説明

タイヤの製造方法、及び、タイヤの加硫成型装置

【課題】PCTを用いた加硫成型前のタイヤを加硫成型装置で加硫成型する場合に、PCTのトレッド面に形成されている溝の変形を抑制できるタイヤの製造方法及びタイヤの加硫成型装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るタイヤの製造方法は、加硫済みのトレッド(PCT12)を用いて形成された加硫成型前のタイヤ2を加硫成型する場合に、加硫成型装置1の成型空間内に所定状態に設置された加硫成型前のタイヤ2のトレッド面3と対向する当該加硫成型前のタイヤ2の内面4に熱と圧力とを加えて当該タイヤ2を加硫成型するタイヤの製造方法において、前記トレッド面3に形成されている溝5の内面6と前記加硫成型装置1の成型面7との間に形成される空間8に、加硫成型中における前記溝5の形状変形を抑制するための溝形状変形抑制手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫済みのトレッドを使用したタイヤの製造方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのトレッドとタイヤのトレッド以外の部分(以下、ケースという)とを個別に用意し、ケースの外周面にトレッドを設けて形成された加硫成型前のタイヤを加硫成型装置により加硫成型するタイヤの製造方法が知られている。
前記加硫成型装置は、加硫成型前のタイヤの表面に接触する成型面を有する。具体的には、加硫成型前のタイヤの外表面に接触する成型面を有したモールドと、加硫成型前のタイヤの内表面に接触する成型面を有したブラダーとを備える。
ケースの外周面に加硫済みトレッド(以下、PCT(プレキュアトレッド)という)を設けて形成された加硫成型前のタイヤを加硫成型装置で加硫成型する場合、加硫成型装置の成型空間内に所定状態に設置された加硫成型前のタイヤのトレッド面と対向する当該加硫成型前のタイヤの内面にブラダーを介して熱と圧力とを加えて当該タイヤを加硫成型する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−361755号公報
【特許文献2】特開平10−193471号公報
【特許文献3】特開平09−011706号公報
【特許文献4】特開昭54−124082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCTを用いて形成された加硫成型前のタイヤを加硫成型装置で加硫成型する場合、PCTのトレッド面に形成されている溝の内面と加硫成型装置のモールドの成型面との間に空間が生じるため、上述のようにタイヤの内面にブラダーを介して圧力が加えられることによって、溝の底部側が空間側に張り出すように変形する可能性があり、変形した場合、想定しているタイヤとしての性能(排水性、耐摩耗性など)を十分に発揮できなくなる可能性がある。
本発明は、PCTを用いた加硫成型前のタイヤを加硫成型装置で加硫成型する場合に、PCTのトレッド面に形成されている溝の変形を抑制できるタイヤの製造方法及びタイヤの加硫成型装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るタイヤの製造方法は、加硫済みのトレッドを用いて形成された加硫成型前のタイヤを加硫成型する場合に、加硫成型装置の成型空間内に所定状態に設置された加硫成型前のタイヤのトレッド面と対向する当該加硫成型前のタイヤの内面に熱と圧力とを加えて当該タイヤを加硫成型するタイヤの製造方法において、前記トレッド面に形成されている溝の内面と前記加硫成型装置の成型面との間に形成される空間に、加硫成型中における前記溝の形状変形を抑制するための溝形状変形抑制手段を設けたので、トレッド面に形成されている溝の変形を抑制でき、所望の性能のタイヤを製造できるようになる。
前記溝形状変形抑制手段は、前記加硫成型中に前記加硫成型装置の外側から前記空間内に注入された気体により形成され、前記気体の所定圧力値は、前記タイヤの内面に加わる圧力の値よりも小さい値としたので、トレッド面に形成されている溝の変形を抑制できるとともに、前記空間内に注入された気体の圧力でケースが変形してしまうようなことも防止できる。
前記加硫成型装置の外側と前記空間とを連通させる前記気体の連通路の端部であって前記空間と連通する気体連通口が複数個設けられ、前記複数個の気体連通口が前記加硫成型装置内に設置されるタイヤ周方向に、360°/N(タイヤ周方向に間隔を隔てて配置される気体連通口の数)間隔で配置されたので、より均一に溝の変形を抑制できる。
