スフィンゴシンキナーゼを含む細胞活性を調整する方法、および調整するための物質、ならびにスフィンゴシンキナーゼ変種
本発明は一般的に、細胞活性を調整する方法およびそこで用いられる物質に関する。より詳しく述べると、本発明は、細胞膜に対するスフィンゴシンキナーゼの細胞内転位を調整することによって、細胞活性を調整する方法を提供する。関連する局面において、本発明は、その細胞内転位の調整を通してスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法、およびそこで用いられる物質を提供する。本発明はなお、転位を受ける能力の消失または低減を示すスフィンゴシンキナーゼ変種、ならびにその機能的誘導体、相同体、および類似体にさらに拡大されるであろう。本発明の方法および分子は、とりわけ、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞機能的活性、および/または異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする病態の処置および/または予防において有用である。本発明はさらに、スフィンゴシンキナーゼ細胞内転位を調整することができる物質を同定および/または設計するための方法を対象とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般的に、細胞活性を調整する方法およびそのために用いられる物質に関する。より詳しく述べると、本発明は、細胞膜に対するスフィンゴシンキナーゼの細胞内転位を調整することによって、細胞活性を調整する方法を提供する。関連する局面において、本発明は、その細胞内転位の調整を通してスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法、およびそのために用いられる物質を提供する。本発明はなおさらに、転位を受ける能力の消失または低減を示すスフィンゴシンキナーゼ変種、ならびにその機能的誘導体、相同体、および類似体に及ぶ。本発明の方法および分子は、中でも異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞機能的活性、および/または異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする病態の処置および/または予防において有用である。本発明はさらに、スフィンゴシンキナーゼの細胞内転位を調整することができる物質を同定および/または設計するための方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本明細書において著者らによって言及された刊行物の引用文献の詳細は、説明の末尾にアルファベット順に集めている。
【0003】
本明細書における任意の先行技術に対する言及は、先行技術がオーストラリアにおける共通の一般的知識の一部を形成するという認知、またはいかなる形態の示唆でもなく、かつ、そのように解釈すべきではない。
【0004】
スフィンゴシンキナーゼは、細胞生長、生存、分化、運動、および細胞骨格構築を含む、多様な範囲の細胞プロセスを調節する生物活性脂質であるスフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)の形成を触媒する(Pyne et al., 2000, Biochem. J. 349:385〜402;Spiegel et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:25851〜25854)。これらの細胞プロセスのいくつかは、S1P-特異的Gタンパク質共役受容体5個によって媒介される(Kluk et al., 2002, Biochim. Biophys. Acta. 1582:72〜80;Spiegel et al., 2002, Trends Cell. Biol. 12:236〜242)が、他の効果は細胞内S1Pによって制御されているようだ。
【0005】
S1Pは、様々な細胞タイプにおいて分裂促進性であり、以下を含む広範囲の重要な調節経路を誘発する:イノシトール三燐酸非依存的経路による細胞内カルシウムの動員(Mattie, M. et al.(1994)J. Biol. Chem. 269, 3181〜3188)、ホスホリパーゼDの活性化(Desai et al., 1992, J. Biol. Chem. 267, 23122〜23128)、c-Jun N-ターミナルキナーゼ(JNK)の阻害(Cuvilliver et al. 1998, J Biol Chem 273, 2910〜2916)、カスパーゼの阻害(Cuvilliver et al. 1998、前記)、接着分子発現(Xia et al, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14196〜14201)、ならびにNF-κB(Xia et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:7996〜8003)および転写因子活性化タンパク質-1(AP-1)(Su et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 16512〜16517)のDNA結合活性の刺激。
【0006】
細胞S1Pレベルは、スフィンゴシンキナーゼの活性によって大きく媒介され、S1Pリアーゼ(Van Veldhoven et al., 2000, Biochim Biophys Acta 1487, 128〜134)およびS1Pホスファターゼ(Mandala et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 7859〜7964)活性によるその分解によってより低い程度に媒介される。細胞におけるS1Pの基礎レベルは一般的に低いが(Spiegel et al, 1998, Ann N Y Acad Sci 845, 11〜18)、細胞を様々な分裂促進物質に曝露すると急速かつ一過性に増加しうる。この反応は、サイトゾルにおけるスフィンゴシンキナーゼ活性が増加した直接の結果であり、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を加えることによって阻止することができる。これによって、スフィンゴシンキナーゼおよびその活性化は、細胞においてS1Pに帰因する観察された効果を媒介するための中心的な不可避の役割を果たす。しかし、現在のところ、スフィンゴシンキナーゼ活性化に至るメカニズムに関してはほとんど何もわかっていない。
【0007】
スフィンゴシンキナーゼは、広く多様な細胞アゴニストによって非常に急速に活性化されうる。反応は細胞タイプによって異なるが、これらの刺激には、TNFα(Xia et al. 1998、前記;Pitson et al., 2000, Biochem. J. 350:429〜441)(図1)、血小板由来増殖因子(Olivera et al., 1993, Nature 365, 557〜560)、上皮細胞増殖因子(Meyer zu Heringdorf et al., 1998, EMBO J 17, 2830〜2838)、神経生長因子(Rius et al., 1997, FEBS Lett 417, 173〜176)、ビタミンD3(Kleuser et al., 1998, Cancer Res. 58, 1817〜1823)、ホルボルエステル(Pitson et al. 2000、前記;Buehrer et al. 1996)、アセチルコリン(ムスカリンアゴニスト)(Meyer zu Heringdorf et al., 1998、前記)、および免疫グロブリン受容体FcεR1(Choi et al., 1996, Nature 380, 634〜639)とFcγR1(Melendez et al., 1998, J Biol Chem 273, 9393〜9402)とのクロスリンクが含まれる。全ての場合において、このスフィンゴシンキナーゼ活性化は、反応のVmaxを増加させるが、基質親和性(Km)は変化させないままである。
【0008】
二つのヒトスフィンゴシンキナーゼイソ型(1および2)が存在し、これらはその組織分布、発達的発現、触媒特性において、および多少その基質特異性において異なる(Pitson et al. 2000、前記;Liu et al., 2000, J. Biol. Chem. 275:19513〜19520)。多くの試験が、細胞増殖の増強およびアポトーシスの抑制におけるスフィンゴシンキナーゼ1の効果を示している(Olivera et al., 1999, J. Cell Biol. 147:545〜558;Xia et al., 2000, Curr. Biol. 10:1527〜1530;Edsall et al., 2001, J. Neurochem. 76:1573〜1584)。さらに、NIH3T3線維芽細胞におけるヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)の過剰発現によって、トランスフォームした表現型およびヌードマウスにおける腫瘍形成能の獲得が起こり、このことは、この酵素の腫瘍形成能を証明している(Xia et al., 2000、前記)。より最近の研究は、乳房腫瘍細胞の生長および生存のエストロゲン依存的調節においてhSK1が関係していることを示している(Nava et al., 2002, Expt. Cell Res. 281:115〜127;Sukocheva et al., 2003, Mol. Endocrinol. 17:2002〜2012)が、他の研究は、多様なヒト固形腫瘍におけるhSK1 mRNAの上昇およびスフィンゴシンキナーゼ阻害剤によるインビボでの腫瘍生長の阻害を示している(French et al., 2003, Cancer Res. 63:5962〜5969)。
【0009】
このように、細胞生長、生存、および腫瘍形成にhSK1が関係していることは現在では十分に確立されている。しかし、それによってhSK1がこれらの効果を生じるメカニズムはあまり明確ではない。最近の研究から、これがGタンパク質共役受容体とは無関係であること(Olivera et al, 2003, J. Biol. Chem. 278:46452〜46460)が示され、これらの効果が単に細胞内S1Pレベルおよび関連するがまだ同定されていない細胞内標的によって媒介されることを示唆している。これらの直接の標的は不明であるが、hSK1は、ERK1/2(Pitson et al. 2000, J. Biol. Chem. 275:33945〜33950;Shu et al., 2002, Mol. Cell Biol. 22:7758〜7768)、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(Osawa et al., 2001, J. Immunol. 167:173〜180)およびNF-κB(Xia et al., 2002、前記)の活性化、ならびにカスパーゼ活性化の阻害(Edsall et al., 2001、前記)のような多くの前増殖(pro-proliferative)および前生存(pro-survival)経路に関係している。
【0010】
したがって、先に詳述したように、広範な細胞活性のその調節という状況におけるスフィンゴシンキナーゼの中心的な役割は十分に確立されているが、それによってこれが起こる正確なメカニズムはごく部分的に決定されているに過ぎない。したがって、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路の調節により細胞活性を調節する方法を開発するためのよりよい手段を提供するために、それらのメカニズムを解明することが現在必要である。
【0011】
本発明に至る研究において、本発明者らは、スフィンゴシンキナーゼの活性化はその燐酸化によって誘導されるが、燐酸化されたスフィンゴシンキナーゼ分子の触媒活性のその後の増加は、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞機能を発生させる唯一の調節事象ではないことを意外にも決定した。むしろ、スフィンゴシンキナーゼの燐酸化による細胞内転位がこの点において重要であることが決定された。しかし、最も予想外に、特にスフィンゴシンの燐酸化がその内因性の触媒活性レベルを増加させるという事実に照らして、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性の調整は、スフィンゴシンキナーゼ分子の燐酸化状態に関係なく、単にスフィンゴシンキナーゼ分子の細胞内転位を調整することによって行うことができることが決定されている。なおさらに、転位メディエーターであるカルモジュリンに結合するスフィンゴシンキナーゼ分子の部位も同様に、現在では同定されて特徴が調べられている。これらの知見によって現在では、その燐酸化状態とは関係なく、その細胞内転位の調節に基づいてスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞機能を調整する単純かつ能率化された方法を開発することが可能となった。したがって、これは望ましくないまたは不適当な細胞機能、特に新生物増殖のような不適当な細胞増殖を特徴とする病態を治療的または予防的に処置するための非常に有効な方法の開発を提供した。
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、特に明記していなければ、「含む」という用語およびその変化形は、記載の整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群を含むが、他の任意の整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群を除外しないことを意味すると理解されるであろう。
【0013】
本明細書は、本明細書において引用文献の後に紹介するプログラムPatentInバージョン3.1を用いて調製したヌクレオチドおよびアミノ酸配列情報を含む。それぞれのヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、数値指標<210>の後に配列同定子(例えば、<210>1、<210>2等)によって配列表において同定される。各ヌクレオチドまたはアミノ酸配列に関して長さ、配列のタイプ(DNA、タンパク質等)、および起源生物はそれぞれ、数値指標領域<211>、<212>、および<213>に提供される情報によって示される。本明細書において言及したヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、指標SEQ ID NO:の後の配列同定子(例えば、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2等)によって同定される。本明細書において言及された配列同定子は、配列表における数値指標領域<400>の後に続く配列同定子(例えば、<400>1、<400>2等)において提供される情報と相関する。すなわち、明細書において詳述するSEQ ID NO:1は、配列表において<400>1として示される配列に相関する。
【0014】
アミノ酸配列における特異的変異は、本明細書において「Xaa1nXaa2」として表され、式中Xaa1は、変異前の最初のアミノ酸残基であり、nは残基番号およびXaa2は変異体アミノ酸である。省略語「Xaa」は三文字または一文字アミノ酸コードであってもよい。一文字コードにおける変異は例えば、X1nX2で表され、式中X1およびX2はそれぞれ、Xaa1およびXaa2と同じである。変異およびヒトスフィンゴシンキナーゼタンパク質配列全般の双方において、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1のアミノ酸残基は、SEQ ID NO:2のモチーフ
においてフェニルアラニン残基(F)を197番として番号が付けられる。
【0015】
本発明の一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階がシグナル伝達をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0016】
本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ1を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0017】
本発明のさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ2を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0018】
本発明のさらにもう一つの局面において、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該シグナル伝達をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、ヒトスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法が提供される。
【0019】
本発明のさらになおもう一つの局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階がスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0020】
本発明のなおさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を対象とする。
【0021】
本発明のさらなる局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を提供する。
【0022】
本発明のなおもう一つのさらなる局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0023】
本発明のさらにもう一つのさらなる局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がスフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0024】
本発明のなおさらにもう一つのさらなる局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0025】
本発明のなおもう一つの局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0026】
本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、本発明の細胞生長をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする病態の処置および/または予防のための方法を企図する。
【0027】
なおもう一つの局面において、本発明は、相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用にアンタゴニスト作用するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする病態の処置および/または予防のための方法を企図する。
【0028】
本発明のさらになおもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートして、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする哺乳動物における病態を処置するための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0029】
本発明のなおもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする、哺乳動物における病態を処置するための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0030】
本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を含む細胞またはその抽出物を、推定の物質に接触させる段階、および細胞膜局在に関連した変化した発現表現型を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体の細胞内局在を調整することができる物質を検出する方法を提供する。
【0031】
本発明のもう一つのさらなる局面は、野生型スフィンゴシンキナーゼ、またはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転位能の消失または低減を示す、転位メディエーター結合部位を含むスフィンゴシンキナーゼ領域において変異を含む、スフィンゴシンキナーゼ変種を対象とする。
【0032】
さらにもう一つのさらなる局面において、野生型スフィンゴシンキナーゼ、またはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転位能の消失または低減を示す、アミノ酸191〜206位の単一または複数のアミノ酸置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含むヒトスフィンゴシンキナーゼ変種が提供される。
【0033】
さらにもう一つの局面において、本発明は、本明細書において以降定義されるスフィンゴシンキナーゼ変種を発現するように改変されている、遺伝子改変動物に及ぶ。
【0034】
本明細書を通して用いられる一文字および三文字省略語を表1に定義する。
【0035】
(表1)一文字および三文字アミノ酸省略語
【0036】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的に、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性が、スフィンゴシンキナーゼのサイトゾルから細胞膜への転位によって調節されるという驚くべき決定に基づいて予測される。なおさらに、スフィンゴシンキナーゼの燐酸化は、それがスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を増加させてその細胞内転位を行うという点において非常に重要な事象であるが、スフィンゴシンキナーゼの転位によって、その燐酸化状態に関係なく、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達事象によって媒介される細胞活性の調整が得られるであろうということが決定されている。最後に、スフィンゴシンキナーゼ転位因子結合部位自身の同定および特徴付けがなされている。これらの決定により現在では、異常なまたは望ましくない細胞活性および/またはスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする病態、特に新生物病態を処置するための治療および/または予防的方法の合理的設計が可能となる。さらに、スフィンゴシンキナーゼ転位を特異的に調整する物質の同定および/または設計が促進される。
【0037】
したがって、本発明の一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0038】
「スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達」という言及は、スフィンゴシンキナーゼ分子が機能的成分を形成するシグナル伝達経路に対する言及であると理解すべきである。この点において、スフィンゴシンキナーゼは、この経路の活性化の際のスフィンゴシン-1-ホスフェートの産生にとって中心となると考えられる。スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達の調整は、シグナル伝達事象のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションの双方を含む、例えば所定のシグナル伝達事象の誘導もしくは中止、または任意の所定のシグナル伝達事象のレベルもしくは程度の変化を含むと理解すべきである。
【0039】
本発明に従って、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への転位のアンタゴニスト作用は、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達事象の完了を阻止するが、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への転位のアゴニスト作用またはそうでなければ誘導は、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を促進する。同様に、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達事象の程度またはレベルは、細胞膜に局在するスフィンゴシンキナーゼ分子の濃度を増加または減少させることによって調整することができると理解すべきである。したがって、シグナル伝達の調整は、シグナル伝達の開始または阻害と必ずしも等しい必要はないが、発生するスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達のレベルを調節するように設計してもよい。
【0040】
「スフィンゴシンキナーゼ」という言及には、スフィンゴシンキナーゼタンパク質およびその誘導体、変異体、相同体、または類似体の全ての型に対する言及が含まれると理解すべきである。この点において、「スフィンゴシンキナーゼ」は、中でもスフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路の活性化の際のスフィンゴシン-1-ホスフェートの産生に関係する分子であると理解すべきである。これには例えば、スフィンゴシンキナーゼの全てのタンパク質型、および例えばスフィンゴシンキナーゼmRNAの選択的スプライシングによって生じる任意のイソ型、またはスフィンゴシンキナーゼの対立遺伝子もしくは多型変種を含む、その機能的誘導体、変異体、相同体、または類似体が含まれる。
【0041】
本発明は、如何なる一つの理論または作用機序に限定されないが、二つのヒトスフィンゴシンキナーゼイソ型が存在し(1および2)、それらはその組織分布、発達的発現、触媒特性、および幾分その基質特異性が異なる(Pitson et al. 2000、前記;Liu et al., 2000、前記)。多くの研究から、細胞増殖の増強およびアポトーシスの抑制におけるスフィンゴシンキナーゼ1の効果が示されている(Olivera et al., 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、前記)。さらに、NIH3T3線維芽細胞におけるヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)の過剰発現によって、トランスフォームした表現型およびヌードマウスにおける腫瘍形成能の獲得が起こることが示されており、この酵素の腫瘍形成能を証明している(Xia et al., 2000、前記)。より最近の研究から、乳房腫瘍細胞の生長および生存のエストロゲン依存的調節にhSK1が関係することが示されたが(Nava et al., 2002、前記;Sukocheva et al., 2003、前記)、他の研究は、多様なヒト固形腫瘍におけるhSK1 mRNAの上昇およびスフィンゴシンキナーゼ阻害剤によるインビボでの腫瘍生長の阻害を示した(French et al., 2003、前記)。
【0042】
その「機能的」誘導体、変異体、相同体、または類似体という言及は、スフィンゴシンキナーゼの機能的活性の任意の一つまたは複数を示す分子に対する言及であると理解すべきである。
【0043】
好ましくは、スフィンゴシンキナーゼは、スフィンゴシンキナーゼ1または2であり、より好ましくはヒトスフィンゴシンキナーゼ1または2である。
【0044】
したがって、一つの好ましい態様において、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ1を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0045】
もう一つの好ましい態様において、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、該シグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ2を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0046】
本発明のスフィンゴシンキナーゼの「転位」および「局在」という言及(これらの用語は互換的に用いられる)は、触媒活性のレベルまたはその燐酸化の程度のような、本発明のスフィンゴシンキナーゼ分子の如何なる物理的または機能的特徴にも関係なく、この分子の細胞内の物理的な位置に対する言及であると理解すべきである。本明細書において先に詳述したように、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在が、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達事象を完了するために、およびそれによって増殖のような細胞の機能的活性を行うために肝要であるという決定に基づいて予測される。本発明を如何なる一つの理論または作用様式に限定することなく、細胞を特定のアゴニストに曝露すると、スフィンゴシンキナーゼは、サイトゾルから細胞質膜に転位することが知られている(Pitson et al. 2003、前記;Rosenfeldt et al., 2001, FASEB J. 15:2649〜2659;Johnson et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:35257〜352621;Melendez et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:17255〜17262;Young et al., 2003, Cell Calcium 33:119〜128)。さらに、この転位はスフィンゴシンキナーゼのセリン225位での燐酸化に依存することが知られている。なおさらに、スフィンゴシンキナーゼの転位を促進する因子の結合にとって重要な領域の一つが、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の残基191〜206位、およびヒトスフィンゴシンキナーゼ2の対応する保存された領域に対応することが決定されている。特に、Phe 197およびLeu198は、この相互作用に対して重要に関係している。しかし、意外にも、この転位事象はスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達事象の生物学的転帰を行うために重要であること、およびさらにこれはアップレギュレートされたスフィンゴシンキナーゼ分子を転位させることによっても行うことができることが決定された。したがって、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの燐酸化状態を検討または調整する必要なく、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調節する手段を提供する。
【0047】
したがって、好ましい態様において、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、シグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって、局在を調節する以外の手段によって機能する、ヒトスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法が提供される。
【0048】
より詳しくは、本発明は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0049】
好ましくは、アミノ酸はPhe197またはLeu198の一つまたは双方である。
【0050】
これらの好ましい態様に従って、スフィンゴシンキナーゼは、スフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2である。
【0051】
スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達事象またはスフィンゴシンキナーゼ局在のいずれかを「調整する」という言及は、本発明のシグナル伝達または局在事象をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることに対する言及であると理解すべきである。この点においてアップレギュレートまたはダウンレギュレートするという言及には、本発明のシグナル伝達または局在事象を誘導または消失指せることに対する言及を含む他に、シグナル伝達または局在事象が起こるレベル、程度、または速度を増加または減少させることが含まれると理解すべきである。したがって、本発明の方法に従って利用される物質は、本発明の事象を誘導する、既に発生している事象にアゴニスト作用する、既存の事象にアンタゴニスト作用する、そのような事象の発生を完全に阻止する物質であってもよい。
【0052】
したがって、「スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする」という言及は、以下に対する言及であると理解すべきである:
(i)スフィンゴシンキナーゼの細胞内細胞膜局在を誘導する、例えば細胞膜への局在を行う物質とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を誘導する;
(ii)既存の細胞膜局在事象をアップレギュレートする、増強する、またはそうでなければアゴニスト作用する、例えば細胞膜へのその局在を行う物質とスフィンゴシンキナーゼとの親和性を増加させる、またはそうでなければその相互作用を安定化させる。
【0053】
逆に、「スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする」とは、以下に対する言及であると理解すべきである:
(i)そうでなければサイトゾルから細胞膜へのスフィンゴシンキナーゼの転位に至るであろう、内因性の転位因子のような物質とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を阻止する。
(ii)例えばスフィンゴシンキナーゼの転位が無効となるようにまたはより有効でないように、スフィンゴシンキナーゼと転位物質との既存の相互作用にアンタゴニスト作用する。
【0054】
スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在の調整(アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションのいずれかの意味において)は、部分的または完全であってもよいと理解すべきである。部分的調整は、所定の細胞において通常起こるであろうごく一部のスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在事象が本発明の方法によって影響を受ける場合に起こるが、完全な調整は、全てのスフィンゴシンキナーゼ局在事象が調整される場合に起こる。
【0055】
スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在の調整は、以下が含まれるがそれらに限定されるわけではない多数の技術の任意の一つによって行われてもよい:
(i)細胞膜と直接の相互作用、または通常膜の局在を促進するように作用するであろう中間分子との相互作用のいずれかを遮断するために、スフィンゴシンキナーゼと相互作用することによって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在にアンタゴニスト作用するタンパク質様または非タンパク質様物質を細胞に導入する段階。
(ii)細胞膜と直接のもしくは物質による相互作用を促進するため、または通常膜の局在を促進するように作用するであろう中間分子(転位因子のような)との相互作用を促進するために、スフィンゴシンキナーゼと相互作用することによって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在にアゴニスト作用するタンパク質様または非タンパク質様物質を細胞に導入する段階。
(iii)細胞膜局在特性を示すように設計されているスフィンゴシンキナーゼ分子変種を細胞に導入する段階。
(iv)(i)〜(iii)のいずれか一つに記述されるタンパク質様物質をコードする核酸分子を細胞に導入する段階。
【0056】
好ましくは、分子は残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸、および最も好ましくはPhe197またはLeu198と転位因子との相互作用を調整する。
【0057】
「物質」という言及は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への細胞内局在を調整(アップレギュレートまたはダウンレギュレート)する任意のタンパク質様または非タンパク質様分子、例えば先の(i)〜(iii)において詳述した分子に対する言及であると理解すべきである。本発明の物質は、任意のタンパク質様または非タンパク質様分子に連結、結合、またはそうでなければ会合してもよい。例えば、物質は、特異的組織へのターゲティングを許容する分子に会合してもよい。
【0058】
タンパク質様分子は、融合タンパク質を含む天然、組換え型、もしくは合成起源または例えば天然物スクリーニングの結果であってもよい。非タンパク質様分子は、例えば天然物スクリーニングのような天然起源に由来してもよく、または化学合成してもよい。例えば、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ局在のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することができる転位因子の化学類似体を企図する。化学アゴニストは必ずしも転位因子に由来する必要はないが、特定の構造的類似性を共有してもよい。または、化学アゴニストは転位因子の特定の物理化学的特性を模倣またはアップレギュレートするように特異的に設計してもよい。例えば、アゴニストには、カルシウムレベルの上昇を誘導する物質、例えばイオノマイシンのようなカルシウムイオノフォアが含まれる。アンタゴニストは、スフィンゴシンキナーゼ局在を遮断、阻害、またはそうでなければ阻止することができる任意の化合物であってもよい。アンタゴニストには、スフィンゴシンキナーゼ、スフィンゴシンキナーゼの一部、または転位因子に対して特異的な抗体(モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体)が含まれる。アンタゴニストにはまた、SEQ ID NO:2の197位および198位で転位因子結合残基を発現して、それによって野生型スフィンゴシンキナーゼに対する細胞内転位因子の結合の競合的阻害剤として機能するように設計されたスフィンゴシンキナーゼペプチドが含まれる。アンタゴニストの他の例には、細胞内の遊離のカルシウムレベルを減少させる物質、例えばBAPTAもしくはMAPTAMのようなカルシウムキレート剤、またはカルモジュリンのアンタゴニストであるW7のような転位因子自身のアンタゴニストが含まれる。発現の調整は、抗原、RNA、リボソーム、DNAザイム、RNAアプタマー、または共抑制において用いるために適した分子を利用して行ってもよい。先の(i)〜(iv)において言及したタンパク質様および非タンパク質様分子は、本明細書において集合的に「調整物質」と呼ばれる。
【0059】
「転位因子」という言及は、スフィンゴシンキナーゼに結合して、細胞膜へのその細胞内局在を促進する任意の分子に対する言及であると意図されると理解すべきである。例えば、カルモジュリン、カルミリン(calmyrin)、または他のカルモジュリン関連タンパク質を用いてもよい。
【0060】
本明細書において先に定義した調整物質のスクリーニングは、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を発現する細胞を物質に接触させる段階、およびスフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在の調整に関してスクリーニングする段階が含まれるがそれらに限定されるわけではない、いくつかの適した方法の任意の一つによって行うことができる。これは、スフィンゴシンキナーゼの局在を直接分析することによって、または細胞増殖のような下流の事象を分析することによって行うことができる。そのような調整の検出は、ウェスタンブロッティング、電気泳動移動度シフトアッセイおよび/またはルシフェラーゼ、CAT、増殖アッセイ等のようなスフィンゴシンキナーゼ活性のレポーターの読み取りのような技術を利用して行うことができる。
