前記ピストン、前記スプリングガイド、前記ばね機構を一体的に組付けた後に作動油が封入されたシリンダ部材に挿入されるものであって、
前記ピストンには前記2室を連通するピストン連通路が形成され、
前記スプリングガイドは、そのスプリングガイドを介して移動する前記作動油の流体抵抗が、前記ピストンを介して移動する前記作動油の流体抵抗より小さくなるように形成されていることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項8】
前記ばね機構は、
前記ロッドの外周部に設けられた外周クラッチ溝と、
前記外周クラッチ溝に対向して前記シリンダ部材の内側に設けられた内周クラッチ溝と、
前記外周クラッチ溝と係合して前記ロッドに対して軸方向に固定されると共に、前記シリンダ部材に対して軸方向に移動可能となり、
前記内周クラッチ溝と係合して前記シリンダ部材に対して軸方向に固定されると共に、前記ロッドに対して軸方向に移動可能となるクラッチ手段と、
前記クラッチ手段を付勢するばね手段と、からなることを特徴とする請求項7に記載のシリンダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−31626(P2012−31626A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171482(P2010−171482)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】