前記溝形状変形抑制手段は、前記加硫成型前に前記溝内に挿入された固体により形成されたので、トレッド面に形成されている溝の変形を抑制でき、所望の性能のタイヤを製造できるようになる。
本発明に係るタイヤの加硫成型装置は、加硫成型前のタイヤが設置される成型空間を形成するモールドを備えたタイヤの加硫成型装置において、前記成型空間内に所定状態に設置された加硫成型前のタイヤのトレッド面に形成されている溝と加硫成型装置の外部とを連通させる連通路を備えたので、溝の内面と加硫成型装置の成型面との間に形成される空間に加硫成型装置の外側から連通路を介して気体等の溝形状変形抑制手段を供給できるようになるため、トレッド面に形成されている溝の変形を抑制でき、所望の性能のタイヤを製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】加硫成型装置による加硫成型方法を示す断面図。
【図2】加硫成型装置の具体例を示す断面図。
【図3】加硫成型方法の手順を示す断面図。
【図4】加硫成型方法の手順を示す断面図。
【図5】ブラダー圧と気体注入圧との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態1
実施形態1によるタイヤの製造方法は、図1に示すように、未加硫のケース(以下、未加硫ケースという)10の外周面に加硫済みのトレッドであるPCT12を設けて形成された加硫成型前のタイヤ(以下、単にタイヤという)2を加硫成型装置1の成型空間内に所定状態に設置し、タイヤ2のトレッド面3と対向する当該タイヤ2の内面4にブラダー23を介して熱と圧力とを加えて当該タイヤ2を加硫成型する際に、トレッド面3に形成されている溝5の内面6と加硫成型装置1のモールドの成型面7との間に形成される空間8に、加硫成型中における溝5の形状変形を抑制するための溝形状変形抑制手段としての気体を注入する。
具体的には、加硫成型中に加硫成型装置1の外側から気体供給装置62を用いて前記空間8内に気体を注入するようにし、当該空間8内に注入されて溝5の内面6を押す気体の圧力値を、大気圧以上でかつ前記タイヤ2の内面4に加わる圧力の値よりも小さい値に維持するようにした。
実施形態1によるタイヤの製造方法においては、トレッド面3に既に溝5が形成されているPCT12を使用するため、タイヤ2のトレッド面3と接触するモールドの成型面7が凹凸の無い面(つまり、溝5に嵌り込む突起の無い面)に形成された加硫成型装置1を用いている。
そのため、トレッド面3に形成されている溝5の内面6と加硫成型装置1の成型面7との間に空間8が生じる。従って、加硫成型の際に、タイヤ2の内面4に熱と圧力とが加えられると、溝5の底部側が空間8側に張り出すように変形する可能性がある。
そこで、実施形態1では、加硫成型の際、空間8内に、溝5の底部側を空間側に張り出すように変形させる力に抵抗できる抵抗物としての気体圧力を充填した。
モールドには、モールドの成型面7とモールドの外表面とに連通するように設けられてモールドの外表面と空間8とを連通させる連通路60を設け、気体供給装置62と連通路60の気体注入口61とを連通管63で繋ぐことにより、気体供給装置62から空間8に気体を供給するための供給路が形成される。
尚、気体としては、空気又は窒素などを用いればよい。
【0008】
一般的なタイヤは、ビードワイヤー、ビードフィラー、インナーライナー、カーカス、ベルト10a、サイドウォール、ショルダー、トレッドなどの各部材を組み合わせて形成された生タイヤ(グリーンタイヤ)を加硫成型装置で加硫成型することにより製造される。この場合、加硫成型の際に生タイヤのトレッド面に溝を形成するため、生タイヤのトレッド面に接触するモールドの成型面に突起を有した構成の加硫成型装置を用いる。
一方、実施形態において加硫成型対象となるタイヤ2は、トレッドを除いた、ビードワイヤー、ビードフィラー、インナーライナー、カーカス、ベルト10a、サイドウォール、ショルダーなどの各部材を組み合わせて形成された未加硫ケース10と、この未加硫ケース10とは別に製造された加硫済みのトレッドであるPCT12とにより構成されるものであって、未加硫ケース10のトレッド取付面11にPCT12が設けられることにより形成されたものである。
【0009】
未加硫ケース10は、トレッドを除いた一般的なタイヤの構成を備えた未加硫のゴム構成部品である。
PCT12は、帯体又は環体により形成される。
即ち、帯体により形成されたPCT12は、未加硫ケース10の外周面であるトレッド取付面11の幅(タイヤ幅)に対応した寸法の幅、及び、未加硫ケース10の外周面の周方向の長さに対応した寸法の長さを有する帯体の一方の面にトレッドパターンとなる溝5が形成され、帯体の他方の面が未加硫ケース10の外周面であるトレッド取付面11に加硫接着されて取付けられる被取付面13に形成された加硫済みのゴム構成部品である。
