説明

デプシペプチドおよびその治療的使用

一般式(I)または(I’)のスピルコスタチン類似体である化合物、そのアイソスターおよびその医薬的に許容される塩は、HDACを阻害することが見出され、ここでR1、R2、R3およびR4は同一であっても異なっていてもよく、アミノ酸側鎖部分を表し、各R6は同一であっても異なっていてもよく、水素または炭素数1〜4のアルキルを表す。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤として作用し、故に治療的有用性を示すデプシペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
クラスIおよびクラスII HDACは、アセチル化されたリジン残基の加水分解を触媒する亜鉛金属酵素である。これはヒストンにおいてリジンをその正常なプロトン化状態に戻すものであり、真核生物の転写制御において広範に見られるメカニズムであって、それによりDNAがヌクレオソーム内に密にパッケージングされる。さらに、可逆的リジンアセチル化は非ヒストンタンパク質にとって重要な調節過程である。従って、HDACを調節し得る化合物は治療において重要な可能性を有する。
【0003】
2種のデプシペプチド天然物、FK228およびスピルコスタチンAは、HDAC阻害剤としての可能性を有することが報告されている。しかし、これらの天然物の生物学的または物理化学的特性を、ヒト疾患の治療に用いるための潜在能力を有する類似体を提供するために、化学的に改変または最適化する機会は、限定的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
今回、驚くべきことに、一般式(I)および(I’)の化合物がHDACの阻害剤として作用することが見出された。従って、本発明の新規化合物は式(I)または(I’)のスピルコスタチン類似体、またはそのアイソスターもしくは医薬的に許容される塩であるスピルコスタチン類似体であって、
【化1】

式中、R1およびR3は同一であっても異なっていてもよく、それぞれアミノ酸側鎖部分を表し;
2およびR4は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’から選択され、ここでLは炭素数1〜6のアルキレン基であり、Aはフェニルまたは5〜6員環ヘテロアリール基であり、各R’は同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキルを表し、各R’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜6のアルキルを表し、各−Het−は同一であっても異なっていてもよく、−O−、−N(R’’’)−および−S−から選択されるヘテロ原子スペーサーであり、各R’’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜4のアルキルを表し;
各R6は同一であっても異なっていてもよく、水素または炭素数1〜4のアルキルを表し;
そしてPr1およびPr2は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素または保護基を表す。
【0005】
本発明はさらに、HDACの阻害剤としての使用のための薬物の製造における、上記定義のスピルコスタチン類似体の使用を堤供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
式IおよびI’の化合物の合成は、典型的には、−CO−CR−NH−が大員環の部分を形成し、Rが側鎖部分であるアミノ酸を用いて行われる。R1およびR3はこの様に導入されてよい。R2およびR4は必ずしもアミノ酸に由来する必要は無い。
【0007】
本明細書に用いられる「アミノ酸側鎖部分」という語は、天然および非天然のアミノ酸に存在する任意のアミノ酸側鎖のことを表す。非天然のアミノ酸に由来するアミノ酸側鎖部分の例を、由来するアミノ酸を括弧内に示しながら挙げると、−(CH22−C(O)−O−C(CH33(tert−ブトキシ−カルボニルメチルアナリン)、−(CH24−NH−C(O)−O−C(CH33(Nε−(tert−ブトキシカルボニル)−リジン)、ならびに、特に、−(CH23−NH−C(O)NH2(シトルリン)、−CH2−CH2OH(ホモセリン)および−(CH22−CH2NH2(オルニチン)が挙げられる。
【0008】
炭素数1〜6のアルキル基または部分は直鎖または分岐鎖であってよい。典型的には、これは炭素数1〜4のアルキル基または部分であり、例えばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチルおよびt−ブチルである。好ましい例としては、メチル、i−プロピルおよびt−ブチルが挙げられる。
【0009】
炭素数2〜6のアルケニル基または部分は直鎖または分岐鎖であってよい。典型的には、これは炭素数2〜4のアルケニル基または部分である。アルケニル基は1または2不飽和であることが好ましく、より好ましくは1不飽和である。例としてはビニル、アリル、1−プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニルおよび3−ブテニルが挙げられる。
【0010】
アルキレン基は2価の上記定義のアルキル基である。
【0011】
チオール保護基(Pr1およびPr2に関して)は典型的には:
(a)チオール基を保護するチオエーテルを形成する保護基であって、例えば炭素数1〜6のアルコキシ(たとえばメトキシ等)、炭素数1〜6のアシルオキシ(たとえばアセトキシ等)、ヒドロキシおよびニトロ、ピコリル、ピコリル−N−オキシド、アントリルメチル、ジフェニルメチル、フェニル、t−ブチル、アダマンチル、炭素数1〜6のアシルオキシメチル(例えばピバロイルオキシメチル、第3級ブトキシカルボニルオキシメチル)によって任意に置換されたベンジル基;
(b)チオール基を保護するモノチオ、ジチオまたはアミノチオアセタールを形成する保護基であって、例えば炭素数1〜6のアルコキシメチル(たとえばメトキシメチル、イソブトキシメチル等)、テトラヒドロピラニル、ベンジルチオメチル、フェニルチオメチル、チアゾリジン、アセトアミドメチル、ベンズアミドメチル;
(c)チオール基を保護するチオエステルを形成する保護基であって、例えば第3級ブトキシカルボニル(BOC)、アセチルおよびその誘導体、ベンゾイルおよびその誘導体;または
(d)チオール基を保護するカルバミン酸チオエステルを形成する保護基であって、例えばカルバモイル、フェニルカルバモイル、炭素数1〜6のアルキルカルバモイル(たとえばメチルカルバモイルおよびエチルカルバモイル等);
である。
【0012】
典型的には、Pr1およびPr2は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素;あるいはチオール基を保護するための、チオエーテル、モノチオ、ジチオもしくはアミノチオアセタール、チオエステル、またはカルバミン酸チオエステルを形成する保護基;を表す。好ましくは、Pr1およびPr2は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素;または、炭素数1〜6のアルコキシ(たとえばメトキシ等)、炭素数1〜6のアシルオキシ(たとえばアセトキシ等)、ヒドロキシもしくはニトロ、ピコリル、ピコリル−N−オキシド、アントリルメチル、ジフェニルメチル、フェニル、t−ブチル、アダマンチル、炭素数1〜6のアシルオキシメチル(たとえばピバロイルオキシメチル、第3級ブトキシカルボニルオキシメチル等)、炭素数1〜6のアルコキシメチル(たとえばメトキシメチル、イソブトキシメチル等)、テトラヒドロピラニル、ベンジルチオメチル、フェニルチオメチル、チアゾリジン、アセトアミドメチル、ベンズアミドメチル、第3級ブトキシカルボニル(BOC)、アセチルおよびその誘導体、ベンゾイルおよびその誘導体、カルバモイル、フェニルカルバモイルもしくは炭素数1〜6のアルキルカルバモイル(たとえばメチルカルバモイルおよびエチルカルバモイル等)によって任意に置換されたベンジル基から選択される保護基;を表す。最も好ましくは、Pr1およびPr2は水素である。
【0013】
ヒドロキシル保護基(Pr3に関して)は典型的には:
(a)エーテルを形成してヒドロキシル基を保護する保護基、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ(たとえばメトキシ等)、炭素数1〜6のアシルオキシ(たとえばアセトキシ等)、ヒドロキシおよびニトロ、ピコリル、ピコリル−N−オキシド、アントリルメチル、ジフェニルメチル、フェニル、t−ブチル、アダマンチル、炭素数1〜6のアシルオキシメチル(たとえばピバロイルオキシメチル、第3級ブトキシカルボニルオキシメチル等)によって任意に置換されたベンジル基;
(b)アセタールまたはアミノアセタールを形成する保護基、例えば炭素数1〜6のアルコキシメチル(たとえばメトキシメチル、イソブトキシメチル等)、テトラヒドロピラニル、アセトアミドメチル、ベンズアミドメチル;
(c)エステルを形成してヒドロキシル基を保護する保護基、例えば第3級ブトキシカルボニル(BOC)、アセチルおよびその誘導体、ベンゾイルおよびその誘導体;または
(d)カルバミン酸エステルを形成してヒドロキシル基を保護する保護基、例えばカルバモイル、フェニルカルバモイル、炭素数1〜6のアルキルカルバモイル(たとえばメチルカルバモイルおよびエチルカルバモイル等);
である。
【0014】
典型的には、Pr3は水素;または、エーテル、アセタールもしくはアミノアセタール、エステルもしくはカルバミン酸エステルを形成し、ヒドロキシル基を保護する保護基;を表す。好ましくは、Pr3は水素;または、炭素数1〜6のアルコキシ(たとえばメトキシ等)、炭素数1〜6のアシルオキシ(たとえばアセトキシ等)、ヒドロキシおよびニトロ、ピコリル、ピコリル−N−オキシド、アントリルメチル、ジフェニルメチル、フェニル、t−ブチル、アダマンチル、炭素数1〜6のアシルオキシメチル(たとえばピバロイルオキシメチル、第3級ブトキシカルボニルオキシメチル等)、炭素数1〜6のアルコキシメチル(たとえばメトキシメチル、イソブトキシメチル等)、テトラヒドロピラニル、ベンジルチオメチル、フェニルチオメチル、チアゾリジン、アセトアミドメチル、ベンズアミドメチル、第3級ブトキシカルボニル(BOC)、アセチルおよびその誘導体、ベンゾイルおよびその誘導体、カルバモイル、フェニルカルバモイルおよび炭素数1〜6のアルキルカルバモイル(たとえばメチルカルバモイルおよびエチルカルバモイル等)によって任意に置換されたベンジル基から選択される保護基;を表す。最も好ましくは、Pr3は水素である。
【0015】
一実施形態において、アミノ酸側鎖部分は天然アミノ酸由来のものである。天然アミノ酸由来のアミノ酸側鎖部分の例を、由来するアミノ酸を括弧内に示しながら挙げると、−H(グリシン)、−CH3(アラニン)、−CH(CH32(バリン)、−CH2CH(CH32(ロイシン)、−CH(CH3)CH2CH3(イソロイシン)、−(CH24NH2(リジン)、−(CH23NHC(=NH)NH2(アルギニン)、−CH2−(5−1−イミダゾリル)(ヒスチジン)、−CH2CONH2(アスパラギン)、−CH2CH2CONH2(グルタミン)、−CH2COOH(アスパラギン酸)、−CH2CH2COOH(グルタミン酸)、−CH2−フェニル(フェニルアラニン)、−CH2(4−OH−フェニル)(チロシン)、−CH2−(3−1H−インドリル)(トリプトファン)、−CH2SH(システイン)、−CH2CH2SCH3(メチオニン)、−CH2OH(セリン)、および−CH(OH)CH3(スレオニン)が挙げられる。
【0016】
一実施形態において、各アミノ酸側鎖は天然アミノ酸に存在するアミノ酸側鎖部分であるか、または−(CH22−C(O)−O−C(CH33(tert−ブトキシカルボニルメチルアナリン)、−(CH24−NH−C(O)−O−C(CH33(Nε−(tert−ブトキシカルボニル)−リジン)、−(CH23−NH−C(O)NH2(シトルリン)、−CH2−CH2OH(ホモセリン)または−(CH22−CH2NH2(オルニチン)である。
【0017】
本発明の好ましい一実施形態において、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’から選択される部分であって、ここでLは炭素数1〜6のアルキレン基であり、Aはフェニルまたは5〜6員環ヘテロアリール基であり、各R’は同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキルを表し、各R’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜6のアルキルを表し、各−Het−は同一であっても異なっていてもよく、−O−、−N(R’’’)−および−S−から選択されるヘテロ原子スペーサーであり、各R’’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜4のアルキルを表す。
【0018】
基Aが5〜6員環ヘテロアリール基である場合、それは例えばフラニル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、イソオキサゾリル、イソチアゾリル、オキサジアゾリル、トリアゾリル、チアジアゾリル、ピリジル、ピリダジル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニルであってよい。典型的には、しかし、各A部分はフェニルである。
【0019】
ヘテロ原子スペーサー基Hetは典型的には−O−または−N(R’’’)−である。より典型的にはそれは−O−または−N(H)−である。好ましくは、各アミノ酸側鎖は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’および−L−N(R’’)−C(O)−O−R’’より選択される部分であり、ここでL、AおよびR’’は上記定義の通りである。
【0020】
典型的には、R1、R2、R3およびR4は、−(CH22−C(O)−O−C(CH33、−(CH24−NH−C(O)−O−C(CH33、−(CH22−C(O)OH、−CH2−C65、−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHおよび−CH(OH)CH3より独立に選択される。より典型的には前記アミノ酸側鎖部分は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHおよび−CH(OH)CH3より選択される。
【0021】
好ましくは、R1、R2、R3およびR4は、−H、−CH3、−(CH22−C(O)−O−C(CH33、−(CH24−NH−C(O)−O−C(CH33、−(CH22−C(O)OH、−CH2−C65、−(CH24NH2および−CH(CH32より独立に選択される。本発明の一実施形態において、前記アミノ酸側鎖は−H、−CH3および−CH(CH32より選択される。
【0022】
典型的には、R1は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’より選択されるアミノ酸側鎖部分であって、ここでL、R’、R’’、−HetおよびR’’’は上記定義の通りである。好ましくは、R1は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’および−L−N(R’’)−C(O)−O−R’’より選択される部分であって、ここでL、AおよびR’’は上記定義の通りである。より好ましくは、R1は−Hおよび−炭素数1〜6のアルキルより選択される部分である。さらにより好ましくは、R1は−炭素数1〜4のアルキルまたは−L−A、特にイソプロピルまたはベンジルである。
【0023】
典型的には、R2は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’より選択されるアミノ酸側鎖部分であって、ここでL、R、R’、R’’、−Het−およびR’’’は上記定義の通りである。好ましくは、R2は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’および−L−N(R’’)−C(O)−O−R’’より選択される部分であって、ここでL、AおよびR’’は上記定義の通りである。より好ましくは、R2は−Hおよび−炭素数1〜4のアルキルより選択される部分である。さらにより好ましくは、R2は−H、−CH3または−CH(CH32である。さらになお好ましくは、R2は−Hまたは−CH3である。
【0024】
典型的には、R3は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’より選択されるアミノ酸側鎖部分であって、ここでL、R’、R’’、−Het−およびR’’’は上記定義の通りである。好ましくは、R3は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’および−L−N(R’’)−C(O)−O−R’’より選択される部分であって、ここでL、AおよびR’’は上記定義の通りである。
【0025】
より好ましくは、R3は−CH2−C65、−CH2−(3−1−t−ブチルオキシカルボニル−インドリル)、−CH3または−CH2CH(CH32である。
【0026】
典型的には、R4は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’より選択される側鎖部分であって、ここでL、R’、R’’、−Het−およびR’’’は上記定義の通りである。好ましくは、R4は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’および−L−N(R’’)−C(O)−O−R’’より選択される部分であって、ここでL、AおよびR’’は上記定義の通りである。より好ましくはR4は水素、炭素数1〜6のアルキルまたは炭素数2〜6のアルケニルである。さらにより好ましくは、R4は水素または−炭素数1〜4のアルキル、より好ましくは水素である。
【0027】
典型的には、各R6は同一であっても異なっていてもよく、水素または−炭素数1〜2のアルキルである。好ましくは各R6は水素である。
【0028】
本発明の好ましい化合物は上記定義のスピルコスタチン類似体であって、ここでR1は−Hおよび−炭素数1〜6のアルキルおよび−L−Aより選択され、ここでLおよびAは上記定義の通りであり、R2は−Hおよび−炭素数1〜4のアルキルより選択され、R3は−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−Aより選択され、ここでLおよびAは上記定義の通りであり、R4は−Hおよび−炭素数1〜6のアルキルより選択され、各R6は同一であっても異なっていてもよく、水素、または−炭素数1〜2のアルキル、そのアイソスターおよびその医薬的に許容される塩である。
【0029】
本発明のさらに好ましい化合物は、(a)式(I)の化合物、そのアイソスターおよびその医薬的に許容される塩であって、ここでR1は−炭素数1〜4のアルキルおよびL−Aであり、R2は−Hおよび−CH3から選択され、R3は−H、−炭素数1〜6のアルキルおよび−L−Aより選択され、ここでLおよびAは上記定義の通りであり、R4は−Hであり、そして各R6は−Hである化合物;ならびに(b)式(I’)の化合物、そのアイソスターおよびその医薬的に許容される塩であって、ここでR1は−炭素数1〜4のアルキルであり、R2は−Hおよび−CH3から選択され、R3は−H、−炭素数1〜6のアルキルおよび−L−Aより選択され、ここでLおよびAは上記定義の通りであり、R4は−Hであり、各R6は−Hであり、そしてPr1およびPr2は水素である化合物;である。
【0030】
さらに好ましい化合物は式:
【化2】

