説明

タービンエンジンファンケーシング、封じ込めカバー、および分離したファンブレード断片をタービンエンジンに封じ込める方法

【課題】耐久性がある織物であるが、ナセルに損傷を与える危険性のない最小限の重量に抑えた織物を有するファンケーシングを提供する。
【解決手段】分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシングは、軸方向に延びる衝突区域を有する支持ケースと、衝突区域を囲む構造上実質的に連続した貫通可能なカバーと、貫通可能カバーを囲む封じ込めカバーと、を有する。封じ込めカバーは、縦糸方向および横糸方向の糸を含む織物からなり、縦糸方向の糸は、横糸方向の糸とはデニールが異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用ガスタービンエンジンのファンケーシングに関し、詳細には、断片化したエンジン部品を封じ込める貫通抵抗性のファンケーシングに関する。
【背景技術】
【0002】
ジェット機は、空気力学的な流線型としたナセルに収容されたガスタービンエンジンを含む推進システムによって駆動される。典型的なエンジンには、ファンブレードがハブから半径方向に突出するように、一連のファンブレードに連結した回転可能なハブを有するファン部分と、ブレードを囲むファンケースと、が含まれる。運転時に、エンジン部品(特にファンブレードの部分)はハブから分離することがあり、これらには、ブレードの残部から分離したブレードのすべてまたは一部が含まれ得る。ファンケーシングは、このような破断した断片をケーシング内に封じ込めるように設計される。
【0003】
特に、エンジンの直径が大きい場合は、貫通を防止するのに十分な金属ケースの厚さはきわめて厚くなる。したがって、エンジンは、エンジン部品に巻き付けた織物を含む封じ込め構造体を装備することが多い。織物は、多くの場合、ケブラー(デュポン社の登録商標)などの軽量、高強度の弾道織物とされる。封じ込め織物は、比較的薄く、貫通できることが多い支持ケースに多層をなして巻き付けられる。したがって、ブレードの一部はエンジンの残りの部分から分離し、断片は支持ケースを貫通して織物に当たる。織物は半径方向に撓み、織物層の少なくとも幾らかは無傷のまま残り、断片を捕捉し、封じ込める。
【0004】
織物を含む封じ込めシステムは、金属製の封じ込めケースよりも重量効率がよいが、それでもなお、かなりの重量がエンジンに加わる。織物は、軽量であるがその耐久性を維持するように設計されなければならない。織物が余分に撓むと、断片化したエンジン部品は織物を貫通して、ナセルの内側を打撃するか、またはナセルの内側に損傷を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、耐久性がある織物であって、封じ込め能力を損なわない、すなわちナセルに損傷を与える危険性のない、重量を最小限に抑えた織物を有するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング、およびファンケーシングを構築する方法に関する。ファンケーシングは、軸方向に延びる衝突区域がある支持ケースと、衝突区域を囲む構造上実質的に連続する貫通可能なカバーと、貫通可能なカバーを囲む封じ込めカバーと、を有する。封じ込めカバーは、縦糸方向および横糸方向の糸を含む織物からなり、縦糸方向の糸は横糸方向の糸とはデニールが異なる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1は、貫通抵抗性のファンケーシングの一部を示す破断斜視図である。図1にはファンケーシング10およびブレード14を示している。ファンケーシング10は、リブ付のアルミニウム製支持ケース12、騒音減衰パネル16、摩耗性摩擦板18、氷シールド20、アルミニウム表面板22、貫通可能なカバー24、支持カバー26、貫通抵抗性封じ込めカバー28、および流線型のナセル30を有する。摩耗性摩擦板18は、実際には、騒音減衰パネル16同士の間において延在し、ファンブレード14の上方にある。ブレード14の先端は摩擦板18に溝(図示せず)を刻み、その後、ブレード14の先端は、エンジン作動中にこの溝内に延在し、ブレード先端周りの空気漏れを最小限にする。氷シールド20は、運転中にブレード14から振り落とされた蓄積氷による衝突損傷から騒音減衰パネル16を守る。
【0008】
貫通可能なカバー24は、支持ケース12に巻き付けられたケブラー(登録商標)などの芳香族ポリアミド繊維織物からなる連続ベルトである。軽量の支持カバー26は、フェノールコーティングした繊維質アラミドを基材とした細胞状アレイ(cellular array)などの圧壊可能なカバーである。貫通抵抗性の封じ込めカバー28は、貫通可能なカバー24と支持カバー26の両方を囲んでいる。封じ込めカバー28は、ケブラー(登録商標)などの芳香族ポリアミド繊維織物からなる連続ベルトであり、縦糸繊維が周方向に延び、横糸繊維が軸方向に延びるようにして配置されるのが好ましい。
