説明

シール構造及び制御弁

【課題】可動するピストン部12とシリンダ部11との間隙DをOリング15でシールするとともに、Oリング15に加わる差圧の変動に対して摺動抵抗の変化を小さくして動作を安定させる。
【解決手段】ピストン部12に環状溝13を形成し、環状溝13内にOリング15を嵌め込む。環状溝13の低圧側側面13aと低圧側突起13a1とOリング15とにより形成される空間S1に、低圧側の間隙Dと連通する連通孔16を形成する。挿通孔11aとピストン部12との間隙Dを介して連通する二次室側の低圧を連通孔16を介してOリング15に加わえる。高圧通路14を介して連通する均圧室1f側の高圧をOリング15に加わえる。低圧と高圧の差圧によりOリング15を挿通孔11aに押圧してシリンダ部11とピストン部12との間隙をシールする。Oリング15をシリンダ部11側へ変形させる力を連通孔16側に分散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ部とピストン部との間隙をシールするシール構造及びこのシール構造を備えた制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池システム用に使用される電磁制御弁として、例えば特開2003−343758号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0003】
この電磁制御弁は、弁ハウジング内に弁ポートの開度調節を行う弁体を有し、電磁ソレノイドが発生する電磁力と当該電磁力に対抗するばね力との平衡関係によって弁体を中心軸に沿った方向に移動させ、弁ポートの開度を比例的に変化させるものである。また、電磁ソレノイド装置が生じる電磁力に応じて、つまり、電磁ソレノイド装置の電磁コイルに通電する電流の大小に応じて弁ポートの開度(弁開度)を比例的に変化し、コイル電流に応じて流量を定量的に制御する。
【0004】
さらに、弁ポートの一方の側に入口ポートと連通して弁体を収容する一次室が設けられ、弁ポートの他方の側に出口ポートと連通した二次室が設けられたものにおいて、一次室側に均圧通路(均圧導入路)によって二次室と連通した均圧室を設け、当該均圧室の圧力が二次室に対抗して弁体に作用するように構成している。そして、弁ポートの口径と均圧室の有効径とを等しく設定することにより、一次室と二次室との差圧が弁ポートの部分で弁体に作用する力を、一次室と均圧室との差圧が弁体に作用する力でキャンセルするようにしている。
【0005】
これにより、この圧力バランス方式の電磁制御弁では、一次側圧力と二次側圧力との差圧の影響を受けず、定電流時においては、一定の弁開度を維持した安定した流量制御を行うことが可能になる。
【0006】
しかしながら、上述した電磁制御弁では、一次室と均圧室とを気密分離して漏れ流量を無くすために、ダイヤフラムを用いている。このため構造が複雑になるという問題がある。これに対して、Oリングを用いて固定部と可動部との摺動部分をシールする構造が特開2004−116550号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−343758号公報
【特許文献2】特開2004−116550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記従来のOリングによるシール構造を、一次室と均圧室とを気密分離するのに適用すると、均圧室と二次室との差圧がOリングに作用するが、このOリングに作用する差圧が変化すると、Oリングが摺動部へ押圧する力が変化し、摺動抵抗が変化するので、例えば制御弁に適用するのが困難である。なお、上記の従来例では均圧室が二次室に均圧導入路により連通されているが、一次室と均圧室とを連通して、均圧室と二次室とを気密分離する構造でも同様である。
【0009】
本発明は、上述の如き問題点を解消するためになされたものであり、簡単な構成で差圧により摺動抵抗の変化を小さくし、安定したシール性を有するシール構造を提供することを課題とする。また、このシール構造により弁体の作動中にも均圧室と二次室間の漏れ流量を無くすことができ、安定した制御特性を有する制御弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のシール構造は、挿通孔を有するシリンダ部とこの挿通孔に整合して挿通されるピストン部とを有し、ピストン部がシリンダ部に対して挿通孔の軸方向に可動とされ、ピストン部またはシリンダ部の何れか一方にて前記軸を中心として環状に開口する開口部が他方の部材側に臨むように設けられたシール部材嵌合部を有し、このシール部材嵌合部内に環状の弾性シール部材が嵌め込まれ、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙を介して連通する低圧側の空間と、