説明

スタビライザ制御装置

【課題】電力制限の発生を回避して作動するスタビライザ制御装置を提供すること。
【解決手段】自車両の左右車輪間に配設される一対のスタビライザバー(13、14)(23、24)を、モータ200及び減速機構201を有するアクチュエータ15FT、15RTにより連結して、モータ200の駆動により一対のスタビライザバー(13、14)(23、24)にねじり力を付与するスタビライザ制御装置において、自車両前方のカーブを検出するカーブ検出手段34、35を有し、カーブ検出手段により検出されたカーブへ侵入する前に、スタビライザバーへのねじり力の付与を開始する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のスタビライザ装置に関し、特に、左右の車輪間に配設するスタビライザのねじり力を可変制御するスタビライザ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、運転者の操作により走る・曲がる・止まるという基本動作を繰り返しながら走行するものであるが、センサにより運転者の操作や車両の状況を検出してこのような基本動作を自動的に支援する電気制御化が進められている。例えば、ステアリングを電気的に操舵する電動パワーステアリングシステムやブレーキペダルの操作量や車速に応じて油圧回路の制御弁を調整し各車輪のホイルシリンダ圧を増減する電子制御ブレーキシステム等が搭載されている。
【0003】
また、より快適な車両走行を実現するためスタビライザ制御装置が提案されている。スタビライザ制御装置は、自車両の左右の車輪間に配設される一対のスタビライザバーを、モータ及び減速機構を有するアクチュエータにより連結して、モータの駆動によりスタビライザバーのねじり力を可変制御する。スタビライザ制御装置を利用することで、カーブを走行中に車両のロールを抑制できる。
【0004】
このように電気制御化が進めば、車両の走行状況に応じて運転者の操作を支援したり快適な走行を実現することができるようになる(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載された車両走行制御装置では、車両のカーブへの侵入度合いを検知して、カーブ形状に応じて車両を自動的に減速する制御方法が提案されている。カーブ侵入度合いやカーブ情報に基づき車両を減速することで、カーブの走行時に車両を十分に減速することができる。
【特許文献1】特開2003−118511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両を電気的に制御する場合、モータを作動させるため短時間に大電力を消費することが多い。車両にはバッテリが搭載されているが、限られた電源から短時間に大量の電力を供給することは困難である。このため、複数の電気制御装置が同時期に作動し電力を消費すると電源電圧の変動をもたらすという不都合が生じる。
【0006】
電源電圧が不足すると車両では制動力などの基本性能の確保を優先するため、スタビライザ制御装置のように乗り心地を改善するための電気制御装置が電力制限を受け作動しない場合が生じ好ましくない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、電力制限の発生を回避して作動するスタビライザ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、自車両の左右車輪間に配設される一対のスタビライザバーを、モータ及び減速機構を有するアクチュエータにより連結して、モータの駆動により一対のスタビライザバーにねじり力を付与するスタビライザ制御装置において、自車両前方のカーブを検出するカーブ検出手段を有し、カーブ検出手段により検出されたカーブへ侵入する前に、スタビライザバーへのねじり力の付与を開始する、ことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、電力制限の発生を回避して作動するスタビライザ制御装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明の一形態において、カーブを走行中に作動する電力負荷よりも先に、スタビライザバーへのねじり力の付与を開始する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、カーブを走行中に作動する電力負荷より先に作動を開始することで、電源電圧の変動を防止し、確実にスタビライザ制御装置を作動させることができる。
【0012】
