シート状構造体、電子機器及び電子機器の製造方法
【課題】炭素元素の線状構造体を用いた熱伝導度及び電気伝導度が極めて高いシート状構造体、並びに、このようなシート状構造体を用いた電子機器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の炭素元素の線状構造体12と、複数の線状構造体12間に配置された熱可塑性樹脂の充填層14とを有し、複数の線状構造体12の少なくとも一方の端部が充填層14から露出しており、充填層14から露出した部分の線状構造体12が充填層14の表面と平行な方向に折れ曲がっている。
【解決手段】複数の炭素元素の線状構造体12と、複数の線状構造体12間に配置された熱可塑性樹脂の充填層14とを有し、複数の線状構造体12の少なくとも一方の端部が充填層14から露出しており、充填層14から露出した部分の線状構造体12が充填層14の表面と平行な方向に折れ曲がっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素元素の線状構造体を有するシート状構造体、並びに、シート状構造体を有する電子機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバーやパーソナルコンピュータのCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)などに用いられる電子部品には、半導体素子から発する熱を効率よく放熱することが求められる。このため、これら電子部品は、半導体素子の直上に設けられた銅などの高い熱伝導度を有する材料のヒートスプレッダが配置された構造を有している。
【0003】
この際、発熱源及びヒートスプレッダの表面には微細な凹凸が存在するため、互いをダイレクトに接触させても十分な接触面積を稼ぐことができず、接触界面が大きな熱抵抗となり、効率的に放熱を行うことができない。このため、接触熱抵抗を低減することを目的として、発熱源とヒートスプレッダとをサーマルインターフェースマテリアル(TIM)を介して接続することが行われている。
【0004】
この目的のもと、サーマルインターフェイスマテリアルには、それ自身が高い熱伝導率を有する材料であることに加え、発熱源及びヒートスプレッダ表面の微細な凹凸に対して広面積に接触しうる特性が求められている。
【0005】
従来、サーマルインターフェイスマテリアルとしては、放熱グリースやフェイズチェンジマテリアル(PCM)、インジウムなどが用いられている。これらの材料が放熱材料として用いられる大きな特徴の一つは、電子機器の耐熱温度以下で流動性を有しているため、微細な凹凸に対して大きな接触面積を得ることが可能な点にある。
【0006】
しかしながら、放熱グリースやフェイズチェンジマテリアルは、熱伝導率が1W/m・K〜5W/m・Kと低い。また、インジウムはレアメタルであることに加え、ITO関連での大幅な需要増加により価格が高騰しており、より安価な代替材料が待望されている。
【0007】
このような背景から、放熱材料として、カーボンナノチューブに代表される炭素元素からなる線状構造体が注目されている。カーボンナノチューブは、その軸方向に非常に高い熱伝導度(1500W/m・K〜3000W/m・K)を有するだけでなく、柔軟性や耐熱性に優れた材料であり、放熱材料として高いポテンシャルを有している。
【0008】
カーボンナノチューブを用いた熱伝導シートとしては、樹脂中にカーボンナノチューブを分散した熱伝導シートや、基板上に配向成長したカーボンナノチューブ束を樹脂等によって埋め込んだ熱伝導シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−295120号公報
【特許文献2】特開2007−294554号公報
【特許文献3】特表2007−532335号公報
【特許文献4】特開2009−164552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、カーボンナノチューブを用いた従来の熱伝導シートでは、カーボンナノチューブの有する高い熱伝導度を充分に生かすことができなかった。
【0011】
本発明の目的は、炭素元素の線状構造体を用いた熱伝導度及び電気伝導度が極めて高いシート状構造体、並びに、シート状構造体を用いた電子機器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の一観点によれば、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを有し、複数の前記線状構造体は、少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体は、前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体が提供される。
【0013】
また、実施形態の他の観点によれば、発熱体と、放熱体と、前記発熱体と放熱体との間に配置され、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体とを有する電子機器が提供される。
【0014】
また、実施形態の更に他の観点によれば、発熱体と放熱体との間に、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体を配置する工程と、前記放熱材料を加熱して前記熱可塑性樹脂を融解する工程と、前記放熱材料を冷却して前記熱可塑性樹脂を固化する工程とを有する電子機器の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
開示のシート状構造体によれば、被着体に対する炭素元素の線状構造体の接触面積を増加することができ、被着体に対する接触熱抵抗や接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0016】
また、発熱体と放熱体との間にこのようなシート状構造体を配置することにより、発熱体と放熱体との間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、放熱体から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図2】図2は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図3】図3は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図4】図3は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その3)である。
【図5】図5は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図6】図6は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す概略断面図である。
【図7】図7は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【図8】図8は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図(その1)である。
【図9】図9は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図(その2)である。
【図10】図10は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図(その3)である。
【図11】図11は、第3実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。
【図12】図12は、第3実施形態による電子機器の製造方法を示す工程断面図である。
【図13】図13は、カーボンナノチューブシートの膜厚と熱抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図2乃至図4は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【0020】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図1を用いて説明する。
【0021】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図1に示すように、複数のカーボンナノチューブ12と、カーボンナノチューブ12の間隙に充填された熱可塑性樹脂の充填層14とを有するシート状の構造体である。
【0022】
複数のカーボンナノチューブ12の少なくとも一方の端部は、充填層14から露出している。図1に示すカーボンナノチューブシート10の例では、カーボンナノチューブ12の一方の端部は充填層14により覆われており、他方の端部は充填層14から露出している。カーボンナノチューブ12の両方の端部が充填層14から露出していてもよい。
【0023】
充填層14に埋め込まれた部分のカーボンナノチューブ12は、シートの膜厚方向、すなわちシートの表面と交差する方向に配向している。充填層14から露出した部分のカーボンナノチューブ12の端部は、シートの表面と平行な方向に折れ曲がっている。
【0024】
カーボンナノチューブ12は、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。カーボンナノチューブ12の面密度は、特に限定されるものではないが、放熱性及び電気伝導性の観点からは、1×1010本/cm2以上であることが望ましい。
【0025】
カーボンナノチューブ12の長さは、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。カーボンナノチューブシート10を、発熱源(例えば半導体素子)と放熱部品(例えばヒートスプレッダ)との間に形成するサーマルインターフェイスマテリアルとして使用する場合、少なくとも発熱源及び放熱部品の表面の凹凸を埋める長さ以上であることが望ましい。
【0026】
上述のように、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、カーボンナノチューブ12の少なくとも一方の端部が、充填層14から露出している。これにより、カーボンナノチューブシート10を放熱体又は発熱体と接触したとき、カーボンナノチューブ12が充填層14を介さずに放熱体又は発熱体に対して直に接するため、熱伝導効率を大幅に高めることができる。また、カーボンナノチューブ12は導電性を有しているため、カーボンナノチューブ12の両端部を露出することにより、カーボンナノチューブ12を、シートを貫く配線体として用いることもできる。すなわち、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、熱伝導シートとしてのみならず、縦型配線シートとしても利用可能である。
【0027】
また、充填層に埋め込まれた部分のカーボンナノチューブ12は、シートの膜厚方向に配向しているため、軸方向に非常に高い熱伝導率及び導電率を有するというカーボンナノチューブ12の特性をいかんなく発揮し、高い熱伝導率及び導電率を得ることができる。
【0028】
また、充填層14から露出したカーボンナノチューブ12の端部はシートの表面と平行な方向に折れ曲がっており、カーボンナノチューブ12の端部のみならず、側面部分においても放熱体又は発熱体と接触することができる。また、折れ曲がったカーボンナノチューブ12同士が接触することにより、シートの表面と平行な方向への熱伝導及び電気伝導が可能となる。これにより、カーボンナノチューブ12と放熱体又は発熱体との間の接触面積を増加することができ、熱伝導効率及び導電率を更に高めることができる。
【0029】
充填層14は、熱可塑性樹脂によって形成されている。充填層14を形成する熱可塑性樹脂は、温度に応じて液体と固体との間で可逆的に状態変化するものであり、室温では固体であり、加熱すると液状に変化し、冷却すると接着性を発現しつつ固体に戻るものであれば、特に限定されるものではない。
