説明

セラミック粉末及びこれを用いた導電ペースト、積層セラミック電子部品、その製造方法

【課題】 積層セラミック電子部品において、絶縁性や高温負荷時の耐久性の改善を図り、信頼性の高い積層セラミック電子部品を提供する。
【解決手段】 誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品において、内部電極層を形成するための導電ペーストに添加するセラミック粉末として、ペロブスカイト型結晶構造を有し、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/Wcが2以上のセラミック粉末を用いる。テトラゴナル相とキュービック相の重量比率Wt/Wcは、リートベルト法による多相解析により求める。セラミック粉末は例えばチタン酸バリウム粉末である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品において、内部電極層に共材として添加されるセラミック粉末に関するものであり、特に積層セラミック電子部品の絶縁性を改善する上で有用なセラミック粉末に関する。さらには、前記セラミック粉末を用いた導電ペースト、積層セラミック電子部品、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、積層セラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された構造を有し、小型、大容量、高信頼性の電子部品として広く利用されている。1台の電子機器の中に多数個の積層セラミックコンデンサが使用されることも珍しくない。
【0003】
近年、電子機器の小型化や高性能化が進められており、これに伴い積層セラミックコンデンサにおいても更なる小型化や大容量化、低価格化、高信頼性化等への要求がますます厳しくなっている。したがって、これに対応して例えば積層セラミックコンデンサを小型化、大容量化するためには、誘電体セラミック層を薄層化したり、積層数を増やす必要が生じている。積層セラミックコンデンサを構成する誘電体セラミック層を薄層化し、積層数を増加させれば、前記小型化や大容量化が可能になる。
【0004】
ところで、前記誘電体セラミック層の薄層化や積層数の増加を考えた場合、内部電極層をPd等の貴金属を主成分とする内部電極用の導電ペーストを使用して形成することは、例えば製造コストの観点等から不利である。内部電極層をPd等の貴金属を主成分とする内部電極用の導電ペーストを使用して形成すると、積層数の増加に伴って電極形成コストが著しく上昇してしまう。そこで、Ni等の卑金属を主成分とする内部電極用の導電ペーストが開発され、これを用いて内部電極層が形成された積層セラミックコンデンサ等が実用化されている。
【0005】
ただし、前記Ni等の卑金属を主成分とする内部電極用の導電ペーストによって内部電極層を形成すると、例えば誘電体セラミック層の厚さを10μm以下にしたり、積層数を100層以上にした場合、内部電極層の収縮、膨張と誘電体セラミック層の収縮挙動の相違による影響が顕著になり、クラックが発生して製造歩留まりが悪くなるという問題が生ずるおそれがある。
【0006】
このような問題の解決を図るためには、焼成工程におけるNi粉末の収縮を抑制することが有効であり、内部電極層を形成するために使用される内部電極用の導電ペースト中に誘電体ペーストに含まれるセラミック粉末と同種の粉末材料を共材として添加することが行われている(例えば特許文献1等を参照)。前記導電ペーストに共材を添加することで、導電ペーストの焼結開始温度をセラミック成形体の焼結開始温度に近づけるとともに、焼結時における収縮率をセラミック成形体に近づけ、前記クラックの発生を抑制するようにしている。
【特許文献1】特開2005−347288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、導電ペースト中の共材であるセラミック粉末は、誘電体セラミック層の母材として用いられるセラミック粉末よりも粒径が小さいため、反応性が高く、共材同士が結合することで粒成長し焼結体の粒径バラツキを生じさせ、絶縁性や高温負荷時の耐久性を劣化させる等、所望の電気特性が得られないという問題を生じさせるおそれがある。
【0008】
