説明

ダブルクラッチングを伴うシフトダウンでのサウンドモデリング方法

本発明は、内燃機関及びオートマチックトランスミッションを備える車両のシフト動作制御方法に関し、シフトショックの軽減及び/又は補整のため、シフトダウンの際に、自動的にダブルクラッチングが行われる。トランスミッションが油圧のダウンタイムにある第1段階(1)においては、エンジンによってもたらされる実測値トルク(9.4)が、トランスミッションから要求されるトルク(9.1)に達するまで徐々に上昇し、引き続き、エンジンの実測値トルク(9.4)が目標値トルク(9.2)よりも小さい第2段階(2)において、スロットルバルブが再度開く。引き続き、エンジンの実測値トルク(9.4)が同期に必要な目標値トルク(9.2)に達する第3段階(3)では、遅いイグニション角(5.3)が設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及びオートマチックトランスミッションを備える車両のシフト動作制御方法に関し、シフトダウンの際に、自動的にダブルクラッチングが行われる。
【背景技術】
【0002】
オートマチックトランスミッションでは、シフトダウン動作の際にシフトショックが生じるが、これは、車両の走行快適性、トランスミッションの寿命、特に、非常に積極的な運転方法を行い、高い横方向加速度が発生する場合の車両走行安定性に影響を及ぼす。
【0003】
従来技術から、シフトダウン時のシフトショックの軽減及び/又は補整のために、自動的にダブルクラッチングが行われることが知られている。ここでは、シフト動作中に、エンジン回転数が、シフトダウン後にトランスミッションから要求される回転数まで上昇する。
【0004】
課題は、従来技術で知られているシフトショックの軽減及び/又は補整方法の場合、シフトダウン動作が不十分にしか聞き取れないことである。この課題は、回転の非常に静かなエンジンでは特に注意しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、シフトダウン時のシフトショックを軽減及び/又は補整するためのより良い方法を提供するという課題に基づいている。特に、この改善された方法により、シフトダウン動作がはっきりと音によって示される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に基づき、この課題は、請求項1の特徴を備える方法によって解決される。
【0007】
本発明に基づく方法の実施形態は、従属請求項の対象である。
【0008】
本発明に基づく、内燃機関及びオートマチックトランスミッションを備える車両のシフト動作制御方法では、シフトショックの軽減及び/又は補整のため、シフトダウンの際に、自動的にダブルクラッチングが行われる。
【0009】
このとき、トランスミッションが油圧のダウンタイムにある第1段階においては、エンジンによってもたらされる実測値トルクが、トランスミッションから要求されるトルクに達するまで徐々に上昇する。この第1段階は、充填段階またはゆっくりとしたエンジン燃焼とも呼ばれる。
【0010】
引き続き、エンジンによってもたらされる実測値トルクがエンジンの目標値トルクよりもまだ小さい第2段階において、スロットルバルブがさらに開く。この第2段階は、第1の調整段階とも呼ばれ、同期を行う。この第2段階では、素早いシフト動作を行うために、エンジンからもたらされる実測値トルクの上昇が可能な限り迅速に行われる。つまり、エンジンの目標値トルクは特に大きく、好ましくは最大である。できるだけ迅速にトルクを上昇させるため、第2段階では、リザーブ割当とも呼ばれるトルクリザーブが要求される。
【0011】
本発明に基づき、次の第3段階では、第2段階と同じく同期が行われ、エンジンの実測値トルクは同期に必要な目標値トルクに達し、遅いイグニションタイミングが設定される。すなわち、イグニション角は、遅角方向に強くずらされる。特に、第3段階では、イグニションタイミングが少なくとも一時的に、上死点前の+5°のクランク角(クランクシャフト角度)よりも遅く設定され、好ましくは、イグニションタイミングが上死点後、例えば−10°のクランク角で設定される。イグニション角を強くずらすことにより、すなわち、イグニションタイミングを遅角することにより、はっきりと聞き取れるノイズ、特に極めてスポーティなサウンドがエンジンによって生み出される。このスポーティなサウンドを発生させるため、追加のトルクリザーブが要求され、これによって、イグニション角の移動、すなわちイグニションタイミングの遅角を行うことができる。さらに、第3段階においては、1つ又は複数のシリンダに対する噴射停止が可能となる。
【0012】
本発明に基づく方法により、車両のスポーティな特性を音によって強調することが可能となる。はっきりと聞き取れるノイズ、特にスポーティなサウンドは、車両の様々な走行プログラム又は様々な車両クラスに応じて、簡単な方法で変化させることができる。
【0013】
本発明に基づく方法の実施形態では、第4段階において、エンジンの1つ又は複数のシリンダが停止する、すなわち、点火及び/又は燃料噴射が完全に停止するようになっている。アフターランニング段階とも呼ばれる第4段階においては、エンジン回転数が同期され、エンジンは、できるだけ迅速に、車両運転者によって設定されるトルク(運転者設定トルクとも呼ぶ)又は燃料カットオフにならなければならない。できるだけ迅速なエンジントルクの調整は、好ましくはイグニションパスを介して行われる。
【0014】
