説明

センサユニット及びマイクロリアクタシステム

【課題】マイクロリアクタデバイスの入力側または/及び出力側で流体の複数種類の状態量を計測する場合において、正確に流体の状態量を計測することが可能なセンサユニットを提供する。
【解決手段】マイクロリアクタデバイス用のセンサユニットであって、内部に流路を有し、当該流路内の流体計測位置における流路壁面の周方向に、前記流路に連通する複数のセンサ設置孔と、前記流路壁面の周方向において互いに対向する位置に配置された光入力孔及び光出力孔とが設けられた流路形成部材と、前記複数のセンサ設置孔の各々に、感応部を前記流路側に向けて設置され、前記流体計測位置における流体の状態量を検出する複数種類のセンサと、光出射端を前記光入力孔の流路側に向けて設置された第1の光伝送手段と、光入射端を前記光出力孔の流路側に向けて設置された第2の光伝送手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の化学反応に利用される微細な流路を有するマイクロリアクタデバイスに用いられるセンサユニット及びこのセンサユニットを備えたマイクロリアクタシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質の化学反応に利用される微細な流路を有するマイクロリアクタデバイスが注目されている。このマイクロリアクタデバイスは、従来の化学プラントにおける大型の反応釜を用いた場合と比べて、化学反応の高速化及び高効率化を図ることができ、化学分野のみならず医療分野など様々な分野に応用可能な技術として期待されている。
【0003】
このようなマイクロリアクタデバイスでは、流路を通過する流体(つまり反応物質)の温度や圧力、流量等の状態量を反応条件に合わせて高精度に制御する必要があり、そのためにはこれら流体の状態量を正確に計測する必要がある。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、文献中の図1〜図4に記載されているように、流路FAを構成する溝14が形成された基板11と、この溝14の開口に向かって貫通し、且つ平面的に見た際に流路FAの幅方向における溝14の寸法よりも大きい孔20に流体RGの状態量を検出するセンサ80が配設された基板12とが重ねられて構成されたマイクロチップ1(マイクロリアクタデバイス)が開示されている。このような特許文献1のマイクロチップ1では、上記のような構成を採用することにより、センサ80を設置しても流体RGの流れに影響を及ぼすことなく、且つ内部の反応場所に直接センサ80を設置する(直接流体RGの状態量を計測する)ので、正確に反応場所における流体の状態量を計測することができる。
なお、従来のマイクロリアクタの詳細については、例えば以下の特許文献2〜5及び非特許文献1を参照されたい。
【特許文献1】特開2006−116479号公報
【特許文献2】特許第3625477号公報
【特許文献3】特表2003−516223号公報
【特許文献4】特表2005−507775号公報
【特許文献5】特表2006−519994号公報
【非特許文献1】A.Muller,V.Cominos,V.Hessel,B.Horn,J.Schurer,A.Ziogas,K.Jahnisch,V.Hillmann,V.Groer,K.A.Jam,A.Bazzanella,G.Rinke,M.Kraut,Fluidic bus system for chemical process engineering in the laboratory and for small-scale production,Chemical Engineering Journal,2005,107(1-3),205-214
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に開示されているように、マイクロリアクタデバイス内の反応場所となる流路を流れる流体の状態量を直接センサで計測する手法は、流体の反応条件を高精度に制御する技術としては理想的である。しかしながら、一般的にマイクロリアクタデバイスを用いて合成を行う場合、合成量を増やすためにナンバリングアップの手法が採られる。このナンバリングアップには、マイクロリアクタデバイス内の流路の本数を増やすことでデバイス1個当たりの合成量を増大させるインターナルナンバリングアップと、マイクロリアクタデバイス及び系統を増やすことで全体の合成量を増大させるエクスターナルナンバリングアップとがある。エクスターナルナンバリングアップによって増やせる系統数は、せいぜい10系統程度と考えられており、インターナルナンバリングアップによって可能な限り多くの合成量を得る必要がある。
【0006】
すなわち、合成量を増やすためにインターナルナンバリングアップを採用した場合、上記特許文献1の技術では、マイクロリアクタデバイス内に設けられた多数の流路の全てにセンサを設置しなければならず、さらに、センサの種類は圧力センサだけでなく、温度センサやその他のセンサも各流路に設置する必要があるため、装置構成の複雑化や装置サイズの大型化、装置コストの増大等を招く要因となり実現は困難である。また、マイクロリアクタデバイスには、チップ以外に金属板やセラミック板を積層して構成したデバイス、円筒管を利用したデバイス等があり、全てに特許文献1の技術が適応できるわけではない。また、特許文献1の技術のように、センサをマイクロチップに一体化して構築した場合、流路の詰まりや破損が生じた際には、センサを含めたチップ全体の交換が必要となるため交換コストが高価になり、また、センサの校正方法が問題となる等、メンテナンス性が悪化する。
【0007】
これらのことから、マイクロリアクタデバイス内の流路はシミュレーション技術を駆使して設計し、マイクロリアクタデバイスの入出力側(具体的には流路の入力端と出力端)に設置したセンサの値から安定した状態に流体を制御する方法が極めて現実的である。その一方で、マイクロリアクタデバイスの入出力にセンサを設置する場合、以下のような問題がある。マイクロリアクタデバイスの入出力にセンサを設置する場合、マイクロリアクタデバイス内の反応場所における流体の状態と、センサ設置箇所における流体の状態との差を極力小さくするために、センサ設置箇所はできるだけ流路の入力端または出力端に近い位置に設定することが望ましいが、上述したように、センサの種類は1種類だけでなく複数種類のセンサを設置する場合もあり得る。
【0008】
この場合、従来のセンサ設置方法によると、例えば温度センサを流路の出力端に最も近い位置に設置し、圧力センサを温度センサより少し離れた位置に設置し、流量センサを圧力センサより少し離れた位置に設置する、というようにセンサの種類が多くなるほど後段に設置されるセンサはマイクロリアクタデバイスから遠い位置の流体の状態量を計測していることになる。すなわち、流路の入力端または出力端に近い位置の流体の状態量について複数種類(例えば温度や圧力、流量など)計測したい場合、1つのセンサは所望の位置における流体の状態量を計測することができるが、それ以外のセンサは所望の位置とは異なる位置の状態量を計測することになり、所望の位置における正確な流体の状態量を得ることは困難であった。
【0009】
