説明

セラミド産生促進剤、並びに該セラミド産生促進剤を用いた医薬品組成物、皮膚外用剤、化粧料組成物、及び化粧料

【課題】新規なセラミド産生促進剤を提供すること。
【解決手段】本発明では、センキュウ抽出物を有効成分とするセラミド産生促進剤を提供する。該セラミド産生促進剤は、生体内のセラミド産生経路に直接作用してセラミド産生を促すため、従来の対処療法とは異なり、根本的に皮膚の保湿機構を改善することが可能である。また、その有効成分が天然由来成分であるため、安全性が高く、長期間、連続的な使用が可能である。そのため、皮膚外用剤等に用いる医薬品組成物や化粧料に用いる化粧料組成物に好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミド産生促進剤に関する。より詳細には、有効成分としてセンキュウ抽出物を用いたセラミド産生促進剤、並びに該セラミド産生促進剤を用いた医薬品組成物、皮膚外用剤、化粧料組成物、及び化粧料に関する。尚、本発明において、化粧料とは、薬用化粧料(医薬部外品)を含む概念である。
【背景技術】
【0002】
セラミドは、炭素数16〜20の長鎖アミノアルコールであるスフィンゴイド塩基に、脂肪酸が結合したもので、いわゆるスフィンゴ脂質の一種である。皮膚表層の角質細胞間脂質層の主成分であるほか、細胞膜の脂質二重層を構成する主要な脂質の一つでもある。
【0003】
特に、セラミドは、皮膚の角質細胞間脂質の主成分として40〜60%と多量に存在していることから、皮膚内部からの水分蒸発を防止するバリア機能を担う物質として、皮膚医療分野、美容分野、食品分野等において大変重要視されている。細胞間脂質中のセラミドが減少すると、しわ、ドライスキンおよび肌荒れの原因となることが解明されつつあり、現に、アトピー性皮膚炎の患者では健常者よりもセラミド含量が大幅に減少していることが確認されている。
【0004】
このような背景の下、セラミドの産生を促進する有効物質の探求が種々の分野で進められている。例えば、特許文献1では、ユーカリ、ホップ、ショウガ、ガンビールノキ、ノイバラ、セイヨウトチノキ、ユリ、ハトムギ、ガマ、ビワ、クチナシ、オタネニンジン、サボンソウ、シラカバ、アマチャ、チョウジ、ベニバナ、ワレモコウ、イリス及びクララから選ばれる植物又はその抽出物、水蒸気蒸留物若しくは圧搾物からなるセラミド産生促進剤が提案されている。また、特許文献2には、シソ科植物由来の抽出物を有効成分として含有する、セラミド産生促進剤が提案されている。
【0005】
ここで、本発明に関連のあるセンキュウについて以下説明する。センキュウ(Cnidium officinale Makino)は、セリ科(Umbelliferae)の高さ30〜60cmほどになる多年草で、秋に多くの白い花をつけ、全草に独特な芳香をもつ植物である。補血作用、強壮作用、鎮静作用、鎮痛作用などを有し、貧血、冷え性、生理不順、などの婦人病の薬剤として多く用いられている。例えば、漢方薬として、当帰芍薬散、温経湯、きゅう帰膠艾湯、疎経活血湯、川きゅう茶調散、荊芥連翹湯、十味敗毒湯、などに配合されている。
【0006】
また、センキュウは、皮膚への様々な効果も期待されている。例えば、特許文献3には、有効成分としてセンキュウ根の抽出物、オウギ根の抽出物、どんぐり(クヌギ)果実の抽出物、山茱萸(サンシュウ)果実の抽出物、何首烏(ツルドクダミ)葉、根、実の抽出物、金銀花(スイカズラ)の花の抽出物及びコガネバナ抽出物からなる群より選ばれる1種以上を含有する皮膚保湿用化粧料組成物が提案されている。また、特許文献4には、センキュウ、アルニカ、ウコン、ウマスギゴケ、オウカホウシュン、オトギリソウ、ガンビールノキ、コウボク、シャクヤク、トウキ、トウチュウカソウ、ナツメ、ニンジン、ヒエンソウ、ヒカゲノカズラ、ビロウドアオイ、フキタンポポ、ブクリョウタケ、モモ、ヤナギラン、ユキノシタから選ばれる植物、生薬および菌類の抽出物を表皮細胞賦活剤として用いた皮膚バリア機能強化剤が提案されている。更に、特許文献5には、センキュウ、オウバク、カンゾウ、オウゴン、シャクヤク、ボタンピ、ヨクイニン、ビャクシ、トウヨウトチノミ、ボウフウ、チンピ、ゲンノショウコ、ブクリョウ、タイソウ、ウスベニアオイ、セイヨウオドリコソウ、アルニカ、キンセンカ、セイヨウニワトコバナ、ハマメリス、ジュクジオウ、カンジオウ、シャゼンシのうち少なくとも1種の抽出物を必須成分として含有する保湿性化粧料組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−370998号公報
【特許文献2】特開2004−210743号公報
【特許文献3】特開2005−330286号公報
【特許文献4】特開2003−171310号公報
