説明

スクリューロータ加工方法及び加工装置

【課題】工具とワークとの位置関係が熱によってずれたとしても、スクリューロータを高精度に加工する。
【解決手段】スクリューロータ加工方法は、工具(110)をワーク(120)に対して相対移動させる所望の目標工具経路から加工装置(100)で工具(110)とワーク(120)とをそれぞれ移動させるためのNCデータを作成する数値データ作成工程と、加工装置(100)がNCデータに基づいて工具(110)とワーク(120)とをそれぞれ移動させて、工具(110)でワーク(120)を加工する加工工程とを含んでいる。数値データ作成工程は、1つのワーク(120)の加工が完了したときに、工具(110)及びワーク(120)の熱変位を測定し、その熱変位に基づいて所望の目標工具経路に対するNCデータを再作成する数値データ再作成工程を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリュー圧縮機のスクリューロータを加工するスクリューロータ加工方法及び加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷媒や空気を圧縮する圧縮機として、シングルスクリュー圧縮機が用いられている。例えば、特許文献1には、1つのスクリューロータと2つのゲートロータとを備えたシングルスクリュー圧縮機が開示されている。
【0003】
このシングルスクリュー圧縮機について、図10を参照しながら説明する。同図に示すように、スクリューロータ(440)は、概ね円柱状に形成されており、その外周部に複数条の螺旋溝(441)が刻まれている。ゲートロータ(450)は、概ね平板状に形成されており、スクリューロータ(440)の側方に配置されている。このゲートロータ(450)には、複数の長方形板状のゲート(451)が放射状に設けられている。ゲートロータ(450)は、その回転軸がスクリューロータ(440)の回転軸と直交する姿勢で設置され、ゲート(451)がスクリューロータ(440)の螺旋溝(441)と噛み合わされる。
【0004】
図10には図示しないが、シングルスクリュー圧縮機では、スクリューロータ(440)とゲートロータ(450)がケーシングに収容されており、スクリューロータ(440)の螺旋溝(441)と、ゲートロータ(450)のゲート(451)と、ケーシングの内壁面とによって圧縮室が形成される。スクリューロータ(440)を電動機等で回転駆動すると、スクリューロータ(440)の回転に伴ってゲートロータ(450)が回転する。そして、ゲートロータ(450)のゲート(451)が、噛み合った螺旋溝(441)の始端(同図における左端)から終端(同図における右端)へ向かって相対的に移動し、閉じきり状態となった圧縮室の容積が次第に縮小する。その結果、圧縮室内の流体が圧縮される。
【0005】
かかるシングルスクリュー圧縮機の一部を構成するスクリューロータ(440)は、特許文献2に示すような加工装置によって製造される。
【0006】
特許文献2に開示された加工装置は、工具を直交する3軸に沿って直進移動可能に支持する工具支持部と、ワークを2軸周りに回転可能に支持するワーク支持部とを備え、工具とワークとを3軸に沿って相対的に直進移動させると共に2軸周りに相対的に回転移動させながら、該ワークを該工具で加工してスクリューロータロータ(440)を製造する。
【特許文献1】特開2002−202080号公報
【特許文献2】米国特許第6122824号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、スクリューロータは、前述の如く、螺旋溝が形成された複雑な形状をしているため、ワークを加工する際には、ワーク及び工具を高い精度で相対移動させる必要がある。
【0008】
しかしながら、加工装置によるスクリューロータの加工を継続していくと、加工装置のモータ等の発熱によって、工具とワークとの相対的な位置関係にずれが生じる虞がある。このように工具とワークとの相対的な位置関係にずれが生じると、スクリューロータを精度良く加工することが難しくなる。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、工具とワークとの位置関係が熱によってずれたとしても、スクリューロータを高精度に加工することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、工具(110)とワーク(120)とを相対移動させて該工具(110)でワーク(120)を加工する加工装置(100)を用いて、ワーク(120)をスクリュー圧縮機(1)のスクリューロータ(40)に加工するスクリューロータ加工方法が対象である。そして、工具(110)をワーク(120)に対して相対移動させる所望の目標工具経路から、該加工装置(100)で該工具(110)と該ワーク(120)とをそれぞれ移動させるための数値データを作成する数値データ作成工程と、前記加工装置(100)が前記数値データに基づいて前記工具(110)と前記ワーク(120)とをそれぞれ移動させて、該工具(110)で該ワーク(120)を加工する加工工程とを含み、前記数値データ作成工程は、所定のタイミングが到来したときには、次のワーク(120)を加工する前に、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて前記目標工具経路に対する前記数値データを再作成する数値データ再作成工程を含んでいるものとする。
【0011】
前記の構成の場合、所定のタイミングが到来したときに、工具(110)及びワーク(120)の熱変位に基づいて所望の目標工具経路から数値データを再作成することによって、加工装置(100)における発熱による工具(110)とワーク(120)との位置関係のずれを考慮して、工具(110)とワーク(120)とをそれぞれ移動させるための数値データを作成することができる。その結果、熱変位が生じた状態における工具(110)とワーク(120)との位置関係に基づいて工具(110)とワーク(120)とを相対移動させることができ、工具(110)をワーク(120)に対して所望の目標工具経路に沿って精度良く相対移動させることができる。
【0012】
ここで、所定のタイミングとしては、ワーク(120)の加工を継続して所定時間経過した後であるとか、各ワーク(120)の加工を開始する前であるとか、工具(110)とワーク(120)との位置関係に熱変位が生じていると考えられる任意のタイミングを設定することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、前記数値データ再作成工程は、所定の基準状態における前記ワーク(120)と前記工具(110)との位置関係を測定することによって、該工具(110)及び該ワーク(120)の熱変位を測定する熱変位測定工程を含んでいるものとする。
