説明

ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置

【課題】NOxを80%削減、SOxを0.1%削減することができるディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる有害物質を除去する排ガス浄化装置10であって、有害物質を吸収する吸収液2を貯留する排ガス浄化塔1と、吸収液2に浸漬されるように排ガス浄化塔1に回転自在に配設された散気管3と、散気管3に形成された散気孔3aと、散気管3を回転する回転駆動装置4と、散気管3に排ガスを導入する排ガス導入流路7と、を備え、散気管3を回転させながらこの散気管3に導入された排ガスを散気孔3から吸収液2の液中に放出して気泡分散させることで、有害物質を吸収することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するディーゼルエンジンの排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2008年、IMO(国際海事機関)の第57回海洋環境保護委員会(MEPC)において、「船舶による環境汚染の規制」についての第3次規制案が採択された。これは、2016年以降、NOx(窒素酸化物)の排出量を80%削減する規制である。また、S(硫黄)分を 含有する燃料に対しては、一般海域で2020年に0.5%削減する規制である。
船舶のエンジンはほとんどがディーゼルエンジンであるため、ディーゼルエンジンの排ガス対策が急務となっている。
【0003】
重油を燃料とする船舶のディーゼルエンジンと、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンとの間には、沸点、引火点、着火点等の温度が相違し、また、S(硫黄)の有無が相違するため、当然ながら排ガスの性状にも大きな違いがある。
船舶用のディーゼルエンジンは、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)、PM(粒子状物質・ばいえん)等を排出する。
【0004】
ディーゼルエンジンから発生するNOxについては、燃料燃焼時に発生するサーマルNOxが大半を占めている。NOxの発生量を抑えるためには、燃焼温度のコントロールを目的とした燃焼タイミングの改善、エンジン内水噴霧、燃料中への水混入等が採用されている。また、酸素O濃度を下げることで燃焼温度を低減し、サーマルNOxの発生を抑制する排ガス循環方式(EGR:exhaust gas recirculation)が採用されている。
しかし、これらの装置によるNOx低減率は20〜50%程度であり、これらの装置では、要求されるNOx低減率80%はクリヤできていない。
【0005】
図10は、従来のNOx浄化装置(SCR:Selective Catalytic Reduction)を示す摸式図である。
図10に示すように、従来のNOx浄化装置15にディーゼルエンジンの排ガスを導入すると、尿素水15aが尿素噴射ノズル15bから噴射され、尿素がアンモニアに加水分解される。つぎに、チタン・バナジウム系の触媒が充填された触媒層15cを通すことにより、NOxとアンモニア(NH)が反応し、NとHoに分解され、NOxが浄化される(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、SCRについては、排ガスの温度によるNOx除去性能の変化、排ガス量及び排ガス中のNOx濃度に応じた尿素の噴霧量の制御不良によるスリップアンモニア
対策、また、燃料によっては、排気中のSOxにより、触媒の寿命低下が起り、定期的な触媒の交換が必要で、メンテナンスコストが高い等の問題があった。
また、従来のNOx浄化装置15では、SOxとPMの浄化には、対応できないという問題があった。
【0006】
図11は、従来のSOx浄化装置であるスクラバーの斜視図である。
図11に示すように、気液接触型の従来のSOx浄化装置であるスクラバー16は、装置の中間部から吸収液を噴出させ、その噴水に排ガスを通してSOxを捕捉、除去するものである(例えば、非特許文献2参照)。
しかしながら、スクラバー16は、排ガス量に対して大量の吸収液、たとえば電解海水が必要となるため、設備が大きくなり、例えば船内への設備が困難であり、運転コスト、特に電力費が高くなるという問題があった。
