説明

スパッタターゲット、磁気記録媒体及び磁気記録媒体の製造方法

【課題】1000〜4000エルステッドの間の保磁力値を持ち、低ノイズの磁気記録媒体を得るためのスパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】スパッタターゲットは、Co、0より多く24原子パーセント以下のCr、0より多く20原子パーセント以下のPt、0より多く20原子パーセント以下のB及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbからなるグループから選択された1つの元素である。このスパッタターゲットは、更にX2を含み、前記X2が、W,Y,Mn及びMoからなるグループから選択された1つの元素である。スパッタターゲットは、更に0〜7原子パーセントまでのX3を含み、前記X3が、Ti,V,Zr,Nb,Ru,Rh,Pd,Hf,Ta及びIrからなるグループから選択された1つの元素である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタターゲット、このスパッタターゲットを用いて形成した磁気記録媒体及びこの磁気記録媒体の製造方法に関し、より詳しくは、改良された金属特性を持つ合金組成からなるスパッタターゲット、このスパッタターゲットでスパッタされた磁気記録媒体及びこの磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DCマグネトロンスパッタリングプロセスは、例えば半導体表面を被覆したり、磁気記録媒体の表面に膜を形成したりするような、精密に制御された厚さ及び狭い原子片の許容差範囲内の物理的な付着物の薄膜を基板上に形成する種々の分野に用いられている。1つの共通の形態において、長円形状の磁場を、ターゲットの背面に磁石を配置することによりスパッタターゲットに与える。電子が、スパッタリングターゲット近傍で捕捉され、アルゴンイオンの生成を改善し、スパッタリング速度を増大する。このプラズマ内のイオンはスパッタターゲット表面に衝突してスパッタターゲットがその表面から原子を放出する。陰極のスパッタターゲットと被覆される陽極の基板との間の電圧差で、放出された原子が基板表面に所望の膜を形成する。
【0003】
従来の磁気記録媒体は、一般的に、夫々が異なる材料の複数のスパッタターゲットにより順次基板上にスパッタされる複数の薄膜層を備える。図7に示すように、従来の磁気記録媒体の代表的な薄膜積層構造は、非磁性の基板101、シード層102、少なくとも1つのクロムを主成分とする非磁性の下地層104、少なくとも1つのコバルトを主成分とする微磁性の中間層105、少なくとも1つの磁気データ記録層106及び潤滑層108を含んでいる。
【0004】
磁気記録媒体上の単位面積当たりの記録可能なデータ量は、データ記録層の金属特性と組成とに直接的に関係し、相応して、データ記録層をスパッタするスパッタターゲット材に関係する。図8は、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)法によって得た、データ記録薄膜層の典型的なヒステリシスループを示している。このプロセスを使用する場合、振動試料型磁力計は、準静的に電磁石からの付与磁界を用いてそのヒステリシスループの回りに磁石を駆動する。前記試料をこの磁界内で振動し、その測定システムは、与えられた磁界(H)と磁界における試料の磁化(M)を検出する。図8は、付与磁界(H)方向における材料の磁化変化を示す。
【0005】
ヒステリシスパラメータは、飽和(又は最大)磁化(Ms)、残留磁化(Mr)、保磁力(Hc)、保磁力角型比(S*=1−(Mr/Hc)/(dM/dH))及び残留磁化角型比(S=Mr/Ms)を含む。残留磁化(Mr)は、磁界を零に減少させた時に残留している磁化の大きさであり、保磁力(Hc)は、飽和した後に磁化を零にするのに必要な反対方向の磁界の大きさである。これら巨視的特性は、パルス形状、振幅及び分解能のような復唱信号(So)変数を決定する。
【0006】
従来の磁気記録媒体に用いられる主な材料は、現状ではCo(コバルト)−Cr(クロム)−Pt(白金)−B(ボロン)を主成分とする強磁性の合金であり、各粒子が一般的に10nm以下のナノスケールの粒子列で配列されている。これら粒界で粒間ギャップは、一般的に非常に狭い。そして、その粒間ギャップは多くの場合、静磁気及び粒間変化を妨げるには不十分である。
【0007】
薄膜のノイズ低減に対しては、3つの技術がある。即ち、粒界での組成偏析、多層アプリケーション及び物理的な粒子分離である。簡単に言えば、非磁性の薄い層で分離されて積み重ねられた強磁性膜内に磁性の多層を設けることにより、或いは、空隙化された粒子構造を生成するために低温、高圧で薄膜をスパッタリングすることにより、磁気媒体のノイズを低減でき、データ記録能力を増大できる。
【0008】
