説明

チタン酸バリウム系誘電体原料粉末、その製造方法、セラミックグリーンシートの製造方法、および積層セラミックコンデンサの製造方法

【課題】誘電率の温度特性が平坦化され、かつ、高温高電界での信頼性に優れた誘電体セラミックを形成することが可能なチタン酸バリウム系誘電体原料粉末、その製造方法などを提供する。
【解決手段】BaTiO3粉末の表面が、BaCO3とBaOの割合がモル比で、BaCO3/BaO=0.55以上であるバリウム化合物により被覆された構成とする。
BaTiO3粉末を用意し、このBaTiO3粉末を16時間以上、水系溶媒に浸漬する。
BaTiO3粉末として、特性調整用の添加成分が添加されたBaTiO3粉末を用いる。
本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末と、バインダーと、分散媒を含むシート成形用スラリーを調製し、このスラリーをシート状に成形してセラミックグリーンシートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミック原料粉末およびその製造方法に関し、詳しくは、積層セラミックコンデンサなどに用いられるチタン酸バリウム系誘電体原料粉末およびその製造方法、前記チタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いたセラミックグリーンシートの製造方法、および該セラミックグリーンシートを用いた積層セラミックコンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO3)系の誘電体セラミックは、誘電体材料として、積層セラミックコンデンサなどの電子部品に広く用いられている。
【0003】
そして、このチタン酸バリウム系の誘電体セラミックを誘電体材料として用いる場合、各種電気特性を改良するために、様々な副成分(例えば、希土類元素、Mg、Mnなど)を添加することが行われている。
【0004】
特に誘電率の温度特性と、高温高電界での信頼性を両立するためには、BaTiO3結晶粒子の表層部分に,上記の副成分が固溶した、コアシェル構造を備えていることが望ましい。すなわち、コアの部分には副成分が存在せず、シェルの部分に副成分が存在していることが望ましい。
【0005】
また、誘電率の温度特性と、高温高電界での信頼性をより高い次元で両立させるためには、コアとシェルは同心円状になっており、副成分の固溶の状態が結晶粒子の場所によらず,均一であることが望ましい。
【0006】
しかしながら、このような好ましい形の結晶構造を有する結晶粒子を得るためには、原料段階でBaTiO3粉末に適切な処理を施すことが必要になるが、そのような処理を施すことにより所望の特性を有するBaTiO3系セラミック粉末を得ることは容易ではないのが実情である。
【0007】
そこで、これらの課題を解決するために、BaTiO3を仮焼する工程で、所定のCO2雰囲気で仮焼を行い、BaTiO3粉末の表面にBaCO3層を形成するようにした、チタン酸バリウム系の誘電体セラミックの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
すなわち、特許文献1には、チタン酸バリウムの仮焼時の二酸化炭素分圧を大気中における二酸化炭素分圧よりも高い400〜1000ppmの雰囲気とすることにより、得られるチタン酸バリウム系粉末の表面に炭酸バリウムが形成されるようにして、仮焼時の合成過程において、粉末どうしの反応や粒成長を抑制して、微粒かつ均一粒径のチタン酸バリウム粉末を製造する方法が開示されている。
【0009】
そして、このようなチタン酸バリウム系粉末を用いて形成した成形体を焼成した場合、炭酸バリウムの反応抑制効果により、粒成長が抑制され、微粒かつ均一な粒径の結晶粒子からなるチタン酸バリウム系焼結体の誘電体セラミックが得られるとされている。
【0010】
しかしながら、上記の従来技術のように、チタン酸バリウムの仮焼時の二酸化炭素分圧を400〜1000ppmの雰囲気とするだけでは、誘電率の温度特性や高温高電界での信頼性などを十分に向上させることができない場合がある。
これは、チタン酸バリウムの仮焼時の二酸化炭素分圧を400〜1000ppmの雰囲気とするだけでは、チタン酸バリウム粉末の表面の、Baの炭酸化合物中における、BaCO3の比率を必ずしも十分に高くすることができないことによるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−1840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するものであり、誘電率の温度特性が平坦化され、かつ、高温高電界での信頼性に優れた誘電体セラミックを形成することが可能なチタン酸バリウム系誘電体原料粉末、その製造方法、さらには、前記チタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いたセラミックグリーンシートの製造方法、および該セラミックグリーンシートを用いて、誘電率の温度特性に優れ、かつ、高温高電界での信頼性に優れた積層セラミックコンデンサを製造することが可能な積層セラミックコンデンサの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、
