説明

スパッタリングターゲット、それを用いたアモルファス酸化物薄膜の形成方法、及び薄膜トランジスタの製造方法

【課題】表面にホワイトスポットがない外観が良好なスパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体からなることを特徴とするスパッタリングターゲットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体からなることを特徴とするスパッタリングターゲット、それを用いたアモルファス酸化物薄膜の形成方法、及び薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの金属複合酸化物からなる酸化物半導体膜は、高移動度性と可視光透過性を有しているので、液晶表示装置、薄膜エレクトロルミネッセンス表示装置、電気泳動方式表示装置、粉末移動方式表示装置などのスイッチング素子や駆動回路素子など多岐に亘る用途に使用されている。特に、製造の容易さ、価格、優れた特性の点から、酸化インジウム−酸化亜鉛を含む酸化物半導体膜が注目されている。中でも、酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛を含む酸化物又はこれらを主成分とする酸化物半導体膜は、アモルファスシリコン膜よりも移動度が大きいという利点がある。このような酸化物半導体は、通常、各酸化物、例えば、酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法により製造される(特許文献1及び2)。
しかし、InGaO3(ZnO)mなる化合物及びその製造法について開示されているが(特許文献4)、上記の化合物の生成は確認されるが、バルクの比抵抗値は記載がなく、スパッタリングターゲットに用いるには課題があった(特許文献4)。また、1種類のホモロガス構造を含むターゲットとしてInGaO3(ZnO)を含むターゲット(特許文献2、特許文献1〔0091〕)、In2Ga26(ZnO)を含むターゲット(特許文献1〔0087〕など)が開示されているが、二種以上のホモロガス構造を含むターゲット及びその効果については検討されていなかった。
また、例えば、InGaO3(ZnO)mの化合物を用いた酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲット(ホモロガス相の結晶構造を示す酸化物焼結体)は、スパッタリングを行う場合に、InGaO3(ZnO)mで表される化合物が異常成長して異常放電を起こし、得られる膜に不良が発生する問題があった(特許文献2)。さらに、酸化インジウム−酸化ガリウム−酸化亜鉛からなるスパッタリングターゲットとしては、AXY(KaX+KbY )/2(ZnO)m (1<m、X≦m、0<Y≦0.9、X+Y=2)を満たす酸化亜鉛を主成分とした化合物を含有するターゲットも知られているが(特許文献3)、このスパッタリングターゲットは、ホワイトスポットと呼ばれるターゲット表面上に生じる凹凸などの外観不良が発生しやすい、スパッタリングレートが遅い、スパッタ時にスパッタ材料の発塵(パーティクル)が生じる、アーク放電が発生する(アーキング)、ノジュール(スパッタリングターゲット表面に生じる塊)の発生が多い、相対密度やバルク抵抗などの品質のばらつきが多きい、大面積を均一に成膜しづらいなどの問題があった。
また、二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットはこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-245220号公報
【特許文献2】特開2007-73312号公報
【特許文献3】特開平2007-210823号公報
【特許文献4】特開昭63-210022号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Kato、I.Kawada、N.Kimizuka and T .Katsura 、Z .Kristallogr 、143巻、278頁、1976年
【非特許文献2】N.Kimizuka 、T .Mohri 、Y . Matsui and K .Shiratori 、J .Solid State Chem .、74巻、98頁、1988年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第1の目的は、表面にホワイトスポットがない外観が良好なスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第2の目的は、スパッタリングレートの早いターゲットを提供することにある。
本発明の第3の目的は、スパッタリングによって膜を形成する際に、直流(DC)スパッタリングが可能であり、スパッタ時のアーキング(異常放電)、パーティクル(発塵)、ノジュール発生が少なく、且つ高密度で品質のばらつきが少なく量産性を向上させることのできるスパッタリングターゲットを提供することにある。
本発明の第4の目的は、上記スパッタリングターゲットを用いて得られる薄膜、好ましくは保護膜、並びに該膜を含む薄膜トランジスタの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、スパッタリングターゲットとして用いられる酸化物焼結体として、二種以上のホモロガス結晶が共存している酸化物焼結体を用いることにより、ホモロガス構造が1種しか存在しない場合よりも、ホワイトスポットが生成しづらく外観が良好であり、スパッタリングが安定し、スパッタ時にスパッタ材料のパーティクル(発塵)の発生が低減でき、スパッタリングレートが早くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、
1.二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体からなることを特徴とするスパッタリングターゲットに関する。
2.前記ホモロガス結晶構造が、InMO3(ZnO)m型結晶構造及び(YbFeO32FeO型結晶構造の二種類を含む、1に記載のスパッタリングターゲットに関する。
3.前記酸化物焼結体が、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)を含み、前記ホモロガス結晶構造が、InGaO3(ZnO)m1型結晶構造及びInGaO3(ZnO)m2型結晶構造(但し、m1とm2は異なる)の二種類を含む、1又は2に記載のスパッタリングターゲットに関する。
4.前記酸化物焼結体が、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)を含み、前記酸化物焼結体が、InMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相と、(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7の結晶相とを含む、1又は2に記載のスパッタリングターゲットに関する。
5.X線回折における前記InGaZnO4の結晶相の最大ピーク強度P(1)と、前記In2Ga2ZnO7の結晶相の最大ピーク強度P(2)とが、ピーク強度比P(1)/P(2)=0.05〜20を満たす、4に記載のスパッタリングターゲットに関する。
6.前記酸化物焼結体が、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)を含み、前記酸化物焼結体が、InMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnO4の結晶相と、InMO3(ZnO)m型の結晶構造を示すInGaZn25の結晶相とを含む、1又は2に記載のスパッタリングターゲットに関する。
7.前記酸化物焼結体が、正四価以上の金属元素(X)を含む、1〜6のいずれかに記載のスパッタリングターゲットに関する。
8.前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、7に記載のスパッタリングターゲットに関する。
9.前記酸化物焼結体が、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換されたInMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相、又は、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換された(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7の結晶相を含む、7又は8に記載のスパッタリングターゲットに関する。
10.(a)原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を焼成する工程、
を含む、1〜9のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの調製方法に関する。
11.(i)1〜9のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程、
を含む、電子キャリアー濃度が1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜の形成方法に関する。
12.前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層として用いられる、11に記載の方法に関する。
13.アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(ii)11で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び(iii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法に関する。
14.In、Ga、Znを原子比で下記の範囲で有することを特徴とする1〜9に記載のスパッタリングターゲットに関する。
0.1≦In/(In+Ga+Zn)≦0.9
0.05≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.6
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.9
15.In、Ga、Znを原子比で下記の割合で混合することを特徴とする10に記載のスパッタリングターゲットの調製方法に関する。
0.1≦In/(In+Ga+Zn)≦0.9
0.05≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.6
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.9
16.1440〜1600℃、0.5〜15時間で焼結することを特徴とする10又は15に記載のスパッタリングターゲットの調製方法に関する。
17. 酸素ガス雰囲気下で焼結することを特徴とする10、15又は16に記載のスパッタリングターゲットの調製方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ホワイトスポットが生成しづらく外観が良好であり、スパッタリングが安定し、スパッタ時にスパッタ材料のパーティクル(発塵)の発生が低減でき、スパッタリングレートが早くなることを可能にするスパッタリングターゲットを提供する。
本発明により、特定の製造方法、あるいは特定の製造条件(焼結温度、焼結時間)で2種のホモロガス結晶を同時に生成させることができる。
本発明は、特に、InGaZnO4で表される酸化物結晶及びIn2Ga2ZnO7で表される酸化物結晶をともに含むスパッタリングターゲットを提供することにより、上記課題を特に良好に改善することができる。
本発明のスパッタリングターゲットを半導体の製造に用いることにより、優れた酸化物半導体やTFTを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の酸化物のX線回折のチャートである。
【図2】比較例1の酸化物のX線回折のチャートである。
【図3】比較例3の酸化物のX線回折のチャートである。
【図4(a)】InMO3(ZnO)n型構造及び(YbFeO32FeO型構造の概略図である。
【図4(b)】InMO3(ZnO)n型構造及び(YbFeO32FeO型構造の概略図である。
【図5】薄層トランジスタの概略図である。
【図6】図6(1)は、薄層トランジスタ(ソース電極)の概略図である。図6(2)は、薄層トランジスタ(ドレイン電極)の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)スパッタリングターゲット
本発明のスパッタリングターゲットは、二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体からなる。
(1-1) ホモロガス結晶構造
ホモロガス結晶構造とは、異なる物質の結晶層を何層か重ね合わせた長周期を有する「自然超格子」構造から成る結晶構造である。結晶周期ないし各薄膜層の厚さが、ナノメーター程度の場合、これら各層の化学組成や層の厚さの組み合わせによって、単一の物質あるいは各層を均一に混ぜ合わせた混晶の性質とは異なる固有の特性が得られる。そして、ホモロガス相の結晶構造は、例えばターゲットを粉砕したパウダーにおけるX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。
なお、一種のみのホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体は、二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体に比べ、抗折強度(JIS R1601)が低下する、相対密度が低くなる、焼結に時間が掛かる、ホワイトスポット(ピンホール)が増加するなどの不利益が生ずる。