【化3】

【化4】

である。
【0031】
さらに特に好ましい式(I)の化合物は、
1が−CH(CH32、R2が−H、R3がCH2Ph、R4が水素、およびR6が−Hであるか;
1が−CH(CH32、R2が−H、R3が−CH2−(3−1−t−ブチルオキシカルボニル−インドリル)、R4が水素、およびR6が−Hであるか;
1が−CH(CH32、R2が−H、R3が−CH2CH(CH32、R4が水素、およびR6が−Hであるか;
1がCH2Ph、R2が−H、R3が−CH265、R4が水素、およびR6が−Hであるか;または
1がCH2Ph、R2が−H、R3が−CH3、R4が水素、およびR6が−Hであるもの;およびその医薬的に許容される塩である。
【0032】
さらに特に好ましい式(I’)の化合物は、
1が−CH(CH32、R2が−H、R3がCH2Ph、R4が水素、R6が−H、ならびにPr1およびPr2が水素であるか;
1が−CH(CH32、R2が−H、R3が−CH2−(3−1−t−ブチルオキシカルボニル−インドリル)、R4が水素、R6が−H、ならびにPr1およびPr2が水素であるか;
1が−CH(CH32、R2が−H、R3が−CH2CH(CH32、R4が水素、R6が−H、ならびにPr1およびPr2が水素であるか;
1がCH2Ph、R2が−H、R3が−(CH2)−C65、R4が水素、R6が−H、ならびにPr1およびPr2が水素であるか;または
1がCH2Ph、R2が−H、R3が−CH3、R4が水素、R6が−H、ならびにPr1およびPr2が水素であるもの;およびその医薬的に許容される塩である。
【0033】
さらになお好ましい化合物は、式(2)〜(14)、(2’)〜(14’)、(9’’)、(9’’’)、(12’’)、(14’’)、(14’’’)、(14’’’’)および(14’’’’’)のものである。
【0034】
典型的には、式VIの実施形態において、R1および/またはR2および/またはR3は天然アミノ酸由来のアミノ酸側鎖である。好ましくは、R1は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3である。より好ましくは、R1は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32または−CH(CH3)CH2CH3である。最も好ましくは、R1は−CH(CH32である。
【0035】
好ましくは、R2は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3である。より好ましくは、R2は−H、−CH3または−CH(CH32である。最も好ましくは、R2は−Hである。
【0036】
好ましくは、R3は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3である。より好ましくは、R3は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32または−CH(CH3)CH2CH3である。最も好ましくは、R3は−CH2Phである。
【0037】
典型的には、この実施形態において、R4は水素または炭素数1〜6のアルキルである。好ましくは、R4は水素または炭素数1〜2のアルキルである。より好ましくは、R4は水素である。
【0038】
この実施形態において、本発明の好ましい化合物は式(VI)の化合物であって、ここで:
1は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3であり;
2は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3であり;
3は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3であり;そして
4は−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32、−CH(CH3)CH2CH3、−(CH24NH2、−CH2SH、−CH2CH2SCH3、−CH2OHまたは−CH(OH)CH3である。
【0039】
この実施形態の好ましい態様において、式(VI)の化合物は:
1が−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32または−CH(CH3)CH2CH3であり;
2が−H、−CH3または−CH(CH32であり;
3が−H、−CH3、−CH(CH32、−CH2CH(CH32または−CH(CH3)CH2CH3であり;そして
4が水素である;
ものである。
【0040】
この実施形態の特に好ましい化合物は式(VI)のものであって、ここでR1は−CH(CH32であり、R2は−Hであり、R3は−CH265であり、R4は−Hである。
【0041】
本発明の化合物は、それらが望ましい治療効果を示すことから、特に有利である。それらは、ペプチドコアが容易に合成され得るということからも有利である。
【0042】
本明細書で用いられる、医薬的に許容される塩とは、医薬的に許容される酸または塩基との塩である。医薬的に許容される酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸または硝酸等の無機酸;およびクエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸またはp−トルエンスルホン酸等の有機酸;の両者が挙げられる。医薬的に許容される塩基としては、アルカリ金属(例えば、ナトリウムまたはカリウム)およびアルカリ土類金属(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)の水酸化物、ならびにアルキルアミン、アラルキルアミンまたは複素環式アミン等の有機塩基が挙げられる。
【0043】
本明細書に用いられる「アイソスター」の語は、ある原子または原子団が、他の概して類似した原子または原子団と交換されることによって生じた化合物を表す。本発明の化合物においてアイソステリックな基を有する部分は、好ましくは−NH−CHR1−CO−、−NH−CHR2−CO−O−および−NH−CO−CHR3−NH−CO−である。本発明の化合物においてアイソステリックな基を有する部分は、より好ましくは、−NH−CHR1−CO−および−NH−CHR2−CO−O−である。このようなアイソスターの例としては、式(I)の化合物であって、−NH−部分が−CH2−、−O−または−S−に置換され、−CO−部分が−CS−または−C(=NH)−に置換され、および−O−部分が−S−、CH2−または−NH−によって置換されたものが挙げられる。
【0044】
本発明の化合物は式(I)に示すキラリティーを有する。しかし、基R1、R2およびR3の空間的位置づけにより該化合物内のさらなるキラル中心の形成が起こり得る。誤解を避けるために述べると、本明細書に示す化学構造はこれらのさらなるキラル中心と関連した立体異性体の形状の全てを包含することを意図しており、ラセミ体および非ラセミ体ならびに純エナンチオマーおよび/またはジアステレオマーを含む。
【0045】
誤解を避けるために述べると、本発明は、in vivoで反応して本発明の化合物またはそのアイソスターもしくはその医薬的に許容される塩を生ずるプロドラッグをも包含する。
【0046】
本発明の好ましい化合物は光学異性体である。従って、例えば、1つのキラル中心しか有しない式(I)の好ましい化合物としては、実質的に純粋な形態のR異性体、実質的に純粋な形態のSエナンチオマー、および過剰のRエナンチオマーまたは過剰のSエナンチオマーを含んだエナンチオマー混合物が挙げられる。
【0047】
本発明は式(I)の化合物、そのアイソスターまたはその医薬的に許容される塩、および医薬的に許容される担体または希釈剤(diluant)も提供する。
【0048】
前記医薬組成物は典型的には85重量%までの本発明の化合物を有する。より典型的には、それは50重量%までの本発明の化合物を有する。好ましい医薬組成物は無菌であり、かつ発熱物質を含まない。さらに、本発明により提供される医薬組成物は、典型的には、実質的に純粋な光学異性体である本発明の化合物を含む。好ましくは、該医薬組成物は、式(I)の化合物の医薬的に許容される塩またはそのアイソスターを含む。
【0049】
スピルコスタチン類似体は従来の経路、例えば次のスキームを用いて調製することが出来、ここで基R1〜R4は上記定義の通りである。
【化5】

【0050】
工程(a)において、側鎖R1を有するアミノ酸が側鎖R2を有するエステルエノラートと縮合し、次いで還元されてスタチン単位を生成する。工程(b)において、該スタチンが保護されたシステイン誘導体と縮合してトリペプチドアイソスターを生成する。工程(c)において、該トリペプチドアイソスターがアミノ酸と結合して保護されたテトラペプチドアイソスターを提供する。工程(d)において、該ペプチドのN末端が脱保護され、遊離アミンがβ−ヒドロキシ酸誘導体と結合し、ここでR5は一時的保護基であって、除去されてR5がHである化合物をつくることが出来、XはYurek−George, A.; Habens, F.; Brimmell, M.; Packham, G.; Ganesan, A. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1030−1031で報告されているキラル補助基である。工程(e)において、エステル基が加水分解され、その後工程(f)における環化、および(g)におけるジスルフィド結合形成を経て二環式デプシペプチド化合物(I)の合成が完了する。
【0051】
6が水素以外である本発明の化合物を、本発明の対応する化合物またはR6が水素である中間体をアルキル化することにより、または適切に置換された出発原料を用いることにより、得ることが出来る。
【0052】
式(I’)の化合物は、上記工程(g)の産物を反応させてジスルフィド結合を開裂することにより得ることが出来る。ジスルフィド結合の開裂は典型的にはジスルフィド結合を有するタンパク質の還元反応のために一般的に用いられるチオール化合物を用いて達成され、例えばメルカプトエタノール、チオグリコール酸、2−メルカプトエチルアミン、ベンゼンチオール、パラチオクレゾールおよびジチオスレイトールが用いられる。好ましくは、メルカプトエタノールおよびジチオスレイトールが用いられる。過剰なチオール化合物は、例えば透析またはゲル濾過により除去することが出来る。あるいは、例えば電気分解、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウムまたは亜硫酸塩を使用してジスルフィド結合を開裂してもよい。
【0053】
式(I’)の化合物であってPr1および/またはPr2が水素以外のものは、チオール保護基を、Pr1および/またはPr2が水素である対応する化合物に導入することにより調製され得る。この態様において、この反応に用いるチオール保護基を導入するための適した物質は、導入されるべき保護基によって適切に決定される。例としては、対応する保護基の塩化物(ベンジルクロライド、メトキシベンジルクロライド、アセトキシベンジルクロライド、ニトロベンジルクロライド、ピコリルクロライド、ピコリルクロライド−N−オキシド、アントリルメチルクロライド、イソブトキシメチルクロライド、フェニルチオメチルクロライド等)、および対応する保護基のアルコール(ジフェニルメチルアルコール、アダマンチルアルコール、アセトアミドメチルアルコール、ベンズアミドメチルアルコール等)、ジニトロフェニル、イソブチレン、ジメトキシメタン、ジヒドロピランおよびt−ブチルクロロホルメートが挙げられる。
【0054】
当業者が理解するであろう通り、R1、R2、R3およびR4のうち1つが−OH、−SH、−NH2または−COOH等の官能基を有する場合、その基は導入後のさらに1つの反応工程に対して保護されることが好ましい場合がある。この場合、問題の基はその導入後に別の工程において保護されてもよく、またはその導入時には既に保護されていてもよい。その際に用いることが出来る適した保護基は当業者の理解するところであろう。
【0055】
このようにして得られたスピルコスタチン類似体を適切な酸または塩基を用いた処理により塩化してよい。上記のいずれかの方法により得られたラセミ混合物を、標準的な手法、例えばキラルクロマトグラフィーカラム上での溶出により分離してよい。
【0056】
本発明の好ましい化合物は、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)が示すものと少なくとも同等なHDAC阻害活性を有する。従って、さらなる実施形態において、本発明は、SAHAが示すものと少なくとも同等なHDAC阻害活性を有する化合物を選択する方法を提供し、該方法は:
(i) 式(VI)の化合物を式(VII)の化合物と反応させ、
【化6】

式中、R1およびR2は上記定義の通りであり、R7は炭素数1〜4のアルキルまたは炭素数2〜4のアルケニルであり、Yはアミノ保護基であり;
(ii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(VIII)の化合物と反応させ、
【化7】

式中、Y’はアミノ保護基であり、Y’’は水素または保護基であり;
(iii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(IX)の化合物と反応させ、
【化8】

式中、R3は上記定義の通りであり、Y’’’はアミノ保護基であり;
(iv) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(X)の化合物と反応させ、
【化9】