【0014】
前記の構成の場合、ワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定するための基準状態を決めておくことによって、該基準状態におけるワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定することで、ワーク(120)と工具(110)との熱変位を容易に測定することができる。
【0015】
第3の発明は、第2の発明において前記加工装置(100)は、前記工具(110)と前記ワーク(120)とを所定の直進軸に沿って相対的に直進移動させると共に所定の回転軸回りに回転移動させるように構成されており、前記数値データ作成工程では、前記直進軸及び前記回転軸に基づいて、前記目標工具経路から前記数値データを作成し、前記熱変位測定工程では、前記基準状態における前記工具(110)と前記ワーク(120)との熱変位から前記加工装置(100)の前記直進軸及び前記回転軸の熱変位を算出し、前記数値データ再作成工程では、前記熱変位測定工程で算出した前記直進軸及び前記回転軸の熱変位に基づいて、前記目標工具経路から前記数値データを再作成するものとする。
【0016】
前記の構成の場合、目標工具経路からの数値データの作成は、加工装置(100)における直進軸及び回転軸の幾何学的配置に基づいて行われるため、熱変位測定工程において測定した工具(110)とワーク(120)との熱変位から加工装置(100)の直進軸及び回転軸の熱変位を算出し、この熱変位した直進軸と回転軸の幾何学的配置に基づいて数値データを再作成することによって、工具(110)とワーク(120)との熱変位を考慮した数値データを容易に再作成することができる。つまり、熱変位測定工程において測定した工具(110)とワーク(120)との熱変位を用いて数値データを直接補正すると、非常に手間がかかる。それに対して、目標工具経路から数値データを作成する際に基準とする直進軸及び回転軸の熱変位を求める、即ち、該直進軸及び回転軸の位置を補正することによって、目標工具経路からの数値データの作成は通常と変わらない手法で行うことができるため、工具(110)とワーク(120)との熱変位に応じた数値データを容易に再作成することができる。
【0017】
第4の発明は、工具(110)とワーク(120)とを所定の直進軸に沿って相対的に直進移動させると共に所定の回転軸回りに相対的に回転移動させて該工具(110)で該ワーク(120)をスクリュー圧縮機のスクリューロータに加工するスクリューロータ加工装置が対象である。そして、前記ワーク(120)を支持し且つ移動させるワーク支持部(300)と、前記工具(110)を支持し且つ移動させる工具支持部(200)と、前記工具(110)を前記ワーク(120)に対して相対移動させる所望の目標工具経路から前記工具支持部(200)と前記ワーク支持部(300)とをそれぞれ移動させるための数値データを作成して、該数値データに基づいて該ワーク支持部(300)及び該工具支持部(200)を移動させることにより該工具(110)に該ワーク(120)を加工させる制御部(500)とを備え、前記制御部(500)は、所定のタイミングが到来したときには、次のワーク(120)を加工する前に、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて前記目標工具経路に対する前記数値データを再作成するものとする。
【0018】
前記の構成の場合、所定のタイミングが到来したときに、工具(110)及びワーク(120)の熱変位に基づいて所望の目標工具経路から数値データを再作成することによって、加工装置における発熱による工具(110)とワーク(120)との位置関係のずれを考慮して、工具支持部(200)とワーク支持部(300)とをそれぞれ移動させるための数値データを作成することができる。その結果、熱変位が生じた状態における工具(110)とワーク(120)との位置関係に基づいて工具(110)とワーク(120)とを相対移動させることができ、工具(110)をワーク(120)に対して所望の目標工具経路に沿って精度良く相対移動させることができる。
【0019】
第5の発明は、第4の発明において、前記ワーク支持部(300)には、被検出部(340)が設けられる一方、前記工具支持部(200)は、前記被検出部(340)を検出する検出手段(110C)を支持可能に構成されており、前記制御部(500)は、前記ワーク支持部(300)を所定の基準位置に位置させると共に、前記検出手段(110C)を支持した前記工具支持部(200)を移動させて該検出手段(110C)により前記被検出部(340)を検出させることで該被検出部(340)の位置を測定し、該被検出部(340)の位置から前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定するものとする。
【0020】
前記の構成の場合、所定の基準状態における被検出部(340)の位置を工具支持部(200)に支持した検出手段(110C)を用いて測定することによって、基準状態におけるワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定することができる。そして、ワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定するための基準状態を決めておくことによって、該基準状態におけるワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定することで、ワーク(120)と工具(110)との熱変位を容易に測定することができる。
【0021】
第6の発明は、第5の発明において、前記制御部(500)は、前記直進軸及び前記回転軸の位置に基づいて、前記目標工具経路から前記数値データを作成するように構成されていて、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位に基づいて該目標工具経路に対する前記数値データを再作成するときには、前記検出手段(110C)を用いて測定した前記被検出部(340)の位置から前記直進軸及び前記回転軸の位置を算出し、算出した該直進軸及び該回転軸の位置に基づいて、前記数値データを再作成するものとする。
【0022】