本発明は、前述の従来の実情に鑑みて提案されたものであり、積層セラミック電子部品を構成する誘電体セラミック層のさらなる薄層化や積層数の増加を図った場合にも、絶縁性や高温負荷時の耐久性の向上を図ることが可能なセラミック粉末及び導電ペーストを提供することを目的とする。また、本発明は、前記セラミック粉末及び導電ペーストの提供により、絶縁性や高温負荷時の耐久性に優れた信頼性の高い積層セラミック電子部品を実現することを目的とし、さらにはその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的を達成するために、本発明者らは、長期に亘り種々研究を重ねてきた。具体的には、積層セラミック電子部品の内部電極層の共材に用いられるセラミック粉末について、さらに詳細な解析を行ってきた。その結果、ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミック粉末には、テトラゴナル(Tetragonal)相とキュービック(Cubic)相とが含まれること、そして積層セラミック電子部品における絶縁性や高温負荷時の耐久性を改善するためには、これらテトラゴナル相とキュービック相の比率(重量比率)を最適化することが有効であるとの知見を得るに至った。
【0010】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明のセラミック粉末は、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品の前記内部電極層を形成するための導電ペーストに添加されるセラミック粉末であって、ペロブスカイト型結晶構造を有し、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/WcをXとしたときに、X≧2であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の導電ペーストは、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品の前記内部電極層を形成するための導電ペーストであって、導電材料とセラミック粉末を含有し、前記セラミック粉末として前記セラミック粉末を含むことを特徴とするものである。さらに、本発明の積層セラミック電子部品は、誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品であって、前記内部電極層は、前記導電ペーストにより電極前駆体層を形成し、これを焼成することにより形成されることを特徴とし、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法は、誘電体ペーストと導電ペーストにより誘電体グリーンシートと電極前駆体層とを交互に積層形成した後、これを焼成して積層セラミック電子部品とするに際し、前記導電ペーストとして前記導電ペーストを用いることを特徴とする。
【0012】
これまで、導電ペーストの共材として使用されるセラミック粉末について、どうようなセラミック粉末を使用すればよいかについて、ほとんど検討されていない。基本的には、誘電体セラミック層を形成するためのセラミック粉末と同様のものが用いられている。本発明では、前記共材として使用されるセラミック粉末に関する解析を重ね、これを最適化したものである。
【0013】
例えば、ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウムにおいては、比表面積の変化に伴いX線回折チャートも変化する。本発明者らは、前記X線回折チャートの変化をテトラゴナル相とキュービック相の混相によるものと推測し、X線回折チャートについてリートベルト(Rietveld)法による多相解析(例えばテトラゴナル相とキュービック相の2相と仮定した2相解析)を行ったところ、前記推測と良く一致し、前記推測が正しいことが裏付けられた。さらに、解析を進めた結果、チタン酸バリウムの製造条件等によって前記テトラゴナル相とキュービック相の比率が変わり、これが特性に影響を与えていることがわかった。すなわち、共材として内部電極層に添加されるセラミック粉末において、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/WcをXとしたときに、X≧2とすれば、絶縁性や高温負荷時の耐久性が改善される。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、原料(セラミック粉末)の選定の指標としてテトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/Wc(=X)を採用している。このような指標に基づいて選択したセラミック粉末を内部電極層の共材として用いることで、例えば小型化や大容量化に伴い積層セラミック電子部品を構成する誘電体セラミック層を薄層化したり積層数を増やした場合にも、絶縁性や高温負荷時の耐久性を改善し、信頼性を向上することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を適用したセラミック粉末及び導電ペースト、さらにはこれを用いた積層セラミック電子部品(ここでは積層セラミックコンデンサ)及びその製造方法について、詳細に説明する。
