説明

ダッシュパネルとトンネル部との結合部構造

【課題】前突時にダッシュパネルの後退を抑えることができるダッシュパネルとトンネル部との結合部構造を得る。
【解決手段】ダッシュパネル30は、厚み方向に対向する一対のダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34を備えており、ダッシュパネル30の車体幅方向中央部側の下部を構成する内側傾斜壁部30Cが車体後方側に曲げられている。これに対し、トンネル部40の前端部40Aの側部を構成する前端縦壁部40Bは、ダッシュパネル30の内側傾斜壁部30Cにおけるダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34との間に挿入されると共に内側傾斜壁部30Cに接着により結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダッシュパネルとトンネル部との結合部に適用されるダッシュパネルとトンネル部との結合部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ダッシュパネルとトンネル部との結合部構造においては、トンネル部の前端部が車室内側からダッシュパネルに当てられて結合された構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような構造では、例えば、トンネル部の本体から曲げられた前端フランジがダッシュパネルとの結合部位になっている。
【特許文献1】特開2005−47462公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような構造では、前突時(正面衝突時やオフセット前面衝突時)にダッシュパネルとトンネル部との結合部付近での荷重負荷が大きく、仮に前記結合部付近でダッシュパネルやトンネル部の前端側の側部が破壊等してしまうと、ダッシュパネルの後退量が大きくなりやすいので、この点において改善の余地がある。
【0004】
本発明は、上記事実を考慮して、前突時にダッシュパネルの後退を抑えることができるダッシュパネルとトンネル部との結合部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載する本発明のダッシュパネルとトンネル部との結合部構造は、車室と当該車室の車体前方側に位置する空間とを仕切ると共に厚み方向に対向する一対の壁部を備えたダッシュパネルに設けられ、前記ダッシュパネルの車体幅方向中央部側の下部を構成して車体後方側に曲げられたダッシュ中央側下部と、前記ダッシュパネルの車体幅方向中央部側に前端部が配置されて略車体前後方向に沿って延在するトンネル部に設けられ、前記トンネル部の前記前端部の側部を構成して前記ダッシュ中央側下部における前記一対の壁部間に挿入されると共に前記ダッシュ中央側下部に結合されたトンネル前端縦壁部と、を有する。
【0006】
請求項1に記載する本発明のダッシュパネルとトンネル部との結合部構造によれば、ダッシュパネルは、車室と当該車室の車体前方側に位置する空間とを仕切ると共に厚み方向に対向する一対の壁部を備えており、ダッシュパネルの車体幅方向中央部側の下部を構成するダッシュ中央側下部が車体後方側に曲げられている。これに対し、トンネル部は、ダッシュパネルの車体幅方向中央部側に前端部が配置されて略車体前後方向に沿って延在しており、トンネル部の前端部の側部を構成するトンネル前端縦壁部がダッシュ中央側下部における一対の壁部間に挿入されると共にダッシュ中央側下部に結合されている。このため、前突時に車体前方側からダッシュパネルに入力される荷重の一部がトンネル部によって軸方向の荷重として安定的に支持され、ダッシュパネルの後退が抑えられる。
【発明の効果】
【0007】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のダッシュパネルとトンネル部との結合部構造によれば、前突時にダッシュパネルの後退を抑えることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(実施形態の構成)
本発明の一実施形態に係るダッシュパネルとトンネル部との結合部構造について図1及び図2を用いて説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車体前方側を示しており、矢印UPは車体上方側を示しており、矢印INは車体幅方向内側を示している。
【0009】
図1には、車体左側(車両左側)におけるダッシュパネル30とトンネル部40との結合部50及びその周囲部における水平断面図が示されている。この図に示されるように、車体前部10には、フロントサイドメンバ12が車体前後方向に沿って延在している。フロントサイドメンバ12は、車体前部10の両サイドに左右一対で配置されており、フロントサイドメンバ本体部14及びフロントサイドメンバリヤ16を備えている。
