説明

セラミック多層基板の製造装置、及びセラミック多層基板の製造方法

【課題】信頼性を向上させたセラミック多層基板の製造装置、及び製造方法を提供する。
【解決手段】LTCC多層基板の製造装置20は、グリーンシートGSを載置してグリー
ンシートGSを走査方向に搬送するステージ22と、ステージ22の走査経路上に設けら
れ、グリーンシートGSに向けて導電性インクIkの液滴Dを吐出することによりグリー
ンシートGSに液状パターンPを描画する描画部24と、ステージ22の走査経路上に設
けられ、液状パターンPを乾燥する乾燥部25と、描画部24が液状パターンPを描画す
るときにグリーンシートGSを加熱し、かつ、乾燥部25が液状パターンPの乾燥を開始
するまでグリーンシートGSを搬送温度に加熱し続けるステージヒータ23とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック多層基板の製造装置、及びセラミック多層基板の製造方法に関す
る。
【背景技術】
【0002】
低温焼成セラミック(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics )技術は、グリ
ーンシートと金属との一括焼成を可能にすることから、セラミックの層間に各種の受動素
子を組み込んだ素子内蔵基板を具現できる。システム・オン・パッケージ(SOP)の実
装技術においては、電子部品の複合化や表面実装部品に発生する寄生効果の低減を図るた
め、この素子内蔵基板(以下単に、LTCC多層基板という。)に関わる製造方法が鋭意
開発されている。
【0003】
LTCC多層基板の製造方法においては、複数のグリーンシートの各々に受動素子や配
線等のパターンを描画する描画工程と、該パターンを有する複数のグリーンシートを積層
して圧着する圧着工程と、圧着体を一括焼成する焼成工程とが順に実施される。グリーン
シートにパターンを描画する描画工程には、パターンの高密度化を図るために、導電性イ
ンクを微小な液滴にして吐出させる、いわゆるインクジェット法が提案されている(例え
ば、特許文献1)。インクジェット法は、数ピコリットル〜数十ピコリットルの微小な液
滴を用いることから、液滴の吐出位置の変更によってパターンの微細化や狭ピッチ化を図
ることができる。
【特許文献1】特開2005−57139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット法を用いて吐出された液滴は、グリーンシートの表面に着弾すると、グ
リーンシートの表面状態や液滴の表面張力等に応じてグリーンシートの表面に沿って濡れ
広がる。こうした液滴の濡れ広がりは、パターンの微細化や高密度化を図る上で大きな障
害になる。そこで、インクジェット法では、グリーンシートを加熱しながら液滴を吐出す
ることで着弾直後の液滴の乾燥促進を図り、これにより液滴の濡れ広がりを抑制させる検
討がなされている。
【0005】
しかしながら、グリーンシートを加熱して描画する場合、導電性インクに含まれる蒸発
成分が描画直後のグリーンシートの表面上に停滞するため、加熱したグリーンシートの降
温に伴い、蒸発成分が再び液化を開始してグリーシートの表面に結露してしまう。この結
果、グリーンシートの表面が結露によって汚染されることから、LTCC多層基板の信頼
性を大きく損なってしまう。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、信頼性を向上
させたセラミック多層基板の製造装置、及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明におけるセラミック多層基板の製造装置は、グリーンシートを載置して前記グリ
ーンシートを所定方向に走査するステージと、前記ステージの走査経路上に設けられ、前
記グリーンシートに向けて導電性インクの液滴を吐出することにより前記グリーンシート
に液状パターンを描画する描画部と、前記ステージの走査経路上に設けられ、前記液状パ
ターンを乾燥する乾燥部と、前記描画部が前記液状パターンを描画するときに前記グリー
ンシートを加熱し、かつ、前記乾燥部が前記液状パターンの乾燥を開始するまで前記グリ
ーンシートを所定温度に加熱し続ける加熱部とを有する。
【0008】
本発明におけるセラミック多層基板の製造装置によれば、描画部から乾燥部に搬送され
るグリーンシートが加熱部によって加熱されることから、液状パターンからの蒸発成分が