【0016】
先ず、本発明のセラミック粉末が使用される積層セラミックコンデンサについて説明すると、図1に示すように、積層セラミックコンデンサ1においては、複数の誘電体セラミック層2と内部電極層3とが交互に積層されて素子本体が構成されている。内部電極層3は、素子本体の対向する2端面に各側端面が交互に露出するように積層されており、素子本体の両側端部には一対の外部電極4,5がこれら内部電極層3と導通するように形成されている。また、素子本体においては、前記誘電体セラミック層2及び内部電極層3の積層方向の両端部分に外装誘電体層6が配置されているが、この外装誘電体層6は主に素子本体を保護する役割を有し、不活性層として形成されている。
【0017】
素子本体の形状は特に制限されるものではないが、通常は直方体形状である。その寸法も特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法に設定すればよい。例えば、縦0.6mm〜5.6mm(好ましくは0.6mm〜3.2mm)×横0.3mm〜5.0mm(好ましくは0.3mm〜1.6mm)×厚み0.1mm〜1.9mm(好ましくは0.3mm〜1.6mm)程度である。
【0018】
前記誘電体セラミック層2は、誘電体磁器組成物により構成され、誘電体磁器組成物の粉末(セラミック粉末)を焼結することにより形成される。前記誘電体磁器組成物は、組成式ABO(式中、Aサイトは、Sr、Ca及びBaから選ばれる少なくとも1種の元素で構成される。Bサイトは、Ti及びZrから選ばれる少なくとも1種の元素で構成される。)で表されるペロブスカイト型結晶構造を持つ誘電体酸化物を主成分として含有するものが好ましい。ここで、酸素(O)量は、前記組成式の化学量論組成から若干偏倚してもよい。前記誘電体酸化物の中でも、AサイトをBaで主として構成し、BサイトをTiで主として構成し、チタン酸バリウムとすることが好ましい。より好ましくは、組成式BaTiO2+m(式中、0.995≦m≦1.010であり、0.995≦Ba/Ti≦1.010である。)で表されるチタン酸バリウムである。
【0019】
誘電体磁器組成物中には、主成分の他、各種副成分が含まれていてもよい。副成分としては、Sr、Zr、Y、Gd、Tb、Dy、V、Mo、Zn、Cd、Ti、Sn、W、Ba、Ca、Mn、Mg、Cr、Si及びPの酸化物から選ばれる少なくとも1種が例示される。副成分を添加することにより、主成分の誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となる。また、誘電体セラミック層2を薄層化した場合の信頼性不良が低減し、長寿命化が可能となる。
【0020】
前記誘電体セラミック層2の積層数や厚み等の諸条件は、用途等に応じ適宜決定すればよい。誘電体セラミック層2の厚みについては1μm〜50μm程度であり、好ましくは5μm以下である。積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化を図る観点では、誘電体セラミック層2の厚さは3μm以下とすることが好ましく、誘電体セラミック層2の積層数は150層以上とすることが好ましい。
【0021】
内部電極層3に含まれる導電材料は特に制限されないが、例えばNi、Cu、Ni合金又はCu合金等の卑金属を用いることができる。内部電極層3の厚みは、用途等に応じて適宜決定すればよく、例えば0.5μm〜5μm程度であり、好ましくは1.5μm以下である。
【0022】
外部電極4,5に含まれる導電材料も特に制限されないが、通常、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Ag、Ag−Pd合金等が用いられる。Cu、Cu合金、Ni及びNi合金は、安価な材料なため有利である。外部電極4,5の厚みは、用途等に応じて適宜決定すればよく、例えば10μm〜50μm程度である。
【0023】
前述の構成を有する積層セラミックコンデンサ1においては、内部電極層3の形成に用いられる導電ペーストに含まれるセラミック粉末(共材)が特性に大きく影響を与える。本発明では、前記共材として使用するセラミック粉末を適正化することで、絶縁性等を改善する。具体的には、ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミック粉末について粉末X線回折分析を行い、この粉末X線回折結果について例えばリートベルト(Rietveld)法による多相解析を行い、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/WcをXとしたときに、X≧2であるセラミック粉末を用いる。