一方、環体により形成されたPCT12は、未加硫ケース10の外周面であるトレッド取付面11の幅(タイヤ幅)に対応した寸法の幅を有する環体の外周面にトレッドパターンとなる溝5が形成され、環体の内周面が未加硫ケース10のトレッド取付面11に加硫接着されて取付けられる被取付面13に形成された加硫済みのゴム構成部品である。
帯体のPCT12を用いる場合、未加硫ケース10の外周面に巻き付けて帯体の一端と他端とを連結体で連結することにより、タイヤ2を形成するので、作業が簡単になって好ましい。
環体のPCT12を用いる場合、PCT12の環体の内側に未加硫ケース10を嵌め込んでタイヤ2を形成することから、PCT12に継ぎ目が無くなるので好ましい。
以上のように形成されたタイヤ2を加硫成型装置1で加硫成型することにより、未加硫ケース10の外周面であるトレッド取付面11とPCT12の被取付面13とを加硫接着させる。
尚、実施形態1において、加硫済みトレッドであるPCT12とは、所望の加硫度に達するまで加硫された全加硫済みのもの、又は、加硫されてはいるが所望の加硫度に達するまで加硫されていない所謂半加硫済みのものをいう。
【0010】
次に、図2に基づいて、加硫成型装置1の具体例を説明する。尚、以下、各部材の一方を「下」、各部材の他方を「上」と定義して説明する。
【0011】
加硫成型装置1は、加硫成型前のタイヤ2の内面4を加硫成型するためのタイヤ内面加硫成型装置(以下、ブラダー装置という)1Aと、タイヤ2の一方の側面を加硫成型するための一方側面加硫成型装置である下モールド装置1Bと、タイヤ2のトレッド部を加硫成型するためのトレッドモールド装置1Cと、タイヤ2の他方の側面を加硫成型するための他方側面加硫成型装置である上モールド装置1Dと、溝形状変形抑制装置1Eと、空気給排装置1Fと、を備える。
【0012】
ブラダー装置1Aは、中心柱体20と、第1昇降装置21と、ブラダー保持体22と、ブラダー23と、ブラダー23内に熱エネルギー及び圧力エネルギーを供給するエネルギー供給装置70とを備える。
【0013】
中心柱体20は、外側中空柱体20aと内側中空柱体20bとを備え、外側中空柱体20aの中心軸Xと内側中空柱体20bの中心軸Xとが一致するように外側中空柱体20aの内側に内側中空柱体20bが設けられた同軸状の二重管構成である。
中心柱体20は、外側中空柱体20a及び内側中空柱体20bの中心軸Xが垂直方向に延長するように、図外の下端部が図外の固定手段によって図外の床面に固定される。
【0014】
第1昇降装置21は、例えば、油圧シリンダー装置により構成される。
当該油圧シリンダー装置の図外のシリンダーが内側中空柱体20bの内側に設置され、油圧シリンダー装置の昇降体としてのピストンロッド21aの中心軸と内側中空柱体20bの中心軸Xとが一致するようにピストンロッド21aが内側中空柱体20bの内側に設置される。
そして、油圧シリンダー装置の図外の油圧制御装置による制御によってシリンダー内に油を供給したりシリンダー内の油をシリンダー内より排出することにより、ピストンロッド21aが中心柱体20の中心軸Xに沿って上方向に伸長可能でかつ下方向に縮退可能なように構成される。
【0015】
ブラダー保持体22は、下保持板22aと、上保持板22bとを備える。
下保持板22aは、円の中央に外側中空柱体20aの外周寸法に対応した寸法に形成された貫通穴22cを備えた円形板により構成される。外側中空柱体20aの上端部が下保持板22aの貫通穴22cの内側に位置されて外側中空柱体20aと下保持板22aとが連結される。外側中空柱体20aの円環状の上端開口22tがブラダー23の内部と連通する。
上保持板22bは、円形板により構成される。ピストンロッド21aの中心軸と上保持板22bの円形板の円の中心とが一致するようにピストンロッド21aの上端部と上保持板22bとが連結される。
下保持板22aを形成する円形板の外径寸法と上保持板22bを形成する円形板の外径寸法とが同じ寸法に形成され、当該外形寸法は、タイヤ2の穴2h(タイヤ2の中心軸を中心とした穴(図3参照))の径寸法よりも小さい。
【0016】
ブラダー23は、タイヤ2の内面4に熱エネルギー及び圧力エネルギーを伝達するエネルギー伝達手段として機能するものであり、ゴムのような可撓性材料により形成された両端開口の円筒体により形成される。
