説明

ゼオライトITQ−30

本発明は、ITQ−30として知られている層状微孔質の結晶性ゼオライト物質であって、合成されたときの無水状態において次のモル比で表される化学的組成を有する該ゼオライト物質に関する:x(M1/nXO2):yYO2:SiO2:zR(式中、xは0を含む0.1未満の値を示し、yは0を含む0.1未満の値を示し、zは0.1未満の値を示し、MはH、NH、1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン又はこれらの混合カチオンから選択されるカチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示し、Rは1種若しくは複数種の有機化合物を示す)。本発明は、該ゼオライト物質の製造法であって、加熱によって結晶化される反応混合物中へ1種若しくは複数種の有機添加剤を存在させることを含む該製造法並びに有機化合物の分離法と変換法における該ゼオライト物質の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は層状微孔質の結晶性ゼオライト物質に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、分子次元の溝及び/又は空洞を含む三次元構造をもたらす全ての頂点を共有するTO四面体の結晶性網状構造から成る微孔質結晶性物質である。ゼオライトは種々の組成を有しており、一般にTは形式上は+3又は+4の酸化状態の原子(例えば、Si、Ge、Ti、Al、B及びGa等)を示す。いずれかのT原子が+4の酸化状態で存在すると、形成される結晶性網状構造は負電荷を有し、該負電荷は、溝及び空洞内の有機若しくは無機カチオンの存在によって相殺される。これらの溝及び空洞内には有機分子やHOが収容される。
【0003】
従って、ゼオライトの化学的組成は下記の実験式によって表すことができる:
x(M1/nXO):yYO:zR:wH
式中、Mは1種若しくは複数種の+n価の無機若しくは有機カチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の3価元素を示し、Yは1種若しくは複数種の4価元素(一般的にはSi)を示し、Rは1種若しくは複数種の有機化合物を示す。合成後の処理によって、M、X、Y及びRの性状並びにx、y、z及びwの値を変化させることができるが、合成時又は焼成後のゼオライトの化学的組成は、各々のゼオライトとその調製法に特徴的な範囲内に保持される。
【0004】
一方、溝と空洞の特有の網状構造を有するゼオライトは特徴的なX線回折図形をもたらす。従って、ゼオライトは、化学的組成の範囲とX線回折図形によって相互に差別化することができる。これらの特徴(結晶性構造及び化学的組成)によって、各々のゼオライトの物理化学的特性及び種々の工業的プロセスにおける可能な用途も決定される。
【0005】
米国特許US−4439409号明細書には、PSH−3と命名された物質及び構造規定剤としてヘキサメチレンイミンを用いる該物質の製造方法が開示されている。その後、一定の類似性を有する以下の物質がヘキサメチレンイミンを用いて得られることが下記の米国特許明細書に記載されている:
MCM−22(US−4954325)、MCM−49(US−5236575)およびMCM−56(US−5362697)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な層状微孔質の結晶性ゼオライト物質を提供するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、合成されたときに下記の表Iに示すX線回折図形を示すと共に、無水状態で下記のモル比で表される化学的組成を有する層状微孔質の結晶性ゼオライト物質に関する:
【表1】

【0008】
x(M1/nXO):yYO:SiO:zR
式中、xは0を含む0.1未満の値を示し、yは0を含む0.1未満の値を示し、zは0〜0.1の値を示し、MはH、NH、1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン及びこれらの混合カチオンから選択されるカチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示し、Rは1種若しくは複数種の有機化合物を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
好ましくは、XはAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される1種若しくは複数種の元素を示す。
【0010】
好ましくは、YはSi、Sn、Ge、Ti及びVから選択される1種若しくは複数種の元素を示す。
【0011】
好ましくは、xは0を含む0.056未満の値を示す。
【0012】
合成されたときのITQ−30のX線回折図形は、固定発散スリットを用いる粉末法によって得られたものであり、該回折図形は、上記の表Iに示す面間距離(d)及び最強反射に対する相対強度(I/Io)によって特徴付けられる。上記の表Iに示す相対強度において、VSは非常に強い相対強度(60〜100%)を示し、Sは強い相対強度(40〜60%)を示し、Mは中間の相対強度(20〜40%)を示し、Wは弱い相対強度(0〜20%)を示す。相対的な位置、幅及び強度は、ゼオライト物質の化学的組成によってある程度左右される。
【0013】
焼成後の本発明によるゼオライト物質は、以下の表IIに示すX線回折図形をもたらす。
【表2】