具体的には、流体の濃度計測に分光分析法を用いる場合、例えば水の近赤外スペクトルは、温度上昇に伴い水の水素結合数が低下することに起因して、7070(cm−1)付近のバンドのスペクトル強度が強くなり、6844(cm−1)付近のバンドのスペクトル強度が弱くなることが知られている。そのため、分光分析法によって精度の高い流体濃度の計測を行うためには、高精度な温度制御もしくは温度計測によるスペクトル補償が必要となる。しかしながら、上述したように、従来では同一の計測箇所において複数の状態量を計測することができないため、分光分析を行った箇所の流路前段もしくは後段で温度計測を行った場合、デバイスの熱容量やヒータの不均一な加熱により、分光分析を行った箇所の温度とは異なる温度を計測することになり、温度制御もしくは温度計測の精度が悪くなってしまう。その結果、正確にスペクトル補償ができず、流体の濃度計測の精度が低下するという問題が生じる。
【0010】
特許文献2の技術は、マイクロリアクタデバイスをそれぞれの機能に応じてモジュール化し、これらのモジュールの組み合わせによって目的の合成物の生成のために最適な環境、反応工程や反応条件を作り出すことを主旨としており、上記課題を解決するものではない。また、特許文献3の技術では、文献中の図4に記載されているように、マイクロリアクタモジュールの入力側に設けられたフレーム10に圧力センサや温度センサ等のセンサ6が設置されているが、これらのセンサ6は同一の位置における流体の状態量を計測できず、また、センサ6は流路に突出しているため流体の流れに乱れが生じ、正確な状態量を計測することができないだけでなく、マイクロリアクタデバイス内における化学反応にも悪影響を及ぼす。
【0011】
また、特許文献4の技術は、容易に交換可能な処理モジュールから構成され、媒体がマイクロリアクタシステムにおいて移送されるための、非常に単純で柔軟性のある接続システムを含むマイクロリアクタシステムを提供することを主旨としており、上記課題を解決するものではない。また、特許文献5の技術は、環境ノイズ及びそれに関連した影響に敏感なミクロ流体構成要素を保護するようにマニホルド内に隔離する装置を使用することによって、敏感なミクロ流体構成要素に対する環境干渉またはノイズを原因とする潜在的な問題を解決することを主旨としており、上記課題を解決するものではない。さらに、非特許文献1の技術は、共通化したバックボーンエレメントによって複数の仕様のマイクロリアクタデバイスを組み合わせ、さらに各種のセンサを設置することができるアダプタプレートを組み合わせることにより、1つのマイクロリアクタシステムを構築することを主旨としており、上記課題を解決するものではない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、マイクロリアクタデバイスの入力側または/及び出力側で流体の複数種類の状態量を計測する場合において、正確に流体の状態量を計測することが可能なセンサユニットと、このように正確に流体の状態量を計測可能なセンサユニットを備えることによりマイクロリアクタデバイス内の流体の状態量を高精度に制御することが可能なマイクロリアクタシステムとを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明では、センサユニットに係る第1の解決手段として、マイクロリアクタデバイス用のセンサユニットであって、内部に流路を有し、当該流路内の流体計測位置における流路壁面の周方向に、前記流路に連通する複数のセンサ設置孔と、前記流路壁面の周方向において互いに対向する位置に配置された光入力孔及び光出力孔とが設けられた流路形成部材と、前記複数のセンサ設置孔の各々に、感応部を前記流路側に向けて設置され、前記流体計測位置における流体の状態量を検出する複数種類のセンサと、光出射端を前記光入力孔の流路側に向けて設置された第1の光伝送手段と、光入射端を前記光出力孔の流路側に向けて設置された第2の光伝送手段とを具備することを特徴とする。
【0014】
また、本発明では、センサユニットに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記第1の光伝送手段の前記光出射端には当該第1の光伝送手段を介して伝送された光を前記流路に向けて出射する第1の光学部材が設けられ、前記第2の光伝送手段の前記光入射端には前記第1の光学部材から出射された光を受光して前記第2の光伝送手段に入射する第2の光学部材が設けられ、前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材は前記流路壁面に対して略面一となるように設けられ、前記感応部が前記流路壁面に対して略面一となるように前記複数種類のセンサは設置されていることを特徴とする。
【0015】
一方、本発明では、マイクロリアクタシステムに係る第1の解決手段として、マイクロリアクタデバイスと、当該マイクロリアクタデバイス内の流路の入力側または/及び出力側に接続された請求項1または2に記載のセンサユニットと、前記第1の光伝送手段に光を供給すると共に、前記第2の光伝送手段を介して取得した光の分光分析を行うことにより前記取得した光のスペクトルデータを生成し、当該スペクトルデータを基に前記流体計測位置における流体の濃度を算出する濃度計測装置と、前記センサユニットにおける前記複数種類のセンサの各々によって検出された、前記流体計測位置における流体の状態量のいずれかを基に前記流体の濃度を補正し、当該濃度を含む前記センサユニットから得られる流体の状態量に基づいて、前記マイクロリアクタデバイス内における流体の状態量を制御する制御装置とを具備することを特徴とする。
【0016】
また、本発明では、マイクロリアクタシステムに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記センサユニットに対応して得られるスペクトルデータに基づいて前記マイクロリアクタデバイス内の流路の入力側または/及び出力側における流体の成分を分析する成分分析装置を備えることを特徴とする。
【0017】
また、本発明では、マイクロリアクタシステムに係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、前記センサユニットの前段または後段に流体を排出するためのバルブを備え、前記制御装置は、前記成分分析装置による成分分析結果を基に前記マイクロリアクタデバイスへの不要な流入物または反応生成物が検出された場合、もしくは前記濃度計測装置による濃度計測結果を基に前記マイクロリアクタデバイスに所望と異なる濃度の流入物または反応生成物が検出された場合に、前記バルブを切り替えて前記流入物または/及び反応生成物を外部に排出させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明では、マイクロリアクタシステムに係る第4の解決手段として、上記第2または第3の解決手段において、前記制御装置は、前記マイクロリアクタデバイスの入力側に設けられたセンサユニットによって得られる前記スペクトルデータに基づく流体の濃度計測結果、成分分析結果、温度計測結果と、前記マイクロリアクタデバイスの出力側に設けられたセンサユニットによって得られる前記スペクトルデータに基づく流体の濃度計測結果、成分分析結果、温度計測結果、圧力計測結果とに基づいて、前記マイクロリアクタデバイスにおける反応速度、反応生成物の成分及び反応温度を求め、当該反応速度、反応生成物の成分及び反応温度に基づいて前記マイクロリアクタデバイスの収率評価を行うことを特徴とする。
【0019】