BaTiO3粉末の表面が、BaCO3とBaOの割合がモル比で、BaCO3/BaO=0.55以上であるバリウム化合物により被覆されていること
を特徴としている。
【0014】
また、本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、特性調整用の添加成分を含有していてもよい。
【0015】
また、本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の製造方法は、
BaTiO3粉末を用意する工程と、
前記BaTiO3粉末を16時間以上、水系溶媒に浸漬する工程と
を具備することを特徴としている。
【0016】
また、本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の製造方法においては、前記BaTiO3粉末として、特性調整用の添加成分が添加されたBaTiO3粉末を用いることができる。
【0017】
また、本発明のセラミックグリーンシートの形成方法は、
請求項1または2記載のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末と、バインダーと、分散媒を含むシート成形用スラリーを調製する工程と、
前記シート成形用スラリーをシート状に成形してセラミックグリーンシートとする工程と
を具備することを特徴としている。
【0018】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、
請求項5の方法により形成した前記セラミックグリーンシートに導電性ペーストを付与して内部電極パターンを形成する工程と、
前記内部電極パターンが形成された前記セラミックグリーンシートを積層、圧着して積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して内部電極がセラミック層を介して積層された構造を有するセラミックコンデンサ素子を得る工程と
を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、BaTiO3粉末の表面が、BaCO3とBaOの割合がモル比で、BaCO3/BaO=0.55以上であるバリウム化合物により被覆されており、バリウム化合物中のBaCO3の比率が高いため、BaCO3の反応抑制効果により粒成長が抑制され、誘電率の温度特性が平坦で、かつ、高温高電界での信頼性に優れたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることができる。
【0020】
本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末のように、BaTiO3粉末表面のBaCO3とBaOの割合(BaCO3/BaO比)の大きい状態は、表面がBaCO3で覆われ、Tiリッチの表面層の露出の程度が減少するとともに、BaOの粉体表面への露出の程度が減少した状態である。
【0021】
そして、BaCO3がチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の表面に存在している状態では、粒成長が抑制され、局所的な粒成長が抑制されることにより、温度特性が平坦化される。それに加えて表面にTiリッチ相が存在しない状態では、局所的な添加元素の固溶(固溶バラツキ)が抑制され、高温高電界負荷に対する信頼性が向上する。
【0022】
一方、大気中でBaTiO3を仮焼合成したままの状態では、粉体表面のBaCO3/BaO比は小さくなるが、水中に長時間浸漬することによりBaTiO3粉末の表面では、Baの溶出と、溶出したBaイオンと、水中のCO2との反応により生成するBaCO3が再析出して表面のBaCO3濃度が高くなり、上述の作用効果を得ることが可能になる。
【0023】
また、本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末においては、特性調整用の添加成分を含有させることが可能であり、添加成分を含有させることにより、意図する特性をさらに向上させたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることが可能になる。
なお、特性調整用の添加成分としては、希土類元素、Mg、Mnなどが例示される。より具体的には、BaZrO3、BaCO3、Gd23、Dy23、MnCO3、MgCO3、SiO2などを添加することができる。ただし、添加成分は上で例示したものに限られるものではない。
【0024】
また、本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の製造方法では、BaTiO3粉末を用意し、このBaTiO3粉末を16時間以上、水系溶媒に浸漬するようにしているので、BaCO3とBaOの割合がモル比で、BaCO3/BaO=0.55以上であるバリウム化合物により、BaTiO3粉末の表面が被覆されたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を効率よく製造することができる。
【0025】
また、BaTiO3粉末として、特性調整用の添加成分が添加されたBaTiO3粉末を用いることにより、添加成分を含み、意図する特性をさらに向上させたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を効率よく製造することが可能になる。
