説明

ダンパ装置

【課題】作動液が充填されたシリンダおよびピストンロッドを備えるシリンダ装置を備えるダンパ装置において、シリンダに対するピストンロッドの位置の調整量の増加およびダンパ装置の小型化を図る。
【解決手段】シリンダ11に対するピストンロッド16の往復運動を減衰させる減衰力が発生するダンパ装置1は、ピストンロッド16の往復運動により、第1流体室21とタンク30との間で作動液を移送するポンプ機構40と、ポンプ機構40とタンク30および第1流体室21との間の連通状態を設定する切換弁60とを備える。ポンプ機構40は、ピストンロッド16との協働によりポンプ室50を形成するポンプロッド41を備える。前記連通状態は、タンク30の作動液がポンプ室50を介して第1流体室21に導かれる第1連通状態と、第1流体室21の作動液がポンプ室50を介してタンク30に導かれる第2連通状態とである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ装置およびタンクを備えるダンパ装置に関し、さらに詳細には、シリンダに対するピストンロッドの位置の調整が可能なダンパ装置に関する。そして、該ダンパ装置は、例えば、車両に使用されて車高の調整を可能とする。
【背景技術】
【0002】
車両に備えられて車高調整を可能とするダンパ装置として、作動液が充填されたシリンダと、シリンダ内を第1流体室と第2流体室とに区画するピストン部を有すると共にシリンダを貫通して外部に延出するピストンロッドと、作動液が貯留されるタンクと、シリンダとタンクとの間で作動液の流れを切り換える切換弁とを備えるものは知られている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−86623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車高調整が可能なダンパ装置において、車高を高くする際には、切換弁により作動油の流れが制御されて、タンクに封入された加圧ガスにより、作動液がタンクからシリンダ内に供給される。しかしながら、タンクから供給される作動液によりシリンダでの作動液の圧力が増加する一方で、タンクでは作動液が減少するにつれて前記加圧ガスの圧力が低下するので、シリンダでの作動液の最低圧力およびタンクでの加圧ガスの圧力が平衡状態になると、タンクからシリンダへ作動液を供給することができない。このため、車高の上昇調整が加圧ガスの圧力に制約されて、制限されたものとなる。
逆に、車高を低くする際には、切換弁により作動油の流れが制御されて、作動液がシリンダからタンクに供給される。しかしながら、シリンダから供給される作動液によりタンクでの加圧ガスの圧力が増加するので、シリンダでの作動液の最高圧力およびタンクでの加圧ガスの圧力が平衡状態になると、タンクからシリンダへ作動液を供給することができない。このため、車高の低下調整が加圧ガスの圧力に制約されて、制限されたものとなる。
このように、車高の上昇調整および低下調整は、いずれも限定的に行われるだけで、大きな調整量での車高調整は困難である。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、作動液が充填されたシリンダおよびピストンロッドを備えるシリンダ装置を備えるダンパ装置において、セルフレベリングによるシリンダに対するピストンロッドの位置調整を可能にしながら、ダンパ装置の小型化を図ることを目的とする。
そして、本発明は、さらに、車両の高速走行時に車高を低下させることで、車両の走行安定性、操縦安定性および燃費性能の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、作動液が充填されたシリンダ室(20)を形成するシリンダ(11)と、前記シリンダ室(20)を第1流体室(21)と第2流体室(22)とに区画するピストン部(17)を有すると共に前記シリンダ(11)を貫通して外部に延出するピストンロッド(16)と、作動液が貯留されるタンク(30)と、を備え、前記シリンダ(11)に対する前記ピストンロッド(16)の往復運動による前記第1流体室(21)と前記第2流体室(22)との間での作動液の流動抵抗により前記往復運動を減衰させる減衰力が発生するダンパ装置において、前記ピストンロッド(16)の前記往復運動により、前記第1流体室(21)および前記第2流体室(22)の一方である制御流体室(21)と前記タンク(30)との間で作動液を移送するポンプ機構(40)と、前記ポンプ機構(40)と前記タンク(30)および前記制御流体室(21)との間の連通状態を設定する設定部材(60)とを備え、前記ポンプ機構(40)は、前記ピストンロッド(16)に挿入されると共に前記ピストンロッド(16)との協働によりポンプ室(50)を形成するポンプロッド(41)を備え、前記連通状態は、前記タンク(30)の作動液が前記ポンプ室(50)を介して前記制御流体室(21)に導かれる第1連通状態と、前記制御流体室(21)の作動液が前記ポンプ室(50)を介して前記タンク(30)に導かれる第2連通状態とであるダンパ装置である。
