デュアルクラッチ式自動変速機
【課題】車両の減速時により低い変速段の変速する際において、良好な変速フィーリングを得ることが可能なデュアルクラッチ式自動変速機を提供する。
【解決手段】減速時クラッチ係合力抑制手段は、車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合の「係合制御」において、係合される側のクラッチのクラッチアクチュエータを制御することにより、「離脱制御」が完了した後においても、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸と駆動軸の回転が同期するまで、係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する。
【解決手段】減速時クラッチ係合力抑制手段は、車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合の「係合制御」において、係合される側のクラッチのクラッチアクチュエータを制御することにより、「離脱制御」が完了した後においても、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸と駆動軸の回転が同期するまで、係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのクラッチを備えるデュアルクラッチ式自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動変速機の1つに、特許文献1に示されるようなデュアルクラッチ式自動変速機が普及しつつある。このようなデュアルクラッチ式自動変速機は、奇数段と偶数段の2系統に分かれた変速機構を有し、それぞれの変速機構にエンジンからの回転駆動力を離脱係合するクラッチを有している。このデュアルクラッチ式自動変速機では、車両の走行中に、回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速段を予め成立(プレシフト)させておき、変速指令が発せられた場合に、前記変速機構側のクラッチに繋ぎ替えることにより高速な変速を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−144872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のデュアルクラッチ式自動変速機では、現在走行中の変速段からより低い変速段に変速する際、つまり、現在走行中のクラッチからより低い変速段が成立されている変速機構側のクラッチに繋ぎ替える際に、前記繋ぎ替えられる側のクラッチが、高い変速比の変速段に繋がれるため、エンジンの回転数が急激に上昇する。そして、エンジンの回転数の急激な上昇により、エンジンの回転抵抗が急激に増大するとともに、増大したエンジンの回転抵抗が駆動輪に伝達される。このため、車両が急激に減速されることによる変速ショックが発生し、良好な変速フィーリングを得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の減速時により低い変速段の変速する際において、良好な変速フィーリングを得ることが可能なデュアルクラッチ式自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、車両に搭載されたエンジンの回転駆動力が伝達される駆動軸と、同心に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、前記駆動軸と前記第1入力軸とを離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸と前記第2入力軸とを離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うクラッチアクチュエータと、前記駆動輪に回転駆動力を伝達する出力部材と、前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材を有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記複数の奇数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材を有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記複数の偶数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、変速指令が発せられると、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸から離脱される入力軸に対応するクラッチを離脱状態にする離脱制御を行うとともに、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸と係合される入力軸に対応するクラッチ係合させる係合制御を行うことにより変速を実行する制御部と、を備え、