前記の構成の場合、目標工具経路からの数値データの作成は、加工装置における直進軸及び回転軸に基づいて行われるため、熱変位測定工程において測定した工具(110)とワーク(120)との熱変位から加工装置の直進軸及び回転軸の熱変位を算出することによって、工具(110)とワーク(120)との熱変位を考慮した数値データを容易に再作成することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、所定のタイミングが到来したときに、数値データ再作成工程において、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて前記所望の目標工具経路に対する前記数値データを再作成することによって、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位に応じて工具(110)とワーク(120)とをそれぞれ移動させることができ、工具(110)をワーク(120)に対して所望の相対移動経路に沿って相対移動させながら加工を行うことができる。その結果、工具(110)とワーク(120)との位置関係が熱によってずれたとしても、スクリューロータを高精度に加工することできる。
【0024】
第2の発明によれば、ワーク(120)と工具(110)との所定の基準状態を決めておくことによって、該基準状態におけるワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定することによって、工具(110)とワーク(120)との熱変位を容易に測定することができる。
【0025】
第3の発明によれば、目標工具経路からの数値データの作成を加工装置(100)の直進軸及び回転軸に基づいて行うと共に、熱変位測定工程においては測定した工具(110)とワーク(120)との熱変位から加工装置(100)の直進軸及び回転軸の熱変位を算出することによって、工具(110)とワーク(120)との熱変位を考慮した数値データを容易に再作成することができる。
【0026】
第4の発明によれば、所定のタイミングが到来したときに、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて前記所望の目標工具経路に対する前記数値データを再作成することによって、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位に応じて工具(110)とワーク(120)とをそれぞれ移動させることができ、工具(110)をワーク(120)に対して所望の相対移動経路に沿って相対移動させながら加工を行うことができる。その結果、工具(110)とワーク(120)との位置関係が熱によってずれたとしても、スクリューロータを高精度に加工することできる。
【0027】
第5の発明によれば、ワーク(120)と工具(110)との所定の基準状態を決めておくことによって、該基準状態におけるワーク(120)と工具(110)との位置関係を測定することによって、工具(110)とワーク(120)との熱変位を容易に測定することができる。
【0028】
第6の発明によれば、目標工具経路からの数値データの作成を加工装置の直進軸及び回転軸に基づいて行うと共に、工具(110)とワーク(120)との熱変位から加工装置の直進軸及び回転軸の熱変位を算出することによって、工具(110)とワーク(120)との熱変位を考慮した数値データを容易に再作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0030】
本発明の実施形態に係るスクリューロータ加工装置(100)によって製造されるスクリューロータ(40)は、シングルスクリュー圧縮機(以下、単にスクリュー圧縮機という)(1)に用いられる。そこで、まず、スクリュー圧縮機(1)について説明する。
【0031】
このスクリュー圧縮機(1)は、冷凍サイクルを行う冷媒回路に設けられて冷媒を圧縮するためのものである。スクリュー圧縮機(1)は、図2,3に示すように、密閉型に構成されている。このスクリュー圧縮機(1)では、圧縮機構(20)とそれを駆動する電動機とが1つのケーシング(10)に収容されている。圧縮機構(20)は、駆動軸(21)を介して電動機と連結されている。図2において、電動機は省略されている。また、ケーシング(10)内には、冷媒回路の蒸発器から低圧のガス冷媒が導入されると共に該低圧ガスを圧縮機構(20)へ案内する低圧空間(S1)と、圧縮機構(20)から吐出された高圧のガス冷媒が流入する高圧空間(S2)とが区画形成されている。
【0032】
圧縮機構(20)は、ケーシング(10)内に形成された円筒壁(30)と、該円筒壁(30)の中に配置された1つのスクリューロータ(40)と、該スクリューロータ(40)に噛み合う2つのゲートロータ(50)とを備えている。スクリューロータ(40)には、駆動軸(21)が挿通されている。スクリューロータ(40)と駆動軸(21)は、キー(22)によって連結されている。駆動軸(21)は、スクリューロータ(40)と同軸上に配置されている。駆動軸(21)の先端部は、圧縮機構(20)の高圧側(図2の右側)に位置する軸受ホルダ(60)に回転自在に支持されている。この軸受ホルダ(60)は、玉軸受(61)を介して駆動軸(21)を支持している。
【0033】
図4,5に示すように、スクリューロータ(40)は、概ね円柱状に形成された金属製の部材である。スクリューロータ(40)は、円筒壁(30)に回転可能に嵌合しており、その外周面が円筒壁(30)の内周面と摺接する。スクリューロータ(40)の外周部には、スクリューロータ(40)の一端から他端へ向かって螺旋状に延びる螺旋溝(41)が複数(本実施形態では、6本)形成されている。
【0034】
スクリューロータ(40)の各螺旋溝(41)は、図5における左端が始端となり、同図における右端が終端となっている。また、スクリューロータ(40)は、同図における左端部(吸入側の端部)がテーパー状に形成されている。図5に示すスクリューロータ(40)では、テーパー面状に形成されたその左端面に螺旋溝(41)の始端が開口する一方、その右端面に螺旋溝(41)の終端は開口していない。
【0035】
螺旋溝(41)では、両側の側壁面(42,43)のうち、ゲート(51)の進行方向の前側に位置するものが第1側壁面(42)となり、ゲート(51)の進行方向の後側に位置するものが第2側壁面(43)となっている。
【0036】
各ゲートロータ(50)は、長方形板状に形成された複数(本実施形態では、11枚)のゲート(51)が放射状に設けられた樹脂製の部材である。各ゲートロータ(50)は、円筒壁(30)の外側にスクリューロータ(40)を挟んで対称に配置され、軸心がスクリューロータ(40)の軸心と直交している。各ゲートロータ(50)は、ゲート(51)が円筒壁(30)の一部を貫通してスクリューロータ(40)の螺旋溝(41)に噛み合うように配置されている。
【0037】
ゲートロータ(50)は、金属製のロータ支持部材(55)に取り付けられている(図4を参照)。ロータ支持部材(55)は、基部(56)とアーム部(57)と軸部(58)とを備えている。基部(56)は、やや肉厚の円板状に形成されている。アーム部(57)は、ゲートロータ(50)のゲート(51)と同数だけ設けられており、基部(56)の外周面から外側へ向かって放射状に延びている。軸部(58)は、棒状に形成されて基部(56)に立設されている。軸部(58)の中心軸は、基部(56)の中心軸と一致している。ゲートロータ(50)は、基部(56)及びアーム部(57)における軸部(58)とは反対側の面に取り付けられている。各アーム部(57)は、ゲート(51)の背面に当接している。
