説明

ディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置及び処理方法

【課題】 酸素分を多く含む高温の排気ガス中に含まれるNOX分を高効率に除去するディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置及び処理方法を提供するものである。
【解決手段】 本発明に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置10は、
ディーゼル内燃機関11の後段に接続され、排気ガスG1中に含まれるNOX分を脱硝するものであって、
ディーゼル内燃機関11の後段に接続された無触媒脱硝反応器13と、
その無触媒脱硝反応器13の後段に接続された脱硝触媒による脱硝反応器14と、
無触媒脱硝反応器13及び脱硝反応器14の各ガス導入部13a,14aに臨んで設けられ、還元剤Rを噴霧する噴霧手段16と、
を備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置及び処理方法に係り、特に船舶、自動車、車両などの移動体用ディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置及び処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所やプラントのボイラなどに用いられる固定式(定置式)のディーゼル内燃機関の場合、排気ガス中に含まれるNOX分を除去する方法として、酸化バナジウム/酸化チタン系触媒と還元剤(アンモニア)とを用いた選択接触還元法(SCR法)が広く用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。図6に、この方法を用いた排気ガス処理装置60の一例を示すように、ディーゼル内燃機関61の後段に、脱硝触媒(酸化バナジウム/酸化チタン系触媒)による脱硝反応器62が設けられ、脱硝反応器62のガス導入部62aに臨んで、還元剤(アンモニア)64を供給する供給手段63が設けられる。また、脱硝反応器62の後段には、排気ガス中のCOやハイドロカーボン(HC)を酸化させると共に、粒子状物質(PM)を除塵するための酸化触媒反応器65が設けられる。さらに、ディーゼル内燃機関61の運転状況に応じて、供給手段63からの還元剤64の供給量を制御するための制御手段66が設けられる。
【0003】
この排気ガス処理装置60を、船舶、自動車、車両などの移動体用ディーゼルエンジンに適用し、自動車などの移動体にアンモニアガスを積載するということが、欧米などでは採用されている。
【0004】
【特許文献1】特開平05−031327号公報
【特許文献2】特開平08−215544号公報
【特許文献3】特開平10−033947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、トラックやバスなどのディーゼルエンジンは、加速・減速、停止、再始動など運転状況が急変するため急激な負荷変動が生じる。このため、ディーゼルエンジンの排気ガス中のNOX濃度も急激に変動することから、過剰に投入されたアンモニアガスが、アンモニアスリップにより、そのまま大気中に放出される懸念がある。アンモニアガスは、可燃性ガスであると共に臭気を有していることから、ディーゼルエンジン搭載の移動体にアンモニアガスを積載することは、あまり好ましくない。
【0006】
また、ガソリンエンジン搭載の移動体の場合、三元触媒を用いることにより、排気ガス中から未燃分とNOX分とを取り除くことができる。しかし、ディーゼルエンジンの排気ガスは酸素ガスを多く含んでおり、特に、高出力運転時の排ガスは500〜600℃と高温である。ディーゼルエンジンの排気ガスのような過剰酸素、高温雰囲気下で三元触媒を用いると、酸化反応により触媒金属がすぐに劣化してしまうことから、三元触媒をディーゼルエンジン搭載の移動体に適用することは困難である。
【0007】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、酸素分を多く含む高温の排気ガス中に含まれるNOX分を高効率に除去するディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置及び処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく本発明に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置は、