多層アプリケーション或いは物理的な粒子分離において、スパッタリングパラメータは、媒体粒子の物理的分離を調整するのに非常に重要である。粒子サイズ、粒子結合、粒子の結晶配向性のような微視的特性について更に研究することにより、薄膜のノイズ性能(N)に改善をもたらすためのこれら2つの技術をより改良して行くことが必要とされる。また、巨視的磁気特性と微視的磁気特性の両者を最適化することが、最適な磁気記録媒体の生産を保証することになる。
【0009】
ノイズ低減のための3つ目の技術に関して、組成分離におけるある程度の成果は、Co母材に不溶性の元素を添加することにより達成された。一例として、CoCrPtTaやCoCrPtBのようなスパッタリング4元合金は、特に、ボロンを含有する薄膜で、低ノイズ媒体を生産する有効な方法であることが立証された。しかしながら、ボロンが粒子結合の低減に有効なためには、CoCrPtB合金内のボロン含有量は、12原子パーセントを越える必要がある。しかし、そのような高い原子パーセントのボロンを添加した場合、材料が非常に脆くなり、高温で処理したときでさえ加工のときに割れる傾向がある。このように、高い原子パーセントのボロン添加は、その後の熱機械処理に対する材料の適合性に悪影響を与える。
【0010】
従って、磁気データ記録層に高密度粒子構造を有した磁気記録媒体を提供し、信号対雑音比(S/N比)を改善し、且つ潜在的なデータ記録能力を増大させることが極めて望ましいと考えられる。特に、改善された組成偏析を持つボロン含有合金のような合金を提供することが望ましい。そして、その合金をスパッタターゲットに利用して、強化された組成を持つ薄膜にスパッタすることが可能である。
【発明の開示】
【0011】
本発明は、磁気データ記録薄膜層をスパッタリングするためのスパッタターゲットを提供することにより前述の諸問題を解決せんとするものであり、前記スパッタターゲットは、2次粒界の析出を達成する合金組成を含む。
【0012】
1つの観点によれば、本発明はスパッタターゲットであり、該スパッタターゲットは、コバルト(Co)、0より多く24原子パーセント以下のクロム(Cr)、0より多く20原子パーセント以下の白金(Pt)、0より多く20原子パーセント以下のボロン(B)及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、銀(Ag),セリウム(Ce),銅(Cu),ジスプロシウム(Dy),エルビウム(Er),ユーロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),ホルミウム(Ho),インジウム(In),ランタン(La),ルテチウム(Lu),モリブデン(Mo),ネオジム(Nd),プラセオジム(Pr),サマリウム(Sm),タリウム(Tl),タングステン(W)及びイッテルビウム(Yb)からなるグループから選択された1つの元素である。
【0013】
本発明に係るスパッタターゲットは、遷移、高融点及び希土類の各グループから選択された元素を含んでいる。これら元素は、Co及び/又はCr内への固体非混和性と、これら元素がPtと結合して、低い割合のPt原子と支配的な割合の添加元素を含むような化学量論的に有利な化合式を形成する傾向に基づいて選択される。この状態は、保磁力を犠牲にしないために、Co母材に十分なPt原子比率を維持するために重大な意味を持つ。また、コバルトとクロムのどちらか一方に不溶である元素を添加することにより、その添加元素はCo−Pt相から拒絶され、粒界に押しやられ、粒子の分離を増大し、結果的にS/N比を改善する。
【0014】
本発明のスパッタターゲットは、更にX2を含み、前記X2が、タングステン(W),イットリウム(Y),マンガン(Mn)及びモリブデン(Mo)からなるグループから選択される1つの元素である。更に、本発明のスパッタターゲットは、0〜7原子パーセントまでのX3を含み、前記X3が、チタン(Ti),バナジウム(V),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),パラジウム(Pd),ハフニウム(Hf),タンタル(Ta)及びイリジウム(Ir)からなるグループから選択された1つの元素である。
【0015】
本発明に係るスパッタターゲットを形成する合金は、媒体の粒界で核となり成長する化合物を含み、粒子における別のタイプの物理的分離を提供する。WやMoのような低い拡散性の他の添加元素は、新たな核生成場所を供することが期待され、更に粒子を洗練させ且つ粒界へのより多くのCrの偏析を促進する。
【0016】
本発明のスパッタターゲットによってスパッタされた薄膜は、1000エルステッド〜4000エルステッドの間に保磁力値を持つ。この範囲に含まれるように保磁力を改善することにより、飽和後に磁化を零にするのに必要な反対方向の磁界がユーザの所望する条件の範囲に含まれるように調整できる。その結果、S/N(S0/N)比が増大し、高密度磁気記録を意図した薄膜の全面的な磁気特性が改善する。本発明のスパッタターゲットでスパッタされた薄膜層は、S/N比において対応のCoCrPtB4元合金に対して0.5dBから1.5dBを超える利得を持つ。ここで、対応のCoCrPtB4元合金とは、Co−Cr−Pt−B−X1合金でCo、Cr、Pt及びBがそれぞれ同じ原子パーセントを持ち、何らX1も添加されていない合金である。
