説明

ディスク駆動装置の生産方法及びディスク駆動装置

【課題】ディスク駆動装置の構成部品の清浄度を向上し、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でもTA障害発生の確率を低く保つことのできるディスク駆動装置の生産方法を提供する。
【解決手段】ディスク駆動装置の生産方法は、所定レベル以上のクリーンルーム内で洗浄工程100と組立工程200が連続して実施される。洗浄、組立対象であるディスク駆動装置のベース部材12は、洗浄工程100は、アルカリ洗浄工程104、第1純水洗浄工程106、第2純水洗浄工程108、スプレー洗浄工程110、水切工程112、乾燥工程114を含む。第1純水洗浄工程106は、第1純水洗浄槽126に満たされた純水128中で、40kHz、68kHz、132kHzの周波数による純水超音波洗浄を順に施す。洗浄されたベース部材12は、洗浄工程100と連続した組立工程200で清浄度が所定値以上n他の構成部品と共に組み立てられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク駆動装置の生産方法及びディスク駆動装置、特にパーティクルの付着量が低減されるディスク駆動装置の生産方法及びディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDなどのディスク駆動装置は、流体動圧軸受ユニットを備えることにより回転精度が飛躍的に向上した。それに伴いディスク駆動装置は、一層の高密度・大容量化が求められるようになった。例えば磁気的にデータを記録するディスク駆動装置では、記録トラックを形成した記録ディスクを高速で回転させておき、磁気ヘッドがその記録トラック上を僅かな浮上隙間を介してトレースしながらデータのリード/ライトを実行する。このようなディスク駆動装置を高密度・大容量化するためには記録トラックの幅を狭くする必要がある。また、このトラック幅の狭幅化に伴い、磁気ヘッドと記録ディスクとの隙間をさらに狭くする必要が生じている。その浮上隙間は例えば、10nm以下の極狭にしたいという要求がなされている。
【0003】
また、高密度化のため、磁気ヘッドに磁気抵抗効果型素子(以下、MR素子という)が多用されている。その一方で、極狭な浮上隙間でMR素子を用いることにより、サーマルアスペリティ障害(以下、TA障害という)やヘッドクラッシュ障害の発生が一段と深刻となる。TA障害とは、磁気ヘッドの浮上トレース中に、MR素子にディスク表面上の微小な異物が接触することにより発生する運動エネルギーに起因してMR素子に瞬間的に熱が生じることにより発生する。MR素子が瞬間的に加熱、冷却されると、MR素子の抵抗値が瞬間的に変動し再生信号にノイズとして重畳され、再生信号の読み出し精度の低下を引き起こす。発明者らは、検討の結果、TA障害はディスク駆動装置に付着していた0.1μm〜数μm程度の異物(以下、パーティクル「Particle」と総称する)が、振動や空気の流れなどにより、記録ディスク表面に付着することによりTA障害が発生しているとの知見を得た。
【0004】
ところで、ディスク駆動装置はベース部材上に、スリーブ及びこのスリーブと相対回転可能なシャフトとから成る軸受ユニットと、この軸受ユニットによりベース上で回転自在に支持されるハブ部材を含む組立体で構成されている。そして、ハブ部材に記録ディスクを載置すると共に、磁気ヘッド及びこの磁気ヘッドの駆動装置と、制御回路、その他必要な部品を組み込んで生産される。
【0005】
従来、ディスク駆動装置を構成する機械部品は、所定の洗浄液が満たされた洗浄槽で例えば超音波を用いて埃等の異物除去を行う洗浄工程を経てから組み立てられている。洗浄工程は、例えば、被洗浄部品を数百個単位で洗浄カゴに重ねて入れて洗浄液に漬す、いわゆるバッチ洗浄が主流であった。このような洗浄工程は、小部品を大量生産する場合に多用される手法である。このバッチ洗浄では、洗浄後に洗浄カゴごと被洗浄部品を乾燥し、倉庫などの保管場所に保管していた。そして、組立工程では、保管された被洗浄部品を取り出して組立ラインに供給し、ディスク駆動装置を組み立てていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−124529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようなバッチ洗浄を用いた生産方法では、一般に洗浄の清浄度の全体水準が低かった。例えば、ディスク駆動装置の清浄度は、1平方cm当たりの0.5μm以上のパーティクルの数(以下、LPCという)で評価される。LPCは、例えば純水2000ccを満たした槽の中に被検体を漬し、68kHzで98wの超音波を120秒間照射した後、この純水を例えば米国PMS社製CLS−700またはLS200などの液中パーティクル計数器を用いて存在するパーティクルの数を計数していた。
【0008】
しかし、従来のバッチ洗浄では、洗浄カゴの外側と中側の被洗浄部品の清浄度にバラツキが大きく、また一度剥離したパーティクルが洗浄カゴの中で別の被洗浄部品に付着してしまう現象も生じ易かった。また、所望の清浄度を得ようとする場合、洗浄に長時間が必要となり作業効率が悪かった。さらに、洗浄後に倉庫等で保管されている間に空気中に浮遊するパーティクルが被洗浄部品に付着してしまうこともあった。このように、パーティクルが多数残留すると、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合にTA障害発生率が高くなり、ディスク駆動装置の高密度・大容量化の障害となっていた。そのため、組立を開始する前や組立後に例えば、ヘキサン等の溶剤によりパーティクルの拭き取りを行う工程を追加することも考えられるが、生産効率の低下を招くと共に、拭き取り処理ではパーティクルの除去が十分に行えない場合も多かった。
【0009】
そこで、本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ディスク駆動装置の構成部品の清浄度を向上し、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でもTA障害発生の確率を低く保つことのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のディスク駆動装置の生産方法は、ベース部材と、ベース部材にシャフトと当該シャフトを収納するスリーブとが相対回転するように構成した軸受ユニットと、軸受ユニットを介して支持されるハブと、を少なくとも含んで構成されるディスク駆動装置の生産方法であって、ディスク駆動装置の構成部品の少なくとも1つは搬送されながら、純水中で少なくとも2種類以上の周波数の超音波を作用させた純水洗浄を行う洗浄工程にて洗浄され、洗浄された構成部品は、洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立てられる。
【0011】