これに対し、本発明のように酸化物焼結体中に2種以上のホモロガス結晶が共存することで、ホワイトスポットが生成しづらく外観が良好になり、スパッタリングが安定し、パーティクルなどの発生が低減され、スパッタリングレートが早くなる。スパッタリングレートが早くなる理由は必ずしも明確ではないが、微妙に抵抗の異なる結晶粒が均一に分散することで、スパッタリング時のチャージアップなどが低減されるためと思われる。
【0011】
ホモロガス結晶構造をとる酸化物結晶としては、RAO3(MO)mで表される酸化物結晶が挙げられる。ここで、Rは、正三価の金属元素であり、例えば、In、Ga、Al、Fe、Bが挙げられる。Aは、Rとは異なる正三価の金属元素であり、例えば、Ga、Al、Feが挙げられる。Mは、正二価の金属元素であり、例えば、Zn、Mgが挙げられる。R、A及びMはそれぞれ同一金属元素であっても異なる金属元素であってもよい。また、mは、例えば、整数であり、好ましくは、0.1〜10、より好ましくは、0.5〜7、更に好ましくは、1〜3であることが適当である。
【0012】
本発明の酸化物焼結体のホモロガス結晶構造は、InMO3(ZnO)m型結晶構造及び(YbFeO32FeO型結晶構造であることが好ましい。ここで、Mは、正三価の金属元素であり、例えばIIIB族の金属元素であり、Ga、Al、Bが挙げられる。Mとしては、Al又はGaがさらに好ましく、Gaが特に好ましい。さらに、Mは、Al、Ga、Fe以外の金属元素で一部置換されていても良い。三価であればInMO3(ZnO)m型結晶構造をとる。mは、例えば、整数であり、好ましくは、0.5〜10、より好ましくは、1〜8、更に好ましくは、1〜3、特に好ましくは1であることが適当である。mが8以下であれば、ZnOのZnが原子比で80%以下となり、抗折強度が低下することもなく、バルク抵抗が高くなることもなく、相対密度が低下することもないので好ましい。
上記ホモロガス結晶構造を構成するZn、M及びInのうち、少なくとも1種の元素の一部が、他の元素で置換されていてもよい。例えば、Znと置換される元素は、原子価が2価以上であることが好ましい。M及びInと置換される元素は、原子価が3価以上であることが好ましい。Zn、M及びInの少なくとも一つの元素の一部を他の元素と置換することにより、酸化物に電子を注入することができる。Zn、M及びInの少なくとも一つの元素の一部を他の元素で置換されていることは、X線回折から計算した格子定数(格子間距離)の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0013】
上記ホモロガス結晶構造を構成するInの一部が正四価以上の金属元素(X)で一部置換されていることが好ましい。正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素が挙げられる。Inの一部が正四価以上の金属元素(X)で置換されていることは、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。具体的には、格子定数はリートベルト解析を用いて求める。
【0014】
また、本発明の酸化物焼結体のホモロガス結晶構造は、InGaO3(ZnO)m1型結晶構造及びInGaO3(ZnO)m2型結晶構造であることが好ましい。ここでm1とm2は異なり、それぞれ例えば、その一方あるいは両方が整数であり、好ましくは、0.5〜10、より好ましくは、1〜8、更に好ましくは、1〜3、特に好ましくは1であることが適当である。
具体的には、本発明の酸化物焼結体は、InMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相と、(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7(又は(InGaO32ZnO)の結晶相であることが好ましい。ここで、mは上記mの定義と同じである。InMO3(ZnO)m型結晶構造及び(YbFeO32FeO型結晶構造は、基本的にはInO6の八面体構造である。これらの結晶構造がInO6の八面体構造であることにより、これらの結晶構造を含む本発明の酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットをスパッタリングして得られる酸化物半導体は、該半導体中に導電路が形成されキャリアー移動度が高くなることが期待できる。
その他、本発明のホモロガス結晶構造を示す結晶相としては、例えば、InGaO3(ZnO)m、InAlO3(ZnO)m、InFe(ZnO)m、(InGaO32ZnO、In23(ZnO)m等が挙げられる。ここで、mは上記mの定義と同じである。
ホモロガス結晶構造を示す酸化物結晶のうち少なくとも1種がInGaO3(ZnO)m(mは、例えば、整数であり、好ましくは、1〜8、より好ましくは、1〜3)で表される酸化物結晶相であることが好ましい。本発明の酸化物焼結体が、このような酸化物結晶を1種以上含むと、当該酸化物焼結体からなるスパッタリングターゲットは、良好な酸化物半導体の作製に用いることができ、ひいては、良好なキャリアー移動度やオンオフ比など良好なTFT特性を有する薄膜トランジスタを得ることができる。
【0015】
(1-2) ホモロガス結晶構造の相対量
各結晶構造の相対量はX線回折の最大ピークの強度比で確認できる。ここで、X線回折は、如何なるX線回折法を用いてもよいが、例えば、2θ−θ反射法を用いることが適当である。最大ピークの強度比は各結晶の同定されたJCPDSのパターンで最大強度となる角度の強度を最大ピークとする。例えば、本発明の酸化物焼結体が、最大ピーク強度(P(1))と(P(2))の二種の結晶構造を含有する場合、各結晶構造の最大ピークの強度比(P(1)/P(2))は、通常0.01〜100、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.2〜5、さらに好ましくは0.4〜2.5、特に好ましくは0.5〜2である。本発明の酸化物焼結体が、InMO3(ZnO)m型及び(YbFeO32FeO型の二種の結晶構造を含む場合、最大ピークの強度比は、通常0.01〜100、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.2〜5、さらに好ましくは0.4〜2.5、特に好ましくは0.5〜2である。上記最大ピークの強度比が0.05以上20以下であれば、本発明の酸化物焼結体をスパッタリングして得られるトランジスタのばらつきが大きくなることもなく、バルク抵抗値を低下し、坑折強度(JIS R1601)を向上し、相対密度を向上し、ホワイトスポットなどの外観不良のないスパッタリングターゲットを提供することができる。
【0016】
ここで、InMO3(ZnO)m型と、(YbFeO32FeO型の結晶構造の構造の違いを説明するために、結晶構造の図を示す(図4)。
【0017】
(1-3)含有元素
本発明の酸化物は、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)を含む。更に好ましくは、正四価以上の金属元素(X)を含む。正四価以上の金属元素(X)としては、例えば、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、チタンから選ばれた1種以上の元素が挙げられる。これらの金属元素(X)を本発明の酸化物に添加することにより、酸化物自体のバルク抵抗値を低減でき、更に酸化物をスパッタリングする際にスパッタリングターゲット上で生ずる異常放電の発生を抑えることが出来る。
本発明の酸化物を利用したスパッタリングターゲットから得られる酸化物薄膜は、非晶質膜であり、添加された正四価の金属はドーピング効果がなく、電子密度が十分に低減された膜を得ることができる。従って、当該酸化物皮膜を酸化物半導体膜として利用した場合、安定性が高く、バイアスストレスによるVthシフトが抑えられ、半導体としての作動も安定したものになる。
ここで、Vthとは、ゲート電圧(ドレイン電圧)をかけた場合にドレイン電流が立ち上がる際の電圧をいう。また、Vthシフトとは、ゲート電圧(ドレイン電圧)をかけた際に起きるVthの変動をいう。Vthシフトが小さければ、半導体としての作動が安定しているといえる。
【0018】
インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)の各元素の原子比は、下記の式(1)〜(3)の関係を満たすことが好ましい。
0.1≦In/(In+Ga+Zn)≦0.9 (1)
0.05≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.6 (2)
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.9 (3)
なお、式中、「In」、「Ga」、「Zn」は、それぞれインジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)の原子数である。
In/(In+Ga+Zn)が、0.1以上であれば、相対密度が低下することもなく、当該スパッタリングターゲットから得られる薄層トランジスタ(TFT)のキャリアー移動度を向上することができ、また、0.9以下であれば、ノジュールが発生することもなく、また、オフ電流が高くなることもないので好ましい。
Ga/(In+Ga+Zn)が、0.05以上であれば、ホワイトスポットが発生することもなく、当該スパッタリングターゲットから得られる薄層トランジスタ(TFT)を作成した際のオフ電流が高くなることもなく、また、0.6以下であれば、相対密度を向上すると共にバルク抵抗を低下することができ、かつ、キャリアー移動度を向上することができるので好ましい。
Zn/(In+Ga+Zn)が、0.05以上であればば、ホワイトスポットが発生することもなく、当該スパッタリングターゲットから得られる薄層トランジスタ(TFT)を作成した際、ウェットエッチングを行う際にも影響がなく、また、0.9以下であれば、当該スパッタリングターゲットから得られる薄層トランジスタ(TFT)を作成した際、化学的に不安定となることや耐湿性が低下することもないので好ましい。
【0019】
より好ましくは
0.2≦In/(In+Ga+Zn)≦0.5 (1)
0.1≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.5 (2)
0.25≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.5 (3)
であり、特に好ましくは、
0.3≦In/(In+Ga+Zn)≦0.5 (1)
0.3≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.5 (2)
0.3≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.5 (3)
【0020】
また、
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.38
であるとSnやGeなどの正四価元素を含まなくともバルク抵抗を下げやすいという効果がある。このような効果を得たい場合、
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.32
であるとより好ましく
Ga/(In+Ga+Zn)≦0.23
であると特に好ましい。
【0021】
本発明の酸化物が、正四価以上の金属元素(X)を含む場合、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)、正四価以上の金属元素(X)の合計(In+Ga+Zn+X)を100%とした場合、正四価以上の金属元素(X)の添加量(原子比)が、100〜10000ppm、好ましくは、200ppm〜5000ppm、更に好ましくは、500ppm〜3000ppmであることが適当である。100ppm以上であれば、添加効果が十分に得られ、10000ppmであれば、十分安定な酸化物薄膜が得られ、キャリアー移動度を向上できるので好ましい。
本発明の酸化物焼結体に含まれる各結晶構造のインジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)のうち、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換されていることが好ましい。具体的には、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換されたInMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相、又は、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換された(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7の結晶相を含む酸化物焼結体であることが適当である。正四価以上の元素は、Inの一部を置換しているとキャリア生成によりターゲットのバルク抵抗を低下することができる。
前記正四価以上の金属元素で置換されていることは、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析によって確認できる。
【0022】
(1-4)結晶相の構造
本発明の酸化物焼結体は、好ましくは、InMO3(ZnO)m型の結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相及び(YbFeO32FeO型の結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7の結晶相を有する。本発明の酸化物焼結体がこれらの結晶相を含むことは、本発明の酸化物のX線回折パターンが、例えばターゲットを粉砕したパウダーにおけるX線回折パターンが、組成比から想定されるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認できる。具体的には、JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standards)カードから得られるホモロガス相の結晶構造X線回折パターンと一致することから確認することができる。例えば、酸化物焼結体が、本発明の好ましい態様であるInGaZnO4の結晶相及びIn2Ga2ZnO7の結晶相を含むことは、結晶構造X線回折パターンが各々JCPDSカードNo.38-1104とNo.38-1097と一致することから判断することができる。