【0017】
第2の観点によれば、本発明は、基板とこの基板上に形成されたデータ記録薄膜層とを含む磁気記録媒体である。前記データ記録薄膜層は、コバルト(Co)、0より多く24原子パーセント以下のクロム(Cr)、0より多く20原子パーセント以下の白金(Pt)、0より多く20原子パーセント以下のボロン(B)及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、銀(Ag),セリウム(Ce),銅(Cu),ジスプロシウム(Dy),エルビウム(Er),ユーロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),ホルミウム(Ho),インジウム(In),ランタン(La),ルテチウム(Lu),モリブデン(Mo),ネオジム(Nd),プラセオジム(Pr),サマリウム(Sm),タリウム(Tl),タングステン(W)及びイッテルビウム(Yb)からなるグループから選択された1つの元素である。
【0018】
第3の観点によれば、本発明は、磁気記録媒体の製造方法にある。この方法は、スパッタターゲットで基板上に少なくとも第1のデータ記録薄膜層をスパッタリングするステップを含み、前記スパッタターゲットは、コバルト(Co)、0より多く24原子パーセント以下のクロム(Cr)、0より多く20原子パーセント以下の白金(Pt)、0より多く20原子パーセント以下のボロン(B)及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、銀(Ag),セリウム(Ce),銅(Cu),ジスプロシウム(Dy),エルビウム(Er),ユーロピウム(Eu),ガドリニウム(Gd),ホルミウム(Ho),インジウム(In),ランタン(La),ルテチウム(Lu),モリブデン(Mo),ネオジム(Nd),プラセオジム(Pr),サマリウム(Sm),タリウム(Tl),タングステン(W)及びイッテルビウム(Yb)からなるグループから選択された1つの元素である。
【0019】
下記の好ましい実施形態の記載において、同記載の一部をなす添付図面を参照して本発明を実施する特定の実施形態を説明する。尚、他の諸実施形態を利用することが可能であり、且つ、本発明を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、スパッタターゲット材に対して最適な組成を達成するために、基本のCoCrPtB合金に選択した第5及び/又は第6の元素を添加することにより、磁気記録媒体のデータ記録容量を増大させることができる。
【0021】
図1は、データ記録薄膜層が本発明の一実施形態による強化された組成を含むスパッタターゲットによってスパッタされた磁気記録媒体を示す。尚、図中、図7と同じ参照番号は、対応した部分を示していることを留意すべきである。
簡単に言えば、前記磁気記録媒体は、Co、0より多く24原子パーセント以下のCr、0より多く20原子パーセント以下の白金Pt、0より多く20原子パーセント以下のB及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbからなるグループから選択された1つの元素である、データ記録薄膜層を備える。
【0022】
より詳しくは、磁気記録媒体300は、非磁性の基板101、シード層102、少なくとも1つのCrを主成分とする非磁性の下地層104、少なくとも1つのCoを主成分とする微磁性の中間層105、データ記録薄膜層306及び潤滑層108を具備する。上述したように、磁気記録媒体300のデータ記録薄膜層は、Co、0より多く24原子パーセント以下のCr、0より多く20原子パーセント以下のPt、0より多く20原子パーセント以下のB及び0より多く10原子パーセント以下X1を含み、前記X1が、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbからなるグループから選択された1つの元素である。別の変形構成として、磁気記録媒体300は、シード層102、下地層104、中間層105及び/又は潤滑層108を省略してもよい。
【0023】
磁気記録媒体300は、スパッタターゲットから基板101上にデータ記録薄膜層306をスパッタリングすることによって製造される。前記スパッタターゲットもまた、Co、0より多く24原子パーセント以下のCr、0より多く20原子パーセント以下のPt、0より多く20原子パーセント以下のB及び0より多く10原子パーセント以下X1からなり、前記X1が、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbからなるグループから選択された1つの元素である。スパッタリングプロセスは材料科学において周知である。
【0024】
