説明

セラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法

【課題】異なる材料の誘電体層を積層して形成しても積層された誘電体層同士の間で剥離が生じるのを抑制することができるセラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態のセラミック電子部品10は、第1の誘電体層11と、第2の誘電体層12と、中間層13とを含むものである。第1の誘電体層11は、BaOとNd23とTiO2とを含む層であり、第2の誘電体層12は第1の誘電体層11とは異なる材料を含む層であり、中間層13は第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に形成され、主成分として第1の誘電体層11および第2の誘電体層12の双方に共通に含まない主成分を含む層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信機器、AV機器、及びコンピュータ機器等の分野では製品の小型化及び高性能化の進展により、これらに用いられている各種電子部品についても小型化及び高性能化が要求されている。このような各種電子部品の小型化及び高性能化に対応するため、電極や配線等の導体(以下、「内部導体」という。)を基板に備えた表面実装型デバイス(SMD:Surface Mount Device)が電子デバイスとして主流となっている。
【0003】
SMDは電子デバイスを構成するICチップやその他のチップ部品等の各部品を搭載したプリント基板を有している。SMDに搭載される電子デバイスとして材料特性の異なる複数種の磁器組成物を同時に焼成して得られる積層型のセラミック電子部品が用いられている。積層型のセラミック電子部品としては、例えば、磁性体と誘電体とを組み合わせてなるLCフィルター、高誘電率材料と低誘電率材料とを組み合わせてなるコンデンサーを内蔵した回路基板(素子)等が挙げられる。
【0004】
LCフィルターの場合、L部を構成する部分のセラミック材料には自己共振周波数を高くとれるように高いQ値を有する低誘電率材料を、C部には温度特性が良く誘電率の高い材料を選択することで、Q値が高く、かつ温度特性が良いLC素子を実現できる。また、コンデンサーの場合、高誘電率材料と低誘電率材料とを組み合わせることで、高誘電率材料のみからなるコンデンサーに比して分布容量が低減でき、かつ低誘電率材料のみからなるコンデンサーに比して大容量化することができる。
【0005】
積層型のセラミック電子部品としては、例えば、マイクロ波帯での比誘電率が高く、かつ高Q値を有する絶縁層と、比誘電率が低い絶縁層とを同時に焼成一体化してなる回路基板がある(例えば、特許文献1参照)。また、他の積層型のセラミック電子部品としては、誘電率の異なる材料を層状に配列して一体焼成した誘電体共振器がある(例えば、特許文献2、3参照)。更に、他の積層型のセラミック電子部品としては、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間に組成比が第1および第2のグリーンシートの中間である第3のガラスセラミックスのガラスセラミック層を介在させ、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートと第3のグリーンシートとの成分を同一としたグリーンシート積層体がある(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−284807号公報
【特許文献2】特開昭61−212101号公報
【特許文献3】特開平02−086188号公報
【特許文献4】特許第2739767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、異なる材料を同時に焼成することによって複数の誘電体層を積層させて電子デバイスを形成すると、場合によっては誘電体層同士の接着が不十分となり、誘電体層が剥離し易くなる虞がある、という問題がある。そのため、複数の誘電体層を積層させたセラミック電子部品を電子デバイスとして用いる場合、組み合わせる誘電体層の材料について制限を受ける虞があるため、こうした組み合わせる誘電体層の材料の制限を受けないセラミック電子部品の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、異なる材料の誘電体層を積層して形成しても積層された誘電体層同士の間で剥離が生じるのを抑制することができるセラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、BaOとNd23とTiO2とを含む第1の誘電体層と、前記第1の誘電体層とは異なる材料を含む第2の誘電体層と、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との間に設けられ、主成分として前記第1の誘電体層および前記第2の誘電体層の双方に共通に含まない主成分を含む中間層と、を含むことを特徴とするセラミック電子部品である。
【0010】
中間層は、第1の誘電体層および第2の誘電体層の双方に共通に含まない主成分を誘電体材料の主成分として含むため、中間層は、第1の誘電体層に含まれる主成分の中で第2の誘電体層に含まない主成分を共通成分として有すると共に、第2の誘電体層に含まる主成分の中で第1の誘電体層に含まない主成分を共通成分として有する。このため、中間層に含まれる第1の誘電体層の主成分と共通する成分は第1の誘電体層との境界部においてポアの発生や第1の誘電体層と中間層との間にずれを生じることがなく、第1の誘電体層との反応性が向上する。また、中間層に含まれる第2の誘電体層の主成分と共通する成分は第2の誘電体層との境界部においてポアの発生や第2の誘電体層と中間層との間にずれを生じることがなく、第2の誘電体層との反応性が向上する。また、第1の誘電体層と第2の誘電体層とを積層して同時焼成する際、第1の誘電体層を形成する成分と第2の誘電体層を形成する成分とが異なる材料であると、熱による収縮挙動が異なることが考えられる。そのため、第1の誘電体層を形成する成分と第2の誘電体層を形成する成分とは同一成分を含み、第1の誘電体層を形成する成分と第2の誘電体層を形成する成分として用いられる材料は限定されやすい。更に、第1の誘電体層を形成する材料と第2の誘電体層を形成する材料とが直接接触している場合、各々の誘電体層を形成する材料の境界部におけるポアの発生や誘電体層同士の間のずれなど反応性を考慮する必要が生じる。本発明は、第1の誘電体層を形成する材料と第2の誘電体層を形成する材料との間に中間層を形成する材料が存在するため、第1の誘電体層を形成する成分と第2の誘電体層を形成する成分とが同一であるか否かを問わずポアの発生や誘電体層と中間層との間にずれを生じることがなく、同時焼成することが可能となる。
【0011】
よって、本発明によれば、第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に中間層が存在することで、第1の誘電体層と第2の誘電体層とは中間層を介して強い接着力を有しながら積層させることができ、複数の誘電体層が積層された誘電体層同士の剥離を抑制することができる。これにより、本発明により得られるセラミック電子部品は電子デバイスに安定して用いることができる。
【0012】
本発明では、前記第1の誘電体層は、BaOとNdとTiOとを主成分とし、酸化物類を副成分として含み、前記第2の誘電体層は、Mg2SiO4を主成分とし、酸化物類とガラスを副成分として含むことが好ましい。これにより、第1の誘電体層は、BaNdTi系酸化物を含み、第2の誘電体層は、MgO・SiO2を含むため、中間層は、双方の誘電体層に共通しない成分としてBaNdTi系酸化物とMgO・SiO2とを主成分として含むことができる。中間層は、第1の誘電体層の主成分と共通する成分を含むと共に、第2の誘電体層の主成分と共通する成分を含むことができるため、中間層は第1の誘電体層及び第2の誘電体層の双方との接着力を向上させることができる。よって、第1の誘電体層を形成する材料と第2の誘電体層を形成する材料との同時焼成を可能とし、更に安定して第1の誘電体層と第2の誘電体層とを中間層を介して強い接着力を有しながら積層させることができると共に、積層された誘電体層同士の剥離を抑制することができる。
【0013】
本発明では、前記中間層は、前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部に前記第2の誘電体層に含まれず前記第1の誘電体層にのみ含まれている成分の割合を前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部より多く含むと共に、前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部に前記第1の誘電体層に含まれず前記第2の誘電体層にのみ含まれている成分の割合を前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部より多く含むことが好ましい。これにより、中間層に含まれる第1の誘電体層と共通する成分は第1の誘電体層の境界部でポアの発生や第1の誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制し、反応性が向上する。また、中間層に含まれる第2の誘電体層と共通する成分は第2の誘電体層の境界部でポアの発生や第2の誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制し、反応性が向上する。第1の誘電体層を形成する材料と第2の誘電体層を形成する材料との間に中間層を形成する材料を含めることで、第1の誘電体層を形成する材料と第2の誘電体層を形成する材料とが異なる材料から構成されるものであっても第1の誘電体層を形成する材料と第2の誘電体層を形成する材料とを同時に焼成することが可能となる。
【0014】
本発明では、前記中間層は、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との何れか一方又は両方に含まれる成分の割合を、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との何れか一方又は両方に含まれる成分の割合が高い誘電体層側から低い誘電体層側に向かって低くなるように含むことが好ましい。中間層内では、中間層と第1の誘電体層とが共通で含む成分が第1の誘電体層側により多く拡散し、中間層と第2の誘電体層とが共通で含む成分が第2の誘電体層側により多く拡散することで、より誘電体層と中間層との境界部でポアの発生や誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制し、中間層の第1の誘電体層と第2の誘電体層との接着力を向上させるのに寄与していることが考えられる。このため、第1の誘電体層と第2の誘電体層とは中間層を介して強い接着力を有しながら安定して積層させることができる。
【0015】
