説明

ダイボンドフィルム及びその用途

【課題】硬化前後での十分な接着力及び高温での弾性率を得られ、作業性が良好であると共に、ダイボンドフィルムと被着体との境界に気泡(ボイド)が溜まることがなく、耐湿半田リフロー試験にも耐え得る高信頼性のダイボンドフィルム、及びダイボンドフィルムを備えたダイシング・ダイボンドフィルム、並びに半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ダイボンドフィルム1は、重量平均分子量が50万以上のグリシジル基含有アクリル共重合体(a)と、フェノール樹脂(b)とを含有し、グリシジル基含有共重合体(a)の含有量xのフェノール樹脂(b)の含有量yに対する重量比(x/y)が5以上30以下であり、かつ重量平均分子量が5000以下のエポキシ樹脂を実質的に含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体チップ等の半導体素子を基板やリードフレーム等の被着体上に固着する際に用いられるダイボンドフィルムに関する。また本発明は、当該ダイボンドフィルムがダイシングフィルム上に積層されたダイシング・ダイボンドフィルム及びこれを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置の製造の際に於けるリードフレームや電極部材への半導体チップの固着には、銀ペーストが用いられている。かかる固着処理は、リードフレームのダイパッド等の上にペースト状接着剤を塗工し、それに半導体チップを搭載してペースト状接着剤層を硬化させて行っている。
【0003】
しかしながら、ペースト状接着剤ではその粘度挙動や劣化等により塗工量や塗工形状等に大きなバラツキを生じる。その結果、形成されるペースト状接着剤厚は不均一となる為、半導体チップに係わる固着強度の信頼性が乏しい。即ち、ペースト状接着剤の塗工量が不足すると、半導体チップと電極部材との間の固着強度が低くなり、その後のワイヤーボンディング工程で半導体チップが剥離する。一方、ペースト状接着剤の塗工量が多すぎると半導体チップの上までペースト状接着剤が流延して特性不良を生じ、歩留まりや信頼性が低下する。この様な固着処理に於ける問題は、半導体チップの大型化に伴って特に顕著なものとなっている。その為、ペースト状接着剤の塗工量の制御を頻繁に行う必要があり、作業性や生産性に支障をきたしている。
【0004】
このペースト状接着剤の塗工工程に於いて、ペースト状接着剤をリードフレームや形成チップに別途塗布する方法がある。しかし、この方法では、ペースト状接着剤層の均一化が困難であり、またペースト状接着剤の塗布に特殊装置や長時間を必要とする。この為、ダイシング工程で半導体ウェハを接着保持するとともに、マウント工程に必要なチップ固着用の接着剤層をも付与するダイシング・ダイボンドフィルムが開示されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0005】
この種のダイシング・ダイボンドフィルムは、ダイシングフィルム上に接着剤層(ダイボンドフィルム)が積層された構造を有している。また、ダイシングフィルムは支持基材上に粘着剤層が積層された構造である。このダイシング・ダイボンドフィルムは次のようにして使用される。即ち、ダイボンドフィルムによる保持下に半導体ウェハをダイシングした後、支持基材を延伸して半導体チップをダイボンドフィルムと共に剥離しこれを個々に回収する。更に、半導体チップを、ダイボンドフィルムを介して、BT基板やリードフレーム等の被着体に接着固定させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−57642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、半導体チップ実装の多段化が進み、ワイヤーボンディング工程やダイボンドフィルムの硬化工程に長時間を要する傾向にある。これらの工程でダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルムを高温で長時間処理し、以降の工程として封止樹脂による封止工程を行った場合、ダイボンドフィルムと被着体との境界に気泡(ボイド)が溜まった状態となることがある。こうしたボイドが生じた半導体装置を用いて半導体関連部品の信頼性評価として行われる耐湿半田リフロー試験を行うと、前記境界において剥離が発生してしまい、半導体装置の信頼性としては十分と言えない状況になってしまう。また、前記ダイボンドフィルムを長時間高温で処理すると、ワイヤーボンディング不良が生じたり、封止の際に封止樹脂が前記境界に進入したりする。
【0008】
本発明は前記の問題点に鑑みなされたものであり、例えば1時間程度の短時間で硬化した場合であっても十分な接着力及び高温での弾性率を得られ、ワイヤーボンディング工程や封止工程における作業性が良好であると共に、これらの工程を経た後でもダイボンドフィルムと被着体との境界に気泡(ボイド)が溜まることがなく、さらに硬化後には高温で十分な剪断接着力が得られ、耐湿半田リフロー試験にも耐え得る高信頼性のダイボンドフィルム、及び当該ダイボンドフィルムを備えたダイシング・ダイボンドフィルム、並びに半導体装置の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、前記従来の課題を解決すべく、ダイボンドフィルムについて検討した。その結果、ダイボンドフィルムと被着体との境界にボイドが生じるのは、ダイボンドフィルムの高温での処理によりダイボンドフィルムに含まれる低分子量の樹脂成分が急激に反応することが主な原因であり、またワイヤーボンディング不良や封止の際の封止樹脂進入が発生するのは、低分子量樹脂成分の反応が進行すると凝集力が生じず高温での接着力が不足することが主な原因であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明のダイボンドフィルムは、重量平均分子量が50万以上のグリシジル基含有アクリル共重合体(a)(以下、「共重合体(a)」と称する場合がある)と、フェノール樹脂(b)とを含有し、前記共重合体(a)の含有量xのフェノール樹脂(b)の含有量yに対する重量比(x/y)が5以上30以下であり、かつ重量平均分子量が5000以下のエポキシ樹脂(以下、「低分子量エポキシ樹脂」と称する場合がある)を実質的に含まない。
【0011】
このような構成により、当該ダイボンドフィルムによると、半導体チップの多段化によるダイボンド後のワイヤーボンディング工程やダイボンドフィルムの硬化工程における長時間の高温処理といった従来では想定していなかった高温で長時間の熱処理を行った場合でも、低分子量の樹脂成分の反応を抑制して、それ以降の工程である封止樹脂による封止工程後にダイボンドフィルムと被着体との境界の気泡(ボイド)の発生を抑制ないし消失させることができる。さらに、硬化後には十分な剪断接着力を高温で得られ、耐湿半田リフロー試験においても高信頼性を確保することができる。共重合体(a)の重量平均分子量が50万未満であると、高温での凝集力が弱くなり、十分な剪断接着力を得ることができないことがある。また、前記重量比が5未満であると、未反応のフェノール樹脂(b)により耐湿半田リフロー試験での信頼性に影響を及ぼすことになる。また、前記重量比が30を超えると、ダイボンドフィルムの硬化後における高温での凝集力が低下し、十分な剪断接着力を得ることができなくなる。さらに、低分子量エポキシ樹脂を含むと高温処理の際に急激な反応が生じてしまい、前記境界でのボイドの発生や接着力の低下による封止樹脂の進入が起こってしまう。
【0012】
なお、本発明において、「重量平均分子量が5000以下のエポキシ樹脂」は、グリシジル基含有アクリル共重合体(a)以外のエポキシ樹脂を意味する。また、低分子量エポキシ樹脂を「実質的に含まない」とは、本発明による効果を享受するのに十分な程度に前記低分子量エポキシ樹脂の含有量が低いことを意味し、好ましくは含有量が0%である。ただし、前記共重合体(a)の調製の際に不可避的に残存又は生成している重量平均分子量5000以下の画分は本発明の範囲に含まれる。
【0013】
前記グリシジル基含有アクリル共重合体(a)についてのエポキシ価が0.15e.q./kg以上0.65e.q./kg以下であり、ガラス転移点が−15℃以上40℃以下であり、かつ150℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることが好ましい。前記共重合体(a)のエポキシ価の下限を0.15e.q./kgとすることにより、硬化後に高温で十分な弾性率を得ることができ、また共重合体(a)の0.65e.q./kgとすることにより、室温での保存性を維持することができる。また、ガラス転移点の下限を−15℃とすることにより、常温でのタックの発生を抑制して良好なハンドリング性を維持することができる。一方、ガラス転移点の上限を40℃とすることにより、ダイボンドフィルムのシリコンウェハ等の半導体ウェハへの接着力の低下を防止することができる。加えて、前記共重合体(a)の150℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であると、半導体チップに対するワイヤーボンディングの際にも十分な接着力を維持させることができる。その結果、ダイボンドフィルム上に接着固定した半導体チップに対してワイヤーボンディングを行う際にも、超音波振動や加熱によるダイボンドフィルムと被着体との接着面でのずり変形を防止し、ワイヤーボンディングの成功率を向上させることができる。
【0014】
当該ダイボンドフィルムでは、硬化前の50℃での貯蔵弾性率が10MPa以下であり、175℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であり、かつ150℃で1時間硬化させた後の175℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが好ましい。硬化前の50℃での貯蔵弾性率が10MPa以下とすることで、被着体に対する濡れ性を確保し、接着力の維持が図れると共に、175℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上とすることにより、半導体チップに対するワイヤーボンディングの際にも十分な接着力を維持させることができる。また、150℃で1時間硬化させた後の175℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上とすることにより、耐湿半田リフロー試験においてもダイボンドフィルムの剥離の発生を防止することができ、信頼性の向上が図れる。同様に、当該ダイボンドフィルムの175℃で1時間硬化させた後の260℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが好ましい。
【0015】