前記制御部に、前記車両の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報を、前記車速検出手段で検出された前記車両の車速の変化に基づき算出する将来車速情報算出手段と、前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報を、前記減速時将来車速情報に基づき算出する将来入力軸回転数情報算出手段と、前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の前記入力軸に前記駆動軸を同期させるための目標となる前記エンジンの回転数である目標エンジン回転数を、前記将来入力軸回転数情報算出手段によって算出された前記減速時将来入力軸回転数情報の前記入力軸の回転数以下となり、且つ、前記エンジンのフューエルカット下限回転数より高い回転数となるように算出する目標エンジン回転数算出手段と、前記車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合に、前記係合制御において、前記エンジン回転数検出手段によって検出される前記エンジンの回転数が前記目標エンジン回転数のエンジン回転数となるように、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記離脱制御が完了した後においても、前記入力軸と前記駆動軸の回転が同期するまで、前記係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する減速時クラッチ係合力抑制手段と、を設けたことである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記目標エンジン回転数算出手段は、前記減速時将来入力軸回転数情報に基づき、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数が前記フューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻を算出し、前記変速後フューエルカット終了時刻から、前記変速指令が発せられた時から前記係合制御が開始されるまでの係合応答遅れ時間だけ前の時刻を算出することにより、前記係合制御における前記入力軸と前記駆動軸との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻を算出し、前記同期完了目標時刻と前記減速時将来入力軸回転数情報に基づいて、前記同期完了時における目標エンジン回転数を算出することである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によると、減速時クラッチ係合力抑制手段は、車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合に、係合制御において、クラッチアクチュエータを制御することにより、離脱制御が完了した後においても、入力軸と駆動軸の回転が同期するまで、係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する。このように、離脱制御が完了した後においても、入力軸と駆動軸の回転が同期するまで、係合される側のクラッチの係合力が抑制された状態が維持される。このため、離脱制御の完了と同時に係合制御が完了する従来のデュアルクラッチ式自動変速機と比較して、エンジンの回転上昇が抑制される。これにより、減速中の車両がより低い変速段に変速する際における係合制御において、エンジンの回転数の上昇が抑制されることにより、エンジンの回転抵抗が減少する。また、クラッチの係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジンの回転抵抗の駆動輪への伝達が抑制される。このように、エンジンの回転抵抗自体が減少すること、及びエンジンの回転抵抗の駆動輪への伝達が抑制されることから、車両の減速時により低い変速段の変速する際において、車両の急激な減速が緩和され、良好な変速フィーリングを得ることができる。
【0009】
また、請求項1に係る発明によると、エンジン回転数検出手段はエンジンの回転数を検出し、目標エンジン回転数算出手段は車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の入力軸に駆動軸を同期させるための目標エンジン回転数を算出する。そして、減速時クラッチ係合力抑制手段は、エンジン回転数検出手段によって検出されるエンジンの回転数が目標エンジン回転数のエンジン回転数となるように、クラッチアクチュエータを制御する。このように、目標エンジン回転数が算出され、エンジンの回転数が目標エンジン回転数となるように制御されるので、より精度高く係合制御時におけるエンジンの回転数の上昇を制御することが可能となる。
【0010】
また、請求項1に係る発明によると、車速検出手段は車両の車速を検出し、将来車速情報算出手段は、車両の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報を、車速検出手段で検出された前記車両の車速の変化に基づき算出する。そして、将来入力軸回転数情報算出手段は、車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報を、減速時将来車速情報に基づき算出する。そして、目標エンジン回転数算出手段は、目標エンジン回転数を、前記減速時将来入力軸回転数情報のエンジン回転数以下となるように算出する。これにより、減速中の車両がより低い変速段に変速する際における係合制御において、従来のデュアルクラッチ式自動変速機と比較して、確実にエンジンの回転数が低くなる目標エンジン回転数が算出される。このため、前記係合制御において、エンジンの回転数の上昇が抑制され、エンジンの回転抵抗が減少する。
【0011】
また、請求項1に係る発明によると、目標エンジン回転数算出手段は、エンジンのフューエルカット下限回転数より高い回転数を目標エンジン回転数として算出する。これにより、係合制御が行われている間、常にフューエルカットが実行され、燃料が無駄に消費されない。
【0012】
