ステアリングシステム
【課題】 回転伝達比が変化するステアリングシステムの操作フィーリングを向上させることを課題とする。
【解決手段】 操作力によって回転する操作側シャフトと、操作側シャフトの車輪側に配設された転舵側シャフトと、操作側シャフトの回転を転舵側シャフトに伝達する回転伝達機構と、転舵側シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、車輪の転舵を助勢する助勢装置と、助勢装置の作動を制御する助勢力制御装置とを備えるステアリングシステムにおいて、助勢力制御装置は、転舵側シャフトの回転トルクから、回転伝達比に基づいて操作力を推定し、操作力に基づいて目標助勢力を決定し、目標助勢力に基づいて助勢装置の作動を制御する。このような制御により、回転伝達比が変化する場合においても、目標助勢力が操作力を基に決定され、操作フィーリングを良好に保つことが可能となる。
【解決手段】 操作力によって回転する操作側シャフトと、操作側シャフトの車輪側に配設された転舵側シャフトと、操作側シャフトの回転を転舵側シャフトに伝達する回転伝達機構と、転舵側シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、車輪の転舵を助勢する助勢装置と、助勢装置の作動を制御する助勢力制御装置とを備えるステアリングシステムにおいて、助勢力制御装置は、転舵側シャフトの回転トルクから、回転伝達比に基づいて操作力を推定し、操作力に基づいて目標助勢力を決定し、目標助勢力に基づいて助勢装置の作動を制御する。このような制御により、回転伝達比が変化する場合においても、目標助勢力が操作力を基に決定され、操作フィーリングを良好に保つことが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を転舵させるために車両に設けられたステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に設けられるステアリングシステムの多くは、いわゆるパワーステアリングシステムであり、車輪の転舵を助勢するための助勢力を発生させる助勢装置が装備されている。したがって、そのシステムによれば、車輪は、運転者がステアリングホイール等の操作部材に加える操作力と、助勢装置による助勢力とによって転舵させられるため、運転者が自ら大きな操作力を発生させなくても、車輪を転舵させることができる。そして、そのシステムにおいて、上記助勢力の大きさは、一般的には、例えば、運転者が操作力を大きくすると、それに応じて助勢力も大きくするといった具合に、操作力に基づいて制御されている。一方、近年のステアリングシステムには、下記特許文献に記載されているように、いわゆるギヤ比可変システム(VGRS)と呼ばれるシステムが存在する。そのシステムでは、操作部材に連結される操作側シャフトの回転を、車輪を転舵させる転舵装置に連結される転舵側シャフトに伝達するための回転伝達機構において、操作側シャフトの回転角速度に対する転舵側シャフトの回転角速度の比である回転伝達比が変更可能とされている。そのシステムによれば、例えば、操作量が比較的小さい場合には、回転伝達比を小さくして車両の走行安定性を高めたり、車両がUターンする場合など、操作量が比較的大きい場合には、回転伝達比を大きくし、車両を容易に方向転換させたりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3409838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転伝達比が変更可能な、若しくは、回転伝達比が変動するように構成された回転伝達機構によれば、操作側シャフトの回転トルクに対する転舵側シャフトの回転トルクは、上記回転伝達比に応じて変動することになる。したがって、上記助勢装置を備えたステアリングシステムにおいてそのような回転伝達機構を採用する場合、転舵側シャフトの回転トルクに基づいて助勢力の大きさが制御される場合には、その助勢力は、必ずしも操作部材に加えられた操作力に依存した大きさとはならない。そのため、操舵操作において運転者が感じる操作フィーリングは、決して良好なものとはならない。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、上記回転伝達比が変更可能な若しくは変動するようなステアリングシステムにおいて、それの操作フィーリングを向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、操作部材に加えられた操作力によって回転する操作側シャフトと、操作側シャフトよりも車輪側に配設された転舵側シャフトと、操作側シャフトの回転を転舵側シャフトに伝達する回転伝達機構と、転舵側シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、転舵側シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、車輪の転舵を助勢力によって助勢する助勢装置と、助勢力を転舵側シャフトの回転トルクに基づいて制御する助勢力制御装置とを備え、回転伝達機構が、操作側シャフトから転舵側シャフトへの回転伝達における回転伝達比を変更可能に、若しくは、回転伝達比が変動するように構成されており、助勢力制御装置が、転舵側シャフトの回転トルクから、回転伝達比に基づいて操作力を推定し、その操作力に基づいて目標助勢力を決定し、その目標助勢力に基づいて助勢装置の作動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本ステアリングシステムによれば、回転伝達比が変化する場合においても、助勢力は、操作力を基に決定され、操舵操作における操作フィーリングは、良好に保たれることになる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、(1)項から(10)項は、それぞれ請求項1から請求項10にそれぞれ相当する。
【0008】
(1)車輪を転舵させるために車両に設けられたステアリングシステムであって、運転者によって操作される操作部材と、その操作部材に加えられた運転者の操作力によって回転する第1シャフトと、その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達する回転伝達機構と、前記第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、前記第2シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、駆動源を有して車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、その助勢装置による助勢力を前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクに基づいて制御する助勢力制御装置とを備え、
前記回転伝達機構が、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比を変更可能に、若しくは、その回転伝達比が変動するように構成されており、
前記助勢力制御装置が、
前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクから、前記回転伝達比に基づいて、運転者によって前記操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、
その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、
その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、前記助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部と
を有するステアリングシステム。
【0009】
本ステアリングシステムでは、大まかに言えば、運転者によってステアリングホイール等の操作部材に加えられる力、つまり、操作力によって、第1シャフトに、それを回転させる回転トルクである操作トルクが発生する。そして、その操作トルクは、回転伝達機構によって、第2シャフトの回転トルクとして伝達される。この第2シャフトの回転トルクは、転舵装置において、車輪を転舵させる力へと変換される。一方、本ステアリングシステムでは、上記助勢装置によって、助勢力が発生させられており、転舵装置による車輪の転舵は、伝達トルクとして伝達された操作力と助勢力とによって行われる。
【0010】
ステアリングシステムの多くは、上記第2シャフトの回転トルク、つまり、上記伝達トルクを検出して、その検出された伝達トルクに基づいて、助勢装置が発生させるべき助勢力を決定する。ところが、本ステアリングシステムでは、回転伝達機構が、上記回転伝達比を変更可能に若しくは回転伝達比が変動するように構成されているため、伝達トルクの大きさは、回転伝達比の影響を受け、必ずしも、上記操作トルクに依存した大きさとはならない。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、回転伝達比を基に伝達トルクから操作力を推定して、その操作力を基に助勢力を決定している。したがって、操作力に依存した大きさの助勢力による転舵助勢が行われるため、本ステアリングシステムでは、操舵操作における操作フィーリングを良好に保つことが可能となる。
【0011】
本項のステアリングシステムにおいて、「助勢装置」の具体的構造は、特に限定されない。例えば、電磁モータの発生させる力によって転舵を助勢するような構造のものであってもよく、また、作動油等の圧力を利用して転舵を助勢するような構造のものであってもよい。また、当該ステアリングシステムのどの部分において助勢するかについても、特に限定されない。上記トルク検出器の車輪側(力の伝達において操作部材とは反対側を意味する)において助勢するものであればよく、例えば、第2シャフトの回転を助勢するように構成されるものであっても、また、いわゆる転舵ロッド(リンクロッドともいう)の動作を助勢するように構成されるものであってもよい。なお、上記「トルク検出器」は、例えば、第2シャフトの一部としてトーションバーを配設し、そのトーションバーの捩り弾性変形量を検出することで第2トルクを検出するように構成することが可能である。
【0012】
本項における「回転伝達比」は、第1シャフトの回転角度の変化量に対する第2シャフトの回転角度の変化量の比と考えることのできるものである。言い換えれば、第1シャフトの回転角速度に対する第2シャフトの回転角速度の比と考えることができる。なお、この回転伝達比の逆数は、操作トルクに対する伝達トルクの比、つまり、トルク伝達比と考えることができる。したがって、回転伝達比が大きくなるにつれて、トルク伝達比は小さくなり、回転伝達比が小さくなるにつれてトルク伝達比は大きくなる。上記「操作力推定部」は、そのことを利用し、検出された第2シャフトの回転トルクから第1シャフトの回転トルクを推定し、その推定された第1シャフトの回転トルクに基づいて、操作部材に加えられた操作力を推定するように構成することが可能である
【0013】
本項の「回転伝達機構」は、回転伝達比を変更可能なもの、つまり、何らかのパラメータに応じて回転伝達比を任意に(すなわち、制御可能に)変更するように構成されたものであってもよく、また、回転伝達比が変動するもの、つまり、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転位相等に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動するものであってもよい。前者は、具体的には、例えば、第1シャフト,第2シャフトがそれぞれ第1要素,第2要素とされて、さらに第3要素となる第3シャフトを有する差動機構として構成し、かつ、その第3シャフトの回転を制御することで、任意に回転伝達比を変更するように構成することで実現することができる。一方、後者は、後に詳しく説明するように、第1シャフト,第2シャフトを互いに偏心した状態で配設し、カム機構によってそれら第1シャフト,第2シャフトの各々回転が連動するように構成することで実現することができる。
【0014】
(2)前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、それが前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された(1)項に記載のステアリングシステム。
【0015】
本項の態様は、目標助勢力決定部における目標助勢力の決定方法を限定した態様である。本項における「目標助勢力を、操作力に応じた大きさとなるように決定する」とは、例えば、目標助勢力が操作力に関係付けられており、その関係に従って目標助勢力が決定されることを意味する。具体的には、操作力をパラメータとする関数,マップ等を参照して、目標助勢力を決定するような態様が含まれる。典型的には、目標助勢力は、操作力が大きくなる程大きくなるように決定されることが望ましい。回転伝達比が変更可能若しくは変動するように構成された回転伝達機構を備えてないステアリングシステム、つまり、回転伝達比固定のステアリングシステムでは、一般的に、目標助勢力は、操作力に関係付けられている。本項のステアリングシステムでは、回転伝達比固定のステアリングシステムにおける関係付けを利用することができることから、敢えて新たな関係付けを作成する必要のないことから、当該システムの簡便化を図ることが可能である。
【0016】