また、本発明の一形態において、電力負荷は、電動モータによりステアリング系に操舵力を付与する電動パワーステアリングシステム、又は、運転者によるブレーキペダルの操作若しくは自車両の走行状況に応じて電気的に制動制御する電子制御ブレーキシステム、の少なくともいずれかである、ことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、車両の基本性能を電子的に制御して運転者を支援することができる。
【発明の効果】
【0014】
電力制限の発生を回避して作動するスタビライザ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は車両に搭載された制御装置の概略構成図を示す。図1の制御装置は、それぞれ、各車輪の制動圧を独立に制御するブレーキECU(Electronic Control Unit)31、ステアリングホイール19の操舵支援及び自動操舵を実行するステアリングECU33、及び、スタビライザのねじり力を可変制御するスタビECU32により制御される。
【0016】
ブレーキECU31は各車輪のホイルシリンダ11FL〜RRと油圧回路を介して接続されており、ブレーキECU31はブレーキペダル16のストローク量や車速などに応じて算出した値に基づき各車輪のホイルシリンダ圧を独立に制御する。
【0017】
ステアリングECU33は、ステアリングシャフトを駆動するモータ26と接続されており、運転者の操舵を検出して操舵トルクをアシストしたり、走行状況に応じて強制的にステアリングを操舵する。また、ステアリングECU33は白線ECU34と接続されており、白線ECU34が認識した白線(レーン)に沿って車両が走行するようにステアリングを操舵することができる。
【0018】
スタビECU32は、車両前輪及び後輪のスタビライザバーに設けられたアクチュエータ15FT、15RTに接続されており、車両の旋回走行中にスタビライザバーの作用により適切なロールモーメントを外部から付与し、車体のロール運動を低減または抑制するようにスタビライザのねじり力を可変制御する。
【0019】
ブレーキECU31,ステアリングECU33、スタビECU32及び白線ECU34は、それぞれCPU、ROM、RAM、NV−RAM(Non-Volatile RAM)及び通信部等がバスにより接続されたマイコンとして構成される。各ECUはROMに格納されたプログラムを実行することで、本実施の形態の制御を実現する。また、ブレーキECU31,ステアリングECU33、スタビECU32及び白線ECU34は、CAN(Controller Area Network)プロトコルによりバスを介して相互にECU間通信を行う。
【0020】
電動パワーステアリングシステム3では、ステアリングホイール19がステアリングシャフト20及びステアリングギヤボックス22を介してラックバー28を駆動するようになっている。ステアリングシャフト20には歯車減速機構29を介してモータ26が接続されている。
【0021】
ステアリングホイール19が操舵されると、連接されたステアリングシャフト20が回転し、ギアボックス22内において、ステアリングシャフト20の先端に設けられたピニオンギアと歯合したラックバー28を左右に揺動する。ラックバー28はタイロッド25が接続されているため、操舵輪FL及びFRが操舵される。
【0022】
ステアリングシャフト20にはステアリングホイール19の操舵角を検出するステアリングセンサ21及び操舵トルクを検出するトルクセンサ27が設けられており、これらのセンサの出力はステアリングECU33へ供給されるようになっている。
【0023】
ステアリングECU33は、運転者がステアリングホイール19を操舵した際の操舵トルクを検出し、運転者の操舵トルクをアシストする方向にモータ26を駆動することで操舵アシスト制御を行う。
【0024】
また、ステアリングECU33は白線ECU34に接続されている。白線ECU34は、カメラ35により撮影された車両前方の画像に基づき白線を検知する。カメラ35はCCDやCMOS等の固体撮像素子で構成され、例えば、車室内のルームミラー付近に設置され、車両前方の所定範囲を撮影する。カメラ35に入射した光は画素毎に光電変換された後、順次アナログ画像信号として出力され、A/D変換器により所定ビット数(例えば、8ビット)のデジタル信号に変換される。カメラ35はこのような動作を繰り返して毎秒所定数の画像(例えば、30〜60フレーム/秒)を白線ECU34に出力する。
【0025】
白線ECU34は車両前方の画像に基づき白線や黄線等のレーンマーカを検出して、車両前方の道路形状を認識する。白線ECU34は撮影された画像の例えば輝度に基づき、所定の閾値以上の輝度を有する領域を画像底部から上方に向けて探索する。白線であれば、画像底部から上方に向け、長方形状の領域が連続又は所定の間隔で現れるので、当該所定の閾値以上の輝度の長方形状が検出されたら白線として検知する。このような白線の候補の探索を各画像の上部まで繰り返し行なうことにより、車両前方の道路上の白線を遠方まで認識することができる。