【0026】
また、本発明のセラミックグリーンシートの形成方法のように、請求項1または2記載のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末と、バインダーと、分散媒を含むシート成形用スラリーを調製し、このシート成形用スラリーをシート状に成形してセラミックグリーンシートとするようにした場合、誘電率の温度特性に優れ、かつ、負荷試験時などにおける高温高電界での信頼性に優れた誘電体セラミック層を形成することが可能なセラミックグリーンシートを得ることが可能になる。したがって、本発明のセラミックグリーンシートを用いることにより、特性の良好な積層セラミックコンデンサを効率よく製造することが可能になる。
【0027】
なお、セラミックグリーンシートを形成するにあたっては、BaTiO3粉末を16時間以上、水系溶媒に浸漬した後の、BaCO3とBaOの割合がモル比で、BaCO3/BaO=0.55以上であるバリウム化合物により表面が被覆されたBaTiO3粉末を含むスラリーにバインダーを添加してシート成形用スラリーとし、このシート成形用スラリーをシート状に成形してセラミックグリーンシートとすることも可能である。このようにした場合、水系溶媒に浸漬した後に乾燥や仮焼、さらには仮焼後の分散やスラリー化の工程を経ずに、効率よくチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を含むスラリーを得ることが可能になり、このスラリーをシート状に成形することにより、特性の良好な積層セラミックコンデンサを効率よく製造することが可能なセラミックグリーンシートを効率よく製造することができる。
この方法は、セラミックグリーンシートとして、水系溶媒を含むセラミックグリーンシートを用いることが望ましいような場合に、特に有意義である。
【0028】
また、本発明の積層セラミックコンデンサの製造方法は、上述のようにして作製したセラミックグリーンシートに導電性ペーストを付与して内部電極パターンを形成し、これを積層、圧着して積層体を形成した後、積層体を焼成して内部電極がセラミック層を介して積層された構造を有するセラミックコンデンサ素子を得るようにしているので、誘電率の温度特性に優れ、高温高電界での信頼性の高い積層セラミックコンデンサを効率よく製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】表1の試料番号1と試料番号3のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末について、XPSにて、その表面のBa3d5/2およびTi2pに由来するスペクトルを測定した結果(チャート)を示す図である。
【図2】表1の試料番号1のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の、XPSにおける、BaCO3とBaOへのピーク分離の状態を示す図である。
【図3】本発明の実施例にかかるチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて製造される積層セラミックコンデンサの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0031】
出発原料としてBaCO3、TiO2を準備し、BaとTiの比が、Ba/Ti=1.01(at比)となるように秤量、配合した。それから、この配合原料を、ボールミル(直径が2mmのPSZメディアを使用)により混合し、大気中にて900〜1050℃で熱処理することにより、一般式Ba1.01TiO3で表されるチタン酸バリウム系化合物を合成した。
そして、このチタン酸バリウム系化合物を粉砕することにより、平均一次粒径がそれぞれ80nm,150nm,340nmのチタン酸バリウム系化合物粉末(Ba1.01TiO3粉末)を得た。
【0032】
次に、これらのBa1.01TiO3粉末100gを、水100gとともに容器に入れて、表1に記載の時間(1〜120時間)、攪拌を行いながら水に浸漬した。攪拌は、具体的には、粉砕メディアを入れていないポリポット(容器)に、Ba1.01TiO3粉末と、水とを入れて回転させることにより行った。なお、この工程は、粉砕を伴わない(攪拌のみを伴う)、チタン酸バリウム系化合物粉末(Ba1.01TiO3粉末)の水への浸漬工程となる。
【0033】
その後、一部はすぐに乾燥させることにより、チタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得た。そして、得られたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末について、XPS(PHYSICAL ELECTRONICS社製Quantum2000)にて、その表面のBa3d5/2およびTi2pに由来するスペクトルを測定し、それぞれのピークの比率から、各チタン酸バリウム系誘電体原料粉末のBa/Ti比を算出した。
【0034】
なお、各チタン酸バリウム系誘電体原料粉末(試料)のBa/Ti比(mol比)を表1に示す。
また、図1に、表1の試料番号1と試料番号3のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末について、XPSにて、その表面のBa3d5/2およびTi2pに由来するスペクトルを測定した結果(チャート)を示す。
