説明

スライス台および半導体ウェーハの製造方法

【課題】切断性を損なうことなく、より安価に、固定砥粒方式で生じるスラッジへの不純物混入量の極めて少ないスライス台、および、このスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のスライス台は、半導体ブロック2を切断する際に前記半導体ブロック2を固定するスライス台1であって、少なくとも前記半導体ブロック2を固定する側に、前記半導体ブロック2と同種の半導体材料からなる半導体インゴットの廃棄部分を切り出した部材を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ブロックをウェーハ状に切断する際に該半導体ブロックを固定するスライス台およびこのスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハの製造過程には、半導体ブロックをスライス加工することによりウェーハとする工程がある。この工程では、一般的に、ワイヤーを用いたワイヤーソー装置が用いられている。
【0003】
ワイヤーソー装置によるスライス方法には、遊離砥粒方式と固定砥粒方式とがある。前者は、油性または水溶性のオイル等にGC(緑色炭化珪素)等の砥粒を混合したスラリーを切断部位に供給しながら、表面を真鍮めっきした鉄製ワイヤーでスライスする方法である。後者は、ダイヤモンド粒子等の砥粒を電着等によって表面に固着させたワイヤー(固定砥粒ワイヤー)を用いて、油性或いは水性のオイル(クーラント)、または水を供給しながらスライスする方法である。
【0004】
これらの方法による半導体ブロックの切断は、半導体ブロックをスライス台と呼ばれる土台に接着固定して行う。遊離砥粒方式では、ガラス製のスライス台を用いるのが一般的であった。一方、遊離砥粒方式より切断力の大きい固定砥粒方式でガラス製のスライス台を用いると、半導体ブロックとスライス台との切断性の違いにより、ウェーハ切り落とし部、すなわち半導体ブロックのスライス台との接着部分の加工特性が著しく悪く、さらにワイヤーの断線等も発生するおそれがある。そのため、固定砥粒方式では、特許文献1および特許文献2に記載されるようなガラスよりも軟らかいカーボン製や樹脂製のスライス台を用いるのが一般的である。また、スライス台に用いられるその他の材料として、特許文献1には、シリコン単結晶、シリコン多結晶などが、特許文献2には、被切断材料と同じ材質が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−297156号公報
【特許文献2】特開2004−335531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スライス加工後に回収されたスラリーやクーラントには、切断した半導体ブロックのスライス屑が含まれており、これをスラッジという。遊離砥粒方式で生じるスラッジには、遊離砥粒であるSiCが含まれるため、産業廃棄物処理が必要となる。また、切断に伴い鉄製ワイヤーの摩耗が生じるため、鉄やめっき成分などの金属不純物も多く含まれる。一方、固定砥粒方式で生じるスラッジには、砥粒の混入がほとんど無く、また、砥粒によるワイヤーの磨耗が少ないためにワイヤー材の金属不純物の混入も非常に少ない。このため、本発明者らは、固定砥粒方式で生じるスラッジに含まれる半導体スライス屑を、新たな半導体インゴットを製造するための原料としてリサイクル活用し、よりコスト安に半導体インゴットを製造することを試みた。
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、カーボン製のスライス台を用いた固定砥粒方式で生じたスラッジには、砥粒や金属不純物の混入は十分に少ないものの、カーボン粉が2〜5%程度含まれることが判明した。半導体ブロックを切断する際には、切断中にワイヤーが若干撓んでしまうことから、半導体ブロックの一部においてワイヤーがスライス台との接着面まで到達して見えても、他の部位では到達していない場合がある。そのため、ワイヤーをスライス台表面5〜8mmまで切り込むことにより、半導体ブロックの完全な切断を担保している。スラッジに含まれるカーボン不純物は、カーボン製のスライス台に由来するものと考えられる。このため、このスラッジはこれまで半導体インゴットの原料化が困難であった。
【0008】
固定砥粒方式でもスライス台をガラス製とすれば、カーボン不純物の混入の問題はなくなるが、ウェーハの切断性に問題があることは既述のとおりである。また、特許文献1および特許文献2は、スラッジを半導体インゴットの原料とすることを全く考慮しておらず、これらの文献に記載されているスライス台の材質は、一般的に高価であるので、そもそもスラッジを原料化する意味のないものである。
【0009】
