説明

ジグリシジルイソシアヌリル変性オルガノポリシロキサン及びそれを含む組成物

【課題】耐光性及び耐クラック性に優れた硬化物を与える化合物及び該化合物を含む光半導体封止用組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表され、(3,5−ジグリシジルイソシアヌリル)アルキル基を少なくとも主鎖の両末端に備えるオルガノポリシロキサン。


(Rは、互いに独立に、炭素数1〜20の置換または非置換の1価炭化水素基、R2はエポキシ基を含するイソシアヌル基、Xはオルガノシロキサン基、aは0〜100の整数、bは0〜30の整数、但し、1≦a+bであり、及びcは0〜10の整数である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖の少なくとも両末端にジグリシジルイソシアヌリルアルキル基を備え、耐光性、耐熱性、透明性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサン及びそれを含む光半導体素子封止用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばLED等の光半導体素子を封止するために、透明エポキシ樹脂組成物が広く用いられている。通常、該エポキシ樹脂組成物は、脂環式エポキシ樹脂、硬化剤および硬化触媒を含有しており、キャスティング、トランスファー成形などの成形方法にて、光半導体素子が配置された金型に流しこみ硬化させることにより、光半導体素子を封止する(特許文献1)。
【0003】
しかし、近年、LEDがますます高輝度化、高出力化するのに伴い、従来の透明エポキシ樹脂硬化物では、波長の短い青色光や紫外線により経時で変色し、また温度サイクル試験でクラックが発生する問題が発生している。
【0004】
このような光劣化を防ぐために、シロキサンにエポキシ基、オキセタニル基を導入すること(特許文献2)、及び、シルセスキオキサンにエポキシ基を導入すること(特許文献3)が知られている。
【0005】
また、クラックを防ぐために、高硬度のゴム状シリコーン樹脂を保護被覆用に使用することが提案されている(特許文献4)。さらに、シリコーン樹脂にイソシアヌル酸誘導体基を導入したものを、エポキシ樹脂硬化物の応力低下剤として使用することが知られている(特許文献5参照)。
【0006】
しかし、これらのいずれも、ケース型の発光半導体装置、即ち、セラミック及び/又はプラスチック筐体内に発光素子を配置し、その筐体内部をシリコーン樹脂で充填したもの、に適用すると、耐光性と耐クラック性の双方を十分に満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−274571号公報
【特許文献2】特開2004−238589号公報
【特許文献3】特開2005−263869号公報
【特許文献4】特開2002−314143号公報
【特許文献5】特開2004−99751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、耐光性及び耐クラック性に優れた硬化物を与える化合物及び該化合物を含む光半導体封止用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、下記オルガノポリシロキサンが、耐光性及び耐クラック性に優れた硬化物を与えることを見出した。即ち、本発明は、下記式(1)で表され、下記式(2)で表される(3,5−ジグリシジルイソシアヌリル)アルキル基を少なくとも主鎖の両末端に備えるオルガノポリシロキサンである。
【0010】
【化1】

(Rは、互いに独立に、炭素数1〜20の置換または非置換の1価炭化水素基、R2は下記式(2)で示される基、Xは下記式(3)で示される基、aは0〜100の整数、bは0〜30の整数、但し、1≦a+bであり、及びcは0〜10の整数である)
【0011】
【化2】

【0012】
(Rは炭素数2〜12のアルキレン基である)
【0013】
【化3】


(R及びRは上記のとおりであり、dは0〜30の整数、eは0〜30の整数である)
また、本発明は上記オルガノポリシロキサンを含む光半導体素子封止用の組成物である。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明のオルガノポリシロキサンは主鎖の両末端に、好ましくは側鎖にも、(3,5−ジグリシジルイソシアヌリル)アルキル基を備えるので、反応性が高く、短時間で、架橋構造による硬度の高い硬化物を与える。該硬化物は耐クラック性能に優れ、且つ、耐光性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例で調製した化合物IのIRスペクトルである。
【図2】実施例で調製した化合物IのNMRスペクトルである。
【図3】実施例で調製した化合物VのIRスペクトルである。
【図4】実施例で調製した化合物VのNMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I.本発明のオルガノポリシロキサン及びその製法
本発明のオルガノポリシロキサンは、シロキサン主鎖の少なくとも両末端に、下記式(2)で表される(3,5−ジグリシジルイソシアヌリル)アルキル基を備えることを特徴とする。
【0017】
【化4】