【0061】
スフィンゴシンキナーゼ遺伝子またはその機能的同等物もしくは誘導体は、試験の被験者である細胞において天然に存在してもよく、または試験の目的のための宿主細胞にトランスフェクトされていてもよいと理解すべきである。さらに、スフィンゴシンキナーゼ核酸分子が細胞にトランスフェクトされる程度に、その分子は、全スフィンゴシンキナーゼ遺伝子を含んでもよく、またはスフィンゴシンキナーゼ発現産物の局在を調節する部分のような、遺伝子の一部を単に含んでもよい。
【0062】
もう一つの例において、検出の主題は、スフィンゴシンキナーゼ自身よりむしろ、下流のスフィンゴシンキナーゼ調節標的(例えば、スフィンゴシン-1-ホスフェート)となりうる。さらにもう一つの例には、最小のレポーターにライゲーションしたスフィンゴシンキナーゼ局在関連結合部位が含まれる。もう一つの例において、スフィンゴシンキナーゼ局在の調整は、宿主細胞の増殖の調整に関するスクリーニングによって検出することができる。これは、スフィンゴシンキナーゼ局在の調整がそれ自体、検出の主題ではない間接的なシステムの例である。むしろ、細胞膜局在スフィンゴシンキナーゼがその発現を調節する分子の調整をモニターする。これらの方法は、合成、コンビナトリアル、化学、および天然物ライブラリを含むタンパク質様または非タンパク質様物質のような推定の調整物質のハイスループットスクリーニングを行うためのメカニズムを提供する。
【0063】
本発明の方法に従って利用される物質は、任意の適した形であってもよい。例えば、タンパク質様物質は、様々な程度にグリコシル化または非グリコシル化、燐酸化または脱燐酸化されてもよく、および/またはアミノ酸のようなタンパク質、脂質、糖質、または他のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に融合、連結、結合、またはそうでなければ会合した広範囲の他の分子を含んでもよい。同様に、本発明の非タンパク質様分子はまた任意の適した形であってもよい。本明細書に記述のタンパク質様および非タンパク質様物質はいずれも、他の任意のタンパク質様または非タンパク質様分子に連結、結合、またはそうでなければ会合してもよい。例えば、本発明の一つの態様において、物質は、特異的組織のような局在領域へのそのターゲティングを許容する分子に会合する。
【0064】
「発現」という用語は、核酸分子の転写および翻訳に対する言及である。「発現産物」という言及は、核酸分子の転写および翻訳から生成された産物に対する言及である。「調整」という言及は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに対する言及であると理解すべきである。
【0065】
本明細書に記述の分子の「誘導体」(例えば、スフィンゴシンキナーゼまたは他のタンパク質様または非タンパク質様物質)には、天然または非天然起源からの断片、部分、一部、または変種が含まれる。非天然起源には、例えば組換え型または合成起源が含まれる。「組換え型起源」は、そこから本発明の分子が採取される細胞起源が遺伝子改変されていることを意味する。これは、例えばその特定の細胞起源による産生速度および容積を増加またはそうでなければ増強するために起こってもよい。部分または断片には、例えば分子の活性領域が含まれる。誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失、または置換に由来してもよい。アミノ酸挿入誘導体には、アミノおよび/またはカルボキシル末端融合体と共に、単一または複数のアミノ酸の配列内挿入が含まれる。挿入アミノ酸配列変種は、一つまたは複数のアミノ酸残基がタンパク質における既定の部位に導入されている変種であるが、得られた産物の適したスクリーニングによってランダム挿入も同様に可能である。欠失変種は、配列からの一つまたは複数のアミノ酸の除去を特徴とする。置換アミノ酸変種は、配列における少なくとも一つの残基が除去されて、その場に異なる残基が挿入されている変種である。アミノ酸配列に対する付加には、先に詳述したように、他のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質との融合体が含まれる。
【0066】
誘導体にはまた、ペプチド、ポリペプチド、または他のタンパク質様もしくは非タンパク質様分子に融合した完全なタンパク質の特定のエピトープまたは一部を有する断片が含まれる。例えば、スフィンゴシンキナーゼまたはその誘導体を、細胞膜局在を促進するために、アミノ酸10個のlckタンパク質チロシンキナーゼ二重アシル化モチーフのような分子に融合してもよい。本明細書において企図される分子の類似体には、側鎖への改変、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質合成の際に非天然アミノ酸および/またはその誘導体を組み入れること、ならびにクロスリンク剤およびタンパク質様分子またはその類似体に対してコンフォメーション上の拘束を与える他の方法を用いることが含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0067】
本発明の方法に従って利用してもよい核酸配列の誘導体も同様に、単一または複数のヌクレオチド置換、欠失、および/または付加に由来してもよい。本発明において利用される核酸分子の誘導体には、オリゴヌクレオチド、PCRプライマー、アンチセンス分子、核酸分子の共抑制および融合において用いるために適した分子が含まれる。核酸配列の誘導体にはまた、縮重変種が含まれる。
【0068】
スフィンゴシンキナーゼの「変種」は、変種であるそのスフィンゴシンキナーゼの型の機能的活性の少なくともいくつかを示す分子を意味すると理解すべきである。変種は、如何なる形であってもよく、天然または非天然であってもよい。変異体分子は、改変された機能的活性を示す分子である。
【0069】
「相同体」とは、分子が、本発明の方法に従って処置される種以外の種に由来することを意味する。
【0070】
化学および機能的同等物は、機能的同等物が、化学合成された、または天然物スクリーニングのようなスクリーニングプロセスを通して同定された分子のような任意の起源に由来してもよい、本発明の分子の任意の一つまたは複数の機能的活性を示す分子であると理解すべきである。例えば、化学または機能的同等物は、コンビナトリアルケミストリー、組換え型ライブラリのハイスループットスクリーニング、または天然物スクリーニングの結果のような周知の方法を利用して設計および/または同定することができる。これらの方法はまた、本発明の方法において有用である任意の調整物質をスクリーニングするために利用してもよい。
【0071】
例えば、多数の特異的親基置換を有する有機分子を用いる低分子有機分子を含むライブラリをスクリーニングしてもよい。一般的な合成スキームは公表された方法に従ってもよい(例えば、Bunin et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:4708〜4712;De Witt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909〜6913)。簡単に説明すると、それぞれの連続的合成段階において、複数の異なる選択された置換基の一つを、選択されたサブセットの試験管のアレイのそれぞれに加えて、試験管サブセットの選択は、ライブラリを作製するために用いられる異なる置換基の考えられる全ての順列を作製するように行われる。一つの適した順列戦略は、米国特許第5,763,263号に概要される。
【0072】
生物活性化合物を検索するためにランダム有機分子のコンビナトリアルケミストリーを用いることに現在、広い関心がある(例えば、米国特許第5,763,263号を言及されたい)。このタイプのライブラリをスクリーニングすることによって発見されたリガンドは、天然のリガンドを模倣するもしくは遮断するために、または生物学的標的の天然に存在するリガンドと干渉するために有用である可能性がある。本発明の状況において、例えばそれらをスフィンゴシンキナーゼ転位アゴニストまたはアンタゴニストを開発するための開始点として用いてもよい。スフィンゴシンキナーゼまたはその関連する部分は、本発明に従って、様々な固相または液相合成法によって形成された組み合わせライブラリにおいて用いてもよい(例えば、米国特許第5,763,263号およびそこに引用されている引用文献を言及されたい)。米国特許第5,753,187号に開示されている技術を用いることによって、何百万もの新しい化学および/または生物化合物が、数週間未満でルーチンとしてスクリーニングされる可能性がある。同定された多数の化合物の中で、適当な生物活性を示す化合物のみをさらに分析する。
【0073】
ハイスループットライブラリスクリーニング法に関して、生体分子、高分子複合体、または細胞のような選択された生体物質と特異的に相互作用することができるオリゴマーまたは低分子ライブラリ化合物を、先に記述した方法のような広範な周知の方法から当業者によって容易に選択されるコンビナトリアルライブラリ装置を利用してスクリーニングする。そのような方法において、ライブラリのそれぞれのメンバーを、選択された物質との特異的相互作用能に関してスクリーニングする。方法を実践するために、生物学的物質を化合物を含む試験管に採取して、各試験管において個々のライブラリ化合物と相互作用させる。相互作用は、望ましい相互作用の有無をモニターするために用いることができる検出可能なシグナルを産生するように設計される。好ましくは、生物学的物質は、水溶液に存在して、望ましい相互作用に応じてさらなる条件を適合させる。検出は、例えば、基質の検出のための任意の周知の機能的または非機能的に基づく方法によって行ってもよい。
【0074】
本明細書において企図されるスフィンゴシンキナーゼの「類似体」またはアゴニストもしくはアンタゴニスト物質には、側鎖に対する改変、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質合成の際の非天然アミノ酸および/または誘導体の組み入れ、ならびにクロスリンク剤および類似体にコンフォメーション上の拘束を与える他の方法の利用が含まれるがそれらに限定されるわけではない。そのような改変がとりうる特異的な型は、本発明の分子がタンパク質様または非タンパク質様であるか否かに依存するであろう。特定の改変の性質および/または適格性は、当業者によってルーチンとして決定することができる。
【0075】
例えば、本発明によって企図される側鎖改変の例には、アルデヒドとの反応による還元的アルキル化後のNaBH4による還元;メチルアセチミデートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアネートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびにピリドキサル-5-燐酸によるリジンのピリドキシル化の後にNaBH4による還元が含まれる。
【0076】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタジエン、フェニルグリオキサルおよびグリオキサルのような試薬との複素環縮合産物の形成によって改変してもよい。
【0077】
カルボキシル基は、O-アシルイソウレア形成によるカルボジイミド活性化後の例えば対応するアミドへの誘導体化によって改変してもよい。
【0078】
スルフヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4-クロロ水銀安息香酸、4-クロロ水銀フェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロ水銀-4-ニトロフェノール、および他の水銀剤を用いる水銀誘導体の形成;アルカリpHでのシアネートによるカルバモイル化、のような方法によって改変してもよい。
【0079】
トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシニミドによる酸化、または2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドまたはハロゲン化スルフェニルによるインドール環のアルキル化によって改変してもよい。一方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによるニトロ化によって改変して3-ニトロチロシン誘導体を形成してもよい。
【0080】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の改変は、ヨード酢酸誘導体のアルキル化またはジエチルピロカーボネートによるN-カルボエトキシル化によって行ってもよい。
【0081】
タンパク質合成の際に非天然アミノ酸および誘導体を組み入れる例には、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン、および/またはアミノ酸のD-異性体を用いることが含まれるがそれらに限定されるわけではない。本明細書において企図される非天然アミノ酸の一覧を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
3Dコンフォメーションを安定化させるために、例えばn=1〜n=6の(CH2)nスペーサー基を有する二機能イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシニミドエステル、およびN-ヒドロキシスクシニミドのようなアミノ反応部分ともう一つの基特異的反応部分とを通常含むヘテロ二機能試薬のような、ホモ二機能クロスリンク剤を用いてクロスリンク剤を用いることができる。
【0084】
本発明は、任意の一つの理論または作用様式に限定されないが、部位特異的変異誘発、タンパク質分解、およびペプチド相互作用分析を利用して、ヒトスフィンゴシンキナーゼ(SEQ ID NO:2)の191〜206位の領域に及ぶ残基が、細胞質から細胞質膜へのスフィンゴシンキナーゼの転位の誘導に関係しているスフィンゴシンキナーゼ部位の一つであることが決定された。特に、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の残基Phe197およびLeu198は、この相互作用において重要に関係していることが決定されている。なおさらに、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2分子の対応するおよび保存された領域が、対応する機能的活性を示すことも決定されている。ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の変異型(Phe197AlaおよびLeu198Gln)を用いて、hSK1燐酸化および触媒的活性化はこれらの変異体分子において不変のままであるが、hSK1のアゴニストによる細胞質から細胞質膜への転位は消失することが示されている。
【0085】
スフィンゴシンキナーゼは、細胞内シグナル伝達経路の機能にとって中心的な分子であることから、本発明の方法は、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達によって調節または制御される細胞活性を調整する手段を提供する。例えば、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路は、炎症、細胞のトランスフォーメーション、アポトーシス、細胞増殖、サイトカイン、ケモカイン、eNOSのような炎症メディエーターの産生のアップレギュレーション、および接着分子発現のアップレギュレーションに至る活性のような細胞活性を調節することが知られている。アップレギュレーションは、例えば、腫瘍壊死因子αおよびインターロイキン1、エンドトキシンのような炎症性サイトカイン、酸化または改変脂質、放射線または組織損傷を含む多くの刺激によって誘導される可能性がある。この点において、「細胞活性を調整する」という言及は、一つまたは複数のケモカイン産生、サイトカイン産生または細胞増殖のような、しかしこれらに限定されないスフィンゴシンキナーゼシグナル伝達に従って細胞が行うことができる活性の任意の一つまたは複数をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることに対する言及である。好ましい方法は、スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートし、それによって望ましくない細胞活性をダウンレギュレートすることであり、最も好ましくは望ましくない細胞増殖をダウンレギュレートすることであるが、本発明はそれにもかかわらず、特定の状況において望ましい可能性がある細胞活性をアップレギュレートすることを含むと理解すべきである。
【0086】
したがって、本発明のさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を提供する。
【0087】
好ましくは、物質は、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する。
【0088】
より好ましくは、本発明は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって、局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を提供する。
【0089】
より好ましくは、アミノ酸は、Phe197またはLeu198の一つまたは双方であり、スフィンゴシンキナーゼは、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2である。
【0090】
これらの態様に従って、細胞活性は好ましくは細胞生長であり、さらにより好ましくは新生物細胞の生長である。
【0091】
最も好ましくは、新生物細胞生長は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への転位にアンタゴニスト作用するまたはそうでなければダウンレギュレートすることによってダウンレギュレートされる。
【0092】
本発明のこの好ましい局面は任意の一つの理論または作用様式に限定されないが、スフィンゴシンキナーゼの腫瘍形成活性は、その異常な過剰発現に特に関連していることが決定されている。「過剰発現」とは、所定の細胞タイプに関して正常な生理的条件で発現されたレベルより高い機能的レベルへの細胞内スフィンゴシンキナーゼのアップレギュレーション、または任意の機能性レベルへのスフィンゴシンキナーゼレベルのアップレギュレーションを意味するが、アップレギュレーション事象は、本発明の細胞において天然に存在する生理学の効果のために起こった増加よりむしろ人工的に行われた事象である。しかし、それによってアップレギュレーションが行われる手段は、生理的経路を模倣するように求める人工的手段、例えばホルモンまたは他の刺激分子を導入することであってもよいと理解すべきである。したがって、本発明の状況において「発現する」という用語は、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子の転写および翻訳の概念に限定されないと意図される。むしろ、この用語は、細胞において特定の時点で正常な生理的条件で見いだされるスフィンゴシンキナーゼのより高い機能的レベルの確立である転帰に対する言及である(すなわち、この用語には、スフィンゴシンキナーゼレベルの天然に存在しない増加およびスフィンゴシンキナーゼの細胞内濃度自身の単なる増加とは反対の既存のスフィンゴシンキナーゼ濃度の活性レベルの増加が含まれる)。
【0093】
本発明は任意の一つの理論または作用様式に限定されないが、脂質キナーゼであるスフィンゴシンキナーゼによって刺激されたシグナル伝達カスケードが、腫瘍形成において主要な役割を果たすことは公知である。具体的には、細胞における過剰発現によるスフィンゴシンキナーゼの構成的活性化は、細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍の形成を引き起こし、それによって野生型ヒト脂質キナーゼがそれ自身発癌性であることを示している。さらに、スフィンゴシンキナーゼはまたRas誘導トランスフォーメーションにも関係しているが、v-Src誘導トランスフォーメーションには関係していない。最後に、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を用いてスフィンゴシンキナーゼ活性を阻害すると、スフィンゴシンキナーゼを過剰発現する細胞のみならず、Rasトランスフォーム細胞においてもトランスフォーメーションを逆転させる。この点において、細胞の生長を「調整する」という言及は、細胞の生長をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることに対する言及であると理解すべきである。より具体的には、「ダウンレギュレートする」という言及は、細胞の生長の一つまたは複数の局面を阻止、低減、またはそうでなければ阻害すること(細胞のアポトーシスを誘導する、またはそうでなければ細胞を殺すことを含む)に対する言及であると理解すべきであるが、「アップレギュレートする」という言及は、逆の意味を有すると理解すべきであり、新生物細胞の形成/細胞のトランスフォーメーション(すなわち、正常な細胞の新生物細胞への変換)の誘導が含まれる。細胞の「生長」という言及は、その最も広い意味において、細胞分裂/増殖の全ての局面に対する言及が含まれると理解すべきである。
【0094】
本発明の状況において「細胞」に対する言及は、その起源にかかわらず、任意の型またはタイプの細胞に対する言及であると理解すべきである。例えば、細胞は、天然に存在する細胞であってもよく、または凍結/解凍されている、インビトロもしくはインビボのいずれかで遺伝的、生化学的、もしくはそうでなければ改変されている細胞(例えば、異なる二つの細胞タイプの融合の結果である細胞を含む)のようなインビトロまたはインビボのいずれかで操作、改変、もしくはそうでなければ処置されてもよい。「新生物細胞」は、制御されていない増殖を示す細胞を意味する。新生物細胞は、良性細胞または悪性細胞であってもよい。好ましくは、細胞は悪性である。一つの特定の態様において、新生物細胞は、乳腺(乳房)、大腸、胃、肺、脳、骨、食道、または膵臓に由来する悪性細胞のような、その増殖が固形腫瘍を形成するであろう悪性細胞である。
【0095】
好ましくは新生物細胞は、大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳腺(乳房)、卵巣、または子宮に由来する悪性細胞である。
【0096】
本発明の方法に従って処置される細胞はエクスビボまたはインビボに存在してもよいと理解すべきである。「エクスビボ」とは、その生長の調整がインビトロで得られる細胞が被験者の体から除去されていることを意味する。例えば、細胞は、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートすることによって不死化される非新生物細胞であってもよい。本発明の好ましい局面に従って、細胞は、インビボに存在する悪性細胞のような(大腸癌または乳癌のような)新生物細胞であってもよく、その生長のダウンレギュレーションは、スフィンゴシンキナーゼ機能的活性のレベルをダウンレギュレートするために、本発明の方法をインビボで適用することによって得られるであろう。同様に、悪性結腸直腸細胞のようなインビボに存在する特異的細胞タイプについて言及する場合、この細胞は患者の結腸直腸領域に存在してもよいと理解すべきである。結腸直腸原発悪性疾患が転移すれば、被験者の結腸直腸細胞は、患者の体のもう一つの領域に存在してもよい。例えば、これは、例えば肝臓、リンパ節、または骨に存在する二次腫瘍(転位)の一部を形成してもよい。
【0097】
好ましい方法は、例えば癌の治療的処置として新生物細胞の増殖をダウンレギュレートするが、同様に細胞の生長をアップレギュレートすることが望ましい可能性がある。例えば、インビトロで細胞の集団を不死化する、インビトロでの長期使用を促進する、または例えば皮膚のような組織のインビトロ生長を促進することが望ましい可能性がある。もう一つの例において、低血清条件での生長能のような、より選好性の低い生長条件に細胞株を適合させることが有用となる可能性がある。
【0098】
本発明のさらなる局面は、疾患状態の処置および/または予防に関連して本発明を用いることに関する。本発明は、他の任意の理論または作用様式に限定されないが、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路によって調節される広範囲の細胞機能活性により、スフィンゴシンキナーゼ機能の調節は、健康および病的状態の生理的プロセスの双方のあらゆる局面の肝要な成分となる。したがって、本発明の方法は、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路を通して調節される異常なまたはそうでなければ望ましくない細胞機能的活性を調整するための貴重なツールを提供する。
【0099】
したがって、本発明のさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0100】
本発明のなおもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0101】
好ましくは、物質は、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する。
【0102】
したがって、好ましい態様において、本発明は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0103】
本発明のさらにもう一つの態様は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0104】
より好ましくは、アミノ酸はPhe197またはLeu198の一つまたは双方であり、スフィンゴシンキナーゼはヒトスフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2である。
【0105】
「異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な」細胞活性という言及は、過活動細胞活性、それが望ましくないという点において不適当である生理的な通常の細胞活性、または不十分な細胞活性に対する言及であると理解すべきである。この定義は、「異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な」スフィンゴシンキナーゼ活性に関連して同様に適用される。例えば、腫瘍細胞の生長の際のTNF産生は、細胞の増殖を支持し、新生物細胞に抗アポトーシス特徴を提供することが示されている。したがって、細胞が新生物である程度に、細胞増殖の促進および抗アポトーシス特徴がダウンレギュレートされることが望ましい。同様に、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症、喘息、自己免疫疾患、および炎症性腸症候群のような炎症を特徴とする疾患は、接着分子のような炎症性メディエータの合成および分泌に至る、TNFのようなサイトカインによる細胞の活性化を伴うことが知られている。そのような状況において、そのような活性をダウンレギュレートすることも同様に望ましい。他の状況において、細胞増殖を刺激するためにスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在にアゴニスト作用する、またはそうでなければそれらを誘導することが望ましい可能性がある。
【0106】
先に詳述したように、本発明は任意の一つの理論または作用様式に限定されることなく、スフィンゴシンキナーゼの構成的活性化は、細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍の発達を引き起こし、それによってスフィンゴシンキナーゼ自身が発癌性であることを示している。しかし、スフィンゴシンキナーゼの阻害はまた、本発明の細胞が、Ras誘導トランスフォーメーションのような、特定の無関係な腫瘍遺伝子によってトランスフォームされている新生物細胞の増殖をダウンレギュレートするために有効である。したがって、本発明の方法は、大腸、胃、肺、乳腺(乳房)、脳、骨、食道、および膵臓の固形腫瘍に関連した悪性疾患、および特にRasトランスフォーム細胞の増殖によって生じた腫瘍、またはエストロゲン依存的乳房細胞腫瘍のような、原発および二次悪性疾患の処置において用いるために特に有用であるが、決してそれらに限定されない。好ましい方法は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在を阻害することによって、被験者における制御されていない細胞増殖をダウンレギュレートすることであるが、細胞生長のアップレギュレーションも同様に、創傷治癒、血管新生、または他の治癒プロセスの促進のような、特定の状況において望ましい可能性がある。
【0107】
したがって、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が本発明の細胞生長をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする病態の処置および/または予防のための方法を企図する。
【0108】
好ましくは、本発明は、相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用にアンタゴニスト作用するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0109】
好ましくは制御されていない細胞増殖は、腫瘍遺伝子のアップレギュレーションによる、またはスフィンゴシンキナーゼ過剰発現腫瘍遺伝子活性による細胞のトランスフォーメーションによって引き起こされる。
【0110】
さらにより好ましくは、細胞は、大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳腺(乳房)、卵巣、または子宮の固形腫瘍を形成する悪性細胞である。
【0111】
本発明のこの局面の最も好ましい態様は、好ましくは、本発明の増殖が低減、遅滞、またはそうでなければ阻害されることを促進する。「低減、遅滞、またはそうでなければ阻害」という言及は、細胞増殖の部分的または完全な阻害を誘導または促進することに対する言及であると理解すべきである。阻害は、直接または間接的なメカニズムで起こってもよく、これには、細胞のアポトーシスまたは他の殺細胞メカニズムの誘導が含まれる。
【0112】
処置または予防の被験者は一般的に、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、コンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕獲された野生動物(例えばキツネ、シカ)のような、しかしこれらに限定されない哺乳動物である。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは霊長類である。最も好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0113】
「有効量」は、望ましい反応を得るために、または処置される特定の病態の発症もしくは病態の発症を遅らせる、進行を阻害する、もしくは全く停止させるために少なくとも部分的に必要な量を意味する。量は、処置される個体の健康および身体的条件、処置される個体の分類群、望ましい保護の程度、組成物の処方、医学的状態の評価、および他の関連因子に応じて変化する。量は、ルーチンの試験を通して決定することができる比較的広い範囲に入るであろう。
【0114】
本明細書における「処置」および「予防」という言及は、その最も広い状況において考慮すべきである。「処置」という用語は、完全に回復するまで被験者が処置されることを必ずしも暗示しない。同様に、「予防」は、被験者が最終的に疾患状態に罹らないことを必ずしも意味しない。したがって、処置および予防には、特定の病態の症状の改善、または特定の病態の発症のリスクの阻止もしくはそうでなければ低減が含まれる。「予防」という用語は、特定の病態の重症度または発症の低減と見なしてもよい。「処置」はまた、既存の病態の重症度を低減させてもよい。
【0115】
本発明はさらに、癌の処置における細胞障害剤または放射線療法のような被験者の病態の処置に関連して有用となる可能性がある他の物質、薬物、または処置を哺乳動物を供すると共に物質を投与するような、併用治療を企図する。
【0116】
薬学的組成物の形での調整物質の投与は、任意の通常の手段によって行ってもよい。薬学的組成物の調整物質は、特定の症例に応じた量で投与される場合に治療活性を示すと企図される。変化は、例えば、選択されたヒトまたは動物、および調整物質に依存する。広範囲の用量が適用可能となる可能性がある。患者を考慮して、例えば約0.1 mg〜約1 mg/kg体重/日の調整物質を投与してもよい。投与レジメは、最適な治療反応を提供するように適合させてもよい。例えば、いくつかの分割用量を毎日、毎週、毎月、もしくは他の適した期間投与してもよく、または状況の緊急性に応じて、用量を比例して低減させてもよい。
【0117】
調整物質は、経口、静脈内(水溶性の場合)、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、もしくは坐剤経路または埋め込み(例えば、徐放性分子を用いて)のような通常の方法で投与してもよい。調整物質は、酸付加塩または亜鉛、鉄等との金属錯体(本出願の目的に関して塩であると見なされる)のような薬学的に許容される非毒性の塩の形で投与してもよい。そのような酸付加塩の例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩等である。活性成分が錠剤型で投与される場合、錠剤は、トラガカント、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤;アルギン酸のような崩壊剤;およびステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤を含んでもよい。
【0118】
投与経路には、呼吸器、気管内、鼻咽喉内、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼内、髄腔内、小脳内、鼻腔内、注入、経口、直腸内、IVドリップパッチによって、およびインプラントが含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0119】
これらの方法に従って、本発明に従って定義される物質は、一つまたは複数の他の化合物または分子と共に同時投与してもよい。「同時投与する」とは、同じもしくは異なる経路によって同じ製剤もしくは異なる二つの製剤を同時投与すること、または同じもしくは異なる経路によって連続投与することを意味する。例えば、本発明の物質は、その効果を増強するためにアゴニスト作用物質と共に投与してもよい。「連続的」投与とは、二つのタイプの分子の投与のあいだの数秒、数分、数時間、または数日の時間差を意味する。これらの分子は、任意の順序で投与してもよい。
【0120】
本発明のもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整する、およびスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置のための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0121】
本発明のさらにもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整する、およびスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする、哺乳動物における病態の処置のための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0122】
より詳しくは、物質は、転位因子とSEQ ID NO:2の残基191〜206位、最も詳しくはPhe197またはLeu198に対応する一つまたは複数のアミノ酸との相互作用を調整し、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシン細胞膜局在をアップレギュレートし、アンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする。
【0123】
好ましくは、物質は、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって、局在を調節する以外の手段によって機能する。
【0124】
より好ましくは、スフィンゴシンキナーゼは、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1または2である。
【0125】
さらにより好ましくは、細胞活性は細胞増殖である。
【0126】
最も好ましくは、細胞増殖は新生物細胞増殖であり、増殖がダウンレギュレートされる。
【0127】
なおもう一つのさらなる局面において、本発明は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に、本明細書において先に定義した調整物質を含む薬学的組成物を企図する。これらの物質は、活性成分と呼ばれる。
【0128】
注射用用途に適した薬学剤形には、滅菌水溶液(水溶性の場合)もしくは分散液、および滅菌注射用溶液もしくは分散液の即時調製のための滅菌粉末が含まれ、または局所適用に適したクリームもしくは他の剤形であってもよい。これは製造および保存条件で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、その適した混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒体となりうる。例えばレシチンのようなコーティングを用いることによって、分散液の場合には必要な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を用いることによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサル等によって得ることができる。多くの場合、等張剤、糖または塩化ナトリウムを含めることが望ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物において用いることによって得ることができる。
【0129】
適した注射用溶液は、適当な溶媒において必要な量の活性化合物を先に列挙した様々な他の成分と共に組み入れた後、必要に応じて濾過滅菌することによって調製される。一般的に、分散液は、様々な滅菌活性成分を、基礎分散培地と先に列挙した必要な他の成分とを含む滅菌溶媒に組み入れることによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、予め濾過滅菌されたその溶液から活性成分プラスさらなる望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0130】
活性成分が適切に保護されている場合、それらを、例えば不活性希釈剤もしくは他の同化可能な食用担体と共に経口投与してもよく、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセルに封入してもよく、錠剤に圧縮してもよく、または食事の食物に直接組み入れてもよい。経口治療的投与の場合、活性化合物を、賦形剤と共に組み入れて、摂取可能な錠剤、口腔内錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、ウェーハ等の剤形で用いてもよい。そのような組成物および調製物は、活性化合物を重量で少なくとも1%含まなければならない。組成物および調製物の百分率は、当然変化してもよく、簡便に、単位重量の約5〜約80%の範囲であってもよい。そのような治療的に有用な組成物における活性化合物の量は、適した用量が得られる量である。本発明に従う好ましい組成物または調製物は、経口投与単位剤形が、活性化合物の約0.1μg〜2000 mgを含むように調製される。