本発明に係るスパッタターゲットは、遷移、高融点及び希土類の各グループから選択された元素を含んでいる。以下により十分に論述するように、これら元素は、Co及び/又はCr内への固体非混和性と、これらの元素がPtと結合して化学量論的に好ましい化合物形態を形成する傾向とに基づいて選択された。
【0025】
スパッタターゲット及び相応するデータ記録薄膜層は、更にX2を含み、前記X2は、W,Y,Mn及びMoからなるグループから選択される。加えて、スパッタターゲット及び相応するデータ記録薄膜層は、更に、0〜7原子パーセントまでのX3を含み、前記X3は、Ti,V,Zr,Nb,Ru,Rh,Pd,Hf,Ta及びIrからなるグループから選択された元素である。付加的な別の変形構成としては、X2及び/又はX3を省略してもよい。
【0026】
コバルトとクロムのどちらか一方に不溶な元素を添加することにより、その添加元素がコバルトとクロムの各相から拒否され、粒界に押し込められる。本発明に係るスパッタターゲットを形成する合金は、媒体の粒界で核となり成長する化合物を含み、粒子における別の型式の物理的分離を供する。添加元素であるWやMoは、粒子を洗練させ、粒界へより一層Crの偏析を促進する新たな核生成場所を供する。
【0027】
Pt、Ta、Ir及びSmのような大きな径の遷移元素を持つ合金を形成することにより、スパッタターゲットでスパッタされた磁気データ記録薄膜層が、1000エルステッド〜4000エルステッドを超える値の間の保磁力を有するよう調製される。この範囲に含まれるように保磁力を改善することにより、飽和後に磁化を零にするのに必要な反対方向の磁界をユーザの所望する条件の範囲内に調整することができる。従って、S/N比は増大し、意図した高密度磁気記録性薄膜の全体的な磁気特性が改善する。粒子サイズ、粒子結合及び粒子の結晶配向性のような微視的特性が、薄膜のノイズ性能(N)を決定する。そして、巨視的磁気特性及び微視的磁気特性を最適化することが、最適なディスクを生成するために必要である。
【0028】
本発明の1つの観点によるスパッタターゲットに用いられる第1の元素は、コバルトである。大部分のデータ記録用途において主要な元素であるコバルトは、保磁力が低く、1000エルステッド〜4000エルステッド超の保磁力値を有する合金を形成するためには、Pt、Ta、Ir及びSmのような大きな径の遷移元素の添加を必要とする。
【0029】
データ記録用途において2番目に重要な元素であるクロムは、合金内で2つの重要な目的を果たす。第1の目的は、クロムは、合金表面を酸化し不動態化することにより合金の腐食ポテンシャルを減少させる。第2の目的は、磁性合金内のクロムの存在は、粒界或いは粒子内でボロンのような他の元素の結晶相を析出させて、ノイズの低減を助成する。
【0030】
上述したように、第3の元素であるボロンは、以前は粒子結合を減少するために用いられていた。しかしながら、粒子結合を減少するのに有効なボロンに関して、CoCrPtB合金内のボロン含有量は、12原子パーセントを越えなければならず、材料を高温で処理したときでさえ加工時に対して非常に脆くする。そして、ターゲット材をその後の熱機械処理に対して不適当なものにする。従って、本発明によるスパッタターゲットは、ボロンの有益な粒子結合減少効果を補足しながら、満足できる熱機械的な合金加工性を維持する合金添加物を含んでいる。
【0031】
本発明においては、遷移、高融点及び希土類の各グループから選択された元素は、Co及び/又はCrへの固体非混和性と、この元素がPtと結合して化学量論的に好ましい化合物形態を形成する傾向とに基づいて用いられる。これら選択された元素は、低い割合のPt原子と支配的な割合の添加元素を含んだ化合物構造、また、Co基材内の十分なPt原子比率を維持するために重大な意味を持つ条件を形成して、保磁力に影響を与えないようにしているものである。これらの条件を充足すべく選択された元素は、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbである。
【0032】
上記に挙げた元素は、媒体の粒界で核になり成長する化合物を形成し、粒子における別の型式の物理的分離を供する。更に、WやMoのような低い拡散性を有する別の添加元素は、粒子を洗練させ、また、粒界へのより多くのCrの偏析を促進するような新たな核生成場所を供する。
【0033】
図2〜図4は、それぞれCu−Co、Cu−Cr及びCu−Ptの各2元合金の状態図を示し、選択された添加物としてCuを添加した場合の影響を示す。室温で、εCo(図2)及びCr(図3)の各固溶体の限界範囲を定める固溶度曲線が温度軸に同化しており、Cuがこれら固溶体にごくわずかしか溶解しないことを示している。このように、図2及び図3は、銅添加物が、室温でどのようにしてコバルトとクロムに拒絶されるかをそれぞれ示している。結果的に、銅添加物は粒界に押しやられ、粒子分離を増大し、S/N比を改善する。
【0034】
図4において、Cu−Ptの状態図データは、2つの規則相であるCu3PtとCuPtの形成を示す。Cu3Ptは、低い割合のPt原子と支配的な割合の銅を含んだ化合物形態であるので、大部分の化学量論的に好ましい相は、Cu3Ptである。Cu3Ptが形成されると、保磁力に影響を与えないように、Co母材内に十分なPt原子の量が維持される。