また、その他の有害物質除去には、一般的に、液最下面又は液中に固定したメッシュ状板から気泡を発生させるものがあるが、気泡の分散に問題があり、気液接触状態も悪く、要求事項を満足させるためには大型化(多段化)が必要で、ガス通過抵抗も増大することから、設備および運転コストの両方が上がるという問題があった。
さらに、従来の排ガス浄化装置であるスクラバー16や気砲塔(図示せず)では、排ガス中の複数の有害物質の浄化ができないため、2つの装置が必要であり、一つの装置でNOx、sOx、PM等の有害物質を除去するディーゼルエンジンの排ガス浄化装置がない、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】平田宏一「機関室設計も変わる、排ガス対応技術の動向」 2008.11海上技術安全研究所講演会(第9回)講演集、海上技術安全研究所版、2009.9.11発行、P.61
【非特許文献2】三菱重工業株式会社、液中式吸収塔[online]、2011年3月9日検索インターネット(http://www.mhi.co.jp/products/detail/fgdp_dcfs.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、従来の問題を解決するために創案されたものであり、ディーゼルエンジンの性能を落とすことなく、一つの装置で排出されるNOx、sOx、PM等の有害物質を効率よく除去することができると共に、設置場所が船内であっても省スペースで設置でき、運転コスト、メンテナンスコストを最小限に抑え、化学的な吸収液の他に水、海水等の使用を可能な構成にしたディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる有害物質を除去する排ガス浄化装置であって、前記有害物質を吸収する吸収液を貯留する排ガス浄化塔と、前記吸収液に浸漬されるように前記排ガス浄化塔に回転自在に配設された散気管と、前記散気管に形成された散気孔と、前記散気管を回転する回転駆動装置と、前記散気管に前記排ガスを導入する排ガス導入流路と、を備え、前記散気管を回転させながら当該散気管に導入された前記排ガスを前記散気孔から前記吸収液の液中に放出して気泡分散させることで、前記有害物質を吸収することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置であって、前記排ガスの排ガス圧力の変化に対応しながら、気泡の径が1〜5000μmとなるように、前記回転駆動装置により前記散気管の回転数を変えて制御することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置であって、前記吸収液の温度上昇により発生する熱を回収する熱交換器を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置であって、前記有害物質を吸収した使用済みの前記吸収液を前記排ガス浄化塔から排出しながら、未使用の吸収液を前記排ガス浄化塔に供給することを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置であって、前記吸収液は海水であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、ディーゼルエンジンの性能を落とすことなく、排出される有害物質を効率よく除去することができる。また、設置場所が船内であっても省スペースで設置でき、運転コスト、メンテナンスコストを最小限に抑える構成にしたディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を提供することができる。
さらに、散気管を回転し、散気孔から気泡分散する排ガスを散気管の回転によりせん断することにより、所望の微細な気泡を作り出すことができることから、微細な気泡にして吸収液と排ガスとの接触面積を増加させ、浄化の効率を高めることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、排ガスの排ガス圧力の変化に対応しながら、気泡の径が1〜5000μmとなるように、回転駆動装置により前記散気管の回転数を変えて制御することにより、ディーゼルエンジンの始動時であっても、排ガスの排ガス圧力の変化に対応して散気管の回転数を変え、溶解、吸収反応に最も効率のよい気