【0030】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、以下に示すホットメルト樹脂が挙げられる。ポリアミド系ホットメルト樹脂としては、例えば、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」(軟化点温度:140℃)が挙げられる。また、ポリエステル系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社の「DH598B」(軟化点温度:133℃)が挙げられる。また、ポリウレタン系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH722B」が挙げられる。また、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂としては、例えば、松村石油株式会社製の「EP−90」(軟化点温度:148℃)が挙げられる。また、エチレン共重合体ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DA574B」(軟化点温度:105℃)が挙げられる。また、SBR系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6250」(軟化点温度:125℃)が挙げられる。また、EVA系ホットメルト樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社製の「3747」(軟化点温度:104℃)が挙げられる。また、ブチルゴム系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6158」が挙げられる。
【0031】
充填層14を形成する熱可塑性樹脂は、カーボンナノチューブシート10の使用目的に応じて、熱可塑性樹脂の融解温度をもとに選択することができる。熱可塑性樹脂の融解温度の下限値は、稼働時の発熱温度の上限値よりも高いことが望ましい。稼働時に熱可塑性樹脂が溶解すると、カーボンナノチューブシート10が変形してカーボンナノチューブ12が配向性を損なうなど、熱伝導性を低下するなどの不具合を引き起こす虞があるからである。熱可塑性樹脂の溶解温度の上限値は、発熱体及び放熱体の耐熱温度の下限値よりも低いことが望ましい。本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、放熱体及び発熱体に接触させた後にリフローを行うことが望ましいが、熱可塑性樹脂の溶解温度が耐熱温度より高いと、発熱体及び/又は放熱体にダメージを与えることなくリフローをすることが困難となるからである。なお、カーボンナノチューブシート10のリフローについては、後述する。
【0032】
例えば、カーボンナノチューブシート10をCPUなどの電子機器の放熱用途に用いる場合、CPU稼働時の発熱温度の上限がおよそ125℃であり、CPU電子部品の耐熱温度がおよそ250℃であることに鑑み、融解温度が125℃〜250℃程度の熱可塑性樹脂が好適である。例えば、自動車エンジンのエキゾーストシステム等の用途に用いる場合、部位によるが発熱温度は500℃〜800℃程度であることに鑑み、融解温度が600℃〜900℃程度の熱可塑性樹脂が好適である。
【0033】
また、充填層14には、必要に応じて、添加物を分散混合してもよい。添加物としては、例えば熱伝導性の高い物質や導電性の高い物質が考えられる。充填層14部分に熱伝導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層14部分の熱伝導率を向上することができ、カーボンナノチューブシート10の全体としての熱伝導率を向上することができる。また、カーボンナノチューブシートを導電性シートとして用いる場合にあっては、充填層14部分に電導性の高い添加物を分散混合する。これにより、充填層14部分の導電率を向上することができ、カーボンナノチューブシート10の全体としての導電率を向上することができる。熱伝導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、グラファイト、フラーレン等を適用することができる。電導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料等を適用することができる。
【0034】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図2乃至図 4を用いて説明する。
【0035】
まず、カーボンナノチューブシート10を形成するための土台として用いる基板30を用意する(図2(a))。基板30としては、シリコン基板などの半導体基板、アルミナ(サファイア)基板、MgO基板、ガラス基板などの絶縁性基板、金属基板などを用いることができる。また、これら基板上に薄膜が形成されたものでもよい。例えば、シリコン基板上に膜厚300nm程度のシリコン酸化膜が形成されたものを用いることができる。
【0036】
基板30は、カーボンナノチューブ12の成長後に剥離されるものである。この目的のもと、基板30としては、カーボンナノチューブ12の成長温度において変質しないことが望ましい。また、少なくともカーボンナノチューブ12に接する面がカーボンナノチューブ12から容易に剥離できる材料によって形成されていることが望ましい。また、カーボンナノチューブ12に対して選択的にエッチングできる材料によって形成されていることが望ましい。
【0037】
次いで、基板30上に、例えばスパッタ法により、例えば膜厚2.5nmのFe(鉄)膜を形成し、Feの触媒金属膜32を形成する(図2(b))。なお、触媒金属膜32は、必ずしも基板30上の全面に形成する必要はなく、例えばリフトオフ法を用いて基板30の所定の領域上に選択的に形成するようにしてもよい。
【0038】
触媒金属としては、Feのほか、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)、Pt(白金)又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金を用いてもよい。また、触媒として、金属膜以外に、微分型静電分級器(DMA:differential mobility analyzer)等を用い、予めサイズを制御して作製した金属微粒子を用いてもよい。この場合も、金属種については薄膜の場合と同様でよい。
【0039】
また、これら触媒金属の下地膜として、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、TaN(窒化タンタル)、TiSix(チタンシリサイド)、Al(アルミニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、TiOx(酸化チタン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、TiN(窒化チタン)などの膜又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金からなる膜を形成してもよい。例えば、Fe(2.5nm)/Al(10nm)の積層構造、Co(2.6nm)/TiN(5nm)の積層構造等を適用することができる。金属微粒子を用いる場合は、例えば、Co(平均直径:3.8nm)/TiN(5nm)などの積層構造を適用することができる。
【0040】
次いで、基板30上に、例えばホットフィラメントCVD法により、触媒金属膜32を触媒として、カーボンナノチューブ12を成長する。カーボンナノチューブ12の成長条件は、例えば、原料ガスとしてアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPa、ホットフィラメント温度を1000℃、成長時間を25分とする。これにより、層数が3層〜6層(平均4層程度)、直径が4nm〜8nm(平均6nm)、長さが100μm(成長レート:4μm/min)の多層カーボンナノチューブを成長することができる。なお、カーボンナノチューブは、熱CVD法やリモートプラズマCVD法などの他の成膜方法により形成してもよい。また、成長するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでもよい。また、炭素原料としては、アセチレンのほか、メタン、エチレン等の炭化水素類や、エタノール、メタノール等のアルコール類などを用いてもよい。
【0041】
カーボンナノチューブ12の長さは、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。カーボンナノチューブシート10を、発熱源(例えば半導体素子)と放熱部品(例えばヒートスプレッダ)との間に形成するサーマルインターフェイスマテリアルとして使用する場合、少なくとも発熱源及び放熱部品の表面の凹凸を埋める長さ以上であることが望ましい。
【0042】
こうして、基板30上に、基板30の法線方向に配向(垂直配向)した複数のカーボンナノチューブ12を形成する(図2(c))。なお、上記の成長条件で形成したカーボンナノチューブ12では、カーボンナノチューブ12の面密度は、1×1011本/cm2程度であった。これは、基板30表面の面積のおよそ10%の領域上にカーボンナノチューブ12が形成されていることに相当する。
【0043】
次いで、基板30に成長したカーボンナノチューブ12上に、フィルム状に加工した熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂フィルム34)を載置する(図3(a))。熱可塑性樹脂フィルム34の膜厚は、カーボンナノチューブ12の長さに応じて適宜設定することが望ましい。例えば、図1に示すようにカーボンナノチューブ12の一方の端部のみが露出したカーボンナノチューブシート10を形成する場合には、カーボンナノチューブ12の長さと同程度、例えば5μm〜500μm程度が好適である。また、カーボンナノチューブ12の両端部が露出したカーボンナノチューブシート10を形成する場合には、カーボンナノチューブ12の長さよりも僅かに薄い程度、例えば4μm〜400μm程度が好適である。
【0044】
熱可塑性樹脂フィルム34の熱可塑性樹脂としては、例えば、以下に示すホットメルト樹脂を適用することができる。ポリアミド系ホットメルト樹脂としては、例えば、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」が挙げられる。また、ポリエステル系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH598B」が挙げられる。また、ポリウレタン系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH722B」が挙げられる。また、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂としては、例えば、松村石油株式会社製の「EP−90」が挙げられる。また、エチレン共重合体ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DA574B」が挙げられる。また、SBR系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6250」が挙げられる。また、EVA系ホットメルト樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社製の「3747」が挙げられる。また、ブチルゴム系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6158」が挙げられる。
【0045】
ここでは、一例として、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」を厚さ100μmのフィルム状に加工した熱硬化性樹脂フィルム34を用いた場合について説明する。なお、「Micromelt6239」は、融解温度が135℃〜145℃、融解時粘度が5.5Pa.s〜8.5Pa.s(225℃)のホットメルト樹脂である。
【0046】
次いで、熱可塑性樹脂フィルム34を載置した基板30を、例えば195℃の温度で加熱する。これにより、熱可塑性樹脂フィルム34の熱可塑性樹脂が溶解し、カーボンナノチューブ12の間隙に徐々に浸透していく。こうして、熱可塑性樹脂フィルム34を、基板30の表面に達しない程度まで浸透させる(図3(b))。
【0047】
熱可塑性樹脂を予めシート状に加工しておくことにより、そのシート膜厚で充填材量のコントロールが可能となる。これにより、加熱温度や加熱時間のコントロールで、充填材が基板30まで浸潤しないようにコントロールすることができる。
【0048】
カーボンナノチューブ12の間隙に浸透する熱可塑性樹脂フィルム34の厚さは、熱処理時間によって制御することができる。例えば、上記条件で成長した長さ100μmのカーボンナノチューブ12に対しては、195℃で1分間の熱処理を行うことにより、熱可塑性樹脂フィルム34が基板30に達しない程度まで浸透させることができる。