この態様によると、構成部品は純水中で少なくとも2種類以上の周波数の超音波による超音波洗浄を受ける。例えば、使用する超音波は40KHz〜200KHz程度の周波数の中から選択することができる。この場合、1種類目の超音波の周波数として比較的低い周波数を用いる。周波数が低い場合、その波長は長く強いキャビテーション効果が得られるので、質量の大きなパーティクル除去を効率的に行うことができる。また、2種類目の周波数として比較的高い周波数を用いる。周波数が高い場合、その波長は短いので、その短い波長により狭い隙間のパーティクル除去を効率的に行うことができる。つまり、少なくとも高低2種類の周波数による超音波洗浄を実施することにより、質量の大きな大パーティクル及び狭い隙間に存在する質量の小さな小パーティクルの効率的な除去が可能になり、構成部品全体の清浄度を高めることができる。また、洗浄後に他の領域に移動させることなく洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立て作業を行うので、パーティクルの再付着が抑制された状態で、ディスク駆動装置の組立を完了できる。その結果、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でも、TA障害の発生確率を低くすることができる。
【0012】
本発明の別の態様もまた、ディスク駆動装置の生産方法である。この方法は、ベース部材と、ベース部材にシャフトと当該シャフトを収納するスリーブとが相対回転するように構成した軸受ユニットと、軸受ユニットを介して支持されるハブと、を少なくとも含んで構成されるディスク駆動装置の生産方法であって、ディスク駆動装置の構成部品の少なくとも1つは搬送されながら、アルカリイオン水中で超音波を作用させたアルカリ洗浄に続いて、純水中で超音波を作用させた純水洗浄を行う洗浄工程にて洗浄され、洗浄された構成部品は、洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立てられる。
【0013】
アルカリ洗浄における超音波の周波数は、例えば40KHzとすることができる。アルカリイオン水を用いた洗浄では、洗浄対象となる構成部品に付着した炭化水素系パーティクルの除去を純水洗浄の場合に比べ効率的にできる。また、アルカリ洗浄に続いて純水洗浄も実施するので、構成部品全体の清浄度を高めることができる。また、洗浄後に他の領域に移動させることなく洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立て作業を行うので、パーティクルの再付着が抑制された状態で、ディスク駆動装置の組立を完了できる。その結果、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でも、TA障害の発生確率を低くすることができる。
【0014】
本発明のさらに別の態様もまた、ディスク駆動装置の生産方法である。この方法は、ベース部材と、ベース部材にシャフトと当該シャフトを収納するスリーブとが相対回転するように構成した軸受ユニットと、軸受ユニットを介して支持されるハブと、を少なくとも含んで構成されるディスク駆動装置の生産方法であって、ディスク駆動装置の構成部品の少なくとも1つは搬送されながら、純水中で超音波を作用させた純水洗浄に続いて、純水と空気の混合体の吹き付けにより洗浄する吹付洗浄を行う洗浄工程にて洗浄され、洗浄された構成部品は、洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立てられる。
【0015】
純水と空気の混合体を被洗浄体である構成部品に吹き付けることにより、パーティクル除去のための大きな運動エネルギーを与えることができる。したがって、構成部品において純水洗浄のみでは剥離除去できなかった質量の大きなパーティクルの除去を可能にして、構成部品全体の清浄度を高めることができる。また、洗浄後に他の領域に移動させることなく洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立て作業を行うので、パーティクルの再付着が抑制された状態で、ディスク駆動装置の組立を完了できる。その結果、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でも、TA障害の発生確率を低くすることができる。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、ディスク駆動装置である。この装置は、ディスク駆動装置の生産方法を用いて生産した。
【0017】
この態様によると、洗浄処理によって清浄度が高められた構成部品によりディスク駆動装置の組立を実施できる。その結果、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でも、TA障害の発生確率を低くすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ディスク駆動装置の構成部品の清浄度を向上し、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でもTA障害の発生確率を低く保てるディスク駆動装置の生産方法を提供できる。また、磁気ヘッドの浮上隙間を小さくした場合でもTA障害の発生確率が低いディスク駆動装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の生産方法により生産された構成部品を用いて組み立てられたディスク駆動装置の一例であるハードディスクドライブ装置の内部構成を説明する説明図である。
【図2】本実施形態に示す生産方法における洗浄工程で、洗浄の対象となる構成部品を組み立ててサブアッセンブリにした状態を説明する説明図である。
【図3】図2のM−Nで示すカットラインに沿った断面図である。
【図4】本実施形態のディスク駆動装置の生産方法における洗浄工程及び組立工程を説明する説明図である。
【図5】従来の生産方法で生産したディスク駆動装置のLPCを示す説明図である。
【図6】本実施形態の生産方法で生産したディスク駆動装置のLPCを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の生産方法により生産された構成部品を用いて組み立てられたディスク駆動装置の一例であるハードディスクドライブ装置(HDD)10(以下、単にディスク駆動装置10という)の内部構成を説明する説明図である。なお、図1は、内部構成を露出させるためにカバーを取り外した状態を示している。
【0021】