【0014】
また、該ゼオライト物質は、焼成後の無水状態において、下記の実験式で表される化学的組成を有する:
x(M1/nXO):yYO:SiO
式中、xは0を含む0.1未満(好ましくは0.056未満)の値を示し、yは0を含む0.1未満(好ましくは0.05未満、より好ましくは0.02未満)の値を示し、MはH、NH、又は1種若しくは複数種の+n価の無機カチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示す)。
【0015】
好ましくは、XはAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される1種若しくは複数種の元素を示す。
【0016】
好ましくは、YはSi、Sn、Ge、Ti及びVから選択される1種若しくは複数種の元素を示す。
【0017】
上記の表IIは、表Iに示すX線回折図形をもたらしたゼオライトITQ−30を580℃での焼成処理に付すことによって該ゼオライトの内部に吸蔵された有機化合物を除去した後、粉末法によって測定した該ゼオライトのX線回折図形における最強反射に対する相対強度(I/Io)と面間距離(d)を示す。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、本発明による層状微孔質の結晶性ゼオライト物質は、合成されたときに下記の表Iに示すX線回折図形を示し、焼成されたときに下記の表IIに示すX線回折図形を示すと共に、焼成された無水状態で下記の実験式で表される化学的組成を有する。
【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
x(M1/nXO):yYO:SiO
式中、xは0を含む0.056未満の値を示し、yは0を含む0.05未満の値を示し、MはH、NH、1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン又はこれらの混合カチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示す。
【0022】
好ましくは、XはAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される1種若しくは複数種の元素を示す。
【0023】
好ましくは、YはSi、Sn、Ge、Ti及びVから選択される1種若しくは複数種の元素を示す。
【0024】
本発明の別の好ましい態様によれば、結晶性ゼオライト物質は次式で表される化学的組成を有する:
x(M1/nXO):SiO
式中、xは0を含む0.01未満の値を示し、MはH、NH4+、1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン及びこれらの混合カチオンから選択されるカチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示す。
【0025】
好ましくは、XはAl、Ga、B、Fe、Cr及びこれらの混合元素から選択される元素を示す。
【0026】
本発明のさらに別の好ましい態様によれば、結晶性ゼオライト物質ITQ−30は、焼成された無水状態において下記の実験式で表される化学的組成を有する:
yYO:SiO
式中、yは0を含む0.1未満の値を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示す。
【0027】
好ましくは、yは0を含む0.05未満の値を示す。
【0028】
本発明のさらにまた別の好ましい態様によれば、結晶性ゼオライト物質は、焼成された無水状態において下記の実験式で表される化学的組成を有する:
x(HXO):SiO
式中、xは0を含む0.1未満(好ましくは0.056未満)の値を示し、Xは1種若しくは複数種の3価元素を示す。
【0029】
本発明の他の好ましい態様によれば、結晶性物質は、焼成された無水状態において下記の実験式で表される化学的組成を有する:
SiO
【0030】
上記の結晶性物質の合成法及び該結晶性物質の焼成処理又は後処理の観点からは、Si−OH基(シラノール基)の存在によって発現される欠陥を結晶性網状構造内に存在させることも可能である。これらの欠陥は上述の実験式には包含されていない。
【0031】
本発明は、ITQ−30として知られている層状微孔質の結晶性ゼオライト物質の製造方法にも関する。該方法は、少なくともSiO源、有機化合物R、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、該反応混合物の結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程を含む:
ROH/SiO=0.01〜1.0(好ましくは0.1〜1.0)
O/SiO=0〜100。
【0032】
上記の加熱処理は80〜200℃(好ましくは130〜200℃)の温度でおこなう。反応混合物の熱処理は静的におこなってもよく、あるいは撹拌下でおこなってもよい。結晶化が完結した後、固体状生成物を分離して乾燥処理に付す。次いで、生成物を400〜600℃(好ましくは450〜600℃)における焼成処理に付す。これによって、ゼオライトの内部に吸蔵された有機残渣の分解と除去がおこなわれ、ゼオライトの溝は開放される。
【0033】