【0035】
また、ガウス−ローレンツ関数を用いたピーク分離により各試料の表面の、BaCO3/BaO比(mol比)を算出した。その結果を表1に示す。
【0036】
また、表1の試料番号1のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の、XPSにおける、BaCO3とBaOへのピーク分離の状態を図2に示す。
【0037】
残ったスラリーには、上記の攪拌の終了後30分以内に、Ba1.01TiO3粉末100molに対して、
Dy23 :4mol、
MnCO3 :1mol、
MgCO3 :3mol、
SiO2 :3mol
の割合でそれぞれ添加し、ビーカー中で15分間攪拌後、強制循環型の湿式粉砕機(直径0.3mmのPSZメディアを使用)にて1時間粉砕した。得られたスラリーは粉砕終了後15分以内に140℃のオーブンに入れて乾燥して誘電体原料粉末(添加成分を含むチタン酸バリウム系誘電体原料粉末)を得た。
【0038】
この誘電体原料粉末(添加成分を含むチタン酸バリウム系誘電体原料粉末)に、ポリビニルブチラール系バインダーおよびエタノールなどの有機溶媒を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。
このセラミックスラリーをドクターブレード法により、焼成後の誘電体素子厚が2μmになるように、シート成形し、矩形のグリーンシートを得た。
【0039】
次に、上記セラミックグリーンシート上に、Niを導電成分として含む導電性ペーストをスクリーン印刷し、焼成後に内部電極となる内部電極パターン(導電性ペースト層)を形成した。
【0040】
それから、上述のようにして内部電極パターンを形成したセラミックグリーンシートと、内部電極パターンを形成していないセラミックグリーンシートを所定の順序で積層、圧着した後、カットすることにより、内部電極パターンが交互に逆側の端面に引き出された構造を有する積層体を得た。また、焼結体密度を測定するために、積層体と同じ寸法の単板を作製した。
【0041】
この積層体および単板を350℃に加熱してバインダーを除去した後、最高温度1230℃、酸素分圧10-9・5MPaにて120分間保持することにより、内部電極がセラミック層を介して積層された構造を有するセラミックコンデンサ素子(セラミック積層体)を得た。
【0042】
得られたセラミックコンデンサ素子の両端面にガラスフリットを含有するCuペースト(導電性ペースト)を塗布し、N2雰囲気中において800℃の温度で焼き付けることにより、内部電極と導通する外部電極を形成した。これにより、図3に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサが得られる。
【0043】
なお、この積層セラミックコンデンサは、図3に示すように、内部電極2a,2bが、セラミック層(誘電体層)3を介して対向するように配設されたセラミック素子(コンデンサ素子)1の両端部に、内部電極2a,2bと導通するように外部電極4a,4bが配設された構造を有している。
【0044】
上記のようにして作製した積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅1.6mm、長さ3.2mm、厚さ0.8mmであり、内部電極間に介在するセラミック層の厚みt(図3)は2μmであった。また、有効誘電体層(セラミック層)の総数は100であり、一層当たりの対向電極面積は2.1mm2であった。
【0045】
このようにして得られた積層セラミックコンデンサについて、静電容量の温度特性を測定した。
温度特性の指標として、25℃における静電容量を基準とした125℃における静電容量の変化率を測定した。静電容量の測定は、1kHz、1Vrmsの交流電界を印加して行った。
【0046】
高温負荷寿命試験は、温度125℃にて、60Vの電圧を印加し、その絶縁抵抗の経時変化を測定することにより行った。なお、高温負荷寿命試験は、50個の試料について行い、2000時間経過するまでに絶縁抵抗値が100kΩ以下になった試料を故障と判定した。
温度特性(静電容量の変化率)の測定結果および高温負荷寿命試験における故障の発生割合を表1に併せて示す。なお、表1において、試料番号に*を付した試料は本発明の範囲外の試料である。
【0047】
【表1】

【0048】
各試料の特性について、表1を参照しつつ、以下に説明する。
[試料番号1〜5の試料について]
表1の試料番号1〜5のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、平均一次粒径が150nmのBaTiO3を用いて、水への浸漬時間を変えて調製したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末である。
【0049】
この試料番号1〜5の試料の特性測定結果から、浸漬時間が長いほどXPSにて測定したBaCO3/BaO比が大きくなり、温度特性および信頼性が向上することが確認された。
さらに、浸漬時間を16h以上とすることにより、BaCO3/BaO≧0.55のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号1の試料の場合、BaCO3/BaO=0.47と低く、望ましいチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることができなかった。