当該ダイボンドフィルムでは、被着体と貼り合わせて150℃で1時間硬化させた後の175℃での被着体との間の剪断接着力が0.3MPa以上であることが好ましい。これにより、半導体チップに対するワイヤーボンディングの際にも十分な接着力を維持させることができる。その結果、ダイボンドフィルム上に接着固定した半導体チップに対してワイヤーボンディングを行う際にも、超音波振動や加熱によるダイボンドフィルムと被着体との接着面でのずり変形を防止し、ワイヤーボンディングの成功率を向上させることができる。
【0016】
当該ダイボンドフィルムは、染料を0.05重量%以上含有することが好ましい。その結果、ダイボンドフィルムとダイシングテープとの識別が可能となる。
【0017】
本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、ダイシングテープと、このダイシングテープ上に積層された当該ダイボンドフィルムとを備える。本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは当該ダイボンドフィルムを備えているので、半導体装置の製造工程において、ダイボンドフィルムと基板等の被着体との境界での気泡(ボイド)の生成を抑制又は消失することができ、また、硬化後には高温でも十分な剪断接着力を発揮することができるので、高信頼性の半導体装置の製造を可能にする。
【0018】
本発明の半導体装置の製造方法は、当該ダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルムと、半導体ウェハの裏面とを貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記半導体ウェハを前記ダイシング・ダイボンドフィルムと共にダイシングして、チップ状の半導体素子を形成するダイシング工程と、
前記半導体素子を、前記ダイシング・ダイボンドフィルムから前記ダイボンドフィルムと共にピックアップするピックアップ工程と、
前記ダイボンドフィルムを介して、前記半導体素子を被着体上にダイボンドするダイボンド工程と、
前記半導体素子にワイヤーボンディングをするワイヤーボンディング工程と
を有する。
【0019】
当該製造方法により、ダイボンドフィルムと被着体との境界でのボイドの貯留を防止することができ、また、耐湿半田リフロー試験での剥離の生じない高信頼性の半導体装置を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の一形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図2】前記実施の形態に係る他のダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図3】前記ダイシング・ダイボンドフィルムに於けるダイボンドフィルムを介して半導体チップを実装した例を示す断面模式図である。
【図4】前記ダイシング・ダイボンドフィルムに於けるダイボンドフィルムを介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。
【図5】前記ダイシング・ダイボンドフィルムを用いて、2つの半導体チップをスペーサを介してダイボンドフィルムにより3次元実装した例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のダイボンドフィルムについて、ダイシング・ダイボンドフィルムの態様を例にして以下に説明する。本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルム10は、ダイシングフィルム上にダイボンドフィルム3が積層された構造である(図1参照)。前記ダイシングフィルムは、基材1上に粘着剤層2が積層された構造である。ダイボンドフィルム3はダイシングフィルムの粘着剤層2上に積層されている。
【0022】
<ダイボンドフィルム>
本発明のダイボンドフィルム3は、重量平均分子量が50万以上のグリシジル基含有アクリル共重合体(a)と、フェノール樹脂(b)とを含有し、前記共重合体(a)の含有量xのフェノール樹脂(b)の含有量yに対する重量比(x/y)が5以上30以下であり、かつ重量平均分子量が5000以下のエポキシ樹脂を実質的に含まない。
【0023】
(グリシジル基含有アクリル共重合体(a))
共重合体(a)は、重量平均分子量が50万以上であって、グリシジル基を有するアクリル共重合体であれば特に限定されない。共重合体(a)へのグリシジル基の導入方法は特に限定されず、グリシジル基含有モノマーと他のモノマー成分との共重合により導入してもよく、アクリル系モノマーの共重合体を調製した後にこの共重合体とグリシジル基を有する化合物とを反応させて導入してもよい。共重合体(a)の調製の容易性等を考慮すると、グリシジル基含有モノマーと他のモノマーとの共重合による導入が好ましい。グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジル基を有し、かつ共重合可能なエチレン性不飽和結合を有するモノマーを好適に用いることができ、例えばグリシジルアクリレートやグリシジルメタクリレート等が挙げられる。共重合体(a)におけるグリシジル基含有モノマーの含有量としては、目的とする共重合体(a)のガラス転移点やエポキシ価を考慮して決めればよく、通常1〜20mol%であり、1〜15mol%が好ましく、1〜10mol%がより好ましい。
【0024】
共重合体(a)を構成する他のモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート等の炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルメタクリレート、アクリロニトリル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチルアクリレート、カルボキシペンチルアクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸若しくはクロトン酸等の様なカルボキシル基含有モノマー、無水マレイン酸若しくは無水イタコン酸等の様な酸無水物モノマー、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル若しくは(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレート等の様なヒドロキシル基含有モノマー、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート若しくは(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等の様なスルホン酸基含有モノマー、又は2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等の様な燐酸基含有モノマー等が挙げられる。これらの他のモノマーは1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。前記他のモノマーの中では、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルアクリレート及び炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートのうちの少なくとも1種、並びにアクリロニトリルが好ましく、エチルアクリレート及びブチルアクリレートのうちの少なくとも1種、並びにアクリロニトリルがより好ましく、これらを全て含むことが特に好ましい。
【0025】
共重合体(a)を構成するモノマーの混合比率は、共重合体(a)のガラス転移点及びエポキシ価を考慮して調整することが好ましい。共重合体(a)の重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の方法を採用することができる。
【0026】
共重合体(a)がアクリロニトリルを含む場合、共重合体(a)の重量全体に対して15重量%以上含有していることが好ましく、20重量%以上含有していることがより好ましい。共重合体(a)におけるアクリロニトリルの含有量が15重量%未満であると、高温(例えば、150℃〜260℃)での凝集力が弱くなり、十分な剪断接着力を発揮することができない場合がある。
【0027】
共重合体(a)のガラス転移点(Tg)は、ダイボンドフィルムとシリコンウェハとの間の適度な接着性が得られる限り特に限定されないものの、−15℃以上40℃以下が好ましく、−5℃以上35℃以下がより好ましい。ガラス転移点が−15℃未満であると、共重合体(a)に常温でタック性が生じてしまい、ハンドリングしにくくなる場合がある。一方、ガラス転移点が40℃を超えると、シリコンウェハへの接着力が低下するおそれがある。
【0028】
共重合体(a)の重量平均分子量は50万以上であればよく、70万以上が好ましい。共重合体(a)の重量平均分子量が50万未満であると、高温での凝集力が弱くなり、十分な剪断接着力を得ることができないことがある。一方、共重合体(a)の重量平均分子量の上限は特に限定されないものの、ダイボンドフィルムの調製の際の溶解性やシリコンウェハとの接着力を考慮すると、200万であればよく、好ましくは180万である。なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値を意味する。
【0029】
共重合体(a)のエポキシ価は、0.15e.q./kg以上0.65e.q./kg以下であることが好ましく、0.2e.q./kg以上0.5e.q./kg以下がより好ましい。前記共重合体(a)のエポキシ価を0.15e.q./kg以上とすることにより、硬化後に高温で十分な弾性率を得ることができ、また0.65e.q./kg以下とすることにより、室温での保存性を維持することができる。なお、エポキシ価の算出は、実施例において詳述する。
【0030】
(フェノール樹脂)
前記フェノール樹脂は、前記共重合体(a)の硬化剤として作用するものであり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールビフェニル樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂のうち、下記化学式で表されるビフェニル型フェノールノボラック樹脂や、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。半導体装置の接続信頼性を向上させることができるからである。
【0031】
【化1】

【0032】
なお、前記式中、nは0〜10の自然数であり、好ましくは0〜5の自然数である。前記nを所定数値範囲内にすることにより、ダイボンドフィルム3の流動性の確保が図れる。
【0033】