【0007】
これによれば、ダンパ装置は、シリンダに対するピストンロッドの往復運動により作動するポンプ機構を備え、該ポンプ機構が、シリンダに対するピストンロッドの変位量に応じたポンプ室の容積変化により、タンクまたはシリンダ内の制御流体室からポンプ室に吸入した作動液を制御流体室またはタンクに対して吐出することで、シリンダに対するピストンロッドの位置が調整される。このように、ピストンロッドにポンプ室を設けたことにより、作動液が貯留されるタンクでの作動液の加圧状態による影響を大きく受けずに、セルフレベリングによるシリンダに対するピストンロッドの位置調整ができる。
また、タンクと制御流体室との間の作動液の移送は、共通のポンプ室を介して行われるので、第1,第2連通状態で別々のポンプ室を介して作動液が移送される場合に比べて、ポンプ機構を小型化でき、ひいてはダンパ装置を小型化できる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のダンパ装置であって、前記ポンプ機構(40)は、前記ポンプ室(50)への作動液の流入のみを許容する吸入弁(42i)と、前記ポンプ室(50)からの作動液の流出のみを許容する吐出弁(42o)とを備え、前記ポンプ機構(40)には、前記タンク(30)と前記ポンプ室(50)とを連通させるタンク用通路(55)と、前記制御流体室(21)と前記ポンプ室(50)とを連通させるシリンダ用通路(56)とが設けられ、前記第1連通状態は、前記タンク用通路(55)と前記ポンプ室(50)とが前記吸入弁(42i)を介して連通すると共に前記シリンダ用通路(56)と前記ポンプ室(50)とが前記吐出弁(42o)を介して連通する状態であり、前記第2連通状態は、前記シリンダ用通路(56)と前記ポンプ室(50)とが前記吸入弁(42i)を介して連通すると共に前記タンク用通路(55)と前記ポンプ室(50)とが前記吐出弁(42o)を介して連通する状態であるダンパ装置である。
これによれば、連通状態が設定部材により第1,第2連通状態に設定されたとき、タンクおよび制御流体室からポンプ室への作動液の移送が同じ吸入弁を通じて行われ、ポンプ室からタンクおよび制御流体室への作動液の移送が同じ吐出弁を通じて行われるので、タンクおよび制御流体室からポンプ室への作動液のそれぞれの移送が異なる吸入弁を介して行われ、ポンプ室からタンクおよび制御流体室への作動液のそれぞれの移送が異なる吐出弁を介して行われる場合に比べて、吸入弁および吐出弁を備えるポンプ機構を小型化でき、ひいてはダンパ装置を小型化できる。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のダンパ装置であって、前記ポンプ機構(40)には、前記吸入弁(42i)が配置される吸入通路(53)と、前記吐出弁(42o)が配置される吐出通路(54)とが設けられ、前記吸入通路(53)および前記吐出通路(54)は、前記ポンプ室(50)に吸入される作動液および前記ポンプ室(50)から吐出される作動液を導くと共に前記ポンプ室(50)に開口する共通の共用通路部(57)を有するダンパ装置である。
これによれば、吸入通路および吐出通路が、該両通路に共通の共用通路部を有することから、吸入通路の全体および吐出通路の全体が別々である場合に比べて、吸入通路および吐出通路をコンパクトに配置することができるので、ポンプ機構を小型化できる。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載のダンパ装置であって、前記設定部材(60)は、前記連通状態を、前記第1連通状態と、前記第2連通状態と、前記タンク(30)と前記ポンプ室(50)とが遮断された状態で前記制御流体室(21)と前記ポンプ室(50)とが連通する第3連通状態とに切り換える切換弁であるダンパ装置である。
これによれば、第3連通状態では、制御流体室とタンクとの間での作動液の増減がないので、ピストンロッドの位置調整が行われることなく、ピストンロッドの位置が維持される。
そして、前記減衰力により、ピストンロッドの往復運動が減衰するダンパ機能が奏される。
また、ポンプ室とタンクおよび制御流体室との間の連通状態が切換弁により第1,第2,第3連通状態を択一的に切り換えられることで、ピストンロッドの位置の維持、上昇調整および低下調整の切換ができる。