【0009】
封じ込め織物28の特性は貫通可能な織物24の特性とは異なる。封じ込め織物28の前側端部および後側端部は、貫通可能な織物24および圧壊可能なカバー26を軸方向に越えて位置する。これらの封じ込め織物28の各端部は、エポキシ接着剤を用いて周方向に切れ目なく接合することで支持ケース12に固定されている。これらの接合は、エンジンの組立時および作動時に、封じ込め織物28が定位置から軸方向にずれるのを防止する。さらに、薄い接着剤皮膜を、封じ込め織物28の最外面に加え、硬化させて防湿外皮を形成することができる。この外皮は、封じ込め織物28および貫通可能な織物24を水の侵入から保護する環境シールである。表面にシールがない場合、貫通可能な織物24および封じ込め織物28は、かなりの量の水を吸収して保持するので、エンジン重量が増加してしまう。
【0010】
上記のファンケーシングは、ファンがより高速の回転速度で動作しているときに放出されたエンジン断片(実際にはブレード全体であっても)との衝突に耐えるように設計されている。このようなブレード断片は、支持ケースおよび表面シートに裂け目を開ける。次いで、断片は貫通可能な織物24を貫通し、そのために、断片は曲がるか、あるいは別の状態に変形して、断片の鋭利な縁部は鈍化し、織物と接触する断片の表面積は増加する。したがって、貫通可能な織物24は、封じ込め織物28に損傷を与え得る断片の潜在力を弱めるために、断片を前処理する。
【0011】
変形した断片が貫通可能な織物24を貫通すると、断片は貫通抵抗性の封じ込め織物28によって止められる。断片は通常、多くのまたはほとんどの封じ込め織物層を通過するが、少なくとも1つの層は無傷のままである。これらの無傷の層は、変形した断片を止めて、ナセル30の内面によって規定される所定の半径方向の許容範囲内に変形した断片を封じ込めるように、半径方向外側に伸張して撓む。その結果、織物に覆われた断片は、ナセルに衝突して損傷を与えることはなくなる。封じ込め織物28の貫通抵抗性は圧壊可能な細胞状アレイ26によって高まる。エンジン断片が封じ込め織物28に衝突すると、織物は、衝撃力の一部を細胞状アレイ26に伝達する媒体のようにふるまう。伝達された力によって、支持ケースに対してセル壁が平らになるように細胞状アレイは潰れ、細胞状アレイ26が封じ込め織物28を半径方向に支持する能力は制限される。半径方向の支持能力の低下により、封じ込め織物28が一時的に幾分たるみ、織物にかかる張力を瞬間的に弱め、これにより、封じ込め織物28の貫通抵抗性を向上させる。
【0012】
封じ込め織物28および貫通可能な織物24は繊維織物である。織物を作製する場合、互いにほぼ直角に交差する2組の糸が使用される。織機内の縦糸(スレッド)(ファイバまたはヤーンとも呼ばれる)は、口語表現でワープ(warp)として知られており、横糸は、ウェフト(weft)またはフィルスレッド(fill threads)と呼ばれる。糸の太さは、糸のデニールと呼ばれる。既存の技術では、貫通可能な封じ込め用織物が、縦糸方向および横糸方向両方で同じデニールの糸、すなわち、重量と太さが等しい糸を含む対称な織りで構築される。現在のところ当技術分野では一般的に、バランスのとれた織り(インチ当たりの縦糸数と横糸数が等しい)で、アラミド繊維であるケブラー29もしくはケブラー49が使用される。
【0013】
図2は、一般的なエンジン用封じ込め織物で使用する織物組織の部分断面を示している。縦糸32および横糸34が両方とも示されている。縦糸32は断面となっており、一方、横糸34は、この断面に対して平行な面において示されている。横糸34および縦糸32はともに同じデニールとされる。織物組織全体は高さがHである。一実施形態においては、織りには、横糸方向および縦糸方向ともに、インチ当たり約17本の糸が含まれている。横糸方向の糸も縦糸方向の糸も、織り加工時に糸に荷重がかかるために断面が卵形になっている。
【0014】
図3は、本発明の織物組織の部分断面を示している。この織りでは、縦糸36および横糸38がともに示されている。糸は両方とも、アラミド繊維または同様の芳香族ポリアミド繊維で作製されている。横糸38は、縦糸36とはデニールが異なっている。その結果、織りはより平坦になり、高さhは、図2に示した織りの高さHよりかなり低くなっている。
【0015】