そこで、本発明は、切断性を損なうことなく、より安価に、固定砥粒方式で生じるスラッジへの不純物混入量の極めて少ないスライス台、および、このスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、スラッジまたはスライス台を原料の一部として、より安価に半導体インゴットを製造することが可能な半導体インゴットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するべく、本発明者が鋭意検討した結果、半導体インゴットから半導体ブロックを切り出す際に生じる廃材をスライス台とするとの着想を得た。切断する半導体ブロックと同種の半導体材料をスライス台に用いて、固定砥粒方式の切断をすれば、スラッジへの不純物混入レベルが低減し、スラッジを新しく製造する半導体インゴットの原料として活用することができる。その際、スライス台に廃材を活用することによって、スラッジの再利用に伴いコスト高となることがなく、再利用の意義がある。本発明は、上記の知見および検討に基づくものであり、その要旨構成は以下の通りである。
【0011】
(1)半導体ブロックを切断する際に前記半導体ブロックを固定するスライス台であって、
少なくとも前記半導体ブロックを固定する側に、前記半導体ブロックと同種の半導体材料からなる半導体インゴットの廃棄部分を切り出した部材を有することを特徴とする、スライス台。
(2)前記部材が、前記半導体インゴットのトップ部またはテール部から切り出した部材である上記(1)に記載のスライス台。
(3)前記半導体インゴットが、電磁鋳造法により製造されたものである上記(2)に記載のスライス台。
(4)前記部材のみからなる上記(2)または(3)に記載のスライス台。
(5)前記部材が、電磁鋳造法により製造された前記半導体インゴットの側部表面を切り出した部材である上記(1)に記載のスライス台。
(6)前記部材の前記側部表面上に樹脂層を有する上記(5)に記載のスライス台。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1に記載のスライス台に半導体ブロックを固定して、固定砥粒ワイヤーソーを前記半導体ブロックから少なくとも前記スライス台の表面に切り込む位置に達するまで移動させて、前記半導体ブロックを切断し、半導体ウェーハとする工程を含むことを特徴とする半導体ウェーハの製造方法。
(8)上記(7)に記載の半導体ウェーハの製造方法において前記工程中に発生するスラッジを、半導体インゴット製造用の原料の少なくとも一部として半導体インゴットを製造することを特徴とする半導体インゴットの製造方法。
(9)上記(7)に記載の半導体ウェーハの製造方法において使用した前記スライス台を、半導体インゴット製造用の原料の少なくとも一部として半導体インゴットを製造することを特徴とする半導体インゴットの製造方法。
(10)上記(8)または(9)に記載の製造方法により得た半導体インゴットをスライスして太陽電池用ウェーハを製造することを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
(11)上記(10)に記載の製造方法により得た太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製することを特徴とする太陽電池セルの製造方法。
(12)上記(11)に記載の製造方法により得た太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、切断性を損なうことなく、より安価に、固定砥粒方式で生じるスラッジへの不純物混入量の極めて少ないスライス台、および、このスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法を提供することができる。また、スラッジまたはスライス台を原料の一部として、より安価に半導体インゴットを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は、本発明に従うスライス台1を用いて、固定砥粒マルチワイヤーソー装置で半導体インゴット2を切断する状態を示す模式図であり、(b)および(c)は、固定砥粒ワイヤー4がスライス台1に切り込む位置まで達している状態を示す模式図である。
【図2】(a)〜(e)は、本発明に従うスライス台を製造する際に用いる半導体インゴットを切り出して、半導体ブロックと廃棄部分とに分割する切断方法の一例を説明する模式図である。
【図3】電磁鋳造法に用いる電磁鋳造装置の一例の模式断面図である。
【図4】本発明に従う別のスライス台601の製造方法を説明するための模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。
【0015】
(スライス台およびこのスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法)