(3)前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、前記第1シャフトから第2シャフトに伝達された操作力に基づく成分と前記助勢装置による助勢力に基づく成分とを合わせてなる合成力が前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された(1)項に記載のステアリングシステム。
【0017】
本項の態様は、目標助勢力決定部における目標助勢力の決定方法を、先の項の態様とは別の決定方法に限定した態様である。本項における「目標助勢力を、合成力が操作力に応じた大きさとなるように決定する」とは、例えば、上記合成力が操作力に関係付けられており、その関係に従った合成力となるように目標助勢力を決定することを意味する。先の項の態様と同様に、操作力が大きくなる程合成力が大きくなるように目標助勢力を決定することが望ましい。
【0018】
先の項の態様のように、目標助勢力を操作力に応じた大きさとした場合であっても、回転伝達機構によって伝達される回転トルクが回転伝達比によって変動するため、上記合成力は、必ずしも操作力に応じた大きさとはならない。本項のステアリングシステムによれば、回転伝達比の如何に拘わらず、合成力が操作力に応じた大きさとなるため、操舵操作における操作フィーリングがより良好なものとなる。
【0019】
(4)前記助勢力制御装置が、前記操作部材の操作速度に基づいて、前記目標助勢力を補正する操作速度依拠補正部を有する(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0020】
操作部材の操作速度は、操作力,操作量等の操舵操作の様子を表す指標,言い換えれば、操舵操作の様子に関するパラメータである。本項のステアリングシステムによれば、操作速度に基づいて目標助勢力を補正することで、操作部材の操作の様子を反映した適切な助勢力を発生させることが可能である。
【0021】
本項における「操作部材の操作速度に基づく補正」とは、広く解釈すべきであり、操作部材の実際の操作速度に基づく補正だけでなく、その操作速度を実質的に指標するもの、例えば、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転速度等に基づく補正も含まれる。また、その補正の態様についても、特に限定されず、例えば、設定された1以上の閾速度の各々を挟んで操作速度が高いか低いかによって目標助勢力がステップ的に変更されるような補正であってもよく、また、例えば、操作速度に応じて目標助勢力の大きさが連続的に変更されるような補正であってもよい。さらに、「目標助勢力を補正する」についても、広く解釈すべきであり、目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力を直接的に補正することだけに限定されず、例えば、目標助勢力の決定の際に依拠する操作力、つまり、操作力推定部によって推定された操作力を補正することによって、間接的に、目標助勢力を補正することであってもよい。
【0022】
(5)前記操作速度依拠補正部が、前記目標助勢力を、前記操作部材の操作速度が高い場合に、低い場合に比較して大きくなるように補正するように構成された(4)項に記載のステアリングシステム。
【0023】
一般的に、速い操舵操作が行われる場合、助勢装置の動作がその操舵操作に追従し得ないという現象が起こることがある。この現象は、操作に引っ掛かり感を与えてしまう。特に、助勢装置が電磁モータの力によって助勢力を発生させるように構成されている場合には、その現象が起こり易い。本項の態様では、操作部材の操作速度が高い場合に助勢力を大きくすることで、助勢装置の動作を促進し、上記現象を抑制することが可能となる。
【0024】
(6)当該ステアリングシステムが、少なくとも1つのユニバーサルジョイントを有して前記第2シャフトと前記転舵装置の入力軸とを連結する連結機構を備え、
前記助勢力制御装置が、
前記連結機構の構造に起因して生じるところの前記第2シャフトから前記転舵装置の入力軸へ伝達される回転トルクの変動が打ち消されるように、前記目標助勢力を補正する連結機構起因トルク変動依拠補正部を有する(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0025】
ユニバーサルジョイントを介在させて第2シャフトと転舵装置とを連結させる場合、第2シャフトの回転位相、つまり、当該ユニバーサルジョイントの回転位相の変化に伴って、第2シャフトから転舵装置の入力軸に伝達される回転トルクは変化する。つまり、第2シャフトの回転トルクに対する入力軸の回転トルクの比であるトルク伝達比は、周期的に変動する。本項のステアリングシステムによれば、当該システムがユニバーサルジョイントを有する構成であっても、そのトルク伝達比を解消するための補正が行われることから、操舵操作の操作フィーリングが良好に保たれることになる。具体的には、助勢装置がユニバーサルジョイントの操作部材側に配設されているシステムでは、例えば、上記トルク伝達比の逆数を、上記目標助勢力に乗ずることによって、その目標助勢力を補正すればよい。
【0026】
(7)前記連結機構起因トルク変動依拠補正部が、前記転舵装置の入力軸,前記第2シャフト,前記第1シャフトおよび前記操作部材のいずれかの回転位相に基づいて、前記目標助勢力を補正するように構成された(6)項に記載のステアリングシステム。
【0027】
ユニバーサルジョイントによって連結される上記の入力軸および第2シャフトの各々の回転位相は、互いに対応関係にあるため、それらのいずれの回転位相を利用しても、上記補正を適切に行うことができる。また、上記回転伝達比が第1シャフトの回転位相に依存する構成の上記回転伝達機構を採用するシステムにおいては、操作部材および第1シャフトの各々の回転位相と第2シャフトの回転位相とは互いに対応関係にあるため、それら操作部材および第1シャフトの各々の回転位相を利用しても、上記補正を適切に行うことができる。なお、ステアリングシステムは、一般的に、ステアリング操作角(操作量)を検出するためのセンサとして、操作部材若しくは第1シャフトの回転位相を検出するセンサを備えている場合が多い。そのため、本項の態様のステアリングシステムを、操作部材若しくは第1シャフトの回転位相を利用して上記補正を行うように構成すれば、その補正のために別途センサを設ける必要がなく、当該システムの簡素化が図れる。
【0028】
(8)前記回転伝達機構が、前記回転伝達比が前記第1シャフトの回転位相に応じて変動するように構成された(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0029】
本項のステアリングシステムは、当該システムに採用する回転伝達機構を、先に説明した2つの類型のうちの一方に限定したものである。具体的に言えば、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転位相等に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動するような態様の回転伝達機構を採用するシステムである。先に説明した2つの類型のうちの他方と異なり、回転伝達比を変更するための特別な動力源を必要とせず、また、その動力源を制御するシステムをも必要としないことから、本項のステアリングシステムによれば、簡便な構成の回転伝達機構を備えたステアリングシステムが実現されることになる。
【0030】
(9)前記回転伝達機構が、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相となっている場合において前記回転伝達比が最も小さく、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相から180°進退している場合において前記回転伝達比が最も大きくなるように構成された(8)項に記載のステアリングシステム。
【0031】
本項の態様によれば、直進に近い状態における走行安定性、すなわち、直進安定性が良好に担保され、かつ、操作部材の操作量を大きくした場合における車両の旋回特性、すなわち、車両の向きを大きく変え易いという特性が良好担保されたステアリングシステムを実現することができる。
【0032】
(10)前記第1シャフトと前記第2シャフトとが、それぞれの回転軸線が互いに平行となる状態かつそれら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されており、
前記回転伝達機構が、
(a)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方に、その一方の回転軸線から径方向に前記所定距離より離れた位置において設けられた係合部と、(b)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの他方に設けられ、前記係合部が係合するとともにその係合部のその他方の径方向の移動を許容する案内通路とを有し、前記第1シャフトの回転によって、その第1シャフトの回転位相と前記第2シャフトの回転位相との差である回転位相差を変化させつつその第2シャフトが回転するように構成された(8)項または(9)項に記載のステアリングシステム。
【0033】
本項の態様は、回転伝達機構の構造に関する限定を加えた態様である。詳しくは、先に説明した2つの類型のうちの一方となる回転伝達機構を構築するために、採用可能な構造を例示した態様である。本項の態様における回転伝達機構の詳細については、後に詳しく説明するため、ここでの説明は省略するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】請求可能発明の第1実施例としてのステアリングシステムを示す模式図である。
【図2】第1実施例のステアリングシステムが備えるステアリングコラムの断面図である。
【図3】第1実施例のステアリングシステムの備える回転伝達機構および助勢装置の断面図である。
【図4】図3に示すA−A’線における断面図である。
【図5】操作部材が回転操作される際の図3に示すA−A’線における断面図である。
【図6】第1シャフトの回転角と第2シャフトの回転角との関係を示すグラフである。
【図7】第1シャフトの回転角に応じて変動する第1シャフトと第2シャフトとの回転伝達比を示すグラフである。
【図8】第1シャフトの回転トルクを補正するための係数のグラフである。
【図9】第1シャフトの回転トルクに対する目標助勢トルクの関係を示すグラフである。
【図10】第1シャフトの回転トルクに対する、第1シャフトから第2シャフトに伝達された操作力に基づく回転トルクと、助勢力に基づく回転トルクとを合わせてなる合成トルクの関係を示すグラフである。
【図11】第2シャフトの回転位相に対する、第1シャフトの回転トルクに対する転舵装置の入力軸の回転トルクの比である伝達トルク比を示すグラフである。
【図12】第1実施例のステアリングシステムが備える制御装置のブロック図である。
【図13】第2実施例のステアリングシステムが備える制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、実施例のステアリングシステムのいくつかを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明のステアリングシステムは、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良が施された種々の形態とすることができる。
【実施例1】
【0036】
≪車両用ステアリングシステムの全体構成≫
図1に、第1実施例のステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、運転者によって操作されるステアリング操作部材としてのステアリングホイール10と、一端部にそのステアリングホイール10が取り付けられたステアリングコラム12と、車輪を転舵する転舵装置14と、ステアリングコラム12と転舵装置14との間に位置する伸縮可能なインタミディエイトシャフト(以下、「I/Mシャフト」と略す場合がある)16とを含んで構成されている。さらに、I/Mシャフト16の一端部とステアリングコラム12の備える転舵側シャフト18とは、ユニバーサルジョイント20によって連結され、I/Mシャフト16の他端部と転舵装置14の備える入力軸22の一端部とは、もう1つのユニバーサルジョイント24によって連結されている。なお、本ステアリングシステムは、図1において右側、つまり、ステアリングホイール10側が車両後方側となり、左側、つまり、転舵装置14側が車両前方側となるように配置されている。
【0037】
転舵装置14は、入力軸22と、車輪を転舵するための転舵ロッド30と、その転舵ロッド30を内部に収容するハウジング32とを備えている。転舵ロッド30は、車幅方向に延びる棒状に形成されており、それの車幅方向に移動可能な状態でハウジング32に保持されている。転舵ロッド30の両端部は、左右の前輪の各々を保持するステアリングナックル(図示省略)に連結されている。また、入力軸22は、ハウジング32に回転可能に保持されており、ハウジング32内における入力軸22の端部には、ピニオン(図示省略)が形成されている。一方、転舵ロッド30には、そのピニオンと噛合うラック(図示省略)が形成されている。
【0038】
ステアリングコラム12は、インパネリインフォースメント34に設けられたステアリングサポート36において、車体に支持される。ステアリングコラム12には、それの前方部に前方ブラケット38が設けられ、車両後方側にブレークアウェイブラケット40が設けられている。それら前方ブラケット38およびブレークアウェイブラケット40によって、ステアリングコラム12は、ステアリングサポート36に取り付けられている。