ブラダー23の円筒体の中心軸と中心柱体20の中心軸Xとが一致するように、ブラダー23の円筒体の下端開口縁部23aと下保持板22aを形成する円形板の外周部とが気密状態に連結され、かつ、ブラダー23の円筒体の上端開口縁部23bと上保持板22bを形成する円形板の外周部とが気密状態に連結される。
【0017】
下モールド装置1Bは、基台30と、断熱部31と、加熱部32と、下モールド33と、ガイド部34とを備える。
【0018】
基台30は、円の中央に中心柱体20が貫通する貫通穴30aを有した円形平板により構成される。当該基台30は、基台30の貫通穴30aを貫通する中心柱体20の中心軸Xと基台30の円の中心とが一致するように、かつ、円形平板の一方の面である環状円形の上面30bが水平面となるように、図外の支持手段を介して図外の床に固定されている。
【0019】
基台30の上面30bには断熱部31が設置され、断熱部31の上面には加熱部32が設置される。
加熱部32の上面には、下モールド33、及び、複数のガイド部34が設置される。
【0020】
加熱部32は、下モールド33に熱を加える構造を備えたものであり、例えば、温水を循環させる図外の温水循環流路、図外の電気ヒーター等を備えた構成である。つまり、加熱部32は、図外の温水循環装置に接続されて温水循環流路に温水を循環させることにより下モールド33に温水の熱を伝達する構造、電気ヒーターが図外の電源に接続されて電気ヒーターの熱を下モールド33に伝達する構造等を備える。
【0021】
断熱部31は、加熱部32の熱が基台30側に伝達されて外部に逃げるのを抑制するものであり、断熱性能を有した材料により構成されたり、断熱構造等を備えた構成である。
【0022】
下モールド33は、上面が、タイヤ2の一方の側面に接触して当該一方の側面に熱を伝達する一方側面加硫成型面35として機能する。この一方側面加硫成型面35は、中心柱体20の中心軸Xを中心とした環状面である。尚、下モールド33は、タイヤ2の一方の側面におけるショルダー部とサイド部とを加硫成型するための主モールド33aと、タイヤ2の一方の側面におけるビード部を加硫成型するためのビードモールド33bとを備える。そして、ブラダー保持体22の下保持板22aの下面とビードモールド33bとが連結されている。下モールド33が主モールド33aとビードモールド33bとに分割された構成としたので、ショルダー部及びサイド部に比べて加硫されにくいビード部に熱を効率的に伝達するためにビードモールド33bを熱伝導性の高い材料で形成したり、ショルダー部及びサイド部に比べて形状の複雑なビード部に対応した形状に加工しやすい材料でビードモールド33bを形成することが可能となる。
【0023】
断熱部31、加熱部32、下モールド33は、いずれも、基台30と同じように円の中央に貫通穴を有した円形板状に形成されたものであり、円の中心と中心柱体20の中心軸Xとが一致するように基台30の上に設置されて基台30に支持されている。尚、基台30、断熱部31、加熱部32、下モールド33は、上述のように積層され、互いに接触する部材同士が連結されている。
【0024】
ガイド部34は、後述するトレッドモールド装置1Cの複数の分割トレッドモールド構成部42を中心柱体20の中心軸Xに対して近付ける方向及び離れる方向に移動させる際のガイド部として機能するものであり、例えば、溝レール又は突起レール等により構成される。
【0025】
トレッドモールド装置1Cは、トレッドモールド構成部40と、動力伝達手段41とを備える。尚、動力伝達手段41については上モールド装置1Dと関連するため上モールド装置1Dを説明した後に説明する。
【0026】
トレッドモールド構成部40は、複数の分割トレッドモールド構成部42を備える。
分割トレッドモールド構成部42は、セクターモールドと呼ばれる分割トレッドモールド部43と、動力受け体44と、ガイド手段45と、付勢手段46とを備える。
【0027】
複数の分割トレッドモールド部43は、下モールド33の一方側面加硫成型面35上に所定状態に設置されたタイヤ2のトレッド面3を取り囲むように、下モールド33及び加熱部32の上に設けられるものである。複数の分割トレッドモールド部43によりトレッドモールド40Aが形成される。
下モールド33の一方側面加硫成型面35上に所定状態に設置されて中心柱体20の中心を中心としたタイヤ2の外周面であるトレッド面3と接触する成型面7が、複数の分割トレッドモールド部43に形成された各加硫成型面47の集合体により構成される。