SiO源としては、テトラエチルオルトシリケート、コロイドシリカ、非晶質シリカ及びこれらの任意の混合物が例示される。
【0034】
フッ化物イオン源としては、例えば、フッ化水素酸又はフッ化アンモニウムを使用することができる。
【0035】
本発明の1つの特定の態様によれば、ITQ−30の製造方法には、少なくともSiO源、1種若しくは複数種の4価元素Y源、有機化合物R、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、該反応混合物の結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程が含まれる:
YO/SiO=0〜0.1(好ましくは0〜0.05、より好ましくは0〜0.02)、
ROH/SiO=0.01〜1.0(好ましくは0.1〜1.0)、
O/SiO=0〜100。
【0036】
好ましくは、上記の4価元素Yは、Ti、Ge、V、Sn及びこれらの任意の混合元素を示す。1種若しくは複数種の該元素Y源の添加は、反応混合物の加熱前又は加熱中においておこなうことができる。
【0037】
本発明の別の特定の態様によれば、結晶性ゼオライト物質の製造方法には、少なくともSiO源、1種若しくは複数種の3価元素X源、有機化合物R、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、該反応混合物の結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程が含まれる:
/SiO=0〜0.05(好ましくは0〜0.028)、
ROH/SiO=0.01〜1.0(好ましくは0.1〜1.0)、
O/SiO=0〜100。
【0038】
好ましくは、3価元素XはAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される。特に、アルミニウム源としては、アルミニウムアルコキシド、酸化アルミニウム又はアルミニウム塩を使用することができる。1種若しくは複数種の該元素X源の添加は、反応混合物の加熱前又は加熱中においておこなうことができる。
【0039】
本発明のさらに別の態様によれば、結晶性ゼオライト物質の製造方法には、少なくともSiO源、1種若しくは複数種の4価元素Y源、1種若しくは複数種の3価元素X源、有機化合物R、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、該反応混合物の結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程が含まれる:
YO/SiO=0〜0.1(好ましくは0〜0.05、より好ましくは0〜0.02)、
/SiO=0〜0.05(好ましくは0〜0.028)、
ROH/SiO=0.01〜1.0(好ましくは0.1〜1.0)、
O/SiO=0〜100。
【0040】
好ましくは、上記の4価元素Yは、Ti、Ge、V、Sn及びこれらの任意の混合物から選択される。また、好ましくは、3価元素XはAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される。アルミニウム源としては、特に、アルミニウムアルコキシド、酸化アルミニウム又はアルミニウム塩を使用することができる。この元素又はこれらの元素は反応混合物の加熱前に添加してもよく、あるいは加熱中に添加してもよい。
【0041】
前記のITQ−30の製造法及び該製造法のいずれの実施態様においても、有機カチオンRとしてはN(16)−メチル−スパルテイニウムが好ましい。
【0042】
前記のITQ−30の製造法においては、1種又は複数種の有機カチオンは、好ましくは水酸化物形態、塩形態及びこれらの混合物から選択される形態で添加する。有機カチオンを塩形態で使用する場合、好ましい塩はハロゲン化物、特に塩化物又は臭化物である。
【0043】
好ましくは、有機カチオンN(16)−メチル−スパルテイニウムは水酸化物形態又は水酸化物と別の塩(好ましくはハロゲン化物)との混合物として添加される。
【0044】
結晶性物質ITQ−30の製造法の特定の実施態様によれば、結晶化促進剤として、添加される無機酸化物の全重量に対して0.01〜15重量%(好ましくは、0.01〜5重量%)の結晶性物質が反応混合物中へ添加される。好ましくは、結晶化促進剤として添加される結晶性物質は、本発明による層状微孔質の結晶性物質ITQ−30の特性を有する結晶性物質である。
【0045】
特定の態様によれば、反応混合物の組成は下記の一般的な実験式によって表される:
aROH:bM1/nF:xX:yYO:SiO:wH
式中の符号の意義は以下の通りである:
M:H、NH、又は1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン、
X:1種若しくは複数種の3価元素(好ましくは、Al、B、Ga、Cr、Fe又はこれらの任意の混合物)、
Y:1種若しくは複数種の4価元素(好ましくは、Ti、Ge、Sn、V又はこれらの任意の混合物)、
R:1種若しくは複数種の有機カチオン(好ましくは、N(16)−メチル−スパルテイニウム)、
a=ROH/SiO=0.01〜1.0(好ましくは、0.1〜1.0)、
b=M1/nF/SiO=0〜1.0(好ましくは、0.1〜1.0)、
x=X/SiO=0〜0.05(好ましくは、0〜0.028)、