【0050】
また、試料番号1〜5の試料のうち、試料番号2〜5の、浸漬時間を16h以上にしたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、高温負荷寿命試験での故障数が0と高温負荷条件下での信頼性が高く、また、静電容量の変化率が±22%未満と温度特性(X7S特性)の良好な積層セラミックコンデンサが得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号1のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、高温負荷寿命試験での故障数が42と高温負荷条件下での信頼性が低く、また、静電容量の変化率も−23.3%と好ましくないことが確認された。
【0051】
[試料番号6,7の試料について]
表1の試料番号6,7のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、平均一次粒径が80nmのBaTiO3を用いて水への浸漬時間を1h,48hと変えて調製したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末である。
この試料番号6,7の試料の特性測定結果から、水への浸漬時間を48hにした試料番号7の試料の場合、BaCO3/BaO≧0.55のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号6の試料の場合、BaCO3/BaO=0.49と低く、望ましいチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることができなかった。
【0052】
また、この試料番号7のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、高温負荷寿命試験での故障数が0と高温負荷条件下での信頼性が高く、また、静電容量の変化率が−20.8%と温度特性(X7S特性)の良好な積層セラミックコンデンサが得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号6のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、高温負荷寿命試験での故障数が19と高温負荷条件下での信頼性が低く、また、静電容量の変化率も−27.3%と好ましくないことが確認された。
【0053】
[試料番号8,9の試料について]
表1の試料番号8,9のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、平均一次粒径が340nmのBaTiO3を用いて水への浸漬時間を1h,48hと変えて調製したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末である。
この試料番号8,9の試料の特性測定結果から、水への浸漬時間を48hにした試料番号9の試料の場合、BaCO3/BaO≧0.55のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号8の試料の場合、BaCO3/BaO=0.50と低く、望ましいチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることができなかった。
【0054】
また、この試料番号9のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて作製した積層セラミックコンデンサの場合、高温負荷寿命試験での故障数は0となり、静電容量の変化率も−14.7%と良好な温度特性(X7S特性)が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号8のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、静電容量の変化率は−18.6%と温度特性(X7S特性)は良好であったが、高温負荷寿命試験での故障数が50と高温負荷条件下での信頼性が低くいことが確認された。
【実施例2】
【0055】
出発原料としてBaCO3、TiO2を準備し、BaとTiの比が、Ba/Ti=1.000(at比)となるように秤量、配合した。それから、この配合原料を、ボールミル(直径が2mmのPSZメディアを使用)により混合し、大気中にて1000℃で熱処理することにより、一般式BaTiO3で表されるチタン酸バリウムを合成した。
【0056】
そして、このチタン酸バリウムを粉砕することにより、平均一次粒径が150nmのチタン酸バリウム粉末(BaTiO3粉末)を得た。
【0057】
また、添加成分としてBaZrO3,BaCO3,Gd23,Dy23,MnCO3,MgCO3,SiO2を用意した。
そして、上述のようにして作製した平均一次粒径が150nmのチタン酸バリウム粉末(BaTiO3粉末)100gに対し、上記の添加成分グループ、BaZrO3,BaCO3,Gd23,Dy23,MnCO3,MgCO3,SiO2から選ばれる添加成分を、以下の割合になるように配合して、表2の試料番号10〜13の各試料(チタン酸バリウム系誘電体原料粉末)を調製した。
【0058】