【0035】
図5は、Co−14Cr−12.5Pt−6Cu−12B原子パーセント合金の鋳放しミクロ組織を示す。このミクロ組織は、共晶の母材(ラメラ様の相として表示されている)によって囲まれた1次樹枝状晶(薄い灰色で示されている)からなる。前記樹枝状晶は、少量のCrが溶解したCoPtCuが豊富な相である。共晶の母材は、実質的にCrCoB相である。
【0036】
図6は、粒子のSEM顕微鏡写真或いは後方散乱電子画像を示す。このような画像のコントラストは、種々の相の構成要素の原子量の相違により起こる。樹枝状の相が単一の相であるように見える一方、化学的にエッチングされた試料は、別のCuの豊富な層の存在を明らかにした。この点について、図6は、ピットを粒界で識別できる樹枝状晶の高倍率画像を示し、これは、エッチングによるCu3Ptの豊富な相の優先的な腐食に起因している。
【0037】
本発明に係るスパッタターゲットを用いて磁気データ記録薄膜層をスパッタリングすることにより、最適な保磁力Hcと残留磁化MsでS/N比において0.5dBから1.5dB超程度の利得となることが、Co−14Cr−12.5Pt−6Cu−12Bからなる合金及び種々のCu組成を有する他の類似のベース合金で報告された。
【0038】
第2の観点によれば、本発明は、基板とこの基板上に形成されたデータ記録薄膜層を含む磁気記録媒体にある。データ記録薄膜層は、Co、0より多く24原子パーセント以下のCr、0より多く20原子パーセント以下のPt、0より多く20原子パーセント以下のB及び0より多く10原子パーセント以下X1からなり、前記X1が、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbからなるグループから選択された1つの元素である。
【0039】
第3の観点によれば、本発明は、磁気記録媒体の製造方法にある。この方法は、スパッタターゲットから基板上に少なくとも第1のデータ記録薄膜層をスパッタリングするステップを含み、前記スパッタターゲットは、Co、0より多く24原子パーセント以下のCr、0より多く20原子パーセント以下のPt、0より多く20原子パーセント以下のB、及び0より多く10原子パーセント以下X1からなり、前記X1は、Ag,Ce,Cu,Dy,Er,Eu,Gd,Ho,In,La,Lu,Mo,Nd,Pr,Sm,Tl,W及びYbからなるグループから選択された1つの元素である。
【0040】
上記実施形態では、特定な具体的実施形態について記述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更や変形が本発明の精神及び範囲から逸脱することなく当業者によってなされるであろうことは理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態による強化された組成を含むスパッタターゲットによってスパッタされた磁気データ記録層を含む薄膜積層構造を示す図である。
【図2】Co−Cu合金の状態図である。
【図3】Cr−Cu合金の状態図である。
【図4】Cu−Pt合金の状態図である。
【図5】Co−14Cr−12.5Pt−6Cu−12Bat%合金の代表的な鋳放しミクロ組織を示す図である。
【図6】樹枝状相内のCu3Ptのエッチピット状況分布を示す図である。
【図7】従来の磁気記録媒体の代表的な薄膜積層構造を示す図である。
【図8】磁気材料の代表的なM−Hヒステリシスループを示す図である。
【符号の説明】
【0042】
101 基板
102 シード層
104 下地層
105 中間層
108 潤滑層
300 磁気記録媒体
306 データ記録薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト、0より多く24原子パーセント以下のクロム、0より多く20原子パーセント以下の白金、0より多く20原子パーセント以下のボロン及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、銀,セリウム,銅,ジスプロシウム,エルビウム,ユーロピウム,ガドリニウム,ホルミウム,インジウム,ランタン,ルテチウム,モリブデン,ネオジム,プラセオジム,サマリウム,タリウム,タングステン及びイッテルビウムからなるグループから選択された1つの元素であることを特徴とするスパッタターゲット。
【請求項2】
更にX2を含み、前記X2が、タングステン,イットリウム,マンガン及びモリブデンからなるグループから選択された1つの元素である請求項1に記載のスパッタターゲット。
【請求項3】
更に0〜7原子パーセントまでのX3を含み、前記X3が、チタン,バナジウム,ジルコニウム,ニオブ,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,ハフニウム,タンタル及びイリジウムからなるグループから選択された1つの元素である請求項1に記載のスパッタターゲット。