ディーゼル内燃機関の後段に接続され、排気ガス中に含まれるNOX分を脱硝する排気ガス処理装置において、
上記ディーゼル内燃機関の後段に接続された無触媒脱硝反応器と、
その無触媒脱硝反応器の後段に接続された脱硝触媒による脱硝反応器と、
無触媒脱硝反応器及び脱硝反応器の各ガス導入部に臨んで設けられ、還元剤を噴霧する噴霧手段と、
を備えたものである。
【0009】
ここで、脱硝反応器の後段に酸化触媒反応器を備えていることが好ましい。或いはディーゼル内燃機関と無触媒脱硝反応器との間に酸化触媒反応器を備えていることが好ましい。
【0010】
また、ディーゼル内燃機関から排出されたガス、無触媒脱硝反応器を通過したガス、脱硝反応器を通過したガス、及び酸化触媒反応器を通過したガスの分析を行うガス分析手段を備えていることが好ましい。或いはディーゼル内燃機関から排出されたガス、酸化触媒反応器を通過したガス、無触媒脱硝反応器を通過したガス、及び脱硝反応器を通過したガスの分析を行うガス分析手段を備えていることが好ましい。
【0011】
さらに、ディーゼル内燃機関と接続され、ガス分析手段及び噴霧手段の制御を行う制御手段を備えていることが好ましい。
【0012】
また、還元剤が、炭酸アンモニウム水溶液であることが好ましい。
【0013】
一方、本発明に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理方法は、
ディーゼル内燃機関から排出された排気ガス中に含まれるNOX分を脱硝する排気ガス処理方法において、
上記ディーゼル内燃機関から排出された排気ガスに無触媒下で第1還元剤を噴霧して第1脱硝処理を施し、
その第1脱硝処理後の排気ガスに第2還元剤を噴霧し、脱硝触媒と接触させて第2脱硝処理を施すものである。
【0014】
ここで、第1還元剤の噴霧量を制御し、第1脱硝処理後の排気ガスのNOX濃度を第1基準NOX濃度以下に調整することが好ましい。また、第2還元剤の噴霧量を制御し、第2脱硝処理後の排気ガスのNOX濃度を第2基準NOX濃度以下に調整することが好ましい。
【0015】
また、第1還元剤及び第2還元剤が、炭酸アンモニウム水溶液であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸素分を多く含む高温の排気ガスから、NOX分を効率よく除去することができるという優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
脱硝触媒の反応温度依存性を図5に示すように、線51(図5中では◇印を結んだ線)で示す通常脱硝触媒は、反応温度が約320℃の時、脱硝率が最大(90%弱)となる。これに対して、線52(図5中では■印を結んだ線)で示す中温用脱硝触媒は、反応温度が約400℃の時、脱硝率が最大(80%弱)となる。また、線53(図5中では▲印を結んだ線)で示す高温用脱硝触媒は、反応温度が約450℃の時、脱硝率が最大(60%強)となる。
【0019】
ここで、高出力運転時のディーゼル内燃機関の排気ガスは500〜600℃と高温である。この温度領域では、通常脱硝触媒では最大で約40%以下の脱硝率しか得られず、また、高温用脱硝触媒を用いても最大で約55%弱の脱硝率しか得られず、脱硝率の低下が避けられなかった。
【0020】
そこで、本発明者らが鋭意研究した結果、脱硝処理を2段階に分け、前段では脱硝触媒を用いずに脱硝を行い、後段では脱硝触媒を用いて脱硝を行うことで、排気ガスの温度が500〜600℃と高温であっても、高い脱硝率が得られということを見出した。
【0021】
本発明の好適一実施の形態に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置の模式図を図1に示す。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係る排気ガス処理装置10は、ディーゼル内燃機関11の後段に設けられるものであり、前段側(図1中では左側)に位置する管状の第1反応部12aと、後段側(図1中では右側)に位置する管状の第2反応部12bとで構成される。図1に示した第1反応部12a及び第2反応部12bは、長手方向(図1中では左右方向)の両端部がコーン状のテーパ接続部となっており、中央部及びその近傍が拡径部となっているが、特にこれに限定するものではなく、直管状であってもよい。