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙及び/または高圧通路を介して連通する高圧側の空間との差圧を前記弾性シール部材に作用することにより、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙をシールするシール構造であって、前記シール部材嵌合部の前記開口部の低圧側にこの開口部の内方向に突出する低圧側突起を設けるとともに、前記シール部材嵌合部の低圧側側面と前記低圧側突起と前記弾性シール部材とにより形成される空間に、前記低圧側の前記間隙と連通する連通孔を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項2のシール構造は、挿通孔を有するシリンダ部とこの挿通孔に整合して挿通されるピストン部とを有し、ピストン部がシリンダ部に対して挿通孔の軸方向に可動とされ、ピストン部またはシリンダ部の何れか一方にて前記軸を中心として環状に開口する開口部が他方の部材側に臨むように設けられたシール部材嵌合部を有し、このシール部材嵌合部内に環状の弾性シール部材が嵌め込まれ、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙を介して連通する低圧側の空間と、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙及び/または高圧通路を介して連通する高圧側の空間との差圧を前記弾性シール部材に作用することにより、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙をシールするシール構造であって、前記シール部材嵌合部の前記開口部の低圧側にこの開口部の内方向に突出する低圧側突起を設けるとともに、前記シール部材嵌合部の前記開口部と対向する底面と前記低圧側突起と前記弾性シール部材とにより形成される空間に、前記低圧側の前記間隙と連通する連通孔を設けたことを特徴とする。
【0012】
請求項3のシール構造は、請求項1または2に記載のシール構造であって、前記シール部材嵌合部の前記開口部の高圧側縁にこの開口部の内方向に突出する高圧側突起をさらに設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項4の制御弁は、入口ポートに連通する一次室と、出口ポートに連通する二次室と、前記一次室と前記二次室とを連通するとともに前記一次室側開口の周りに弁座シール部を画定する弁ポートとを有する弁ハウジングと、前記一次室及び前記二次室内に延在され前記弁座シール部に対して離接が可能な弁体を有する弁棒とを有し、前記弁棒が中心軸に沿った方向に移動して前記弁体で前記弁ポートの開度を変化させる制御弁において、請求項1乃至3の何れか一項に記載のシール構造を有し、前記二次室を挟む前記一次室と反対側にこの一次室に連通された均圧室が設けられるとともに、前記弁ハウジングは前記二次室から前記均圧室まで連通する前記挿通孔が形成された前記シリンダ部を有し、前記弁棒は前記挿通孔に整合して挿通される前記ピストン部を有し、請求項1乃至3の何れか一項に記載のシール構造として、前記弁ハウジングの前記シリンダ部または前記ピストン部に、前記シール部材嵌合部及び前記弾性シール部材を有し、前記二次室を前記低圧側の空間、前記均圧室を前記高圧側の空間として、前記シール構造を構成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1のシール構造によれば、低圧側の空間と高圧側の空間との差圧が弾性シール部材に作用することによりこの弾性シール部材が他方の部材に押圧されて、ピストン部と挿通孔との間隙がシールされる。このとき、シール部材嵌合部の開口部の低圧側に形成された低圧側突起により弾性シール部材の他方の部材側への変位が抑えられる。さらに、シール部材嵌合部の低圧側側面と低圧側突起と弾性シール部材とにより形成される空間が連通孔により低圧側の間隙と連通しているので、弾性シール部材を他方の部材側へ変形させる力がこの連通孔側に分散し、差圧が大きく変動しても、弾性シール部材による他方の部材への押圧力が大きく変動しない。したがって、弾性シール部材と挿通孔(シリンダ部)との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0015】
請求項2のシール構造によれば、請求項1と同様に、差圧によりシールされるとき、低圧側突起により弾性シール部材の他方の部材側への変位が抑えられ、さらに、シール部材嵌合部の底面と低圧側突起と弾性シール部材とにより形成される空間が連通孔により低圧側の間隙と連通しているので、弾性シール部材を他方の部材側へ変形させる力がこの連通孔側に分散し、差圧が大きく変動しても、弾性シール部材による他方の部材への押圧力が大きく変動しない。したがって、弾性シール部材と挿通孔(シリンダ部)との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0016】