ベース部材12の上面には、ブラシレスモータ14、アーム軸受部16、ボイスコイルモータ18等が載置される。ブラシレスモータ14は、記録ディスク20を搭載するためのハブ部材26を回転軸上に支持し、例えば磁気的にデータを記録可能な記録ディスク20を回転駆動する。ブラシレスモータ14は、例えばスピンドルモータとすることができる。ブラシレスモータ14は、記録ディスク20を回転駆動する。ブラシレスモータ14はU相、V相、W相からなる3相の駆動電流により駆動される。アーム軸受部16は、スイングアーム22を可動範囲AB内でスイング自在に支持する。ボイスコイルモータ18は外部からの制御データにしたがってスイングアーム22をスイングさせる。スイングアーム22の先端には磁気ヘッド24が取り付けられている。ディスク駆動装置10が稼働状態にある場合、磁気ヘッド24はスイングアーム22のスイングに伴って記録ディスク20の表面を僅かな隙間を介して可動範囲AB内を移動し、データをリード/ライトする。なお、図1において、点Aは記録ディスク20の最外周の記録トラックの位置に対応する点であり、点Bは記録ディスク20の最内周の記録トラックの位置に対応する点である。スイングアーム22は、ディスク駆動装置10が停止状態にある場合には記録ディスク20の脇に設けられる待避位置に移動してもよい。
【0022】
なお、本実施形態において、記録ディスク20、スイングアーム22、磁気ヘッド24、ボイスコイルモータ18等のデータをリード/ライトする構造を全て含むものをディスク駆動装置と表現する場合もあるし、HDDと表現する場合もある。また、記録ディスク20を回転駆動する部分のみをディスク駆動装置と表現する場合もある。
【0023】
図2は、本実施形態に示す生産方法における洗浄工程で、洗浄の対象となる構成部品を組み立ててサブアッセンブリ28にした状態を説明する説明図である。本実施形態では、後述する洗浄工程を経て清浄度が高められた構成部品を組立工程で組立てサブアッセンブリ28とした後、さらに、同様に清浄度の高い記録ディスク20、磁気ヘッド24、スイングアーム22、アーム軸受部16、ボイスコイルモータ18及び全体を覆うカバーを取り付けてディスク駆動装置を完成させる。
【0024】
図3は、図2のM−Nで示すカットラインに沿ったディスク駆動装置10の一部を示す断面図である。
図3に示すように、本実施形態のディスク駆動装置10は、固定体部Sと、回転体部Rと、ラジアル動圧溝RB1,RB2と潤滑材とで構成されるラジアル流体動圧軸受部及びスラスト動圧溝SB1,SB2で構成されるスラスト流体動圧軸受部を含む軸受ユニット30と、これらの流体動圧軸受部を介して固定体部Sに対して回転体部Rを回転駆動する駆動ユニット32とにより構成されている。図3は、一例として記録ディスク20を支持するハブ部材26とシャフト34が一体となり回転する、いわゆるシャフト回転型のディスク駆動装置の構造を示す。なお、ディスク駆動装置10を構成する部材は、機能的に固定体部S、軸受ユニット30、回転体部R、駆動ユニット32で分けられるグループのうち複数のグループに含まれるものがある。例えば、シャフト34は、回転体部Rに含まれると共に軸受ユニット30にも含まれる。
【0025】
固定体部Sは、ベース部材12、ステータコア36、コイル38、スリーブ40、カウンタープレート42を含んで構成されている。ステータコア36は、ベース部材12に形成された円筒部12aの外壁面に固着されている。スリーブ40は円筒状の部品であり、金属材料や導電性を有する樹脂材料で形成される。このスリーブ40は、ベース部材12の円筒部12aの内壁面で形成する収納孔12bに例えば接着剤等で固定されている。スリーブ40の一方の端部には、円盤状のカウンタープレート42が固着され、記録ディスク20等が収納されるベース部材12の内部側を封止している。
【0026】
ベース部材12は、例えば、アルミダイキャストで製作された母材を切削加工するか、アルミ板をプレス加工して形成するか、鉄板をプレス加工後、ニッケルめっきを施して形成することができる。ステータコア36は、ケイ素鋼板等の磁性板材が複数枚積層された後、表面に電着塗装や粉体塗装等による絶縁コーディングを施して形成される。また、ステータコア36は、半径方向外方向に突出する複数の突極(図示せず)を有するリング状の部材であり、各突極にはコイル38が巻回されている。例えば、ディスク駆動装置10が3相駆動であれば突極数は9極とされる。なお、コイル38の巻き線端末は、ベース部材12の底面に配設されたFPC(図示せず)上に半田付けされる。
【0027】
回転体部Rは、ハブ部材26、シャフト34、フランジ44、マグネット46を含んで構成される。ハブ部材26は、略カップ形状の部材であり、中心孔26aと同心の外周円筒部26bと、外周円筒部26bの下端に外延する外延部26cとを有している。そして、外延部26cの内壁面にリング状のマグネット46を固着している。ハブ部材26は、ステンレス、アルミニウム、鉄等の金属や、導電性樹脂を型成型や機械加工して形成することができる。マグネット46は、例えばNd−Fe−B(ネオジウム−鉄−ボロン)系の材料で形成され表面には電着塗装やスプレー塗装などによる防錆処理が施されている。本実施形態において、マグネット46の内周側は例えば12極に着磁されている。
【0028】
シャフト34は、ハブ部材26に形成された中心孔26aに一端が固定され、他端には、円盤状のフランジ44が固定されている。シャフト34は例えばステンレスなどの導電性を有する金属で形成することができる。また、フランジ44は、金属材料や導電性を有する樹脂材料で形成することができる。スリーブ40の一端には、フランジ44を収納するフランジ収納空間部40cが形成されている。したがって、スリーブ40は、フランジ44が固定されたシャフト34を円筒内壁面40a及びフランジ収納空間部40cで囲む空間で相対回転を許容しながら支持する。
【0029】
回転体部Rのフランジ44付きシャフト34が固定体部Sのスリーブ40の円筒内壁面40aに沿って挿入される。その結果、回転体部Rはラジアル動圧溝RB1,RB2と潤滑剤で構成されるラジアル流体動圧軸受部及びスラスト動圧溝SB1、SB2と潤滑剤で構成されるスラスト流体動圧軸受部を介して固定体部Sに回転自在に支持される。駆動ユニット32は、ステータコア36とコイル38とマグネット46とを含んで構成されている。このとき、ハブ部材26はステータコア36及びマグネット46と共に磁気回路を構成する。したがって、外部に設けられた駆動回路の制御により各コイル38に順次通電することにより、回転体部Rが回転駆動される。
【0030】
なお、本実施形態のハブ部材26の外周円筒部26bは、記録ディスク20の中心穴と係合すると共に、外延部26cが記録ディスク20を位置決め支持する。記録ディスク20の上面にはクランパー48が載せられ、当該クランパー48がスクリュー50によってハブ部材26に固定される。これによって記録ディスク20がハブ部材26に一体的に固定され、ハブ部材26と共に回転可能となる。
【0031】
次に、軸受ユニット30について説明する。