【0023】
第1反応部12aの内部が無触媒脱硝反応器13とされる。無触媒脱硝反応器13は、単なる空間であってもよいが、第1反応部12aの内部空間に金属ハニカム体を装填したものであってもよい。金属ハニカム体を装填することで、ディーゼル内燃機関11からの排気ガスG1と後述する還元剤Rとがより均一に混合され、その混合ガス(排気ガスG1+還元剤R)の温度分布がより均一となり、無触媒脱硝反応器13における脱硝反応がより進行し易くなる。
【0024】
第2反応部12bの内部には、前段側に脱硝反応器14が、後段側に酸化触媒反応器15が設けられる。
【0025】
脱硝反応器14は、第2反応部12bの内部空間に、脱硝触媒を担持させた担体を装填したものであり、前段側の還元剤分解部14bと、後段側の脱硝触媒本体部14aとで構成される。この還元剤分解部14bが、後述する供給ライン16bから噴霧された還元剤Rが、直接、脱硝触媒本体部14aに接触することを防ぐと共に、還元剤Rを分解してアンモニアを生成する領域となる。還元剤分解部14bは、単なる空間であってもよいが、第2反応部12bの内部空間に金属ハニカム体を装填したものであってもよい。金属ハニカム体を装填することで、第1脱硝処理後の排気ガスG2と還元剤Rとがより均一に混合され、その混合ガス(排気ガスG2+還元剤R)の温度分布がより均一となり、脱硝反応器14における脱硝反応がより進行し易くなる。
【0026】
酸化触媒反応器15としては、第2反応部12bの内部空間に酸化触媒を担持させたハニカム体を装填したもの、または酸化触媒を備えたDPF(Diesel Particulate Filter)などが挙げられる。
【0027】
また、排気ガス処理装置10は、無触媒脱硝反応器13のガス導入部13a及び脱硝反応器14のガス導入部14cに臨んで、還元剤Rを噴霧する噴霧手段16を備えている。噴霧手段16は、還元剤Rを貯留するタンク16cと、そのタンク16cに接続され、無触媒脱硝反応器13及び脱硝反応器14の各ガス導入部13a,14cに還元剤Rを噴霧する供給ライン16a,16bとで構成される。ここで、無触媒脱硝反応器13のガス導入部13aに還元剤Rを噴霧する供給ライン16aの噴霧口は、無触媒脱硝反応器13の長手方向(図1中では左右方向)に亘って多段に配置してもよい。各噴霧口からの還元剤Rの噴霧量を調整することで、排気ガスG1と還元剤Rとの混合具合及び第1脱硝処理後の排気ガスG2の温度を、より細かく調整することができる。
【0028】
さらに、排気ガス処理装置10は、ディーゼル内燃機関11から排出されたガスG1、無触媒脱硝反応器13を通過したガスG2、脱硝反応器14を通過したガスG3、及び酸化触媒反応器15を通過したガスG4の分析を行うガス分析手段17を備えている。ガス分析手段17は、ガスセンサを備え、各ガスG1〜G4のデータを採取するガス分析系17a〜17dと、それらのガス分析系17a〜17dに接続され、得られた各ガスデータを基にガス分析を行う本体部17eとで構成される。
【0029】
また、排気ガス処理装置10は、ディーゼル内燃機関11と電気的に接続され、ガス分析手段17及び噴霧手段16の制御を行う制御手段18を備えている。制御手段18は、ガス分析手段17により得られたガス分析値及び/又はディーゼル内燃機関11の運転状況に基づいて、噴霧手段16の各供給ライン16a,16bからの還元剤Rの噴霧量を制御する。また、制御手段18は、ガス分析値に基づいて、ディーゼル内燃機関11の運転条件を制御する。
【0030】
脱硝反応器14の脱硝触媒としては、例えば、V、Mo、又はWを主成分としたもの、或いはそれらの混合物が挙げられる。脱硝触媒としては、慣用的に用いられている通常脱硝触媒、中温用脱硝触媒、又は高温用脱硝触媒のいずれであってもよいが、好適反応温度が低い通常脱硝触媒が望ましい。ここで言う好適反応温度とは、脱硝率が最大となる時の温度を示している。
【0031】