【0131】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤等はまた、本明細書において後に記載した成分を含んでもよい:ゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤;燐酸二カルシウムのような賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸等のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;および蔗糖、乳糖、もしくはサッカリンのような甘味料を加えてもよく、またはペパーミント、冬緑油、もしくはサクランボ香料のような着香料を加えてもよい。単位投与剤形がカプセル剤である場合、これは先のタイプの材料の他に液体担体を含んでもよい。様々な他の材料は、コーティングとして存在してもよく、またはそうでなければ投与単位の物理的形状を改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤を、シェラック、糖、または双方によってコーティングしてもよい。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味料としての蔗糖、保存剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、色素、およびサクランボまたはオレンジ香料のような着香料を含んでもよい。当然、任意の単位投与剤形を調製するために用いられる如何なる材料も、薬学的に純粋でなければならず、用いられる量において実質的に非毒性でなければならない。さらに、活性化合物は、徐放性調製物および製剤に組み入れてもよい。
【0132】
薬学的組成物はまた、調整物質をコードする核酸分子を有する、標的細胞をトランスフェクトすることができるベクターのような遺伝子分子を含んでもよい。ベクターは、例えばウイルスベクターであってもよい。
【0133】
本発明のなおもう一つの局面は、本発明の方法において用いる場合、本明細書において先に定義した物質に関する。
【0134】
本発明はまた、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整する物質、特にSEQ ID NO:2の残基191位〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸、特にPhe197またはLeu198と相互作用する、またはそれ自身相互作用する転位因子の相互作用にアゴニスト作用する、またはアンタゴニスト作用する物質のスクリーニング法を含むと理解すべきである。
【0135】
本明細書において先に定義した調整物質のスクリーニングは、スフィンゴシンキナーゼと転位メディエーター(カルモジュリンのような)とを含む細胞を物質に接触させる段階、ならびにスフィンゴシンキナーゼ局在の調整またはNF-κBのような下流のスフィンゴシンキナーゼ細胞標的の活性もしくは発現の調整に関してスクリーニングする段階、が含まれるがそれらに限定されるわけではないいくつかの適した方法の任意の一つによって行うことができる。これは、転移のメディエーターのアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングするために特に有用である。本発明の方法はまた。それ自身、スフィンゴシンキナーゼに結合して、細胞膜へのその転位を誘導する分子のスクリーニングにとっても有用である。そのような調整の検出は、ウェスタンブロッティング、電気泳動移動度シフトアッセイ、および/またはルシフェラーゼ、CAT等のようなスフィンゴシンキナーゼ活性のレポーターの読み取りのような技術を利用して行うことができる。
【0136】
スフィンゴシンキナーゼまたは転位のメディエーターは、試験の被験者である細胞において天然に存在してもよく、またはそれらをコードする遺伝子を試験の目的のために宿主細胞にトランスフェクトしていてもよいと理解すべきである。さらに、天然に存在するまたはトランスフェクトされた遺伝子は構成的に発現されてもよい−それによって中でもスフィンゴシンキナーゼ転位をダウンレギュレートする物質のスクリーニングにとって有用なモデルを提供する、または遺伝子は活性化を必要としてもよく−それによって特定の刺激条件でスフィンゴシンキナーゼ転位を調整する物質のスクリーニングにとって有用なモデルを提供する。さらに、スフィンゴシンキナーゼ核酸分子が細胞にトランスフェクトされている程度に、その分子は、スフィンゴシンキナーゼの全遺伝子を含んでもよく、またはSEQ ID NO:2の残基191〜206位のアミノ酸を含む部分のような、遺伝子の一部を単に含んでもよい。
【0137】
もう一つの例において、検出の主題は、スフィンゴシンキナーゼ自身よりむしろ、NF-κBのような下流のスフィンゴシンキナーゼ調節標的となりうる。なおもう一つの例には、最小のレポーターにライゲーションしたスフィンゴシンキナーゼ結合部位が含まれる。例えば、スフィンゴシンキナーゼ転位の調整は、適当に刺激された細胞の下流のシグナル伝達成分の調整に関するスクリーニングによって検出することができる。スクリーニングシステムの主題である細胞が新生物細胞である場合、例えば、スフィンゴシンキナーゼ転位の調整は、その細胞の増殖の中止に関してスクリーニングすることによって検出されうる。
【0138】
適した物質はまた、コンビナトリアルケミストリーまたは組換え型ライブラリのハイスループットスクリーニング、または以下の天然物スクリーニングのような周知の方法を利用して同定および/または設計してもよい。
【0139】
例えば、多数の特異的親基置換を有する有機分子が用いられる低分子有機分子を含むライブラリを、スクリーニングしてもよい。一般的な合成スキームは、公表された方法に従ってもよい(例えば、Bunin BA et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:4708〜4712;De Witt SH, et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909〜6913)。簡単に説明すると、それぞれの連続的な合成段階において、複数の異なる選択された置換基の一つを、ライブラリを作製するために用いた異なる置換基の起こりうる全ての順列が作製されるように試験管サブセットが選択される、選択された試験管サブセットのアレイのそれぞれに加える。一つの適した順列戦略を米国特許第5,763,263号に概要する。
【0140】
現在、生物活性化合物を検索するために、ランダム有機分子のコンビナトリアルライブラリを用いることに広く関心が高まっている(例えば、米国特許第5,763,263号を参照されたい)。このタイプのライブラリのスクリーニングによって発見されたリガンドは、天然のリガンドを模倣もしくは遮断するために、または生物学的標的の天然に存在するリガンドと干渉するために有用となる可能性がある。本発明の状況において、例えば、それらはより強力な薬理学効果のような特性を示すスフィンゴシンキナーゼ転位アゴニストまたはアンタゴニストを開発するための開始点として用いてもよい。スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的部分および/または転位因子は、本発明に従って様々な固相または液相合成法によって形成されたコンビナトリアルライブラリにおいて用いてもよい(例えば、米国特許第5,763,263号およびそこに引用されている参考文献を参照されたい)。米国特許第5,753,187号に開示されるような技術を用いることによって、何百万個もの新規化学および/または生物化合物が日常的に、数週間以内にスクリーニングされる可能性がある。同定された多数の化合物の中で、適当な生物活性を示す化合物のみをさらに分析する。
【0141】
ハイスループットスクリーニング法に関して、生体分子、高分子複合体、または細胞のような、選択された生物学的物質と特異的に相互作用することができるオリゴマーまたは低分子ライブラリ化合物を、上記の方法のような広範な周知の方法から当業者によって容易に選択されるコンビナトリアルライブラリ装置を利用してスクリーニングする。そのような方法において、ライブラリのそれぞれのメンバーを、選択された物質との特異的相互作用能に関してスクリーニングする。方法の実践において、生物学的物質を化合物を含む試験に加えて、各試験管において個々のライブラリ化合物と相互作用させる。相互作用は、所望の相互作用の有無をモニターするために用いることができる検出可能なシグナルを産生するように設計される。好ましくは、生物学的物質は、水溶液に存在し、所望の相互作用に応じてさらなる条件が適合される。検出は、例えば物質を検出するための任意の周知の機能的または非機能的に基づく方法によって行ってもよい。
【0142】
したがって、本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を含む細胞またはその抽出物を、推定の物質に接触させる段階、および細胞膜局在に関連した発現表現型の変化を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体の細胞内局在を調整することができる物質を検出する方法を提供する。
【0143】
「スフィンゴシンキナーゼ」という言及は、スフィンゴシンキナーゼ発現産物、または細胞膜局在領域もしくはSEQ ID NO:2のアミノ酸191〜206位によって定義される領域である転位因子と相互作用する領域のようなスフィンゴシンキナーゼの一部もしくは断片、のいずれかに対する言及であると理解すべきである。この点において、スフィンゴシンキナーゼ発現産物は、細胞において発現される。細胞は、スフィンゴシンキナーゼ核酸分子をトランスフェクトした宿主細胞であってもよく、またはスフィンゴシンキナーゼ遺伝子を本来含む細胞であってもよい。「その抽出物」という言及は、無細胞転写系に対する言及であると理解すべきである。
【0144】
「細胞膜局在に関連した発現表現型の変化」を検出するという言及は、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在の調整に関連した細胞変化の検出として理解すべきである。これらは、例えば細胞内変化、または増殖レベルの変化のような細胞外で観察されうる変化として検出されてもよい。
【0145】
本発明のさらにもう一つの局面は、本明細書において定義されたスクリーニング法に従って同定された物質および本発明の方法において用いられる物質を対象とする。物質は、SEQ ID NO:2のアミノ酸191〜206位のアミノ酸によって定義される領域の全てもしくは一部、および特にヒトスフィンゴシンキナーゼのPhe197および/またはLeu198、または対応する領域に結合するモノクローナル抗体に及ぶと理解すべきである。
【0146】
本発明のなおさらなる局面は、野生型スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転移能の消失または低減を示す、その領域が転位メディエーター結合部位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域において変異を含むスフィンゴシンキナーゼ変種を対象とする。
【0147】
本発明はまた、既存の転位メディエータ結合部位の変異の性質またはさらなるそのような部位の組み込みにより、増強されたまたはアップレギュレートされた活性を示す変種にも及ぶ。
【0148】
「変異」という言及は、スフィンゴシンキナーゼが転位を受ける能力を調整する、天然に存在するまたは天然に存在しない、任意の変化、変更、または他の改変に対する言及であると理解すべきである。調整は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションであってもよい。本発明は好ましくは、活性化能の消失を示す変種を対象とするが、本発明は、転位能の改善を示す変種の作製にも及ぶと理解すべきである。この状況において「機能的」誘導体、相同体、または類似体に対する言及は、定義された転位能の調整を示す本発明の分子に対する言及であると理解すべきである。
【0149】
変化、変更、または他の改変は、構造的改変(スフィンゴシンキナーゼ分子の二次、三次、または四次構造の変更のような)、分子改変(スフィンゴシンキナーゼタンパク質からの一つまたは複数のアミノ酸の付加、置換、または欠失のような)、または化学改変が含まれるがそれらに限定されるわけではない任意の形であってもよい。本発明の改変はまた、タンパク質様もしくは非タンパク質様分子とスフィンゴシンキナーゼタンパク質との融合体、連結、もしくは結合、またはスフィンゴシンキナーゼタンパク質をコードする核酸分子に及ぶと理解すべきである。同様に、本発明の変異はスフィンゴシンキナーゼ発現産物によって発現されることが必要であるが、変異の作製は、野生型スフィンゴシンキナーゼタンパク質を変異させること、スフィンゴシンキナーゼ変種を合成すること、または変異した核酸分子の発現産物がスフィンゴシンキナーゼタンパク質変種であるように野生型スフィンゴシンキナーゼタンパク質をコードする核酸分子を改変すること、を含む任意の適した手段によって得てもよいと理解すべきである。好ましくは、変異は、単一または複数のアミノ酸配列の置換、付加、および/または欠失である。
【0150】
この好ましい態様に従って、野生型スフィンゴシンキナーゼ、またはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転移能の消失または低減を示す、アミノ酸191〜206位の単一または複数のアミノ酸置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含むヒトスフィンゴシンキナーゼ変種が提供される。
【0151】
好ましくは、アミノ酸はアミノ酸Phe197および/またはLeu198であり、さらにより好ましくは置換はPhe197Alaおよび/またはLeu198Gln置換である。
【0152】
本発明に関して、「野生型」スフィンゴシンキナーゼという言及は、所定の集団におけるほとんどの個体によって発現されるスフィンゴシンキナーゼの型に対する言及である。スフィンゴシンキナーゼの一つより多い野生型が存在する可能性があり(例えば対立遺伝子またはイソ型変種により)、野生型スフィンゴシンキナーゼ分子によって示される転位能のレベルまたは程度は、一定範囲のレベルに入る可能性がある。しかし、「野生型」には、転位されることができないスフィンゴシンキナーゼの天然に存在する型に対する言及は含まれないと理解すべきである。スフィンゴシンキナーゼのそのような変種型は、実際に、本発明の状況においてスフィンゴシンキナーゼの天然に存在する変異型を構成する可能性がある。
【0153】
本明細書において先に定義した「物質」という言及は、本明細書において定義されたスフィンゴシンキナーゼ変種に対する言及が含まれると理解すべきである。
【0154】
さらにもう一つの局面において、本発明は、本明細書において先に定義したスフィンゴシンキナーゼ変種を発現するように改変されている遺伝子改変動物に及ぶ。
【0155】
本発明は、以下の非制限的な実施例を参照して記述される。
【0156】
実施例1
スフィンゴシンキナーゼ1燐酸化および細胞質膜への転位はその腫瘍形成能を媒介する
細胞培養、トランスフェクション、および細胞の分画
ヒト胎児腎(HEK293T)細胞およびNIH3T3線維芽細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において培養して、既に記述されているように(Pitson et al., 2000、前記)回収した。HEK293T細胞に関して燐酸カルシウム沈殿法を用いて、およびNIH3T3細胞に関してリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、安定かつ一過性のトランスフェクションを行った。安定なトランスフェクタントをG418抵抗性に関して選択して、単一のトランスフェクトした細胞からの個々のクローンの選択および伝幡によって生じる可能性がある表現型のアーチファクトを回避するためにプールした。細胞下分画に関して、既に記述されているように(Pitson et al. 2003, EMBO J. 22:5491〜5500)細胞溶解物の後核上清をサイトゾルと膜分画に分離した。
【0157】
抗体
M2抗FLAG抗体は、Sigmaから、抗H-Rasポリクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnologyから、およびHRP-共役抗マウスおよび抗ウサギIgGはPierceから得た。抗hSK1および抗ホスホ-hSK1抗体は既に記述されている(Pitson et al. 2003、前記)。
【0158】
スフィンゴシンキナーゼアッセイ
スフィンゴシンキナーゼアッセイは、既に記述されているように(Pitson et al. 2000、前記)、基質としてD-エリスロ-スフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA)および[γ32P]ATP(Geneworks, Adelaide, South Australia)を用いて決定した。スフィンゴシンキナーゼ活性の単位(U)は、1 pmol S1P/分を産生するために必要な酵素量であると定義される。
【0159】
Lck-hSK1構築物の作製
Lckタンパク質チロシンキナーゼのアミノ酸10個のN-末端二重アシル化モチーフ(MGCGCSSHPE)は、細胞質膜にタンパク質をターゲティングするために十分であることが示されている(Zlatkine et al., 1997, J. Cell Sci. 110:673〜679)。このように、Lck-hSK1キメラは、鋳型DNAとしてpcDNA3-hSK1(Pitson et al. 2000、前記)を用いて、オリゴヌクレオチドプライマー
およびSP6によるPCRによって産生した。得られた産物をEcoRIによる消化によってpcDNA3(Invitrogen)にクローニングした。制限分析によって方向性を決定して、シークエンシングによってFLAGタグLck-hSK1 cDNA配列の完全性を確認した。FLAGタグLck-hSK1S225Aキメラを作製するために、pcDNA3-hSK1S225Aの野生型5'末端を表すKpnI-PmlI断片(Pitson et al. 2003、前記)を、Lck二重アシル化モチーフを含む150 bpのKpnI-PmlI pcDNA3-Lck-hSK1 DNA断片に置換した。
【0160】
免疫蛍光
安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞をフィブロネクチンコーティング8ウェルガラスチャンバースライド(Nalge Nunc International)に細胞1×104個/ウェルで播種して、24時間インキュベートした。細胞を4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液によって10分間固定して、0.1%トライトンX-100のPBS溶液によって透過性にして、3%BSAおよび0.1%トライトンX-100を含むPBSにおいてM2抗FLAG抗体と共に1時間インキュベートした。FITC共役抗マウスIgGによって免疫複合体を検出した。蛍光顕微鏡検査は、蛍光励起フィルター(494 nm)を備えたOlympus BX-51顕微鏡において行い、Cool Snap FX電荷カップリング装置カメラ(Photometrics, Phoenix, AZ)に獲得した。
【0161】
S1Pレベル
細胞内および細胞外S1Pレベルの双方を決定するために、細胞を燐酸塩を含まないDMEMにおいて1時間インキュベートした後、[32P]オルトホスフェート(0.2 mCi/ml)を含む新鮮な燐酸塩を含まないDMEMによって代謝的に標識して、37℃で4時間インキュベートした。細胞外S1P放出を決定するために、培地を除去して、1,000×gで遠心して、上清2.5 mlをクロロホルム2.5 ml、メタノール2.5 mlおよび濃HCl 20μlに加えた。有機相を真空下で乾燥させて、クロロホルムに浮遊させて、S1Pをシリカゲル60上でのTLCによって1-ブタノール/エタノール/酢酸/水(8:2:1:2、v/v)によって分解した。濃HCl 25μlを含むメタノール400μlに採取することによって細胞内S1Pレベルを決定した。クロロホルム400μl、KCl 400μl、および3 M NaOH 40μlを加えることによって、脂質をアルカリ条件で抽出した。これらの条件でS1Pを含む水相を、濃HCl 50μlを加えることによって酸性にして、クロロホルム400μlによって再度抽出した。有機相を真空下で乾燥させて、クロロホルムに浮遊させて、上記のようにTLCによってS1Pを分解した。
【0162】
細胞生長、ブロモデオキシウリジンの取り込み、およびアポトーシス核の染色
細胞生長に関するアッセイは、既に記述されているように(Xia et al., 2000、前記)、48ウェルプレート(細胞2500個/ウェル)において5%または1%FCSを含む培地または無血清培地(0.1%BSAを含む)において細胞をインキュベートすることによって行った。細胞数はチアゾリルブルー(MTT)アッセイを用いて表記の時間で決定した。新生DNAへのブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みを、細胞増殖の測定として用いた。細胞を、フィブロネクチンをコーティングした8ウェルガラスチャンバースライド(Nalge Nunc International)に1×104個/ウェルで播種して、2%FCSを含むDMEMにおいて24時間生長させた。細胞を10 μM BrdUと共に3時間インキュベートした後、固定して、製造元のプロトコールに従って抗BrdU-FLUOS抗体(Roche)を用いてその取り込みに関して染色した。BrdU取り込み陽性の細胞をOlympus BX-51蛍光顕微鏡によって可視化して、一カ所につき細胞少なくとも300個を採点した。アポトーシスは、細胞をメタノールにおいて1μg/ml DAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)によって室温で15分間染色することによって評価した。アポトーシス細胞を、蛍光顕微鏡を用いて縮合および断片化核によって同定して、総細胞の百分率として表記した。一カ所につき最小で細胞300個を採点した。
【0163】
結果
hSK1の燐酸化は、細胞増殖の増強および生存にとって必要である
野生型hSK1の過剰発現は、細胞増殖および生存を有意に増強した(Olivera et al, 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、上記;Sukocheva et al., 2003、前記;Olivera et al, 2003、前記)。しかし、それによってこれが起こる正確な分子メカニズムは不明である。これらの効果は、hSK1の触媒活性に依存し、これらはスフィンゴシンキナーゼ阻害剤であるN,N-ジメチルスフィンゴシンによって遮断され(Olivera et al, 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、前記)、Gタンパク質共役S1P受容体とは無関係であるように思われる(Olivera et al, 1999、前記;Olivera et al, 2003、前記)。このように、増強された生長および生存は、まだ同定されていない細胞内標的に及ぼすS1Pの作用によるように思われる。今日まで、細胞における総S1Pレベルの増加は、過剰発現されたhSK1の高い内因性の触媒活性(Pitson et al. 2000、前記)の結果として、これらの生物効果を誘導するために十分であると見なされている(Olivera et al, 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、前記;Nava et al., 2002、前記;Sukocheva et al., 2003、前記)。最近の知見から、Ser225でのhSK1の燐酸化によって、その触媒活性化および細胞膜への転位が起こることが示されている(Pitson et al. 2003、前記)。
【0164】
hSK1の燐酸化が、増殖および生存において重要であるか否かを調べるために、非活性化hSK1S225A変異体がこれらのプロセスを促進するか否かを調べた。野生型hSK1の過剰発現は、1%および5%血清のいずれかを含む培地におけるNIH3T3細胞の生長を顕著に増強したのみならず、血清の非存在下での生存および生長能をこれらの細胞に付与した(図1A〜C)。しかし対照的に、hSK1S225Aを過剰発現する細胞は、そのような生長の増強または血清非依存性を示さなかった(図1A〜C)。これは、トランスフェクトされたタンパク質の類似のレベルを発現して、同等の総スフィンゴシンキナーゼ活性を有する細胞であるにもかかわらずである(図1D)。類似の結果はまた、HEK293T細胞についても認められた。
【0165】
これまでの研究から、野生型hSK1の過剰発現からの生長速度の増加が細胞増殖の増加およびアポトーシスの低減の双方の組み合わせに起因することが示された(Olivera et al, 1999、前記;Edsall et al., 2001、前記;Olivera et al, 2003、前記)。これらの試験と一致して、新生DNAへのBrdU取り込みによる細胞増殖のアッセイから、野生型hSK1の過剰発現が細胞増殖の増加において有意な効果を有することが示された(図1E)。しかし、対照的に、hSK1S225Aを過剰発現する細胞は、そのような増殖の増強を示さず、対照細胞と類似のBrdU取り込みを示した(図1E)。同様に、野生型hSK1の過剰発現は、核の濃縮および断片化によって測定したところ、血清枯渇誘導アポトーシスを劇的に低減させた(図1F)。しかし、この場合もhSK1S225Aの過剰発現は顕著に異なる結果を示し、細胞にアポトーシスに対するそのような保護を提供しなかった(図1F)。したがって、野生型hSK1と全く対照的に、非燐酸化hSK1S225A変異体の過剰発現は、双方のトランスフェクト細胞が類似の細胞スフィンゴシンキナーゼ活性を産生するにもかかわらず、増殖を増加させず、アポトーシスに対しても保護しない。このように、hSK1の燐酸化は、増殖の増強および生存に関して認められた効果にとって必須であり、これらの効果に至るシグナル伝達プロセスにとって重要である酵素の定量的変化を示唆している。
【0166】
hSK1の細胞質膜局在は、hSK1燐酸化とは無関係に細胞増殖および生存を増強する
hSK1は、特定のアゴニストに細胞を曝露すると、細胞質から細胞質膜に転位することは十分に確立されている(Pitson et al. 2003、前記;Rosenfeldt et al., 2001、前記;Johnson et al., 2002;Melendez et al., 2002、前記;Young et al, 2003, Cell Calcium 33:119〜128)。この転位は、Ser225位でのhSK1の燐酸化に依存することが示されている(Pitson et al. 2003、前記)。増殖および生存の増強も同様に、hSKのSer225位の燐酸化に依存する。これらの生物効果に及ぼす細胞質膜へのhSK1局在の役割を調べた。細胞質膜局在hSK1タンパク質は、野生型hSK1およびhSK1S225AのN-末端にアミノ酸10個のLckタンパク質チロシンキナーゼ二重アシル化モチーフを加えることによって作製され、それぞれ、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225Aを産生する。NIH3T3細胞におけるこれらのタンパク質の過剰発現によって、hSK1およびhSK1S225Aの過剰発現に関して認められた場合よりわずかにより低い細胞スフィンゴシンキナーゼ活性が生成された(図1D)。このモチーフがタンパク質を細胞質膜にターゲティングするために十分であることを示したこれまでの研究と一致して(Zlatkine et al., 1997、前記)、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225Aタンパク質ならびにスフィンゴシンキナーゼ活性の膜分画への実質的な局在(図2A)が観察された。さらなる免疫蛍光分析(図2B)は、細胞質膜へのLck-hSK1およびLck-hSK1S225Aの明確な局在を示したが、初期の報告(Pitson et al. 2003、前記)と一致して、hSK1およびhSK1S225Aはサイトゾルに存在した。
【0167】
野生型hSK1と同様に、Lck-hSK1の過剰発現はNIH3T3細胞の生長を顕著に増強し、同様にこれらの細胞に血清の非存在下での生存および生長能を付与した(図1A〜C)。しかし、hSK1S225Aとは全く対照的に、Lck-hSK1S225Aの過剰発現も同様に血清枯渇条件での生存と共に生長の増強を付与した(図1A〜C)。これらの細胞のさらなる試験から、野生型hSK1と同様に、Lck-hSK1および非燐酸化Lck-hSK1S225Aがいずれも、細胞増殖の増強および血清枯渇誘導アポトーシスの低減を通して細胞生長を増加させることが示された(図1E、F)。したがって、細胞質膜へのhSK1の局在は、酵素の燐酸化状態とは無関係に、細胞増殖を増強して、アポトーシスに対して保護するために十分である。したがって、hSK1の燐酸化は、触媒活性の関連する増加の結果としてよりむしろ、細胞質膜へのhSK1の転位の誘導を通してこれらの観察された生物学的効果を媒介する。
【0168】
hSK1の燐酸化誘導細胞質膜局在は、細胞のトランスフォーメーションを媒介する
hSK1のSer225燐酸化は、細胞増殖および生存を増強するためにその効果にとって必須であることが確立されていることから、細胞のトランスフォーメーションに及ぼすその効果を調べた。既に記述されているように(Xia et al., 2000、前記)、野生型hSK1は、NIH3T3細胞にトランスフェクトした場合に、軟寒天におけるコロニー形成によってアッセイしたところ、かなりのトランスフォーム活性を示した(図3)。しかし対照的に、類似のレベルおよびhSK1S225Aの触媒活性の過剰発現によって、これらの細胞におけるトランスフォーメーションは顕著により少なくなった(図3)。特に、hSK1S225Aを発現するこれらの細胞は、野生型hSK1によるNIH3T3細胞のトランスフォーメーションにとって必要であることが既に示されている活性よりかなり高いスフィンゴシンキナーゼ活性を有した(Xia et al., 2000、前記)。したがって、増殖および生存の増強の状況と同様に、これらの実験は、細胞のトランスフォーメーションの原因であるのは、スフィンゴシンキナーゼ活性のレベルの上昇ではないことを証明しており、その代わりにタンパク質の燐酸化された活性化状態のもう一つの局面がこれらの効果の原因であることを示している。腫瘍遺伝子H-Ras(V12-Ras)によるNIH3T3細胞のトランスフォーメーションは、触媒的に不活性なドミナントネガティブ型のhSK1によって遮断されることが既に証明されており、hSK1がRas誘導細胞トランスフォーメーションに強く関係していることを示している(Xia et al., 2000、前記)。顕著に、非燐酸化hSK1S225Aも同様にRas-誘導細胞トランスフォーメーションを遮断し、この経路におけるhSK1活性化の必要条件をさらに確認する(図3)。したがって、この意味において、hSK1S225Aは、完全な触媒活性を有するにもかかわらず、タンパク質のドミナントネガティブ型として明らかに作用する。
【0169】
細胞のトランスフォーメーションに及ぼすhSK1の細胞質膜局在の効果を調べた。野生型hSK1と同様に、NIH3T3細胞におけるLck-hSK1およびLck-hSK1S225Aの双方の過剰発現によって、軟寒天において活発なコロニーの形成が起こった(図3)。空のベクター対照細胞においてもいくつかのバックグラウンドコロニーが観察されたが、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225A過剰発現細胞は、20〜30倍多いコロニーを形成し、それらは大きさもかなりより大きかった。実際に、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225Aの過剰発現によって形成されたコロニーは、野生型hSK1を過剰発現する細胞において観察されたコロニーより大きく、より多数であった(図3)。このように、hSK1の細胞質膜への局在は、酵素の燐酸化状態とは無関係に細胞のトランスフォーメーションを増強するために十分である。
【0170】
hSK1の燐酸化および細胞質膜局在はS1P産生を増強する
hSK1の基質であるスフィンゴシンは細胞膜のあいだに急速に拡散することができるが、細胞質膜に主に見いだされる(Slife et al., 1989, J. Biol. Chem. 264:10371〜10377)。したがって、hSK1の細胞膜への局在に関して観察された劇的な生物効果の一つの可能性があるメカニズムは、S1P産生の増強である。Lck-hSK1および非燐酸化Lck-hSK1S225Aの双方の過剰発現によって、細胞内S1Pの類似の増加および培地へのS1P放出の増強が起こり、これは野生型hSK1またはhSK1S225Aのいずれかに関して観察された値より実質的に大きかった(図4)。
【0171】
当業者は、本明細書に記述の本発明が具体的に記述された以外の変動および改変を受けることを認識するであろう。本発明にはそのような全ての変動および改変が含まれると理解すべきである。本発明にはまた、本明細書において個々にまたは集合的に言及されたまたは示された段階、特徴、組成物の全て、および該段階または特徴の任意の二つまたはそれより多い任意の全ての組み合わせが含まれる。
【0172】
実施例2
スフィンゴシンキナーゼのカルモジュリン結合部位およびスフィンゴシンキナーゼの細胞質膜へのアゴニスト依存的転位におけるその役割
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト胎児腎細胞(HEK293T)を、10%仔ウシ胎児血清(JRH Biosciences)、2 mMグルタミン、0.2%(w/v)重炭酸ナトリウム、ペニシリン(1.2 mg/ml)、およびストレプトマイシン(1.6 mg/ml)を含むダルベッコ改変イーグル培地(JRH Biosciences, Lenexa, KS)において培養した。細胞を燐酸カルシウム沈殿法を用いて一過性にトランスフェクトして、回収し、既に記述されているように(Pitson et al. 2000、前記)超音波によって溶解した。細胞ホモジネートにおけるタンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準物質として用いてクーマシーブリリアントブルー試薬(Sigma)によって決定した。
【0173】
スフィンゴシンキナーゼアッセイ
スフィンゴシンキナーゼ活性は、既に記述されているように(Roberts et al., Anal. Biochem 331, 122〜129)D-エリスロ-スフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA)および[γ32P]ATPを基質として用いてルーチンとして決定した。スフィンゴシンキナーゼ活性の単位(U)は、1 pmol S1P/分を産生するために必要な酵素の量として定義される。
【0174】
カルモジュリン結合アッセイ
スフィンゴシンキナーゼのCa2+/CaM結合を評価するためのアッセイを、既に詳述されているように(Pitson et al. 2002, J. Biol. Chem. 277, 49545〜49553)行った。簡単に説明すると、先に記述したように、野生型または変異体hSK1もしくはhSK2を過剰発現するHEK293T細胞を回収して溶解した。細胞溶解物を遠心して(13000×g、4℃で15分)細胞の破片を除去した。上清の少量を、50 mMトリス/HCl(pH 7.4)、5 mM CaCl2、100 mM NaCl、10%(w/v)グリセロール、0.05%(w/v)トライトンX-100、1 mMジチオスレイトール、1.5 mM Na3VO4、7.5 mM NaF、およびプロテアーゼ阻害剤(Complete(商標)、Roche)からなる結合緩衝液によって予め平衡にしたCaM-セファロース4B(Amersham Biosciences)を含む試験管に加えて、絶えず攪拌しながら4℃で30分間インキュベートした。CaM-セファロース4Bビーズを遠心(5000×g、4℃で5分)によって沈降させて、結合緩衝液によって2回洗浄した。結合したhSK1またはhSK2をSDS-PAGEによって分解して、FLAGエピトープによるウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロースCL-4B(Amersham Biosciences)を、CaM-セファロース4Bに対する非特異的結合の対照として用いた。
【0175】
スフィンゴシンキナーゼ変異体の構築
hSK1 cDNA(Genbankアクセッション番号AF200328)を、3'末端でFLAGエピトープタグをつけて、既に記述されているように(Pitson et al. 2000、前記)、pALTER部位特異的変異誘発ベクター(Promega Corp., Annandale, Australia)にサブクローニングした。一本鎖DNAを調製して、製造元のプロトコールに詳述されているように、これをオリゴヌクレオチド特異的変異誘発の鋳型として用いた。点突然変異体構築物を作製するために用いた変異誘発オリゴヌクレオチドは以下の通りであった:
。所望の改変が取り込まれていることを確認するために、変異体をシークエンシングして、その後cDNAを、HEK293T細胞への一過性のトランスフェクションのためにpcDNA3(Invitrogen, San Diego, CA)にサブクローニングした。
【0176】
野生型hSK1に関して既に記述されている方法(Pitson et al. 2003、前記)を用いて、hSK1F197A/L198QをN-末端でeGFPによってタグをつけた。プライマー、5'-
を用いるQuikChange変異誘発(Stratagene)によって、pcDNA3(Roberts et al., 2004、前記)においてhSK2 cDNAからhSK2V327A/L328Qを作製して、所望の改変が組み入れられていることを確認するためにシークエンシングした。
【0177】
GSTペプチドの作製およびプルダウン分析
hSK1の推定のCaM結合(PCB)領域を含むペプチドをコードする配列を、以下のプライマー:PCB1
によってhSK1 cDNAからPCR増幅した。次に、産物をEcoRIによって消化して、pGEX2Tにクローニングした。これらのpGEX2Tベクターによって形質転換した大腸菌JM109の培養物を、100 mg/Lアンピシリンを含むルリアブロスにおいて振とうさせながら37℃で終夜生長させた。次に、培養物を同じ培地で1:10に希釈して、OD600が約0.6に達するまで、振とうさせながら37℃で1時間生長させた。GST-PCBペプチドの発現を、IPTGを最終濃度1 mMで加えることによって誘導して、培養物をさらに3時間インキュベートした。細胞を6000×gで4℃で15分の遠心によって回収して、150 mM NaCl、1%トライトンX-100、1 mM EDTA、およびプロテアーゼ阻害剤を含む50 mMトリス/HCl、pH 7.4において超音波(3×30秒、5ワットのパルス)によって溶解した。20000×gで4℃で30分間の遠心によって溶解物を透明にした後、グルタチオン-セファロース(Amersham Biosciences)を加えて、混合物を絶えず攪拌しながら4℃で1時間インキュベートした。この後、グルタチオン-セファロースを冷PBSによって3回洗浄して、GST-ペプチドを、50 mMトリス/HCl、pH 8.5において20 mMグルタチオンによって4℃で10分間溶出した。CaM-セファロースおよびGST-ペプチド融合タンパク質のプルダウン分析を、各精製GST-ペプチドまたはGST単独約1μgを用いて先に記述したように行った。CaM-セファロースに対するペプチドの結合を、抗GST抗体を用いて検出した。
【0178】
限定的タンパク質分解およびN-末端シークエンシング
既に記述されているように(Pitson et al. 2002、前記)、Sf9細胞から組換え型hSK1を作製して精製した。精製ウシCaM(Sigma)の3倍モル過剰量の存在下または非存在下で、100 mMトリス/HCl、pH 8.5においてトリプシン(Roche)2 ngまたは5 ngを加えることによって、このhSK1(15μlにおいて1.5μg)の限定的タンパク質分解を行った。次に、混合物を37℃で60分間インキュベートした後、100 mM 4-(2-アミノエチル)-ベンゼンスルホニルフルオリド(Roche)1.5 μlを加えることによって停止させて、37℃でさらに5分間インキュベートした。チプチック(typtic)切断産物をSDS-PAGEによって分解してPVDFメンブレンに転写した。メンブレンのクーマシー染色後、CaMの存在下で保護されたバンドを切り出して、オーストラリアプロテオーム分析施設において、Applied Biosystems 494 Prociseタンパク質シークエンシングシステムを用いて、そのN-末端配列を自動Edman分解6サイクルによって決定した。