【0024】
以下、前記リートベルト法による多相解析について説明する。例えば粉末X線回折では、ピーク位置から格子定数を、回折プロファイルの面積(積分強度)から結晶構造パラメータ(分極座標、占有率、原子変位パラメータ等)を、プロファイルの広がりから格子歪みや結晶子サイズを、混合物中の各相の尺度因子から質量分率を把握することができる。粉末中性子線回折では、さらに積分強度から各磁性原子サイトの磁気モーメントを把握することができる。
【0025】
前記リートベルト法は、固体物理、化学、材料化学等において、基本的に重要な物理量を同時に求め得る汎用粉末回折データ解析技術であり、多結晶材料が発現する物理現象や化学特性を構造的側面から理解するためのツールである。リートベルト法の重要な目的は、結晶構造因子Fに含まれる結晶構造パラメータを精密化することにあり、粉末X線回折パターンや粉末中性子回折パターン全体を対象として構造パラメータと格子定数を直接精密化する。すなわち、実測パターンとできるだけ良く一致するように、近似構造モデルに基づいて計算した回折パターンをフィッティングする。リートベルト法の大きな利点としては、全解析パターンをフィッティングの対象とし、特性X線の場合、Kα反射の存在も考慮することから、結晶構造パラメータばかりでなく、格子定数も高い確度と精度で求まること、格子歪みや結晶子サイズ、混合物中の各成分の含量を定量できること等を挙げることができる。
【0026】
ペロブスカイト型結晶構造を有するセラミック粉末、例えばチタン酸バリウムの場合、テトラゴナル相とキュービック相の存在が知られている。そして、例えばその平均粒径(比表面積)の変化に伴い、X線回折パターンが変化する。図2は、チタン酸バリウムにおけるX線回折パターンの変化の様子を示すものである。チタン酸バリウムのX線回折においては、平均粒径が大きい(比表面積が小さい)場合、図2(a)に示すように、テトラゴナル相の2本のピークが観察される。これに対して、平均粒径が次第に小さくなると(比表面積が次第に大きくなると)、図2(b)〜図2(d)に示すように、2つのピークが次第に明瞭ではなくなり、最終的には図2(e)に示すようにキュービック相単一のピークとなる。
【0027】
ここで、本発明者らは、例えば図2(b)から図2(d)に示す状態は、図3(a)及び図3(b)に示すように、テトラゴナル相のX線回折チャートとキュービック相の回折X線チャートが重なり合ったもの(すなわち、セラミック粉末がテトラゴナル相とキュービック相の混相)と仮定し、X線回折チャートについてリートベルト法による多相解析(ここでは2相解析)を試みた。なお、前記リートベルト法による多相解析については、前記2相解析に限らず、例えば3相以上の解析とすることも可能である。
【0028】
その結果、先ず第1に、前記2相解析結果は精密化に優れ、正確な解析が行われたことが示唆された。このことは、前記仮定(テトラゴナル相とキュービック相との混相であるという仮定)が正しかったことを支持するものと言え、比較的平均粒径が小さい(比表面積が大きい)セラミック粉末がテトラゴナル相とキュービック相との混相であることを把握するに至った。これまでチタン酸バリウム粉末について、テトラゴナル相とキュービック相の混相であるとの認識はなされたことがない。
【0029】
第2に、積層セラミックコンデンサ1の内部電極層3を形成する際に共材として用いる場合、前記テトラゴナル相とキュービック相の比率が特性に影響を与え、特に絶縁性や高温負荷時の耐久性を重視する場合には、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/WcをXとしたときに、X≧2とすることが有利であることがわかった。X≧2とすることで、積層セラミックコンデンサ1を構成する誘電体セラミック層2を薄層化したり積層数を増やした場合にも、絶縁性や高温負荷時の耐久性を改善することが可能である。
【0030】
前記重量比率Xは、例えばセラミック粉末の製造条件等によって変わり、同じようなX線回折チャートに見えても、実際に前記リートベルト法による多相解析を行うと、前記重量比率Xが異なる値となる場合がある。このような相違は、従来のX線回折解析では把握することができず、前記リートベルト法による多相解析によってその値を求め、前記条件を満たすものを選択することが必要となる。
【0031】
