説明

スパッタリングターゲットの製造方法

【課題】 割れ難く機械加工ができる程度まで密度を向上させることができるCo、Taおよび希土類金属を含有する膜を形成するためのスパッタリングターゲットの製造方法を提供すること。
【解決手段】 希土類金属をRとしてR:5〜10原子%、Ta:5〜10原子%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなるターゲット組成となる割合で、CoとRとの合金粉末であるR−Co合金粉と、Ta粉と、の混合粉末を作製する工程と、該混合粉末を真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクの高密度磁気記録媒体に適用される磁気記録膜等を形成するためのスパッタリングターゲットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置は、一般にコンピューターやデジタル家電等の外部記録装置として用いられており、記録密度の一層の向上が求められている。そのため、近年、従来のグラニュラー構造の磁気記録膜を大幅に超える記録密度が得られるビットパターンドメディアと呼ばれる記録媒体技術が検討されている。このビットパターンドメディアは、ナノスケールの微細な磁性体ドットを複数配置することで高密度化を図るものである。
【0003】
このビットパターンドメディアにおける磁性層として種々の材料が検討されているが、そのうちの一つとして例えばCo、Taおよび希土類金属を含有する膜が検討されている。この膜を形成するためのスパッタリングターゲットとして、例えば特許文献1には、複数の金属材料の組み合わせが記載されている中の一つとしてCo、Taおよび希土類金属を含有するターゲットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−77323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、Co、Taおよび希土類金属を含有するターゲットを作製するには、CoとTaと希土類金属との3元系合金粉末を成型して焼結させる方法が考えられるが、この製法であると、密度が低く、機械加工ができる程度まで密度を上げることが困難という不都合があった。なお、上記特許文献1には、ターゲットを形成するための具体的な製造方法について特に記載が無い。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、ターゲット材の密度を向上させることにより機械加工における割れを防止することができるCo、Taおよび希土類金属を含有する膜を形成するためのスパッタリングターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Co、Taおよび希土類金属を含有する膜を形成するためのスパッタリングターゲットの製造方法について研究を進めたところ、3元系合金粉末ではなく、Coと希土類金属との2元系合金粉末と、単体金属のTa粉末と、の混合粉末を用いることで、高密度なターゲットを形成することができることを突き止めた。
【0008】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、希土類金属をRとしてR:5〜10原子%、Ta:5〜10原子%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなるターゲット組成となる割合で、CoとRとの合金粉末であるR−Co合金粉と、Ta粉と、の混合粉末を作製する工程と、該混合粉末を真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程と、を有していることを特徴とする。
【0009】
このスパッタリングターゲットの製造方法では、希土類金属をRとすると、2元系合金のR−Co合金粉と、単体金属のTa粉と、の混合粉末をホットプレスすると、R−Co合金中のCoが、ホットプレス中にR−Co合金粉表面に拡散し、隣接するTaと反応し、CoTa合金相が形成され、作製されたターゲットの組織が、R−Co合金相、CoTa合金相およびCoTa合金相で被覆された部分的に未反応のTa単体相の3相で構成される。したがって、R−Co合金相とTa単体相との間にCoTa合金相が介在することで、空孔やパーティクルが生じ難くなると共に割れ難く、機械加工ができる程度まで密度を向上させることができる。
【0010】
なお、作製するターゲット組成における希土類金属Rの含有量を上記範囲に設定した理由は、5原子%未満であると、充分なPTF(漏れ磁束密度)が得られず、10原子%を超えると、ターゲットの耐食性に問題が生じるおそれがあるためである。
また、作製するターゲット組成におけるTaの含有量を上記範囲に設定した理由は、5原子%未満の場合および10原子%を超える場合、充分な密度が得られず、材質的に脆くなって機械加工が困難になるためである。
【0011】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、前記R−Co合金粉と前記Ta粉との平均粒径が、30〜40μmであることが好ましい。
