説明

ダッシュパネルクロスメンバを有する自動車

【課題】
力、特に運転中又は側面衝突時にAピラーに作用する横方向力及び/又は正面衝突時にダッシュパネルに作用する長手方向力をできるだけ良好に車両ボディに誘導する自動車を提供する。
【解決手段】
ダッシュパネルクロスメンバ(1)が、自動車のAピラーに接合された2つの側方部分(1.1)と、これら両側方部分を接合する1つの中央部分(1.2)を有する、Aピラー、ダッシュパネル(2)、センタトンネル(3)及びダッシュパネルクロスメンバ(1)を有する自動車において、
側方部分(1.1)が、自動車のダッシュパネル(2)に少なくとも部分的に当接し、そこでダッシュパネルに接合されるように成形されていること、中央部分(1.2)が、自動車のセンタトンネル(3)に少なくとも部分的に当接し、ダッシュパネル(2)に対して間隔(a)を置いていることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載のダッシュパネルクロスメンバを有する自動車、特に乗用車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は、一般に横に配設された2つのAピラーと、車体前部を車室から分離する1つのダッシュパネルと、車両のフロアパネルを補強すること及び/又は駆動系、特にプロペラシャフトを収容することができる1つのセンタトンネルを有する。この場合、自動車のAピラー、ダッシュパネル、センタトンネル及びフロアパネルは、互いに分離されるように形成することができる。しかしながら、車両を補強するために互いに結合されていることは好ましい。
【0003】
このような自動車は、走行特性を改善するため、更には車両横方向の側面衝突時のためにも十分に高剛性であるべきである。同時に正面衝突時には、乗客を保護するために、車体前部は、できるだけ少なくしか車室に侵入すべきでない。
【0004】
車両横方向の自動車の剛性を向上させるため、特許文献1から、車両のボディの前方部分に、長方形の2つの部分と、これら部分を結合し、センタトンネルを把持する1つのクロスストラットとから成り、車両長手方向にボックスフレームを形成するようにドアシル補強部と結合されたクロスメンバを設けることが公知である。このため、特許文献2では、前方及び後方のフロアクロスメンバとシートクロスメンバを有するフロアパネルが使用される。特許文献3は、補強のため、それぞれその一端がAピラーと結合され、その他端がセンタトンネルと結合された2つの独立したクロスメンバを提案する。
【0005】
車体前部の車室への侵入を回避するため、特許文献4からは、1つのクロスメンバをAピラーに溶接し、付加的に、それ自身はボルトにより自動車のサイドメンバに固定され、その際ダッシュパネルを支持するフランジに支持することが公知である。
【0006】
前で説明した全ての取付けにおいては、クロスメンバの一方の側方部分が、Aピラー、センタトンネル、ダッシュパネル及び向かい側の側方部分の提供された支持の可能性の一部しか利用しないということが欠点である。
【0007】
従って、特許文献5は、それぞれが自動車のAピラーと垂直なダッシュパネルメンバに接合される2つの側方部分とを有するクロスメンバを提供する。両方の垂直なダッシュパネルメンバ自身は、クロスメンバにより互いに結合されており、このクロスメンバは、ストラットを介して更にまたセンタトンネルと結合することができる。これにより、各側方部分は、提供された全ての支持を直接的又は間接的に利用する。
【0008】
これにより、例えば正面衝突時にダッシュパネルに作用する力は、垂直なダッシュパネルメンバによって受け止められ、このダッシュパネルメンバから、一方で、ダッシュパネルメンバと結合されたフロア側のサイドメンバに直接伝達され、他方で、垂直なダッシュパネルメンバと結合されたクロスメンバを介して間接的にAピラーと、クロスストラットが更にまたストラットにより結合されたセンタトンネルとに伝達される。
【0009】
この場合、ダッシュパネルからの力の流れは、複数の移行箇所有することが、例えばダッシュパネルから、先ず垂直なダッシュパネルメンバに、垂直なダッシュパネルメンバからクロスメンバに、クロスメンバからこのクロスメンバをセンタトンネルと結合するストラットに、最後にストラットからセンタトンネルに流れることが欠点である。
【0010】