本発明の一実施形態であるスライス台1は、図1に示すように、半導体ブロック2を切断する際に、この半導体ブロック2を固定するものである。エポキシ系などの接着剤によって半導体ブロック2をスライス台1に接着固定し、そのスライス台1をワークプレート3にエポキシ系などの接着剤によって接着保持し、ワイヤーソー本体(図示せず)にワークプレート3をネジ止めして固定する。そして、ローラー5により作動する固定砥粒ワイヤーソー4で半導体ブロック2をその鋳造方向に対して垂直にスライスして半導体ウェーハとすることができる。ここで、半導体ブロック2の確実な切断を担保するために、固定砥粒ワイヤーソー4の撓みを考慮してスライス台1を5〜8mm切り込む位置に達するまで固定砥粒ワイヤーソー4を半導体ブロック2に対して相対移動させる(図1(b)、(c))。
【0016】
本発明のスライス台の特徴的構成は、少なくとも半導体ブロック2を固定する側に、半導体ブロック2すなわち切断対象と同種の半導体材料からなる半導体インゴットの廃棄部分を切り出した部材を有する点である。そして、本実施形態のスライス台1は、上記廃棄部分を切り出した部材のみからなる。
【0017】
本明細書において、半導体インゴットから切り出され、スライス加工により半導体ウェーハとする部分を「半導体ブロック」と称し、半導体インゴットから切り出され、その後にウェーハ加工されない部分を「廃棄部分」と称する。
【0018】
スライス台1とする廃棄部分としては、当該スライス台で切断する対象となる半導体ブロック2を切り出した半導体インゴットから得た廃棄部分を用いてもよい。また、切断する半導体ブロック2そのものではなくとも、切断対象の半導体ブロック2と同種の半導体インゴットから得た廃棄部分を用いても良い。
【0019】
以下、本発明の上記特徴を採用したことの技術的意義を、作用効果とともに具体例で説明する。従来、カーボン製のスライス台から発生するカーボン粉が混入するスラッジは、新たな半導体インゴットの原料に利用することができなかった。スライス加工対象の半導体ブロックと同種の半導体材料からなるスライス台であれば、スラッジにはカーボンのような不純物の混入が少ないため、半導体インゴットの原料としうる。しかし、このような半導体材料からスライス台を作製することは、一般的にはコスト高となり現実的ではなかった。そこで、本発明者は、スライス台の材料として半導体インゴットの廃棄部分を利用すれば、切断性を損なうことなく、より安価に、固定砥粒方式で生じるスラッジへの不純物混入量の極めて少ないスライス台、および、このスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。その結果、本発明のスライス台を用いて、固定砥粒方式で半導体インゴットを切断する際に生じるスラッジや、本発明のスライス台そのものを原料の一部として、より安価に半導体インゴットを製造することが可能となる。
【0020】
本発明の一実施形態であるスライス台1を用いる半導体ブロック2の切断は、固定砥粒ワイヤーソーにより行う。遊離砥粒方式で生じたスラッジには、SiCのような砥粒が含まれており、新たな半導体インゴットを製造するための原料とすることは困難だからである。
【0021】
本実施形態のスライス台1とするための廃棄部分を得る半導体インゴットは、チョクラルスキー法、キャスト法、電磁鋳造法など任意の鋳造方法により育成することができる。一般的に、四角い坩堝でシリコン原料を溶解し、そのままの状態で凝固させるキャスト法などの鋳造方法では、半導体インゴットのうち、坩堝の底部、上部および側面部の付近部分は、不純物や抵抗性の観点からウェーハとはしない。また、引き上げや引き下げ動作を伴うチョクラルスキー法および電磁鋳造法などの、鋳造方向を有する鋳造方法では、半導体インゴットのうち鋳造初期に得られるトップ部、鋳造終期に得られるテール部、表面が凹凸な鋳肌となるインゴット側部表面などが廃棄部分となる。
【0022】
そこで、半導体インゴットから半導体ブロックと廃棄部分とを切り分ける切断方法の一例を、図2により説明する。まず、角筒状に鋳造された半導体インゴット10は、インゴットの鋳造方向両端のトップ部30およびテール部50、並びに該トップ部30および該テール部50に挟まれた複数のボディ部40に分断される(図2(a))。トップ部30およびテール部50は、抵抗率、結晶品質などの点からウェーハ加工をされず、従来廃棄されている部材である。各ボディ部40は、まず、図2(b)および(c)のように、対向する2つの鋳肌を含む部材60を切除して、さらに2分割する。その後、図2(d)のように、分割された2つのブロックそれぞれから、対向する鋳肌を含む部材70を切除し、また、3つの半導体ブロック20に分割する。こうして、各ボディ部40から、側部表面を切り出した大きな部材60が2枚と、側部表面を切り出した小さな部材70が4枚と、半導体ブロック20が6本得られる(図2(e))。側部表面を切り出した部材60および70は、粒径が小さく結晶欠陥が多いチル層を有するため、従来廃棄部分である。
【0023】