式中、R4は上記定義の通りであり、R5は水素またはヒドロキシ保護基であり、LGは脱離基であり、Y’’’’は水素または保護基であり;
(v) このようにして得られた中間体上のβ−ヒドロキシ基を所望によっては脱保護してR5保護基を除去してそれをHに置換し;
(vi) このようにして得られた中間体を加水分解および環化し;
(vii) このようにして得られた中間体を所望によっては反応させてジスルフィド結合形成を生じさせ、そして、ジスルフィド結合が形成される場合には、このようにして得られた化合物内の該ジスルフィド結合を所望によっては開裂させ、そして、このようにして得られた化合物がチオール基を有する場合には、所望によってはチオール保護基を導入し;そして
(viii) このようにして得られた化合物をスクリーニングしてそのHDAC阻害剤としての活性を測定すること;
によって、式(I)または(I’)の化合物を調製することを含む。
【0057】
典型的には、工程(vi)において、エステル基の加水分解は環化よりも前に実施される。
【0058】
典型的には、工程(vii)において、DTT(ジチオスレイトール)を用いてジスルフィド結合の開裂が達成される。
【0059】
保護基Y、Y’、Y’’、Y’’’およびY’’’’に対して各種アイデンティティ(identity)を用いてよく、好ましいアイデンティティはそれぞれの場合において存在する具体的な基の性質によって決まるであろうことは当業者の理解するところであろう。
【0060】
基Y、Y’およびY’’は、例えばt−ブトキシカルボニル(Boc)または9−フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)であってよい。典型的には、それらはFmocである。
【0061】
基Y’’およびY’’’は、例えば、トリチル(Trt)であってよい。
【0062】
脱離基LGの適したアイデンティティは当業者の理解するところであろう。これは、例えば、Yurek−George, A. et al (J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1030−1031)に説明されている、N原子を介して結合したチアゾリジンチオン基等のキラル補助基であってよい。あるいは、−OH基であってもよい。
【0063】
基R7は典型的には炭素数1〜4のアルキルまたは炭素数1〜4のアルケニル基である。より典型的には、これはメチルまたはアリルである。
【0064】
各種のアッセイがHDAC阻害の試験に適しており、それらアッセイを、工程(vii)から得られた化合物の活性を公知のHDAC阻害剤SAHAの活性と比較して測定するのに用いることが出来るということは、当業者の理解するところであろう。従って、HDACに対する被験化合物のIC50を、例えばin vitroアッセイにおいて測定し、同一のアッセイ条件下におけるSAHAのIC50と比較することが出来る。被験化合物がSAHA以下のIC50値を有する場合、それはSAHAが示す活性と少なくとも同等のHDAC阻害活性を有すると理解されるべきである。
【0065】
好ましい一実施形態において、本発明はSAHAが示す活性と少なくとも同等なHDAC阻害活性を有する上記定義の化合物を選択するための方法を提供し、ここで工程(viii)において、前記スクリーニング工程はin vitro HDACアッセイである。典型的には、前記アッセイは、被験化合物およびSAHAを、各種濃度で、希釈したHela核抽出物と接触させ、Hela核抽出物に対する該被験化合物のIC50とSAHAのそれとを決定することを含む。Hela核抽出物に対して測定されたIC50値が、同一のアッセイ条件下におけるSAHAのIC50以下である被験化合物は、SAHAが示す値と少なくとも同等な阻害活性を有すると理解されるべきである。典型的には、前記アッセイはHDAC蛍光活性アッセイキット(Biomol,UK)を用いて行われ、被験化合物は分析前に還元される。該アッセイ試験は、例えば、以下に「活性アッセイ1」の表題のもとで記載されるように実施してよい。
【0066】
他の実施形態において、本発明はSAHAが示すものと少なくとも同等のヒト癌細胞増殖阻害活性を有する化合物を選択するための方法を提供し、該方法は、式(I)または(I’)の化合物を上記定義の工程(i)〜(vii)により調製し、その後(viii)で該化合物をスクリーニングして、そのヒト癌細胞増殖阻害剤としての活性を測定することを含む。
【0067】
各種のアッセイがヒト癌細胞増殖阻害の試験に適しており、それらアッセイを、工程(vii)で得られた化合物の活性をSAHAの活性と比較して測定するのに用いることが出来るということは、当業者の理解するところであろう。従って、ヒト癌細胞増殖に対する被験化合物のIC50を、例えばin vitroアッセイにおいて測定し、同一のアッセイ条件下におけるSAHAのIC50と比較することが出来る。被験化合物がSAHA以下のIC50値を有する場合、それはSAHAが示すものと少なくとも同等の阻害活性を有すると理解されるべきである。典型的には、この実施形態において、工程(viii)は、被験化合物およびSAHAを、各種濃度で、MCF7乳癌、HUT78 T細胞白血病、A2780卵巣癌、PC3またはLNCAP前立腺癌細胞株と接触させ、該細胞株に対する被験化合物のIC50とSAHAのそれとを測定することを含んだin vitroアッセイを含む。これら細胞株のいずれかに対して測定されたIC50値が、同一のアッセイ条件下におけるSAHAのIC50以下である被験化合物は、SAHAと少なくとも同等な阻害活性を有すると理解されるべきである。典型的には、この実施形態において、前記アッセイはCyQuant(商標)アッセイシステム(Molecular Probes, Inc. USA)を用いて行われる。該アッセイ試験は、例えば、以下に「活性アッセイ2」の表題のもとで記載されるように実施してよい。
【0068】
他の好ましい一実施形態において、本発明はSAHAが示すものと少なくとも同等の抗炎症活性を有する化合物を選択するための方法を提供し、該方法は、式(I)または(I’)の化合物を上記定義の工程(i)〜(vii)により調製し、その後(viii)で該化合物をスクリーニングして、その抗炎症活性を測定することを含む。
【0069】
各種のアッセイが化合物の抗炎症活性の評価に適していることは、当業者の理解するところであろう。SAHAと比較した被験化合物の抗炎症活性は、例えば、化合物が末梢血単核球(PBMC)からのTNFαの産生を阻害する活性を、SAHAとの比較において測定することで決定してよい。従って、被験化合物がPBMCからのTNFαの産生を阻害する能力を、例えばアッセイにおいて測定し、同一の条件下でのSAHAの活性と比較することが出来る。被験化合物が同一アッセイ条件下でSAHA以上のTNFα産生に対するin vitro阻害活性を有する場合、それはSAHAが示す活性と少なくとも同等の抗炎症活性を有すると理解されるべきである。典型的には、工程(viii)はQuantikine(登録商標)ヒト−αアッセイキット(R&D systems、Abingdon UK)を用いて行われる。該アッセイ試験は、例えば、以下に「活性アッセイ3」の表題のもとで記載されるように実施してよい。
【0070】
この実施形態の他の態様において、SAHAと比較した被験化合物の抗炎症活性は、化合物がBalb/cマウスの炎症を抑制する活性を、SAHAとの比較において測定することで決定してよい。被験化合物が同一アッセイ条件下でSAHA以上のin vivo抑制活性を有する場合、それはSAHAが示す活性と少なくとも同等な抗炎症活性を有すると理解されるべきである。典型的には、この実施形態において、工程(viii)は、被験化合物およびSAHAが、化学物質負荷により誘導されたBalb/cマウスの炎症を抑制するin vivoでの活性を評価することにより行われる。典型的には、前記化学物質負荷はマウスへのオキサラゾン(oxalazone)またはアセトンの局所投与を伴う。この実施形態において、調査対象の化合物は化学物質負荷の前または後に用いてよい。
【0071】
他の好ましい一実施形態において、本発明は、SAHAが示すものと少なくとも同等の、MCF7細胞における顕著なG2/M期停止または細胞死を誘導する活性を有する化合物を選択するための方法を提供し、該方法は、式(I)または(I’)の化合物を上記定義の工程(i)〜(vii)により調製し、その後(viii)でこのようにして得られた化合物をスクリーニングして、MCF7細胞において顕著なG2/M期停止または細胞死を誘導する活性をSAHAとの比較において測定することを含む。
【0072】
上記のスクリーニング工程において、被験化合物の好ましい形態は、該スクリーニング工程の性質により異なる。従って、スクリーニング工程が、以下に「アッセイ活性1」のもとで記載されたもののようなin vitroアッセイである場合、被験化合物は好ましくは上記定義の式(I’)のものである。一方、スクリーニング工程が細胞株に対するものである場合、被験化合物は好ましくは式(I)のものである。
【0073】
本発明の化合物はHDACの阻害剤であることが見出された。本発明の化合物は従って治療的に有用である。
【0074】
本発明の化合物およびそれらを含む組成物は、各種の剤形で投与してよい。一実施形態において、本発明の化合物を含む医薬組成物は、経口、経腸、非経口、鼻腔内、もしくは経皮投与、または吸入もしくは坐剤による投与に適した形式に製剤してよい。投与の典型的な経路は、非経口、鼻腔内もしくは経皮投与、または吸入による投与である。
【0075】
本発明の化合物は経口的に、例えば錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁剤、分散可能な(dispersible)粉末剤または顆粒剤として、投与することが出来る。本発明の好ましい医薬組成物は経口投与、例えば錠剤およびカプセル剤に適した組成物である。
【0076】
本発明の化合物は非経口的に、皮下にも、静脈内にも、筋肉内にも、胸骨内(intrasternally)にも、経皮的にも、または輸液法によっても投与してよい。該化合物は坐剤として投与してもよい。
【0077】
投与の一つの好ましい経路は吸入である。吸入投薬の主な利点は、経口経路で摂取される多くの薬物と比べ、血液供給に富む領域に直接送達されることである。従って、肺胞が莫大な表面積と豊富な血液供給とを有するために吸収が非常に速く、かつ初回通過代謝が回避される。
【0078】
本発明の好ましい医薬組成物には、従って、吸入に適したものが含まれる。本発明はこのような医薬組成物を含む吸入装置も提供する。典型的には該装置は、薬物を吸入器から押し出すための、医薬的に許容される化学的噴射剤(chemical propellant)を有する定量吸入器(MDI)である。典型的には、該噴射剤はフルオロカーボンである。
【0079】
さらに好ましい吸入器としてネブライザーが挙げられる。ネブライザーは、鼻と口を覆う「マスク」を介し、加圧下の空気または酸素を用いて、薬物の微細な液体のミストを送達させることが出来る装置である。これらは、幼児、小児およびあらゆる年齢の急性期の患者を含む、吸入器を用いることが出来ない喘息患者を治療するためによく用いられる。
【0080】
前記吸入器は、例えば、噴射剤無しに本発明の化合物を送達し得るロータリー吸入器(rotary inhaler)またはドライパウダー吸入器であってもよい。
【0081】
典型的には、前記吸入器はスペーサーを含む。スペーサーは、咽喉よりもむしろ目的とする下気道に直接より大量の薬物を吸入することを可能にする装置である。吸入器の末端に装着する多くのスペーサーがあり、一部に関しては薬物のキャニスター(canister)が該装置に装着される。保留チャンバー(withholding chamber)と一方向弁とを有するスペーサーにより、薬物の空気中への漏出が防止される。多くの人々、特に小児および高齢者は、吸入を、定量吸入器からのパフ(puff)を誘発するのに必要な動作と協調させるのに困難を伴う場合がある。これらの患者に対してはスペーサーの使用が特に推奨される。
【0082】
投与の他の好ましい経路は鼻腔内投与である。鼻腔の高度に透過性の組織は薬物に対して非常に受容性があり、錠剤型の薬物と比べ、薬物を速やかにかつ効率的に吸収する。経鼻的なドラッグデリバリーは注射よりも苦痛が少なく、侵襲的でもないため、患者の不安が少ない。薬剤は錠剤型で送達される薬物よりも少ない用量で経鼻的に送達され得る。この方法によれば吸収が非常に速く、初回通過代謝が回避され、そのため患者間でのばらつきが減少する。さらに経鼻送達装置により、薬物を正確に定量で投与することが出来る。従って、本発明の医薬組成物は典型的には鼻腔内投与に適する。さらに、本発明はこのような医薬組成物を含む鼻腔内投与装置(intranasal device)も提供する。
【0083】
投与のさらに好ましい経路は経皮投与である。本発明は従って本発明の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む経皮パッチも提供する。また好ましいのは舌下投与である。本発明は従って本発明の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む舌下錠も提供する。
【0084】
本発明の化合物は典型的には医薬的に許容される担体または希釈剤とともに投与されるように配合される。例えば、固形経口剤型は、活性化合物とともに、希釈剤、例えば乳糖、デキストロース、白糖、セルロース、コーンスターチまたはバレイショデンプン;滑沢剤、例えばシリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウムもしくはカルシウム、および/またはポリエチレングリコール;結合剤、例えば澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルピロリドン;崩壊剤、例えば澱粉、アルギン酸、アルギン酸塩またはデンプングリコール酸ナトリウム(sodium starch glycolate);発泡剤(effervescing mixture);色素;甘味剤;湿潤剤、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸;ならびに、一般的に、医薬製剤に用いられる無毒性かつ薬理的に不活性な物質を含んでいてよい。このような医薬製剤は公知の様式、例えば、混合、造粒、打錠、糖コーティングまたはフィルムコーティング工程により製造してよい。
【0085】
経口投与のための分散液(liquid dispersion)はシロップ剤、乳剤および懸濁剤であってよい。シロップ剤は担体として、例えば白糖を、または、グリセリンおよび/もしくはマンニトールおよび/もしくはソルビトールとともに白糖を、含んでいてよい。
【0086】
懸濁剤および乳剤は担体として、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはポリビニルアルコールを含んでいてもよい。筋肉内注射用の懸濁剤または溶液は、前記活性化合物とともに医薬的に許容される担体、例えば滅菌水;オリーブ油;オレイン酸エチル;プロピレングリコール等のグリコール類;および所望により、適した量の塩酸リドカイン;を含んでいてよい。
【0087】
注射または注入のための溶液は、担体として、例えば滅菌水を含んでいてよく、または好ましくは該溶液は無菌、水性、等張食塩液の形態であってよい。
【0088】
本発明の化合物はHDACに媒介される状態の治療または予防において治療上、有用である。従って、本発明は、HDACに媒介される状態の治療または予防における使用のための薬物の製造における、式(I)の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用を提供する。さらに、HDACに媒介される状態に罹った、または罹りやすい患者を治療する方法も提供され、該方法は前記患者に有効量の式(I)の化合物、そのアイソスター、またはその医薬的に許容される塩を投与することを含む。
【0089】
一実施形態において、本発明の化合物は、HDACの他の公知の阻害剤、例えばSAHAと組み合わせて用いてよい。この実施形態において、この組み合わせ製品は、該薬物のそれぞれを同時に、別々に、または順次用いるためにそれらを含むように製剤されてよい。
【0090】
本発明は従って、(a)上記定義の本発明のスピルコスタチン類似体またはそのアイソスターもしくは医薬的に許容される塩;および(b)同時の、別々の、または順次の使用のための、他のHDACの公知の阻害剤、例えばSAHA;を含む製品を提供する。
【0091】
本発明は従って、他のHDACの公知の阻害剤、例えばSAHAとの同時投与において用いるための薬物の製造における、上記定義の本発明のスピルコスタチン類似体またはそのアイソスターもしくは医薬的に許容される塩の使用も提供する。
【0092】
他のHDACの公知の阻害剤は当業者の理解するところであろう。例えば米国特許出願公開公報2004−0266769(US20040266769)に適した例が示されている。例としては、スピルコスタチンA、FR−901228、トリコスタチンAおよびSAHAが挙げられる。
【0093】
本発明の化合物は癌の治療および予防の両者において用いることが出来、また単独療法において、または併用療法において用いることが出来る。併用療法において用いられる場合、本発明の化合物は典型的には小化合物(small chemical compound)、放射線、抗体を用いた療法(例えば、ハーセプチンおよびリツキシマブ)、抗癌ワクチン注射、遺伝子治療、細胞治療、ホルモン治療またはサイトカイン療法とともに用いられる。
【0094】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明の化合物は、癌の治療において他の化学療法薬または抗腫瘍薬と組み合わせて用いられる。このような他の化学療法薬または抗腫瘍薬の例としては、ミトキサントロン;ビンクリスチンおよびビンブラスチン等のビンカ・アルカロイド;ダウノルビシンおよびドキソルビシン等のアントラサイクリン系抗生物質;クロラムブシルおよびメルファラン等のアルキル化剤;パクリタキセル等のタキサン類;メトトレキサートおよびトムデックス等の抗葉酸剤;エトポシド等のエピポドフィロトキシン類;イリノテカンおよびその活性代謝物SN38等のカンプトテシン;ならびに国際公開第02/085400号に開示されているDNAメチル化阻害剤等のDNAメチル化阻害剤が挙げられる。
【0095】
本発明によると、従って、本発明の化合物と他の化学療法薬または抗腫瘍薬とを含む製品が、癌の緩和において同時に、別々にまたは順次用いるための組み合わせ製剤として提供される。さらに本発明によって提供されるのは、他の化学療法薬または抗腫瘍薬との共投与(coadministration)による癌の緩和において用いるための薬物の製造における、上記定義のスピルコスタチン類似体またはそのアイソスターもしくはその医薬的に許容される塩の使用である。本発明の化合物および前記の他の薬物はどのような順序で投与されてもよい。これら両者の場合において、本発明の化合物と他の薬物とは一緒に、または、別々の場合には医師が決定したどのような順序においても、投与してよい。