また、請求項2に係る発明によると、目標エンジン回転数算出手段は、減速時将来入力軸回転数情報に基づき、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数がフューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻を算出する。次に、目標エンジン回転数算出手段は、フューエルカット終了時刻よりも、変速指令が発せられた時から前記係合制御が開始されるまでの係合応答遅れ時間だけ前の時刻を算出することにより、前記係合制御における前記入力軸と前記駆動軸との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻を算出する。次に、目標エンジン回転数算出手段は、前記同期完了目標時刻と前記減速時将来入力軸回転情報に基づいて、前記同期完了時における目標エンジン回転数を算出する。これにより、車両の減速時における係合制御において、フューエルカットが維持される限度において、エンジンの回転の上昇を最大限抑制することができる目標エンジン回転数を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機を装備した車両を模式的に説明した説明図である。
【図2】本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機の全体構成を説明するスケルトン図である。
【図3】本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機のデュアルクラッチを模式的に説明する断面図であって、第1クラッチが係合している状態を示している。
【図4】横軸を車速、縦軸をアクセル開度としたグラフであり、デュアルクラッチ式自動変速機の変速マップデータを表したグラフである。
【図5】デュアルクラッチの第1及び第2クラッチの伝達トルクとストロークとの関係を示すグラフである。
【図6】デュアルクラッチの繋ぎ替え時における、経過時間とクラッチ伝達トルクとの関係を表したグラフである。
【図7】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである減速時変速制御開始・終了処理のフローチャートである。
【図8】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである減速時将来入力軸情報算出処理のフローチャートである。
【図9】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである目標エンジン回転数情報算出処理のフローチャートである。
【図10】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである減速時変速制御処理のフローチャートである。
【図11】将来の時刻FTの時間軸を横軸とし、各種回転数を縦軸とした座標における、将来の時刻FTと、減速時将来入力軸回転数FN1、減速時将来入力軸回転数FN2、目標エンジン回転数情報TNe、クラッチ伝達トルクTc、及び車両加速度との関係を表したグラフである。
【図12】図11を拡大したグラフであり、将来の時刻FTの時間軸を横軸とし、各種回転数を縦軸とした座標における、将来の時刻FTと、減速時将来入力軸回転数FN1、減速時将来入力軸回転数FN2、及び、目標エンジン回転数情報TNeとの関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図12に基づき、本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機120(以下、自動変速機120と略す)について説明する。本実施形態は、FFタイプ(フロントエンジン・フロントドライブ方式)の車両100に自動変速機120を装備した実施形態である。
【0015】
<実施形態>
(車両全体の構成)
図1に示されように、本実施形態の車両100は、エンジン110、自動変速機120を有している。エンジン110は、車両100に搭載され、駆動輪である左前輪TFL及び右前輪TFRに付与される回転駆動力を生成する。エンジン110が生成した回転駆動力は、自動変速機120を介して左前輪TFL及び右前輪TFRに伝達される。
【0016】
車両100は、アクセルペダル150、アクセルペダル150のアクセル開度Aを検出するアクセル開度センサ151を有している。図1や図2に示される駆動軸11には、エンジン110の回転駆動力が伝達される。自動変速機120は、エンジン110の回転数(駆動軸11の回転数)であるエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数検出センサ121を備えている。
【0017】
ECU(Engine Control Unit)111は、アクセル開度A、エンジン回転数Neからなる車両情報を取得している。そして、ECU111は、これらの車両情報に基づいて、スロットル開度や燃料噴射量を調整してエンジン110の出力(回転駆動力)を制御する。
【0018】
車両100は、第1入力軸21の第1入力軸回転数N1を検出する第1入力軸回転数検出センサ125、第2入力軸22の第1入力軸回転数N1を検出する第2入力軸回転数検出センサ126(図2示)を備えている。第1入力軸回転数N1、第2入力軸回転数N2は、TCU140に入力される。また、車両100は、シフトレバー160、シフトレバー160の位置を検出するシフト位置検出センサ161を備えている。運転者は、シフトレバー160を操作することによって、自動変速機120の変速段(ギヤ位置)を自動又は手動で選択することができる。運転者がシフトレバー160を操作したときシフト位置の情報は、シフト位置検出センサ161によって検出され、TCU140に入力される。車両100は、前左右の2つの車輪TFL、TFRのそれぞれの車輪速度を検出する車速センサFL、FR(車速検出手段)を備えている。
【0019】
