説明

ジチエノナフトジチオフェン誘導体とこれを用いた有機電子デバイス、有機薄膜トランジスタ及びディスプレイ装置

【課題】熱安定性、電荷移動性、電流On/Off比の良好な縮合多環材料と、これを用いた有機電子デバイス、有機薄膜トランジスタ及びディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)[式(1)中、R1及びR2は水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基又はアルコシキ基若しくはチオアルコキシ基から選択される基を示す。Arはナフタレン環を示す。]で表される新規なジチエノナフトジチオフェン誘導体を用いて、有機電子デバイス(例えば、前記誘導体を主成分とする有機半導体層(1)を備えた有機薄膜トランジスタ)を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電子デバイスの素材(例えば、EL材料、有機半導体材料、電荷輸送材料の素材)として有用な有機材料(特に、縮合多環材料)に関し、詳しくは、特定の構造を有する新規なジチエノナフトジチオフェン誘導体とこれを用いた有機電子デバイス、有機薄膜トランジスタ及びディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料の発光特性や電荷輸送特性を利用して、有機エレクトロルミネッセンス素子や、有機トランジスタ素子といった有機電子デバイスが提案されている。これらの素子に有機材料を用いることにより、軽量、安価、低製造コスト、フレキシブル等の利点が発揮されると期待されている。このような観点から、特に有機半導体材料を利用した有機薄膜トランジスタの研究開発が盛んに行われている。
有機半導体材料は、印刷法、スピンコート法等のウェットプロセスによる簡便な方法で容易に薄膜形成が可能であり、従来の無機半導体材料を利用した薄膜トランジスタと比し、製造プロセス温度を低温化できるという利点がある。これにより、一般に耐熱性の低いプラスチック基板上への形成が可能となり、ディスプレイ等のエレクトロニクスデバイスの軽量化や低コスト化が図れるとともに、プラスチック基板のフレキシビリティーを活かした用途等、多様な展開が期待される。
【0003】
これまでに、本発明者らは高分子化合物の有機半導体材料として、特定構造を有する重合体を用いることにより、プロセッシビリティーが高く簡便な方法で素子を作製でき、キャリア移動度が高くOn/Off比が大きなトランジスタ特性を示し、径時変化しにくい有機TFTを提案している(特許文献1参照)が、より幅広い用途への展開を考えると、更なる高いキャリア移動度が望まれている。
【0004】
さらに、低分子化合物の有機半導体材料としてアセン系材料に代表される縮合多環材料の報告が多い(例えば、特許文献2及び非特許文献1参照)。このアセン系材料を有機半導体層として利用した有機薄膜トランジスタは、比較的高移動度であることが報告されているが、これらアセン系材料は汎用溶媒に対して極めて溶解性が低く、それを有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層として薄膜化する際には、真空蒸着工程を経る必要がある。このため、前述したような塗布や印刷などの簡便なプロセスで薄膜が形成できず、薄膜形成の容易性において難点があり、有機半導体材料に期待される利点に対して十分に応えるものとは言えない。
【0005】
最近では、アセン系の縮合多環材料の一つである2,7―ジアルキル[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(非特許文献2)は、液晶相を有し、かつ高い溶解性を有し、スピンコート、キャストなどで塗布可能であり、比較的低温の熱処理により、同じくペンタセンに匹敵する移動度(約2.0cm2/V・s程度)を示すことが報告されている。しかしながら、液晶相への転移温度が110℃程度と比較的低く、製膜後も熱処理により膜構造の変化が生じ得るため、有機半導体デバイス作製におけるプロセス適応性に問題がある。
【0006】
また、特許文献3または非特許文献3で開示されている縮合多環材料であるジチエノベンゾジチオフェンは、溶解性を有し、高い移動度(1.2cm2/V・s)と高いOn/Off比を有していることが報告されている。しかし、イオン化ポテンシャルが深く、有機電子デバイス、特に有機薄膜トランジスタへの応用に対しては、低電圧駆動において問題となる。
【0007】
このように、これまで溶解性を有する縮合多環材料である低分子有機半導体材料も幾つか報告されているものの、湿式プロセスにより作製された膜はアモルファスであったり、また各材料由来の晶癖のために連続膜を得ることが困難であり、良好な特性が得られない等の問題がある。つまり、有機材料そのものの骨格だけでなく、結晶の形状を含めた結晶構造が重要である。しかし、一方でその結晶構造は分子構造から予測することは困難である。このように有機半導体材料の電子デバイスへの展開には、より優れた材料、例えば、新規な縮合多環材料が必要であり、更なる材料開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、熱安定性が良好で、高いキャリア移動度と大きな電流On/Off比を有し、デバイス作製におけるプロセス適応性が良好な縮合多環材料(新規なジチエノナフトジチオフェン誘導体)を提供すると共に、これを用いた有機電子デバイス、有機薄膜トランジスタ及びディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を有機電子デバイスとして用いることが上記目的に対して有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、以下の〔1〕〜〔8〕に記載する発明によって上記課題が解決される。
【0010】
〔1〕:上記課題は、下記一般式(1)で表されることを特徴とするジチエノナフトジチオフェン誘導体により解決される。
【0011】
【化1】