【0023】
(1-5)各結晶相の相対比
本発明の酸化物焼結体のホモロガス相の結晶構造を示す結晶相の含有量は、X線回折の最大ピークの強度比で確認できる。具体的には、X線回折により各結晶相のピーク強度を測定し、ピーク面積の比から本発明の結晶相の質量比を求める。例えば、(株)リガク社、型番Ultima−IIIのX線解析装置を用い、酸化物焼結体をX線解析にかける。ある結晶相の最大ピーク強度をP(1)とし、別の結晶相の最大ピーク強度をP(2)とした場合、ピーク強度比P(1)/P(2)は、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.2〜5、さらに好ましくは0.4〜2.5、特に好ましくは0.5〜2である。このようにして求めたピーク強度比は、結晶相の含有比(質量比)に等しい。
ピーク強度(含有量)の比が0.05〜20であれば、バルク抵抗を低く抑えることができ、かつ、相対密度を向上することができ、ホワイトスポットの発生も抑制できるので好ましい。
より具体的には、InGaZnO4で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(1)とし、In2Ga2ZnO7(又はInGaZn25)表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(2)とした場合、ピーク強度比P(1)/P(2)は、好ましくは0.05〜20、より好ましくは0.2〜5、さらに好ましくは0.4〜2.5、特に好ましくは0.5〜2である。
【0024】
(1-6)酸化物焼結体の物理的性質
(a)結晶の平均粒径
各々の酸化物結晶の平均粒径は20μm以下であることが好ましく、0.1〜10μmであることがより好ましく、0.2〜5μm以下であることが特に好ましい。結晶の平均粒径が20μm以下であれば焼結体中にポア(空泡)が生成することもなく、スパッタリング時にスパッタリングターゲットと電極との間で異常放電が発生することもないので好ましい。ここで、平均粒径は、最大粒径の平均粒径であり、最大粒径は、例えば、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、X線マイクロアナライザ(EPMA)であるJXA−8621MX(日本電子社製)により5、000倍に拡大した焼結体表面の50μm×50μm四方の枠内で観察される(Ga,In)23結晶粒子の最大径を5箇所で測定する。各箇所の最大径の最大値(各箇所の一番大きな粒子の最大径)の平均を最大粒径の平均粒径とする。なお、ここでは外接円の直径(粒子が有する一番長い直径)を最大径とする。
2種以上の結晶の粒径比は、0.25〜4であることが好ましく、0.5〜2であることがより好ましい。粒径比が0.25〜4であれば、焼結体中にポア(空泡)が生成することもなく、スパッタリング時にスパッタリングターゲットと電極との間で異常放電が発生することもないので好ましい。
【0025】
InMO3(ZnO)m型および(YbFeO32FeO型等の各結晶相は、結晶構造X線回折パターンで構造が判断されれば、酸素が過剰であったり不足(酸素欠損)であったりしても構わない(化学量論比通りでもずれていても良い)が、酸素欠損を持っていることが好ましい。酸素欠損を持っている方が、スパッタリングターゲットとした場合にバルク抵抗を良好に維持できるので好ましい。
【0026】
(b)ピンホールの大きさ
本発明の酸化物焼結体の表面は、ピンホールを有さないことが好ましい。ピンホールは酸化物粉末を焼結して本発明の酸化物を作成する際、該粉末と粉末の間に生じる空隙である。ピンホールの有無は、水平フェレー径を利用して評価することができる。ここで、水平フェレー径とは、ピンホールを粒子として見立てた場合に、該粒子を挟む一定方向の2本の平行線の間隔をいう。水平フェレー径は、例えば、SEM像による観察で計測することができる。ここで、本発明の酸化物の表面の水平フェレー径は、単位面積(1mm×1mm)当たりの酸化物内に存在するフェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mm2以下であることが好ましく、20個/mm2以下であることがより好ましく、5個/mm2以下であることがさらに好ましい。当該フェレー径2μm以上のピンホール数が50個/mm2以下であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして用いた場合、スパッタ時に異常放電が生じることもなく、得られるスパッタ膜の平滑性も向上することができるので好ましい。
【0027】
(c)相対密度
本発明の酸化物焼結体の相対密度は、例えば75%以上、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、特に好ましくは99%以上であることが適当である。75%以上であれば、本発明の酸化物焼結体をスパッタリングターゲットとして利用しても、該ターゲットが割れることもなく、異常放電が発生することもないので好ましい。ここで、相対密度とは、加重平均より算出した理論密度に対して相対的に算出した密度である。各原料粉の密度の加重平均より算出した密度が理論密度であり、これを100%とする。
また、酸化物焼結体内における相対密度のばらつきの範囲が3%以内、好ましくは1%以内であることが適当である。ここで、ばらつきは、ばらつきは、平均値に対する標準偏差の大きさで示される値であり、例えば、酸化物を20個以上の小片を切り出し各々の密度を測定し、平均と標準偏差を求める。
【0028】
(d)バルク抵抗
本発明の酸化物焼結体のバルク抵抗は、例えば、0.1〜17mΩcm、好ましくは0.2〜10mΩcm、さらに好ましくはΩcm0.3〜5mΩcmであることが適当である。バルク抵抗が0.1mΩcm以上であれば、スパッタ時に存在するスパッタ材料のパーティクルとの間で異常放電が発生することもないので好ましい。また、17mΩcm以下であれば、本発明の酸化物をスパッタリングターゲットとして利用しても、該ターゲットが割れたり、放電が不安定になったり、パーティクルが増えるようなこともないので好ましい。
また、酸化物内におけるバルク抵抗のばらつき(均一性)の範囲が3%以内、好ましくは1%以内であることが適当である。ここで、ばらつきは、バルク抵抗の平均値に対する標準偏差の大きさで示される値である。バルク抵抗は、例えば、ロレスタ(三菱化学(株)製)などを用いた四探針法で酸化物表面を均等間隔に50点以上測定して求める。
【0029】
(e)陽性元素のばらつき
本発明の酸化物焼結体は、当該酸化物焼結体内に含まれる亜鉛以外の、陽性の金属元素のばらつきの範囲が0 .5%以内、好ましくは0.1%以内であることが適当であるであることが好ましい。ここで、ばらつきは、平均値に対する標準偏差の大きさを意味する。このばらつきは、酸化物を20個以上の小片を切り出し各々の亜鉛以外の陽性の金属元素の含有量をプラズマ発光分析装置(ICP)などで測定し、平均と標準偏差を求める。
【0030】
(f)表面粗さ
本発明のスパッタリングターゲットの表面粗さ(Ra)は、Ra≦0.5μm、好ましくは、Ra≦0.3μm、より好ましくは、Ra≦100nmであることが適当である。研磨面に方向性がない方が、異常放電の発生やパーティクルの発生を抑制することができるので好ましい。表面粗さ(Ra)が0.5μm以下であれば、スッパッタリング中の異常放電を抑制したり、スパッタ材料の発塵(パーティクル)の発生を抑制できるので好ましい。ここで、表面粗さは、中心線平均粗さを意味する。
(g)抗折強度
本発明のスパッタリングターゲットの抗折強度は、例えば4kg/mm2以上が好ましく、6kg/mm2以上がより好ましく、8kg/mm2以上が特に好ましい。ここで、抗折強度は、曲げ強さともいい、抗折試験器を用いてJIS R1601に基づいて評価される。抗折強度が4kg/mm2以上であれば、スパッタリング中にスパッタリングターゲットが割れることもなく、スパッタリングターゲットの支持体としてのバッキングプレートをスパッタリングターゲットに接着する際や、スパッタリングターゲットを輸送する際に該スパッタリングターゲットが破損するおそれもなく、好ましい。
【0031】
(2)スパッタリングターゲットの製造方法
本発明のスパッタリングターゲットは、以下の方法により製造されることが適当である。
(a)原料酸化物粉末を混合する工程(混合工程);
(b)得られた混合物を成形する工程(成形工程);及び
(c)得られた成形体を焼結する工程(焼結工程)。
また、本発明のスパッタリングターゲットは、以下のような必須の工程及び任意の工程を含めて製造されてもよい。
(a) 少なくとも酸化インジウム、酸化ガリウム及び酸化亜鉛からなる原料酸化物粉末を混合する必須工程(混合工程);
(a)'得られた混合物を500〜1200℃で1〜100時間熱処理する任意工程(仮焼工程);
(b)得られた混合物を成形する必須工程(成形工程);
(c)得られた成形体を焼結する必須工程(焼結工程);
(d)焼成して得られた焼結体を還元処理する任意工程(還元工程);及び
(e)焼結体をスパッタリング装置への装着に適した形状に加工する任意工程(加工工程)。
【0032】
(a)配合工程
配合工程は、スパッタリングターゲットの原料である金属酸化物を混合する必須の工程である。
原料としては、上述したインジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、亜鉛元素(Zn)及び正四価以上の金属元素(X)等の金属酸化物が挙げられる。
原料としては、一般に酸化インジウム粉末と、酸化亜鉛粉末と、酸化ガリウム粉末等の粉末を用いるが、これらの単体、化合物、複合酸化物等を原料としてもよい。
原料の一部として金属亜鉛粉末(亜鉛末)を用いることが好ましい。原料の一部に亜鉛末を用いるとホワイトスポットの生成を低減することができる。
ここで、原料として使用する亜鉛化合物粉末の平均粒径がインジウム化合物粉末の平均粒径よりも小さいことが好ましい。原料の金属酸化物粉末の平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。
上記各原料は、公知の混合及び粉砕手段により混合及び粉砕する。各原料の純度は、通常99.9%(3N)以上、好ましくは99.99%(4N)以上、さらに好ましくは99.995%以上、特に好ましくは99.999%(5N)以上である。各原料の純度が99.9%(3N)以上であれば、不純物により半導体特性が低下することもなく、信頼性を十分に保持できる。特にNa含有量が100ppm未満であると薄膜トランジスタを作製した際に信頼性が向上し好ましい。
上記原料酸化物粉末を混合する。混合は、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。混合・粉砕後に得られる混合物の平均粒径は、通常10μm以下、好ましくは1〜9μm、特に好ましくは1〜6μmとすることが好ましい。平均粒径が10μm以下であれば、得られるスパッタリングターゲットの密度を高くすることができるので好適である。ここで平均粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0033】
原料酸化物粉末の比表面積は、例えば、2〜10m2/g、好ましくは4〜8m2/gであることが適当である。各原料粉同士の比表面積の差は、5m2/g以下、好ましくは3m2/gとすることが好ましい。比表面積の差が小さいほど、原料粉末を効率的に粉砕・混合することができ、特に、得られる酸化物中に酸化ガリウム粒子が残ることもないので好ましい。さらに、酸化インジウム粉の比表面積と酸化ガリウム粉末の比表面積が、ほぼ同じであることが好ましい。これにより、原料酸化物粉末を特に効率的に粉砕・混合できる。なお、比表面積は、例えば、BET法で求めることができる。
さらに、原料について、比表面積が3〜16m2/gである酸化インジウム粉、酸化ガリウム粉、亜鉛粉あるいは複合酸化物粉を含み、粉体全体の比表面積が3〜16m2/gである混合粉体を原料とすることが好ましい。尚、各酸化物粉末の比表面積が、ほぼ同じである粉末を使用することが好ましい。これにより、より効率的に粉砕混合できる。具体的には、比表面積の比が1/4〜4倍以内にすることが好まく、1/2〜2倍以内が特に好ましい。
【0034】
混合粉体を、例えば、湿式媒体撹拌ミルを使用して混合粉砕する。このとき、粉砕後の比表面積が原料混合粉体の比表面積より1.0〜3.0m2/g増加する程度か、又は粉砕後の平均メジアン径が0.6〜1μmとなる程度に粉砕することが好ましい。このように調整した原料粉を使用することにより、仮焼工程を全く必要とせずに、高密度の酸化物焼結体を得ることができる。また、還元工程も不要となる。
尚、上記原料混合粉体の比表面積の増加分が1.0m2/g以上又は粉砕後の原料混合粉の平均メジアン径が1μm以下であれば、焼結密度が十分に大きくなるので好ましい。一方、原料混合粉体の比表面積の増加分が3.0m2/g以下又は粉砕後の平均メジアン径が0.6μm以上であれば、粉砕時の粉砕器機等からのコンタミ(不純物混入量)が増加することもないので好適である。
ここで、各粉体の比表面積はBET法で測定した値である。各粉体の粒度分布のメジアン径は、粒度分布計で測定した値である。これらの値は、粉体を乾式粉砕法、湿式粉砕法等により粉砕することにより調整できる。
混合粉砕の際、ポリビニールアルコール(PVA)を1用量%程度添加した水、又はエタノール等を媒体として用いてもよい。
これらの原料酸化物粉末のメジアン径(d50)は、例えば、0.5〜20μm、好ましくは1〜10μmとすることが好ましい。原料酸化物粉末のメジアン径(d50)が0.5μm以上であれば、焼結体中に空胞ができ焼結密度が低下することを防ぐことができ、20μm以下であれば、焼結体中の粒径の増大が防げるので好ましい。