脱硝反応器14の担体構成材としては、脱硝触媒用担体として慣用的に用いられているものが全て適用可能であり、耐熱性、耐酸化性、及び耐食性に優れたものであれば特に限定するものではなく、例えば、酸化チタンが挙げられる。
【0032】
還元剤Rとしては、脱硝用の還元剤として慣用的に用いられているものが全て適用可能であり、特に限定するものではなく、例えば、アンモニア、尿素、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムなどがあげられる。還元剤Rが、水溶液や固形物であれば、自動車などの移動体に積載しても安全である。特に、還元剤Rが水溶液の場合、供給量の制御が容易であり、また、霧状に供給することで、排気ガスと均一に混合させることが容易となるため、より好ましい。よって、水溶液の還元剤Rを用いることで、固体の還元剤Rを用いる場合と比較して、脱硝処理反応をより速やかに進行させることができる。また、水溶液や固形物の還元剤Rは、より低い温度でアンモニアガスに分解されるものほど、還元剤としての活性が高く、脱硝率が高い。還元剤Rの分解温度の高低による脱硝率の違いは、無触媒脱硝反応器13において特に顕著となる。
【0033】
具体的に、還元剤Rとして、尿素(CO(NH2)2)と炭酸アンモニウム((NH4)2CO3)とを例に挙げて、これらの還元剤の分解温度、無触媒脱硝反応器での脱硝率、室温での溶解度を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示すように、炭酸アンモニウムの分解温度は58℃、尿素の分解温度は160℃であり、炭酸アンモニウムの方が分解温度が低い。分解温度が低い方が、還元剤Rとしての活性が高いため、炭酸アンモニウムの脱硝率は20〜35%程度、尿素の脱硝率は10〜30%という具合に、炭酸アンモニウムの方が脱硝率が良好となる。また、炭酸アンモニウムの溶解度は400%、尿素の溶解度は52%という具合に、炭酸アンモニウムの方が溶解度が高い。つまり、炭酸アンモニウム水溶液は、尿素水溶液と比較して濃度をより高めることができる。
【0036】
よって、炭酸アンモニウム水溶液を用いて、尿素水溶液と同じ脱硝率を得たい場合、同じ濃度の水溶液を用いるのであれば、炭酸アンモニウム水溶液の使用量は、尿素水溶液の使用量よりも少量で済む。また、炭酸アンモニウム水溶液を用いて、尿素水溶液と同じ脱硝率を得たい場合、同量の水溶液を用いるのであれば、炭酸アンモニウム水溶液の濃度は、尿素水溶液の濃度よりも低濃度で済む。以上より、還元剤Rとしては、炭酸アンモニウム水溶液が特に好ましい。
【0037】
次に、本実施の形態に係る排気ガス処理方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0038】
ディーゼル内燃機関11の排気ガスは、酸素分を多く含み、かつ、約500〜600℃と高温であるため、通常脱硝触媒を用いるとNOXをあまり除去できないことから、高温用脱硝触媒が使用されていた。しかし、高温用脱硝触媒は、通常脱硝触媒と比較して脱硝率が劣るため、高効率にNOX除去を行うことができなかった。
【0039】
本実施の形態に係る排気ガス処理装置10は、NOX除去を2段階以上に分け、脱硝触媒を用いたNOX除去を行う前に、無触媒下で水溶液状の還元剤RによるNOX除去を行うことに特長がある。
【0040】
先ず、図3に示すように、ディーゼル内燃機関11から排出された高温(約500〜600℃)の排気ガスG1は、ガス分析系17a及び本体部17eによりガス分析(NOX濃度、SOX濃度、PM濃度、CO濃度、HC濃度など)がなされる。排気ガスG1のNOX濃度CAが第1基準NOX濃度S1よりも大きい場合(CA>S1)、つまり分岐命令BI1がyesの場合、無触媒脱硝反応器13の前段において、CA≦S1とすべく供給ライン16aから水溶液状の還元剤R(第1還元剤)が一定量(V1)噴霧される(stepA)。これによって、排気ガスG1と還元剤Rとが混合、接触される。また、CA≦S1の場合、つまり分岐命令BI1がnoの場合、供給ライン16aから還元剤Rは噴霧されず、無触媒脱硝反応器13内で脱硝処理はなされない。ここで、第1基準NOX濃度S1は、無触媒脱硝反応器13の脱硝能力に基づいて予め決められる。また、噴霧量V1は、NOX濃度CAに応じて決定される。
【0041】