前記フェノール樹脂(b)としては、耐熱性や反応性のコントロールの点から、水酸基当量が100g/eq以上500g/eq以下の樹脂が好ましく、100g/eq以上400g/eq以下の樹脂がより好ましい。
【0034】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量は共重合体(a)の熱硬化性が得られる限り特に限定されないものの、300〜3000の範囲内であることが好ましく、350〜2000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、前記共重合体(a)の熱硬化が不十分となり十分な強靱性が得られない場合がある。その一方、重量平均分子量が3000より大きいと、高粘度となって、ダイボンドフィルムの作製時の作業性が低下する場合がある。
【0035】
前記共重合体(a)の含有量xのフェノール樹脂(b)の含有量yに対する重量比(x/y)は5以上30以下であればよく、5.5以上25以下が好ましい。前記重量比が5未満であると、未反応のフェノール樹脂(b)により耐湿半田リフロー試験での信頼性に影響を及ぼすことになる。また、前記重量比が30を超えると、ダイボンドフィルムの硬化後における高温での凝集力が低下し、十分な剪断接着力を得ることができなくなる。
【0036】
本発明のダイボンドフィルム3を予めある程度架橋をさせておく場合には、作製に際し、重合体の分子鎖末端の官能基等と反応する多官能性化合物を架橋剤として添加させておくのがよい。これにより、高温下での接着特性を向上させ、耐熱性の改善を図ることができる。
【0037】
前記架橋剤としては、従来公知のものを採用することができる。特に、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、多価アルコールとジイソシアネートの付加物等のポリイソシアネート化合物がより好ましい。架橋剤の添加量としては、前記の重合体100重量部に対し、通常0.05〜7重量部とするのが好ましい。架橋剤の量が7重量部より多いと、接着力が低下するので好ましくない。その一方、0.05重量部より少ないと、凝集力が不足するので好ましくない。
【0038】
本発明のダイボンドフィルムには、前記樹脂以外にフィラーを適宜配合することができる。前記フィラーとしては、無機フィラー又は有機フィラーが挙げられる。取り扱い性及び熱伝導性の向上、溶融粘度の調整、並びにチキソトロピック性の付与等の観点からは、無機フィラーが好ましい。
【0039】
前記無機フィラーとしては特に限定されず、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。熱伝導性の向上の観点からは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶質シリカ等が好ましい。また、ダイボンドフィルム3の接着性とのバランスの観点からは、シリカが好ましい。また、前記有機フィラーとしては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ナイロン、シリコーン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0040】
前記フィラーの平均粒径は、0.005〜10μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。フィラーの平均粒径が0.005μm以上であると、被着体に対する濡れ性を良好なものにし、接着性の低下を抑制することができる。その一方、前記平均粒径を10μm以下にすることにより、フィラーの添加によるダイボンドフィルム3に対する補強効果を高め、耐熱性の向上が図れる。なお、平均粒径が相互に異なるフィラー同士を組み合わせて使用してもよい。また、フィラーの平均粒径は、光度式の粒度分布計(HORIBA製、装置名;LA−910)により求めた値である。
【0041】
前記フィラーの形状は特に限定されず、例えば球状、楕円体状のものを使用することができる。
【0042】
また、グリシジル基含有アクリル共重合体(a)及びフェノール樹脂(b)の合計重量をA重量部とし、フィラーの重量をB重量部とした場合に、比率B/(A+B)は0を超えて0.8以下であることが好ましく、0を超えて7以下であることがより好ましい。前記比率が0であるとフィラー添加による補強効果がなく、ダイボンドフィルム3の耐熱性の向上を図れない場合がある。その一方、前記比率が0.8を超えると、被着体に対する濡れ性及び接着性が低下する場合がある。
【0043】
また、ダイボンドフィルム3には、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、例えば難燃剤、シランカップリング剤又はイオントラップ剤等が挙げられる。
【0044】
前記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0045】
前記シランカップリング剤としては、例えば、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0046】
前記イオントラップ剤としては、例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0047】
前記共重合体(a)とフェノール樹脂の熱硬化促進触媒としては特に限定されず、例えば、トリフェニルフォスフィン骨格、アミン骨格、トリフェニルボラン骨格、トリハロゲンボラン骨格等の何れかからなる塩が好ましい。
【0048】
当該ダイボンドフィルムでは、硬化前の50℃での貯蔵弾性率が10MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることがより好ましい。硬化前の50℃での貯蔵弾性率が10MPa以下とすることで、被着体に対する濡れ性を確保し、接着力の維持が図れる。
【0049】
当該ダイボンドフィルムの175℃での貯蔵弾性率は0.1MPa以上であることが好ましく、0.2MPa以上であることがより好ましい。175℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上とすることにより、半導体チップに対するワイヤーボンディングの際にも十分な接着力を維持させることができる。
【0050】
また、当該ダイボンドフィルムでは、150℃で1時間硬化させた後の175℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが好ましく、0.6MPa以上であることがより好ましい。150℃で1時間硬化させた後の175℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上とすることにより、耐湿半田リフロー試験においてもダイボンドフィルムの剥離の発生を防止することができ、信頼性の向上が図れる。同様の理由により、当該ダイボンドフィルムの175℃で1時間硬化させた後の260℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上であることが好ましい。
【0051】
当該ダイボンドフィルムでは、被着体と貼り合わせて150℃で1時間硬化させた後の175℃での被着体との間の剪断接着力が0.3MPa以上であることが好ましく、0.35MPa以上であることがより好ましい。これにより、半導体チップに対するワイヤーボンディングの際にも十分な接着力を維持させることができる。その結果、ダイボンドフィルム上に接着固定した半導体チップに対してワイヤーボンディングを行う際にも、超音波振動や加熱によるダイボンドフィルムと被着体との接着面でのずり変形を防止し、ワイヤーボンディングの成功率を向上させることができる。なお、ダイボンドフィルムと被着体との間の剪断接着力の測定方法は実施例において説明する。
【0052】
当該ダイボンドフィルムは、前述の各種貯蔵弾性率及び剪断接着力のうちの1つの特性を有することが好ましく、2以上の特性を組み合わせて有することがより好ましい。
【0053】
ダイボンドフィルム3の厚さ(積層体の場合は、総厚)は特に限定されないが、例えば、5〜100μm程度、好ましくは5〜50μm程度である。
【0054】
なお、ダイボンドフィルムは、例えば接着剤層の単層のみからなる構成とすることができる。また、ガラス転移温度の異なる熱可塑性樹脂、熱硬化温度の異なる熱硬化性樹脂を適宜に組み合わせて、2層以上の多層構造にしてもよい。なお、半導体ウェハのダイシング工程では切削水を使用することから、ダイボンドフィルムが吸湿して、常態以上の含水率になる場合がある。この様な高含水率のまま、基板等に接着させると、アフターキュアの段階で接着界面に水蒸気が溜まり、浮きが発生する場合がある。従って、ダイボンドフィルムとしては、透湿性の高いコア材料を接着剤層で挟んだ構成とすることにより、アフターキュアの段階では、水蒸気がフィルムを通じて拡散して、かかる問題を回避することが可能となる。かかる観点から、ダイボンドフィルムはコア材料の片面又は両面に接着剤層を形成した多層構造にしてもよい。
【0055】
前記コア材料としては、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、ミラーシリコンウェハ、シリコン基板又はガラス基板等が挙げられる。
【0056】
また、ダイボンドフィルム3は、セパレータにより保護されていることが好ましい(図示せず)。セパレータは、実用に供するまでダイボンドフィルムを保護する保護材としての機能を有している。また、セパレータは、更に、ダイシングフィルムにダイボンドフィルム3、3’を転写する際の支持基材として用いることができる。セパレータはダイボンドフィルム上にワークを貼着する際に剥がされる。セパレータとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等も使用可能である。
【0057】
また、熱硬化後のダイボンドフィルム3の吸湿率は、1重量%以下であることが好ましく、0.8重量%以下であることがより好ましい。吸湿率を1重量%以下にすることにより、例えば、リフロー工程においてボイドの発生を防止することができる。吸湿率の調整は、例えば無機フィラーの添加量を変化させること等により可能である。また、吸湿率は、85℃、60%RHの雰囲気下で168時間放置したときの重量変化により算出したものである。
【0058】
なお、本発明に係るダイシング・ダイボンドフィルムとしては、図1に示すダイボンドフィルム3の他に、図2に示す様に半導体ウェハ貼り付け部分にのみダイボンドフィルム3’を積層したダイシング・ダイボンドフィルム11の構成であってもよい。
【0059】
<ダイシングフィルム>
ダイシング・ダイボンドフィルム10、11を構成するダイシングフィルムは、基材1上に粘着剤層2が積層された構造である。以下、基材及び粘着剤層の順で説明する。
【0060】
(基材)