【0035】
(a)'仮焼工程
さらに、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、(a)工程の後に(a)'得られた混合物を仮焼する工程を含んでもよい。
仮焼工程では、上記(a)工程で得られた混合物が仮焼される。仮焼を行うことにより、最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
仮焼工程においては、500〜1200℃、好ましくは、800〜1200℃で、1〜100時間、好ましくは2〜50時間の条件で(a)工程で得られた混合物を熱処理することが好ましい。500℃以上かつ1時間以上の熱処理条件であれば、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が十分に行われるので好ましい。熱処理条件が、1200℃以下及び100時間以下であれば、粒子が粗大化することもないので好適である。
さらに、ここで得られた仮焼物を、続く成形工程及び焼成工程の前に粉砕することが好ましい。この仮焼物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて行うことが適当である。粉砕後に得られた仮焼物の平均粒径は、例えば、0.01〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μmであることが適当である。得られた仮焼物の平均粒径が0.01μm以上であれば、十分な嵩比重を保持することができ、かつ取り扱いが容易になるので好ましい。また、仮焼物の平均粒径が1.0μm以下であれば最終的に得られるスパッタリングターゲットの密度を上げることが容易になる。
なお、仮焼物の平均粒径は、JIS R 1619に記載及び方法によって測定することができる。
【0036】
(b)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成形して成形体とする工程である。この工程により、混合物(又は仮焼物)をスパッタリングターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形することができる。
本工程で用いることができる成形処理としては、例えば、一軸加圧、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
また、プレス成形は、従来から公知の各種湿式法及び乾式法を用いることができる。乾式法としては、コールドプレス(Cold Press)法やホットプレス(Hot Press)法等を挙げることができる。例えば、得られた混合粉を金型に充填し、コールドプレス機にて加圧成形する。加圧成形は、例えば、常温(25℃)下、100〜100000kg/cm2、好ましくは、500〜10000kg/cm2の圧力で行われる。
【0037】
上記コールドプレス法とホットプレス法について詳説する。コールドプレス法では、混合粉を成形型に充填して成形体を作製し、焼結させる。ホットプレス法では、混合粉を成形型内で直接焼結させる。ホットプレス法では、混合粉を成形型内で、通常700〜1000℃で1〜48時間、好ましくは800〜950℃で3〜24時間にて直接焼結させる。
乾式法のコールドプレス(Cold Press)法としては、粉砕工程後の原料をスプレードライヤー等で乾燥した後、成形する。成形は公知の方法、例えば、加圧成形、冷間静水圧加圧、金型成形、鋳込み成形射出成形が採用できる。焼結密度の高い焼結体(スパッタリングターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等加圧を伴う方法で成形するのが好ましい。尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
次いで、得られた成形物を焼結して焼結体を得る。また、焼結は酸素を流通することにより酸素雰囲気中で焼結するか、加圧下にて焼結するのがよい。これにより亜鉛の蒸散を抑えることができ、ボイド(空隙)のない焼結体が得られる。このようにして製造した焼結体は、密度が高いため、使用時におけるノジュールやパーティクルの発生が少ないことから、膜特性に優れた酸化物半導体膜を作製することができる。
1000℃までの昇温速度を30℃/時間以上、冷却時の降温速度を30℃/時間以上とするのが好ましい。昇温速度が30℃/時間以上であれば酸化物の分解が進むこともなく、ピンホールも発生しない。また冷却時の降温速度が30℃/時間以上であればIn,Gaの組成比が変化するおそれもない。
【0038】
上記湿式法としては、例えば、濾過式成形法(特開平11−286002号公報参照)を用いるのが好ましい。この濾過式成形法は、セラミックス原料スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型であって、1個以上の水抜き孔を有する成形用下型と、この成形用下型の上に載置した通水性を有するフィルターと、このフィルターをシールするためのシール材を介して上面側から挟持する成形用型枠からなり、前記成形用下型、成形用型枠、シール材、およびフィルターが各々分解できるように組立てられており、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水する濾過式成形型を用い、混合粉、イオン交換水と有機添加剤からなるスラリーを調製し、このスラリーを濾過式成形型に注入し、該フィルター面側からのみスラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、得られたセラミックス成形体を乾燥脱脂後、焼成する。
【0039】
乾式法あるいは湿式法で得られた焼結体のバルク抵抗を酸化物全体として均一化するために、さらに還元工程を含むが好ましい。適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等が挙げられる。還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。尚、還元工程における温度は、通常300〜1200℃、好ましくは500〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
酸化物焼結体は、研磨等の加工を施すことによりターゲットとなる。具体的には、焼結体を、例えば、平面研削盤で研削して表面粗さRaを5μm以下とする。表面粗さは、Ra≦0.3μmであることがより好ましく、Ra≦0.1μmであることが特に好ましい。さらに、ターゲットのスパッタ面に鏡面加工を施して、平均表面粗さRaが1000オングストローム以下としてもよい。この鏡面加工(研磨)は機械的な研磨、化学研磨、メカノケミカル研磨(機械的な研磨と化学研磨の併用)等の、すでに知られている研磨技術を用いることができる。例えば、固定砥粒ポリッシャー(ポリッシュ液:水)で#2000以上にポリッシングしたり、又は遊離砥粒ラップ(研磨材:SiCペースト等)にてラッピング後、研磨材をダイヤモンドペーストに換えてラッピングすることによって得ることができる。このような研磨方法には特に制限はない。
尚、ターゲットの清浄処理には、エアーブローや流水洗浄等を使用できる。エアーブローで異物を除去する際には、ノズルの向い側から集塵機で吸気を行なうとより有効に除去できる。エアーブローや流水洗浄の他に、超音波洗浄等を行なうこともできる。超音波洗浄では、周波数25〜300KHzの間で多重発振させて行なう方法が有効である。例えば周波数25〜300KHzの間で、25KHz刻みに12種類の周波数を多重発振させて超音波洗浄を行なうのがよい。
【0040】
得られた酸化物は、適宜加工される。
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。スパッタリングターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmであるので、本発明の酸化物も当該厚みに加工されることが適当である。また、複数の酸化物を一つのバッキングプレート(支持体)に取り付け、実質一つのスパッタリングターゲットとしてもよい。また、表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、酸化物が割れることもないので好ましい。
【0041】
酸化物をスパッタリングターゲットの形状に加工後、バッキングプレート(支持体)へボンディングすることにより、成膜装置に装着して使用できるスパッタリングターゲットとなる。バッキングプレートは無酸素銅製が好ましい。ボンディングにはインジウム半田を用いることが好ましい。
【0042】
(c)焼結工程
焼結工程は、上記成形工程で得られた成形体を焼結する工程である。
焼結条件としては、酸素ガス雰囲気下、大気圧又は加圧下で、通常、1100〜1600℃、好ましくは1440〜1600℃、より好ましくは1460〜1550℃において、通常30分〜360時間、好ましくは45分〜15時間、より好ましくは1〜5時間焼成する。焼成温度が1100℃以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、適度な時間内に焼結を行うことができる。1600℃以下であれば、成分が気化することもないので好適である。さらに、燃焼時間が30分以上であれば、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、360時間以下であれば、適度な時間内に焼結を行うことができる。また、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス雰囲気で焼成を行うことにより、スパッタリングターゲットの密度を上昇しやすくなり、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制できるので好ましい。酸素ガス雰囲気は、酸素濃度が、例えば、10〜1000%である雰囲気を言う。焼成は大気圧下又は加圧下で行うことができる。加圧は、例えば、98000〜1000000Pa、好ましくは、100000〜500000Paであることが適当である。
また、焼成時の昇温速度は、通常20℃/分以下、好ましくは8℃/分以下、より好ましくは4℃/分以下、さらに好ましくは2℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。20℃/分以下であれば、ホモロガス結晶の形成が十分に行うことができる。
【0043】
(d)還元工程
還元工程は、上記焼成工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として均一化するために還元処理を行う任意工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスを循環させる方法、真空中で焼成する方法、及び不活性ガス中で焼成する方法等が挙げられる。
還元性ガスとしては、例えば、水素、メタン、一酸化炭素、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
還元ガスや不活性ガスの圧力は、例えば、9800〜1000000Pa、好ましくは、98000〜500000Paである。真空中で焼成する場合、真空とは、具体的には、10-1〜10-8Pa、好ましくは10-2〜10-5a程度の真空を言い、残存ガスはアルゴンや窒素などである。
【0044】
(e)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
スパッタリングターゲットの厚みは、通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。スパッタリングターゲットの表面は200〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、400〜5,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。200番〜10,000番のダイヤモンド砥石を使用すれば、スパッタリングターゲットが割れることもないので好ましい。また、複数のスパッタリングターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け、実質一つのターゲットとしてもよい。バッキングプレートとしては、例えば、無酸素銅製のものが挙げられる。
【0045】
(3)薄膜の形成方法
(3-1) アモルファス酸化物薄膜の形成
本発明のスパッタリングターゲットを用い、スパッタリング法により、基板上にアモルファス酸化物薄膜を形成することができる。具体的には、
(i)本発明のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程を含む。これにより、電子キャリアー濃度が1×1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜を形成することができる。
スパッタリング法としては、DC(直流)スパッタ法、AC(交流)スパッタ法、RF(高周波)スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法等が挙げられるが、DC(直流)スパッタ法及びRF(高周波)スパッタ法が好ましくは利用される。
スパッタ時の成膜温度は、スパッタ法によって異なるが、例えば、25〜450℃、好ましくは、30〜250℃、より好ましくは、35〜150℃であることが適当である。ここで、成膜温度とは、薄膜を形成する基板の温度である。
スパッタ時のスパッタリングチャンバー内の圧力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は0.1〜2.0MPa、好ましくは、0.3〜0.8MPaであることが適当である。