【0026】
より具体的には、白線は両端に高周波成分たるエッジを有する。したがって、車両前方の画像データを水平方向に微分すると、白線の両端にピークが得られ、そのピークは、白線の線内に白線外から白線、白線から白線外というように正負逆に得られるため、白線部分が推定できる。このような処理を行う白線強調フィルタを画像データに施すことで、白線部分を強調できる。
【0027】
このように白線が強調された画像データから、白線の特徴である、輝度が高い、線状の形状である、遠方で細くなる、時間連続して観測される、特徴のある領域を、マッチングなどの手法により画像処理することで、例えば100m程度先までの白線を認識できる。
【0028】
なお、どの程度前方の距離まで白線が認識されているか又は前方のカーブまでの距離は、白線部分が占める画素数やマッチングの過程により認識される。
【0029】
ステアリングECU33は、車両の左右に白線が検出されたら当該車線内を車両が走行するようにモータ26を制御してステアリングを操舵する(レーンキーピング制御)。例えば、左右の白線の中央を目標走行線として、車両が目標走行線から所定以上右に乖離して走行すればステアリングを左に操舵し、車両が目標走行線から所定以上左に乖離して走行すればステアリングを右に操舵する。また、運転者が大きく操舵した場合には車線変更の操舵として検出して、いったんレーンキーピング制御を解除する。
【0030】
図2は、ブレーキECU31が制御する電子制御ブレーキシステムの油圧回路を示す。マスタシリンダ18には車輪FL用にブレーキオイルを圧送するブレーキ油圧導管116及び車輪FR用にブレーキオイルを圧送するブレーキ油圧導管118の一端が接続され、他端にはそれぞれホイルシリンダ11FL及び11FRが接続されている。またブレーキ油圧導管116及び118の途中にはそれぞれ常開型の電磁開閉弁122FL及び122FRが設けられている。
【0031】
マスタシリンダ18にはストロークシミュレータ124及びリザーバ126が接続されており、リザーバ126にはブレーキ油圧供給導管128及びブレーキ油圧排出導管130の一端が接続されている。ブレーキ油圧供給導管128の途中には電動機132により駆動されるポンプ134が設けられている。電動機132の駆動により蓄圧器151には高圧のブレーキオイルが保持される。
【0032】
ブレーキ油圧供給導管128の他端は、車輪FLのホイルシリンダ11FL、及び、車輪FRのホイルシリンダ11FRに接続される。また、同様にブレーキ油圧供給導管128の他端は、車輪RL用のブレーキ油圧供給導管136RLを介して車輪RLのホイルシリンダ11RL、及び、車輪RR用の油圧供給導管136RRを介して車輪RRのホイルシリンダ11RRに接続されている。
【0033】
同様に、ブレーキ油圧排出導管130の他端は、車輪FL用のブレーキ油圧排出導管138FLを介して車輪FLのホイルシリンダ11FL、及び、車輪FR用のブレーキ油圧排出導管138FRを介して車輪FRのホイルシリンダ11FRに接続される。また、ブレーキ油圧排出導管130の他端は、車輪RL用のブレーキ油圧排出導管138RLを介して車輪RLのホイルシリンダ11RL、及び、車輪RR用のブレーキ油圧排出導管138RRを介して車輪RRのホイルシリンダ11RRに接続されている。
【0034】
ブレーキ油圧供給導管136FL、136RL、136RL、136RRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁流量制御弁140FL、140FR、140RL、140RRが設けられており、ブレーキ油圧排出導管138FL、138RL、138RL、138RRの途中にはそれぞれ常閉型の電磁流量制御弁142FL、142FR、142RL、142RRが設けられている。
【0035】
ブレーキ油圧制御導管116及び118にはホイルシリンダ11FL及び11FR内の圧力を検出する圧力センサ144FL及び144FRが設けられている。ブレーキ油圧供給導管136RL及び136RRにはホイルシリンダ11RL及び11RR内の圧力を検出する圧力センサ144RL及び144RRが設けられている。
【0036】
ブレーキペダル16にはそのストローク量を検出するストロークセンサ17が設けられ、ブレーキ油圧制御導管118には、マスタシリンダ18と電磁開閉弁122FRとの間に、マスタシリンダ18の圧力を検出する圧力センサ148が設けられている。またブレーキ油圧供給導管128には、ポンプ134の吐出側にポンプ134の供給圧力を検出する圧力センサ150が設けられている。