TCU(Transmission Control Unit)140は、自動変速機120の統合制御を行うものである。TCU140とECU111とは、CAN(Controller Area Network)によって相互に通信可能となっている。アクセル開度A、エンジン回転数Neからなる車両情報は、ECU111を介して、TCU140に入力されるようになっている。TCU140は、CPU、記憶装置、入出力インターフェース(図略)を有している。なお、TCU140は、特許請求の範囲に記載の「制御部」、「減速時クラッチ係合力抑制手段」、「将来車速情報算出手段」、「将来入力軸回転数情報算出手段」、「目標エンジン回転数算出手段」に相当し得るものである。CPUは、TCU140を制御する中央演算処理装置で、システムバス(図略)を介して記憶装置や入出力インターフェースに接続されている。
【0020】
記憶装置は、いわゆるRAM、ROM、不揮発性メモリ等の記憶装置で、図略のシステムバスを介してCPUに接続されている。ROMや不揮発性メモリには、CPUを制御するシステムプログラムのほかに、図4に示される「変速マップデータ」、後述の車速検出部140a(車速検出手段)、将来車速情報算出部140b(将来車速情報算出手段)、将来入力軸回転数情報算出部140c(将来入力軸回転数情報算出手段)、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)、変速制御部140e、後述する「減速時変速制御開始・終了処理」(図7示)、「減速時将来入力軸情報算出処理」(図8示)、「目標エンジン回転数情報算出処理」(図9示)、「減速時変速制御処理」(図10示)の実行を可能にする各種制御プログラムが格納されている。RAMは、前記プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。入出力インターフェースは、シフト位置検出センサ161、車速センサFL、FR、第1入力軸回転数検出センサ125、第2入力軸回転数検出センサ126、及び、ECU111とCPUとのデータの入出力を仲介する装置で、システムバスに接続されている。
【0021】
車速検出部140a(車速検出手段)には、左前輪車速センサFL(車速検出手段)で検出した左前輪TFLの車輪速度VFL、右前輪車速センサFR(車速検出手段)で検出した右前輪TFRの車輪速度VFRが入力される。そして、車速検出部140aは、車輪速度VFL、VFRを平均して車両100の車速Vを算出する。なお、左後輪TRLの車輪速度VRLや右後輪TRRの車輪速度VRRを検出する車速センサを設け、車速検出部140aが、これら車輪速度VRL、VRRを平均し、或いは、車輪速度VFL、VFR、VRL、VRRを平均して車速Vを算出することにして差し支え無い。或いは、出力軸25等の出力部材の回転速度を検出する回転速度センサを設け、車速検出部140aが、前記回転速度センサで検出された出力部材の回転速度に基づき、車速Vを算出することにしても差し支え無い。算出された車速VはTCU140の記憶装置に記憶される。
【0022】
(デュアルクラッチ式自動変速機の説明)
TCU140の動作については後ほど詳述することとし、まずは、図2及び図3に基づいて、自動変速機120の全体構成について説明する。図2に示される自動変速機120は、前進7段、後進1段のFFタイプのデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)である。自動変速機120は、図示しないケースに回転可能に指示された回転軸である第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸23、第2副軸24、及び、出力軸25(出力部材)を有している。出力軸25は、デファレンシャルギヤ(図示省略)に回転駆動力を伝達する。そして、デファレンシャルギヤは、駆動輪TFL、TFRに回転駆動力を伝達する。本実施形態では、エンジン110からの回転駆動力を駆動輪TFL、TFRに伝達する出力部材は、出力軸25及びデファレンシャルギヤとから構成されているが、出力軸25を有さず、第1副軸23、第2副軸24に伝達された回転駆動力が直接デファレンシャルヤに伝達され、デファレンシャルギヤが出力部材である実施形態であっても差し支え無い。
【0023】
第2入力軸22は、筒状に形成されており、第1入力軸21を同軸的に囲んで、第1入力軸21に対して相対回転可能に同心に設けられている。ここで、第1入力軸21の車両左側(図2中左方)の端部は、第2入力軸22の車両左側の端部よりも突出する長さに形成されている。第1副軸23、第2副軸24、及び、出力軸25は、両入力軸21、22に対して平行に配置されている。
【0024】
自動変速機120の車両右側(図2中右方)には、エンジン110の駆動軸11により回転駆動されるデュアルクラッチ50が配設されている。デュアルクラッチ50は、摩擦クラッチである第1クラッチ51と第2クラッチ52とを備えている。第1クラッチ51の入力側と第2クラッチ52の入力側は、それぞれ駆動軸11と連結されている。そして、第1クラッチ51の出力側は、第1入力軸21に連結されており、第2クラッチ52の出力側は、第2入力軸22に連結されている。第1クラッチ51は、駆動軸11と第1入力軸21とを離脱・係合するものである。第2クラッチ52は、駆動軸11と第2入力軸22とを離脱・係合するものである。
【0025】
第1クラッチ51は、TCU140の変速制御部140eからの指令(「変速指令」)に基づいて、第1クラッチアクチュエータ61(図3示)の動作量が制御されることにより、離脱及びその係合量であるクラッチ伝達トルクTc1(図5示)が制御される。そして、第1クラッチ51は、係合状態において、駆動軸11に伝達された回転駆動力を第1入力軸21に伝達する。また、第2クラッチ52は、TCU140の変速制御部140eからの指令(「変速指令」)に基づいて、第2クラッチアクチュエータ62(図3示)の動作量が制御されることにより、離脱及び係合量であるクラッチ伝達トルクTc2(図5示)が制御される。そして、第2クラッチ52は、係合状態において、駆動軸11に伝達された回転駆動力を第2入力軸22に伝達する。