このような移行箇所は、一方で、それぞれ伝達すべき全ての力を受け止め、このため十分に強固に組み立てられなければならず、これが製造費と車両総重量を高めることが欠点である。同時に、このような移行箇所は、力の流れを妨げ、事故の際又は車両の運転中に例えばその際に生じる捩れに基づいて機能しなくなる不利な合流点を構成することが欠点である。
【特許文献1】独国実用新案第91 07 489号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 382 514号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1 264 757号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10 2004 060 190号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第103 38 389号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、特許文献5から出発して本発明の課題は、力、特に運転中又は側面衝突時にAピラーに作用する横方向力及び/又は正面衝突時にダッシュパネルに作用する長手方向力をできるだけ良好に車両ボディに誘導する自動車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する自動車によって解決される。
【0013】
本発明による自動車は、それ自身公知のように、2つのAピラー、1つのダッシュパネル及び1つのセンタトンネルを有する。この場合、ダッシュパネルが、例えば溶接及び/又は接着によりAピラー及びセンタトンネルと結合されているか、Aピラー及び/又はセンタトンネルの部品と統合されるように形成されていることは好ましい。この場合、「Aピラー」との概念は、車室を限定する車両ボディの本質的に垂直に延在する最前部のことを言い、同様に、本来のボディ要素、このボディ要素の複数の部分を構成する板材、及び/又はこのボディ要素を少なくとも部分的に取り囲む板材を有する。
【0014】
本発明による自動車は、更に2つの側方部分とこれを結合する1つの中央部分を有するダッシュパネルクロスメンバを有する。側方部分は、中央部分とは反対側のその端部で自動車のそれぞれ1つのAピラーに接合されている。これにより、両Aピラー間の車両横方向の一貫した支持が提供される。
【0015】
側方部分は、本発明によれば、自動車のダッシュパネルに少なくとも部分的に当接し、そこでダッシュパネルに接合されるように成形されており、ダッシュパネルクロスメンバの中央部分は、ダッシュパネルに対して間隔を置いて延在する。側方部分がダッシュパネルに当接する領域内で側方部分をダッシュパネルに直接接合することにより、先ず垂直なダッシュパネルメンバに向かい、ダッシュパネルメンバから初めてダッシュパネルクロスメンバに向かう力の流れの迂回がなくなることが有利である。その代りに、力は、ダッシュパネルからダッシュパネルクロスメンバに導入される。加えて、ダッシュパネルとダッシュパネルクロスメンバは、部分的に当接することにより互いに形状補完的に相並んで支持され、これが、一方の部品から他方の部品への力の導入を更に改善する。更に、ダッシュパネルへのダッシュパネルクロスメンバの当接は、相並んだその直接的な接合を容易にする。
【0016】
従って、Aピラー間に延在するダッシュパネルクロスメンバを本発明によりダッシュパネルに近付くように案内することにより、ダッシュパネルメンバは、ダッシュパネルに支持し、付加的にこのダッシュパネルに直接接合することができる。これにより、ダッシュパネルに作用する力は、ダッシュパネルクロスメンバを介してAピラーに直接誘導することができる。逆に、ダッシュパネルクロスメンバは、Aピラーに作用する力を、向かい側のAピラーにもダッシュパネルにも直接伝達することができる。
【0017】
本発明によるダッシュパネルクロスメンバの中央部分は、自動車のセンタトンネルに少なくとも部分的に当接する。これにより、ダッシュパネルクロスメンバは、付加的に形状補完的にセンタトンネルに直接支持される。これにより、ダッシュパネル又はAピラーからダッシュパネルクロスメンバに導入される力は、付加的にセンタトンネルに直接伝達することができる。こうして、例えば側面衝突時にAピラーによって受け止められた力は、ダッシュパネルクロスメンバを介して、ダッシュパネルクロスメンバが当接するセンタトンネルに、ダッシュパネルクロスメンバが直接接合されたダッシュパネルに、ダッシュパネルクロスメンバが同様に直接接合された向かい側のAピラーに誘導することができる。