【0096】
HDACはいくつかの異なる疾患の病理および/または症候に寄与しているとされており、阻害による患者内のHDAC活性減少を、これらの病状に治療的に対処するために用いることが出来る。本発明のHDAC阻害剤を用いて治療することが出来る各種疾患の例が本明細書に記載されている。ただし、HDACが各種経路において果たす生物学的役割がより完全に理解されるようになるに従い、本明細書に開示されたもの以外のさらなる疾患が将来同定されることがあり得る。
【0097】
本発明のHDAC阻害剤を治療に用いることが出来る適応症の一群として、望ましくない、または制御されない細胞増殖を伴うものが挙げられる。このような適応症の例としては、良性腫瘍;原発腫瘍および腫瘍転移等の各種癌;再狭窄(冠動脈、頸動脈および脳の病変等);内皮細胞の異常刺激(アテローム性動脈硬化症);手術による生体組織に対する傷害;異常な創傷治癒;異常血管形成;組織の線維化を引き起こす疾患;反復運動障害(repetitive motion disorder);血管が高度に発達していない組織の疾患;ならびに臓器移植と関連した増殖反応が挙げられる。HDAC阻害剤のより具体的な適応症の例としては、前立腺癌、肺癌、急性白血病、多発性骨髄腫、膀胱癌、腎癌、乳癌、大腸癌、神経芽細胞腫および黒色腫が挙げられるがこれらに限定されない。
【0098】
一実施形態において、望ましくない、または制御されない細胞増殖と関連した疾患を治療するための方法が提供される。該方法は制御されない細胞増殖に罹患している患者に治療的有効量の本発明のHDAC阻害剤を投与し、この制御されない細胞増殖を減少させることを含む。用いるべき阻害剤の具体的投与量は、病状の重篤度、投与経路、および主治医により決定されうる関連要因によって異なるであろう。一般に、許容される有効な1日量は、制御されない細胞増殖を効果的に減速させるか、または無くすのに十分な量である。
【0099】
本発明のHDAC阻害剤は、望ましくない、および制御されない細胞増殖を阻害するために他の薬剤と併せて用いてもよい。本発明のHDAC阻害剤と合わせて用いてよい他の抗細胞増殖剤の例としては、レチノイド酸およびその誘導体、2−メトキシエストラジオール、アンギオスタチン(商標)タンパク質、エンドスタチン(商標)タンパク質、スラミン、スクアラミン、メタロプロテイナーゼ−I組織阻害剤、メタロプロテイナーゼ−2組織阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤−2、軟骨由来阻害剤、パクリタキセル、血小板第4因子、硫酸プロタミン(クルペイン)、硫酸化キチン誘導体(ズワイガニ(queen crab)殻から調製)、硫酸化多糖類ペプチドグリカン複合体(sp−pg)、スタウロスポリン、マトリックス代謝のモジュレーター、例えばプロリン類似体((1−アゼチジン−2−カルボン酸(LACA)、シスヒドロキシプロリン、d,l−3,4−デヒドロプロリン、チアプロリン)、β−アミノプロピオニトリルフマレート、4−プロピル−5−(4−ピリジニル)−2(3H)−オキサゾロン;メトトレキサート、ミトキサントロン、ヘパリン、インターフェロン、2マクログロブリン−血清、chimp−3、キモスタチン、β−シクロデキストリンテトラデカサルフェート、エポネマイシン;フマギリン、金チオリンゴ酸ナトリウム、d−ペニシラミン(CDPT)、β−1−抗コラゲナーゼ−血清、α2−抗プラスミン、ビサントレン、ロベンザリット2ナトリウム、n−(2−カルボキシフェニル−4−クロロアントロニル酸2ナトリウム、すなわち「CCA」、サリドマイド;アンゴスタチックステロイド(angostatic steroid)、カルボキシアミノイミダゾール;BB94等のメタロプロテイナーゼ阻害剤が挙げられるがこれらに限定されない。用いてもよい他の抗血管新生剤の例としては、抗体、好ましくはこれらの血管新生促進因子:bFGF、aFGF、FGF−5、VEGFアイソフォーム、VEGF−C、HGF/SFおよびAng−1/Ang−2に対するモノクローナル抗体が挙げられる。Ferrara N. and Alitalo, K. “Clinical application of angiogenic growth factors and their inhibitors” (1999) Nature Medicine 5:1359−1364。
【0100】
一般に、良性腫瘍の細胞は分化した特徴を保持しており、完全に制御されない様式では分裂しない。良性腫瘍は通常局所的であり、かつ非転移性である。本発明のHDAC阻害剤を用いて治療出来る良性腫瘍の具体的な種類の例としては、血管種、肝細胞腺腫、海綿状血管腫、限局性結節性過形成、聴神経腫、神経繊維腫、胆管腺腫、胆管嚢胞腺腫(bile duct cystanoma)、線維腫、脂肪腫、平滑筋腫、中皮腫、奇形腫、粘液腫、結節性再生性過形成、トラコーマおよび化膿性肉芽腫が挙げられる。
【0101】
悪性腫瘍の場合においては、細胞は未分化となり、生体の成長抑制シグナルに対して反応せず、制御されない様式で増殖する。悪性腫瘍は浸潤性であり、離れた部位に広がり得る(転移)。悪性腫瘍は一般に2つのカテゴリーに分かれる:原発性および二次性である。原発性腫瘍はそれが見出される組織から直接生ずる。二次性腫瘍、すなわち転移腫瘍は、生体の他の場所で発生し、今や離れた器官へと広がった腫瘍である。転移の一般的な経路は隣接する組織への直接的な増殖、脈管系またはリンパ系を介した拡散、および組織表面や体内の空間(腹水、脳脊髄液等)に沿った拡散である。
【0102】
原発性・二次性を問わず、本発明のHDAC阻害剤を用いて治療し得るガンまたは悪性腫瘍の具体的な種類としては、白血病;乳癌;皮膚癌;骨癌;前立腺癌;肝癌;肺癌;脳腫瘍;喉頭、胆嚢、膵臓、直腸、副甲状腺、甲状腺、副腎、神経組織、頭頸部、大腸、胃、気管支、腎臓の癌;基底細胞癌;潰瘍性および乳頭状の両者の扁平上皮癌;転移性皮膚癌;骨肉腫;ユーイング肉腫;ベティキュラム(veticulum)細胞種;骨髄腫;巨細胞腫;小細胞肺癌;胆石;島細胞腫;原発性脳腫瘍;急性および慢性リンパ細胞腫および顆粒細胞腫;毛様細胞腫(hairy−cell tumor);腺腫;過形成;髄様癌;褐色細胞腫;粘膜神経腫(mucosal neuronms);腸神経節細胞腫;過形成角膜神経腫瘍;マルファン症候群様体質腫瘍(marfanoid habitus tumor);ウィルムス腫;セミノーマ;卵巣腫瘍;平滑筋腫(leiomyomater tumor);子宮頸部形成異常および上皮内癌(in situ carcinoma);神経芽腫;網膜芽細胞腫;軟部肉腫;悪性カルチノイド;局所性皮膚病変;菌状息肉腫;横紋筋肉腫;カポジ肉腫;骨原性肉腫および他の肉腫;悪性高カルシウム血症;腎細胞腫瘍;真性赤血球増加症;腺癌;多形性膠芽腫;白血病;リンパ腫;悪性黒色腫;類表皮癌;ならびに他の癌および肉腫;が挙げられるがこれらに限定されない。
【0103】
本発明のHDAC阻害剤は手術中の生体組織の損傷による異常な細胞増殖を治療するのに用いてもよい。この損傷は関節手術、腸手術およびケロイド瘢痕化等、各種の外科的処置の結果生じ得る。線維性組織を生成する疾患の例としては気腫が挙げられる。本発明を用いて治療し得る反復運動障害の例としては手根管症候群が挙げられる。本発明を用いて治療し得る細胞増殖性疾患の例としては骨腫瘍が挙げられる。
【0104】
本発明のHDAC阻害剤を用いて治療し得る、臓器移植と関連した増殖反応の例としては、潜在的な臓器拒絶反応または関連する合併症の原因となる増殖反応が挙げられる。具体的には、これらの増殖反応は心臓、肺、肝臓、腎臓および他の生体器官または器官系の移植の際に起こり得る。
【0105】
本発明を用いて治療し得る異常血管形成の例としては、関節リウマチ;虚血再灌流と関連した脳浮腫および損傷;皮質虚血;卵巣過形成および血管過多(多嚢胞性卵巣症候群);子宮内膜症;乾癬;糖尿病性網膜症、ならびに未熟児網膜症(水晶体後線維増殖症)等の他の眼の脈管形成疾患;黄斑変性;角膜移植拒絶;血管新生緑内障(neuroscular glaucoma)およびOster−Webber症候群に付随する異常血管形成が挙げられる。
【0106】
本発明により治療され得る、制御されない血管新生と関連した疾患の例としては、網膜/脈絡膜血管新生および角膜血管新生が挙げられるが、これらに限定されない。網膜/脈絡膜血管新生の例としては、ベスト病、近視、視神経乳頭小窩、シュタルガルト病(Stargart’s disease)、パジェット病、静脈閉塞、動脈閉塞、鎌状赤血球貧血、サルコイド、梅毒、弾性線維性仮黄色腫(pseudoxanthoma elasticum)頚動脈閉塞性疾患(carotid apo structive disease)、慢性ブドウ膜炎/硝子体炎(vitritis)、マイコバクテリア感染、ライム病、全身性エリテマトーデス、未熟児網膜症、イールズ病、糖尿病性網膜症、黄斑変性、ベーチェット病、網膜炎または脈絡膜炎(chroiditis)を引き起こす感染、推定眼ヒストプラスマ症、扁平部炎、慢性網膜剥離、過粘稠度症候群、トキソプラスマ症、外傷およびレーザー後合併症(trauma and post−laser complication)、ルベオーシス(rubesis)に関連する疾患(隅角の血管新生)、ならびに線維血管組織または線維組織の異常増殖によって生ずる、すべての形態の増殖性硝子体網膜症を含む疾患が挙げられるが、これらに限定されない。角膜血管新生の例としては、流行性角結膜炎、ビタミンA欠乏症、コンタクトレンズの過度の使用(overwear)、アトピー性角膜炎、上輪部角膜炎、翼状片乾燥角膜炎(pterygium keratitis sicca)、シェーグレン、酒さ性ざ瘡、フリクテン症(phylectenulosis)、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、角膜移植拒絶、モーレン潰瘍、テリエン辺縁変性、辺縁性表皮剥離(marginal keratolysis)、多発性動脈炎、Wegenerサルコイドーシス、強膜炎、ペリフィゴイド(periphigoid)放射状角膜切開、血管新生緑内障および水晶体後線維増殖、梅毒、マイコバクテリア感染、脂質変性、化学的熱傷、細菌性潰瘍、真菌性潰瘍、単純ヘルペス感染、帯状ヘルペス感染、原虫感染ならびにカポジ肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
制御されない血管新生と関連した慢性炎症性疾患も本発明のHDAC阻害剤を用いて治療され得る。慢性炎症は毛細血管の芽(sprout)が連続的に形成されて炎症細胞の流入が維持されることに依存する。炎症細胞の流入および存在により肉芽腫が産生され、そのため慢性炎症状態が維持される。HDAC阻害剤を単独で、または他の抗炎症剤と併せて用い、血管新生を阻害することで、肉芽腫の形成を防止し、従って疾患を緩和することが出来る。慢性炎症性疾患の例としては、クローン病および潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患、乾癬、サルコイドーシス、ならびに関節リウマチが挙げられるがこれらに限定されない。
【0108】
クローン病および潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患は、消化管の各種部位における慢性炎症および血管新生を特徴とする。例えば、クローン病は最も一般的には回腸末端部および大腸を冒す慢性貫壁性(transmural)炎症性疾患として発生するが、口から肛門までの消化管および肛門周囲領域のいずれの部位においても発生し得る。クローン病患者は一般に、腹痛を伴う慢性下痢、発熱、食欲不振、体重減少および腹部膨満を有する。潰瘍性大腸炎も慢性、非特異的、炎症性の、結腸粘膜で生ずる潰瘍性疾患であり、血性下痢の存在を特徴とする。これらの炎症性腸疾患は一般に、炎症細胞の筒に囲まれた新たな毛細血管の芽を伴う、消化管全体にわたる慢性肉芽腫性炎により引き起こされる。これら阻害剤による血管新生の阻害により、この芽の形成が阻害され、肉芽腫の形成が防止される。炎症性腸疾患は皮膚病変等の腸管外症状も示す。このような病変は炎症および血管新生を特徴とし、消化管以外の多くの部位で生じ得る。本発明のHDAC阻害剤による血管新生の阻害によって炎症細胞の流入を減少させ、病変の形成を防止することが出来る。
【0109】
他の慢性炎症性疾患であるサルコイドーシスは、多臓器肉芽腫性疾患として特徴付けられる。この疾患の肉芽腫は生体内のいずれの部位にも形成され得る。従って、症状は該肉芽腫の部位、および該疾患が活動性であるかによって異なる。該肉芽腫は、炎症細胞の恒常的な供給を提供する新生毛細血管芽(angiogenic capillary sprout)により生成される。本発明によるHDAC阻害剤を用いて血管新生を阻害することにより、このような肉芽腫形成を阻害することが出来る。同じく慢性で再発性の炎症性疾患である乾癬は、各種サイズの丘疹および斑により特徴付けられる。これらの阻害剤を単独で、または他の抗炎症剤と併せて用いる治療は、特徴的病変を維持するのに必要な新生血管の形成を防止し、患者に症状の緩和を提供する。
【0110】
関節リウマチ(RA)も慢性炎症性疾患であり、末梢関節の非特異的炎症によって特徴付けられる。関節の滑膜表層の血管に血管新生が起こるとされている。新生血管網が形成されることに加え、内皮細胞がパンヌス増殖および軟骨破壊をもたらす因子および活性酸素種を放出する。血管新生に関与する因子は関節リウマチの慢性的炎症状態に活発に寄与し、その維持を補助する場合がある。本発明によるHDAC阻害剤を単独で、または他の抗RA剤と併せて用いる治療により、慢性炎症を維持するのに必要な新生血管網の形成が防止され得る。
【0111】
本発明の化合物はさらに、肥大、高血圧、心筋梗塞、再灌流障害、虚血性心疾患、狭心症、不整脈、高コレステロール血症、アテローム性動脈硬化症および脳卒中等の心臓/脈管系疾患の治療において用いることが出来る。前記化合物はさらに、脳卒中、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症およびアルツハイマー病を含む急性および慢性神経系疾患等の神経変性疾患/CNS疾患の治療に用いることが出来る。
【0112】
本発明の化合物は抗微生物剤、例えば抗菌剤としても用いることが出来る。本発明は従って細菌感染の治療における使用のための化合物も提供する。本発明の化合物はウイルス、細菌、真菌および寄生虫感染に対する抗感染症化合物として用いることが出来る。感染の例としては原生動物寄生感染(マラリア原虫、クリプトスポリジウムパルバム、トキソプラズマ原虫、サルコシスティス・ニューロナおよびアイメリア属sp.等)が挙げられる。
【0113】
本発明の化合物は特に望ましくないまたは制御されない細胞増殖の治療に、好ましくは良性腫瘍/過形成および悪性腫瘍の治療に、より好ましくは悪性腫瘍の治療に、最も好ましくはCCL,乳癌およびT細胞リンパ腫の治療に適している。
【0114】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の化合物は、癌、心肥大、慢性心不全、炎症状態、循環器疾患、異常血色素症、サラセミア、鎌状赤血球病、CNS障害、自己免疫疾患、糖尿病、骨粗しょう症、MDS、前立腺肥大、口腔白板症、遺伝的に関連のある代謝障害、感染、Rubens−Taybi、脆弱X症候群、もしくはα−1アンチトリプシン欠乏症を緩和するために、または創傷治癒を促進するために、または毛包を保護するために、または免疫抑制剤として、用いられる。
【0115】
前記炎症状態は、例えば、皮膚炎症状態(乾癬、座瘡、湿疹等)、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、関節リウマチ(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病または大腸炎であり得る。
【0116】
前記癌は、例えば、慢性リンパ球性白血病、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、中皮腫、またはT細胞リンパ腫であり得る。
【0117】
前記循環器疾患は、例えば、高血圧、心筋梗塞(MI)、虚血性心疾患(IHD)(再灌流)、狭心症、不整脈、高コレステロール血症、高脂血症、アテローム性動脈硬化症、脳卒中、心筋炎、うっ血性心不全、原発性および続発性、すなわち拡張型(うっ血性)心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、末梢血管疾患、頻脈、高血圧または血栓症であり得る。
【0118】
前記の遺伝的に関連のある代謝障害は、例えば、嚢胞性線維症(CF)、ペルオキシソーム形成異常症または副腎白質ジストロフィであり得る。
【0119】
本発明の化合物は臓器移植後の免疫抑制剤として用いられ得る。
【0120】
前記感染は、例えば、ウイルス、細菌、真菌または寄生虫感染、特にS.aureus、P.acne、CandidaまたはAspergillusによる感染であり得る。
【0121】
前記CNS障害は、例えば、ハンチントン病、アルツハイマー病、多発性硬化症または筋萎縮性側索硬化症であり得る。
【0122】
好ましくは、本発明の化合物は癌、心肥大、慢性心不全、炎症状態、循環器疾患、異常血色素症、サラセミア、鎌状赤血球病、CNS障害、自己免疫疾患、糖尿病または骨粗しょう症を緩和するために用いられ、または免疫抑制剤として用いられる。
【0123】
最も好ましくは、本発明の化合物は慢性リンパ球性白血病、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、中皮腫、T細胞リンパ腫、心肥大、慢性心不全または皮膚炎症状態、特に乾癬、座瘡または湿疹を緩和するために用いられる。
【0124】
本発明の化合物は動物の治療に、好ましくは哺乳動物の治療に、より好ましくはヒトの治療に用いることが出来る。
【0125】
本発明の化合物は、適宜、このような状態の発生を減少させるために予防的に用いてよい。
【0126】
治療的有効量の本発明の化合物が患者に投与される。典型的な投与量は体重1kgあたり約0.001〜50mgであり、具体的な化合物の活性;治療を受ける患者の年齢、体重および状態;疾患の種類および程度;ならびに投与の頻度および経路によって異なる。好ましくは、1日投与量は5mg〜2gである。
【実施例】
【0127】
以下の実施例により本発明を説明する。アッセイはHDAC阻害活性の指標を提供することのためだけに設計されている。HDACアンタゴニストとしての所定の化合物の活性を測定するために利用出来るアッセイは数多くあり、いずれか1つの特定のアッセイにおける否定的な結果は、従って、決定的なものではない。
【0128】
以下の記載において、化合物の構造は適宜NMRを含む各種手法により確認された(詳細は示さない)。
【0129】
本発明の化合物を次の一般スキームにより調製した。
【化10】