排気ガスG1と還元剤Rとの気液接触によって、還元剤Rは蒸発、分解され、(1)式に示すように、アンモニアガスが発生する。この時、還元剤Rとして炭酸アンモニウム水溶液を用いることで、最も反応性(効率)よくアンモニアガスを発生させることができる。また、還元剤Rが蒸発する際の気化熱により、第1混合ガス(排気ガスG1+アンモニアガス)の温度が低下する。この温度低下の度合いは、還元剤Rの噴霧量を制御することで、ある一定の範囲で自在に調整することができる。
(NH4)2CO3(又はCO(NH2)2)+H2O→NH3 …(1)
【0042】
還元剤Rが分解して発生したアンモニアガスは、無触媒脱硝反応器13において排気ガスG1と反応し、(2)式に示すように、排気ガスG1中に含まれるNOXの一部が窒素ガスに還元される(還元割合は、全NOX量の約10〜30%)。つまり、無触媒脱硝反応器13において、排気ガスG1に対して第1脱硝処理がなされ、排気ガスG2となる。NOXの還元割合は、無触媒脱硝反応器13の容積が大きいほど高くなり、また、還元剤Rの噴霧量V1及び/又は還元剤Rの水溶液濃度を制御することで、ある一定の範囲で自在に調整することができる。
NOX+NH3+O2→N2 …(2)
【0043】
第1脱硝処理後の排気ガスG2は、ガス分析系17b及び本体部17eによりガス分析がなされる。ここで、排気ガスG2のNOX濃度CBが、前述の第1基準NOX濃度S1よりも大きい場合(CB>S1)、つまり分岐命令BI2がyesの場合、還元剤Rの噴霧量V1を増量し(stepB1)、CB<S1の場合、つまり分岐命令BI2がnoの場合、還元剤Rの噴霧量V1を減量する(stepB2)というフィードバック制御を行う。
【0044】
次に、排気ガスG2のNOX濃度CBが第2基準NOX濃度S2よりも大きい場合(CB>S2)、つまり分岐命令BI3がyesの場合、脱硝反応器14の前段において、CB≦S2とすべく供給ライン16bから水溶液状の還元剤R(第2還元剤)が一定量(V2)噴霧される(stepC)。これによって、排気ガスG2と還元剤Rとが混合、接触される。また、CB≦S2の場合、つまり分岐命令BI3がnoの場合、供給ライン16bから還元剤Rは噴霧されず、排気ガスG2はそのままの状態で脱硝反応器14内に導入される。ここで、第2基準NOX濃度S2は、脱硝反応器14の脱硝能力に基づいて予め決められる。また、噴霧量V2は、NOX濃度CB及び/又は脱硝触媒の反応温度に応じて決定される。
【0045】
排気ガスG2と還元剤Rとの気液接触によって、還元剤Rは蒸発、分解され、(1)式に示したように、アンモニアガスが発生する。このアンモニアガスの発生は、脱硝反応器14の前段に設けた還元剤分解部14b(アンモニア生成領域)においてなされる。還元剤分解部14bを設けることで、還元剤Rが、直接、脱硝触媒本体部14aに接触するのが防がれる。また、還元剤分解部14bにおいて、排気ガスG2は、第2混合ガス(排気ガスG2+アンモニアガス)となるが、還元剤Rが蒸発する際の気化熱により、再び温度低下される。これによって、第2混合ガスの温度は脱硝触媒の好適反応温度近傍まで十分に低下される。さらに、還元剤分解部14bは、無触媒脱硝反応器とみることもできるため、還元剤分解部14bにおいても、一部の排気ガスG2の脱硝処理がなされる。
【0046】
次に、還元剤分解部14bで生成したアンモニアガスは、排気ガスG2と混合された状態で、脱硝反応器14に導入される。脱硝触媒下において、排気ガスG2はアンモニアガスと反応し、(2)式に示したように、排気ガスG2中に含まれるNOXのほとんどが窒素ガスに還元される。つまり、脱硝反応器14において、排気ガスG2に対して第2脱硝処理がなされ、排気ガスG3となる。NOXの還元割合は、脱硝反応器14の脱硝能力が大きいほど高くなり、また、還元剤Rの噴霧量V2及び/又は還元剤Rの水溶液濃度を制御することで、ある一定の範囲で自在に調整することができる。
【0047】
第2脱硝処理後の排気ガスG3は、ガス分析系17c及び本体部17eによりガス分析がなされる。ここで、排気ガスG3のNOX濃度CCが、前述の第2基準NOX濃度S2よりも大きい場合(CC>S2)、つまり分岐命令BI4がyesの場合、還元剤Rの噴霧量V2を増量し(stepD1)、CC<S2の場合、つまり分岐命令BI4がnoの場合、還元剤Rの噴霧量V2を減量する(stepD2)というフィードバック制御を行う。
【0048】