y=YO/SiO=0〜0.1(好ましくは、0〜0.05、より好ましくは、0〜0.02)、
w=HO/SiO=0〜100(好ましくは、1〜50、より好ましくは、1〜15)。
【0046】
本発明は、層状微孔質の結晶性ゼオライト物質(ITQ−30)を有機化合物の変換反応において、触媒的に活性な成分として使用する方法であって、所定量の該結晶性ゼオライト物質を供給原料と接触させることを含む該方法にも関する。
【0047】
特定の態様によれば、該変換反応は有機化合物(好ましくは炭化水素)の接触分解反応である。
【0048】
別の特定の態様によれば、該変換反応は、水素化分解反応、穏やかな水素化分解反応、軽質パラフィンの異姓化反応、脱パラフィン(deparaffining)反応、脱イソパラフィン反応及びアルキル化反応から選択される反応である。
【0049】
さらに別の特定の態様によれば、該アルキル化反応は、芳香族化合物、置換芳香族化合物、チオフェン系化合物、アルキルチオフェン系化合物、ベンゾチオフェン系化合物及びアルキルベンゾチオフェン系化合物から選択される化合物のオレフィン又はアルコールによるアルキル化反応である。
【0050】
特に好ましいアルキル化反応は、プロピレンを用いるベンゼンのアルキル化反応である。
【0051】
さらにまた別の特定の態様によれば、該変換反応は、アシル化剤として酸、酸塩化物又は有機酸無水物を用いる置換芳香族化合物のアシル化反応である。
【0052】
他の特定の態様によれば、該変換反応はメールバイン−ポンドルフ−バーレイ反応である。
【0053】
また、他の特定の態様によれば、該変換反応は、酸化剤としてH、過酸化物又は有機ヒドロペルオキシドを使用する有機化合物の選択的酸化反応である。
【0054】
さらに別の特定の態様によれば、該変換反応はバイヤー−ビリガー酸化反応である。
【0055】
さらにまた別の特定の態様によれば、前記の結晶性ゼオライト物質ITQ−30はTiを含有し、該変換反応は、酸化剤として有機若しくは無機のヒドロペルオキシドを使用するオレフィンのエポキシ化反応、アルカンの酸化反応、アルコールの酸化反応、及びスルホキシドとスルフォンを生成する硫黄含有有機化合物の酸化反応から選択される反応である。有機若しくは無機のヒドロペルオキシドとしては、例えば、H、t−ブチルヒドロペルオキシド又はクメンヒドロペルオキシドを使用することができる。
【0056】
さらにまた他の特定の態様によれば、前記の結晶性ゼオライト物質はTiを含有し、変換反応は、NHとHOを用いるケトンのアンモ酸化反応、特にシクロヘキサノンからシクロヘキサノンオキシムへのアンモ酸化反応である。
【0057】
さらにまた別の特定の態様によれば、該結晶性ゼオライト物質はSnを含有し、変換反応は、酸化剤としてHを用いるバイヤー−ビリガー酸化反応である。
【実施例】
【0058】
実施例1:N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシドの調製
(−)−スパルテイン(20.25g)をアセトン(100ml)と混合した。この混合物中へヨウ化メチル(17.58g)を、該混合物を撹拌しながら徐々に滴下した。24時間後、クリーム色の沈殿物が析出した。反応混合物中へジエチルエーテル(200ml)を添加し、得られた混合物を濾過処理に付し、濾取した固体を真空乾燥処理に付すことによってN(16)−メチルスパテイニウムヨウ化物を得た(収率:95%)。
【0059】
以下の手順により、イオン交換樹脂を用いてこのヨウ化物を水酸化物へ変換した:
N(16)−メチルスパルテイニウムヨウ化物(31.50g)を水(92.38g)中へ溶解させ、得られた溶液中へ、「ドウェス(Dowes)BR樹脂」(85g)を添加し、この混合物を翌日まで撹拌処理に付した。なお、該樹脂は、洗浄水のpHが7になるまで蒸留水を用いて予め洗浄した。次いで、該混合物を濾過処理に付した後、蒸留水を用いて洗浄することによって、N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシド溶液(濃度:0.65モル/Kg)を124.36g得た。
【0060】
実施例2
アルミニウムイソプロポキシド(0.272g)及びテトラエチルオルトシリケート(4.167g)を、N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシド溶液(濃度:0.91モル/Kg)11.00g中での加水分解処理に付した。得られた溶液を、加水分解中に生成した全てのアルコールと過剰水が蒸発するまで、撹拌処理に付した。次いで、フッ化水素酸溶液(HF:48.1重量%)0.416gを添加し、反応混合物が下記の最終的な組成を有するまで蒸発処理を続行した:
SiO:0.033Al:0.50ROH:0.50HF:2H
(式中、ROHはN(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシドを示す)
【0061】
このゲルを、テフロン(登録商標)で内張したスチール製オートクレーブ内に入れ、175℃で静的条件下において3日間加熱した。得られた固体を濾取し、蒸留水で洗浄した後、100℃での乾燥処理に付すことによってITQ−30を得た。得られた固体状生成物のX線回折図形のデータを以下の表IIIに示す。
【0062】
【表5】