グリーンシートの表面に結露し難くなる。しかも、描画時における熱源と搬送過程におけ
る熱源とが共通することから、グリーンシートの急激な温度変動を抑えることができ、グ
リーンシートの表面における結露を、より確実に抑制できる。したがって、本セラミック
多層基板の製造装置によれば、蒸発成分の結露を抑える分だけ、セラミック多層基板の信
頼性を向上できる。
【0009】
このセラミック多層基板の製造装置において、前記加熱部は、前記乾燥部が前記液状パ
ターンの乾燥を開始するまで、前記液状パターンからの蒸発成分の分圧が前記グリーンシ
ートの表面で飽和蒸気圧よりも低くなるように前記グリーンシートを加熱し続ける構成が
好ましい。
【0010】
このセラミック多層基板の製造装置によれば、グリーンシートの表面における蒸発成分
の分圧が飽和蒸気圧よりも低くなることから、液状パターンから蒸発した蒸発成分による
結露が、より確実に抑えられる。
【0011】
このセラミック多層基板の製造装置において、前記加熱部は、前記乾燥部が前記液状パ
ターンの乾燥を終了するまで前記グリーンシートを加熱し続ける構成が好ましい。
このセラミック多層基板の製造装置によれば、グリーンシートの表面における飽和蒸気
圧を継続的に高くすることから、液状パターンから蒸発した蒸発成分による結露が、より
確実に抑えられる。
【0012】
このセラミック多層基板の製造装置は、前記加熱部が前記ステージに搭載されたヒータ
であっても良い。
本発明におけるセラミック多層基板の製造方法は、加熱された前記グリーンシートに向
けて導電性インクの液滴を吐出することにより前記グリーンシートに液状パターンを描画
する工程と、前記液状パターンを乾燥して前記グリーンシートに乾燥パターンを形成する
工程と、前記乾燥パターンを有する複数の前記グリーンシートを積層して圧着することに
より圧着体を形成し、前記圧着体を焼成することにより前記セラミック多層基板を形成す
る工程とを有し、前記液状パターンを描画してから前記液状パターンの乾燥を開始するま
で前記グリーンシートを所定温度に加熱し続ける。
【0013】
本発明におけるセラミック多層基板の製造方法によれば、加熱描画後のグリーンシート
が加熱され続けることから、液状パターンからの蒸発成分がグリーンシートの表面に結露
し難くなる。したがって、本セラミック多層基板の製造方法によれば、蒸発成分の結露を
抑える分だけ、セラミック多層基板の信頼性を向上させることができる。
【0014】
このセラミック多層基板の製造方法は、前記液状パターンを描画してから前記液状パタ
ーンの乾燥を開始するまで、前記液状パターンからの蒸発成分の分圧が前記グリーンシー
トの表面で飽和蒸気圧よりも低くなるように前記グリーンシートを加熱し続ける構成が好
ましい。
【0015】
このセラミック多層基板の製造方法によれば、グリーンシートの表面における蒸発成分
の分圧が飽和蒸気圧よりも低くなることから、液状パターンから蒸発した蒸発成分による
結露が、より確実に抑えられる。
【0016】
このセラミック多層基板の製造方法は、前記液状パターンを描画してから前記液状パタ
ーンの乾燥を開始するまで前記グリーンシートが昇温し続ける構成であっても良い。
このセラミック多層基板の製造方法によれば、グリーンシートが昇温し続けることから
、液状パターンから蒸発した蒸発成分による結露が、より確実に抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図6に従って説明する。図1は、本発明
のセラミック多層基板の製造装置を用いて製造したセラミック多層基板を有する回路モジ
ュールの断面図である。
【0018】
図1において、回路モジュール10は、セラミック多層基板としての低温焼成セラミッ
ク(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics )多層基板11と、LTCC多層基
板11に接続された半導体チップ12とを有する。
【0019】
LTCC多層基板11は、複数のLTCC基板13からなる積層体である。各LTCC
基板13は、それぞれグリーンシートの焼結体であって、厚みが数十μ〜数百μmで形成
されている。各LTCC基板13の層間には、それぞれ抵抗素子、容量素子、コイル素子
等の各種の内部素子14と、各内部素子14に電気的に接続された内部配線15とが内蔵
され、各LTCC基板13の層内には、それぞれスタックビア構造やサーマルビア構造を
成すビア配線16が形成されている。