1つ又は複数のシリンダの停止により、とりわけはっきりと聞き取れるノイズ、特に極めてスポーティなサウンドを生み出すことができる。1つ又は複数のシリンダの停止により、特に、自動的に行われるダブルクラッチングによって上昇したエンジン回転数を、同期に必要な回転数まで減少させることができる。この限りにおいて、ノイズ発生のためだけに追加されるダブルクラッチングを同期に必要な量にまで修正することができる。さらに、イグニションの停止により、エグゾーストの温度が十分に高い場合、エグゾーストにおいて燃料と空気の混合物を適切に爆発させることも可能であり、これによってノイズは、ダブルクラッチングでさらによく聞き取れるようになる。
【0015】
本発明に基づく方法のもう1つの実施形態では、第1段階において、トランスミッションによって要求されるトルクが最小トルクよりも小さい場合、エンジンはこの設定可能な最小トルクで作動するようになっている。
【0016】
本発明に基づく方法のもう1つの実施形態では、オートマチックトランスミッションからのリザーブ要求がなく、直接のトランスミッション動作があり、要求されているトランスミッショントルクが車両運転者によって設定される希望トルクよりも大きい場合にのみ、第3段階において、遅いイグニションタイミングが設定され、及び/又は第4段階において、エンジンの1つ又は複数のシリンダが停止するようになっている。
【0017】
本発明に基づく方法では、同期に必要なエンジン回転数が、自動的に測定されたホイール回転数及び規定の目標回転数比から算出される。
【0018】
1つ又は複数のシリンダの停止は、エンジン回転数が目標の同期回転数に接近した場合、回転数及びシフトに応じて同じく自動的に行われる。これによって、シフト動作の終わりに「ボコボコと泡立つような音」が生じる。
【0019】
本発明に基づく方法では、エンジンの最大トルクリザーブが算出され、設定可能な特性マップによって決定される。この数値を用いることにより、シフト及び回転数に応じて、エンジンのトルクリザーブ量若しくはイグニション角、すなわちイグニションタイミングの位置が決定される。
【0020】
次に、本発明を実施例に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ダブルクラッチング機能の第1の図。
【図2】サウンド機能を備えるダブルクラッチングの第2の図。
【図3】サウンド機能のないダブルクラッチング機能の第2の図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、自動ダブルクラッチングを伴うシフトダウン動作の時間経過例を示し、25.8秒〜27.2秒の時間域に対して様々なパラメータが示されている。図の上から下へ順に、遅いイグニション角5.1、基本イグニション角5.2及び実測値イグニション角5.3の時間経過、実測値減少工程6.1及び目標値減少工程6.2の時間経過、エンジン負荷7.1及びエンジンの目標値負荷7.2の時間経過、スロットルバルブのバルブ角8.1及び目標値バルブ角8.2の時間経過、エンジンのトランスミッショントルク9.1、エンジン目標値トルク9.2、リザーブ目標値トルク9.3及びエンジン実測値トルク9.4の時間経過、エンジン回転数10.1及びタービン回転数10.2の時間経過が示されている。リザーブ割当11.1、最小動作11.2及び最大動作11.3を必要とする時間域は、斜線で示されている。
【0023】
トランスミッションが油圧のダウンタイムにある第1段階1においては、エンジンによってもたらされる実測値トルク9.4が、トランスミッションから要求されるトランスミッショントルク9.1に達するまで徐々に上昇する。スロットルバルブの目標値バルブ角8.2及び実際のバルブ角8.1は、このとき10%より小さい。実測値イグニション角5.3は、典型的な場合、約+10°〜+20°のクランク角、すなわち、通常のように明らかに上死点前で変化する。エンジン回転数10.1及びタービン回転数10.2は、ゆっくりと、継続的に減少している。
【0024】
同期が行われる第2段階2においては、エンジンによってもたらされるエンジン実測値トルク9.4が、エンジン目標値トルク9.2よりもまだ小さく、その数値はトランスミッショントルク9.1と等しい。スロットルバルブは、第2段階2において、引き続き開いている。この第2段階2では、迅速なシフト動作を達成するため、エンジンによってもたらされるエンジン実測値トルク9.4の上昇が可能な限り急いで行われることから、エンジン目標値トルク9.2は特に大きい。エンジン実測値トルク9.4は、エンジン目標値トルク9.2に達するまで常に増加している。第2段階2では、要求されるリザーブ目標値トルク9.3が、第1段階1に比べて特に大きい。
【0025】
第2段階と同様に同期が行われ、エンジン実測値トルク9.4が同期に必要なエンジン目標値トルク9.2に達している第3段階3では、非常に遅い実測値イグニション角5.3が設定されており、実測値イグニション角5.3は、イグニションタイミングがすでに比較的遅く設定されている第1段階1と比較しても、さらに遅い方向にずらされる。第3段階3の終わりに、図に示されている実施形態の実測値イグニション角5.3は、−20°のクランク角に設定されている。イグニション角を遅角方向に強くずらすことにより、はっきりと聞き取れるノイズ、主観的には非常にスポーティなサウンドとして感じられる変更された排気音がエンジンによって生み出される。このために、追加のリザーブ目標値トルク9.3が要求され、その数値は、第3段階3の経過中では主に400Nm〜200Nmである。
【0026】