【0018】
この何重もの直接的な支持により、自動車の特に車両横方向の剛性を有利に向上させることができる。付加的に、車体前部の車室への侵入も低減することができるので、本発明によるダッシュパネルクロスメンバにより走行及び事故時の安全を、同様に向上させることができる。
【0019】
付加的に、ダッシュパネルとセンタトンネルへの直接的な支持及びダッシュパネルへの直接的な接合により、付加的な垂直なダッシュパネルメンバ又はストラットと、そのダッシュパネルクロスメンバとの結合を無くすことができ、これにより、重量と製造費を有利に低減することができる。
【0020】
全体として、センタトンネルとダッシュパネルに当接し、そこでダッシュパネルに直接接合されるダッシュパネルクロスメンバでは、ダッシュパネルもしくはAピラーに作用する力をバランスよく残りの車両ボディに誘導することができる直接的な妨げのない力の流れが得られる。このようなバランスのよい力の流れは、小さな横断面での大きな力の伝達を可能にするので、ダッシュパネルクロスメンバは、弱く、従って軽量に寸法設定すること及び/又は剛性及び強度を向上させることができる。
【0021】
ダッシュパネルクロスメンバの中央部分もしくは側方部分の形状は、ダッシュパネルクロスメンバが当接するセンタトンネルもしくはダッシュパネルの領域の輪郭によって決まる。この場合、センタトンネル及び/又はダッシュパネルへのダッシュパネルクロスメンバの面での、特に大面積での当接が好ましいが、これは、これにより伝達される圧縮応力及び剪断応力が低下するからである。
【0022】
それでも、ダッシュパネルメンバがセンタトンネルもしくはダッシュパネルに完全に当接する必要はない。これは、形成の自由度を高め、特に、ダッシュパネルとセンタトンネルに当接する領域を、バランスよく、即ち力の伝達に有利な形状で、例えばアーチ状部を介して互いに結合することを可能にする。こうして、付加的に、ダッシュパネルクロスメンバとダッシュパネルもしくはセンタトンネルの間に別の部品のための、例えばエアコンディショナ、車両電装、車両操舵装置等の部品のための空間を提供することができる。
【0023】
特に、本発明によるダッシュパネルクロスメンバによって、車両長手方向にも更に後方に取り回されたAピラーを支持することが可能であるが、これは、ダッシュパネルクロスメンバが、このAピラーからダッシュパネルに戻るように案内され、ダッシュパネルに少なくとも部分的に当接するので、ダッシュパネルクロスメンバは、有利に僅かな空間しか車室に必要としないからである。その場合には、ダッシュパネルへの接合部から、ダッシュパネルメンバは、センタトンネルへの当接のために再び車両長手方向に後方に取り回すことができるので、車両長手方向のAピラー呼びセンタトンネルへのダッシュパネルクロスメンバの支持部は、より近くに並んで位置する。これにより、有効なレバーアームと共にダッシュパネルクロスメンバに生じる曲げモーメントは、有利に低減することができる。
【0024】
ネジ留め、リベット留め、接着及び/又は溶接、特にスポット溶接によりダッシュパネルに側方部分を接合することは好ましい。特に、1つ又は複数の溶接点でのスポット溶接は、軽量で、持続的で、確実で、素早く行なうことができる接合を可能にする。
【0025】
好ましい構成では、中央部分も、センタトンネルに接合されている。これにより、支持部は、更に補強され、張力及び推力もダッシュパネルクロスメンバからセンタトンネルに誘導することができる。これは、センタトンネルへのAピラーとダッシュパネルの支持を改善し、こうして更に装置全体の剛性及び安定性を高める。従って、全体として、ダッシュパネル、ダッシュパネルクロスメンバ、Aピラー及びセンタトンネルから成る自身で補強がなされたユニットが提供される。ネジ留め、リベット留め、接着及び/又は溶接、特にスポット溶接により接合を行なうことは好ましい。
【0026】