本発明では、前記中間層は、前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部に前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部よりNd23およびTiO2を多く含み、かつ前記第1の誘電体層側から前記第2の誘電体層側に向かってNd23およびTiO2が少なくなるように含むと共に、前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部に前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部よりMgOとSiO2とSrOとCaOとを多く含み、かつ前記第2の誘電体層側から前記第1の誘電体層側に向かってMgOとSiO2とSrOとCaOとが少なくなるように含むことが好ましい。第1の誘電体層を形成する母材と第2の誘電体層を形成する母材には、BaOが共通で存在するが、濃度比は第1の誘電体層を形成する母材の方が第2の誘電体層を形成する母材より多くする。このため、第1の誘電体層を形成する母材側から第2の誘電体層を形成する母材側にBaOが拡散するのに伴い、第1の誘電体層を形成する母材中に含まれる2価イオンの均衡が変化する。このとき、第2の誘電体層を形成する母材側からMgOとSrOとCaOとが拡散し、中間層に含まれる成分は均衡を保つようにしていることが考えられる。また、BaOとNd23とTiO2とは、タングステンブロンズ系の結晶構造を主とした安定した化合物を作ると考えられる。そのため、BaOが第1の誘電体層側から第2の誘電体層側に拡散するのに追従してNd23とTiO2とが移動していくと考えられる。更に、SiO2はMgOと安定した化合物を形成しやすい性質があるため、MgOの拡散に伴いSiO2も拡散すると考えられる。このように、BaOの拡散に伴い、中間層を形成する成分の拡散が生じる。Nd23およびTiO2は、中間層と第1の誘電体層との境界部に多く拡散し、第2の誘電体層側に向かってその割合が少なくなるように拡散することで、第1の誘電体層と中間層との境界部でポアの発生や第1の誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制し、接着力が向上する。また、MgOとSiO2とSrOとCaOとは、中間層と第2の誘電体層との境界部に多く拡散し、第1の誘電体層側に向かってその割合が少なくなるように拡散することで、第2の誘電体層と中間層との境界部でポアの発生や第2の誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制し、接着力が向上する。
【0016】
本発明は、Ba及びNd及びTiを含む第1の母材と少なくともZnOを含む第1の添加物とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第1の完成材を作製し、前記第1の母材とは異なる材料を含む第2の母材と少なくともZnOを含む第2の添加物とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第2の完成材を作製すると共に、前記第1の母材および前記第2の母材の双方に共通に含まない材料を含む中間材を酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第3の完成材を作製する完成材作製工程と、前記第1の完成材を含む第1のスラリーをシート状に形成する第1のシート体と、第2の完成材を含む第2のスラリーをシート状に形成する第2のシート体との間に、前記中間材を含む第3のスラリーをシート状に形成した第3のシート体を積層し、第1のシート体と第3のシート体と第2のシート体との順に交互に積層し、シート積層体を形成するシート積層体形成工程と、前記シート積層体を焼成して積層焼結体を作製する積層焼結体作製工程と、を含むことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法である。
【0017】
中間層は、第1の母材および第2の母材との双方に共通に含まない材料を含む中間材を含んで焼結されて形成されるものであるから、誘電体層と中間層との間でポアの発生や誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制し、第1の誘電体層と第2の誘電体層とは中間層を介して強い接着力を有しながら安定して積層させることができる。これにより、本発明は異なる材料のシート体を複数積層して積層焼結体を形成しても、積層された誘電体層同士の剥離を抑制することができる。このため、本発明により得られるセラミック電子部品は電子デバイスに安定して用いることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、異なる材料の誘電体層を積層して形成しても積層された誘電体層同士の間で剥離が生じるのを抑制することができるセラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るセラミック電子部品の構成を簡略に示す正面断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】図3は、本実施形態のセラミック電子部品をLCフィルターとした場合の一実施形態を模式的に示す概念図である。
【図4】図4は、中間層に含まれる成分の拡散状態を模式的に示す説明図である。
【図5】図5は、中間層の第1の誘電体層側の領域と第2の誘電体層側の領域を簡略に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
[実施形態]
以下、本発明のセラミック電子部品の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るセラミック電子部品の構成を簡略に示す正面断面図である。図1に示すように、本実施形態のセラミック電子部品10は、第1の誘電体層11と、第2の誘電体層12と、中間層13とを含むものである。第1の誘電体層11は、BaOとNd23とTiO2とを含む層であり、第2の誘電体層12は第1の誘電体層11とは異なる材料を含む層であり、中間層13は第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に形成され、主成分として第1の誘電体層11および第2の誘電体層12の双方に共通に含まない主成分を含む層である。
【0022】
<第1の誘電体層>
第1の誘電体層11は、その主成分がBaOとNd23とTiO2とを含むもので構成されている。
【0023】
(主成分)
第1の誘電体層11の主成分は、BaOとNd23とTiO2とを少なくとも含んでいる。主成分は、例えば、BaO−Nd23−TiO2系、Bi23−BaO−Nd23−TiO2系等の誘電体セラミックスである。BaOとNd23とTiO2との各々の含有量は特に限定されるものではなく、適宜調整するようにしてもよい。
【0024】
BaO−Nd23−TiO2系の化合物の場合、好ましくは、下記式(1)で表される組成式において下記式(2)から式(5)で表される関係を満たすものが好ましい。なお、下記式(1)から(5)のx、y、zは、モル%である。
xBaO・yNd23・zTiO2 ・・・(1)
6.0≦x≦23.0 ・・・(2)
13.0≦y≦30.0 ・・・(3)
64.0≦z≦68.0 ・・・(4)
x+y+z=100 ・・・(5)
【0025】
通常、理想的な誘電体磁器に交流を印加すると電流と電圧は90度の位相差をもつ。しかし、交流の周波数が高くなり高周波となると誘電体磁器の電気分極又は極性分子の配向が高周波の電場の変化に追従できないか、電子又はイオンが伝導することにより電束密度が電場に対して位相の遅れ(位相差)を持ち、現実の電流と電圧は90度以外の位相を持つことになる。このような位相差に起因して高周波のエネルギーの一部が熱となって放散する現象を誘電損失という。誘電損失の大きさは、上記のQ・f値で表される。誘電損失が小さくなればQ・f値は大きくなり、誘電損失が大きくなればQ・f値は小さくなる。
【0026】
なお、Q・f値とは、誘電損失の大きさを表し、現実の電流と電圧の位相差と、理想の電流と電圧の位相差90度との差である損失角度δの正接tanδの逆数Q(Q=1/tanδ)と、共振周波数fとの積である。
【0027】
(副成分)
第1の誘電体層11は、更にその副成分を含んでいてもよい。第1の誘電体層11に含まれる副成分は、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ホウ素(B23)、酸化銅(CuO)であるが、特にこれに限定されるものでない。
【0028】
上記の各副成分が第1の誘電体層11に含有されることによって第1の誘電体層11の焼結温度を低下させることができる。セラミック電子部品10の内部導体等はAg系金属からなる導体材などが用いられる。第1の誘電体層11に各副成分を含め、第1の誘電体層11の焼結温度を導体材の融点より低くすることで、第1の誘電体層11を低い温度で焼成することができる。
【0029】
副成分の含有量は特に限定されるものではないが、全ての主成分の和に対する全ての副成分の和の量は0.3質量%以上12.0質量%以下であることが好ましい。
【0030】
副成分として酸化亜鉛が含まれる場合、酸化亜鉛の含有量は、酸化亜鉛の質量をZnOとして換算したとき、ZnOの質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上7.0質量%以下であることが好ましく、1.5質量%以上7.0質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
副成分として酸化ホウ素が含まれる場合、酸化ホウ素の含有量は、酸化ホウ素の質量をB23として換算したとき、B23の質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
副成分として酸化銅が含まれる場合、酸化銅の含有量は、酸化銅の質量をCuOとして換算したとき、CuOの質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上1.3質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
<第2の誘電体層>
第2の誘電体層12は、第1の誘電体層11と異なる材料を含む誘電体層である。第2の誘電体層12は、第1の誘電体層11と同様、主成分と副成分とで構成されるが、主成分のみで構成されていてもよい。本実施形態では、第2の誘電体層12は主成分と副成分とを含んで構成される。また、第1の誘電体層11と異なる材料を含む誘電体層とは、第2の誘電体層12の成分が、第1の誘導体層11の成分と完全同一でなければよい。例えば、第1の誘導体層11の成分の一部が第2の誘電体層12に含まれていてもよい。
【0034】
(主成分)
第2の誘電体層12の主成分は、第1の誘電体層11と異なる材料であればよく、その種類は特に限定されるものではない。第2の誘電体層12の主成分は、公知のものを用いることができる。第2の誘電体層12に含まれる主成分は、例えば、フォルステライト(2MgO・SiO2)、エンスタタイト(MgO・SiO2)、ディオプサイド(CaO・MgO・2SiO2)等である。これらの中でも比誘電率εrが低く、かつQ・f値が大きいという観点から、フォルステライトを主成分とする誘電体層が好ましい。
【0035】
(副成分)
第2の誘電体層12に含まれる副成分は、第1の誘電体層11に含まれる副成分と同様のものが用いられる。また、第2の誘電体層12に含まれる主成分がフォルステライトのみである場合、フォルステライトのみを低温焼結させる場合は副成分の含有量は多くなる。このため、第2の誘電体層12に含まれる副成分の含有量は、全ての主成分の和に対する全ての副成分の和の量は16.1質量%以上48.0質量%以下であることが好ましい。
【0036】
副成分として酸化亜鉛が含まれる場合、酸化亜鉛の含有量は、酸化亜鉛の質量をZnOとして換算したとき、ZnOの質量比率は主成分100質量%に対して9.0質量%以上18.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上16.0質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
副成分として酸化ホウ素が含まれる場合、酸化ホウ素の含有量は、酸化ホウ素の質量をB23として換算したとき、B23の質量比率は主成分100質量%に対して4.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
副成分として酸化銅が含まれる場合、酸化銅の含有量は、酸化銅の質量をCuOとして換算したとき、CuOの質量比率は主成分100質量%に対して1.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上6.0質量%以下であることがより好ましい。
【0039】