スライス台1に使用する廃棄部分を切り出した部材が、半導体インゴット10のトップ部30またはテール部50から切り出した部材であることが好ましい。トップ部30またはテール部50は大きな半導体の塊であるため、スライス台を効率よく切り出すことが可能であり、安価にスライス台を作製することができる。また、スライス加工を通じて生じたスラッジは、スライス台の削り屑が混入しても、新たな半導体インゴットの原料に利用することができる。
【0024】
本実施形態のスライス台1とするための廃棄部分を得る半導体インゴット10の形状は角筒状であることが好ましい。角筒状のインゴットから得られるトップ部30、テール部50および側部表面を切り出した部材60および70は、円筒状インゴットから得られるものと比べて、半導体ブロックの形状に応じたスライス台を作製し易いからである。その点、電磁鋳造法であれば角筒状のインゴットを作成することができるので、電磁鋳造法により作製した半導体インゴットの廃棄部分を用いてスライス台1とすることが好ましい。
【0025】
ここで電磁鋳造法とは、大型の炉の内部において電磁誘導加熱で溶解した半導体材料を引き下げながら鋳造する方法で、溶融半導体材料が鋳型にほとんど接触することなく、半導体インゴットを鋳造することができる。図3は、電磁鋳造法に用いる電磁鋳造装置の一例を模式的に示す断面図である。図3に示すように、チャンバ101は、内部の発熱から保護されるように二重壁構造の冷却容器になっており、中央部に冷却モールド102、誘導コイル103、ヒータ104が配置されている。図示例で、冷却モールド102は、銅の水冷筒体であり、上部を除いて周方向に複数分割され、無底である。また、図示例で、誘導コイル103は、冷却モールド102の外周側に同芯に周設されて、同軸ケーブル(図示せず)で電源に接続される。図示例で、ヒータ104は、冷却モールド102の下方に同芯に設けられ、冷却モールド102から引き下げられるインゴット105を加熱して、インゴット105の引き下げ軸方向に所定の温度勾配を与える。図3に示す装置を用いて鋳造するには、まず、冷却モールド102に半導体材料106を装入し、次いで、誘導コイル103に交流電流を流す。冷却モールド102は、周方向に分割され、各素片は互いに電気的に分離されているため、各素片内で電流ループを形成し、該電流が冷却モールド102内に磁界を発生する。これにより、電磁誘導加熱によって半導体材料が溶解され、半導体材料の融液107が溶製される。ここで、冷却モールド102内の半導体材料は、冷却モールド102の内壁がつくる磁界と溶融半導体材料107表面の電流との電磁気的相互作用によって、冷却モールド102の径方向内側への力を受けるため、冷却モールド102とは接触しづらい状態で溶解されることとなり、冷却モールド102からの不純物汚染が防止され、またインゴット105の下方への引き下げが容易となる。
【0026】
本実施形態のように、スライス台1は、上記の廃棄部分のみから作製することが好ましい。スラッジへの不純物の混入をより確実に抑えることができ、また、何らの処理を要することなくスライス台1そのものも新たな半導体インゴットの原料としうるためである。
【0027】
また、本発明の他の実施形態のスライス台として、スライス台に使用する廃棄部分を切り出した部材を、電磁鋳造法により製造された半導体インゴットの側部表面を切り出した部材とすることもできる。スライス加工は半導体インゴットの鋳造方向(図2の矢印方向)に垂直に行うため、インゴットの鋳造方向に平行な面をスライス台に接着固定する。そのため、この面の大きさ以上の面を有するスライス台が必要である。ここで、インゴットの側部表面を切り出した部材70を図2に示した方法で取得することが好ましい。半導体ブロック20は、ボディ部40から鋳造方向に平行な面である側部表面を切り出した部材を切り出して得る(図2参照)。そのため、側部表面を切り出した部材70は、半導体20を切断するためのスライス台のサイズとして適切である。
【0028】
側部表面70aは鋳肌であるため凹凸が存在するのに対し、インゴット切断面70bは平坦である。スライス台としての機能、すなわち半導体ブロックを固定する機能を担保するため、インゴット切断面70bをスライス台の半導体ブロックを固定する面にすることが好ましい(図1参照)。
【0029】
電磁鋳造法により製造された半導体インゴットの側部表面を切り出した部材をスライス台とする場合、側部表面上に樹脂層を有しても良い。既述のとおり、また図4に示すように、電磁鋳造法により作製された半導体インゴットから切り落とされた側部表面を切り出した部材600は、向かい合う面同士が平行ではない。半導体ブロックをワイヤーソーにより切断する際、スライス台の、半導体ブロックを固定する面と、ワークプレートに固定する面とが、平行であることが必要である。ここで、側部表面を切り出した部材600の厚みは3〜20mm程度である一方、ワイヤーソーはスライス台に5〜8mm程度切り込むため、削り加工により面を平行にするのは好ましくない。そこで、図4のように、側部表面を切り出した部材600の、側部表面600aに対して樹脂800を載置して樹脂層801を設け、インゴット切断面600bと樹脂層の面同士が平行になるようにしてスライス台601を作製してもよい。この樹脂層に用いる原料は、エポキシ系接着材が好ましい。クーラント成分からのケミカルアタックに強いからである。ただし、ワイヤーソーのスライス台への切り込みは、樹脂層801に到達しないことが好ましい。そのため、部材600の厚みは8〜20mmであることがより好ましい。