このように、R−Co合金粉とTa粉との平均粒径を上記範囲とした理由は、30μm未満であると、不純物酸素濃度が増大するためであり、40μmを超えると、機械加工ができる程度まで密度を上げることが困難になるためである。
【0012】
また、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、前記Rが、Tbであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法によれば、希土類金属をRとすると、2元系合金のR−Co合金粉と、単体金属のTa粉と、の混合粉末をホットプレスするので、R−Co合金相とTa単体相との間にCoTa合金相が介在することで、空孔やパーティクルが生じ難くなると共に割れ難く、機械加工ができる程度まで密度を向上させることができる。
したがって、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法により作製したターゲットを用いてスパッタリングにより磁気記録媒体膜を成膜することで、高い生産性をもって高密度磁気記録媒体に適用される良好な磁気記録膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態において、作製したターゲットの断面組織を示す模式図である。
【図2】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の実施例において、ターゲットの断面組織を倍率を変えて測定した二次電子像および組成像(COMPO像)である。
【図3】本発明に係る実施例において、ターゲットの断面組織を倍率を変えて測定した二次電子像および組成像(COMPO像)である。
【図4】本発明に係る実施例において、ターゲットの断面組織をEPMA(電子線マイクロプローブアナライザ)により測定した各元素の元素分布像である。
【図5】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の比較例において、ターゲットの断面組織を倍率を変えて測定した二次電子像および組成像(COMPO像)である。
【図6】本発明に係る比較例において、ターゲットの断面組織を倍率を変えて測定した二次電子像および組成像(COMPO像)である。
【図7】本発明に係る比較例において、ターゲットの断面組織をEPMAにより測定した各元素の元素分布像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態を、図1を参照して説明する。
【0016】
本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法は、例えば磁気記録媒体膜形成用のターゲットを作製する方法であって、希土類金属をRとしてR:5〜10原子%、Ta:5〜10原子%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなるターゲット組成となる割合で、CoとRとの合金粉末であるR−Co合金アトマイズ粉と、Ta粉と、の混合粉末を作製する工程と、該混合粉末を真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程と、を有している。
【0017】
なお、上記R−Co合金アトマイズ粉とTa粉との平均粒径が、30〜40μmであることが好ましい。
また、希土類金属Rは、例えばTbが採用されるが、Tb,Gd,Dy,Ho,TmおよびErのうちの1種または2種以上からなる希土類金属が採用可能である。
【0018】
この製法の一例について詳述すれば、例えば、まず所定組成割合のR−Co合金アトマイズ粉をガスアトマイズにより作製し、平均粒径が30〜40μmとなるように所定メッシュの篩いでふるって、篩い下の粉末を回収する。
また、同様にメッシュの篩いを用いて、平均粒径30〜40μmのTa粉を用意する。
【0019】
次に、このR−Co合金アトマイズ粉とTa粉とを所定のターゲット組成となるように秤量し、これらを容器に粉砕媒体となる5mmφのジルコニアボール等と共に投入し、この容器をボールミルにより、例えばArガス雰囲気中で16時間回転させ、原料を混合して混合粉末とする。
【0020】
次に、得られた混合粉末を真空ホットプレスにより成型焼結し、さらに機械加工により所定サイズの焼結体を得る。なお、上記真空ホットプレスは、例えば1000℃で3時間、350kg/cmの圧力で行う。
こうして得られた焼結体を、バッキングプレートに接合してターゲットとする。
【0021】
このホットプレスによる高密度、高強度化は、次のようなメカニズムによって行われていると考えられる。例えば、希土類金属RにTbを採用した場合、まず、Taはホットプレス温度で軟化して、硬質のCoTb粉の間の空隙を充填していく。次に、ホットプレス温度に保持すると、CoTb中のCoが表面に拡散し、CoTa合金相を形成し、CoTb粒子同士を拡散接合する。また、硬質のCoTb間をTaが充填し、空隙を減少させ、さらにホットプレス温度で保持することによりCoTb中のCoが表面拡散し、隣接するTaと合金化することによりCoTb粒子同士を結合し、強度を高める。また、CoTb粒子同士もホットプレス温度で保持することにより相互に拡散し、接合する。したがって、Taによる空隙の充填、CoTa合金相の形成およびCoTb同士の結合によってターゲット密度は向上し、また強度が高まる。