【0063】
上記の生成物を、空気流雰囲気中において、580℃で3時間の焼成処理に付すことによって、該生成物の内部に吸蔵された有機物とフッ化物イオンを除去した。得られた固体の粉体X線回折図形のデータを以下の表IVに示す
【0064】
【表6】

【0065】
実施例3
アルミニウムイソプロポキシド(0.33g)及びテトラエチルオルトシリケート(8.33g)を、N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシド溶液(濃度:0.94モル/Kg)21.78g中での加水分解処理に付した。得られた溶液を、加水分解中に生成したエタノールとイソプロパノールが蒸発するまで、撹拌処理に付した。次いで、フッ化水素酸溶液(HF:48.1重量%)0.83gを添加し、反応混合物が下記の組成を有するまで蒸発処理を続行した:
SiO:0.02Al:0.50ROH:0.50HF:2H
(式中、ROHはN(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシドを示す)
【0066】
このゲルを、テフロン(登録商標)で内張したスチール製オートクレーブ内に入れ、175℃で静的条件下において4日間加熱した。得られた固体を濾取し、蒸留水で洗浄した後、100℃での乾燥処理に付すことによってITQ−30を得た。
【0067】
実施例4
アルミニウムイソプロポキシド(0.21g)及びテトラエチルオルトシリケート(5.21g)を、N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシド溶液(濃度:1.10モル/Kg)11.26g中での加水分解処理に付した。得られた溶液を、加水分解中に生成した全てのアルコールと過剰水が蒸発するまで、撹拌処理に付した。次いで、フッ化水素酸溶液(HF:48.1重量%)0.52gを添加した。合成されたゲルの最終的な組成は次の通りである:
SiO:0.01Al:0.50ROH:0.50HF:2H
(式中、ROHはN(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシドを示す)
【0068】
このゲルを、テフロン(登録商標)で内張したスチール製オートクレーブ内に入れ、175℃で静的条件下において5日間加熱した。得られた固体を濾取し、蒸留水で洗浄した後、100℃での乾燥処理に付すことによってITQ−30を得た。
【0069】
実施例5
テトラエチルオルトシリケート(34.67g)を、N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシド溶液(濃度:1.133モル/Kg)73.45g中での加水分解処理に付した。得られた溶液を、加水分解中に生成したエタノールが蒸発するまで、撹拌処理に付した。次いで、フッ化水素酸溶液(HF:46.9重量%)3.55gを添加し、反応混合物が下記の最終的な組成を有するまで蒸発処理を続行した:
SiO:0.05ROH:0.50HF:3H
(式中、ROHはN(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシドを示す)
【0070】
このゲルを、テフロン(登録商標)で内張したスチール製オートクレーブ内に入れ、135℃で撹拌条件下において29日間の結晶化処理に付した。得られた固体のX線回折図形はITQ−30ゼオライトに関する前記のデータに一致した
【0071】
実施例6
アルミニウムイソプロポキシド(0.91g)及びテトラエチルオルトシリケート(11.66g)を、N(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシド溶液(濃度:0.94モル/Kg)29.78g中での加水分解処理に付した。得られた溶液を、加水分解中に生成したエタノールとイソプロパノールが蒸発するまで、撹拌処理に付した。次いで、フッ化水素酸溶液(HF:48.1重量%)1.16gを添加し、反応混合物が下記の組成を有するまで蒸発処理を続行した:
SiO:0.04Al:0.50ROH:0.50HF:3H
(式中、ROHはN(16)−メチルスパルテイニウムヒドロキシドを示す)
【0072】
このゲルを、テフロン(登録商標)で内張したスチール製オートクレーブ内に入れ、175℃で静的条件下において5日間加熱した。得られた固体を濾取し、蒸留水で洗浄した後、100℃での乾燥処理に付すことによってITQ−30を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成されたときに下記の表Iに示すX線回折図形を示すと共に、無水状態で下記のモル比で表される化学的組成を有する層状微孔質の結晶性ゼオライト物質:
【表1】