【0049】
熱可塑性樹脂フィルム34の加熱時間は、熱可塑性樹脂フィルム34を基板30の表面に達しない程度に浸透させるように、カーボンナノチューブ12の長さ、熱可塑性樹脂の融解時の粘度、熱可塑性樹脂フィルム34の膜厚等に応じて適宜設定することが望ましい。
【0050】
カーボンナノチューブ12の両端部が露出したカーボンナノチューブシート10を製造する場合にあっては、カーボンナノチューブ12の長さよりも薄い熱可塑性樹脂フィルム34を用い、カーボンナノチューブ12の上端部が露出するまで熱可塑性樹脂フィルム34を浸透させるようにすればよい。
【0051】
なお、熱可塑性樹脂の形状は、予めフィルム状に加工しておくことが好適であるが、ペレット状や棒状でも構わない。
【0052】
次いで、熱可塑性樹脂フィルム34を所定の位置まで浸透させた後、室温まで冷却し、熱可塑性樹脂フィルム34を固化する。こうして、熱可塑性樹脂フィルム34の熱可塑性樹脂により形成され、カーボンナノチューブ12の間隙に充填された充填層14を形成する。
【0053】
次いで、カーボンナノチューブ12及び充填層14を、基板30から剥離する(図3(c))。この際、カーボンナノチューブ12と基板30との間の接合は弱いため、カーボンナノチューブ12及び充填層14を基板30から容易に剥離することができる。
【0054】
次いで、充填層14のカーボンナノチューブ12が露出している面を、表面が平坦な部材(例えば基板40)に押しつけ、カーボンナノチューブ12の充填層14から露出した部分が押し倒す(図4(a))。カーボンナノチューブ12は柔軟性に富んだ材料であるため、基板40に押し付けることにより、充填層14に埋め込まれていない部分のカーボンナノチューブ12を選択的に押し倒すことができる。
【0055】
なお、図4(a)の例では、複数のカーボンナノチューブ12の端部がランダムな方向に押し倒された状態を示しているが、必ずしもランダムな方向に押し倒されている必要はなく、複数のカーボンナノチューブ12を同じ方向に押し倒すようにしてもよい。
【0056】
このようにして、充填層14から露出した部分のカーボンナノチューブ12の端部をシートの表面と平行な方向に折れ曲げ、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10を完成する(図4(b))。
【0057】
このように、本実施形態によれば、充填層から露出した部分のカーボンナノチューブをシートの表面と平行な方向に折り曲げるので、被着体に対するカーボンナノチューブの接触面積を大幅に増加することができる。これにより、被着体に対するカーボンナノチューブシートの接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0058】
[第2実施形態]
第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図5乃至図10を用いて説明する。なお、図1乃至図4に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔にする。
【0059】
図5は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図6及び図7は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す概略断面図である。図8乃至図10は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図である。
【0060】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図5を用いて説明する。
【0061】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図5に示すように、充填層14で覆われているカーボンナノチューブ12の一端部に、被膜16が形成されているほかは、図1に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート10と同様である。
【0062】
被膜16を形成する材料は、充填層14の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途にも用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。被膜16の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)等を用いることができる。また、被膜16は、単層構造である必要はなく、例えばチタン(Ti)と金(Au)との積層構造など、2層或いは3層以上の積層構造であってもよい。
【0063】
被膜16の膜厚は、製造過程において熱可塑性樹脂フィルム34の浸透を阻害しない膜厚であれば、特に限定されるものではない。被膜16の膜厚は、熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性、カーボンナノチューブシート10に要求される特性、被膜16の構成材料等に応じて適宜設定することが望ましい。
【0064】
熱伝導性の高い被膜16を設けることにより、被膜16を設けない場合と比較して、カーボンナノチューブシート10の被着体(放熱体、発熱体)に対する接触面積を増加することができる。これにより、カーボンナノチューブ12と被着体との間の接触熱抵抗が低減され、カーボンナノチューブシート10の熱伝導性を高めることができる。カーボンナノチューブシート10を導電性シートとしても用いる場合には、導電性を高めることができる。
【0065】
なお、図5では、充填層14で覆われているカーボンナノチューブ12の一方の端部に被膜16を形成した場合を示したが、充填層14から露出しているカーボンナノチューブ12の他方の端部にも被膜を形成するようにしてもよい。カーボンナノチューブ12の他方の端部のみに被膜16を形成するようにしてもよい。
【0066】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図6乃至図10を用いて説明する。
【0067】
まず、例えば図2(a)乃至図2(c)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、基板30上に、カーボンナノチューブ12を成長する。
【0068】
なお、図1乃至図5では、図面の簡略化のためにカーボンナノチューブ12を単純な円筒形状で描いたが、成長初期における成長ばらつき等により、必ずしも完全な円筒形状にはならない。カーボンナノチューブ12は、全体的に見ればシートの膜厚方向に配向するが、例えば、図8に示すようにカーボンナノチューブ12の上端部が基板30の法線方向に対して傾いて成長したり、カーボンナノチューブ12の長さにばらつきが生じたりすることがある。
【0069】
次いで、カーボンナノチューブ12上に、例えば蒸着法により、300nm程度の膜厚のAu(金)堆積し、Auの被膜16を形成する(図6(a))。被膜16は、カーボンナノチューブ12にダメージを与えない方法であれば、他の成膜方法(例えばスパッタ法等)を用いて形成してもよい。
【0070】
被膜16を形成する材料は、充填層14の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途にも用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。被膜16の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)等を用いることができる。また、被膜16は、単層構造である必要はなく、例えばチタン(Ti)と金(Au)との積層構造など、2層或いは3層以上の積層構造であってもよい。
【0071】
被膜16は、成長初期段階では、例えば図9に示すように、各カーボンナノチューブ12の先端部分を覆うように形成される。成長膜厚が増加してくると、隣接する各カーボンナノチューブ12の先端部分に形成された被膜16が互いに接続される。これにより、被膜16は、例えば図10に示すように、複数本の各カーボンナノチューブ12の先端部分を束ねるように形成される。被膜16の成長膜厚を更に増加すると、被膜16がシートの表面に平行な2次元方向に完全に接続され、隙間のない完全な膜となる。
【0072】
形成する被膜16の膜厚は、充填層14を形成する際の熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性等を考慮して、カーボンナノチューブ12の直径や面密度に応じて適宜設定することが望ましい。
【0073】
例えば、カーボンナノチューブ12の直径が10nm、面密度が1×1011cm−2の場合、互いに隣接するカーボンナノチューブ12の間隙はおよそ50nmである。この場合、隣接するカーボンナノチューブ12間が被膜16により接続されるためには、少なくとも間隙の半分以上の膜厚、すなわち膜厚25nm程度以上の被膜16を形成することが望ましい。また、被膜16を厚くしすぎると被膜16が隙間のない完全な膜となり熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性が低下するため、被膜16の上限膜厚は、熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性の面から設定することが望ましい。これらの観点から、上記条件のカーボンナノチューブ12では、被膜16の膜厚は、25nm〜1000nm程度に設定することが望ましい。
【0074】
次いで、例えば図3(a)乃至図3(b)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、カーボンナノチューブ12の間隙に熱可塑性樹脂フィルム34を浸透させ、充填層14を形成する(図6(b))。
【0075】
被膜16は、必ずしも隣接するカーボンナノチューブ12が互いに接続されるに十分な膜厚を形成する必要はないが、これには被膜16によって複数本のカーボンナノチューブ12を束ねる効果がある(例えば図10を参照)。これにより、熱可塑性樹脂フィルム34がカーボンナノチューブ12間に浸透する際に、カーボンナノチューブ12同士がばらばらになることを抑制することができる。また、隣接するカーボンナノチューブ12が互いに接続されることにより、横方向への熱伝導や電気伝導が可能となる。
【0076】
次いで、カーボンナノチューブ12、被膜16及び充填層14を基板30から剥離する(図6(c))。
【0077】
次いで、例えば図4(a)及び図4(b)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、充填層14から露出しているカーボンナノチューブ12の端部を押し倒し、本実施形態によるカーボンナノチューブシートを完成する(図7(a))。
【0078】
この後、必要に応じて、押し倒したカーボンナノチューブ12が露出している面上に、被膜16と同様の被膜18を形成する。被膜18の形成方法や形成材料等は、被膜16と同様である。
【0079】
このように、本実施形態によれば、充填層から露出した部分のカーボンナノチューブをシートの表面と平行な方向に折り曲げるので、被着体に対するカーボンナノチューブの接触面積を大幅に増加することができる。これにより、被着体に対するカーボンナノチューブシートの接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。また、カーボンナノチューブの少なくとも一方の端部に被膜を設けることにより、被着体に対するカーボンナノチューブシートの接触熱抵抗及び接触抵抗を更に低減することができる。
【0080】
[第3実施形態]
第3実施形態による電子機器及びその製造方法について図11乃至図13を用いて説明する。なお、図1乃至図10に示す第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同様の構成要素には同一の符号を付し説明を省略し又は簡潔にする。
【0081】
図11は、本実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。図12は、本実施形態による電子機器の製造方法を示す工程断面図である。図13は、カーボンナノチューブシートの膜厚と熱抵抗との関係を示すグラフである。
【0082】