ダッシュパネルクロスメンバのダッシュパネルとセンタトンネルとの接触面が異なった平面もしくは空間方向に位置することは好ましい。こうして、ダッシュパネルクロスメンバは、例えば車両横方向には本質的に後からダッシュパネルに当接し、ダッシュパネルと接合されが、車両高さ方向には本質的に上からセンタトンネルに当接し、センタトンネルと接合されている。これにより、良好な作業性を有する組立ての簡単な接合位置を得ることができる。加えて、車室を本質的に小さくすることなく、接合のためにダッシュパネルもしくはセンタトンネルの非常に大きな面を利用することができる。更に、このようなダッシュパネルクロスメンバは、有利に全部で3つの空間方向に、即ち、車両長手方向にはダッシュパネルに、車両横方向にはAピラーに、車両高さ方向にはセンタトンネルにそれぞれ形状補完的に支持される。
【0027】
側方部分は、同様に、ネジ留め、リベット留め、接着及び/又は溶接、特にスポット溶接によって自動車のAピラーに接合することができる。この場合、各接合部を同じ技術で形成することは必要ない。こうして、例えばダッシュパネルクロスメンバは、スポット溶接によりダッシュパネルとセンタトンネルに接合し、接着によりAピラーに接合することができる。これにより、一方では、前記のように、ダッシュパネルとセンタトンネルへのダッシュパネルクロスメンバの持続的で、確実で、軽量の接合を素早く行なうことができる。他方で、ダッシュパネルメンバとAピラーの間の接着結合は、車両ボディの振動を減衰し、部品の互いの微小運動と製造誤差又は例えばスポット溶接により生じた熱膨張及び溶接捩れを少なくとも部分的に相殺することができる。
【0028】
側方部分は、Aピラーと結合されるその端部にAピラーに接合するためのフランジセットを備える。これは、有利に接合面を拡大することができ、これは、伝達すべき応力を低減し、こうして接合部の強度と装置全体の剛性を高める。
【0029】
Aピラーへの接合は、直接行なうか、自身がAピラーを少なくとも部分的に取り囲み、Aピラーに接合される板材を介して行なうことができる。
【0030】
好ましい構成では、側方部分及び/又は中央部分は中空成形部材として形成されている。中空成形部材は、有利に高い捩り剛性を備え、こうして車両横方向及び/又は車両高さ方向にダッシュパネルクロスメンバが振動した場合でも装置全体の捩り剛性を高めることができる。加えて、比較的少ない重量でも高い曲げ剛性を備え、こうして車両長手方向、車両横方向、及び/又は車両高さ方向の剛性を高めることができる。
【0031】
できるだけ最適な形状補完的な接触を補償するために、中空成形部材が、ダッシュパネルもしくはセンタトンネルの輪郭に対して相補的な外部輪郭を有する領域を備えることは好ましい。特に、中空成形部材は、ダッシュパネルもしくはセンタトンネルに当接するための平坦な面を有する領域を備える。こうして、ダッシュパネルクロスメンバは、例えばボックスプロフィルを備え、異なった領域が異なった寸法を備え、こうしてダッシュパネルもしくはセンタトンネルの輪郭のような接合境界条件、提供される空間及び/又は伝達すべき力に適合させることができる。
【0032】
この場合、中空成形部材の第1の壁が1つ又は複数の開口を備え、これら開口を通して、中空成形部材の第2の壁上の1つ又は複数のスポット溶接箇所が作業可能である。これにより、ボックスプロフィルとスポット溶接の前記の利点を互いに組み合わせることができ、スポット溶接は、簡単に実施することができ、特に端面からボックスプロフィルに挿入される特殊工具を何ら必要としない。
【0033】
好ましい構成では、中空成形部材に、各溶接点に対して1つの開口が設けられており、この開口を通して、溶接ガンのアームを挿入し、溶接点に案内することができる。その場合には、溶接ガンにより形成される溶接点は、中空成形部材の第2の壁をダッシュパネルもしくはセンタトンネルと結合する。同時に、溶接ガンのアームの溶接点への作業だけを可能にする多数の小さい開口は、中空成形部材の強度を極僅かにだけ弱くする。同様に、少ない開口を溶接点として設け、1つの開口を通して複数の溶接点を作業可能にするように、これら開口を配設し、寸法設定することも可能である。第2の壁は、第1の壁の向かい側に位置する必要はなく、例えばある角度をもって第1の壁に接続してもよい。
【0034】
特に好ましい構成では、中央部分と側方部分が、互いに一体的に形成されている。これにより、力の流れを妨げるダッシュパネルクロスメンバの個々の部分の間の結合箇所が回避され、こうして装置全体の強度及び剛性が高められる一方で、同時に、ダッシュパネルクロスメンバの重量を、結合箇所がなくなることに基づいて低減することができる。
【0035】