泡径の気泡を効率よく液中に分散させることができることから、より高効率な浄化ができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、吸収液の温度上昇により発生する熱を回収する熱交換器を備えたことにより、吸収液から熱を吸収して、吸収液の温度上昇を防ぐとともに、排ガスの顕熱を回収することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、有害物質を吸収した使用済みの吸収液を排ガス浄化塔から排出しながら、有害物質を吸収していない未使用の吸収液を排ガス浄化塔に供給する吸収液循環装置を備えたことにより、吸収液の再利用(リサイクル)ができるため、環境にやさしい運用ができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、吸収液に海水を用いることにより、船舶用のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置に適用が可能であり、安全に運転可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を示す断面図、(b)は(a)に示すA−A線の断面図、(c)は機械式可変速装置を示す構成図である。
【図2】排ガス浄化装置の変形例1,2を示す摸式図であり、(a)は、回転式の散気管を立形にし、排ガスの供給と回収を上端部にした摸式図である。 (b)は、回転式の散気管を立形にし、排ガスの供給は回転式の散気管の下面とし、排ガスの回収は上端部とした摸式図である。
【図3】排ガス浄化装置の変形例3を示す摸式図である。
【図4】排ガス浄化装置の変形例4を示す摸式図である。
【図5】散気ノズル回転数比と気泡径との関係を示すグラフである。
【図6】気泡径と単位容積当りの接触面積比との関係を示すグラフである。
【図7】単位容積当りの接触面積比と物質移動容量係数比の関係を示すグラフである。
【図8】物質移動容量係数比と脱硝率比の関係を示すグラフである。
【図9】ディーゼルエンジンと排ガス浄化装置、無害化装置との配置を示す配置図である。
【図10】従来のNOx浄化装置(SCR)を示す摸式図である。
【図11】従来のSOx浄化装置であるスクラバーの斜視図の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1の(a)に示すように、排ガス浄化装置10は、本体となる吸収液2を貯留する排ガス浄化塔1と、この吸収液2に浸漬され、排ガス浄化塔1に回転自在に配設された散気管3と、この散気管3に形成された散気孔3aと、散気管3を回転する回転駆動装置4と、この散気管3に排ガスを導入する排ガス導入流路7とを備え、さらに、吸収液2の温度上昇により発生する熱を回収する熱交換器5と、吸収液2を排ガス浄化塔1に供給する無害化装置8(図9参照)、散気管3の回転数を制御する制御装置18を備えている。
図9に示すように、排ガス浄化装置10は、船舶用ディーゼルエンジンDEの排気管DE1と排ガス入口部7が接続されている。
なお、ディーゼルエンジンDEと排ガス入口部7との間に、ターボチャージャー(過給機)TCを設けた構成であってもよい。
さらに、吸収液2は、無害化装置8のタンク8aに回収され、無害化処理後に海洋に廃棄される。なお、吸収液2を再循環させてもよい。
【0021】
<排ガス浄化塔の構成>
排ガス浄化塔1は、図1の(a)に示すように、四角柱または円筒状に形成され、排液ノズル1aを下にした状態に立設されており、上下両端部内の端面が四角錐または円錐形に形成されている。排ガス浄化塔1の上端部には、有害ガスを除去した後の空気を大気に放出する排ガス出口(gas outlet)1bが設けられている。
排ガス浄化塔1は、吸収液2が所定の水位高さである塔内吸収液高さH1で貯留されている。
また、排ガス浄化塔1内の下部には、吸収液2に浸漬された回転式の散気管3が横方向に向けて配置され、回転自在に支持されている。また、散気管3の上部には、分散板9(図1(b)参照)と熱交換器5も吸収液2に浸漬された状態で排ガス浄化塔1内に配置されている。
さらに、排ガス浄化塔1の外側の一側面の下部、例えば、図1に示す左側下部には排ガスを散気管3に導入する排ガス導入流路(gas inlet)7が設けられている。排ガス導入流路7には、排ガス圧力Hgを測定する図示しない圧力センサが装着されている。