また、本発明では、マイクロリアクタシステムに係る第5の解決手段として、上記第4の解決手段において、前記マイクロリアクタデバイスの入力側に流体の状態量を調整可能な調整装置を備え、前記制御装置は、前記調整装置を制御することにより前記流体の状態量を変化させ、前記マイクロリアクタデバイスの前記収率が最も高くなる最適な制御条件を探索することを特徴とする。
【0020】
また、本発明では、マイクロリアクタシステムに係る第6の解決手段として、上記第2〜第5の解決手段において、圧力損失を生む圧力損失発生デバイスと、前記圧力損失発生デバイスの入力側及び出力側に接続された上記のセンサユニットとを備え、前記制御装置は、前記圧力損失発生デバイスの入力側のセンサユニットにおける圧力センサによって検出された流体の圧力と、前記圧力損失発生デバイスの出力側のセンサユニットにおける圧力センサによって検出された流体の圧力とに基づいて圧力損失を求め、当該圧力損失に基づいて流体の濃度を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るセンサユニットによれば、複数種類のセンサによって同一の流体計測位置における流体の状態量を同時に計測することができるので、マイクロリアクタデバイスの入力側または/及び出力側で流体の複数種類の状態量を計測する場合において、正確に流体の状態量を計測することが可能である。また、本発明に係るセンサユニットには光入力孔及び第1の光伝送手段と光出力孔及び第2の光伝送手段とが設けられており、これらを使用して分光分析を行うことにより、流体計測位置における流体の濃度を計測することも可能である。近赤外スペクトルには温度依存性があり、温度によるスペクトル補償(濃度補正)を行う必要であるが、従来では同一の計測点において複数の状態量を同時に計測することができないため、温度制御もしくは温度計測の精度が悪くなってしまい、その結果、流体の濃度計測の精度が低下するという問題が生じていた。これに対し、本発明に係るセンサユニットを用いることにより、流体計測位置について流体の温度と濃度(近赤外スペクトル)とを同一箇所で同時に計測することが可能となる。つまり、流体計測位置における温度計測結果を基に、流体計測位置で計測した濃度を補正することにより、流体計測位置における流体の正確な濃度を得ることができる。また、濃度、つまり近赤外スペクトルは温度依存性のみならず、圧力やその他の状態量にも依存するので、上記の温度と同様に、圧力やその他の状態量による補正を行うことも可能である。
また、このように正確に流体の状態量を計測可能なセンサユニットを備えることにより、マイクロリアクタデバイス内の流体の状態量を高精度に制御することが可能なマイクロリアクタシステムを提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明に係るセンサユニット及びマイクロリアクタシステムの一実施形態について説明する。
〔センサユニット〕
まず、本実施形態におけるマイクロリアクタデバイス用のセンサユニットの構成について図1〜図3を参照して説明する。図1は、本実施形態におけるセンサユニット100の外観図である。なお、以下の説明においては、図1中に示されたXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。XYZ直交座標系は、X軸が後述する流路11の延在方向と平行となるように設定され、Y軸はX軸と直交して水平面を形成するように設定され、また、Z軸はXY平面に直交する方向(つまり鉛直方向)に設定されている。
【0023】
図1(a)はセンサユニット100の斜視図であり、図1(b)はセンサユニット100の正面図(YZ平面図)、図1(c)はセンサユニット100の側面図(XZ平面図)である。また、図2(a)は図1(b)におけるA−A矢視断面図であり、図2(b)は図2(a)においてセンサユニット100を構成する各部材の展開図である。図3(a)は、図1(c)におけるB−B矢視断面図であり、図3(b)は図3(a)においてセンサユニット100を構成する各部材の展開図である。
【0024】
センサユニット100は、図1(a)〜(c)に示すように、筐体10、流体用継手20及び30、光入力部40、光出力部50、温度センサ部60及び圧力センサ部70から概略構成されている。
【0025】
筐体(流路形成部材)10は、図2(b)に示すように、内部にX軸方向に延在する流路11と、流路11の両端に設けられた継手用接続孔12及び13と、流路11内に設定された計測点(流体計測位置)mの流路壁面の周方向において、Z軸方向に沿って流路11に連通し且つ互いに対向する位置に配置された光入力孔14及び光出力孔15と、光入力孔14の上端に設けられた光入力部接続孔16と、光出力孔15の下端に設けられた光出力部接続孔17とを有している。さらに、この筐体10は、図3(b)に示すように、計測点mの流路壁面の周方向において、Y軸方向に沿って流路11に連通するセンサ設置孔18及び19を有している。
【0026】
流路11は、マイクロリアクタデバイスに供給する流体を通過させ、計測点mにおける流体の状態量を計測するために設けられた円筒形状の流路である。なお、本実施形態では流路11の断面形状を円形としたが、これに限定されず他の形状を採用しても良い。また、流路11の内壁面を親水性の媒体で修飾しても良い。これにより、流路11内における気泡の付着あるいは発生を防止することができ、流体への悪影響を防ぐことができる。
【0027】
また、本実施形態では、センサ設置孔18及び19は、計測点mを中心として流路11の周方向に対して直角となるように設けられているが、必ずしも流路11の周方向に対して直角とする必要はなく、センサ設置孔18及び19に設置するセンサの種類によっては流路11の周方向に対して所定の鋭角をもって設けても良い。また、必要なセンサの数に応じてセンサ設置孔を複数設けても勿論良い。なお、光入力孔14及び光出力孔15は、後述する分光分析に用いる孔であることから、流路11の周方向に対して直角となるように、且つ計測点mを中心として互いに対向するように設けることが望ましい。また、筐体10の形状は、センサの種類や数などに応じて任意に変更可能である。
【0028】
流体用継手20及び30は、例えば1/8インチ(約3.2mm)のチューブ継手であり、流路11の両端をマイクロリアクタデバイス側の反応流路や流体供給装置などから延設されている流体供給用配管に接続するための流路接続部材である。図2(a)及び(b)に示すように、流体用継手20は、筐体10の継手用接続孔12にゴムパッキン21を挟んだ状態で図示しないネジ等で接続され、また、流体用継手30は、筐体10の継手用接続孔13にゴムパッキン31を挟んだ状態で図示しないネジ等で接続されている。このように、流体用継手20及び30は、流路11の流体の入出力口として用いられる。
【0029】
なお、流体用継手20及び30だけでなく、図2(b)に示すような他のサイズ(例えば1/16インチ)のチューブ継手である流体用継手20’及び30’にも対応できるような構成としても良い。その場合、筐体10への接続用のネジの径及びピッチを全ての流体用継手で共通にし、サイズの異なる流体用継手であっても筐体10との互換性を確保することが望ましい。また、本実施形態では、流体用継手20及び30のサイズ(1/8インチ)に合わせて流路11の径を設定している(例えば2.3mm)が、サイズの小さい流体用継手20’及び30’を用いる場合、サイズの小さい流体用継手20’及び30’からみて径の大きな流路11に流体が流れる際に、接続部分の径の異なる箇所に気泡の残留する可能性を少なくするように、流体用継手20’及び30’には筐体10との接続側にテーパ加工を施している。このように、筐体10とサイズの異なる流体用継手20、30、20’、30’との互換性を持たせることにより、チューブ径を変換する場合に余計な継手を繋げずに済むため、デッドボリュームにおける滞留時間の減少や熱容量の減少に寄与する。