【0179】
ウェスタンブロッティング
12%アクリルアミドゲルを用いて細胞溶解物にSDS-PAGEを行った。タンパク質をニトロセルロースにブロットして、メンブレンを5%スキムミルク粉末および0.1%(w/v)トライトンX-100を含むPBSにおいて4℃で終夜ブロックした。細胞溶解物におけるhSK1発現レベルを、モノクローナル抗体M2抗FLAG抗体(Sigma)によって溶解物の一連の希釈に対して定量して、増強化学発光キット(ECL、Amersham Biosciences)を用いて免疫複合体をHRP抗マウス(Pierce)IgGによって検出した。
【0180】
酵母2ハイブリッドスクリーニング
Matchmaker Gal4 2ハイブリッドシステム3(Clontech)を用いて、製造元の説明書に従って酵母2ハイブリッドスクリーニングを行った。完全長のhSK1 cDNA(Genbankアクセッション番号AF200328)をpGBKT7(Clontech)にGal4 DNA結合ドメインとインフレームでクローニングした。おとり構築物を、pACT2(Clontech)においてヒト白血病cDNAライブラリと共に酵母株AH107に形質転換した。独立したクローン全体で1×106個をスクリーニングした。
【0181】
GST-カルミリンの作製
完全長のカルミリンをコードする配列を、プライマー
によって酵母2ハイブリッドスクリーニングから得られたpACT2-カルミリンからPCR増幅した。次に産物をBamHIおよびXhoIによって消化して、pGEX4T2にクローニングした。GST-カルミリンの作製は、先に記述したように大腸菌BL21において行った。
【0182】
結果
hSK1における予想CaM-結合部位の変異誘発
hSK1とCaMとの相互作用における誘発Ca2+/CaM結合部位の可能性がある役割を調べるために、hSK1の部位特異的変異を行った。特に、この変異誘発はこれらのモチーフ内で保存された疎水性残基に集中しており、それらを構造的に保存された親水性残基に交換する。PCB2は、Leu153からGlnへの変異(hSK1L153Q)によってターゲティングされ、PCB1およびPCB2はいずれもLeu147からGlnへの変異(hSK1L147Q)によってターゲティングされ、PCB3は、Leu187からGlnへの変異(hSK1L187Q)およびLeu200からGlnへの変異(hSK1L200Q)によってターゲティングされ、ならびにPCB4はPhe303からHisへの変異(hSK1F303H)によってターゲティングされた。hSK1のこれらのバージョンをHEK293T細胞において発現させて、CaM-セファロースに対するその結合能および保持された全体的なタンパク質の折り畳みの測定値としてその触媒活性を分析した。これらのhSK1変異体は全て少なくとも何らかの触媒活性を保持したが、いくぶん驚いたことに、5個全てが野生型hSK1と類似の効率でCaMに結合した(図6)。このことは、hSK1のこれらの予想されたCa2+/CaM結合領域がCaM結合に関係していない可能性があることを示唆した。これらの推定のCa2+/CaM結合領域内での他の保存された疎水性残基のさらなる変異誘発(すなわち、Leu134からGluおよびVal290からAsn)は、触媒的に不活性なhSK1タンパク質を生じ、したがって変異がこれらのタンパク質の全体的な折り畳みの破壊を引き起こした可能性のためにさらに分析しなかった。
【0183】
hSK1におけるCaM-結合部位の直接同定
変異誘発実験により、配列分析から予想されたhSK1のCa2+/CaM結合部位は、CaM結合の原因ではないことが示唆されたことから、hSK1におけるCaM結合領域を直接同定するためにさらなる実験を行った。これは最初、精製組換え型hSK1の限定的タンパク質分解を用いて行い、CaMの存在下で保護されたhSK1における切断部位を同定した。精製組換え型hSK1のトリプシンによる限定的タンパク質分解は、大きさが約9 kDa〜32 kDaに及ぶいくつかの検出可能な切断産物を生じた(図7A)。しかし、この限定的タンパク質分解の際にCaMを含めることによって、17〜22 kDaの範囲の多数のhSK1-由来産物が失われ、より大きいhSK1-由来ポリペプチドの蓄積が起こった(図7A)。CaMの存在下で限定的タンパク質分解の際に生成されなかった最も顕著な二つのポリペプチドは、おおよその分子量21および22 kDaを有した(図7A)。これらのポリペプチドは無傷の組換え型hSK1のこの末端に存在するHis-タグを保持していたこと、およびhSK1の中心領域内の少なくとも二つのトリプシン切断部位に非常に近位の結合CaMの存在によりおそらく生成されなかったことから(図7B)、hSK1のC-末端断片を表す。このように、CaMによって保護されたこれらの切断部位を同定するために、二つのペプチドのN-末端シークエンシングを行った。得られた配列
は、二つの保護されたトリプシン切断部位がArg192/Phe193およびArg198/Leu199に存在することを示している。
【0184】
hSK1における可能性があるCaM結合部位をさらに解明するために、本発明者らは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)に融合させたhSK1のPCB1/2、PCB3、およびPCB4領域に基づいてアミノ酸30個のペプチドとCaMとの相互作用を調べた。三つのペプチドをインフレームでGSTに融合させて、大腸菌において発現させて精製した後、CaM-セファロースとの結合能に関して評価した。限定的タンパク質分解を用いて先に得られた結果と一致して、PCB3ペプチドを含む融合タンパク質のみが、CaMとの会合を示した(図8)。併せると、これらのデータは、PCB3がhSK1のCaM結合領域であることを強く示している。
【0185】
CaM結合欠損hSK1変異体の作製
PCB3内のLeu187またはLeu200のいずれの変異も、hSK1のCaMとの結合を変化させなかったが(図6)、限定的タンパク質分解およびペプチド結合試験から得られた結果は、この会合にとって肝要である可能性があるこの領域における他の残基をさらに調べるための起動力となった。このように、本発明者らは、Leu194からGln(hSK1L194Q)、Phe197からAla(hSK1F197A)およびLeu198からGln(hSK1L198Q)を含む、PCB3内のいくつかの個々の疎水性残基において変異を含むhSK1のバージョンを作製した。この場合もこれらのバージョンのhSK1をHEK293T細胞において発現させて、そのCaM結合能に関して分析した。結果(図9)は、三つ全てがCaM-セファロースに会合するように思われたが、それらは、野生型hSK1と比較して効率が幾分低減していたことを示した(図9)。これは、三つの変種タンパク質の全てが少なくとも何らかの触媒活性を保持しているにもかかわらず、変異が全体的なタンパク質の折り畳みに影響を及ぼしていなかったことを示唆している。これらの知見に照らして、Phe197からAlaおよびLeu198からGlnへの変異の双方を含むhSK1のバージョン(hSK1F197A/L198Q)を作製して、再度CaMとの会合能を調べた。これらの二つの変異はhSK1のCaMに対する結合を完全に消失させた(図5)。さらに、このhSK1二重変異体は、かなりの触媒活性を保持して、この場合も、CaMとの会合能における欠損がタンパク質の全体的な折り畳みにおける破壊の結果ではないことを示した。このように、これらの結果は、hSK1のCaM結合領域がhSK1のPCB3領域(残基191〜206位)内に存在すること、およびPhe197およびLeu198がhSK1とCaMとの相互作用に決定的に関係していることを確固として確立する。
【0186】
hSK1のCaM結合部位の特徴をさらに調べるために、CaM結合における疎水性残基の決定的な関係の他に、塩基性残基のそのような集合体は、一般的にCaMとその標的との相互作用の静電気的安定化において一般的に関係していることから(Vetter et al., 2003、前記)、PCB3のN-末端に向けて塩基性領域をターゲティングした。したがって、Arg185およびArg186の双方でAlaを含むhSK1のバージョン(hSK1R185A/R186A)を作製して、CaM-セファロースとのその会合能を調べた。これまでの分析および他のCaM結合部位との比較に基づいて(Vetter et al., 2003、前記)、幾分驚いたことに、hSK1R185A/R186Aは、CaMとの結合能を保持し(図9)、これらの塩基性残基がこの相互作用にとって必要ではないことを示した。
【0187】
CaM結合はhSK1およびhSK2のあいだで保存されている
hSK2のCaMとの結合能を調べた過去の試験はなかったが、配列分析により、同定されたhSK1のCaM結合部位がこのタンパク質において高度に保存されていることを示した(図5)。このように、CaMが同様にhSK2に結合することができるか否かの問題を調べた。実際に、hSK1と同様にhSK2もCaMと会合することが見いだされた(図10A)。hSK2とCaMとのこの相互作用は、Ca2+の存在下で増強されたが、hSK1の状況とは異なり、hSK2に対するアポカルモジュリンのかなりの結合がCa2+の非存在下で観察された(図10A)。
【0188】
hSK2はCaMと相互作用するが、Ca2+/CaMを組換え型hSK2の酵素アッセイに加えると、hSK1の状況と同様に(Pitson et al. 2000、前記)、Ca2+/CaMが、インビトロでのhSK2の触媒活性を変化させないことが示された(データは示していない)。このように、CaMとhSK2とのこの相互作用の生理的役割はまだ決定されていない。
【0189】
CaM結合欠損hSK2バージョンを作製するために、hSK1のCaM結合にとって重要であるタンパク質について保存されたこのタンパク質における残基について変異誘発を行った。hSK2のこのバージョン(hSK2V327A/L328Q)を、HEK293T細胞において発現させて、そのCaM-セファロースとの結合能および保持された全体的なタンパク質折り畳みの測定としての触媒活性の双方に関して分析した。hSK1に関する知見と一致して、このhSK2変異体は高い触媒活性を保持したが、CaMとは相互作用しなかった(図10)。このように、これらの試験は、hSK1およびhSK2がCaMと会合するのみならず、双方の酵素が高度に保存された結合部位を通して会合することを確固として確立する。
【0190】
スフィンゴシンキナーゼ調節におけるCaM結合部位の役割
Ser225での燐酸化を通してのhSK1の活性化および特にその細胞質膜へのその後の転位は、この酵素による腫瘍形成シグナル伝達において重要な段階であることが確立されている。現在の試験におけるCaM結合部位の同定およびCaM結合欠損hSK1バージョンの作製によって、hSK1の細胞局在におけるCaMの直接的な役割をさらに試験することが可能となった。このように、hSK1の十分に確立されたホルボルエステルによる細胞質膜への転位にCaMが関係しているか否かを調べた。野生型hSK1およびhSK1F197A/L198Qを、eGFPとの融合タンパク質としてHEK293T細胞において発現させて、ホルボル12-ミリステート13-アセテート(PMA)に細胞を曝露した後にその局在を調べた。この処置後に、野生型hSK1のサイトゾルから細胞質膜への局在の急激なシフトが観察された(図11A)。しかし、全く対照的に、PMAに反応したhSKF197A/L198Qの再分布は認められず(図11A)、このプロセスにおけるCaM結合部位にとっての重要な役割を強く示している。
【0191】
次に、CaM結合部位に対する変異が、このプロセスにおける間接的な効果によって転位を阻害しているのではないことを確実にするために、PMAおよび腫瘍壊死因子-α(TNF-α)に対する細胞曝露に反応したhSK1F197A/L198Qの燐酸化および活性化を調べた。実際に、PMAおよびTNFαの双方による細胞の処置によって、野生型hSK1に関して観察された場合と同等のhSK1F197A/L198Qの燐酸化の増強および触媒活性の増強が起こったことから、これは当てはまらないことが見いだされた(図7B)。これは、CaM結合がhSK1の燐酸化および触媒活性化に関係していないことを証明しており、CaM結合部位の変異によるhSK1の転位の破壊が、この部位でのタンパク質-タンパク質相互作用を直接変化させることによって起こることを示唆している。
【0192】
CaMはhSK1の転位を媒介するか
先に概要した試験は、そのアゴニスト誘導転位にhSK1のCaM結合部位が関係していることを強く意味している。しかし、遊離の細胞カルシウムの増加によって、CaMが、サイトゾルから細胞質膜ではなくて核に主に転位することから、このプロセスにおけるCaMの実際の役割はあまり明確ではない(Chin et al., 2000, Trends Cell Biol. 10, 322〜328)。
【0193】
酵母の2ハイブリッド技術を用いて、CaM関連タンパク質であるカルミリン(C1B1、カルシウムおよびインテグリン結合タンパク質1としても知られる)が、hSK1相互作用タンパク質として同定されている。この22 kDaミリストイル化Ca2+結合タンパク質は、CaM(56%)およびカルシニューリンB(58%)とかなりのアミノ酸配列類似性を有する。カルミリンは、調べたほとんどの組織および細胞に広く分布する(Shock et al., 1999, Biochem. J.342, 729〜735)。これはいくつかの他のタンパク質と相互作用することが知られており、これらの多様なタンパク質相互作用を通して広い機能を有し、タンパク質キナーゼPlk2およびFAKの活性(Naik et al., 2003, Blood 102, 3629〜3636;Ma et al., 2003, Mol. Cancer Res. 1, 376〜384)、Pax3の転写活性(Hollenbach et al., 2002, Biochim. Biophys. Acta 1574, 321〜328)、ならびに血小板におけるαIIbインテグリンシグナル伝達の調節(Tsuboi, S., 2002, J. Biol. Chem. 277, 1919〜1923)を調節すると思われる。しかし、本研究の状況において最も重要なことは、カルミリンがCa2+依存的に細胞質膜に会合することが知られているCa2+-ミリストイルスイッチタンパク質ファミリーのメンバーである点である(Meyer et al., 1999, Nat. Cell Biol.1, E93〜E95)。Ca2+の非存在下では、これらのミリストイル化タンパク質は、その脂肪酸を疎水性腔に封鎖する。Ca2+の結合によってタンパク質において大きいコンフォメーションの変化が起こって、ミリストイル基の押出が起こり、これを膜と相互作用するために利用できる。
【0194】
組換え型GST-カルミリンが産生されており、抗カルミリン抗体を作製するために用いられている。これらの試薬を用いて、カルミリンとhSK1およびhSK2の双方の相互作用が確認されており、これらの相互作用は、CaMに関して認められた作用と同等にCa2+によって増強されることが示されている(図8)。カルミリンおよびCaMは、有意な配列類似性を共有することから、そしていずれもCa2+依存的にhSK1に結合することから、CaM結合欠損変異体hSK1F197A/L198Qを用いて、双方のタンパク質が同じ部位でhSK1に結合するか否かに関して分析を行った。CaM結合に関して観察されたように、hSK1F197A/L198Qも同様にカルミリンに結合することができず(図13)、CaMおよびカルミリンの双方が類似のメカニズムでhSK1と相互作用することを示している。
【0195】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】hSK1の燐酸化および細胞質膜局在が細胞増殖を増強することのグラフ表示である。野生型hSK1(白丸)、hSK1S225A(黒三角)、Lck-hSK1(黒丸)、およびLck-hSK1S225A(黒四角)または空のベクター(白四角)をコードするプラスミドを安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞の、A、無血清培地(0.1%BSAを含む);B、1%FCSを含む培地;またはC、5%FCSにおける5日間の生長。D、これらの細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性、およびそのFLAGエピトープを通してウェスタンブロットによって決定した様々なhSK1構築物のタンパク質発現。E、新生DNAへのBrdU取り込みによって測定したこれらの細胞の細胞増殖。F、核濃縮および断片化によって測定したこれらの細胞の血清枯渇によって誘導されたアポトーシス。データは3回の独立した実験を表す。
【図2】Lck N-末端モチーフによる細胞質膜へのhSK1の局在の画像。A、野生型hSK1、hSK1S225A、Lck-hSK1、およびLck-hSK1S225Aを安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞からの溶解物を、サイトゾルおよび膜に分画して、抗FLAGによるウェスタンブロットによってプロービングした。データは、独立した3回の実験の代表である。B、同じ安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞の蛍光顕微鏡写真。画像は、3回の独立した実験において認められた細胞の>50%の代表である。
【図3】hSK1の燐酸化および細胞質膜局在がトランスフォーメーションに至ることの画像である。A、空のベクター、または野生型hSK1もしくはhSK1S225Aを単独でまたは活性化変異体H-Ras(V12-Ras)をコードするプラスミドと同時トランスフェクトしたNIH3T3細胞を、軟寒天において培養した。3週間後に形成されたコロニーを既に記述されているように(Xia et al., 2000、前記)MTT染色によって可視化した。B、軟寒天におけるコロニー形成の定量。データは3回の独立した実験からの平均値(±SD)である。
【図4】hSK1の燐酸化および細胞質膜局在が細胞内および細胞外スフィンゴシン-1-ホスフェートレベルの増加に至ることのグラフ表示である。細胞内および細胞外S1Pレベルは、空のベクター、または野生型hSK1、hSK1S225A、Lck-hSK1、およびLck-hSK1S225Aをコードするプラスミドを安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞において決定した。データは3回の独立した実験の平均値(±SD)である。
【図5】hSK1(SEQ ID NO:2)の推定のCaM結合領域の分析の概略図である。四角で囲んだ残基は、可能性があるCaM結合領域であると予想される残基である。下線の残基は、GST-融合タンパク質に組み入れられたhSK1の領域を構成する。三角は、限定的タンパク質分解の際にCaMの存在によって保護されたhSK1におけるトリプシン切断部位の位置を示す。
【図6】hSK1の予想CaM結合領域の部位特異的変異誘発の概略図である。A、様々なhSK1変異体(ロード)を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、CaM-セファロース(CaM)に対するhSK1変異体の選択的結合を調べた。結合したhSK1タンパク質を、そのFLAGエピトープを通してウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロース4Bビーズに対する如何なる非特異的結合も説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。B、hSK1変異体の相対的触媒活性。
【図7】hSK1の限定的なタンパク質分解がCaMによってトリプシン切断部位の保護を明らかにすることを示す画像である。A、組換え型hSK1単独、精製CaM単独、または双方のタンパク質の限定的タンパク質分解から生成されたトリプシンペプチドのクーマシー染色ゲル。B、C-末端HisタグhSK1の限定的トリプシン分解の抗His抗体のウェスタンブロット。
【図8】hSK1-由来ペプチドとCaMとの会合を示す画像である。hSK1由来ペプチドのCaM-セファロース(CaM)に対する選択的結合を、大腸菌において産生されたGST-ペプチド融合タンパク質(ロード)を用いて調べた。結合した融合タンパク質を、抗GST抗体によるウェスタンブロッティングを用いて可視化した。セファロース4Bビーズに対する非特異的結合を説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。
【図9】hSK1のPCB3の部位特異的変異誘発の機能的転帰を示す概略図である。A、様々なhSK1変異体(ロード)を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、CaM-セファロース(CaM)に対するhSK1変異体の選択的結合を調べた。結合したhSK1タンパク質をそのFLAGエピトープを通してウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロース4Bビーズに対する非特異的結合を説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。B、hSK1変異体の相対的触媒活性。
【図10】hSK2がhSK1に関して保存された結合部位を通してCaMに会合することを示す概略図である。A、hSK1またはhSK2(ロード)のいずれかを発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、5 mM CaCl2または5 mM EGTAの存在下で、hSK1およびhSK2とCaM-セファロース(CaM)との会合を調べた。結合したhSK1またはhSK2をそのFLAGエピトープによるウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロース4Bビーズに対する非特異的結合を説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。B、hSK2型を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、hSK2のV327/L328Q変異によるCaM-セファロース結合の消失を調べた。C、hSK2変異体の相対的触媒活性。
【図11】hSK1 CaM-結合部位の変異がhSK1のアゴニストによる細胞質膜への転位を消失させることを示す概略図である。A、PMA(10 ng/ml)の存在下または非存在下で野生型hSK1-GFPまたはhSK1F197A/L198Q-GFPのいずれかを30分間トランスフェクトしたHEK293T細胞の蛍光顕微鏡写真。画像は、2回の独立した実験において観察された細胞の>50%の代表である。一過性にトランスフェクトしたHEK293T細胞におけるhSK1の燐酸化(B)および活性化(C)を、ホスホhSK1特異的ポリクローナル抗体(抗p-hSK1)を用いるウェスタンブロットおよび野生型hSK1またはhSK1F197A/L198Qを過剰発現する細胞をTNFα(1 ng/ml)またはPMA(10 ng/ml)によって30分間処置した後のスフィンゴシンキナーゼ酵素アッセイによって追跡した。総hSK1レベルをFLAGエピトープを通して決定した。
【図12】カルミリンがカルシウム依存的にhSK1に会合することを示す画像である。hSK1と、グルタチオン-セファロースに結合したGST-カルミリンとの会合をhSK1(ロード)を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて5 mM CaCl2または5 mM EGTAの存在下で試験した。
【図13】hSK1 CaM-結合部位の変異がカルミリン結合を消失させることを示す画像である。そのカルミリンとの会合にhSK1のCaM-結合部位が関係していることを、グルタチオン-セファロースに結合したGST-カルミリン、および野生型hSK1またはhSK1F197A/L198Q(ロード)のいずれかを発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて評価した。結合したhSK1を、FLAGエピトープによるウェスタンブロッティングによって可視化した。非特異的結合を説明するために、GST単独を対照として用いた。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般的に、細胞活性を調整する方法およびそのために用いられる物質に関する。より詳しく述べると、本発明は、細胞膜に対するスフィンゴシンキナーゼの細胞内転位を調整することによって、細胞活性を調整する方法を提供する。関連する局面において、本発明は、その細胞内転位の調整を通してスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法、およびそのために用いられる物質を提供する。本発明はなおさらに、転位を受ける能力の消失または低減を示すスフィンゴシンキナーゼ変種、ならびにその機能的誘導体、相同体、および類似体に及ぶ。本発明の方法および分子は、中でも異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞機能的活性、および/または異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする病態の処置および/または予防において有用である。本発明はさらに、スフィンゴシンキナーゼの細胞内転位を調整することができる物質を同定および/または設計するための方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
本明細書において著者らによって言及された刊行物の引用文献の詳細は、説明の末尾にアルファベット順に集めている。
【0003】
本明細書における任意の先行技術に対する言及は、先行技術がオーストラリアにおける共通の一般的知識の一部を形成するという認知、またはいかなる形態の示唆でもなく、かつ、そのように解釈すべきではない。
【0004】
スフィンゴシンキナーゼは、細胞生長、生存、分化、運動、および細胞骨格構築を含む、多様な範囲の細胞プロセスを調節する生物活性脂質であるスフィンゴシン-1-ホスフェート(S1P)の形成を触媒する(Pyne et al., 2000, Biochem. J. 349:385〜402;Spiegel et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:25851〜25854)。これらの細胞プロセスのいくつかは、S1P-特異的Gタンパク質共役受容体5個によって媒介される(Kluk et al., 2002, Biochim. Biophys. Acta. 1582:72〜80;Spiegel et al., 2002, Trends Cell. Biol. 12:236〜242)が、他の効果は細胞内S1Pによって制御されているようだ。
【0005】
S1Pは、様々な細胞タイプにおいて分裂促進性であり、以下を含む広範囲の重要な調節経路を誘発する:イノシトール三燐酸非依存的経路による細胞内カルシウムの動員(Mattie, M. et al.(1994)J. Biol. Chem. 269, 3181〜3188)、ホスホリパーゼDの活性化(Desai et al., 1992, J. Biol. Chem. 267, 23122〜23128)、c-Jun N-ターミナルキナーゼ(JNK)の阻害(Cuvilliver et al. 1998, J Biol Chem 273, 2910〜2916)、カスパーゼの阻害(Cuvilliver et al. 1998、前記)、接着分子発現(Xia et al, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 14196〜14201)、ならびにNF-κB(Xia et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:7996〜8003)および転写因子活性化タンパク質-1(AP-1)(Su et al., 1994, J. Biol. Chem. 269, 16512〜16517)のDNA結合活性の刺激。
【0006】
細胞S1Pレベルは、スフィンゴシンキナーゼの活性によって大きく媒介され、S1Pリアーゼ(Van Veldhoven et al., 2000, Biochim Biophys Acta 1487, 128〜134)およびS1Pホスファターゼ(Mandala et al., 2000, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 7859〜7964)活性によるその分解によってより低い程度に媒介される。細胞におけるS1Pの基礎レベルは一般的に低いが(Spiegel et al, 1998, Ann N Y Acad Sci 845, 11〜18)、細胞を様々な分裂促進物質に曝露すると急速かつ一過性に増加しうる。この反応は、サイトゾルにおけるスフィンゴシンキナーゼ活性が増加した直接の結果であり、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を加えることによって阻止することができる。これによって、スフィンゴシンキナーゼおよびその活性化は、細胞においてS1Pに帰因する観察された効果を媒介するための中心的な不可避の役割を果たす。しかし、現在のところ、スフィンゴシンキナーゼ活性化に至るメカニズムに関してはほとんど何もわかっていない。
【0007】
スフィンゴシンキナーゼは、広く多様な細胞アゴニストによって非常に急速に活性化されうる。反応は細胞タイプによって異なるが、これらの刺激には、TNFα(Xia et al. 1998、前記;Pitson et al., 2000, Biochem. J. 350:429〜441)(図1)、血小板由来増殖因子(Olivera et al., 1993, Nature 365, 557〜560)、上皮細胞増殖因子(Meyer zu Heringdorf et al., 1998, EMBO J 17, 2830〜2838)、神経生長因子(Rius et al., 1997, FEBS Lett 417, 173〜176)、ビタミンD3(Kleuser et al., 1998, Cancer Res. 58, 1817〜1823)、ホルボルエステル(Pitson et al. 2000、前記;Buehrer et al. 1996)、アセチルコリン(ムスカリンアゴニスト)(Meyer zu Heringdorf et al., 1998、前記)、および免疫グロブリン受容体FcεR1(Choi et al., 1996, Nature 380, 634〜639)とFcγR1(Melendez et al., 1998, J Biol Chem 273, 9393〜9402)とのクロスリンクが含まれる。全ての場合において、このスフィンゴシンキナーゼ活性化は、反応のVmaxを増加させるが、基質親和性(Km)は変化させないままである。
【0008】
二つのヒトスフィンゴシンキナーゼイソ型(1および2)が存在し、これらはその組織分布、発達的発現、触媒特性において、および多少その基質特異性において異なる(Pitson et al. 2000、前記;Liu et al., 2000, J. Biol. Chem. 275:19513〜19520)。多くの試験が、細胞増殖の増強およびアポトーシスの抑制におけるスフィンゴシンキナーゼ1の効果を示している(Olivera et al., 1999, J. Cell Biol. 147:545〜558;Xia et al., 2000, Curr. Biol. 10:1527〜1530;Edsall et al., 2001, J. Neurochem. 76:1573〜1584)。さらに、NIH3T3線維芽細胞におけるヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)の過剰発現によって、トランスフォームした表現型およびヌードマウスにおける腫瘍形成能の獲得が起こり、このことは、この酵素の腫瘍形成能を証明している(Xia et al., 2000、前記)。より最近の研究は、乳房腫瘍細胞の生長および生存のエストロゲン依存的調節においてhSK1が関係していることを示している(Nava et al., 2002, Expt. Cell Res. 281:115〜127;Sukocheva et al., 2003, Mol. Endocrinol. 17:2002〜2012)が、他の研究は、多様なヒト固形腫瘍におけるhSK1 mRNAの上昇およびスフィンゴシンキナーゼ阻害剤によるインビボでの腫瘍生長の阻害を示している(French et al., 2003, Cancer Res. 63:5962〜5969)。
【0009】
このように、細胞生長、生存、および腫瘍形成にhSK1が関係していることは現在では十分に確立されている。しかし、それによってhSK1がこれらの効果を生じるメカニズムはあまり明確ではない。最近の研究から、これがGタンパク質共役受容体とは無関係であること(Olivera et al, 2003, J. Biol. Chem. 278:46452〜46460)が示され、これらの効果が単に細胞内S1Pレベルおよび関連するがまだ同定されていない細胞内標的によって媒介されることを示唆している。これらの直接の標的は不明であるが、hSK1は、ERK1/2(Pitson et al. 2000, J. Biol. Chem. 275:33945〜33950;Shu et al., 2002, Mol. Cell Biol. 22:7758〜7768)、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(Osawa et al., 2001, J. Immunol. 167:173〜180)およびNF-κB(Xia et al., 2002、前記)の活性化、ならびにカスパーゼ活性化の阻害(Edsall et al., 2001、前記)のような多くの前増殖(pro-proliferative)および前生存(pro-survival)経路に関係している。
【0010】
したがって、先に詳述したように、広範な細胞活性のその調節という状況におけるスフィンゴシンキナーゼの中心的な役割は十分に確立されているが、それによってこれが起こる正確なメカニズムはごく部分的に決定されているに過ぎない。したがって、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路の調節により細胞活性を調節する方法を開発するためのよりよい手段を提供するために、それらのメカニズムを解明することが現在必要である。
【0011】
本発明に至る研究において、本発明者らは、スフィンゴシンキナーゼの活性化はその燐酸化によって誘導されるが、燐酸化されたスフィンゴシンキナーゼ分子の触媒活性のその後の増加は、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞機能を発生させる唯一の調節事象ではないことを意外にも決定した。むしろ、スフィンゴシンキナーゼの燐酸化による細胞内転位がこの点において重要であることが決定された。しかし、最も予想外に、特にスフィンゴシンの燐酸化がその内因性の触媒活性レベルを増加させるという事実に照らして、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性の調整は、スフィンゴシンキナーゼ分子の燐酸化状態に関係なく、単にスフィンゴシンキナーゼ分子の細胞内転位を調整することによって行うことができることが決定されている。なおさらに、転位メディエーターであるカルモジュリンに結合するスフィンゴシンキナーゼ分子の部位も同様に、現在では同定されて特徴が調べられている。これらの知見によって現在では、その燐酸化状態とは関係なく、その細胞内転位の調節に基づいてスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞機能を調整する単純かつ能率化された方法を開発することが可能となった。したがって、これは望ましくないまたは不適当な細胞機能、特に新生物増殖のような不適当な細胞増殖を特徴とする病態を治療的または予防的に処置するための非常に有効な方法の開発を提供した。
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、特に明記していなければ、「含む」という用語およびその変化形は、記載の整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群を含むが、他の任意の整数もしくは段階、または整数もしくは段階の群を除外しないことを意味すると理解されるであろう。
【0013】
本明細書は、本明細書において引用文献の後に紹介するプログラムPatentInバージョン3.1を用いて調製したヌクレオチドおよびアミノ酸配列情報を含む。それぞれのヌクレオチドまたはアミノ酸配列は、数値指標<210>の後に配列同定子(例えば、<210>1、<210>2等)によって配列表において同定される。各ヌクレオチドまたはアミノ酸配列に関して長さ、配列のタイプ(DNA、タンパク質等)、および起源生物はそれぞれ、数値指標領域<211>、<212>、および<213>に提供される情報によって示される。本明細書において言及したヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、指標SEQ ID NO:の後の配列同定子(例えば、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2等)によって同定される。本明細書において言及された配列同定子は、配列表における数値指標領域<400>の後に続く配列同定子(例えば、<400>1、<400>2等)において提供される情報と相関する。すなわち、明細書において詳述するSEQ ID NO:1は、配列表において<400>1として示される配列に相関する。
【0014】
アミノ酸配列における特異的変異は、本明細書において「Xaa1nXaa2」として表され、式中Xaa1は、変異前の最初のアミノ酸残基であり、nは残基番号およびXaa2は変異体アミノ酸である。省略語「Xaa」は三文字または一文字アミノ酸コードであってもよい。一文字コードにおける変異は例えば、X1nX2で表され、式中X1およびX2はそれぞれ、Xaa1およびXaa2と同じである。変異およびヒトスフィンゴシンキナーゼタンパク質配列全般の双方において、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1のアミノ酸残基は、SEQ ID NO:2のモチーフ
においてフェニルアラニン残基(F)を197番として番号が付けられる。
【0015】
本発明の一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階がシグナル伝達をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0016】
本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ1を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0017】
本発明のさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ2を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0018】
本発明のさらにもう一つの局面において、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該シグナル伝達をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、ヒトスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法が提供される。
【0019】
本発明のさらになおもう一つの局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階がスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0020】
本発明のなおさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を対象とする。
【0021】
本発明のさらなる局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を提供する。
【0022】
本発明のなおもう一つのさらなる局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0023】