は炭素数2〜12のアルキレン基であり、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。
【0018】
式(1)において、aは0〜100の整数、好ましくは0〜30、より好ましくは0〜20の整数であり、bは0〜30、好ましくは0〜10の整数であり、但しa+bは1以上である。a、bが前記上限値超ではエポキシ基当量が大きくなり過ぎ、所望の耐クラック性、硬度、耐ガス透過性等が得られ難くなる。
【0019】
は、夫々、独立に炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基などのアリール基、さらに、これらが置換された、3,3,3−トリフロロプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−アミノプロピル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基、フェニル基が好ましく、全Rの90モル%以上がメチル基であることが好ましい。
【0020】
式(1)においてcが1以上であることが耐クラック性の点で好ましく、より好ましくはc=1〜6である。cが10を超えると、架橋密度が高くなりすぎ、また、硬化物が脆くなる傾向がある。
【0021】
側鎖Xは下記式(3)で表される。
【0022】
【化5】


ここで、Rは上式(2)で表される基である。d、eは、夫々、0〜30、好ましくは0〜20、より好ましくは0〜10の整数である。d、eが前記上限値超では硬化剤との相溶性が悪くなる傾向がある。
【0023】
本発明のオルガノポリシロキサンの例を下記に示す。ここで、a、c、dは上述のとおりである。
【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
該オルガノポリシロキサンは、炭素数2〜12のアルケニル基、例えばビニル基、1−アリル基、1−ウンデセン基を有する3,5−ジグリシジルイソシアヌレートを、下記式(4)で示されるヒドロシリル基を有するシリコーンのヒドロシリル基1モルに対し、少なくとも1モル、望ましくは1.0〜1.5モルの範囲で白金触媒等の付加反応触媒を使用し、80〜150℃に加熱して反応させることで製造することができる。
【0027】
【化8】

ここで、R、X、a〜cは上述のとおりである。
【0028】
アルケニル基を有する3,5−ジグリシジルイソシアヌレートの量が前記下限値未満では未反応のヒドロシリル基が多量に残存し、これを用いた組成物の硬化時に発泡の原因となり得、一方、前記上限値超では未反応のアルケニル基を有する3,5−ジグリシジルイソシアヌレートが系内に残存し、硬化物の特性を損なう場合がある。
【0029】
白金触媒としては塩化白金酸2%オクチルアルコール溶液を使用することができ、使用する白金量としては5〜50ppm程度であってよい。反応条件としては80〜100℃で1〜8時間反応させることにより高収率で化合物を合成することが出来る。本反応には芳香族系、ケトン系などの溶剤を使用して反応させても良い。
【0030】
式(4)のシリコーンとしては下記のものを例示することができ、これらの混合物であってもよい。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

【0038】
II.組成物
以下、本発明のオルガノポリシロキサン(以下(A)成分という場合がある)を含む組成物について説明する。
【0039】
該組成物は、エポキシ基と反応する(C)硬化剤を含む。該硬化剤としては、一般的に使用されるアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤を挙げることができるが、光透過性、耐熱性などから酸無水物系硬化剤が望ましい。
【0040】
酸無水物系硬化剤としては、無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、3−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸、あるいは4−メチル−ヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸との混合物、テトラヒドロ無水フタル酸、メチル-テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、無水メチルナジック酸、ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルノルボルナン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物などを挙げることができる。硬化剤(C)の配合量は、(A)成分100質量部に対して、10〜100質量部、好ましくは20〜60質量であり、これは、エポキシ基1当量に対して、エポキシ基と反応性の基が0.5〜1.5当量、好ましくは0.8〜1.2当量、に相当する。
【0041】
本発明の組成物は、硬化反応を円滑に、かつ短時間で完了させるために、(D)硬化触媒を含む。該硬化触媒としては、第四級ホスホニウム塩の1種又は2種以上、特に下記式(8)で示される化合物及び/又は下記式(9)で示される第四級ホスホニウム塩を用いることが好ましい。これにより、透明で、表面タック性がなく、変色の無い硬化物が生成される。下記式(8)及び(9)で示される化合物以外の第四級ホスホニウム塩の例としては、第四級ホスホニウムのブロマイド塩(「U−CAT5003」(商標)、サンアプロ社製)を挙げることができる。
【0042】
【化16】