[表中、VSは非常に強い相対強度(60〜100%)を示し、Sは強い相対強度(40〜60%)を示し、Mは中間の相対強度(20〜40%)を示し、Wは弱い相対強度(0〜20%)を示す]

x(M1/nXO):yYO:SiO:zR

(式中、xは0を含む0.1未満の値を示し、yは0を含む0.1未満の値を示し、zは0〜0.1の値を示し、MはH、NH、1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン及びこれらの混合カチオンから選択されるカチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示し、Rは1種若しくは複数種の有機化合物を示す)。
【請求項2】
焼成されたときに下記の表IIに示すX線回折図形を示すと共に、焼成された無水状態で下記の実験式で表される化学的組成を有する層状微孔質の結晶性ゼオライト物質:
【表2】

[表中、VSは非常に強い相対強度(60〜100%)を示し、Sは強い相対強度(40〜60%)を示し、Mは中間の相対強度(20〜40%)を示し、Wは弱い相対強度(0〜20%)を示す]

x(M1/nXO):yYO:SiO

(式中、xは0を含む0.1未満の値を示し、yは0を含む0.1未満の値を示し、MはH、NH、又は1種若しくは複数種の+n価の無機カチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示す)。
【請求項3】
合成されたときに下記の表Iに示すX線回折図形を示し、焼成されたときに下記の表IIに示すX線回折図形を示すと共に、焼成された無水状態で下記の実験式で表される化学的組成を有する層状微孔質の結晶性ゼオライト物質:
【表3】