本発明のさらにもう一つのさらなる局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がスフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0024】
本発明のなおさらにもう一つのさらなる局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0025】
本発明のなおもう一つの局面は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0026】
本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、本発明の細胞生長をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする病態の処置および/または予防のための方法を企図する。
【0027】
なおもう一つの局面において、本発明は、相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用にアンタゴニスト作用するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする病態の処置および/または予防のための方法を企図する。
【0028】
本発明のさらになおもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートして、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする哺乳動物における病態を処置するための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0029】
本発明のなおもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする、哺乳動物における病態を処置するための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0030】
本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を含む細胞またはその抽出物を、推定の物質に接触させる段階、および細胞膜局在に関連した変化した発現表現型を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体の細胞内局在を調整することができる物質を検出する方法を提供する。
【0031】
本発明のもう一つのさらなる局面は、野生型スフィンゴシンキナーゼ、またはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転位能の消失または低減を示す、転位メディエーター結合部位を含むスフィンゴシンキナーゼ領域において変異を含む、スフィンゴシンキナーゼ変種を対象とする。
【0032】
さらにもう一つのさらなる局面において、野生型スフィンゴシンキナーゼ、またはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転位能の消失または低減を示す、アミノ酸191〜206位の単一または複数のアミノ酸置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含むヒトスフィンゴシンキナーゼ変種が提供される。
【0033】
さらにもう一つの局面において、本発明は、本明細書において以降定義されるスフィンゴシンキナーゼ変種を発現するように改変されている、遺伝子改変動物に及ぶ。
【0034】
本明細書を通して用いられる一文字および三文字省略語を表1に定義する。
【0035】
(表1)一文字および三文字アミノ酸省略語
【0036】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的に、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性が、スフィンゴシンキナーゼのサイトゾルから細胞膜への転位によって調節されるという驚くべき決定に基づいて予測される。なおさらに、スフィンゴシンキナーゼの燐酸化は、それがスフィンゴシンキナーゼの触媒活性を増加させてその細胞内転位を行うという点において非常に重要な事象であるが、スフィンゴシンキナーゼの転位によって、その燐酸化状態に関係なく、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達事象によって媒介される細胞活性の調整が得られるであろうということが決定されている。最後に、スフィンゴシンキナーゼ転位因子結合部位自身の同定および特徴付けがなされている。これらの決定により現在では、異常なまたは望ましくない細胞活性および/またはスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする病態、特に新生物病態を処置するための治療および/または予防的方法の合理的設計が可能となる。さらに、スフィンゴシンキナーゼ転位を特異的に調整する物質の同定および/または設計が促進される。
【0037】
したがって、本発明の一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0038】
「スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達」という言及は、スフィンゴシンキナーゼ分子が機能的成分を形成するシグナル伝達経路に対する言及であると理解すべきである。この点において、スフィンゴシンキナーゼは、この経路の活性化の際のスフィンゴシン-1-ホスフェートの産生にとって中心となると考えられる。スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達の調整は、シグナル伝達事象のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションの双方を含む、例えば所定のシグナル伝達事象の誘導もしくは中止、または任意の所定のシグナル伝達事象のレベルもしくは程度の変化を含むと理解すべきである。
【0039】
本発明に従って、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への転位のアンタゴニスト作用は、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達事象の完了を阻止するが、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への転位のアゴニスト作用またはそうでなければ誘導は、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を促進する。同様に、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達事象の程度またはレベルは、細胞膜に局在するスフィンゴシンキナーゼ分子の濃度を増加または減少させることによって調整することができると理解すべきである。したがって、シグナル伝達の調整は、シグナル伝達の開始または阻害と必ずしも等しい必要はないが、発生するスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達のレベルを調節するように設計してもよい。
【0040】
「スフィンゴシンキナーゼ」という言及には、スフィンゴシンキナーゼタンパク質およびその誘導体、変異体、相同体、または類似体の全ての型に対する言及が含まれると理解すべきである。この点において、「スフィンゴシンキナーゼ」は、中でもスフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路の活性化の際のスフィンゴシン-1-ホスフェートの産生に関係する分子であると理解すべきである。これには例えば、スフィンゴシンキナーゼの全てのタンパク質型、および例えばスフィンゴシンキナーゼmRNAの選択的スプライシングによって生じる任意のイソ型、またはスフィンゴシンキナーゼの対立遺伝子もしくは多型変種を含む、その機能的誘導体、変異体、相同体、または類似体が含まれる。
【0041】
本発明は、如何なる一つの理論または作用機序に限定されないが、二つのヒトスフィンゴシンキナーゼイソ型が存在し(1および2)、それらはその組織分布、発達的発現、触媒特性、および幾分その基質特異性が異なる(Pitson et al. 2000、前記;Liu et al., 2000、前記)。多くの研究から、細胞増殖の増強およびアポトーシスの抑制におけるスフィンゴシンキナーゼ1の効果が示されている(Olivera et al., 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、前記)。さらに、NIH3T3線維芽細胞におけるヒトスフィンゴシンキナーゼ1(hSK1)の過剰発現によって、トランスフォームした表現型およびヌードマウスにおける腫瘍形成能の獲得が起こることが示されており、この酵素の腫瘍形成能を証明している(Xia et al., 2000、前記)。より最近の研究から、乳房腫瘍細胞の生長および生存のエストロゲン依存的調節にhSK1が関係することが示されたが(Nava et al., 2002、前記;Sukocheva et al., 2003、前記)、他の研究は、多様なヒト固形腫瘍におけるhSK1 mRNAの上昇およびスフィンゴシンキナーゼ阻害剤によるインビボでの腫瘍生長の阻害を示した(French et al., 2003、前記)。
【0042】
その「機能的」誘導体、変異体、相同体、または類似体という言及は、スフィンゴシンキナーゼの機能的活性の任意の一つまたは複数を示す分子に対する言及であると理解すべきである。
【0043】
好ましくは、スフィンゴシンキナーゼは、スフィンゴシンキナーゼ1または2であり、より好ましくはヒトスフィンゴシンキナーゼ1または2である。
【0044】
したがって、一つの好ましい態様において、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階がシグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ1を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0045】
もう一つの好ましい態様において、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、該シグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2の細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼ2を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0046】
本発明のスフィンゴシンキナーゼの「転位」および「局在」という言及(これらの用語は互換的に用いられる)は、触媒活性のレベルまたはその燐酸化の程度のような、本発明のスフィンゴシンキナーゼ分子の如何なる物理的または機能的特徴にも関係なく、この分子の細胞内の物理的な位置に対する言及であると理解すべきである。本明細書において先に詳述したように、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在が、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達事象を完了するために、およびそれによって増殖のような細胞の機能的活性を行うために肝要であるという決定に基づいて予測される。本発明を如何なる一つの理論または作用様式に限定することなく、細胞を特定のアゴニストに曝露すると、スフィンゴシンキナーゼは、サイトゾルから細胞質膜に転位することが知られている(Pitson et al. 2003、前記;Rosenfeldt et al., 2001, FASEB J. 15:2649〜2659;Johnson et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:35257〜352621;Melendez et al., 2002, J. Biol. Chem. 277:17255〜17262;Young et al., 2003, Cell Calcium 33:119〜128)。さらに、この転位はスフィンゴシンキナーゼのセリン225位での燐酸化に依存することが知られている。なおさらに、スフィンゴシンキナーゼの転位を促進する因子の結合にとって重要な領域の一つが、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の残基191〜206位、およびヒトスフィンゴシンキナーゼ2の対応する保存された領域に対応することが決定されている。特に、Phe 197およびLeu198は、この相互作用に対して重要に関係している。しかし、意外にも、この転位事象はスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達事象の生物学的転帰を行うために重要であること、およびさらにこれはアップレギュレートされたスフィンゴシンキナーゼ分子を転位させることによっても行うことができることが決定された。したがって、本発明は、スフィンゴシンキナーゼの燐酸化状態を検討または調整する必要なく、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調節する手段を提供する。
【0047】
したがって、好ましい態様において、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、シグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって、局在を調節する以外の手段によって機能する、ヒトスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法が提供される。
【0048】
より詳しくは、本発明は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件でヒトスフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法を提供する。
【0049】
好ましくは、アミノ酸はPhe197またはLeu198の一つまたは双方である。
【0050】
これらの好ましい態様に従って、スフィンゴシンキナーゼは、スフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2である。
【0051】
スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達事象またはスフィンゴシンキナーゼ局在のいずれかを「調整する」という言及は、本発明のシグナル伝達または局在事象をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることに対する言及であると理解すべきである。この点においてアップレギュレートまたはダウンレギュレートするという言及には、本発明のシグナル伝達または局在事象を誘導または消失指せることに対する言及を含む他に、シグナル伝達または局在事象が起こるレベル、程度、または速度を増加または減少させることが含まれると理解すべきである。したがって、本発明の方法に従って利用される物質は、本発明の事象を誘導する、既に発生している事象にアゴニスト作用する、既存の事象にアンタゴニスト作用する、そのような事象の発生を完全に阻止する物質であってもよい。
【0052】
したがって、「スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする」という言及は、以下に対する言及であると理解すべきである:
(i)スフィンゴシンキナーゼの細胞内細胞膜局在を誘導する、例えば細胞膜への局在を行う物質とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を誘導する;
(ii)既存の細胞膜局在事象をアップレギュレートする、増強する、またはそうでなければアゴニスト作用する、例えば細胞膜へのその局在を行う物質とスフィンゴシンキナーゼとの親和性を増加させる、またはそうでなければその相互作用を安定化させる。
【0053】
逆に、「スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする」とは、以下に対する言及であると理解すべきである:
(i)そうでなければサイトゾルから細胞膜へのスフィンゴシンキナーゼの転位に至るであろう、内因性の転位因子のような物質とスフィンゴシンキナーゼとの相互作用を阻止する。
(ii)例えばスフィンゴシンキナーゼの転位が無効となるようにまたはより有効でないように、スフィンゴシンキナーゼと転位物質との既存の相互作用にアンタゴニスト作用する。
【0054】
スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在の調整(アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションのいずれかの意味において)は、部分的または完全であってもよいと理解すべきである。部分的調整は、所定の細胞において通常起こるであろうごく一部のスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在事象が本発明の方法によって影響を受ける場合に起こるが、完全な調整は、全てのスフィンゴシンキナーゼ局在事象が調整される場合に起こる。
【0055】
スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在の調整は、以下が含まれるがそれらに限定されるわけではない多数の技術の任意の一つによって行われてもよい:
(i)細胞膜と直接の相互作用、または通常膜の局在を促進するように作用するであろう中間分子との相互作用のいずれかを遮断するために、スフィンゴシンキナーゼと相互作用することによって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在にアンタゴニスト作用するタンパク質様または非タンパク質様物質を細胞に導入する段階。
(ii)細胞膜と直接のもしくは物質による相互作用を促進するため、または通常膜の局在を促進するように作用するであろう中間分子(転位因子のような)との相互作用を促進するために、スフィンゴシンキナーゼと相互作用することによって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在にアゴニスト作用するタンパク質様または非タンパク質様物質を細胞に導入する段階。
(iii)細胞膜局在特性を示すように設計されているスフィンゴシンキナーゼ分子変種を細胞に導入する段階。
(iv)(i)〜(iii)のいずれか一つに記述されるタンパク質様物質をコードする核酸分子を細胞に導入する段階。
【0056】
好ましくは、分子は残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸、および最も好ましくはPhe197またはLeu198と転位因子との相互作用を調整する。
【0057】
「物質」という言及は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への細胞内局在を調整(アップレギュレートまたはダウンレギュレート)する任意のタンパク質様または非タンパク質様分子、例えば先の(i)〜(iii)において詳述した分子に対する言及であると理解すべきである。本発明の物質は、任意のタンパク質様または非タンパク質様分子に連結、結合、またはそうでなければ会合してもよい。例えば、物質は、特異的組織へのターゲティングを許容する分子に会合してもよい。
【0058】
タンパク質様分子は、融合タンパク質を含む天然、組換え型、もしくは合成起源または例えば天然物スクリーニングの結果であってもよい。非タンパク質様分子は、例えば天然物スクリーニングのような天然起源に由来してもよく、または化学合成してもよい。例えば、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ局在のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することができる転位因子の化学類似体を企図する。化学アゴニストは必ずしも転位因子に由来する必要はないが、特定の構造的類似性を共有してもよい。または、化学アゴニストは転位因子の特定の物理化学的特性を模倣またはアップレギュレートするように特異的に設計してもよい。例えば、アゴニストには、カルシウムレベルの上昇を誘導する物質、例えばイオノマイシンのようなカルシウムイオノフォアが含まれる。アンタゴニストは、スフィンゴシンキナーゼ局在を遮断、阻害、またはそうでなければ阻止することができる任意の化合物であってもよい。アンタゴニストには、スフィンゴシンキナーゼ、スフィンゴシンキナーゼの一部、または転位因子に対して特異的な抗体(モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体)が含まれる。アンタゴニストにはまた、SEQ ID NO:2の197位および198位で転位因子結合残基を発現して、それによって野生型スフィンゴシンキナーゼに対する細胞内転位因子の結合の競合的阻害剤として機能するように設計されたスフィンゴシンキナーゼペプチドが含まれる。アンタゴニストの他の例には、細胞内の遊離のカルシウムレベルを減少させる物質、例えばBAPTAもしくはMAPTAMのようなカルシウムキレート剤、またはカルモジュリンのアンタゴニストであるW7のような転位因子自身のアンタゴニストが含まれる。発現の調整は、抗原、RNA、リボソーム、DNAザイム、RNAアプタマー、または共抑制において用いるために適した分子を利用して行ってもよい。先の(i)〜(iv)において言及したタンパク質様および非タンパク質様分子は、本明細書において集合的に「調整物質」と呼ばれる。
【0059】
「転位因子」という言及は、スフィンゴシンキナーゼに結合して、細胞膜へのその細胞内局在を促進する任意の分子に対する言及であると意図されると理解すべきである。例えば、カルモジュリン、カルミリン(calmyrin)、または他のカルモジュリン関連タンパク質を用いてもよい。
【0060】
本明細書において先に定義した調整物質のスクリーニングは、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を発現する細胞を物質に接触させる段階、およびスフィンゴシンキナーゼの細胞膜への局在の調整に関してスクリーニングする段階が含まれるがそれらに限定されるわけではない、いくつかの適した方法の任意の一つによって行うことができる。これは、スフィンゴシンキナーゼの局在を直接分析することによって、または細胞増殖のような下流の事象を分析することによって行うことができる。そのような調整の検出は、ウェスタンブロッティング、電気泳動移動度シフトアッセイおよび/またはルシフェラーゼ、CAT、増殖アッセイ等のようなスフィンゴシンキナーゼ活性のレポーターの読み取りのような技術を利用して行うことができる。
【0061】
スフィンゴシンキナーゼ遺伝子またはその機能的同等物もしくは誘導体は、試験の被験者である細胞において天然に存在してもよく、または試験の目的のための宿主細胞にトランスフェクトされていてもよいと理解すべきである。さらに、スフィンゴシンキナーゼ核酸分子が細胞にトランスフェクトされる程度に、その分子は、全スフィンゴシンキナーゼ遺伝子を含んでもよく、またはスフィンゴシンキナーゼ発現産物の局在を調節する部分のような、遺伝子の一部を単に含んでもよい。
【0062】
もう一つの例において、検出の主題は、スフィンゴシンキナーゼ自身よりむしろ、下流のスフィンゴシンキナーゼ調節標的(例えば、スフィンゴシン-1-ホスフェート)となりうる。さらにもう一つの例には、最小のレポーターにライゲーションしたスフィンゴシンキナーゼ局在関連結合部位が含まれる。もう一つの例において、スフィンゴシンキナーゼ局在の調整は、宿主細胞の増殖の調整に関するスクリーニングによって検出することができる。これは、スフィンゴシンキナーゼ局在の調整がそれ自体、検出の主題ではない間接的なシステムの例である。むしろ、細胞膜局在スフィンゴシンキナーゼがその発現を調節する分子の調整をモニターする。これらの方法は、合成、コンビナトリアル、化学、および天然物ライブラリを含むタンパク質様または非タンパク質様物質のような推定の調整物質のハイスループットスクリーニングを行うためのメカニズムを提供する。
【0063】
本発明の方法に従って利用される物質は、任意の適した形であってもよい。例えば、タンパク質様物質は、様々な程度にグリコシル化または非グリコシル化、燐酸化または脱燐酸化されてもよく、および/またはアミノ酸のようなタンパク質、脂質、糖質、または他のペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質に融合、連結、結合、またはそうでなければ会合した広範囲の他の分子を含んでもよい。同様に、本発明の非タンパク質様分子はまた任意の適した形であってもよい。本明細書に記述のタンパク質様および非タンパク質様物質はいずれも、他の任意のタンパク質様または非タンパク質様分子に連結、結合、またはそうでなければ会合してもよい。例えば、本発明の一つの態様において、物質は、特異的組織のような局在領域へのそのターゲティングを許容する分子に会合する。
【0064】
「発現」という用語は、核酸分子の転写および翻訳に対する言及である。「発現産物」という言及は、核酸分子の転写および翻訳から生成された産物に対する言及である。「調整」という言及は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションに対する言及であると理解すべきである。
【0065】
本明細書に記述の分子の「誘導体」(例えば、スフィンゴシンキナーゼまたは他のタンパク質様または非タンパク質様物質)には、天然または非天然起源からの断片、部分、一部、または変種が含まれる。非天然起源には、例えば組換え型または合成起源が含まれる。「組換え型起源」は、そこから本発明の分子が採取される細胞起源が遺伝子改変されていることを意味する。これは、例えばその特定の細胞起源による産生速度および容積を増加またはそうでなければ増強するために起こってもよい。部分または断片には、例えば分子の活性領域が含まれる。誘導体は、アミノ酸の挿入、欠失、または置換に由来してもよい。アミノ酸挿入誘導体には、アミノおよび/またはカルボキシル末端融合体と共に、単一または複数のアミノ酸の配列内挿入が含まれる。挿入アミノ酸配列変種は、一つまたは複数のアミノ酸残基がタンパク質における既定の部位に導入されている変種であるが、得られた産物の適したスクリーニングによってランダム挿入も同様に可能である。欠失変種は、配列からの一つまたは複数のアミノ酸の除去を特徴とする。置換アミノ酸変種は、配列における少なくとも一つの残基が除去されて、その場に異なる残基が挿入されている変種である。アミノ酸配列に対する付加には、先に詳述したように、他のペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質との融合体が含まれる。
【0066】
誘導体にはまた、ペプチド、ポリペプチド、または他のタンパク質様もしくは非タンパク質様分子に融合した完全なタンパク質の特定のエピトープまたは一部を有する断片が含まれる。例えば、スフィンゴシンキナーゼまたはその誘導体を、細胞膜局在を促進するために、アミノ酸10個のlckタンパク質チロシンキナーゼ二重アシル化モチーフのような分子に融合してもよい。本明細書において企図される分子の類似体には、側鎖への改変、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質合成の際に非天然アミノ酸および/またはその誘導体を組み入れること、ならびにクロスリンク剤およびタンパク質様分子またはその類似体に対してコンフォメーション上の拘束を与える他の方法を用いることが含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0067】
本発明の方法に従って利用してもよい核酸配列の誘導体も同様に、単一または複数のヌクレオチド置換、欠失、および/または付加に由来してもよい。本発明において利用される核酸分子の誘導体には、オリゴヌクレオチド、PCRプライマー、アンチセンス分子、核酸分子の共抑制および融合において用いるために適した分子が含まれる。核酸配列の誘導体にはまた、縮重変種が含まれる。
【0068】
スフィンゴシンキナーゼの「変種」は、変種であるそのスフィンゴシンキナーゼの型の機能的活性の少なくともいくつかを示す分子を意味すると理解すべきである。変種は、如何なる形であってもよく、天然または非天然であってもよい。変異体分子は、改変された機能的活性を示す分子である。
【0069】
「相同体」とは、分子が、本発明の方法に従って処置される種以外の種に由来することを意味する。
【0070】
化学および機能的同等物は、機能的同等物が、化学合成された、または天然物スクリーニングのようなスクリーニングプロセスを通して同定された分子のような任意の起源に由来してもよい、本発明の分子の任意の一つまたは複数の機能的活性を示す分子であると理解すべきである。例えば、化学または機能的同等物は、コンビナトリアルケミストリー、組換え型ライブラリのハイスループットスクリーニング、または天然物スクリーニングの結果のような周知の方法を利用して設計および/または同定することができる。これらの方法はまた、本発明の方法において有用である任意の調整物質をスクリーニングするために利用してもよい。
【0071】
例えば、多数の特異的親基置換を有する有機分子を用いる低分子有機分子を含むライブラリをスクリーニングしてもよい。一般的な合成スキームは公表された方法に従ってもよい(例えば、Bunin et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:4708〜4712;De Witt et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909〜6913)。簡単に説明すると、それぞれの連続的合成段階において、複数の異なる選択された置換基の一つを、選択されたサブセットの試験管のアレイのそれぞれに加えて、試験管サブセットの選択は、ライブラリを作製するために用いられる異なる置換基の考えられる全ての順列を作製するように行われる。一つの適した順列戦略は、米国特許第5,763,263号に概要される。
【0072】
生物活性化合物を検索するためにランダム有機分子のコンビナトリアルケミストリーを用いることに現在、広い関心がある(例えば、米国特許第5,763,263号を言及されたい)。このタイプのライブラリをスクリーニングすることによって発見されたリガンドは、天然のリガンドを模倣するもしくは遮断するために、または生物学的標的の天然に存在するリガンドと干渉するために有用である可能性がある。本発明の状況において、例えばそれらをスフィンゴシンキナーゼ転位アゴニストまたはアンタゴニストを開発するための開始点として用いてもよい。スフィンゴシンキナーゼまたはその関連する部分は、本発明に従って、様々な固相または液相合成法によって形成された組み合わせライブラリにおいて用いてもよい(例えば、米国特許第5,763,263号およびそこに引用されている引用文献を言及されたい)。米国特許第5,753,187号に開示されている技術を用いることによって、何百万もの新しい化学および/または生物化合物が、数週間未満でルーチンとしてスクリーニングされる可能性がある。同定された多数の化合物の中で、適当な生物活性を示す化合物のみをさらに分析する。
【0073】
ハイスループットライブラリスクリーニング法に関して、生体分子、高分子複合体、または細胞のような選択された生体物質と特異的に相互作用することができるオリゴマーまたは低分子ライブラリ化合物を、先に記述した方法のような広範な周知の方法から当業者によって容易に選択されるコンビナトリアルライブラリ装置を利用してスクリーニングする。そのような方法において、ライブラリのそれぞれのメンバーを、選択された物質との特異的相互作用能に関してスクリーニングする。方法を実践するために、生物学的物質を化合物を含む試験管に採取して、各試験管において個々のライブラリ化合物と相互作用させる。相互作用は、望ましい相互作用の有無をモニターするために用いることができる検出可能なシグナルを産生するように設計される。好ましくは、生物学的物質は、水溶液に存在して、望ましい相互作用に応じてさらなる条件を適合させる。検出は、例えば、基質の検出のための任意の周知の機能的または非機能的に基づく方法によって行ってもよい。
【0074】
本明細書において企図されるスフィンゴシンキナーゼの「類似体」またはアゴニストもしくはアンタゴニスト物質には、側鎖に対する改変、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質合成の際の非天然アミノ酸および/または誘導体の組み入れ、ならびにクロスリンク剤および類似体にコンフォメーション上の拘束を与える他の方法の利用が含まれるがそれらに限定されるわけではない。そのような改変がとりうる特異的な型は、本発明の分子がタンパク質様または非タンパク質様であるか否かに依存するであろう。特定の改変の性質および/または適格性は、当業者によってルーチンとして決定することができる。
【0075】
例えば、本発明によって企図される側鎖改変の例には、アルデヒドとの反応による還元的アルキル化後のNaBH4による還元;メチルアセチミデートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアネートによるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸および無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;ならびにピリドキサル-5-燐酸によるリジンのピリドキシル化の後にNaBH4による還元が含まれる。
【0076】
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタジエン、フェニルグリオキサルおよびグリオキサルのような試薬との複素環縮合産物の形成によって改変してもよい。
【0077】
カルボキシル基は、O-アシルイソウレア形成によるカルボジイミド活性化後の例えば対応するアミドへの誘導体化によって改変してもよい。
【0078】
スルフヒドリル基は、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸または他の置換マレイミドとの反応;4-クロロ水銀安息香酸、4-クロロ水銀フェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-クロロ水銀-4-ニトロフェノール、および他の水銀剤を用いる水銀誘導体の形成;アルカリpHでのシアネートによるカルバモイル化、のような方法によって改変してもよい。
【0079】
トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシニミドによる酸化、または2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロミドまたはハロゲン化スルフェニルによるインドール環のアルキル化によって改変してもよい。一方、チロシン残基は、テトラニトロメタンによるニトロ化によって改変して3-ニトロチロシン誘導体を形成してもよい。
【0080】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の改変は、ヨード酢酸誘導体のアルキル化またはジエチルピロカーボネートによるN-カルボエトキシル化によって行ってもよい。
【0081】
タンパク質合成の際に非天然アミノ酸および誘導体を組み入れる例には、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン、および/またはアミノ酸のD-異性体を用いることが含まれるがそれらに限定されるわけではない。本明細書において企図される非天然アミノ酸の一覧を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
3Dコンフォメーションを安定化させるために、例えばn=1〜n=6の(CH2)nスペーサー基を有する二機能イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシニミドエステル、およびN-ヒドロキシスクシニミドのようなアミノ反応部分ともう一つの基特異的反応部分とを通常含むヘテロ二機能試薬のような、ホモ二機能クロスリンク剤を用いてクロスリンク剤を用いることができる。
【0084】
本発明は、任意の一つの理論または作用様式に限定されないが、部位特異的変異誘発、タンパク質分解、およびペプチド相互作用分析を利用して、ヒトスフィンゴシンキナーゼ(SEQ ID NO:2)の191〜206位の領域に及ぶ残基が、細胞質から細胞質膜へのスフィンゴシンキナーゼの転位の誘導に関係しているスフィンゴシンキナーゼ部位の一つであることが決定された。特に、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の残基Phe197およびLeu198は、この相互作用において重要に関係していることが決定されている。なおさらに、ヒトスフィンゴシンキナーゼ2分子の対応するおよび保存された領域が、対応する機能的活性を示すことも決定されている。ヒトスフィンゴシンキナーゼ1の変異型(Phe197AlaおよびLeu198Gln)を用いて、hSK1燐酸化および触媒的活性化はこれらの変異体分子において不変のままであるが、hSK1のアゴニストによる細胞質から細胞質膜への転位は消失することが示されている。
【0085】
スフィンゴシンキナーゼは、細胞内シグナル伝達経路の機能にとって中心的な分子であることから、本発明の方法は、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達によって調節または制御される細胞活性を調整する手段を提供する。例えば、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路は、炎症、細胞のトランスフォーメーション、アポトーシス、細胞増殖、サイトカイン、ケモカイン、eNOSのような炎症メディエーターの産生のアップレギュレーション、および接着分子発現のアップレギュレーションに至る活性のような細胞活性を調節することが知られている。アップレギュレーションは、例えば、腫瘍壊死因子αおよびインターロイキン1、エンドトキシンのような炎症性サイトカイン、酸化または改変脂質、放射線または組織損傷を含む多くの刺激によって誘導される可能性がある。この点において、「細胞活性を調整する」という言及は、一つまたは複数のケモカイン産生、サイトカイン産生または細胞増殖のような、しかしこれらに限定されないスフィンゴシンキナーゼシグナル伝達に従って細胞が行うことができる活性の任意の一つまたは複数をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることに対する言及である。好ましい方法は、スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートし、それによって望ましくない細胞活性をダウンレギュレートすることであり、最も好ましくは望ましくない細胞増殖をダウンレギュレートすることであるが、本発明はそれにもかかわらず、特定の状況において望ましい可能性がある細胞活性をアップレギュレートすることを含むと理解すべきである。
【0086】
したがって、本発明のさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシン細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートする、ヒトスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を提供する。
【0087】
好ましくは、物質は、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する。
【0088】
より好ましくは、本発明は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって、局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、ヒトスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法を提供する。
【0089】
より好ましくは、アミノ酸は、Phe197またはLeu198の一つまたは双方であり、スフィンゴシンキナーゼは、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2である。