スパッタ時に投入される電力出力は、スパッタ法によって異なるが、例えば、DC(直流)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、100〜300Wであり、RF(高周波)スパッタ法の場合は、10〜1000W、好ましくは、50〜250Wであることが適当である。
RF(高周波)スパッタ法の場合の電源周波数は、例えば、50Hz〜50MHz、好ましくは、10k〜20MHzであることが適当である。
スパッタ時のキャリアーガスとしては、スパッタ法によって異なるが、例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、クリプトンが挙げられる。好ましくは、アルゴンと酸素の混合ガスである。アルゴンと酸素の混合ガスを使用する場合、アルゴン:酸素の流量比は、Ar:O2=100〜80:0〜20、好ましくは、99.5〜90:0.5〜10であることが適当である。
【0046】
また、得られたアモルファス膜を還元処理するあるいは還元雰囲気でアモルファス膜を成膜するなどの方法で導電膜も得ることができる。すなわち、本願のターゲットを導電膜用としてももちいることができる。なお、還元処理としては、例えば水素プラズマ処理、窒素プラズマ処理、アルゴンプラズマ処理、真空過熱、水素雰囲気過熱、UV照射などをもちいることができる。
【0047】
スパッタリングに先立ち、スパッタリングターゲットを支持体に接着(ボンディング)する。これは、ターゲットをスパッタリング装置に固定するためである。
ボンディングしたスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行い、基板上にIn及びGa及びZnの酸化物を主成分とするアモルファス酸化物薄膜を得る。ここで、「主成分とする」とは、In及びGa及びZnの各元素を、酸素を除く元素の原子比の和を100%として、原子比で60%以上含むことを意味する。
基板としては、ガラス、樹脂(PET、PES等)等を用いることができる。
得られたアモルファス酸化物薄膜の膜厚は、成膜時間やスパッタ法によっても異なるが、例えば、5〜300nm、好ましくは、10〜90nmであることが適当である。
また、得られたアモルファス酸化物薄膜の電子キャリアー濃度は、例えば、1×1018/cm3未満、好ましくは、5×1017〜1×1012/cm3であることが適当である。
さらに、得られたアモルファス酸化物薄膜の相対密度は、6.0g/cm3以上、好ましくは、6.1〜 7.2g/cm3であることが適当である。このような高密度を備えていれば、得られた酸化物薄膜においても、ノジュールやパーティクルの発生が少なく、膜特性に優れた酸化物薄膜を得ることができる。
【0048】
(3-2) 薄膜トランジスタの製造
さらに、本発明のアモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタを製造する場合は、
(ii)本発明のアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(iii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含むことが適当である。
ここで、熱処理は、例えば、100〜450℃、好ましくは150〜350℃で0.1〜10時間、好ましくは、0.5〜2時間行うことが、半導体特性を安定化させる観点から好適である。
熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する方法としては、例えば、CVD法やスパッタ法が挙げられる。
ここで、酸化物絶縁体層としては、例えば、SiO2,SiNx,Al23,Ta25,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc23,Y23,Hf23,CaHfO3,PbTi3,BaTa26,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al23,Y23,Hf23,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y23,Hf23,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y23,Hf23,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば界面の平滑性が良好となり、高いキャリアー移動度を維持することができ、閾値電圧やS値が大きくなりすぎることもない。
なお、ここでS値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。S値が大きいと、オンからオフに切り替える際に高いゲート電圧をかける必要があり、消費電力が大きくなるおそれがある。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/decより大きいと駆動電圧が大きくなり消費電力が大きくなるおそれがある。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0049】
(3-3)薄膜トランジスタの具体的製造方法
ここで、薄膜トランジスタを例にとり、図5を参照しながら説明する。
ガラス基板等の基板(1)を準備し、基板上に電子ビーム蒸着法により、厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層する。積層した膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いることにより、ゲート電極(2)を形成する。
さらにその上に、厚さ50〜500nmのSiO2膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁膜(3)を形成する。なお、ゲート絶縁膜(12)の成膜はスパッタ法でもよいが、TEOS−CVD法やPECVD法などのCVD法が好ましい。
【0050】
続いて、本発明の酸化物からなるスパッタリングターゲットをターゲットとして用い、RFスパッタ法により、チャネル層(4)として厚さ5〜300nmのIn−Ga−Zn−O酸化物からなるアモルファス酸化物薄膜(半導体)を堆積する。得られた薄膜を堆積した素子は、適宜所望の大きさに切り取った後、大気圧下、100〜450℃、6〜600分熱処理を行う。得られた素子を、さらに厚さ1〜100nmのTi(密着層)、厚さ10〜300nmのAu(接続層)及び厚さ1〜100nmのTi(密着層)をこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ソース電極(5)およびドレイン電極(6)を形成する。さらにその上にスパッタ法により保護膜(7)としてSiO2膜を50〜500nm堆積する。なお、保護膜(8)の成膜方法はCVD法でもよい。なお、工程を変更し、図6(1)(2)のような保護膜(エッチングストッパー)の製造を、上記ソース電極及びドレイン電極の製造に先立って行ってもよい。
【0051】
(4)薄膜の用途
このようにして得られたアモルファス酸化物薄膜は、そのまま、あるいは熱処理することで薄膜トランジスタ、薄膜トランジスタのチャネル層、太陽電池、ガスセンサーなどの半導体膜として使用することができる。
(4-1)ここで、本発明を利用して製造し得る薄膜トランジスタについて説明する。薄膜トランジスタは、基板、半導体層、半導体層の保護層、ゲート絶縁膜、電極を含む。
●基板
基板としては、特に制限はなく、本技術分野で公知のものを使用できる。例えば、ケイ酸アルカリ系ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラス基板、シリコン基板、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等の高分子フィルム基材等が使用できる。基板や基材の厚さは0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板の場合は、化学的に、或いは熱的に強化させたものが好ましい。透明性や平滑性が求められる場合は、ガラス基板、樹脂基板が好ましく、ガラス基板が特に好ましい。軽量化が求められる場合は樹脂基板や高分子機材が好ましい。
【0052】
●半導体層
・半導体層は、In(インジウム)、Zn(亜鉛)及びGa(ガリウム)複合酸化物からなる。このような半導体層は、例えば、本発明の複合酸化物ターゲット(半導体層用ターゲット)を使用して薄膜を形成することで作製できる。
・本発明において、半導体層は非晶質膜であることが好ましい。非晶質膜であることにより、絶縁膜や保護層との密着性が改善される、大面積でも均一なトランジスタ特性が容易に得られることとなる。ここで、半導体層が非晶質膜であるかは、X線結晶構造解析により確認できる。明確なピークが観測されない場合が非晶質である。
・また、半導体層の電子キャリアー濃度が1013〜1018/cm3であることが好ましく、特に1014〜1017/cm3であることが好ましい。電子キャリアー濃度が上記の範囲であれば、非縮退半導体となりやすく、トランジスタとして用いた際に移動度とオンオフ比のバランスが良好となり好ましい。また、バンドギャップが2.0〜6.0eVであることが好ましく、特に、2.8〜5.0eVがより好ましい。バンドギャップは、2.0eV以上であれば、可視光を吸収し電界効果型トランジスタが誤動作するおそれもない。一方、6.0eV以下であれば、キャリアが供給されにくくなり電界効果型トランジスタが機能しなくなるおそれも低い。
・半導体層は、熱活性型を示す非縮退半導体であることが好ましい。非縮退半導体であれば、キャリアが多すぎてオフ電流・ゲートリーク電流が増加する、閾値が負になりノーマリーオンとなるなどの不利益を回避できる。半導体層が非縮退半導体であるか否かは、ホール効果を用いた移動度とキャリア密度の温度変化の測定を行うことにより判断できる。また、半導体層を非縮退半導体とするには、成膜時の酸素分圧を調整する、後処理をすることで酸素欠陥量を制御しキャリア密度を最適化することで達成できる。
【0053】
・半導体層の表面粗さ(RMS)は、1nm以下が好ましく、0.6nm以下がさらに好ましく、0.3nm以下が特に好ましい。1nm以下であれば、移動度が低下するおそれもない。
・半導体層は、酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持している非晶質膜であることが好ましい。酸化インジウムを含む非晶質膜が酸化インジウムのビックスバイト構造の稜共有構造の少なくとも一部を維持しているかどうかは、高輝度のシンクロトロン放射等を用いた微小角入射X線散乱(GIXS)によって求めた動径分布関数(RDF)により、In−X(Xは,In,Zn)を表すピークが0.30から0.36nmの間にあることで確認できる(詳細については、下記の文献を参照すればよい。F.Utsuno, et al.,Thin Solid Films,Volume 496, 2006, Pages 95−98)。
さらに、原子間距離が0.30から0.36nmの間のRDFの最大値をA、原子間距離が0.36から0.42の間のRDFの最大値をBとした場合に、A/B>0.7の関係を満たすことが好ましく、A/B>0.85がより好ましく、A/B>1がさらに好ましく、A/B>1.2が特に好ましい。
A/Bが0.7以上であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。A/Bが小さいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
また、In−Inの平均結合距離が0.3〜0.322nmであることが好ましく、0.31〜0.32nmであることが特に好ましい。In−Inの平均結合距離はX線吸収分光法により求めることができる。X線吸収分光法による測定では、立ち上がりから数百eVも高いエネルギーのところまで広がったX線吸収広域微細構造(EXAFS)を示す。EXAFSは励起された原子の周囲の原子による電子の後方散乱によって引き起こされる。飛び出していく電子波と後方散乱された波との干渉効果が起こる。干渉は電子状態の波長と周囲の原子へ行き来する光路長に依存する。EXAFSをフーリエ変換することで動径分布関数(RDF)が得られる。RDFのピークから平均結合距離を見積もることができる。
【0054】
・半導体層の膜厚は、通常0.5〜500nm、好ましくは1〜150nm、より好ましくは3〜80nm、特に好ましくは10〜60nmである。0.5nm以上であれば、工業的に均一に成膜することが可能である。一方、500nm以下であれば、成膜時間が長くなりすぎることもない。また、3〜80nmの範囲内にあると、移動度やオンオフ比等TFT特性が特に良好である。
・本発明では、半導体層が非晶質膜であり、非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であることが好ましい。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)は10meV以下がより好ましく、8meV以下がさらに好ましく6meV以下が特に好ましい。非局在準位のエネルギー幅(E0)が14meV以下であれば、半導体層をトランジスタの活性層として用いた場合、移動度が低下したり、閾値やS値が大きくなりすぎるおそれもない。半導体層の非局在準位のエネルギー幅(E0)が大きいことは、非晶質膜の近距離秩序性が悪いことを反映しているものと考えられる。
【0055】
●半導体層の保護層
・薄膜トランジスタは、半導体の保護層があることが好ましい。半導体の保護層があれば、真空中や低圧下で半導体の表面層の酸素が脱離せず、オフ電流が高くなる、閾値電圧が負になるおそれもない。また、大気下でも湿度等周囲の影響を受けることもなく、閾値電圧等のトランジスタ特性のばらつきが大きくなるおそれもない。