その後、排気ガスG3は、酸化触媒反応器15に導入され、(3)式、(4)式に示すように、排気ガスG3中に含まれるCOやHCなどが酸化される(stepE)。この時、フィルターやDPFなどを用いてPMを除塵、除去するようにしてもよい。
CO+O2→CO2 …(3)
HC+O2→CO2 …(4)
【0049】
最後に、酸化、除塵された排気ガスG4は、大気中に排出される(stepF)。この時、ガス分析系17d及び本体部17eを用いて排気ガスG4のガス分析を行うようにしてもよい。このガス分析値に基づいて、酸化触媒反応器15の性能の劣化具合を知ることができる。
【0050】
また、ガス分析系17a〜17d及び本体部17eを用いて得られた各ガス分析値に基づいて、ディーゼル内燃機関11の燃焼条件のフィードバック制御を行うようにしてもよい。
【0051】
さらに、本実施の形態に係る排気ガス処理方法に基づいて排気ガス処理装置10を長期間に亘って運転することで、運用データが蓄積される。この運用データを予め求めておき、ディーゼル内燃機関11の運転状況に応じて、直接、還元剤Rの噴霧量V1,V2の制御を行うようにしてもよい。
【0052】
また、還元剤Rの水溶液濃度を一定としたまま、噴霧量V1,V2を制御する代わりに、還元剤Rの噴霧量V1,V2を一定としたまま、水溶液濃度を制御するようにしてもよい。
【0053】
以上述べたように、本実施の形態に係る排気ガス処理装置10は、NOX除去を2段階以上に分け、脱硝触媒を用いたNOX除去を行う前に、無触媒下で水溶液状の還元剤RによるNOX除去を行うことで、酸素分を多く含む高温の排気ガスG1であっても、効率よくNOX除去を行うことができる。
【0054】
また、移動体に搭載されたディーゼルエンジンは、加速・減速、停止、再始動など運転状況の急変によって急激な負荷変動が生じる。しかし、本実施の形態に係る排気ガス処理装置10によれば、装置各部においてガス分析を行ってNOX濃度を測定すると共に、装置各部において適切な量の還元剤Rを供給することで、排気ガス中に含まれるNOX分を効率よく低減、除去することができる。
【0055】
さらに、還元剤Rとして水溶液を用いることで、急激な負荷変動に対して迅速に対処することができる。特に、還元剤Rとして炭酸アンモニウム水溶液を用いることで、従来使われている尿素水溶液と比較して、排気ガス中に含まれるNOX分をより効率よく低減、除去することができる。
【0056】
本実施の形態に係る排気ガス処理装置10は、定置型又は移動型のディーゼル内燃機関に適用可能であり、特に、移動体(船舶、自動車、耕耘機やトラクターなどの農作業用機器)に搭載されるディーゼルエンジンの排気ガス処理装置として好適である。
【0057】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0058】
本発明の他の好適一実施の形態に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置の模式図を図2に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材については説明を省略する。
【0059】
図1に示した前実施の形態に係る排気ガス処理装置10は、脱硝反応器14の後段に酸化触媒反応器15を有するものであった。
【0060】
図2に示すように、本実施の形態に係る排気ガス処理装置20は、基本的な構成は前実施の形態に係る排気ガス処理装置10と同じである。排気ガス処理装置20と排気ガス処理装置10とが異なる点は、酸化触媒反応器の位置であり、排気ガス処理装置20は、ディーゼル内燃機関11と無触媒脱硝反応器13との間に酸化触媒反応器25を有する。
【0061】
排気ガス処理装置20は、ディーゼル内燃機関11から排出されたガスG1、酸化触媒反応器25を通過したガスG5、無触媒脱硝反応器13を通過したガスG6、及び脱硝反応器14を通過したガスG7の分析を行うガス分析手段27を備えている。ガス分析手段27は、ガスセンサを備え、各ガスG1,G5〜G7のデータを採取するガス分析系27d,17a〜17cと、それらのガス分析系27d,17a〜17cに接続され、得られた各ガスデータを基にガス分析を行う本体部17eとで構成される。
【0062】