【0037】
電磁開閉弁122FL、122FR、電動機132及び電磁流量制御弁142FL、142FR、142RL、142RRはブレーキECU31により制御される。
【0038】
ブレーキECU31には、圧力センサ144FL〜144RRが検出したホイルシリンダ11FL〜11RR内のホイルシリンダ圧、ストロークセンサ17が検出したストローク量、圧力センサ148が検出したマスタシリンダ圧、圧力センサ150が検出したポンプ供給圧力、各車輪の車輪速センサ12FL〜12RRが検出した車輪の車輪速度、ステアリングセンサ21が検出した操舵角、及び、ヨーレートセンサ38が検出したヨーレートが入力される。
【0039】
電子制御ブレーキシステムの作動は周知であるので説明は簡単に行う。ストロークセンサ17によりブレーキペダル16のストロークが検出されると、ブレーキECU31は、電磁開閉弁122FR、122FLを閉じる。ブレーキペダル16のストロークはストロークシミュレータ124により吸収され、ストローク量に応じたマスタシリンダ圧が圧力センサ148により検出される。ブレーキECU31はマスタシリンダ圧及び車速に基づき演算したホイルシリンダ圧となるよう電磁流量制御弁140FL〜140RRを開く。これにより、蓄圧器151から制御されたホイルシリンダ圧が各車輪FL〜RRのホイルシリンダ11FL〜RRに供給される。ブレーキペダル16のストロークが戻り始めると、ブレーキECU31はマスタシリンダ圧に応じて電磁流量制御弁140FL〜140RRの開度を小さくすると共に、電磁流量制御弁142FL〜142RRをマスタシリンダ圧に応じて開く。これにより、ホイルシリンダ11FL〜RRのホイルシリンダ圧が解放される。
【0040】
また、ブレーキECU31は、各輪の車輪速度のうち、最も回転速度の大きい車輪速に対するその他の車輪の車輪速の割合をスリップ率として求め、何れかの車輪のスリップ率が、ABS制御開始の基準値よりも大きくなると(ABS制御の開始条件が成立すると)、ABS制御の終了条件が成立するまで、当該車輪について制動スリップ率が所定の範囲内になるよう、電磁流量制御弁を制御して各車輪のホイルシリンダ内の圧力を増減する。
【0041】
また、ブレーキECU31は、操舵角やヨーレートに基づき、操舵角に比べ車体の向きがオーバーステアと判断すると電磁流量制御弁を制御してコーナ外側の前輪のホイルシリンダ圧を増大させ、逆にアンダーステアと判断した場合は、エンジンの出力を低下させると共に電磁流量制御弁を制御してコーナ内側の後輪のホイルシリンダ圧を増大させる(スタビリティ制御)。その他、ブレーキECU31は周知の制動圧制御を実行できる。
【0042】
図1に戻り、前輪FRとFLの間、及び、後輪RRとRLの間には、車体にロール方向の運動が入力された場合に、ねじりばねとして作用する前輪側スタビライザ36、後輪側スタビライザ37が配設されている。前輪側スタビライザ36及び後輪側スタビライザ37は、車体のロール運動である車体ロール角を抑制するために、各々のねじり力がスタビライザアクチュエータ(以下、単にアクチュエータという)15FT及び15RTによって可変制御されるように構成されている。アクチュエータ15FT及び15RTはスタビECU32によって制御される。
【0043】
なお、スタビECU32には、車速センサ12FL〜12RR、白線ECU34、横Gセンサ39が接続されており、車速、白線の認識結果及び横加速度が入力される。
【0044】
前輪側スタビライザ36及び後輪側スタビライザ37は、アクチュエータにより左右のスタビライザバー23、24及び13,14に2分割されており、スタビライザバー23の一端が車輪FRに、スタビライザバー24の一端が車輪FLに、スタビライザバー13の一端が車輪RRに、スタビライザバー14の一端が車輪RLにそれぞれ接続されている。また、スタビライザバー23の他端とスタビライザバー24の他端はアクチュエータ15FT内で連結され、スタビライザバー13の他端とスタビライザバー14の他端はアクチュエータ15RT内で連結されている。アクチュエータ15FT及び15RTの構成は同じであるので、以下では前輪側のアクチュエータ15FTを用いて説明する。
【0045】
図3は、スタビライザに内設されたアクチュエータの概略構成図の一例を示す。アクチュエータ15FT及び15RTは、モータ200と減速機構201を備える。モータ200は、例えば3相からなるブラシレスモータが用いられるが、これに限定されるものではなく、他の相数を有するモータを用いることとしてもよく、ブラシ付モータを用いることとしてもよい。また、減速機構201の例として不思議遊星歯車機構220を用いる。