【特許文献5】特開昭和60−258104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように、セラミドの産生を促進する有効物質の探求が進められている一方で、センキュウの皮膚に対する保湿性改善の効果が提案されている。しかし、皮膚の保湿効果のメカニズムは、(1)皮膚の表面に油膜を作り水分の蒸発を防止することにより保湿効果を発揮する、(2)水分と結合することにより保湿効果を発揮する、(3)天然保湿因子(NMF)を直接導入することにより保湿効果を発揮する、(4)皮膚内の保湿機能を担う種々の物質の含量を増やすことにより保湿効果を発揮する、など様々なことが考えられるが、これまでのセンキュウの保湿効果は全て、対処療法から得た結果論であり、具体的にそのメカニズムは解明されていないのが現状である。
【0009】
そこで、本発明では、皮膚本来が有する水分保持能を高める上でも、また厳冬期に生じる肌あれを予防または改善する上でも重要な角層細胞中のセラミドを、外から補うのではなく、細胞自身の産生量を高める新規なセラミド産生促進剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、セラミドの産生を促進する有効物質の探求を行った結果、センキュウ抽出物に着目し、センキュウ抽出物がセラミド産生促進効果を有することを具体的に確認することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明では、まず、センキュウ抽出物を有効成分とするセラミド産生促進剤を提供する。
本発明に係るセラミド産生促進剤に有効成分として用いることができるセンキュウ抽出物は、具体的に用いる部位および抽出方法など特に限定されないが、本発明においては、センキュウの根茎を80%以下のエタノールで抽出することにより得られた抽出物を用いることが好ましい。
【0012】
本発明に係るセラミド産生促進剤は、皮膚外用剤等に用いる医薬品組成物や化粧料に用いる化粧料組成物に好適に用いることができる。
この場合、セラミド産生促進効果を十分に発揮するためには、組成物中に組成物中にセンキュウ抽出物として0.01質量%以上10質量%(以下「%」で示す)以下含有させることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るセラミド産生促進剤は、生体内のセラミド産生経路に直接作用してセラミド産生を促すため、従来の対処療法とは異なり、根本的に皮膚の保湿機構を改善、および肌荒れを防止または改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実験2において、グルコシルセラミド量の測定結果を示す図面代用グラフである。
【図2】実験3において、グルコシルセラミド量の測定結果を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0016】
<セラミド産生促進剤>
本発明に係るセラミド産生促進剤は、センキュウ抽出物を有効成分とする。本発明において、センキュウ抽出物とは、センキュウの根茎、茎、葉、花などを適当な溶媒で抽出して得られる抽出物を言い、通常、抽出した溶媒の濃厚溶液として使用する。また、該濃厚溶液を凍結乾燥させたものも、本発明に係るセラミド産生促進剤に用いることが可能である。
【0017】
抽出に用いるセンキュウの具体的部位は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、根茎、茎、葉、花などあらゆる部位を自由に選択して用いることができる。また、それぞれの部位を湯通しして乾燥させた乾燥物などを用いて抽出を行うことも可能である。本発明では、特に、センキュウの根茎を乾燥させた乾燥物を適当な大きさに粉砕して用いることが好ましい。
【0018】
抽出に用いる溶媒も特に限定されず、通常、植物抽出に用いることができる溶媒を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノール及びプロパノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール及びプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは水溶液として用いても良く、任意の2種または3種以上の混合溶媒として用いても良い。この中でも本発明においては、特に、エタノールを用いることが好ましい。細胞毒性が低いため安全性が高く、得られた抽出物を凍結乾燥させて用いることも可能だからである。
【0019】
エタノールを抽出溶媒として用いる場合、その濃度も特に限定されないが、溶存する脂溶性成分が析出し製剤安定性に影響を与えることから、80%以下が好ましい。また、製造工程における濾過のし易さの観点からは、20%以上が好ましい。
【0020】
抽出方法も特に限定されず、通常、植物抽出で行う抽出方法を自由に選択して用いることができる。例えば、前記溶媒にセンキュウの任意の部位を24時間浸漬した後に濾過する方法、溶媒の沸点以下の温度で加温、攪拌等しながら抽出した後に濾過する方法、などが挙げられる。