本発明は、封じ込め織物や貫通可能な織物の重量を減らすことで、エンジン用封じ込めシステムの重量を低減しようとするものである。封じ込め織物および貫通可能な織物は、それぞれ芳香族ポリアミド繊維糸などの材料で作られた織物(textile)である。本発明は、織物組織の縦糸方向と横糸方向でデニールのサイズが異なる織り方である。織物は、縦糸がケースを周方向に囲むように巻き付けられる。したがって、衝撃に対する耐性を最大にするために、縦糸はデニールがより大きな糸とするのが好ましい。また、織物の全体高さを最小限にするために、横糸はデニールがより小さい糸とするのが好ましい。横糸は、織りにおける縦糸を保持する構造を織りに付け加えるが、上述したような、断片の力の吸収、換言すれば断片の力に対する抵抗はあまり与えない。
【0016】
一実施形態においては、本発明の織りは、縦糸方向よりも横糸方向にインチ当たりより多くの糸を含み、一方、他の実施形態においては、織りのバランスをとる(すなわち、縦糸方向と横糸方向はともに糸の数が等しい)。本発明の織りは、1つの横糸が1つの縦糸に相対する平織りとしてもよいし、または綾織り(twill)、朱子織り(satin)、あるいはそれらの複合型など、すでに説明したように、断片の封じ込めに対して所望の特性を得るのに適切な他の任意の織りであってもよい。
【0017】
織物は、特定の用途に対して所望の封じ込め特性を得るために、特定の態様で特定の回数だけ支持ケース12に巻き付けられる。典型的な実施形態では、織物は最低5回支持ケースに連続して巻き付けられる。
【0018】
一実施形態においては、封じ込め織物は、横糸よりも直径が約5倍大きい縦糸で構成された24×24(24by24)(ヤーン/インチ)の平織りとする。他の実施形態においては、縦糸は、横糸の直径の少なくとも2倍の直径を有するか、または横糸の直径よりも50%大きい直径を有する。封じ込め用織物の織り組織は、バランスのとれた織りが望ましいが、縦糸方向または横糸方向のいずれか一方が、単位長さ当たりの糸数が多い状態で不均衡となっていてもよい。
【0019】
本発明は、横糸方向に重量がより軽いデニールの糸を採用しており、その結果、所与の長さの織りに対して縦糸がより平坦になるが、それでもなお、重要な縦糸方向に欠くことのできない特性を維持する。封じ込め現象が起きる際に、縦糸は荷重が完全にかかる前にあまり伸長せず、個々の縦糸に荷重がかかる前とかかっているときの織物の撓みは大幅に低減される。織布の単位重量当たりの厚さは低減され、封じ込め織物は、封じ込め構造体に、よりコンパクトに巻き付けられるようになる。
【0020】
封じ込めシステムの全体的な撓みを低減することにより、ナセル構造体を半径方向にエンジンケースにより近接して配置することができる。半径方向の空間を縮小することによって、ナセル構造体は直径をより小さくすることができ、これは抗力を小さくし、システムを軽量にする。重量、寸法、および抗力の低減は、より燃料効率のよい駆動構造に寄与する。本発明の織物は、エンジン用貫通可能な織物および封じ込め織物の両方に使用することができる。
【0021】
本発明の織物は、上記のように、分離したファンブレード断片をタービンエンジン内に封じ込める方法を可能にする。最初に、貫通可能なカバー(図1の符号24など)が分離したブレード片を前処理して、損傷を与え得るその潜在能力を弱める。貫通カバーは、断片を塑性変形させるように働く。貫通カバーは、貫通カバーの貫通抵抗性を最大にするために、実質的に張力をかけないまま支持ケースに巻き付けられる。次に、封じ込めカバーが前処理した断片を止める。封じ込めカバーは、すでに説明したように、縦糸方向と横糸方向でデニールが異なる糸を含む芳香族ポリアミド繊維から作製された織物からなる。封じ込めカバーは、断片が織物を貫通し、ナセルに損傷を与えるのを防止する。織物に覆われた断片がナセルを打撃するような過剰な撓みを防止するために、封じ込め織物は強制的に張力をかけて取り付けられる。封じ込め現象が起きる際に、張力のかかった封じ込めカバーは、衝撃エネルギを吸収するために、少なくとも部分的に張力が弱められる。この封じ込めカバーは、ファンケーシングを囲む一連の連続層として、少なくとも5層を使用して取り付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】貫通抵抗性のファンケーシングの一部を示す破断斜視図。
【図2】先行技術で使用する織物組織の部分断面図。
【図3】本発明の織物組織の部分断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びる衝突区域を有する支持ケースと、
前記衝突区域を囲む構造上実質的に連続する貫通可能なカバーと、
前記貫通可能なカバーを囲み、縦糸方向および横糸方向の糸を含む織物からなる封じ込めカバーと、を備えるとともに、