【0043】
上記触媒と、他の硬化触媒を併用することもできる。このような他の硬化触媒としては、トリフェニルフォスフィン、ジフェニルフォスフィン等の有機フォスフィン系硬化触媒、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエタノールアミン、ベンジルジメチルアミン等の三級アミン系硬化触媒、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類などを挙げることができる。
【0044】
硬化触媒(D)の配合量は、上記(A)成分と(C)成分の合計量100質量部に対し0.05〜3質量部が好ましい。硬化触媒の配合量が0.05質量部より少ないと、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を促進させる効果を十分に得ることができないおそれがある。逆に、硬化触媒の配合量が3質量部より多いと、硬化時やリフロー試験時の変色の原因となるおそれがある。
【0045】
本発明の組成物は、(B)シロキサン結合を有しないエポキシ化合物もしくは樹脂を含むことができる。(B)成分としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等の芳香族系エポキシ樹脂、前記各種エポキシ樹脂の芳香環を水素添加した水添型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、イソシアヌレート環を有するエポキシ化合物もしくは樹脂、例えば下記式(10)で示すトリグリシジルイソシアヌレート、及びこれらの混合物を挙げることができる。なかでも耐光性の点から、水添型エポキシ樹脂、脂環式
エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートが好適に使用される。
【0046】
【化17】

【0047】
(B)シロキサン結合を有しないエポキシ化合物もしくは樹脂の配合量は、(A)成分100質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは10〜40質量部である。前記上限値超では、樹脂組成物の硬化物に可撓性が不足し、温度サイクル試験でクラックが発生したり、接着不良が生じる場合がある。
【0048】
本発明の組成物は、硬化物の接着力向上の点から、(H)接着付与剤を含むことが好ましい。好ましくは、メルカプトシラン系カップリング剤、例えばメルカプトトリメトキシシランを、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜3質量部で含む。
【0049】
本発明の組成物は、耐熱性向上の点から、(E)酸化防止剤、好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤を、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部で配合することができる。酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N'−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオナミド)、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3',3'',5,5',5''−ヘキサ−tert−ブチル−a,a',a''−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン,2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0050】
酸化防止剤として、リン系酸化防止剤、例えば、亜リン酸トリフェニル、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル 亜リン酸、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスフォナイト、2,2’2’’−ニトリロ[トリエチル−トリス[3,3’,5,5’−テトラ−tert−ブチル−1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイル]]フォスファイト、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネートを使用してもよい。
【0051】
本発明の組成物は、耐光性向上の点で、(F)光安定剤、例えばヒンダードアミン系光安定剤、を(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部含むことができる。光安定剤としては2,2,4,4−テトラメチル−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]−ヘンエイコサン−21−オン、2,2,4,4−テトラメチル−21−オキソ−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]−ヘンエイコサン−20−プロピオン酸ドデシルエステル、2,2,4,4−テトラメチル−21−オキソ−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]−ヘンエイコサン−20−プロピオン酸テトラデシルエステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピヘリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ペンチルフェノール等が例示される。
【0052】
本発明の組成物は、青色LED、UVLED等の発光波長を変換する目的で、各種公知の(G)蛍光粉末を含むことが出来る。黄色蛍光体として、一般式A5012:M(式中、成分Aは、Y,Gd,Tb,La,Lu,Se及びSmからなるグループから選ばれる少なくとも1つの元素を有し、成分Bは、Al,Ga及びInからなるグループから選ばれる少なくとも一つの元素を有し、成分MはCe,Pr,Eu,Cr、Nd及びErからなるグループから選ばれる少なくとも一つの元素を有する)のガーネットのグループからなる蛍光体粒子を含有するのが特に有利である。青色もしくは白色光を放射する発光ダイオード素子用の蛍光体として、YAl12:Ce蛍光体及び/又は(Y,Gd、Tb)(Al,Ga)12:Ce蛍光体が適している。その他の蛍光体として、例えば、CaGa:Ce3+及びSrGa:Ce3+、YAlO:Ce3+,YGaO:Ce3+、Y(Al,Ga)O:Ce3+、YSiO:Ce3+等があげられる。また、混合色光を作成するためにはこれらの蛍光体に加えて、希土類でドープされたアルミン酸塩や希土類でドープされたオルトケイ酸塩などが適している。(G)蛍光粉末は、(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1質量部〜100質量部配合することができる。
【0053】
本発明の組成物には、上記蛍光体粉末の沈降防止効果、LEDからの光拡散効果、及び膨張率低減効果を目的として、(I)無機充填剤を(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1質量部〜100質量部配合することができる。無機充填剤としては、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0054】
上記の各成分の他、本発明の目的を阻害しない量の、変色防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、希釈剤等を必要に応じて添加してもよい。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、光半導体素子を被覆保護するための封止剤として好適に使用される。この場合、該光半導体素子としては、発光ダイオード(LED)、有機電界発光素子(有機EL)、レーザーダイオード、LEDアレイ等を挙げることができる。
【0056】
本発明の組成物は、ケース型の発光半導体装置、即ち、セラミック及び/又はプラスチック筐体内に発光素子を配置し、その筐体内に配置された該素子を覆って組成物を筐体内に充填した後に硬化させて使用するのに好適である。また、マトリックス化された基板上に搭載されたLEDに、組成物を印刷法、トランスファー成型、インジェクション成型、圧縮成形などで施与して硬化させ、該LEDを保護することもできる。LED等をポッティングやインジェクションなどで被覆保護する場合には、本発明の組成物が、室温で液状であることが好ましい。即ち、該樹脂組成物の粘度としては、25℃の回転粘度計による測定値として10〜1,000,000mPa・s、特には100〜1,000,000mPa・s程度が好ましい。一方、トランスファー成型、等で発光半導体装置を製造する場合には、液状樹脂だけでなく、液状樹脂を増粘させて固形化(Bステージ化)し、ペレット化したものを用いて、成型することもできる。
【0057】
本発明の組成物の硬化条件は、25℃で72時間〜200℃で3分間の範囲において、生産性、発光素子や筐体の耐熱性等に応じて、適宜選定することが好ましい。トランスファー成型やインジェクション成型の場合は、例えば150〜180℃の温度、20〜50kgf/cmの圧力で1〜5分間成型する。また、後硬化(二次硬化又はポストキュア)を150〜200℃で1〜4時間の条件で行うことができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例と比較例を参照して本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。以下において「部」は「質量部」を、Meはメチル基を意味する。
【0059】
[実施例1]
1−アリル−3,5−ジグリシジルイソシアヌレート56.2グラム(0.2モル)と、下記平均分子式で示される両末端ヒドロシリル基含有シリコーン(以下、「ハイドロジェンシロキサンA」とする)72.6グラム(0.1モル)を0.5リットルのセパラフラスに仕込み、塩化白金酸2%オクチルアルコール溶液を(Pt量20ppm)を添加し80〜100℃で6時間反応した後、未反応物を減圧下で留去する事で無色透明な液体(化合物I)を125g得た。収率は97%であった。
【0060】
【化18】