【0039】
図2に、ステアリングコラム12の側面断面図を示す。ステアリングコラム12は、大まかには、ステアリングホイール10を保持するコラムセクション50と、電動式パワーステアリング機能を実現する主体となるEPSセクション52とに区分することができる。以下、それら各セクションについて、順に説明する。
【0040】
コラムセクション50は、ステアリングホイール10が後端部に取り付けられている第1シャフトとしての操作側シャフト60と、その操作側シャフト60を挿通させた状態で保持するコラムチューブ62とを含んで構成されている。操作側シャフト60は、伸縮可能なシャフト部64と、そのシャフト部64の前端部に設けられたフランジ部66とから構成されている。コラムチューブ62は、パイプ状とされた円筒部68と、円筒部68の前端部に設けられて円筒部68よりも外径の大きい大径部70とから構成されている。大径部70には、後述するEPSセクション52のハウジング72の後端部が嵌め合わされており、操作側シャフト60のフランジ部66は、ベアリング74を介して、そのハウジング72に回転可能に保持されている。また、操作側シャフト60の後端部は、ベアリング76を介してのコラムチューブの後端部に回転可能に保持されている。なお、図示は省略するが、コラムセクション50には、操作側シャフト60の回転位相を検出するためのセンサ、つまり、ステアリングホイール10の操作角を検出するための操作角センサ78(図1参照)が設けられている。
【0041】
図3に、EPSセクション52の側面断面図を示す。EPSセクション52は、ハウジング72に回転可能に保持されてステアリングホイール10に加えられた操作力を転舵装置14に出力するための第2シャフトとしての転舵側シャフト18と、駆動源としての電磁モータ80を有してそのモータ80によって転舵側シャフト18の回転を助勢する助勢装置82とを備えている。転舵側シャフト18は、出力側シャフト86,入力側シャフト88,トーションバー90の3つが組み合わされたシャフト部92と、そのシャフト部92の車両後方側に付設された円環部94とを含んで構成されている。出力側シャフト86は、ハウジング72の車両前方側に延出しており、その延出する部分において、ユニバーサルジョイント20に連結されている。
【0042】
転舵側シャフト18のシャフト部92を構成する入力側シャフト88の前方部分は出力側シャフト86の後方部分に挿入されており、それらのシャフト86,88はベアリング96を介して相対回転可能とされている。それらのシャフト86,88は、ともに中空状をなし、それらのシャフト86,88を貫いて貫通穴98が形成されている。この貫通穴98内に、トーションバー90が、両端部がそれぞれそれらのシャフト86,88に固定された状態で配設されている。このように構成されたシャフト部92は、ベアリング100,102,104を介してハウジング72に回転可能に保持さる。なお、トーションバー90は、シャフト部92の回転トルクに応じた量だけ捩られ、出力側シャフト86,入力側シャフト88は、その量に応じた量だけ相対回転する。EPSセクション52には、その相対回転量を検出することで、シャフト部92の回転トルク、すなわち、転舵側シャフト18の回転トルクを検出するためのトルクセンサ106が設けられている。
【0043】
助勢装置82は、上記電磁モータ80と、その電磁モータ80のモータ軸に連結されたウォーム112と、そのウォーム112と噛み合うウォームホイール114とを含んで構成されている。そのウォームホイール114は、転舵側シャフト18を構成する出力側シャフト86に固定されている。電磁モータ80の力は、ウォーム112,ウォームホイール114を介して出力側シャフト86に作用する。この力が、転舵側シャフト18の回転を助勢するための助勢力、さらに言えば、車輪の転舵を助勢するための助勢力となる。
【0044】
転舵側シャフト18および操作側シャフト60は、互いにシフトした状態で、つまり、各々の回転軸線が互いに平行、かつ、それら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されている。所定距離は、図3において、シフト量dとして示されている。操作側シャフト60のフランジ部66の前方側の端面には、図3のA−A’断面図である図4に示すように、径方向に延びる溝130が形成されている。一方、入力側シャフト88の円環部94には、当該シャフト88軸線からオフセット量L偏心した位置において、当該シャフト88の軸線方向と平行な状態で、ピン132が後方に向かって立設固定されている。そのピン132に、ローラ136がベアリング138を介して回転可能に支持されおり、そのローラ136は、フランジ部66に形成された溝130内に配置されている。ちなみに、溝130の幅は、ローラ136の外径より僅かだけ大きくされている。後に詳しく説明するが、操作側シャフト60が回転すると、ローラ136が溝130に案内される状態で操作側シャフト60の径方向に移動しつつ、その回転が、転舵側シャフト18に伝達される。つまり、ステアリングコラム12は、上記ローラ136が転舵側シャフト18に設けられた係合部として、上記溝130が操作側シャフト60に設けられてその係合部の移動を許容する案内通路として、それぞれ機能する回転伝達機構140を備えているのである。
【0045】
≪回転伝達機構の機能≫
図5に、円形フランジ部66と、溝130に係合するローラ136との断面図(図3のA−A’断面図に相当する)を示す。図5(a)は、ステアリングホイール10が中立位置(車両が直進しているときの回転位置)にあるときの状態を、図5(b)は、ステアリングホイール10が中立位置から左旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図5(c)は、ステアリングホイール10が中立位置から右旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図5(d)は、ステアリングホイール10が中立位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された位置にあるときの状態を、それぞれ示している。なお、説明の簡素化に配慮し、以下の説明において、本ステアリングシステムでは、ステアリングホイール10は、左右に180°しか操作されないものとして扱う。
【0046】
図から解るように、ステアリングホイール10が中立位置から右、若しくは左旋回方向に90゜回転操作された場合には、操作側シャフト60は自身の回転軸線を中心に90°回転するが、転舵側シャフト18は自身の回転軸線を中心に90°までは回転せずに、転舵側シャフト18の回転位相は90°未満となる。そして、ステアリングホイール10が、さらに回転操作されて、中立位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された場合に、操作側シャフト60および転舵側シャフト18は共に180゜回転する。操作側シャフト60の回転位相である操作側位相αと、転舵側シャフト18の回転位相である転舵側位相βとの関係は、図6に示すように、ステアリングホイール10が中立位置から180゜未満で回転操作される場合には、転舵側位相βは操作側位相αより小さく、ステアリングホイール10が操作中立位置から180゜回転操作されると、転舵側位相βが操作側位相αと同じとなる。つまり、操作側位相αが0°若しくは180゜となる場合には、転舵側位相βもそれぞれ0°若しくは180゜となり、回転位相差は0となる。一方、操作側位相αが0°から180゜に変化する間に、回転位相差は徐々に増加し、ある回転角からは逆に、徐々に減少し、0となるのである。
【0047】
操作側シャフト60と転舵側シャフト18との回転伝達比(dβ/dα)、つまり、操作側シャフト60の回転角速度(dα/dt)に対する転舵側シャフト18の回転角速度(dβ/dt)の比は、図7に示すように、操作側位相α、つまり、操作側シャフト60の回転位相に応じて変動する。図から解るように、操作側位相αが0°の場合には、回転伝達比(dβ/dα)は最も小さく、操作側位相αが大きくなるにつれて回転伝達比(dβ/dα)は大きくなる。つまり、ステアリングホイール10の操作角(操作量)が小さい場合には、その操作角の変化量に対する車輪の転舵量の変化量の比が比較的小さくなり、車両の直進安定性が良好となる。一方、ステアリングホイール10の操作角が大きくなると、その操作角の変化量に対する車輪の転舵量の変化の比が比較的大きくなり、車両の向きを大きく変え易くなる。このように、本回転伝達機構140による回転伝達では、操作側シャフト60若しくは転舵側シャフト18の回転位相に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動する。なお、操作側シャフト60から転舵側シャフト18への回転トルクの伝達に関していえば、伝達される回転トルクは、上記回転伝達比の変動に伴って変動する。ここで、操作側シャフト60の回転トルクに対する転舵側シャフト18の回転トルク比をトルク伝達比とすれば、そのトルク伝達比は、上記回転伝達比の逆数となる。
【0048】
≪助勢力の制御≫
i)制御システムのハード構成
先に述べた助勢装置82が発生させる助勢力の制御は、図1に示す助勢力制御装置150によって行われる。助勢力は、助勢装置82が有するモータ80への供給電流の大きさに応じた大きさとなる。モータ80は、駆動回路としてのインバータ152を介して、図示を省略する電源に接続されており、助勢力制御装置150は、そのインバータ152に、モータに供給すべき電流に関する指令を送ることによって、助勢力を制御する。
【0049】
助勢力制御装置150は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータを主体とする装置であり、所定のプログラムを実行することによって、助勢力の制御を行う。ROMには、そのプログラムを始め、制御に関する各種のデータ等が記憶されている。また、助勢力制御装置150には、先に述べた転舵側シャフト18の回転トルクを検出するためのトルクセンサ106や、操作側シャフト60の回転位相を検出する操作角センサ78等の各種センサが接続されており、助勢力制御装置150は、それらのセンサからの信号に基づいて、助勢力の制御を行う。
【0050】
ii)操作力の推定
本ステアリングステムでは、ステアリングホイール10の操作力に基づいて、助勢装置82が発生させるべき助勢力である目標助勢力が決定されるようになっており、その決定の前提として、トルクセンサ106によって転舵側シャフト18の回転トルクに基づいて、その操作力が推定される。具体的には、操作力と等価なものとして、操作側シャフト60の回転トルク(以下、「操作トルクTS」という)が推定される。ちなみに、転舵側シャフト60の回転トルクは、回転伝達機構140によって、操作トルクTSが伝達されたものと考えることができるため、以下、伝達トルクTDと呼ぶこととする。
【0051】
先に説明したように、操作トルクTSに対する伝達トルクTDの比は、回転伝達比(dβ/dα)の逆数となるため、下記式(1)に従って、検出された伝達トルクTDに基づいて、操作トルクTSが推定される。ちなみに、回転伝達比(dβ/dα)は、操作角センサ78によって検出された操作側シャフト60の回転位相(以下、「操作側位相α」という)に基づき、ROMに格納されたマップデータ(図7参照)を利用して認定される。
TS=TD×(dβ/dα) ・・・(1)
【0052】
本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140は、回転伝達比(dβ/dα)が操作側位相αの変化に伴って変動するように構成されているため、伝達トルクTDは操作力の大きさを適切に表すものとはなっていない。本ステアリングシステムでは、上記のような回転伝達比(dβ/dα)を用いた推定を行っているため、伝達トルクTDに基づく推定であったとしても、操作力が適切に推定されるのである。
【0053】
iii)操作速度に基づく補正
速い操舵操作を行った場合、その操作に、助勢装置82が有するモータ80の動作が追従し得ないことが考えられる。モータ80の動作を速い操舵操作に追従させるためには、モータ80への供給電流を大きくすることが望ましい。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、操舵操作が速い程モータ80への供給電流をより大きくすべく、目標助勢力をより大きくするように構成されている。目標助勢力を大きくするためには、後に説明するように、決定された目標助勢力を直接的に補正してもよいが、本ステアリングシステムでは、上記推定された操作トルクTSを補正することによって、間接的に目標助勢力を補正する手法を採用している。
【0054】
上記補正は、ステアリングホイール10の操作速度vに基づいて行われる。その操作速度vは、操作角センサ78によって検出された操作側位相αの変化に基づいて算出される。操作トルクTSを補正するための操作速度補正依拠係数KVは、図8に示すようなマップデータとして、ROMに格納されている。そのマップデータを用い、算出された操作速度vに基づき、操作速度依拠補正係数KVが決定される。そして、その決定された操作速度依拠補正係数KVを用い、下記式(2)に従って、操作トルクTSが補正される。
TS=KV×TS ・・・(2)
【0055】
iv)目標助勢力の決定
本ステアリングシステムは、転舵側シャフト18の回転を助勢する構造とされているため、助勢力は、転舵側シャフト18の回転に対する助勢トルクとみなすことができる。そこで、助勢力の制御では、目標助勢力と等価なものとして、目標助勢トルクが決定される。ROMには、図9に示すような操作トルクTSに対する助勢トルクTAのマップデータが格納されており、そのマップデータを利用して目標助勢トルクTA*が決定される。