本実施形態では、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを熱伝導シートとして適用した電子機器及びその製造方法について説明する。
【0083】
はじめに、本実施形態による電子機器の構造について図11を用いて説明する。
【0084】
多層配線基板などの回路基板50上には、例えばCPUなどの半導体素子54が実装されている。半導体素子54は、はんだバンプなどの突起状電極52を介して回路基板50に電気的に接続されている。
【0085】
半導体素子54上には、半導体素子54を覆うように、半導体素子54からの熱を拡散するためのヒートスプレッダ58が形成されている。半導体素子54とヒートスプレッダ58との間には、第1又は第2実施形態のカーボンナノチューブシート56が形成されている。ヒートスプレッダ58は、例えば有機シーラント60によって回路基板50に接着されている。
【0086】
このように、本実施形態による電子機器では、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間、すなわち発熱部と放熱部との間に、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシート56が設けられている。
【0087】
上述のように、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートは、カーボンナノチューブ12がシートの膜厚方向に配向しており、面直方向の熱伝導度が極めて高いものである。また、充填層14の少なくとも一方の面側に折れ曲がったカーボンナノチューブ12が露出しており、被着体に対するカーボンナノチューブ12の接触面積が非常に大きくなっている。また、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートでは、カーボンナノチューブ12の一端部或いは両端部に被膜16,18が形成されており、接触熱抵抗を大幅に低減することができる。
【0088】
したがって、開示のカーボンナノチューブシートを、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間に形成する熱伝導シートとして用いることにより、半導体素子54から発せられた熱を効率よくヒートスプレッダ58に伝えることができ、放熱効率を高めることができる。これにより、電子機器の信頼性を向上することができる。
【0089】
また、カーボンナノチューブシート56は、カーボンナノチューブ12を支持する充填層14の少なくとも表面層が、熱可塑性樹脂材料により形成されている。これにより、半導体素子54及びヒートスプレッダ58に対するカーボンナノチューブシート56の接着性を高めるとともに、カーボンナノチューブシート56による熱伝導性をも高めることができる。
【0090】
次に、本実施形態による電子機器の製造方法について図12を用いて説明する。
【0091】
まず、回路基板50上に、突起状電極52を介して半導体素子54を実装する。なお、本実施形態の図面では、本実施形態による電子機器の効果を判りやすくするために、半導体素子54とヒートスプレッダ58との対向する面の凹凸を強調して描いている。
【0092】
次いで、回路基板50上に実装した半導体素子54上に、第1又は第2実施形態に記載のカーボンナノチューブシート56を載置する(図12(a))。なお、本実施形態の図面には、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いた場合を示している。
【0093】
次いで、回路基板50上に、ヒートスプレッダ58を固定するための有機シーラント60を塗布した後、カーボンナノチューブシート56を載置した半導体素子54上にヒートスプレッダ58を被せる(図12(b))。
【0094】
次いで、ヒートスプレッダ58に荷重をかけた状態で熱処理を行い、カーボンナノチューブシート56をリフローする。充填層14として例えばヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」を用いたカーボンナノチューブシート56では、例えば荷重0.25MPaを加えた状態で、例えば195℃、10分間の熱処理を行う。
【0095】
この熱処理により、カーボンナノチューブシート56の充填層14を形成する熱可塑性樹脂が液状融解し、半導体素子54及びヒートスプレッダ58の表面凹凸に沿ってカーボンナノチューブシート56が変形する。また、カーボンナノチューブシート54内のカーボンナノチューブ12は、充填層14による拘束がゆるみ、その端部は半導体素子54及びヒートスプレッダ58に直に接するようになる。この際、カーボンナノチューブ12はしなやかで柔軟性に富んだ材料であるため、半導体素子54及びヒートスプレッダ58が有する凹凸形状に追従して撓むことができる。これにより、半導体素子54及びヒートスプレッダ58に直に接するカーボンナノチューブ12が増加し、カーボンナノチューブシート56と半導体素子54及びヒートスプレッダ58との間の接触熱抵抗を大幅に低減することができる。
【0096】
このときの荷重は、カーボンナノチューブシート56が、半導体素子54及びヒートスプレッダ58の表面に存在する凹凸に沿って変形して十分な接触状態を形成する荷重範囲であればよい。また、熱処理の温度及び時間は、半導体素子54とヒートスプレッダ58との界面に介在する熱可塑性樹脂が融解して移動し、カーボンナノチューブ12の端部が半導体素子54及びヒートスプレッダ58に対して直に接する表面状態になる範囲を選択すればよい。
【0097】
次いで、室温まで冷却し、充填層14の熱可塑性樹脂を固化するとともに、ヒートスプレッダ58を有機シーラント60によって回路基板50上に固定する(図12(c))。この際、充填層14の熱可塑性樹脂は接着性を発現し、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間をカーボンナノチューブシート56によって接着固定することができる。これにより、室温に冷却した後も、カーボンナノチューブシート56と半導体素子54及びヒートスプレッダ58との間の低い接触熱抵抗を維持することができる。
【0098】
なお、上記の例では、カーボンナノチューブシート56とヒートスプレッダ58とを別々の電子部品としたが、予めヒートスプレッダ58の内面にカーボンナノチューブシート56を形成しておき、1つの電子部品としてもよい。この場合、カーボンナノチューブシート56の充填層14の形成面を、ヒートスプレッダ58の内面に接着することができる。
【0099】
図13は、カーボンナノチューブシートの膜厚と熱抵抗との関係を示すグラフである。熱抵抗は、カーボンナノチューブシートを介して接合された発熱体と放熱体との間の熱抵抗であり、例えば図11の例では、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間の熱抵抗に相当する。図中、●印のプロットは、図1に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いた場合である。□印のプロットは、カーボンナノチューブ12の端部を折り曲げていないカーボンナノチューブシート(図3(c)に示される構造に相当)を用いた場合である。
【0100】
図13に示すように、何れのカーボンナノチューブシートを用いた場合にも、シートの膜厚増加とともに熱抵抗が増加する傾向にある。これは、シートの膜厚の増加とともに熱の伝達経路が長くなるからである。
【0101】
一方、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いた場合(●印)には、カーボンナノチューブ12の端部を折り曲げていないカーボンナノチューブシートを用いた場合(□印)と比較して、熱抵抗がおよそ20%低い値となっている。これは、カーボンナノチューブ12の端部を折り曲げることにより、被着体に対するカーボンナノチューブ12の接触面積が増加し、接触熱抵抗が低減したことによるものである。
【0102】
以上の結果にから、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いることにより発熱体と放熱体との間の熱抵抗を大幅に低減できることを検証できた。
【0103】
このように、本実施形態によれば、半導体素子とヒートスプレッダとの間に、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを配置するので、これらの間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、半導体素子から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。
【0104】
[変形実施形態]
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0105】
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0106】
例えば、上記実施形態では、炭素元素の線状構造体を用いた放熱材料の例としてカーボンナノチューブシートを示したが、炭素元素の線状構造体を用いた放熱材料は、これに限定されるものではない。炭素元素の線状構造体としては、カーボンナノチューブのほか、カーボンナノワイヤ、カーボンロッド、カーボンファイバが挙げられる。これら線状構造体は、サイズが異なるほかは、カーボンナノチューブと同様である。これら線状構造体を用いた放熱材料においても適用することができる。
【0107】
また、上記実施形態に記載の構成材料や製造条件は、当該記載に限定されるものではなく、目的等に応じて適宜変更が可能である。
【0108】
また、カーボンナノチューブシートの使用目的も、上記実施形態に記載のものに限定されるものではない。開示のカーボンナノチューブシートは、熱伝導シートとしては、例えば、CPUの放熱シート、無線通信基地局用高出力増幅器、無線通信端末用高出力増幅器、電気自動車用高出力スイッチ、サーバー、パーソナルコンピュータなどへの適用が考えられる。また、カーボンナノチューブの高い許容電流密度特性を利用して、縦型配線シートやこれを用いた種々のアプリケーションにも適用可能である。
【符号の説明】
【0109】
10…カーボンナノチューブシート
12…カーボンナノチューブ
14…充填層
16,18…被膜
30…基板
32…触媒金属膜
34…熱可塑性樹脂フィルム
50…回路基板
52…突起状電極
54…半導体素子
56…カーボンナノチューブシート
58…ヒートスプレッダ
60…有機シーラント
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素元素の線状構造体を有するシート状構造体、並びに、シート状構造体を有する電子機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーバーやパーソナルコンピュータのCPU(Central Processing Unit:中央処理装置)などに用いられる電子部品には、半導体素子から発する熱を効率よく放熱することが求められる。このため、これら電子部品は、半導体素子の直上に設けられた銅などの高い熱伝導度を有する材料のヒートスプレッダが配置された構造を有している。
【0003】
この際、発熱源及びヒートスプレッダの表面には微細な凹凸が存在するため、互いをダイレクトに接触させても十分な接触面積を稼ぐことができず、接触界面が大きな熱抵抗となり、効率的に放熱を行うことができない。このため、接触熱抵抗を低減することを目的として、発熱源とヒートスプレッダとをサーマルインターフェースマテリアル(TIM)を介して接続することが行われている。
【0004】
この目的のもと、サーマルインターフェイスマテリアルには、それ自身が高い熱伝導率を有する材料であることに加え、発熱源及びヒートスプレッダ表面の微細な凹凸に対して広面積に接触しうる特性が求められている。
【0005】
従来、サーマルインターフェイスマテリアルとしては、放熱グリースやフェイズチェンジマテリアル(PCM)、インジウムなどが用いられている。これらの材料が放熱材料として用いられる大きな特徴の一つは、電子機器の耐熱温度以下で流動性を有しているため、微細な凹凸に対して大きな接触面積を得ることが可能な点にある。
【0006】
しかしながら、放熱グリースやフェイズチェンジマテリアルは、熱伝導率が1W/m・K〜5W/m・Kと低い。また、インジウムはレアメタルであることに加え、ITO関連での大幅な需要増加により価格が高騰しており、より安価な代替材料が待望されている。