【0011】
請求項5記載の発明は、車両の車高を調整可能な請求項1から4のいずれか1項記載のダンパ装置であって、前記車両の走行状態に応じて前記設定部材(60)を制御する制御装置(70)を備え、前記制御装置(70)は、高速道路走行時または所定車速以上での走行時に前記車高が減少するように、前記設定部材(60)を制御するダンパ装置である。
これによれば、制御装置により制御されるダンパ装置により、車両の走行状態に応じて車高が制御されて、高速道路走行時または所定車速以上での高速走行時に車高が低下する。この結果、高速道路走行時または高速走行時に車両の重心を下げることができるので、車両の走行安定性および操縦安定性の向上が可能になり、さらに、車両の空気抵抗が減少するために空力性能が向上し、燃費性能の向上が可能になる。また、車高を下げることにより、車両の外観性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、作動液が充填されたシリンダおよびピストンロッドを備えるシリンダ装置を備えるダンパ装置において、セルフレベリングによるシリンダに対するピストンロッドの位置調整が可能になり、しかもダンパ装置の小型化が可能になる。そして、本発明によれば、さらに、車両の高速走行時に車高を低下させることで、空力性能が向上して、車両の走行安定性、操縦安定性および燃費性能の向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態であるダンパ装置の模式図であり、車高維持モードでの作動状態を示す。
【図2】図1のダンパ装置の作動状態を示す模式図であり、(a)は、車高上昇モードでの作動状態を示し、(b)は、車高低下モードでの作動状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図1,図2を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明が適用されたダンパ装置1は、機械である車両(図示されず)としての4輪車のサスペンション装置に備えられて、左右の前輪および左右の後輪のそれぞれに対して配置される。車両は、エンジンとして、内燃機関または電動機を備える。
【0015】
ダンパ装置1は、車両が備える第1支持部材としての車体2および第2支持部材としてのサスペンションアーム3との間に配置されるシリンダ装置10と、シリンダ装置10に充填される作動液(例えば、オイル)が貯留されるタンク30と、シリンダ装置10のピストンロッド16の上下方向での往復運動によりタンク30とシリンダ装置10のシリンダ11との間で作動液を移送するポンプ機構40と、ポンプ機構40とタンク30との間およびポンプ機構40とシリンダ11との間の連通状態を設定する設定部材としての切換弁60と、機械の運転状態としての車両の走行状態に応じて切換弁60を制御する制御装置70と、を備える。
ここで、車体2はばね上重量に含まれる部材であり、サスペンションアーム3はばね下重量に含まれる部材である。
【0016】
シリンダ装置10は、車体2およびサスペンションアーム3の一方の部材としてのサスペンションアーム3に結合されるシリンダ11と、シリンダ11内で上下方向に往復運動可能に設けられるピストン部17を有すると共にシリンダ11を貫通して外部に延出しているピストンロッド16とを備える。
【0017】
なお、本発明および実施形態において、説明の便宜上、上下方向は、シリンダ11の中心軸線Lに平行な軸線方向であるとし、上下方向において、シリンダ11に対して、ピストンロッド16が伸張する方向を上方、ピストンロッド16が収縮する方向を下方とする。また、シリンダ11に対する上下方向でのピストンロッド16の運動は、シリンダ11およびピストンロッド16間の相対運動を意味し、したがってシリンダ11およびピストンロッド16の少なくとも一方が運動することを意味する。さらに、上下方向でのピストンロッド16の位置は、シリンダ11に対する相対位置を意味する。
【0018】
シリンダ11とは別個であると共に該シリンダ11に一体に取り付けられて設けられるタンク30は、加圧手段により加圧された作動液が充填される貯留室31を形成する。貯留室31は、タンク30内に配置されたフリーピストン32により、作動液が充填された液室33と、作動液を加圧可能な前記加圧手段としての加圧用ガス(例えば、窒素ガス)が封入されたガス室34とに区画される。タンク30の少なくとも一部は、シリンダ11との一体成形により形成されてもよい。
【0019】