前記基材1はダイシング・ダイボンドフィルム10、11の強度母体となるものである。基材1の構成材料としては、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、金属(箔)、紙等が挙げられる。粘着剤層2が紫外線硬化型である場合、基材1は紫外線に対し透過性を有するものが好ましい。
【0061】
また基材1の材料としては、前記樹脂の架橋体等のポリマーが挙げられる。前記プラスチックフィルムは、無延伸で用いてもよく、必要に応じて一軸又は二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。延伸処理等により熱収縮性を付与した樹脂シートによれば、ダイシング後にその基材1を熱収縮させることにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3、3’との接着面積を低下させて、半導体チップの回収の容易化を図ることができる。
【0062】
基材1の表面は、隣接する層との密着性、保持性等を高める為、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理、下塗剤(例えば、後述する粘着物質)によるコーティング処理を施すことができる。
【0063】
前記基材1は、同種又は異種のものを適宜に選択して使用することができ、必要に応じて数種をブレンドしたものを用いることができる。また、基材1には、帯電防止能を付与する為、前記の基材1上に金属、合金、これらの酸化物等からなる厚さが30〜500Å程度の導電性物質の蒸着層を設けることができる。基材1は単層又は2種以上の複層でもよい。
【0064】
基材1の厚さは、特に制限されず適宜に決定できるが、一般的には5〜200μm程度である。
【0065】
(粘着剤層)
前記粘着剤層2は紫外線硬化型粘着剤を含み構成されている。紫外線硬化型粘着剤は、紫外線の照射により架橋度を増大させてその粘着力を容易に低下させることができ、図1に示す粘着剤層2の半導体ウェハ貼り付け部分に対応する部分2aのみを紫外線照射することにより他の部分2bとの粘着力の差を設けることができる。
【0066】
また、図2に示すダイボンドフィルム3’に合わせて紫外線硬化型の粘着剤層2を硬化させることにより、粘着力が著しく低下した前記部分2aを容易に形成できる。硬化し、粘着力の低下した前記部分2aにダイボンドフィルム3’が貼付けられる為、粘着剤層2の前記部分2aとダイボンドフィルム3’との界面は、ピックアップ時に容易に剥がれる性質を有する。一方、紫外線を照射していない部分は十分な粘着力を有しており、前記部分2bを形成する。
【0067】
前述の通り、図1に示すダイシング・ダイボンドフィルム10の粘着剤層2に於いて、未硬化の紫外線硬化型粘着剤により形成されている前記部分2bはダイボンドフィルム3と粘着し、ダイシングする際の保持力を確保できる。この様に紫外線硬化型粘着剤は、半導体チップを被着体に固着する為のダイボンドフィルム3を、接着・剥離のバランスよく支持することができる。図2に示すダイシング・ダイボンドフィルム11の粘着剤層2に於いては、前記部分2b(図1中の部分2bに対応)がウェハリングを固定することができる。前記被着体6としては特に限定されず、例えば、BGA(Ball Grid Array)基板等の各種基板、リードフレーム、半導体素子、スペーサ等が挙げられる。
【0068】
前記紫外線硬化型粘着剤は、炭素−炭素二重結合等の紫外線硬化性の官能基を有し、かつ粘着性を示すものを特に制限なく使用することができる。紫外線硬化型粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤等の一般的な感圧性粘着剤に、紫外線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合した添加型の紫外線硬化型粘着剤を例示できる。
【0069】
前記感圧性粘着剤としては、半導体ウェハやガラス等の汚染をきらう電子部品の超純水やアルコール等の有機溶剤による清浄洗浄性等の点から、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。
【0070】
前記アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等のアルキル基の炭素数1〜30、特に炭素数4〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルエステル等)及び(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル(例えば、シクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等)の1種又は2種以上を単量体成分として用いたアクリル系ポリマー等が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルをいい、本発明の(メタ)とは全て同様の意味である。
【0071】
前記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、必要に応じ、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル又はシクロアルキルエステルと共重合可能な他のモノマー成分に対応する単位を含んでいてもよい。この様なモノマー成分として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有モノマー;アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これら共重合可能なモノマー成分は、1種又は2種以上使用できる。これら共重合可能なモノマーの使用量は、全モノマー成分の40重量%以下が好ましい。
【0072】
更に、前記アクリル系ポリマーは、架橋させる為、多官能性モノマー等も、必要に応じて共重合用モノマー成分として含むことができる。この様な多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性モノマーも1種又は2種以上用いることができる。多官能性モノマーの使用量は、粘着特性等の点から、全モノマー成分の30重量%以下が好ましい。
【0073】
前記アクリル系ポリマーは、単一モノマー又は2種以上のモノマー混合物を重合に付すことにより得られる。重合は、溶液重合、乳化重合、塊状重合、懸濁重合等の何れの方式で行うこともできる。清浄な被着体への汚染防止等の点から、低分子量物質の含有量が小さいのが好ましい。この点から、アクリル系ポリマーの数平均分子量は、好ましくは30万以上、更に好ましくは40万〜300万程度である。
【0074】
また、前記粘着剤には、ベースポリマーであるアクリル系ポリマー等の数平均分子量を高める為、外部架橋剤を適宜に採用することもできる。外部架橋方法の具体的手段としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、メラミン系架橋剤等のいわゆる架橋剤を添加し反応させる方法が挙げられる。外部架橋剤を使用する場合、その使用量は、架橋すべきベースポリマーとのバランスにより、更には、粘着剤としての使用用途によって適宜決定される。一般的には、前記ベースポリマー100重量部に対して、5重量部程度以下、更には0.1〜5重量部配合するのが好ましい。更に、粘着剤には、必要により、前記成分のほかに、従来公知の各種の粘着付与剤、老化防止剤等の添加剤を用いてもよい。
【0075】
配合する前記紫外線硬化性のモノマー成分としては、例えば、ウレタンオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また紫外線硬化性のオリゴマー成分はウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等種々のオリゴマーがあげられ、その分子量が100〜30000程度の範囲のものが適当である。紫外線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分の配合量は、前記粘着剤層の種類に応じて、粘着剤層の粘着力を低下できる量を、適宜に決定することができる。一般的には、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば5〜500重量部、好ましくは40〜150重量部程度である。
【0076】
また、紫外線硬化型粘着剤としては、前記説明した添加型の紫外線硬化型粘着剤のほかに、ベースポリマーとして、炭素−炭素二重結合をポリマー側鎖又は主鎖中もしくは主鎖末端に有するものを用いた内在型の紫外線硬化型粘着剤が挙げられる。内在型の紫外線硬化型粘着剤は、低分子量成分であるオリゴマー成分等を含有する必要がなく、又は多くは含まない為、経時的にオリゴマー成分等が粘着剤中を移動することなく、安定した層構造の粘着剤層を形成することができる為好ましい。
【0077】
前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマーは、炭素−炭素二重結合を有し、かつ粘着性を有するものを特に制限なく使用できる。この様なベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。アクリル系ポリマーの基本骨格としては、前記例示したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0078】
前記アクリル系ポリマーへの炭素−炭素二重結合の導入法は特に制限されず、様々な方法を採用できるが、炭素−炭素二重結合はポリマー側鎖に導入するのが分子設計において容易である。例えば、予め、アクリル系ポリマーに官能基を有するモノマーを共重合した後、この官能基と反応しうる官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物を、炭素−炭素二重結合の紫外線硬化性を維持したまま縮合又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0079】
これら官能基の組合せの例としては、カルボン酸基とエポキシ基、カルボン酸基とアジリジル基、ヒドロキシル基とイソシアネート基等が挙げられる。これら官能基の組合せのなかでも反応追跡の容易さから、ヒドロキシル基とイソシアネート基との組合せが好適である。また、これら官能基の組み合わせにより、前記炭素−炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを生成するような組合せであれば、官能基はアクリル系ポリマーと前記化合物のいずれの側にあってもよいが、前記の好ましい組み合わせでは、アクリル系ポリマーがヒドロキシル基を有し、前記化合物がイソシアネート基を有する場合が好適である。この場合、炭素−炭素二重結合を有するイソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、アクリル系ポリマーとしては、前記例示のヒドロキシ基含有モノマーや2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテルのエーテル系化合物等を共重合したものが用いられる。