【0007】
このような背景から、放熱材料として、カーボンナノチューブに代表される炭素元素からなる線状構造体が注目されている。カーボンナノチューブは、その軸方向に非常に高い熱伝導度(1500W/m・K〜3000W/m・K)を有するだけでなく、柔軟性や耐熱性に優れた材料であり、放熱材料として高いポテンシャルを有している。
【0008】
カーボンナノチューブを用いた熱伝導シートとしては、樹脂中にカーボンナノチューブを分散した熱伝導シートや、基板上に配向成長したカーボンナノチューブ束を樹脂等によって埋め込んだ熱伝導シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−295120号公報
【特許文献2】特開2007−294554号公報
【特許文献3】特表2007−532335号公報
【特許文献4】特開2009−164552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、カーボンナノチューブを用いた従来の熱伝導シートでは、カーボンナノチューブの有する高い熱伝導度を充分に生かすことができなかった。
【0011】
本発明の目的は、炭素元素の線状構造体を用いた熱伝導度及び電気伝導度が極めて高いシート状構造体、並びに、シート状構造体を用いた電子機器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の一観点によれば、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを有し、複数の前記線状構造体は、少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体は、前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体が提供される。
【0013】
また、実施形態の他の観点によれば、発熱体と、放熱体と、前記発熱体と放熱体との間に配置され、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体とを有する電子機器が提供される。
【0014】
また、実施形態の更に他の観点によれば、発熱体と放熱体との間に、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体を配置する工程と、前記放熱材料を加熱して前記熱可塑性樹脂を融解する工程と、前記放熱材料を冷却して前記熱可塑性樹脂を固化する工程とを有する電子機器の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
開示のシート状構造体によれば、被着体に対する炭素元素の線状構造体の接触面積を増加することができ、被着体に対する接触熱抵抗や接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0016】
また、発熱体と放熱体との間にこのようなシート状構造体を配置することにより、発熱体と放熱体との間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、放熱体から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図2】図2は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図3】図3は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図4】図3は、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図(その3)である。
【図5】図5は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。
【図6】図6は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す概略断面図である。
【図7】図7は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【図8】図8は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図(その1)である。
【図9】図9は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図(その2)である。
【図10】図10は、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図(その3)である。
【図11】図11は、第3実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。
【図12】図12は、第3実施形態による電子機器の製造方法を示す工程断面図である。
【図13】図13は、カーボンナノチューブシートの膜厚と熱抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図1乃至図4を用いて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図2乃至図4は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す工程断面図である。
【0020】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図1を用いて説明する。
【0021】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図1に示すように、複数のカーボンナノチューブ12と、カーボンナノチューブ12の間隙に充填された熱可塑性樹脂の充填層14とを有するシート状の構造体である。
【0022】
複数のカーボンナノチューブ12の少なくとも一方の端部は、充填層14から露出している。図1に示すカーボンナノチューブシート10の例では、カーボンナノチューブ12の一方の端部は充填層14により覆われており、他方の端部は充填層14から露出している。カーボンナノチューブ12の両方の端部が充填層14から露出していてもよい。
【0023】
充填層14に埋め込まれた部分のカーボンナノチューブ12は、シートの膜厚方向、すなわちシートの表面と交差する方向に配向している。充填層14から露出した部分のカーボンナノチューブ12の端部は、シートの表面と平行な方向に折れ曲がっている。
【0024】
カーボンナノチューブ12は、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブのいずれでもよい。カーボンナノチューブ12の面密度は、特に限定されるものではないが、放熱性及び電気伝導性の観点からは、1×1010本/cm2以上であることが望ましい。
【0025】
カーボンナノチューブ12の長さは、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。カーボンナノチューブシート10を、発熱源(例えば半導体素子)と放熱部品(例えばヒートスプレッダ)との間に形成するサーマルインターフェイスマテリアルとして使用する場合、少なくとも発熱源及び放熱部品の表面の凹凸を埋める長さ以上であることが望ましい。
【0026】
上述のように、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、カーボンナノチューブ12の少なくとも一方の端部が、充填層14から露出している。これにより、カーボンナノチューブシート10を放熱体又は発熱体と接触したとき、カーボンナノチューブ12が充填層14を介さずに放熱体又は発熱体に対して直に接するため、熱伝導効率を大幅に高めることができる。また、カーボンナノチューブ12は導電性を有しているため、カーボンナノチューブ12の両端部を露出することにより、カーボンナノチューブ12を、シートを貫く配線体として用いることもできる。すなわち、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、熱伝導シートとしてのみならず、縦型配線シートとしても利用可能である。
【0027】
また、充填層に埋め込まれた部分のカーボンナノチューブ12は、シートの膜厚方向に配向しているため、軸方向に非常に高い熱伝導率及び導電率を有するというカーボンナノチューブ12の特性をいかんなく発揮し、高い熱伝導率及び導電率を得ることができる。
【0028】
また、充填層14から露出したカーボンナノチューブ12の端部はシートの表面と平行な方向に折れ曲がっており、カーボンナノチューブ12の端部のみならず、側面部分においても放熱体又は発熱体と接触することができる。また、折れ曲がったカーボンナノチューブ12同士が接触することにより、シートの表面と平行な方向への熱伝導及び電気伝導が可能となる。これにより、カーボンナノチューブ12と放熱体又は発熱体との間の接触面積を増加することができ、熱伝導効率及び導電率を更に高めることができる。
【0029】
充填層14は、熱可塑性樹脂によって形成されている。充填層14を形成する熱可塑性樹脂は、温度に応じて液体と固体との間で可逆的に状態変化するものであり、室温では固体であり、加熱すると液状に変化し、冷却すると接着性を発現しつつ固体に戻るものであれば、特に限定されるものではない。
【0030】
このような熱可塑性樹脂としては、例えば、以下に示すホットメルト樹脂が挙げられる。ポリアミド系ホットメルト樹脂としては、例えば、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」(軟化点温度:140℃)が挙げられる。また、ポリエステル系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社の「DH598B」(軟化点温度:133℃)が挙げられる。また、ポリウレタン系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH722B」が挙げられる。また、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂としては、例えば、松村石油株式会社製の「EP−90」(軟化点温度:148℃)が挙げられる。また、エチレン共重合体ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DA574B」(軟化点温度:105℃)が挙げられる。また、SBR系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6250」(軟化点温度:125℃)が挙げられる。また、EVA系ホットメルト樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社製の「3747」(軟化点温度:104℃)が挙げられる。また、ブチルゴム系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6158」が挙げられる。
【0031】
充填層14を形成する熱可塑性樹脂は、カーボンナノチューブシート10の使用目的に応じて、熱可塑性樹脂の融解温度をもとに選択することができる。熱可塑性樹脂の融解温度の下限値は、稼働時の発熱温度の上限値よりも高いことが望ましい。稼働時に熱可塑性樹脂が溶解すると、カーボンナノチューブシート10が変形してカーボンナノチューブ12が配向性を損なうなど、熱伝導性を低下するなどの不具合を引き起こす虞があるからである。熱可塑性樹脂の溶解温度の上限値は、発熱体及び放熱体の耐熱温度の下限値よりも低いことが望ましい。本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、放熱体及び発熱体に接触させた後にリフローを行うことが望ましいが、熱可塑性樹脂の溶解温度が耐熱温度より高いと、発熱体及び/又は放熱体にダメージを与えることなくリフローをすることが困難となるからである。なお、カーボンナノチューブシート10のリフローについては、後述する。
【0032】
例えば、カーボンナノチューブシート10をCPUなどの電子機器の放熱用途に用いる場合、CPU稼働時の発熱温度の上限がおよそ125℃であり、CPU電子部品の耐熱温度がおよそ250℃であることに鑑み、融解温度が125℃〜250℃程度の熱可塑性樹脂が好適である。例えば、自動車エンジンのエキゾーストシステム等の用途に用いる場合、部位によるが発熱温度は500℃〜800℃程度であることに鑑み、融解温度が600℃〜900℃程度の熱可塑性樹脂が好適である。
