説明

シワの処理におけるマンガンの用途

【課題】シワやコジワの低減に有用な薬剤並びにシワやコジワの美容処理方法を提供する。
【解決手段】有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有せしめて、皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化及び/又は弛緩のための薬剤とし、これを皮膚に局所的に適用する。好ましくはマンガン塩は有機マンガン塩で、グルコン酸マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、クエン酸マンガン、オレイン酸マンガン及び蓚酸マンガンから選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効量のマンガン又はその塩類の、組成物中又は組成物の調製における使用に関し、該マンガン又は組成物が皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化(slacken)及び/又は弛緩(relax)すること、特に皮膚のシワ及びコジワを処理することを意図したものである。
【背景技術】
【0002】
できるだけ若く見られたいと願い、よって特にシワやコジワに反映される皮膚の加齢の特徴を消し去りたいと願うのが女性の今の傾向であり、また男性の傾向ですらある。この点で、メディアやファッション界は、若い肌の徴であり、身体の外観が精神及び/又はモラルに作用するので、なおさらそうである、輝きがあってシワのない皮膚を可能な限り長い間保つための製品をレポートしている。
【0003】
従来、シワ及びコジワは、皮膚に作用する活性剤を含有する化粧品で、例えば保湿したり、その細胞再生を改善したり、あるいは皮膚組織を構成するコラーゲンの合成を促進させることにより処理されていた。しかし、現時点では、皮膚に存在する収縮エレメントに作用させることによりシワにどのように効果があるかさだかではない。
しかして、顔の皮膚の筋肉は、顔面神経の運動神経求心性のコントロール下にあり、さらに皮下組織の小葉間中隔が、横紋筋組織(皮筋層)を構成する線維をその内部に含むことが知られている。さらに、筋線維芽細胞として知られている真皮線維芽細胞の亜集団が筋組織に共通する収縮特性を有していることも知られている。
【0004】
カルシウムは筋収縮の最終メッセンジャーである。収縮-弛緩周期は、収縮細胞中の10−8〜10−5Mの細胞質カルシウム濃度の変動による。
休止している筋肉では、遊離カルシウムの細胞内濃度は10−8Mより少ないままであるが、細胞外濃度は10000倍高く、電気化学的電位勾配で表される力により、カルシウムが細胞内に入る傾向がある。この休止状態は、細胞膜のカルシウムに対する低浸透性と、カルシウムを封鎖するかカルシウムを細胞から駆逐する様々なメカニズムの活性とがあるためである。しかして、種々の細胞質タンパク質、特にパルブアルブミンが、カルシウムと結合する能力を有している。細胞内オルガネラのなかで、小胞体が、生理学的調節と適合性のある条件下でカルシウムを蓄積し放出することができる。
【0005】
筋細胞の細胞質中のカルシウム量が増加すると収縮機構が活性化される。細胞内区画内へのカルシウムの流入(脱分極)は、外部と内部の電位差を減少させる役割を担い、よって細胞をより興奮しやすくする。
特に、縦細管(筋小胞体)に伝播する横行小管の脱分極(細胞膜の陥入)により、これらの縦細管による細胞内カルシウムの瞬間的放出が誘発される。カルシウムの存在下で、横紋筋の収縮性タンパク質が、収縮に必要なエネルギーを提供するATPアーゼ活性を示す。
逆に、ATPが収縮性タンパク質と結合すると、横紋筋の弛緩が見られる。ついで細胞内カルシウムが細胞内区画に再び入り、その濃度が10−8Mに近い値に戻る。
【0006】
さらに、元々は痙攣の治療に使用されていたボツリヌス毒素は、筋痙攣状態(A. Blitzerら, Arch. Otolaryngol. Head Neck Surg., 1993, 119, 1018-1022頁を参照)、及び瞼の間のシワであるみけん点(グラベラ)のシワ(J.D. Carruthersら, J. Dermatol. Surg. Oncol., 1992, 18, 17-21頁を参照)に作用可能であることが示されている。従って、シワの筋収縮成分(特に神経-筋肉接合部に相当する運動板)に作用させることが可能である。