有利なことに、ダッシュパネルクロスメンバは、内部高圧成形法により製造される。特にスチールから成る中空断面形状の半製品が中空成形部材の内部の圧力を高めることにより所望の形状にされるこの方法は、ダッシュパネルとセンタトンネルの輪郭に適合させた形状を有する中空断面形状のダッシュパネルクロスメンバを製造するために特に適している。同様に、当然他の製造方法も、特にスチール(ダイカスト)鋳造、深絞り、冷間又は熱間成形又は複数の個別部分の溶接も可能である。
【0036】
側方部分が、中央部分に対して車両長手方向に前方に凸に突出することは好ましい。この場合、側方部分は、本質的にアーチ状に形成されているので、ダッシュパネルクロスメンバ全体は、ほぼいわゆるリカーブアーチの形状を備える。これにより、一方では、車両長手方向でダッシュパネルの後に配設されたAピラーを、センタトンネルの同様にダッシュパネルの後に配設された領域に支持することができるが、この場合、車両高さ方向軸周りに大きな曲げモーメントが生じることはない。同時に、ダッシュパネルクロスメンバのAピラーとセンタトンネルの間に位置する領域は、ダッシュパネルに近付くように案内し、そこでダッシュパネルに接合することができるが、これは、車両の剛性を高めるだけでなく、車室内に提供された空間も僅かにしか低減しない。
【0037】
加えて、前方に凸に突出する側方部分は、車体前部の車室への進入に反作用するが、これは、この場合、先ず、Aピラーもしくはセンタトンネルの両側に支持される側方部分のアーチ状部が押し込められなければならないからである。その際に生じるダッシュパネルクロスメンバの塑性変形は、衝突エネルギーの一部を吸収することができる。更に、このようなダッシュパネルクロスメンバは、車両長手方向の座屈に対して安定しており、こうして同様に車体前部の車室への侵入を回避する。付加的に、このようなダッシュパネルクロスメンバは、側方部分に対して逆方向に変位させた中央部分により車両横方向に延長されるので、車体前部は、正面衝突時に多くの材料が塑性変形しなければならないが、これは、同様に車室への侵入を低減する。
【0038】
更に、前方に凸に突出する側方部分により、ダッシュパネルクロスメンバは、特に良好にダッシュパネルに沿わせて、ダッシュパネルに広い領域で当接させることができる。
【0039】
センタトンネルがダッシュパネルと結合されている場合、その際に通常生じる異なった小さな半径及び自由成形面を有するセンタトンネルとダッシュパネルの間の移行領域は、ダッシュパネルクロスメンバの後方に取り回された中央部分によって橋渡しすることができるので、ダッシュパネルクロスメンバは、全体として比較的簡単な全体輪郭を備えることができる。従って、好ましい構成では、ダッシュパネルクロスメンバの側方部分は、中央部分とは反対側のその終端領域でダッシュパネルに当接するが、中央部分への移行領域では、ダッシュパネルから間隔を置いている。
【0040】
−ダッシュパネルは変わらずに真直ぐ通っているが−走行方向とは反対に後方にダッシュパネルクロスメンバのダッシュパネルから間隔を置いた中央部分によって、クラッシュ時に後に移動するエンジンがダッシュパネルクロスメンバに損傷を与えることはできない。シェルの構造及び機能は、引き続き十分に保持されている。これにより、いわゆるクラッシュ長さもしくはクラッシュ経路が長くなり、搭乗者の負荷が軽減される。従来の構造の場合、ダッシュパネルのクロスメンバが、いわゆるボックスプロフィルを構成し、ダッシュパネルクロスメンバが、走行方向で見て前方に大きく移動されるので、クラッシュ時に、エンジンは、走行方向とは反対に後方に移動し、従って、ダッシュパネルクロスメンバに損傷を与える。これは、本発明によるダッシュパネルクロスメンバによって回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
更なる課題、利点及び特徴は、従属請求項と後続の実施例に記載されている。
【0042】
図1は、ダッシュパネルクロスメンバ1と、ダッシュパネル2と、例えば溶接又は接着によりダッシュパネル2と結合されたセンタトンネル3と、例えば同様に溶接又は接着によりダッシュパネル2と結合された2つのAピラー(図示されてない)とを有する、本発明の構成による乗用車のボディの前方部分を斜視図で示す。Aピラーを接合するために、ダッシュパネル2は、横のフランジ領域2.1を備える。ダッシュパネルクロスメンバ1を車両高さ方向で上から見たところを示す図3には、ダッシュパネル2と、センタトンネル3と、Aピラーとが、取付け位置を明確にするために共に図示されている。