【0030】
なお、流体用継手20及び30として、チューブ継手だけでなく、面シール継手、ねじ込み継手、平底あるいはコーンタイプの液クロマトグラフィ用継手、フランジ、溶接継手のいずれか、またはこれらの組み合わせを採用することができる。流路11の断面形状及び内径寸法は、接続するマイクロリアクタデバイス、使用する流体用継手20及び30に応じて設定すれば良い。また、マイクロリアクタデバイス側の流路にフランジ構造を用いて流路11を直接接続する場合は、流路11の内径をマイクロリアクタデバイス側の流路の内径と略一致するように設定することにより、センサユニット100における流路11とマイクロリアクタデバイスにおける流路との断面積差を少なくすることが望ましい。これにより、流路同士の接続部分における流体への悪影響を軽減でき、計測点mにおける流体の状態量を正確に計測できると共に、マイクロリアクタデバイスの流路内での化学反応に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0031】
光入力部40は、図2(b)に示すように、光ファイバ(第1の光伝送手段)41、コネクタ42、Oリング43、レンズ(第1の光学部材)44、位置調整用ボルト45から構成されている。図2(a)に示すように、レンズ44を筐体10の光入力孔14に、流路11の壁面に対して略面一になるように挿入し、Oリング43を光入力孔14の上端に形成されたテーパ部に配置し、光ファイバ41を接続したコネクタ42を光入力部接続孔16に嵌め込み、位置調整用ボルト45によってコネクタ42を筐体10に締め込むことにより、Oリング43を押し潰して流路11を密閉すると同時にレンズ44をOリング43により保持する。光ファイバ41は光出射端を光入力孔14の流路11側に向けてコネクタ42に接続されている。つまりレンズ44は、光ファイバ41の光出射端に配置され、光ファイバ41を介して伝送される光を集光して流路11(計測点m)に向けて出射する。
【0032】
また、Oリング43は、位置調整用ボルト45によってレンズ44と光ファイバ41との間の光軸方向(Z軸方向)の距離を調整する際のガタ防止機構となる。レンズ44と光ファイバ41との間に作動距離を必要とする場合は、位置調整用ボルト45のねじ込み量を調整して、焦点位置に光ファイバ41の先端(光出射端)を配置させることができ、また、作動距離を必要としない場合は、レンズ44の上端面に光ファイバ41の光出射端を合わせるように配置させることを可能としており、波長依存性のあるレンズ焦点距離を、使用する光の波長に応じて調整することが可能である。また、光軸と直角な方向(X軸方向及びY軸方向)に対する光軸調整については、筐体10、光ファイバ41、コネクタ42、レンズ44の嵌め合い公差で規定しているため、調整は不要としている。
【0033】
光出力部50は、図2(b)に示すように、光ファイバ(第2の光伝送手段)51、コネクタ52、Oリング53、レンズ(第2の光学部材)54、位置調整用ボルト55から構成されている。図2(a)に示すように、レンズ54を筐体10の光出力孔15に、流路11の壁面に対して略面一になるように挿入し、Oリング53を光出力孔15の下端に形成されたテーパ部に配置し、光ファイバ51を接続したコネクタ52を光出力部接続孔17に嵌め込み、位置調整用ボルト55によってコネクタ52を筐体10に締め込むことにより、Oリング53を押し潰して流路11を密閉すると同時にレンズ54をOリング53により保持する。光ファイバ51は光入射端を光出力孔15の流路11側に向けてコネクタ52に接続されている。つまりレンズ54は、光ファイバ51の光入射端に配置され、レンズ44から出射される光を受光して光ファイバ51の光入射端に入射する。
【0034】
本実施形態では、レンズ44及び54として屈折率分布型レンズを用いるが、これに限らず、平凸レンズ等の流体に対する接液面が平面となるようなレンズを用いても良い。また、本実施形態のように、レンズ44及び54用の窓材を用いないことが望ましい。これにより、窓材での光の吸収や、窓材と空気層との境界面における光の反射が生じないことから流路11を流れる流体に対する透過光量が大きくなり、光の吸収の大きい流体の分光分析を可能とする。さらに、このように、窓材を用いずに直接レンズ44及び54を流体に接液することにより、センサユニット100の小型化を図ることができ、また、熱容量が小さくなるため温度応答性の向上を図ることができる。
【0035】
なお、光出力部50における光軸調整方法は光入力部40と同様である。また、レンズ44とレンズ54との間における光路長を精度良く確保するために、レンズ44とレンズ54との間に光路調整用の治具を挟み込みながら組み立てを行うことが望ましい。このような治具を用いることにより、流路径の範囲内であれば光路長は可変となる。しかしながら、上記のように流路11の壁面に対してレンズ44及びレンズ54が略面一となるように調整することが望ましい。これは、レンズ44及びレンズ54が流路11内に突き出てデッドボリュームが生じると、計測点mにおいて流体の乱れが発生し、計測点mにおける流体の状態量を正確に計測することができなくなるためである。
【0036】
温度センサ部60は、図3(a)及び(b)に示すように、例えば熱電対である温度センサ61とネジ止め機構付きのセンサ継手62とから構成されており、温度センサ61はセンサ継手62に把持され、感応部(熱電対の先端部)を流路11に向けてセンサ設置孔18に接続されている。このように、本体である温度センサ61がチューブ状のセンサであり、温度センサ61自体に固定用のネジ止め機構が付いていない場合は、ネジ止め機構付きのセンサ継手62を使用して筐体10に接続する。温度センサ61は、計測点mの流体の温度を示す温度検出信号を、図示しない計測装置または制御装置に出力するものである。
【0037】
センサ継手62としては、液クロマトグラフィ(HPLC)用継手を用いることができる。現在一般的に市販されている液クロマトグラフィ用継手は、直径1/32インチ(約0.8mm)、1/16インチ(約1.6mm)、1/8インチ(約3.2mm)等のチューブ状のセンサ本体(温度センサ61)に対応可能である。仮に、センサ本体の直径に対応可能な液クロマトグラフィ用継手がない場合(例えばセンサ本体が直径0.5mmの熱電対であった場合)、市販されている直径調整用チューブを利用することにより、液クロマトグラフィ用継手を使用してセンサ設置孔に固定することができる。なお、固定用のネジ止め機構付きのセンサ本体を使用する場合は、別途用意したOリング等を介して直接筐体10に接続すれば良い。
【0038】
圧力センサ部70は、図3(a)及び(b)に示すように、固定用のネジ止め機構付きの圧力センサ71と信号線72とOリング73とから構成されており、センサ設置孔19と圧力センサ71との間にOリング73を挟み込むことで流路11を密閉しつつ、感応部(圧力センサ71の先端部)を流路11に向けてセンサ設置孔19に接続されている。圧力センサ71は、計測点mの流体の圧力を示す圧力検出信号を、信号線72を介して図示しない計測装置または制御装置に出力するものである。