【0026】
(デュアルクラッチの詳細構造の説明)
図3を用いて、デュアルクラッチ50の詳細構造について説明する。デュアルクラッチ50は、第1クラッチ51、第2クラッチ52の他に、センタープレート55を有している。第1クラッチ51は、第1クラッチディスク51a、第1プレッシャプレート51b、第1ダイアフラムスプリング51cを有している。第2クラッチ52は、第2クラッチディスク52a、第2プレッシャプレート52b、第2ダイアフラムスプリング52cを有している。第1クラッチディスク51aは、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク52aは、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
【0027】
センタープレート55は、第1クラッチディスク51aと第2クラッチディスク52aとの間にその面が第1、第2クラッチディスク51a、52aの面と平行に対向して配置されている。センタープレート55は、第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられ、駆動軸11に連結されて、駆動軸11と一体に回転する。
【0028】
第1、第2プレッシャプレート51b、52bは、センタープレート55との間で、それぞれ第1、第2クラッチディスク51a、52aを挟持し、第1、第2クラッチディスク51a、52aを圧着可能に配置されている。
【0029】
第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cは、所謂皿バネの一種で、円環状に形成され、その外縁部から軸心に向かってその厚さ方向に傾斜する複数のダイヤフラムが形成されている。第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cは、その複数のダイヤフラムにより、その厚さ方向に付勢力を発生する。第1ダイアフラムスプリング51cは、センタープレート55を挟んで、入力軸方向に第1プレッシャプレート51bと反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング51cの外径部と第1プレッシャプレート51bとは円筒状の連結部51dによって連結されている。また第1ダイアフラムスプリング51cは、センタープレート55から延在している腕部55aの先端部に支持されている。
【0030】
第1クラッチアクチュエータ61の非作動時には、第1ダイアフラムスプリング51cの付勢力によって、連結部51dがエンジン110側に付勢され、第1プレッシャプレート51bが第1クラッチディスク51aから離間している。
【0031】
一方で、第1クラッチアクチュエータ61の作動により、第1ダイアフラムスプリング51cの内径部がエンジン110側に向かって押圧されると、第1ダイアフラムスプリング51cの外径部のエンジン110方向への付勢力は減衰する。それとともに、センタープレート55から延在している腕部55aの先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング51cの外径部は、エンジン110とは反対方向に移動される。これによって第1プレッシャプレート51bは、第1クラッチディスク51a方向に移動し、やがてセンタープレート55との間で第1クラッチディスク51aを挟持して圧着する。そして完全に係合してエンジン110の回転駆動力が第1入力軸21に伝達される(図3示)。
【0032】
また、第2ダイアフラムスプリング52cは、センタープレート55の腕部55aのエンジン110側に配置され、第2プレッシャプレート52bを挟んで、入力軸方向に第2クラッチディスク52aと反対側に配置されている。通常時においては、第2プレッシャプレート52bと第2クラッチディスク52aとは離間していて互いに圧着されない(図3示)。
【0033】
そして、第2ダイアフラムスプリング52cの内径部がエンジン110側に向かって押圧されると、腕部55aに接触する第2ダイアフラムスプリング52cの外径部を支点として、第2プレッシャプレート52bが第2ダイアフラムスプリング52cに押されて第2クラッチディスク52a方向に移動し、やがてセンタープレート55との間で第2クラッチディスク52aを挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン110の回転駆動力が第2入力軸22に伝達される。
【0034】
上述した第1ダイアフラムスプリング51cの内径部、及び、第2ダイアフラムスプリング52cの内径部の押圧は、それぞれ、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62によって行われる。第1、第2クラッチアクチュエータ61、62は、それぞれ電動モータ61a、62a、ロッド61b、62b、伝達部61c、62c、ストロークセンサ61d、62d、第1、第2ドライバ61e、62eを有している。
【0035】
電動モータ61a、62aは、それぞれ、第1、第2ドライバ61e、62eから供給される駆動電流により回転する。第1、第2ドライバ61e、62eは、変速制御部140eから出力される指令(「変速指令」)に基づき、電動モータ61a、62aに駆動電流を供給する。電動モータ61a、62aが回転すると、図示しない動力伝達機構により、ロッド61b、62bは、直線運動(進退動)する。なお、動力伝達機構には、ボールネジ、ウォームギヤ及びウォームホイール、ラック・アンド・ピニオン等が含まれる。伝達部61c、62cは、それぞれ、ロッド61b、62bの先端に形成され、第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cの内径部と当接し、ロッド61b、62bの直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cの内径部に伝達する。