【0056】
車輪の転舵は、転舵側シャフト18に伝達された操作力に基づく成分と、助勢力に基づく成分とを合わせた合成力によって行われる。つまり、上記伝達トルクTDと助勢トルクTAとが合わさった合成トルクTCによって行われる。図10は、操作トルクTSに対する合成トルクTCの関係を示すグラフである。ちなみに、そのグラフは、回転伝達比(dβ/dα)が固定された場合の関係である。その関係に従う合成トルクTCが得られるように、つまり、操作トルクTSに応じた合成トルクCが得られるように目標助勢トルクTA*を決定することが、操作フィーリングを良好に維持することに寄与する。
【0057】
ところが、本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140は、回転伝達比(dβ/dα)が変動するため、伝達トルクTDがその変動に応じて変動し、合成トルクTCは、必ずしも、上記関係に従ったものとはならない。そのことに配慮して、本ステアリングシステムでは、まず、推定された操作トルクTSに基づき、図10に示す関係に基づいて設定・格納されたマップデータを利用して、基準となる助勢トルクである基準助勢トルクTA0が決定され、その基準助勢トルクTA0と、認定されている回転伝達比(dβ/dα)とに基づいて、次式(3)に従って、目標助勢トルクTA*が決定される。
TA*=TA0−{(dα/dβ)−1}×TS ・・・(3)
【0058】
なお、上記のような決定手法に代えて、検出された伝達トルクTDに基づいて、次式(4)に従って、目標助勢トルクTA*を決定することもできる。
TA*=TA0+{(dβ/dα)−1}×TD ・・・(4)
【0059】
v)ユニバーサルジョイントによる目標助勢トルクの補正
転舵側シャフト18と、転舵装置14の入力軸22との間には、2つのユニバーサルジョイント20、24が介在させられており、転舵側シャフト18の回転トルクが一定であったとしても、それらユニバーサルジョイント20、24の構造に起因して、入力軸22の回転トルクが変動することになる。本ステアリングシステムでは、具体的には、転舵側シャフト18の回転トルクに対する入力軸22の回転トルクの比である伝達トルク比は、転舵側シャフト18の回転位相である転舵側位相βに対して、図11に示すように変動する。
【0060】
上記のことを考慮して、本ステアリングシステムでは、上記入力軸22のトルク変動を解消すべく、目標助勢トルクTA*が補正される。具体的には、検出されている操作側位相αと、認定されている回転伝達比(dβ/dα)とを基に、転舵側位相βが認定され、その認定された転舵側位相βに基づいて、上記図11に示す伝達トルク比の逆数として設定されてROMに格納されているジョイント依拠補正係数KJのマップデータを用い、次式(5)に従って、目標助勢トルクTA*が補正される。
TA*=KJ×TA* ・・・(5)
vi)目標供給電流の決定
本ステアリングシステムでは、目標助勢トルクTA*に基づいて、助勢装置82のモータ80への目標供給電流IA*が決定され、その目標供給電流IA*に基づく指令が、インバータ152に送られる。インバータ152は、その指令に基づく供給電流がモータ80流れるように動作し、車輪の転舵に対して適切な助勢力が付与される。
【0061】
≪助勢力制御装置の機能構成≫
本ステアリングシステムにおける上記転舵助勢制御は、助勢力制御装置150において、所定のプログラムが実行されることによって行われる。助勢力制御装置150は、図12のブロック図に示すように、転舵助勢制御を実行するための複数の機能部を有していると考えることができる。つまり、それぞれの機能部が、自身に割り当てられた処理を実行することによって、転舵助勢制御が実行されると考えることができる。以下に助勢力制御装置150の複数の機能部の各々と、その各々による処理を、転舵助勢制御についての先の説明を参照しつつ説明する。
【0062】
トルクセンサ106によって、転舵側シャフト18の回転トルクである伝達トルクTDが検出される。一方、操作角センサ78によって検出される操作側位相αから、回転伝達比認定部162において回転伝達比(dβ/dα)が認定される。操作側位相αおよび回転伝達比(dβ/dα)は、操作トルク推定部164に入力され、式(1)により、操作トルクTSが推定され、その操作トルクTSは操作速度依拠補正部166に入力される。一方、操作速度依拠補正部166には、操作側位相αも入力され、各マップデータを格納するデータ格納部168を参照して、操作速度補正依拠係数KVが決定される。操作速度依拠補正部166は、その操作速度補正依拠係数KVを用いて、式(2)よって、操作トルクTSを補正する。補正された操作トルクTSは、目標助勢トルク決定部170に入力され、目標助勢トルク決定部170は、データ格納部168のマップデータを参照して、基準助勢トルクTA0を決定する。さらに、目標助勢トルク決定部170には、回転伝達比(dβ/dα)も入力され、式(3)によって、目標助勢トルクTA*が決定される。また、目標助勢トルク決定部170に伝達トルクTDを入力することで、式(4)によって、目標助勢トルクTA*を決定することもできる。目標助勢トルクTA*は、連結機構起因トルク変動依拠補正部172に入力される。連結機構起因トルク変動依拠補正部172には、操作側位相αおよび回転伝達比(dβ/dα)も入力され、それらを用いて転舵側位相βが認定される。さらに、連結機構起因トルク変動依拠補正部172は、データ格納部168のマップデータを参照して、ジョイント依拠補正係数KJを決定し、式(5)により、目標助勢トルクTA*を補正する。助勢装置作動制御部174は、その目標助勢トルクTA*に基づいて、目標供給電流IA*を決定し、その目標供給電流IA*に基づく指令を、インバータ152に送る。
【実施例2】
【0063】
第2実施例のステアリングシステムは、第1実施例のステアリングシステムにおける助勢力制御装置150に代えて、助勢制御装置200を有しており、それ以外の構成は第1実施例のステアリングシステムと同様とされている。助勢力制御装置200による助勢力の制御は、助勢力制御装置150の制御とは異なるため、以下の説明は、その異なる部分についてのみ行うこととする。
【0064】
助勢力制御装置200による助勢力の制御では、上述したステアリングホイール10の操作速度vに基づく補正は、決定された目標助勢トルクTA*に対して行われる。具体的には、マップデータとして格納されている上述の操作速度依拠補正係数KVに基づき、次式(6)に従って、目標助勢トルクTA*が補正される。
TA*=KV×TA* ・・・(6)
【0065】
また、助勢力制御装置200による助勢力の制御では、目標助勢トルクTA*は、助勢力が操作力に応じた大きさとなるように決定される。具体的には、推定された操作トルクTSに基づき、図10に示す関係に基づいて設定・格納された上記マップデータを利用して、決定される。つまり、助勢力制御装置150による制御において決定された基準助勢トルクTA0が、そのまま、目標助勢トルクTA*として決定される。このようにして助勢力を決定しても、良好な操舵フィーリングの操舵操作が実現される。
【0066】
助勢力制御装置200の機能構成について説明すれば、当該制御装置200は、図13に示すように、助勢力制御装置150の操作速度依拠補正部166および目標助勢トルク決定部170を除いて、助勢力制御装置150と同じ構成とされている。以下に、助勢力制御装置150と異なる機能部についてのみ説明する。助勢力制御装置200では、操作トルク推定部164から送られる操作トルクTSが目標助勢トルク決定部202に入力される。目標助勢トルク決定部202は、操作トルクTSから、データ格納部168のマップデータを参照して、基準助勢トルクTA0を決定し、それを目標助勢トルクTA*として操作速度依拠補正部204に送る。その操作速度依拠補正部204は、データ格納部168のマップデータを参照して、操作速度補正依拠係数KVを決定し、目標助勢トルクTA*を補正する。補正された目標助勢トルクTA*は連結機構起因トルク変動依拠補正部172へと送られ、助勢力制御装置200は、助勢力制御装置150と同様の処理を行って、目標供給電流IA*に基づく指令をインバータ152に送る。
【符号の説明】
【0067】
10:ステアリングホイール 14:転舵装置 18:転舵側シャフト(第2シャフト) 20:ユニバーサルジョイント 22:入力軸 24:ユニバーサルジョイント 60:操作側シャフト(第1シャフト) 80:電磁モータ(駆動源) 82:転舵助勢装置 106:トルクセンサ 130:溝 138:係合部 140:回転伝達機構 150:助勢力制御装置 164:操作トルク推定部(操作力推定部) 166:操作速度依拠補正部 170:目標助勢トルク決定部(目標助勢力決定部) 172:連結機構起因トルク変動依拠補正部 174:助勢装置作動制御部 200:助勢力制御装置 202:目標助勢トルク決定部(目標助勢力決定部) 204:操作速度依拠補正部 α:操作側位相(第1シャフトの回転位相) β:転舵側位相(第2シャフトの回転位相) (dβ/dα):回転伝達比 TA*:目標助勢トルク TD:伝達トルク(第2シャフトの回転トルク) v:操作速度
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪を転舵させるために車両に設けられたステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に設けられるステアリングシステムの多くは、いわゆるパワーステアリングシステムであり、車輪の転舵を助勢するための助勢力を発生させる助勢装置が装備されている。したがって、そのシステムによれば、車輪は、運転者がステアリングホイール等の操作部材に加える操作力と、助勢装置による助勢力とによって転舵させられるため、運転者が自ら大きな操作力を発生させなくても、車輪を転舵させることができる。そして、そのシステムにおいて、上記助勢力の大きさは、一般的には、例えば、運転者が操作力を大きくすると、それに応じて助勢力も大きくするといった具合に、操作力に基づいて制御されている。一方、近年のステアリングシステムには、下記特許文献に記載されているように、いわゆるギヤ比可変システム(VGRS)と呼ばれるシステムが存在する。そのシステムでは、操作部材に連結される操作側シャフトの回転を、車輪を転舵させる転舵装置に連結される転舵側シャフトに伝達するための回転伝達機構において、操作側シャフトの回転角速度に対する転舵側シャフトの回転角速度の比である回転伝達比が変更可能とされている。そのシステムによれば、例えば、操作量が比較的小さい場合には、回転伝達比を小さくして車両の走行安定性を高めたり、車両がUターンする場合など、操作量が比較的大きい場合には、回転伝達比を大きくし、車両を容易に方向転換させたりすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3409838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転伝達比が変更可能な、若しくは、回転伝達比が変動するように構成された回転伝達機構によれば、操作側シャフトの回転トルクに対する転舵側シャフトの回転トルクは、上記回転伝達比に応じて変動することになる。したがって、上記助勢装置を備えたステアリングシステムにおいてそのような回転伝達機構を採用する場合、転舵側シャフトの回転トルクに基づいて助勢力の大きさが制御される場合には、その助勢力は、必ずしも操作部材に加えられた操作力に依存した大きさとはならない。そのため、操舵操作において運転者が感じる操作フィーリングは、決して良好なものとはならない。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、上記回転伝達比が変更可能な若しくは変動するようなステアリングシステムにおいて、それの操作フィーリングを向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のステアリングシステムは、操作部材に加えられた操作力によって回転する操作側シャフトと、操作側シャフトよりも車輪側に配設された転舵側シャフトと、操作側シャフトの回転を転舵側シャフトに伝達する回転伝達機構と、転舵側シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、転舵側シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、車輪の転舵を助勢力によって助勢する助勢装置と、助勢力を転舵側シャフトの回転トルクに基づいて制御する助勢力制御装置とを備え、回転伝達機構が、操作側シャフトから転舵側シャフトへの回転伝達における回転伝達比を変更可能に、若しくは、回転伝達比が変動するように構成されており、助勢力制御装置が、転舵側シャフトの回転トルクから、回転伝達比に基づいて操作力を推定し、その操作力に基づいて目標助勢力を決定し、その目標助勢力に基づいて助勢装置の作動を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本ステアリングシステムによれば、回転伝達比が変化する場合においても、助勢力は、操作力を基に決定され、操舵操作における操作フィーリングは、良好に保たれることになる。
【発明の態様】
【0007】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、(1)項から(10)項は、それぞれ請求項1から請求項10にそれぞれ相当する。
【0008】