複数の分割トレッドモールド部43の各加硫成型面47は、それぞれ、例えば、下モールド33の一方側面加硫成型面35上に所定状態に設置されたタイヤ2の中心となる中心柱体20の中心軸Xを中心として1回りする角度である360度の1/n度(以下、角度αという)に対応するタイヤ2の外周円弧長さ分のトレッド面3と接触する。例えば、複数の分割トレッドモールド部43が8個であれば、1個の分割トレッドモールド部43の加硫成型面47は、角度α=45度に対応するタイヤ2の外周円弧長さ分のトレッド面3と接触するように形成される。
そして、複数の分割トレッドモールド部43が中心柱体20の中心軸Xに近付く方向に移動して複数の分割トレッドモールド部43の各加硫成型面47がタイヤ2のトレッド面3と接触した場合、複数の分割トレッドモールド部43の各加硫成型面47により形成される成型面7は、タイヤ2のトレッド面3と接触する貫通孔(=中心柱体20の中心軸Xを中心とした貫通孔)の孔壁面を構成する。
【0028】
各分割トレッドモールド部43は、それぞれ、動力受け体44に個別に取り付けられている。
複数の動力受け体44の各外面が、例えば、中心柱体20の中心軸Xを中心とした円錐体の円錐面を形成し、この円錐面が動力受け面49として機能する。この動力受け面49と動力伝達体としての後述するアウターリング55の動力伝達面56とが接触し、動力受け面49が動力伝達面56からの力を受けることにより、複数の分割トレッドモールド部43が中心柱体20の中心軸Xに近付く方向に移動し、複数の分割トレッドモールド部43の各加硫成型面47がタイヤ2のトレッド面3と接触する成型面7を形成する。
【0029】
ガイド手段45は、動力受け体44の下面に設けられるものであって、例えば、ガイド部34としての溝レールに係合する突起部、又は、ガイド部34としての突起レールに係合する溝部等により構成される。
【0030】
付勢手段46は、各分割トレッドモールド部43の加硫成型面47をトレッド面3より離した状態に維持する手段であり、例えば、一端が基台30に固定された支持部46aに連結され、他端が動力受け体44に連結されたばねのような弾性手段により構成される。
【0031】
よって、各分割トレッドモールド部43の動力受け体44が、アウターリング55の動力伝達面56から力を受けていない場合には、各分割トレッドモールド部43は付勢手段46によってトレッド面3より離れた状態に維持される(図3参照)。そして、各分割トレッドモールド部43の動力受け体44が、アウターリング55の動力伝達面56から力を受けた場合には、各分割トレッドモールド部43は付勢手段46に抗して中心柱体20の中心軸Xに近付く方向に移動し、複数の分割トレッドモールド部43の各加硫成型面47がタイヤ2のトレッド面3と接触して成型面7を形成する(図4参照)。
このような複数の分割トレッドモールド部43を備えたトレッドモールド装置1Cを用いることにより、タイヤ2のトレッド面3を均等に押圧保持でき、ユニフォミティの良いタイヤを製造できる。
【0032】
上モールド装置1Dは、上モールド50と、上モールド支持台51と、加熱部52と、断熱部53と、第2昇降装置54とを備える。
【0033】
上モールド50は、下面が、下モールド33の加硫成型面35上に所定状態に設置されたタイヤ2の他方の側面に接触して当該他方の側面に熱エネルギー及び圧力エネルギーを伝達する加硫成型面36として機能する。この加硫成型面36は、中心柱体20の中心軸Xを中心とした環状面である。尚、下モールド33と同じように、上モールド50は、タイヤ2の他方の側面におけるショルダー部とサイド部とを加硫成型するための主モールド50aと、タイヤ2の他方の側面におけるビード部を加硫成型するためのビードモールド50bとを備える。そして、ブラダー保持体22の上保持板22bの上面とビードモールド50bとが連結されている。
【0034】
上モールド50の上面と上モールド支持台51の下面とが連結される。上モールド支持台51の上面には加熱部52が設置される。加熱部52の上面には断熱部53が設置される。断熱部53の上面には後述する連結体57が設置されている。
【0035】
加熱部52は、上モールド50に熱を加える構造を備えたものであり、上述した加熱部32と同じ構成である。
断熱部53は、加熱部52の熱が連結体57側に伝達されて外部に逃げるのを抑制するものであり、上述した断熱部31と同じ構成である。
【0036】
第2昇降装置54は、例えば、油圧シリンダー装置により構成される。上モールド支持台51の円の中央部と油圧シリンダー装置の昇降体としてのピストンロッド54aの下端部とが連結され、ピストンロッド54aの中心軸と中心柱体20の中心軸Xとが一致するように、連結体57の上方に油圧シリンダー装置のシリンダーが設置される。このシリンダーは、床に固定された図外の支柱に固定される。そして、油圧シリンダー装置の図外の油圧制御装置による制御によってシリンダー内に油を供給したり、シリンダー内の油をシリンダー内より排出することにより、ピストンロッド54aが中心柱体20の中心軸Xに沿って下方向に伸長可能でかつ上方向に縮退可能なように構成される。