作動液が充填されたシリンダ室20を形成するシリンダ11は、該シリンダ室20を形成する外側シリンダ12と、該外側シリンダ12の内側に配置されると共にピストン部17が摺動可能に嵌合する内側シリンダ13と、両シリンダ12,13の上端を閉塞すると共にピストンロッド16のロッド部18が液密に貫通する上端壁14と、両シリンダ12,13の下端を閉塞すると共にサスペンションアーム3に結合される下端壁15とを有する。
【0020】
シリンダ室20は、ピストン部17により、第1流体室21とロッド部18が貫通している第2流体室22とに区画される。第1流体室21は、外側シリンダ12と内側シリンダ13との間に形成された体積補償室21aを有する。体積補償室21aは、充填された作動液のほかにガス(例えば窒素ガス)が封入されたガス室21bを有し、封入された該ガスの体積変化により、ピストンロッド16の往復運動に起因して第2流体室22の容積変化よりも大きくなる第1流体室21の容積変化が補償される。
【0021】
ピストンロッド16は、ピストン部17と、該ピストン部17と一体に設けられると共に上下方向に延びているロッド部18とを有する。ピストン部17には、シリンダ11に対するピストンロッド16の往復運動による第1流体室21と第2流体室22との間での作動液の流動抵抗に基づく減衰力を発生させる減衰力発生部23,24が設けられ、該減衰力によりシリンダ11に対するピストンロッド16の往復運動を減衰させることができる。周知の構造である減衰力発生部23,24は、例えばオリフィスと一方向弁との組合せで構成され、シリンダ装置10の伸張時用減衰力発生部23および収縮時用減衰力発生部24とから構成される。
【0022】
ロッド部18は、上下方向でピストン部17とは反対側の端部において、車体2およびサスペンションアーム3の他方の部材としての車体2に結合される。
また、ピストンロッド16は、内部空間26が設けられた中空のピストンロッドであり、該内部空間26に挿入されて配置された後記ポンプロッド41と協働して、ポンプ機構40の1つのポンプ室50を形成する。
【0023】
ポンプ機構40は、シリンダ11に固定されて設けられると共にピストンロッド16の内側に挿入されるポンプロッド41と、ポンプ室50に対する作動液の流入および流出を制御する流出入制御部材42と、ポンプ室50に吸入される作動液をタンク30(または貯留室31)または第1流体室21からポンプ室50に導く吸入通路53を形成する吸入導管43と、ポンプ室50から吐出された作動液を第1流体室21またはタンク30に導く吐出通路54を形成する吐出導管44と、吸入通路53および吐出通路54を択一的に介してタンク30とポンプ室50とを連通させるタンク用通路55を形成するタンク用導管45と、吸入通路53および吐出通路54を択一的に介して第1流体室21とポンプ室50とを連通させるシリンダ用通路56を形成するシリンダ用導管46とを備える。
【0024】
ここで、ピストンロッド16は、該ピストンロッド16に摺動可能に嵌合するポンプロッド41と共に、ポンプ室50を形成するポンプボディを構成する。そして、作動液のみで満たされるポンプ室50は、後記吸入弁42iおよび後記吐出弁42oの閉弁時には密閉空間になる。
また、この実施形態において、第1流体室21は、シリンダ室20を構成する第1流体室21および第2流体室22の一方で構成される制御流体室であり、該制御流体室には、ポンプ室50に対して吸入および吐出される作動液が充填されている。
外側シリンダ12および内側シリンダ13の少なくとも一方に固定されて設けられる各導管43〜46は、各通路53〜56を形成する通路形成部材を構成する。なお、各通路53〜56の少なくとも一部は、前記通路形成部材として、ブロック状の部材、またシリンダ11自体または該シリンダ11と一体成形された部材により形成されてもよい。
【0025】
軸状の部材であるポンプロッド41は、ピストン部17を液密に貫通して、第1流体室21とポンプ室50とに渡って上下方向に延びている。また、ポンプロッド41は、管状部材から構成されて、吸入導管43および吐出導管44の一部である共用導管部47を構成し、吸入通路53および吐出通路54の一部であると共にポンプ室50に開口する共用通路部57を形成している。それゆえ、ポンプ室50は、吸入通路53および吐出通路54に対して共通のポンプ室50である。
そして、ピストンロッド16の往復運動によるピストンロッド16の変位量に応じてポンプ室50内に位置するポンプロッド41の体積が変化することにより、ポンプ室50の容積が変化して、作動油の吸入および吐出、すなわち作動油の移送が行われる。
【0026】
吸入通路53は、共用通路部57と、独立吸入導管部43aにより形成される独立吸入通路部53aとから構成される。吐出通路54は、共用通路部57と、独立吐出導管部44aにより形成される独立吐出通路部54aとから構成される。