【0080】
前記内在型の紫外線硬化型粘着剤は、前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマー(特にアクリル系ポリマー)を単独で使用することができるが、特性を悪化させない程度に前記紫外線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分を配合することもできる。紫外線硬化性のオリゴマー成分等は、通常ベースポリマー100重量部に対して30重量部の範囲内であり、好ましくは0〜10重量部の範囲である。
【0081】
前記紫外線硬化型粘着剤には、紫外線等により硬化させる場合には光重合開始剤を含有させる。光重合開始剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α’−ジメチルアセトフェノン、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα−ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニソインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;ベンジルジメチルケタール等のケタール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1―プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナート等が挙げられる。光重合開始剤の配合量は、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば0.05〜20重量部程度である。
【0082】
また紫外線硬化型粘着剤としては、例えば、特開昭60−196956号公報に開示されている、不飽和結合を2個以上有する付加重合性化合物、エポキシ基を有するアルコキシシラン等の光重合性化合物と、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過酸化物、アミン、オニウム塩系化合物等の光重合開始剤とを含有するゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤等が挙げられる。
【0083】
前記粘着剤層2に前記部分2aを形成する方法としては、基材1に紫外線硬化型の粘着剤層2を形成した後、前記部分2aに部分的に紫外線を照射し硬化させる方法が挙げられる。部分的な紫外線照射は、半導体ウェハ貼り付け部分3a以外の部分3b等に対応するパターンを形成したフォトマスクを介して行うことができる。また、スポット的に紫外線を照射し硬化させる方法等が挙げられる。紫外線硬化型の粘着剤層2の形成は、セパレータ上に設けたものを基材1上に転写することにより行うことができる。部分的な紫外線硬化はセパレータ上に設けた紫外線硬化型の粘着剤層2に行うこともできる。
【0084】
ダイシング・ダイボンドフィルム10の粘着剤層2に於いては、前記部分2aの粘着力<その他の部分2bの粘着力、となるように粘着剤層2の一部を紫外線照射してもよい。即ち、基材1の少なくとも片面の、半導体ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分以外の部分の全部又は一部が遮光されたものを用い、これに紫外線硬化型の粘着剤層2を形成した後に紫外線照射して、半導体ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分を硬化させ、粘着力を低下させた前記部分2aを形成することができる。遮光材料としては、支持フィルム上でフォトマスクになりうるものを印刷や蒸着等で作製することができる。これにより、効率よく本発明のダイシング・ダイボンドフィルム10を製造可能である。
【0085】
なお、紫外線照射の際に、酸素による硬化阻害が起こる場合は、紫外線硬化型の粘着剤層2の表面から酸素(空気)を遮断するのが望ましい。その方法としては、例えば粘着剤層2の表面をセパレータで被覆する方法や、窒素ガス雰囲気中で紫外線等の紫外線の照射を行う方法等が挙げられる。
【0086】
粘着剤層2の厚さは、特に限定されないが、チップ切断面の欠け防止や接着層の固定保持の両立性等の点よりは、1〜50μm程度であるのが好ましい。好ましくは2〜30μm、更には5〜25μmが好ましい。
【0087】
<ダイシング・ダイボンドフィルムの製造方法>
本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルム10、11は、例えばダイシングフィルム及びダイボンドフィルムを別々に作製しておき、最後にこれらを貼り合わせることにより作成することができる。具体的には、以下のような手順に従って作製することができる。
【0088】
先ず、基材1は、従来公知の製膜方法により製膜することができる。当該製膜方法としては、例えばカレンダー製膜法、有機溶媒中でのキャスティング法、密閉系でのインフレーション押出法、Tダイ押出法、共押出し法、ドライラミネート法等が例示できる。
【0089】
次に、粘着剤層形成用の粘着剤組成物を調製する。粘着剤組成物には、粘着剤層の項で説明したような樹脂や添加物等が配合されている。調製した粘着剤組成物を基材1上に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させ(必要に応じて加熱架橋させて)、粘着剤層2を形成する。塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度80〜150℃、乾燥時間0.5〜5分間の範囲内で行われる。また、セパレータ上に粘着剤組成物を塗布して塗布膜を形成した後、前記乾燥条件で塗布膜を乾燥させて粘着剤層2を形成してもよい。その後、基材1上に粘着剤層2をセパレータと共に貼り合わせる。これにより、基材1及び粘着剤層2を備えるダイシングフィルムが作製される。なお、ダイシングフィルムとしては、少なくとも基材及び粘着剤層を備えていればよく、セパレータ等の他の要素を有している場合もダイシングフィルムという。
【0090】
ダイボンドフィルム3、3’は、例えば、以下のようにして作製される。先ず、ダイシング・ダイボンドフィルム3、3’の形成材料である接着剤組成物を作製する。当該接着剤組成物には、ダイボンドフィルムの項で説明した通り、共重合体(a)やフェノール樹脂(b)、各種の添加剤等が配合されている。
【0091】
次に、調製した接着剤組成物を基材セパレータ上に所定厚みとなる様に塗布して塗布膜を形成した後、該塗布膜を所定条件下で乾燥させ、接着剤層を形成する。塗布方法としては特に限定されず、例えば、ロール塗工、スクリーン塗工、グラビア塗工等が挙げられる。また、乾燥条件としては、例えば乾燥温度70〜160℃、乾燥時間1〜5分間の範囲内で行われる。また、セパレータ上に接着剤組成物を塗布して塗布膜を形成した後、前記乾燥条件で塗布膜を乾燥させて接着剤層を形成してもよい。その後、基材セパレータ上に接着剤層をセパレータと共に貼り合わせる。なお、本発明には、ダイボンドフィルムが接着剤層単独で形成されている場合だけでなく、接着剤層とセパレータ等の他の要素とで形成されている場合も含まれる。
【0092】
続いて、ダイボンドフィルム3、3’及びダイシングフィルムからそれぞれセパレータを剥離し、接着剤層と粘着剤層とが貼り合わせ面となる様にして両者を貼り合わせる。貼り合わせは、例えば圧着により行うことができる。このとき、ラミネート温度は特に限定されず、例えば30〜50℃が好ましく、35〜45℃がより好ましい。また、線圧は特に限定されず、例えば0.1〜20kgf/cmが好ましく、1〜10kgf/cmがより好ましい。次に、接着剤層上の基材セパレータを剥離し、本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムが得られる。
【0093】
<半導体装置の製造方法>
次に、本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルム10を用いた半導体装置の製造方法について、以下に説明する。
【0094】
先ず、図1に示すように、ダイシング・ダイボンドフィルム10に於ける接着剤層3の半導体ウェハ貼り付け部分3a上に半導体ウェハ4を圧着し、これを接着保持させて固定する(貼り合わせ工程)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。
【0095】
次に、半導体ウェハ4のダイシングを行う。これにより、半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化し、半導体チップ5を製造する(ダイシング工程)。ダイシングは、例えば半導体ウェハ4の回路面側から常法に従い行われる。また、本工程では、例えばダイシング・ダイボンドフィルム10まで切込みを行なうフルカットと呼ばれる切断方式等を採用できる。本工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハは、ダイシング・ダイボンドフィルム10により接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハ4の破損も抑制できる。
【0096】
ダイシング・ダイボンドフィルム10に接着固定された半導体チップを剥離する為に、半導体チップ5のピックアップを行う(ピックアップ工程)。ピックアップの方法としては特に限定されず、従来公知の種々の方法を採用できる。例えば、個々の半導体チップ5をダイシング・ダイボンドフィルム10側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップ5をピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。
【0097】
ここでピックアップは、粘着剤層2が紫外線硬化型の場合、該粘着剤層2に紫外線を照射した後に行う。これにより、粘着剤層2の接着剤層3aに対する粘着力が低下し、半導体チップ5の剥離が容易になる。その結果、半導体チップを損傷させることなくピックアップが可能となる。紫外線照射の際の照射強度、照射時間等の条件は特に限定されず、適宜必要に応じて設定すればよい。また、紫外線照射に使用する光源としては、前述のものを使用することができる。
【0098】
次に、図3に示すように、ダイシングにより形成された半導体チップ5を、ダイボンドフィルム3aを介して被着体6にダイボンドする(ダイボンド工程)。被着体6としては、リードフレーム、TABフィルム、基板又は別途作製した半導体チップ等が挙げられる。被着体6は、例えば、容易に変形されるような変形型被着体であってもよく、変形することが困難である非変形型被着体(半導体ウェハ等)であってもよい。