【0022】
このように本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、希土類金属をRとすると、2元系合金のR−Co合金アトマイズ粉と、単体金属のTa粉と、の混合粉末をホットプレスすると、図1に示すように、R−Co合金中のCoが、ホットプレス中にR−Co合金粉表面に拡散し、隣接するTaと反応し、CoTa合金相1が形成され、作製されたターゲットの組織が、R−Co合金相2、CoTa合金相1およびCoTa合金相1で被覆された部分的に未反応のTa単体相3の3相で構成される。したがって、R−Co合金相2とTa単体相3との間にCoTa合金相1が介在することで、空孔やパーティクルが生じ難くなると共に割れ難く、機械加工ができる程度まで密度を向上させることができる。
【実施例1】
【0023】
次に、上記実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法に基づき作製した実施例により、実際に評価した結果を図2から図7を参照して説明する。
【0024】
まず、上述した本実施形態の製法に基づいて、希土類金属RとしてTbを採用し、CoとTbとの合金粉末であるCo93Tb8(原子%)アトマイズ粉を作製し、平均粒径が30〜40μmとなるように所定メッシュの篩いでふるって、篩い下の粉末を回収した。同様にメッシュの篩いを用いて、平均粒径30〜40μmのTa粉を用意し、原子%でCo93Ta9Tb8となるように、粉末を混合し、真空雰囲気中でホットプレスして本実施例のCoTaTbターゲットを作製した。
また、比較例として、3元系合金粉末であるCo93Ta9Tb8(原子%)アトマイズ粉を、上記と同様に真空雰囲気中でホットプレスしてCoTaTbターゲットを作製した。
【0025】
本実施例のターゲットの断面組織をEPMA(電子線マイクロプローブアナライザ)により測定した二次電子像および組成像(COMPO像)を、図2および図3に示す。また、この本実施例のターゲットの断面組織をEPMAにより測定した各元素の元素分布像を、図4に示す。
【0026】
また、比較例のターゲットの断面組織についても、本実施例と同様に、EPMAにより測定した二次電子像、組成像(COMPO像)および各元素の元素分布像を、図5から図7に示す。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、白黒像に変換して記載しているため、濃淡の淡い部分(比較的白い部分)が所定元素の濃度が高い部分となっている。
【0027】
これらの測定結果から、比較例のターゲット組織は、空孔が多いと共に、全体が3元系合金相であるCoTaTb合金相で構成されているのに対し、本実施例のターゲット組織は、空孔が無く、緻密な組織になっていると共に、CoTb合金相の素地中にCoTa合金相に覆われたTa単体相が均一に分散された組織となっていることがわかる。
【0028】
また、本実施例と比較例とについて、密度比を測定したところ、比較例が87.8%であったところ、本実施例では、97.1%であり、大幅に密度が向上し、容易に機械加工できた。
なお、密度比は、以下のように定義して測定した。
密度比の定義=(ρの測定値/ρの計算値)
ρの計算値=100/〔(Feの重量%)/(Feの密度)+(Ptの重量%)/(Ptの密度)+(SiOの重量%)/(SiOの密度)〕
なお、本実施例は、漏れ磁束密度(PTF)も良好な値が得られている。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…CoTa合金相、2…R−Co合金相、3…Ta単体相

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属をRとしてR:5〜10原子%、Ta:5〜10原子%を含有し、残部:Coおよび不可避不純物からなるターゲット組成となる割合で、CoとRとの合金粉末であるR−Co合金粉と、Ta粉と、の混合粉末を作製する工程と、
該混合粉末を真空または不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程と、を有していることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記R−Co合金粉と前記Ta粉との平均粒径が、30〜40μmであることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記Rが、Tbであることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−208168(P2011−208168A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73958(P2010−73958)
【出願日】平成22年3月28日(2010.3.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】