【0010】
フロントサイドメンバ本体部14は、アルミニウム合金製の鋳造品(鋳物)で構成されて断面矩形状の閉断面構造となっており、略車体前後方向に沿って延在している。フロントサイドメンバ本体部14の車体幅方向外側には、前輪(タイヤ)19が配設されている。また、フロントサイドメンバ本体部14の前端部側には、フロントバンパリインフォース(図示省略)が結合されており、このフロントバンパリインフォースは、フロントバンパ(図示省略)を構成して車体幅方向を長手方向として配置されている。
【0011】
フロントサイドメンバ本体部14の後端部には、フロントサイドメンバリヤ16におけるエネルギー吸収部16Aの前端部が溶着により結合されている。エネルギー吸収部16Aは、アルミニウム合金の押出し材で構成されており、車体上下方向から見た平面視の外郭形状がフロントサイドメンバ本体部14側から車体後方側に向かって幅広とされた台形状とされている。
【0012】
このエネルギー吸収部16Aは、一般面が車体上下方向を含む面を面方向として配置された複数の縦壁が交差しており、これらの縦壁が平面視で略三角形状となる閉断面構造のセルを形成している。このような構造により、エネルギー吸収部16Aは、フロントサイドメンバ本体部14側から車体後方側へ向けて所定値以上の衝突荷重Fが入力された状態では圧縮変形することによって衝突時のエネルギーを吸収するようになっている。
【0013】
エネルギー吸収部16Aの後端部は、フロントサイドメンバブラケット16Bに溶着されている。フロントサイドメンバブラケット16Bは、フロントサイドメンバリヤ16の一部を構成しており、エネルギー吸収部16Aの台座部であってアルミニウム合金製の鋳造品(鋳物)とされている。フロントサイドメンバブラケット16Bの車体幅方向両側の部位は、締結具18によってダッシュパネル30に固定されている。なお、図1の断面では、フロントサイドメンバブラケット16Bの車体幅方向外側の部位を固定する締結具18のみが示されている。
【0014】
フロントサイドメンバブラケット16Bが固定されるダッシュパネル30は、車室22(キャビン)と車室22の車体前方側に位置する空間としてのエンジンルーム20とを仕切っている。図1及び図1の2−2線に沿った断面図である図2に示されるように、ダッシュパネル30は、一般部30Aが車体幅方向及び車体上下方向に延在している。このダッシュパネル30は、略板状とされており、図示を省略するが、車体正面視で逆U字形状、すなわち、車体正面視にて略矩形状の車体幅方向中央下部に下向きに開口する略コ字状に切り欠かれた切欠部28(図1参照)が形成された形状とされている。なお、図1の符号28で示す部位は、切欠部28の一部であって切欠部28の車体左側の側縁部である。
【0015】
ダッシュパネル30は、主要部が炭素繊維強化プラスチック(「CFRP」ともいい、以下、「CFRP」と略称する。)にて構成されている。CFRPは軽量かつ高剛性である一方で脆性材料としての特性を有する。図1及び図2に示されるように、CFRP製のダッシュパネル30は、厚み方向に対向する一対の壁部としてのダッシュフロントパネル32及びダッシュリヤパネル34を含んで構成されている。図2に示されるように、ダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34とは、閉断面部36を構成している。
【0016】
ダッシュパネル30の閉断面部36内には、複数の内部骨格部材38が配設されている。内部骨格部材38は、車体幅方向を長手方向として車体上下方向に間隔をおいて複数(本実施形態では二個)配置され、それぞれ矩形枠状の閉断面構造を成している。この実施形態では、ダッシュフロントパネル32、ダッシュリヤパネル34、及び、内部骨格部材38は、それぞれCFRPにて構成されている。また、ダッシュパネル30においては、閉断面部36及び内部骨格部材38内には、発泡ウレタンフォームU(フォームコア材)が充填されている(サンドイッチ構造)。
【0017】
このダッシュパネル30の下端部寄りには、乗員の足乗せ用のトーボード30Dが一体に設けられている。トーボード30Dは、車体下方へ向けて車体後方側に傾斜した傾斜板状に形成されている。このトーボード30Dは、本実施形態ではダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34とが重ね合わせられて接合された構成となっているが、ダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34との間に発泡ウレタンフォームU(フォームコア材)が充填された構成であってもよい。トーボード30Dの下端部は、フロアパネル(図示省略)の前端部に一体化されている。なお、「一体化」には、トーボード30Dと前記フロアパネルとが一体に形成されている場合の他、トーボード30Dと前記フロアパネルとが別体で構成されていてスポット溶接等で結合されている場合を含む。