【0038】
ゲートロータ(50)が取り付けられたロータ支持部材(55)は、円筒壁(30)に隣接してケーシング(10)内に区画形成されたゲートロータ室(90)に収容されている(図3を参照)。図3におけるスクリューロータ(40)の右側に配置されたロータ支持部材(55)は、ゲートロータ(50)が下端側となる姿勢で設置されている。一方、同図におけるスクリューロータ(40)の左側に配置されたロータ支持部材(55)は、ゲートロータ(50)が上端側となる姿勢で設置されている。各ロータ支持部材(55)の軸部(58)は、ゲートロータ室(90)内の軸受ハウジング(91)に玉軸受(92,93)を介して回転自在に支持されている。なお、各ゲートロータ室(90)は、低圧空間(S1)に連通している。
【0039】
圧縮機構(20)では、円筒壁(30)の内周面と、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)と、ゲートロータ(50)のゲート(51)とによって囲まれた空間が圧縮室(23)になる。スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)は、吸入側端部において低圧空間(S1)に開放しており、この開放部分が圧縮機構(20)の吸入口(24)になっている。
【0040】
スクリュー圧縮機(1)には、容量制御機構としてスライドバルブ(70)が設けられている。このスライドバルブ(70)は、円筒壁(30)がその周方向の2カ所において径方向外側に膨出したスライドバルブ収納部(31)内に設けられている。スライドバルブ(70)は、内面が円筒壁(30)の内周面の一部を構成すると共に、円筒壁(30)の軸心方向にスライド可能に構成されている。
【0041】
スライドバルブ(70)が図2における右方向へスライドすると、スライドバルブ収納部(31)の端面(P1)とスライドバルブ(70)の端面(P2)との間に軸方向隙間が形成される。この軸方向隙間は、圧縮室(23)から低圧空間(S1)へ冷媒を戻すためのバイパス通路(33)となっている。スライドバルブ(70)を移動させてバイパス通路(33)の開度を変更すると、圧縮機構(20)の容量が変化する。また、スライドバルブ(70)は、圧縮室(23)と高圧空間(S2)とを連通させるための吐出口(25)が形成されている。
【0042】
前記スクリュー圧縮機(1)には、スライドバルブ(70)をスライド駆動させるためのスライドバルブ駆動機構(80)が設けられている。このスライドバルブ駆動機構(80)は、軸受ホルダ(60)に固定されたシリンダ(81)と、該シリンダ(81)内に装填されたピストン(82)と、該ピストン(82)のピストンロッド(83)に連結されたアーム(84)と、該アーム(84)とスライドバルブ(70)とを連結する連結ロッド(85)と、アーム(84)を図2の右方向に付勢するスプリング(86)とを備えている。
【0043】
図2に示すスライドバルブ駆動機構(80)において、ピストン(82)の左側空間には低圧圧力が作用し、ピストン(82)の右側空間には高圧圧力が作用する。スライドバルブ駆動機構(80)は、ピストン(82)の左右の端面に作用するガス圧を調節することによって該ピストン(82)の動きを制御し、スライドバルブ(70)の位置を調整するように構成されている。
【0044】
−運転動作−
前記シングルスクリュー圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0045】
シングルスクリュー圧縮機(1)において電動機を起動すると、駆動軸(21)が回転するのに伴ってスクリューロータ(40)が回転する。このスクリューロータ(40)の回転に伴ってゲートロータ(50)も回転し、圧縮機構(20)が吸入行程、圧縮行程および吐出行程を繰り返す。ここでは、図6において網掛けを付した圧縮室(23)に着目して説明する。
【0046】
図6(A)において、網掛けを付した圧縮室(23)は、低圧空間(S1)に連通している。また、この圧縮室(23)が形成されている螺旋溝(41)は、同図の下側に位置するゲートロータ(50)のゲート(51)と噛み合わされている。スクリューロータ(40)が回転すると、このゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって相対的に移動し、それに伴って圧縮室(23)の容積が拡大する。その結果、低圧空間(S1)の低圧ガス冷媒が吸入口(24)を通じて圧縮室(23)へ吸い込まれる。
【0047】
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図6(B)の状態となる。同図において、網掛けを付した圧縮室(23)は、閉じきり状態となっている。つまり、この圧縮室(23)が形成されている螺旋溝(41)は、同図の上側に位置するゲートロータ(50)のゲート(51)と噛み合わされ、このゲート(51)によって低圧空間(S1)から仕切られている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって移動すると、圧縮室(23)の容積が次第に縮小する。その結果、圧縮室(23)内のガス冷媒が圧縮される。
【0048】
スクリューロータ(40)が更に回転すると、図6(C)の状態となる。同図において、網掛けを付した圧縮室(23)は、吐出口(25)を介して高圧空間(S2)と連通した状態となっている。そして、スクリューロータ(40)の回転に伴ってゲート(51)が螺旋溝(41)の終端へ向かって移動すると、圧縮された冷媒ガスが圧縮室(23)から高圧空間(S2)へ押し出されてゆく。
【0049】
圧縮機構(20)が吸入行程から圧縮行程へ移行する過程において、ゲートロータ(50)のゲート(51)は、スクリューロータ(40)の端面に開口する吸入口(24)を通って螺旋溝(41)内へ進入してくる。ゲート(51)が螺旋溝(41)内へ進入してくる過程において、ゲート(51)は、先ず、その進行方向の前方に位置する側面と先端面だけが螺旋溝(41)の壁面(42,44)と対面する状態となり、その後に、その進行方向の後方に位置する側面も螺旋溝(41)の壁面(43)と対面する状態となる。
【0050】
なお、螺旋溝(41)内の圧縮室(23)が閉じきり状態となる位置にゲート(51)が到達した後において、ゲート(51)と螺旋溝(41)の側壁面(42,43,44)とは物理的に擦れ合っている必要はなく、両者の間に微小な隙間があっても差し支えない。つまり、ゲート(51)と螺旋溝(41)の側壁面(42,43,44)と間に微小な隙間があっても、この隙間が潤滑油からなる油膜でシールできる程度のものであれば、圧縮室(23)の気密性は保たれ、圧縮室(23)から漏れ出すガス冷媒の量は僅かな量に抑えられる。