【0007】
末梢神経系では、神経と筋肉の接合部は、上流が運動神経として知られている遠心性神経経路である、神経筋プレートを構成している。さらに各神経線維の細胞膜はまた数多くのイオンチャンネル、特にカルシウムチャンネルを含有しており、これが、対応する成分、この特定の場合ではカルシウムがイオンの形態で通過することを可能にしている。
よって、筋肉の収縮/弛緩の現象において、これらの現象がプレ-又はポスト-神経細胞/非神経細胞(ミオサイト、筋線維芽細胞等)接合部であっても、カルシウムとその細胞内濃度の調節の重要な役割が理解される。
【0008】
ただカルシウムの流出が流入を補正するから、カルシウムの細胞内濃度の調節が可能である。これは、上述した電気化学的電位勾配に打ち勝つことのできる一又は複数のメカニズムによる細胞性カルシウムの排除によってのみなされる。
2種類のメカニズムが介在しうる:ATPの加水分解を犠牲にしてカチオンを活発に放出するカルシウムポンプと、異なるチャンネルを通過するカルシウムの受動運動(細胞内及び細胞外カルシウム勾配に依存)である。ほとんどの細胞では、ATP依存性カルシウムポンプが、その親和性を増加させるカルモジュリンの存在下で一層効果的に作用する。
【0009】
カルシウム-浸透性の変化をさらに良く記述するためには、現在では、この浸透性が膜結合性カルシウムチャンネルの開放に対応し、これらのチャンネルが膜電位(VOC)の変動、又は膜結合性レセプター(ROC)の活性化により作動されると考えるのが一般的である。今日まで、6つのVOC型のカルシウムチャンネル(L、N、T、P、Q及びR)が特定されている。
よって、上記の説明から、ある種の顔面筋肉の収縮及び過剰収縮がシワの出現の原因であることが理解される。この筋肉の活性化自体は、膜貫通カルシウムチャンネルを通るカルシウム流の変動により部分的に誘発される。
【特許文献1】国際公開第96/19182号パンフレット
【発明の開示】
【0010】
多くの臨床試験を行ったところ、本出願人は、神経運動流入(neuromotor influx)の直接のコントロール下にある収縮筋線維が、シワの形成において本質的な役割を担っており、神経運動流入の調節及び筋線維収縮のコントロールが、シワ形成において本質的な役割を担っていることを見出した。よって、運動性収縮を調節すると、シワ(wrinkles)だけでなくコジワ(fine lines)も低減され、皮膚の微起伏を「滑らかにする」効果を発揮する。また、本出願人は、皮膚及び皮下組織はカルシウムチャンネルを含んでいることも見出したが、これは、これまで予見されなかった。
【0011】
よって、本出願人は、組織を脱収縮又は弛緩させ、よってシワ及びコジワを低減させるために皮膚及び皮下組織のカルシウムチャンネルに作用させることを提案する。
【0012】
1965年以来、T. Godfraind氏により、ある種の医薬物質がいくつかの血管作動性剤に対する収縮反応を阻害するメカニズムを調べる研究が行われている。カルシウムに対する膜の浸透性が薬物により阻害されるかも知れず、これが多目的アンタゴニストが作用する共通のメカニズムが構成され得るといった仮説が提案された。
薬物がカルシウムの流入を阻害可能であることを示す最も簡単な実験法は、カルシウムを含有しない生理的溶液において平滑筋をプレインキュベートし、KClに富む溶液中で脱分極させ、注入溶液中のカルシウム濃度を徐々に増加させることからなる。これにより筋肉の張力が増加し、その値は、カルシウム濃度の関数として最大値まで増加する。このプロトコールがカルシウムの流入を阻害すると推測される物質の存在下で繰り返されると、シンナリジンを用いて初めて実施されたように、収縮反応が用量依存的に阻害される。同様の概念が心臓に対するベラパミルの作用を記述するためにも応用された。ベラパミルは、最初はβ-遮断薬と考えられていたが、興奮収縮連関に対して抑制作用をなすため、その作用はより複雑である。乳頭筋において、ベラパミルは、活動電位をごくわずかに変化させることにより収縮をなくする。この知見により、ベラパミルはカルシウムアンタゴニストと考えられるようになった。
【0013】