軸受ユニット30は、シャフト34、フランジ44、スリーブ40及びカウンタープレート42とを含んで構成されている。スリーブ40の円筒内壁面40aとそれに対向するシャフト34の外周面はラジアル空間部を形成している。そいて、スリーブ40の円筒内壁面40aとシャフト34の外周面の少なくとも一方にはラジアル方向の支持を行うための動圧を発生するラジアル動圧溝RB1、RB2が形成されている。ラジアル動圧溝RB1はハブ部材26から遠い側に形成され、ラジアル動圧溝RB2はラジアル動圧溝RB1よりハブ部材26に近い側に形成されている。ラジアル動圧溝RB1,RB2は、シャフト34の軸方向に離隔して配置された例えばヘリングボーン状またはスパイラル状の溝である。これらのラジアル動圧溝RB1、RB2の形成空間にはオイル等の潤滑剤52が充填されている。したがって、シャフト34が回転することにより潤滑剤52に圧力の高い部分が生る。その圧力によりシャフト34を周囲の壁面から離反させて、当該シャフト34をラジアル方向において実質的に非接触の回転状態とする。
【0032】
本実施形態の場合、シャフト34は一端側にハブ部材26を接続しているので、当該シャフト34はハブ部材26に近い側と遠い側で異なる強さの側圧を受ける。そこで、本実施形態では、ラジアル動圧溝RB1のシャフト34の軸方向の形成幅を、ラジアル動圧溝RB2のシャフト34の軸方向の形成幅よりも狭く形成している。これにより、シャフト34の軸方向で異なる強さの側圧に対応した動圧が各ラジアル流体動圧軸受部で発生する。このように、高い動圧の発生によりシャフト34の高い支持剛性を実現すると共に、低い動圧の発生によりシャフト34の回転ロス低減に寄与できる最適なバランスが得られる。
【0033】
前述したように、シャフト34の下端には当該シャフト34と一体的に回転するフランジ44が固定されている。そして、スリーブ40の下面の中央部分にはフランジ44を回転自在に収納するフランジ収納空間部40cが形成されている。このフランジ収納空間部40cは、一端がカウンタープレート42により封止され、フランジ収納空間部40c及びそれに続くシャフト34の収納空間の気密を維持できるようになっている。
【0034】
フランジ44とスリーブ40の軸方向に対向する面の少なくとも一方にスラスト動圧溝SB1が形成され、フランジ44とカウンタープレート42の対向する面の少なくとも一方にはスラスト動圧溝SB2が形成され、潤滑剤52と協働してスラスト流体動圧軸受部を形成している。スラスト動圧溝SB1,SB2は、例えばスパイラル状またはヘリングボーン状に形成されてポンプインの動圧を発生させる。つまり、固定体部S側であるスリーブ40及びカウンタープレート42に対して回転体部R側であるフランジ44が回転することによりポンプインの動圧が発生する。その結果、発生した動圧により固定体部Sに対してフランジ44を含む回転体部Rが軸方向に所定の間隙をもって実質的に非接触の状態となり、ハブ部材26を含む回転体部Rが固定体部Bに対して非接触状態で支持される。
【0035】
本実施形態の場合、ラジアル流体動圧軸受部及びスラスト流体動圧軸受部における間隙に充填された潤滑剤52は互いに共用される。スリーブ40の開放端側は、スリーブ40の内周とシャフト34の外周との隙間が外側に向かって徐々に拡がるようにしたキャピラリーシール部TSを構成している。ラジアル動圧溝RB1、RB2、スラスト動圧溝SB1,SB2を含む空間、キャピラリーシール部TSの途中までには潤滑剤52が満たされている。キャピラリーシール部TSは、毛細管現象により潤滑剤52が充填位置から外部へ漏出することを防止している。
【0036】
上述のように構成されるディスク駆動装置10の生産方法を図4に基づいて説明する。本実施形態のディスク駆動装置10の生産方法は、ディスク駆動装置10を構成する構成部品に付着したパーティクルを除去する洗浄工程100と、洗浄され清浄度の高い構成部品をサブアッセンブリに組み上げる組立工程200を含む。本実施形態の洗浄工程100では、一例として、ベース部材12、ハブ部材26、スリーブ40、シャフト34のうち少なくとも1つについて付着したパーティクルを除去する。以下の説明ではベース部材12を洗浄する例を示す。なお、図4においては、IN側で洗浄前のベース部材12が図示を省略した入口から投入され、洗浄工程100を経て組立工程200に搬送される。そして、組み付けが完了したディスク駆動装置10を組立工程200のOUT側で図示を省略した出口から排出する例を説明する。
【0037】
図4において、洗浄工程100及び組立工程200は簡易隔壁300で仕切られた2ブロックのクリーンルーム内に配置され、各クリーンルームは、共通の清浄空気が満たされている。クリーンルームの清浄度は、例えばクラス1000程度とすることができる。なお、後工程である組立工程200のクリーンルームは陽圧に調整され、前工程である洗浄工程100のクリーンルームは負圧に調整されている。組立工程200を陽圧とすることで、洗浄工程100側で被洗浄対象の構成部品から剥離したパーティクルが空気中に浮遊してしまっている場合でも、組立工程200側に進入しないようにしている。
【0038】
本実施形態では、洗浄処理の対象をディスク駆動装置10の構成部品のうちベース部材12とする例を説明する。ベース部材12は、洗浄工程100内で駆動する搬送装置102と、組立工程200内で駆動する搬送装置202によって搬送される。本実施形態の場合、搬送装置102、202は、図中の実線矢印で示すようにループ状に時計回り方向に移動する。搬送装置102としては、ベルトコンベア、ループ状にしたチェーンにベース部材12等の構成部品を引っかけるフックを設けて移動させる装置、ループ状にしたチェーンやレールにベース部材12を載置するトレイを固定して移動させる装置、ベース部材12をレール上で移動させる装置など周知の搬送装置が利用できる。同様に搬送装置202としては、ベルトコンベア、ループ状にしたチェーンやレールにベース部材12を載置するトレイを固定して移動させる装置、ベース部材12をレール上で移動させる装置など周知の搬送装置が利用できる。なお、図4の場合、ベルトコンベアを採用した例を示す。このベルトコンベアは、例えばベルト部がメッシュ状であったり、搬送面に複数の凸部や孔が形成された形状であり、構成部品との接触面積をできるだけ少なくし、洗浄の妨げにならないように配慮されている。なお、ベルトコンベアやトレイには超音波の洗浄液中での波長の1/4より大きな孔を多数空けておくことにより効率的に超音波洗浄力をベース部材12に付与し効果的なパーティクル除去ができる。
【0039】
図4に示す実施形態では、洗浄工程100においてベース部材12に付着したパーティクルを除去して清浄度を所定値以上にした後に、組立工程200でベース部材12上に清浄度が所定値以上に高められたシャフト34、スリーブ40、ハブ部材26等を組み立てるようにしている。ベース部材12には、各種無機材料に由来する無機粒子系パーティクルと、各種有機物に由来する炭化水素系パーティクルが複合して付着している可能性がある。したがって、洗浄工程100では、それぞれのパーティクルに適した除去方法を採用している。
【0040】
まず、ベース部材12はIN側端の図示を省略した入口から搬送装置102上に投入され、組立工程200側へ向かって移動する。本実施形態の洗浄工程100は、アルカリ洗浄工程104、第1純水洗浄工程106、第2純水洗浄工程108、スプレー洗浄工程110、水切工程112、乾燥工程114を含む。
