説明

スピントルク発振子および磁気記録装置

【課題】本発明の目的は、発振のための臨界電流密度が低下したスピントルク発振子を提供することである。
【解決手段】発振層と、スピン注入層と、それらの間に設けられた中間層とを含むスピントルク発振子であって、前記スピン注入層は前記中間層に接して設けられた第1層と前記第1層に接して設けられた第2層とを含み、前記第1層は(001)面配向したホイスラー磁性合金または(001)面配向した体心立方格子(bcc)構造を有する磁性体を含むスピントルク発振子が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、スピントルク発振子およびそれを用いた磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のスピントルク発振子として、発振層、中間層およびスピン注入層を含むスピントルク発振子が存在する。このようなスピントルク発振子において、スピントルク発振を開始するための駆動電流密度、すなわち臨界電流密度を下げることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−80650号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature Materials 6 (6), pp.447-453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、発振のための臨界電流密度が低下したスピントルク発振子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、発振層と、スピン注入層と、それらの間に設けられた中間層とを含むスピントルク発振子であって、前記スピン注入層は前記中間層に接して設けられた第1層と前記第1層に接して設けられた第2層とを含み、前記第1層は(001)面配向したホイスラー磁性合金または(001)面配向した体心立方格子(bcc)構造を有する磁性体を含むスピントルク発振子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1の実施形態に係るスピントルク発振子を示す図。
【図2】第2の実施形態に係るスピントルク発振子を示す図。
【図3】実施形態に係る磁気記録装置を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
【0009】
(スピントルク発振子)
図1は、第1の実施形態に係るスピントルク発振子を含む磁気記録ヘッドを媒体対向面から見た図である。図1によれば、主磁極10とトレーリングシールド17との間に、第1の実施形態に係るスピントルク発振子100が設けられている。スピントルク発振子100は、主磁極10側から、下地層11、バッファ層12、スピン注入層13、中間層14、発振層15およびキャップ層16がこの順に積層された構造となっている。さらに、スピン注入層13は、中間層14との界面側に第1層2を含み、第1層2とバッファ層12との間に第2層1を含む。
【0010】
図1に示される第1の実施形態に係るスピントルク発振子100では、具体的には、主磁極10の側から、厚さ15nmのTaから成る下地層11、厚さ5nmの(001)面配向したAl−Ni合金から成るバッファ層12、厚さ10nmの(001)面配向したFe−Pt合金から成るスピン注入層13の第2層1、厚さ3nmの(001)面配向したCoMnSi合金から成るスピン注入層13の第1層2、厚さ2nmのCuから成る中間層、厚さ15nmのFe−Co合金から成る発振層15および厚さ2nmのTaから成るキャップ層16が積層されている。図1によるスピントルク発振子100では、スピン注入層13の第1層2としてホイスラー磁性合金が使用されている。
【0011】
図2は、第2の実施形態に係るスピントルク発振子100を含む磁気記録ヘッドを媒体対向面から見た図である。図1と同様に、主磁極10とトレーリングシールド17との間に、第2の実施形態に係るスピントルク発振子100が設けられている。第2の実施形態に係るスピントルク発振子100では、主磁極10の側から、厚さ15nmのNi−Ta合金から成る下地層11、厚さ5nmの(001)面配向したCrから成るバッファ層12、厚さ10nmの(001)面配向したFe−Pt合金から成るスピン注入層13の第2層1、厚さ3nmの(001)面配向した体心立方格子(bcc)構造を有するFe−Co合金から成るスピン注入層13の第1層3、厚さ2nmのCuから成る中間層、厚さ15nmのFe−Co合金から成る発振層15および厚さ2nmのTaから成るキャップ層16が積層されている。図2によるスピントルク発振子100ではスピン注入層13の第1層3が体心立方格子(bcc)構造を有する磁性体であるFe−Co合金から成っている。
【0012】
図1および図2には、スピン注入層13においてスピンが膜面垂直方向に固定されている様子、および発振層15においてスピンが歳差運動する様子が模式的に示される。主磁極10およびトレーリングシールド17は、スピントルク発振子100に対してギャップ磁界を印加すると同時に、スピントルク発振子100に対して電流を流す。この電流により、スピン注入層13から発振層15にスピンが注入され、これによってスピンが歳差運動し、高周波磁界が生じる。この高周波磁界を磁気記録媒体に印加することで、当該部位の保磁力が低下し、書き込みのために必要となる記録磁界の強度が低下する。