船舶用のディーゼルエンジンから排出される排ガスの排ガス圧力Hgは、塔内吸収液高さH1の水圧より高い圧力である。つまり、排ガス圧力Hg>塔内吸収液高さH1の水圧、となるため、ディーゼルエンジンが起動すれば、排ガス導入流路7と散気管3は排ガスで充満され、散気管3の散気孔3aから排ガスが噴射される。また、ディーゼルエンジンが停止した状態では、吸収液2が散気管3内を満たし、排ガス導入流路7の上部まで水位が上昇して同一水面の高さH1で釣り合い、静止する。
排ガス浄化塔1外には、吸収液2の高さH1および流量Q等、供給量、排出量のバランスを調整できるようにバルブ6a,6bが配置されている。
【0022】
<吸収液>
吸収液2は、排ガス中の有害物質であるNOx、SOx、PM等を吸収または分散するための液体であり、例えば、海水、電解海水、水、水酸化マグネシウム溶液等が好適である。
吸収液2は、バルブ6aを経由して給水口6cから排ガス浄化塔1内に配置された給水管6へ給水される。また、排ガスの有害ガスを捕捉した使用済みの吸収液2は、排ガス浄化塔1の下端部の底に設けられた排液ノズル1aからバルブ6bを経由して、無害化装置8のタンク8aに回収される。
図9に示すように、無害化装置8では、散気管3の回転による分散作用によりPMを分離した後、図示しないフィルターにより回収する。
また、吸収液2のNOxは硝酸(HN0)になるため、例えば、苛性ソーダ等のアルカリ性物質で中和し、無害化する。
吸収液2のSOxは硫酸(HSO)になるため、例えば、水酸化マグネシウム等のアルカリ性物質で中和し、無害化して、廃棄(矢印c)する。または、無害化した吸収液2を再利用して、吸収液2を再循環(矢印a、矢印b)してもよい。
【0023】
<散気管の構成>
散気管3は、図1の(a)、(b)に示すように、回転式であり、回転式の散気管3が排ガス浄化塔1の下部に回転軸3cを横にして吸収液2に浸漬された状態で配置されている。
回転式の散気管3は、一端が複数枚のリブ3e、ここでは6枚のリブ3eによって回転軸3cから支持され、他端が有底円筒状に形成されている。また、その円筒状の外周には複数の散気ノズルとなる散気孔3a,3a…が穿設されており、散気管3の一端に配置された排ガス導入流路7から導入される。
なお、排ガスの導入方法は、一端に限定せず、両端から供給してもよい。
散気管3の左右両端部には縮径した回転軸3c,3cが一体に延設されている。この延設された回転軸3cの一方は、前記した排ガス入口部7の外壁に設けられたベアリング3bによって支持され、他方は排ガス浄化塔1の外壁に図示しないシールを介して設けられたベアリング3bによって支持されている。
これにより、散気管3は、ベアリング3b,3bによって両端支持され、回転自在に回転する。
なお、散気孔3a,3a…は、排ガスを吸収液に放出するノズルであるから、散気ノズルという。ここでは、ノズルのような出っ張りがないため、散気孔3aとするが、少しの出っ張りを設けて散気ノズル3a,3a…としても構わない。
散気管3の高速回転では、ノズルのような出っ張りがより小さい方が、吸収液2の抵抗を受けにくいため、高速回転には有利であるが、出っ張りを設けて攪拌機能を持たせた散気ノズルとしてもよい。
【0024】
回転式の散気管3は円筒状に形成され、直径は約φ100〜300mm、長さは1,000〜2,000mm、材質はステンレス板で形成されており、散気孔3a,3a…の孔径は約φ1〜10mm、孔間隔は10〜100mmが好適である。なお、孔の形状は、丸形が好適であるが、楕円、長穴、これ以外の形状であってもよい。
【0025】
本発明の特徴は、散気孔3a,3a…から噴出する排ガスの泡を散気管3の回転によりせん断して微細化する。このせん断作用で所望の微細なサイズの気泡3dを作り出すことにある。所望の微細な気泡径は、散気管3の高速回転により容易に作り出すことができる。散気管3は、排ガス圧力Hgの高低に合わせて、回転数がコントロールされ、気泡分散する気泡の径を1〜5000μmとなるように、散気管3の回転数が制御されている。
散気孔3aにより気泡3dとなって液中に気泡分散された排ガスの気泡3dは、分離板9を介して一定時間を要して吸収液2中を上昇し、その間、有害物質が吸収液2に吸収される浄化作用を経て、きれいになった排ガスの空気は、排ガス浄化塔1内の上部の排ガス出口1bから大気に放出される。
【0026】
<回転駆動装置の構成>