マンガンは地球の地殻の表面に非常に広範囲に存在する金属である。周期律表のVIIa族に属し、その原子番号は25で、その原子量は54.93である。マンガンはいくつかの原子価(1ないし7)を有し、2価及び3価の形態のものが生物学的に最も活性なものである。
マンガンは、冶金工業において、乾電池の製造において及び着色料として幅広く使用されている。
【0014】
植物は全てマンガンに富み、特に種(約7μg/g)、ナッツ(約17μg/g)及びお茶がマンガンに富む。フルーツ(約1μg/g)と野菜(約2.5μg/g)にはあまり豊富ではないが、それらの量は動物由来の食物(肉:約0.20μg/g、魚:約0.05μg/g)に比べてなお非常に高い。
逆に言えば、この金属は動物、特に人間には微量にしか見出されない。
【0015】
しかし、その生物学的役割は非常に重要であり、不足した場合の有害な影響は人間において反駁できない程には決定されていないが、動物において調べられた欠乏の結果では、この金属が多くの代謝に関与していることが示されている。しかしながら、今日でさえ、この金属の詳細な生化学的メカニズムに関する知識はかなり断片的なままである。
【0016】
マンガンは、多くの代謝:
− 凝血;
− 熱発生(甲状腺系への作用による);
− 免疫、ここでマンガンは抗体の適切な合成に必要であると思われる;
− 再生、その不足により、コレステロール及び性的ホルモン先駆物質の合成に対するマンガンの制限作用のため、女性及び男性の生殖能力が低減する。
【0017】
次の2つの特性により、マンガンの生理病理学的役割のいくつかを説明することができる:
− 多くの酵素の活性化。
マンガンは多くの酵素及びレクチンを活性化させる金属である。それは分離可能な元素として、又は酵素の構造の主要部分を形成する(金属酵素)ことにより介在する。
− カルシウムチャンネルに対する阻害活性。
細胞を活性化させる内的信号は、多くの場合、細胞質内カルシウム濃度の変化により誘発される。カルシウムはタンパク質と結合して(カルモジュリン)、キナーゼ類を活性化する。カルシウムにより、神経流入が伝搬され、ある種の分泌細胞が刺激され、それらの活性化の開始時に、血小板の形に変化を引き起こす。
【0018】
マンガンは、電気活性、又は分泌活性を有する多くの細胞(例えば膵臓)の細胞質へのカルシウムの浸透をブロックし;特に運動板における神経伝達物質の流出を阻害する。有糸分裂生起後の非常に短い時間に、マンガンを媒体に添加すると、マンガンはB及びTリンパ球の刺激に対して阻害活性を示す。
【0019】
ある物質が、本明細書においてカルシウムアンタゴニストとも称されるカルシウムチャンネルインヒビターと認定されるためには、その物質は、例えば特に、Galizzi, J.P.ら、Biol. Chem. 1987, 262 p6947、又はY. Okamiyaら、Eur. J. Pharmacol. 1991, 205, p49、又はJ.A. Wagnerら、J. Neurosci. 1988, 8, p3354、又はH.R. Leeら、Life Sci. 1984, 35 p721、又はSchoemaker H.及びLauger S. Eur. J. Pharmacol. 1985, 111, p273、又はI.J. Reynoldsら、J. Pharmacol. Exp. Ther. 1986, 237, p731に記載されているように、細胞内タンパク質、例えばカルモジュリンに対するカルシウムの結合性を低減させるか、又は細胞内カルシウム濃度を低減させることができなくてはならない。
【0020】
本発明の目的において、ある物質は、それが、神経/筋肉接合部(運動板)の実験モデル、特にW. Steinbrecher:刺激と生体電位記録のための電極(Electrodes for stimulation and bioelectric potential recording)、Biomerstechnich版、1988、96-98頁に開示されているモデルにおいて阻害効果を示す、及び/又は収縮した筋肉組織に対する弛緩効果を示すとき、弛緩薬(relaxer)と認められる。
マンガン又はその塩類は、これらの定義を十分に満たしている。
【0021】
上述したように、本出願人は、カルシウムチャンネルに作用させて、組織を弛緩又は脱収縮させ、よってシワ及びコジワを低減させることを提案している。このために、本出願人は、イオンの形態であれ、塩の形態であれ、又はマンガンに富む天然の、植物又は微生物、特に細菌の抽出物の形態であれ、マンガンを使用することを提案している。