請求項3のシール構造によれば、請求項1または2の効果に加えて、シール部材嵌合部の開口部の高圧側に形成された高圧側突起によっても弾性シール部材の他方の部材側への変位が抑えられる。
【0017】
請求項4の制御弁によれば、請求項1乃至3のシール構造により、弁ハウジングのシリンダ部と、弾性シール部材との摺動抵抗が、二次室と均圧室との差圧の変動に対して安定したものとなり、制御特性のヒステリシスを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の第1実施例のシール構造を有する制御弁の弁閉状態の縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明の実施形態の第2実施例のシール構造を有する制御弁の弁閉状態の縦断面図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】第3実施例のシール構造の要部拡大図である。
【図6】第4実施例のシール構造の要部拡大図である。
【図7】第5実施例のシール構造の要部拡大図である。
【図8】第6実施例のシール構造の要部拡大図である。
【図9】実施例の制御弁の特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は一実施の形態である第1実施例のシール構造を適用した制御弁の弁閉状態の縦断面図、図2は図1の要部拡大図である。この実施の形態の制御弁は、例えば流量を制御する圧力バランス型の電磁比例弁であり、電磁弁ユニット10と、本体ハウジング20とで構成されている。本体ハウジング20には、弁ユニット装着孔20A、この弁ユニット装着孔20Aに連通して流体が流入する流入通路210及び流体が流出する流出通路220が形成されている。弁ユニット装着孔20A内に電磁弁ユニット10が嵌合され、電磁弁ユニット10はフランジ10Aにて図示しないボルト等により本体ハウジング20に固着されている。
【0020】
電磁弁ユニット10は弁ハウジング1を有しており、弁ハウジング1と弁ユニット装着孔20Aとの間は所定位置でOリングにより封止されている。弁ハウジング1には、本体ハウジング20の流入通路210に連通する入口ポート1a、本体ハウジング20の流出通路220に連通する出口ポート1b、入口ポート1aに連通する一次室1c、出口ポート1bに連通する二次室1d、一次室1cと二次室1dを連通する弁ポート1eを有している。弁ポート1eは水平断面形状が円形であり、この弁ポート1eは一次室1c側開口の周りに弁座1e1を画定している。
【0021】
一次室1c、二次室1d及び弁ポート1e内には中心軸Lに沿った方向に移動可能な弁棒2が延在されている。弁棒2は、一次室1c内に位置して弁座1e1に対して離接が可能な円柱状の弁体2aを有している。
【0022】
弁体2aは、弁棒2の中心軸Lに沿った方向への移動により決まる弁座1e1との位置関係により、弁ポート1eの開度を設定する。そして、弁棒2の上方への移動により弁ポート1eの開度が増大し、弁棒2の下方への移動により弁ポート1eの開度が減少する。また、流体による一次室1cの内圧は二次室1dの内圧より高圧とされ、弁体2aには、この一次室1cの内圧と二次室1dの内圧との差圧が作用し、弁体2aは下方に力を受ける。この差圧が弁体2aに作用する面積は、弁ポート1eの内径(弁体2aの有効受圧径)により決まる。
【0023】
弁ハウジング1の一次室1c側(上側)には、電磁ソレノイド装置30のプランジャケース30aが気密に固定され、さらにプランジャケース30aの上部には、吸引子30bが気密に固定されている。また、プランジャケース30aの内部にはプランジャ30cが配設されている。そして、プランジャ30cの中心に弁棒2の連結ロッド2bが挿入され、連結ロッド2bの上端をか締めることにより、プランジャ30cと弁棒2が一体に固着されている。
【0024】
吸引子30bの中央には圧縮ばね30dが配設され、この圧縮ばね30dはプランジャ30cの上端に当接されている。また、吸引子30bはその上端にて止めナット30eにより外カン30fに固定されている。吸引子30bおよびプランジャケース30aの外周部には、ボビン30gに巻回された電磁コイル30hが設けられており、電磁コイル30hの励磁により、吸引子30bの下端面がプランジャ30cに対する磁気吸引面となる。
【0025】
本体ハウジング20において、弁ユニット装着孔20Aの最奥部分は均圧室1fを構成しており、本体ハウジング20には、流入通路210と均圧室1fとを連通する均圧導入路230が形成されている。
【0026】