【0046】
モータ200と減速機構201は一体的に構成され、同一のハウジング202に収容されている。不思議遊星歯車機構220において、一対のスタビライザバーを構成するスタビライザバー23は、歯車を構成するリングギヤ225に一体的に接合されている。また、一対のスタビライザバーを構成するスタビライザバー24は、歯車を構成するリングギヤ226に一体的に接合されている。
【0047】
より詳細には、スタビライザバー23は、リングギヤ225と一体成形されたエンドプレート225eに固定されており、結果的にリングギヤ225に一体的に接合されている。また、スタビライザバー24は、その先端に一体成形されたエンドプレート24eが、スプライン結合によりハウジング202に固定され、このハウジング202の内側にはリングギヤ226が一体的に形成されているので、結果的にリングギヤ226に一体的に接合されている。
【0048】
スタビライザバー23及び24は、対向するそれぞれの端面が、ハウジング202の中に配設される減速機構201で、間隙Dfを残して近接配置されている。
【0049】
リングギヤ225とリングギヤ226は、相互に歯数が異なる(例えば60と62)内歯歯車で、これらに噛合する共通の遊星歯車として、3個のプラネタリギヤ224がスタビライザバー23の軸を中心に公転可能に支持されている。リングギア225又はリングギア226と3個のプラネタリギア224により不思議遊星歯車機構220が構成される。
【0050】
図4はリングギア226と3個のプラネタリギア224により構成される不思議遊星歯車機構220を示す。本実施の形態のアクチュエータ15FTは、ブラシレスモータ210の仕様及び減速機構の減速比を考慮して、2段の遊星歯車列を用いている。すなわち、ブラシレスモータ210のロータ212にはサンギヤ221がスプライン結合されており、サンギア221は3個の初段プラネタリギヤ222に噛合するように配置されている。
【0051】
初段プラネタリギヤ222は、リングギア226及びサンギア221に噛合して回転(自転)可能に支持されると共に、スタビライザバー23の軸(即ちサンギヤ221及び223の軸)を中心に回転(公転)可能に支持されている。すなわち、初段プラネタリギヤ222はサンギヤ221とリングギヤ26との間で自転しつつ、スタビライザバー23の軸を中心に公転する。
【0052】
そして、2段目のプラネタリギヤ224は、サンギヤ223に噛合すると共に、リングギヤ225及び226に噛合するように配置され、サンギヤ223とリングギヤ225及び226との間で自転しつつ、スタビライザバー23の軸を中心に公転し得るように支持されている。
【0053】
一方、ブラシレスモータ210は、固定子たるステータ211と回転子たる中空のロータ212を有し、ロータ212がスタビライザバー23を中心に回動可能に支持されると共に、ロータ212を囲繞するようにステータ211がハウジング202の内面に固着されている。
【0054】
ロータ212は、円筒部材の外周面に多極の磁石が取付けられたもので、その両端が軸受(ベアリング)212a、212bを介してハウジング202及びその蓋部材203の内面に回転可能に支持されている。そして、ロータ212の中空部内にスタビライザバー23が挿通されている。
【0055】
スタビライザバー23はリングギヤ225に接合され、リングギヤ225は軸受231aを介してハウジング202の内面に回転可能に支持されている。
【0056】
以上のように、アクチュエータ15FTは、ハウジング202内において、ロータ212を貫通してリングギヤ225に接合される一対のスタビライザバー23が、モータ210とリングギヤ225とを挟む両側にて両持ちで支持された構成となっている。これにより、負荷となる曲げモーメントは、スタビライザバー23、ハウジング202及び蓋部材203、並びにリングギヤ225及び226にて適切に分担される。
【0057】
スタビライザバー23及び24の端面が間隙Dfに近接配置されるので、スタビライザバー23及び24は、アクチュエータを介装する前のスタビライザバーと略同じ全長を確保し得る。従って、スタビライザバー23及び24を、アクチュエータを介装しないスタビライザバーと同じ材質で形成することができ、略同じ外径及び重量とすることができる。
【0058】
続いて、スタビライザ制御装置の作動について説明する。図5は従来のスタビライザ制御装置において作動タイミングを説明するための図である。図5(a)は前方がカーブした道路上を車両2が走行する様子を時間の経過と共に示す。図5(b)は時間の経過と消費電力の関係の概略を示す図である。
【0059】