【0020】
次に、セラミック多層基板の製造装置としてのLTCC多層基板の製造装置20を図2
及び図3に従って説明する。図2はLTCC多層基板の製造装置20を模式的に示す図で
ある。
【0021】
図2において、LTCC多層基板の製造装置20は、一つの方向に延びる基台21と、
基台21の上に搭載されるステージ22とを有する。ステージ22は、支持シートBSと
、支持シートBSに積層されたグリーンシートGSとからなる積層シートTSを載置して
位置決め固定する。ステージ22は、基台21に設けられた図示しない直動機構に連結さ
れ、該直動機構の駆動力を受けることによって基台21の長手方向(以下単に、走査方向
という。)に沿って所定速度で移動し、積層シートTSを走査方向へ走査する。
【0022】
ステージ22は、グリーンシートGSを加熱するためのステージヒータ23を内蔵し、
ステージヒータ23を駆動することによってグリーンシートGSを所望のタイミングで加
熱する。
【0023】
グリーンシートGSは、ガラスセラミック粉末やバインダ等を含むガラスセラミック組
成物からなるシートである。グリーンシートGSの膜厚は、内部素子14としてコンデン
サ素子を形成する場合に数十μmで形成され、他の層においては100μm〜200μm
で形成される。
【0024】
ガラスセラミック粉末は、0.1μm〜5μmの平均粒径を有する粉末であり、例えば
アルミナやフォルステライト等のセラミック粉末にホウ珪酸系ガラスを混合したガラス複
合セラミックを用いることができる。また、ガラスセラミック粉末としては、ZnO−M
gO−Al−SiO系の結晶化ガラスを用いた結晶化ガラスセラミック、BaO
−Al−SiO系セラミック粉末やAl−CaO−SiO−MgO−B
系セラミック粉末等を用いた非ガラス系セラミックを用いても良い。
【0025】
バインダは、ガラスセラミック粉末の結合剤としての機能を有し、焼成工程で分解して
容易に除去できる有機高分子である。バインダとしては、例えばブチラール系、アクリル
系、セルロース系等のバインダ樹脂を用いることができる。また、バインダは、例えばア
ジピン酸エステル系可塑剤、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(D
BP)フタル酸エステル系可塑剤、グリコールエステル系可塑剤等の可塑剤を含有しても
良い。
【0026】
基台21の上方、すなわちステージ22の走査経路上には、導電性インクIkからなる
液状パターンPを描画するための描画部24と、導電性インクIkからなる液状パターン
Pを乾燥するための乾燥部25とが走査方向に沿って順に配設されている。
【0027】
本実施形態では、グリーンシートGSの温度であって、描画部24を用いた描画工程に
おける温度を、描画温度Tp(図5参照)と言う。また、グリーンシートGSの温度であ
って、液状パターンPの乾燥が開始されるまでの温度、すなわちグリーンシートGSが乾
燥部25の直下に到達するまでの温度を、搬送温度Tx(図5参照)と言う。また、グリ
ーンシートGSの温度であって、乾燥部25を用いた乾燥工程における温度を、乾燥温度
Td(図5参照)と言う。
【0028】
描画部24は、導電性インクIkを貯留するインクタンク26Aと、インクタンク26
Aからの導電性インクIkをグリーンシートGSに吐出する液滴吐出ヘッド26Bとを有
する。インクタンク26Aは、導電性微粒子の分散系からなる導電性インクIkを貯留し
、貯留する導電性インクIkを液滴吐出ヘッド26Bに所定圧力で供給する。導電性微粒
子は、数nm〜数十nmの粒径を有する微粒子であり、例えば金、銀、銅、白金、パラジ
ウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、コバルト、ニッケル、
クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム等の金属、あるいはこれらの合金
を用いることができる。分散媒は、導電性微粒子を均一に分散させるものであれば良く、
例えば水や水を主成分とする水溶液系、あるいはテトラデカン等の有機溶剤を主成分とす
る有機系を用いることができる。
【0029】
液滴吐出ヘッド26Bは、インクタンク26Aに連通する複数のキャビティ27と、各
キャビティ27に連通する複数のノズルNと、各キャビティ27に連結される複数の圧力
発生素子28とを有する。なお、複数のキャビティ27、ノズルN、及び圧力発生素子2