弁ハウジング1はその下端部に均圧室1fと二次室1dとの間に位置するシリンダ部11を有しており、このシリンダ部11には、二次室1dから均圧室1fまで連通する挿通孔11aが形成されている。この挿通孔11aは水平断面形状が円形であり、弁ポート1eと同径寸法となっている。弁棒2は挿通孔11a内に整合して挿通される円柱状のピストン部12を有しており、このピストン部12には、その側面の全週にわたって中心軸Lを中心とする「シール部材嵌合部」としての環状溝13が形成されている。すなわち、環状溝13の開口部は軸L周りに環状となりシリンダ部11側に臨むように形成されている。また、ピストン部12には環状溝13と均圧室1fとを連通する高圧通路14が形成されている。そして、環状溝13内には「弾性シール部材」としての弾性部材からなる環状のOリング15が嵌め込まれており、Oリング15の外周縁はその弾性力により挿通孔11aの内周面に接触している。
【0027】
以上の構成により、実施形態の電磁制御弁は次のように作用する。電磁ソレノイド装置30において圧縮ばね30dはプランジャ30cを介して弁棒2を弁座部1e1側に付勢している。電磁コイル30hを励磁することにより、プランジャ30cが吸引子30bに吸引され、弁棒2は圧縮ばね30dの付勢力に抗して弁座部1e1から離れる方向に移動し、弁閉から弁開となるとともに前述のように弁体2aと弁座部1e1との中心軸Lに沿った方向の位置関係により、弁ポート1eの開度(流量)が制御される。また、電磁コイル30hの励磁を無くすことにより弁体2aが弁座部1e1に着座(接触)し、弁閉となる。このように、電磁ソレノイド装置30が生じる電磁力と、圧縮ばね30dのばね力との平衡関係によって弁棒2が中心軸Lに沿った方向に移動し、弁体2aで弁ポート1eの開度を変化させる。
【0028】
また、弁体2aには前述のように一次室1cの内圧と二次室1dの内圧の差圧が作用して下方に力が加わる。一方、均圧室1fは均圧導入路230によって一次室1cと連通されているので、均圧室1fの内圧と二次室1dの内圧との差圧がピストン部12に作用し、ピストン部12には上方に力が加わる。そして、弁ポート1eの内径(弁体2aの有効受圧径)と、挿通孔11aの内径(ピストン部12の有効受圧径)とが等しいので、弁棒2に対しては、差圧による力は互いにキャンセルされ、弁体2aの開閉に差圧の影響を受けない流量制御が可能になる。
【0029】
さらに、環状溝13は高圧通路14により均圧室1fと連通しており、Oリング15の内側は均圧室1fからの背圧を受け、このOリング15の外周面は環状溝13の開口部を介して挿通孔11aに押圧される。これにより、ピストン部12と挿通孔11aとの間の間隙(クリアランス)からの漏れを防止できる。
【0030】
そして、後述のように、前記Oリング15に加わる背圧(高圧)と二次室1dの内圧との差圧が変動しても、Oリング15が挿通孔11aに押圧される力の変動が低減され、Oリング15と挿通孔11aとの摺動抵抗の変動が抑えられる。
【0031】
図2に示すように、環状溝13は、低圧側(二次室1d側)に位置する低圧側側面13aと、高圧側(均圧室1f側)に位置する高圧側側面13bと、低圧側側面13aと高圧側側面13bの間でシリンダ部11と反対側に位置する底面13cとを有している。そして、低圧側側面13aのシリンダ部11側の部位(開口部の低圧側)には、環状溝13の開口部の内方向(高圧側側面13b側)に突出する低圧側突起13a1が形成されている。また、高圧側側面13bのシリンダ部11側の部位(開口部の高圧側)には、環状溝13の内方向(低圧側側面13a側)に突出する高圧側突起13b1が形成されている。さらに、環状溝13の低圧側側面13aと低圧側突起13a1とOリング15とにより形成される空間S1に、低圧側の間隙Dと連通する連通孔16が形成されている。
【0032】
以上の構成により、挿通孔11a(シリンダ部11)とピストン部12との間隙Dを介して連通する二次室1d側の低圧が連通孔16を介してOリング15に加わる。また、高圧通路14を介して連通する均圧室1f側の高圧がOリング15に加わる。そして、この低圧と高圧の差圧がOリング15に作用することにより、Oリング15は挿通孔11aの内周面に対して中心軸Lから外側半径方向に押圧され、挿通孔11a(シリンダ部11)とピストン部12との間隙がシールされる。
【0033】
このとき、Oリング15は差圧により弾性変形するが、低圧側突起13a1と高圧側突起13b1とにより、Oリング15全体の挿通孔11a側への変位(膨張)が抑えられ、低圧側突起13a1と高圧側突起13b1との間の部分のみが膨出して挿通孔11aの内周面に押圧される。さらに、Oリング15には、低圧側に連通する連通孔16により、空間S1の部分において低圧と高圧の差圧が作用し、この空間S1の部分が連通孔16側に膨出する。すなわち、Oリング15をシリンダ部11側へ変形させる力が連通孔16側に分散する。したがって、差圧が大きく変動しても、Oリング15によるシリンダ部11への押圧力が大きく変動せず、シリンダ部11とOリング15との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0034】