車両2は時刻t3でカーブに侵入する。カーブに侵入すると車両が横加速度によりロールするため、スタビECU32は車両の横加速度等から車両2が旋回していることを検出し、検出した横加速度等に基づきロールを抑制する駆動力を演算しモータ210を駆動する。このため、カーブに侵入した時刻t3にはスタビライザ制御装置が作動して過途電流を伴う電力が消費される。
【0060】
また、車両2がカーブに侵入すると運転者はステアリングホイール19を操舵する。これにより、ステアリングECU33は運転者の操舵トルクをアシストするアシスト制御を開始する。また、白線もカーブするため、ステアリングECU33は車両2がレーンから外れないようにステアリングの操舵トルクをアシストするレーンキーピング制御を開始する。このため、カーブに侵入した時刻t3には電動パワーステアリングシステム3が作動を開始して過途電流を伴う電力が消費される。
【0061】
また、カーブを走行中、上述のようにブレーキECU31は電磁流量制御弁を制御して、タイヤがスリップした場合にはアンチロック制御を行い、車両の姿勢が乱れたらスタビリティ制御を行う。このため、カーブを走行中(時刻t3以降)電子制御ブレーキシステムにより電力が消費される。
【0062】
このように、車両2がカーブに侵入する時刻t3には複数の負荷が重複することになるが、負荷が重複すると電圧変動を発生させたり、電力不足のため優先度の低い制御装置の実行が制約を受ける場合が生じる。制御装置が実行の制約を受ける場合でも、制動力の増減などの基本性能は優先的に実行されるが、制約により実行されない制御装置があると運転者が快適に走行する上では好ましくない。
【0063】
ここで、車両の走行を制御するモータの消費電力は、作動を開始した直後に流れる過途電流が極めて大きくなり、作動が安定した後は過途電流よりも小さい略一定の消費電力となることが知られている。これは、モータの場合、起動時に最大静止摩擦や物理的負荷の慣性に打ち勝つ大きなトルクが必要であり、モータ軸が回転を開始すると負荷トルクが低下するにつれて電流も低下するためである。
【0064】
したがって、重複して実行される虞のある制御装置の制御開始時を前又は後にシフトすれば、作動している時間は重複しても電圧変動等が防止され、優先度にかかわらず全ての制御を実行することができる。
【0065】
このため、本実施の形態のスタビライザ制御装置では、基本性能を支援する制御に先立って作動を開始する。すなわち、図5に示した3つの制御装置では、スタビライザ制御装置が制約を受ける可能性があるため、カーブ侵入の前にスタビライザ制御装置を作動させる。
【0066】
図6は、スタビECU32がカーブ侵入の前にスタビライザ制御装置を作動させると共に、ロールを抑制する制御手順を示すフローチャート図である。
【0067】
まず、スタビECU32は、白線ECU34から車両の前方の道路形状を取得する(S1)。白線ECU34は白線を認識して車両前方の道路形状を検出しているので、白線がカーブしていればその曲率を検出しスタビECU32に送出する。なお、車両前方のカーブに関する情報は、GPS(Global Positioning System)/INS(Inertial Navigation System)による位置情報に基づきナビゲーションから取得される道路地図情報を用いてもよい。
【0068】
カーブが検出されるとスタビECU32は前方のカーブに好適なロールモーメント目標値を算出する(S2)。ロール量は横加速度に依存するため、車速及びカーブの曲率に基づき横加速度を推測する。
【0069】
これらから、好適なロール特性を達成するために車両全体に付与すべきロールモーメント目標値は、例えば次のように算出される。但しAは定数、fは関数である。
ロールモーメント目標値=A×f(車速、カーブの曲率)
なお、好適には、このロールモーメント目標値を前輪と後輪のスタビライザに分担させる分担比率を算出するが、本実施の形態では前輪と後輪の分担比率は同程度とする。
【0070】
ついで、スタビECU32はロールモーメント目標値をモータ210の制御目標値に変換し(S3)、モータ210を駆動してアクチュエータ15FT及び15RTを制御する(S4)。
【0071】
スタビECU32がアクチュエータ15FT及び15RTを制御するタイミングは、好適にはカーブ侵入の直前であり、また、時刻t2程度のように少なくともカーブに侵入する前であればよい。スタビECU32は車速センサにより車速を検出しているので、カーブ侵入口まで所定の時間となるタイミングでアクチュエータ15FT及び15RTの制御を開始する。
【0072】
以上のような制御手順であれば、カーブに侵入する前に前方のカーブを検出して、カーブ侵入前にスタビライザ制御装置を作動させることができる。