図2は、自動ダブルクラッチングを伴うシフトダウン動作の、図1に示された時間経過例(25.8秒〜27.3秒の時間域)を示し、いわゆるサウンド機能をもつダブルクラッチングを伴う場合の、トランスミッショントルク9.1、エンジン目標値トルク9.2、リザーブ目標値トルク9.3、エンジン実測値トルク9.4及び運転者設定トルク9.5の時間経過と、エンジン回転数10.1及びタービン回転数10.2の時間経過とが示されている。
【0027】
ここに示されているトルク9.1〜9.2及び回転数10.1と10.2の経過は、特に、実測値イグニション角5.3の遅角方向への移動に関して、及び追加的に要求されるリザーブ目標値トルク9.3の経過に関して、図1に示されている経過と対応している。第1段階1及び第2段階2では、リザーブ目標値トルク9.3の経過から下の面積が斜線で示されている。第3段階3では、リザーブ目標値トルク9.3の経過から下の面積がクロスの斜線で示されている。このクロスした斜線部分は、サウンド機能からのトルクリザーブになる。
【0028】
図3は、図2に示された、サウンド機能のないシフトダウン動作時間経過例を示している。ここに示されている経過は、本発明に基づく、第3段階3での遅角方向への実測値イグニション角5.3の移動がなく、第3段階3において追加的に要求されるリザーブ目標値トルク9.3の経過のない方法を示し、従って、本発明に基づいて作用し、変更された排気音として主観的に非常にスポーティなノイズに感じられ、サウンド機能とも呼ばれる、はっきり聞き取り可能なノイズの発生しない、自動ダブルクラッチングに対する経過を示している。第1段階1及び第2段階2では、リザーブ目標値トルク9.3の経過から下の面積が同様に斜線で示されている。第3段階3では、このリザーブ目標値トルク9.3はゼロである。
【符号の説明】
【0029】
1 第1段階
2 第2段階
3 第3段階
4 第4段階
5.1 遅いイグニション角
5.2 基本イグニション角
5.3 実測値イグニション角
6.1 実際値減少工程
6.2 目標値減少工程
7.1 エンジン負荷
7.2 目標値負荷
8.1 バルブ角
8.2 目標値バルブ角
9.1 トランスミッショントルク
9.2 エンジン目標値トルク
9.3 リザーブ目標値トルク
9.4 エンジン実際値トルク
9.5 運転者設定トルク
10.1 エンジン回転数
10.2 タービン回転数
11.1 リザーブ割当
11.2 最小動作
11.3 最大動作

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトショックの軽減及び/又は補整のため、シフトダウンの際に、自動的にダブルクラッチングが行われ、トランスミッションが油圧のダウンタイムにある第1段階(1)においては、エンジンによってもたらされるエンジン実測値トルク(9.4)が、前記トランスミッションから要求されるトランスミッショントルク(9.1)に達するまで徐々に上昇し、前記エンジン実測値トルク(9.4)がエンジン目標値トルク(9.2)よりも小さい第2段階では、スロットルバルブが再度開く、内燃機関及びオートマチックトランスミッションを備える車両のシフト動作制御方法であって、
前記エンジン実測値トルク(9.4)がエンジンの同期に必要な前記エンジン目標値トルク(9.2)に達している第3段階(3)では、遅い実測値イグニション角(5.3)が設定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第3段階では、設定された前記実測値イグニション角(5.3)が、少なくとも一時的に+5°クランク角(KW)よりも遅く、特に、一時的に−10°クランク角(KW)よりも遅いことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第4段階(4)において、前記エンジンの1つ又は複数のシリンダが停止することを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1段階(1)において、前記トランスミッションによって要求される前記トランスミッショントルク(9.1)が最小トルクよりも小さい場合、前記エンジンは設定可能な前記最小トルクで作動することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記オートマチックトランスミッションからのリザーブ要求がなく、直接のトランスミッション動作があり、要求されているトランスミッショントルクが車両運転者によって設定される運転者設定トルク(9.5)よりも大きい場合にのみ、前記第3段階(3)において、遅い実測値イグニション角(5.3)が設定され、及び/又は前記第4段階(4)において、前記エンジンの1つ又は複数のシリンダが停止することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−516791(P2011−516791A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504334(P2011−504334)
【出願日】平成21年3月7日(2009.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001646
【国際公開番号】WO2009/127296
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(598051819)ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト (1,147)
【氏名又は名称原語表記】Daimler AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 137,70327 Stuttgart,Deutschland
【Fターム(参考)】