【0041】
アルカリ洗浄工程104は、ベース部材12が最初に洗浄される工程であり、アルカリイオン水116が満たされたアルカリ洗浄槽118で実施される。アルカリ洗浄槽118の底部には超音波発生器120が配置されている。この超音波発生器120は、例えば周波数40kHzの超音波を発生して搬送されてくるベース部材12にアルカリ超音波洗浄を施す。
【0042】
前述したように、ベース部材12には、各種無機材料に由来する無機粒子系パーティクルと、各種有機物に由来する炭化水素系パーティクルが複合して付着している可能性がある。炭化水素系パーティクルは純水と親和性が低く、純水での洗浄では炭化水素系パーティクル除去の効率が低い。また、界面活性剤を用いて炭化水素系パーティクルを除去する方法もあるが、界面活性剤の残留があるとその成分が揮発して記録ディスクを汚染してしまうことがある。また、界面活性剤の残留を減らすために多段の濯ぎ工程が必要になり、装置が大型化してしまうことがある。そこで、本実施形態では、まず、アルカリ洗浄工程で炭化水素系パーティクルの除去を行う。
【0043】
アルカリイオン水116は、例えば純水に電解質を加えて電気分解によって得られるマイナスイオンを多く持つため、炭化水素系パーティクルとよく反応し、乳化、分散により良好なパーティクル除去能力を発揮する。また、表面張力が低いため、ベース部材12に形成された孔など狭い隙間の内部に浸透し、パーティクルを効果的に除去する。
【0044】
なお、アルカリイオン水116中の溶存空気を取り除く処理を行い、例えば5%以下とすることで超音波の作用を向上させることができる。このとき、溶存空気を2%未満とするには処理設備の大型化を伴ってしまうので、溶存空気は2〜5%とすることが低コストで効率的なアルカリ超音波洗浄には好ましい。また、アルカリイオン水のpHは10以上で必要なパーティクルの除去効果が期待できるが、本実施形態においてはpH11〜pH13としている。そして、本出願人らは、pH11〜pH13で溶存空気を2〜5%以下としたアルカリイオン水116を用いたアルカリ超音波洗浄を実施した上で後続の純水洗浄を実施した場合に、ディスク駆動装置10のTA障害の発生確率について必要な水準を確保できるという実験結果を得た。
【0045】
なお、ディスク駆動装置10にイオンが多く残留すると、高インピーダンス部分の絶縁性を低下させてしまう場合がある。本実施形態では、アルカリ超音波洗浄を施した後に純水洗浄を施すので、イオンの残留による不具合および残留成分が揮発して汚染する不具合等を回避することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、アルカリ洗浄槽118内のIN側である端部Lにアルカリイオン水116を吸い上げるポンプ122を設けている。このポンプ122で吸い上げられたアルカリイオン水116はフィルタ(不図を省略)により浮遊するパーティクル等の異物が捕捉されてアルカリ洗浄槽118のOUT側の端部Rに設けられた吐出ノズル124から吐出される。この浄化処理によりアルカリ洗浄槽118内にはOUT側からIN側にベース部材12の搬送方向と逆方向の水流が生じる。図4中では逆方向の水流を破線矢印で示している。したがって、一旦ベース部材12から除去されたパーティクルはこの逆方向の水流に乗ってベース部材12付近から遠ざかり、フィルタで捕捉される。その結果、アルカリ超音波洗浄中のパーティクルの再付着の可能性を低くすることができる。また、浄化処理によって常時清浄度の高い洗浄液で効率的なパーティクル除去処理が実行できる。
【0047】
アルカリ洗浄工程104が終了したベース部材12は第1純水洗浄工程106に搬送される。
ベース部材12のみならすディスク駆動装置10の構成部品は、孔などの狭い隙間部分と広い平面部分とが複合された複雑な形状をしている。超音波洗浄の場合、比較的低い周波数の周波数は波長が長いためキャビテーション効果が大きく質量の大きなパーティクルや強固に付着したパーティクルの除去に適している。一方、比較的高い周波数の超音波は波長が短いため狭い隙間のパーティクル除去に適している。このため、本実施形態では、少なくとも2種類以上の周波数の超音波を用いて純水超音波洗浄を実行している。
【0048】
第1純水洗浄工程106において、第1純水洗浄槽126には、純水128が満たされている。この第1純水洗浄槽126の底部には、周波数40kHzの超音波を発生する超音波発生器130、周波数68kHzの超音波を発生する超音波発生器132、周波数132kHzの超音波を発生する超音波発生器134が配置されている。各超音波発生器130,132,134は搬送されてくる超音波発生器120に対して純水超音波洗浄を施す。その結果、ベース部材12に付着した質量の大きなパーティクルも狭い隙間に付着した小さいパーティクルも効率的除去できる。また、同一の第1純水洗浄槽126内で周波数の異なった超音波を同時にベース部材12に照射して超音波洗浄を施すことにより、これらの超音波のビートである振動が発生する。その結果、洗浄ムラが低減され、パーティクル除去能力を向上させることができる。また、洗浄槽を周波数ごとに分離するよりスペース効率が向上すると共に設備コストの軽減ができる。
【0049】
なお、上述したように、アルカリ超音波洗浄に続いて洗浄開始側より周波数40kHz、次に中間の周波数68kHz、さらに高い周波数132kHzのように洗浄終了側の方が高い周波数となる多段の純水超音波洗浄を施すことにより、ディスク駆動装置10のTA障害の発生確率について必要な水準を確保できるという実験結果を発明者らは得ている。また、発明者らは、多段で超音波を作用させる場合、前段で使用した超音波の1.5〜2倍程度を後段で使用する超音波とすることで大きさや質量が異なる種々のパーティクルを効率的に除去できるという実験結果も得ている。なお、40KHz以下の超音波を使用するとキャビテーション効果が強すぎてベース部材12を構成するアルミニウムが腐食されたり浸食されたりするおそれがあるので、使用を避けることが望ましい。
【0050】
第1純水洗浄槽126においても、第1純水洗浄槽126内のIN側である端部Lに純水128を吸い上げるポンプ136を設けている。このポンプ136で吸い上げられた純水128はフィルタ(不図を省略)により浮遊するパーティクル等の異物が捕捉され第1純水洗浄槽126のOUT側の端部Rに設けられた吐出ノズル138から吐出される。この浄化処理により第1純水洗浄槽126内にはOUT側からIN側にベース部材12の搬送方向と逆方向の破線矢印で示す水流が生じる。したがって、一旦ベース部材12から除去されたパーティクルはこの水流に乗ってベース部材12付近から遠ざかり、フィルタで捕捉される。その結果、純水超音波洗浄中のパーティクルの再付着の可能性を低くすることができる。
【0051】
第1純水洗浄工程106が終了したベース部材12は第2純水洗浄工程108に搬送される。
