説明

スポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法およびその装置

【課題】 スポット溶接する複数の金属板の隙間を計測する。
【解決手段】 本発明は、アームの先端に支持された第1の電極と、該第1の電極と協働して重なり合う複数の金属板を加圧状態で挟持して溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置を用いる。挟持方向の加圧力と該加圧力によってたわむアームの挟持方向のたわみ量との関係を求める。アームに挟持方向の荷重を検出する荷重検出器を取り付けた状態で、該アームの先端と第2の電極との間に、隙間の計測箇所を配置し、第2の電極により金属板を加圧する。第2の電極による第1の加圧力と荷重検出器により検出される第2の加圧力とを比較する。第2の加圧力が第1の加圧力より小さいとき、第2の加圧力と加圧力とたわみ量との関係とに基づいてアームの挟持方向のたわみ量を算出する。算出したたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、加圧中の第2の電極の挟持方向位置とに基づいて計測箇所の隙間を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重なり合う複数の金属板の隙間を計測する方法およびその装置に関し、重なり合う複数の金属板を2つの電極により挟持しつつ該2つの電極間に電流を流すことによりその挟持箇所を溶接するスポット溶接の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
重なり合う複数の金属板を2つの電極により挟持しつつ該2つの電極間に電流を流すことによりその挟持箇所を溶接するスポット溶接において、良好に溶接するためには、金属板の材質、板厚、または金属板間の隙間(設計図上にはなくても、実際には発生する非意図的な隙間)などに対応させて、電極が金属板を加圧する力(加圧力)や2つの電極間に流す電流(溶接電流)、溶接時間(通電時間)などの溶接条件を適切に設定して制御する必要がある。
【0003】
加圧力を制御するスポット溶接の方法として、例えば特許文献1に記載のものがある。これは、サーボモータによって電極を送ることにより該電極が金属板を加圧する溶接装置に適用される方法で、溶接中におけるサーボモータの電流の変化に基づいて予め設定されている加圧力を補正するものである。
【0004】
【特許文献1】特許第3180530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、溶接条件を決めるための要素のうち、金属板の材質、板厚などは既知であり或いは簡単に求めることができるが、金属板間の隙間は簡単に求めることができないことがある。重なり合う複数の金属板が中央部が凹状に窪んだ板形状である場合(例えば、車両のフレームなど)、板の縁部における隙間は目視できるためノギスや隙間ゲージで測定することができるが、中央部における隙間は目視できないためノギスや隙間ゲージなどで測定することができない。
【0006】
このような場合、従来では、まず、粘土を間に挟んで2つの金属板を重ね、溶接する前に一度両金属板を離し、重なり合う金属板間の空間形状に変形した粘土から金属板間の隙間を測定していた。したがって、溶接される金属板の形状が複雑になればなるほど、または隙間が目視できない溶接箇所が増えれば増えるほど、金属板の隙間を測定するのに時間を要していた。
【0007】
そこで、本発明は、スポット溶接される重なり合う複数の金属板間の隙間を、スポット溶接装置を用いて簡単に計測することができる金属板隙間計測方法およびその装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、アームの先端に支持された第1の電極と、送り手段によって送られることにより該第1の電極と協働して重なり合う複数の金属板を加圧状態で挟持しつつその挟持箇所を溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置を用いて複数の金属板間の隙間を計測するスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法であって、(1)金属板の非挟持状態で、前記送り手段によって加えられる挟持方向の加圧力と該加圧力によってたわむ前記アームの挟持方向のたわみ量との関係を求める工程と、(2)前記アームに挟持方向の荷重を検出する荷重検出器を取り