【0030】
(半導体インゴットの製造方法)
以上のような、スライス台を使用した半導体ブロックの切断工程により、不純物の少ないスラッジを得ることができるため、そのスラッジを新たなインゴットの原料の少なくとも一部に用いて、新たな半導体インゴットを製造することができる。
【0031】
本発明に従うスライス台もまた半導体インゴットを作製する原料の一部として、新たな半導体インゴットを製造することができる。スライス台も新たな半導体インゴットと同種の半導体材料からなるためである。ここで、スライス台は、硫酸または硫酸/過酸化水素による洗浄、およびこれに続くフッ硝酸による洗浄により接着剤を除去した後に半導体インゴットの原料とすることが好ましい。また、スライス台が樹脂層を有する場合には、樹脂層の除去をさらに行うことが好ましい。
【0032】
(太陽電池用ウェーハ、太陽電池セルおよび太陽電池モジュールの製造方法)
このようにして得た新たな半導体インゴットをスライスして、太陽電池用ウェーハを製造すれば、安価な太陽電池用ウェーハを得ることができる。そのため、こうして作製した太陽電池用ウェーハから作製する太陽電池セルおよび太陽電池モジュールも安価となる。
【0033】
以上、本発明を説明したが、これらは代表的な実施形態の例を示したものであって、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0034】
本発明の効果をさらに明確にするため、以下に説明する実施例・比較例の実験を行った比較評価について説明する。
【0035】
<試料の作成>
(実施例1)
まず、縦505mm×横345mm×高さ(鋳造方向)7000mmの多結晶シリコンインゴットを電磁鋳造法により製造し、図2に示すように、スライス加工対象とする縦156mm×横156mm×高さ(鋳造方向)400mmのシリコンブロックを切り出した。その際に得られた縦505mm×横345mm×高さ(鋳造方向)230mmのトップ部材を、縦400mm×横156mm×高さ(鋳造方向)15mmとなるように切断してスライス台を作製した。そのスライス台には、400mm×156mmの寸法の1面に多結晶シリコンブロックをエポキシ接着剤により接着固定し、その裏面にはワークプレートをエポキシ接着剤により接着固定した。次に、砥粒の種類がダイヤモンドで、インゴット切断速度は0.6mm/minの固定砥粒ワイヤーソー(ワイヤー素材:鉄、めっき素材:ニッケル)により、グリコールを主成分とするクーラントを供給しながら、スライス台へ5〜8mm切り込みが入るように、シリコンブロック表面から161〜163mmの深さまで切り込むように多結晶シリコンブロックのスライス加工を行った。
【0036】
(実施例2)
実施例1と同じ多結晶シリコンインゴットから得た切断面156mm×400mmで厚みが10mm〜12mmの側部表面を切り出した部材において、鋳肌を有する面にエポキシ系接着剤からなる樹脂層を形成し、スライス台とした。樹脂層は、切削加工により平らにした。スライス台のうち前記部材側の切断面に切断対象の多結晶シリコンブロックを接着固定し、樹脂層の面をワークプレートに接着固定した以外は、実施例1と同じ条件でシリコンブロックのスライス加工を行った。
【0037】
(比較例)
カーボンスライス台(メカニカルカーボン工業社製)を使用する以外は、実施例1と同じ条件でシリコンブロックのスライス加工を行った。
【0038】
(スラッジの不純物評価)
実施例および比較例において生じたスラッジにおけるカーボン含有率の測定を行った。測定は、スライス台の切り込み深さおよび切り込み筋の幅から、スラッジに含まれるカーボンの体積量を算出して行った。その結果、比較例では、スラッジにおけるカーボン含有量が4容量%であった。なお、実施例1および2では、スライス台にカーボンは含まれていないため、スラッジにおけるカーボン含有量が0容量%である。
【0039】
また、比較例のスラッジをフッ酸および硝酸の1:1混合液で洗浄したところ、洗浄容器内にはカーボンに由来する黒い汚れが付着した。一方、実施例1,2のスラッジでは、このような黒い汚れはなかった。
【0040】
さらに、小型のキャスト鋳造用試験器(ノリタケTCF社製、小型溶解試験炉)を用いて鋳造法を実施したところ、実施例1および2のスラッジは、クーラントおよび金属不純物の除去後に完全溶解することができた。一方、比較例のスラッジは、クーラントおよび金属不純物の除去後でも、固溶限の問題から、完全溶解する事ができなかった。