【0013】
さらに、第1の実施形態または第2の実施形態に係るスピントルクの場合、スピン注入層13の第1層が、それぞれ(001)面配向したホイスラー磁性合金または(001)面配向した体心立方格子(bcc)構造を有する磁性体を含むため、スピン注入層13の磁化が安定化し、偏極率が向上する。その結果、スピントルク発振の臨界電流密度を下げることができる。なお、本願における「(001)面配向」という表現は、積層方向に垂直な面に対して結晶の(001)面を向けていることを意味する。
【0014】
スピン注入層13の第1層は、(001)面配向したホイスラー磁性合金または(001)面配向した体心立方格子(bcc)構造を有する磁性体である。ホイスラー磁性合金を用いる場合、CoMnSi、CoMnAl、CoMnGe、CoCrFeAl等を使用できる。bcc構造を有する磁性体を用いる場合、Fe、CoおよびNiの少なくともどれか1つを含むbcc構造を有する磁性合金を使用でき、例えばFe−Co合金を使用できる。また、bcc構造を有する磁性合金として、組成比でFeが25at.%以上で含まれる合金を使用することが好ましい。良好に(001)面配向した膜を形成するために、第1層の層厚は3nm以上であることが好ましい。
【0015】
スピン注入層13の第2層1は、垂直磁気異方性を有する磁性体で形成され、特に(001)面配向した垂直磁気異方性を有する磁性体であることが好ましい。また、第2層1はL1規則化構造を有する磁性体であることが好ましい。第2層1を(001)面配向した磁性体とすることで、その上に第1層を形成する際に、(001)面配向させることが容易となる。第2層1として、Fe−Pt合金、Fe−Pd合金、Co−Pt合金、Co−Pd合金等を使用することができる。これらは50:50の合金であることが好ましい。第2層1は、安定した磁気特性を得るために5nm以上とすることが好ましい。
【0016】
バッファ層12として、金属から成る層を設けることができる。バッファ層12は、下地層11と第2層1との間に設けられる。バッファ層12はbcc構造を有することが好ましい。また、バッファ層12は、(001)面配向したCrまたは(001)面配向したAl−Ni合金とすることが好ましい。(001)面配向した材料から成るバッファ層12を設けることで、その上に第2層1を形成する際に、(001)面配向させることが容易となる。バッファ層12の厚さは5〜30nmとすることが好ましい。
【0017】
下地層11として金属から成る層を設けることができる。下地層11は主磁極10とバッファ層12の間に設けられる。下地層11はアモルファス構造を有することが好ましい。また、下地層11は、Taとするか、またはTa、NbもしくはZrとNiとを含む合金とすることが好ましい。下地層11としてこのような材料を使用することで、その上に(001)面配向したbcc構造を有するバッファ層12を形成することが容易となる。下地層11の厚さは10〜30nmとすることが好ましい。
【0018】
発振層15は、磁性金属により形成され、好ましくは高Bs軟磁性材料により形成される。例えば、Fe、CoおよびNiの少なくとも1つを含む金属磁性体を使用することができる。典型的な、発振層15の例はFe−Co合金である。発振層15では磁化が歳差運動を行い、その磁化のもたらす双極子磁場によって高周波磁界が発生する。発振層15の厚さは5〜20nmとすることが好ましい。
【0019】
中間層14は、主としてスピン透過率の高い非磁性材料によって形成され、例えばCu、AuまたはAg等によって形成される。中間層14の厚さは2〜3nmとすることが好ましい。
【0020】
キャップ層16として、金属材料から成る層を設けることができる。キャップ層16は発振層15とトレーリングシールド17との間に設けられ、それらを電気的に接続する役割を担う。例えば、キャップ層16として厚さ2〜20nmのTaを用いることができる。
【0021】
主磁極10は磁性金属材料から成る。主磁極10は、高透磁率金属材料とすることが好ましく、例えば、Fe、CoおよびNiから成る群から選択される金属の合金から成る。主磁極10は、磁気記録媒体に対して記録磁界を印加するとともに、スピントルク発振子100に対して駆動電流を流すための電極となる。
【0022】
トレーリングシールド17は磁性金属材料から成る。トレーリングシールドは、主磁極10を出て、磁気記録媒体を通った磁界を戻す役割を担う。同時に、主磁極10とともにスピントルク発振子100に対して駆動電流を流すための電極となる。
【0023】
実施形態に係るスピントルク発振子100は、少なくともスピン注入層13、中間層14および発振層15を含み、任意に下地層11、バッファ層12およびキャップ層16を含む。また、これら以外の層を適宜設けることができる。
【0024】
(磁気記録装置)
図3は、実施形態に係るスピントルク発振子を含む磁気記録ヘッドを搭載した磁気記録装置150を示す斜視図である。
【0025】
図3に示すように、磁気記録装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。磁気記録媒体200は、スピンドルモータ140に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。磁気記録装置150は、複数の磁気記録媒体200を備えたものでもよい。