・半導体の保護層を形成する材料は特に制限はない。本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al23,Ta25,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc23,Y23,Hf23,CaHfO3,PbTi3,BaTa26,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al23,Y23,Hf23,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y23,Hf23,CaHfO3であり、特に好ましくはSiO2,Y23,Hf23,CaHfO3等の酸化物である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このような保護膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。
また、保護層は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。しかし、保護層が非晶質であることが特に好ましい。非晶質膜であれば、界面の平滑性が良好となり、移動度が低下することもなく、閾値電圧やS値が大きくなりすぎるおそれもない。
【0056】
半導体層の保護層は、非晶質酸化物あるいは非晶質窒化物であることが好ましく、非晶質酸化物であることが特に好ましい。また、保護層が酸化物であれば、半導体中の酸素が保護層側に移動することもなく、オフ電流が高くなることもなく、閾値電圧が負になりノーマリーオフを示すおそれもない。また、半導体層の保護層は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、半導体層の保護層は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0057】
●ゲート絶縁膜
ゲート絶縁膜を形成する材料にも特に制限はない。本実施形態の発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択できる。例えば、SiO2,SiNx,Al23,Ta25,TiO2,MgO,ZrO2,CeO2,K2O,Li2O,Na2O,Rb2O,Sc23,Y23,Hf23,CaHfO3,PbTi3,BaTa26,SrTiO3,AlN等を用いることができる。これらのなかでも、SiO2,SiNx,Al23,Y23,Hf23,CaHfO3を用いるのが好ましく、より好ましくはSiO2,SiNx,Y23,Hf23,CaHfO3である。これらの酸化物の酸素数は、必ずしも化学量論比と一致していなくともよい(例えば、SiO2でもSiOxでもよい)。また、SiNxは水素元素を含んでいても良い。
このようなゲート絶縁膜は、異なる2層以上の絶縁膜を積層した構造でもよい。また、ゲート絶縁膜は、結晶質、多結晶質、非晶質のいずれであってもよいが、工業的に製造しやすい多結晶質か、非晶質であるのが好ましい。
また、ゲート絶縁膜は、ポリ(4−ビニルフェノール)(PVP)、パリレン等の有機絶縁膜を用いてもよい。さらに、ゲート絶縁膜は無機絶縁膜及び有機絶縁膜の2層以上積層構造を有してもよい。
【0058】
●電極
ゲート電極、ソ−ス電極及びドレイン電極の各電極を形成する材料に特に制限はなく、本発明の効果を失わない範囲で一般に用いられているものを任意に選択することができる。
例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物、ZnO、SnO2等の透明電極や、Al,Ag,Cr,Ni,Mo,Au,Ti,Ta、Cu等の金属電極、又はこれらを含む合金の金属電極を用いることができる。また、それらを2層以上積層して接触抵抗を低減したり、界面強度を向上させることが好ましい。また、ソ−ス電極、ドレイン電極の接触抵抗を低減させるため半導体の電極との界面をプラズマ処理、オゾン処理等で抵抗を調整してもよい。
【0059】
(4-2)薄膜トランジスタ(電界効果型トランジスタ)の製造方法
本発明の製造方法では、上述した本発明のスパッタリングターゲットを用い、半導体層を成膜する工程と、半導体層を形成した後に70〜350℃で熱処理する工程を含むことを特徴とする。
尚、上述した薄膜トランジスタの各構成部材(層)は、本技術分野で公知の手法で形成できる。
具体的に、成膜方法としては、スプレー法、ディップ法、CVD法等の化学的成膜方法、又はスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、パルスレーザーディポジション法等の物理的成膜方法を用いることができる。キャリア密度が制御し易い、及び膜質向上が容易であることから、好ましくは物理的成膜方法を用い、より好ましくは生産性が高いことからスパッタ法を用いる。
スパッタリングでは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる方法、複数の焼結ターゲットを用いコスパッタを用いる方法、合金ターゲットを用い反応性スパッタを用いる方法等が利用できる。好ましくは、複合酸化物の焼結ターゲットを用いる。RF、DCあるいはACスパッタリングなど公知のものが利用できるが、均一性や量産性(設備コスト)からDCあるいはACスパッタリングが好ましい。
【0060】
形成した膜を各種エッチング法によりパターニングできる。
本発明では半導体層を、本発明のターゲットを用い、DC又はACスパッタリングにより成膜することが好ましい。DC又はACスパッタリングを用いることにより、RFスパッタリングの場合と比べて、成膜時のダメージを低減できる。このため、電界効果型トランジスタにおいて、閾値電圧シフトの低減、移動度の向上、閾値電圧の減少、S値の減少等の効果が期待できる。
また、本発明では半導体層成膜後に70〜350℃で熱処理することが好ましい。特に、半導体層と半導体の保護層を形成した後に、70〜350℃で熱処理することが好ましい。70℃以上であれば、得られるトランジスタの十分な熱安定性や耐熱性を保持することができ、十分な移動度を保持でき、S値が大きくなったり、閾値電圧が高くなるおそれもない。一方、350℃以下であれば、耐熱性のない基板も使用でき、熱処理用の設備費用がかかるおそれもない。
熱処理温度は80〜260℃がより好ましく、90〜180℃がさらに好ましく、100〜150℃が特に好ましい。特に、熱処理温度が180℃以下であれば、基板としてPEN等の耐熱性の低い樹脂基板を利用できるため好ましい。
熱処理時間は、通常1秒〜24時間が好ましいが、処理温度により調整することが好ましい。例えば、70〜180℃では、10分から24時間がより好ましく、20分から6時間がさらに好ましく、30分〜3時間が特に好ましい。180〜260℃では、6分から4時間がより好ましく、15分から2時間がさらに好ましい。260〜300℃では、30秒から4時間がより好ましく、1分から2時間が特に好ましい。300〜350℃では、1秒から1時間がより好ましく、2秒から30分が特に好ましい。
熱処理は、不活性ガス中で酸素分圧が10-3Pa以下の環境下で行うか、あるいは半導体層を保護層で覆った後に行うことが好ましい。上記条件下だと再現性が向上する。
【0061】
(4-3)薄膜トランジスタの特性
本発明の薄膜トランジスタでは、移動度は1cm2/Vs以上が好ましく、3cm2/Vs以上がより好ましく、8cm2/Vs以上が特に好ましい。1cm2/Vs以上であればスイッチング速度が遅くなることもなく、大画面高精細のディスプレイに用いるのに最適である。
オンオフ比は、106以上が好ましく、107以上がより好ましく、108以上が特に好ましい。
オフ電流は、2pA以下が好ましく、1pA以下がより好ましい。オフ電流が2pA以下であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に十分なコントラストが得られ、良好な画面の均一性が得られる。
ゲートリーク電流は1pA以下が好ましい。1pA以上であれば、ディスプレイのTFTとして用いた場合に良好なコントラストが得られる。
閾値電圧は、通常0〜10Vであるが、0〜4Vが好ましく、0〜3Vがより好ましく、0〜2Vが特に好ましい。0V以上であればノーマリーオンとなることもなく、オフ時に電圧をかけることも必要なく、消費電力を低く抑えることができる。10V以上であれば駆動電圧が大きくなることもなく、消費電力を低く抑えることができ、移動度を低く抑えることができる。
また、S値は0.8V/dec以下が好ましく、0.3V/dec以下がより好ましく、0.25V/dec以下がさらに好ましく、0.2V/dec以下が特に好ましい。0.8V/dec以下であれば、駆動電圧を低く抑えることができ、消費電力も抑制できる。特に、有機ELディスプレイで用いる場合は、直流駆動のためS値を0.3V/dec以下にすると消費電力を大幅に低減できるため好ましい。
【0062】
また、10μAの直流電圧50℃で100時間加えた前後の閾値電圧のシフト量は、1.0V以下が好ましく、0.5V以下がより好ましい。1.0V以下であれば有機ELディスプレイのトランジスタとして利用した場合、画質が変化することもない。
また、伝達曲線でゲート電圧を昇降させた場合のヒステリシスが小さい方が好ましい。
また、チャンネル幅Wとチャンネル長Lの比W/Lは、通常0.1〜100、好ましくは0.5〜20、特に好ましくは1〜8である。W/Lが100以下であれば漏れ電流が増えることもなく、オンオフ比が低下したりするおそれがある。0.1以上であれば電界効果移動度が低下することもなく、ピンチオフが明瞭になる。また、チャンネル長Lは通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜10μmである。0.1μm以上であれば工業的に製造が難しくまた漏れ電流が大きくなるおそれもなく、1000μm以下であれば素子が大きくなりすぎることもない。
【0063】
本発明の電界効果型トランジスタは、半導体層を遮光する構造を持つことが好ましい。半導体層を遮光する構造(例えば、遮光層)があれば、光が半導体層に入射した場合にキャリア電子が励起されオフ電流が高くなるおそれもない。遮光層は、300〜800nmに吸収を持つ薄膜が好ましい。遮光層は半導体層の上部、下部どちらかでも構わないが、上部及び下部の両方にあることが好ましい。また、遮光層はゲート絶縁膜やブラックマトリックス等と兼用されていても構わない。遮光層が片側だけにある場合、遮光層が無い側から光が半導体層に照射しないよう構造上工夫する必要がある。
尚、本発明の電界効果型トランジスタでは、半導体層とソース電極・ドレイン電極との間にコンタクト層を設けてもよい。コンタクト層は半導体層よりも抵抗が低いことが好ましい。コンタクト層の形成材料は、上述した半導体層と同様な組成の複合酸化物が使用できる。即ち、コンタクト層はIn,Zn及びZr等の各元素を含むことが好ましい。これらの元素を含む場合、コンタクト層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
コンタクト層の作製方法に特に制約はないが、成膜条件を変えて半導体層と同じ組成比のコンタクト層を成膜したり、半導体層と組成比の異なる層を成膜したり、半導体の電極とのコンタクト部分をプラズマ処理やオゾン処理により抵抗を高めることで構成したり、半導体層を成膜する際に酸素分圧等の成膜条件により抵抗を高くなる層を構成してもよい。また、本発明の電界効果型トランジスタでは、半導体層とゲート絶縁膜との間、及び/又は半導体層と保護層との間に、半導体層よりも抵抗の高い酸化物抵抗層を有することが好ましい。酸化物抵抗層があればオフ電流が発生することもなく、閾値電圧が負となりノーマリーオンとなることもなく、保護膜成膜やエッチングなどの後処理工程時に半導体層が変質し特性が劣化するおそれもない。
【0064】
酸化物抵抗層としては、以下のものが例示できる。
・半導体膜の成膜時よりも高い酸素分圧で成膜した半導体層と同一組成の非晶質酸化物膜・半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜
・In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とする多結晶酸化物膜
・酸化インジウムを主成分とし、Zn、Cu、Co、Ni、Mn、Mgなどの正二価元素を1種以上ドープした多結晶酸化物膜
半導体層と同一組成であるが組成比を変えた非晶質酸化物膜や、In及びZnを含み半導体層と異なる元素Xを含む非晶質酸化物膜の場合は、In組成比が半導体層よりも少ないことが好ましい。また、元素Xの組成比が半導体層よりも多いことが好ましい。
酸化物抵抗層は、In及びZnを含む酸化物であることが好ましい。これらを含む場合、酸化物抵抗層と半導体層の間で元素の移動が発生することもなく、ストレス試験等を行った際に閾値電圧のシフトが大きくなるおそれもない。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
In23(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%、Ga23(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%及びZnO(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%各粉末を、混合粉末中の含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=1:1:1になるように秤量した。秤量した粉末を、容量500mlのポリアミド製容器に加え、さらに直径2mmのジルコニアビーズ200g を加え、分散媒としてエタノールを加え、フリッツジャパン社製遊星ボールミル装置を用いて1時間湿式混合した。得られた混合物をアルミナるつぼ中、大気圧下、1000℃で5時間仮焼した後、再び遊星ボールミル装置を用いて1時間解砕処理し、平均粒径(JIS R 1619)3μmの粉砕した仮焼物を得た。このようにして調製した仮焼物を一軸加圧(100kg/cm2)によって直径20mm厚さ6mmの円板状に成形した。得られた成形体を、大気下、1500 ℃ で2時間焼成して酸化物焼結体を得た。この焼成時の昇温速度は、3℃/分であった。この焼結体をさらにアルゴン雰囲気下、880℃で2時間加熱して還元処理し、酸化物焼結体を得た。