すなわち、試料番号10,11では、平均一次粒径が150nmのチタン酸バリウム粉末(BaTiO3粉末)100gに対し、添加成分を、
BaTiO3 :100mol
BaCO3 :1mol
Dy23 :2mol
MnCO3 :1mol
MgCO3 :1.5mol
SiO2 :1.5mol
の割合となるように添加した組成Aの原料を、水100gとともにビーカーに入れ、ビーカーを密封しない状態で(大気にさらして)、スクリュー式の攪拌機にて、表2に示すように、1時間(試料番号10)または48時間(試料番号11)混合した。
【0059】
そして、得られたスラリーを、強制循環型の湿式粉砕機(直径0.3mmのPSZメディアを使用)にて1時間粉砕した。得られたスラリーは粉砕終了後15分以内に140℃のオーブンに入れて乾燥することにより、チタン酸バリウム系誘電体原料粉末(試料番号10,11の試料)を得た。
【0060】
また、試料番号12,13では、平均一次粒径が150nmのチタン酸バリウム粉末(BaTiO3粉末)100gに対し、添加成分を、
BaTiO3 :100mol
BaZrO3 :9mol
BaCO3 :2mol
Gd23 :4mol
Dy23 :0.5mol
MnCO3 :1mol
MgCO3 :3mol
SiO2 3mol
の割合となるように添加した組成Bの原料を、水100gとともにビーカーに入れ、ビーカーを密封しない状態で(大気にさらして)、スクリュー式の攪拌機にて、表2に示すように、1時間(試料番号12)または48時間(試料番号13)混合した。
【0061】
そして、得られたスラリーを強制循環型の湿式粉砕機(直径0.3mmのPSZメディアを使用)にて1時間粉砕した。得られたスラリーは粉砕終了後15分以内に140℃のオーブンに入れて乾燥することにより、チタン酸バリウム系誘電体原料粉末(試料番号12,13の試料)を得た。
【0062】
それから、この試料番号10〜13の各チタン酸バリウム系誘電体原料粉末の一部を用いて、XPSにて分析を行い、組成Aの試料番号10,11の試料については、原料表面のBa/Ti比を、組成Bの試料番号12,13の試料についてはBa/(Ti+Zr)比を測定するとともに、試料番号10〜13の各試料について、BaCO3/BaO比を測定した。その結果を表2に示す。
【0063】
次に、上述のようにして調製したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末に、上記実施例1の場合と同様に、ポリビニルブチラール系バインダーおよびエタノールなどの有機溶媒を加えて、ボールミルにより湿式混合し、グリーンシート形成用のセラミックスラリーを作製した。
【0064】
その後、実施例1と同じ方法、条件で、試料番号10〜13の積層セラミックコンデンサ(試料)を作製し、特性の評価を行った。
その結果を表2に示す。なお、表2において、試料番号に*を付した試料は本発明の範囲外の試料である。
【0065】
【表2】

【0066】
[試料番号10,11の試料について]
表2の試料番号10,11のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、BaTiO3と添加成分を含む組成Aの原料粉末を用い、1h、48hと、水への浸漬時間を変えて調製したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末である。
この試料番号10,11の試料の特性測定結果から、試料番号11のように、浸漬時間を48hとすることにより、BaCO3/BaO≧0.55のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号10の試料の場合、BaCO3/BaO=0.50と低く、望ましいチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることができなかった。
【0067】
また、試料番号10,11の試料のうち、試料番号11の、浸漬時間を48hにしたチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて作製した積層セラミックコンデンサの場合、高温負荷寿命試験での故障数は0となり、静電容量の変化率も−18.4%と良好な温度特性(X7S特性)が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号10のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、高温負荷寿命試験での故障数が39と高温負荷条件下での信頼性が低く、また、静電容量の変化率も−22.8%と好ましくないことが確認された。
【0068】
[試料番号12,13の試料について]
表2の試料番号12,13のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、BaTiO3と添加成分を含む組成Bの原料粉末を用い、水への浸漬時間を1h,48hと変えて調製したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末である。