流出入制御部材42は、独立吸入通路部53aに配置されてポンプ室50への作動液の流入のみを許容する吸入弁42iと、独立吐出通路部54aに配置されてポンプ室50からの作動液の流出のみを許容する吐出弁42oとを有する。吸入弁42iおよび吐出弁42oは、一方向弁から構成される。
なお、別の例として、吸入通路53および吐出通路54が、その全体で互いに独立の通路から構成されてもよい。
【0027】
一部または全体がシリンダ室20に配置される切換弁60は、電磁弁から構成される三位置切換弁であり、独立吸入通路部53aおよび独立吐出通路部54aとタンク用通路55およびシリンダ用通路56との間に配置される。
切換弁60は、切換位置に応じて、前記連通状態を切り換える第1〜第3通路切換部61〜63を有する弁部64と、弁部64を駆動して各通路切換部61〜63と独立吸入通路部53a、独立吐出通路部54a、タンク用通路55およびシリンダ用通路56との接続状態を切り換える駆動部65とを有する。
【0028】
第1通路切換部61は、タンク用通路55とポンプ室50とが吸入通路53および吸入弁42iを介して連通すると共にシリンダ用通路56とポンプ室50とが吐出通路54および吐出弁42oを介して連通する第1連通状態を設定する。第2通路切換部62は、シリンダ用通路56とポンプ室50とが吸入通路53および吸入弁42iを介して連通すると共にタンク用通路55とポンプ室50とが吐出通路54および吐出弁42oを介して連通する状態である第2連通状態を設定する。第3通路切換部63は、第1流体室21とポンプ室50との連通を遮断した状態で、第1流体室21とポンプ室50とを吸入通路53および吸入弁42iと吐出通路54および吐出弁42oとを介して連通させる第3連通状態を設定する。
【0029】
吸入通路53、吐出通路54、タンク用通路55、シリンダ用通路56および流出入制御部材42のそれぞれの全体と、切換弁60の少なくとも一部とが、第1流体室21内に配置されていることにより、それら通路53〜56、流出入制御部材42および切換弁60を、第1流体室21を利用してコンパクトに配置することができるので、ダンパ装置1を小型化できる。
【0030】
制御装置70は、操作者により操作されてダンパ装置1の作動モードを設定するモード設定スイッチ71と、車両の走行状態を検出する状態検出手段とを備える検出部76と、検出部76からの検出信号が入力されると共に切換弁60の作動を制御する出力信号を出力する電子制御ユニット77とを備える。
【0031】
モード設定スイッチ71は、車高自動調整モード、車高維持モード、強制車高上昇モードおよび強制車高低下モードのうちで任意の作動モードを択一的に設定可能である。
前記状態検出手段は、例えばナビゲータやETC(自動料金収受システム)により高速道路に進入したと判定されたときに高速道路走行時を検出する高速道路走行検出手段72と、車速を検出する車速検出手段73とから構成される。
【0032】
図1を参照すると、コンピュータから構成される電子制御ユニット77は、高速道路走行検出手段72および車速検出手段73により検出される走行状態、およびモード設定スイッチ71により検出されるモード設定内容に応じて、切換弁60の作動を制御することにより、シリンダ装置10に、ダンパ機能およびシリンダ11に対するピストンロッド16の位置調整に基づく車高調整機能を行わせる。
【0033】
以下、ダンパ装置1の動作を説明する。なお、検出部76は、ピストンロッド16の上下方向での位置を検出する位置検出手段74を備え、車高上昇モードおよび車高低下モードにおいて、該位置検出手段74によりピストンロッド16の上限位置および下限位置が検出されたとき、制御装置70は後記第3切換位置を占めるように切換弁60を制御する。これにより、該上限位置および該下限位置において、減衰力発生部23,24により、ピストンロッド16の往復運動が減衰して車体2の振動が抑制されるダンパ機能が奏される。
【0034】
<車高維持モード>(図1参照)
モード設定スイッチ71により車高維持モードが設定されている場合。
電子制御ユニット77により制御された切換弁60は、第3通路切換部63によりシリンダ用通路56とポンプ室50とが、吸入通路53および吸入弁42iと吐出通路54および吐出弁42oとを通じて連通する第3連通状態となる第3切換位置を占めて、ダンパ装置1が車高を維持し、車体2の振動を抑制する第3作動モードとしての車高維持モードに設定される。