【0099】
前記基板としては、従来公知のものを使用することができる。また、前記リードフレームとしては、Cuリードフレーム、42Alloyリードフレーム等の金属リードフレームやガラスエポキシ、BT(ビスマレイミド−トリアジン)、ポリイミド等からなる有機基板を使用することができる。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、半導体素子をマウントし、半導体素子と電気的に接続して使用可能な回路基板も含まれる。
【0100】
ダイボンドは圧着により行われる。ダイボンドの条件としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。具体的には、例えば、ダイボンド温度80〜160℃、ボンディング圧力5N〜15N、ボンディング時間1〜10秒の範囲内で行うことができる。
【0101】
続いて、ダイボンドフィルム3aを加熱処理することによりこれを熱硬化させ、半導体チップ5と被着体6とを接着させる。加熱処理条件としては、温度80〜180℃の範囲内であり、かつ、加熱時間0.1〜24時間、好ましくは0.1〜4時間、より好ましくは0.1〜1時間の範囲内であることが好ましい。
【0102】
次に、被着体6の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ5上の電極パッド(図示しない)とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する(ワイヤーボンディング工程)。前記ボンディングワイヤー7としては、例えば金線、アルミニウム線又は銅線等が用いられる。ワイヤーボンディングを行う際の温度は、80〜250℃、好ましくは80〜220℃の範囲内で行われる。また、その加熱時間は数秒〜数分間行われる。結線は、前記温度範囲内となる様に加熱された状態で、超音波による振動エネルギーと印加加圧による圧着エネルギーの併用により行われる。
【0103】
なお、ワイヤーボンディング工程は、加熱処理によりダイボンドフィルム3を熱硬化させることなく行ってもよい。この場合、ダイボンドフィルム3aの25℃における剪断接着力は、被着体6に対し0.2MPa以上であることが好ましく、0.2〜10MPaであることがより好ましい。前記剪断接着力を0.2MPa以上にすることにより、ダイボンドフィルム3aを熱硬化させることなくワイヤーボンディング工程を行っても、当該工程に於ける超音波振動や加熱により、ダイボンドフィルム3aと半導体チップ5又は被着体6との接着面でずり変形を生じることがない。即ち、ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体素子が動くことがなく、これにより、ワイヤーボンディングの成功率が低下するのを防止する。
【0104】
また、未硬化のダイボンドフィルム3aは、ワイヤーボンディング工程を行っても完全に熱硬化することはない。更に、ダイボンドフィルム3aの剪断接着力は、80〜250℃の温度範囲内であっても、0.2MPa以上であることが必要である。当該温度範囲内で剪断接着力が0.2MPa未満であると、ワイヤーボンディングの際の超音波振動により半導体素子が動き、ワイヤーボンディングを行うことができず、歩留まりが低下するからである。
【0105】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5を封止する封止工程を行う。本工程は、被着体6に搭載された半導体チップ5やボンディングワイヤー7を保護する為に行われる。本工程は、封止用の樹脂を金型で成型することにより行う。封止樹脂8としては、例えばエポキシ系の樹脂を使用する。樹脂封止の際の加熱温度は、通常175℃で60〜90秒間行われるが、本発明はこれに限定されず、例えば165〜185℃で、数分間キュアすることができる。これにより、封止樹脂を硬化させると共に、ダイボンドフィルム3aが熱硬化されていない場合は当該ダイボンドフィルム3aも熱硬化させる。即ち、本発明に於いては、後述する後硬化工程が行われない場合に於いても、本工程に於いてダイボンドフィルム3aを熱硬化させて接着させることが可能であり、製造工程数の減少及び半導体装置の製造期間の短縮に寄与することができる。
【0106】
前記後硬化工程に於いては、前記封止工程で硬化不足の封止樹脂8を完全に硬化させる。封止工程に於いてダイボンドフィルム3aが熱硬化されない場合でも、本工程に於いて封止樹脂8の硬化と共にダイボンドフィルム3aを熱硬化させて接着固定が可能になる。本工程に於ける加熱温度は、封止樹脂の種類により異なるが、例えば165〜185℃の範囲内であり、加熱時間は0.5〜8時間程度である。
【0107】
また、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムは、図4に示すように、複数の半導体チップを積層して3次元実装をする場合にも好適に用いることができる。図4は、ダイボンドフィルムを介して半導体チップを3次元実装した例を示す断面模式図である。図4に示す3次元実装の場合、先ず半導体チップと同サイズとなる様に切り出した少なくとも1つのダイボンドフィルム3aを被着体6上に貼り付けた後、ダイボンドフィルム3aを介して半導体チップ5を、そのワイヤーボンド面が上側となる様にしてダイボンドする。次に、ダイボンドフィルム13を半導体チップ5の電極パッド部分を避けて貼り付ける。更に、他の半導体チップ15をダイボンドフィルム13上に、そのワイヤーボンド面が上側となる様にしてダイボンドする。その後、ダイボンドフィルム3a、13を加熱することにより熱硬化させて接着固定し、耐熱強度を向上させる。加熱条件としては、前述と同様、温度80〜200℃の範囲内であり、かつ、加熱時間0.1〜24時間の範囲内であることが好ましい。
【0108】
また本発明においては、ダイボンドフィルム3a、13を熱硬化させず、単にダイボンドさせてもよい。その後、加熱工程を経ることなくワイヤーボンディングを行い、更に半導体チップを封止樹脂で封止して、当該封止樹脂をアフターキュアすることもできる。
【0109】
次に、ワイヤーボンディング工程を行う。これにより、半導体チップ5及び他の半導体チップ15に於けるそれぞれの電極パッドと、被着体6とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する。なお、本工程は、ダイボンドフィルム3a、13の加熱工程を経ることなく実施される。
【0110】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5等を封止する封止工程を行い、封止樹脂を硬化させる。それと共に、熱硬化が行われていない場合は、ダイボンドフィルム3aの熱硬化により被着体6と半導体チップ5との間を接着固定する。また、ダイボンドフィルム13の熱硬化により、半導体チップ5と他の半導体チップ15との間も接着固定させる。なお、封止工程の後、後硬化工程を行ってもよい。
【0111】
半導体チップの3次元実装の場合に於いても、ダイボンドフィルム3a、13の加熱による加熱処理を行わないので、製造工程の簡素化及び歩留まりの向上が図れる。また、被着体6に反りが生じたり、半導体チップ5及び他の半導体チップ15にクラックが発生したりすることもないので、半導体素子の一層の薄型化が可能になる。
【0112】
また、図5に示すように、半導体チップ間にダイボンドフィルムを介してスペーサを積層させた3次元実装としてもよい。図5は、2つの半導体チップをスペーサを介してダイボンドフィルムにより3次元実装した例を示す断面模式図である。
【0113】
図5に示す3次元実装の場合、先ず被着体6上にダイボンドフィルム3a、半導体チップ5及びダイボンドフィルム21を順次積層してダイボンドする。更に、ダイボンドフィルム21上に、スペーサ9、ダイボンドフィルム21、ダイボンドフィルム3a及び半導体チップ5を順次積層してダイボンドする。その後、ダイボンドフィルム3a、21を加熱することにより熱硬化させて接着固定し、耐熱強度を向上させる。加熱条件としては、前述と同様、温度80〜200℃の範囲内であり、かつ、加熱時間0.1〜24時間の範囲内であることが好ましい。
【0114】
また本発明においては、ダイボンドフィルム3a、21を熱硬化させず、単にダイボンドさせてもよい。その後、加熱工程を経ることなくワイヤーボンディングを行い、更に半導体チップを封止樹脂で封止して、当該封止樹脂をアフターキュアすることもできる。
【0115】
次に、図5に示すように、ワイヤーボンディング工程を行う。これにより、半導体チップ5に於ける電極パッドと被着体6とをボンディングワイヤー7で電気的に接続する。なお、本工程は、ダイボンドフィルム3a、21の加熱工程を経ることなく実施される。
【0116】
続いて、封止樹脂8により半導体チップ5を封止する封止工程を行い、封止樹脂8を硬化させると共に、ダイボンドフィルム3a、21が未硬化の場合は、これらを熱硬化させることにより、被着体6と半導体チップ5との間、及び半導体チップ5とスペーサ9との間を接着固定させる。これにより、半導体パッケージが得られる。封止工程は、半導体チップ5側のみを片面封止する一括封止法が好ましい。封止は粘着シート上に貼り付けられた半導体チップ5を保護するために行われ、その方法としては封止樹脂8を用いて金型中で成型されるのが代表的である。その際、複数のキャビティを有する上金型と下金型からなる金型を用いて、同時に封止工程を行うのが一般的である。樹脂封止時の加熱温度は、例えば170〜180℃の範囲内であることが好ましい。封止工程の後に、後硬化工程を行ってもよい。
【0117】
なお、前記スペーサ9としては、特に限定されるものではなく、例えば従来公知のシリコンチップ、ポリイミドフィルム等を用いることができる。また、前記スペーサとしてコア材料を用いることができる。コア材料としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。具体的には、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、ミラーシリコンウェハ、シリコン基板又はガラス被着体を使用できる。
【0118】
(その他の事項)
前記被着体上に半導体素子を3次元実装する場合、半導体素子の回路が形成される面側には、バッファーコート膜が形成されている。当該バッファーコート膜としては、例えば窒化珪素膜やポリイミド樹脂等の耐熱樹脂からなるものが挙げられる。
【0119】
また、半導体素子の3次元実装の際に、各段で使用されるダイボンドフィルムは同一組成からなるものに限定されるものではなく、製造条件や用途等に応じて適宜変更可能である。
【0120】
また、前記実施の形態において説明した積層方法は単なる例示であって、必要に応じて適宜変更することができる。例えば、図4を参照して説明した半導体装置の製造方法においては、3段目以降の半導体素子を、図5を参照して説明した積層方法で積層することも可能である。