図9は従来の制御弁と実施例の制御弁の制御特性を比較する図であり、図に示すヒステリシスAは、例えば連通孔16が無い場合でピストン部の摺動抵抗が大きいものであり、そのヒステリシス量は大きくなる。また、制御量すなわち差圧によりヒステリシス量が変化している。これに対して、実施例のシール構造によれば、ヒステリシスBのように、ヒステリシス量は小さく差圧によらず一定になっている。
【0035】
図3は第2実施例のシール構造を適用した制御弁の弁閉状態の縦断面図、図4は図3の要部拡大図である。以下の各実施例でシール構造の部分の符号については、その数字の最上位桁が実施例の番号であり、第1実施例と同様な要素及び対応する要素には下位桁の数字を第1実施例と同数字としている。また、第1実施例と同じ要素には第1実施例と同符号を付記してある。さらに、制御弁の動作は第1実施例と同様である。
【0036】
この第2実施例では、弁ハウジング1はその下端部に均圧室1fと二次室1dとの間に位置するシリンダ部21を有しており、このシリンダ部21には、二次室1dから均圧室1fまで連通する挿通孔21aが形成されている。この挿通孔21aは水平断面形状が円形であり、弁ポート1eと同径寸法となっている。また、弁棒2は挿通孔21a内に整合して挿通される円柱状のピストン部22を有している。
【0037】
この第2実施例では、ピストン部22が第1ピストン22Aと第2ピストン22Bとで構成され、第1ピストン22Aと第2ピストン22Bとの対向部分の間隙がシール部材嵌合部23となっている。そして、第1ピストン22Aと第2ピストン22Bとで挟まれるようにして、Oリング25がシール部材嵌合部23内に嵌め込まれている。また、シリンダ部21の下端部には、均圧室1f側に開口を有する円筒形状のケース211が形成されている。ケース211内には、第2ピストン22Bが嵌合され、このケース211の開口の内側には下ばね受け27が固定されている。そして、第2ピストン22Bと下ばね受け27との間にはガイドばね27aが配設されている。また、下ばね受け27には第2ピストン22B側の空間と均圧室1fとを連通する高圧通路271が形成されるとともに、第2ピストン22Bには、シール部材嵌合部23と均圧室1fとを連通する高圧通路24が形成されている。
【0038】
図4に示すように、シール部材嵌合部23は、第1ピストン22Aの底面を低圧側(二次室1d側)に位置する低圧側側面23aとし、第2ピストン22Bの上面を高圧側(均圧室1f側)に位置する高圧側側面23bとして有している。そして、低圧側側面23aのシリンダ部21側の部位(開口部の低圧側)には、シール部材嵌合部23の開口部の内方向(高圧側側面23b側)に突出する低圧側突起23a1が形成されている。また、高圧側側面23bのシリンダ部21側の部位(開口部の高圧側)には、シール部材嵌合部23の内方向(低圧側側面23a側)に突出する高圧側突起23b1が形成されている。さらに、シール部材嵌合部23の低圧側側面23aと低圧側突起23a1とOリング25とにより形成される空間S2に、低圧側の間隙Dと連通する連通孔26が形成されている。
【0039】
以上の構成により、挿通孔21a(シリンダ部21)と第1ピストン22Aとの間隙Dを介して連通する二次室1d側の低圧が連通孔26を介してOリング25に加わる。また、高圧通路24を介して連通する均圧室1f側の高圧がOリング25に加わる。そして、この低圧と高圧の差圧がOリング25に作用することにより、Oリング25は挿通孔21aの内周面に対して中心軸Lから外側半径方向に押圧され、挿通孔21a(シリンダ部21)とピストン部22との間隙がシールされる。
【0040】
このとき、Oリング25は差圧により弾性変形するが、低圧側突起23a1と高圧側突起23b1とにより、Oリング25全体の挿通孔21a側への変位(膨張)が抑えられ、低圧側突起23a1と高圧側突起23b1との間の部分のみが膨出して挿通孔21aの内周面に押圧される。さらに、Oリング25には、低圧側に連通する連通孔26により、空間S2の部分において低圧と高圧の差圧が作用し、この空間S2の部分が連通孔26側に膨出する。すなわち、Oリング25をシリンダ部21側へ変形させる力が連通孔26側に分散する。したがって、差圧が大きく変動しても、Oリング25によるシリンダ部21への押圧力が大きく変動せず、シリンダ部21とOリング25との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0041】