【0012】
[式(1)中、R1及びR2は水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基又はアルコシキ基若しくはチオアルコキシ基から選択される基を示す。Arはナフタレン環を示す。]
【0013】
〔2〕:上記〔1〕に記載のジチエノナフトジチオフェン誘導体において、前記一般式(1)で表されるジチエノナフトジチオフェン誘導体が、下記一般式(2)又は(3)で表される構造を有することを特徴とする。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
[式(2)、(3)中、R1及びR2は式(1)の定義と同じである。]
【0017】
〔3〕:上記課題は、〔1〕又は〔2〕に記載のジチエノナフトジチオフェン誘導体を用いたことを特徴とする有機電子デバイスにより解決される。
【0018】
〔4〕:上記課題は、〔3〕に記載の有機電子デバイスが有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタであって、前記有機半導体層がジチエノナフトジチオフェン誘導体からなることを特徴とする有機薄膜トランジスタにより解決される。
【0019】
〔5〕:上記〔4〕に記載の有機薄膜トランジスタにおいて、前記ジチエノナフトジチオフェン誘導体からなる有機半導体層を介して互いに非接触分離状態で設けられる対をなす第1の電極と第2の電極、及び前記第1の電極と前記第2の電極間の有機半導体層内を流れる電流を電圧の印加により制御する第3の電極を具備することを特徴とする。
【0020】
〔6〕:上記〔5〕に記載の有機薄膜トランジスタにおいて、前記第3の電極と、前記有機半導体層との間に、絶縁膜が設けられていることを特徴とする。
【0021】
〔7〕:上記課題は、〔4〕乃至〔6〕のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタにより駆動される表示画素を備えたことを特徴とするディスプレイ装置により解決される。
【0022】
〔8〕:上記〔7〕に記載のディスプレイ装置において、前記表示画素が、液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子の中から選ばれるいずれかの素子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の前記一般式(1)で表されるジチエノナフトジチオフェン誘導体は、良好な熱安定性と、高いキャリア移動度、及び大きな電流On/Off比を有するため、有機電子デバイスの素材(例えば、EL材料、有機半導体材料及び電荷輸送材料等)として用いることができる。例えば、本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を用いて有機半導体層を形成すれば有機薄膜トランジスタとすることができ、このような有機薄膜トランジスタを表示画素(例えば、液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子等)の駆動素子とする各種ディスプレイ装置が構成できる。また、有機薄膜トランジスタの集積化により、電子ペーパーやICタグ等へも幅広く応用することができる。
また、本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体は、前記置換基R1、R2を変えることによって、熱安定、電荷移動性、電流On/Off比を好適に維持しつつ、デバイス作製時におけるプロセス適応性を付与することができ、蒸着法をはじめ湿式法(ウェットプロセス)に合せた誘導体を選択することにより、容易に薄膜形成ができるため、有機電子デバイスの軽量化、製造コスト低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る有機薄膜トランジスタの構成例(A)〜(D)を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
前述のように本発明におけるジチエノナフトジチオフェン誘導体は、下記一般式(1)で表されることを特徴とするものである。
【0026】
【化4】