【0037】
トレッドモールド装置1Cの動力伝達手段41は、上述した第2昇降装置54と、動力伝達体としてのアウターリング55と、アウターリング55と第2昇降装置54のピストンロッド54aとを連結する連結体57とを備える。
【0038】
連結体57は、円の中央にピストンロッド54aの下端部が貫通する貫通穴57aを有した円形平板に形成され、貫通穴57aの中心と中心柱体20の中心軸Xとが一致するように設けられる。
連結体57は、ピストンロッド54aの昇降により昇降動作を行うように、図外の連結手段によってピストンロッド54aの下端部に直接的に連結されるか、又は、断熱部53の上面と連結されることでピストンロッド54aの下端部と連結されることにより、ピストンロッド54aの昇降に連動して昇降動作を行う。
【0039】
アウターリング55は、両端開口の円筒体により形成され、アウターリング55の円筒体の中心軸と中心柱体20の中心軸Xとが一致するように、円筒体の上端開口端面と連結体57の下面とが連結される。アウターリング55の円筒体の下端開口端面側の筒内面は、中心柱体20の中心軸Xが中心軸となる円錐面に形成される。この円錐面が動力伝達面56として機能する。
【0040】
従って、第2昇降装置54のピストンロッド54aを下降させることにより、アウターリング55の動力伝達面56が下端側から各分割トレッドモールド部43の動力受け体44の動力受け面49に接触し、これにより、複数の分割トレッドモールド部43が中心柱体20の中心軸Xに向けて移動し、成型面7とタイヤ2のトレッド面3とが接触するとともに、上モールド50の加硫成型面36とタイヤ2の他方側面とが接触する。
【0041】
溝形状変形抑制装置1Eは、タイヤ2の加硫成型時において、分割トレッドモールド部43、動力受け体44、アウターリング55を通過して、溝5の空間8とアウターリング55の外周面(加硫成型装置の外側)とを連通させる気体の連通路60と、気体供給装置62と、アウターリング55の外周面に開口する連通路60の一端である気体注入口61と気体供給装置62の気体出口62aとを連通させる連通管63と、制御装置64とを備える。
【0042】
トレッド面3に形成された溝5がトレッド面3であるタイヤ2の外周面を1周する環状の溝5である場合、環状の溝5の空間8に連通する連通路60を1箇所以上設け、この連通路60を介して空間8内に気体を注入すればよい。この場合、連通路60は、トレッド面3の円周上において互いに180°隔てた部位に対応するように2箇所設けてもよいし、トレッド面3の円周上において互いに120°隔てた部位に対応するように3箇所設けてもよいし、3箇所以上設けてもよい。
すなわち、加硫成型装置1の外側と溝5の空間8とを連通させる気体の連通路60を加硫成型装置1内に設置されるタイヤの周方向に複数箇所設ける場合、連通路60の他端(端部)であって空間8と連通するようにトレッドモールド40Aの成型面7に設けられる気体連通口61aを、実質上の製造誤差等を考慮した、360°/N(タイヤ周方向に間隔を隔てて配置される気体連通口61aの数)間隔でタイヤ周方向に均等配置することによって、より均一に溝の変形を抑制できる。
【0043】
トレッド面3に形成された溝5がトレッド面3であるタイヤ2の外周面に互いに独立して設けられた独立の溝5である場合、これら独立の溝5の空間8に連通する連通路60を設け、この連通路60を介して空間8内に気体を注入すればよい。
【0044】
制御装置64は、エネルギー供給装置70よりブラダー23内に供給される熱エネルギーや圧力エネルギーによる圧力値(以下、ブラダー圧という)及び気体供給装置62より空間8内に供給される気体の圧力値(以下、気体注入圧という)を入力してエネルギー供給装置70及び気体供給装置62を制御する。エネルギー供給装置70のエネルギー送出口と外側中空柱体20aの中空部とが連通管71により連通されていることにより、制御装置64で制御されるエネルギー供給装置70から連通管71及び外側中空柱体20aの中空部を介してブラダー23内にエネルギーを供給できる。
【0045】
空気給排装置1Fは、加硫成型時においては、ブラダー23の外面とタイヤ2の内面4との密着性を向上させるために、ブラダー23の外面とタイヤ2の内面4との間に存在する気体を排出させ、加硫成型後においては、ブラダー23の外面とタイヤ2の内面4との接触を解除するために、ブラダー23の外面とタイヤ2の内面4との間に気体を供給する装置である。この空気給排装置1Fは、例えば、下モールド33のビードモールド33bに形成された連通路81と、給排用のポンプ82と、ポンプ82の吐出口及び吸引口と連通路81とを連通させる連通管83と、制御装置64とを備える。制御装置64でポンプ82を制御することで、上記気体排出動作及び気体供給動作を実現できる。