【0043】
ダッシュパネルクロスメンバ1は、内部高圧成形法により中空成形部材から一体的に成形することができる。ダッシュパネルクロスメンバは、本質的にボックス状の中央部分1.2と、これに車両横方向に接続する側方部分1.1とを有し、これら側方部分は、本質的に同様にボックス状の横断面を備える。側方部分1.1は、特に図3及び4に認められるように、中央部分1.2よりも狭くて高いので、ダッシュパネルクロスメンバは、側方部分1.1の自由端から出発して、その中央部分1.2で車両長手方向に拡幅され(図3)、車両高さ方向に狭くなる(図4)。これにより、ダッシュパネルクロスメンバは、当初は本質的に一定のボックス状の中空成形部材から内部高圧成形法により有利に材料を大きく厚くしたり薄くしたりすることなく製造することができ、中央部分1.2には車両高さ方向に大きな当接面を、その側方部分1.1には車両横方向に大きな当接面を有利に備える。加えて、内部高圧成形法により、ダッシュパネルクロスメンバ1の強度及び剛性を弱くする著しい局所的な変形を有利に回避又は低減することができる。
【0044】
側方部分1.1は、中央部分1.2から出発して本質的にアーチ状に延在し、この場合、中央部分1.2に対して車両長手方向に凸に突出する(図3)。この実施例ではダッシュパネルクロスメンバ1の自由端からほぼアーチ状の側方部分1.1の頂点にまで延在する中央部分1.2とは反対側のその終端領域1.3で、側方部分1.1は、車両長手方向で前方のその外側がダッシュパネル2の輪郭に適合しているので、取り付けた状態ダッシュパネルに面で当接する。
【0045】
この終端領域で、車両長手方向で後の(図3では破線で図示された)第1の壁1.4に3つの貫通穴1.5が形成されており、これら貫通穴を通して第1の壁1.4と向かい側の車両長手方向で前方の第2の壁1.6上の溶接点が、(図示されてない)溶接ガンのアームのために作業可能である。
【0046】
その中央部分1.2でも、ダッシュパネルクロスメンバ1は、車両高さ方向で上の別の第1の壁1.4’に3つの貫通穴1.5を備え、これら貫通穴を通してこの別の第1の壁1.4’と向かい側の車両高さ方向で下の別の第2の壁1.6’上の溶接点が、(図示されてない)溶接ガンのアームのために作業可能である。中央部分1.2は、ダッシュパネル2に対して間隔aを置いて配設されているので、クラッシュ時にダッシュパネルがへこむことが邪魔されない。
【0047】
中央部分1.2は、車両長手方向で前方及び後方のその外側と、車両高さ方向で下のその外側の領域が、センタトンネル3の収容用空所3.1に適合され、取り付けた状態で形状補完的にこの収容用空所に収容されている。
【0048】
その自由端に、ダッシュパネルクロスメンバ1は、Aピラーに接合するための3つのフランジ1.7を備え、これらフランジは、ボックスプロフィルの相応の部分を折り曲げることによって形成される。
【0049】
取付けのため、ダッシュパネルクロスメンバ1は、その中央部分1.2により、既にダッシュパネル2と結合されたセンタトンネル3の収容用空所3.1内に形状補完的に挿入され、これにより、組立て位置で調心される。この場合、側方部分1.1の終端領域1.3は、ダッシュパネル2に当接するが、この終端領域1.3と中央部分1.2を結合するダッシュパネルクロスメンバの移行領域は、ダッシュパネル2から間隔を置いており、これにより、ダッシュパネル2がセンタトンネル3に移行する自由成形面に適合させる必要はない。ダッシュパネルクロスメンバ1の自由端のフランジ1.7は、この状態で、フランジ領域2.1を介してダッシュパネル2の横に接合された乗車のAピラーに当接する。
【0050】
溶接ガンのアーム(図示してない)は、中央部分1.2の第1の壁1.4’の開口1.5を通り、中央部分1.2の第2の壁1.6’をスポット溶接により、第2の壁1.6’が当接するセンタトンネル3に接合する。同様に、溶接ガンのアーム(図示してない)は、側方部分1.1の第1の壁1.4の開口1.5を通り、終端領域1.3の第2の壁1.6をスポット溶接により、終端領域1.3が当接するダッシュパネル2に接合する。
【0051】
フランジ1.7は、フランジをAピラー(図示してない)に当接させる、車両横方向で外側のその上面で、Aピラーと接着される。
【0052】