付けた状態で、該アームの先端と第2の電極との間に、隙間が計測される複数の金属板の計測箇所を配置し、前記送り手段によって前記第2の電極を送ることにより前記金属板を加圧する工程と、(3)前記送り手段による第1の加圧力と前記荷重検出器により検出される第2の加圧力とを比較する工程と、(4)前記第2の加圧力が第1の加圧力より小さいときに、第2の加圧力と前記工程(1)において求めた加圧力とたわみ量との関係とに基づいて前記アームの挟持方向のたわみ量を算出する工程と、(5)前記工程(4)において算出したたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、前記工程(2)において加圧中の前記第2の電極の挟持方向位置とに基づいて、前記計測箇所の隙間を算出する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法において、前記スポット溶接装置を溶接ロボットのアームに保持させると共に、前記溶接ロボットによる複数の溶接箇所のティーチング時に、各溶接箇所について複数の金属板間の隙間を計測し、計測された隙間を各溶接箇所に関連付けて記憶手段に記憶することを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項3に記載の発明は、アームの先端に支持された第1の電極と送り手段によって送られることにより該第1の電極と協働して重なり合う複数の金属板を加圧状態で挟持しつつその挟持箇所を溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置を用いて複数の金属板間の隙間を計測する金属板隙間計測装置であって、前記送り手段による加圧力を設定する加圧力設定手段と、前記送り手段による第2の電極の送り位置を検出する位置検出手段と、前記アームに取り付けられて金属板の挟持方向の荷重を検出する荷重検出手段と、金属板の非挟持状態で、前記送り手段によって加えられる挟持方向の加圧力と、前記位置検出手段によって検出される前記アームの挟持方向のたわみ量との関係を設定するたわみ特性設定手段と、前記第1および第2の電極をその間に隙間が計測される複数の金属板の計測箇所が位置するように配置する電極配置手段と、前記電極配置手段により前記第1および第2の電極の間に前記計測箇所が配置された状態で、前記送り手段によって前記第2の電極を送ることにより前記加圧力設定手段で設定された加圧力で金属板を加圧しつつ、前記荷重検出手段で検出された荷重と前記たわみ特性設定手段で設定された関係とに基づいて前記アームの挟持方向のたわみ量を算出し、算出したたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、前記位置検出手段によって検出された加圧中の第2の電極の送り位置とに基づいて前記計測箇所の隙間を算出する隙間算出手段とを有することを特徴とする。
【0011】
さらにまた、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の金属板隙間計測装置において、前記計測箇所は溶接箇所であって、各溶接箇所と対応する前記隙間算出手段が算出した隙間とを関連付けて記憶する記憶手段を有することを特徴とする。
【0012】
加えて、請求項5に記載の発明は、請求項3または4に記載の金属板隙間計測装置において、前記電極配置手段が、溶接ロボットのアームであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、スポット溶接される重なり合う複数の金属板の隙間は、アームの先端に支持された第1の電極と送り手段によって送られることにより該第1の電極と協働して複数の金属板を加圧状態で挟持しつつその挟持箇所を溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置を利用して計測される。
【0014】
具体的に説明すると、前提として、まず、金属板の挟持方向の加圧力と、その加圧力によってたわむアームの挟持方向のたわみ量との関係が求められる。本明細書で言う挟持方向は、移動する電極の移動軸方向である。
【0015】
次に、アームに挟持方向の荷重を検出する荷重検出器を取り付けるとともに、隙間が計測される複数の金属板の測定箇所を第1および第2の電極間に配置し、送り手段により第2の電極を送って複数の金属板を加圧する。
【0016】
続いて、送り手段による加圧力(第1の加圧力)と加重検出器により検出される加圧力(第2の加圧力)とを比較する。
【0017】