【0046】
次に、タイヤの加硫成型方法を説明する。
図3(a)に示すように、第1昇降装置21のピストンロッド21aを上昇させることにより、ブラダー23が中心柱体20の中心軸Xを中心軸とした円筒体を形成し、このブラダー23の円筒体の外径寸法がタイヤ2の穴2hの径寸法よりも小さくなる。このようにピストンロッド21aを上昇させた状態において、ブラダー23の円筒体がタイヤ2の穴2hを貫通するようにタイヤ2を落下させてタイヤ2を下モールド33の加硫成型面35の所定の位置に設置する。
そして、図3(b)に示すように、ピストンロッド21aを下降させることにより、ブラダー23が弛む。
次に、図4(a)に示すように、第2昇降装置54のピストンロッド54aを下降させる。これにより、アウターリング55の動力伝達面56と各分割トレッドモールド部43の動力受け体44の動力受け面49とが接触し、各分割トレッドモールド部43が中心柱体20の中心軸Xに向けて移動し、成型面7とタイヤ2のトレッド面3とが接触する。さらに、上モールド50が下降し、上モールド50の加硫成型面36とタイヤ2の他方側面とが接触する。よって、タイヤ2の外表面と各モールド33;40A;50の成型面35;7;36とが接触する。
次に、制御装置64によりエネルギー供給装置70を制御してブラダー23の内側に例えば蒸気を供給した後にガスや温水を入れてタイヤ2の内面を押圧する圧力値を所定圧力値に設定することにより、図4(b)に示すように、ブラダー23がタイヤ2の内側空間内に入り込んでタイヤ2の内面4全体に接触する。この際、空気給排装置1Fを作動させて、ブラダー23の外面とタイヤ2の内面4との間に存在する気体を排出させることにより、ブラダー23の外面とタイヤ2の内面4との密着性を向上させる。
そして、エネルギー供給装置70を制御して上述のようにブラダー23の内側に熱と圧力を供給するとともに、制御装置64により気体供給装置62を制御して空間8内に気体を供給し、加熱部32;52を加熱して下モールド33と上モールド50とに熱を供給する。
以上により、ブラダー23内に供給された熱と圧力とによりタイヤ2がタイヤ2の内面4側から加硫成型され、下モールド33と上モールド50とに供給された熱と圧力によりタイヤ2がタイヤ2の側面側から加硫成型され、未加硫ケース10のトレッド取付面11とPCT12の被取付面13とが加硫接着されて、加硫成型後のタイヤを得る。
【0047】
制御装置64により、気体供給装置62による気体注入圧P2が図5に示すような関係となるよう制御する。つまり、制御装置64により、加硫中において常に気体注入圧P2がブラダー圧P1よりも小さくなるように制御し、かつ、加硫中においてブラダー圧P1と気体注入圧P2との差圧がほぼ所定値を維持するように制御する。例えば、TBRの場合、0<差圧<0.2Mpa以内となるように制御する。
具体的には、図5に示すように、制御装置64が、エネルギー供給装置70を制御してブラダー23内にエネルギーの供給を開始してから所定時間経過後に気体供給装置62を制御して空間8内に気体を供給し始める。そして、制御装置64は、気体注入圧P2がブラダー圧P1に近付くように、かつ、気体注入圧P2がブラダー圧P1よりも大きくならないように、エネルギー供給装置70及び気体供給装置62を制御する。
以上のように、気体注入圧P2を制御することにより、溝5の変形を抑制できるとともに、空間8内に注入された気体の圧力でケースが変形してしまうようなことも防止できる。
【0048】
実施形態1によれば、PCT12を用いたタイヤ2を加硫成型する方法において、トレッド面3に形成されている溝5の内面6と加硫成型装置1の成型面7との間に生じる空間8内にブラダー圧P1に対して抵抗する気体圧力を充填しながら加硫成型したので、PCT12のトレッド面3に形成されている溝5の変形を抑制でき、所望の性能のタイヤを製造できるようになる。
【0049】
尚、ブラダー23の内面に取り付けられてブラダー23内の圧力値を検出する図外の第1圧力センサーと、トレッドモールド40Aの成型面7に取り付けられて空間8内の圧力値を検出する図外の第2圧力センサーと、各圧力センサーからの圧力値を入力してエネルギー供給装置70及び気体供給装置62を制御する制御装置64とを備えた圧力制御手段を用いてもよい。当該圧力制御手段を用いれば、ブラダー23内の内圧及び溝5内の内圧を正確に知ることができるので、これら圧力をより正確に制御できる。