【0033】
また、充填層14には、必要に応じて、添加物を分散混合してもよい。添加物としては、例えば熱伝導性の高い物質や導電性の高い物質が考えられる。充填層14部分に熱伝導性の高い添加物を分散混合することにより、充填層14部分の熱伝導率を向上することができ、カーボンナノチューブシート10の全体としての熱伝導率を向上することができる。また、カーボンナノチューブシートを導電性シートとして用いる場合にあっては、充填層14部分に電導性の高い添加物を分散混合する。これにより、充填層14部分の導電率を向上することができ、カーボンナノチューブシート10の全体としての導電率を向上することができる。熱伝導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、グラファイト、フラーレン等を適用することができる。電導性の高い材料としては、カーボンナノチューブ、金属材料等を適用することができる。
【0034】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図2乃至図 4を用いて説明する。
【0035】
まず、カーボンナノチューブシート10を形成するための土台として用いる基板30を用意する(図2(a))。基板30としては、シリコン基板などの半導体基板、アルミナ(サファイア)基板、MgO基板、ガラス基板などの絶縁性基板、金属基板などを用いることができる。また、これら基板上に薄膜が形成されたものでもよい。例えば、シリコン基板上に膜厚300nm程度のシリコン酸化膜が形成されたものを用いることができる。
【0036】
基板30は、カーボンナノチューブ12の成長後に剥離されるものである。この目的のもと、基板30としては、カーボンナノチューブ12の成長温度において変質しないことが望ましい。また、少なくともカーボンナノチューブ12に接する面がカーボンナノチューブ12から容易に剥離できる材料によって形成されていることが望ましい。また、カーボンナノチューブ12に対して選択的にエッチングできる材料によって形成されていることが望ましい。
【0037】
次いで、基板30上に、例えばスパッタ法により、例えば膜厚2.5nmのFe(鉄)膜を形成し、Feの触媒金属膜32を形成する(図2(b))。なお、触媒金属膜32は、必ずしも基板30上の全面に形成する必要はなく、例えばリフトオフ法を用いて基板30の所定の領域上に選択的に形成するようにしてもよい。
【0038】
触媒金属としては、Feのほか、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Au(金)、Ag(銀)、Pt(白金)又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金を用いてもよい。また、触媒として、金属膜以外に、微分型静電分級器(DMA:differential mobility analyzer)等を用い、予めサイズを制御して作製した金属微粒子を用いてもよい。この場合も、金属種については薄膜の場合と同様でよい。
【0039】
また、これら触媒金属の下地膜として、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)、TaN(窒化タンタル)、TiSix(チタンシリサイド)、Al(アルミニウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)、TiOx(酸化チタン)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Cu(銅)、Au(金)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、TiN(窒化チタン)などの膜又はこれらのうち少なくとも一の材料を含む合金からなる膜を形成してもよい。例えば、Fe(2.5nm)/Al(10nm)の積層構造、Co(2.6nm)/TiN(5nm)の積層構造等を適用することができる。金属微粒子を用いる場合は、例えば、Co(平均直径:3.8nm)/TiN(5nm)などの積層構造を適用することができる。
【0040】
次いで、基板30上に、例えばホットフィラメントCVD法により、触媒金属膜32を触媒として、カーボンナノチューブ12を成長する。カーボンナノチューブ12の成長条件は、例えば、原料ガスとしてアセチレン・アルゴンの混合ガス(分圧比1:9)を用い、成膜室内の総ガス圧を1kPa、ホットフィラメント温度を1000℃、成長時間を25分とする。これにより、層数が3層〜6層(平均4層程度)、直径が4nm〜8nm(平均6nm)、長さが100μm(成長レート:4μm/min)の多層カーボンナノチューブを成長することができる。なお、カーボンナノチューブは、熱CVD法やリモートプラズマCVD法などの他の成膜方法により形成してもよい。また、成長するカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブでもよい。また、炭素原料としては、アセチレンのほか、メタン、エチレン等の炭化水素類や、エタノール、メタノール等のアルコール類などを用いてもよい。
【0041】
カーボンナノチューブ12の長さは、カーボンナノチューブシート10の用途によって決まり、特に限定されるものではないが、好ましくは5μm〜500μm程度の値に設定することができる。カーボンナノチューブシート10を、発熱源(例えば半導体素子)と放熱部品(例えばヒートスプレッダ)との間に形成するサーマルインターフェイスマテリアルとして使用する場合、少なくとも発熱源及び放熱部品の表面の凹凸を埋める長さ以上であることが望ましい。
【0042】
こうして、基板30上に、基板30の法線方向に配向(垂直配向)した複数のカーボンナノチューブ12を形成する(図2(c))。なお、上記の成長条件で形成したカーボンナノチューブ12では、カーボンナノチューブ12の面密度は、1×1011本/cm2程度であった。これは、基板30表面の面積のおよそ10%の領域上にカーボンナノチューブ12が形成されていることに相当する。
【0043】
次いで、基板30に成長したカーボンナノチューブ12上に、フィルム状に加工した熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂フィルム34)を載置する(図3(a))。熱可塑性樹脂フィルム34の膜厚は、カーボンナノチューブ12の長さに応じて適宜設定することが望ましい。例えば、図1に示すようにカーボンナノチューブ12の一方の端部のみが露出したカーボンナノチューブシート10を形成する場合には、カーボンナノチューブ12の長さと同程度、例えば5μm〜500μm程度が好適である。また、カーボンナノチューブ12の両端部が露出したカーボンナノチューブシート10を形成する場合には、カーボンナノチューブ12の長さよりも僅かに薄い程度、例えば4μm〜400μm程度が好適である。
【0044】
熱可塑性樹脂フィルム34の熱可塑性樹脂としては、例えば、以下に示すホットメルト樹脂を適用することができる。ポリアミド系ホットメルト樹脂としては、例えば、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」が挙げられる。また、ポリエステル系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH598B」が挙げられる。また、ポリウレタン系ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DH722B」が挙げられる。また、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂としては、例えば、松村石油株式会社製の「EP−90」が挙げられる。また、エチレン共重合体ホットメルト樹脂としては、例えば、ノガワケミカル株式会社製の「DA574B」が挙げられる。また、SBR系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6250」が挙げられる。また、EVA系ホットメルト樹脂としては、例えば、住友スリーエム株式会社製の「3747」が挙げられる。また、ブチルゴム系ホットメルト樹脂としては、例えば、横浜ゴム株式会社製の「M−6158」が挙げられる。
【0045】
ここでは、一例として、ヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」を厚さ100μmのフィルム状に加工した熱硬化性樹脂フィルム34を用いた場合について説明する。なお、「Micromelt6239」は、融解温度が135℃〜145℃、融解時粘度が5.5Pa.s〜8.5Pa.s(225℃)のホットメルト樹脂である。
【0046】
次いで、熱可塑性樹脂フィルム34を載置した基板30を、例えば195℃の温度で加熱する。これにより、熱可塑性樹脂フィルム34の熱可塑性樹脂が溶解し、カーボンナノチューブ12の間隙に徐々に浸透していく。こうして、熱可塑性樹脂フィルム34を、基板30の表面に達しない程度まで浸透させる(図3(b))。
【0047】
熱可塑性樹脂を予めシート状に加工しておくことにより、そのシート膜厚で充填材量のコントロールが可能となる。これにより、加熱温度や加熱時間のコントロールで、充填材が基板30まで浸潤しないようにコントロールすることができる。
【0048】
カーボンナノチューブ12の間隙に浸透する熱可塑性樹脂フィルム34の厚さは、熱処理時間によって制御することができる。例えば、上記条件で成長した長さ100μmのカーボンナノチューブ12に対しては、195℃で1分間の熱処理を行うことにより、熱可塑性樹脂フィルム34が基板30に達しない程度まで浸透させることができる。
【0049】
熱可塑性樹脂フィルム34の加熱時間は、熱可塑性樹脂フィルム34を基板30の表面に達しない程度に浸透させるように、カーボンナノチューブ12の長さ、熱可塑性樹脂の融解時の粘度、熱可塑性樹脂フィルム34の膜厚等に応じて適宜設定することが望ましい。
【0050】
カーボンナノチューブ12の両端部が露出したカーボンナノチューブシート10を製造する場合にあっては、カーボンナノチューブ12の長さよりも薄い熱可塑性樹脂フィルム34を用い、カーボンナノチューブ12の上端部が露出するまで熱可塑性樹脂フィルム34を浸透させるようにすればよい。
【0051】
なお、熱可塑性樹脂の形状は、予めフィルム状に加工しておくことが好適であるが、ペレット状や棒状でも構わない。
【0052】
次いで、熱可塑性樹脂フィルム34を所定の位置まで浸透させた後、室温まで冷却し、熱可塑性樹脂フィルム34を固化する。こうして、熱可塑性樹脂フィルム34の熱可塑性樹脂により形成され、カーボンナノチューブ12の間隙に充填された充填層14を形成する。
【0053】
次いで、カーボンナノチューブ12及び充填層14を、基板30から剥離する(図3(c))。この際、カーボンナノチューブ12と基板30との間の接合は弱いため、カーボンナノチューブ12及び充填層14を基板30から容易に剥離することができる。
【0054】
次いで、充填層14のカーボンナノチューブ12が露出している面を、表面が平坦な部材(例えば基板40)に押しつけ、カーボンナノチューブ12の充填層14から露出した部分が押し倒す(図4(a))。カーボンナノチューブ12は柔軟性に富んだ材料であるため、基板40に押し付けることにより、充填層14に埋め込まれていない部分のカーボンナノチューブ12を選択的に押し倒すことができる。
【0055】
なお、図4(a)の例では、複数のカーボンナノチューブ12の端部がランダムな方向に押し倒された状態を示しているが、必ずしもランダムな方向に押し倒されている必要はなく、複数のカーボンナノチューブ12を同じ方向に押し倒すようにしてもよい。
【0056】
このようにして、充填層14から露出した部分のカーボンナノチューブ12の端部をシートの表面と平行な方向に折れ曲げ、本実施形態によるカーボンナノチューブシート10を完成する(図4(b))。
【0057】
このように、本実施形態によれば、充填層から露出した部分のカーボンナノチューブをシートの表面と平行な方向に折り曲げるので、被着体に対するカーボンナノチューブの接触面積を大幅に増加することができる。これにより、被着体に対するカーボンナノチューブシートの接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。
【0058】
[第2実施形態]
第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法について図5乃至図10を用いて説明する。なお、図1乃至図4に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔にする。
【0059】
図5は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造を示す概略断面図である。図6及び図7は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す概略断面図である。図8乃至図10は、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法を示す斜視図である。
【0060】
はじめに、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの構造について図5を用いて説明する。
【0061】
本実施形態によるカーボンナノチューブシート10は、図5に示すように、充填層14で覆われているカーボンナノチューブ12の一端部に、被膜16が形成されているほかは、図1に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシート10と同様である。
【0062】
被膜16を形成する材料は、充填層14の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途にも用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。被膜16の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)等を用いることができる。また、被膜16は、単層構造である必要はなく、例えばチタン(Ti)と金(Au)との積層構造など、2層或いは3層以上の積層構造であってもよい。
【0063】
被膜16の膜厚は、製造過程において熱可塑性樹脂フィルム34の浸透を阻害しない膜厚であれば、特に限定されるものではない。被膜16の膜厚は、熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性、カーボンナノチューブシート10に要求される特性、被膜16の構成材料等に応じて適宜設定することが望ましい。
【0064】
熱伝導性の高い被膜16を設けることにより、被膜16を設けない場合と比較して、カーボンナノチューブシート10の被着体(放熱体、発熱体)に対する接触面積を増加することができる。これにより、カーボンナノチューブ12と被着体との間の接触熱抵抗が低減され、カーボンナノチューブシート10の熱伝導性を高めることができる。カーボンナノチューブシート10を導電性シートとしても用いる場合には、導電性を高めることができる。
【0065】
なお、図5では、充填層14で覆われているカーボンナノチューブ12の一方の端部に被膜16を形成した場合を示したが、充填層14から露出しているカーボンナノチューブ12の他方の端部にも被膜を形成するようにしてもよい。カーボンナノチューブ12の他方の端部のみに被膜16を形成するようにしてもよい。
【0066】
次に、本実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法について図6乃至図10を用いて説明する。
【0067】
まず、例えば図2(a)乃至図2(c)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、基板30上に、カーボンナノチューブ12を成長する。
【0068】
なお、図1乃至図5では、図面の簡略化のためにカーボンナノチューブ12を単純な円筒形状で描いたが、成長初期における成長ばらつき等により、必ずしも完全な円筒形状にはならない。カーボンナノチューブ12は、全体的に見ればシートの膜厚方向に配向するが、例えば、図8に示すようにカーボンナノチューブ12の上端部が基板30の法線方向に対して傾いて成長したり、カーボンナノチューブ12の長さにばらつきが生じたりすることがある。
【0069】
次いで、カーボンナノチューブ12上に、例えば蒸着法により、300nm程度の膜厚のAu(金)堆積し、Auの被膜16を形成する(図6(a))。被膜16は、カーボンナノチューブ12にダメージを与えない方法であれば、他の成膜方法(例えばスパッタ法等)を用いて形成してもよい。
【0070】
被膜16を形成する材料は、充填層14の構成材料よりも熱伝導率の高い材料であれば特に限定されるものではない。カーボンナノチューブシート10を電気伝導用途にも用いる場合には、導電性を有する材料、例えば、金属や合金等を適用することができる。被膜16の構成材料としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、金(Au)等を用いることができる。また、被膜16は、単層構造である必要はなく、例えばチタン(Ti)と金(Au)との積層構造など、2層或いは3層以上の積層構造であってもよい。
【0071】
被膜16は、成長初期段階では、例えば図9に示すように、各カーボンナノチューブ12の先端部分を覆うように形成される。成長膜厚が増加してくると、隣接する各カーボンナノチューブ12の先端部分に形成された被膜16が互いに接続される。これにより、被膜16は、例えば図10に示すように、複数本の各カーボンナノチューブ12の先端部分を束ねるように形成される。被膜16の成長膜厚を更に増加すると、被膜16がシートの表面に平行な2次元方向に完全に接続され、隙間のない完全な膜となる。
【0072】
形成する被膜16の膜厚は、充填層14を形成する際の熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性等を考慮して、カーボンナノチューブ12の直径や面密度に応じて適宜設定することが望ましい。
【0073】
例えば、カーボンナノチューブ12の直径が10nm、面密度が1×1011cm−2の場合、互いに隣接するカーボンナノチューブ12の間隙はおよそ50nmである。この場合、隣接するカーボンナノチューブ12間が被膜16により接続されるためには、少なくとも間隙の半分以上の膜厚、すなわち膜厚25nm程度以上の被膜16を形成することが望ましい。また、被膜16を厚くしすぎると被膜16が隙間のない完全な膜となり熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性が低下するため、被膜16の上限膜厚は、熱可塑性樹脂フィルム34の浸透性の面から設定することが望ましい。これらの観点から、上記条件のカーボンナノチューブ12では、被膜16の膜厚は、25nm〜1000nm程度に設定することが望ましい。
【0074】
次いで、例えば図3(a)乃至図3(b)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、カーボンナノチューブ12の間隙に熱可塑性樹脂フィルム34を浸透させ、充填層14を形成する(図6(b))。
【0075】
被膜16は、必ずしも隣接するカーボンナノチューブ12が互いに接続されるに十分な膜厚を形成する必要はないが、これには被膜16によって複数本のカーボンナノチューブ12を束ねる効果がある(例えば図10を参照)。これにより、熱可塑性樹脂フィルム34がカーボンナノチューブ12間に浸透する際に、カーボンナノチューブ12同士がばらばらになることを抑制することができる。また、隣接するカーボンナノチューブ12が互いに接続されることにより、横方向への熱伝導や電気伝導が可能となる。
【0076】
次いで、カーボンナノチューブ12、被膜16及び充填層14を基板30から剥離する(図6(c))。
【0077】
次いで、例えば図4(a)及び図4(b)に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートの製造方法と同様にして、充填層14から露出しているカーボンナノチューブ12の端部を押し倒し、本実施形態によるカーボンナノチューブシートを完成する(図7(a))。
【0078】
この後、必要に応じて、押し倒したカーボンナノチューブ12が露出している面上に、被膜16と同様の被膜18を形成する。被膜18の形成方法や形成材料等は、被膜16と同様である。
【0079】
このように、本実施形態によれば、充填層から露出した部分のカーボンナノチューブをシートの表面と平行な方向に折り曲げるので、被着体に対するカーボンナノチューブの接触面積を大幅に増加することができる。これにより、被着体に対するカーボンナノチューブシートの接触熱抵抗及び接触抵抗を大幅に低減することができる。また、カーボンナノチューブの少なくとも一方の端部に被膜を設けることにより、被着体に対するカーボンナノチューブシートの接触熱抵抗及び接触抵抗を更に低減することができる。
【0080】
[第3実施形態]
第3実施形態による電子機器及びその製造方法について図11乃至図13を用いて説明する。なお、図1乃至図10に示す第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシート及びその製造方法と同様の構成要素には同一の符号を付し説明を省略し又は簡潔にする。
【0081】
図11は、本実施形態による電子機器の構造を示す概略断面図である。図12は、本実施形態による電子機器の製造方法を示す工程断面図である。図13は、カーボンナノチューブシートの膜厚と熱抵抗との関係を示すグラフである。
【0082】
本実施形態では、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを熱伝導シートとして適用した電子機器及びその製造方法について説明する。
【0083】
はじめに、本実施形態による電子機器の構造について図11を用いて説明する。
【0084】
多層配線基板などの回路基板50上には、例えばCPUなどの半導体素子54が実装されている。半導体素子54は、はんだバンプなどの突起状電極52を介して回路基板50に電気的に接続されている。
【0085】
半導体素子54上には、半導体素子54を覆うように、半導体素子54からの熱を拡散するためのヒートスプレッダ58が形成されている。半導体素子54とヒートスプレッダ58との間には、第1又は第2実施形態のカーボンナノチューブシート56が形成されている。ヒートスプレッダ58は、例えば有機シーラント60によって回路基板50に接着されている。
【0086】
このように、本実施形態による電子機器では、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間、すなわち発熱部と放熱部との間に、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシート56が設けられている。
【0087】
上述のように、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートは、カーボンナノチューブ12がシートの膜厚方向に配向しており、面直方向の熱伝導度が極めて高いものである。また、充填層14の少なくとも一方の面側に折れ曲がったカーボンナノチューブ12が露出しており、被着体に対するカーボンナノチューブ12の接触面積が非常に大きくなっている。また、第2実施形態によるカーボンナノチューブシートでは、カーボンナノチューブ12の一端部或いは両端部に被膜16,18が形成されており、接触熱抵抗を大幅に低減することができる。
【0088】
したがって、開示のカーボンナノチューブシートを、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間に形成する熱伝導シートとして用いることにより、半導体素子54から発せられた熱を効率よくヒートスプレッダ58に伝えることができ、放熱効率を高めることができる。これにより、電子機器の信頼性を向上することができる。
【0089】
また、カーボンナノチューブシート56は、カーボンナノチューブ12を支持する充填層14の少なくとも表面層が、熱可塑性樹脂材料により形成されている。これにより、半導体素子54及びヒートスプレッダ58に対するカーボンナノチューブシート56の接着性を高めるとともに、カーボンナノチューブシート56による熱伝導性をも高めることができる。
【0090】
次に、本実施形態による電子機器の製造方法について図12を用いて説明する。
【0091】
まず、回路基板50上に、突起状電極52を介して半導体素子54を実装する。なお、本実施形態の図面では、本実施形態による電子機器の効果を判りやすくするために、半導体素子54とヒートスプレッダ58との対向する面の凹凸を強調して描いている。
【0092】