第2純水洗浄工程108の第2純水洗浄槽140にも純水128が満たされている。第2純水洗浄槽140の底部には噴流洗浄ノズル142が配置され、この噴流により発生した水流によりベース部材12に残留したパーティクルを洗浄除去する。このように強い水流を発生させて連続的にベース部材12の表面に作用力を与えることにより、第1純水洗浄工程106の超音波洗浄によって除去し残したパーティクルや第1純水洗浄槽126中を移動中に再付着したパーティクルを第2純水洗浄槽140の中で再度剥離できる。なお、第2純水洗浄槽140のIN側である端部L及びOUT側である端部Rに純水128を吸い上げるポンプ144を設けている。これらのポンプ144で吸い上げられた純水128は、フィルタ(不図を省略)により浮遊するパーティクル等の異物が捕捉され噴流洗浄ノズル142から吐出される。この浄化処理により第2純水洗浄槽140内には中央からIN側及びOUT側に向かう破線矢印で示す水流が生じる。その結果、噴流によってベース部材12から剥離したパーティクルは、浄化処理による水流に乗ってベース部材12から遠ざかる方向に移動する。したがって、一旦ベース部材12から除去されたパーティクルの再付着の可能性を低くすることができる。また、噴流洗浄ノズル142からの噴流はパーティクルが除去された清浄な純水128となり清浄効率が向上する。
【0052】
ところで、アルカリ洗浄工程104、第1純水洗浄工程106、第2純水洗浄工程108等の超音波洗浄を施すときに、搬送するベース部材12の面積が大きな面を水平にして洗浄液中を移動させると、キャビテーションによる気泡をベース部材12の凹凸部に巻き込み保持してしまうことがある。気泡が保持された部分では超音波が作用しないので、その部分でパーティクルは除去され難い。そこで、本実施形態では、ベース部材12の面積の小さい面を先にして洗浄液中に漬していくことにより保持された気泡をベース部材12から解放している。例えば、図4においては、ベース部材12はその面積の小さい面、つまりベース部材12の端面を先にして斜め姿勢で洗浄液に進入させている。この角度は、例えば70度とすることができる。その結果、気泡の巻き込み保持は軽減され、洗浄液の移動中に良好な超音波洗浄を施すことができる。
【0053】
なお、本実施形態では、アルカリ洗浄槽118、第1純水洗浄槽126、第2純水洗浄槽140のように、洗浄槽を多段構成としてると共に、各洗浄槽の進入と脱出の両方でベース部材12の姿勢を斜めにしている。その結果、ベース部材12に巻き込み保持された気泡の効率的な排除を可能としている。ベース部材12等の被洗浄物の進入・脱出時の角度は20度から90度とすることで気泡が巻き込まれ難く、また巻き込んでしまった気泡の解放がし易くなるが、安定的な効果を得るには例えば45度から80度がより好ましい。また、前述したように、各洗浄槽内で洗浄液にベース部材12の移動方向とは逆方向の水流を形成しているので、この水流によっても巻き込み保持された気泡の解放除去を促進する効果が得られる。また、別の実施例として、洗浄液中を移動するベース部材12を回転させたり揺動させてもよい。ベース部材12を回転させながら搬送することにより、ベース部材12の全体を均一の超音波洗浄することができると共に、巻き込み保持された気泡の解放を効率的に行うことがでる。ベース部材12を揺動させる場合も同様な効果を得ることができる。
【0054】
本実施形態では、各洗浄槽の底部に超音波を発生する超音波発生器を配置している。発明者らは、実験を繰り返した結果、ベース部材12を底部に近い領域を通って移動させた場合と、表面に近い領域を通って移動させた場合とを比較すると、前者の方がパーティクル除去の効果が低いという結果を得た。そこで、本実施形態では、ベース部材12を洗浄槽の液面から水深の1/2の位置より液面に近い領域を通るように移動させて、効率的なパーティクル除去を実現している。具体的には、各洗浄槽の液面から底部までの水深を24cmとした場合に、液面から12cmの位置より液面に近い領域を通してベース部材12を移動させることにより効率的なパーティクル除去が確認された。また、ベース部材12を洗浄槽の液面から8cmの位置より液面に近い領域を通して移動させることでパーティクル除去の効果が一層向上する結果を得た。さらに、ベース部材12を洗浄槽の液面から6cmの位置より液面に近い領域を通して移動させることでパーティクル除去の効果はより一層向上した。なお、超音波を出力する超音波発生器を洗浄槽の底部の他に例えば側面に配置した場合でもベース部材12を同様な領域を移動させることで同様の効果が得られる。
【0055】
ところで、純水洗浄工程中で、連続して搬送されるベース部材12同士の間隔が狭いと、その狭い隙間に面した部分では超音波の作用が十分でなく、また、一旦除去されたパーティクルがベース部材12の近傍から排出され難いという実験結果を発明者らは得ている。発明者らは実験を重ねることにより、純水洗浄工程中ではベース部材12同士の間隔を、使用する超音波の水中での波長の1/4より大きくすることにより上述の問題が回避できることを見いだした。例えば、水中の音速1500m/sで、周波数68kHzの超音波を作用させる場合には、超音波の波長は約22mmであり、ベース部材12同士の間隔は5.5mm以上とした。その結果、各ベース部材12の狭い隙間に面した部分においても十分にパーティクルの除去が確認され、さらに、再付着の抑制も確認できた。なお、ベース部材12同士の間隔を、超音波の水中での波長の1/2より大きくすることで、より効率的な超音波洗浄が実現できると共に、一旦除去されたパーティクルをベース部材12近傍からの排出することを容易にできるという実験結果も得ている。
【0056】
図4の工程図において、第2純水洗浄槽140が終了したベース部材12は、スプレー洗浄工程110に搬送される。
ベース部材12に付着した金属粒子系パーティクルのうち、比較的大きいものは質量も大きいため液体中で実施される超音波洗浄や噴流洗浄だけでは除去できない場合がある。そこで、アルカリ洗浄工程104、第1純水洗浄工程106、第2純水洗浄工程108に連続したクリーンルーム内にスプレー洗浄工程110を配置している。スプレー洗浄工程110では、ベース部材12の周囲に配置されたスプレーノズル146から純水と空気の混合体148吹き付けて吹付洗浄を施す。純水を空気と混合することで純水を細かな粒とし、かつ高速でスプレーすることで大きな運動エネルギーを与えることができる。この場合、純水粒子の運動エネルギーは純水粒子の質量と速度の二乗の積に比例するから、純水の粒径と噴出速度、つまり空気の圧縮度を調整することで運動エネルギーが調整できる。本実施形態においては、アルカリ洗浄工程104、第1純水洗浄工程106、第2純水洗浄工程108の後に、純水粒子の粒径を20〜80μmとし、噴出速度を20〜80m/sとしたスプレー洗浄工程110を施すことによりディスク駆動装置10のTA障害の発生確率について必要な水準を確保できるという実験結果を得た。なお、スプレーノズル146から噴射された混合体148がベース部材12に衝突した後飛び散ることが予想される方向に吸引口を形成しておけば、混合体148によって剥離除去されたパーティクルを混合体148と共に回収可能となる。その結果、パーティクルの浮遊を回避すると共に再付着を回避することができる。回収した混合体148は図示を省略したフィルタを通過させ、純水の清浄化を行い再度、スプレーノズル146へ提供する。