【0130】
(3S,4R)−4−{2−[(R)−2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−3−フェニル−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−3−ヒドロキシ−5−メチル−ヘキサン酸アリルエステル(2A)の調製
【化11】

アルゴン雰囲気下でCH3CN(9.5mL)中の1A(190.4mg、0.25mmol、Doi, T,; Iijima, Y.; Shin−ya, K.; Ganesan, A,; Takahashi, T.; Tet. Lett. 2006, 47, 1177−1080の手順によって調製)の溶液にジエチルアミン(0.5mL、5% v/v)を加え、該反応混合物を室温で1時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(3×10mL)を加えて再び繰り返した。その後、粗アミンを高真空下で40分間乾燥した。次に、CH2Cl2(4.75mL)中のPyBop(185mg、0.36mmol)およびFmoc−D−Phe−OH(139mg、0.36mmol)の溶液にジイソプロピルエチルアミン(0.15mL、0.86mmol)をアルゴン雰囲気下、撹拌しながら加えた。CH3CN(4.75mL)中の得られた脱保護アミンの溶液を加え、撹拌下、室温で16時間反応させた。その後真空下で溶媒を除去した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 1:1 EtOAc/ヘキサン)、2Aを白色固体として生成した(126mg、0.14mmol、55%):Rf 0.17 EtOAc/ヘキサン(1:1);[α]26D=+2.65(c 0.15、CHCl3);IR(薄膜)3305(br)、1708(m)、1649(s)、1539(m)、1533(m)。
【0131】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{2−[(R)−2−((Z)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−3−フェニル−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−メチル−ヘキサン酸アリルエステル(4A)の調製
【化12】

アルゴン雰囲気下でCH3CN(25mL)中の2Aの溶液(582mg、0.64mmol)にジエチルアミン(1mL、9.6mmol)を加えた。2時間後、溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(3×15mL)を用いて繰り返し、その後原料を高真空下に置いた(30分間)。その後、CH2Cl2(10mL)中の粗アミンの溶液にDMAP(11mg、0.09mmol)を加え、次いでCH2Cl2(15mL)中のアルコール3の溶液(492mg、0.88mmol、Yurek−George, A.; Habens, F.; Brimmell, M.; Packham, G.; Ganesan, A. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1030−1031の手順によって調製)を加えた。その後、反応液を16時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、精製した固体をシリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 4:6−6:4 EtOAc/ヘキサン)、4Aを白色固体として生成した(389mg、0.35mmol、55%):Rf 0.25 EtOAc/ヘキサン(1:1);[α]26D=+0.85(c 0.35、CHCl3);IR(薄膜)3279(br)、1733(m)、1690(m)、1656(m)、1628(s)。
【0132】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−((S)−2−{(S)−2−[((E)−(R)−1−ヒドロキシ−5−トリチルスルファニル−ペンタ−2−エニルカルバモイル)−メチル]−3−フェニル−プロピオニルアミノ}−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ)−5−メチル−ヘキサン酸(5A)の調製
【化13】

アルゴン雰囲気下の無水メタノール(11mL)中の4A(383mg、0.35mmol)、Pd(PPh34(41.2mg、0.036mmol)の溶液に、モルホリン(62μL、0.71mmol)を加え、これを3時間撹拌した。該反応混合物を真空下で濃縮し、CH2Cl2(20mL)を加え、1M HCl(15mL)、飽和炭酸水素ナトリウム(15mL)、飽和食塩水(15mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、真空下で濃縮した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 5:95−6:94 MeOH/CH2Cl2)、白色固体5Aを生成した(137mg、0.13mmol、37%)。Rf 0.12 MeOH/CH2Cl2(5:95)。
【0133】
(3R,7S,10S,13R,14S)−7−ベンジル−14−ヒドロキシ−13−イソプロピル−3−((E)−4−トリチルスルファニル−ブタ−−1−エニル)−10−トリチルスルファニルメチル−1,2−ジオキサ−4,9,12−トリアザ−シクロヘキサデカン−5,8,11,16−テトラオン(6A)の調製
【化14】

CH2Cl2(29mL)中のMNBA(54mg、0.16mmol)およびDMAP(38mg、0.31mmol)の溶液にCH2Cl2(117mL)中の酸5A(137mg、0.13mmol)の溶液を4.5時間かけて滴下し、次いでこれを一晩室温で撹拌した。該反応混合物をHCl(1M、40mL)、炭酸水素ナトリウム(40ml)および飽和食塩水(40mL)で順次洗浄し、その後乾燥(MgSO4)し、濾過し、真空下で濃縮して、茶色固体を生成した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 4:6−1:1 EtOAc/ヘキサンを1:9 MeOH/CHCl3に増加)、6Aを白色/茶色固体として生成した(79.4mg、0.08mmol、58%)。Rf 0.14 EtOAc/ヘキサン(4:6)。
【0134】
(E)−(1R,6S,7R,10S,21S)−21−ベンジル−6−ヒドロキシ−7−イソプロピル−2,3−ジオキサ−12,13−ジチア−8,18,23−トリアザ−ビシクロ[8.7.6]トリコサ−16−エン−4,9,19,22−テトラオン(7A)の調製。
【化15】

CH2Cl2/MeOH(9:1、272mL)中のヨウ素(198.4mg、0.78mmol)の溶液にCH2Cl2/MeOH(9:1)(134mL)中の6A(79.4mg、0.08mmol)の溶液を30分間かけて滴下し、次いで該反応混合物をさらに30分間撹拌し、その後チオ硫酸ナトリウム(88mL、0.05M)を加えた。層を分離し、産物をCH2Cl2(3×45ml)で抽出し、乾燥(MgSO4)し、溶媒を真空下で除去した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 3:97 MeOH/CH2Cl2)、7Aを白色固体として生成した(30mg、 mmol、68%):Rf 0.19 CH2Cl2/MeOH(97:3);[α]26D=−83.7(c 0.38、MeOH)。
【0135】
3−[(R)−2−[(S)−1−((1R,2S)−3−アリルオキシカルボニル−2−ヒドロキシ−1−イソプロピル−プロピルカルバモイル)−2−トリチルスルファニル−エチルカルバモイル]−2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−エチル]−インドール−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(2B)の調製
【化16】