【0050】
実施形態2
溝形状変形抑制手段として、加硫成型前に、タイヤ2の溝5内に固体を充填しておいてもよい。例えば、タイヤ2が加硫成型装置1の加硫成型空間内の所定位置に設置される前に、溝5内に嵌合するように形成されたシリコン製等の固形物を溝5内に嵌め込んでおくようにすればよい。この場合でも、タイヤ2の溝5内に充填された固体が、加硫成型中に、ブラダー圧P1に対して抵抗するので、PCT12のトレッド面3に形成されている溝5の変形を抑制でき、所望の性能のタイヤを製造できるようになる。
【0051】
尚、加硫成型前のタイヤ2におけるPCT12のトレッド面3に形成されている溝5内に挿入させるための突起を有した成型面を持つ加硫成型装置を使用してタイヤ2を加硫成型することも考えられる。しかしながら、この場合、変形不可の成型面の突起にタイヤ2のトレッド面3の溝5を合致させる作業が必要となり、作業数が増えるという課題や、突起と合致する溝パターンのタイヤしか加硫成型できないという課題が生じてしまう。一方、本発明では、当該課題を解消できる。
【0052】
尚、加硫成型装置1としては、図1に示すような、上モールド1Yと下モールド1Xとにより構成された加硫成型装置1を用いてもよい。
【0053】
また、上記では、未加硫ケース10とPCT12とを用いて加硫成型前のタイヤ2を形成し、当該タイヤ2を加硫成型する場合について説明したが、本発明は、加硫済みケース(完全加硫又は半加硫)とPCT12とを用いて加硫成型前のタイヤを形成し、当該タイヤを加硫成型する場合についても適用可能である。
【0054】
また、加硫成型中のブラダー圧P1に対して抵抗させるために空間8内に充填する溝形状変形抑制手段としては、液体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 加硫成型装置、2 タイヤ、3 トレッド面、4 タイヤの内面、5 溝、
6 溝の内面、7 成型面、8 空間、12 PCT、60 連通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫済みのトレッドを用いて形成された加硫成型前のタイヤを加硫成型する場合に、加硫成型装置の成型空間内に所定状態に設置された加硫成型前のタイヤのトレッド面と対向する当該加硫成型前のタイヤの内面に熱と圧力とを加えて当該タイヤを加硫成型するタイヤの製造方法において、
前記トレッド面に形成されている溝の内面と前記加硫成型装置の成型面との間に形成される空間に、加硫成型中における前記溝の形状変形を抑制するための溝形状変形抑制手段を設けたことを特徴とするタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記溝形状変形抑制手段は、前記加硫成型中に前記加硫成型装置の外側から前記空間内に注入された気体により形成され、前記気体の所定圧力値は、前記タイヤの内面に加わる圧力の値よりも小さい値としたことを特徴とする請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記加硫成型装置の外側と前記空間とを連通させる前記気体の連通路の端部であって前記空間と連通する気体連通口が複数個設けられ、前記複数個の気体連通口が前記加硫成型装置内に設置されるタイヤ周方向に、360°/N(タイヤ周方向に間隔を隔てて配置される気体連通口の数)間隔で配置されたことを特徴とする請求項2に記載のタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記溝形状変形抑制手段は、前記加硫成型前に前記溝内に挿入された固体により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のタイヤの製造方法。
【請求項5】
加硫成型前のタイヤが設置される成型空間を形成するモールドを備えたタイヤの加硫成型装置において、
前記成型空間内に所定状態に設置された加硫成型前のタイヤのトレッド面に形成されている溝と加硫成型装置の外部とを連通させる連通路を備えたことを特徴とするタイヤの加硫成型装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−171182(P2012−171182A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34902(P2011−34902)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】