なお、圧力センサ71が、固定用のネジ止め機構が付いていないチューブ状のものである場合、上述した温度センサ61と同様に、液クロマトグラフィ用継手等のネジ止め機構付きのセンサ継手62を使用して筐体10と接続すれば良い。
【0039】
なお、温度センサ61及び圧力センサ71の感応部は、流路11の壁面に対して略面一となるように設置することが望ましい。これにより、計測点mにおいて生じる流体の乱れ等、流体に対する影響を軽減することができ、より正確に計測点mにおける流体の状態量を計測することができる。また、温度センサ部60及び圧力センサ部70を使用しない(筐体10に接続しない)場合は、図3(b)に示すようなプラグ90及び91を未使用のセンサ設置孔18及び19に接続することが望ましい。このように、センサを設置しないセンサ設置孔には孔埋め部材であるプラグを接続することにより、流路11の気密を確保すると共にデッドボリューム等の流体への影響を軽減することができる。つまり、プラグ90及び91の先端部も流路11の壁面に対して略面一となるように接続することが望ましい。また、センサの種類としては、温度センサ61及び圧力センサ71だけでなく、熱量センサ、ガス濃度センサ、pHセンサ、電気化学センサ、静電容量センサ、導電率センサ、湿度センサ、歪センサ、変位量センサ、粘度センサ、濁度センサ、超音波センサ、磁場センサ、応力センサ、イオンセンサ等から選択して使用することができる。
【0040】
以上のような構成を特徴とする本実施形態のセンサユニット100によれば、複数種類のセンサ(分光分析用の光入力部40及び光出力部50も含む)によって同一の計測点mにおける流体の状態量を同時に計測することができるので、マイクロリアクタデバイスの入力側または/及び出力側で流体の複数種類の状態量を計測する場合において、正確に各種の状態量を計測することが可能である。また、センサユニット100内の流路11に詰まりや破損が生じた際には、全センサを外して筐体10だけを交換すれば良く、また、センサの1本が破損した場合にはその1本だけを交換すれば良いなど、メンテナンス性の向上を図ることができる。
なお、本センサユニット100は、流路11や流体用継手20及び30をマイクロリアクタデバイス内の流路径に合わせて適宜設定することにより、マイクロオーダの微細な流路のみならず、径の比較的大きな流路を有するマイクロリアクタデバイスに対応することができる。
【0041】
〔センサユニット100を用いた流体の状態量計測に関する実験結果〕
本願発明者は、上述した構成のセンサユニット100を用い、実際に流路11に流体を供給して計測点mにおける流体の状態量(濃度、温度、圧力)を計測する実験を行った。以下、この実験結果について説明する。
【0042】
図4は、計測点mにおける流体の濃度計測に用いた実験システムの構成図である。図4に示すように、濃度計測に用いた実験システムは、センサユニット100の流体用継手20に、所定の濃度を有するエタノール水溶液が入れられた容器110を配管111を介して接続し、流体用継手30には配管121を介してシリンジ120を接続し、光入力部40の光ファイバ41の一端と光出力部50の光ファイバ51の一端とを分光分析装置130に接続した構成となっている。
【0043】
容器110内のエタノール水溶液をシリンジ120によって吸引することによって、センサユニット100の流路11にエタノール水溶液を導入する。また、分光分析装置130は、光ファイバ41に近赤外光を供給すると共に、光ファイバ51を介して取得した近赤外光の分光分析を行うことにより当該取得した近赤外光のスペクトルデータを生成するものである。つまり、光ファイバ41を介して伝送された近赤外光は、レンズ44によって流路11内の計測点mに向かって出射される。そして、流路11内を流れるエタノール水溶液を透過した近赤外光は、レンズ54に受光されて光ファイバ54を介して分光分析装置130に伝送される。
【0044】
図5は、濃度0wt%、20wt%、40wt%、60wt%、80wt%、99.5wt%の6種類のエタノール水溶液について分光分析を行い、それぞれ分析によって得られた近赤外スペクトルデータを示すものである。図5において、横軸は波長(nm)、縦軸は吸光度(abs)である。また、符号140は濃度0wt%、符号141は濃度20wt%、符号142は濃度40wt%、符号143は濃度60wt%、符号144は濃度80wt%、符号145は濃度99.5wt%のエタノール水溶液についてそれぞれ得られた近赤外スペクトルデータである。
【0045】
図5に示すように、水のOH基の伸縮運動の第1倍音とされる1450(nm)付近において、エタノール濃度が小さい(水の濃度が大きい)ほど吸光度は大きくなり、また、エタノールのCH基(CH)の伸縮運動の第1倍音とされる1695(nm)付近において、エタノール濃度が大きい(水の濃度が小さい)ほど吸光度は大きくなっていることがわかる。これは、濃度既知のエタノール水溶液についての近赤外スペクトルデータを本実施形態のセンサユニット100を用いて計測可能である(つまり流路11内の計測点mにおける流体の濃度を計測可能である)ことを示している。
【0046】
図6は、計測点mにおける流体の濃度、温度、圧力計測に用いた実験システムの構成図である。なお、図6において図4と同じ構成要素には同一符号を付し、説明を省略する。
図6に示す実験システムにおいて、センサユニット100の流体用継手20と容器110との間の配管111にポンプ150が設けられ、流体用継手30の後段に接続された配管121には背圧弁160、圧力負荷170、空容器180が設けられ、また、センサユニット100の温度センサ部60の温度センサ61と、圧力センサ部70の信号線72と、分光分析装置130と接続された状態量計測装置190が設けられている。ポンプ150は、容器110内の流体を吸引してセンサユニット100の流路11に導入するものであり、背圧弁160及び圧力負荷170は流体の流量に依存した所定の圧力が加えるためのものであり、空容器180は背圧弁160及び圧力負荷170を介して排出される流体を受け留めるための容器である。状態量計測装置190は、分光分析装置130が生成した近赤外スペクトルデータを基に計測点mにおける流体の濃度を算出すると共に、温度センサ61から入力される温度検出信号を基に計測点mにおける流体の温度を算出し、圧力センサ71(信号線72)から入力される圧力検出信号を基に計測点mにおける流体の圧力を算出するものである。
【0047】
図7は、上記のような実験システムによるセンサユニット100の計測点mにおける濃度、温度、圧力計測結果を示すものである。なお、図7において、横軸は時間(min)、縦軸はHO濃度(%)、温度(°C)、圧力(MPa)である。また、符号191はHO濃度、符号192は温度、符号193は圧力の時間変化を示す曲線である。実験方法としては、まず容器110内に濃度60wt%のエタノール水溶液を入れておき、時刻0(min)から3(min)経過後に所定の流量を設定して一定の圧力を加えた状態で、ポンプ150によってエタノール溶液をセンサユニット100の流路11に導入する。そして、3.7(min)経過後にポンプ150を停止して容器110内を純水に入れ替え、再度ポンプ150によって純水をセンサユニット100の流路11に導入する。さらに、20(min)経過後にポンプ150を停止して容器110内を濃度60wt%のエタノール水溶液に入れ替え、再度ポンプ150によってエタノール水溶液をセンサユニット100の流路11に導入する。なお、本実験では、温度は大気温(約20°C)のままで温度操作は行っていない。