【0061】
得られた無色透明液体の物性は下記の通りである。
エポキシ当量:320g/mol、屈折率:1.459、元素分析値 C:0.4105(0.4099)、Si:0.2172(0.2174)、O:0.2363(0.2360)、N:0.0658(0.0652)、H:0.0702(0.0714)(但しカッコ内は理論値である。)、比重(23℃):1.09、粘度(23℃):1.10Pa・s。
【0062】
この合成化合物IのIR(Nicolet社製:AVATAR 360 FT−IR)及びNMR(日本電子社製:JNM−LA300WB、300MHz、H−NMR)の測定結果を図1、2に示す。
【0063】
[実施例2〜4]
ハイドロジェンシロキサンAに代えて下記ハイドロジェンシロキサンB〜Dを下表1に示す量で用い、1−アリル−3,5−ジグリシジルイソシアヌレートと実施例1と同様な方法で反応させて化合物II〜IVを得た。
ハイドロジェンシロキサンB
【0064】
【化19】

【0065】
ハイドロジェンシロキサンC
【0066】
【化20】

【0067】
ハイドロジェンシロキサンD
【0068】
【化21】

【0069】
【表1】

【0070】
[実施例5]
1−アリル-3,5-ジグリシジルイソシアヌレート157.0グラム(0.56モル)と、下記式で表されるハイドロジェンシロキサン(「ハイドロジェンシロキサンE」とする)
【0071】
【化22】