比較した結果、前記第2の加圧力が第1の加圧力より小さい場合、すなわち複数の金属板の間に隙間が存在する場合(なお、隙間がない場合は、第2の加圧力は第1の加圧力とほぼ同一の大きさである。)、その隙間を算出するために必要な、アームの挟持方向のたわみ量を、第2の加圧力と先に求めた加圧力とたわみ量との関係とに基づいて算出する。
【0018】
この算出したアームのたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、加圧中の第2の電極の挟持方向位置とに基づいて、複数の金属板の隙間を算出する。
【0019】
これにより、スポット溶接される、目視できない重なり合う複数の金属板間の隙間を簡単に計測することができ、その計測結果に基づいて(隙間に対応して)適切な溶接条件を設定することが可能になる。
【0020】
また、請求項2によれば、スポット溶接装置は溶接ロボットのアームに保持されており、溶接ロボットの複数の溶接箇所のティーチング時に、各溶接箇所における複数の金属板間の隙間が計測される。これにより、ティーチング時以外において溶接箇所の隙間を計測する必要がなくなり、溶接箇所の隙間が確実に計測されることになる。
【0021】
また、溶接箇所と対応する隙間とが関連付けされて記憶手段に記憶される。溶接時に記憶手段を参照することにより、各溶接箇所を隙間に対応する溶接条件で溶接することができる。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、スポット溶接される重なり合う複数の金属板の隙間は、アームの先端に支持された第1の電極と送り手段によって送られることにより該第1の電極と協働して複数の金属板を加圧状態で挟持しつつその挟持箇所を溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置と、送り手段による加圧力を設定する加圧力設定手段と、送り手段による第2の電極の送り位置を検出する位置検出手段と、アームに取り付けられて金属板の挟持方向の荷重を検出する荷重検出手段と、金属板の非挟持状態で、送り手段によって加えられる挟持方向の加圧力と、位置検出手段によって検出される前記アームの挟持方向のたわみ量との関係を設定するたわみ特性設定手段と、第1および第2の電極をその間に隙間が計測される複数の金属板の計測箇所が位置するように配置する電極配置手段と、電極配置手段により第1および第2の電極の間に計測箇所が配置された状態で、送り手段によって第2の電極を送ることにより加圧力設定手段で設定された加圧力で金属板を加圧しつつ、荷重検出手段で検出された荷重とたわみ特性設定手段で設定された関係とに基づいてアームの挟持方向のたわみ量を算出し、算出したたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、位置検出手段によって検出された加圧中の第2の電極の送り位置とに基づいて計測箇所の隙間を算出する隙間算出手段とにより計測される。
【0023】
これにより、スポット溶接装置がスポット溶接する、目視できない重なり合う複数の金属板間の隙間を簡単に計測することができ、その計測結果に基づいて(隙間に対応して)適切な溶接条件を設定することが可能になる。
【0024】
さらにまた、請求項4に記載の発明によれば、溶接箇所と対応する計測した隙間とを関連付けて記憶する記憶手段を有する。溶接時に記憶手段を参照することにより、各溶接箇所を隙間に対応する溶接条件で溶接することができる。
【0025】
加えて、請求項5に記載の発明によれば、電極配置手段は、溶接ロボットのアームである。これにより、例えば溶接ロボットの複数の溶接箇所のティーチング時に、各溶接箇所における複数の金属板間の隙間を計測することができる。そして、各溶接箇所の溶接条件を対応する隙間に基づいて適切に設定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係るスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法を実施するための装置、すなわち金属板隙間計測装置を概略的に示している。
【0027】
図に符号10に示す金属板隙間計測装置は、スポット溶接装置(溶接ガン)12を保持するアーム型の溶接ロボット14とそれに関連する制御装置16、18とを有する。別の観点から言えば、溶接ロボット14が複数の金属板の隙間を計測する機能を有する。
【0028】