【0048】
図7に示すように、3(min)経過後、圧力は約41.6(kPa)となり、HO濃度は約9.2(min)経過した時点で濃度変化(40%から100%への変化)が生じる。つまり、3.7(min)経過時点で入れ替えた純水が9.2(min)経過後にセンサユニット100の計測点mに到達したものと推定される。なお、3.7(min)付近で圧力が急減に低下する箇所が発生しているが、これは純水に入れ替える際にポンプ150を一時停止したためである。このHO濃度に変化が生じる9.2(min)経過後に、圧力は41.6(kPa)から約28.8(kPa)まで降下する。本実験では配管内の圧力を強制的に変化させてはいないため、このような圧力降下が生じるのは、溶液の粘性の違いにより生じる圧力損失差が原因であると考えられ、配管内の溶液がエタノール水溶液から純水に順次置換されていることを示している。ここで、円管内の層流における圧力損失ΔPは、下記(1)式に示すようなハーゲン−ポアズイユ(Hagen-Poiseuille)式によって算出することができる。
ΔP=32・μ・L・U/D ・・・・・・・・・(1)
【0049】
上記(1)式において、Dは管内径(m)、Lは管長さ(m)、Uは管内平均流速(m/s)、μは流体粘度(Pa・s)である。なお、流体粘度μは温度によって変化するため、圧力損失ΔPは温度依存性を有する。本実験では、細管を接続することで圧力負荷170としている。この細管のスペックと動作状態とに基づいて圧力損失ΔPを算出した結果を図8に示す。図8において、60wt%のエタノール水溶液と純水の粘度は化学便覧に掲載されている数値を用いた。図7からわかるように、温度20(°C)において、センサユニット100による圧力差(圧力損失)の実測値は41.6−28.8=12.8(kPa)であり、図8に示す理論値である圧力損失差12(kPa)とはほぼ一致する。これは、センサユニット100による圧力計測値が高い信頼性を有していることを示している。
【0050】
図7に戻って説明すると、約26(min)経過後にHO濃度が低下する。つまり、20(min)経過時点で入れ替えたエタノール水溶液が26(min)経過後にセンサユニット100の計測点mに到達したものと推定される。この時、圧力も41.6(kPa)程度まで復帰(上昇)する。なお、20(min)付近で圧力が急減に低下する箇所が発生しているが、これは純水からエタノール水溶液に入れ替える際にポンプ150を一時停止したためである。また、本実験では温度操作を行っていないので、計測点mにおける温度は大気温20(°C)と同一となっていることがわかる。
【0051】
以上のような実験結果より、本センサユニット100をマイクロリアクタデバイスの入力側または/及び出力側に接続することにより、流体に関する複数種類の状態量(本実施形態では濃度、温度、圧力)を、同一の計測点で同時に計測できることが実証された。
【0052】
[マイクロリアクタシステム]
続いて、本実施形態におけるマイクロリアクタシステムについて図9を参照して説明する。この図9に示すように、本マイクロリアクタシステムは、マイクロリアクタデバイス200と、マイクロリアクタデバイス200の一方の入力側(第1流路200a)に接続されているセンサユニット100aと、マイクロリアクタデバイス200の他方の入力側(第2流路200b)に接続されているセンサユニット100bと、マイクロリアクタデバイス200の出力側(反応流路200c)に接続されているセンサユニット100cと、第1の流体供給装置210と、第1の配管220と、第2の流体供給装置230と、第2の配管240と、第3の配管250と、濃度計測器260と、温度計測器270と、圧力計測器280と、制御装置290とから構成されている。
【0053】
センサユニット100a、100b、100cは、基本的な構成は上述したセンサユニット100と同じであるが、流体用継手20または30の一方をフランジ構造としてマイクロリアクタデバイス200に接続している点で異なる。以下では説明の便宜上、センサユニット100a、100b、100cの構成要素の符号に、それぞれa、b、cの添え字を付す。マイクロリアクタデバイス200は、2入力1出力のマイクロリアクタデバイスであり、流体供給用の流路として第1流路200a及び第2流路200bが設けられており、反応用の流路として反応流路200cが内部に設けられている。このようなマイクロリアクタデバイス200の構成材料としては、例えばパイレックス(登録商標)や石英等のガラス材料、ステンレス、チタン、アルミ等の金属材料、PDMS、PMMA、アクリル、テフロン(登録商標)、PEEK等の樹脂材料、セラミックス(アルミナ等)などを用いることができる。
【0054】
第1の流体供給装置210は、第1の流体を貯蔵するタンクやポンプユニット等から構成されており、制御装置290の制御の下、ポンプユニットによって第1の流体をタンクから吸引し、センサユニット100aの流体用継手20aに接続されている第1の配管220を介してセンサユニット100aの流路11aに第1の流体を供給する。第2の流体供給装置230は、第2の流体を貯蔵するタンクやポンプユニット等から構成されており、制御装置290の制御の下、ポンプユニットによって第2の流体をタンクから吸引し、センサユニット100bの流体用継手20bに接続されている第2の配管240を介してセンサユニット100bの流路11bに第2の流体を供給する。
【0055】
センサユニット100aの流路11aを介してマイクロリアクタデバイス200の第1流路200aに供給された第1の流体と、センサユニット100bの流路11bを介してマイクロリアクタデバイス200の第2流路200bに供給された第2の流体とは、反応流路200cにおいて混合されて化学反応を起こす。その化学反応によって生成された生成物は、センサユニット100cの流路11cを介して流体用継手20cに接続された第3の配管250によって後段の他の装置に送られる。
【0056】
濃度計測器260は、センサユニット100aの光ファイバ41a及び51aと、センサユニット100bの光ファイバ41b及び51bと、センサユニット100cの光ファイバ41c及び51cと接続されており、各光ファイバ41a、41b、41cに近赤外光を供給すると共に、各光ファイバ51a、51b、51cを介して取得した近赤外光の分光分析を行うことにより当該取得した近赤外光のスペクトルデータを生成する。また、この濃度計測器260は、センサユニット100a、100b、100cの各々について生成した近赤外スペクトルデータを基に、センサユニット100aの計測点ma、センサユニット100bの計測点mb、センサユニット100cの計測点mcにおける流体の濃度を算出し、当該濃度を示す濃度計測信号を制御装置290に出力する。
【0057】
温度計測器270は、センサユニット100aの温度センサ部60a、センサユニット100bの温度センサ部60b、センサユニット100cの温度センサ部60cのそれぞれから入力される温度検出信号をデジタル変換して温度を算出し、当該温度を示す温度計測信号を制御装置290に出力すると共に、図示しない表示部に各計測点ma、mb、mcにおける温度計測結果を表示する。圧力計測器280は、センサユニット100aの圧力センサ部70a、センサユニット100bの圧力センサ部70b、センサユニット100cの圧力センサ部70cのそれぞれから入力される圧力検出信号をデジタル変換して圧力を算出し、当該圧力を示す圧力計測信号を制御装置290に出力すると共に、図示しない表示部に各計測点ma、mb、mcにおける圧力計測結果を表示する。制御装置290は、各計測点ma、mb、mcにおける濃度計測信号、温度計測信号及び圧力計測信号に基づいて、本マイクロリアクタシステムの全体動作を制御することにより、マイクロリアクタデバイス200における流体の状態量を制御する。