図5は第3実施例のシール構造の縦断面の要部拡大図であり、第1実施形態と同様な制御弁において構成されている。第3実施例と第1実施例との違いは、第1実施例では高圧側突起13b1が形成されているのに対して、この第3実施例では低圧側突起33a1は形成されているが高圧側突起が形成されていない点である。すなわち、この第3実施例では、Oリング35全体の挿通孔11a側への変位(膨張)は低圧側突起33a1だけにより抑えられる。
【0042】
そして、この第3実施例でも、第1実施例と同様に、環状溝33の低圧側側面33aと低圧側突起33a1とOリング35とにより形成される空間S3に、低圧側の間隙Dと連通する連通孔36が形成されている。そして、Oリング35の弾性変形により挿通孔11aとピストン部32との間隙がシールされるが、Oリング35には、低圧側に連通する連通孔36により、空間S3の部分において低圧と高圧の差圧が作用し、この空間S3の部分が連通孔36側に膨出し、Oリング35をシリンダ部11側へ変形させる力が連通孔36側に分散する。したがって、差圧が大きく変動しても、Oリング35によるシリンダ部11への押圧力が大きく変動せず、シリンダ部11とOリング35との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0043】
図6は第4実施例のシール構造の縦断面の要部拡大図であり、第1実施形態と同様な制御弁において構成されている。
【0044】
第1実施例のピストン部12に対応するピストン部42には、その側面の全週にわたって中心軸L(図1参照)を中心とする「シール部材嵌合部」としての環状アリ溝43が形成されている。すなわち、環状アリ溝43の開口部は軸L周りに環状となりシリンダ部11側に臨むように形成されている。そして、環状アリ溝43内には弾性部材からなる環状のOリング45が嵌め込まれている。
【0045】
環状アリ溝43は、低圧側(二次室1d側)に位置する低圧側側面43aと、高圧側(均圧室1f側)に位置する高圧側側面43bと、低圧側側面43aと高圧側側面43bの間でシリンダ部11と反対側に位置する底面43cとを有している。そして、低圧側側面43aは傾斜しており、ピストン部42の低圧側側面43aの部分は、シリンダ部11側の部位(開口部の低圧側)に位置し、環状アリ溝43の開口部の内方向(高圧側側面43b側)に突出する低圧側突起43a1を構成している。また、環状アリ溝43の底面43cと該低圧側突起43a1とOリング45とにより形成される空間S4に、低圧側の間隙Dと連通する連通孔46が形成されている。
【0046】
以上の構成により、挿通孔11aとピストン部42との間隙D1を介して連通する二次室1d側の低圧が連通孔46を介してOリング45に加わる。また、挿通孔11aとピストン部42との間隙D2を介して連通する均圧室1f側の高圧がOリング45に加わる。そして、この低圧と高圧の差圧がOリング45に作用することにより、Oリング45は挿通孔11aの内周面に対して中心軸Lから外側半径方向に押圧され、挿通孔11aとピストン部42との間隙がシールされる。このとき、Oリング45全体の挿通孔11a側への変位(膨張)は低圧側突起43a1により抑えられる。
【0047】
また、Oリング45の弾性変形により挿通孔11aとピストン部42との間隙がシールされるが、Oリング45には、低圧側に連通する連通孔46により、空間S4の部分において低圧と高圧の差圧が作用し、この空間S4の部分が連通孔46側に膨出し、Oリング45をシリンダ部11側へ変形させる力が連通孔46側に分散する。したがって、差圧が大きく変動しても、Oリング45によるシリンダ部11への押圧力が大きく変動せず、シリンダ部11とOリング45との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0048】
図7は第5実施例のシール構造の縦断面の要部拡大図であり、第1実施形態と同様な制御弁において構成されている。第5実施例は第4実施例に類似しており、この第5実施例と第4実施例との違いは、第4実施例の環状アリ溝43に対応する環状アリ溝53の構造である。第4実施例では低圧側突起43a1しか形成されていないのに対し、この第5実施例では環状アリ溝53は、低圧側側面53aとともに高圧側側面53bも傾斜しており、ピストン部52の高圧側側面53bの部分は、シリンダ部11側の部位(開口部の高圧圧側)に位置し、環状アリ溝53の開口部の内方向(低圧側側面53a側)に突出する高圧側突起53b1を構成している。この第5実施例では、Oリング55全体の挿通孔11a側への変位(膨張)が低圧側突起53a1と高圧側突起53b1により抑えられる。
【0049】