【0036】
ストロークセンサ61d、62dは、ロッド61b、62bの直線運動のストロークL1、L2(動作量)を検出する。そして、ストロークセンサ61d、62dにより検出されたロッド61b、62bの直線運動のストロークL1、L2(クラッチ伝達トルクTc1、Tc2に関する情報)は、図1に示されるように、TCU140の変速制御部140eに出力される。
【0037】
図5に示されるように、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62の各ストロークL1、L2が増大するにつれて、第1、第2クラッチ51、52のそれぞれ第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2は増大する。なお、第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2とは、それぞれ、第1、第2クラッチ51、52による係合力のことを言い、第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2が最大(Tc max)の場合には、駆動軸11とそれぞれ第1入力軸21、第2入力軸22が完全に係合し直結状態となる。変速制御部140eは、ストロークセンサ61d、62dから入力されるストロークL1、L2に基づき、電動モータ61a、62aに供給される駆動電流を調整する指令(「変速指令」)を第1、第2ドライバ61e、62eに出力し、所望の第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2となるように、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62のストロークL1、L2を制御する。
【0038】
(デュアルクラッチ式自動変速機の詳細構造の説明)
次に、図2に戻って、自動変速機120の詳細構造について説明する。
自動変速機120は、第1入力軸21と出力軸25との間に設けられた第1変速機構A30−1、B30−2、第2入力軸22と出力軸25との間に設けられた第2変速機構A30−3、B30−4、第1副軸23と出力軸25とを連結する第1リダクションギヤ列39b、39cと、第2副軸24と出力軸25とを連結する第2リダクションギヤ列39a、39cを備えている。
【0039】
第1変速機構A30−1、B30−2は、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速ギヤ列31a、31b、33a、33b、35a、35b、37a、37b(奇数段変速部材)と、これら複数の奇数段ギヤ列から1つの奇数段ギヤ列を選択する第1選択機構A40−1、B40−2とから構成されている。
【0040】
第1変速機構A30−1は、第1速ギヤ列31a、31bと、第3速ギヤ列33a、33bと、第1選択機構A40−1とから構成されている。第1速ギヤ列31a、31bは、第1入力軸21に固定された第1速駆動ギヤ31aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第1速従動ギヤ31bとから構成されている。第3速ギヤ列33a、33bは、第1入力軸21に固定された第3速駆動ギヤ33aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第3速従動ギヤ33bとから構成されている。
【0041】
第1選択機構A40−1は、クラッチハブLと、第1速係合部材S1と、第3速係合部材S3と、シンクロナイザリングOと、スリーブMとにから構成されている。クラッチハブLは、第1速従動ギヤ31bと第3速従動ギヤ33bとの軸方向間となる第1副軸23にスプライン固定されている。第1速係合部材S1及び第3速係合部材S3は、第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bのそれぞれに、例えば圧入などにより固定されている。シンクロナイザリングOは、クラッチハブLと軸方向両側の各係合部材S1、S3との間にそれぞれ介在されている。スリーブMは、クラッチハブLの外周に軸方向移動自在にスプライン係合されている。
【0042】
この第1選択機構A40−1は、第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bの一方と第1副軸23との係合を可能とし、かつ、第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bの両者を第1副軸23に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0043】
第1選択機構A40−1は、シフトフォークNを移動させるシフトアクチュエータ(図示せず)を備えている。シフトアクチュエータには、電気モータや油圧により駆動されるアクチュエータが含まれる。変速制御部140eがシフトアクチュエータに後述の「シフト指令」を出力すると、シフトアクチュエータはシフトフォークNを第1速従動ギヤ31b又は第3速従動ギヤ33bのいずれかの方向に移動させる。
【0044】