副成分としてアルカリ土類金属酸化物である酸化カルシウムが含まれる場合、酸化カルシウムの含有量は、CaCO3として換算したとき、CaCO3の質量比率は主成分100質量%に対して0.1質量%以上6.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上4.0質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
副成分としてガラスが含まれる場合、ガラスの含有量は、主成分100質量%に対して2.0質量%以上6.0質量%以下であることが好ましく、4.0質量%以上6.0質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
副成分としては、上記の酸化亜鉛、酸化ホウ素、酸化銅、アルカリ土類金属酸化物、ガラスに限定されるものではなく、Bi23、CoO、MnOなど少なくとも一つ以上を含んでもよい。
【0042】
<中間層>
中間層13は、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に形成され、主成分として第1の誘電体層11および第2の誘電体層12の双方に共通に含まない主成分を含む層である。第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に中間層13が存在することで、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13の境界部でポアの発生や誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制することができるので、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13を介して強い接着力を有しながら積層させることができる。このため、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に中間層13が形成されることによって、積層された第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との剥離を抑制することができる。
【0043】
中間層13は、第1の誘電体層11に含まれる主成分の中で第2の誘電体層12に含まない主成分を共通成分として有すると共に、第2の誘電体層12に含まれる主成分の中で第1の誘電体層11に含まない主成分を共通成分として有する。このため、中間層13に含まれる第1の誘電体層11の主成分と共通する成分は第1の誘電体層11との境界部においてポアの発生や第1の誘電体層11と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、第1の誘電体層11との反応性が向上する。また、中間層13に含まれる第2の誘電体層12の主成分と共通する成分は第2の誘電体層12との境界部においてもポアの発生や第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、第2の誘電体層12との反応性が向上する。
【0044】
第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とを積層して同時焼成する際、第1の誘電体層11を形成する成分と第2の誘電体層12を形成する成分とが異なる材料であると、熱による収縮挙動が異なることが考えられる。そのため、第1の誘電体層11を形成する成分と第2の誘電体層12を形成する成分とは同一成分を含み、第1の誘電体層11を形成する成分と第2の誘電体層12を形成する成分として用いられる材料は限定されやすい。また、第1の誘電体層11を形成する材料と第2の誘電体層12を形成する材料とが直接接触している場合、各々の誘電体層を形成する材料の境界部におけるポアの発生や誘電体層同士の間のずれなど反応性を考慮する必要が生じる。本実施形態では、第1の誘電体層11を形成する材料と第2の誘電体層12を形成する材料との間に中間層13を形成する材料が存在するため、第1の誘電体層11を形成する成分と第2の誘電体層12を形成する成分とが同一であるか否かを問わずポアの発生や第1の誘電体層又は第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、同時焼成することが可能となる。
【0045】
よって、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に中間層13が存在することで、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13との境界部でポアの発生や誘電体層と中間層との間にずれが生じることを抑制することができるので、中間層13を介して強い接着力を有しながら積層させることができ、複数の誘電体層が積層された誘電体層同士の剥離を抑制することができる。
【0046】
中間層13は、中間層13と第1の誘電体層11との境界部に第2の誘電体層12に含まれず第1の誘電体層11にのみ含まれている成分の割合を、中間層13と第2の誘電体層12との境界部より多く含むようにしてもよい。また、中間層13と第2の誘電体層12との境界部に第1の誘電体層11に含まれず第2の誘電体層12にのみ含まれている成分の割合を中間層13と第1の誘電体層11との境界部より多く含むようにしてもよい。中間層13と第1の誘電体層11との境界部には、第1の誘電体層11にのみ含まれている成分の割合が中間層13と第2の誘電体層12との境界部より多く含むことで、中間層13は第1の誘電体層11の境界部でポアの発生や第1の誘電体層11と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、反応性を向上させることができる。また、中間層13と第2の誘電体層12との境界部には、第2の誘電体層12にのみ含まれている成分の割合が中間層13と第1の誘電体層11との境界部より多く含むことで、中間層13は第2の誘電体層12の境界部でポアの発生や第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、反応性を向上させることができる。
【0047】
このため、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とが異なる材料を含んでなるものであっても中間層13を形成する材料を第1の誘電体層11を形成する材料および第2の誘電体層12を形成する材料との間に設けることで、同時に焼成し、中間層13と第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12との接着力を向上させることができる。
【0048】
第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との両方に同一の成分が含まれている場合、中間層13は、第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12の何れかの誘電体層内に含まれる成分の割合が多い方の誘電体層との境界部に第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12を形成する成分が多く含まれる。これは、誘電体層を形成する材料に含まれる成分の割合が多い方の方が、中間層を形成する材料中に拡散する成分の量が多くなる傾向があるからである。
【0049】
中間層13は、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との何れか一方に含まれる成分の割合は、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との何れか一方に含まれる成分の割合が高い誘電体層側から低い誘電体層側に向かって低くなるように含むようにしてもよい。中間層13内では、中間層13と第1の誘電体層11とが共通で含む成分が第1の誘電体層11側により多く拡散し、第2の誘電体層12に向かってその拡散量が少なくなるようにする。中間層13と第2の誘電体層12とが共通で含む成分が第2の誘電体層12側により多く拡散し、第1の誘電体層11に向かってその拡散量が少なくなるようにする。中間層13は、第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12の何れかの誘電体層と共通に含む成分をその誘電体層側に多く含むように拡散させることで、より第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12と中間層13との境界部でポアの発生や第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、中間層13の第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との接着力を向上させるのに寄与していることが考えられる。このため、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13を介して強い接着力を有しながら安定して積層させることができる。
【0050】
中間層13は、BaOとNd23とTiO2とMgOとSiO2とSrOとCaOとを少なくとも含む層であることが好ましい。また、中間層13は、更にZnOとBi23とCoOとMnO2とAg2OとCuOとを含んでもよい。
【0051】
中間層13は、中間層13と第1の誘電体層11との境界部に中間層13と第2の誘電体層12との境界部よりNd23およびTiO2を多く含み、第1の誘電体層11側から第2の誘電体層12側に向かってNd23およびTiO2が少なくなるように含むと共に、中間層13と第2の誘電体層12との境界部に中間層13と第1の誘電体層11との境界部よりMgOとSiO2とSrOとCaOとを多く含み、第2の誘電体層12側から第1の誘電体層11側に向かってMgOとSiO2とSrOとCaOとが少なくなるように含むようにしてもよい。
【0052】
第1の誘電体層11を形成する第1の母材と第2の誘電体層12を形成する第2の母材には、BaOが共通で存在するが、濃度比は第1の誘電体層11を形成する第1の母材の方が第2の誘電体層12を形成する第2の母材より多くする。このため、第1の誘電体層11を形成する第1の母材側から第2の誘電体層12を形成する第2の母材側にBaOが拡散するのに伴い、第1の誘電体層11を形成する第1の母材中に含まれる2価イオンの均衡が変化する。このとき、第2の誘電体層12を形成する第2の母材側からMgOとSrOとCaOとが拡散し、中間層13に含まれる成分は均衡を保つように調整されていることが考えられる。また、BaOとNd23とTiO2とは、タングステンブロンズ系の結晶構造を主とした安定した化合物を作ると考えられる。そのため、BaOが第1の誘電体層11側から第2の誘電体層12側に拡散するのに追従してNd23とTiO2とが移動していくと考えられる。更に、SiO2はMgOと安定した化合物を形成しやすい性質があるため、MgOの拡散に伴いSiO2も拡散すると考えられる。このように、BaOの拡散に伴い、中間層13を形成する成分の拡散が生じる。Nd23およびTiO2は、中間層13と第1の誘電体層11との境界部に多く拡散し、第2の誘電体層12側に向かってその割合が少なくなるように拡散する。これにより、第1の誘電体層11と中間層13との境界部でポアの発生や第1の誘電体層11と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、接着力が向上する。また、MgOとSiO2とSrOとCaOとは、中間層13と第2の誘電体層12との境界部に多く拡散し、第1の誘電体層11側に向かってその割合が少なくなるように拡散している。これにより、第2の誘電体層12と中間層13との境界部でポアの発生や第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、接着力が向上する。
【0053】