X 線回折を用いて生成物の構造解析を行い、JCPDSカードNo. 38-1104のInGaZnO4(InGaO3(ZnO))及びJCPDSカードNo. 38-1097のIn2Ga2ZnO7((InGaO3)2ZnO)で表され酸化物からなることを確認した。X線回折のチャートを図1に示した。X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(1)、及びIn2Ga2ZnO7で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(2)とした時、ピーク強度比P(1)/P(2)は、0.9であった。
【0066】
(実施例2)
原料粉として比表面積が6m2/gである酸化インジウム粉と比表面積が6m2/gである酸化ガリウム粉と比表面積が5m2/gである酸化亜鉛粉を質量比で45:30:25となるように秤量し、更に正四価の金属として、Geを500ppmとなるように添加し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、粉砕後の比表面積を原料混合粉の比表面積より2m2/g増加させた後、スプレードライヤーで乾燥させて得た混合粉を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し、さらに酸素を流通させながら酸素雰囲気中1500°Cで2時間焼結した。これによって、仮焼工程を行うことなく焼結体密度6.2g/cm3であるスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。
この様にして得られた焼結体中には、X線回折によりJCPDSカードNo. 38-1104のInGaZnO4及びJCPDSカードNo. 38-1097のIn2Ga2ZnO7の結晶がともに存在することが確認できる。X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(1)、及びIn2Ga2ZnO7で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(2)とした時、ピーク強度比P(1)/P(2)は、0.95であった。また、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析から、InあるいはGaの一部がGeで置換されていると推定されることが分かった。
また、EPMAによる分析でInGaZnO4及びIn2Ga2ZnO7の結晶の平均粒径はともに20μm以下であることが確認できた。
【0067】
(実施例3)
四価以上の金属種をSnに変えた以外は、実施例2と同様に焼結した。
X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶(JCPDSカードNo. 38-1104)の最大ピーク強度をP(1)、及びIn2Ga2ZnO7で表される酸化物結晶(JCPDSカードNo. 38-1097)の最大ピーク強度をP(2)とした時、ピーク強度比P(1)/P(2)は、1.3であった。また、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析から、InあるいはGaの一部がSnで置換されていることが分かった。
【0068】
(実施例4)
四価以上の金属種をZrに変えた以外は、実施例2と同様に焼結した。
X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶(JCPDSカードNo. 38-1104)の最大ピーク強度をP(1)、及びIn2Ga2ZnO7で表される酸化物結晶(JCPDSカードNo. 38-1097)の最大ピーク強度をP(2)とした時、ピーク強度比P(1)/P(2)は、1.1であった。また、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析から、InあるいはGaの一部がZrで置換されていることが分かった。
【0069】
(実施例5)
酸化インジウム粉と酸化ガリウム粉と酸化亜鉛粉を質量比で39:26:35となるように秤量した他は、実施例3と同様に焼結した。X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(1)、及びInGaZn25で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(3)とした時、ピーク強度比P(1)/P(3)は、1.1であった。
【0070】
(実施例6)
非特許文献1、2の方法によりInGaZnO4及びIn2Ga2ZnO7の結晶を合成した。これらを1:1で混合し、SPSによる焼結で、焼結体密度6.2g/cm3であるスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。この様にして得られた焼結体中には、X線回折によりJCPDSカードNo. 38-1104のInGaZnO4及びJCPDSカードNo. 38-1097のIn2Ga2ZnO7の結晶がともに存在することが確認できた。
【0071】
(実施例7)
非特許文献1、2の方法によりInGaZnO4及びInGaO3(ZnO)2の結晶を合成した。これらを1:1で混合し、SPSによる焼結で、焼結体密度6.1g/cm3であるスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。この様にして得られた焼結体中には、X線回折によりInGaZnO4及びInGa(ZnO)2の結晶がともに存在することが確認できた。
【0072】
(実施例8)
非特許文献1、2の方法によりInGaZnO4、InGaO3(ZnO)2、及びIn2O3(ZnO)3の結晶を合成した。これらを1:1:1で混合し、SPSによる焼結で、焼結体密度6.0g/cm3であるスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。この様にして得られた焼結体中には、X線回折によりInGaZnO4、InGaO3(ZnO)2、及びIn2O3(ZnO)3の結晶がともに存在することが確認できた。
【0073】
(実施例9)
非特許文献1、2の方法によりInGaZnO4、InAlZnO4の結晶を合成した。これらを粉砕後4:1で混合し、SPSによる焼結で、焼結体密度6.1g/cm3であるスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。この様にして得られた焼結体中には、X線回折によりInGaZnO4、InAlZnO4の結晶がともに存在することが確認できた。
X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶(m=1)の最大ピーク強度をP(3)、及びInAlZnO4で表される酸化物結晶(m=0.5)の最大ピーク強度をP(4)とした時、ピーク強度比P(3)/P(4)は、3.9であった。
【0074】
(実施例10)
非特許文献1、2の方法によりInGaZnO4、InAlO3(ZnO)2の結晶を合成した。これらを粉砕後4:1で混合し、SPSによる焼結で、焼結体密度6.1g/cm3であるスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。この様にして得られた焼結体中には、X線回折によりInGaZnO4、InAlO3(ZnO)2の結晶がともに存在することが確認できた。
【0075】
実施例11〜13は、組成比を変えた以外は実施例2同様に作製、評価し、表1にまとめた。
【0076】
実施例14、15は、焼結温度をそれぞれ1480℃、1520℃に変えた以外は実施例1同様に作製、評価し、表1にまとめた。
【0077】
実施例16は、焼結時間を4時間に変えた以外は実施例1同様に作製、評価し、表1にまとめた。
【0078】
(比較例1)
原料粉として比表面積が6m2/gである酸化インジウム粉と比表面積が6m2/gである酸化ガリウム粉と比表面積が5m2/gである酸化亜鉛粉を質量比で45:30:25となるように秤量し、湿式媒体攪拌ミルを使用して混合粉砕した。媒体には1mmφのジルコニアビーズを使用した。そして、粉砕後の比表面積を原料混合粉の比表面積より2m2/g増加させた後、スプレードライヤーで乾燥させて得た混合粉を金型に充填しコールドプレス機にて加圧成形し、さらに酸素を流通させながら酸素雰囲気中1400°Cで2時間焼結した。焼結体密度5.9g/cm3のスパッタリングターゲット用の酸化物焼結体を得た。得られた焼結体中には、X線回折によりJCPDSカードNo. 38-1104のInGaZnO4の結晶が存在することが確認できる。また、ZnGa2O4で表されるスピネル構造が存在していると推定されるピーク(2θが30、36、57、63℃付近などのピーク)がわずかに見られる以外はInGaZnO4以外の金属酸化物のピークがほとんど観察されないことから、InGaZnO4を主成分とする焼結体が得られている。X線回折のチャートを図2に示した。
【0079】
(比較例2)
In23(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%) 、Ga23(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%) 及びZnO(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%)各粉末を、混合粉末中の含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=1:1:1になるように秤量した。秤量した粉末を、容量500mlのポリアミド容器に直径2ミリメートルのジルコニアビーズ200g を加え、フリッツジャパン社製遊星ボールミル装置を用いて1 時間湿式混合した。分散媒にはエタノールを用いた。各混合粉をアルミナるつぼ中、大気下、1000 ℃ で5時間仮焼した後、再び遊星ボールミル装置を用いて1時間解砕処理した。このようにして調製した假焼粉体を一軸加圧(100kg/cm2)によって直径20ミリの円板状に成形し、大気下、1400 ℃ で2 時間焼成して焼結体を得た。この焼結体をさらにアルゴン雰囲気下、880℃ で2 時間熱処理した。得られた焼結体中には、X線回折によりJCPDSカードNo. 38-1104のInGaZnO4の結晶が存在することが確認できる。また、比較例1同様にZnGa2O4で表されるスピネル構造が存在していると推定されるピークがわずかに見られる以外はInGaZnO4以外の金属酸化物のピークがほとんど観察されないことから、比較例1同様にInGaZnO4を主成分とする焼結体が得られている。また、X線回折から計算した格子間距離の変化や高輝度放射光を用いた構造解析から、Inの正四価元素よる置換は認められなかったと推定した。
【0080】
(比較例3)
In23(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%) 、Ga23(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%) 及びZnO(高純度化学研究所(株)社製、純度99.99%)各粉末を、混合粉末中の含有金属の原子比がIn:Ga:Zn=2:2:1になるように秤量した。秤量した粉末を、容量500mlのポリアミド容器に直径2ミリメートルのジルコニアビーズ200g を加え、フリッツジャパン社製遊星ボールミル装置を用いて1 時間湿式混合した。分散媒にはエタノールを用いた。各混合粉をアルミナるつぼ中、大気下、1000 ℃ で5時間仮焼した後、再び遊星ボールミル装置を用いて1時間解砕処理した。このようにして調製した假焼粉体を一軸加圧(100kg/cm2)によって直径20ミリの円板状に成形し、大気下、1400 ℃ で2 時間焼成して焼結体を得た。この焼結体をさらにアルゴン雰囲気下、880℃ で2 時間熱処理した。X 線回折を用いて生成物の構造解析を行い、JCPDSカードNo. 38-1097のIn2Ga2ZnO7で表される結晶形態が主成分である酸化物からなることを確認した。X線回折のチャートを図3に示した。
【0081】
[酸化物焼結体の評価]
・組成
実施例及び比較例の酸化物焼結体に含まれるインジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)、及び亜鉛元素(Zn)、正四価以上の金属元素(X)の元素の原子%は、ICP法を用い、元素比を求めた後、総和を100%として求めた。
【0082】
・結晶相
得られた酸化物焼結体の結晶構造を、X線回折により確認した。X線回折の測定条件は以下の通りである。
・装置:(株)リガク製Ultima−III
・X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
・2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
・サンプリング間隔:0.02°
・スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0083】
なお、代表的なX線回折のチャートとして、実施例1、比較例1及び比較例3のX線回折のチャートを図1〜3に示す。図1に示すように、実施例1の酸化物焼結体の結晶構造は、JCPDSカードNo. 38-1104のInGaZnO4(InGaO3(ZnO)1)及びJCPDSカードNo. 38-1097のIn2Ga2ZnO7と図1のチャートとを比較し、パターンが一致していることから、実施例1は、InMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnO4(InGaO3(ZnO)1)結晶相及び(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7結晶相を含む酸化物焼結体からなることが確認できる。