【0051】
−スクリューロータ加工装置−
続いて、本実施形態のスクリューロータ加工装置(以下、単に加工装置という)(100)について説明する。
【0052】
加工装置(100)は、図7に示すように、エンドミル等の工具(110)を支持する工具支持ユニット(200)と、被削物であるワーク(120)を支持するワーク支持ユニット(300)と、これら工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)が配設された基台(130)と、該工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)を制御する制御装置(500)(図9参照)とを備えている。
【0053】
工具支持ユニット(200)は、基台(130)に配設されたコラム(210)と、該コラム(210)に取り付けられたスピンドル部(220)とを有している。この工具支持ユニット(200)が工具支持部を構成する。
【0054】
コラム(210)は、基台(130)の上面に設けられたZ軸ガイドレール(140,140)に対して摺動自在に取り付けられていて、該Z軸ガイドレール(140,140)が延びるZ軸方向に移動可能となっている。詳しくは、コラム(210)は、リニアサーボモータによってZ軸方向に位置決めされながら移動する。このコラム(210)の、ワーク支持ユニット(300)と対向する面には、Y軸に沿って延びるY軸ガイドレール(150,150)が延設されている。このY軸は、鉛直方向に延びている。
【0055】
スピンドル部(220)は、ベース部(230)と、スピンドル本体(240)と、ツールホルダ(250)とを有している。
【0056】
ベース部(230)は、コラム(210)のY軸ガイドレール(150,150)に摺動自在に取り付けられている。このベース部(230)は、リニアサーボモータによってY軸方向に位置決めされながら移動する。つまり、スピンドル部(220)は、Y軸ガイドレール(150,150)が延びるY軸方向に移動可能となっている。
【0057】
スピンドル本体(240)には、工具(110)を支持したツールホルダ(250)が着脱可能に取り付けられている。また、スピンドル本体(240)には、サーボモータが搭載されていて、このサーボモータにより所望の回転速度でツールホルダ(250)、即ち工具(110)が回転駆動される。
【0058】
このように構成された工具支持ユニット(200)においては、制御装置(500)からの制御信号に応じてコラム(210)及びベース部(230)のリニアサーボモータが駆動制御されることによって、工具(110)が所望のY方向位置及びZ方向位置に位置決めされると共に、制御装置(500)からの制御信号に応じてスピンドル本体(240)のサーボモータが駆動制御されることによって、工具(110)が回転駆動される。
【0059】
一方、ワーク支持ユニット(300)は、基台(130)に対して回転自在に配設された回転テーブル(310)と、該回転テーブル(310)上に設置されて被削物であるワーク(120)をクランプするクランプ部(320)と、該回転テーブル(310)上に設置されて該クランプ部(320)に支持されたワークの回転中心を支持するセンタ(330)とを有している。このワーク支持ユニット(300)がワーク支持部を構成する。
【0060】
回転テーブル(310)は、基台(130)の上面に設けられ且つX軸方向(Y軸及びZ軸に直交する)に延びるX軸ガイドレール(160,160)に対して摺動自在に取り付けられた基礎部(311)と、該基礎部(311)に対して鉛直方向に延びる鉛直軸(B)回りに回転自在に取り付けられた回転台(312)とを有している。詳しくは、この基礎部(311)は、リニアサーボモータによってX軸方向に位置決めされながら移動する。また、回転台(312)は、サーボモータによって鉛直軸(B)回りの回転角を位置決めされながら回転移動する。
【0061】
クランプ部(320)は、水平方向に延びる水平軸(A)回りにワーク(120)を回転自在に支持していている。この水平軸(A)は、回転台(312)の回転中心となる鉛直軸(B)と交差している。クランプ部(320)は、ワーク(120)をサーボモータによって水平軸(A)回りの回転角を位置決めしながら回転移動させる。
【0062】
また、クランプ部(320)の、工具支持ユニット(200)と対向する面には、図1に示すように、被検出部(340)が設けられている。この被検出部(340)は、円形断面を有する有底状の開口(341)が形成されている。この被検出部(340)は、後述の熱変位測定に用いられる。
【0063】
センタ(330)は、回転テーブル(310)上において前記水平軸(A)に沿って摺動自在であって、クランプ部(320)に支持されたワーク(120)の回転中心に対して該ワーク(120)の先端側から当接するように構成されている。すなわち、センタ(330)は、クランプ部(320)によって片持ち状にクランプされたワーク(120)の自由端において、その回転中心をセンタ押しすることで、クランプ部(320)によって水平軸(A)回りに回転駆動されるワーク(120)の軸ブレを防止している。
【0064】
このように構成されたワーク支持ユニット(300)においては、制御装置(500)からの制御信号に応じて回転テーブル(310)が所望のX方向位置に位置決めされると共に、制御装置(500)からの制御信号に応じて回転テーブル(310)の回転台(312)及びクランプ部(320)のサーボモータが駆動制御されることによって、ワーク(120)が鉛直軸(B)回り及び水平軸(A)回りに位置決めされる。
【0065】
つまり、加工装置(100)は、制御装置(500)からの制御信号に応じて、工具支持ユニット(200)とワーク支持ユニット(300)とを駆動制御することによって、図8に示すように、工具(110)及びワーク(120)を相対的に移動させて、該工具(110)でワーク(120)を加工する。
【0066】
続いて、制御装置(500)について詳しく説明する。
【0067】
制御装置(500)は、図9に示すように、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)の設計データが入力される入力部(510)と、工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)を駆動制御するためのNCデータを算出する演算部(520)と、該NCデータを工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)の各リニアサーボモータ及びサーボモータに出力する出力部(530)と、工具(110)とワーク(120)との熱変位を測定する熱変位測定部(540)とを有している。この制御装置(500)が制御部を構成する。