【0073】
図7はカーブ侵入前に電動動スタビライザを作動させた場合の時間の経過と消費電力の関係の概略を示す図である。図7において図5と同一部分の説明は省略する。
【0074】
車両2は時刻t3でカーブに侵入するため、時刻t3において電動ステアリングにより電力が消費されている。しかしながら、スタビライザ制御装置はカーブ侵入前に作動を開始しているため、電力消費のピークは時刻t3より前となっている。
【0075】
なお、「カーブ侵入の前」とは好ましくはカーブの直前であるが、カーブ直前とはカーブの侵入口やカーブの侵入口から若干の距離侵入した位置まで含む概念である。本実施の形態では、カーブ最中に作動する可能性のある他の機器が作動する前にスタビライザが作動すればよいため、必ずしもカーブに侵入する前に作動を開始する必要はない。すなわち、地図上ではカーブにさしかかっていると言えなくもないが実際にはステアリングをそれほど切らない位置も「カーブ侵入の前」に含まれる。言い換えれば、カーブ直前には、所定速度以上において道路に沿って車両を進行させた場合における横Gが所定値以下の状態を含む。
【0076】
以上のように、本実施の形態のスタビライザ制御装置は、電力消費の重複を回避することで電圧変動等を防止して、基本性能を支援する制御及び快適な走行を支援する制御を優先度にかかわらず実行することができる。
【0077】
また、カーブへの侵入前にスタビライザ制御装置が作動するので、カーブ侵入時にはすでに旋回方向外側の車高が若干高くなっている。このため、車両はカーブに沿って曲がりやすくなるので、電動パワーステアリングにより付与する操舵トルクひいては消費電力を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】車両に搭載された制御装置の概略構成図である。
【図2】ブレーキECUが制御する電子制御ブレーキシステムの油圧回路である。
【図3】スタビライザに内設されたアクチュエータの概略構成図の一例である。
【図4】リングギアと3個のプラネタリギアにより構成される不思議遊星歯車機構の一例である。
【図5】従来のスタビライザ制御装置において作動タイミングを説明するための図である
【図6】スタビECUがカーブ侵入の前にスタビライザ制御装置を作動させると共に、ロールを抑制する制御手順を示すフローチャート図である。
【図7】カーブ侵入前に電動動スタビライザを作動させた場合の時間の経過と消費電力の関係の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
11FL〜RR ホイルシリンダ
12FL〜RR 車速センサ
13、14、23、24 スタビライザバー
15RT、15FT アクチュエータ
16 ブレーキペダル
17 ストロークセンサ
18 マスタシリンダ
19 ステアリングホイール
20 ステアリングシャフト
21 ステアリングセンサ
22 ギアボックス
27 トルクセンサ
28 ラックバー
29 歯車減速機構
31 ブレーキECU
32 スタビECU
33 ステアリングECU
34 白線ECU
35 カメラ
36、37 スタビライザ
38 ヨーレートセンサ
39 横Gセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の左右車輪間に配設される一対のスタビライザバーをモータにより連結して、前記モータの駆動により前記一対のスタビライザバーにねじり力を付与するスタビライザ制御装置において、
自車両前方のカーブを検出するカーブ検出手段を有し、
前記カーブ検出手段により検出されたカーブへ侵入する前に、前記スタビライザバーへのねじり力の付与を開始する、
ことを特徴とするスタビライザ制御装置。
【請求項2】
前記カーブを走行中に作動する電力負荷よりも先に、前記スタビライザバーへのねじり力の付与を開始する、
ことを特徴とする請求項1記載のスタビライザ制御装置。
【請求項3】
前記電力負荷は、電動モータによりステアリング系に操舵力を付与する電動パワーステアリングシステム、又は、運転者によるブレーキペダルの操作若しくは自車両の走行状況に応じて電気的に制動制御する電子制御ブレーキシステム、の少なくともいずれかである、
ことを特徴とする請求項2記載のスタビライザ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−237917(P2007−237917A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62897(P2006−62897)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】