(1)車輪を転舵させるために車両に設けられたステアリングシステムであって、運転者によって操作される操作部材と、その操作部材に加えられた運転者の操作力によって回転する第1シャフトと、その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達する回転伝達機構と、前記第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、前記第2シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、駆動源を有して車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、その助勢装置による助勢力を前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクに基づいて制御する助勢力制御装置とを備え、
前記回転伝達機構が、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比を変更可能に、若しくは、その回転伝達比が変動するように構成されており、
前記助勢力制御装置が、
前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクから、前記回転伝達比に基づいて、運転者によって前記操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、
その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、
その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、前記助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部と
を有するステアリングシステム。
【0009】
本ステアリングシステムでは、大まかに言えば、運転者によってステアリングホイール等の操作部材に加えられる力、つまり、操作力によって、第1シャフトに、それを回転させる回転トルクである操作トルクが発生する。そして、その操作トルクは、回転伝達機構によって、第2シャフトの回転トルクとして伝達される。この第2シャフトの回転トルクは、転舵装置において、車輪を転舵させる力へと変換される。一方、本ステアリングシステムでは、上記助勢装置によって、助勢力が発生させられており、転舵装置による車輪の転舵は、伝達トルクとして伝達された操作力と助勢力とによって行われる。
【0010】
ステアリングシステムの多くは、上記第2シャフトの回転トルク、つまり、上記伝達トルクを検出して、その検出された伝達トルクに基づいて、助勢装置が発生させるべき助勢力を決定する。ところが、本ステアリングシステムでは、回転伝達機構が、上記回転伝達比を変更可能に若しくは回転伝達比が変動するように構成されているため、伝達トルクの大きさは、回転伝達比の影響を受け、必ずしも、上記操作トルクに依存した大きさとはならない。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、回転伝達比を基に伝達トルクから操作力を推定して、その操作力を基に助勢力を決定している。したがって、操作力に依存した大きさの助勢力による転舵助勢が行われるため、本ステアリングシステムでは、操舵操作における操作フィーリングを良好に保つことが可能となる。
【0011】
本項のステアリングシステムにおいて、「助勢装置」の具体的構造は、特に限定されない。例えば、電磁モータの発生させる力によって転舵を助勢するような構造のものであってもよく、また、作動油等の圧力を利用して転舵を助勢するような構造のものであってもよい。また、当該ステアリングシステムのどの部分において助勢するかについても、特に限定されない。上記トルク検出器の車輪側(力の伝達において操作部材とは反対側を意味する)において助勢するものであればよく、例えば、第2シャフトの回転を助勢するように構成されるものであっても、また、いわゆる転舵ロッド(リンクロッドともいう)の動作を助勢するように構成されるものであってもよい。なお、上記「トルク検出器」は、例えば、第2シャフトの一部としてトーションバーを配設し、そのトーションバーの捩り弾性変形量を検出することで第2トルクを検出するように構成することが可能である。
【0012】
本項における「回転伝達比」は、第1シャフトの回転角度の変化量に対する第2シャフトの回転角度の変化量の比と考えることのできるものである。言い換えれば、第1シャフトの回転角速度に対する第2シャフトの回転角速度の比と考えることができる。なお、この回転伝達比の逆数は、操作トルクに対する伝達トルクの比、つまり、トルク伝達比と考えることができる。したがって、回転伝達比が大きくなるにつれて、トルク伝達比は小さくなり、回転伝達比が小さくなるにつれてトルク伝達比は大きくなる。上記「操作力推定部」は、そのことを利用し、検出された第2シャフトの回転トルクから第1シャフトの回転トルクを推定し、その推定された第1シャフトの回転トルクに基づいて、操作部材に加えられた操作力を推定するように構成することが可能である
【0013】
本項の「回転伝達機構」は、回転伝達比を変更可能なもの、つまり、何らかのパラメータに応じて回転伝達比を任意に(すなわち、制御可能に)変更するように構成されたものであってもよく、また、回転伝達比が変動するもの、つまり、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転位相等に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動するものであってもよい。前者は、具体的には、例えば、第1シャフト,第2シャフトがそれぞれ第1要素,第2要素とされて、さらに第3要素となる第3シャフトを有する差動機構として構成し、かつ、その第3シャフトの回転を制御することで、任意に回転伝達比を変更するように構成することで実現することができる。一方、後者は、後に詳しく説明するように、第1シャフト,第2シャフトを互いに偏心した状態で配設し、カム機構によってそれら第1シャフト,第2シャフトの各々回転が連動するように構成することで実現することができる。
【0014】
(2)前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、それが前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された(1)項に記載のステアリングシステム。
【0015】
本項の態様は、目標助勢力決定部における目標助勢力の決定方法を限定した態様である。本項における「目標助勢力を、操作力に応じた大きさとなるように決定する」とは、例えば、目標助勢力が操作力に関係付けられており、その関係に従って目標助勢力が決定されることを意味する。具体的には、操作力をパラメータとする関数,マップ等を参照して、目標助勢力を決定するような態様が含まれる。典型的には、目標助勢力は、操作力が大きくなる程大きくなるように決定されることが望ましい。回転伝達比が変更可能若しくは変動するように構成された回転伝達機構を備えてないステアリングシステム、つまり、回転伝達比固定のステアリングシステムでは、一般的に、目標助勢力は、操作力に関係付けられている。本項のステアリングシステムでは、回転伝達比固定のステアリングシステムにおける関係付けを利用することができることから、敢えて新たな関係付けを作成する必要のないことから、当該システムの簡便化を図ることが可能である。
【0016】
(3)前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、前記第1シャフトから第2シャフトに伝達された操作力に基づく成分と前記助勢装置による助勢力に基づく成分とを合わせてなる合成力が前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された(1)項に記載のステアリングシステム。
【0017】
本項の態様は、目標助勢力決定部における目標助勢力の決定方法を、先の項の態様とは別の決定方法に限定した態様である。本項における「目標助勢力を、合成力が操作力に応じた大きさとなるように決定する」とは、例えば、上記合成力が操作力に関係付けられており、その関係に従った合成力となるように目標助勢力を決定することを意味する。先の項の態様と同様に、操作力が大きくなる程合成力が大きくなるように目標助勢力を決定することが望ましい。
【0018】
先の項の態様のように、目標助勢力を操作力に応じた大きさとした場合であっても、回転伝達機構によって伝達される回転トルクが回転伝達比によって変動するため、上記合成力は、必ずしも操作力に応じた大きさとはならない。本項のステアリングシステムによれば、回転伝達比の如何に拘わらず、合成力が操作力に応じた大きさとなるため、操舵操作における操作フィーリングがより良好なものとなる。
【0019】
(4)前記助勢力制御装置が、前記操作部材の操作速度に基づいて、前記目標助勢力を補正する操作速度依拠補正部を有する(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0020】
操作部材の操作速度は、操作力,操作量等の操舵操作の様子を表す指標,言い換えれば、操舵操作の様子に関するパラメータである。本項のステアリングシステムによれば、操作速度に基づいて目標助勢力を補正することで、操作部材の操作の様子を反映した適切な助勢力を発生させることが可能である。
【0021】
本項における「操作部材の操作速度に基づく補正」とは、広く解釈すべきであり、操作部材の実際の操作速度に基づく補正だけでなく、その操作速度を実質的に指標するもの、例えば、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転速度等に基づく補正も含まれる。また、その補正の態様についても、特に限定されず、例えば、設定された1以上の閾速度の各々を挟んで操作速度が高いか低いかによって目標助勢力がステップ的に変更されるような補正であってもよく、また、例えば、操作速度に応じて目標助勢力の大きさが連続的に変更されるような補正であってもよい。さらに、「目標助勢力を補正する」についても、広く解釈すべきであり、目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力を直接的に補正することだけに限定されず、例えば、目標助勢力の決定の際に依拠する操作力、つまり、操作力推定部によって推定された操作力を補正することによって、間接的に、目標助勢力を補正することであってもよい。
【0022】
(5)前記操作速度依拠補正部が、前記目標助勢力を、前記操作部材の操作速度が高い場合に、低い場合に比較して大きくなるように補正するように構成された(4)項に記載のステアリングシステム。
【0023】
一般的に、速い操舵操作が行われる場合、助勢装置の動作がその操舵操作に追従し得ないという現象が起こることがある。この現象は、操作に引っ掛かり感を与えてしまう。特に、助勢装置が電磁モータの力によって助勢力を発生させるように構成されている場合には、その現象が起こり易い。本項の態様では、操作部材の操作速度が高い場合に助勢力を大きくすることで、助勢装置の動作を促進し、上記現象を抑制することが可能となる。
【0024】
(6)当該ステアリングシステムが、少なくとも1つのユニバーサルジョイントを有して前記第2シャフトと前記転舵装置の入力軸とを連結する連結機構を備え、
前記助勢力制御装置が、
前記連結機構の構造に起因して生じるところの前記第2シャフトから前記転舵装置の入力軸へ伝達される回転トルクの変動が打ち消されるように、前記目標助勢力を補正する連結機構起因トルク変動依拠補正部を有する(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0025】
ユニバーサルジョイントを介在させて第2シャフトと転舵装置とを連結させる場合、第2シャフトの回転位相、つまり、当該ユニバーサルジョイントの回転位相の変化に伴って、第2シャフトから転舵装置の入力軸に伝達される回転トルクは変化する。つまり、第2シャフトの回転トルクに対する入力軸の回転トルクの比であるトルク伝達比は、周期的に変動する。本項のステアリングシステムによれば、当該システムがユニバーサルジョイントを有する構成であっても、そのトルク伝達比を解消するための補正が行われることから、操舵操作の操作フィーリングが良好に保たれることになる。具体的には、助勢装置がユニバーサルジョイントの操作部材側に配設されているシステムでは、例えば、上記トルク伝達比の逆数を、上記目標助勢力に乗ずることによって、その目標助勢力を補正すればよい。
【0026】
(7)前記連結機構起因トルク変動依拠補正部が、前記転舵装置の入力軸,前記第2シャフト,前記第1シャフトおよび前記操作部材のいずれかの回転位相に基づいて、前記目標助勢力を補正するように構成された(6)項に記載のステアリングシステム。
【0027】
ユニバーサルジョイントによって連結される上記の入力軸および第2シャフトの各々の回転位相は、互いに対応関係にあるため、それらのいずれの回転位相を利用しても、上記補正を適切に行うことができる。また、上記回転伝達比が第1シャフトの回転位相に依存する構成の上記回転伝達機構を採用するシステムにおいては、操作部材および第1シャフトの各々の回転位相と第2シャフトの回転位相とは互いに対応関係にあるため、それら操作部材および第1シャフトの各々の回転位相を利用しても、上記補正を適切に行うことができる。なお、ステアリングシステムは、一般的に、ステアリング操作角(操作量)を検出するためのセンサとして、操作部材若しくは第1シャフトの回転位相を検出するセンサを備えている場合が多い。そのため、本項の態様のステアリングシステムを、操作部材若しくは第1シャフトの回転位相を利用して上記補正を行うように構成すれば、その補正のために別途センサを設ける必要がなく、当該システムの簡素化が図れる。