アルゴン雰囲気下のCH3CN(20mL)中の1Aの溶液(398.1mg、0.52mmol)にジエチルアミン(0.96mL、9.2mmol)を加え、該反応混合物を室温で2時間15分間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(3×15mL)を用いて再び繰り返した。粗アミンを高真空下で1時間50分間乾燥した。次に、CH2Cl2(10mL)中のPyBop(388.6mg、0.75mmol)およびFmoc−D−Trp−OH(391.3mg、0.74mmol)の溶液にジイソプロピルエチルアミン(0.315mL、1.8mmol)をアルゴン雰囲気下で加えた。CH3CN(10mL)中の得られた脱保護アミンの溶液を加え、撹拌下、室温で16時間反応させた。その後真空下で溶媒を除去し、生成した固体をシリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 3:7−1:1 EtOAc/ヘキサン、2Bを白色固体として生成した(282mg、0.26mmol、50%):Rf 0.52 EtOAc/ヘキサン(1:1);IR(薄膜)3308(br)、1717(m)、1651(m)、1527(br)、1450(m)。
【0136】
3−[(R)−2−[(S)−1−((1R,2S)−3−アリルオキシカルボニル−2−ヒドロキシ−1−イソプロピル−プロピルカルバモイル)−2−トリチルスルファニル−エチルカルバモイル]−2−((E)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−エチル]−インドール−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(4B)の調製
【化17】

アルゴン雰囲気下でCH3CN(10.2mL)中の2B(279mg、0.26mmol)の溶液にジエチルアミン(0.41mL、3.9mmol)を加え、3時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(3×10mL)を用いて繰り返した。その後、CH2Cl2(5mL)中の粗アミンの溶液にDMAP(4.1mg、0.033mmol)を加え、次いでCH2Cl2(7mL)中のアルコール3(206mg、0.37mmol)の溶液を加えた。その後、反応液を16時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、生成した固体をシリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 3:7−4:6−1:1 EtOAc/ヘキサン)、4Bを白色固体として生成した(189mg、0.15mmol、58%):Rf 0.29 EtOAc/ヘキサン(1:1);IR(薄膜)3298(br)、1731(s)、1645(s)、1593(m)、1542(m)。
【0137】
3−[(R)−2−[(S)−1−((1R,2S)−3−カルボキシ−2−ヒドロキシ−1−イソプロピル−プロピルカルバモイル)−2−トリチルスルファニル−エチルカルバモイル]−2−((E)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−エチル]−インドール−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(5B)の調製。
【化18】

アルゴン雰囲気下の無水メタノール(4mL)中の4B(166mg、0.13mmol)、Pd(PPh34(15.7mg、0.014mmol)の溶液に、モルホリン(24μL、0.27mmol)を加え、これを1時間20分間撹拌した。該反応混合物を真空下で濃縮し、CH2Cl2(15mL)を添加し、1M HCl(10mL)、飽和炭酸水素ナトリウム(10mL)および飽和食塩水(10mL)で洗浄した。有機画分を合わせてそれを乾燥(MgSO4)し、濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 5:95 MeOH/CH2Cl2、その後+AcOH 1%)、白色固体5Bを生成した(113mg、0.094mmol、70%):Rf 0.19 MeOH/CH2Cl2(5:95);IR(薄膜)3305(br)、3292(br)、1731(s)、1649(s)、1538(s)。
【0138】
3−[(2S,6R,9S,12R,13S)−13−ヒドロキシ−12−イソプロピル−4,7,10,15−テトラオキソ−2−((E)−4−トリチルスルファニル−ブタ−1−エニル)−9−トリチルスルファニルメチル−1−オキサ−5,8,11−トリアザ−シクロペンタデカ−6−イルメチル]−インドール−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(6B)の調製。
【化19】

CH2Cl2(20mL)中のMNBA(38mg、0.11mmol)およびDMAP(27mg、0.21mmol)の溶液にCH2Cl2(82mL)中の酸5B(113mg、0.094mmol)の溶液を3時間かけて滴下した。さらに12時間後、該反応混合物をHCl(1M、40mL)、炭酸水素ナトリウム(40ml)および飽和食塩水(40mL)で洗浄した。有機層を合わせてそれを乾燥(MgSO4)し、濾過し、真空下で濃縮して茶色固体を生成した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 4:6−1:1 EtOAc/ヘキサンを1:9 MeOH/CHCl3に増加)、6Bを白色/茶色固体として生成した(73.5mg、0.06mmol、55%):Rf 0.37 EtOAc/ヘキサン(1:1)。
【0139】
3−((E)−(1S,5S,6R,9S,20R)−5−ヒドロキシ−6−イソプロピル−3,8,18,21−テトラオキソ−2−オキサ−11,12−ジチア−7,19,22−トリアザ−ビシクロ[7.7.6]ドコサ−15−エン−20−イルメチル)−インドール−1−カルボン酸tert−ブチルエステル(7B)の調製
【化20】

CH2Cl2/MeOH(9:1、143mL)中のヨウ素(107.2mg、0.42mmol)の溶液にCH2Cl2/MeOH(9:1)(70mL)中の6B(48.4mg、0.0041mmol)の溶液を30分間かけて滴下し、次いで該反応混合物をさらに30分間撹拌し、その後チオ硫酸ナトリウム(26mL、0.05M)を加えた。有機相を分離し、水相をCH2Cl2(3×20ml)で抽出した。有機相を合わせてそれを乾燥(MgSO4)し、濾過し、真空下で濃縮した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 0:100−1:99−3:97 MeOH/CH2Cl2)、白色固体として7Bを生成した(13mg、0.019mmol、46%):Rf 0.18 CH2Cl2/MeOH(97:3);[α]28D=−1.9(c 0.36、CHCl3);IR(薄膜)3379(br)、3343(br)、2974(m)、2931(m)、1732(s)、1662(s)、1538(m)、1519(m)、1453(m)、1371(s)、1333(m)、1310(m)、1271(m)、1255(s)。
【0140】
(3S,4R)−4−{(S)−2−[(R)−2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−4−メチル−ペンタノイルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−3−ヒドロキシ−5−メチル−ヘキサン酸アリルエステル(2C)の調製
【化21】

室温のCH3CN(20mL)中の1A(400mg、0.52mmol)の撹拌溶液にEt2NH(1mL)を滴下した。該反応混合物を室温で2時間撹拌し、その後溶媒を真空下で除去し、ヘキサン(3×15mL)を加えて真空下での除去を繰り返した。その後、粗アミンを高真空下で1時間乾燥した。CH2Cl2(10mL)中のFmoc−D−Leu(265mg、0.75mmol)の撹拌溶液にPyBop(390mg、0.75mmol)およびDIEA(217μl、1.25mmol)を加えた。室温で15分間撹拌後、CH3CN(10mL)中の粗アミンの溶液を加え、該反応混合物を12時間撹拌した。最後に溶媒を除去し、残渣をフラッシュクロマトグラフィー(溶出液 30〜40% EtOAc/ヘキサン)により精製し、2Cを白色固体として生成した(260mg、0.295mmol、57%):[α]27D+10.3(c 0.50、CHCl3)。
【0141】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{(S)−2−[(R)−2−((E)−(R)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−4−メチル−ペンタノイルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−メチル−ヘキサン酸アリルエステル(4C)の調製
【化22】

室温のCH3CN(10mL)中の2C(222mg、0.252mmol)の撹拌溶液にEt2NH(461μl)を滴下した。室温で3時間撹拌後、該反応混合物を真空下で濃縮し、ヘキサン(3×15mL)を加えて真空下での除去を繰り返し、黄色油状物として粗アミンを生成した。次いで粗アミンを高真空下で1時間乾燥した。その後、CH2Cl2(5mL)中の粗アミンの溶液にDMAP(3.2mg、0.026mmol)を加え、次いでCH2Cl2(7mL)中のアルコール3(177mg、0.315mmol)の溶液を加えた。その後、反応液を16時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、生成した固体をシリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 30〜50% EtOAc/ヘキサン)、4Cを白色固体として生成した(180mg、0.17mmol、67%):[α]25D+19.47(c 0.48、CH3OH)。
【0142】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{(S)−2−[(R)−2−((E)−(R)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−4−メチル−ペンタノイルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−メチル−ヘキサン酸(5C)の調製
【化23】

室温の無水CH3OH(5mL)中の4C(168mg、0.158mmol)の溶液にモルホリン(27.6μl、0.48mmol)を加え、次いでPd(PPh34(18.3mg、0.016mmol)を加えた。2時間の撹拌後、溶媒を留去し、産物をCH2Cl2でリンスし、1M HCl(10mL)、飽和炭酸水素ナトリウム(10mL)および飽和NaCl(10mL)溶液で洗浄した。次いで有機層をMgSO4で乾燥し、濾過し、真空下で溶媒を除去し、粗生成物をヘキサン(3×20mL)で洗浄し、フラッシュクロマトグラフィー(1〜20% CH3OH/CHCl3)により精製し、5Cを生成した(101mg、0.1mmol、63%)。
【0143】
(2S,6R,9S,12R,13R)−13−ヒドロキシ−6−イソブチル−12−イソプロピル−2−((E)−4−トリチルスルファニル−ブタ−1−エニル)−9−トリチルスルファニルメチル−1−オキサ−5,8,11−トリアザ−シクロペンタデカン−4,7,10,15−テトラオン(6C)の調製
【化24】

CH2Cl2(20mL)中の2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物(MNBA)(32.7mg、0.095mmol)およびDMAP(22.5mg、0.184mmol)の溶液にCH2Cl2/THF(2:1、66mL)中の酸5C(76mg、0.075mmol)の溶液を3時間かけて滴下した。さらに12時間後、反応を1M HCl(30mL)の添加によりクエンチした。有機相を分離(CH2Cl2により抽出)し、飽和NaHCO3(30mL)で洗浄し、次いで食塩水(30mL)で洗浄した。有機相を合わせてそれを乾燥(MgSO4)し、濾過し、真空下で濃縮して黄色油状物を生成した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 40% EtOAc/ヘキサン)、黄色油状物として6Cを生成した(35mg、0.035mmol、47%)。
【0144】
(E)−(1S,5R,6R,9S,20R)−5−ヒドロキシ−20−イソブチル−6−イソプロピル−2−オキサ−11,12−ジチア−7,19,22−トリアザ−ビシクロ[7.7.6]ドコサ−15−エン−3,8,18,21−テトラオン(7C)の調製
【化25】

CH2Cl2/MeOH(9:1、120mL)中のI2(81.2mg、0.32mmol)の溶液にCH2Cl2/MeOH(9:1、70mL)中の6C(32mg、0.032mmol)の溶液を30分間かけて滴下した。さらに30分後、反応をチオ硫酸ナトリウム(0.05M、50mL)および食塩水(10mL)の添加によりクエンチした。有機相を分離し、水相をCH2Cl2(3×20ml)で抽出した。有機相を合わせてそれを乾燥(MgSO4)し、濾過し、真空下で濃縮して黄色油状物を生成した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(1〜3% MeOH/CH2Cl2)、環化されたデプシペプチド7Cを生成した(13.5mg、0.026mmol、82%):[α]29D−66.6(c 0.5、CH3OH)。
【0145】
(3S,4R)−4−[(S)−2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ]−3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステル(1B)の調製。
【化26】

【0146】
1) (R)−4−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−オキソ−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステルの調製
【化27】

0℃のCH2Cl2(50mL)中のBoc−D−Phe−OH(2.53g、9.4mmol)の溶液にEDAC・HCl(2.25g、11.3mmol)、ペンタフルオロフェノール(1.80g、9.9mmol)およびDMAP(0.23g、1.9mmol)を加えた。30分間の撹拌後、該溶液を室温に加温し、さらに2時間放置した。次に該反応混合物を10% HCl(40mL)、飽和NaHCO3(25mL)および飽和NaCl(25mL)溶液で洗浄し、CH2Cl2により抽出した。有機層を合わせて乾燥(Na2SO4)し、濾過し、濃縮して、活性エステルをオフホワイトの固体として生成した。一方、−40℃のTHF(30mL)中のDIPEA(3.25mL、23.2mmol)の溶液に、ヘキサン中のnBuLiの溶液(1.6M、14.5mL、23.2mmol)を滴下した。反応混合物を0℃に10分間かけて加温し、その後−78℃に冷却して酢酸アリル(2.5mL、23.2mmol)を滴下した。30分後、THF(20mL)中の前記活性エステルの溶液を滴下した。さらに1時間後、反応混合物を10% HCl(40mL)、飽和NaHCO3(25ml)および飽和NaCl(25mL)溶液で順次洗浄し、CH2Cl2により抽出した。有機層を合わせて乾燥(Na2SO4)し、濾過し、濃縮した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(20% EtOAc/Hex)、β−ケトエステルを生成した(1.66g、4.8mmol、51%)。
【0147】
2) (3S,4R)−4−tert−ブトキシカルボニルアミノ−3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステルの調製
【化28】

78℃のMeOH(60mL)中のβ−ケトエステル(1.47g、4.23mmol)の溶液に1バッチのKBH4(0.8g、14.82mmol)を加えた。10分後、反応液を30分間かけて−20℃に加温した。さらに10分後、反応液を0℃とし、pH7までAcOHを添加してクエンチした。反応混合物を真空下で濃縮し、EtOAc(40mL)を加えた後、飽和NaCl溶液(25mL)で洗浄し、乾燥(MgSO4)し、真空下で濃縮した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(20% EtOAc/Hex)、β−ヒドロキシエステルを生成した(0.99g、2.85mmol、67%)。
【0148】
3) 0℃のCH2Cl2(20mL)中のアミド(0.52g、1.5mmol)の溶液にTFA(5mL)を加えた。1.5時間後、該混合物を真空下で濃縮した。0℃のCH2Cl2(60mL)中のFmoc−D−Cys(Trt)−OH(0.92、1.57mmol)の懸濁液にPyBOP(0.94g、1.8mmol)およびDIEA(0.91mL、5.25mmol)を加えた。5分後、CH2Cl2(10mL)中のアミン塩(上記で調製)の溶液を加えた。さらに1時間後、該反応混合物を真空下で濃縮した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(20〜35% EtOAc/Hex)、1Bを生成した(1.02g、1.2mmol、83%)。
【0149】
(3S,4R)−4−{(S)−2−[(R)−2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステル(2D)の調製
【化29】