【0121】
また、前記実施の形態に於いては、被着体に複数の半導体素子を積層させた後に、一括してワイヤーボンディング工程を行う態様について述べたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、半導体素子を被着体の上に積層する度にワイヤーボンディング工程を行うことも可能である。
【実施例】
【0122】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但し、この実施例に記載されている材料や配合量等は、特に限定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。また、部とあるのは、重量部を意味する。
【0123】
(実施例1)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.18、ガラス転移点(Tg)30℃、重量平均分子量110万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート1.9mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)17.5部をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製した。
【0124】
この接着剤組成物を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる剥離ライナーとしての離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させた。これにより、厚さ25μmのダイボンドフィルムを作製した。
【0125】
(実施例2)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.22、ガラス転移点(Tg)15℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート2.3mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)12.5部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)40部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0126】
(実施例3)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.42、ガラス転移点(Tg)15℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート4.5mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)6.5部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)40部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0127】
(実施例4)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.62、ガラス転移点(Tg)0℃、重量平均分子量60万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート6.4mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)4.1部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)50部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0128】
(実施例5)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.62、ガラス転移点(Tg)20℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート6.4mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)17.5部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)10部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0129】
(実施例6)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.18、ガラス転移点(Tg)0℃、重量平均分子量100万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート1.9mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)4.1部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)20部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0130】
(比較例1)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.18、ガラス転移点(Tg)30℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート1.9mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)10部、重量平均分子量が1000のエポキシ樹脂(DIC(株)製、「HP−7200H」)7.5部をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0131】
(比較例2)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.42、ガラス転移点(Tg)15℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート4.5mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)3.3部、重量平均分子量が1000のエポキシ樹脂(DIC(株)製、「HP−7200H」)3.2部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)40部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0132】
(比較例3)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.18、ガラス転移点(Tg)30℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート1.9mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)25部をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0133】
(比較例4)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.1、ガラス転移点(Tg)15℃、重量平均分子量40万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート0.19mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)12.5部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)40部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0134】
(比較例5)
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)としてアクリロニトリル−エチルアクリレート−ブチルアクリレートを主成分とするエポキシ価0.18、ガラス転移点(Tg)15℃、重量平均分子量80万のアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業社製、グリシジルアクリレート0.19mol%)100部、フェノール樹脂(b)としてフェノール樹脂(明和化成(株)製、「MEH7851」)2.9部をメチルエチルケトンに溶解させ、さらに平均粒径500nmの球状シリカ(アドマテックス(株)製、「SO−25R」)40部を分散させて、濃度23.6重量%の接着剤組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にダイボンドフィルムを作製した。
【0135】
(重量平均分子量の測定方法)
実施例及び比較例でそれぞれ用いたポリマー及び樹脂について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより重量平均分子量を測定した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーは、TSK G2000H HR、G3000H HR、G4000H HR、及びGMH−H HRの4本のカラム(いずれも東ソー株式会社製)を直列に接続して使用し、溶雛液にテトラヒドロフランを用いて、流速1ml/分、温度40℃、サンプル濃度0.1重量%テトラヒドロフラン溶液、サンプル注入量500μlの条件で行い、検出器には示差屈折計を用いた。
【0136】
(エポキシ価の算出)
エポキシ価は、JIS K 7236に準じて算出した。詳細には、共重合体(a)4gを100mlのコニカルフラスコに秤量し、これにクロロホルム10mlを加えて溶解した。さらに酢酸30ml、テトラエチルアンモニウムブロマイド5ml及びクリスタルバイオレット指示薬5滴を加え、マグネチックスターラーで攪拌しながら、0.1mol/Lの過塩素酸酢酸規定液で滴定した。同様の方法でブランクテストを行い、下記式によりエポキシ価を算出した。
エポキシ価=[(V−B)×0.1×F]/W
W:秤量した試料のg数
B:ブランクテストに要した0.1mol/L過塩素酸酢酸規定液のml数
V:試料の滴定に要した0.1mol/L過塩素酸酢酸規定液のml数
F:0.1mol/L過塩素酸酢酸規定液のファクター
【0137】
(貯蔵弾性率の測定)