第1の誘電体層11にNd23およびTiO2が含まれ、第2の誘電体層12にNd23およびTiO2が含まれない場合、Nd23およびTiO2は第1の誘電体層11側から第2の誘電体層12側に向かって少なくなるように含むことで、第1の誘電体層11と中間層13との境界部でポアの発生や第1の誘電体層11と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、接着力が向上する。また、第2の誘電体層12にMgOとSiO2とSrOとCaOとが含まれ、第1の誘電体層11にMgOとSiO2とSrOとCaOとが含まれない場合、MgOとSiO2とSrOとCaOとが第2の誘電体層12側から第1の誘電体層11側に向かって少なくなるように含むことで、第2の誘電体層12と中間層13との境界部でポアの発生や第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、接着力が向上する。
【0054】
よって、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とが異なる材料からなる層であり、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とを積層して形成しても、中間層13が第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に存在することにより、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13を介して強い接着力を有しながら安定して積層させることができる。このため、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に中間層13が形成されることによって、積層される第1の誘電体層11と第2の誘電体層12同士の剥離を抑制することができる。
【0055】
本実施形態では、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との双方にZnOを含むようにしてもよい。ZnOとTiO2とを含む層はめっき液に浸漬しても、めっき液がZnOとTiO2とを含む層の内部に浸入することを抑制する効果がある。第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とにTiO2が含まれている場合、ZnOが第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との双方に含まれていると、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間の中間層13ではZnOとTiO2とが反応して生成する化合物の量が多くなることが考えられる。これにより、めっき液が中間層13の内部へ浸入するのを更に確実に防ぐことができる。また、ZnOとTiO2とが反応して形成されたZnTiO3系の結晶相が第1の誘電体層11と中間層13との接着力と第2の誘電体層12と中間層13との接着力と向上させるのに寄与していることが考えられる。このため、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との双方にZnOが含まれるようにすることで、積層された第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間の剥離を更に確実に防ぐことができる。
【0056】
中間層13に含まれるBaの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるBaの形態はBaOであることが好ましい。
【0057】
中間層13に含まれるNdの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるNdの形態はNd23であることが好ましい。
【0058】
中間層13に含まれるTiの形態は特に限定されるものではなく、単体、チタン酸化物、チタン化合物などが挙げられる。チタン化合物としては、塩化チタン等などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるTiの形態はTiO2であることが好ましい。
【0059】
中間層13に含まれるMgの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化マグネシウム、化合物などが挙げられる。化合物としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるMgの形態はMgOであることが好ましい。
【0060】
中間層13に含まれるSiの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるSiの形態はSiO2であることが好ましい。
【0061】
中間層13に含まれるSrの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるSrの形態はSrOであることが好ましい。
【0062】
中間層13に含まれるZnの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物、亜鉛化合物などが挙げられる。亜鉛化合物としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるZnの形態はZnOであることが好ましい。
【0063】
中間層13に含まれるBiの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるBiの形態はBi23であることが好ましい。
【0064】
中間層13に含まれるCoの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるCoの形態はCoOであることが好ましい。
【0065】
中間層13に含まれるMnの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるMnの形態はMnO2であることが好ましい。
【0066】
中間層13に含まれるCaの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるCaの形態はCaOであることが好ましい。
【0067】
中間層13に含まれるAgの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化物などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるAgの形態はAg2Oであることが好ましい。
【0068】
中間層13に含まれるCuの形態は特に限定されるものではなく、単体、酸化銅、銅化合物などが挙げられる。銅化合物としては、硫酸銅、塩化銅等などが挙げられる。セラミック電子部品に用いられる際の導電性、寿命などの観点から、中間層13に含まれるCuの形態はCuOであることが好ましい。
【0069】
本実施形態においては、上記成分の配合比率は特に限定されるものでなく適宜調整するようにする。
【0070】
中間層13は中間層13に含まれる成分として上記成分以外に、Fe23、NiOなどを含むようにしてもよい。
【0071】
中間層13の厚さは、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との材質等に基づいて適宜好適な厚さとすることができ、特に限定されるものでない。中間層13の第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12との境界面付近の誘電特性を維持しつつ、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とを安定して積層させるという観点から、中間層13の厚さは1μm以上20μm以下であるのが好ましい。中間層13の厚さが1μmを下回ると、第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12との境界面付近の誘電特性を維持することができないからである。中間層13の厚さが20μmを越えると、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とを安定して積層させることができないからである。また、あまり中間層の厚さを大きくすると、製品の厚さ方向の大きさ規格で外れる虞があるため、20μm以下であることが好ましい。
【0072】
本実施形態において、中間層13と第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12との境界面は、例えば中間層13と第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12との境界面付近に含まれる材料成分の量の割合、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)でcompo像観察する際に見られる明暗の差等から中間層13と第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12との境界面を特定することができる。
【0073】
(中間層の形成方法)
中間層13の形成方法としては、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とを同時に焼成することにより形成する方法がある。第1の誘電体層11は第1の誘電体層11を構成するために用いられる第1の母材と第1の添加物で構成され、第2の誘電体層12は第2の誘電体層12を構成するために用いられる第2の母材と第2の添加物で構成され、第1の母材および第2の母材との双方に共通に含まない材料を含む中間材で構成されている。これらの第1の母材と第1の添加物と第2の母材と第2の添加物と中間材とが同時に焼成して第1の誘電体層11と第2の誘電体層12と中間層13とが形成されると共に、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12と中間層13とを一体化させることができる。
【0074】
また、中間層13を形成する方法は特にこれに限定されるものでなく、第1の誘電体層11を形成するために用いられる第1の母材と第1の添加物と中間材と積層して焼成した後、形成された中間層13に第2の誘電体層12を形成するために用いられる第2の母材と第2の添加物とを積層して焼成するようにしてもよい。また、第2の誘電体層12と中間材とを積層して焼成した後、形成された中間層13に第1の母材と第1の添加物とを積層して焼成するようにしてもよい。
【0075】
第1の母材と第1の添加物とを仮焼きして仮焼き粉を作製する際、焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830℃以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。
【0076】
第2の母材と第2の添加物とを仮焼きして仮焼き粉を作製する場合も、上記と同様に、焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830℃以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。
【0077】
中間材を仮焼きして仮焼き粉を作製する場合も、上記と同様に、焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830℃以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。
【0078】
第1の母材と第1の添加物とを仮焼きした後に微粉砕工程を経て所望の粒度に粉砕し、第1の完成材を得る。第2の母材と第2の添加物とを仮焼きした後に微粉砕工程を経て所望の粒度に粉砕し、第2の完成材を得る。中間材を仮焼きした後に微粉砕工程を経て所望の粒度に粉砕し、第3の完成材を得る。第1の完成材と第2の完成材と第3の完成材とは、各々、後述するように、スラリーに含めて塗料とした後、第1のシート体と第2のシート体と第3のシート体を作成し、第1のシート体と第2のシート体との間に第3のシート体を積層し、第1のシート体と第3のシート体と第2のシート体との順に各々のシート体を交互に積層してシート積層体として同時に焼成する。この際、焼成温度は中間層が形成されるのに好ましい温度が最適であり、例えば、850℃以上950℃以下であることが好ましく、880℃以上920℃以下であることがより好ましく、900℃以上920℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、0.5時間以上2.5時間以下であることが好ましく、2時間前後がより好ましい。