【0028】
(8)前記回転伝達機構が、前記回転伝達比が前記第1シャフトの回転位相に応じて変動するように構成された(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【0029】
本項のステアリングシステムは、当該システムに採用する回転伝達機構を、先に説明した2つの類型のうちの一方に限定したものである。具体的に言えば、第1シャフト若しくは第2シャフトの回転位相等に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動するような態様の回転伝達機構を採用するシステムである。先に説明した2つの類型のうちの他方と異なり、回転伝達比を変更するための特別な動力源を必要とせず、また、その動力源を制御するシステムをも必要としないことから、本項のステアリングシステムによれば、簡便な構成の回転伝達機構を備えたステアリングシステムが実現されることになる。
【0030】
(9)前記回転伝達機構が、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相となっている場合において前記回転伝達比が最も小さく、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相から180°進退している場合において前記回転伝達比が最も大きくなるように構成された(8)項に記載のステアリングシステム。
【0031】
本項の態様によれば、直進に近い状態における走行安定性、すなわち、直進安定性が良好に担保され、かつ、操作部材の操作量を大きくした場合における車両の旋回特性、すなわち、車両の向きを大きく変え易いという特性が良好担保されたステアリングシステムを実現することができる。
【0032】
(10)前記第1シャフトと前記第2シャフトとが、それぞれの回転軸線が互いに平行となる状態かつそれら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されており、
前記回転伝達機構が、
(a)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方に、その一方の回転軸線から径方向に前記所定距離より離れた位置において設けられた係合部と、(b)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの他方に設けられ、前記係合部が係合するとともにその係合部のその他方の径方向の移動を許容する案内通路とを有し、前記第1シャフトの回転によって、その第1シャフトの回転位相と前記第2シャフトの回転位相との差である回転位相差を変化させつつその第2シャフトが回転するように構成された(8)項または(9)項に記載のステアリングシステム。
【0033】
本項の態様は、回転伝達機構の構造に関する限定を加えた態様である。詳しくは、先に説明した2つの類型のうちの一方となる回転伝達機構を構築するために、採用可能な構造を例示した態様である。本項の態様における回転伝達機構の詳細については、後に詳しく説明するため、ここでの説明は省略するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】請求可能発明の第1実施例としてのステアリングシステムを示す模式図である。
【図2】第1実施例のステアリングシステムが備えるステアリングコラムの断面図である。
【図3】第1実施例のステアリングシステムの備える回転伝達機構および助勢装置の断面図である。
【図4】図3に示すA−A’線における断面図である。
【図5】操作部材が回転操作される際の図3に示すA−A’線における断面図である。
【図6】第1シャフトの回転角と第2シャフトの回転角との関係を示すグラフである。
【図7】第1シャフトの回転角に応じて変動する第1シャフトと第2シャフトとの回転伝達比を示すグラフである。
【図8】第1シャフトの回転トルクを補正するための係数のグラフである。
【図9】第1シャフトの回転トルクに対する目標助勢トルクの関係を示すグラフである。
【図10】第1シャフトの回転トルクに対する、第1シャフトから第2シャフトに伝達された操作力に基づく回転トルクと、助勢力に基づく回転トルクとを合わせてなる合成トルクの関係を示すグラフである。
【図11】第2シャフトの回転位相に対する、第1シャフトの回転トルクに対する転舵装置の入力軸の回転トルクの比である伝達トルク比を示すグラフである。
【図12】第1実施例のステアリングシステムが備える制御装置のブロック図である。
【図13】第2実施例のステアリングシステムが備える制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、実施例のステアリングシステムのいくつかを、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明のステアリングシステムは、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良が施された種々の形態とすることができる。
【実施例1】
【0036】
≪車両用ステアリングシステムの全体構成≫
図1に、第1実施例のステアリングシステムの全体構成を示す。本ステアリングシステムは、運転者によって操作されるステアリング操作部材としてのステアリングホイール10と、一端部にそのステアリングホイール10が取り付けられたステアリングコラム12と、車輪を転舵する転舵装置14と、ステアリングコラム12と転舵装置14との間に位置する伸縮可能なインタミディエイトシャフト(以下、「I/Mシャフト」と略す場合がある)16とを含んで構成されている。さらに、I/Mシャフト16の一端部とステアリングコラム12の備える転舵側シャフト18とは、ユニバーサルジョイント20によって連結され、I/Mシャフト16の他端部と転舵装置14の備える入力軸22の一端部とは、もう1つのユニバーサルジョイント24によって連結されている。なお、本ステアリングシステムは、図1において右側、つまり、ステアリングホイール10側が車両後方側となり、左側、つまり、転舵装置14側が車両前方側となるように配置されている。
【0037】
転舵装置14は、入力軸22と、車輪を転舵するための転舵ロッド30と、その転舵ロッド30を内部に収容するハウジング32とを備えている。転舵ロッド30は、車幅方向に延びる棒状に形成されており、それの車幅方向に移動可能な状態でハウジング32に保持されている。転舵ロッド30の両端部は、左右の前輪の各々を保持するステアリングナックル(図示省略)に連結されている。また、入力軸22は、ハウジング32に回転可能に保持されており、ハウジング32内における入力軸22の端部には、ピニオン(図示省略)が形成されている。一方、転舵ロッド30には、そのピニオンと噛合うラック(図示省略)が形成されている。
【0038】
ステアリングコラム12は、インパネリインフォースメント34に設けられたステアリングサポート36において、車体に支持される。ステアリングコラム12には、それの前方部に前方ブラケット38が設けられ、車両後方側にブレークアウェイブラケット40が設けられている。それら前方ブラケット38およびブレークアウェイブラケット40によって、ステアリングコラム12は、ステアリングサポート36に取り付けられている。
【0039】
図2に、ステアリングコラム12の側面断面図を示す。ステアリングコラム12は、大まかには、ステアリングホイール10を保持するコラムセクション50と、電動式パワーステアリング機能を実現する主体となるEPSセクション52とに区分することができる。以下、それら各セクションについて、順に説明する。
【0040】
コラムセクション50は、ステアリングホイール10が後端部に取り付けられている第1シャフトとしての操作側シャフト60と、その操作側シャフト60を挿通させた状態で保持するコラムチューブ62とを含んで構成されている。操作側シャフト60は、伸縮可能なシャフト部64と、そのシャフト部64の前端部に設けられたフランジ部66とから構成されている。コラムチューブ62は、パイプ状とされた円筒部68と、円筒部68の前端部に設けられて円筒部68よりも外径の大きい大径部70とから構成されている。大径部70には、後述するEPSセクション52のハウジング72の後端部が嵌め合わされており、操作側シャフト60のフランジ部66は、ベアリング74を介して、そのハウジング72に回転可能に保持されている。また、操作側シャフト60の後端部は、ベアリング76を介してのコラムチューブの後端部に回転可能に保持されている。なお、図示は省略するが、コラムセクション50には、操作側シャフト60の回転位相を検出するためのセンサ、つまり、ステアリングホイール10の操作角を検出するための操作角センサ78(図1参照)が設けられている。
【0041】
図3に、EPSセクション52の側面断面図を示す。EPSセクション52は、ハウジング72に回転可能に保持されてステアリングホイール10に加えられた操作力を転舵装置14に出力するための第2シャフトとしての転舵側シャフト18と、駆動源としての電磁モータ80を有してそのモータ80によって転舵側シャフト18の回転を助勢する助勢装置82とを備えている。転舵側シャフト18は、出力側シャフト86,入力側シャフト88,トーションバー90の3つが組み合わされたシャフト部92と、そのシャフト部92の車両後方側に付設された円環部94とを含んで構成されている。出力側シャフト86は、ハウジング72の車両前方側に延出しており、その延出する部分において、ユニバーサルジョイント20に連結されている。
【0042】
転舵側シャフト18のシャフト部92を構成する入力側シャフト88の前方部分は出力側シャフト86の後方部分に挿入されており、それらのシャフト86,88はベアリング96を介して相対回転可能とされている。それらのシャフト86,88は、ともに中空状をなし、それらのシャフト86,88を貫いて貫通穴98が形成されている。この貫通穴98内に、トーションバー90が、両端部がそれぞれそれらのシャフト86,88に固定された状態で配設されている。このように構成されたシャフト部92は、ベアリング100,102,104を介してハウジング72に回転可能に保持さる。なお、トーションバー90は、シャフト部92の回転トルクに応じた量だけ捩られ、出力側シャフト86,入力側シャフト88は、その量に応じた量だけ相対回転する。EPSセクション52には、その相対回転量を検出することで、シャフト部92の回転トルク、すなわち、転舵側シャフト18の回転トルクを検出するためのトルクセンサ106が設けられている。
【0043】
助勢装置82は、上記電磁モータ80と、その電磁モータ80のモータ軸に連結されたウォーム112と、そのウォーム112と噛み合うウォームホイール114とを含んで構成されている。そのウォームホイール114は、転舵側シャフト18を構成する出力側シャフト86に固定されている。電磁モータ80の力は、ウォーム112,ウォームホイール114を介して出力側シャフト86に作用する。この力が、転舵側シャフト18の回転を助勢するための助勢力、さらに言えば、車輪の転舵を助勢するための助勢力となる。
【0044】
転舵側シャフト18および操作側シャフト60は、互いにシフトした状態で、つまり、各々の回転軸線が互いに平行、かつ、それら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されている。所定距離は、図3において、シフト量dとして示されている。操作側シャフト60のフランジ部66の前方側の端面には、図3のA−A’断面図である図4に示すように、径方向に延びる溝130が形成されている。一方、入力側シャフト88の円環部94には、当該シャフト88軸線からオフセット量L偏心した位置において、当該シャフト88の軸線方向と平行な状態で、ピン132が後方に向かって立設固定されている。そのピン132に、ローラ136がベアリング138を介して回転可能に支持されおり、そのローラ136は、フランジ部66に形成された溝130内に配置されている。ちなみに、溝130の幅は、ローラ136の外径より僅かだけ大きくされている。後に詳しく説明するが、操作側シャフト60が回転すると、ローラ136が溝130に案内される状態で操作側シャフト60の径方向に移動しつつ、その回転が、転舵側シャフト18に伝達される。つまり、ステアリングコラム12は、上記ローラ136が転舵側シャフト18に設けられた係合部として、上記溝130が操作側シャフト60に設けられてその係合部の移動を許容する案内通路として、それぞれ機能する回転伝達機構140を備えているのである。
【0045】
≪回転伝達機構の機能≫
図5に、円形フランジ部66と、溝130に係合するローラ136との断面図(図3のA−A’断面図に相当する)を示す。図5(a)は、ステアリングホイール10が中立位置(車両が直進しているときの回転位置)にあるときの状態を、図5(b)は、ステアリングホイール10が中立位置から左旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図5(c)は、ステアリングホイール10が中立位置から右旋回方向に90゜回転操作された位置にあるときの状態を、図5(d)は、ステアリングホイール10が中立位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された位置にあるときの状態を、それぞれ示している。なお、説明の簡素化に配慮し、以下の説明において、本ステアリングシステムでは、ステアリングホイール10は、左右に180°しか操作されないものとして扱う。