回転駆動装置4は、機外に設けられた制御装置18により、散気管3を所望の回転数に可変して回転することができるインバータ制御で制御されている。
図1の(a)に示すように、この回転駆動装置4は、すでに公開されているインバータ制御による可変速制御により行う。インバータモータ4aの回転数は、周波数の制御により、容易に変えることができる。インバータモータ4aは、散気管3の回転軸3cにカップリングを介して直結してもよいし、図示のようにプーリ4c,4cとVベルト4eを介して増速または減速させて構成してもよい。
ここでは、散気管3は、ノズルの周速が2.5〜10m/sとなる範囲で回転数が制御される。この周速を達成する回転数にすると、気泡3dが微細化するため、気液の接触面積が拡大し、後記する物質移動容量係数が高まり、NOxの80%削減が可能になる。
【0027】
<熱交換器の構成>
熱交換器5は、図1に示すように、排ガス浄化塔1内の液面と散気管3の間の液中に配置されている。熱交換器5は、アンモニア、二酸化炭素、水蒸気等の代替フロンガスと、排ガスの熱により高温になる吸収液2の熱とを熱交換して吸収液2の冷却をする。
熱交換器5は、ディーゼルエンジンの排ガスが高温で高圧であるため、冷却することにより、吸収液2が沸騰するのを防止するとともに、排ガスの顕熱を回収し、回収した熱は、例えば、廃熱発電に供するか、燃料の加熱スチーム用等に共する。
【0028】
ミストキャッチャー1cは、図1の(a)に示すように、別名ヒュームキャッチャーであり、気泡3dが吸収液2から分離されるときに水分を巻き上げるミストを捕捉する装置、もしくは、蒸発により発生したミストを気体から分離回収する装置である。
【0029】
分散板9は、図1の(a),(b)に示すように、散気管3の上部に配置され、散気管3と熱交換器5の間に設けられている。
分散板9は、平面視では図示しない格子状に形成され、格子状の四角形の孔が複数個設けられている。一つに固まりかけた微小の気泡の集団は、この分散板9の四角形の格子により、分散される。また、分散板9の下面には、邪魔板9aが縦方向に平行に複数枚配列され、接続されている。
邪魔板9aは、分散板9の下面に直交して固定されている。邪魔板9aは、散気管3の気泡3dの上昇方向に平行に配置されている。散気管3から離間するにしたがい、全長が短い分散板9は、徐々に全長が長くなり、邪魔板9aの下端部はRの曲げが施されている。このRの曲げにより、気泡の収集が容易になり、また、排ガス浄化塔1内の気泡3dが一箇所に固まらないように案内されている。
【0030】
制御装置18は、排ガス浄化塔1の機外に設けられており、排ガス導入流路7に装着された圧力センサ(図示せず)による排ガス圧力Hgの数値と散気管3の回転数から、気泡の径が推定できるため、排ガス圧力Hgの高低に合わせて、所定の回転数に制御する。なお、気泡の径を測定して制御装置18にフィードバックし、回転数を制御しても構わない。回転駆動装置4のインバータモータ4aは、インバータ制御され、散気管3を所望の回転数に可変して回転する。その結果、気泡の径を1〜5000μmとなるように制御されている。
【0031】
ここで、ディーゼルエンジンの排ガス浄化装置10の変形例を説明する。
図1に示す排ガス浄化塔1および散気管3の構造や配管は、装置の設置場所等により、図2〜図4に示す構成に変更してもよい。
図2の(a)の変形例1の排ガス浄化装置11は、本体となる排ガス浄化塔1は同じ立形であるが、散気管3も立形にしている。回転式の散気管3への排ガスの供給は、排ガス浄化塔1の上端部に設けた排ガス導入流路7から供給する。
なお、散気管3の形状が円筒状から、断面が台形にした円錐台の形状になっている。このような形状にした構成にしても構わない。
図2の(b)に示す変形例2の排ガス浄化装置12は、回転式の散気管3を立形にし、かつ、排ガスの供給は回転式の散気管3の下面3fから導入するものである。排ガス浄化装置10は、このような構成にしても構わない。
【0032】
図3に示すように、変形例3の排ガス浄化装置13は、排ガス浄化塔1が横置きであり、この中に軸心を同じに横置きにした散気管3が配置され、回転している。散気管3への排ガスの供給は、回転式の散気管3の一方側または両方から図示しない排ガス導入流路7から供給する。吸収液2の供給は、手前左下の供給口13aから供給され、吸収液2の排出は、手前右上の排出口13bから排出される。排ガス浄化装置10は、このような構成にしても構わない。