【0079】
第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との双方にZnOが含まれるようにしてセラミック電子部品10を製造する場合、BaとNdとTiとを含む第1の母材と第2の母材との双方に、第1の添加物及び第2の添加物としてZnOを含んで同時に焼成する。第1の母材はTiを含み、第1の添加物及び第2の添加物はZnを含んでいる。第1の母材に含まれるTiと、第1の添加物及び第2の添加物に含まれるZnとが同時に焼成により反応することで、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とが形成されると共に、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間にはZnO及びTiO2が含まれる中間層13が形成されると共に、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との双方にはZnOが含まれる。
【0080】
このように、実施形態に係るセラミック電子部品10は、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とが異なる材料からなる層であり、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に中間層13を設けることにより、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とを積層して形成しても、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13を介して強い接着力を有しながら安定して積層させることができる。このため、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に中間層13が形成されることによって、積層される第1の誘電体層11と第2の誘電体層12同士の剥離を抑制することができる。
【0081】
<セラミック電子部品の製造方法>
次に、上述したような構成を有するセラミック電子部品の好適な製造方法について図面を用いて説明する。図2は、本発明の実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法は、次のような(a)から(c)の工程を含んでなる。
(a)BaとNdとTiとを含む第1の母材と少なくともZnOを含む第1の添加物とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第1の完成材を作製し、前記第1の母材とは異なる材料を含む第2の母材と少なくともZnOを含む第2の添加物とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第2の完成材を作製すると共に、第1の母材および第2の母材とは異なる材料を含む中間材を、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第3の完成材を作製する完成材作製工程(ステップS11)
(b)第1の完成材を含む第1のスラリーをシート状に形成する第1のシート体(第1のグリーンシート)と、第2の完成材を含む第2のスラリーをシート状に形成する第2のシート体(第2のグリーンシート)との間に、中間材を含む第3のスラリーをシート状に形成した第3のシート体(第3のグリーンシート)を積層し、第1のシート体と第3のシート体と第2のシート体との順に交互に積層し、シート積層体を形成するシート積層体形成工程(ステップS12)
(c)シート積層体を焼成して積層焼結体を作製する積層焼結体作製工程(ステップS13)
【0082】
<完成材作製工程:ステップS11>
完成材作製工程(ステップS11)は、第1の母材と第1の添加物とを混合し、仮焼きして、微粉砕工程を経て第1の完成材を作製し、第2の母材と第2の添加物とを混合し、仮焼きして第2の完成材を作製すると共に、第1の母材および第2の母材とは異なる材料を含む中間材を仮焼きして第3の完成材を作製する工程である。
【0083】
第1の母材は、BaとNdとTiとを含むものである。第1の添加物は、ZnO、B23、CuO等の少なくとも一つ以上を含むものである。第1の添加物は、第1の誘電体層11と中間層13との接着力を向上させる観点から、少なくともZnOを含むことが好ましい。
【0084】
完成材作製工程(ステップS11)では、第1の母材と第1の添加物とを混合し、第1の混合物を作製する。第1の混合物は、酸素雰囲気下において仮焼きされ、第1の完成材が得られる。仮焼きする際の焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。第1の完成材は粉体状となっているが、湿式ボールミル等により、微粉砕を行う。また、第1の母材は第1の添加物と混合する前に、第1の添加物と効率よく混合するため粉体に粉砕し、仮焼きをしておいてもよい。この時、仮焼きする際の焼成温度は、1200℃以上1300℃以下であることが好ましく、1250℃以上1270℃以下であることがより好ましく、1270℃前後が最も好ましい。焼成時間は特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。
【0085】
第2の母材は、上述のように、第1の母材とは異なる材料を含むものである。第2の添加物は、第1の添加物と同様、ZnO、B23、Bi23、CoO、MnO、CuO、アルカリ土類金属酸化物、ガラス等の少なくとも一つ以上を含むものである。第2の添加物は、第1の添加物と同様、第2の誘電体層12と中間層13との接着力を向上させる観点から、少なくともZnOを含むことが好ましい。
【0086】
完成材作製工程(ステップS11)では、第2の母材と第2の添加物とを混合し、第2の混合物を作製する。第2の混合物も、第1の混合物を作製する場合と同様に、酸素雰囲気下において仮焼きされ、第2の完成材が得られる。仮焼きする際の焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830℃以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。第2の完成材も第1の完成材と同様、粉体状となっているが、湿式ボールミル等により、微粉砕を行う。第2の母材は第1の母材と同様、第2の添加物と混合される前に、第2の添加物と効率よく混合するため粉体に粉砕し、仮焼きをしておいてもよい。
【0087】
中間材は、上述のように、第1の母材および前記第2の母材との双方に共通に含まない材料を含むものである。中間材は、第1の混合物及び第2の混合物を作製する場合と同様に、酸素雰囲気下において仮焼きされ、第3の完成材が得られる。仮焼きする際の焼成温度は、800℃以上950℃以下であることが好ましく、800℃以上900℃以下であることがより好ましく、830℃以上870℃以下が最も好ましい。焼成時間は、特に限定されないが、2時間以上5時間以下であることが好ましい。第3の完成材も第1の完成材および第2の完成材と同様、粉体状となっているが、湿式ボールミル等により、微粉砕を行う。
【0088】
第1の完成材と第2の完成材と第3の完成材を作製した後、シート積層体形成工程(ステップS12)に移行する。
【0089】
<シート積層体形成工程:ステップS12>
シート積層体形成工程(ステップS12)は、第1の完成材を含む第1のスラリーをシート状に形成した第1のグリーンシート(第1のシート体)と、第2の完成材を含む第2のスラリーをシート状に形成する第2のグリーンシート(第2のシート体)との間に、中間材を含む第3のスラリーをシート状に形成した第3のシート体(第3のグリーンシート)を積層し、第1のシート体と第3のシート体と第2のシート体との順に交互に積層し、シート積層体を形成する工程である。
【0090】
シート積層体形成工程(ステップS12)では、第1の完成材に、ポリビニルアルコール系、アクリル系、又はエチルセルロース系等の有機バインダー等を所定量配合し、混合した後、第1の完成材を含む第1のスラリーを作製した。第1のスラリーはシート成形用に用いられ、ドクターブレード法などにより基板上にシート状に複数塗布する。基板上に塗布した第1のスラリーは乾燥され、複数の第1のグリーンシートを得る。第1のグリーンシートの成形方法はシート状に塗布できる方法であれば特に限定されるものではなく、シート法や印刷法等の湿式成形法でもよく、プレス成形等の乾式成形でもよい。
【0091】
また、第2の完成材および第3の完成材についても第1の完成材と同様に、第2の完成材を含む第2のスラリー及び第3の完成材を含む第3のスラリーを作製する。第2のスラリー及び第3のスラリーも第1のスラリーと同様に、シート成形用に用いられる。第3のスラリーは基板上にシート状に形成された第1のシート体の上に塗布される。第1のグリーンシート上に塗布した第3のスラリーは乾燥され、複数の第3のグリーンシートが形成される。その後、第2のスラリーがシート状に形成された第3のシート体の上に塗布される。第3のグリーンシート上に塗布した第2のスラリーは乾燥され、複数の第2のグリーンシートが形成される。第2のスラリー及び第3のスラリーは第1のスラリーと同様に、ドクターブレード法などにより塗布される。
【0092】
第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間に、第3のスラリーをシート状に形成した第3のグリーンシートを積層し、第1のシート体と第3のシート体と第2のシート体との順に交互に複数積層することで、基板上にはシート積層体が形成される。シート積層体を作製した後、シート積層体を基板から除去し、積層焼結体作製工程(ステップS13)に移行する。
【0093】
<積層焼結体作製工程:ステップS13>
積層焼結体作製工程(ステップS13)は、シート積層体を焼成して硬化させ、積層焼結体を作製する工程である。積層焼結体作製工程(ステップS13)では、得られるシート積層体を所定形状に切断してチップ型のシート積層体を形成し、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートと第3のグリーンシートとに含まれるバインダーを除去した後、シート積層体を焼成し、積層焼結体が生成される。焼成は、空気中のような酸素雰囲気下にて行うことが好ましい。焼成温度は中間層が形成されるのに好ましい温度が最適であり、例えば、850℃以上950℃以下であることが好ましく、880℃以上920℃以下であることがより好ましく、900℃以上920℃以下が最も好ましい。
【0094】
第1のグリーンシートは焼成により第1の誘電体層11となり、第2のグリーンシートは焼成により第2の誘電体層12となり、第3のグリーンシートは焼成により中間層13となる。第1のグリーンシートは第1の母材を用いてシート状に形成したものであるから、第1の母材に含まれているBaとNdとTiとは、第1のグリーンシートにも含まれている。シート積層体を焼成することによって、第1のグリーンシートに含まれていたBaとNdとTiとは、BaOとNd23とTiO2となり、第1の誘電体層11はBaOとNd23とTiO2とを主成分として含む。よって、第1の母材に含まれているBaとNdとTiとは、第1の誘電体層11の主成分として含まれる。また、第2のグリーンシートは第2の母材を用いてシート状に形成したものであるから、第2の母材に含まれている材料は、第2のグリーンシートにも含まれる。よって、第2の母材に含まれている材料は、シート積層体を焼成することで第2の誘電体層12の主成分として含まれる。また、第3のグリーンシートは中間材を用いてシート状に形成したものであるから、中間材に含まれている材料は、第3のグリーンシートにも含まれる。中間材は、上述のように、第1の母材および第2の母材との双方に共通に含まない材料を含むものであるから、シート積層体を焼成することで得られる中間層は、主成分として第1の誘電体層11および第2の誘電体層12の双方に共通に含まない主成分を含む層となる。この中間層13が第1の誘電体層11と第2の誘電体層12との間に存在することにより、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12とは中間層13を介して強い接着力を有しながら積層させることができる。