【0090】
これらの態様に従って、細胞活性は好ましくは細胞生長であり、さらにより好ましくは新生物細胞の生長である。
【0091】
最も好ましくは、新生物細胞生長は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜への転位にアンタゴニスト作用するまたはそうでなければダウンレギュレートすることによってダウンレギュレートされる。
【0092】
本発明のこの好ましい局面は任意の一つの理論または作用様式に限定されないが、スフィンゴシンキナーゼの腫瘍形成活性は、その異常な過剰発現に特に関連していることが決定されている。「過剰発現」とは、所定の細胞タイプに関して正常な生理的条件で発現されたレベルより高い機能的レベルへの細胞内スフィンゴシンキナーゼのアップレギュレーション、または任意の機能性レベルへのスフィンゴシンキナーゼレベルのアップレギュレーションを意味するが、アップレギュレーション事象は、本発明の細胞において天然に存在する生理学の効果のために起こった増加よりむしろ人工的に行われた事象である。しかし、それによってアップレギュレーションが行われる手段は、生理的経路を模倣するように求める人工的手段、例えばホルモンまたは他の刺激分子を導入することであってもよいと理解すべきである。したがって、本発明の状況において「発現する」という用語は、スフィンゴシンキナーゼ遺伝子の転写および翻訳の概念に限定されないと意図される。むしろ、この用語は、細胞において特定の時点で正常な生理的条件で見いだされるスフィンゴシンキナーゼのより高い機能的レベルの確立である転帰に対する言及である(すなわち、この用語には、スフィンゴシンキナーゼレベルの天然に存在しない増加およびスフィンゴシンキナーゼの細胞内濃度自身の単なる増加とは反対の既存のスフィンゴシンキナーゼ濃度の活性レベルの増加が含まれる)。
【0093】
本発明は任意の一つの理論または作用様式に限定されないが、脂質キナーゼであるスフィンゴシンキナーゼによって刺激されたシグナル伝達カスケードが、腫瘍形成において主要な役割を果たすことは公知である。具体的には、細胞における過剰発現によるスフィンゴシンキナーゼの構成的活性化は、細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍の形成を引き起こし、それによって野生型ヒト脂質キナーゼがそれ自身発癌性であることを示している。さらに、スフィンゴシンキナーゼはまたRas誘導トランスフォーメーションにも関係しているが、v-Src誘導トランスフォーメーションには関係していない。最後に、スフィンゴシンキナーゼ阻害剤を用いてスフィンゴシンキナーゼ活性を阻害すると、スフィンゴシンキナーゼを過剰発現する細胞のみならず、Rasトランスフォーム細胞においてもトランスフォーメーションを逆転させる。この点において、細胞の生長を「調整する」という言及は、細胞の生長をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることに対する言及であると理解すべきである。より具体的には、「ダウンレギュレートする」という言及は、細胞の生長の一つまたは複数の局面を阻止、低減、またはそうでなければ阻害すること(細胞のアポトーシスを誘導する、またはそうでなければ細胞を殺すことを含む)に対する言及であると理解すべきであるが、「アップレギュレートする」という言及は、逆の意味を有すると理解すべきであり、新生物細胞の形成/細胞のトランスフォーメーション(すなわち、正常な細胞の新生物細胞への変換)の誘導が含まれる。細胞の「生長」という言及は、その最も広い意味において、細胞分裂/増殖の全ての局面に対する言及が含まれると理解すべきである。
【0094】
本発明の状況において「細胞」に対する言及は、その起源にかかわらず、任意の型またはタイプの細胞に対する言及であると理解すべきである。例えば、細胞は、天然に存在する細胞であってもよく、または凍結/解凍されている、インビトロもしくはインビボのいずれかで遺伝的、生化学的、もしくはそうでなければ改変されている細胞(例えば、異なる二つの細胞タイプの融合の結果である細胞を含む)のようなインビトロまたはインビボのいずれかで操作、改変、もしくはそうでなければ処置されてもよい。「新生物細胞」は、制御されていない増殖を示す細胞を意味する。新生物細胞は、良性細胞または悪性細胞であってもよい。好ましくは、細胞は悪性である。一つの特定の態様において、新生物細胞は、乳腺(乳房)、大腸、胃、肺、脳、骨、食道、または膵臓に由来する悪性細胞のような、その増殖が固形腫瘍を形成するであろう悪性細胞である。
【0095】
好ましくは新生物細胞は、大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳腺(乳房)、卵巣、または子宮に由来する悪性細胞である。
【0096】
本発明の方法に従って処置される細胞はエクスビボまたはインビボに存在してもよいと理解すべきである。「エクスビボ」とは、その生長の調整がインビトロで得られる細胞が被験者の体から除去されていることを意味する。例えば、細胞は、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートすることによって不死化される非新生物細胞であってもよい。本発明の好ましい局面に従って、細胞は、インビボに存在する悪性細胞のような(大腸癌または乳癌のような)新生物細胞であってもよく、その生長のダウンレギュレーションは、スフィンゴシンキナーゼ機能的活性のレベルをダウンレギュレートするために、本発明の方法をインビボで適用することによって得られるであろう。同様に、悪性結腸直腸細胞のようなインビボに存在する特異的細胞タイプについて言及する場合、この細胞は患者の結腸直腸領域に存在してもよいと理解すべきである。結腸直腸原発悪性疾患が転移すれば、被験者の結腸直腸細胞は、患者の体のもう一つの領域に存在してもよい。例えば、これは、例えば肝臓、リンパ節、または骨に存在する二次腫瘍(転位)の一部を形成してもよい。
【0097】
好ましい方法は、例えば癌の治療的処置として新生物細胞の増殖をダウンレギュレートするが、同様に細胞の生長をアップレギュレートすることが望ましい可能性がある。例えば、インビトロで細胞の集団を不死化する、インビトロでの長期使用を促進する、または例えば皮膚のような組織のインビトロ生長を促進することが望ましい可能性がある。もう一つの例において、低血清条件での生長能のような、より選好性の低い生長条件に細胞株を適合させることが有用となる可能性がある。
【0098】
本発明のさらなる局面は、疾患状態の処置および/または予防に関連して本発明を用いることに関する。本発明は、他の任意の理論または作用様式に限定されないが、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路によって調節される広範囲の細胞機能活性により、スフィンゴシンキナーゼ機能の調節は、健康および病的状態の生理的プロセスの双方のあらゆる局面の肝要な成分となる。したがって、本発明の方法は、スフィンゴシンキナーゼシグナル伝達経路を通して調節される異常なまたはそうでなければ望ましくない細胞機能的活性を調整するための貴重なツールを提供する。
【0099】
したがって、本発明のさらにもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0100】
本発明のなおもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0101】
好ましくは、物質は、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する。
【0102】
したがって、好ましい態様において、本発明は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0103】
本発明のさらにもう一つの態様は、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0104】
より好ましくは、アミノ酸はPhe197またはLeu198の一つまたは双方であり、スフィンゴシンキナーゼはヒトスフィンゴシンキナーゼ1またはスフィンゴシンキナーゼ2である。
【0105】
「異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な」細胞活性という言及は、過活動細胞活性、それが望ましくないという点において不適当である生理的な通常の細胞活性、または不十分な細胞活性に対する言及であると理解すべきである。この定義は、「異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な」スフィンゴシンキナーゼ活性に関連して同様に適用される。例えば、腫瘍細胞の生長の際のTNF産生は、細胞の増殖を支持し、新生物細胞に抗アポトーシス特徴を提供することが示されている。したがって、細胞が新生物である程度に、細胞増殖の促進および抗アポトーシス特徴がダウンレギュレートされることが望ましい。同様に、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症、喘息、自己免疫疾患、および炎症性腸症候群のような炎症を特徴とする疾患は、接着分子のような炎症性メディエータの合成および分泌に至る、TNFのようなサイトカインによる細胞の活性化を伴うことが知られている。そのような状況において、そのような活性をダウンレギュレートすることも同様に望ましい。他の状況において、細胞増殖を刺激するためにスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在にアゴニスト作用する、またはそうでなければそれらを誘導することが望ましい可能性がある。
【0106】
先に詳述したように、本発明は任意の一つの理論または作用様式に限定されることなく、スフィンゴシンキナーゼの構成的活性化は、細胞のトランスフォーメーションおよび腫瘍の発達を引き起こし、それによってスフィンゴシンキナーゼ自身が発癌性であることを示している。しかし、スフィンゴシンキナーゼの阻害はまた、本発明の細胞が、Ras誘導トランスフォーメーションのような、特定の無関係な腫瘍遺伝子によってトランスフォームされている新生物細胞の増殖をダウンレギュレートするために有効である。したがって、本発明の方法は、大腸、胃、肺、乳腺(乳房)、脳、骨、食道、および膵臓の固形腫瘍に関連した悪性疾患、および特にRasトランスフォーム細胞の増殖によって生じた腫瘍、またはエストロゲン依存的乳房細胞腫瘍のような、原発および二次悪性疾患の処置において用いるために特に有用であるが、決してそれらに限定されない。好ましい方法は、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在を阻害することによって、被験者における制御されていない細胞増殖をダウンレギュレートすることであるが、細胞生長のアップレギュレーションも同様に、創傷治癒、血管新生、または他の治癒プロセスの促進のような、特定の状況において望ましい可能性がある。
【0107】
したがって、本発明は、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が本発明の細胞生長をダウンレギュレートする、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする病態の処置および/または予防のための方法を企図する。
【0108】
好ましくは、本発明は、相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用にアンタゴニスト作用するために十分な時間および条件で哺乳動物に物質の有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当な細胞生長を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法を対象とする。
【0109】
好ましくは制御されていない細胞増殖は、腫瘍遺伝子のアップレギュレーションによる、またはスフィンゴシンキナーゼ過剰発現腫瘍遺伝子活性による細胞のトランスフォーメーションによって引き起こされる。
【0110】
さらにより好ましくは、細胞は、大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳腺(乳房)、卵巣、または子宮の固形腫瘍を形成する悪性細胞である。
【0111】
本発明のこの局面の最も好ましい態様は、好ましくは、本発明の増殖が低減、遅滞、またはそうでなければ阻害されることを促進する。「低減、遅滞、またはそうでなければ阻害」という言及は、細胞増殖の部分的または完全な阻害を誘導または促進することに対する言及であると理解すべきである。阻害は、直接または間接的なメカニズムで起こってもよく、これには、細胞のアポトーシスまたは他の殺細胞メカニズムの誘導が含まれる。
【0112】
処置または予防の被験者は一般的に、ヒト、霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、コンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕獲された野生動物(例えばキツネ、シカ)のような、しかしこれらに限定されない哺乳動物である。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは霊長類である。最も好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0113】
「有効量」は、望ましい反応を得るために、または処置される特定の病態の発症もしくは病態の発症を遅らせる、進行を阻害する、もしくは全く停止させるために少なくとも部分的に必要な量を意味する。量は、処置される個体の健康および身体的条件、処置される個体の分類群、望ましい保護の程度、組成物の処方、医学的状態の評価、および他の関連因子に応じて変化する。量は、ルーチンの試験を通して決定することができる比較的広い範囲に入るであろう。
【0114】
本明細書における「処置」および「予防」という言及は、その最も広い状況において考慮すべきである。「処置」という用語は、完全に回復するまで被験者が処置されることを必ずしも暗示しない。同様に、「予防」は、被験者が最終的に疾患状態に罹らないことを必ずしも意味しない。したがって、処置および予防には、特定の病態の症状の改善、または特定の病態の発症のリスクの阻止もしくはそうでなければ低減が含まれる。「予防」という用語は、特定の病態の重症度または発症の低減と見なしてもよい。「処置」はまた、既存の病態の重症度を低減させてもよい。
【0115】
本発明はさらに、癌の処置における細胞障害剤または放射線療法のような被験者の病態の処置に関連して有用となる可能性がある他の物質、薬物、または処置を哺乳動物を供すると共に物質を投与するような、併用治療を企図する。
【0116】
薬学的組成物の形での調整物質の投与は、任意の通常の手段によって行ってもよい。薬学的組成物の調整物質は、特定の症例に応じた量で投与される場合に治療活性を示すと企図される。変化は、例えば、選択されたヒトまたは動物、および調整物質に依存する。広範囲の用量が適用可能となる可能性がある。患者を考慮して、例えば約0.1 mg〜約1 mg/kg体重/日の調整物質を投与してもよい。投与レジメは、最適な治療反応を提供するように適合させてもよい。例えば、いくつかの分割用量を毎日、毎週、毎月、もしくは他の適した期間投与してもよく、または状況の緊急性に応じて、用量を比例して低減させてもよい。
【0117】
調整物質は、経口、静脈内(水溶性の場合)、腹腔内、筋肉内、皮下、皮内、もしくは坐剤経路または埋め込み(例えば、徐放性分子を用いて)のような通常の方法で投与してもよい。調整物質は、酸付加塩または亜鉛、鉄等との金属錯体(本出願の目的に関して塩であると見なされる)のような薬学的に許容される非毒性の塩の形で投与してもよい。そのような酸付加塩の例は、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩、マレイン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、アスコルビン酸塩、酒石酸塩等である。活性成分が錠剤型で投与される場合、錠剤は、トラガカント、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤;アルギン酸のような崩壊剤;およびステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤を含んでもよい。
【0118】
投与経路には、呼吸器、気管内、鼻咽喉内、静脈内、腹腔内、皮下、頭蓋内、皮内、筋肉内、眼内、髄腔内、小脳内、鼻腔内、注入、経口、直腸内、IVドリップパッチによって、およびインプラントが含まれるがそれらに限定されるわけではない。
【0119】
これらの方法に従って、本発明に従って定義される物質は、一つまたは複数の他の化合物または分子と共に同時投与してもよい。「同時投与する」とは、同じもしくは異なる経路によって同じ製剤もしくは異なる二つの製剤を同時投与すること、または同じもしくは異なる経路によって連続投与することを意味する。例えば、本発明の物質は、その効果を増強するためにアゴニスト作用物質と共に投与してもよい。「連続的」投与とは、二つのタイプの分子の投与のあいだの数秒、数分、数時間、または数日の時間差を意味する。これらの分子は、任意の順序で投与してもよい。
【0120】
本発明のもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整する、およびスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置のための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0121】
本発明のさらにもう一つの局面は、物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整する、およびスフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達をダウンレギュレートする、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を特徴とする、哺乳動物における病態の処置のための薬剤を製造するために、本明細書において先に定義した物質を用いることを企図する。
【0122】
より詳しくは、物質は、転位因子とSEQ ID NO:2の残基191〜206位、最も詳しくはPhe197またはLeu198に対応する一つまたは複数のアミノ酸との相互作用を調整し、相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシン細胞膜局在をアップレギュレートし、アンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする。
【0123】
好ましくは、物質は、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって、局在を調節する以外の手段によって機能する。
【0124】
より好ましくは、スフィンゴシンキナーゼは、ヒトスフィンゴシンキナーゼ1または2である。
【0125】
さらにより好ましくは、細胞活性は細胞増殖である。
【0126】
最も好ましくは、細胞増殖は新生物細胞増殖であり、増殖がダウンレギュレートされる。
【0127】
なおもう一つのさらなる局面において、本発明は、一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に、本明細書において先に定義した調整物質を含む薬学的組成物を企図する。これらの物質は、活性成分と呼ばれる。
【0128】
注射用用途に適した薬学剤形には、滅菌水溶液(水溶性の場合)もしくは分散液、および滅菌注射用溶液もしくは分散液の即時調製のための滅菌粉末が含まれ、または局所適用に適したクリームもしくは他の剤形であってもよい。これは製造および保存条件で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、その適した混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒体となりうる。例えばレシチンのようなコーティングを用いることによって、分散液の場合には必要な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を用いることによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサル等によって得ることができる。多くの場合、等張剤、糖または塩化ナトリウムを含めることが望ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物において用いることによって得ることができる。
【0129】
適した注射用溶液は、適当な溶媒において必要な量の活性化合物を先に列挙した様々な他の成分と共に組み入れた後、必要に応じて濾過滅菌することによって調製される。一般的に、分散液は、様々な滅菌活性成分を、基礎分散培地と先に列挙した必要な他の成分とを含む滅菌溶媒に組み入れることによって調製される。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、予め濾過滅菌されたその溶液から活性成分プラスさらなる望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0130】
活性成分が適切に保護されている場合、それらを、例えば不活性希釈剤もしくは他の同化可能な食用担体と共に経口投与してもよく、硬もしくは軟シェルゼラチンカプセルに封入してもよく、錠剤に圧縮してもよく、または食事の食物に直接組み入れてもよい。経口治療的投与の場合、活性化合物を、賦形剤と共に組み入れて、摂取可能な錠剤、口腔内錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、ウェーハ等の剤形で用いてもよい。そのような組成物および調製物は、活性化合物を重量で少なくとも1%含まなければならない。組成物および調製物の百分率は、当然変化してもよく、簡便に、単位重量の約5〜約80%の範囲であってもよい。そのような治療的に有用な組成物における活性化合物の量は、適した用量が得られる量である。本発明に従う好ましい組成物または調製物は、経口投与単位剤形が、活性化合物の約0.1μg〜2000 mgを含むように調製される。
【0131】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤等はまた、本明細書において後に記載した成分を含んでもよい:ゴム、アカシア、コーンスターチ、またはゼラチンのような結合剤;燐酸二カルシウムのような賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸等のような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;および蔗糖、乳糖、もしくはサッカリンのような甘味料を加えてもよく、またはペパーミント、冬緑油、もしくはサクランボ香料のような着香料を加えてもよい。単位投与剤形がカプセル剤である場合、これは先のタイプの材料の他に液体担体を含んでもよい。様々な他の材料は、コーティングとして存在してもよく、またはそうでなければ投与単位の物理的形状を改変するために存在してもよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤を、シェラック、糖、または双方によってコーティングしてもよい。シロップまたはエリキシル剤は、活性化合物、甘味料としての蔗糖、保存剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、色素、およびサクランボまたはオレンジ香料のような着香料を含んでもよい。当然、任意の単位投与剤形を調製するために用いられる如何なる材料も、薬学的に純粋でなければならず、用いられる量において実質的に非毒性でなければならない。さらに、活性化合物は、徐放性調製物および製剤に組み入れてもよい。
【0132】
薬学的組成物はまた、調整物質をコードする核酸分子を有する、標的細胞をトランスフェクトすることができるベクターのような遺伝子分子を含んでもよい。ベクターは、例えばウイルスベクターであってもよい。
【0133】
本発明のなおもう一つの局面は、本発明の方法において用いる場合、本明細書において先に定義した物質に関する。
【0134】
本発明はまた、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整する物質、特にSEQ ID NO:2の残基191位〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸、特にPhe197またはLeu198と相互作用する、またはそれ自身相互作用する転位因子の相互作用にアゴニスト作用する、またはアンタゴニスト作用する物質のスクリーニング法を含むと理解すべきである。
【0135】
本明細書において先に定義した調整物質のスクリーニングは、スフィンゴシンキナーゼと転位メディエーター(カルモジュリンのような)とを含む細胞を物質に接触させる段階、ならびにスフィンゴシンキナーゼ局在の調整またはNF-κBのような下流のスフィンゴシンキナーゼ細胞標的の活性もしくは発現の調整に関してスクリーニングする段階、が含まれるがそれらに限定されるわけではないいくつかの適した方法の任意の一つによって行うことができる。これは、転移のメディエーターのアゴニストまたはアンタゴニストをスクリーニングするために特に有用である。本発明の方法はまた。それ自身、スフィンゴシンキナーゼに結合して、細胞膜へのその転位を誘導する分子のスクリーニングにとっても有用である。そのような調整の検出は、ウェスタンブロッティング、電気泳動移動度シフトアッセイ、および/またはルシフェラーゼ、CAT等のようなスフィンゴシンキナーゼ活性のレポーターの読み取りのような技術を利用して行うことができる。
【0136】
スフィンゴシンキナーゼまたは転位のメディエーターは、試験の被験者である細胞において天然に存在してもよく、またはそれらをコードする遺伝子を試験の目的のために宿主細胞にトランスフェクトしていてもよいと理解すべきである。さらに、天然に存在するまたはトランスフェクトされた遺伝子は構成的に発現されてもよい−それによって中でもスフィンゴシンキナーゼ転位をダウンレギュレートする物質のスクリーニングにとって有用なモデルを提供する、または遺伝子は活性化を必要としてもよく−それによって特定の刺激条件でスフィンゴシンキナーゼ転位を調整する物質のスクリーニングにとって有用なモデルを提供する。さらに、スフィンゴシンキナーゼ核酸分子が細胞にトランスフェクトされている程度に、その分子は、スフィンゴシンキナーゼの全遺伝子を含んでもよく、またはSEQ ID NO:2の残基191〜206位のアミノ酸を含む部分のような、遺伝子の一部を単に含んでもよい。
【0137】
もう一つの例において、検出の主題は、スフィンゴシンキナーゼ自身よりむしろ、NF-κBのような下流のスフィンゴシンキナーゼ調節標的となりうる。なおもう一つの例には、最小のレポーターにライゲーションしたスフィンゴシンキナーゼ結合部位が含まれる。例えば、スフィンゴシンキナーゼ転位の調整は、適当に刺激された細胞の下流のシグナル伝達成分の調整に関するスクリーニングによって検出することができる。スクリーニングシステムの主題である細胞が新生物細胞である場合、例えば、スフィンゴシンキナーゼ転位の調整は、その細胞の増殖の中止に関してスクリーニングすることによって検出されうる。
【0138】
適した物質はまた、コンビナトリアルケミストリーまたは組換え型ライブラリのハイスループットスクリーニング、または以下の天然物スクリーニングのような周知の方法を利用して同定および/または設計してもよい。
【0139】
例えば、多数の特異的親基置換を有する有機分子が用いられる低分子有機分子を含むライブラリを、スクリーニングしてもよい。一般的な合成スキームは、公表された方法に従ってもよい(例えば、Bunin BA et al.(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:4708〜4712;De Witt SH, et al.(1993)Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909〜6913)。簡単に説明すると、それぞれの連続的な合成段階において、複数の異なる選択された置換基の一つを、ライブラリを作製するために用いた異なる置換基の起こりうる全ての順列が作製されるように試験管サブセットが選択される、選択された試験管サブセットのアレイのそれぞれに加える。一つの適した順列戦略を米国特許第5,763,263号に概要する。
【0140】
現在、生物活性化合物を検索するために、ランダム有機分子のコンビナトリアルライブラリを用いることに広く関心が高まっている(例えば、米国特許第5,763,263号を参照されたい)。このタイプのライブラリのスクリーニングによって発見されたリガンドは、天然のリガンドを模倣もしくは遮断するために、または生物学的標的の天然に存在するリガンドと干渉するために有用となる可能性がある。本発明の状況において、例えば、それらはより強力な薬理学効果のような特性を示すスフィンゴシンキナーゼ転位アゴニストまたはアンタゴニストを開発するための開始点として用いてもよい。スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的部分および/または転位因子は、本発明に従って様々な固相または液相合成法によって形成されたコンビナトリアルライブラリにおいて用いてもよい(例えば、米国特許第5,763,263号およびそこに引用されている参考文献を参照されたい)。米国特許第5,753,187号に開示されるような技術を用いることによって、何百万個もの新規化学および/または生物化合物が日常的に、数週間以内にスクリーニングされる可能性がある。同定された多数の化合物の中で、適当な生物活性を示す化合物のみをさらに分析する。
【0141】
ハイスループットスクリーニング法に関して、生体分子、高分子複合体、または細胞のような、選択された生物学的物質と特異的に相互作用することができるオリゴマーまたは低分子ライブラリ化合物を、上記の方法のような広範な周知の方法から当業者によって容易に選択されるコンビナトリアルライブラリ装置を利用してスクリーニングする。そのような方法において、ライブラリのそれぞれのメンバーを、選択された物質との特異的相互作用能に関してスクリーニングする。方法の実践において、生物学的物質を化合物を含む試験に加えて、各試験管において個々のライブラリ化合物と相互作用させる。相互作用は、所望の相互作用の有無をモニターするために用いることができる検出可能なシグナルを産生するように設計される。好ましくは、生物学的物質は、水溶液に存在し、所望の相互作用に応じてさらなる条件が適合される。検出は、例えば物質を検出するための任意の周知の機能的または非機能的に基づく方法によって行ってもよい。
【0142】
したがって、本発明のもう一つの局面は、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を含む細胞またはその抽出物を、推定の物質に接触させる段階、および細胞膜局在に関連した発現表現型の変化を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体の細胞内局在を調整することができる物質を検出する方法を提供する。
【0143】
「スフィンゴシンキナーゼ」という言及は、スフィンゴシンキナーゼ発現産物、または細胞膜局在領域もしくはSEQ ID NO:2のアミノ酸191〜206位によって定義される領域である転位因子と相互作用する領域のようなスフィンゴシンキナーゼの一部もしくは断片、のいずれかに対する言及であると理解すべきである。この点において、スフィンゴシンキナーゼ発現産物は、細胞において発現される。細胞は、スフィンゴシンキナーゼ核酸分子をトランスフェクトした宿主細胞であってもよく、またはスフィンゴシンキナーゼ遺伝子を本来含む細胞であってもよい。「その抽出物」という言及は、無細胞転写系に対する言及であると理解すべきである。
【0144】
「細胞膜局在に関連した発現表現型の変化」を検出するという言及は、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在の調整に関連した細胞変化の検出として理解すべきである。これらは、例えば細胞内変化、または増殖レベルの変化のような細胞外で観察されうる変化として検出されてもよい。
【0145】
本発明のさらにもう一つの局面は、本明細書において定義されたスクリーニング法に従って同定された物質および本発明の方法において用いられる物質を対象とする。物質は、SEQ ID NO:2のアミノ酸191〜206位のアミノ酸によって定義される領域の全てもしくは一部、および特にヒトスフィンゴシンキナーゼのPhe197および/またはLeu198、または対応する領域に結合するモノクローナル抗体に及ぶと理解すべきである。
【0146】
本発明のなおさらなる局面は、野生型スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転移能の消失または低減を示す、その領域が転位メディエーター結合部位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域において変異を含むスフィンゴシンキナーゼ変種を対象とする。
【0147】
本発明はまた、既存の転位メディエータ結合部位の変異の性質またはさらなるそのような部位の組み込みにより、増強されたまたはアップレギュレートされた活性を示す変種にも及ぶ。
【0148】
「変異」という言及は、スフィンゴシンキナーゼが転位を受ける能力を調整する、天然に存在するまたは天然に存在しない、任意の変化、変更、または他の改変に対する言及であると理解すべきである。調整は、アップレギュレーションまたはダウンレギュレーションであってもよい。本発明は好ましくは、活性化能の消失を示す変種を対象とするが、本発明は、転位能の改善を示す変種の作製にも及ぶと理解すべきである。この状況において「機能的」誘導体、相同体、または類似体に対する言及は、定義された転位能の調整を示す本発明の分子に対する言及であると理解すべきである。
【0149】
変化、変更、または他の改変は、構造的改変(スフィンゴシンキナーゼ分子の二次、三次、または四次構造の変更のような)、分子改変(スフィンゴシンキナーゼタンパク質からの一つまたは複数のアミノ酸の付加、置換、または欠失のような)、または化学改変が含まれるがそれらに限定されるわけではない任意の形であってもよい。本発明の改変はまた、タンパク質様もしくは非タンパク質様分子とスフィンゴシンキナーゼタンパク質との融合体、連結、もしくは結合、またはスフィンゴシンキナーゼタンパク質をコードする核酸分子に及ぶと理解すべきである。同様に、本発明の変異はスフィンゴシンキナーゼ発現産物によって発現されることが必要であるが、変異の作製は、野生型スフィンゴシンキナーゼタンパク質を変異させること、スフィンゴシンキナーゼ変種を合成すること、または変異した核酸分子の発現産物がスフィンゴシンキナーゼタンパク質変種であるように野生型スフィンゴシンキナーゼタンパク質をコードする核酸分子を改変すること、を含む任意の適した手段によって得てもよいと理解すべきである。好ましくは、変異は、単一または複数のアミノ酸配列の置換、付加、および/または欠失である。
【0150】
この好ましい態様に従って、野生型スフィンゴシンキナーゼ、またはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転移能の消失または低減を示す、アミノ酸191〜206位の単一または複数のアミノ酸置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含むヒトスフィンゴシンキナーゼ変種が提供される。
【0151】
好ましくは、アミノ酸はアミノ酸Phe197および/またはLeu198であり、さらにより好ましくは置換はPhe197Alaおよび/またはLeu198Gln置換である。
【0152】
本発明に関して、「野生型」スフィンゴシンキナーゼという言及は、所定の集団におけるほとんどの個体によって発現されるスフィンゴシンキナーゼの型に対する言及である。スフィンゴシンキナーゼの一つより多い野生型が存在する可能性があり(例えば対立遺伝子またはイソ型変種により)、野生型スフィンゴシンキナーゼ分子によって示される転位能のレベルまたは程度は、一定範囲のレベルに入る可能性がある。しかし、「野生型」には、転位されることができないスフィンゴシンキナーゼの天然に存在する型に対する言及は含まれないと理解すべきである。スフィンゴシンキナーゼのそのような変種型は、実際に、本発明の状況においてスフィンゴシンキナーゼの天然に存在する変異型を構成する可能性がある。
【0153】
本明細書において先に定義した「物質」という言及は、本明細書において定義されたスフィンゴシンキナーゼ変種に対する言及が含まれると理解すべきである。
【0154】
さらにもう一つの局面において、本発明は、本明細書において先に定義したスフィンゴシンキナーゼ変種を発現するように改変されている遺伝子改変動物に及ぶ。
【0155】
本発明は、以下の非制限的な実施例を参照して記述される。
【0156】
実施例1
スフィンゴシンキナーゼ1燐酸化および細胞質膜への転位はその腫瘍形成能を媒介する
細胞培養、トランスフェクション、および細胞の分画
ヒト胎児腎(HEK293T)細胞およびNIH3T3線維芽細胞を、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において培養して、既に記述されているように(Pitson et al., 2000、前記)回収した。HEK293T細胞に関して燐酸カルシウム沈殿法を用いて、およびNIH3T3細胞に関してリポフェクタミン2000(Invitrogen)を用いて、安定かつ一過性のトランスフェクションを行った。安定なトランスフェクタントをG418抵抗性に関して選択して、単一のトランスフェクトした細胞からの個々のクローンの選択および伝幡によって生じる可能性がある表現型のアーチファクトを回避するためにプールした。細胞下分画に関して、既に記述されているように(Pitson et al. 2003, EMBO J. 22:5491〜5500)細胞溶解物の後核上清をサイトゾルと膜分画に分離した。
【0157】
抗体
M2抗FLAG抗体は、Sigmaから、抗H-Rasポリクローナル抗体はSanta Cruz Biotechnologyから、およびHRP-共役抗マウスおよび抗ウサギIgGはPierceから得た。抗hSK1および抗ホスホ-hSK1抗体は既に記述されている(Pitson et al. 2003、前記)。
【0158】
スフィンゴシンキナーゼアッセイ
スフィンゴシンキナーゼアッセイは、既に記述されているように(Pitson et al. 2000、前記)、基質としてD-エリスロ-スフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA)および[γ32P]ATP(Geneworks, Adelaide, South Australia)を用いて決定した。スフィンゴシンキナーゼ活性の単位(U)は、1 pmol S1P/分を産生するために必要な酵素量であると定義される。
【0159】
Lck-hSK1構築物の作製
Lckタンパク質チロシンキナーゼのアミノ酸10個のN-末端二重アシル化モチーフ(MGCGCSSHPE)は、細胞質膜にタンパク質をターゲティングするために十分であることが示されている(Zlatkine et al., 1997, J. Cell Sci. 110:673〜679)。このように、Lck-hSK1キメラは、鋳型DNAとしてpcDNA3-hSK1(Pitson et al. 2000、前記)を用いて、オリゴヌクレオチドプライマー
およびSP6によるPCRによって産生した。得られた産物をEcoRIによる消化によってpcDNA3(Invitrogen)にクローニングした。制限分析によって方向性を決定して、シークエンシングによってFLAGタグLck-hSK1 cDNA配列の完全性を確認した。FLAGタグLck-hSK1S225Aキメラを作製するために、pcDNA3-hSK1S225Aの野生型5'末端を表すKpnI-PmlI断片(Pitson et al. 2003、前記)を、Lck二重アシル化モチーフを含む150 bpのKpnI-PmlI pcDNA3-Lck-hSK1 DNA断片に置換した。
【0160】
免疫蛍光