このとき、ピストンロッド16の往復運動である上下運動により、第1流体室21の作動液が、ポンプ機構40により吸入通路53および吸入弁42iを通じてポンプ室50に吸入された後、ポンプ室50から吐出通路54および吐出弁42oを通じて第1流体室21に吐出される。そして、ポンプ機構40により第1流体室21から吸入された作動液は第1流体室21に吐出されるので、車高維持モードが設定された時点(すなわち、切換弁60が第3切換位置に切り換えられた時点)での車高が維持される。
そして、減衰力発生部23,24により、ピストンロッド16の往復運動が減衰して車体2の振動が抑制されるダンパ機能が奏される。
【0035】
<車高上昇モード>(図1,図2(a)参照)
(1)モード設定スイッチ71により車高自動調整モードに設定されている場合であって、高速道路走行検出手段72により高速道路走行が検出されず、かつ車速検出手段73により所定車速未満の低車速状態が検出されたとき。
(2)モード設定スイッチ71により強制車高上昇モードが設定されている場合。
【0036】
切換弁60は、第1通路切換部61によりタンク用通路55とポンプ室50とが吸入通路53および吸入弁42iを通じて連通すると共に、シリンダ用通路56とポンプ室50とが吐出通路54および吐出弁42oを通じて連通する第1連通状態となる第1切換位置を占めて、ダンパ装置1が第1作動モードとしての車高上昇モードに設定される。
このとき、ピストンロッド16の往復運動により作動するポンプ機構40により、タンク30の作動液が、吸入通路53を通じてポンプ室50に吸入された後、ポンプ室50から吐出通路54を通じて第1流体室21に吐出される。この動作が繰り返されることで、タンク30の作動液が第1流体室21に供給されて、車高が上昇する。
【0037】
<車高低下モード>(図1,図2(b)参照)
(1)モード設定スイッチ71により車高自動調整モードに設定されている場合であって、高速道路走行検出手段72により高速道路走行が検出されたとき、または車速検出手段73により所定車速以上の高車速状態が検出されたとき。
(2)モード設定スイッチ71により強制車高低下モードが設定されている場合。
【0038】
切換弁60は、第2通路切換部62によりシリンダ用通路56とポンプ室50とが吸入通路53および吸入弁42iを通じて連通すると共にタンク用通路55とポンプ室50とが吐出通路54および吐出弁42oを通じて連通する第2連通状態となる第2切換位置を占めて、ダンパ装置1が第2作動モードとしての車高低下モードに設定される。
このとき、ピストンロッド16の往復運動である上下運動により、第1流体室21の作動液が、ポンプ機構40により吸入通路53を通じてポンプ室50に吸入された後、ポンプ室50から吐出通路54を通じてタンク30に吐出される。この動作が繰り返されることで、第1流体室21の作動液がタンク30に排出されて、車高が低下する。
【0039】
以下、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
シリンダ11に対するピストンロッド16の往復運動による第1流体室21と第2流体室22との間での作動液の流動抵抗により往復運動を減衰させる減衰力が発生するダンパ装置1が、ピストンロッド16の往復運動により、第1流体室21とタンク30との間で作動液を移送するポンプ機構40と、ポンプ機構40とタンク30および第1流体室21との間の連通状態を設定する切換弁60とを備え、ポンプ機構40は、ピストンロッド16に挿入されると共にピストンロッド16との協働によりポンプ室50を形成するポンプロッド41を備え、連通状態は、タンク30の作動液がポンプ室50を介して第1流体室21に導かれる第1連通状態と、第1流体室21の作動液がポンプ室50を介してタンク30に導かれる第2連通状態とである。
この構造により、ダンパ装置1のポンプ機構40が、シリンダ11に対するピストンロッド16の変位量に応じたポンプ室50の容積変化により、タンク30または第1流体室21からポンプ室50に吸入した作動液を第1流体室21またはタンク30に対して吐出することで、ピストンロッド16の位置が調整されて車高が調整される。このように、ピストンロッド16にポンプ室50を設けたことにより、タンク30内に封入されたガスの圧力による作動液の加圧状態およびシリンダ11内に封入されたガスの圧力による影響を大きく受けずに、セルフレベリングによる車高調整を行うことができる。
また、タンク30と第1流体室21との間の作動液の移送は、共通のポンプ室50を介して行われるので、前記第1,第2連通状態で別々のポンプ室を介して作動液が移送される場合に比べて、ポンプ機構40を小型化でき、ひいてはダンパ装置1を小型化できる。
【0040】