【0021】
抽出したセンキュウ抽出物は、そのままでも本発明に係るセラミド産生促進剤の有効成分として用いることができるが、当該抽出物を更に、適当な分離手段(例えば、分配抽出、ゲル濾過法、シリカゲルクロマト法、逆相若しくは順相の高速液体クロマト法など)により活性の高い画分を分画して用いることも可能である。
【0022】
本発明に係るセラミド産生促進剤に用いるセンキュウ抽出物の乾燥固形分濃度は、本発明の効果を損なわなければ、用いる抽出溶媒の種類、抽出方法などに応じて自由に設定することが可能であるが、本発明においては特に、0.0001%以上5%以下が好ましく、0.001%以上3%以下がより好ましい。0.0001%未満であると、セラミド産生促進効果が弱い場合があり、逆に5%を超えると、好ましくない匂いがでたり、沈殿を生じる場合があるからである。
【0023】
<医薬品組成物・皮膚外用剤>
本発明に係るセラミド産生促進剤は、その優れたセラミド産生促進効果を利用して、医薬品組成物に好適に用いることができる。該医薬品組成物は、あらゆる剤型の医薬品に適用することができる。例えば、外用液剤、外用ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、スプレー剤、点鼻液剤、リニメント剤、ローション剤、ハップ剤、硬膏剤、噴霧剤、エアゾール剤、などの外用剤に適用することができる。
【0024】
本発明に係る医薬品組成物には、薬理学的に許容される添加剤を1種または2種以上自由に選択して含有させることができる。例えば、本発明に係る医薬品組成物を外用剤に適用させる場合、基剤、界面活性剤、保存剤、乳化剤、着色剤、矯臭剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤、潤沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0025】
また、本発明に係る医薬品組成物を注射剤に適用させる場合、例えば、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤、防腐剤、酸化防止剤等の、医薬製剤の分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0026】
本発明に係るセラミド産生促進剤は、その有効成分が天然由来成分であるため、多剤との併用を注意する必要性が低い。そのため、既存のあらゆる薬剤を1種または2種以上自由に選択して、合剤とすることもできる。例えば、抗菌剤、消炎鎮痛剤、ステロイド剤、抗真菌剤、鎮咳剤、抗ヒスタミン剤、ビタミン剤、抗腫瘍剤など、あらゆる薬剤を配合することができる。
【0027】
本発明に係るセラミド産生促進剤および前記薬剤は、経皮投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、などにより全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは投与部位において、局所的に効果を発揮したりする。
【0028】
本発明に係る医薬品組成物において、セラミド産生促進剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能であるが、センキュウ抽出物として0.01%以上10%以下含有させることが好ましい。0.01%未満では、セラミド産生促進効果が十分に得られない可能性があり、10%を超えると、変臭や変色を生じる可能性が高い。
【0029】
以上説明した本発明に係る医薬品組成物を用いた医薬品は、その有効成分が天然由来成分であるため、種々の疾患を罹患した患者に対しても安心して投与できる可能性も高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。
【0030】
<化粧料組成物・化粧料>
本発明に係るセラミド産生促進剤は、その優れたセラミド産生促進効果を利用して、化粧料組成物に好適に用いることができる。該化粧料組成物は、あらゆる形態の化粧料に適用することができる。例えば、ローション、乳液、クリーム、美容液などのスキンケア化粧料、ファンデーション、コンシーラー、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナーなどのメイクアップ化粧料、日焼け止め化粧料などに適用することができる。
【0031】
本発明に係る化粧料組成物には、本発明に係るセラミド産生促進剤に加え、通常化粧料に用いることができる成分を、1種または2種以上自由に選択して配合することが可能である。例えば、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、紫外線吸収剤、香料、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料、アルコール、水などの、化粧料分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0032】