【請求項4】
更にX2を含み、前記X2が、タングステン,イットリウム,マンガン及びモリブデンからなるグループから選択された1つの元素である請求項3に記載のスパッタターゲット。
【請求項5】
基板と、
該基板上に形成されたデータ記録薄膜層と、
を備え、
前記データ記録薄膜層が、コバルト、0より多く24原子パーセント以下のクロム、0より多く20原子パーセント以下の白金、0より多く20原子パーセント以下のボロン及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、銀,セリウム,銅,ジスプロシウム,エルビウム,ユーロピウム,ガドリニウム,ホルミウム,インジウム,ランタン,ルテチウム,モリブデン,ネオジム,プラセオジム,サマリウム,タリウム,タングステン及びイッテルビウムからなるグループから選択された1つの元素であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項6】
前記データ記録薄膜層が、更にX2を含み、前記X2が、タングステン,イットリウム,マンガン及びモリブデンからなるグループから選択された1つの元素である請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記データ記録薄膜層が、更に0〜7原子パーセントまでのX3を含み、前記X3が、チタン,バナジウム,ジルコニウム,ニオブ,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,ハフニウム,タンタル及びイリジウムからなるグループから選択された1つの元素である請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
前記データ記録薄膜層が、更にX2を含み、前記X2が、タングステン,イットリウム,マンガン及びモリブデンからなるグループから選択された1つの元素である請求項7に記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
前記データ記録薄膜層が、1000エルステッド〜4000エルステッドの間に保磁力値を持つ請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
前記データ記録薄膜層が、信号対雑音比において、対応のコバルト・クロム・白金・ボロン4元合金に対して少なくとも1.5dBの利得を有する請求項5に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
磁気記録媒体の製造方法であって、
スパッタターゲットで基板上に少なくとも第1のデータ記録薄膜層をスパッタリングするステップを含み、前記スパッタターゲットが、コバルト、0より多く24原子パーセント以下のクロム、0より多く20原子パーセント以下の白金、0より多く20原子パーセント以下のボロン、及び0より多く10原子パーセント以下のX1を含み、前記X1が、銀,セリウム,銅,ジスプロシウム,エルビウム,ユーロピウム,ガドリニウム,ホルミウム,インジウム,ランタン,ルテチウム,モリブデン,ネオジム,プラセオジム,サマリウム,タリウム,タングステン及びイッテルビウムからなるグループから選択された1つの元素であることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
前記スパッタターゲットが、更にX2を含み、前記X2が、タングステン,イットリウム,マンガン及びモリブデンからなるグループから選択された1つの元素である請求項11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記スパッタターゲットが、更に0〜7原子パーセントまでのX3を含み、前記X3が、チタン,バナジウム,ジルコニウム,ニオブ,ルテニウム,ロジウム,パラジウム,ハフニウム,タンタル及びイリジウムからなるグループから選択された1つの元素である請求項11に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
前記スパッタターゲットが、更にX2を含み、前記X2が、タングステン,イットリウム,マンガン及びモリブデンからなるグループから選択された1つの元素である請求項13に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−4611(P2006−4611A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−170316(P2005−170316)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(503375441)ヘラエウス インコーポレーテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】HERAEUS,INC.
【Fターム(参考)】