【0022】
よって、本発明は、生理学的に許容可能な媒体に、有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有してなる組成物又は組成物の調製における、該マンガン又はその塩類の用途であって、該マンガン又は組成物が皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化及び/又は弛緩を意図したものである用途に関する。すなわち、有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有してなる、皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化及び/又は弛緩を意図した薬剤に関する。
また本発明は、生理学的に許容可能な媒体に、マンガン又はマンガン塩に富む、有効量の天然の、植物又は微生物、特に細菌の抽出物を含有してなる組成物又は組成物の調製における、該抽出物又はその塩類の用途であって、該抽出物又は組成物が皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化及び/又は弛緩を意図したものである用途に関する。すなわち、マンガン又はマンガン塩に富む、有効量の天然の、植物又は微生物、特に細菌の抽出物を含有してなる、皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化及び/又は弛緩を意図した薬剤に関する。
【0023】
本発明において、「マンガン塩」という用語は有機又は無機のマンガン塩を意味する。
本発明で使用可能な有機塩としては、グルコン酸マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、クエン酸マンガン、オレイン酸マンガン又は蓚酸マンガンを挙げることができる。
無機マンガン塩としては、鉱物性の塩類、例えば塩化マンガン、ホウ酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸マンガン又は硫酸マンガンを挙げることができる。
【0024】
さらに、本明細書において、特にそうでないと断らない限りは、「マンガン」という用語の使用はイオンの形態のものばかりでなく、塩の形態、又はマンガンに富む天然の、植物又は微生物、特に細菌の抽出物の形態のマンガンを意味するものとして理解すべきである。
「生理学的に許容可能な媒体」という表現は、皮膚、頭皮及び/又は粘膜と融和性のある媒体を意味する。
【0025】
本発明の他の主題は、生理学的に許容可能な媒体中に有効量のマンガンを含有してなる組成物又は組成物の調製における該マンガンの用途であって、該マンガン又は組成物が皮膚を滑らかにすることを意図したものにある。すなわち、マンガンからなる皮膚を滑らかにする薬剤である。
本発明の他の主題は、生理学的に許容可能な媒体に、有効量のマンガンを含有してなる組成物又は組成物の調製における該マンガンの用途であって、該マンガン又は組成物が皮膚の微起伏を緩和及び/又は除去することを意図した用途にある。すなわち、マンガンからなる、皮膚の微起伏を緩和及び/又は除去するための薬剤にある。
特に本発明の主題は、生理学的に許容可能な媒体に、有効量のマンガンを含有してなる組成物又は組成物の調製における該マンガンの用途であって、該マンガン又は組成物が皮膚のシワ及び/又はコジワに対し、治療的及び/又は予防的に抗することを意図した用途にある。すなわち、マンガンからなる、皮膚のシワ及び/又はコジワに治療的及び/又は予防的に抗するための薬剤にある。
【0026】
この用途は、シワ及びコジワを低減するのに特に効果的であることが見出されている。
さらに詳細には、皮膚及び/又は皮下組織の弛緩及び/又は脱収縮は、筋肉の弛緩又は脱収縮に対応する。
言うまでもなく、本発明で使用可能なマンガンの有効量は所望の効果に依存し、よって、幅広い範囲で変わりうる。
量の目安を述べると、本発明では、組成物の全重量に対して0.0001〜10%、好ましくは組成物の全重量に対して0.001〜5%の量でマンガンを使用することができる。
【0027】
言うまでもなく、本発明においてマンガンに富む天然の、植物又は微生物、特に細菌の抽出物が使用される場合、最終分析において、マンガンが上述した量で使用されるように、如何にして抽出物の量を適合させるかは当業者であれば分かるであろう。