また、本発明に係るセラミド産生促進剤は、その有効成分が天然由来成分であるため、他の有効成分との併用を注意する必要性が低い。そのため、本発明に係る化粧料組成物には、本発明に係るセラミド産生促進剤に加え、他の有効成分を必要に応じて自由に配合することができる。
【0033】
本発明に係る化粧料組成物において、セラミド産生促進剤の含有量は特に限定されず、目的に応じて自由に設定することが可能であるが、センキュウ抽出物として0.01%以上10%以下含有させることが好ましい。0.01%未満では、セラミド産生促進効果が十分に得られない可能性があり、10%を超えると、変臭や変色を生じる可能性が高い。
【0034】
以上説明した本発明に係る化粧料組成物を用いた化粧料は、その有効成分が天然由来成分であるため、安全性が高く、長期間、連続的な使用が可能である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0036】
<実験1:センキュウ抽出物の調製>
実験1では、センキュウ抽出物の調製を行った。
【0037】
乾燥粉砕したセンキュウ(Cnidium Officinale Makino)の根茎100gを抽出溶媒1kgに入れ、一昼夜室温にて攪拌した後に濾過で不溶分を取り除き、抽出溶液で全量を1kgになるように補正してセンキュウ抽出物を得た。なお抽出溶媒は、水、20%エタノール水溶液、30%エタノール水溶液、80%エタノール水溶液を用いた。
【0038】
得られたセンキュウ抽出物の乾燥固形分濃度は、それぞれ1.794%(抽出溶媒:20%エタノール水溶液)、2.336%(抽出溶媒:30%エタノール水溶液)、1.144%(抽出溶媒:80%エタノール水溶液)、であった。抽出溶媒として水を用いた場合には、ろ過が不十分であるため、乾燥固形分濃度を測定することはできなかった。
【0039】
<実験2:グルコシルセラミド産生の検討>
実験2では、センキュウ抽出物により、セラミドの前駆体であるグルコシルセラミドの量がどのように変化するかを検討した。
【0040】
(1)培養
培地(HuMedia-KG2 Ca 0.03 mM (倉敷紡績株式会社製))を入れた6cmシャーレに、ヒト表皮角化細胞(NHEK細胞(normal human epidermal keratinocyte)from human neonatal foreskin)を播種し、6日間培養後に前記実験1と同様の方法で調整したセンキュウ抽出物(抽出溶媒:30%エタノール水溶液)を、乾燥固形分濃度として1.65%添加し、更に3日間培養後に前記センキュウ抽出物を、乾燥固形分濃度として1.65%再添加し、通常の増殖培地下でオーバーコンフルエント状態になるまで4日間培養した。培養後、PBS(−)で2回洗浄し、スクレーパーを用いて細胞を回収した。
【0041】
(2)脂質抽出
脂質抽出は、Bligh & Dyer法を用いて行った。具体的には、前記で回収した細胞に、まず、メタノール2.5mL、クロロホルム1.25mL加え攪拌し、次に、クロロホルム1.25mL、水1.25mLを更に加え攪拌した。その後、遠心分離を行い、下層Iを取り分けた。
【0042】
残った上層に2N塩酸125μL、クロロホルム2.5mLを加え攪拌し、遠心分離を行い、下層IIを取り分けた。この下層IIと前記で取り分けた下層Iとを混合し、0.45μmのフィルタに通した。エバポレーション後、クロロホルム:メタノール=2:1に溶解した。
【0043】
(3)グルコシルセラミドの定量
前記で回収した脂質について、公知の薄層クロマトグラフィー法を用いて脂質分離を行った。得られた各脂質のバンドを画像解析し、その強度を定量値とした。この際、定量評価には市販のグルコシルセラミド(Sigma Chemical社製)を用いた。
【0044】
なお、コントロールとして、前記センキュウ抽出物を添加する代わりに、同濃度の溶媒を用いて同様の実験を行った。
【0045】
(4)結果
結果を図1に示す。図1に示す通り、コントロールを100%とした場合に比べ、センキュウ抽出物のグルコシルセラミド量は121.7%と、明らかにグルコシルセラミド量が増加することが分かった。この結果から、センキュウ抽出物は、セラミド産生促進作用を有することが推測できた。
【0046】
<実験3:抽出方法の検討>
実験3では、センキュウ抽出物を調整する際の抽出方法について検討を行った。
【0047】
(1)方法・手順
具体的には、30%エタノール水溶液を用いて抽出したセンキュウ抽出物、水を用いて抽出したセンキュウ抽出物、を用いた場合のグルコシルセラミド増加量の違いを確認した。