【0033】
図4に示すように、変形例4の排ガス浄化装置14は、略円筒状の排ガス浄化塔1は立形であり、立設された排ガス浄化塔1の内部を2分割するように一枚の仕切板14cが配置されている。これにより、吸収液2は左右に2分割される。
したがって、吸収液2の供給は、供給口14aから供給され、吸収液2の排出は排出口14bから排出される。このように、吸収液2は、一旦仕切板14cの下部をくぐり抜けてから排出口14bから排出されることになり、吸収液2が移動する流路を2倍に長くすることができる。排ガス浄化装置10は、このような構成にしても構わない。
【0034】
排ガス中のPM分回収する方法を説明する。
回転式の散気管3により、吸収液2中に気泡分散させることにより、排ガス中のPMは、排ガスとともに吸収液2の液中に分散する。この分散作用によりPMを分離し、フィルターにより回収する。
【0035】
ところで、気体成分の溶液への溶解、吸収は、次に示す式(1)で表すことができる。
L・a=L・ΔCB/(A・hT・υ・H・PA)・・・・(1)
L・a:物質移動容量係数
L:物質移動係数
a:気泡界面積
L:液流量
ΔCB:液側反応成分の濃度変化(吸収量)
A:装置断面積
hT:気液混相高さ
υ:化学量論係数
H:ヘンリー定数
PA:被吸収ガスの出入口分圧の対数平均値
前記(1)式から判るように、ΔCBを一定以上に維持する為には、kL・aを一定以上に保つ必要があり、逆にガス量によってaが変動すれば、ΔCB(性能)を維持出来なくなることが判る。
【0036】
したがって、気体が液体へ溶解または吸収する程度は、物質移動容量係数kL・aによって決定される。物質移動容量係数kL・aは、気体成分固有の物質移動係数kLと、接触面積aとの積として求められ、この値が大きければ大きいほど、物質を短時間に多量に液中に溶解、吸収することができる。
接触面積aを増やし、物質移動容量係数kL・aを高めることにより、課題が解決できると共に、排ガス浄化装置10を、よりコンパクトな装置にすることができる。
また、前記した物質移動容量係数kL・aは、温度、圧力により決定され、接触面積aは、気泡3dの径、気泡3dの液中への分散状態により決定される。
ディーゼルエンジンの性能を維持すること、運転コストを最小限に抑えることを考慮すれば、排ガスの温度、圧力を変化させることは得策ではなく、したがって、排ガスの状態を変化させることなく比較的容易にコントロールできる接触面積aを大きくとることで、気液間の物質移動容量係数kL・aを大きくすることが、「船舶による環境汚染の規制」をクリヤするためのポイントである。
【0037】
本発明では、排気ガスを回転する散気管3を用いて液中に導入し、散気管3の高速回転により散気孔3aからの気泡径を1〜5000μmにコントロールし、溶解、吸収反応および発生コストに最も効率のよい気泡径としてその気泡3dを効率よく液中にて分散可能に構成した。
また、排気ガスが直接液中に分散して接触面積が大きくなるため、排気ガスの持つ顕熱は、伝熱管を介した熱交換よりはるかに効率よく液に伝達される。
この特徴を活かして、比較的低温の排気ガスから効率よく熱回収を図ることができる。なお、熱回収をしないで、冷却だけをする冷却装置としても構わない。
また、機器構成としては、排ガス浄化塔1より直接蒸気を取り出し、発電もしくはプロセス蒸気として活用することもできる。さらに、排ガス浄化塔1の内部に熱交換器5を配したことにより、液体もしくはガスを熱媒体として利用することにより、吸収液2から熱を吸収し、別のプロセスへ熱を供給することもできる。
【実施例】
【0038】
図5は、本願発明の排ガス浄化装置の散気ノズル回転数比と気泡径との関係を示すグラフである。
図5に示すように、横軸の回転式の散気管の回転数を上げると、縦軸の気泡径が反比例して2次曲線で微細化される関係が判る。
図6は、本願発明の排ガス浄化装置の気泡径と単位容積当りの接触面積比との関係を示すグラフである。
図6に示すように、横軸の気泡径を微細化すると、縦軸の接触面積比が急激に増大する、反比例の関係があることが判る。
【0039】
図7は本願発明の排ガス浄化装置の、単位容積当りの接触面積比と物質移動容量係数比の関係を示すグラフである。横軸の接触面積比が増加すると、縦軸の物質移動容量係数比も2次曲線で増加することが判る。
すなわち、本発明では、浄化性能を一定以上に維持するために、排ガス条件の変化に対応して散気管3の回転数を変更し、好適な径の気泡3dを発生させ、適正な気液接触面積を確保することで所望の物質移動容量係数を高める。