【0058】
次に、このように構成された本マイクロリアクタシステムの動作、特に制御装置290の動作について説明する。なお、制御装置290は、各計測点ma、mb、mcにおける濃度計測信号、温度計測信号及び圧力計測信号に基づいて、多種多様な制御や信号処理を行うことができ、以下に説明するものはその一例に過ぎず、センサユニット100a、100b、100cに設けられたセンサの種類に応じてそれらの制御や信号処理を変えても良い。
【0059】
(1)温度制御
制御装置290は、温度計測器270から入力される各計測点ma、mb、mcについての温度計測信号を基に、マイクロリアクタデバイス200の一方の入力側及び他方の入力側、出力側の流体の温度を把握し、反応流路200cにおける温度条件に適合するように、図示しないヒータユニット等を駆動して第1流路200a、第2流路200b、反応流路200cの温度を制御する。
【0060】
(2)濃度補正・濃度制御
近赤外スペクトルには温度依存性があり、温度によるスペクトル補償(濃度補正)を行う必要があることは既に述べた。そして、従来では同一の計測点において複数の状態量を同時に計測することができないため、温度制御もしくは温度計測の精度が悪くなってしまい、その結果、流体の濃度計測の精度が低下するという問題が生じることも述べた。これに対し、本実施形態におけるセンサユニット100a、100b、100cを用いることにより、各計測点ma、mb、mcの各々について流体の温度と濃度(近赤外スペクトル)とを同一箇所で同時に計測することが可能となる。つまり、各計測点ma、mb、mcの各々について計測した温度を基に、各計測点ma、mb、mcの各々について計測した濃度を補正することにより、各計測点ma、mb、mcにおける流体の正確な濃度を得ることができる。制御装置290は、温度計測器270から入力される各計測点ma、mb、mcについての温度計測信号と、濃度計測器260から入力される各計測点ma、mb、mcについての濃度計測信号とに基づいて、各計測点ma、mb、mcにおける流体の濃度の温度補正を行い、補正後の濃度に基づいてマイクロリアクタデバイス200の一方の入力側及び他方の入力側、出力側の流体の濃度を制御する。なお、濃度、つまり近赤外スペクトルは温度依存性のみならず、圧力やその他の状態量にも依存するので、上記の温度と同様に、圧力やその他の状態量による補正を行うことも可能である。
【0061】
(3)成分分析(不要生成物または流入物の除去)
近赤外スペクトルデータを得ることができるということは、流体の濃度だけでなく、その成分を分析することができることを指す。これを利用し、例えば、本マイクロリアクタシステムに、近赤外スペクトルデータを基に成分分析を行い、各計測点ma、mb、mcにおける流体の成分分析結果を制御装置290に出力する成分分析器を設けると共に、センサユニット100a及び100bの前段とセンサユニット100cの後段に流体を外部に排出するためバルブを設ける。そして、各計測点ma、mb、mcにおける流体の成分分析結果を基に、不要な流入物(第1の流体及び第2の流体)及び生成物、もしくは所望の濃度と異なる流入物及び生成物が検出された場合には、上記のバルブを切り替えて流入物や生成物を外部に排出する機能を制御装置290に持たせる。これにより、イレギュラーな成分または濃度を有する流入物または生成物が発生した場合には、それらを除去することが可能となる。なお、濃度計測器260に成分分析機能を持たせても良い。
【0062】
(4)圧力損失に基づく濃度算出
上述したセンサユニット100の実験結果(図7及び図8参照)から流体の濃度と圧力損失とは相関関係にあることがわかる。従って、この相関関係を予め実験等により検証して、制御装置290の内部メモリに上記相関関係を示すデータを記憶しておき、圧力計測器280から入力される各計測点ma、mb、mcについての圧力計測信号を基に、各計測点ma、mb、mcにおける圧力損失を算出し、当該算出した圧力損失と上記相関関係とに基づいて各計測点ma、mb、mcにおける流体の濃度を算出する機能を制御装置290に持たせる。分光分析による濃度計測では時間応答が悪い(計測結果を取得するまでの時間が長い)ため、この濃度算出方法を用いることにより、リアルタイム性を求められるシステムに有効となる。なお、圧力損失を求める他の方法として、マイクロリアクタデバイス200の入力側または出力側にフランジ等の圧力損失を生む圧力損失発生デバイスを設け、この圧力損失発生デバイスの入力側及び出力側に本センサユニット100を接続し、圧力損失発生デバイスの入力側のセンサユニット100によって計測された圧力と、圧力損失発生デバイスの出力側のセンサユニット100によって計測された圧力との差分から圧力損失を求める機能を制御装置290に持たせても良い。
【0063】
(5)マイクロリアクタデバイス200の収率評価
上述したように、近赤外スペクトルデータから流体の成分がわかるので、センサユニット100a、100b、100cによって計測した、マイクロリアクタデバイス200の入力側及び出力側の流体の濃度、成分、温度に基づいて、マイクロリアクタデバイス200内の化学合成における反応速度、反応生成物の成分や反応温度を求め、これら反応速度、反応生成物の成分や反応温度からマイクロリアクタデバイス200の収率評価を行う機能を制御装置290に持たせる。
【0064】
(6)最適条件スクリーニング
マイクロリアクタデバイス200の入力側に、流体の濃度、温度、圧力を調整可能なユニット(調整装置)を設け、これらのユニットを調整してマイクロリアクタデバイス200の入力側の流体(第1の流体及び第2の流体)の濃度、温度、圧力を様々な値に変化させた場合の、マイクロリアクタデバイス200の収率評価を行い、収率が最も高くなる最適な濃度、温度、圧力などの制御条件を求める機能を制御装置290に持たせる。
【0065】
以上のように、本マイクロリアクタシステムによれば、同じ位置(計測点)における流体の複数種類の状態量を同時且つ正確に計測することが可能なセンサユニット100a、100b、100cを備えているので、マイクロリアクタデバイス200の入力側及び出力側の流体の状態量を正確に把握することができ、そのような正確な状態量に基づいてマイクロリアクタデバイス200内の流体の状態量を高精度に制御すると共に、収率評価や最適条件スクリーニングを行うことが可能である。
【0066】