【0057】
なお、上述したように純水洗浄を施した後に一般の空気中に保管することなく、連続したクリーンルーム内でスプレー洗浄を施すことにより、空気中に浮遊するパーティクルがベース部材12に付着することを容易に回避できる。その結果、工程間でのパーティクル付着が大きく改善される。同様に、アルカリ洗浄工程104と第1純水洗浄工程106の間、第1純水洗浄工程106と第2純水洗浄工程108の間、後述するスプレー洗浄工程110、水切工程112、乾燥工程114の間等でも一般の空気中に保管することなく、連続したクリーンルーム内で次の処理を施すことにより、空気中に浮遊するパーティクルがベース部材12に付着することを容易に回避できる。
【0058】
ところで、従来の液体を用いた洗浄処理は、ベース部材等の構成部品を数百個単位でカゴなどに重ねて投入し、洗浄槽に漬して一定時間静置して超音波を作用させる場合が多かった。この場合、構成部品材同士の重なる部分ではパーティクルの除去率が極めて低下する。またカゴの中心領域にある構成部品のパーティクルの除去率も低下する。さらには、洗浄槽中には超音波の強い領域と弱い領域が生じてしまうので、弱い領域に漬された構成部品のパーティクルの除去率が低下し、構成部品ごとに超音波の作用に差が生じてパーティクルの除去ムラが大きかった。このため、全体の洗浄時間を長くする必要があり作業効率が悪かった。さらに多くの構成部品が密集しているので一旦除去されたパーティクルが構成部品近傍に浮遊し続け、構成部品に再付着することもあった。
【0059】
これに対して、本実施形態の洗浄方法は上述したように、純水工程中でベース部材12と他のベース部材12との間に間隔を空けて搬送装置102上に載置している。そして、各洗浄槽中を一定方向に移動させながら超音波を作用させている。また、個々のベース部材12が同じ超音波領域を通過するので、各ベース部材12に対する超音波の作用の差は殆どなくなり、パーティクルの除去ムラは抑制される。また、搬送装置102上に載置されたベース部材12は一定速度で移動するので、一旦除去されたパーティクルは容易にベース部材12の付近から遠ざかり再付着の可能性が低くできる。具体的には、例えばベース部材12が3cm/sの速度で移動するように搬送装置102を設定する。この速度は0.5cm/s以下では作業時間が長く成りすぎ好ましくなく、20cm/s以上では洗浄時間が短くなりすぎパーティクルの除去ムラを発生しやすいという実験結果が得られている。したがって、発明者らは搬送装置102の移動速度を0.5cm/s〜20cm/sの間で設定することで良好なパーティクル除去ができるとの結果を見いだした。
【0060】
スプレー洗浄工程110が終了したベース部材12は、水切工程112に搬送される。この水切工程112では、エアノズル150からクリーンエアー152をベース部材12に吹き付けて水切りする。この場合のクリーンエアの清浄度はクラス100以下が好ましい。この水切工程112でもベース部材12を回転させたり揺動させてもよく、さらに効率的な水切りができる。
【0061】
水切工程112が終了したベース部材12は、乾燥工程114に搬送される。乾燥工程114では、温風と遠赤外線ヒータ154によりベース部材12全体の乾燥を行う。この乾燥工程114でもベース部材12を回転させたり揺動させてもよく、さらに効率的な乾燥ができる。
【0062】
乾燥工程114が終了したベース部材12は、組立工程200へと搬送される。本実施形態では、組立工程200の搬送装置202の始端が洗浄工程100側に進入設置されていて、搬送装置102と搬送装置202との間に配置された図示を省略した載替装置等により、ベース部材12が搬送装置102から搬送装置202へ引き渡される。
【0063】
組立工程200では、洗浄処理により清浄度が所定値まで上がったベース部材12に、やはり清浄度が所定値以上に維持されたスリーブ40、シャフト34、ハブ部材26等が組み付けられる。前述したように、洗浄工程100と組立工程200とは連続したクリーンルーム内に配置されているので、パーティクルが組立中のディスク駆動装置10に付着してしまうことを大幅に低減できる。この後さらに、清浄度が高められた記録ディスク20をハブ部材26に載置し、磁気ヘッド24、スイングアーム22、アーム軸受部16、ボイスコイルモータ18及び制御回路、その他必要な部材を組み込んでディスク駆動装置10の組立を終了する。この組み付け作業は、組立工程200で行ってよいし、他の所定清浄度のクリーンルーム内で実施してもよい。
【0064】
上述した例では、ベース部材12を洗浄工程100で洗浄する例について説明したが、ディスク駆動装置10の構成部品である、スリーブ40、シャフト34、ハブ部材26等についても同様な洗浄を洗浄工程100で実施することも可能であり、同様な効果を得ることができる。また、上述の例では、洗浄工程中をベース部材12が単体で移動する例を示したが、例えば、1つのディスク駆動装置10を構成するベース部材12、スリーブ40、シャフト34、ハブ部材26等を1グループとして共通搬送パレットに搭載して移動させて洗浄乾燥処理を実施してもよい。この場合、1グループに含まれる構成部品は相互の間隔が前述したような超音波洗浄を良好に行える間隔を維持できるように共通搬送パレット上に配置されることが好ましい。このように共通搬送パレットで1セット分の構成部品を搬送、洗浄することで、ディスク駆動装置10の構成部品はいずれも同レベルの清浄度になり、品質の安定化に寄与できる。また、各構成部品は、加工精度が許容範囲内でも生産ロッドや加工時期によって偏りの特徴が生じする場合がある。このように場合、共通搬送パレットに相性のよい構成部品同士を予め組み合わせて載置することができる。その結果、組立工程200において、相性のよい構成部品同士を組み合わせた組立作業をスムーズに行うことが可能になり、品質の安定化に寄与できる。
【0065】
上述のように、各洗浄処理を施す洗浄工程100と組立工程200を連続するクリーンルーム内で実施することで、ディスク駆動装置10に付着するパーティクル数が大幅に低減できると共に、その付着数のバラツキも小さくできる。その結果、ディスク駆動装置10における磁気ヘッド24の浮上隙間を小さくした場合にもTA障害の発生確率が低くなり、組み上がったディスク駆動装置10において正確な再生信号の読み出しが容易となる。
【0066】
なお、図5は、従来のバッチ方式の生産方法で生産されたベース部材上に、スリーブとシャフトとハブ部材とを組み込んだディスク駆動装置で、1平方cm当たりの0.5μm以上のパーティクルの数を示すLPCを表している。被検体数5台のディスク駆動装置の清浄度LPCは5000個から10000個の間にばらつき、安定して8000個以下とすることが難しことが分かる。これに対して、図6は、図4に示す本実施形態生産方法で生産されたベース部材12上にスリーブ40とシャフト34とハブ部材26とを組み込んだディスク駆動装置10のLPCである。この場合、被検体数3台についてディスク駆動装置は、1平方cm当たりの0.5μm以上のパーティクルの数を示すLPCは概ね2000個以下に低減されており、バラツキも小さいという結果が得られた。