8は、それぞれ走査方向と直交する方向であって、図2における紙面に対して垂直な方向
(以下単に、副走査方向という。)に沿ってグリーンシートGSの略全幅にわたり配列さ
れている。図2においては、1組のキャビティ27、ノズルN、及び圧力発生素子28を
模式的に示す。
【0030】
各キャビティ27は、それぞれインクタンク26Aからの導電性インクIkを受け、該
キャビティ27と連通するノズルNに導電性インクIkを供給する。各ノズルNは、それ
ぞれ数十μmの開口を有するノズルであり、インクタンク26Aからの導電性インクIk
を収容して気液界面(メニスカス)を形成する。各圧力発生素子28は、それぞれ自身と
連結するキャビティ27の容積を変更する圧電素子や静電容量素子、あるいはキャビティ
27の温度を変更する抵抗加熱素子である。各圧力発生素子28は、それぞれ所定の駆動
信号COM(図3参照)を受けるとき、キャビティ27の内部を加圧し、ノズルNのメニ
スカスを振動させることよって、導電性インクIkを数ピコリットル〜数十ピコリットル
の液滴Dにして吐出する。
【0031】
グリーンシートGSが描画部24の直下で走査されるとき、ノズルNから吐出された液
滴Dは、描画温度Tpに加熱されるグリーンシートGSの表面に着弾する。グリーンシー
トGSに着弾した液滴Dは、グリーンシートGSからの熱量を受けることによって、グリ
ーンシートGSと接触する部位で増粘し、その濡れ広がりを抑える。そして、グリーンシ
ートGSに着弾した液滴Dは、後続する液滴Dと合一することによって、導電性インクI
kからなる液状パターンPを形成する。
【0032】
描画温度Tpは、グリーンシートGSに含まれるバインダの分解温度よりも低い温度で
あって、かつ、グリーンシートGSに着弾した液滴Dの表面を増粘させて該液滴Dをグリ
ーンシートGSの表面に定着させる温度であれば良い。なお、描画温度Tpが過剰に高く
なると、グリーンシートGSの過剰な変形、ノズルNに貯留される導電性インクIkの増
粘等を招くため、描画温度Tpは、液状パターンPの設計ルールと、液滴Dの着弾精度と
、導電性インクIkに含まれる蒸発成分とに応じて適宜選択される構成が好ましい。
【0033】
グリーンシートGSに形成された液状パターンPは、描画温度Tpに応じた熱量を受け
ることによって分散媒等の蒸発成分を蒸発させる。液状パターンPから蒸発した蒸発成分
は、液状パターンPの近傍に停滞し、液状パターンPの近傍における蒸発成分の分圧を上
昇させる。
【0034】
グリーンシートGSに形成された液状パターンPは、ステージ22の搬送に伴って描画
部24から乾燥部25の直下へ移動する。描画部24から乾燥部25へ移動するグリーン
シートGSは、ステージヒータ23からの熱量を受けることによって搬送温度Txに昇温
され、グリーンシートGSの表面で蒸発成分の飽和蒸気圧を高くする。これによって、グ
リーンシートGSは、描画部24から乾燥部25へ搬送される過程において、蒸発成分に
起因した結露を抑制できる。
【0035】
搬送温度Txは、少なくとも液状パターンPを除くグリーンシートGSの表面で、液状
パターンPからの蒸発成分の分圧を該蒸発成分の飽和蒸気圧よりも低くする温度である。
なお、搬送温度Txが過剰に高くなると、グリーンシートGSの過剰な変形を招くため、
搬送温度Txは、液状パターンPの密度と導電性インクIkに含まれる蒸発成分とに応じ
て適宜選択される構成が好ましい。
【0036】
乾燥部25には、副走査方向に沿って延びる複数のランプヒータ29が走査方向に沿っ
て配列されている。各ランプヒータ29は、それぞれ導電性インクIkの分散媒を蒸発さ
せるための光Lを下方に照射する光源である。
【0037】
グリーンシートGSが乾燥部25の直下で走査されるとき、各ランプヒータ29は、そ
れぞれグリーンシートGSへ光Lを照射し、グリーンシートGSを乾燥温度Tdへ加熱す
る。グリーンシートGSの表面に描画された液状パターンPは、乾燥温度Tdに加熱され
るグリーンシートGSからの熱量を受けることによって、液状パターンPの内部に含まれ
る分散媒等の蒸発成分を実質的に取り除く、すなわち乾燥する。なお、蒸発成分を実質的
に取り除いた状態とは、蒸発成分を完全に取り除いた状態(蒸発成分が無い状態)と比べ
て、パターンの剥がれの頻度やパターンの変形の程度等に関して変動を来たさない状態で
ある。
【0038】
乾燥温度Tdは、描画温度Tp以上の温度であって、かつ、液状パターンPの内部に含