【0046】
図から解るように、ステアリングホイール10が中立位置から右、若しくは左旋回方向に90゜回転操作された場合には、操作側シャフト60は自身の回転軸線を中心に90°回転するが、転舵側シャフト18は自身の回転軸線を中心に90°までは回転せずに、転舵側シャフト18の回転位相は90°未満となる。そして、ステアリングホイール10が、さらに回転操作されて、中立位置から右、若しくは左旋回方向に180゜回転操作された場合に、操作側シャフト60および転舵側シャフト18は共に180゜回転する。操作側シャフト60の回転位相である操作側位相αと、転舵側シャフト18の回転位相である転舵側位相βとの関係は、図6に示すように、ステアリングホイール10が中立位置から180゜未満で回転操作される場合には、転舵側位相βは操作側位相αより小さく、ステアリングホイール10が操作中立位置から180゜回転操作されると、転舵側位相βが操作側位相αと同じとなる。つまり、操作側位相αが0°若しくは180゜となる場合には、転舵側位相βもそれぞれ0°若しくは180゜となり、回転位相差は0となる。一方、操作側位相αが0°から180゜に変化する間に、回転位相差は徐々に増加し、ある回転角からは逆に、徐々に減少し、0となるのである。
【0047】
操作側シャフト60と転舵側シャフト18との回転伝達比(dβ/dα)、つまり、操作側シャフト60の回転角速度(dα/dt)に対する転舵側シャフト18の回転角速度(dβ/dt)の比は、図7に示すように、操作側位相α、つまり、操作側シャフト60の回転位相に応じて変動する。図から解るように、操作側位相αが0°の場合には、回転伝達比(dβ/dα)は最も小さく、操作側位相αが大きくなるにつれて回転伝達比(dβ/dα)は大きくなる。つまり、ステアリングホイール10の操作角(操作量)が小さい場合には、その操作角の変化量に対する車輪の転舵量の変化量の比が比較的小さくなり、車両の直進安定性が良好となる。一方、ステアリングホイール10の操作角が大きくなると、その操作角の変化量に対する車輪の転舵量の変化の比が比較的大きくなり、車両の向きを大きく変え易くなる。このように、本回転伝達機構140による回転伝達では、操作側シャフト60若しくは転舵側シャフト18の回転位相に依存してその変動の様子が一定の規則に従うように変動する。なお、操作側シャフト60から転舵側シャフト18への回転トルクの伝達に関していえば、伝達される回転トルクは、上記回転伝達比の変動に伴って変動する。ここで、操作側シャフト60の回転トルクに対する転舵側シャフト18の回転トルク比をトルク伝達比とすれば、そのトルク伝達比は、上記回転伝達比の逆数となる。
【0048】
≪助勢力の制御≫
i)制御システムのハード構成
先に述べた助勢装置82が発生させる助勢力の制御は、図1に示す助勢力制御装置150によって行われる。助勢力は、助勢装置82が有するモータ80への供給電流の大きさに応じた大きさとなる。モータ80は、駆動回路としてのインバータ152を介して、図示を省略する電源に接続されており、助勢力制御装置150は、そのインバータ152に、モータに供給すべき電流に関する指令を送ることによって、助勢力を制御する。
【0049】
助勢力制御装置150は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータを主体とする装置であり、所定のプログラムを実行することによって、助勢力の制御を行う。ROMには、そのプログラムを始め、制御に関する各種のデータ等が記憶されている。また、助勢力制御装置150には、先に述べた転舵側シャフト18の回転トルクを検出するためのトルクセンサ106や、操作側シャフト60の回転位相を検出する操作角センサ78等の各種センサが接続されており、助勢力制御装置150は、それらのセンサからの信号に基づいて、助勢力の制御を行う。
【0050】
ii)操作力の推定
本ステアリングステムでは、ステアリングホイール10の操作力に基づいて、助勢装置82が発生させるべき助勢力である目標助勢力が決定されるようになっており、その決定の前提として、トルクセンサ106によって転舵側シャフト18の回転トルクに基づいて、その操作力が推定される。具体的には、操作力と等価なものとして、操作側シャフト60の回転トルク(以下、「操作トルクTS」という)が推定される。ちなみに、転舵側シャフト60の回転トルクは、回転伝達機構140によって、操作トルクTSが伝達されたものと考えることができるため、以下、伝達トルクTDと呼ぶこととする。
【0051】
先に説明したように、操作トルクTSに対する伝達トルクTDの比は、回転伝達比(dβ/dα)の逆数となるため、下記式(1)に従って、検出された伝達トルクTDに基づいて、操作トルクTSが推定される。ちなみに、回転伝達比(dβ/dα)は、操作角センサ78によって検出された操作側シャフト60の回転位相(以下、「操作側位相α」という)に基づき、ROMに格納されたマップデータ(図7参照)を利用して認定される。
TS=TD×(dβ/dα) ・・・(1)
【0052】
本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140は、回転伝達比(dβ/dα)が操作側位相αの変化に伴って変動するように構成されているため、伝達トルクTDは操作力の大きさを適切に表すものとはなっていない。本ステアリングシステムでは、上記のような回転伝達比(dβ/dα)を用いた推定を行っているため、伝達トルクTDに基づく推定であったとしても、操作力が適切に推定されるのである。
【0053】
iii)操作速度に基づく補正
速い操舵操作を行った場合、その操作に、助勢装置82が有するモータ80の動作が追従し得ないことが考えられる。モータ80の動作を速い操舵操作に追従させるためには、モータ80への供給電流を大きくすることが望ましい。そのことを考慮して、本ステアリングシステムでは、操舵操作が速い程モータ80への供給電流をより大きくすべく、目標助勢力をより大きくするように構成されている。目標助勢力を大きくするためには、後に説明するように、決定された目標助勢力を直接的に補正してもよいが、本ステアリングシステムでは、上記推定された操作トルクTSを補正することによって、間接的に目標助勢力を補正する手法を採用している。
【0054】
上記補正は、ステアリングホイール10の操作速度vに基づいて行われる。その操作速度vは、操作角センサ78によって検出された操作側位相αの変化に基づいて算出される。操作トルクTSを補正するための操作速度補正依拠係数KVは、図8に示すようなマップデータとして、ROMに格納されている。そのマップデータを用い、算出された操作速度vに基づき、操作速度依拠補正係数KVが決定される。そして、その決定された操作速度依拠補正係数KVを用い、下記式(2)に従って、操作トルクTSが補正される。
TS=KV×TS ・・・(2)
【0055】
iv)目標助勢力の決定
本ステアリングシステムは、転舵側シャフト18の回転を助勢する構造とされているため、助勢力は、転舵側シャフト18の回転に対する助勢トルクとみなすことができる。そこで、助勢力の制御では、目標助勢力と等価なものとして、目標助勢トルクが決定される。ROMには、図9に示すような操作トルクTSに対する助勢トルクTAのマップデータが格納されており、そのマップデータを利用して目標助勢トルクTA*が決定される。
【0056】
車輪の転舵は、転舵側シャフト18に伝達された操作力に基づく成分と、助勢力に基づく成分とを合わせた合成力によって行われる。つまり、上記伝達トルクTDと助勢トルクTAとが合わさった合成トルクTCによって行われる。図10は、操作トルクTSに対する合成トルクTCの関係を示すグラフである。ちなみに、そのグラフは、回転伝達比(dβ/dα)が固定された場合の関係である。その関係に従う合成トルクTCが得られるように、つまり、操作トルクTSに応じた合成トルクCが得られるように目標助勢トルクTA*を決定することが、操作フィーリングを良好に維持することに寄与する。
【0057】
ところが、本ステアリングシステムでは、回転伝達機構140は、回転伝達比(dβ/dα)が変動するため、伝達トルクTDがその変動に応じて変動し、合成トルクTCは、必ずしも、上記関係に従ったものとはならない。そのことに配慮して、本ステアリングシステムでは、まず、推定された操作トルクTSに基づき、図10に示す関係に基づいて設定・格納されたマップデータを利用して、基準となる助勢トルクである基準助勢トルクTA0が決定され、その基準助勢トルクTA0と、認定されている回転伝達比(dβ/dα)とに基づいて、次式(3)に従って、目標助勢トルクTA*が決定される。
TA*=TA0−{(dα/dβ)−1}×TS ・・・(3)
【0058】
なお、上記のような決定手法に代えて、検出された伝達トルクTDに基づいて、次式(4)に従って、目標助勢トルクTA*を決定することもできる。
TA*=TA0+{(dβ/dα)−1}×TD ・・・(4)
【0059】
v)ユニバーサルジョイントによる目標助勢トルクの補正
転舵側シャフト18と、転舵装置14の入力軸22との間には、2つのユニバーサルジョイント20、24が介在させられており、転舵側シャフト18の回転トルクが一定であったとしても、それらユニバーサルジョイント20、24の構造に起因して、入力軸22の回転トルクが変動することになる。本ステアリングシステムでは、具体的には、転舵側シャフト18の回転トルクに対する入力軸22の回転トルクの比である伝達トルク比は、転舵側シャフト18の回転位相である転舵側位相βに対して、図11に示すように変動する。
【0060】
上記のことを考慮して、本ステアリングシステムでは、上記入力軸22のトルク変動を解消すべく、目標助勢トルクTA*が補正される。具体的には、検出されている操作側位相αと、認定されている回転伝達比(dβ/dα)とを基に、転舵側位相βが認定され、その認定された転舵側位相βに基づいて、上記図11に示す伝達トルク比の逆数として設定されてROMに格納されているジョイント依拠補正係数KJのマップデータを用い、次式(5)に従って、目標助勢トルクTA*が補正される。
TA*=KJ×TA* ・・・(5)
vi)目標供給電流の決定
本ステアリングシステムでは、目標助勢トルクTA*に基づいて、助勢装置82のモータ80への目標供給電流IA*が決定され、その目標供給電流IA*に基づく指令が、インバータ152に送られる。インバータ152は、その指令に基づく供給電流がモータ80流れるように動作し、車輪の転舵に対して適切な助勢力が付与される。
【0061】
≪助勢力制御装置の機能構成≫
本ステアリングシステムにおける上記転舵助勢制御は、助勢力制御装置150において、所定のプログラムが実行されることによって行われる。助勢力制御装置150は、図12のブロック図に示すように、転舵助勢制御を実行するための複数の機能部を有していると考えることができる。つまり、それぞれの機能部が、自身に割り当てられた処理を実行することによって、転舵助勢制御が実行されると考えることができる。以下に助勢力制御装置150の複数の機能部の各々と、その各々による処理を、転舵助勢制御についての先の説明を参照しつつ説明する。
【0062】
トルクセンサ106によって、転舵側シャフト18の回転トルクである伝達トルクTDが検出される。一方、操作角センサ78によって検出される操作側位相αから、回転伝達比認定部162において回転伝達比(dβ/dα)が認定される。操作側位相αおよび回転伝達比(dβ/dα)は、操作トルク推定部164に入力され、式(1)により、操作トルクTSが推定され、その操作トルクTSは操作速度依拠補正部166に入力される。一方、操作速度依拠補正部166には、操作側位相αも入力され、各マップデータを格納するデータ格納部168を参照して、操作速度補正依拠係数KVが決定される。操作速度依拠補正部166は、その操作速度補正依拠係数KVを用いて、式(2)よって、操作トルクTSを補正する。補正された操作トルクTSは、目標助勢トルク決定部170に入力され、目標助勢トルク決定部170は、データ格納部168のマップデータを参照して、基準助勢トルクTA0を決定する。さらに、目標助勢トルク決定部170には、回転伝達比(dβ/dα)も入力され、式(3)によって、目標助勢トルクTA*が決定される。また、目標助勢トルク決定部170に伝達トルクTDを入力することで、式(4)によって、目標助勢トルクTA*を決定することもできる。目標助勢トルクTA*は、連結機構起因トルク変動依拠補正部172に入力される。連結機構起因トルク変動依拠補正部172には、操作側位相αおよび回転伝達比(dβ/dα)も入力され、それらを用いて転舵側位相βが認定される。さらに、連結機構起因トルク変動依拠補正部172は、データ格納部168のマップデータを参照して、ジョイント依拠補正係数KJを決定し、式(5)により、目標助勢トルクTA*を補正する。助勢装置作動制御部174は、その目標助勢トルクTA*に基づいて、目標供給電流IA*を決定し、その目標供給電流IA*に基づく指令を、インバータ152に送る。
【実施例2】
【0063】
第2実施例のステアリングシステムは、第1実施例のステアリングシステムにおける助勢力制御装置150に代えて、助勢制御装置200を有しており、それ以外の構成は第1実施例のステアリングシステムと同様とされている。助勢力制御装置200による助勢力の制御は、助勢力制御装置150の制御とは異なるため、以下の説明は、その異なる部分についてのみ行うこととする。
【0064】
助勢力制御装置200による助勢力の制御では、上述したステアリングホイール10の操作速度vに基づく補正は、決定された目標助勢トルクTA*に対して行われる。具体的には、マップデータとして格納されている上述の操作速度依拠補正係数KVに基づき、次式(6)に従って、目標助勢トルクTA*が補正される。