なお、センキュウ抽出物の調整は前記実験1と、培養、脂質抽出、グルコシルセラミドの定量、に関する各手順は前記実験2と同様であるため、ここでは説明を割愛する。
【0048】
(2)結果
結果を図2に示す。図2に示す通り、コントロールを100%とした場合に比べ、30%エタノール水溶液を用いて抽出したセンキュウ抽出物のグルコシルセラミド量は123.1%、水を用いて抽出したセンキュウ抽出物のグルコシルセラミド量は145.1%と、明らかにグルコシルセラミド量が増加することが分かった。
【0049】
しかしながら、水のみで抽出すると、セラミド抽出物の製造工程において、濾過することが難しくなるため、20%以上のエタノール水溶液で抽出することが好ましいことが分かった。また、エタノール水溶液は80%を超えると化粧水などにおいて溶存する脂溶性成分が析出し、製剤安定性を損なうことが懸念されるため、80%以下のエタノール水溶液で抽出することが好ましいことが分かった。
【0050】
<実験4:セラミド産生促進作用の検討>
実験4では、センキュウ抽出物が、セラミド産生促進作用を有することを確認した。
【0051】
(1)培養
培地(HuMedia-KG2 Ca 0.03 mM (倉敷紡績株式会社製))を入れた10cmシャーレに、ヒト表皮角化細胞(NHEK細胞(normal human epidermal keratinocyte)from human neonatal foreskin)を播種し、5日間培養後に前記実験1と同様の方法で調整したセンキュウ抽出物(抽出溶媒:30%エタノール水溶液)を、乾燥固形分濃度として1.67%添加し、更に3日間培養後に前記センキュウ抽出物を、乾燥固形分濃度として1.67%再添加し、通常の増殖培地下でオーバーコンフルエント状態になるまで4日間培養した。培養後、PBS(−)で2回洗浄し、スクレーパーを用いて細胞を回収した。
【0052】
(2)脂質抽出
前記で回収した細胞を、溶解バッファー(20 mM HEPES pH 7.4, 10 μg/ml protease inhibitor, 1 mM dithiothreitol, 1 mM EDTA, 1 mM sodium orthovanadate, 15 mM sodium fluoride, and 0.5 mM 4-deoxypyridoxine)に溶解し、C17-S1Pを内部標準として加えて、Bligh & Dyer法を用いて脂質を抽出した。
【0053】
(3)セラミド産生促進率の算出
前記で抽出した脂質を、0.1%のTFAを含む20%アセトニトリルに溶解し、LC−MS/MSを用いて、セラミドをアシル鎖長ごとに定量した。
【0054】
なお、コントロールとして、前記センキュウ抽出物を添加する代わりに、同濃度の溶媒(30%エタノール水溶液)を用いて同様の実験を行った。
【0055】
(4)結果
結果を以下の表1に示す。なお、下記表中のセラミド産生促進率は、セラミドIIの産生量を基に下記式により算出された値である。
【0056】
【数1】

【0057】
【表1】

【0058】
表1に示す通り、センキュウ抽出物は、高いセラミド産生促進作用を有することが確認できた。
【0059】
<実験5:センキュウ抽出物を含有する化粧料の調整とその効果の検討>
実験5では、センキュウ抽出物を含有する化粧料の調整とその効果を検討した。
【0060】
以下の表2から7に示す組成の実施例1〜6に係る化粧料の調製およびその効果の検討を行った。なお、センキュウ抽出物としては、30%エタノール水溶液を用いて、前記実験1と同様の方法で抽出したものを用いた。
【0061】
[実施例1:化粧水1の調製]
以下の製法により、化粧水1を調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(7)を混合溶解した。
B.下記成分(8)〜(11)を混合溶解した。
C.AにBを加え混合し、実施例1に係る化粧水を得た。
【0062】
【表2】

【0063】
(効果)
調製した化粧水1は、べたつきもなく、みずみずしい肌感触を有し、保湿効果に優れ、変臭、変色、沈殿などもなく安定性も良好なものであった。
【0064】
[実施例2:乳液の調製]
下記の製法により、乳液を調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(10)を加熱溶解し、70℃に保った。
B.下記成分(11)〜(17)を加熱溶解し、70℃に保った。
C.AにBを加え乳化し、更に下記成分(18)を加え混合した。
D.Cを冷却し、下記成分(19)を加え混合し、実施例2に係る乳液を得た。
【0065】
【表3】

【0066】
(効果)
調製した乳液は、べたつきもなく、なめらかな肌感触を有し、皮膚水分保持効果に優れ、変臭、変色、分離などもなく安定性も良好なものであった。
【0067】
[実施例3:クリームの調製]