まれる蒸発成分を実質的に取り除くことができる温度であれば良い。なお、乾燥温度Td
は、描画温度Tp及び搬送温度Txと同じく、過剰に高くなることによりグリーンシート
GSの変形を招くため、導電性インクIkに含まれる蒸発成分と、グリーンシートGSの
組成とに応じて適宜選択される構成が好ましい。
【0039】
次に、LTCC多層基板の製造装置20の電気的構成について以下に説明する。図3は
、LTCC多層基板の製造装置20の電気的構成を示す電気ブロック回路図である。
図3において、制御装置30は、各種の演算処理を実行する制御部30Aと、LTCC
多層基板11を製造するための各種データや各種制御プログラムを格納する記憶部30B
とを有する。制御装置30は、記憶部30Bに格納された各種データや各種制御プログラ
ムを読み出し、ステージ22を用いたグリーンシートGSの走査処理、描画部24を用い
た液滴Dの吐出処理、乾燥部25を用いた液状パターンの乾燥処理、及びステージヒータ
23を用いたグリーンシートGSの加熱処理を実行する。
【0040】
制御装置30には、各種操作スイッチを有した入力装置31が接続されている。入力装
置31は、LTCC多層基板11を製造するための各種処理条件を制御装置30に入力す
る。制御装置30は、入力装置31からの各種処理条件に基づいてLTCC多層基板の製
造装置20に各種処理を実行させる。入力装置31は、制御装置30に吐出処理を実行さ
せるためのドットパターンデータPDと、制御装置30に加熱処理を実行させるための温
度データHDとを入力する。
【0041】
ドットパターンデータPDは、グリーンシートGSに形成される仮想格子の各格子点に
液滴Dを吐出するか否かを規定するデータである。すなわち、ドットパターンデータPD
は、走査過程における格子点の直上にノズルNが位置するとき、該ノズルNに連結された
圧力発生素子28を各ビットの値(0あるいは1)に応じてオンあるいはオフするための
データである。
【0042】
温度データHDは、ステージ22の位置にステージヒータ23の出力を関連付けたデー
タである。温度データHDは、ステージ22が描画部24の直下に位置する間、ステージ
22に位置決めされたグリーンシートGSを加熱し続けるためのデータである。また、温
度データHDは、ステージ22が乾燥部25の直下に到達するまでの間、ステージ22に
位置決めされたグリーンシートGSを加熱し続けるためのデータである。
【0043】
制御装置30には、ステージ駆動回路32が接続されている。制御装置30は、ステー
ジ駆動回路32に対応する制御信号をステージ駆動回路32に入力する。ステージ駆動回
路32は、制御装置30からの制御信号に応答して直動機構を駆動し、ステージ22の走
査処理を実行する。ステージ駆動回路32は、直動機構に設けられたエンコーダからの検
出信号を受け、ステージ22の搬送方向や位置に関する信号(以下単に、位置検出信号と
いう。)を制御装置30に出力する。
【0044】
制御装置30には、ステージヒータ駆動回路33が接続されている。制御装置30は、
ステージ駆動回路32からの位置検出信号を受けて、ステージヒータ23を駆動するため
のヒータ制御信号IHを温度データHDに基づいて生成し、ヒータ制御信号IHをステー
ジヒータ駆動回路33へ出力する。ステージヒータ駆動回路33は、制御装置30からの
ヒータ制御信号IHに応答してステージヒータ23を駆動させ、ステージ22の上に積層
されたグリーンシートGSを加熱して所定温度に加熱する。
【0045】
制御装置30には、描画部駆動回路34が接続されている。制御装置30は、ステージ
駆動回路32からの位置検出信号を受け、描画部24を駆動するための制御信号を生成し
、該制御信号を描画部駆動回路34に入力する。すなわち、制御装置30は、液滴Dの吐
出位置がノズルNの直下に位置するたびにタイミング信号LTと駆動信号COMとをそれ
ぞれ描画部駆動回路34に入力する。また、制御装置30は、ドットパターンデータPD
を用いて各ノズルNに関連づけられた吐出制御信号SIを生成し、該吐出制御信号SIを
所定の転送クロックで描画部駆動回路34にシリアル転送する。描画部駆動回路34は、
制御装置30からのタイミング信号LTを受けるたびに、制御装置30からの吐出制御信
号SIをシリアル/パラレル変換し、各圧力発生素子28に関連付けられた各ビットの値
(0あるいは1)からなるパラレル信号を生成する。そして、描画部駆動回路34は、タ