この試料番号12,13の試料の特性測定結果から、水への浸漬時間を48hにした試料番号13の試料の場合、BaCO3/BaO≧0.55のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号12の試料の場合、BaCO3/BaO=0.51と低く、望ましいチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を得ることができなかった。
【0069】
また、試料番号13のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて作製した積層セラミックコンデンサの場合、高温負荷寿命試験での故障数は0となり、静電容量の変化率も−20.9%と良好な温度特性(X7S特性)が得られることが確認された。
一方、水への浸漬時間を1hにした試料番号12のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いて積層セラミックコンデンサを作製した場合、高温負荷寿命試験での故障数が28と高温負荷条件下での信頼性が低く、また、静電容量の変化率も−23.7%と好ましくないことが確認された。
【0070】
上記実施例の結果より、本発明の方法によれば、BaCO3/BaO≧0.55の要件を満たすチタン酸バリウム系誘電体原料粉末が得られること、該チタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いることにより、誘電率の温度特性が平坦化され、かつ、負荷試験時などにおける高温高電界での信頼性に優れた積層セラミックコンデンサが得られることが確認された。
【0071】
なお、上記実施例1および2では,本発明を適用して製造したチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いてセラミックグリーンシートを作製し、得られたセラミックグリーンシートを用いて積層セラミックコンデンサを製造する場合を例にとって説明したが、本発明により製造されるチタン酸バリウム系誘電体原料粉末は、積層セラミックコンデンサに限らず、LC複合部品、PTCサーミスタなどにも適用することが可能である。
【0072】
また、上記実施例1および2では,BaTiO3粉末を浸漬する水系溶媒として水を用いているが、水系溶媒はこれに限らず、水に有機溶媒を添加したもの、分散剤や特性を向上させるための微量添加成分を添加したものなど、水を主たる成分とする種々の水系溶媒を用いることが可能である。
【0073】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例1および2に限定されるものではなく、BaTiO3粉末を水系溶媒に浸漬する際の、温度条件や攪拌条件、本発明のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末を用いてセラミックグリーンシートを形成する場合の具体的な条件、該セラミックグリーンシートを用いて積層セラミックコンデンサを製造する際の手順や条件などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 セラミック素子(コンデンサ素子)
2a,2b 内部電極
3 セラミック層
4a,4b 外部電極
t 素子厚(セラミック層の厚さ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiO3粉末の表面が、BaCO3とBaOの割合がモル比で、BaCO3/BaO=0.55以上であるバリウム化合物により被覆されていること
を特徴とするチタン酸バリウム系誘電体原料粉末。
【請求項2】
特性調整用の添加成分を含有していることを特徴とする請求項1記載のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末。
【請求項3】
BaTiO3粉末を用意する工程と、
前記BaTiO3粉末を16時間以上、水系溶媒に浸漬する工程と
を具備することを特徴とするチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の製造方法。
【請求項4】
前記BaTiO3粉末として、特性調整用の添加成分が添加されたBaTiO3粉末を用いることを特徴とする請求項3記載のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のチタン酸バリウム系誘電体原料粉末と、バインダーと、分散媒を含むシート成形用スラリーを調製する工程と、
前記シート成形用スラリーをシート状に成形してセラミックグリーンシートとする工程と
を具備することを特徴とするセラミックグリーンシートの形成方法。
【請求項6】
請求項5の方法により形成した前記セラミックグリーンシートに導電性ペーストを付与して内部電極パターンを形成する工程と、
前記内部電極パターンが形成された前記セラミックグリーンシートを積層、圧着して積層体を形成する工程と、
前記積層体を焼成して内部電極がセラミック層を介して積層された構造を有するセラミックコンデンサ素子を得る工程と
を具備することを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215427(P2010−215427A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61242(P2009−61242)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】