ポンプ機構40は、ポンプ室50への作動液の流入のみを許容する吸入弁42iと、ポンプ室50からの作動液の流出のみを許容する吐出弁42oとを備え、ポンプ機構40には、タンク30とポンプ室50とを連通させるタンク用通路55と、第1流体室21とポンプ室50とを連通させるシリンダ用通路56とが設けられ、第1連通状態は、タンク用通路55とポンプ室50とが吸入弁42iを介して連通すると共にシリンダ用通路56とポンプ室50とが吐出弁42oを介して連通する状態であり、第2連通状態は、シリンダ用通路56とポンプ室50とが吸入弁42iを介して連通すると共にタンク用通路55とポンプ室50とが吐出弁42oを介して連通する状態である。
この構造により、連通状態が切換弁60により前記第1,第2連通状態に設定されたとき、タンク30および第1流体室21からポンプ室50への作動液の移送が同じ吸入弁42iを通じて行われ、ポンプ室50からタンク30および第1流体室21への作動液の移送が同じ吐出弁42oを通じて行われるので、タンク30および第1流体室21からポンプ室50への作動液のそれぞれの移送が異なる吸入弁を介して行われ、ポンプ室50からタンク30および第1流体室21への作動液のそれぞれの移送が異なる吐出弁を介して行われる場合に比べて、吸入弁42iおよび吐出弁42oを備えるポンプ機構40を小型化でき、ひいてはダンパ装置1を小型化できる。
【0041】
ポンプ機構40には、吸入弁42iが配置される吸入通路53と、吐出弁42oが配置される吐出通路54とが設けられ、吸入通路53および吐出通路54は、ポンプ室50に吸入される作動液およびポンプ室50から吐出される作動液を導くと共にポンプ室50に開口する共通の共用通路部57を有する。
この構造により、吸入通路53および吐出通路54が、該両通路53,54に共通の共用通路部57を有することから、吸入通路の全体および吐出通路の全体が別々である場合に比べて、吸入通路53および吐出通路54をコンパクトに配置することができるので、ポンプ機構40を小型化できる。
さらに、共用通路部57がポンプロッド41内に形成されることにより、吸入通路53および吐出通路54の配置の一層のコンパクト化が可能になる。
【0042】
切換弁60は、ポンプ室50とタンク30および第1流体室21との間の連通状態を、第1連通状態と、第2連通状態と、タンク30とポンプ室50とが遮断された状態で第1流体室21とポンプ室50とが連通する第3連通状態とに切り換える。
この構造により、第3連通状態では、第1流体室21とタンク30との間での作動液の増減がないので、ピストンロッド16の位置調整による車高調整が行われることなく、車高が維持される。そして、減衰力発生部23,24により、ピストンロッド16の往復運動が減衰して車体2の振動が抑制されるダンパ機能が奏される。
また、ポンプ室50とタンク30および第1流体室21,22との間の連通状態が切換弁60により第1,第2,第3連通状態を択一的に切り換えられることで、車高の維持、上昇調整および低下調整の切換ができる。そして、車高を低下させることにより、車両の外観性を向上させることができる。
【0043】
ダンパ装置1が、車両の走行状態に応じて切換弁60を制御する制御装置70を備え、制御装置70は、高速道路走行時または所定車速以上での走行時に車高が減少するように切換弁60を制御することにより、車両の走行状態に応じて車高が制御されて、高速道路走行時または所定車速以上での高速走行時に車高が低下する。この結果、高速道路走行時または高速走行時に車両の重心を下げることができるので、車両の走行安定性および操縦安定性の向上が可能になり、さらに、車両の空気抵抗が減少して空力性能が向上し、燃費性能の向上が可能になる。
【0044】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
前記制御流体室は、第2流体室22であってもよい。この場合、前記第1連通状態および第2連通状態では、車高低下調整および車高上昇調整がそれぞれ行われる。
設定部材は、複数の開閉弁により構成されてもよい。吸入弁42iおよび吐出弁42oは、一方向弁以外に、ピストンロッド16の上下運動に応じて開閉される電磁弁などの開閉弁により構成されてもよい。
各ダンパ装置1により、前記実施形態では全車輪が一斉に車高調整されたが、前記状態検出手段により、車両の加速・減速時やカーブ走行時が検出される場合、走行状態車輪毎に互いに独立して、または、前輪毎および後輪毎に互いに独立して、または、右輪毎および左輪毎に独立して調整することも可能である。また、前記状態検出手段により、車両の重量が検出される場合、積載重量に応じてダンパ装置1による車高調整が行われてもよい。
ポンプロッド41は、作動液を導く通路を形成することなく、中実の軸状部材により構成されてもよい。この場合、吸入通路53および吐出通路54は、ポンプロッド41とは別個の部材により形成される。