【表4】

[表中、VSは非常に強い相対強度(60〜100%)を示し、Sは強い相対強度(40〜60%)を示し、Mは中間の相対強度(20〜40%)を示し、Wは弱い相対強度(0〜20%)を示す]

x(M1/nXO):yYO:SiO

(式中、xは0を含む0.056未満の値を示し、yは0を含む0.05未満の値を示し、MはH、NH、又は1種若しくは複数種の+n価の無機カチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示す)。
【請求項4】
XがAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される1種若しくは複数種の元素を示す請求項1から3いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質。
【請求項5】
YがSi、Sn、Ge、Ti及びVから選択される1種若しくは複数種の元素を示す請求項1から3いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質。
【請求項6】
下記の化学的組成を有する請求項1から5いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質:

x(M1/nXO):SiO

(式中、xは0を含む0.01未満の値を示し、MはH、NH、又は1種若しくは複数種の+n価の無機カチオンを示し、Xは1種若しくは複数種の+3の酸化状態の化学元素を示す)
【請求項7】
XがAl、Ga、B、Fe及びCrから選択される1種若しくは複数種の元素を示す請求項6記載の結晶性ゼオライト物質。
【請求項8】
xが0を含む0.056未満の値を示す請求項6記載の結晶性ゼオライト物質。
【請求項9】
焼成された無水状態において下記の実験式で表される化学的組成を有する請求項1から3いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質:

yYO:SiO

(式中、yは0を含む0.1未満の値を示し、Yは1種若しくは複数種の+4の酸化状態の化学元素を示す)。
【請求項10】
yが0を含む0.05未満の値を示す請求項9記載の結晶性ゼオライト物質。
【請求項11】
焼成された無水状態において下記の実験式で表される化学的組成を有する請求項1から3いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質:

x(HXO):SiO

(式中、xは0.1未満の値を示し、Xは3価元素を示す)。
【請求項12】
xが0.056未満の値を示す請求項11記載の結晶性ゼオライト物質。
【請求項13】
焼成された無水状態において下記の実験式で表される化学的組成を有する請求項1から3いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質:

SiO
【請求項14】
少なくともSiO源、有機化合物、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、該反応混合物の結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程を含む、請求項1から13いずれかに記載の結晶性ゼオライト物質の製造方法:
ROH/SiO=0.01〜1.0
O/SiO=0〜100
【請求項15】
少なくともSiO源、1種若しくは複数種の4価元素Y源、有機化合物、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程を含む請求項14記載の方法:
YO/SiO=0〜0.1
ROH/SiO=0.01〜1.0
O/SiO=0〜100
【請求項16】
少なくともSiO源、1種若しくは複数種の3価元素X源、有機化合物、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程を含む請求項14記載の方法:
/SiO=0〜0.05
ROH/SiO=0.01〜1.0
O/SiO=0〜100
【請求項17】
少なくともSiO源、1種若しくは複数種の4価元素Y源、1種若しくは複数種の3価元素X源、有機化合物、フッ化物イオン源及び水を含有する反応混合物であって、下記の酸化物モル比で表される組成を有する該反応混合物を調製し、該反応混合物を撹拌下若しくは無撹拌下において、結晶化が達成されるまで80〜200℃で加熱する工程を含む請求項14記載の方法:
YO/SiO=0〜0.1
/SiO=0〜0.05
ROH/SiO=0.01〜1.0
O/SiO=0〜100
【請求項18】
反応混合物の組成が下記の一般的な実験式によって表される請求項14記載の方法:

aROH:bM1/nF:xX:yYO:SiO:wH

式中の符号の意義は以下の通りである:
M:H、NH、又は1種若しくは複数種の+n価の無機カチオン、
X:1種若しくは複数種の3価元素、
Y:1種若しくは複数種の4価元素、
R:1種若しくは複数種の有機カチオン、
a=ROH/SiO=0.01〜1.0、
b=M1/nF/SiO=0〜1.0、
x=X/SiO=0〜0.05、
y=YO/SiO=0〜0.1、
w=HO/SiO=0〜100。
【請求項19】
有機カチオンRがN(16)−メチル−スパルテイニウムである請求項14から18いずれかに記載の方法。
【請求項20】
有機カチオンN(16)−メチル−スパルテイニウムが水酸化物形態又は水酸化物と別の塩との混合物として添加される請求項19記載の方法。
【請求項21】
塩がハロゲン化物である請求項19記載の方法。
【請求項22】
結晶化促進剤として、添加される無機酸化物の全重量に対して0.01〜15重量%の結晶性物質が反応混合物中へ添加される請求項14から21いずれかに記載の方法。
【請求項23】
結晶性物質が、請求項1から13いずれかに記載の結晶性物質である請求項22記載の方法。
【請求項24】
結晶化促進剤として、添加される無機酸化物の全重量に対して0.01〜5重量%の結晶性物質が反応混合物中へ添加される請求項22記載の方法。
【請求項25】
請求項1から13いずれかに記載の層状微孔質の結晶性ゼオライト物質(ITQ−30)を有機化合物の変換反応において、触媒的に活性な成分として使用する方法であって、所定量の該結晶性ゼオライト物質を供給原料と接触させることを含む該方法。
【請求項26】
変換反応が有機化合物の接触分解反応である請求項25記載の方法。
【請求項27】
有機化合物が炭化水素である請求項26記載の方法。
【請求項28】
変換反応が、水素化分解反応、穏やかな水素化分解反応、軽質パラフィンの異姓化反応、脱パラフィン反応、脱イソパラフィン反応及びアルキル化反応から選択される反応である請求項25記載の方法。
【請求項29】
アルキル化反応が、芳香族化合物、置換芳香族化合物、チオフェン系化合物、アルキルチオフェン系化合物、ベンゾチオフェン系化合物及びアルキルベンゾチオフェン系化合物から選択される化合物のオレフィン又はアルコールによるアルキル化反応である請求項28記載の方法。
【請求項30】
アルキル化反応が、プロピレンを用いるベンゼンのアルキル化反応である請求項29記載の方法。
【請求項31】
アシル化剤として酸、酸塩化物又は有機酸無水物を用いる置換芳香族化合物のアシル化反応である請求項25記載の方法。
【請求項32】
変換反応がメールバイン−ポンドルフ−バーレイ反応である請求項25記載の方法。
【請求項33】
変換反応が、酸化剤としてH、過酸化物又は有機ヒドロペルオキシドを使用する有機化合物の選択的酸化反応である請求項25記載の方法。
【請求項34】
変換反応がバイヤー−ビリガー酸化反応である請求項25記載の方法。
【請求項35】
結晶性ゼオライト物質がTiを含有し、変換反応が、酸化剤として有機若しくは無機のヒドロペルオキシドを使用するオレフィンのエポキシ化反応、アルカンの酸化反応、アルコールの酸化反応、及びスルホキシドとスルフォンを生成する硫黄含有有機化合物の酸化反応から選択される反応である請求項25記載の方法。
【請求項36】
結晶性ゼオライト物質がTiを含有し、変換反応がケトンのアンモ酸化反応である請求項25記載の方法。
【請求項37】
結晶性ゼオライト物質がSnを含有し、変換反応が、酸化剤としてHを用いるバイヤー−ビリガー酸化反応である請求項25記載の方法。

【公表番号】特表2008−500936(P2008−500936A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513974(P2007−513974)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/ES2005/070072
【国際公開番号】WO2005/118476
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【出願人】(500104934)ウニベルシダッド・ポリテクニカ・デ・バレンシア (16)
【Fターム(参考)】