イミング信号LTを受けるたびに、パラレル信号によって選択される圧力発生素子28に
駆動信号COMを供給し、選択されるノズルNからそれぞれ液滴Dを吐出させる。すなわ
ち、描画部駆動回路34は、走査過程におけるグリーンシートGSに、それぞれドットパ
ターンデータPDに基づく液状パターンPを描画する。
【0046】
制御装置30には、乾燥部駆動回路35が接続されている。制御装置30は、ステージ
駆動回路32からの位置検出信号を受け、乾燥部25を駆動するための制御信号を生成し
、該制御信号を乾燥部駆動回路35に入力する。乾燥部駆動回路35は、制御装置30か
らの制御信号に応答して各ランプヒータ29を駆動させ、各ランプヒータ29の直下にあ
る液状パターンPを加熱する。
【0047】
次に、LTCC多層基板の製造装置20を利用したLTCC多層基板11の製造方法に
ついて説明する。図4はLTCC多層基板11の製造工程を示すフローチャートであり、
図5は各製造工程におけるグリーンシートGSの温度を示すタイムチャートである。
【0048】
ステージ22の上に積層シートTSが載置されると、制御装置30は、まず、ステージ
ヒータ駆動回路33を介してステージヒータ23を駆動し、グリーンシートGSの温度を
描画温度Tp(例えば60℃)へ昇温する。次いで、制御装置30は、ステージ駆動回路
32を介してステージ22を駆動し、グリーンシートGSの走査処理を開始する。制御装
置30は、ステージ22の走査処理を開始すると、描画部駆動回路34を介して各圧力発
生素子28を駆動し、グリーンシートGSの各吐出位置がノズルNの直下に位置するたび
に該ノズルNから液滴Dを吐出させ、グリーンシートGSの表面に液状パターンPを描画
する(描画工程:ステップS11)。これによって、制御装置30は、グリーンシートG
Sを描画温度Tpに加熱する分だけ、液状パターンPの濡れ広がりを抑えられる。
【0049】
制御装置30は、液状パターンPを形成すると、ステージヒータ駆動回路33を介して
ステージヒータ23を駆動し、グリーンシートGSの温度を搬送温度Tx(例えば70℃
)へ昇温する。そして、制御装置30は、ステージ駆動回路32を介してステージ22を
駆動し、グリーンシートGSを描画部24から乾燥部25の直下へ搬送する(搬送工程:
ステップS12)。これによって、制御装置30は、グリーンシートGSを搬送温度Tx
に加熱する分だけ、グリーンシートGSの表面で蒸発成分の飽和蒸気圧を高くすることが
でき、液状パターンPからの蒸発成分に起因した結露を抑制できる。
【0050】
制御装置30は、グリーンシートGSを乾燥部25の直下へ搬送すると、ステージヒー
タ駆動回路33を介してステージヒータ23を継続して駆動するとともに、乾燥部駆動回
路35を介して各ランプヒータ29を駆動し、各ランプヒータ29の直下にあるグリーン
シートGSを乾燥温度Td(例えば80℃)に加熱する(乾燥工程:ステップS13)。
これによって、制御装置30は、液状パターンPの内部に含まれる分散媒等を実質的に取
り除くことができ、液状パターンPをグリーンシートGSの表面に定着できる(乾燥パタ
ーンを形成できる)。また、制御装置30は、描画温度Tp、搬送温度Tx、乾燥温度T
dの順に設定温度を高くすることから、グリーンシートGSに関わる急激な温度の変動を
無くすことができ、液状パターンPから蒸発した蒸発成分による結露を、より確実に抑え
られる。
【0051】
制御装置30は、乾燥パターンを形成すると、ステージ駆動回路32を介してステージ
22を駆動し、ステージ22の上に載置されたグリーンシートGSを外部へ搬出する。そ
して、制御装置30は、後続するグリーンシートGSに対して同様の描画工程、搬送工程
、乾燥工程を実行することにより、乾燥パターンを有した複数のグリーンシートGSを形
成する。
【0052】
LTCC多層基板の製造装置20から搬出される複数のグリーンシートGSは、乾燥パ
ターンを有した他のグリーンシートに積層されて真空包装袋に真空封入される(減圧包装
工程:ステップS14)。複数のグリーンシートGSからなる積層体は、真空封入された
状態で静水圧プレス装置に搬入され、静水圧を加えられることによって圧着する(圧着工
程:ステップS15)。圧着された各グリーンシートGSは、所定の焼成炉に搬入され、
所定の焼成温度(例えば、800℃〜1000℃)の下で焼成されることによって、LT
CC多層基板11を形成する(焼成工程:ステップS16)。
【0053】
次に、上記実施形態の効果を以下に記載する。