CH3CN(25mL)中の10(400mg、0.5mmol)の溶液にEt2NH(1.2mL、5% v/v)を加えた。1時間後、該反応混合物を真空下で濃縮し、粗アミンを生成した。次にヘキサン(100mL)を該反応混合物に加え、溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(2×25mL)で再び繰り返した。次いで粗アミンを高真空下で0.5時間乾燥した。その後、0℃のCH3CN/CH2Cl2(1:1、20mL)中のPyBop(380mg、0.73mmol)およびFmoc−D−Ala−OH(220mg、0.70mmol)の溶液に、アルゴン雰囲気下、DIEA(0.3mL、3.5mmol)を加えた。CH3CN/CH2Cl2(1:1、10mL)中の粗アミンの溶液を加え、反応混合物を室温とし、1.5時間撹拌した。その後、溶媒を真空下で除去した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(50% EtOAc/Hex)、2Dを生成した(360mg、0.41mmol、84%)。
【0150】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{(S)−2−[(R)−2−((E)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステル(4D)の調製
【化30】

室温のCH2Cl2/CH3CN(1:1、10mL)中の2D(325mg、0.36mmol)の撹拌溶液にEt2NH(0.7mL)を加えた。4時間撹拌後、ヘキサン(20mL)を該反応混合物に加え、次いで溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(2×25mL)で再び繰り返した。次いで粗アミンを高真空下で0.5時間乾燥した。CH2Cl2/CH3CN(1:1、10mL)中の粗アミンの撹拌溶液にCH2Cl2(5mL)中の3(250mg、0.44mmol)の溶液およびDMAP(5mg、0.04mmol)を室温で加えた。室温で12時間撹拌後、溶媒を真空下で除去し、残渣をフラッシュクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 25〜35% EtOAc/CH2Cl2)、4Dを生成した(278mg、72%)。
【0151】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{(S)−2−[(R)−2−((E)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−フェニル−ペンタン酸(5D)の調製
【化31】

アルゴン雰囲気下の無水メタノール(6mL)中の4D(170mg、0.159mmol)、Pd(PPh34(9mg、0.008mmol)の溶液に、モルホリン(28μL、0.32mmol)を加え、これを3時間撹拌した。該反応混合物を真空下で濃縮し、CH2Cl2(20mL)を添加し、1M HCl(15mL)、飽和炭酸水素ナトリウム(15mL)および飽和食塩水(15mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、真空下で濃縮した。その後シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(5〜8% MeOH/CH2Cl2、その後+0.2% AcOH)、5Dを生成した(130mg、0.13mmol、61%)。
【0152】
(2S,6R,9S,12R,13S)−12−ベンジル−13−ヒドロキシ−6−メチル−2−((E)−4−トリチルスルファニル−ブタ−1−エニル)−9−トリチルスルファニルメチル−1−オキサ−5,8,11−トリアザ−シクロペンタデカン−4,7,10,15−テトラオン(6D)の調製
【化32】

CH2Cl2(20mL)中のMNBA(39mg、0.11mmol)およびDMAP(28mg、0.23mmol)の溶液にCH2Cl2(90mL)中の酸5D(98mg、0.095mmol)の溶液を3時間かけて滴下した。さらに12時間後、該反応混合物をHCl(1M、40mL)、炭酸水素ナトリウム(40ml)および飽和食塩水(40mL)で洗浄した。有機層を合わせてMgSO4上で乾燥し、濾過し、真空下で濃縮して茶色固体を生成した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 30〜60 EtOAc/ヘキサン)、6Dを生成した(42mg、0.04mmol、42%)。
【0153】
(E)−(1S,5S,6R,9S,20R)−6−ベンジル−5−ヒドロキシ−20−メチル−2−オキサ−11,12−ジチア−7,19,22−トリアザ−ビシクロ[7.7.6]ドコサ−15−エン−3,8,18,21−テトラオン(7D)および異性体(7D’)、比率1:1)の調製
【化33】

CH2Cl2/MeOH(9:1、110mL)中のヨウ素(99mg、0.39mmol)の撹拌溶液にCH2Cl2/MeOH(9:1、60mL)中の6D(40mg、0.0039mmol)の溶液を30分間かけて滴下し、次いで該反応混合物をさらに30分間撹拌し、その後チオ硫酸ナトリウム(40mL、0.05M)を加えた。層を分離し、産物をCH2Cl2(3×25ml)で抽出し、MgSO4上で乾燥し、溶媒を真空下で除去した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(1〜5% MeOH/CH2Cl2)、異性体7Dおよび7D’の分離出来ない混合物を生成した(1:1、11mg、0.02mmol、54%)。
【0154】
(3S,4R)−4−{(S)−2−[(R)−2−(9H−フルオレン−9−イルメトキシカルボニルアミノ)−3−フェニル−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−3−ヒドロキシ−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステル(2E)の調製
【化34】

CH3CN(20mL)中の1B(390mg、0.48mmol)の溶液にEt2NH(1mL、5% v/v)を加えた。1時間後、該反応混合物を真空下で濃縮し、粗アミンを生成した。その後、ヘキサン(100mL)を該反応混合物に加え、溶媒を真空下で除去し、これを再びヘキサン(2×25mL)で繰り返した。次いで粗アミンを高真空下で0.5時間乾燥した。0℃のCH3CN/CH2Cl2(1:1、20mL)中のPyBop(360mg、0.69mmol)およびFmoc−D−Phe−OH(260mg、0.67mmol)の溶液にDIEA(0.3mL、3.5mmol)をアルゴン雰囲気下で加えた。CH3CN/CH2Cl2(1:1、10mL)中の粗アミンの溶液を加え、該反応混合物を室温とし、1.5時間撹拌した。次いで溶媒を真空下で除去した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 20〜40% EtOAc/Hex)、2Eを生成した(405mg、0.43mmol、90%)。
【0155】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{(S)−2−[(R)−2−((E)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−3−フェニル−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−フェニル−ペンタン酸アリルエステル(4E)の調製
【化35】

室温のCH2Cl2/CH3CN(1:1、15mL)中の2E(360mg、0.37mmol)の撹拌溶液にEt2NH(0.7mL)を加えた。4時間撹拌後、ヘキサン(20mL)を該反応混合物に加え、次いで溶媒を真空下で除去し、これをヘキサン(2×25mL)で再び繰り返した。次いで粗アミンを高真空下で0.5時間乾燥した。CH2Cl2/CH3CN(1:1、10mL)中の粗アミンの撹拌溶液にCH2Cl2(5mL)中の3(270mg、0.48mmol)の溶液およびDMAP(5mg、0.04mmol)を室温で加えた。室温で12時間撹拌後、溶媒を真空下で除去し、残渣をフラッシュクロマトグラフィーにより精製し(溶出液 20〜35% EtOAc/CH2Cl2)、4Eを生成した(210mg、68%)。
【0156】
(3S,4R)−3−ヒドロキシ−4−{(S)−2−[(R)−2−((E)−(S)−3−ヒドロキシ−7−トリチルスルファニル−ヘプタ−4−エノイルアミノ)−3−フェニル−プロピオニルアミノ]−3−トリチルスルファニル−プロピオニルアミノ}−5−フェニル−ペンタン酸(5E)の調製
【化36】

アルゴン雰囲気下の無水メタノール/CH2Cl2(5:1、6mL)中の4E(210mg、0.184mmol)、Pd(PPh34(21mg、0.018mmol)の溶液に、モルホリン(32μL、0.37mmol)を加え、これを3時間撹拌した。該反応混合物を真空下で濃縮し、CH2Cl2(20mL)を加え、その後1M HCl(15mL)、飽和炭酸水素ナトリウム(15mL)、飽和食塩水(15mL)で洗浄し、MgSO4上で乾燥し、真空下で濃縮した。その後シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(6〜10% MeOH/CH2Cl2)、5Eを生成した(140mg、0.13mmol、69%)。
【0157】
(2S,6R,9S,12R,13S)−6,12−ジベンジル−13−ヒドロキシ−2−((E)−4−トリチルスルファニル−ブタ−1−エニル)−9−トリチルスルファニルメチル−1−オキサ−5,8,11−トリアザ−シクロペンタデカン−4,7,10,15−テトラオン(6E)の調製
【化37】

CH2Cl2(30mL)中のMNBA(45mg、0.12mmol)およびDMAP(32mg、0.26mmol)の溶液にCH2Cl2(120mL)中の酸5E(120mg、0.11mmol)の溶液を3時間かけて滴下した。さらに12時間後、該反応混合物をHCl(1M、40mL)、炭酸水素ナトリウム(40ml)および飽和食塩水(40mL)で洗浄した。有機層を合わせてMgSO4上で乾燥し、真空下で濃縮し、茶色固体を生成した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(30〜50 EtOAc/ヘキサン)、6Eを生成した(45mg、0.04mmol、38%)。
【0158】
(E)−(1S,5S,6R,9S,20R)−6,20−ジベンジル−5−ヒドロキシ−2−オキサ−11,12−ジチア−7,19,22−トリアザ−ビシクロ[7.7.6]ドコサ−15−エン−3,8,18,21−テトラオン(7E)の調製
【化38】

CH2Cl2/MeOH(9:1、120mL)中のヨウ素(71mg、0.28mmol)の撹拌溶液にCH2Cl2/MeOH(9:1、70mL)中の6E(30mg、0.0028mmol)の溶液を30分間かけて滴下し、次いで該反応混合物をさらに30分間撹拌し、その後チオ硫酸ナトリウム(40mL、0.05M)を加えた。層を分離し、水層をCH2Cl2(3×25ml)で抽出した。有機相を合わせてMgSO4で乾燥し、濾過し、溶媒を真空下で除去した。シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーにより精製し(0.5〜4% MeOH/CH2Cl2)、7Eを生成した(15mg、0.025、90%):[α]26D=−0.1(CHCl3,c 0.53)。
【0159】
さらなる本発明の化合物を表1に示す。これらは上記に例示されるものと同一の一般手順により、当業者にとって明白であろう適切な変更を加えて調製された。
【表1】

【0160】
活性アッセイ1
in vitro HDACアッセイを、HDAC蛍光活性アッセイキット(Biomol, UK)を用い、製造者の説明書に従って行った。化合物は分析に先立って還元した;1mMの化合物を、DMSO中の30mM DTTで、一晩、室温で、光から保護し、還元した。次いで、96ウェルプレートでの反応を準備した。各反応用に、10μlの化合物(アッセイバッファー中、5×所要濃度)を、15μlの希釈した(アッセイバッファー中に30倍)Hela核抽出物と混合した。各化合物に対して段階希釈を準備した。Hela抽出物のみおよびアッセイバッファーのみを含んだ反応も準備した。25μlの希釈Fluor de Lys(商標)基質(アッセイバッファー中に100倍)を各反応液に添加し、次いでこれを37℃で1時間インキュベートした。反応を50μlのFluor de Lys(商標)現像剤(アッセイバッファー中に20倍希釈、および100倍希釈のTSA)の添加により停止した。次いで反応液を室温で10分間インキュベートし、蛍光を、CytoFluor II 蛍光マルチウェルプレートリーダーおよびCytoFluor IIソフトウェアを、励起360nM、発光460nMに設定したフィルターとともに用いて測定した。in vitro HDAC活性の阻害を、二重の試料の平均値について、HeLa抽出物のみの反応液に対する百分率として決定した。IC50値をGraphPad Prismソフトウェアを用いて算出した。結果を表2に示す(構造は上記)。
【表2】

【0161】
活性アッセイ2
細胞増殖アッセイを、CyQuant(商標)アッセイシステム(Molecular Probes, Inc. USA)を用い、製造者の説明書に従って行った。MCF7乳癌、A2780卵巣癌、PC3およびLNCAP前立腺癌細胞を96ウェルプレート中に、ウェルあたり100μlの細胞培養液中に、MCF7細胞については1000細胞、またはA2780/PC3/LNCAP細胞については5000細胞の密度でプレートした。化合物を、少なくとも5時間経過後に、細胞培養液中に段階希釈で、100μlの容量、2×最終濃度で添加した。細胞培養液を、4日後(A2780、PC3またはLNCAP細胞)または6日後(MCF7細胞)にプレートを吸取紙上に逆さまに置くことで除去し、細胞を穏やかに200μl PBSで一回洗浄した。ただちにプレートを少なくとも1時間−80℃で凍結し、次いで解凍した。色素を添加した200μlの1×CyQuant細胞溶解バッファーを製造者の説明書に従って調製し、ただちに各ウェルに加えて室温で3〜5分間インキュベートした。その後、蛍光を各ウェルについてCytoFluor II 蛍光マルチウェルプレートリーダーおよびCytoFluor IIソフトウェアを、励起480nM、発光極大520nMのフィルターとともに用いて測定した。細胞増殖を、二重の試料の平均値について、非処理細胞試料(=100%)に対する百分率として決定した。IC50値をGraphPad Prismソフトウェアを用いて算出した。その結果を表3に示す(構造は上記)。
【表3】

【0162】
活性アッセイ3
TNF−α免疫測定を、Quantikine(登録商標)ヒトTNF−αアッセイキット(R&D systems,Abingdon UK)を用いて、製造者の説明書に従って行った。ヒト全血をFicol paque(商標)Plus(GE Healthcare, Amersham, UK)を用いて分離し、PBMCを24ウェルプレート中に、ウェルあたり500μlの細胞培養液中に2.5×106の密度でプレートした。1時間後に化合物を100μlの容量、6×最終濃度で添加した。5時間後、リポポリサッカライド(LSP,Sigma,Poole,UK)を10μlの容量、60×最終濃度で添加し、プレートを混合して、37℃、5%CO2で一晩放置した。プレートを遠心分離にかけ、細胞上清液を新たなプレートに移した。Quantikine(登録商標)アッセイ試薬および標準を、製造者の説明書に従って調製した。Quantikine(登録商標)アッセイプレートを、各ウェルに50μlのアッセイ希釈剤RD1Fを加えることにより調製した。その後200μlの標準、または100μlのキャリブレーター希釈剤(calibrator diluent)および100μl細胞上清を加え;これを2時間室温(RT)でインキュベートした。プレートを、洗浄バッファーを用いて4回洗浄した。最後の洗浄後、プレートを清浄なペーパータオル上で軽くたたいて全ての残存するバッファーを除いた。200μlのTNF−α複合体を各ウェルに加え、1時間RTでインキュベートした。その後プレートを前述同様に洗浄した。所要の量の基質溶液を、光から保護し、等容積の呈色試薬AおよびBを加えることにより調製した。200μlのこの混合物を各ウェルに加え、20分間RTで、光から保護し、インキュベートした。50μlの停止溶液を、基質溶液と同じ順番(order)で各ウェルに加え、プレートをBiorad 680 96ウェルプレートリーダー(Bio−Rad, Hemel Hempstead, UK)上で、450nmにおいて、570nmにおけるλ補正を用いて読み取った。TNF−α量は、二重の試料の平均値について、nmの吸光度を用いて求め、ゼロ点調整値(calibration zero value)を全ての結果から減算して、アッセイ中のキャリブレーター希釈剤の添加に対する補正を行った。結果を表4に示す。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)または(I’)のスピルコスタチン類似体、またはそのアイソスターもしくは医薬的に許容される塩であるスピルコスタチン類似体
【化1】