安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞をフィブロネクチンコーティング8ウェルガラスチャンバースライド(Nalge Nunc International)に細胞1×104個/ウェルで播種して、24時間インキュベートした。細胞を4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液によって10分間固定して、0.1%トライトンX-100のPBS溶液によって透過性にして、3%BSAおよび0.1%トライトンX-100を含むPBSにおいてM2抗FLAG抗体と共に1時間インキュベートした。FITC共役抗マウスIgGによって免疫複合体を検出した。蛍光顕微鏡検査は、蛍光励起フィルター(494 nm)を備えたOlympus BX-51顕微鏡において行い、Cool Snap FX電荷カップリング装置カメラ(Photometrics, Phoenix, AZ)に獲得した。
【0161】
S1Pレベル
細胞内および細胞外S1Pレベルの双方を決定するために、細胞を燐酸塩を含まないDMEMにおいて1時間インキュベートした後、[32P]オルトホスフェート(0.2 mCi/ml)を含む新鮮な燐酸塩を含まないDMEMによって代謝的に標識して、37℃で4時間インキュベートした。細胞外S1P放出を決定するために、培地を除去して、1,000×gで遠心して、上清2.5 mlをクロロホルム2.5 ml、メタノール2.5 mlおよび濃HCl 20μlに加えた。有機相を真空下で乾燥させて、クロロホルムに浮遊させて、S1Pをシリカゲル60上でのTLCによって1-ブタノール/エタノール/酢酸/水(8:2:1:2、v/v)によって分解した。濃HCl 25μlを含むメタノール400μlに採取することによって細胞内S1Pレベルを決定した。クロロホルム400μl、KCl 400μl、および3 M NaOH 40μlを加えることによって、脂質をアルカリ条件で抽出した。これらの条件でS1Pを含む水相を、濃HCl 50μlを加えることによって酸性にして、クロロホルム400μlによって再度抽出した。有機相を真空下で乾燥させて、クロロホルムに浮遊させて、上記のようにTLCによってS1Pを分解した。
【0162】
細胞生長、ブロモデオキシウリジンの取り込み、およびアポトーシス核の染色
細胞生長に関するアッセイは、既に記述されているように(Xia et al., 2000、前記)、48ウェルプレート(細胞2500個/ウェル)において5%または1%FCSを含む培地または無血清培地(0.1%BSAを含む)において細胞をインキュベートすることによって行った。細胞数はチアゾリルブルー(MTT)アッセイを用いて表記の時間で決定した。新生DNAへのブロモデオキシウリジン(BrdU)取り込みを、細胞増殖の測定として用いた。細胞を、フィブロネクチンをコーティングした8ウェルガラスチャンバースライド(Nalge Nunc International)に1×104個/ウェルで播種して、2%FCSを含むDMEMにおいて24時間生長させた。細胞を10 μM BrdUと共に3時間インキュベートした後、固定して、製造元のプロトコールに従って抗BrdU-FLUOS抗体(Roche)を用いてその取り込みに関して染色した。BrdU取り込み陽性の細胞をOlympus BX-51蛍光顕微鏡によって可視化して、一カ所につき細胞少なくとも300個を採点した。アポトーシスは、細胞をメタノールにおいて1μg/ml DAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)によって室温で15分間染色することによって評価した。アポトーシス細胞を、蛍光顕微鏡を用いて縮合および断片化核によって同定して、総細胞の百分率として表記した。一カ所につき最小で細胞300個を採点した。
【0163】
結果
hSK1の燐酸化は、細胞増殖の増強および生存にとって必要である
野生型hSK1の過剰発現は、細胞増殖および生存を有意に増強した(Olivera et al, 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、上記;Sukocheva et al., 2003、前記;Olivera et al, 2003、前記)。しかし、それによってこれが起こる正確な分子メカニズムは不明である。これらの効果は、hSK1の触媒活性に依存し、これらはスフィンゴシンキナーゼ阻害剤であるN,N-ジメチルスフィンゴシンによって遮断され(Olivera et al, 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、前記)、Gタンパク質共役S1P受容体とは無関係であるように思われる(Olivera et al, 1999、前記;Olivera et al, 2003、前記)。このように、増強された生長および生存は、まだ同定されていない細胞内標的に及ぼすS1Pの作用によるように思われる。今日まで、細胞における総S1Pレベルの増加は、過剰発現されたhSK1の高い内因性の触媒活性(Pitson et al. 2000、前記)の結果として、これらの生物効果を誘導するために十分であると見なされている(Olivera et al, 1999、前記;Xia et al., 2000、前記;Edsall et al., 2001、前記;Nava et al., 2002、前記;Sukocheva et al., 2003、前記)。最近の知見から、Ser225でのhSK1の燐酸化によって、その触媒活性化および細胞膜への転位が起こることが示されている(Pitson et al. 2003、前記)。
【0164】
hSK1の燐酸化が、増殖および生存において重要であるか否かを調べるために、非活性化hSK1S225A変異体がこれらのプロセスを促進するか否かを調べた。野生型hSK1の過剰発現は、1%および5%血清のいずれかを含む培地におけるNIH3T3細胞の生長を顕著に増強したのみならず、血清の非存在下での生存および生長能をこれらの細胞に付与した(図1A〜C)。しかし対照的に、hSK1S225Aを過剰発現する細胞は、そのような生長の増強または血清非依存性を示さなかった(図1A〜C)。これは、トランスフェクトされたタンパク質の類似のレベルを発現して、同等の総スフィンゴシンキナーゼ活性を有する細胞であるにもかかわらずである(図1D)。類似の結果はまた、HEK293T細胞についても認められた。
【0165】
これまでの研究から、野生型hSK1の過剰発現からの生長速度の増加が細胞増殖の増加およびアポトーシスの低減の双方の組み合わせに起因することが示された(Olivera et al, 1999、前記;Edsall et al., 2001、前記;Olivera et al, 2003、前記)。これらの試験と一致して、新生DNAへのBrdU取り込みによる細胞増殖のアッセイから、野生型hSK1の過剰発現が細胞増殖の増加において有意な効果を有することが示された(図1E)。しかし、対照的に、hSK1S225Aを過剰発現する細胞は、そのような増殖の増強を示さず、対照細胞と類似のBrdU取り込みを示した(図1E)。同様に、野生型hSK1の過剰発現は、核の濃縮および断片化によって測定したところ、血清枯渇誘導アポトーシスを劇的に低減させた(図1F)。しかし、この場合もhSK1S225Aの過剰発現は顕著に異なる結果を示し、細胞にアポトーシスに対するそのような保護を提供しなかった(図1F)。したがって、野生型hSK1と全く対照的に、非燐酸化hSK1S225A変異体の過剰発現は、双方のトランスフェクト細胞が類似の細胞スフィンゴシンキナーゼ活性を産生するにもかかわらず、増殖を増加させず、アポトーシスに対しても保護しない。このように、hSK1の燐酸化は、増殖の増強および生存に関して認められた効果にとって必須であり、これらの効果に至るシグナル伝達プロセスにとって重要である酵素の定量的変化を示唆している。
【0166】
hSK1の細胞質膜局在は、hSK1燐酸化とは無関係に細胞増殖および生存を増強する
hSK1は、特定のアゴニストに細胞を曝露すると、細胞質から細胞質膜に転位することは十分に確立されている(Pitson et al. 2003、前記;Rosenfeldt et al., 2001、前記;Johnson et al., 2002;Melendez et al., 2002、前記;Young et al, 2003, Cell Calcium 33:119〜128)。この転位は、Ser225位でのhSK1の燐酸化に依存することが示されている(Pitson et al. 2003、前記)。増殖および生存の増強も同様に、hSKのSer225位の燐酸化に依存する。これらの生物効果に及ぼす細胞質膜へのhSK1局在の役割を調べた。細胞質膜局在hSK1タンパク質は、野生型hSK1およびhSK1S225AのN-末端にアミノ酸10個のLckタンパク質チロシンキナーゼ二重アシル化モチーフを加えることによって作製され、それぞれ、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225Aを産生する。NIH3T3細胞におけるこれらのタンパク質の過剰発現によって、hSK1およびhSK1S225Aの過剰発現に関して認められた場合よりわずかにより低い細胞スフィンゴシンキナーゼ活性が生成された(図1D)。このモチーフがタンパク質を細胞質膜にターゲティングするために十分であることを示したこれまでの研究と一致して(Zlatkine et al., 1997、前記)、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225Aタンパク質ならびにスフィンゴシンキナーゼ活性の膜分画への実質的な局在(図2A)が観察された。さらなる免疫蛍光分析(図2B)は、細胞質膜へのLck-hSK1およびLck-hSK1S225Aの明確な局在を示したが、初期の報告(Pitson et al. 2003、前記)と一致して、hSK1およびhSK1S225Aはサイトゾルに存在した。
【0167】
野生型hSK1と同様に、Lck-hSK1の過剰発現はNIH3T3細胞の生長を顕著に増強し、同様にこれらの細胞に血清の非存在下での生存および生長能を付与した(図1A〜C)。しかし、hSK1S225Aとは全く対照的に、Lck-hSK1S225Aの過剰発現も同様に血清枯渇条件での生存と共に生長の増強を付与した(図1A〜C)。これらの細胞のさらなる試験から、野生型hSK1と同様に、Lck-hSK1および非燐酸化Lck-hSK1S225Aがいずれも、細胞増殖の増強および血清枯渇誘導アポトーシスの低減を通して細胞生長を増加させることが示された(図1E、F)。したがって、細胞質膜へのhSK1の局在は、酵素の燐酸化状態とは無関係に、細胞増殖を増強して、アポトーシスに対して保護するために十分である。したがって、hSK1の燐酸化は、触媒活性の関連する増加の結果としてよりむしろ、細胞質膜へのhSK1の転位の誘導を通してこれらの観察された生物学的効果を媒介する。
【0168】
hSK1の燐酸化誘導細胞質膜局在は、細胞のトランスフォーメーションを媒介する
hSK1のSer225燐酸化は、細胞増殖および生存を増強するためにその効果にとって必須であることが確立されていることから、細胞のトランスフォーメーションに及ぼすその効果を調べた。既に記述されているように(Xia et al., 2000、前記)、野生型hSK1は、NIH3T3細胞にトランスフェクトした場合に、軟寒天におけるコロニー形成によってアッセイしたところ、かなりのトランスフォーム活性を示した(図3)。しかし対照的に、類似のレベルおよびhSK1S225Aの触媒活性の過剰発現によって、これらの細胞におけるトランスフォーメーションは顕著により少なくなった(図3)。特に、hSK1S225Aを発現するこれらの細胞は、野生型hSK1によるNIH3T3細胞のトランスフォーメーションにとって必要であることが既に示されている活性よりかなり高いスフィンゴシンキナーゼ活性を有した(Xia et al., 2000、前記)。したがって、増殖および生存の増強の状況と同様に、これらの実験は、細胞のトランスフォーメーションの原因であるのは、スフィンゴシンキナーゼ活性のレベルの上昇ではないことを証明しており、その代わりにタンパク質の燐酸化された活性化状態のもう一つの局面がこれらの効果の原因であることを示している。腫瘍遺伝子H-Ras(V12-Ras)によるNIH3T3細胞のトランスフォーメーションは、触媒的に不活性なドミナントネガティブ型のhSK1によって遮断されることが既に証明されており、hSK1がRas誘導細胞トランスフォーメーションに強く関係していることを示している(Xia et al., 2000、前記)。顕著に、非燐酸化hSK1S225Aも同様にRas-誘導細胞トランスフォーメーションを遮断し、この経路におけるhSK1活性化の必要条件をさらに確認する(図3)。したがって、この意味において、hSK1S225Aは、完全な触媒活性を有するにもかかわらず、タンパク質のドミナントネガティブ型として明らかに作用する。
【0169】
細胞のトランスフォーメーションに及ぼすhSK1の細胞質膜局在の効果を調べた。野生型hSK1と同様に、NIH3T3細胞におけるLck-hSK1およびLck-hSK1S225Aの双方の過剰発現によって、軟寒天において活発なコロニーの形成が起こった(図3)。空のベクター対照細胞においてもいくつかのバックグラウンドコロニーが観察されたが、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225A過剰発現細胞は、20〜30倍多いコロニーを形成し、それらは大きさもかなりより大きかった。実際に、Lck-hSK1およびLck-hSK1S225Aの過剰発現によって形成されたコロニーは、野生型hSK1を過剰発現する細胞において観察されたコロニーより大きく、より多数であった(図3)。このように、hSK1の細胞質膜への局在は、酵素の燐酸化状態とは無関係に細胞のトランスフォーメーションを増強するために十分である。
【0170】
hSK1の燐酸化および細胞質膜局在はS1P産生を増強する
hSK1の基質であるスフィンゴシンは細胞膜のあいだに急速に拡散することができるが、細胞質膜に主に見いだされる(Slife et al., 1989, J. Biol. Chem. 264:10371〜10377)。したがって、hSK1の細胞膜への局在に関して観察された劇的な生物効果の一つの可能性があるメカニズムは、S1P産生の増強である。Lck-hSK1および非燐酸化Lck-hSK1S225Aの双方の過剰発現によって、細胞内S1Pの類似の増加および培地へのS1P放出の増強が起こり、これは野生型hSK1またはhSK1S225Aのいずれかに関して観察された値より実質的に大きかった(図4)。
【0171】
当業者は、本明細書に記述の本発明が具体的に記述された以外の変動および改変を受けることを認識するであろう。本発明にはそのような全ての変動および改変が含まれると理解すべきである。本発明にはまた、本明細書において個々にまたは集合的に言及されたまたは示された段階、特徴、組成物の全て、および該段階または特徴の任意の二つまたはそれより多い任意の全ての組み合わせが含まれる。
【0172】
実施例2
スフィンゴシンキナーゼのカルモジュリン結合部位およびスフィンゴシンキナーゼの細胞質膜へのアゴニスト依存的転位におけるその役割
材料および方法
細胞培養およびトランスフェクション
ヒト胎児腎細胞(HEK293T)を、10%仔ウシ胎児血清(JRH Biosciences)、2 mMグルタミン、0.2%(w/v)重炭酸ナトリウム、ペニシリン(1.2 mg/ml)、およびストレプトマイシン(1.6 mg/ml)を含むダルベッコ改変イーグル培地(JRH Biosciences, Lenexa, KS)において培養した。細胞を燐酸カルシウム沈殿法を用いて一過性にトランスフェクトして、回収し、既に記述されているように(Pitson et al. 2000、前記)超音波によって溶解した。細胞ホモジネートにおけるタンパク質濃度は、ウシ血清アルブミンを標準物質として用いてクーマシーブリリアントブルー試薬(Sigma)によって決定した。
【0173】
スフィンゴシンキナーゼアッセイ
スフィンゴシンキナーゼ活性は、既に記述されているように(Roberts et al., Anal. Biochem 331, 122〜129)D-エリスロ-スフィンゴシン(Biomol, Plymouth Meeting, PA)および[γ32P]ATPを基質として用いてルーチンとして決定した。スフィンゴシンキナーゼ活性の単位(U)は、1 pmol S1P/分を産生するために必要な酵素の量として定義される。
【0174】
カルモジュリン結合アッセイ
スフィンゴシンキナーゼのCa2+/CaM結合を評価するためのアッセイを、既に詳述されているように(Pitson et al. 2002, J. Biol. Chem. 277, 49545〜49553)行った。簡単に説明すると、先に記述したように、野生型または変異体hSK1もしくはhSK2を過剰発現するHEK293T細胞を回収して溶解した。細胞溶解物を遠心して(13000×g、4℃で15分)細胞の破片を除去した。上清の少量を、50 mMトリス/HCl(pH 7.4)、5 mM CaCl2、100 mM NaCl、10%(w/v)グリセロール、0.05%(w/v)トライトンX-100、1 mMジチオスレイトール、1.5 mM Na3VO4、7.5 mM NaF、およびプロテアーゼ阻害剤(Complete(商標)、Roche)からなる結合緩衝液によって予め平衡にしたCaM-セファロース4B(Amersham Biosciences)を含む試験管に加えて、絶えず攪拌しながら4℃で30分間インキュベートした。CaM-セファロース4Bビーズを遠心(5000×g、4℃で5分)によって沈降させて、結合緩衝液によって2回洗浄した。結合したhSK1またはhSK2をSDS-PAGEによって分解して、FLAGエピトープによるウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロースCL-4B(Amersham Biosciences)を、CaM-セファロース4Bに対する非特異的結合の対照として用いた。
【0175】
スフィンゴシンキナーゼ変異体の構築
hSK1 cDNA(Genbankアクセッション番号AF200328)を、3'末端でFLAGエピトープタグをつけて、既に記述されているように(Pitson et al. 2000、前記)、pALTER部位特異的変異誘発ベクター(Promega Corp., Annandale, Australia)にサブクローニングした。一本鎖DNAを調製して、製造元のプロトコールに詳述されているように、これをオリゴヌクレオチド特異的変異誘発の鋳型として用いた。点突然変異体構築物を作製するために用いた変異誘発オリゴヌクレオチドは以下の通りであった:
。所望の改変が取り込まれていることを確認するために、変異体をシークエンシングして、その後cDNAを、HEK293T細胞への一過性のトランスフェクションのためにpcDNA3(Invitrogen, San Diego, CA)にサブクローニングした。
【0176】
野生型hSK1に関して既に記述されている方法(Pitson et al. 2003、前記)を用いて、hSK1F197A/L198QをN-末端でeGFPによってタグをつけた。プライマー、5'-
を用いるQuikChange変異誘発(Stratagene)によって、pcDNA3(Roberts et al., 2004、前記)においてhSK2 cDNAからhSK2V327A/L328Qを作製して、所望の改変が組み入れられていることを確認するためにシークエンシングした。
【0177】
GSTペプチドの作製およびプルダウン分析
hSK1の推定のCaM結合(PCB)領域を含むペプチドをコードする配列を、以下のプライマー:PCB1
によってhSK1 cDNAからPCR増幅した。次に、産物をEcoRIによって消化して、pGEX2Tにクローニングした。これらのpGEX2Tベクターによって形質転換した大腸菌JM109の培養物を、100 mg/Lアンピシリンを含むルリアブロスにおいて振とうさせながら37℃で終夜生長させた。次に、培養物を同じ培地で1:10に希釈して、OD600が約0.6に達するまで、振とうさせながら37℃で1時間生長させた。GST-PCBペプチドの発現を、IPTGを最終濃度1 mMで加えることによって誘導して、培養物をさらに3時間インキュベートした。細胞を6000×gで4℃で15分の遠心によって回収して、150 mM NaCl、1%トライトンX-100、1 mM EDTA、およびプロテアーゼ阻害剤を含む50 mMトリス/HCl、pH 7.4において超音波(3×30秒、5ワットのパルス)によって溶解した。20000×gで4℃で30分間の遠心によって溶解物を透明にした後、グルタチオン-セファロース(Amersham Biosciences)を加えて、混合物を絶えず攪拌しながら4℃で1時間インキュベートした。この後、グルタチオン-セファロースを冷PBSによって3回洗浄して、GST-ペプチドを、50 mMトリス/HCl、pH 8.5において20 mMグルタチオンによって4℃で10分間溶出した。CaM-セファロースおよびGST-ペプチド融合タンパク質のプルダウン分析を、各精製GST-ペプチドまたはGST単独約1μgを用いて先に記述したように行った。CaM-セファロースに対するペプチドの結合を、抗GST抗体を用いて検出した。
【0178】
限定的タンパク質分解およびN-末端シークエンシング
既に記述されているように(Pitson et al. 2002、前記)、Sf9細胞から組換え型hSK1を作製して精製した。精製ウシCaM(Sigma)の3倍モル過剰量の存在下または非存在下で、100 mMトリス/HCl、pH 8.5においてトリプシン(Roche)2 ngまたは5 ngを加えることによって、このhSK1(15μlにおいて1.5μg)の限定的タンパク質分解を行った。次に、混合物を37℃で60分間インキュベートした後、100 mM 4-(2-アミノエチル)-ベンゼンスルホニルフルオリド(Roche)1.5 μlを加えることによって停止させて、37℃でさらに5分間インキュベートした。チプチック(typtic)切断産物をSDS-PAGEによって分解してPVDFメンブレンに転写した。メンブレンのクーマシー染色後、CaMの存在下で保護されたバンドを切り出して、オーストラリアプロテオーム分析施設において、Applied Biosystems 494 Prociseタンパク質シークエンシングシステムを用いて、そのN-末端配列を自動Edman分解6サイクルによって決定した。
【0179】
ウェスタンブロッティング
12%アクリルアミドゲルを用いて細胞溶解物にSDS-PAGEを行った。タンパク質をニトロセルロースにブロットして、メンブレンを5%スキムミルク粉末および0.1%(w/v)トライトンX-100を含むPBSにおいて4℃で終夜ブロックした。細胞溶解物におけるhSK1発現レベルを、モノクローナル抗体M2抗FLAG抗体(Sigma)によって溶解物の一連の希釈に対して定量して、増強化学発光キット(ECL、Amersham Biosciences)を用いて免疫複合体をHRP抗マウス(Pierce)IgGによって検出した。
【0180】
酵母2ハイブリッドスクリーニング
Matchmaker Gal4 2ハイブリッドシステム3(Clontech)を用いて、製造元の説明書に従って酵母2ハイブリッドスクリーニングを行った。完全長のhSK1 cDNA(Genbankアクセッション番号AF200328)をpGBKT7(Clontech)にGal4 DNA結合ドメインとインフレームでクローニングした。おとり構築物を、pACT2(Clontech)においてヒト白血病cDNAライブラリと共に酵母株AH107に形質転換した。独立したクローン全体で1×106個をスクリーニングした。
【0181】
GST-カルミリンの作製
完全長のカルミリンをコードする配列を、プライマー
によって酵母2ハイブリッドスクリーニングから得られたpACT2-カルミリンからPCR増幅した。次に産物をBamHIおよびXhoIによって消化して、pGEX4T2にクローニングした。GST-カルミリンの作製は、先に記述したように大腸菌BL21において行った。
【0182】
結果
hSK1における予想CaM-結合部位の変異誘発
hSK1とCaMとの相互作用における誘発Ca2+/CaM結合部位の可能性がある役割を調べるために、hSK1の部位特異的変異を行った。特に、この変異誘発はこれらのモチーフ内で保存された疎水性残基に集中しており、それらを構造的に保存された親水性残基に交換する。PCB2は、Leu153からGlnへの変異(hSK1L153Q)によってターゲティングされ、PCB1およびPCB2はいずれもLeu147からGlnへの変異(hSK1L147Q)によってターゲティングされ、PCB3は、Leu187からGlnへの変異(hSK1L187Q)およびLeu200からGlnへの変異(hSK1L200Q)によってターゲティングされ、ならびにPCB4はPhe303からHisへの変異(hSK1F303H)によってターゲティングされた。hSK1のこれらのバージョンをHEK293T細胞において発現させて、CaM-セファロースに対するその結合能および保持された全体的なタンパク質の折り畳みの測定値としてその触媒活性を分析した。これらのhSK1変異体は全て少なくとも何らかの触媒活性を保持したが、いくぶん驚いたことに、5個全てが野生型hSK1と類似の効率でCaMに結合した(図6)。このことは、hSK1のこれらの予想されたCa2+/CaM結合領域がCaM結合に関係していない可能性があることを示唆した。これらの推定のCa2+/CaM結合領域内での他の保存された疎水性残基のさらなる変異誘発(すなわち、Leu134からGluおよびVal290からAsn)は、触媒的に不活性なhSK1タンパク質を生じ、したがって変異がこれらのタンパク質の全体的な折り畳みの破壊を引き起こした可能性のためにさらに分析しなかった。
【0183】
hSK1におけるCaM-結合部位の直接同定
変異誘発実験により、配列分析から予想されたhSK1のCa2+/CaM結合部位は、CaM結合の原因ではないことが示唆されたことから、hSK1におけるCaM結合領域を直接同定するためにさらなる実験を行った。これは最初、精製組換え型hSK1の限定的タンパク質分解を用いて行い、CaMの存在下で保護されたhSK1における切断部位を同定した。精製組換え型hSK1のトリプシンによる限定的タンパク質分解は、大きさが約9 kDa〜32 kDaに及ぶいくつかの検出可能な切断産物を生じた(図7A)。しかし、この限定的タンパク質分解の際にCaMを含めることによって、17〜22 kDaの範囲の多数のhSK1-由来産物が失われ、より大きいhSK1-由来ポリペプチドの蓄積が起こった(図7A)。CaMの存在下で限定的タンパク質分解の際に生成されなかった最も顕著な二つのポリペプチドは、おおよその分子量21および22 kDaを有した(図7A)。これらのポリペプチドは無傷の組換え型hSK1のこの末端に存在するHis-タグを保持していたこと、およびhSK1の中心領域内の少なくとも二つのトリプシン切断部位に非常に近位の結合CaMの存在によりおそらく生成されなかったことから(図7B)、hSK1のC-末端断片を表す。このように、CaMによって保護されたこれらの切断部位を同定するために、二つのペプチドのN-末端シークエンシングを行った。得られた配列
は、二つの保護されたトリプシン切断部位がArg192/Phe193およびArg198/Leu199に存在することを示している。
【0184】
hSK1における可能性があるCaM結合部位をさらに解明するために、本発明者らは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)に融合させたhSK1のPCB1/2、PCB3、およびPCB4領域に基づいてアミノ酸30個のペプチドとCaMとの相互作用を調べた。三つのペプチドをインフレームでGSTに融合させて、大腸菌において発現させて精製した後、CaM-セファロースとの結合能に関して評価した。限定的タンパク質分解を用いて先に得られた結果と一致して、PCB3ペプチドを含む融合タンパク質のみが、CaMとの会合を示した(図8)。併せると、これらのデータは、PCB3がhSK1のCaM結合領域であることを強く示している。
【0185】
CaM結合欠損hSK1変異体の作製
PCB3内のLeu187またはLeu200のいずれの変異も、hSK1のCaMとの結合を変化させなかったが(図6)、限定的タンパク質分解およびペプチド結合試験から得られた結果は、この会合にとって肝要である可能性があるこの領域における他の残基をさらに調べるための起動力となった。このように、本発明者らは、Leu194からGln(hSK1L194Q)、Phe197からAla(hSK1F197A)およびLeu198からGln(hSK1L198Q)を含む、PCB3内のいくつかの個々の疎水性残基において変異を含むhSK1のバージョンを作製した。この場合もこれらのバージョンのhSK1をHEK293T細胞において発現させて、そのCaM結合能に関して分析した。結果(図9)は、三つ全てがCaM-セファロースに会合するように思われたが、それらは、野生型hSK1と比較して効率が幾分低減していたことを示した(図9)。これは、三つの変種タンパク質の全てが少なくとも何らかの触媒活性を保持しているにもかかわらず、変異が全体的なタンパク質の折り畳みに影響を及ぼしていなかったことを示唆している。これらの知見に照らして、Phe197からAlaおよびLeu198からGlnへの変異の双方を含むhSK1のバージョン(hSK1F197A/L198Q)を作製して、再度CaMとの会合能を調べた。これらの二つの変異はhSK1のCaMに対する結合を完全に消失させた(図5)。さらに、このhSK1二重変異体は、かなりの触媒活性を保持して、この場合も、CaMとの会合能における欠損がタンパク質の全体的な折り畳みにおける破壊の結果ではないことを示した。このように、これらの結果は、hSK1のCaM結合領域がhSK1のPCB3領域(残基191〜206位)内に存在すること、およびPhe197およびLeu198がhSK1とCaMとの相互作用に決定的に関係していることを確固として確立する。
【0186】
hSK1のCaM結合部位の特徴をさらに調べるために、CaM結合における疎水性残基の決定的な関係の他に、塩基性残基のそのような集合体は、一般的にCaMとその標的との相互作用の静電気的安定化において一般的に関係していることから(Vetter et al., 2003、前記)、PCB3のN-末端に向けて塩基性領域をターゲティングした。したがって、Arg185およびArg186の双方でAlaを含むhSK1のバージョン(hSK1R185A/R186A)を作製して、CaM-セファロースとのその会合能を調べた。これまでの分析および他のCaM結合部位との比較に基づいて(Vetter et al., 2003、前記)、幾分驚いたことに、hSK1R185A/R186Aは、CaMとの結合能を保持し(図9)、これらの塩基性残基がこの相互作用にとって必要ではないことを示した。
【0187】
CaM結合はhSK1およびhSK2のあいだで保存されている
hSK2のCaMとの結合能を調べた過去の試験はなかったが、配列分析により、同定されたhSK1のCaM結合部位がこのタンパク質において高度に保存されていることを示した(図5)。このように、CaMが同様にhSK2に結合することができるか否かの問題を調べた。実際に、hSK1と同様にhSK2もCaMと会合することが見いだされた(図10A)。hSK2とCaMとのこの相互作用は、Ca2+の存在下で増強されたが、hSK1の状況とは異なり、hSK2に対するアポカルモジュリンのかなりの結合がCa2+の非存在下で観察された(図10A)。
【0188】
hSK2はCaMと相互作用するが、Ca2+/CaMを組換え型hSK2の酵素アッセイに加えると、hSK1の状況と同様に(Pitson et al. 2000、前記)、Ca2+/CaMが、インビトロでのhSK2の触媒活性を変化させないことが示された(データは示していない)。このように、CaMとhSK2とのこの相互作用の生理的役割はまだ決定されていない。
【0189】
CaM結合欠損hSK2バージョンを作製するために、hSK1のCaM結合にとって重要であるタンパク質について保存されたこのタンパク質における残基について変異誘発を行った。hSK2のこのバージョン(hSK2V327A/L328Q)を、HEK293T細胞において発現させて、そのCaM-セファロースとの結合能および保持された全体的なタンパク質折り畳みの測定としての触媒活性の双方に関して分析した。hSK1に関する知見と一致して、このhSK2変異体は高い触媒活性を保持したが、CaMとは相互作用しなかった(図10)。このように、これらの試験は、hSK1およびhSK2がCaMと会合するのみならず、双方の酵素が高度に保存された結合部位を通して会合することを確固として確立する。
【0190】
スフィンゴシンキナーゼ調節におけるCaM結合部位の役割
Ser225での燐酸化を通してのhSK1の活性化および特にその細胞質膜へのその後の転位は、この酵素による腫瘍形成シグナル伝達において重要な段階であることが確立されている。現在の試験におけるCaM結合部位の同定およびCaM結合欠損hSK1バージョンの作製によって、hSK1の細胞局在におけるCaMの直接的な役割をさらに試験することが可能となった。このように、hSK1の十分に確立されたホルボルエステルによる細胞質膜への転位にCaMが関係しているか否かを調べた。野生型hSK1およびhSK1F197A/L198Qを、eGFPとの融合タンパク質としてHEK293T細胞において発現させて、ホルボル12-ミリステート13-アセテート(PMA)に細胞を曝露した後にその局在を調べた。この処置後に、野生型hSK1のサイトゾルから細胞質膜への局在の急激なシフトが観察された(図11A)。しかし、全く対照的に、PMAに反応したhSKF197A/L198Qの再分布は認められず(図11A)、このプロセスにおけるCaM結合部位にとっての重要な役割を強く示している。
【0191】
次に、CaM結合部位に対する変異が、このプロセスにおける間接的な効果によって転位を阻害しているのではないことを確実にするために、PMAおよび腫瘍壊死因子-α(TNF-α)に対する細胞曝露に反応したhSK1F197A/L198Qの燐酸化および活性化を調べた。実際に、PMAおよびTNFαの双方による細胞の処置によって、野生型hSK1に関して観察された場合と同等のhSK1F197A/L198Qの燐酸化の増強および触媒活性の増強が起こったことから、これは当てはまらないことが見いだされた(図7B)。これは、CaM結合がhSK1の燐酸化および触媒活性化に関係していないことを証明しており、CaM結合部位の変異によるhSK1の転位の破壊が、この部位でのタンパク質-タンパク質相互作用を直接変化させることによって起こることを示唆している。
【0192】
CaMはhSK1の転位を媒介するか
先に概要した試験は、そのアゴニスト誘導転位にhSK1のCaM結合部位が関係していることを強く意味している。しかし、遊離の細胞カルシウムの増加によって、CaMが、サイトゾルから細胞質膜ではなくて核に主に転位することから、このプロセスにおけるCaMの実際の役割はあまり明確ではない(Chin et al., 2000, Trends Cell Biol. 10, 322〜328)。
【0193】
酵母の2ハイブリッド技術を用いて、CaM関連タンパク質であるカルミリン(C1B1、カルシウムおよびインテグリン結合タンパク質1としても知られる)が、hSK1相互作用タンパク質として同定されている。この22 kDaミリストイル化Ca2+結合タンパク質は、CaM(56%)およびカルシニューリンB(58%)とかなりのアミノ酸配列類似性を有する。カルミリンは、調べたほとんどの組織および細胞に広く分布する(Shock et al., 1999, Biochem. J.342, 729〜735)。これはいくつかの他のタンパク質と相互作用することが知られており、これらの多様なタンパク質相互作用を通して広い機能を有し、タンパク質キナーゼPlk2およびFAKの活性(Naik et al., 2003, Blood 102, 3629〜3636;Ma et al., 2003, Mol. Cancer Res. 1, 376〜384)、Pax3の転写活性(Hollenbach et al., 2002, Biochim. Biophys. Acta 1574, 321〜328)、ならびに血小板におけるαIIbインテグリンシグナル伝達の調節(Tsuboi, S., 2002, J. Biol. Chem. 277, 1919〜1923)を調節すると思われる。しかし、本研究の状況において最も重要なことは、カルミリンがCa2+依存的に細胞質膜に会合することが知られているCa2+-ミリストイルスイッチタンパク質ファミリーのメンバーである点である(Meyer et al., 1999, Nat. Cell Biol.1, E93〜E95)。Ca2+の非存在下では、これらのミリストイル化タンパク質は、その脂肪酸を疎水性腔に封鎖する。Ca2+の結合によってタンパク質において大きいコンフォメーションの変化が起こって、ミリストイル基の押出が起こり、これを膜と相互作用するために利用できる。
【0194】
組換え型GST-カルミリンが産生されており、抗カルミリン抗体を作製するために用いられている。これらの試薬を用いて、カルミリンとhSK1およびhSK2の双方の相互作用が確認されており、これらの相互作用は、CaMに関して認められた作用と同等にCa2+によって増強されることが示されている(図8)。カルミリンおよびCaMは、有意な配列類似性を共有することから、そしていずれもCa2+依存的にhSK1に結合することから、CaM結合欠損変異体hSK1F197A/L198Qを用いて、双方のタンパク質が同じ部位でhSK1に結合するか否かに関して分析を行った。CaM結合に関して観察されたように、hSK1F197A/L198Qも同様にカルミリンに結合することができず(図13)、CaMおよびカルミリンの双方が類似のメカニズムでhSK1と相互作用することを示している。
【0195】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】hSK1の燐酸化および細胞質膜局在が細胞増殖を増強することのグラフ表示である。野生型hSK1(白丸)、hSK1S225A(黒三角)、Lck-hSK1(黒丸)、およびLck-hSK1S225A(黒四角)または空のベクター(白四角)をコードするプラスミドを安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞の、A、無血清培地(0.1%BSAを含む);B、1%FCSを含む培地;またはC、5%FCSにおける5日間の生長。D、これらの細胞におけるスフィンゴシンキナーゼ活性、およびそのFLAGエピトープを通してウェスタンブロットによって決定した様々なhSK1構築物のタンパク質発現。E、新生DNAへのBrdU取り込みによって測定したこれらの細胞の細胞増殖。F、核濃縮および断片化によって測定したこれらの細胞の血清枯渇によって誘導されたアポトーシス。データは3回の独立した実験を表す。
【図2】Lck N-末端モチーフによる細胞質膜へのhSK1の局在の画像。A、野生型hSK1、hSK1S225A、Lck-hSK1、およびLck-hSK1S225Aを安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞からの溶解物を、サイトゾルおよび膜に分画して、抗FLAGによるウェスタンブロットによってプロービングした。データは、独立した3回の実験の代表である。B、同じ安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞の蛍光顕微鏡写真。画像は、3回の独立した実験において認められた細胞の>50%の代表である。
【図3】hSK1の燐酸化および細胞質膜局在がトランスフォーメーションに至ることの画像である。A、空のベクター、または野生型hSK1もしくはhSK1S225Aを単独でまたは活性化変異体H-Ras(V12-Ras)をコードするプラスミドと同時トランスフェクトしたNIH3T3細胞を、軟寒天において培養した。3週間後に形成されたコロニーを既に記述されているように(Xia et al., 2000、前記)MTT染色によって可視化した。B、軟寒天におけるコロニー形成の定量。データは3回の独立した実験からの平均値(±SD)である。
【図4】hSK1の燐酸化および細胞質膜局在が細胞内および細胞外スフィンゴシン-1-ホスフェートレベルの増加に至ることのグラフ表示である。細胞内および細胞外S1Pレベルは、空のベクター、または野生型hSK1、hSK1S225A、Lck-hSK1、およびLck-hSK1S225Aをコードするプラスミドを安定にトランスフェクトしたNIH3T3細胞において決定した。データは3回の独立した実験の平均値(±SD)である。
【図5】hSK1(SEQ ID NO:2)の推定のCaM結合領域の分析の概略図である。四角で囲んだ残基は、可能性があるCaM結合領域であると予想される残基である。下線の残基は、GST-融合タンパク質に組み入れられたhSK1の領域を構成する。三角は、限定的タンパク質分解の際にCaMの存在によって保護されたhSK1におけるトリプシン切断部位の位置を示す。