【0040】
図8は、物質移動容量係数比と脱硝率比の関係を示すグラフである。図8に示すように、横軸の物質移動容量係数比と縦軸の脱硝率比の関係は、2次曲線で比例しているのが判る。
この結果、排ガス浄化装置10は、回転式の散気管3による微細な気泡3dにより、気液の接触面積を増やし、物質移動容量係数を高めることができるので、排ガスのNOxを80%削減することができる。
また、排ガス浄化装置10を、よりコンパクトな装置にすることができる。
【0041】
なお、本発明はその技術思想の範囲内で種々の改造、変更が可能である。
回転駆動装置4は、電気式可変速制御により行うが、機械式の可変速装置を用いてもよい。
例えば、図1の(c)に示すように、モータ4bはベルト式の無断変速機構を有し、可変速が可能である。つまり、回転数は、手動の可変ハンドル4gを回し、所望の回転数の目盛りに合わせてプーリ4d,4dの幅を変更するとともに、変更されたベルト幅に合わせてベルト4fが移動して所望の回転数に変速される構成としてもよいし、この可変ハンドル4gを自動旋回にしても構わない。
【符号の説明】
【0042】
1 排ガス浄化塔
1a 排液ノズル
1b 排ガス出口
1c ミストキャッチャー(ヒュームキャッチャー)
2 吸収液
3 散気管(回転式の散気管)
3a 散気孔(散気ノズル)
3b ベアリング
3c 回転軸
3d 気泡
3e リブ
3f 底板
4 回転駆動装置
4a インバータモータ
4b モータ
4c,4d プーリ
4e,4f Vベルト
4g 可変ハンドル
5 熱交換器
6 給水管
6a,6b バルブ
6c 給水口
7 排ガス導入流路
8 無害化装置
9 分散板
9a 邪魔板
10,11,12,13,14 排ガス浄化装置
13a,14a 供給口
13b,14b 排出口
14c 仕切板
15 NOx浄化装置
16 スクラバー
18 制御装置
DE ディーゼルエンジン
DE1 排気管
TC ターボチャージャー
Hg 排ガス圧力
H1 塔内吸収液高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる有害物質を除去する排ガス浄化装置であって、
前記有害物質を吸収する吸収液を貯留する排ガス浄化塔と、
前記吸収液に浸漬されるように前記排ガス浄化塔に回転自在に配設された散気管と、
前記散気管に形成された散気孔と、
前記散気管を回転する回転駆動装置と、
前記散気管に前記排ガスを導入する排ガス導入流路と、を備え、
前記散気管を回転させながら当該散気管に導入された前記排ガスを前記散気孔から前記吸収液の液中に放出して気泡分散させることで、前記有害物質を吸収することを特徴とするディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記回転駆動装置は、ディーゼルエンジンの回転数や排ガスの圧力、重油の種類、燃焼温度等の緒言により有害ガスの発生量が変化するのに対応して、気泡の径が1〜5000μmの範囲になるように、前記散気管の回転数を変えて制御することを特徴とする請求項1に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記吸収液の温度上昇により発生する熱を回収する熱交換器を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記有害物質を吸収した使用済みの前記吸収液を前記排ガス浄化塔から排出しながら、未使用の吸収液を前記排ガス浄化塔に供給することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記吸収液は海水であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のディーゼルエンジンの排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−225320(P2012−225320A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95832(P2011−95832)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000154598)株式会社福島製作所 (3)
【Fターム(参考)】