各実施例及び比較例のダイボンドフィルムから、長さ22.5mm(測定長さ)×幅10mmの短冊状にカッターナイフで切り出し、固体粘弾性測定装置(RSAIII、レオメトリックサイエンティフィック(株)製)を用いて、−50〜300℃における貯蔵弾性率を測定した。測定条件は、周波数1Hz、昇温速度10℃/minとした。50℃(ダイボンドフィルム硬化前)、150℃(共重合体(a)について)、175℃(ダイボンドフィルム硬化後)、260℃(ダイボンドフィルム硬化後)における貯蔵弾性率の値を下記表1に示す。なお、共重合体(a)の貯蔵弾性率については、共重合体(a)を含む溶液を、シリコーン離型処理した厚さが50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる剥離ライナーとしての離型処理フィルム上に塗布した後、130℃で2分間乾燥させてフィルムサンプルを作製した上で同様に測定した。また、硬化後の貯蔵弾性率については乾燥機にて所定条件での硬化処理を行った後に同様の手順で測定した。
【0138】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
各実施例及び比較例に係るダイボンドフィルムのガラス転移点は、先ず、前記貯蔵弾性率の場合と同様にして貯蔵弾性率を測定した。更に、損失弾性率も測定した後、tanδ(E”(損失弾性率)/E’(貯蔵弾性率))の値を算出することにより、ガラス転移温度を求めた。
【0139】
(150℃で1時間硬化後の175℃における剪断接着力の測定)
前記実施例及び比較例において作製したダイボンドフィルムについて、半導体素子に対する剪断接着力を以下の通り測定した。
【0140】
先ず、各ダイボンドフィルムを150℃の乾燥機内で1時間硬化処理を行った。その後、各ダイボンドフィルムを、貼り付け温度50℃にて半導体素子(縦5mm×横5mm×厚さ0.5mm)にラミネーターにより速度10mm/sec、圧力0.15MPaで貼り付けた。さらに、貼り付け温度50℃で半導体素子(縦10mm×横10mm×厚さ0.5mm)にラミネーターにより速度10mm/sec、圧力0.15MPaで貼り付けた。次に、ボンドテスター(デイジ社製、dagy4000)を用いて、ステージ温度175℃、ヘッド高さ100μm、速度0.5mm/secにおける剪断接着力をそれぞれ測定した。
【0141】
(ウェハに対する接着力の測定)
ウェハとしてシリコンウェハを熱板の上に置き、粘着テープ(商品名「BT315」日東電工株式会社製)により裏面補強した長さ150mm、幅10mm、厚さ25μmのダイボンドフィルムを50℃にて2kgのローラーを一往復させることによりシリコンウェハに貼り合わせた。その後、50℃の熱板上に2分間静置した後、常温(23℃程度)で20分間静置した。次いで、剥離試験機(商品名「オートグラフAGS−J」、島津製作所社製)を用いて、温度:23℃、剥離角度:180°、引張速度:300mm/minの条件で、裏面補強されたダイボンドフィルムを引き剥がした(ダイボンドフィルムとシリコンウェハとの界面で剥離させた)。引き剥がした際の最大荷重(測定初期のピークトップを除いた荷重の最大値)を測定し、この最大荷重をダイボンドフィルムとシリコンウェハとの間の接着力(N/10mm幅)として求めた。接着力が1N/10mm以上の場合は「○」、1N/10mm未満の場合は「×」として評価した。
【0142】
(ワイヤーボンディング性)
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムをアルミ蒸着半導体素子(長さ5mm×幅5mm×厚さ0.5mm)にラミネーターを用いて、温度50℃、速度10mm/sec、圧力0.15MPaで貼り付け、これをさらに、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA基板にマウントした。次いで、ワイヤーボンダー((株)新川、商品名「UTC−1000」)を用いて以下の条件にて9個の半導体素子に対しワイヤーボンディングを行い、1箇所も発生しなかった場合を「○」、不着や素子割れが1箇所以上発生した場合を「×」として評価した。
【0143】
(ワイヤーボンディング条件)
Temp.:175℃
Au−wire:23μm
S−LEVEL:50μm
S−SPEED:10mm/s
TIME:15ms
US−POWER:100
FORCE:20gf
S−FORCE:15gf
ワイヤーピッチ:100μm
【0144】
(封止樹脂進入の確認)
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムを40℃で5mm角の半導体素子に貼り付け、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理し、次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。その後、半導体素子の断面をSEMにて9箇所観察し、ダイボンドフィルムと基板との間に封止樹脂が進入しているか否かを確認した。封止樹脂が進入していない場合を「○」、1箇所でも進入していれば「×」として評価した。
【0145】
(封止工程後の気泡(ボイド)消失性)
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムを40℃で5mm角の半導体素子に貼り付け、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理し、その後、120℃で10時間、又は175℃で2時間の熱処理を施した。次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。封止工程後のボイドを超音波映像装置(日立ファインテック社製、FS200II)を用いて観察した。観察画像においてボイドが占める面積を二値化ソフト(WinRoof ver.5.6)を用いて算出した。ボイドの占める面積がダイボンドフィルムの表面積に対して30%未満であった場合を「○」、30%以上であった場合を「×」として評価した。
【0146】
(耐湿半田リフロー試験)
各実施例及び比較例で得られたダイボンドフィルムを40℃で5mm角の半導体素子に貼り付け、温度120℃、圧力0.1MPa、時間1sの条件でBGA基板にマウントした。これをさらに乾燥機にて150℃で1時間熱処理した後、120℃で10時間、又は175℃で2時間の熱処理を施した。次いで、モールドマシン(TOWAプレス社製、マニュアルプレスY−1)を用いて、成形温度175℃、クランプ圧力184kN、トランスファー圧力5kN、時間120秒、封止樹脂GE−100(日東電工(株)製)の条件下で封止工程を行った。その後、温度85℃、湿度60%RH、時間168hの条件で吸湿操作を行い、260℃以上の温度を30秒間保持するように温度設定したIRリフロー炉にサンプルを通した。9個の半導体素子について、ダイボンドフィルムと基板との界面に剥離が発生しているか否かを超音波顕微鏡で観察し、剥離が生じている割合を算出した。
各評価結果を表1及び2に示す。
【0147】
【表1】

【0148】
【表2】

【0149】
(結果)
以上の結果から、実施例に係るダイボンドフィルムによると、ワイヤーボンディング工程及び封止工程を含む全ての工程において作業性が良好で、ダイボンド後に高温で長時間熱処理を行った場合でも、以降の工程である封止樹脂による封止工程後にダイボンドフィルムと被着体との境界の気泡(ボイド)を消失させることができ、また、硬化後に十分な貯蔵弾性率が得られ耐湿半田リフロー試験においても高信頼性を確保することができることが確認された。
【符号の説明】
【0150】
1 基材
2 粘着剤層
3、3’、13、21 ダイボンドフィルム
4 半導体ウェハ
5 半導体チップ
6 被着体
7 ボンディングワイヤー
8 封止樹脂
9 スペーサ
10、11 ダイシング・ダイボンドフィルム
15 半導体チップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が50万以上のグリシジル基含有アクリル共重合体(a)と、フェノール樹脂(b)とを含有し、
グリシジル基含有アクリル共重合体(a)の含有量xのフェノール樹脂(b)の含有量yに対する重量比(x/y)が5以上30以下であり、かつ
重量平均分子量が5000以下のエポキシ樹脂を実質的に含まないダイボンドフィルム。
【請求項2】
前記グリシジル基含有アクリル共重合体(a)について、
エポキシ価が0.15e.q./kg以上0.65e.q./kg以下であり、
ガラス転移点が−15℃以上40℃以下であり、かつ
150℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上である請求項1に記載のダイボンドフィルム。
【請求項3】
硬化前の50℃での貯蔵弾性率が10MPa以下であり、
175℃での貯蔵弾性率が0.1MPa以上であり、かつ
150℃で1時間硬化させた後の175℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上である請求項1又は2に記載のダイボンドフィルム。
【請求項4】
175℃で1時間硬化させた後の260℃での貯蔵弾性率が0.5MPa以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイボンドフィルム。
【請求項5】
被着体と貼り合わせて150℃で1時間硬化させた後の175℃での前記被着体との間の剪断接着力が0.3MPa以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のダイボンドフィルム。
【請求項6】
染料を0.05重量%以上含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のダイボンドフィルム。
【請求項7】
ダイシングテープと、このダイシングテープ上に積層された請求項1〜6のいずれか1項に記載のダイボンドフィルムとを備えるダイシング・ダイボンドフィルム。
【請求項8】
請求項7に記載のダイシング・ダイボンドフィルムのダイボンドフィルムと、半導体ウェハの裏面とを貼り合わせる貼り合わせ工程と、
前記半導体ウェハを前記ダイシング・ダイボンドフィルムと共にダイシングして、チップ状の半導体素子を形成するダイシング工程と、
前記半導体素子を、前記ダイシング・ダイボンドフィルムから前記ダイボンドフィルムと共にピックアップするピックアップ工程と、
前記ダイボンドフィルムを介して、前記半導体素子を被着体上にダイボンドするダイボンド工程と、
前記半導体素子にワイヤーボンディングをするワイヤーボンディング工程と
を有する半導体装置の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−191046(P2012−191046A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54276(P2011−54276)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】