【0068】
入力部(510)は、スクリューロータ(40)の螺旋溝(41)の設計データが入力され、この設計データに基づいて工具(110)のワーク(120)に対する目標工具経路データを算出する。尚、入力部(510)は、スクリューロータ(40)の設計データではなく、目標工具経路データが直接入力される構成であってもよい。
【0069】
演算部(520)は、入力部(510)からの目標工具経路データに基づいて、前記工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)をそれぞれ駆動するためのNCデータ(数値データ)を作成する。つまり、工具支持ユニット(200)については、コラム(210)のZ方向位置、及びベース部(230)のY方向位置及び工具(110)の回転速度等をNCデータとして作成する。また、ワーク支持ユニット(300)については、回転テーブル(310)の基礎部(311)のX方向位置、回転テーブル(310)の回転台(312)の鉛直軸(B)回りの回転角度及びクランプ部(320)の水平軸(A)回りの回転角度をNCデータとして作成する。
【0070】
ここで、演算部(520)は、工具(110)がワーク(120)に対して目標工具経路に沿って移動するように、図1に示す基準状態におけるワーク支持ユニット(300)の水平軸(A)及び鉛直軸(B)を基準として、目標工具経路データを工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)のX,Y,Z,A,B軸に関する移動量に変換する。尚、この基準状態は、水平軸(A)がX軸と平行となり、ワーク支持ユニット(300)の被検出部(340)の開口(341)がX方向においてスピンドル本体(240)の回転軸と同じ位置に位置する状態である。また、この位置を基準位置という。
【0071】
出力部(530)は、演算部(520)からのNCデータに基づいて、工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)の各リニアサーボモータ及びサーボモータに制御信号を出力する。
【0072】
こうして、出力部(530)から工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)の各リニアサーボモータ及びサーボモータに制御信号が入力されることによって、工具支持ユニット(220)及びワーク支持ユニット(300)は該制御信号に応じて移動し、その結果、工具(110)がワーク(120)に対して所望の目標工具経路に沿って移動しながら該ワーク(120)に螺旋溝(41)を加工していく。
【0073】
ここで、ワーク(120)の加工を継続すると、工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)のモータ等による発熱や、工具(110)でのワーク(120)加工時の発熱によって、工具支持ユニット(200)やワーク支持ユニット(300)等の加工装置(100)の構成要素が熱により歪んで、工具(110)とワーク(120)との位置関係が変位する場合がある。
【0074】
そこで、加工装置(100)は、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位を考慮して、NCデータを再作成している。
【0075】
詳しくは、制御装置(500)の熱変位測定部(540)は、1つのワーク(120)の加工が終わって次のワーク(120)の加工を開始する前に、以下の手順で、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位を測定している。
【0076】
まず、ワーク支持ユニット(300)に制御信号を出力し、ワーク支持ユニット(300)を前述の基準状態にする(図1参照)。すなわち、回転テーブル(310)の回転台(312)を、クランプ部(320)の水平軸(A)がX軸と平行となるように回転させると共に、回転テーブル(310)の基礎部(311)を、クランプ部(320)に設けられた前記被検出部(340)のX座標位置が工具支持ユニット(200)のスピンドル部(220)の回転軸のX座標位置と一致する場所に位置させる。詳しくは、ワーク支持ユニット(300)における被検出部(340)の位置及び加工装置(100)におけるスピンドル部(220)の回転軸の位置は、組立時や加工開始前に予め測定する等してわかっているため、被検出部(340)がX方向においてスピンドル部(220)の回転軸と一致すると考えられる位置まで、ワーク支持ユニット(300)をX軸方向に移動させる。
【0077】
続いて、熱変位測定部(540)は、工具支持ユニット(200)にタッチセンサ(110C)を搭載し、ワーク支持ユニット(300)に設けられた被検出部(340)の位置を該タッチセンサ(110C)を用いて測定する。このタッチセンサ(110C)は、その先端部が被検出部(340)と接触することで検出信号を出力するように構成されており、この検出信号が制御装置(500)へ入力されるように構成されている。このタッチセンサ(110C)が検出手段を構成する。
【0078】
詳しくは、まず、前述の如く、ワーク支持ユニット(300)における被検出部(340)の位置(詳しくは、Y座標及びZ座標)が予めわかっていると共に、工具支持ユニット(200)に搭載されたタッチセンサ(110C)の先端部の工具支持ユニット(200)からの概略突出量もタッチセンサ(110C)及びツールホルダ(250)の寸法から予めわかっているため、タッチセンサ(110C)の先端部がワーク支持ユニット(300)の被検出部(340)の開口(341)内に位置するであろう位置まで工具支持ユニット(200)をY方向及びZ方向に移動させる。
【0079】
こうして、タッチセンサ(110C)の先端部が被検出部(340)の開口(341)内に位置する状態において、ワーク支持ユニット(300)をX方向の一側に移動させて、タッチセンサ(110C)の先端部を被検出部(340)の開口(341)の内周面に接触させる。すると、タッチセンサ(110C)が検出信号を出力するため、そのときのX座標を測定する。続いて、ワーク支持ユニット(300)をX方向の他側に移動させて、同様に、タッチセンサ(110C)の先端部が被検出部(340)の開口(341)の内周面に接触するときのX座標を求める。こうして、タッチセンサ(110C)がX方向の一側及び他側において被検出部(340)の開口(341)の内周面と接触する点のX座標を求める。
【0080】