以下の製法によりクリームを調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(13)を加熱溶解し、70℃に保った。
B.下記成分(14)〜(19)を加熱溶解し、70℃に保った。
C.AにBを加え乳化し、更に下記成分(20)を加え混合した。
D.Cを冷却し、下記成分(21)を加え混合し、実施例3に係るクリームを得た。
【0068】
【表4】

【0069】
(効果)
調製したクリームは、べたつきもなく、なめらかでコクのある肌感触を有し、皮膚水分保持効果に優れ、変臭、変色などもなく安定性も良好なものであった。
【0070】
[実施4:美容液の調製]
下記の製法により、美容液を調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(8)を混合溶解した。
B.下記成分(9)〜(18)を混合溶解した。
C.BにAを加え混合し、実施例4に係る美容液を得た。
【0071】
【表5】

【0072】
(効果)
調製した美容液は、べたつきもなく、マイルドでなめらかな肌感触を有し、保湿効果に優れ、変臭、変色、沈殿などもなく安定性も良好なものであった。
【0073】
[実施例5:パックの調製]
以下の製法により、パックを調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(6)を加熱溶解した。
B.下記成分(7)〜(11)を混合溶解した。
C.Aを冷却後、Bを加え混合し、実施例5に係るパックを得た。
【0074】
【表6】

【0075】
(効果)
調製したパックは、肌に塗布すると適度な緊張感があり、パックを剥がしたあとはべたつきもなく、みずみずしいものであり、保湿効果に優れ、変臭、変色、分離などのなく安定性も良好なものであった。
【0076】
[実施例6:リキッドファンデーション(O/W型)]
以下の製法により、リキッドファンデーションを調製した。
(製法)
A.下記成分(1)〜(7)を加熱溶解した。
B.Aに下記成分(8)〜(11)を加え、均一に混合し、70℃に保った。
C.下記成分(12)〜(16)を加熱溶解し、70℃に保った。
D.CにBを加えて乳化した。
E.Dを冷却後、下記成分(17)を加え混合し、実施例6に係るリキッドファンデーション(O/W型)を得た。
【0077】
【表7】

【0078】
(効果)
調製したリキッドファンデーションは、伸びひろがりが良く、べたつきもなく、仕上がりも美しく、保湿効果に優れ、変臭、分離などもなく安定性も良好なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係るセラミド産生促進剤によれば、皮膚外用剤や化粧料に容易に配合でき、その高いセラミド産生促進効果により、皮膚の保湿機構を改善、および肌荒れを防止または改善し得る皮膚外用剤や化粧料を提供することができる。これらの皮膚外用剤や化粧料は、水分保持効果が高く、安定性が良く、肌感触が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センキュウ抽出物を有効成分とするセラミド産生促進剤。
【請求項2】
前記センキュウ抽出物は、センキュウの根茎をエタノールの割合が80質量%以下のエタノール水溶液で抽出することにより得られた抽出物である請求項1記載のセラミド産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセラミド産生促進剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する医薬品組成物。
【請求項4】
前記セラミド産生促進剤を、組成物中にセンキュウ抽出物として0.01質量%以上10質量%以下含有する請求項3記載の医薬品組成物。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の医薬品組成物を含有する皮膚外用剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のセラミド産生促進剤と、薬理学的に許容され得る添加剤と、を含有する化粧料組成物。
【請求項7】
前記セラミド産生促進剤を、組成物中にセンキュウ抽出物として0.01質量%以上10質量%以下含有する請求項6記載の化粧料組成物。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の化粧料組成物を含有する化粧料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−150237(P2010−150237A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249997(P2009−249997)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】