【0027】
[式(1)中、R1及びR2は水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基又はアルコシキ基若しくはチオアルコキシ基から選択される基を示す。Arはナフタレン環を示す。]
【0028】
ここで、前記一般式(1)で表されるジチエノナフトジチオフェン誘導体が、下記一般式(2)又は(3)で表される構造を有するものが好ましい。
【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
[式(2)、(3)中、R1及びR2は式(1)の定義と同じである。]
【0032】
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体(以降、「縮合多環材料」と略称することがある。)の具体例を以下に示す。
前記一般式(1)〜(3)中の、R1、R2としては、以下のものを挙げることができる。
水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基又はアルコシキ基若しくはチオアルコキシ基から選択される基を示す。
前記置換若しくは無置換のアルキル基とは、炭素数が1以上の直鎖、分岐又は脂環式のアルキル基であり、これらのアルキル基は更にハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子)、シアノ基、フェニル基又は直鎖乃至分岐のアルキル基で置換されたフェニル基を含有してもよい。
具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、t−ブチル基、s−ブチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、3,7−ジメチルオクチル基、2−エチルヘキシル基、トリフルオロメチル基、トリフルオロオクチル基、トリフルオロドデシル基、トリフルオロオクタデシル基、2−シアノエチル基、ベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メチルベンジル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
また、置換若しくは無置換のアルコキシ基若しくはチオアルコキシ基である場合は、上記アルキル基の結合位に酸素原子あるいは硫黄原子を挿入してアルコキシ基あるいはチオアルコキシ基としたものが具体例として挙げられる。
【0033】
さらに、詳細な本発明の縮合多環材料として、前記一般式(2)で表される構造を有するものを例示化合物1〜例示化合物9に、前記一般式(3)で表される構造を有するものを例示化合物10〜例示化合物18に示す。なお、一般式(2)及び(3)の構造式(平面構造)を180度回転させて表示したものが、それぞれ例示化合物1〜例示化合物9、及び例示化合物10〜例示化合物18の構造式に相当する。
【0034】
【化7】

【0035】
【化8】

【0036】
次に、前記一般式(2)で表される構造を有する縮合多環材料(ジチエノナフトジチオフェン誘導体)及び前記一般式(3)で表される構造を有する縮合多環材料(ジチエノナフトジチオフェン誘導体)の合成について説明する。
前記一般式(2)で表される構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体(例えば、例示化合物1〜例示化合物9)は、下記合成経路(1)に基づいて容易に製造可能である。
【0037】
【化9】

【0038】
合成経路(1)において、出発原料である化合物(A)の2,3,6,7−トテラキストリメチルシラニルナフタレンは、非特許文献:Journal of chemical society. Chemical Commumication,20巻,833〜834頁,1976年を参考に製造することができる。
【0039】
化合物(A)から、ハロゲン化剤を用いる既知のハロゲン化により化合物(B)を得ることができる。化合物(B)はその後、有機金属などの強塩基を作用させた後でジメチルスルファニル化を行い化合物(C)とする。次に、化合物(C)のハロゲン化により化合物(D)を得る。つまり、化合物(C)のTMS基(トリメチルシラニル基)に対してICI(一塩化ヨウ素)、NBSなどを用いてハロゲン化を行った後、得られた化合物(D)と、R1およびR2が修飾されたトリアルキルスズチオフェン化合物とのスティレカップリングにより、温和な条件でカップリングされ化合物(E)が得られる。この化合物(E)のジメチルスルファニル基(MeS−基)を硝酸、硫酸などで酸化して化合物(F)とし、その後、非特許文献、Adv. Mater, 21, 213-216. (2009)で示されているような五酸化リン、トリフルオロメタンスルホン酸無水物により環化反応を行うことで目的のジチエノナフトジチオフェン誘導体である化合物(G)を製造することができる。
【0040】
即ち、前記例示化合物1〜例示化合物9を製造する場合、任意の置換チオフェンスズ化合物を選択し、これと化合物(D)とのスティレカップリングにより、所定の構造を有する化合物(E)を製造した後、この化合物(E)のジメチルスルファニル基(MeS−基)を硝酸、硫酸などで酸化し、その後、五酸化リン、トリフルオロメタンスルホン酸無水物により環化反応を行うことで目的とするジチエノナフトジチオフェン誘導体とすることができる。
【0041】
また、前記一般式(3)で表される構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体(例えば、例示化合物10〜例示化合物18)は、下記合成経路(2)に基づいて容易に製造可能である。
【0042】
【化10】