前記縦糸方向の前記糸は、前記横糸方向の前記糸とはデニールが異なることを特徴とする分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項2】
上記織物は、バランスのとれた織りを有することを特徴とする請求項1に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項3】
上記貫通可能なカバーは、アラミド繊維織物からなることを特徴とする請求項1に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項4】
上記アラミド織物は、縦糸方向と横糸方向で糸のデニールが異なる不均衡な織りを有することを特徴とする請求項3に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項5】
上記縦糸方向の上記糸は、上記横糸方向の上記糸よりも直径が少なくとも50%大きいことを特徴とする請求項1に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項6】
上記縦糸方向の上記糸は、厚さが上記横糸方向の上記糸の厚さの約5倍であることを特徴とする請求項1に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項7】
上記封じ込めカバーの織物は、上記縦糸が上記ファンケースを囲んで周方向に延びるように配置されることを特徴とする請求項5に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項8】
上記封じ込めカバー織物の横糸は、上記ファンケーシングの全長に沿って軸方向に延びることを特徴とする請求項5に記載の分離したブレード断片を封じ込めるタービンエンジンファンケーシング。
【請求項9】
分離したブレード断片を封じ込めるように働き、支持ケースおよび連続する貫通可能なカバーを有するタービンエンジンファンケーシングの封じ込めカバーであって、
縦糸方向および横糸方向の糸を含む織物からなり、前記縦糸方向の前記糸は、前記横糸方向の前記糸とはデニールが異なることを特徴とする封じ込めカバー。
【請求項10】
上記織物はバランスのとれた織りを有することを特徴とする請求項9に記載の封じ込めカバー。
【請求項11】
上記織物はさらに、アラミド繊維を有することを特徴とする請求項9に記載の封じ込めカバー。
【請求項12】
上記アラミド織物は、縦糸方向と横糸方向で糸のデニールが異なる織りを有することを特徴とする請求項11に記載の封じ込めカバー。
【請求項13】
上記縦糸方向の上記糸は、上記横糸方向の糸よりも直径が少なくとも50%大きいことを特徴とする請求項12に記載の封じ込めカバー。
【請求項14】
支持ケース、連続する貫通可能なカバー、および封じ込めカバーを有するファンケーシングを設け、前記封じ込めカバーは、横糸方向とは異なるデニールの糸を縦糸方向に含む織物を有し、
損傷を与え得るその潜在能力を弱めるために、前記分離したブレード断片を前処理し、
前記前処理した断片による貫通を防止できる前記封じ込めカバーを用いて前記前処理した断片を止め、
前記前処理した断片を前記ファンケーシング内に封じ込める、
ことを特徴とする分離したファンブレード断片をタービンエンジン内に封じ込める方法。
【請求項15】
上記封じ込めカバーはさらに、上記支持ケースを周方向に巻き付けられた少なくとも5層の上記織物を有することを特徴とする請求項14に記載の分離したファンブレード断片をタービンエンジン内に封じ込める方法。
【請求項16】
上記織物は、上記縦糸が周方向に延び、上記横糸が軸方向に延びるように配置される請求項15に記載の分離したファンブレード断片をタービンエンジン内に封じ込める方法。
【請求項17】
上記横糸は、上記縦糸よりもデニールが少なくとも50%小さいことを特徴とする請求項16に記載の分離したファンブレード断片をタービンエンジン内に封じ込める方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−321757(P2007−321757A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−137333(P2007−137333)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(590005449)ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション (581)
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
【Fターム(参考)】