(1)上記実施形態は、液状パターンPを描画してから該液状パターンPの乾燥を開始
するまでの間、グリーンシートGSを搬送温度Txに加熱し続ける。したがって、加熱描
画後のグリーンシートGSを加熱し続けることから、グリーンシートGSの表面において
、液状パターンPからの蒸発成分の飽和蒸気圧を高くし続けることができる。この結果、
LTCC多層基板の製造装置20は、グリーンシートGSの表面における結露を抑えるこ
とができ、蒸発成分の結露を抑える分だけ、LTCC多層基板11の信頼性を向上させる
ことができる。
【0054】
(2)上記実施形態において、ステージヒータ23は、液状パターンPを描画するとき
にグリーンシートGSを描画温度Tpに加熱し、かつ、液状パターンPの乾燥を開始する
までグリーンシートGSを搬送温度Txに加熱し続ける。したがって、描画温度Tpを実
現する熱源と搬送温度を実現する熱源とが共通するステージヒータ23であることから、
グリーンシートGSの温度が工程間においても円滑に調整される。この結果、グリーンシ
ートGSの急激な温度変動を抑えられることから、グリーンシートGSの表面における結
露を、より確実に抑制できる。
【0055】
(3)上記実施形態において、搬送温度Txは、少なくとも液状パターンPを除くグリ
ーンシートGSの表面で蒸発成分の分圧が飽和蒸気圧よりも低くなる温度である。したが
って、グリーンシートGSの表面における蒸発成分の分圧が飽和蒸気圧よりも低くなるこ
とから、液状パターンPから蒸発した蒸発成分による結露が、より確実に抑えられる。
【0056】
(4)上記実施形態においては、描画温度Tp、搬送温度Tx、乾燥温度Tdの順に温
度を高くする。したがって、液状パターンPの乾燥を開始するまで、グリーンシートGS
を徐々に昇温し続けることから、液状パターンPから蒸発した蒸発成分による結露が、よ
り確実に抑えられる。
【0057】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、描画温度Tp、搬送温度Tx、乾燥温度Tdの順に設定温
度を高くする。これに限らず、例えば、図6に示すように、搬送温度Txを描画温度Tp
や乾燥温度Tdよりも低くする構成であっても良く、あるいは、描画温度Tp、搬送温度
Tx、乾燥温度Tdの順に温度を低くする構成でも良い。すなわち、搬送温度Txとは、
少なくとも液状パターンPを除くグリーンシートGSの表面で蒸発成分の分圧が飽和蒸気
圧よりも低くなる温度であれば良い。
【0058】
・また、グリーンシートGSの温度を描画温度Tpから搬送温度Txに切換えるとき、
あるいは搬送温度Txから乾燥温度Tdに切換えるときにグリーンシートGSの温度を降
温させる場合には、グリーンシートGSに不活性ガス等を吹付けながらグリーンシートG
Sの温度を徐々に降温させる構成が好ましい。この構成によれば、蒸発成分の分圧を低下
させながらグリーンシートGSを降温させるため、グリーンシートGSの表面における結
露を抑えられる。
【0059】
・上記実施形態においては、描画部24と乾燥部25との間に吸引機構を設け、蒸発成
分を吸引する構成であっても良い。この構成によれば、蒸発成分の分圧をさらに低下させ
られることから、グリーンシートGSの表面における結露を、より確実に回避できる。
【0060】
・上記実施形態において、描画部24の直下にあるグリーンシートGSは、ステージ2
2の走査によって乾燥部25へ搬送される。これに限らず、描画部24の直下にあるグリ
ーンシートGSが支持プレートに移載され、他の搬送機構や手等によって、乾燥部25へ
搬送される構成であっても良く、この際、支持プレートがグリーンシートGSを加熱し続
ける構成であれば良い。
【0061】
・上記実施形態において、ステージヒータ23は、乾燥部25の直下に到達した後もグ
リーンシートGSを加熱し続ける。これに限らず、ステージヒータ23は、各ランプヒー
タ29が液状パターンPを加熱するタイミングで駆動を停止する構成であっても良い。す
なわち、加熱部は、少なくとも液状パターンの乾燥を開始するまで、グリーンシートを加
熱し続ける構成であれば良い。
【0062】
・上記実施形態においては、加熱部をステージヒータ23に具体化したが、これに限ら
ず、加熱部は、基台21の上方に設けられるランプヒータやレーザ等の熱源であっても良
い。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】回路モジュールを示す断面図。