【0026】
磁気記録媒体200に対して情報の記録再生を行うヘッドスライダー130は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダー130の先端付近には実施形態に係る磁気記録ヘッド100が設けられている。磁気記録媒体200が回転すると、サスペンション154による押付け圧力とヘッドスライダー130の媒体対向面(ABS)で発生する浮力とがつりあい、ヘッドスライダー130の媒体対向面は、磁気記録媒体200の表面から所定の浮上量をもって保持される。
【0027】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とから構成することができる。アクチュエータアーム155は、ピボット157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッドを磁気記録媒体200の任意の位置にアクセスできる。
【実施例】
【0028】
(実施例)
実施例として、図2に示すスピントルク発振子100を作製し、スピントルク発振のための臨界電流密度を調べた。
【0029】
主磁極10に対して、厚さ15nmのNi−Ta合金から成る下地層11、厚さ5nmの(001)面配向したCrから成るバッファ層12、厚さ10nmの(001)面配向したFe−Pt合金から成るスピン注入層13の第2層1、厚さ3nmのFe−Co合金から成るスピン注入層13の第1層3、厚さ2nmのCuから成る中間層、厚さ15nmのFe−Co合金から成る発振層15および厚さ2nmのTaから成るキャップ層16を積層し、最後にトレーリングシールド17を形成した。
【0030】
製造したスピントルク発振子100についてX線回折測定を行った結果、Fe−Co合金から成る第1層3は(001)面配向したbcc構造を有することが確認された。
【0031】
さらに、製造したスピントルク発振子100について、発振層を発振させる際の臨界電流密度を測定した。その結果、10A/cmオーダーの値が得られた。
【0032】
(比較例)
比較例として、図2と同様な構造のスピントルク発振子を作製した。このスピントルク発振子では、スピン注入層13の第2層1としてCo80Pt20合金を用いた。
【0033】
すなわち、主磁極10に対して、厚さ15nmのNi−Ta合金から成る下地層11、厚さ5nmの(001)面配向したCrから成るバッファ層12、厚さ10nmのCo80Pt20合金から成るスピン注入層13の第2層1、厚さ3nmのFe−Co合金から成るスピン注入層13の第1層3、厚さ2nmのCuから成る中間層、厚さ15nmのFe−Co合金から成る発振層15および厚さ2nmのTaから成るキャップ層16を積層し、最後にトレーリングシールド17を形成した。
【0034】
製造したスピントルク発振子100についてX線回折測定を行った結果、Fe−Co合金から成る第1層3は(110)面配向したbcc構造を有することが確認された。
【0035】
さらに、製造したスピントルク発振子について発振層を発振させる際の臨界電流密度を測定した。その結果、10A/cmオーダーの値が必要となることがわかった。すなわち、実施例と比較して高い値となった。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1…第2層、2、3…第1層、10…主磁極、11…下地層、12…バッファ層、13…スピン注入層、14…中間層、15…発振層、16…キャップ層、17…トレーリングシールド、100…スピントルク発振子、200…磁気記録媒体、130…ヘッドスライダー、140…スピンドルモータ、150…磁気記録装置、154…サスペンション、155…アクチュエータアーム、156…ボイスコイルモータ、157…ピボット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振層と、スピン注入層と、それらの間に設けられた中間層とを含むスピントルク発振子であって、前記スピン注入層は前記中間層に接して設けられた第1層と前記第1層に接して設けられた第2層とを含み、前記第1層は(001)面配向したホイスラー磁性合金または(001)面配向した体心立方格子(bcc)構造を有する磁性体を含むスピントルク発振子。
【請求項2】
前記スピン注入層の第2層は(001)面配向した垂直磁気異方性を有する磁性体を含む請求項1に記載のスピントルク発振子。
【請求項3】
前記スピン注入層の第2層に接して設けられたバッファ層をさらに含み、前記バッファ層は(001)面配向したCrまたは(001)面配向したAl−Ni合金を含む請求項2に記載のスピントルク発振子。
【請求項4】
前記バッファ層に接して設けられた下地層をさらに含み、前記下地層はアモルファス構造を有し、且つTaを含むか、またはTa、NbもしくはZrとNiとを含む合金を含む請求項3に記載のスピントルク発振子。
【請求項5】
請求項1に記載のスピントルク発振子を含む磁気記録ヘッドを含む磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−114364(P2012−114364A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263981(P2010−263981)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】