【0043】
例えば、ジヒドロキシナフタレンから、ハロゲン化剤を用いて化合物(I)を得、この化合物(I)をトリフルオロメタンスルホン酸によりトリフラート化して化合物(J)とする。次に、化合物(J)をメチルジスルファニルメタンでリチオ化して化合物(K)とした後、化合物(K)にチオフェンスズ化合物を反応(スティレカップリング)させて化合物(L)を得る。以下合成経路(1)と同様に、化合物(L)のジメチルスルファニル基(MeS−基)を硝酸、硫酸などで酸化し、その後、五酸化リン、トリフルオロメタンスルホン酸無水物により環化反応を行うことで目的とするジチエノナフトジチオフェン誘導体とすることができる。
即ち、例示化合物10〜例示化合物18を製造する場合、任意の置換チオフェンスズ化合物を選択することにより、化合物(K)とのスティレカップリングにより任意の化合物(L)を製造することができ、これを酸化、環化することで、目的とするジチエノナフトジチオフェン誘導体とすることができる。
【0044】
前述のように本発明の新規なジチエノナフトジチオフェン誘導体は、良好な熱安定と、高いキャリア移動度、及び大きな電流On/Off比を有するため、有機電子デバイスの素材(例えば、EL材料、有機半導体材料、電荷輸送材料の素材)として有用であり、例えば、有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタにおける有機半導体層をジチエノナフトジチオフェン誘導体で構成することができる。そして、ジチエノナフトジチオフェン誘導体からなる有機半導体層を有する有機薄膜トランジスタを、例えば、液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子等の表示画素の駆動素子として、各種ディスプレイ装置を構成することができる。
以下に、本発明に係るジチエノナフトジチオフェン誘導体からなる有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタについて図を参照して説明する。
【0045】
[トランジスタ構造]
図1は、本発明に係る有機薄膜トランジスタの構成例(A)〜(D)を示す概略図である。
図1において、有機半導体層(1)は、前記一般式(1)で表されるジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする。本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体からなる有機半導体層(1)を具備する有機薄膜トランジスタには、互いに非接触分離状態で設けられる対をなす第1の電極[ソース電極(2)]と第2の電極[ドレイン電極(3)]、及びソース電極(2)とドレイン電極(3)間の有機半導体層内を流れる電流を制御する第3の電極[ゲート電極(4)]が設けられており、図1(C)、図1(D)のようにゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間には絶縁膜[ゲート絶縁膜(5)]が設けられていてもよい。
即ち、図1に示す有機薄膜トランジスタにおいて、ソース電極(2)、ドレイン電極(3)、及びゲート電極(4)はそれぞれ空間的に分離されて配置されており、第3の電極[ゲート電極(4)]への電圧の印加により、前記第1の電極[ソース電極(2)]と前記第2の電極[ドレイン電極(3)]間の有機半導体層(1)内を流れる電流が制御(コントロール)される。
【0046】
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を用いた有機薄膜トランジスタは支持体上に設けることができ、このような支持体として、例えば、ガラス、シリコン、プラスチック等の一般に用いられる基板を利用することができる。また、導電性基板を用いることにより、ゲート電極と兼ねること、さらにはゲート電極と導電性基板とを積層した構造にすることもできるが、本発明の有機薄膜トランジスタが応用されるデバイスのフレキシビリティー、軽量化、安価、耐衝撃性等の特性が所望される場合、プラスチックシートを支持体とすることが好ましい。
【0047】
前記プラスチックシートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムなどが挙げられる。
【0048】
[有機半導体層]
本発明の前記一般式(1)で表されるジチエノナフトジチオフェン誘導体(以下、「有機半導体材料」と呼称することがある。)は、前述のように、前記置換基R1、R2を変えることによって、蒸着法をはじめ湿式法(ウェットプロセス)に合せたプロセス適応性を付与することができる。
蒸着法によって有機半導体層(薄膜)を形成する場合には、有機半導体材料を真空中にて加熱することで蒸気とし(気化)、気化させた有機半導体材料を所望の領域に堆積させて薄膜とすることができる。
また、湿式法(ウェットプロセス)によって薄膜を形成する場合には、本発明の有機半導体材料を予め溶剤(例えば、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、トルエン、ジクロロベンゼン及びキシレン等)に溶解して塗布溶液とし、これを所望の領域に塗布・乾燥することによって薄膜とすることができる。
【0049】
上記湿式法により薄膜(有機半導体層)を形成する方法としては、スプレーコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられ、用いるジチエノナフトジチオフェン誘導体に応じて、前記溶媒から適切な溶媒が選択されると共に、適した前記製膜方法が選択される。
【0050】
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を用いて形成された有機半導体層(有機半導体薄膜)を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、有機半導体層の膜厚としては、特に制限はないが、有機半導体層のキャリア輸送特性に悪影響を及ぼすギャップやホールが発生しないような均一な薄膜に形成される厚みに選択される。具体的には、有機半導体薄膜の厚みは、一般に1μm以下、特に5〜200nmが好ましい。
【0051】