次に、ワーク支持ユニット(300)を基準位置に戻した後、X方向のときと同様に、工具支持ユニット(200)をタッチセンサ(110C)の先端部が被検出部(340)の開口(341)の内周面に接触するまでY方向の一側と他側とに移動させて、タッチセンサ(110C)がY方向の一側及び他側において被検出部(340)の開口(341)の内周面と接触する点のY座標を求める。
【0081】
これらタッチセンサ(110C)の先端部と被検出部(340)の開口(341)の内周面との4つの接触点の座標からから該開口(341)のXY平面における中心座標を求める。
【0082】
続いて、ワーク支持ユニット(300)を基準位置に戻した後、タッチセンサ(110C)の先端部が被検出部(340)の開口(341)の底面に接触するまで工具支持ユニット(200)をZ方向に移動させて、タッチセンサ(110C)が被検出部(340)の開口(341)の底面と接触する点のZ座標を求める。
【0083】
こうして、被検出部(340)の開口(341)の円形底面の中心(以下、基準点という)のX,Y,Z座標が求められる。
【0084】
ここで、ワーク支持ユニット(300)における、被検出部(340)の基準点とクランプ部(320)の水平軸(A)との位置関係、及び被検出部(340)の基準点と回転台(312)の鉛直軸(b)との位置関係は予めわかっているため、被検出部(340)の基準点のX,Y,Z座標が求めれると、図1に示すように、水平軸(A)のY,Z座標および鉛直軸(B)のZ,X座標を求めることができる。尚、被検出部(340)の基準点と水平軸(A)及び鉛直軸(B)との距離は短いため、被検出部(340)の基準点と水平軸(A)及び鉛直軸(B)との間の熱変位は無視できる。
【0085】
熱変位測定部(540)は、こうして求めた水平軸(A)のY,Z座標および鉛直軸(B)のZ,X座標を演算部(520)へ出力する。
【0086】
演算部(520)は、熱変位測定部(540)から入力された水平軸(A)のY,Z座標および鉛直軸(B)のZ,X座標に基づいて、入力部(510)より入力される目標工具経路データからNCデータを再作成する。再作成されたNCデータは出力部(530)へ出力され、該出力部(530)から工具支持ユニット(200)及びワーク支持ユニット(300)へ制御信号が出力される。その結果、工具(110)及びワーク(120)は、熱変位によりずれた水平軸(A)及び鉛直軸(B)を基準に相対移動することになり、工具(110)とワーク(120)との位置関係が熱変位によりずれているにもかかわらず、工具(110)はワーク(120)に対して所望の目標工具経路に沿って加工を行っていく。
【0087】
したがって、本実施形態によれば、1つのワーク(120)の加工が完了して次のワーク(120)の加工を開始する前に、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて、所望の目標工具経路からNCデータを再作成を行うことによって、加工装置(100)内の発熱により工具(110)とワーク(120)との位置関係に熱変位が生じたとしても、工具(110)をワーク(120)に対して所望の目標工具経路に沿って相対移動させることができ、ワーク(120)に螺旋溝(41)を高い精度で加工することができる。
【0088】
具体的には、所定の基準状態にあるワーク支持ユニット(300)の位置を工具支持ユニット(200)に支持したタッチセンサ(110C)で測定することによって、ワーク支持ユニット(300)の熱変位だけでなく、工具支持ユニット(200)の熱変位も測定することができる。
【0089】
また、所望の目標工具経路からNCデータへの変換の基準となる、ワーク支持ユニット(300)の水平軸(A)及び鉛直軸(B)の熱変位を求め、熱変位後の水平軸(A)及び鉛直軸(B)を基準に所望の目標工具経路からNCデータを再作成することによって、NCデータの再作成を容易に行うことができる。
【0090】
尚、前記実施形態では、1つのワーク(120)の加工が終わって次のワーク(120)の加工を開始する前に、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位を測定して、NCデータを再作成しているが、NCデータを再作成するタイミングはこれに限られるものではない。例えば、所定個数のワーク(120)の加工が終わるごとにNCデータを再作成してもよいし、加工装置(100)による加工継続時間が所定時間を経過した後にNCデータを再作成してもよい。すなわち、加工装置(100)において許容できない程度の熱変位が生じると考えられるタイミングであれば、任意のタイミングでNCデータの再作成を行えばよい。
【0091】
また、前記実施形態では、工具(110)とワーク(120)との位置関係の熱変位からワーク支持ユニット(300)の水平軸(A)及び鉛直軸(B)の熱変位を求めて、該水平軸(A)及び鉛直軸(B)の熱変位に基づいて、所望の目標工具経路からNCデータを再作成するように構成しているが、これに限られるものではない。例えば、水平軸(A)及び鉛直軸(B)の座標を直接算出するのではなく、被検出部(340)の基準点のX,Y,Z座標の熱変位前後の偏差を求め、該偏差を用いて熱変位後の水平軸(A)及び鉛直軸(B)の座標を求める構成であってもよい。
【0092】
さらに、本実施形態では、工具支持ユニット(200)を2軸(Y軸及びZ軸)に沿って直進移動可能に構成し、ワーク支持ユニット(300)を1軸(X軸)に沿って直進移動可能且つ2軸(水平軸(A)及び鉛直軸(B))回りに回転可能に構成しているが、これに限られるものではない。ワーク支持ユニット(300)によってワーク(120)を2軸(水平軸(A)及び鉛直軸(B))回りに回転させるように構成すればよく、その他の3軸(X軸、Y軸及びZ軸)に沿ったワーク(120)の平行移動を工具支持ユニット(200)で行ってもよいし、ワーク支持ユニット(300)で行ってもよい。また、3軸は必ずしも直交している必要はなく、また、直線状に延びる軸である必要もない。さらに、3軸以外のさらに別の軸に沿ってワーク(120)を平行移動させる構成であってもよく、2軸以外のさらに別の軸回りにワーク(120)を回転させる構成であってもよい。
【0093】
またさらに、前記実施形態では、被検出部(340)に、円形断面を有する有底状の開口が形成されているが、これに限られるものではない。すなわち、タッチセンサにより一意的に位置検出できるものであれば、平坦な端面に開口した円形断面を有する形状でもよし、平坦な端面から突起した立方体状のブロック等であってもよい。
【0094】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明は、スクリュー圧縮機のスクリューロータを加工するスクリューロータ加工方法及び加工装置について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施形態に係るスクリューロータ加工装置における要部を示す概略斜視図である。