前記テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/Wc(=X)については、前記の通り、X≧2であることがペロブスカイト結晶構造を有するセラミック粉末の選択の基準となるが、この場合、テトラゴナル相とキュービック相の混相であることが前提であり、したがってテトラゴナル相単独の場合(Xの値が無限大)は含まない。また、前記Xの値については、例えば製造条件等を工夫しても自ずと限界があり、最大でも5(したがってX≦5)程度である。より好ましくはX≦3.00である。X>3であり且つ比表面積SSAが10m/gであるようなセラミック粉末を作製するには、テトラゴナル相を多くするための熱処理と粉砕工程が必要となり、生産コスト上好ましくない。
【0032】
本発明では、誘電体セラミック層2を薄層化しながら絶縁特性等を改善することが目的であり、したがって各誘電体セラミック層2の厚さは前記の通り3μm以下とすることが好ましく、内部電極層3の厚さは1.5μm以下とすることが好ましい。これに対応して、内部電極層3の形成において共材として使用するセラミック粉末は、比表面積SSA10m/g以上とすることが好ましい。比表面積SSAが10m/gである場合は、平均粒径は概ね0.1μmである。共材として使用するセラミック粉末の比表面積SSAが小さいと(平均粒径が大きいと)、内部電極層3の薄層化が難しくなる。
【0033】
以上のように、積層セラミックコンデンサ1においては、リートベルト法による多相解析に基づく原料選択方法により選択した原料(セラミック粉末)を内部電極層3を形成する際の共材として用いることで、積層セラミックコンデンサ1のさらなる小型化、大容量化を実現することが可能である。そこで次に、前記セラミック粉末を用いた積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。
【0034】
前述の構成を有する積層セラミックコンデンサを製造するには、焼成後に誘電体セラミック層2となる誘電体グリーンシートと、焼成後に内部電極層3となる電極前駆体層、さらには外装誘電体層6を構成する外装グリーンシートを準備し、これらを積層して積層体を形成する。
【0035】
誘電体グリーンシートは、セラミック粉末を含む誘電体ペーストを調製し、これをドクターブレード法等により支持体としてのキャリアシート上に塗布し、乾燥することにより形成することができる。誘電体ペーストは、母材となるセラミック粉末と有機ビヒクル又は水系ビヒクルとを混練することにより調製される。この誘電体ペーストを調製するにあたって、その平均粒径や比表面積は、誘電体セラミック層2の厚さに応じて選定すればよい。
【0036】
なお、前記誘電体ペーストの調製に用いる有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に制限されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、有機ビヒクルに用いる有機溶剤も特に限定されず、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。水系ビヒクルとは、水溶性のバインダや分散剤を水中に溶解したものであり、水溶性バインダとしては特に制限されず、例えばポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂等を用いればよい。
【0037】
また、前記誘電体グリーンシートの所定領域に導電材料を含む導電ペーストを印刷することにより、電極前駆体層を形成する。導電ペーストは、導電材料や共材(セラミック粉末)と有機ビヒクルとを混練することにより調製される。前記共材として、先に説明した要件を満たす(すなわち、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/Wcが2以上の)セラミック粉末を使用する。
【0038】
積層体を形成した後、脱バインダ処理、焼成、並びに誘電体セラミック層2及び外装誘電体層6を再酸化させるための熱処理を行い、焼結体(素子本体)を得る。脱バインダ処理、焼成及び再酸化のための熱処理は、これらを連続して行ってもよく、それぞれを独立に行ってもよい。
【0039】
脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、内部電極層3の導電材にNi、Ni合金等の卑金属を用いる場合、次のような条件で行うことが好ましい。すなわち、昇温速度を5〜300℃/時間、特に10〜50℃/時間とし、保持温度を200〜400℃、特に250〜340℃とし、保持時間を0.5〜20時間、特に1〜10時間とし、雰囲気を加湿したNとHとの混合ガスとする。