本発明に係る有機薄膜トランジスタにおいては、前記図1(C)、図1(D)に示したようにゲート電極(4)と有機半導体層(1)の間に絶縁膜(5)を設けた構成とすることができる。この場合には、ジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする有機半導体層(1)がソース電極(2)、ドレイン電極(3)及び絶縁膜[ゲート絶縁膜(5)]に接して形成される。
【0052】
[絶縁膜]
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて用いられる絶縁膜には、種々の絶縁膜材料を用いることができる。
例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化スズ、酸化バナジウム、チタン酸バリウムストロンチウム、ジルコウム酸化チタン酸バリウム、ジルコニウム酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、タンタル酸ニオブ酸ビスマス、トリオキサイドイットリウム等の無機系絶縁材料が挙げられる。
また、例えば、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、無置換又はハロゲン原子置換ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子化合物を絶縁材料として用いることができる。
さらに、上記絶縁材料を2種以上合わせて用いてもよい。特に材料は限定されないが、中でも誘電率が高く、導電率が低いものが好ましい。
【0053】
上記絶縁材料を用いて絶縁膜を作製する方法としては、例えば、CVD法、プラズマCVD法、プラズマ重合法、蒸着法等のドライプロセスや、スプレーコート法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、キャスト法、ブレードコート法、バーコート法等の塗布によるウェットプロセスが挙げられる。
【0054】
〔有機半導体層と絶縁膜界面の修飾〕
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタにおいて、前記絶縁膜(ゲート絶縁膜)と有機半導体層の接着性向上、ゲート電圧の低減、リーク電流低減等の目的で、前記層間に有機薄膜を介在させる等の修飾を施してもよい。有機薄膜は有機半導体層に対し、化学的影響を与えなければ、特に限定されないが、例えば、有機分子膜や高分子薄膜が利用できる。
上記有機分子膜としては、オクタデシルトリクロロシランやヘキサメチレンジシラザン(HMDS)等を具体的な例とした各種カップリング剤が挙げられる。
また、高分子薄膜としては、前述の絶縁材料で例示した高分子化合物を利用することができ、これらが絶縁膜の一種として機能していてもよい。また、この高分子薄膜をラビング等により、異方性処理を施していてもよい。
【0055】
[電極]
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタにおける第1の電極[図1のソース電極(2)]、第2の電極[図1のドレイン電極(3)]、第3の電極[図1のゲート電極(4)]の材料としては、導電性材料であれば特に限定されず用いられる。例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム等、及びこれらの合金やインジウム・錫酸化物等の導電性金属酸化物、あるいはドーピング等で導電率を向上させた無機及び有機半導体(例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチエニレンビニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等)が挙げられる。
ソース電極及びドレイン電極は、上記導電性の中でも半導体層との接触面において、電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0056】
電極の形成方法としては、上記材料を原料として蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅等の金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法がある。また導電性ポリマーの溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしてもよいし、塗工膜からリソグラフィーやレーザーアブレーション等により形成してもよい。さらに導電性ポリマーや導電性微粒子を含むインク、導電性ペースト等を凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等の印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0057】
[引き出し電極、保護層]
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けることができる。また、本発明の前記有機薄膜トランジスタは、水分、大気及びガスからの保護、あるいはデバイスの集積が可能な設計とするため、必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0058】
〈応用デバイス〉
本発明のジチエノナフトジチオフェン誘導体を主成分とする有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタは、液晶、有機EL、電気泳動等の表示画像素子を駆動するための素子として利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の有機薄膜トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これら実施例によって制限されるものではない。
【0060】
[実施例1]
前記一般式(1)又は一般式(3)で表される例示化合物11に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を下記製造ルートに従って合成した。
【0061】
【化11】