【0067】
このように、LPCが5000個から10000個程度である従来の生産方法で得られるディスク駆動装置では、固体ごとのパーティクル数のバラツキが大きい。このためディスク駆動装置の検査工程でパーティクルを検査する必要があり、パーティクル数の多いものが発見された場合には、そのままでは出荷できない。この場合には例えばパーティクルを拭き取るなど特別のパーティクル除去工程を追加することになり、生産の手間が増大していた。またこの場合に、TA障害の確率を下げるためにディスクの回転速度を低く抑えて使用するなどの対応をとることがあり、データの読み出しが遅くなることもあった。これに対し、本実施形態の生産方法を用いてベース部材12上にスリーブ40とシャフト34とハブ部材26とを備えたディスク駆動装置10は、LPCを2000個以下にすることができる。つまり、固体ごとのパーティクル数のバラツキが小さく抑えられる。その結果、特別にパーティクル除去の工程を加える必要がなく、手間が軽減される。また、ディスクの回転速度を低く抑えて使用する必要もなくなり、高性能のディスク駆動装置10を提供できる。
【0068】
前述したディスク駆動装置10の生産方法において、ベース部材12等の被洗浄体の移動速度を調整して洗浄時間を延ばすことで、ディスク駆動装置10のLPCを1500個以下にすることもできる。同様の手段によりディスク駆動装置のLPCを1000個以下とすることもできる。このようなLPCの値のコントロールは、LPCの値のコントロールに必要とされる工数や作業効率とパーティクル除去に必要となる工数や作業効率を比較し、効率が向上するように調整することが望ましい。
【0069】
上述した実施形態では、ディスク駆動装置10の一例としてシャフト回転タイプのディスク駆動装置10を例にとって説明したが、シャフト固定タイプのディスク駆動装置等他の構造のディスク駆動装置の生産にも適用可能であり、本実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0070】
本発明は、上述の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0071】
10 ディスク駆動装置、 12 ベース部材、 30 軸受ユニット、 34 シャフト、 40 スリーブ、 100 洗浄工程、 102 搬送装置、 104 アルカリ洗浄工程、 106 第1純水洗浄工程、 108 第2純水洗浄工程、 110 スプレー洗浄工程、 112 水切工程、 114 乾燥工程、 116 アルカリイオン水、 126 第1純水洗浄槽、 128 純水、 130,132,134 超音波発生器、 148 混合体、 200 組立工程、 202 搬送装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部材と、前記ベース部材にシャフトと当該シャフトを収納するスリーブとが相対回転するように構成した軸受ユニットと、前記軸受ユニットを介して支持されるハブと、を少なくとも含んで構成されるディスク駆動装置の生産方法であって、
前記ディスク駆動装置の構成部品の少なくとも1つは搬送されながら、純水中で少なくとも2種類以上の周波数の超音波を作用させた純水洗浄を行う洗浄工程にて洗浄され、
洗浄された前記構成部品は、前記洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立てられることを特徴とするディスク駆動装置の生産方法。
【請求項2】
前記純水洗浄を行う洗浄工程は、洗浄開始側より洗浄終了側の方が超音波の周波数が高いことを特徴とする請求項1記載のディスク駆動装置の生産方法。
【請求項3】
ベース部材と、前記ベース部材にシャフトと当該シャフトを収納するスリーブとが相対回転するように構成した軸受ユニットと、前記軸受ユニットを介して支持されるハブと、を少なくとも含んで構成されるディスク駆動装置の生産方法であって、
前記ディスク駆動装置の構成部品の少なくとも1つは搬送されながら、アルカリイオン水中で超音波を作用させたアルカリ洗浄に続いて、純水中で超音波を作用させた純水洗浄を行う洗浄工程にて洗浄され、
洗浄された前記構成部品は、前記洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立てられることを特徴とするディスク駆動装置の生産方法。
【請求項4】
ベース部材と、前記ベース部材にシャフトと当該シャフトを収納するスリーブとが相対回転するように構成した軸受ユニットと、前記軸受ユニットを介して支持されるハブと、を少なくとも含んで構成されるディスク駆動装置の生産方法であって、
前記ディスク駆動装置の構成部品の少なくとも1つは搬送されながら、純水中で超音波を作用させた純水洗浄に続いて、純水と空気の混合体の吹き付けにより洗浄する吹付洗浄を行う洗浄工程にて洗浄され、
洗浄された前記構成部品は、前記洗浄工程と連続した所定レベル以上のクリーン領域内の組立工程にて組み立てられることを特徴とするディスク駆動装置の生産方法。
【請求項5】
前記洗浄工程は、洗浄される構成部品の搬送方向に対して逆方向に流れる洗浄液中を搬送されながら洗浄されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のディスク駆動装置の生産方法。
【請求項6】
前記純水洗浄を行う洗浄工程では、複数の構成部品が純水中を所定の間隔で連続搬送されながら超音波の作用を受けて洗浄されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のディスク駆動装置の生産方法。
【請求項7】
前記複数の構成部品が連続搬送される所定の間隔は、前記超音波の波長の1/4の長さより大きいことを特徴とする請求項6記載のディスク駆動装置の生産方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のディスク駆動装置の生産方法を用いて生産したことを特徴とするディスク駆動装置。
【請求項9】
前記組立工程にて組み立てられたディスク駆動装置は、0.5μm以上のパーティクル数が1平方cm当たり2000個以下であることを特徴とする請求項8記載のディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−244627(P2010−244627A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92997(P2009−92997)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(508100033)アルファナテクノロジー株式会社 (100)
【Fターム(参考)】