この第5実施例でも、第4実施例と同様に、環状アリ溝53の底面53cと低圧側突起53a1とOリング55とにより形成される空間S5に、低圧側の間隙D1と連通する連通孔56が形成されている。また、挿通孔11aとピストン部52との間隙D2を介して連通する均圧室1f側の高圧がOリング55に加わる。Oリング55の弾性変形により挿通孔11aとピストン部52との間隙がシールされるが、Oリング55には、低圧側に連通する連通孔56により、空間S5の部分において低圧と高圧の差圧が作用し、この空間S5の部分が連通孔56側に膨出し、Oリング55をシリンダ部11側へ変形させる力が連通孔56側に分散する。したがって、差圧が大きく変動しても、Oリング55によるシリンダ部11への押圧力が大きく変動せず、シリンダ部11とOリング55との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0050】
図8は第6実施例のシール構造の縦断面の要部拡大図であり、第2実施形態と同様な制御弁において構成されている。この第6実施例のピストン部62は第1ピストン62Aと第2ピストン62Bとで構成されている。第1ピストン62Aの中央には筒状のボス62A1が形成され、第2ピストン62Bの中央には軸62B1が形成され、軸62B1がボス62A1内に嵌合されている。そして、ボス62A1の外周の第1ピストン62Aと第2ピストン62Bとの対向部分がアリ溝状のシール部材嵌合部63となり、Oリング65がシール部材嵌合部63内に嵌め込まれている。シリンダ部21の下端部の構造は第2実施例と同様であり、例えば第2ピストン62Bの下にはガイドばね27aが配設されている。なお、ボス62A1と軸62B1をスポット溶着またはねじ込みにより固定すればガイドばね27aは不要である。
【0051】
また、シール部材嵌合部63は、第1ピストン62Aの底面を低圧側に位置する低圧側側面63aとし、第2ピストン22Bの上面を高圧側に位置する高圧側側面63bとして有している。また、シール部材嵌合部63は、ボス62A1の外周面を底面63cとして有している。そして、低圧側側面63aのシリンダ部21側の部位(開口部の低圧側)には、シール部材嵌合部23の開口部の内方向(高圧側側面63b側)に突出する低圧側突起63a1が形成されている。また、高圧側側面63bのシリンダ部21側の部位(開口部の高圧側)には、シール部材嵌合部63の内方向(低圧側側面63a側)に突出する高圧側突起63b1が形成されている。
【0052】
また、シール部材嵌合部63の底面63cと低圧側突起63a1とOリング65とにより形成される空間S6aに、低圧側の間隙D1と連通する連通孔66aが形成されている。さらに、連通孔66aはボス62A1と軸62B1との隙間66bに連通され、この隙間66bはボス62A1の端部と第2ピストン62Bとの隙間66cに連通されている。そして、これら、連通孔66a、隙間66b,66cは、シール部材嵌合部63の底面63cと高圧側側面63bとOリング65とにより形成される空間S6bを、低圧側の間隙D1に連通している。
【0053】
以上の構成により、挿通孔21a(シリンダ部21)と第1ピストン62Aとの間隙D1を介して連通する二次室1d側の低圧が連通孔66a、隙間66b,66cを介してOリング65に加わる。また、挿通孔21aと第2ピストン62Bとの間隙D2を介して連通する均圧室1f側の高圧がOリング65に加わる。Oリング65の弾性変形により挿通孔21aとピストン部62との間隙がシールされるが、Oリング65には、空間S6aと空間S6bの部分において低圧と高圧の差圧が作用し、この空間S6a,S6bの部分でOリング65は膨出し、Oリング65をシリンダ部21側へ変形させる力が連通孔66a、隙間66c側に分散する。したがって、差圧が大きく変動しても、Oリング65によるシリンダ部21への押圧力が大きく変動せず、シリンダ部21とOリング65との摺動抵抗が差圧の変動に対して安定したものとなる。
【0054】
各実施例において、連通孔は軸L周りに等間隔に数カ所あるいは多数箇所形成すればよい。
【0055】
また、実施例においては、シール部材嵌合部をピストン部側に形成し、Oリングをピストン部側に配置するようにしているが、シリンダ部側にシール部材嵌合部を形成し、Oリングをシリンダ部側に配置するようにしてもよい。この場合、連通孔もシリンダ部側に形成することはいうまでもない。すなわち、Oリングは可動部側あるいは固定部側の何れに配置してもよい。
【0056】
また、実施形態では、本発明のシール構造を制御弁に適用した例について説明したが、シリンダ部とピストン部との間を弾性シール部材でシールしこのシール部分の両側に差圧が生じるような構造であれば、その他各種の装置に適用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 弁ハウジング
1a 入口ポート
1b 出口ポート
1c 一次室
1d 二次室
1e 弁ポート
1f 均圧室
2 弁棒
2a 弁体
11,21 シリンダ部
11a,21a 挿通孔
12,22,32,42,52,62 ピストン部
13,33 環状溝
23,63 シール部材嵌合部
43,53 環状アリ溝
14,24 高圧通路
15,25,35,45,55,65 Oリング
16,26,36,46,56,66a 連通孔