【0062】
(合成ルート中、NBSはN−ブロモサクシンイミド、THFはテトラヒドロフラン、TfOはトリフラート基、Tf2Oは無水トリフルオロメタンスルホン酸、TfOHはトリフルオロメタンスルホン酸、Meはメチル基、Buはブチル基をそれぞれ示す。)
【0063】
前記合成ルートに示す各化合物(ii)〜(vii)を以下の条件で合成した。
<化合物(ii)の合成>
2,6−ジヒドロキシナフタレン(5.1g、32mmol)とテトラヒドロフラン150mLを加え攪拌した。そこにNBS(N−ブロモサクシンイミド)(11.4g、64mmol)を加えて加熱攪拌を4時間行った。反応後、酢酸エチルで抽出し、抽出液を炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、飽和食塩水で洗浄を行った後、硫酸マグネシウムで乾燥を行った。ヘキサン/THFでカラムクロマトグラフィを行い、白色固体を得た。
粗収量は9.5gであった。収率は94%であった。質量分析(GC−MS、DI法)、1H−NMR(500MHz,1H,CDCl3)から目的物[化合物(ii):ジブロモ体]であることが確認された。
【0064】
<化合物(iii)の合成>
ピリジン10mL、ジクロロメタン50mLの混合溶媒中にジブロモ体(2.0g、6.3mmol)を溶解させ、0℃に冷却した。そこに無水トリフルオロメタンスルホン酸(1.8g、6.6mmol)をゆっくりと添加した。混合液を室温まで温め、室温で2時間攪拌し、その後40℃で一晩加熱した。室温に戻し、水(50mL)で希釈し、混合液を酢酸エチルで抽出した。飽和食塩水で洗浄を行った後、硫酸マグネシウムで乾燥を行った。乾燥したクルードをヘキサン/THFでカラムクロマトグラフィを行い、黄色固体を得た。
粗収量は1.8gであった。収率は49%であった。質量分析(GC−MS、DI法)、1H−NMR(500MHz,1H,CDCl3)から目的物[化合物(iii)]であることが確認された。
【0065】
<化合物(iv)の合成>
化合物(iii)(6.0g、10.3mmol)を無水THFに溶解させ、ドライアイス/MeOH浴で−70℃に冷却した。その後、1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(6.4mL、10.3mmol)を加え、その30分後に、MeSSMe(メチルジスルファニルメタン)(1.0g,10.8mmol)を加え、さらに1時間攪拌した。その後、同様に1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液(6.4mL、10.3mmol)を加え、その30分後に、メチルジスルファニルメタン(1.0g,10.8mmol)を加え、さらに5時間攪拌した。反応後、塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄を行った後、硫酸マグネシウムで乾燥を行った。乾燥したクルードをヘキサン/THFでカラムクロマトグラフィを行い、固体(3.1g:収率58%)を得た。質量分析(GC−MS、DI法)、1H−NMR(500MHz,1H,CDCl3)から目的物[化合物(iv)]であることが確認された。
【0066】
<化合物(v)の合成>
化合物(iv)(2.5g,4.8mmol)と2−ドデシル−5−トリブチルスタニルチオフェン(5.4g,10.0mmol)をDMF/トルエン200mL(1/1 v/v)に加えた。その後、室温でアルゴンを用いて30分バブリンブを行った。そこにPd(0)(PPh3)4を3mol%加えた。その後アルゴン雰囲気で85℃で12時間加熱攪拌を行った。室温に戻し、混合液をクロロホルムで抽出した。飽和食塩水で洗浄を行い硫酸マグネシウムで乾燥を行った。その後フッ化カリウム水溶液で処理し、析出物をろ過して取り除いた。その後乾燥させ、乾燥したクルードをヘキサン/THFでカラムクロマトグラフィを行い、固体(1.3g:収率38%)を得た。質量分析(GC−MS、DI法)、1H−NMR(500MHz,1H,CDCl3)から目的物[化合物(v)]であることが確認された。
【0067】
<化合物(vi)の合成>
20%硝酸水溶液に化合物(v)(1.2g,1.7mmol)を加え、不均一な状態で、室温で1時間攪拌した。さらにその後、80℃まで温度を上昇させ、さらに8時間加熱を行った。その後、室温に戻し、析出物をエタノールで洗浄し白色固体(1.2g、93%)を得た。質量分析(GC−MS、DI法)、1H−NMR(500MHz,1H,CDCl3)から目的物[化合物(vi)]であることが確認された。
【0068】
<化合物(vii)の合成>
化合物(vi)(1.0g,1.3mmol)、5酸化リン(100mg)、トリフルオロメタンスルホン酸無水物25mLを加え、室温で80時間加熱した。反応溶液を氷水に入れ室温に戻した後、析出物をろ過した。ろ過した固体物をそのまま、ピリジンに加え、100℃で加熱攪拌を12時間行った。その後、水に加え、再び析出物をろ過した。ろ過した析出物をメタノールで洗浄し、乾燥を行って黒色粉末の固体を得た。固体を昇華精製装置に入れ、6×10−3Pa〜1×10−3Pa付近で昇華精製を2回行うことにより、淡黄色固体の目的物(化合物(vii))を得た。合成及び昇華精製のトータルの収率は16%であった。質量分析(GC−MS、DI法)、1H−NMR(500MHz,1H,CDCl3)から目的物[化合物(vii):例示化合物11に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体]であることが確認された。
【0069】
上記で合成したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物11)を用いて、以下の要領で、図1の構成例(A)に示す構造の電界効果型トランジスタを作製し、評価した。
〔真空プロセスによる電界効果型トランジスタの作製〕
濃硫酸に24時間浸漬洗浄した膜厚300nmの熱酸化膜を有するN型のシリコン基板をオクチルトリクロロシランのトルエン溶液(濃度1mM、液量8mL)に浸漬し、容器を密封し、容器に超音波を30分当てた後、基板をトルエン、アセトンで超音波洗浄することでシリコン酸化膜表面を単分子膜処理した。
作製した基板に対して、上記で合成したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物11)を真空蒸着(背圧〜10−4Pa、蒸着レート1〜2Å/s)することにより、有機半導体層を形成(半導体膜厚:60nm)した。
この有機半導体層上部にシャドウマスクを用いて金を真空蒸着(背圧 〜10−4Pa、 蒸着レート1〜2Å/s、膜厚:50nm)することによりソース、ドレイン電極を形成した(チャネル長50μm、チャネル幅2mm)。電極とは異なる部位の有機半導体層及びシリコン酸化膜を削り取り、その部分に導電性ペースト(藤倉化成製)を付けて乾燥させ(溶媒を除去)、この部分を用いてゲート電極としてのシリコン基板に電圧を印加可能とした。上記容量で電界効果型トランジスタ(FET)を作製した。
〔作製した電界効果型トランジスタの評価〕
上記により作製したFET素子の電気特性をAgilent社製 半導体パラメーターアナライザー4156Cを用いて評価した結果、p型のトランジスタ素子としての特性を示した。電界効果移動度[ホール移動度(μ)]及びOn/Off比の評価結果を下記表1に示す。
電界効果移動度は飽和領域から求めた。なお、有機薄膜トランジスタの電界効果移動度の算出には、下記式(a)を用いた。
【0070】
【数1】