【0095】
得られる積層焼結体に外部電極と内部電極を形成した後、積層焼結体に所定の膜厚となるまでめっきを行なうことで、セラミック電子部品が得られる。このように、本実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法により得られるセラミック電子部品は、第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12と中間層13との間でポアの発生や第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12と中間層13との間にずれが生じることを抑制し、第1の誘電体層と第2の誘電体層とは中間層を介して強い接着力を有しながら安定して積層することができるため、積層された誘電体層同士の剥離が生じるのを防ぐことができ、信頼性の高いセラミック電子部品を製造することができる。
【0096】
また、第1のグリーンシート及び第2のグリーンシートの何れか一方又は両方にガラス粉末を混合してもよい。ガラス粉末はガラス軟化点が450℃以上650℃以下のものを用いるのが好ましい。中間層を形成するために用いられる中間材に含まれる成分は軟化点の低いガラスによって液相焼結を促進し、中間層の焼結を促進するので、中間層は一定の厚さを有して形成される。また、第1の誘電体層と第2の誘電体層とは中間層を介して強い接着力を有して積層させることができる。また、第1の誘電体層と第2の誘電体層とを同時焼結した後、第1の誘電体層と第2の誘電体層との何れか一方又は両方にガラスが含まれることで、セラミック電子部品のQ値の向上を図ることができる。
【0097】
内部電極の印刷は、第1のグリーンシートと第2のグリーンシートとの間に内部電極となる導体材のAg系金属を配した状態で交互に複数積層し、この積層体を所定の寸法に切断してチップ型のシート積層体を形成する。このとき、焼成温度は中間層が形成されるのに好ましい温度が最適であり、例えば、850℃以上950℃以下であることが好ましく、880℃以上920℃以下であることがより好ましく、900℃以上920℃以下が最も好ましい。得られた積層焼結体に外部電極等を形成することによりAg系金属からなる内部電極を備えるセラミック電子部品とすることができる。外部電極については、電極中にガラスフリットや酸化物等の助材が含まれることが多い。そのため、焼付け温度は、チップを焼成する温度より低い温度で焼付け焼成する。例えば、650℃以上700℃以下の温度で焼付けする。
【0098】
<セラミック電子部品>
本実施形態のセラミック電子部品は、例えば、高周波デバイスの一種である多層型デバイスのセラミック電子部品として好適に用いることができる。多層型デバイスは、内部にコンデンサー、インダクタ等の誘電デバイスが一体的に作り込まれるか一体に埋設された複数のセラミック層からなる多層セラミック基板を用いて製造される。この多層セラミック基板の製造方法は、上述の本実施形態に係るセラミック電子部品の製造方法を用いて製造される。また、本実施形態のセラミック電子部品は、多層型デバイスの他に、LCフィルターに好適に用いることができる。図3は、本実施形態のセラミック電子部品をLCフィルターとした場合の一実施形態を模式的に示す概念図である。図3に示すように、LCフィルター20は、コンデンサー21−1から21−3とコイル22とを備えている。コンデンサー21−1から21−3はコイル22とビア(ビア導体)23によって接続されている。LCフィルター20のコンデンサー部は3層構造としているが、本実施形態のセラミック電子部品は3層構造に限定されず、任意の多層構造とすることができる。よって、本実施形態のセラミック電子部品は、多層型のSMDとして、LCフィルターに好適に用いることができる。
【0099】
本実施形態のセラミック電子部品は、他のセラミック電子部品として、コンデンサー、ロー・パス・フィルタ(Low-pass filter:LPF)、バンド・パス・フィルタ(Band-pass filter:BPF)、ダイプレクサ(DPX)、カプラ(方向性結合器)、バルン(又はバラン;平衡不平衡インピーダンス変換器)等としても好適に用いることができる。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
<実施例1:中間層に含まれる成分の拡散の評価>
第1の誘電体層11と第2の誘電体層12と中間層13との一層で構成されたセラミック電子部品を作製した。セラミック電子部品を作製する際に、第1の誘電体層11と第2の誘電体層12と中間層13との各々の層に含まれる各成分と、その添加量(質量部)を表1に示す。表1に示す成分を含み表1に示す量で調整された第1の誘電体層11と第2の誘電体層12と中間層13とを含むセラミック電子部品を作製した。
【0102】
第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12の両方に含まれる成分は、BaOとZnOとCuOとした。第1の誘電体層11にのみ含まれる成分は、Nd23とTiO2とした。第2の誘電体層12にのみ含まれる成分は、MgOとSiO2とSrOとCaOとAg2Oとした。これら第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12の両方に含まれる成分と、第1の誘電体層11にのみ含まれる成分と、第2の誘電体層12にのみ含まれる成分との中間層13における拡散割合を確認した。また、表1に示す中間層13に含まれる各成分の拡散割合を下記式(1)により計算した。拡散割合の結果を表1に示す。図4は、中間層に含まれる成分の拡散状態を模式的に示す説明図である。図4中、矢印は、各成分の拡散方向を示す。
(中間層に含まれる成分が多い誘電体層側の領域の値―中間層に含まれる成分が少ない誘電体層側の領域の値)/第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12のうち中間層に含まれる成分が多い誘電体層側の領域の値 ・・・(1)
【0103】
また、中間層13に含まれる成分を分析する際、中間層13の第1の誘電体層11側の領域と中間層13の第2の誘電体層12側の領域とに含まれる成分を測定した。図5は、中間層の第1の誘電体層側の領域と第2の誘電体層側の領域を簡略に示す図である。図5に示すように、中間層13の第1の誘電体層11側の領域とは、中間層13を第1の誘電体層11側と第2の誘電体層12側とに2分割したとき、2分割した中間層13のうちの第1の誘電体層11側の領域Aをいう。中間層13の第2の誘電体層12側の領域とは、2分割した中間層13のうちの第2の誘電体層12側の領域Bをいう。
【0104】
【表1】

【0105】
(第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12の両方に含まれる成分)
表1に示すように、第1の誘電体層11及び第2の誘電体層12の両方に含まれる成分は、BaOとZnOとCuOとであった。中間層13内に含まれるBaOは、中間層13の第1の誘電体層11側の方が第2の誘電体層12側の方より多く分布していた。よって、第1の誘電体層11側の方が第2の誘電体層12側より多く含まれているBaOは、第1の誘電体層11側から拡散し、中間層13の内部には第1の誘電体層11側から第2の誘電体層12側に向かって拡散していることが分かった。また、中間層13内に含まれるZnOとCuOとは、中間層13の第2の誘電体層12側の方が第1の誘電体層11側の方より多く分布していた。よって、第2の誘電体層12側の方が第1の誘電体層11側より多く含まれているZnOとCuOは、第2の誘電体層12側から拡散し、中間層13の内部には第2の誘電体層12側から第1の誘電体層11側に向かって拡散していることが分かった。
【0106】
(第1の誘電体層11にのみ含まれる成分)
表1に示すように、第1の誘電体層11にのみ含まれる成分は、Nd23とTiO2とAg2Oとであった。これらNd23とTiO2とは、中間層13の第1の誘電体層11側の方が第2の誘電体層12側の方より多く分布していた。よって、中間層13内のNd23とTiO2とは、第1の誘電体層11側から第2の誘電体層12側に向かって拡散していることが確認された。一方、Ag2Oは、中間層13内の第1の誘電体層11側より第2の誘電体層12側に多く拡散していた。これは、中間層13を構成する成分として含まれていたAg2Oが第2の誘電体層12側に拡散していたためであると考えられる。よって、第1の誘電体層11にのみ含まれるNd23とTiO2とは、中間層13の第1の誘電体層11との境界部に多く分布し、第1の誘電体層11側から第2の誘電体層12側に向かって拡散しているのが確認された。
【0107】
(第2の誘電体層12にのみ含まれる成分)
表1に示すように、第2の誘電体層12にのみ含まれる成分はMgOとSiO2とSrOとCaOとであった。MgOとSiO2とSrOとは、中間層13の第2の誘電体層12側の方が第1の誘電体層11側の方より多く分布していた。一方、CaOは、中間層13の第1の誘電体層11側と第2の誘電体層12側とにほぼ同等の割合で分布していた。よって、第2の誘電体層12にのみ含まれるMgOとSiO2とSrOは、中間層13の第2の誘電体層12側に多く分布し、第2の誘電体層12側から第1の誘電体層11側に向かって拡散しているのが確認された。
【0108】
よって、中間層13は、第1の誘電体層11又は第2の誘電体層12にのみ含まれる成分は、中間層13内の一方の誘電体層にのみ含まれる成分の誘電体層側に多く分布し、中間層で拡散し、他方の誘電体層側に向かって少なくなるように分布している。このため、一方の誘電体層にのみ多く含まれる成分は、中間層13内でその一方の誘電体層側との境界部に多く分布するため、誘電体層との接着力を向上させることができる。
【0109】
<実施例2>
[母材とシート体との作製]
第1の誘電体層と第2の誘電体層と中間層とを各々構成する成分が含まれる母材と、第1の誘電体層と第2の誘電体層を形成するために用いられるシート体との作製方法について説明する。用いる母材は、BaNdTiO系酸化物と、2MgO・SiO2と、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2との混合物と、SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスである。また、シート体は、BaNdTiO系酸化物のシート体と、2MgO・SiOのシート体と、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2との混合物のシート体と、SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスのシート体とである。
【0110】
(1−1.BaNdTiO系酸化物(BaO−Nd23−TiO2)の作製)
炭酸バリウム(BaCO3)24.36質量%と、水酸化ネオジム(Nd(OH)3)40.29質量%と、酸化チタン(TiO2)35.35質量%とを秤量した。BaCO3とNd(OH)3とTiO2との和を100質量%とし、秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水と市販の分散剤を添加してスラリー濃度が25%のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0111】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機(商品名:WT−50、三喜製作所社製)にて乾燥塊を粉砕し、#30メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させた。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で1270℃、2時間仮焼きを行い、母材の仮焼き粉(「1次仮焼き粉」という)を得た。