【0072】
71.7グラム(0.14モル)を0.5リトルのセパラブルフラスコに仕込み、塩化白金酸2%オクチルアルコール溶液を(Pt量20ppm)を添加し、80〜100℃で6時間反応した後、未反応物を減圧下で留去して、無色透明な液体(「化合物V」とする)を224g得た。収率は91%であった。
【0073】
化合物Vの物性は下記の通りであった。
エポキシ当量(三菱化学社製、自動滴定装置GT−100使用):370g/mol
屈折率(25℃、ATAGO社製、デジタル屈折計RX5000使用):1.52452
元素分析値 C:0.4907(0.4944)、Si:0.1030(0.1020)、O:0.2463(0.2421)、N:0.1058(0.1017)、H:0.0542(0.0598)、但し()内は理論値である。
比重(23℃):1.09
粘度(60℃):3.30Pa・s
【0074】
化合物Iと同様の装置を用いて測定した化合物VのIR及びNMRを図3、4に示す。
【0075】
[実施例6〜8]
ハイドロジェンシロキサンEに代えて、下記ハイドロジェンシロキサンF、G、Hを下表2に示す量で用いて、実施例5と同様の方法で、化合物VI、VII及びVIIIを各々得た。
【0076】
ハイドロジェンシロキサンF
【0077】
【化23】

【0078】
ハイドロジェンシロキサンG
【0079】
【化24】

【0080】
ハイドロジェンシロキサンH
【0081】
【化25】

【0082】
【表2】

【0083】
[実施例9〜25,比較例1〜7]
組成物の調製
下記表3〜6に示す量(質量部)で、合成した各化合物と硬化剤等をプラネタリーミキサーで十分混合して、硬化性樹脂組成物を調製した。これらの表中の各成分は以下のとおりである。
エポキシI:トリグリシジルイソシアヌレート(TEPIC−S:日産化学工業(株)製、「エポキシI」)
エポキシII:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER828:ジャパンエポキシレジン(株)製)
硬化剤:4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(リカシッドMH:新日本理化(株)製)硬化触媒:第四級ホスホニウム塩(U−CAT5003:サンアプロ(株)製)
接着付与剤:γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、KBM803(信越化学工業(株)製
酸化防止剤I:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
酸化防止剤II:亜リン酸トリフェニル
光安定剤:2,2,4,4−テトラメチル−21−オキソ−7−オキサ−3,20−ジアザジスピロ[5.1.11.2]−ヘンエイコサン−20−プロピオン酸テトラデシルエステル
無機充填剤:シリカ
蛍光粉体:イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)
【0084】
組成物及び硬化物の特性評価
組成物の粘度、及び硬化物の特定評価は以下の方法で行なった。硬化は、樹脂組成物を100℃,2時間、次いで150℃,4時間加熱して行なった。結果を表3〜6に示す。
(1)粘度
東機産業製BMタイプ回転粘度計にて、25℃で測定した。
(2)硬化物外観
硬化物の外観を目視で観察し、変色の有無、透明性を目視にて評価した。
(3)硬度
JIS K6301に準拠して棒状硬化物について測定した(タイプD)。
(4)ガラス転移点及び線膨張係数
硬化物から幅5mm、厚み4mm、長さ15mmの試料片を切り出し、熱分析装置EXSTAR6000TMA(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)により、−100℃〜300℃まで昇温速度5℃/minで加熱し、膨張係数の変曲点をガラス転移点(Tg)とした。Tg以下の温度領域、Tg以上の温度領域の夫々における平均膨張係数を求めた。
(5)曲げ強さ、曲げ弾性率
硬化物から幅5mm、厚み4mm、長さ100mmの試料片を切り出し、オートグラフ測定装置AGS−50(島津社製)にてJIS K6911に準じて測定した。
(6)光透過率
1mm厚の硬化物の、波長300nm〜800nmにおける光透過率(T)を分光光度計U−4100(日立ハイテック社製)にて測定した。また、該硬化物を、150℃×400時間加熱した後の光透過率(T)を同様にして測定し、T/T(%)を求めた。
(7)輝度
下記方法でLED装置を作成して、85℃で1000時間放置した後、LEDに10mAの電流を印加し、LEDを発光させて大塚電子製(LP−3400)により輝度(mlm)を測定した。
LED装置の作成
底辺部が銀メッキされたLED用プレモールドパッケージ(3mm×3mm×1mm、開口部の直径2.6mm)、の該底辺部に、InGaN系青色発光素子を、銀ペーストを用いて固定した。次に該発光素子を、金ワイヤーにて外部電極に接続した。その後、各組成物をパッケージ開口部に充填し、100℃で1時間、さらに150℃で2時間硬化させて封止した。各組成物について、25個装置を作成した。
(8)温度サイクル試験、高温高湿下点灯試験
上記の方法で得られたLED装置のうち10個を、温度サイクル試験(−40℃〜125℃、1000サイクル及び2000サイクル)に用い、顕微鏡でクラックがある装置の数を数えた。また、他の10個のLED装置を、高温高湿下(65℃、95%RH)で、50mA通電して500時間LEDを点灯した後、クラックの有無、並びに変色の有無を顕微鏡で確認した。
【0085】
【表3】