【0071】
[ただし式(a)中、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、Vはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートの閾値電圧を示す。]
【0072】
[実施例2]
実施例1の合成において用いた2−ドデシル−5−トリブチルスタニルチオフェンを、2,3-ジエチル−5−トリブチルスタニルチオフェンに変えた以外は実施例1と同様にして例示化合物14に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を合成した。
上記で合成したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物14)を用いて、実施例1と同様にして図1の構成例(A)に示す構造の電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。その結果、実施例1と同様のp型の半導体特性を示した。電界効果移動度[ホール移動度(μ)]及びOn/Off比の評価結果を下記表1に示す。
【0073】
[実施例3]
実施例1の合成において用いた2−ドデシル−5−トリブチルスタニルチオフェンを、2-オクチルオキシ−5−トリブチルスタニルチオフェンに変えた以外は実施例1と同様にして例示化合物17に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を合成した。
上記で合成したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物17)を用いて、実施例1と同様にして図1の構成例(A)に示す構造の電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。その結果、実施例1と同様のp型の半導体特性を示した。電界効果移動度[ホール移動度(μ)]及びOn/Off比の評価結果を下記表1に示す。
【0074】
[実施例4]
前記合成経路(1)に準拠して、例示化合物2に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を合成した。即ち、2,3,6,7−トテラキストリメチルシラニルナフタレンを出発原料として化合物(D)を得た後、化合物(D)と、2-ヘキシル−5−トリブチルスタニルチオフェンとのスティレカップリングにより化合物(E)を得、これを前記実施例1と同様にして酸化、環化して例示化合物2に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を合成した。
上記で合成したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物2)を用いて、実施例1と同様にして図1の構成例(A)に示す構造の電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。その結果、実施例1と同様のp型の半導体特性を示した。電界効果移動度[ホール移動度(μ)]及びOn/Off比の評価結果を下記表1に示す。
【0075】
[実施例5]
前記合成経路(1)に準拠して、例示化合物2に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を合成した。即ち、2,3,6,7−トテラキストリメチルシラニルナフタレンを出発原料として化合物(D)を得た後、化合物(D)と、3-オクチル−5−トリブチルスタニルチオフェンとのスティレカップリングにより化合物(E)を得、これを前記実施例1と同様にして酸化、環化して例示化合物6に示す構造を有するジチエノナフトジチオフェン誘導体を合成した。
上記で合成したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物6)を用いて、実施例1と同様にして図1の構成例(A)に示す構造の電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。その結果、実施例1と同様のp型の半導体特性を示した。電界効果移動度[ホール移動度(μ)]及びOn/Off比の評価結果を下記表1に示す。
【0076】
[比較例1]
実施例1で製造したジチエノナフトジチオフェン誘導体(例示化合物11)を下記に示す縮合多環化合物(TTBTT)に変えた以外は実施例1と同様にして、電界効果型トランジスタを作製し、作製した素子の電気特性を評価した。その結果、結晶膜に連続性がなく、トランジスタ駆動を示さなかった。電界効果移動度[ホール移動度(μ)]及びOn/Off比の評価結果を下記表1に示す。
【0077】
【化12】