【0041】
(シリコンスライス台を用いてスライスしたウェーハの評価)
実施例または比較例にて製造したウェーハのスライス品質について、ヘネケ(Hennecke社製、HE−WI−04)を用いて、ウェーハの平均厚み、ウェーハの凹凸のばらつきを示すTTV、15μm深さの筋の存在確率を示すsaw1から平坦度を評価した。その結果、実施例1,2の平坦度は従来製品である比較例の平坦度と同等であり、また、実施例は製品基準を満たしていることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、切断性を損なうことなく、より安価に、固定砥粒方式で生じるスラッジへの不純物混入量の極めて少ないスライス台、および、このスライス台を用いた半導体ウェーハの製造方法を提供することができる。また、スラッジまたはスライス台を原料の一部として、より安価に半導体インゴットを製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
1 スライス台
2 半導体ブロック
3 ワークプレート
4 固定砥粒ワイヤーソー
5 ローラー
10 半導体インゴット
20 半導体ブロック
30 トップ部
40 ボディ部
50 テール部
60 側部表面を切り出した部材
70 側部表面を切り出した部材
70a 側部表面(鋳肌面)
70b インゴット切断面
101 チャンバ
102 冷却モールド
103 誘導コイル
104 ヒータ
105 インゴット
106 半導体材料
107 溶融半導体材料
600 側部表面を切り出した部材
600a 側部表面(鋳肌面)
600b インゴット切断面
601 スライス台
800 樹脂
801 樹脂層



【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ブロックを切断する際に前記半導体ブロックを固定するスライス台であって、
少なくとも前記半導体ブロックを固定する側に、前記半導体ブロックと同種の半導体材料からなる半導体インゴットの廃棄部分を切り出した部材を有することを特徴とする、スライス台。
【請求項2】
前記部材が、前記半導体インゴットのトップ部またはテール部から切り出した部材である請求項1に記載のスライス台。
【請求項3】
前記半導体インゴットが、電磁鋳造法により製造されたものである請求項2に記載のスライス台。
【請求項4】
前記部材のみからなる請求項2または3に記載のスライス台。
【請求項5】
前記部材が、電磁鋳造法により製造された前記半導体インゴットの側部表面を切り出した部材である請求項1に記載のスライス台。
【請求項6】
前記部材の前記側部表面上に樹脂層を有する請求項5に記載のスライス台。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のスライス台に半導体ブロックを固定して、固定砥粒ワイヤーソーを前記半導体ブロックから少なくとも前記スライス台の表面に切り込む位置に達するまで移動させて、前記半導体ブロックを切断し、半導体ウェーハとする工程を含むことを特徴とする半導体ウェーハの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体ウェーハの製造方法において前記工程中に発生するスラッジを、半導体インゴット製造用の原料の少なくとも一部として半導体インゴットを製造することを特徴とする半導体インゴットの製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載の半導体ウェーハの製造方法において使用した前記スライス台を、半導体インゴット製造用の原料の少なくとも一部として半導体インゴットを製造することを特徴とする半導体インゴットの製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の製造方法により得た半導体インゴットをスライスして太陽電池用ウェーハを製造することを特徴とする太陽電池用ウェーハの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製造方法により得た太陽電池用ウェーハで太陽電池セルを作製することを特徴とする太陽電池セルの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の製造方法により得た太陽電池セルから太陽電池モジュールを作製することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−89693(P2013−89693A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227206(P2011−227206)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】