前記の組立てステップは、任意の順序で実施することができる。こうして、例えば先ずダッシュパネルクロスメンバ1を前記スポット溶接によりセンタトンネル3に留め、次いで、Aピラーをダッシュパネルの横に固定し、その際同時にフランジ1.7と接着する前に、ダッシュパネル2に接合してもよい。
【0053】
特に図1と図3で認められるように、ダッシュパネルクロスメンバ1は、その終端領域1.3とその中央部分1.2でダッシュパネル2もしくはセンタトンネル3に面で支持される。付加的に、ダッシュパネルクロスメンバは、これらの箇所でスポット溶接によりダッシュパネル2もしくはセンタトンネル3に直接接合される。更に、ダッシュパネルクロスメンバは、そのフランジ1.7によりAピラーに面で支持され、接着により同様にAピラーに直接接着される。
【0054】
面でのこの当接とそこでの直接的な接合により、Aピラー又はダッシュパネル2に作用する力は、直接的かつ本質的に邪魔されない力の流れで、センタトンネル3、向かい合うAピラーもしくはダッシュパネル2に導入することができる。一方ではダッシュパネルクロスメンバ1と、他方ではAピラー、ダッシュパネル2もしくはセンタトンネル3の間のこの直接的な力の伝達は、ダッシュパネルクロスメンバでの力の分布を改善し、これにより、自動車の剛性を車両横方向にも車両長手方向にも高め、特にダッシュパネル2によって車体前部から分離された車室への車体前部の侵入を低減する。
【0055】
部分領域(この実施例ではその終端領域1.3)でのみダッシュパネル2に当接し、そこで接合される側方部分1.1の前方に凸に突出するアーチ状の形成により、車両長手方向で後方に変位させたAピラーと、車両長手方向で同様に後方に変位させたセンタトンネル3の収容用空所3.1は、ダッシュパネルクロスメンバ1をダッシュパネル2とセンタトンネル3の間の移行領域内の一般的に複雑な自由成形面に沿わせることを必要としないで、ダッシュパネルクロスメンバ1を介して結合することができる。これは、この実施例では本質的にアーチ状部分から公知のいわゆるリカーブアーチの形態に形成されたダッシュパネルクロスメンバ1の成形を簡単にする。
【0056】
付加的に、Aピラーもしくはセンタトンネル3からダッシュパネル2に近付くように案内されたダッシュパネルクロスメンバ1は、車室内に提供された場所を僅かにしか低減せず、同時にダッシュパネル2から間隔を置いたその領域(本質的にその中央部分1.2とその終端部分1.3への移行領域)に付加的な車両コンポーネント、例えば車両エアコンディショナの部品(図示してない)のための空間を提供する。
【0057】
車両長手方向で後方に変位させた中央部分1.2とAピラーに結合されたアーチ状の側方部分1.1の前方に凸に突出する形成は、車体前部の車室への侵入を有利に低減する。これは、この場合、ダッシュパネル2が先ず側方部分1.1の凸の湾曲部を塑性変形させなければならないからである。これは、横の接合部にもっぱら剪断応力が生じる、本質的に車両横方向に延在するダッシュパネルクロスメンバに対して、エネルギー吸収と、その横の接合部で力が部分的に圧縮応力として誘導されるダッシュパネルクロスメンバの剛性を高める。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ダッシュパネルクロスメンバを有する本発明の構成による自動車の前方部分を斜視図で示す。
【図2】図1のダッシュパネルクロスメンバを斜視図で示す。
【図3】図2のダッシュパネルクロスメンバを車両高さ方向で上から見た図を示す。
【図4】図2のダッシュパネルクロスメンバを車両長手方向で後から見た図を示す。
【図5】図2のダッシュパネルクロスメンバを車両横方向で左から見た図を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 ダッシュパネルクロスメンバ
1.1 側方部分
1.2 中央部分
1.3 終端領域
1.4 第1の壁
1.4’ 別の第1の壁
1.5 貫通穴
1.6 第2の壁
1.6’ 別の第2の壁
1.7 フランジ
2 ダッシュパネル
2.1 フランジ領域
3 センタトンネル
3.1 収容用空所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルクロスメンバ(1)が、自動車のAピラーに接合された2つの側方部分(1.1)と、これら両側方部分を接合する1つの中央部分(1.2)を有する、Aピラー、ダッシュパネル(2)、センタトンネル(3)及びダッシュパネルクロスメンバ(1)を有する自動車において、