【0078】
【表1】

【0079】
以上のように本発明の縮合多環材料を用いた有機電子デバイスである有機薄膜トランジスタは、高い電荷移動度、大きな電流On/Off比を有しており、素子として高い適応性を有していることがわかる。例えば、このような有機薄膜トランジスタを表示画素(液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子等)の駆動素子とすれば各種ディスプレイ装置が作製できる。
すなわち、本発明の前記一般式(1)、(2)、(3)で表される新規なジチエノナフトジチオフェン誘導体は、デバイス作製におけるプロセス適応性が良好であり、良好な熱安定を有すると共に、電気特性が良好であることから、例えば、EL材料、有機半導体材料、電荷輸送材料等、有機電子デバイスの素材として用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1 有機半導体層
2 ソース電極
3 ドレイン電極
4 ゲート電極
5 ゲート絶縁膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0081】
【特許文献1】特開2005−101493号公報
【特許文献2】特開平5−055568号公報
【特許文献3】特開2009−54180号公報
【非特許文献】
【0082】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.72,p1854 (1998)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.129,p15732 (2007)
【非特許文献3】Adv. Mater, 21, 213-216. (2009)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とするジチエノナフトジチオフェン誘導体。
【化1】


[式(1)中、R1及びR2は水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは無置換のアルキル基又はアルコシキ基若しくはチオアルコキシ基から選択される基を示す。Arはナフタレン環を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるジチエノナフトジチオフェン誘導体が、下記一般式(2)又は(3)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載のジチエノナフトジチオフェン誘導体。
【化2】


【化3】


[式(2)、(3)中、R1及びR2は式(1)の定義と同じである。]
【請求項3】
請求項1又は2に記載のジチエノナフトジチオフェン誘導体を用いたことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の有機電子デバイスが有機半導体層を具備する有機薄膜トランジスタであって、前記有機半導体層がジチエノナフトジチオフェン誘導体からなることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記ジチエノナフトジチオフェン誘導体からなる有機半導体層を介して互いに非接触分離状態で設けられる対をなす第1の電極と第2の電極、及び前記第1の電極と前記第2の電極間の有機半導体層内を流れる電流を電圧の印加により制御する第3の電極を具備することを特徴とする請求項4に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記第3の電極と、前記有機半導体層との間に、絶縁膜が設けられていることを特徴とする請求項5に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の有機薄膜トランジスタにより駆動される表示画素を備えたことを特徴とするディスプレイ装置。
【請求項8】
前記表示画素が、液晶素子、エレクトロルミネッセンス素子、エレクトロクロミック素子、及び電気泳動素子の中から選ばれるいずれかの素子であることを特徴とする請求項7に記載のディスプレイ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−254599(P2010−254599A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104853(P2009−104853)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】