【0028】
本発明で使用可能なマンガンに富む天然抽出物としては、ナッツ抽出物又は茶抽出物を挙げることができる。
【0029】
本発明の組成物は、化粧品的又は皮膚科学的用途を意図したものである。本発明の組成物は、好ましくは化粧品的用途を意図したものである。
ヒトの外観を変えることを指向するならば、本発明の用途は化粧品である。
【0030】
本発明の組成物は、局所、注射又は経口での適用のために通常使用される任意の提供形態とすることができる。
本発明の組成物は局在的、すなわち局所的に、又は皮下及び/又は皮内注射により、又は経口的に投与されうる。
好ましくは、本発明の組成物は局所的に適用される。
【0031】
本発明の組成物における種々の成分の量は、当該分野で一般的に使用されていて、その提供形態に適した量である。
【0032】
局所適用のためには、本発明の組成物は皮膚と適合性のある媒体を含有する。これらの組成物は、特にイオン性及び/又は非イオン性脂質を含有する小胞分散液の形態、又はエアゾール又はマイクロエマルション、ゲル又はクリームの外観を有する油中水型又は水中油型エマルション、水性、アルコール又は水性-アルコール溶液、ゲルの形態にすることができる。これらの提供形態は、当該分野で一般的な方法に従って調製される。
局所適用用のこれらの組成物は、特に、顔、首、手又はボディの保護又は手入れ用組成物(例えば、デイクリーム、ナイトクリーム、抗日光用クリーム又はオイル及びボディミルク)、メークアップ用組成物(例えばファンデーション)又は人工的にサンタン状態にする組成物を構成することができる。
【0033】
本発明の組成物がエマルションである場合、エマルションが含有する脂肪相の割合は、組成物の全重量に対して5〜80重量%、好ましくは5〜50重量%の範囲である。エマルションの形態の組成物に使用される脂肪物質及び乳化剤は、化粧品又は製薬の分野で従来より使用されているものから選択される。
本発明で使用可能な脂肪物質としては、鉱物性油(ペトロリアムジェリー)、植物性油(カリテバターの液状留分)及びそれらの水素化誘導体、動物性油、合成油(ペルヒドロスクワレン)、シリコーン油(ポリジメチルシロキサン)及びフッ化油を挙げることができる。他の脂肪物質としては、脂肪アルコール(セチルアルコール及びステアリルアルコール)、脂肪酸(ステアリン酸)及びロウ類が挙げられる。
乳化剤は、組成物中に、組成物の全重量に対して0.3〜30重量%、好ましくは0.5〜30重量%の範囲の割合で存在し得る。
【0034】
また、知られている方法で、本発明の組成物は、対応する分野で一般的なアジュバント、例えば親水性又は親油性のゲル化剤、防腐剤、酸化防止剤、溶媒、香料、フィラー、スクリーン剤及び染料をさらに含有してもよい。またさらにこれらの組成物は親水性又は親油性の活性剤を含有してもよい。これら種々のアジュバント又は活性剤の量は、化粧品又は製薬の分野において、従来より使用されている量、例えば、組成物の全重量に対して0.01%〜20%である。これらのアジュバント又は活性剤は、その性質に応じて、脂肪相、水相及び/又は脂質小胞体中に取り込まれる。
【0035】
本発明の組成物に含有可能な活性剤としては、シワ又はコジワの処置に対する効果を有するマンガン以外の活性剤、特に角質溶解剤を挙げることができる。「角質溶解」という用語は、落屑、剥奪又はスクラブ特性を有する活性剤、又は角質層を柔軟にすることのできる活性剤を意味する。
本発明の組成物が含有可能なシワ又はコジワの処置に対する効果を有する活性剤としては、特にアルベリン(alverine)、塩素-チャンネルオープナー、ヒドロキシ酸及びレチノイド類を挙げることができる。
【0036】
ヒドロキシ酸は、例えば直鎖状、分枝状又は環状で、飽和又は不飽和であってよい、α-ヒドロキシ酸又はβ-ヒドロキシ酸である。さらに、炭素鎖中の水素原子は、ハロゲン、ハロゲン化、アルキル、アシル、アシルオキシ、アルコキシカルボニル又はアルコキシ基で2〜18の炭素原子を有するもので置換されていてもよい。