13a,23a,33a,43a,53a,63a 低圧側側面
13b,23b,33b,43b,53b,63b 高圧側側面
13c,33c,43c,53c,63c 底面
13a1,23a1,33a1,43a1,53a1,63a1 低圧側突起
13b1,23b1,53b1,63b1 高圧側突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿通孔を有するシリンダ部とこの挿通孔に整合して挿通されるピストン部とを有し、ピストン部がシリンダ部に対して挿通孔の軸方向に可動とされ、ピストン部またはシリンダ部の何れか一方にて前記軸を中心として環状に開口する開口部が他方の部材側に臨むように設けられたシール部材嵌合部を有し、このシール部材嵌合部内に環状の弾性シール部材が嵌め込まれ、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙を介して連通する低圧側の空間と、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙及び/または高圧通路を介して連通する高圧側の空間との差圧を前記弾性シール部材に作用することにより、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙をシールするシール構造であって、
前記シール部材嵌合部の前記開口部の低圧側にこの開口部の内方向に突出する低圧側突起を設けるとともに、前記シール部材嵌合部の低圧側側面と前記低圧側突起と前記弾性シール部材とにより形成される空間に、前記低圧側の前記間隙と連通する連通孔を設けたことを特徴とするシール構造。
【請求項2】
挿通孔を有するシリンダ部とこの挿通孔に整合して挿通されるピストン部とを有し、ピストン部がシリンダ部に対して挿通孔の軸方向に可動とされ、ピストン部またはシリンダ部の何れか一方にて前記軸を中心として環状に開口する開口部が他方の部材側に臨むように設けられたシール部材嵌合部を有し、このシール部材嵌合部内に環状の弾性シール部材が嵌め込まれ、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙を介して連通する低圧側の空間と、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙及び/または高圧通路を介して連通する高圧側の空間との差圧を前記弾性シール部材に作用することにより、前記ピストン部と前記挿通孔との間隙をシールするシール構造であって、
前記シール部材嵌合部の前記開口部の低圧側にこの開口部の内方向に突出する低圧側突起を設けるとともに、前記シール部材嵌合部の前記開口部と対向する底面と前記低圧側突起と前記弾性シール部材とにより形成される空間に、前記低圧側の前記間隙と連通する連通孔を設けたことを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシール構造であって、前記シール部材嵌合部の前記開口部の高圧側縁にこの開口部の内方向に突出する高圧側突起をさらに設けたことを特徴とするシール構造。
【請求項4】
入口ポートに連通する一次室と、出口ポートに連通する二次室と、前記一次室と前記二次室とを連通するとともに前記一次室側開口の周りに弁座シール部を画定する弁ポートとを有する弁ハウジングと、
前記一次室及び前記二次室内に延在され前記弁座シール部に対して離接が可能な弁体を有する弁棒とを有し、
前記弁棒が中心軸に沿った方向に移動して前記弁体で前記弁ポートの開度を変化させる制御弁において、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のシール構造を有し、
前記二次室を挟む前記一次室と反対側にこの一次室に連通された均圧室が設けられるとともに、前記弁ハウジングは前記二次室から前記均圧室まで連通する前記挿通孔が形成された前記シリンダ部を有し、
前記弁棒は前記挿通孔に整合して挿通される前記ピストン部を有し、
請求項1乃至3の何れか一項に記載のシール構造として、前記弁ハウジングの前記シリンダ部または前記ピストン部に、前記シール部材嵌合部及び前記弾性シール部材を有し、前記二次室を前記低圧側の空間、前記均圧室を前記高圧側の空間として、前記シール構造を構成していることを特徴とする制御弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−80533(P2011−80533A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−233075(P2009−233075)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(000143949)株式会社鷺宮製作所 (253)
【Fターム(参考)】