【0112】
1次仮焼き粉100質量%に対し、酸化ホウ素(B23)1.5質量%と酸化亜鉛(ZnO)2.0質量%と酸化銅(CuO)1.0質量%とを秤量した。秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水を添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0113】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を粉砕し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして通過させた。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で850℃、2時間仮焼きを行い、母材と添加物との混合物の仮焼き粉(「2次仮焼き粉」という)を得た。
【0114】
得られた2次仮焼き粉を99質量%秤量し、Ag粉末を1質量%秤量し、その粉体をナイロン製ボールミルに入れ、アルコールを添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕した完成材を得た。
【0115】
混合したアルコールスラリーを回収し、80℃から120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を粉砕し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させて、完成材を得た。
【0116】
(1−2.BaNdTiO系酸化物(BaO−Nd23−TiO2)のシート体の作製)
上述の方法により得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカー、可塑剤として市販品のn-ブチルフタリルn-ブチルグリコラートを所定量配合し、ポリエチレン製ボールミルに入れ、16時間混合し、シート体成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によって基板上に塗布してシート体を複数作製した。
【0117】
(2−1.2MgO・SiO2の作製)
フォルステライト(2MgO・SiO2)100質量%に対し、酸化ホウ素(B23)を8.0質量%、酸化亜鉛(ZnO)を12.0質量%、酸化銅(CuO)を4.0質量%、炭酸カルシウム(CaCO3)を1.0質量%秤量した。秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水を添加して濃度が33%濃度のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0118】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を粉砕し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させた。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で850℃、2時間仮焼きを行い、母材と添加物との混合物の仮焼き粉を得た。
【0119】
得られた仮焼き粉を100質量%秤量し、リチウム系ガラス(旭硝子社製LS−5)を3質量%秤量し、その仮焼き粉をナイロン製ボールミルに入れ、アルコールを添加して濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕した完成材を得た。
【0120】
完成材を含むスラリーを回収し、80℃以上120℃以下で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥した塊を粉砕し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させて、完成材を得た。
【0121】
(2−2.2MgO・SiO2のシート体の作製)
上述の方法により得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカー、可塑剤として市販品のn-ブチルフタリルn-ブチルグリコラートを所定量配合し、ポリエチレン製ボールミルに入れ、16時間混合し、シート体成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によって基板上に塗布してシート体を複数作製した。
【0122】
(3−1.BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2のコンポジット材料の作製)
炭酸バリウム(BaCO3)を24.36質量%、水酸化ネオジム(Nd(OH)3)を40.29質量%、酸化チタン(TiO2)を35.35質量%秤量し、BaCO3とNd(OH)3とTiO2との和が100質量%となるようにした。秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水と市販分散剤を添加してスラリー濃度が25%のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0123】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を粉砕し、#30メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させた。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で1270℃、2時間仮焼きを行い、母材の仮焼き粉(「1次仮焼き粉」という。)を得た。
【0124】
1次仮焼き粉68.5質量%に対し、フォルステライト(2MgO・SiO2)31.5質量%として1次仮焼き粉とフォルステライトとの和を100質量%とし、B23を2.48質量%、ZnOを6.67質量%、Bi23を3.14質量%、CoOを1.12質量%、MnCO3を0.66質量%、CaCO3を1.07質最%秤量し、秤量した粉体をナイロン製ボールミルに入れ、イオン交換水を添加して濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合した。
【0125】
混合したスラリーを回収し、120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を粉砕し、#300メッシュのふるいをパスさせた。回収した粉体をマグネシア製の匣鉢に詰め、電気炉にて空気中雰囲気で850℃、2時間仮焼きを行い、母材と添加物の混合物の仮焼き粉(「2次仮焼き粉」という。)を得た。
【0126】
得られた2次仮焼き粉を100質量%秤量し、Ag粉末0.75質量%を秤量し、その粉体をナイロン製ボールミルに入れ、アルコールを添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕した完成材を得た。
【0127】
混合したアルコールスラリーを回収し、80℃から120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させ、完成材を得た。
【0128】
(3−2.BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2のコンポジット材料のシート体の作製)
上述の方法により得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカー、可塑剤として市販品のn-ブチルフタリルn-ブチルグリコラートを所定量配合し、ポリエチレン製ボールミルに入れ、16時間混合し、シート体成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によって基板上に塗布してシート体を複数作製した。
【0129】
(4−1.SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスの作製)
SiO2を55質量%、Al23を10質量%、B23を5質量%、SrOを30質量%秤量し、4つの酸化物の和が100質量%となるようにした。秤量した粉体をシェイカーミキサーに入れ、乾式混合を行った。
【0130】
乾式混合した粉を石英坩堝に入れ、電気炉で1400℃で1時間保持して、溶融させた。その溶融液を水中にキャストし、粒状のガラスを得て、乾燥機で120℃で2時間以上乾燥し水分を取り除いた。
【0131】
乾燥した粒状のガラスをウイレー粉砕機にて粉砕し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させた。これによりSiO2−Al23−B23−SrO系ガラス粉末を得た。
【0132】
#300メッシュパスしたガラス粉末を100質量%秤量し、その粉体をナイロン製ボールミルに入れ、アルコールを添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕して予備粉砕を行った。
【0133】
予備粉砕したナイロン製ボールミルのスラリー中にAl23を55質量%(ここではガラス粉末100質量%に対して記載している)を秤量し、アルコールを添加してスラリー濃度が33%のスラリーを作製し、16時間混合して微粉砕して微粉砕を行った。
【0134】
混合したアルコールスラリーを回収し、80℃から120℃で24時間乾燥した後、ウイレー粉砕機にて乾燥塊を解し、#300メッシュを使い振動でふるい分けして粉体を通過させ、完成材を得た。
【0135】
(4−2.SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスのシートの作製)
上述の方法により得た完成材に、市販品のトルエン(1級)、アルコール(特級)、分散剤、アクリル樹脂ラッカー、可塑剤として市販品のn-ブチルフタリルn-ブチルグリコラートを所定量配合し、ポリエチレン製ボールミルに入れ、16時間混合し、シート体成形用のスラリーを得た。これをドクターブレード法によって基板上に塗布してシート体を複数作製した。
【0136】
[実施例2−1から2−4及び比較例2−1から2−4]
上記のようにして得られたBaNdTiO系酸化物と、2MgO・SiO2と、BaNdTiO系酸化物及び2MgO・SiO2のコンポジット材料と、SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスとを第1の誘電体層及び第2の誘電体層を形成するために用いる母材として用いた。ZnO、B23、CoO、MnO、Bi23、CaCO3、Ag、CuO、α−SiO2、Al23の何れか1つ以上を添加物として用いた。これらを母材又は添加物として用い、表1に示す条件によりチップ状に形成された積層焼結体(チップ)を作製した。
【0137】
[シート体を用いてのチップの製造]
(実施例2−1)
(焼成前)
BaO−NdO3−TiO2セラミックスシートにAgペースト(TDK社製)を所定のコンデンサパターン形状(焼成後にチップの形状が長手方向4.5mm、幅方向3.2mmであるパターン)に印刷し、120℃で、15分間乾燥させた。
【0138】
次に、2MgO・SiO2セラミックスシートを外層とし、印刷したBaO−NdO3−TiO2セラミックスシートを内層とし、2MgO・SiO2とBaO−NdO3−TiO2とを混合して得られたセラミックスシートを中間層として、シートを積層(内層は4層構造とした)し、70℃、700kg/cm2、7分間の条件でプレスを行った。それを、湿式切断方式で所定のコンデンサー形状に切断し、バッチ炉を用いて350℃で1時間脱バインダーした後、酸素雰囲気下で900℃、2.5時間焼成して、チップを得た。
【0139】
(焼成後)