このチャートより、実施例及び比較例の結晶相のピーク強度比(%)を求めた。具体的には、上記X線回折で、InGaZnO4で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(1)、及びIn2Ga2ZnO7で表される酸化物結晶の最大ピーク強度をP(2)とし、ピーク強度比P(1)/P(2)を求めた。ここで、最大ピーク強度は、各結晶の同定されたJCPDSのパターンで最大強度となる角度の強度を最大ピーク強度とする。
【0084】
・外観
肉眼により観察し、ホワイトスポットが観察できる場合:×、ホワイトスポットが一部に観察できる場合:△、ホワイトスポットが観察できない場合:○と判断した。
【0085】
・相対密度
本発明の酸化物の相対密度は、原料粉の密度から計算した理論密度とアルキメデス法で測定した焼結体の密度から下記で計算
相対密度=(アルキメデス法で測定した密度)÷(理論密度)×100 (%)
・バルク抵抗
本発明の酸化物のバルク抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスタ)を使用し四探針法(JIS R 1637)に基づき測定、10箇所の平均値をバルク抵抗値とした。
なお、抵抗の均一性は、
・同一ターゲット表面10箇所のバルク抵抗を測定し、最大値と最小値の比(最大値/最小値)を測定した。その結果、均一性の良い方から順に、5以内:◎、10以内:○、20以内:△、20より大:×として、4段階で評価した。
【0086】
・ピンホール
ピンホールの数は、水平フェレー径を利用して評価した。具体的には、実施例及び比較例で得られた酸化物を粉砕し、破断面を♯2000サンドペーパーを用い回転研磨器により鏡面状態になるまで研磨を行い、倍率100倍にて当該破断面のSEM画像を得る。このSEM画像を2値画処理してピンホールを特定し、画像処理ソフト(粒子解析III:エーアイソフト社製)を用いて1mm×1mmに存在する水平フェレー径2μm以上のピンホール数をカウントした。
【0087】
評価結果を以下の表1及び表2にまとめる。
【表1】

【表2】

【0088】
[アモルファス酸化物薄膜の調製]
実施例及び比較例の酸化物を使用してDCスパッタリングによる連続成膜試験を行い、アモルファス酸化物薄膜を得た。具体的には、DCスパッタ法の一つであるDCマグネトロンスパッタリング法の成膜装置に装着し、ガラス基板(コーニング1737)上に半導体膜を成膜した。
ここでのスパッタ条件としては、基板温度;25℃、到達圧力;1×10-6Pa、雰囲気ガス;Ar99.5%及び酸素0.5%、スパッタ圧力(全圧);2×10-1Pa、投入電力100W、成膜時間8分間、S−T距離100mmとした。
【0089】
[酸化物の評価]
上記焼結体と同じ方法で焼結した大型スパッタリングターゲットを作製した。
DCスパッタリングによる連続成膜試験を行い、以下のように評価した。
・スパッタレート
スパッタレート(成膜速度)は、触針式表面形状測定器 Dectak(アルバック(株)社製)で測定した膜厚を成膜時間で割ることで求めた。
・異常放電(アーキング)発生頻度
3時間あたりに発生する異常放電回数を測定した。10回以下◎、20回以下○、50回以下△、50回超×として、4段階で評価した。
・パーティクル(発塵)量
チャンバー内にスライドガラスを設置し、96時間連続成膜後のスライドガラスに付着した1μm以上のパーティクルの密度を、顕微鏡を用いて計測した。
その結果、パーティクルが少ない方から順に、1個/cm2以内:◎、102個/cm2以内:○、104個/m2以内:△、104個/m2超:×として、4段階で評価した。
・ノジュール発生密度
96時間連続成膜後の成膜後のスパッタリングターゲットの写真からノジュールで被覆された面積を計算し、以下の式で発生密度を計算した。
ノジュール発生密度=ノジュール発生面積÷スパッタリングターゲット面積
その結果、ノジュールが少ない方から順に、10-4以内:◎、10-2以内:○、10-1以内:△、10-1超:×として、4段階で評価した。
・連続成膜安定性
連続20バッチ分における第1バッチと第20バッチの平均電界効果移動度の比(第1バッチ/第20バッチ)を測定した。その結果、TFT特性の再現性の良い方から順に、1.10以内:◎、1.20以内:○、1.50以内:△、1.50より大:×として、4段階で評価した。
【0090】
[薄膜トランジスタの調製]
上述のようにして得られた実施例及び比較例の酸化物をスパッタリングして得たアモルファス酸化物薄膜を、薄膜トランジスタのチャンネル層として用い、図5に示す薄膜トランジスタ(逆スタガ型TFT素子、以下TFTと省略することがある)を得た。具体的には、まず、基板として、ガラス基板(コーニング社製Corning1737)を準備した。この基板上に電子ビーム蒸着法により、厚さ5nmのTi(密着層)と厚さ50nmのAuと厚さ5nmのTiをこの順で積層した。積層した膜をフォトリソグラフィー法とリフトオフ法を用いることにより、ゲート電極を形成した。得られたゲート電極の上部表面に、厚さ200nmのSiO2膜をTEOS−CVD法により成膜し、ゲート絶縁膜を形成した。
続いて、RFスパッタ法により、実施例及び比較例で得られた酸化物焼結体をターゲットとして、チャネル層として厚さ30nmのアモルファス酸化物薄膜(In−Ga−Zn−O酸化物半導体)を堆積した。ここで、投入したRF電源の出力は200Wであった。成膜時は、全圧0.4Paとし、その際のガス流量比はAr:O2=95:5とした。また、基板温度は25℃であった。
堆積したアモルファス酸化物薄膜を用い、フォトリソグラフィー法とエッチング法を用いて、W=100μm、L=20μmの素子を作製した。得られた素子を大気圧下、300℃で60分間熱処理を行った。
熱処理後、それぞれの素子の上に厚さ5nmのTiと厚さ50nmのAuと厚さ5nmのTiをこの順で積層し、フォトリソグラフィー法とリフトオフ法により、ソース電極およびドレイン電極を形成し、薄膜トランジスタを得た。さらに素子の上にスパッタ法により保護膜としてSiO2膜を200nm堆積した。
【0091】
[評価]
移動度、S値、オンオフ比、TFT特性の再現性、TFT特性の均一性を評価し、表にまとめた。
なお、評価は下記の方法で行った。
・移動度・オンオフ比・オフ電流(pA)・S値・Vth(V)
半導体パラメーターアナライザー(ケースレー4200)を用い、ドライ窒素中・室温・遮光環境下で移動度・オンオフ比・オフ電流(pA)・S値を測定した。
尚、S値(Swing Factor)とは、オフ状態からゲート電圧を増加させた際に、オフ状態からオン状態にかけてドレイン電流が急峻に立ち上がるが、この急峻さを示す値である。下記式で定義されるように、ドレイン電流が1桁(10倍)上昇するときのゲート電圧の増分をS値とする。
S値=dVg/dlog(Ids)
S値が小さいほど急峻な立ち上がりとなる(「薄膜トランジスタ技術のすべて」、鵜飼育弘著、2007年刊、工業調査会)。
・Vth変動
ゲートに15Vの電圧を印加し、50℃の環境下で24時間駆動したときのVthの変化量を半導体パラメーターアナライザーで測定し、Vth変動とした。
また、移動度のばらつきは、20個のTFTサンプルの上記移動度の平均と標準偏差を求め、平均に対する標準偏差から求めた。
【符号の説明】
【0092】
1 基板
2 ゲート電極
3 ゲート絶縁膜
4 チャネル層
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 保護膜
11 基板
12 ゲート電極
13 ゲート絶縁膜
14 チャネル層
15 ソース電極
16 ドレイン電極
17 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種以上のホモロガス結晶構造を含む酸化物焼結体からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記ホモロガス結晶構造が、InMO3(ZnO)m型結晶構造及び(YbFeO32FeO型結晶構造の二種類を含む、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化物焼結体が、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)を含み、前記ホモロガス結晶構造が、InGaO3(ZnO)m1型結晶構造及びInGaO3(ZnO)m2型結晶構造(但し、m1とm2は異なる)の二種類を含む、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記酸化物焼結体が、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)を含み、前記酸化物焼結体が、InMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相と、(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7の結晶相とを含む、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
X線回折における前記InGaZnO4の結晶相の最大ピーク強度P(1)と、前記In2Ga2ZnO7の結晶相の最大ピーク強度P(2)とが、ピーク強度比P(1)/P(2)=0.05〜20を満たす、請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記酸化物焼結体が、インジウム元素(In)、ガリウム元素(Ga)及び亜鉛元素(Zn)を含み、前記酸化物焼結体が、InMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnO4の結晶相と、InMO3(ZnO)m型の結晶構造を示すInGaZn25の結晶相とを含む、請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記酸化物焼結体が、正四価以上の金属元素(X)を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記正四価以上の金属元素(X)が、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム、セリウム、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン及びチタンからなる群から選ばれた1種以上の元素である、請求項7に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記酸化物焼結体が、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換されたInMO3(ZnO)m型結晶構造を示すInGaZnm3+mの結晶相、又は、In若しくはGaの一部が前記正四価以上の金属元素で置換された(YbFeO32FeO型結晶構造を示すIn2Ga2ZnO7の結晶相を含む、請求項7又は8に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
(a)原料酸化物粉末を混合する工程;
(b)得られた混合物を成形する工程;及び
(c)得られた成形体を焼成する工程、
を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットの調製方法。
【請求項11】
(i)請求項1〜9のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲットを用い、25〜450℃の成膜温度下でスパッタリングを行う工程、
を含む、電子キャリアー濃度が1018/cm3未満のアモルファス酸化物薄膜の形成方法。
【請求項12】
前記アモルファス酸化物薄膜が、薄膜トランジスタのチャネル層として用いられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アモルファス酸化物薄膜と酸化物絶縁体層とを含む薄膜トランジスタの製造方法であって、
(ii)請求項11で形成されたアモルファス酸化物薄膜を、酸化雰囲気中で熱処理する工程;及び
(iii)前記熱処理したアモルファス酸化物薄膜上に酸化物絶縁体層を形成する工程、
を含むことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項14】
In、Ga、Znを原子比で下記の範囲で有することを特徴とする請求項1〜9に記載のスパッタリングターゲット。
0.1≦In/(In+Ga+Zn)≦0.9
0.05≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.6
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.9
【請求項15】
In、Ga、Znを原子比で下記の割合で混合することを特徴とする請求項10に記載のスパッタリングターゲットの調製方法。
0.1≦In/(In+Ga+Zn)≦0.9
0.05≦Ga/(In+Ga+Zn)≦0.6
0.05≦Zn/(In+Ga+Zn)≦0.9
【請求項16】
1440〜1600℃、0.5〜15時間で焼結することを特徴とする請求項10又は15に記載のスパッタリングターゲットの調製方法。
【請求項17】
酸素ガス雰囲気下で焼結することを特徴とする請求項10、15又は16に記載のスパッタリングターゲットの調製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4(a)】
image rotate

【図4(b)】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−108181(P2013−108181A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−288869(P2012−288869)
【出願日】平成24年12月28日(2012.12.28)
【分割の表示】特願2010−513067(P2010−513067)の分割
【原出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】