使用可能なヒドロキシ酸は、特にグリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、2-ヒドロキシアルカン酸、マンデル酸、サリチル酸及びそれらのアルキル誘導体、例えば5-n-オクタノイルサリチル酸、5-n-ドデカノイルサリチル酸、5-n-デカノイルサリチル酸、5-n-オクチルサリチル酸、5-n-ヘプチルオキシサリチル酸、又は4-n-ヘプチルオキシサリチル酸、及び2-ヒドロキシ-3-メチル安息香酸又はそれらのアルコキシ誘導体、例えば2-ヒドロキシ-3-メトキシ安息香酸である。
【0037】
レチノイド類は、特にレチノイン酸(all-トランス又は13-シス)及びその誘導体、レチノール(ビタミンA)及びそのエステル類、例えばパルミチン酸レチニル、酢酸レチニル及びプロピオン酸レチニル、並びにそれらの塩類であってよい。
これらの活性剤は、特に組成物の全重量に対して0.0001〜5重量%の範囲の濃度で使用可能である。
【0038】
また本発明の主題は、生理学的に許容可能な媒体に有効量のマンガンを含有せしめてなる化粧品用組成物を皮膚に適用することからなる、シワ及び/又はコジワの美容処理方法にある。
本発明の美容処理方法は、特に、これらの組成物を使用する通常の技術に従い、上述した化粧品用組成物を適用することにより行われる。例えば:クリーム、ゲル、漿液、ローション、メークアップ除去用ミルク又は皮膚用の抗日光用組成物又はスプレー組成物の適用である。
【実施例】
【0039】
以下の実施例及び組成物は本発明を例証するものであって如何なる形でも発明を限定するものではない。組成物において示した割合は、特記しない限り重量パーセンテージを表すものである。
実施例1:単離された横隔膜調製物/横隔神経において得られた神経/筋肉接合部(運動板)モデルでのグルコン酸マンガン及び塩化マンガンの活性度:筋肉弛緩効果の試験
横隔神経と横隔膜を注意深く単離し、37℃の温度に維持された生存用流体(survival fluid)(クレブス・ヘンゼライト液)が満たされた50mlタンクに入れ、95%の酸素と5%のCOの混合物で酸素化した。
ついで、横隔膜の張力の変動を、数グラムの初期前負荷を与えて記録した。
弛緩30分後に、横隔膜を横隔神経を介して間接的に刺激した。
第1段階では、各々の調製物について、濃度を10−6M〜10−3Mで増加累積させて、横隔神経の刺激(0.1〜7ボルト、0.3ms、0.1Hz)を介した間接的な刺激により誘発された収縮に対する試験生成物の効果を評価した。
2種のマンガン塩を用いた運動板モデルにおける結果が得られた。
【表1】

【0040】
実施例2:本発明の組成物の具体例
組成物1:フェイス用の抗シワケアローション
グルコン酸マンガン 1.50%
酸化防止剤 0.05%
防腐剤 0.30%
エタノール(溶媒) 8.00%
水 全体を100%にする量
繰り返し使用した場合(1日に2回の適用を1ヶ月)、得られたローションはシワに作用した。
【0041】
組成物2:フェイスケア用ゲル
塩化マンガン 0.50%
ヒドロキシプロピルセルロース 1.00%
防腐剤 0.30%
エタノール(溶媒) 15.00%
酸化防止剤 0.05%
水 全体を100%にする量
:ハーキュレス社(Hercules)から販売されているクリューセル(Klucel)H(ゲル化剤)
得られたゲルはシワに作用した。1ヶ月間、毎朝及び毎夕に適用することができる。
【0042】
組成物3:フェイス用ケアクリーム(水中油型エマルション)
グルコン酸マンガン 0.50%
ステアリン酸グリセリル(乳化剤) 2.00%
ポリソルベイト(Polysorbate)60[ICI社
から販売されているトゥイーン(Tween)60]
(乳化剤) 1.00%
ステアリン酸 1.40%
トリエタノールアミン(中和剤) 0.70%
カーボマー(Carbomer)[グッドリッチ社(Good 0.40%
rich)から販売されているカルボポール(Carb
opol)940]
カリテバターの液状留分 12.00%
ペルヒドロスクワレン 12.00%
防腐剤 0.30%
香料 0.50%
酸化防止剤 0.05%
水 全体を100%にする量
シワ及びコジワに作用し、毎日適用することのできるリッチな白色のクリームが得られた。
【0043】
組成物4:フェイス用ケアクリーム(水中油型エマルション)
グルコン酸マンガン 0.10%
モノステアリン酸/ジステアリン酸グリセリル 2.00%
セチルアルコール 1.50%
セチルステアリルアルコール/33EOでオ
キシエチレン化されたセチルステアリルアル