焼成したチップの端部に外部端子を形成させるため、市販品のAgの外部端子ペーストを用いて端子両側に手動で塗布し、120℃で15分間乾燥し、連続式焼成炉(LINDBERG社製)を用いて670℃で焼付け処理を行った。端部を焼成したチップを電気めっき装置でCu−Ni−Snめっきを行い、各めっきにより所定の膜厚となるまでめっきを行い、チップを得た。
【0140】
(実施例2−2から2−4、比較例2−1から2−4)
実施例2−2から2−4、比較例2−1から2−4のチップの作成方法は、表2に示した条件を変化させたこと以外は、実施例2−1における場合と同様として行なった。
【0141】
[チップの評価]
得られたチップを用いて、第1の誘電体層と中間層との境界部に優先して拡散している成分(優先拡散成分)と、第1の誘電体層と中間層との境界部の優先拡散成分の拡散割合と、第1の誘電体層と中間層との境界部の連続性と、第2の誘電体層と中間層との境界部の優先拡散成分と、第2の誘電体層と中間層との境界部の優先拡散成分の拡散割合と、第2の誘電体層と中間層との境界部の連続性と、めっき液の中間層への侵入の有無と、第1及び第2の誘電体層の剥がれ状況とについて確認した。
【0142】
(誘電体層と中間層との関係の評価の確認方法)
焼成後のチップを市販のエポキシ樹脂を用いて容器に埋め込み、研磨剤を用いて研磨し、鏡面研磨で仕上げた後、その研磨面を走査電子顕微鏡(商品名:JSM‐6700、日本電子データム社製)によりSEM−EDS観察し、焼成後の境界面のEDS像(2000倍)を撮影し、境界面の拡散元素分布の状態を確認した。得られた境界面の拡散元素分布の状態から、第1の誘電体層又は第2の誘電体層と中間層との境界部の優先拡散成分と、第1の誘電体層又は第2の誘電体層中間層との境界部の優先拡散成分のグラデーション率と、第1の誘電体層又は第2の誘電体層と中間層との境界部の連続性とを評価した。
【0143】
(チップの境界面のめっき液の中間層への侵入の有無の確認方法)
めっき処理を施したチップをペンチで破断し、その破断した境界面を走査電子顕微鏡(商品名:JSM‐T300、日本電子データム社製)により観察し、焼成後の境界面のCOMPO像(2000倍)を撮影して境界面へのめっき液の浸入の有無を確認した。
【0144】
(チップの境界面の剥がれ状況の確認方法)
めっき処理を施したチップの3面(平面、側面、端面)を金属顕微鏡で確認し剥がれ等の異常が無いか各試料毎に10箇所確認した。
【0145】
得られたチップを用いて行なった上記の測定結果を表2に示す。
【0146】
【表2】

【0147】
(第1の誘電体層と中間層との関係)
SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスを主成分とする中間層を用いた場合、中間層と第1の誘電体層との連続性は悪く、第1の誘電体層と中間層との境界部で拡散していた成分を特定することはできず、第1の誘電体層と中間層との境界部に拡散する成分の拡散割合を特定することはできなかった(比較例2−1から2−4参照)。一方、中間層に、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物を用いると、Nd23とTiO2とが第1の誘電体層と中間層との境界部に多く含まれており、中間層の第1の誘電体層側から第2の誘電体層側に向かって拡散していたのが確認され、第1の誘電体層と中間層の境界部との間に連続性が確認された(実施例2−1から2−4参照)。よって、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物は、第1の誘電体層との連続性を持たせるための中間層として好適に用いることができることが確認された。
【0148】
(第2の誘電体層と中間層との関係)
第2の誘電体層と中間層との間でも第1の誘電体層と中間層との間での関係と同様に、SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスを主成分とする中間層を用いた場合、中間層と第1の誘電体層との連続性は悪く、第2の誘電体層と中間層との境界部で拡散していた成分を特定することはできず、第2の誘電体層と中間層との境界部に拡散する成分の拡散割合を特定することはできなかった(比較例2−1から2−4参照)。一方、中間層に、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物を用いると、MgOとSiO2とSrOとCaOとが第2の誘電体層と中間層との境界部に多く含まれており、中間層の第2の誘電体層側から第1の誘電体層側に向かって拡散していたのが確認され、第2の誘電体層と中間層の境界部との間に連続性が確認された(実施例2−1から2−4参照)。よって、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物は、第2の誘電体層との連続性を持たせるための中間層として好適に用いることができることが確認された。
【0149】
(チップの境界面のめっき液の中間層への侵入の有無の確認)
SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスを主成分とする中間層を用いた場合、めっき処理後の中間層と第1の誘電体層及び第2の誘電体層との界面へのめっき液の浸入が認められた(比較例2−1から2−4参照)。一方、中間層に、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物を用いた場合には、めっき処理後の中間層と第1の誘電体層及び第2の誘電体層との界面へのめっき液の浸入は認められなかった(実施例2−1から2−4参照)。よって、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物は、第1の誘電体層及び第2の誘電体層との接着力を高くすることができ、中間層として好適に用いることができることが確認された。
【0150】
(チップの境界面の剥がれ状況の確認)
SiO2−Al23−B23−SrO系ガラスを主成分とする中間層を用いた場合、第1の誘電体層と第2の誘電体層との焼成時の剥離が認められた(比較例2−1から2−4参照)。一方、中間層に、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物を用いた場合には、第1の誘電体層と第2の誘電体層との一体化時の剥離も認められなかった(実施例2−1から2−4参照)。よって、BaNdTiO系酸化物と2MgO・SiO2とを混合した混合物は、第1の誘電体層及び第2の誘電体層との接着力を高くすることができ、中間層として好適に用いることができることが確認された。
【0151】
従って、本実施形態のセラミック電子部品は積層された誘電体層同士が剥離することなく、第1の誘電体層と第2の誘電体層とは中間層を介して安定して積層されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上のように、本発明に係るセラミック電子部品及びセラミック電子部品の製造方法は、積層された誘電体層同士の剥離を抑制するのに有用であり、LCフィルターや各種コンデンサー等といった各種の電子デバイスに用いるのに適している。
【符号の説明】
【0153】
10 セラミック電子部品
11 第1の誘電体層
12 第2の誘電体層
13 中間層
20 LCフィルター
21−1〜21−3 コンデンサー
22 コイル
23 ビア(ビア導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaOとNd23とTiO2とを含む第1の誘電体層と、
前記第1の誘電体層とは異なる材料を含む第2の誘電体層と、
前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との間に設けられ、主成分として前記第1の誘電体層および前記第2の誘電体層の双方に共通に含まない主成分を含む中間層と、
を含むことを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記第1の誘電体層は、BaOとNdとTiOとを主成分とし、酸化物類を副成分として含み、
前記第2の誘電体層は、Mg2SiO4を主成分とし、酸化物類とガラスを副成分として含む請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記中間層は、前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部に前記第2の誘電体層に含まれず前記第1の誘電体層にのみ含まれている成分の割合を前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部より多く含むと共に、
前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部に前記第1の誘電体層に含まれず前記第2の誘電体層にのみ含まれている成分の割合を前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部より多く含む請求項1又は2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記中間層は、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との何れか一方又は両方に含まれる成分の割合を、前記第1の誘電体層と前記第2の誘電体層との何れか一方又は両方に含まれる成分の割合が高い誘電体層側から低い誘電体層側に向かって低くなるように含む請求項1から3の何れか1つに記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記中間層は、前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部に前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部よりNd23およびTiO2を多く含み、かつ前記第1の誘電体層側から前記第2の誘電体層側に向かってNd23およびTiO2が少なくなるように含むと共に、
前記中間層と前記第2の誘電体層との境界部に前記中間層と前記第1の誘電体層との境界部よりMgOとSiO2とSrOとCaOとを多く含み、かつ前記第2の誘電体層側から前記第1の誘電体層側に向かってMgOとSiO2とSrOとCaOとが少なくなるように含む請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
Ba及びNd及びTiを含む第1の母材と少なくともZnOを含む第1の添加物とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第1の完成材を作製し、前記第1の母材とは異なる材料を含む第2の母材と少なくともZnOを含む第2の添加物とを混合し、酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第2の完成材を作製すると共に、前記第1の母材および前記第2の母材の双方に共通に含まない材料を含む中間材を酸素雰囲気下において800℃以上950℃以下の温度で仮焼きして第3の完成材を作製する完成材作製工程と、
前記第1の完成材を含む第1のスラリーをシート状に形成する第1のシート体と、第2の完成材を含む第2のスラリーをシート状に形成する第2のシート体との間に、前記中間材を含む第3のスラリーをシート状に形成した第3のシート体を積層し、第1のシート体と第3のシート体と第2のシート体との順に交互に積層し、シート積層体を形成するシート積層体形成工程と、
前記シート積層体を焼成して積層焼結体を作製する積層焼結体作製工程と、
を含むことを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−216521(P2011−216521A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80387(P2010−80387)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】