溶接ガン12は、いわゆるC型ガンと言われるものであって、図2に示すように、重なり合う複数の金属板Wa、Wbとを挟持しつつその挟持箇所をスポット溶接するための2つの電極20a、20bを備え、電極20aをC字形状のアーム22の先端に支持されている電極20bに向かって送るように構成されている。
【0029】
溶接ガン12は、電極20aを、電極20aの送り機構を示す図2に示すように、サーボモータ24によって電極20bに向かって送るように構成されている。具体的には、サーボモータ24からの回転力がベルト26を介してボールねじ28に伝達され、ボールねじ28が回転することにより先端に電極20aを支持するロッド30が送られ、それにより電極20aが電極20bに向かって移動される。
【0030】
また、溶接ガン12にはサーボモータ24の回転量を検出するエンコーダ32が設けられており、サーボモータ24は検出した回転量に対応する信号を制御装置16に出力するように構成されている。
【0031】
図1に戻り、制御装置16は、溶接ロボット14やサーボモータ24を制御するとともに、電極20a、20b間を流れる溶接電流の電流値や通電時間などの溶接条件を設定する溶接電流制御装置18を制御するように構成されている。制御装置16の詳細については後述する。
【0032】
溶接電流制御装置18は、電極20aと20b間に通電する電流(溶接電流)を制御するためのものであり、外部の電流源(図示せず)から電流の供給を受け、その電流をトランス(増幅装置)34に出力するように構成されている。トランス34は、溶接制御装置18からの出力電流を増幅して2つの電極20aと20b間に電流を流すように構成されている。図1において、溶接電流の流れは二点鎖線で示している。
【0033】
また、溶接電流制御装置18は、制御装置16の制御によりトランス34に出力する電流の電流値を変更したり、またはトランス34への供給電流をON/OFFするように構成されている。
【0034】
ここまでは溶接に必要な構成要素を説明したが、金属板隙間計測装置10は、金属板の隙間の計測のみに必要な、ロードセル36を有する。
【0035】
ロードセル36は、アーム22に作用する挟持方向の荷重を検出するためのもので、金属板の隙間の計測時、図1や図2に示すように電極20bの先端に取り付けられる(または、電極20bと交換されてアーム22に取り付けられる。)。また、ロードセル36は、検出した挟持方向の力に対応する信号を制御装置16に出力するように構成されている。
【0036】
次に、金属隙間計測装置10の制御系について説明する。
【0037】
図3は、制御装置16を中心とする金属隙間計測装置10の制御系を示している。
【0038】
制御装置16は、エンコーダ32やロードセル36からの信号、およびマニュアルコントローラ38からの操作信号に基づいて、溶接ロボット14、溶接電流制御装置18、およびサーボモータ24を制御するように構成されている。マニュアルコントローラ38は、作業者がマニュアルでロボット14を操作するためのコントローラであり、例えばティーチング時に使用される。
【0039】
具体的には、制御装置16は、溶接ロボット14の動作を制御するロボット制御部50と、電極20aが金属板を加圧するときの加圧力を制御する加圧力制御部(請求の範囲に記載の加圧力設定手段に対応。)52と、電極20a位置検出部(位置検出手段に対応。)54と、アーム22に作用する挟持方向の荷重を検出するためのアーム荷重検出部(荷重検出手段に対応。)56と、アーム22のたわみ特性を設定するアームたわみ特性設定部(たわみ特性設定手段に対応。)58と、2つの電極20a、20bに挟持される複数の金属板の隙間を算出するための隙間算出部60と、記憶部62と、自動溶接を実行するための自動溶接実行部64とを有する。
【0040】
ロボット制御部50は、溶接ロボット14の動作を制御するためのもので、記憶部62に記憶されている自動溶接プログラム70に従い、またはマニュアルコントローラ38からの操作信号に基づいて溶接ロボット14の動作を制御するように構成されている。
【0041】
加圧力制御部52は、電極20aが金属板を加圧する加圧力を設定するためのもので、具体的には、図2に示すサーボモータ24の制御電流値を制御するように構成されている。例えば、所定の加圧力で電極20aが金属板を加圧するように、サーボモータ24の制御電流を対応する電流値に制御する。
【0042】
電極20a位置検出部54は、電極20aの挟持方向の位置を検出するためのもので、具体的には、エンコーダ32からの信号に基づいて該位置を検出する。具体的に言えば、エンコーダ32はサーボモータ24の回転量を検出している、間接的にはボールねじ28による電極20aの挟持方向の送り量を検出しているため、そのエンコーダ32からの信号に基づいて電極20aの位置を、検出部54は検出している。