式中、R1およびR3は同一であっても異なっていてもよく、それぞれアミノ酸側鎖部分を表し;
2およびR4は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’から選択され、ここでLは炭素数1〜6のアルキレン基であり、Aはフェニルまたは5〜6員環ヘテロアリール基であり、各R’は同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキルを表し、各R’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜6のアルキルを表し、各−Het−は同一であっても異なっていてもよく、−O−、−N(R’’’)−および−S−から選択されるヘテロ原子スペーサーであり、各R’’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜4のアルキルを表し;
各R6は同一であっても異なっていてもよく、水素または炭素数1〜4のアルキルを表し;および、
Pr1,Pr2およびPr3は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素または保護基を表し;
ただし、前記類似体はスピルコスタチンAでもスピルコスタチンBでもない。
【請求項2】
スピルコスタチンCでもスピルコスタチンDでもない、請求項1記載の類似体。
【請求項3】
式(I’)の化合物においてR1、R2、R3、R4およびR6全てが同一であるものではない、請求項1記載の類似体。
【請求項4】
式(I)である、請求項1記載の類似体。
【請求項5】
上記いずれかの請求項に記載の類似体であって、R1が−(炭素数1〜4のアルキル)−A’、またはR3が−炭素数2〜4のアルキルもしくは−(炭素数1〜4のアルキル)−A’’であり、A’またはA’’が炭素数6〜10のアリール基または5〜10員環ヘテロアリール基である類似体。
【請求項6】
A’がフェニルであり、かつ、A’’がフェニル、インドリルまたはt−ブトキシカルボニルインドリルである、請求項5記載の類似体。
【請求項7】
上記いずれかの請求項に記載の類似体であって、R1、R2、R3およびR4は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ−H、−炭素数1〜6のアルキル、−炭素数2〜6のアルケニル、−L−O−C(O)−R’、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’、−L−Het−C(O)−Het−R’’および−L−Het−R’’より選択され、ここでLは炭素数1〜6のアルキレン基であり、Aはフェニルまたは5〜6員環ヘテロアリール基であり、各R’は同一であっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のアルキルを表し、各R’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜6のアルキルを表し、各−Het−は同一であっても異なっていてもよく、−O−、−N(R’’’)−および−S−から選択されるヘテロ原子スペーサーであり、各R’’’は同一であっても異なっていてもよく、Hまたは炭素数1〜4のアルキルを表す、類似体。
【請求項8】
Aがフェニルである、請求項7記載の類似体。
【請求項9】
−Het−が−O−または−NR’’’である、請求項7または請求項8記載の類似体。
【請求項10】
1が−Hおよび−炭素数1〜6のアルキルより選択される、請求項7〜9のいずれかに記載の類似体。
【請求項11】
3が−H、−炭素数1〜6のアルキル、−L−C(O)−O−R’’、−L−A、−L−NR’’R’’および−L−N(R’’)−C(O)−O−R’’より選択される、請求項7〜10のいずれかに記載の類似体。
【請求項12】
各アミノ酸側鎖が天然アミノ酸中に存在するものであるか、または−(CH22−C(O)−O−C(CH33、−(CH24−NH−C(O)−O−C(CH33、−(CH23−NH−C(O)NH2、−CH2−CH2OHもしくは−(CH22−CH2NH2である、請求項1〜6のいずれかに記載の類似体。
【請求項13】
2が−Hおよび−炭素数1〜4のアルキルより選択される、上記いずれかの請求項に記載の類似体。
【請求項14】
4が−Hおよび−炭素数1〜4のアルキルより選択される、上記いずれかの請求項に記載の類似体。
【請求項15】
6が−Hである、上記いずれかの請求項に記載の類似体。
【請求項16】
上記いずれかの請求項に記載の類似体であって、ここでPr1、Pr2およびPr3は同一であっても異なっていてもよく、−H;ならびに、炭素数1〜6のアルコキシ、炭素数1〜6のアシルオキシ、ヒドロキシまたはニトロ、ピコリル、ピコリル−N−オキシド、アントリルメチル、ジフェニルメチル、フェニル、t−ブチル、アダマンチル、炭素数1〜6のアシルオキシメチル、炭素数1〜6のアルコキシメチル、テトラヒドロピラニル、ベンジルチオメチル、フェニルチオメチル、チアゾリジン、アセトアミドメチル、ベンズアミドメチル、第3級ブトキシカルボニル(BOC)、アセチルおよびその誘導体、ベンゾイルおよびその誘導体、カルバモイル、フェニルカルバモイルおよび炭素数1〜6のアルキルカルバモイルによって所望によって置換されていてもよいベンジル基より選択される保護基;から選択される類似体。
【請求項17】
Pr1およびPr2がそれぞれ−Hである、請求項16記載の類似体。
【請求項18】
Pr3が−Hである、上記いずれかの請求項に記載の類似体。
【請求項19】
式(2)、(2’)、(3)、(3’)、(4)、(4’)、(5)、(5’)、(6)、(6’)(7)、(7’)、(8)、(8’)、(9)、(9’)、(9’’)、(9’’’)、(10)、(10’)、(11)、(11’)、(12)、(12’’)、(13)、(13’)、(14)、(14’)、(14’’)、(14’’’)、(14’’’’)または(14’’’’’)の化合物である、請求項1記載の類似体。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【請求項20】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)により媒介される状態の治療または予防に使用される、上記いずれかの請求項に記載の類似体。
【請求項21】
前記状態が癌、心肥大、慢性心不全、炎症状態、循環器疾患、異常血色素症、サラセミア、鎌状赤血球病、CNS障害、自己免疫疾患、糖尿病、骨粗しょう症、MDS、良性前立腺肥大、子宮内膜症、口腔白板症、遺伝に関連した代謝障害、感染、Rubens−Taybi、脆弱X症候群、またはα−1アンチトリプシン欠乏症である、請求項20記載の類似体。
【請求項22】
前記状態が慢性リンパ球性白血病、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、中皮腫、T細胞リンパ腫、心肥大、慢性心不全または皮膚炎症状態、特に乾癬、座瘡または湿疹である、請求項20または請求項21記載の使用。
【請求項23】
創傷治癒を促進するため、毛包を保護するため、または免疫抑制剤として使用される、請求項1〜19のいずれかに記載類似体。
【請求項24】
請求項1〜20のいずれかに記載のスピルコスタチン類似体と、医薬的に許容される担体または希釈剤と、を含む医薬組成物。
【請求項25】
経口、経腸、非経口、鼻腔内もしくは経皮投与、または吸入もしくは坐剤による投与に適した形態である、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
顆粒剤または錠剤、例えば舌下錠、カプセル剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁剤、または分散可能な粉末剤の形態である、請求項25記載の組成物。
【請求項27】
HDACに媒介される状態の治療または予防において用いる薬物の製造における、請求項1〜19のいずれかに記載の類似体の使用。
【請求項28】
前記状態が請求項20〜22のいずれかに規定されたものである、請求項26記載の使用。
【請求項29】
(a)請求項1〜19のいずれかに記載のスピルコスタチン類似体と、(b)他のHDAC阻害剤と、を含む、HDACにより媒介される状態の治療または予防において、同時に、別々に、または順次使用される製品。
【請求項30】
(a)請求項1〜19のいずれかに記載のスピルコスタチン類似体と、(b)他の化学療法薬または抗腫瘍薬と、を含む、癌の治療または予防において、同時に、別々に、または順次使用される製品。
【請求項31】
スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)が示すものと少なくとも同等のHDAC阻害活性を有する化合物を選択する方法であって、請求項1〜19のいずれかに規定される式(I)または(I’)の化合物を、
(i) 式(VI)の化合物を式(VII)の化合物と反応させ
【化6】

式中、R1およびR2は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、R7は炭素数1〜4のアルキルまたは炭素数2〜4のアルケニルであり、Yはアミノ保護基であり;
(ii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(VIII)の化合物と反応させ
【化7】

式中、Y’はアミノ保護基であり、Y’’は水素または保護基であり;
(iii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(IX)の化合物と反応させ
【化8】

式中、R3は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、Y’’’はアミノ保護基であり;
(iv) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(X)の化合物と反応させ
【化9】

式中、R4は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、R5は水素またはヒドロキシ保護基であり、LGは脱離基であり、Y’’’’は水素または保護基であり;
(v) このようにして得られた中間体上のβ−ヒドロキシ基を所望によっては脱保護してR5保護基を除去してそれをHに置換し;
(vi) このようにして得られた中間体を加水分解および環化し;
(vii) このようにして得られた中間体を所望によっては反応させてジスルフィド結合形成を生じさせ、および、ジスルフィド結合が形成される場合には、このようにして得られた化合物内のジスルフィド結合を所望によっては開裂させ、および、このようにして得られた化合物がチオール基を有する場合には、所望によってはチオール保護基を導入し;及び、
(viii) このようにして得られた化合物をスクリーニングしてそのHDAC阻害剤としての活性を測定すること;
によって、調製することを含む方法。
【請求項32】
請求項31記載の方法であって、工程(viii)において前記スクリーニング工程はin vitro HDACアッセイであり、前記アッセイは被験化合物およびSAHAを、各種濃度で、希釈したHela核抽出物と接触させ、Hela核抽出物に対する被験化合物のIC50とSAHAのIC50とを決定することを含む、方法。
【請求項33】
SAHAが示すものと少なくとも同等のヒト癌細胞増殖阻害活性を有する化合物を選択するための方法であって、請求項1〜19のいずれかに規定される式(I)または(I’)の化合物を、
(i) 式(VI)の化合物を式(VII)の化合物と反応させ
【化10】

式中、R1およびR2は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、R7は炭素数1〜4のアルキルまたは炭素数2〜4のアルケニルであり、Yはアミノ保護基であり;
(ii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(VIII)の化合物と反応させ
【化11】

式中、Y’はアミノ保護基であり、Y’’は水素または保護基であり;
(iii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(IX)の化合物と反応させ
【化12】

式中、R3は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、Y’’’はアミノ保護基であり;
(iv) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(X)の化合物と反応させ
【化13】

式中、R4は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、R5は水素またはヒドロキシ保護基であり、LGは脱離基であり、Y’’’’は水素または保護基であり;
(v) このようにして得られた中間体上のβ−ヒドロキシ基を所望によっては脱保護してR5保護基を除去してそれをHに置換し;
(vi) このようにして得られた中間体を加水分解および環化し;
(vii) このようにして得られた中間体を所望によっては反応させてジスルフィド結合形成を生じさせ、及び、ジスルフィド結合が形成される場合には、このようにして得られた化合物内のジスルフィド結合を所望によっては開裂させ、および、このようにして得られた化合物がチオール基を有する場合には、所望によってはチオール保護基を導入し;および、
(viii) このようにして得られた化合物をスクリーニングしてそのヒト癌細胞増殖阻害剤としての活性を測定すること;
によって、調製することを含む方法。
【請求項34】
請求項33記載の方法であって、工程(viii)において前記スクリーニング工程はin vitroアッセイであり、前記アッセイは被験化合物およびSAHAを、各種濃度で、MCF7乳癌、HUT78 T細胞白血病、A2780卵巣癌、PC3またはLNCAP前立腺癌細胞株と接触させ、前記細胞株に対する被験化合物のIC50とSAHAのIC50とを測定することを含む、方法。
【請求項35】
SAHAが示すものと少なくとも同等の抗炎症活性を有する化合物を選択するための方法であって、請求項1〜19のいずれかに規定される式(I)または(I’)の化合物を、
(i) 式(VI)の化合物を式(VII)の化合物と反応させ
【化14】

式中、R1およびR2は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、R7は炭素数1〜4のアルキルまたは炭素数2〜4のアルケニルであり、Yはアミノ保護基であり;
(ii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(VIII)の化合物と反応させ
【化15】

式中、Y’はアミノ保護基であり、Y’’は水素または保護基であり;
(iii) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(IX)の化合物と反応させ
【化16】

式中、R3は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、Y’’’はアミノ保護基であり;
(iv) このようにして得られた中間体を脱保護し、それを式(X)の化合物と反応させ
【化17】

式中、R4は上記請求項のいずれか1項に規定される通りであり、R5は水素またはヒドロキシ保護基であり、LGは脱離基であり、Y’’’’は水素または保護基であり;
(v) このようにして得られた中間体上のβ−ヒドロキシ基を所望によっては脱保護してR5保護基を除去してそれをHに置換し;
(vi) このようにして得られた中間体を加水分解および環化し;
(vii) このようにして得られた中間体を所望によっては反応させてジスルフィド結合形成を達成し、および、ジスルフィド結合が形成される場合には、このようにして得られた化合物内のジスルフィド結合を所望によっては開裂させ、また、このようにして得られた化合物がチオール基を有する場合には、所望によってはチオール保護基を導入し;そして、
(viii) このようにして得られた化合物をスクリーニングしてその抗炎症活性を測定すること;
によって調製することを含む方法。
【請求項36】
請求項35記載の方法であって、工程(viii)において前記スクリーニング工程はアッセイであり、前記アッセイは、末梢血単核球(PBMC)からのTNFαの産生の阻害における化合物の活性を、SAHAとの比較において測定することを含む、方法。

【公表番号】特表2010−510302(P2010−510302A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537705(P2009−537705)
【出願日】平成19年11月23日(2007.11.23)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050709
【国際公開番号】WO2008/062232
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(505093736)ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン (6)
【Fターム(参考)】