次いで、回路基板50上に実装した半導体素子54上に、第1又は第2実施形態に記載のカーボンナノチューブシート56を載置する(図12(a))。なお、本実施形態の図面には、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いた場合を示している。
【0093】
次いで、回路基板50上に、ヒートスプレッダ58を固定するための有機シーラント60を塗布した後、カーボンナノチューブシート56を載置した半導体素子54上にヒートスプレッダ58を被せる(図12(b))。
【0094】
次いで、ヒートスプレッダ58に荷重をかけた状態で熱処理を行い、カーボンナノチューブシート56をリフローする。充填層14として例えばヘンケルジャパン株式会社製の「Micromelt6239」を用いたカーボンナノチューブシート56では、例えば荷重0.25MPaを加えた状態で、例えば195℃、10分間の熱処理を行う。
【0095】
この熱処理により、カーボンナノチューブシート56の充填層14を形成する熱可塑性樹脂が液状融解し、半導体素子54及びヒートスプレッダ58の表面凹凸に沿ってカーボンナノチューブシート56が変形する。また、カーボンナノチューブシート54内のカーボンナノチューブ12は、充填層14による拘束がゆるみ、その端部は半導体素子54及びヒートスプレッダ58に直に接するようになる。この際、カーボンナノチューブ12はしなやかで柔軟性に富んだ材料であるため、半導体素子54及びヒートスプレッダ58が有する凹凸形状に追従して撓むことができる。これにより、半導体素子54及びヒートスプレッダ58に直に接するカーボンナノチューブ12が増加し、カーボンナノチューブシート56と半導体素子54及びヒートスプレッダ58との間の接触熱抵抗を大幅に低減することができる。
【0096】
このときの荷重は、カーボンナノチューブシート56が、半導体素子54及びヒートスプレッダ58の表面に存在する凹凸に沿って変形して十分な接触状態を形成する荷重範囲であればよい。また、熱処理の温度及び時間は、半導体素子54とヒートスプレッダ58との界面に介在する熱可塑性樹脂が融解して移動し、カーボンナノチューブ12の端部が半導体素子54及びヒートスプレッダ58に対して直に接する表面状態になる範囲を選択すればよい。
【0097】
次いで、室温まで冷却し、充填層14の熱可塑性樹脂を固化するとともに、ヒートスプレッダ58を有機シーラント60によって回路基板50上に固定する(図12(c))。この際、充填層14の熱可塑性樹脂は接着性を発現し、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間をカーボンナノチューブシート56によって接着固定することができる。これにより、室温に冷却した後も、カーボンナノチューブシート56と半導体素子54及びヒートスプレッダ58との間の低い接触熱抵抗を維持することができる。
【0098】
なお、上記の例では、カーボンナノチューブシート56とヒートスプレッダ58とを別々の電子部品としたが、予めヒートスプレッダ58の内面にカーボンナノチューブシート56を形成しておき、1つの電子部品としてもよい。この場合、カーボンナノチューブシート56の充填層14の形成面を、ヒートスプレッダ58の内面に接着することができる。
【0099】
図13は、カーボンナノチューブシートの膜厚と熱抵抗との関係を示すグラフである。熱抵抗は、カーボンナノチューブシートを介して接合された発熱体と放熱体との間の熱抵抗であり、例えば図11の例では、半導体素子54とヒートスプレッダ58との間の熱抵抗に相当する。図中、●印のプロットは、図1に示す第1実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いた場合である。□印のプロットは、カーボンナノチューブ12の端部を折り曲げていないカーボンナノチューブシート(図3(c)に示される構造に相当)を用いた場合である。
【0100】
図13に示すように、何れのカーボンナノチューブシートを用いた場合にも、シートの膜厚増加とともに熱抵抗が増加する傾向にある。これは、シートの膜厚の増加とともに熱の伝達経路が長くなるからである。
【0101】
一方、第1実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いた場合(●印)には、カーボンナノチューブ12の端部を折り曲げていないカーボンナノチューブシートを用いた場合(□印)と比較して、熱抵抗がおよそ20%低い値となっている。これは、カーボンナノチューブ12の端部を折り曲げることにより、被着体に対するカーボンナノチューブ12の接触面積が増加し、接触熱抵抗が低減したことによるものである。
【0102】
以上の結果にから、第1及び第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを用いることにより発熱体と放熱体との間の熱抵抗を大幅に低減できることを検証できた。
【0103】
このように、本実施形態によれば、半導体素子とヒートスプレッダとの間に、第1又は第2実施形態によるカーボンナノチューブシートを配置するので、これらの間の熱伝導度を大幅に向上することができる。これにより、半導体素子から発せられる熱の放熱効率を高めることができ、電子機器の信頼性を向上することができる。
【0104】
[変形実施形態]
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0105】
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0106】
例えば、上記実施形態では、炭素元素の線状構造体を用いた放熱材料の例としてカーボンナノチューブシートを示したが、炭素元素の線状構造体を用いた放熱材料は、これに限定されるものではない。炭素元素の線状構造体としては、カーボンナノチューブのほか、カーボンナノワイヤ、カーボンロッド、カーボンファイバが挙げられる。これら線状構造体は、サイズが異なるほかは、カーボンナノチューブと同様である。これら線状構造体を用いた放熱材料においても適用することができる。
【0107】
また、上記実施形態に記載の構成材料や製造条件は、当該記載に限定されるものではなく、目的等に応じて適宜変更が可能である。
【0108】
また、カーボンナノチューブシートの使用目的も、上記実施形態に記載のものに限定されるものではない。開示のカーボンナノチューブシートは、熱伝導シートとしては、例えば、CPUの放熱シート、無線通信基地局用高出力増幅器、無線通信端末用高出力増幅器、電気自動車用高出力スイッチ、サーバー、パーソナルコンピュータなどへの適用が考えられる。また、カーボンナノチューブの高い許容電流密度特性を利用して、縦型配線シートやこれを用いた種々のアプリケーションにも適用可能である。
【符号の説明】
【0109】
10…カーボンナノチューブシート
12…カーボンナノチューブ
14…充填層
16,18…被膜
30…基板
32…触媒金属膜
34…熱可塑性樹脂フィルム
50…回路基板
52…突起状電極
54…半導体素子
56…カーボンナノチューブシート
58…ヒートスプレッダ
60…有機シーラント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭素元素の線状構造体と、
複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを有し、
複数の前記線状構造体は、少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体は、前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっている
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項2】
請求項1記載のシート状構造体において、
複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部に形成され、前記熱可塑性樹脂よりも熱伝導率の高い材料の被膜を更に有する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシート状構造体において、
前記熱可塑性樹脂は、温度に応じて液体と固体との間で状態変化する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項4】
請求項3記載のシート状構造体において、
前記熱可塑性樹脂は、液体から固体に状態変化する際に接着性を発現する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート状構造体において、
前記充填層が配置された部分の複数の前記線状構造体は、前記充填層の膜厚方向に配向している
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項6】
発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と放熱体との間に配置され、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体と
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項7】
発熱体と放熱体との間に、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体を配置する工程と、
前記放熱材料を加熱して前記熱可塑性樹脂を融解する工程と、
前記放熱材料を冷却して前記熱可塑性樹脂を固化する工程と
を有することを特徴とする電子機器の製造方法。
【請求項1】
複数の炭素元素の線状構造体と、
複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを有し、
複数の前記線状構造体は、少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体は、前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっている
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項2】
請求項1記載のシート状構造体において、
複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部に形成され、前記熱可塑性樹脂よりも熱伝導率の高い材料の被膜を更に有する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシート状構造体において、
前記熱可塑性樹脂は、温度に応じて液体と固体との間で状態変化する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項4】
請求項3記載のシート状構造体において、
前記熱可塑性樹脂は、液体から固体に状態変化する際に接着性を発現する
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート状構造体において、
前記充填層が配置された部分の複数の前記線状構造体は、前記充填層の膜厚方向に配向している
ことを特徴とするシート状構造体。
【請求項6】
発熱体と、
放熱体と、
前記発熱体と放熱体との間に配置され、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体と
を有することを特徴とする電子機器。
【請求項7】
発熱体と放熱体との間に、複数の炭素元素の線状構造体と、複数の前記線状構造体間に配置された熱可塑性樹脂の充填層とを含み、複数の前記線状構造体の少なくとも一方の端部が前記充填層から露出しており、前記充填層から露出した部分の前記線状構造体が前記充填層の表面と平行な方向に折れ曲がっているシート状構造体を配置する工程と、
前記放熱材料を加熱して前記熱可塑性樹脂を融解する工程と、
前記放熱材料を冷却して前記熱可塑性樹脂を固化する工程と
を有することを特徴とする電子機器の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−204749(P2011−204749A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68173(P2010−68173)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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