【0043】
アーム荷重検出部56は、アーム22に作用する挟持方向の荷重、例えば図2に示すように2つの電極20a、20bが複数の金属板Wa、Wbを挟持しているときにアーム22に作用する挟持方向の荷重を検出するように構成されている。具体的には、電極20bの先端に取り付けられたロードセル36からの信号に基づいてアーム22に作用する挟持方向の荷重を検出する。
【0044】
アームたわみ特性設定部58は、アーム22に作用する荷重と、その荷重によってたわむアーム22の挟持方向のたわみ量との関係を示すアームたわみ特性を求め、求めた特性をデータ72として記憶部62に記憶するように構成されている。たわみ特性の求め方は後述する。
【0045】
隙間算出部62は、図2に示すように複数の金属板Wa、Wbの隙間を算出するためのものである。隙間の算出方法については後述する。
【0046】
自動溶接実行部64は、複数の金属板Wa、Wbの隙間を計測することには関わらず、記憶部62に記憶されている自動溶接プログラムデータ72に基づいて、溶接ロボット14(すなわちロボット制御部52)、サーボモータ16(すなわち加圧力制御部54)、および溶接電流制御装置18を制御して、複数個所の溶接を順次に自動的に実行するためのものである。
【0047】
ここからは、金属板隙間計測方法の手順を説明しつつ、関わる構成要素の詳細を説明していく。
【0048】
図4は、金属板隙間計測装置10が実施する金属板隙間計測方法の手順の前半部分の流れを示すフローである。
【0049】
図4に示すフローは、金属板の隙間を計測する前のキャリブレーションの流れを示している。
【0050】
まず、S100において、図1や図2に示すように、ロードセル36が電極20bの先端に取り付けられる。
【0051】
次に、S110において、図5に示すように、加圧力制御部52によってサーボモータ24を制御し、電極20aの先端をロードセル36に接触させる(ロードセル36が荷重を検出しないように接触させる。)。接触させたときのエンコーダ32の出力値をゼロに設定する。すなわち、このときの電極20aの先端位置を原点とする挟持方向に延びつつ電極20aから20b方向を正方向とする一軸のみの座標系を設定する。
【0052】
続いて、S120において、電極20aによって設定加圧力P0でロードセル36を加圧する。具体的には、電極20aがロードセル36を設定加圧力P0で加圧するような対応する制御電流値に、サーボモータ24の制御電流値を加圧力制御部52に設定させる。
【0053】
S130において、設定加圧力P0とロードセル36の検出値、すなわちロードセル36が受けている加圧力とが一致するか否かが判定される。一致した場合、ロードセル36は受けている加圧力と一致する検出値を出力しているとして、S130に進む。そうでない場合、S150に進み、ロードセル36の検出値が受けている加圧力と一致するように校正する。そして、S120に戻る
【0054】
S140において、アームたわみ特性設定部58により、アーム22のたわみ特性を求める。
【0055】
具体的には、加圧力制御部52により電極20aがロードセル36を加圧する加圧力を順次変更していき、各加圧力毎に、電極20a位置検出部54にエンコーダ32を介して電極20aの先端位置を検出させる。検出された先端位置からS110で設定された原点までの距離がアーム22の挟持方向のたわみ量に相当するので、この距離と加圧力との関係、すなわちアーム22のたわみ特性を求める。求められるたわみ特性(関係)は、図6に示すように、ロードセル36の検出値(アーム22が受けている荷重)と、アーム22の挟持方向のたわみ量とが比例関係にある。以下、ロードセル36の検出値(荷重)をQとし、そのときのアーム22の挟持方向のたわみ量をf(Q)(f(Q)はQの関数)とする。
【0056】
図6に示すような、求めたたわみ特性を、アームたわみ特性設定部58は、記憶部62にデータ72として記憶する。そして、複数の金属板の隙間を計測するためのキャリブレーションが終了する。
【0057】
次に、複数の金属板の隙間を計測する手順を、図7に示すフローを参照しながら説明する。
【0058】
まず、S300において、溶接ロボット14を制御し、治具(図示せず)などにより固定されている重なり合う複数の金属板の隙間の計測箇所が2つの電極20a、20bの間に配置されるように溶接ガン12を移動させる。