なお、上記実施形態では、マイクロリアクタデバイス200内にY字状の流路が形成されている場合を例示して説明したが、これに限定されず、本センサユニット100はどのような流路を有するマイクロリアクタデバイスにも接続可能である。また、必ずしもマイクロリアクタデバイスの入力側と出力側の両方に本センサユニット100を接続する必要はなく、システム構成に応じて必要な限りにおいてどちらか一方に接続しても良い。また、システム構成に応じてセンサユニット100に設けるセンサの種類を適宜変更しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態におけるセンサユニット100の外観図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるセンサユニット100の第1の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるセンサユニット100の第2の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるセンサユニット100を用いて流体の濃度(近赤外スペクトル)を計測するための実験システムの構成図である。
【図5】図4の実験システムによる近赤外スペクトルの計測結果である。
【図6】本発明の一実施形態におけるセンサユニット100を用いて流体の濃度、温度、圧力を計測するための実験システムの構成図である。
【図7】図6の実験システムによる流体の濃度、温度、圧力の計測結果である。
【図8】流体の圧力損失の理論的な計算結果である。
【図9】本発明の一実施形態におけるマイクロリアクタシステムの構成概略図である。
【符号の説明】
【0068】
100、100a、100b、100c…センサユニット、10…筐体(流路形成部材)、20、30…流体用継手、40…光入力部、50…光出力部、60…温度センサ部、70…圧力センサ部、11…流路、12、13…継手用接続孔、m…計測点(流体計測位置)、14…光入力孔、15…光出力孔、16…光入力部接続孔、17…光出力部接続孔、18、19…センサ設置孔、41…光ファイバ(第1の光伝送手段)、42…コネクタ、43…Oリング、44…レンズ(第1の光学部材)、45…位置調整用ボルト、51…光ファイバ(第2の光伝送手段)、52…コネクタ、53…Oリング、54…レンズ(第2の光学部材)、55…位置調整用ボルト、61…温度センサ、62…センサ継手、71…圧力センサ、72…信号線、73…Oリング、200…マイクロリアクタデバイス、210…第1の流体供給装置、220…第1の配管、230…第2の流体供給装置、240…第2の配管、250…第3の配管、260…濃度計測器、270…温度計測器、280…圧力計測器、290…制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロリアクタデバイス用のセンサユニットであって、
内部に流路を有し、当該流路内の流体計測位置における流路壁面の周方向に、前記流路に連通する複数のセンサ設置孔と、前記流路壁面の周方向において互いに対向する位置に配置された光入力孔及び光出力孔とが設けられた流路形成部材と、
前記複数のセンサ設置孔の各々に、感応部を前記流路側に向けて設置され、前記流体計測位置における流体の状態量を検出する複数種類のセンサと、
光出射端を前記光入力孔の流路側に向けて設置された第1の光伝送手段と、
光入射端を前記光出力孔の流路側に向けて設置された第2の光伝送手段と、
を具備することを特徴とするセンサユニット。
【請求項2】
前記第1の光伝送手段の前記光出射端には当該第1の光伝送手段を介して伝送された光を前記流路に向けて出射する第1の光学部材が設けられ、
前記第2の光伝送手段の前記光入射端には前記第1の光学部材から出射された光を受光して前記第2の光伝送手段に入射する第2の光学部材が設けられ、
前記第1の光学部材及び前記第2の光学部材は前記流路壁面に対して略面一となるように設けられ、
前記感応部が前記流路壁面に対して略面一となるように前記複数種類のセンサは設置されていることを特徴とする請求項1記載のセンサユニット。
【請求項3】
マイクロリアクタデバイスと、
当該マイクロリアクタデバイス内の流路の入力側または/及び出力側に接続された請求項1または2に記載のセンサユニットと、
前記第1の光伝送手段に光を供給すると共に、前記第2の光伝送手段を介して取得した光の分光分析を行うことにより前記取得した光のスペクトルデータを生成し、当該スペクトルデータを基に前記流体計測位置における流体の濃度を算出する濃度計測装置と、
前記センサユニットにおける前記複数種類のセンサの各々によって検出された、前記流体計測位置における流体の状態量のいずれかを基に前記流体の濃度を補正し、当該濃度を含む前記センサユニットから得られる流体の状態量に基づいて、前記マイクロリアクタデバイス内における流体の状態量を制御する制御装置と、
を具備することを特徴とするマイクロリアクタシステム。
【請求項4】
前記センサユニットに対応して得られるスペクトルデータに基づいて前記マイクロリアクタデバイス内の流路の入力側または/及び出力側における流体の成分を分析する成分分析装置を備えることを特徴とする請求項3記載のマイクロリアクタシステム。
【請求項5】
前記センサユニットの前段または後段に流体を排出するためのバルブを備え、
前記制御装置は、前記成分分析装置による成分分析結果を基に前記マイクロリアクタデバイスへの不要な流入物または反応生成物が検出された場合、もしくは前記濃度計測装置による濃度計測結果を基に前記マイクロリアクタデバイスに所望と異なる濃度の流入物または反応生成物が検出された場合に、前記バルブを切り替えて前記流入物または/及び反応生成物を外部に排出させる、
ことを特徴とする請求項4記載のマイクロリアクタシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記マイクロリアクタデバイスの入力側に設けられたセンサユニットによって得られる前記スペクトルデータに基づく流体の濃度計測結果、成分分析結果、温度計測結果と、前記マイクロリアクタデバイスの出力側に設けられたセンサユニットによって得られる前記スペクトルデータに基づく流体の濃度計測結果、成分分析結果、温度計測結果、圧力計測結果とに基づいて、前記マイクロリアクタデバイスにおける反応速度、反応生成物の成分及び反応温度を求め、当該反応速度、反応生成物の成分及び反応温度に基づいて前記マイクロリアクタデバイスの収率評価を行う、
ことを特徴とする請求項4または5に記載のマイクロリアクタシステム。
【請求項7】
前記マイクロリアクタデバイスの入力側に流体の状態量を調整可能な調整装置を備え、
前記制御装置は、前記調整装置を制御することにより前記流体の状態量を変化させ、前記マイクロリアクタデバイスの前記収率が最も高くなる最適な制御条件を探索する、
ことを特徴とする請求項6記載のマイクロリアクタシステム。
【請求項8】
圧力損失を生む圧力損失発生デバイスと、
前記圧力損失発生デバイスの入力側及び出力側に接続された請求項1または2に記載のセンサユニットとを備え、
前記制御装置は、前記圧力損失発生デバイスの入力側のセンサユニットにおける圧力センサによって検出された流体の圧力と、前記圧力損失発生デバイスの出力側のセンサユニットにおける圧力センサによって検出された流体の圧力とに基づいて圧力損失を求め、当該圧力損失に基づいて流体の濃度を算出する、
ことを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載のマイクロリアクタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−268107(P2008−268107A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−114042(P2007−114042)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】