【図2】セラミック多層基板の製造装置を示す図。
【図3】セラミック多層基板の製造装置の電気的構成を示す図。
【図4】セラミック多層基板の製造方法を示すフローチャート。
【図5】セラミック多層基板の各製造工程におけるグリーンシートの温度を示す図。
【図6】変更例におけるセラミック多層基板の各製造工程におけるグリーンシートの温度を示す図。
【符号の説明】
【0064】
D…液滴、Ik…導電性インク、GS…グリーンシート、P…液状パターン、11…セ
ラミック多層基板としてのLTCC多層基板、20…セラミック多層基板の製造装置とし
てのLTCC多層基板の製造装置、22…ステージ、23…加熱部としてのステージヒー
タ、24…描画部、25…乾燥部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック多層基板の製造装置であって、
グリーンシートを載置して前記グリーンシートを所定方向に走査するステージと、
前記ステージの走査経路上に設けられ、前記グリーンシートに向けて導電性インクの液
滴を吐出することにより前記グリーンシートに液状パターンを描画する描画部と、
前記ステージの走査経路上に設けられ、前記液状パターンを加熱することにより前記液
状パターンを乾燥する乾燥部と、
前記描画部が前記液状パターンを描画するときに前記グリーンシートを加熱し、かつ、
前記乾燥部が前記液状パターンの乾燥を開始するまで前記グリーンシートを所定温度に加
熱し続ける加熱部とを有すること、
を特徴とするセラミック多層基板の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のセラミック多層基板の製造装置であって、
前記加熱部は、
前記乾燥部が前記液状パターンの乾燥を開始するまで、前記液状パターンからの蒸発成
分の分圧が前記グリーンシートの表面で飽和蒸気圧よりも低くなるように前記グリーンシ
ートを加熱し続けることを特徴とするセラミック多層基板の製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミック多層基板の製造装置であって、
前記加熱部は、
前記乾燥部が前記液状パターンの乾燥を終了するまで前記グリーンシートを加熱し続け
ることを特徴とするセラミック多層基板の製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のセラミック多層基板の製造装置であって、
前記加熱部は前記ステージに搭載されたヒータであることを特徴とするセラミック多層
基板の製造装置。
【請求項5】
セラミック多層基板の製造方法であって、
加熱されたグリーンシートに向けて導電性インクの液滴を吐出することにより前記グリ
ーンシートに液状パターンを描画する工程と、
前記液状パターンを加熱して乾燥することにより前記グリーンシートに乾燥パターンを
形成する工程と、
前記乾燥パターンを有する複数の前記グリーンシートを積層して圧着することにより圧
着体を形成し、前記圧着体を焼成することにより前記セラミック多層基板を形成する工程
とを有し、
前記液状パターンを描画してから前記液状パターンの乾燥を開始するまで前記グリーン
シートを所定温度に加熱し続けることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のセラミック多層基板の製造方法であって、
前記液状パターンを描画してから前記液状パターンの乾燥を開始するまで、前記液状パ
ターンからの蒸発成分の分圧が前記グリーンシートの表面で飽和蒸気圧よりも低くなるよ
うに前記グリーンシートを加熱し続けることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法

【請求項7】
請求項5又は6に記載のセラミック多層基板の製造方法であって、
前記液状パターンを描画してから前記液状パターンの乾燥を開始するまで前記グリーン
シートが昇温し続けることを特徴とするセラミック多層基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−123730(P2009−123730A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292870(P2007−292870)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】