【0059】
次に、S310において、図8に示すように、電極20aにより複数の金属板Wa、Wbを所定加圧力P1で加圧する。なお、図8(a)は2枚の金属板Wa、Wbの間に隙間がない場合を示し、図8(b)は隙間がある場合を示しており、所定加圧力P1で加圧し始める瞬間の様子を示している(ロードセル36の先端が、図4に示すフローのS110において設定された原点に位置する。)。
【0060】
また、ここで説明する金属板Wa、Wbの厚さ合計はTであり、隙間の距離はtである。さらに、隙間がない場合の電極20aの先端位置をBn、隙間がある場合の先端位置をBdで示している。
【0061】
続いて、S320において、所定加圧力P1とロードセル36の検出値Qとが一致するか否かが判定される。一致した場合S330に進む。そうでない場合S340に進む。
【0062】
S330において、S320で所定加圧力P1とロードセル36の検出値Qとが一致する、例えばロードセル36がP1と同一値のQ1(P1=Q2)を検出したことが確認されたので、隙間算出部60は、複数の金属板の間に隙間が存在しないと判定する。そして、隙間の計測を終了する。
【0063】
このことを図9(a)を用いて具体的に説明すると、2つの金属板WaとWbとの間に隙間が存在しない場合、電極20aからの加圧力P1が、ロスすることなくロードセル36にほぼ作用する。その結果、ロードセル36がP1と同一の荷重Q1を検出することになる。したがって、ロードセル36が所定加圧力P1と同一の荷重Q1を検出すれば、それは2つの金属板Wa、Wbとの間に隙間が存在しないことを意味する。
【0064】
一方、S320で所定加圧力P1とロードセル36の検出値Qとが一致しないと判定された場合、S340において、所定加圧力P1に比べてロードセル36の検出値Qが小さいか否かが判定される。小さいと判定された場合はS350に進み、そうでない場合S370に進む。
【0065】
S350において、隙間算出部60は、S340で所定加圧力P1に比べてロードセル36の検出値Qが小さいことが確認されたので、複数の金属板の間に隙間が存在すると判定する。
【0066】
このことを図9(b)を用いて具体的に説明すると、2つの金属板Wa、Wbの間に隙間(距離がt)が存在する場合、電極20aからの加圧力P1が、ロードセル36に作用するだけでなく、他の部分にも作用する。例えば2つの金属板Wa、Wbの電極20a、20bから隙間に比べて大きい距離離れた接触し合う部分にも作用する。その結果、ロードセル36は所定加圧力P1より小さい荷重Q2を検出することになる。したがって、ロードセル36が所定加圧力P1より小さい荷重Q2を検出すれば、それは2つの金属板Wa、Wbとの間に隙間が存在することを意味する。
【0067】
隙間算出部60は、隙間の存在を確認すると、ロードセル36の検出値と記憶部62に記憶されているアームたわみ特性データ72とに基づいて、アーム22の挟持方向のたわみ量を算出する。図9(b)においては、ロードセル36の検出値がQ2であるので、挟持方向のたわみ量f(Q2)が算出される。
【0068】
S350でアーム22のたわみ量が算出されると、続くS360において、隙間算出部60は、複数の金属板間の隙間(距離)を算出する。
【0069】
具体的に例を挙げて説明すると、図9(b)に示すような、電極20aの先端位置Bdと、算出したアーム22の挟持方向のたわみ量f(Q2)と、2つの金属板Wa、Wbの厚さ合計Tと、隙間の距離tとの挟持方向に延びる一軸上の関係、すなわち数1に示す関係式から隙間の距離tを算出する。
【数1】

【0070】
数1に示す関係式において、電極20aの先端位置Bdは、電極20a位置検出部54、すなわちエンコーダ32の検出値から求めることができる。厚さ合計Tは既知である。したがって、未知である隙間の距離tを算出することができる。
【0071】
隙間を算出すると、隙間算出部60は、隙間計測箇所と算出した隙間を関連付けて記憶部62に記憶する。
【0072】
例えば、隙間計測場所が溶接箇所である場合、自動溶接プログラムデータ70上において、各溶接箇所と対応する隙間とを関連付けて記憶させる。これにより、自動溶接実行部64は、各溶接箇所における溶接条件(加圧力、溶接電流、通電時間など)を隙間に対応して設定し、各溶接箇所を順次に自動的に溶接することができる。
【0073】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0074】