【図6】hSK1の予想CaM結合領域の部位特異的変異誘発の概略図である。A、様々なhSK1変異体(ロード)を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、CaM-セファロース(CaM)に対するhSK1変異体の選択的結合を調べた。結合したhSK1タンパク質を、そのFLAGエピトープを通してウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロース4Bビーズに対する如何なる非特異的結合も説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。B、hSK1変異体の相対的触媒活性。
【図7】hSK1の限定的なタンパク質分解がCaMによってトリプシン切断部位の保護を明らかにすることを示す画像である。A、組換え型hSK1単独、精製CaM単独、または双方のタンパク質の限定的タンパク質分解から生成されたトリプシンペプチドのクーマシー染色ゲル。B、C-末端HisタグhSK1の限定的トリプシン分解の抗His抗体のウェスタンブロット。
【図8】hSK1-由来ペプチドとCaMとの会合を示す画像である。hSK1由来ペプチドのCaM-セファロース(CaM)に対する選択的結合を、大腸菌において産生されたGST-ペプチド融合タンパク質(ロード)を用いて調べた。結合した融合タンパク質を、抗GST抗体によるウェスタンブロッティングを用いて可視化した。セファロース4Bビーズに対する非特異的結合を説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。
【図9】hSK1のPCB3の部位特異的変異誘発の機能的転帰を示す概略図である。A、様々なhSK1変異体(ロード)を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、CaM-セファロース(CaM)に対するhSK1変異体の選択的結合を調べた。結合したhSK1タンパク質をそのFLAGエピトープを通してウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロース4Bビーズに対する非特異的結合を説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。B、hSK1変異体の相対的触媒活性。
【図10】hSK2がhSK1に関して保存された結合部位を通してCaMに会合することを示す概略図である。A、hSK1またはhSK2(ロード)のいずれかを発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、5 mM CaCl2または5 mM EGTAの存在下で、hSK1およびhSK2とCaM-セファロース(CaM)との会合を調べた。結合したhSK1またはhSK2をそのFLAGエピトープによるウェスタンブロッティングによって可視化した。セファロース4Bビーズに対する非特異的結合を説明するために、セファロースCL-4B(CL4B)に対する結合を対照として用いた。B、hSK2型を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて、hSK2のV327/L328Q変異によるCaM-セファロース結合の消失を調べた。C、hSK2変異体の相対的触媒活性。
【図11】hSK1 CaM-結合部位の変異がhSK1のアゴニストによる細胞質膜への転位を消失させることを示す概略図である。A、PMA(10 ng/ml)の存在下または非存在下で野生型hSK1-GFPまたはhSK1F197A/L198Q-GFPのいずれかを30分間トランスフェクトしたHEK293T細胞の蛍光顕微鏡写真。画像は、2回の独立した実験において観察された細胞の>50%の代表である。一過性にトランスフェクトしたHEK293T細胞におけるhSK1の燐酸化(B)および活性化(C)を、ホスホhSK1特異的ポリクローナル抗体(抗p-hSK1)を用いるウェスタンブロットおよび野生型hSK1またはhSK1F197A/L198Qを過剰発現する細胞をTNFα(1 ng/ml)またはPMA(10 ng/ml)によって30分間処置した後のスフィンゴシンキナーゼ酵素アッセイによって追跡した。総hSK1レベルをFLAGエピトープを通して決定した。
【図12】カルミリンがカルシウム依存的にhSK1に会合することを示す画像である。hSK1と、グルタチオン-セファロースに結合したGST-カルミリンとの会合をhSK1(ロード)を発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて5 mM CaCl2または5 mM EGTAの存在下で試験した。
【図13】hSK1 CaM-結合部位の変異がカルミリン結合を消失させることを示す画像である。そのカルミリンとの会合にhSK1のCaM-結合部位が関係していることを、グルタチオン-セファロースに結合したGST-カルミリン、および野生型hSK1またはhSK1F197A/L198Q(ロード)のいずれかを発現するHEK293T細胞からの抽出物を用いて評価した。結合したhSK1を、FLAGエピトープによるウェスタンブロッティングによって可視化した。非特異的結合を説明するために、GST単独を対照として用いた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、シグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、該スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で該スフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法。
【請求項2】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、該スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法。
【請求項3】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で物質の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法。
【請求項4】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で物質の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法。
【請求項5】
物質が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整し、該相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸がPhe197またはLeu198の一つまたは双方である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ1である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ2である、請求項5または6記載の方法。
【請求項9】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションである、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
細胞活性が、TNFによって誘導され、細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項2記載の方法。
【請求項12】
TNF誘導細胞活性がTNF誘導増殖および/または抗アポトーシス特徴である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
細胞活性が、炎症性メディエータの産生であって、細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項2記載の方法。
【請求項14】
炎症性メディエータが接着分子の発現である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
病態が、望ましくない細胞生長であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項3または4記載の方法。
【請求項16】
望ましくない細胞生長が制御されていない増殖である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
制御されていない増殖が新生物病態である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
新生物病態が悪性新生物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
悪性新生物が固形腫瘍である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
固形腫瘍が大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳房、卵巣、または子宮の腫瘍である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
病態が炎症性病態であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項3または4記載の方法。
【請求項22】
炎症性病態が、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、または炎症性腸疾患である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子、またはスフィンゴシンキナーゼ転位因子をコードする核酸を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
転位因子がカルモジュリンである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
転位因子がカルミリン(calmyrin)である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
アゴニストがカルシウムレベルの上昇を誘導する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
アゴニストがカルシウムイオノフォアである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
アゴニストがイオノマイシンである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
細胞内局在の調整が細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子またはスフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用にアゴニスト作用する分子のいずれかの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜8または10〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
アンタゴニストが抗体である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
抗体が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域を対象とする、請求項32記載の方法。
【請求項34】
アンタゴニストが、野生型スフィンゴシンキナーゼに対する転位因子の結合を競合的に阻害する非機能的スフィンゴシンキナーゼ変種である、請求項31記載の方法。
【請求項35】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する領域を含むペプチドである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基197および198位に対応する領域を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
アンタゴニストが、細胞内の遊離のカルシウムレベルを減少させるように作用する、請求項31記載の方法。
【請求項38】
アンタゴニストがカルシウムキレート剤である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
カルシウムキレート剤が、BAPTAまたはMAPTAMである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストをコードする核酸分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜8または10〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜8または10〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートし、ここで該物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能し、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態を処置するための薬剤の製造における該物質の使用。
【請求項43】
物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートし、ここで該物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能し、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態を処置するための薬剤の製造における該物質の使用。
【請求項44】
物質が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整し、該相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする、処置のための薬剤の製造における該物質の使用。
【請求項45】
アミノ酸がPhe197またはLeu198の一つまたは双方である、請求項44記載の使用。
【請求項46】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ1である、請求項44または45記載の使用。
【請求項47】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ2である、請求項44または45記載の使用。
【請求項48】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションである、請求項44〜47のいずれか一項記載の使用。
【請求項49】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項44〜47のいずれか一項記載の使用。
【請求項50】
病態が望ましくない細胞生長であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項43または44記載の使用。
【請求項51】
望ましくない細胞生長が制御されていない増殖である、請求項50記載の使用。
【請求項52】
制御されていない増殖が新生物病態である、請求項51記載の使用。
【請求項53】
新生物病態が悪性新生物である、請求項52記載の使用。
【請求項54】
悪性新生物が固形腫瘍である、請求項53記載の使用。
【請求項55】
固形腫瘍が大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳房、卵巣、または子宮の腫瘍である、請求項54記載の使用。
【請求項56】
病態が炎症性病態であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項43または44記載の使用。
【請求項57】
炎症性病態が、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、または炎症性腸疾患である、請求項56記載の使用。
【請求項58】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子、またはスフィンゴシンキナーゼ転位因子をコードする核酸を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜48のいずれか一項記載の使用。
【請求項59】
転位因子がカルモジュリンである、請求項58記載の使用。
【請求項60】
転位因子がカルミリンである、請求項58記載の使用。
【請求項61】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜48のいずれか一項記載の使用。
【請求項62】
アゴニストがカルシウムレベルの上昇を誘導する、請求項61記載の方法。
【請求項63】
アゴニストがカルシウムイオノフォアである、請求項62記載の使用。
【請求項64】
アゴニストがイオノマイシンである、請求項63記載の使用。
【請求項65】
細胞内局在の調整が細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子またはスフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用にアゴニスト作用する分子のいずれかの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜48のいずれか一項記載の使用。
【請求項66】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜47または49〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項67】
アンタゴニストが抗体である、請求項66記載の使用。
【請求項68】
抗体が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域を対象とする、請求項57記載の方法。
【請求項69】
アンタゴニストが、野生型スフィンゴシンキナーゼに対する転位因子の結合を競合的に阻害する非機能的スフィンゴシンキナーゼ変種である、請求項67記載の使用。
【請求項70】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する領域を含むペプチドである、請求項69記載の使用。
【請求項71】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基197および198位に対応する領域を含む、請求項70記載の使用。
【請求項72】
アンタゴニストが、細胞内の遊離のカルシウムレベルを減少させるように作用する、請求項71記載の使用。
【請求項73】
アンタゴニストがカルシウムキレート剤である、請求項72記載の使用。
【請求項74】
カルシウムキレート剤が、BAPTAまたはMAPTAMである、請求項73記載の使用。
【請求項75】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストをコードする核酸分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜47または49〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項76】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜47または49〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項77】
一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に本明細書において先に定義した調整物質を含む薬学的組成物。
【請求項78】
スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を含む細胞またはその抽出物を推定の物質に接触させる段階、および細胞膜局在に関連した発現表現型の変化を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体の細胞内局在を調整することができる物質を検出する方法。
【請求項79】
野生型スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転位能の消失または低減を示し、転位メディエーター結合部位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域における変異を含む、単離されたスフィンゴシンキナーゼ変種。
【請求項80】
アミノ酸191〜206位の単一または複数のアミノ酸置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含む、請求項79記載の変種。
【請求項81】
アミノ酸がアミノ酸Phe197および/またはLeu198である、請求項80記載の変種。
【請求項82】
置換がPhe197Alaおよび/またはLeu198Gln置換である、請求項81記載の変種。
【請求項83】
請求項79〜82のいずれか一項記載の変種をコードする単離された核酸分子。
【請求項1】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、シグナル伝達をアップレギュレートし、該スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該シグナル伝達をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、該スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で該スフィンゴシンキナーゼを物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介シグナル伝達を調整する方法。
【請求項2】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、該スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が、該細胞活性をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で細胞を物質の有効量に接触させる段階を含む、スフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を調整する方法。
【請求項3】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で物質の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法。
【請求項4】
スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートし、ここで物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能する、スフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整するために十分な時間および条件で物質の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態の処置および/または予防のための方法。
【請求項5】
物質が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整し、該相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
アミノ酸がPhe197またはLeu198の一つまたは双方である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ1である、請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ2である、請求項5または6記載の方法。
【請求項9】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションである、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
細胞活性が、TNFによって誘導され、細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項2記載の方法。
【請求項12】
TNF誘導細胞活性がTNF誘導増殖および/または抗アポトーシス特徴である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
細胞活性が、炎症性メディエータの産生であって、細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項2記載の方法。
【請求項14】
炎症性メディエータが接着分子の発現である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
病態が、望ましくない細胞生長であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項3または4記載の方法。
【請求項16】
望ましくない細胞生長が制御されていない増殖である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
制御されていない増殖が新生物病態である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
新生物病態が悪性新生物である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
悪性新生物が固形腫瘍である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
固形腫瘍が大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳房、卵巣、または子宮の腫瘍である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
病態が炎症性病態であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項3または4記載の方法。
【請求項22】
炎症性病態が、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、または炎症性腸疾患である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子、またはスフィンゴシンキナーゼ転位因子をコードする核酸を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
転位因子がカルモジュリンである、請求項23記載の方法。
【請求項25】
転位因子がカルミリン(calmyrin)である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
アゴニストがカルシウムレベルの上昇を誘導する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
アゴニストがカルシウムイオノフォアである、請求項27記載の方法。
【請求項29】
アゴニストがイオノマイシンである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
細胞内局在の調整が細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子またはスフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用にアゴニスト作用する分子のいずれかの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜8または10〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
アンタゴニストが抗体である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
抗体が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域を対象とする、請求項32記載の方法。
【請求項34】
アンタゴニストが、野生型スフィンゴシンキナーゼに対する転位因子の結合を競合的に阻害する非機能的スフィンゴシンキナーゼ変種である、請求項31記載の方法。
【請求項35】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する領域を含むペプチドである、請求項34記載の方法。
【請求項36】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基197および198位に対応する領域を含む、請求項35記載の方法。
【請求項37】
アンタゴニストが、細胞内の遊離のカルシウムレベルを減少させるように作用する、請求項31記載の方法。
【請求項38】
アンタゴニストがカルシウムキレート剤である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
カルシウムキレート剤が、BAPTAまたはMAPTAMである、請求項38記載の方法。
【請求項40】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストをコードする核酸分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜8または10〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項1〜8または10〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項42】
物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、細胞活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該細胞活性をダウンレギュレートし、ここで該物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能し、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ媒介細胞活性を特徴とする、哺乳動物における病態を処置するための薬剤の製造における該物質の使用。
【請求項43】
物質がスフィンゴシンキナーゼの細胞内局在を調整し、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートする段階が、スフィンゴシンキナーゼ活性をアップレギュレートし、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする段階が該スフィンゴシンキナーゼ活性をダウンレギュレートし、ここで該物質が、スフィンゴシンキナーゼ燐酸化を調整することによって局在を調節する以外の手段によって機能し、病態が、異常な、望ましくない、またはそうでなければ不適当なスフィンゴシンキナーゼ機能的活性を特徴とする、哺乳動物における病態を処置するための薬剤の製造における該物質の使用。
【請求項44】
物質が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する一つまたは複数のアミノ酸と転位因子との相互作用を調整し、該相互作用を誘導またはアゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をアップレギュレートし、該相互作用にアンタゴニスト作用する段階が、スフィンゴシンキナーゼ細胞膜局在をダウンレギュレートする、処置のための薬剤の製造における該物質の使用。
【請求項45】
アミノ酸がPhe197またはLeu198の一つまたは双方である、請求項44記載の使用。
【請求項46】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ1である、請求項44または45記載の使用。
【請求項47】
スフィンゴシンキナーゼがヒトスフィンゴシンキナーゼ2である、請求項44または45記載の使用。
【請求項48】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションである、請求項44〜47のいずれか一項記載の使用。
【請求項49】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のダウンレギュレーションである、請求項44〜47のいずれか一項記載の使用。
【請求項50】
病態が望ましくない細胞生長であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項43または44記載の使用。
【請求項51】
望ましくない細胞生長が制御されていない増殖である、請求項50記載の使用。
【請求項52】
制御されていない増殖が新生物病態である、請求項51記載の使用。
【請求項53】
新生物病態が悪性新生物である、請求項52記載の使用。
【請求項54】
悪性新生物が固形腫瘍である、請求項53記載の使用。
【請求項55】
固形腫瘍が大腸、胃、肺、脳、骨、食道、膵臓、乳房、卵巣、または子宮の腫瘍である、請求項54記載の使用。
【請求項56】
病態が炎症性病態であって、スフィンゴシンキナーゼの細胞膜局在がダウンレギュレートされる、請求項43または44記載の使用。
【請求項57】
炎症性病態が、リウマチ性関節炎、アテローム性動脈硬化症、自己免疫疾患、または炎症性腸疾患である、請求項56記載の使用。
【請求項58】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子、またはスフィンゴシンキナーゼ転位因子をコードする核酸を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜48のいずれか一項記載の使用。
【請求項59】
転位因子がカルモジュリンである、請求項58記載の使用。
【請求項60】
転位因子がカルミリンである、請求項58記載の使用。
【請求項61】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が、細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜48のいずれか一項記載の使用。
【請求項62】
アゴニストがカルシウムレベルの上昇を誘導する、請求項61記載の方法。
【請求項63】
アゴニストがカルシウムイオノフォアである、請求項62記載の使用。
【請求項64】
アゴニストがイオノマイシンである、請求項63記載の使用。
【請求項65】
細胞内局在の調整が細胞膜局在のアップレギュレーションであって、該アップレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼ転位因子またはスフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用にアゴニスト作用する分子のいずれかの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜48のいずれか一項記載の使用。
【請求項66】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストとして機能するタンパク質様または非タンパク質様分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜47または49〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項67】
アンタゴニストが抗体である、請求項66記載の使用。
【請求項68】
抗体が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域を対象とする、請求項57記載の方法。
【請求項69】
アンタゴニストが、野生型スフィンゴシンキナーゼに対する転位因子の結合を競合的に阻害する非機能的スフィンゴシンキナーゼ変種である、請求項67記載の使用。
【請求項70】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基191〜206位に対応する領域を含むペプチドである、請求項69記載の使用。
【請求項71】
非機能的変種が、SEQ ID NO:2の残基197および198位に対応する領域を含む、請求項70記載の使用。
【請求項72】
アンタゴニストが、細胞内の遊離のカルシウムレベルを減少させるように作用する、請求項71記載の使用。
【請求項73】
アンタゴニストがカルシウムキレート剤である、請求項72記載の使用。
【請求項74】
カルシウムキレート剤が、BAPTAまたはMAPTAMである、請求項73記載の使用。
【請求項75】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストをコードする核酸分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜47または49〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項76】
細胞内スフィンゴシンキナーゼ局在の調整が細胞膜局在のダウンレギュレーションであって、該ダウンレギュレーションが、スフィンゴシンキナーゼと転位因子との相互作用のアンタゴニストの転写および/または翻訳をアップレギュレートする分子を細胞に導入することによって得られる、請求項42〜47または49〜57のいずれか一項記載の使用。
【請求項77】
一つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に本明細書において先に定義した調整物質を含む薬学的組成物。
【請求項78】
スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体を含む細胞またはその抽出物を推定の物質に接触させる段階、および細胞膜局在に関連した発現表現型の変化を検出する段階を含む、スフィンゴシンキナーゼまたはその機能的同等物もしくは誘導体の細胞内局在を調整することができる物質を検出する方法。
【請求項79】
野生型スフィンゴシンキナーゼまたはスフィンゴシンキナーゼ変種の機能的誘導体、相同体、もしくは類似体と比較して転位能の消失または低減を示し、転位メディエーター結合部位を含むスフィンゴシンキナーゼの領域における変異を含む、単離されたスフィンゴシンキナーゼ変種。
【請求項80】
アミノ酸191〜206位の単一または複数のアミノ酸置換および/または欠失を有するアミノ酸配列を含む、請求項79記載の変種。
【請求項81】
アミノ酸がアミノ酸Phe197および/またはLeu198である、請求項80記載の変種。
【請求項82】
置換がPhe197Alaおよび/またはLeu198Gln置換である、請求項81記載の変種。
【請求項83】
請求項79〜82のいずれか一項記載の変種をコードする単離された核酸分子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2008−502604(P2008−502604A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515736(P2007−515736)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000856
【国際公開番号】WO2005/123115
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(504363588)メドベット サイエンス ピーティーワイ. リミティッド (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000856
【国際公開番号】WO2005/123115
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(504363588)メドベット サイエンス ピーティーワイ. リミティッド (3)
【Fターム(参考)】
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