また、排気ガス処理装置20は、ディーゼル内燃機関11と電気的に接続され、ガス分析手段27及び噴霧手段16の制御を行う制御手段28を備えている。制御手段28は、ガス分析手段27により得られたガス分析値及び/又はディーゼル内燃機関11の運転状況に基づいて、噴霧手段16の各供給ライン16a,16bからの還元剤Rの噴霧量を制御する。また、制御手段18は、ガス分析値に基づいて、ディーゼル内燃機関11の運転条件を制御する。
【0063】
次に、本実施の形態に係る排気ガス処理方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0064】
先ず、図4に示すように、ディーゼル内燃機関11から排出された高温(約500〜600℃)の排気ガスG1は、酸化触媒反応器25に導入され、(3)式、(4)式に示したように、排気ガスG1中に含まれるCOやHCなどが酸化され、また、排気ガスG1中に含まれるPMが除塵される(stepE)。
【0065】
酸化、除塵された排気ガスG5は、ガス分析系17a及び本体部17eによりガス分析がなされる。その後は、前実施の形態に係る排気ガス処理方法と同様の手順で排気ガスの処理がなされる。排気ガスは、排気ガスG5→排気ガスG6→排気ガスG7の順に処理された後、大気中に排出される(stepF)。
【0066】
ここで、酸化触媒反応器25の前段及び後段において、ガス分析系27d,17a及び本体部17eを用いて排気ガスG1,G5のガス分析を行うことで、排気ガスG1,G5のガス分析値に基づいて、酸化触媒反応器25の性能の劣化具合を知ることができる。
【0067】
本実施の形態に係る排気ガス処理装置20においても、図1に示した前実施の形態に係る排気ガス処理装置10と同様の作用効果が得られる。
【0068】
また、近年、ディーゼル内燃機関11の排気ガス排出部直後には、フィルターなどの除塵手段が設けられることが多い。このため、この除塵手段に酸化触媒を組み込んで一体化し、酸化触媒反応器25とすることで、本実施の形態に係る排気ガス処理装置20は、排気ガス処理装置10と比較して、装置容積の減少を図ることができる。
【0069】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0070】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
ディーゼル発電機に、図1に示した排気ガス処理装置10を接続し、排気ガスのNOX除去を行った。NOX除去は、還元剤Rとして、炭酸アンモニウム水溶液を用いた場合と尿素水溶液を用いた場合の、2例行った。初期排気ガスのNOX濃度は200ppm、各水溶液の濃度は10wt%とした。
【0072】
還元剤の違いによる脱硝率の違いを表2に示す。脱硝率は、第1脱硝処理後の排気ガス(無触媒脱硝反応器を通過後の排気ガス)及び第2脱硝処理後の排気ガス(脱硝反応器を通過後の排気ガス)について測定した。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、第1脱硝処理後の排気ガスの脱硝率は、還元剤として炭酸アンモニウム水溶液を用いた場合が28%、還元剤として尿素水溶液を用いた場合が19%であった。また、第2脱硝処理後の排気ガスの脱硝率は、還元剤として炭酸アンモニウム水溶液を用いた場合が84%、還元剤として尿素水溶液を用いた場合が58%であった。
【0075】
以上より、脱硝反応器の前段において無触媒脱硝反応器による脱硝を行うことで、排気ガス中に含まれる全NOX量の約20〜30%を除去することができた。
【0076】
また、還元剤として炭酸アンモニウム水溶液を用いることで、還元剤として尿素水溶液を用いた場合と比較して、第1,第2脱硝処理の脱硝率が共に40%以上も向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置の模式図である。
【図2】本発明の他の好適一実施の形態に係るディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置の模式図である。
【図3】図1の排気ガス処理装置の排気ガス処理方法のフローを示す図である。
【図4】図2の排気ガス処理装置の排気ガス処理方法のフローを示す図である。
【図5】脱硝触媒の反応温度と脱硝率との関係を示す図である。