シリンダ11は、外側シリンダ12と内側シリンダ13との二重構造でなく、単一のシリンダから構成されてもよい。
タンク30の全体またはその一部が、シリンダ11内に内蔵されてもよい。
タンク30内の作動液は、加圧手段により加圧されていなくてもよい。
切換弁60の全部または流出入制御部材42の一部または全部が、シリンダ室20の外部に配置されてもよい。
ポンプロッド41がピストンロッド16の外側に挿入されてポンプ室50が形成されてもよい。
ダンパ装置1は、車両以外の機械に備えられてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ダンパ装置
11 シリンダ
16 ピストンロッド
17 ピストン部
21,22 流体室
30 タンク
40 ポンプ機構
41 ポンプロッド
42i 吸入弁
42o 吐出弁
50 ポンプ室
53 吸入通路
54 吐出通路
55 タンク用通路
56 シリンダ用通路
57 共用通路部
60 切換弁
70 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動液が充填されたシリンダ室を形成するシリンダと、前記シリンダ室を第1流体室と第2流体室とに区画するピストン部を有すると共に前記シリンダを貫通して外部に延出するピストンロッドと、作動液が貯留されるタンクと、を備え、
前記シリンダに対する前記ピストンロッドの往復運動による前記第1流体室と前記第2流体室との間での作動液の流動抵抗により前記往復運動を減衰させる減衰力が発生するダンパ装置において、
前記ピストンロッドの前記往復運動により、前記第1流体室および前記第2流体室の一方である制御流体室と前記タンクとの間で作動液を移送するポンプ機構と、
前記ポンプ機構と前記タンクおよび前記制御流体室との間の連通状態を設定する設定部材とを備え、
前記ポンプ機構は、前記ピストンロッドに挿入されると共に前記ピストンロッドとの協働によりポンプ室を形成するポンプロッドを備え、
前記連通状態は、前記タンクの作動液が前記ポンプ室を介して前記制御流体室に導かれる第1連通状態と、前記制御流体室の作動液が前記ポンプ室を介して前記タンクに導かれる第2連通状態とであることを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
請求項1記載のダンパ装置であって、
前記ポンプ機構は、前記ポンプ室への作動液の流入のみを許容する吸入弁と、前記ポンプ室からの作動液の流出のみを許容する吐出弁とを備え、
前記ポンプ機構には、前記タンクと前記ポンプ室とを連通させるタンク用通路と、前記制御流体室と前記ポンプ室とを連通させるシリンダ用通路とが設けられ、
前記第1連通状態は、前記タンク用通路と前記ポンプ室とが前記吸入弁を介して連通すると共に前記シリンダ用通路と前記ポンプ室とが前記吐出弁を介して連通する状態であり、
前記第2連通状態は、前記シリンダ用通路と前記ポンプ室とが前記吸入弁を介して連通すると共に前記タンク用通路と前記ポンプ室とが前記吐出弁を介して連通する状態であることを特徴とするダンパ装置。
【請求項3】
請求項2記載のダンパ装置であって、
前記ポンプ機構には、前記吸入弁が配置される吸入通路と、前記吐出弁が配置される吐出通路とが設けられ、
前記吸入通路および前記吐出通路は、前記ポンプ室に吸入される作動液および前記ポンプ室から吐出される作動液を導くと共に前記ポンプ室に開口する共通の共用通路部を有することを特徴とするダンパ装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載のダンパ装置であって、
前記設定部材は、前記連通状態を、前記第1連通状態と、前記第2連通状態と、前記タンクと前記ポンプ室とが遮断された状態で前記制御流体室と前記ポンプ室とが連通する第3連通状態とに切り換える切換弁であることを特徴とするダンパ装置。
【請求項5】
車両の車高を調整可能な請求項1から4のいずれか1項記載のダンパ装置であって、
前記車両の走行状態に応じて前記設定部材を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、高速道路走行時または所定車速以上での走行時に前記車高が減少するように、前記設定部材を制御することを特徴とするダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−196474(P2011−196474A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64773(P2010−64773)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】