【0018】
図1に示されるように、ダッシュパネル30は、車体幅方向外側の端部が車体後方側に曲げられて車体後方へ向けて車体幅方向外側に傾斜した外側傾斜壁部30Bを備えている。外側傾斜壁部30Bの車体前後方向の後面には、閉断面構造で柱状のAピラー26が固定されている。本実施形態では、Aピラー26は、主要部がCFRPにて構成されている。
【0019】
また、ダッシュパネル30は、車体幅方向中央部側(図中上側)の下部が車体後方側に曲げられて車体後方へ向けて車体幅方向内側に傾斜したダッシュ中央側下部としての内側傾斜壁部30Cを備えている。この内側傾斜壁部30Cにおける車体幅方向内側の部位(ダッシュフロントパネル32の一部)は、前述した切欠部28の車体左側の側縁部を構成している。
【0020】
ダッシュパネル30の車体幅方向中央部側には、トンネル部40の前端部40Aが配置されている。トンネル部40は、フロアパネル(図示省略)の車体幅方向中央部において略車体前後方向に沿って延在すると共に、車体正面視で車体上下方向の下向きに開口して逆U字形状に形成され、トンネル部40の車体前後方向の前端側が切欠部28と連続したような構成となっている。また、図示を省略するが、トンネル部40の車体上下方向の下向き開口端部は、左右のフロアパネル(図示省略)の車体幅方向中央側の端部に接合されている。
【0021】
トンネル部40は、本実施形態では、主要部がCFRPにて構成されている。CFRP製のトンネル部40は、ダッシュパネル30と同様に、厚み方向に対向する一対の車室外側トンネルパネル42及び車室内側トンネルパネル44を含んで構成されている。車室外側トンネルパネル42と車室内側トンネルパネル44とは、閉断面部46を構成している。
【0022】
また、トンネル部40の閉断面部46内には、複数の内部骨格部材48が配設されている。この内部骨格部材48は、車体上下方向に間隔をおいてかつトンネル部40の長手方向に沿って複数配置され、それぞれ矩形枠状の閉断面構造を成している。この実施形態では、車室外側トンネルパネル42、車室内側トンネルパネル44、及び、内部骨格部材48は、それぞれCFRPにて構成されている。また、トンネル部40においては、閉断面部46及び内部骨格部材48内には、発泡ウレタンフォームU(フォームコア材)が充填されている(サンドイッチ構造)。すなわち、トンネル部40は、単板のトンネル部に比べて大幅に耐力が向上した構成となっており、車体の捩り剛性の向上にも寄与する構造となっている。
【0023】
車体正面視で逆U字形状に形成されたトンネル部40は、トンネル部40の前端部40Aの側部(側壁)を構成するトンネル前端縦壁部としての前端縦壁部40Bが若干曲げられて車体前方へ向けて車体幅方向外側に傾斜している。前端縦壁部40Bは、ダッシュパネル30の内側傾斜壁部30Cにおける一対のダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34との間に挿入されている。なお、本実施形態では、車体正面視でトンネル部40の前端縦壁部40Bとフロントサイドメンバ本体部14との車体幅方向のオフセット量は、Aピラー26とフロントサイドメンバ本体部14との車体幅方向のオフセット量に比べて小さくなっている。
【0024】
ここで、前端縦壁部40Bの車室外側トンネルパネル42は、内側傾斜壁部30Cのダッシュフロントパネル32に接着されており、前端縦壁部40Bの車室内側トンネルパネル44は、内側傾斜壁部30Cのダッシュリヤパネル34に接着されている。すなわち、トンネル部40の前端縦壁部40Bとダッシュパネル30の内側傾斜壁部30Cとが車室22内側と車室外24側との二箇所で接着されることによって、トンネル部40の前端縦壁部40Bがダッシュパネル30の内側傾斜壁部30Cに結合されている。
【0025】
また、前端縦壁部40Bの車室内側トンネルパネル44において最前端側には、車体幅方向外側にサイド骨格部材52が接着等により接合されている。図1及び図2に示されるように、サイド骨格部材52は、車体上下方向に間隔をおいて複数(本実施形態では二個)配置され(図2参照)、車室内側トンネルパネル44(図1参照)側から車体幅方向外側へ突出しており、それぞれ矩形枠状の閉断面構造を成している(図2参照)。この実施形態では、サイド骨格部材52は、CFRPにて構成されており、このサイド骨格部材52内にも、発泡ウレタンフォームUが充填されている。
【0026】
サイド骨格部材52は、ダッシュパネル30の一般部30A内において、ダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34との間で、内部骨格部材38の車体幅方向内側の端部と嵌合している。すなわち、内部骨格部材38とサイド骨格部材52とは、車体幅方向で上下にオーバーラップする区間が設定されており(図1参照)、雄雌の嵌合構造で連結されている。