【図6】従来のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置の模式図である。
【符号の説明】
【0078】
10 排気ガス処理装置
11 ディーゼル内燃機関
13 無触媒脱硝反応器
13a ガス導入部
14 脱硝反応器
14a ガス導入部
16 噴霧手段
G1 排気ガス
R 還元剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル内燃機関の後段に接続され、排気ガス中に含まれるNOX分を脱硝する排気ガス処理装置において、
上記ディーゼル内燃機関の後段に接続された無触媒脱硝反応器と、
その無触媒脱硝反応器の後段に接続された脱硝触媒による脱硝反応器と、
無触媒脱硝反応器及び脱硝反応器の各ガス導入部に臨んで設けられ、還元剤を噴霧する噴霧手段と、
を備えたことを特徴とするディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項2】
上記脱硝反応器の後段に酸化触媒反応器を備えた請求項1記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項3】
上記ディーゼル内燃機関と上記無触媒脱硝反応器との間に酸化触媒反応器を備えた請求項1記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項4】
上記ディーゼル内燃機関から排出されたガス、上記無触媒脱硝反応器を通過したガス、上記脱硝反応器を通過したガス、及び上記酸化触媒反応器を通過したガスの分析を行うガス分析手段を備えた請求項1又は2記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項5】
上記ディーゼル内燃機関から排出されたガス、上記酸化触媒反応器を通過したガス、上記無触媒脱硝反応器を通過したガス、及び上記脱硝反応器を通過したガスの分析を行うガス分析手段を備えた請求項1又は3記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項6】
上記ディーゼル内燃機関と接続され、上記ガス分析手段及び上記噴霧手段の制御を行う制御手段を備えた請求項1から5いずれかに記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項7】
上記還元剤が、炭酸アンモニウム水溶液である請求項1から6いずれかに記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理装置。
【請求項8】
ディーゼル内燃機関から排出された排気ガス中に含まれるNOX分を脱硝する排気ガス処理方法において、
上記ディーゼル内燃機関から排出された排気ガスに無触媒下で第1還元剤を噴霧して第1脱硝処理を施し、
その第1脱硝処理後の排気ガスに第2還元剤を噴霧し、脱硝触媒と接触させて第2脱硝処理を施す
ことを特徴とするディーゼル内燃機関の排気ガス処理方法。
【請求項9】
上記第1還元剤の噴霧量を制御し、第1脱硝処理後の排気ガスのNOX濃度を第1基準NOX濃度以下に調整する請求項8記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理方法。
【請求項10】
上記第2還元剤の噴霧量を制御し、第2脱硝処理後の排気ガスのNOX濃度を第2基準NOX濃度以下に調整する請求項8又は9記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理方法。
【請求項11】
上記第1還元剤及び第2還元剤が、炭酸アンモニウム水溶液である請求項8から10いずれかに記載のディーゼル内燃機関の排気ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−22735(P2006−22735A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−202163(P2004−202163)
【出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(504264115)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】