コールの混合物 7.00%
ポリジメチルシロキサン 1.50%
流動ペトロラタム 17.50%
防腐剤 0.30%
香料 0.50%
グリセロール 12.50%
水 全体を100%にする量
【0044】
組成物5:フェイス用ケアクリーム(水中油型エマルション)
クルミ抽出物 5.00%
モノステアリン酸/ジステアリン酸グリセリル 2.00%
セチルアルコール 1.50%
セチルステアリルアルコール/33EOでオ
キシエチレン化されたセチルステアリルアル
コールの混合物 7.00%
ポリジメチルシロキサン 1.50%
流動ペトロラタム 17.50%
防腐剤 0.30%
香料 0.50%
グリセロール 12.50%
水 全体を100%にする量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有してなる、皮膚及び/又は皮下組織の脱収縮化及び/又は弛緩のための薬剤。
【請求項2】
有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有してなる、皮膚のシワ及びコジワの治療的及び/又は予防的処置のための薬剤。
【請求項3】
シワ及びコジワを低減させるためのものである請求項2に記載の薬剤。
【請求項4】
有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有してなる、皮膚の平滑化のための薬剤。
【請求項5】
有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を含有してなる、皮膚の微突起の緩和及び/又は除去のための薬剤。
【請求項6】
皮膚及び/又は皮下組織の弛緩及び/又は脱収縮が筋肉の弛緩又は脱収縮によるものであることを特徴とする請求項1に記載の薬剤。
【請求項7】
組成物に使用され、マンガンが組成物の全重量に対して0.0001〜10重量%の量であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
組成物に使用され、マンガンが組成物の全重量に対して0.001〜5重量%の量であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項9】
マンガンがイオンの形態、塩の形態、又はマンガンに富む天然、植物又は微生物の抽出物の形態であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
マンガン塩が有機及び無機マンガン塩から選択されることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
有機マンガン塩が、グルコン酸マンガン、炭酸マンガン、酢酸マンガン、クエン酸マンガン、オレイン酸マンガン及び蓚酸マンガンから選択されることを特徴とする請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
無機マンガン塩が、塩化マンガン、ホウ酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸マンガン又は硫酸マンガン等の鉱物性の塩類から選択されることを特徴とする請求項10に記載の薬剤。
【請求項13】
有効量のマンガン又はその塩類の少なくとも1種を生理学的に許容可能な媒体に含有せしめてなる化粧品用組成物を局所的に適用することからなる、シワ及び/又はコジワの美容処理方法。
【請求項14】
マンガンが、イオンの形態、塩の形態、又はマンガンに富む天然、植物又は微生物の抽出物の形態であることを特徴とする請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2007−277274(P2007−277274A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200862(P2007−200862)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【分割の表示】特願2001−150108(P2001−150108)の分割
【原出願日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【出願人】(391023932)ロレアル (950)
【Fターム(参考)】