【0027】
以上説明したように、ダッシュパネル30とトンネル部40との結合部50は、前述した二箇所の接着や嵌合構造により、結合剛性が高く設定されており、車両衝突時等に荷重を支持するうえでも有効な構造になっている。
【0028】
(実施形態の作用・効果)
次に、上記実施形態の作用及び効果について説明する。
【0029】
図1に示されるように、本実施形態に係るダッシュパネル30とトンネル部40との結合部構造では、ダッシュパネル30は、車室22とエンジンルーム20とを仕切ると共に厚み方向に対向する一対のダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34を備えており、ダッシュパネル30の車体幅方向中央部側の下部を構成する内側傾斜壁部30Cが車体後方側に曲げられている。これに対し、トンネル部40は、ダッシュパネル30の車体幅方向中央部側に前端部40Aが配置されて略車体前後方向に沿って延在しており、トンネル部40の前端部40Aの側部を構成する前端縦壁部40Bが内側傾斜壁部30Cにおける一対のダッシュフロントパネル32とダッシュリヤパネル34との間に挿入されると共に内側傾斜壁部30Cに接着により結合されている。このため、前突時に衝突荷重Fが車体前方側から伝達され、フロントサイドメンバブラケット16Bからダッシュパネル30に入力される荷重の一部がトンネル部40によって軸方向の荷重として安定的に支持され(受けられ)、トーボード30D(図2参照)を含むダッシュパネル30の後退が抑えられる。
【0030】
補足すると、前突時におけるフロントサイドメンバ本体部14から車両後方側への荷重は、フロントサイドメンバリヤ16及びダッシュパネル30を介してトンネル部40側及びAピラー26側に伝達されるが、フロントサイドメンバ本体部14に対する車体幅方向のオフセット量がAピラー26側よりもトンネル部40の前端縦壁部40B側が小さいので、前記荷重がAピラー26側よりもトンネル部40側に伝達されやすい。このため、ダッシュパネル30とトンネル部40との結合部50側により大きな荷重が作用する。ここで、例えば、トンネル部の前端側が曲げられて車室内側からダッシュパネルに結合されたような対比構造では、前記荷重がダッシュパネルとトンネル部との結合部側に曲げ荷重として作用してしまう。これに対して、本実施形態では、前記荷重は、トンネル部40によって軸方向の荷重として安定的に支持される。そのため、ダッシュパネル30の車室22側への変位が効果的に抑えられる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係るダッシュパネル30とトンネル部40との結合部構造によれば、前突時にダッシュパネル30の後退を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係るダッシュパネルとトンネル部との結合部構造及びその周囲部構造を示す水平断面図であり、車体左側のみを示す。
【図2】図1の2−2線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0033】
20 エンジンルーム(車室の車体前方側に位置する空間)
22 車室
30 ダッシュパネル
30C 内側傾斜壁部(ダッシュ中央側下部)
32 ダッシュフロントパネル(壁部)
34 ダッシュリヤパネル(壁部)
40 トンネル部
40A 前端部
40B 前端縦壁部(トンネル前端縦壁部)
50 ダッシュパネルとトンネル部との結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室と当該車室の車体前方側に位置する空間とを仕切ると共に厚み方向に対向する一対の壁部を備えたダッシュパネルに設けられ、前記ダッシュパネルの車体幅方向中央部側の下部を構成して車体後方側に曲げられたダッシュ中央側下部と、
前記ダッシュパネルの車体幅方向中央部側に前端部が配置されて略車体前後方向に沿って延在するトンネル部に設けられ、前記トンネル部の前記前端部の側部を構成して前記ダッシュ中央側下部における前記一対の壁部間に挿入されると共に前記ダッシュ中央側下部に結合されたトンネル前端縦壁部と、
を有するダッシュパネルとトンネル部との結合部構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−155539(P2010−155539A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335008(P2008−335008)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】