側方部分(1.1)が、自動車のダッシュパネル(2)に少なくとも部分的に当接し、そこでダッシュパネルに接合されるように成形されていること、中央部分(1.2)が、自動車のセンタトンネル(3)に少なくとも部分的に当接し、ダッシュパネル(2)に対して間隔(a)を置いていることを特徴とする自動車。
【請求項2】
側方部分(1.1)が、ダッシュパネル(2)に少なくとも部分的に面で当接し、そこでネジ留め、リベット留め、接着及び/又は溶接、特にスポット溶接によって接合されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車。
【請求項3】
中央部分(1.2)が、センタトンネル(3)に少なくとも部分的に面で当接し、そこでネジ留め、リベット留め、接着及び/又は溶接、特にスポット溶接によって接合されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車。
【請求項4】
側方部分(1.1)が、ネジ留め、リベット留め、接着及び/又は溶接、特にスポット溶接によって自動車のAピラーに接合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の自動車。
【請求項5】
側方部分が、Aピラーと結合されるその端部にAピラーに接合するためのフランジセット(1.7)を備えることを特徴とする請求項4に記載の自動車。
【請求項6】
側方部分(1.1)と中央部分(1.2)が中空成形部在として形成されており、この中空成形部材の第1の壁(1.4)が1つ又は複数の開口(1.5)を備え、これら開口を通して、中空成形部材の第2の壁(1.6)上の1つ又は複数の結合箇所、特にスポット溶接箇所が作業可能であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の自動車。
【請求項7】
中央部分(1.2)と側方部分(1.1)が、互いに一体的に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の自動車。
【請求項8】
ダッシュパネルクロスメンバ(1)が、内部高圧成形法により製造されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の自動車。
【請求項9】
側方部分(1.1)が、中央部分(1.2)に対して車両長手方向に前方に凸に突出することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の自動車。
【請求項10】
センタトンネル(3)が、ダッシュパネルクロスメンバ(1)の中央部分(1.2)を形状補完的に収容するための収容用空所(3.1)を備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の自動車。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つに記載の自動車にダッシュパネルクロスメンバ(1)を固定するための方法において、
この方法が、
a)側方部分(1.1)がダッシュパネル(2)に当接するダッシュパネル(2)の領域にダッシュパネルクロスメンバ(1)の側方部分(1.1)を接合するステップと、
b)自動車のAピラーに側方部分(1.1)を接合するステップと、
c)自動車のセンタトンネル(3)にダッシュパネルクロスメンバ(1)の中央部分(1.2)を接合するステップと
を有することを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−127011(P2008−127011A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302516(P2007−302516)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(390009335)ドクトル インジエニエール ハー ツエー エフ ポルシエ アクチエンゲゼルシヤフト (123)
【氏名又は名称原語表記】Dr.Ing.h.c.F.Porsche  Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Porscheplatz 1,D−70435 Stuttgart,Germany
【Fターム(参考)】