例えば、上述の実施形態の場合、溶接時には、ロードセルを取り外すまたは電極と交換する必要がある。これに代わり、アームの挟持方向のたわみ量を間接的に検出することができるアーム部分に、溶接電流に耐え得るたわみ検出手段を設けてもよい。これにより、複数の金属板の隙間計測から溶接までを連続的に実行することが可能になる。
【0075】
また、上述の実施形態の場合、スポット溶接装置は、溶接ロボットの溶接ガンであったがこれに限定されない。本発明に係るスポット溶接装置は、広義には、2つの電極により複数の金属板を挟持しつつ該2つの電極間に電流が通電されることにより挟持箇所を溶接し、一方の電極がたわむアームに支持され、他方の電極が一方に移動していくものである。
【0076】
さらに、上述の実施形態の場合、算出した複数の金属板の隙間を自動溶接プログラムデータ上において溶接箇所と関連付けして記憶するが、溶接箇所以外に隙間を計測する必要がある場合は、別途計測箇所と該箇所で算出された隙間とを関連付けしてデータとして記憶部に記憶するようにしてもよい。
【0077】
さらにまた、上述の実施形態のような溶接ロボットの場合、複数の溶接箇所をティチングする時に、各溶接箇所における金属板の隙間の距離を算出するようにしてもよい。
【0078】
原則的には、スポット溶接する複数の金属板の隙間を計測する箇所は溶接箇所である(溶接条件を適切に設定するために隙間を計測することが多い。)。したがって、ティーチング時において溶接箇所を定義するとともに該溶接箇所における隙間を計測するようにしてもよい。
【0079】
上述の実施形態の装置10を例に挙げて説明すると、ティーチング作業において、電極20bの先端にロードセル36を取り付けた状態で、作業者がマニュアルコントローラ38を操作することにより、溶接箇所に溶接ガン12が配置される(溶接箇所が2つの電極20a、20bの間に配置される。)。次に、作業者がマニュアルコントローラ38のティーチングボタン(自動溶接プログラムデータ70を作成するために必要な溶接箇所の座標やそのときのロボットや溶接ガンの姿勢パラメータを取得するためのボタン)が押されると同時に、電極20aが溶接箇所の金属箇所を加圧し始めて、上述するように該溶接箇所における金属板の隙間を計測する。計測が終了すると、溶接箇所の座標や姿勢パラメータと関連付けされて計測された隙間が記憶部62にデータ70として記憶される。そして、この溶接箇所のティーチングが終了したことを作業者に告知(例えばアラーム音による告知)し、作業者に次の溶接箇所のティーチングを実行させる。
【0080】
これにより、ティーチング時以外に、別途溶接箇所における複数の金属板の隙間を計測する必要がなくなる。また、確実に溶接箇所の隙間が計測される(計測忘れがなくなる。)。
【0081】
最後に、図面で示されている隙間は、2枚の金属板の間の1つの隙間であるが、本発明の方法及び装置が測定できる隙間は2枚の金属板の間の1つの隙間に限らない。複数枚の金属板の複数の隙間の合計も算出することができる(ただし、複数の隙間それぞれの距離は算出できない。)。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように本発明によれば、スポット溶接する重なり合う複数の金属板の隙間を、スポット溶接装置を用いて簡単に計測することができる。したがって、スポット溶接を実行する種々の溶接加工技術の分野において好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属板隙間計測方法を実施する装置の概略図である。
【図2】スポット溶接装置における電極の送り機構を説明するための図である。
【図3】金属板隙間計測装置の制御系を示す図である。
【図4】複数の金属板の隙間を計測する前に実行されるキャリブレーションのフロー図である。
【図5】原点設定を説明するための図である。
【図6】アームのたわみ特性を示す図である。
【図7】複数の金属板の隙間を計測する流れを示すフロー図である。
【図8】複数の金属板を挟持して加圧し始める瞬間を示す図である。
【図9】複数の金属板を挟持して加圧している様子を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
12 溶接ガン
14 溶接ロボット
20a 電極
20b 電極
24 サーボモータ
32 エンコーダ
36 ロードセル
52 加圧力制御部
54 電極20a位置検出部
56 アーム荷重検出部
58 アームたわみ特性設定部
60 隙間算出部