TA*=KV×TA* ・・・(6)
【0065】
また、助勢力制御装置200による助勢力の制御では、目標助勢トルクTA*は、助勢力が操作力に応じた大きさとなるように決定される。具体的には、推定された操作トルクTSに基づき、図10に示す関係に基づいて設定・格納された上記マップデータを利用して、決定される。つまり、助勢力制御装置150による制御において決定された基準助勢トルクTA0が、そのまま、目標助勢トルクTA*として決定される。このようにして助勢力を決定しても、良好な操舵フィーリングの操舵操作が実現される。
【0066】
助勢力制御装置200の機能構成について説明すれば、当該制御装置200は、図13に示すように、助勢力制御装置150の操作速度依拠補正部166および目標助勢トルク決定部170を除いて、助勢力制御装置150と同じ構成とされている。以下に、助勢力制御装置150と異なる機能部についてのみ説明する。助勢力制御装置200では、操作トルク推定部164から送られる操作トルクTSが目標助勢トルク決定部202に入力される。目標助勢トルク決定部202は、操作トルクTSから、データ格納部168のマップデータを参照して、基準助勢トルクTA0を決定し、それを目標助勢トルクTA*として操作速度依拠補正部204に送る。その操作速度依拠補正部204は、データ格納部168のマップデータを参照して、操作速度補正依拠係数KVを決定し、目標助勢トルクTA*を補正する。補正された目標助勢トルクTA*は連結機構起因トルク変動依拠補正部172へと送られ、助勢力制御装置200は、助勢力制御装置150と同様の処理を行って、目標供給電流IA*に基づく指令をインバータ152に送る。
【符号の説明】
【0067】
10:ステアリングホイール 14:転舵装置 18:転舵側シャフト(第2シャフト) 20:ユニバーサルジョイント 22:入力軸 24:ユニバーサルジョイント 60:操作側シャフト(第1シャフト) 80:電磁モータ(駆動源) 82:転舵助勢装置 106:トルクセンサ 130:溝 138:係合部 140:回転伝達機構 150:助勢力制御装置 164:操作トルク推定部(操作力推定部) 166:操作速度依拠補正部 170:目標助勢トルク決定部(目標助勢力決定部) 172:連結機構起因トルク変動依拠補正部 174:助勢装置作動制御部 200:助勢力制御装置 202:目標助勢トルク決定部(目標助勢力決定部) 204:操作速度依拠補正部 α:操作側位相(第1シャフトの回転位相) β:転舵側位相(第2シャフトの回転位相) (dβ/dα):回転伝達比 TA*:目標助勢トルク TD:伝達トルク(第2シャフトの回転トルク) v:操作速度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を転舵させるために車両に設けられたステアリングシステムであって、
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材に加えられた運転者の操作力によって回転する第1シャフトと、
その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、
前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達する回転伝達機構と、
前記第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、
前記第2シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、
駆動源を有して車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、
その助勢装置による助勢力を前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクに基づいて制御する助勢力制御装置とを備え、
前記回転伝達機構が、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比を変更可能に、若しくは、その回転伝達比が変動するように構成されており、
前記助勢力制御装置が、
前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクから、前記回転伝達比に基づいて、運転者によって前記操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、
その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、
その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、前記助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部と
を有するステアリングシステム。
【請求項2】
前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、それが前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、前記第1シャフトから第2シャフト伝達された操作力に基づく成分と前記助勢装置による助勢力に基づく成分とを合わせてなる転舵力が前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記助勢力制御装置が、前記操作部材の操作速度に基づいて、前記目標助勢力を補正する操作速度依拠補正部を有する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記操作速度依拠補正部が、前記目標助勢力を、前記操作部材の操作速度が高い場合に、低い場合に比較して大きくなるように補正するように構成された請求項4に記載のステアリングシステム。
【請求項6】
当該ステアリングシステムが、少なくとも1つのユニバーサルジョイントを有して前記第2シャフトと前記転舵装置の入力軸とを連結する連結機構を備え、
前記助勢力制御装置が、
前記連結機構の構造に起因して生じるところの前記第2シャフトから前記転舵装置の入力軸へ伝達される回転トルクの変動が打ち消されるように、前記目標助勢力を補正する連結機構起因トルク変動依拠補正部を有する請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項7】
前記連結機構起因トルク変動依拠補正部が、前記転舵装置の入力軸,前記第2シャフト,前記第1シャフトおよび前記操作部材のいずれかの回転位相に基づいて、前記目標助勢力を補正するように構成された請求項6に記載のステアリングシステム。
【請求項8】
前記回転伝達機構が、前記回転伝達比が前記第1シャフトの回転位相に応じて変動するように構成された請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項9】
前記回転伝達機構が、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相となっている場合において前記回転伝達比が最も小さく、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相から180°回転している場合において前記回転伝達比が最も大きくなるように構成された請求項8に記載のステアリングシステム。
【請求項10】
前記第1シャフトと前記第2シャフトとが、それぞれの回転軸線が互い平行となる状態かつそれら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されており、
前記回転伝達機構が、
(a)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方に、その一方の回転軸線から径方向に前記所定距離より離れた位置において設けられた係合部と、(b)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの他方に設けられ、前記係合部が係合するとともにその係合部のその他方の径方向の移動を許容する案内通路とを有し、前記第1シャフトの回転によって、その第1シャフトの回転位相と前記第2シャフトの回転位相との差である回転位相差を変化させつつその第2シャフトが回転するように構成された請求項8または請求項9に記載のステアリングシステム。
【請求項1】
車輪を転舵させるために車両に設けられたステアリングシステムであって、
運転者によって操作される操作部材と、
その操作部材に加えられた運転者の操作力によって回転する第1シャフトと、
その第1シャフトよりも車輪側に配設された第2シャフトと、
前記第1シャフトの回転を前記第2シャフトに伝達する回転伝達機構と、
前記第2シャフトの回転によって車輪を転舵させる転舵装置と、
前記第2シャフトの回転トルクを検出するトルク検出器と、
駆動源を有して車輪の転舵を自身が発生させる助勢力によって助勢する助勢装置と、
その助勢装置による助勢力を前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクに基づいて制御する助勢力制御装置とを備え、
前記回転伝達機構が、前記第1シャフトから前記第2シャフトへの回転伝達における回転伝達比を変更可能に、若しくは、その回転伝達比が変動するように構成されており、
前記助勢力制御装置が、
前記トルク検出器によって検出された前記第2シャフトの回転トルクから、前記回転伝達比に基づいて、運転者によって前記操作部材に加えられている操作力を推定する操作力推定部と、
その操作力推定部によって推定された操作力に基づいて、目標助勢力を決定する目標助勢力決定部と、
その目標助勢力決定部によって決定された目標助勢力に基づいて、前記助勢装置の作動を制御する助勢装置作動制御部と
を有するステアリングシステム。
【請求項2】
前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、それが前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記目標助勢力決定部が、前記目標助勢力を、前記第1シャフトから第2シャフト伝達された操作力に基づく成分と前記助勢装置による助勢力に基づく成分とを合わせてなる転舵力が前記操作力に応じた大きさとなるように決定するように構成された請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記助勢力制御装置が、前記操作部材の操作速度に基づいて、前記目標助勢力を補正する操作速度依拠補正部を有する請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記操作速度依拠補正部が、前記目標助勢力を、前記操作部材の操作速度が高い場合に、低い場合に比較して大きくなるように補正するように構成された請求項4に記載のステアリングシステム。
【請求項6】
当該ステアリングシステムが、少なくとも1つのユニバーサルジョイントを有して前記第2シャフトと前記転舵装置の入力軸とを連結する連結機構を備え、
前記助勢力制御装置が、
前記連結機構の構造に起因して生じるところの前記第2シャフトから前記転舵装置の入力軸へ伝達される回転トルクの変動が打ち消されるように、前記目標助勢力を補正する連結機構起因トルク変動依拠補正部を有する請求項1ないし請求項5のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項7】
前記連結機構起因トルク変動依拠補正部が、前記転舵装置の入力軸,前記第2シャフト,前記第1シャフトおよび前記操作部材のいずれかの回転位相に基づいて、前記目標助勢力を補正するように構成された請求項6に記載のステアリングシステム。
【請求項8】
前記回転伝達機構が、前記回転伝達比が前記第1シャフトの回転位相に応じて変動するように構成された請求項1ないし請求項7のいずれか1つに記載のステアリングシステム。
【請求項9】
前記回転伝達機構が、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相となっている場合において前記回転伝達比が最も小さく、前記第1シャフトの回転位相が車両直進状態における位相から180°回転している場合において前記回転伝達比が最も大きくなるように構成された請求項8に記載のステアリングシステム。
【請求項10】
前記第1シャフトと前記第2シャフトとが、それぞれの回転軸線が互い平行となる状態かつそれら回転軸線が所定距離だけズレた状態で配設されており、
前記回転伝達機構が、
(a)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの一方に、その一方の回転軸線から径方向に前記所定距離より離れた位置において設けられた係合部と、(b)前記第1シャフトと前記第2シャフトとの他方に設けられ、前記係合部が係合するとともにその係合部のその他方の径方向の移動を許容する案内通路とを有し、前記第1シャフトの回転によって、その第1シャフトの回転位相と前記第2シャフトの回転位相との差である回転位相差を変化させつつその第2シャフトが回転するように構成された請求項8または請求項9に記載のステアリングシステム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−105204(P2011−105204A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263779(P2009−263779)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]