【図2】シングルスクリュー圧縮機の要部の構成を示す縦断面図である。
【図3】図2のIII−III線における横断面図である。
【図4】シングルスクリュー圧縮機の要部を抜き出して示す斜視図である。
【図5】シングルスクリュー圧縮機の要部を抜き出して示す斜視図である。
【図6】実施形態に係る圧縮機構の動作を示す平面図であり、(A)は吸込行程を示し、(B)は圧縮行程を示し、(C)は吐出行程示す。
【図7】スクリューロータ加工装置の全体構成を示す概略斜視図である。
【図8】ワーク加工時のスクリューロータ加工装置を示す概略斜視図である。
【図9】制御部の構成を示すブロック図である。
【図10】一般的なシングルスクリュー圧縮機の要部の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0097】
1 シングルスクリュー圧縮機(スクリュー圧縮機)
40 スクリューロータ
100 スクリューロータ加工装置(加工装置)
110 工具
110C タッチセンサ(検出手段)
120 ワーク
200 工具支持ユニット(工具支持部)
300 ワーク支持ユニット(ワーク支持部)
500 制御装置(制御部)
A 水平軸
B 鉛直軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具(110)とワーク(120)とを相対移動させて該工具(110)でワーク(120)を加工する加工装置(100)を用いて、ワーク(120)をスクリュー圧縮機(1)のスクリューロータ(40)に加工するスクリューロータ加工方法であって、
工具(110)をワーク(120)に対して相対移動させる所望の目標工具経路から、該加工装置(100)で該工具(110)と該ワーク(120)とをそれぞれ移動させるための数値データを作成する数値データ作成工程と、
前記加工装置(100)が前記数値データに基づいて前記工具(110)と前記ワーク(120)とをそれぞれ移動させて、該工具(110)で該ワーク(120)を加工する加工工程とを含み、
前記数値データ作成工程は、所定のタイミングが到来したときには、次のワーク(120)を加工する前に、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて前記目標工具経路に対する前記数値データを再作成する数値データ再作成工程を含んでいることを特徴とするスクリューロータ加工方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記数値データ再作成工程は、所定の基準状態における前記ワーク(120)と前記工具(110)との位置関係を測定することによって、該工具(110)及び該ワーク(120)の熱変位を測定する熱変位測定工程を含んでいることを特徴とするスクリューロータ加工方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記加工装置(100)は、前記工具(110)と前記ワーク(120)とを所定の直進軸に沿って相対的に直進移動させると共に所定の回転軸回りに相対的に回転移動させるように構成されており、
前記数値データ作成工程では、前記直進軸及び前記回転軸に基づいて、前記目標工具経路から前記数値データを作成し、
前記熱変位測定工程では、前記基準状態における前記工具(110)と前記ワーク(120)との熱変位から前記加工装置(100)の前記直進軸及び前記回転軸の熱変位を算出し、
前記数値データ再作成工程では、前記熱変位測定工程で算出した前記直進軸及び前記回転軸の熱変位に基づいて、前記目標工具経路から前記数値データを再作成することを特徴とするスクリューロータ加工方法。
【請求項4】
工具(110)とワーク(120)とを所定の直進軸に沿って相対的に直進移動させると共に所定の回転軸回りに相対的に回転移動させて該工具(110)で該ワーク(120)をスクリュー圧縮機のスクリューロータに加工するスクリューロータ加工装置であって、
前記ワーク(120)を支持し且つ移動させるワーク支持部(300)と、
前記工具(110)を支持し且つ移動させる工具支持部(200)と、
前記工具(110)を前記ワーク(120)に対して相対移動させる所望の目標工具経路から前記工具支持部(200)と前記ワーク支持部(300)とをそれぞれ移動させるための数値データを作成して、該数値データに基づいて該ワーク支持部(300)及び該工具支持部(200)を移動させることにより該工具(110)に該ワーク(120)を加工させる制御部(500)とを備え、
前記制御部(500)は、所定のタイミングが到来したときには、次のワーク(120)を加工する前に、前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定し、該熱変位に基づいて前記目標工具経路に対する前記数値データを再作成することを特徴とするスクリューロータ加工装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記ワーク支持部(300)には、被検出部(340)が設けられる一方、
前記工具支持部(200)は、前記被検出部(340)を検出する検出手段(110C)を支持可能に構成されており、
前記制御部(500)は、前記ワーク支持部(300)を所定の基準位置に位置させると共に、前記検出手段(110C)を支持した前記工具支持部(200)を移動させて該検出手段(110C)により前記被検出部(340)を検出させることで該被検出部(340)の位置を測定し、該被検出部(340)の位置から前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位を測定することを特徴とするスクリューロータの加工装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記制御部(500)は、
前記直進軸及び前記回転軸の位置に基づいて、前記目標工具経路から前記数値データを作成するように構成されていて、
前記工具(110)及び前記ワーク(120)の熱変位に基づいて該目標工具経路に対する前記数値データを再作成するときには、前記検出手段(110C)を用いて測定した前記被検出部(340)の位置から前記直進軸及び前記回転軸の位置を算出し、算出した該直進軸及び該回転軸の位置に基づいて、前記数値データを再作成することを特徴とするスクリューロータ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−56557(P2009−56557A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226921(P2007−226921)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】