62 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アームの先端に支持された第1の電極と、送り手段によって送られることにより該第1の電極と協働して重なり合う複数の金属板を加圧状態で挟持しつつその挟持箇所を溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置を用いて複数の金属板間の隙間を計測するスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法であって、
(1)金属板の非挟持状態で、前記送り手段によって加えられる挟持方向の加圧力と該加圧力によってたわむ前記アームの挟持方向のたわみ量との関係を求める工程と、
(2)前記アームに挟持方向の荷重を検出する荷重検出器を取り付けた状態で、該アームの先端と第2の電極との間に、隙間が計測される複数の金属板の計測箇所を配置し、前記送り手段によって前記第2の電極を送ることにより前記金属板を加圧する工程と、
(3)前記送り手段による第1の加圧力と前記荷重検出器により検出される第2の加圧力とを比較する工程と、
(4)前記第2の加圧力が第1の加圧力より小さいときに、第2の加圧力と前記工程(1)において求めた加圧力とたわみ量との関係とに基づいて前記アームの挟持方向のたわみ量を算出する工程と、
(5)前記工程(4)において算出したたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、前記工程(2)において加圧中の前記第2の電極の挟持方向位置とに基づいて、前記計測箇所の隙間を算出する工程とを含むことを特徴とするスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法において、
前記スポット溶接装置を溶接ロボットのアームに保持させると共に、
前記溶接ロボットによる複数の溶接箇所のティーチング時に、各溶接箇所について複数の金属板間の隙間を計測し、計測された隙間を各溶接箇所に関連付けて記憶手段に記憶することを特徴とするスポット溶接装置を用いた金属板隙間計測方法。
【請求項3】
アームの先端に支持された第1の電極と送り手段によって送られることにより該第1の電極と協働して重なり合う複数の金属板を加圧状態で挟持しつつその挟持箇所を溶接する第2の電極とを有するスポット溶接装置を用いて複数の金属板間の隙間を計測する金属板隙間計測装置であって、
前記送り手段による加圧力を設定する加圧力設定手段と、
前記送り手段による第2の電極の送り位置を検出する位置検出手段と、
前記アームに取り付けられて金属板の挟持方向の荷重を検出する荷重検出手段と、
金属板の非挟持状態で、前記送り手段によって加えられる挟持方向の加圧力と、前記位置検出手段によって検出される前記アームの挟持方向のたわみ量との関係を設定するたわみ特性設定手段と、
前記第1および第2の電極をその間に隙間が計測される複数の金属板の計測箇所が位置するように配置する電極配置手段と、
前記電極配置手段により前記第1および第2の電極の間に前記計測箇所が配置された状態で、前記送り手段によって前記第2の電極を送ることにより前記加圧力設定手段で設定された加圧力で金属板を加圧しつつ、前記荷重検出手段で検出された荷重と前記たわみ特性設定手段で設定された関係とに基づいて前記アームの挟持方向のたわみ量を算出し、
算出したたわみ量と、複数の金属板の厚さ合計と、前記位置検出手段によって検出された加圧中の第2の電極の送り位置とに基づいて前記計測箇所の隙間を算出する隙間算出手段とを有することを特徴とする金属板隙間計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の金属板隙間計測装置において、
前記計測箇所は溶接箇所であって、
各溶接箇所と対応する前記隙間算出手段が算出した隙間とを関連付けて記憶する記憶手段を有することを特徴とする金属板隙間計測装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の金属板隙間計測装置において、
前記電極配置手段が、溶接ロボットのアームであることを特徴とする金属板隙間計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−85856(P2009−85856A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258226(P2007−258226)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】