【0040】
焼成条件としては、昇温速度を50〜500℃/時間、特に200〜300℃/時間とし、保持温度を1100〜1300℃、特に1150〜1250℃とし、保持時間を0.5〜8時間、特に1〜3時間とし、雰囲気を加湿したNとHとの混合ガスとすることが好ましい。
【0041】
焼成に際して、雰囲気中の酸素分圧は10−2Pa以下とすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲を上回ると内部電極層3が酸化するおそれがある。ただし、酸素分圧が低すぎると、電極材料が異常焼結を起こし、内部電極層3が途切れる傾向にある。したがって、焼成雰囲気の酸素分圧は、10−2Pa〜10−8Paとすることが好ましい。
【0042】
焼成後の熱処理は、保持温度又は最高温度を通常は1000℃以上、好ましくは1000℃〜1100℃として行う。前記保持温度又は最高温度が1000℃未満の場合、誘電体材料の酸化が不十分なために絶縁抵抗寿命が短くなる傾向にあり、1100℃を越えると、内部電極層3中の導電材(Ni)が酸化し、積層セラミックコンデンサの容量や寿命に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0043】
前記熱処理の雰囲気は焼成よりも高い酸素分圧とし、好ましくは10−3Pa〜1Pa、より好ましくは10−2〜1Paである。前記熱処理雰囲気の酸素分圧が前記範囲未満の場合には誘電体層の再酸化が困難となり、逆に前記範囲を越えると内部電極層3が酸化するおそれがある。前記熱処理の条件は、保持時間を0〜6時間、特に2〜5時間とし、冷却速度を50〜500℃/時間、特に100〜300℃/時間とし、雰囲気を加湿したNガス等とする。
【0044】
最後に、得られた焼結体である素子本体に外部電極4,5を形成し、図1に示す積層セラミックコンデンサ1を得る。外部電極4,5は、例えば、焼結体の端面をバレル研磨やサンドブラスト等により研磨した後、外部電極用塗料を焼き付けることにより形成すればよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0046】
XRD(粉末X線回折)測定
粉末X線回折(XRD)測定は、粉末X線回折装置(リガク社製、商品名Rint2000)を用いて行い、リートベルト解析用のXRDプロファイルデータを得た。このとき、ステップ幅は0.01°、最大ピークカウントが約10000カウントとなるように電流、電圧を設定して測定を行った。
【0047】
リートベルト解析
得られたXRDプロファイルについて、リートベルト解析用ソフトウエアRIETAN−2000(Rev.2.4.1)(ウインドウズ用)を用いて解析を行った。各相の質量分率を求めるにあたっては、マイクロアブソープション(Microabsorption)を補正して質量分率を求めた。
【0048】
リートベルト法による多相解析の信頼性に関する検討
ペロブスカイト型結晶構造を有するチタン酸バリウム粉末(比表面積SSA6.16m/g、走査型電子顕微鏡SEMによる平均粒径0.16μm)について、リートベルト法による解析を試みた。リートベルト解析としては、テトラゴナル相(正方晶)単相としての解析、キュービック相(立方晶)単相としての解析、テトラゴナル相(正方晶)+キュービック相(立方晶)の2相としての解析の3種類である。各解析における信頼度因子を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
リートベルト解析の進み具合や観測強度と計算強度の一致の程度を評価するための指標のうち、最も重要なR因子はRwpである。ただし、Rwpは回折強度やバックグラウンド強度の影響を受けるため、統計的に予想される最小のRwpに等しいReとRwpとを比較するための指標S値(=Rwp/Re)が解析のフィットの良さを示す実質的な尺度として役立つ。S=1は精密化が完璧であることを意味し、Sが1.3より小さければ、満足すべき解析結果といって差し支えない。このような観点から表1を見ると、正方晶と立法晶の2相として解析した結果のs値が1.3以下となっており、単相で解析した場合よりもs値が小さく、解析したセラミック粉末が正方晶と立方晶の2相と考える方が妥当であることがわかる。
【0051】
セラミック粉末におけるテトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/Wc(=X)に関する検討