【0086】
*曲げ試験では試料が折れないため、引張り強さを測定した。
**引張り弾性率を測定した。
【0087】
【表4】

【0088】
【表5】

【0089】
【表6】

【0090】
【表7】

【0091】
【表8】

【0092】
上記各表に示すように、本発明のオルガノポリシロキサンを含む組成物から得られる硬化物は、該オルガノポリシロキサンを含まない比較例の硬化物に比べて、光透過率に優れ、高温高湿下での点灯試験後であっても輝度の低下が小さく、変色もない。さらに、硬度が高いにも拘わらず、温度サイクル試験においてクラックの発生がない。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のオルガノポリシロキサン及びそれを含む組成物は、耐光性及び耐クラック性に優れた硬化物を与え、光半導体素子封止に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、下記式(2)で表される(3,5−ジグリシジルイソシアヌリル)アルキル基を少なくとも主鎖の両末端に備えるオルガノポリシロキサン。
【化1】

(Rは、互いに独立に、炭素数1〜20の置換または非置換の1価炭化水素基、R2は下記式(2)で示される基、Xは下記式(3)で示される基、aは0〜100の整数、bは0〜30の整数、但し、1≦a+bであり、及びcは0〜10の整数である)
【化2】

(Rは炭素数2〜12のアルキレン基である)
【化3】


(R及びRは上記のとおりであり、dは0〜30の整数、eは0〜30の整数である)
【請求項2】
cが1以上の整数である、請求項1に係るオルガノポリシロキサン。
【請求項3】
がプロピレン基である、請求項1または2に係るオルガノポリシロキサン。
【請求項4】
下記(A)、(C)及び(D)を含む光半導体素子封止用組成物。
(A)請求項1〜3のいずれか1項に係るオルガノポリシロキサン 100質量部
(C)硬化剤 10〜100質量部
(D)硬化触媒 (A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して0.05〜3質量部
【請求項5】
(A)成分100質量部に対して、1〜100質量部の(B)シロキサン結合を有しないエポキシ化合物もしくは樹脂をさらに含む、請求項4に係る組成物。
【請求項6】
(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜3質量部の(H)接着付与剤をさらに含む、請求項4または5に係る組成物。
【請求項7】
(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部の(E)酸化防止剤をさらに含む、請求項4〜6のいずれか1項に係る組成物。
【請求項8】
(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜5質量部の(F)光安定剤をさらに含む、請求項4〜7のいずれか1項に係る組成物。
【請求項9】
(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、1〜100質量部の(G)蛍光粉体をさらに含む、請求項4〜8のいずれか1項に係る組成物。
【請求項10】
(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対して、1〜100質量部の(I)無機充填剤をさらに含む、請求項4〜9のいずれか1項に係る組成物。
【請求項11】
(C)硬化剤が酸無水物である、請求項4〜10のいずれか1項に係る組成物。
【請求項12】
(B)シロキサン結合を有しないエポキシ化合物もしくは樹脂が、脂環式エポキシ化合物もしくは樹脂又はイソシアヌレート環を有するエポキシ化合物もしくは樹脂である請求項5〜11のいずれか1項に係る組成物。
【請求項13】
(E)酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤またはリン系酸化防止剤である請求項7に係る組成物。
【請求項14】
(F)光安定剤がヒンダードアミン系光安定剤である請求項8に係る組成物。
【請求項15】
(D)硬化触媒がホスホニウム塩である請求項4に係る組成物。
【請求項16】
(H)接着付与剤が、メルカプトシランカップリング剤である、請求項6に係る組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−275206(P2009−275206A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15197(P2009−15197)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】