各種セラミック粉末(チタン酸バリウム粉末)を用い、前述した製造方法に準じて積層セラミックコンデンサを作製した(実施例1〜4、比較例1、2)。作製した積層セラミックコンデンサの寸法は、1.0mm×0.5mm×0.5mmであり、誘電体セラミック層の積層数は160、誘電体セラミック層1層あたりの厚みは1.6μm、内部電極層の厚みは1.0μmとした。内部電極層の形成に使用した導電ペーストに含まれるセラミック粉末(共材)の比表面積SSA、走査電子顕微鏡により計測した平均粒径(SEM粒径)、テトラゴナル相の含有量Wt、キュービック相の含有量Wc、これらの重量比率Wt/Wc(=X)、焼結体の粒径、粒径のバラツキ(標準偏差)σ、作製した積層セラミックコンデンサのIR不良率、IR寿命を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2において、焼結体の粒径バラツキσ<0.10、IR不良率<50/1000、IR寿命>100を良好と判定すると、共材として使用するセラミック粉末において、テトラゴナル相とキュービック相の重量比率Wt/Wc(=X)≧2とすることで、図部手の項目において良好と判定される。これに対して、前記重量比率Wt/Wcが2未満であると、いずれの特性も不十分である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】積層セラミックコンデンサの一構成例を示す概略断面図である。
【図2】(a)〜(e)は、チタン酸バリウム粉末のX線回折チャートの変化の様子を模式的に示す図である。
【図3】(a)はテトラゴナル相とキュービック相のX線回折チャートであり、(b)は混相と仮定したときのX線回折チャートである。
【符号の説明】
【0055】
1 積層セラミックコンデンサ、2 誘電体セラミック層、3 内部電極層、4,5 外部電極、6 外装誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品の前記内部電極層を形成するための導電ペーストに添加されるセラミック粉末であって、
ペロブスカイト型結晶構造を有し、テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcの重量比率Wt/WcをXとしたときに、X≧2であることを特徴とするセラミック粉末。
【請求項2】
前記テトラゴナル相の含有量Wtとキュービック相の含有量Wcは、リートベルト法による多相解析により求められた値であることを特徴とする請求項1記載のセラミック粉末。
【請求項3】
比表面積が10m/g以上であることを特徴とする請求項1または2記載のセラミック粉末。
【請求項4】
チタン酸バリウム粉末を主成分とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のセラミック粉末。
【請求項5】
誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品の前記内部電極層を形成するための導電ペーストであって、
導電材料とセラミック粉末を含有し、前記セラミック粉末として請求項1から4のいずれか1項記載のセラミック粉末を含むことを特徴とする導電ペースト。
【請求項6】
前記導電材料は、卑金属を主成分とすることを特徴とする請求項5記載の導電ペースト。
【請求項7】
前記卑金属がNiであることを特徴とする請求項6記載の導電ペースト。
【請求項8】
誘電体セラミック層と内部電極層とが交互に積層された積層セラミック電子部品であって、
前記内部電極層は、請求項5から7のいずれか1項記載の導電ペーストにより電極前駆体層を形成し、これを焼成することにより形成されることを特徴とする積層セラミック電子部品。
【請求項9】
積層セラミックコンデンサであることを特徴とする請求項8記載の積層セラミック電子部品。
【請求項10】
誘電体ペーストと導電ペーストにより誘電体グリーンシートと電極前駆体層とを交互に積層形成した後、これを焼成して積層セラミック電子部品とするに際し、
前記導電ペーストとして請求項5から7のいずれか1項記載の導電ペーストを用いることを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−243026(P2007−243026A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65946(P2006−65946)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
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【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】