第1選択機構A40−1のスリーブMは、中立位置ではいずれの係合部材S1、S3とも係合されていない。シフトフォークNによりスリーブMが第1速従動ギヤ31b側にシフトされれば、スリーブMは、まずそちら側のシンクロナイザリングOにスプライン係合して第1副軸23と第1速従動ギヤ31bとの回転を同期させ、次いで第1速係合部材S1の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸23と第1速従動ギヤ31bとを一体的に連結して第1速段を形成する。また、シフトフォークNによりスリーブMが第3速従動ギヤ33b側にシフトされれば、同様にして第1副軸23と第3速従動ギヤ33bとの回転を同期させた後に、この両者を一体的に連結して第3速段を形成する。
【0045】
第1変速機構B30−2は、第5速ギヤ列35a、35bと、第7速ギヤ列37a、37bと、第1選択機構B40−2とから構成されている。第5速ギヤ列35a、35bは、第1入力軸21に固定された第5速駆動ギヤ35aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第5速従動ギヤ35bとから構成されている。第7速ギヤ列37a、37bは、第1入力軸21に固定された第7速駆動ギヤ37aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第7速従動ギヤ37bとから構成されている。
【0046】
第1選択機構B40−2は、実質的に第1選択機構A40−1と同じ構造により構成されている。第1選択機構B40−2においては、第5速係合部材S5及び第7速係合部材S7がそれぞれ第5速従動ギヤ35b及び第7速従動ギヤ37bに固定されている点が第1選択機構A40−1と相違する。この第1選択機構B40−2は、第1選択機構A40−1と同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0047】
第1選択機構B40−2において第5速段及び第7速段を形成する動作は、実質的に第1選択機構A40−1において第1速段及び第3速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0048】
第2変速機構A30−3、B30−3は、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速ギヤ列32a、32b、34a、34b、36a、36b(偶数段変速部材)と、これら複数の偶数段ギヤ列から1つの偶数段ギヤ列を選択する第2選択機構A40−3、B40−3とから構成されている。
【0049】
第2変速機構A30−3は、第2速ギヤ列32a、32bと、第6速ギヤ列36a、36bと、後進段駆動ギヤ38aと、第2選択機構A40−3とから構成されている。第2速ギヤ列32a、32bは、第2入力軸22に固定された第2速駆動ギヤ32aと第2副軸24に回転自在に設けられた第2速従動ギヤ32bとから構成されている。第6速ギヤ列36a、36bは、第2入力軸22に固定された第6速駆動ギヤ36aと第2副軸24に回転自在に設けられた第6速従動ギヤ36bとから構成されている。
【0050】
後進段駆動ギヤ38aは、第2速従動ギヤ32bに一体に形成されており、第2速従動ギヤ32bよりも車両右側(図2中右方)に設けられ、第2副軸24に回転自在に設けられている。この後進段駆動ギヤ38aは、第1副軸23に回転自在に設けられている後進段従動ギヤ38bに噛合している。
【0051】
第2選択機構A40−3は、実質的に第1選択機構A40−1と同じ構造より構成されている。第2選択機構A40−3においては、第2速係合部材S2及び第6速係合部材S6がそれぞれ第2速従動ギヤ32b及び第6速従動ギヤ36bに固定されている点が第1選択機構A40−1と相違する。この第2選択機構A40−3は、第1選択機構A40−1と同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0052】
第2選択機構A40−3において第2速段及び第6速段を形成する動作は、実質的に第1選択機構A40−1において第1速段及び第3速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0053】
第2変速機構B30−4は、第4速ギヤ列34a、34bと、後進段従動ギヤ38bと、第2選択機構B40−4とから構成されている。第4速ギヤ列34a、34bは、第2入力軸22に固定された第4速駆動ギヤ34a(上述した第6速駆動ギヤ36aを兼ねる)と、第1副軸23に回転自在に設けられた第4速従動ギヤ34bとから構成されている。後進段従動ギヤ38bは、第1副軸23に回転自在に設けられている。
【0054】
第2選択機構B40−4は、実質的に第1選択機構A40−1と同じ構造より構成されている。第2選択機構B40−4においては、第4速係合部材S4及び後進係合部材SRがそれぞれ第4速従動ギヤ34b及び後進段従動ギヤ38bに固定されている点が第1選択機構A40−1と相違する。この第2選択機構B40−4は、第1選択機構A40−1と同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0055】
第2選択機構B40−4において第4速段及び後進段を形成する動作は、実質的に第1選択機構A40−1において第1速段及び第3速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0056】
(変速マップデータの説明)
次に、図4を用いて「変速マップデータ」の説明をする。図4に示されるように、「変速マップデータ」は、アクセル開度と車速との関係を表した線である「シフト線」及び「変速線」を複数有している。車両100の走行状態が「シフト線」を越えると、変速制御部140eからシフトアクチュエータに「シフト指令」が発せられ、上述の変速段が形成され、シフトが実行される。また、車両100の走行状態が「変速線」を越えると、変速制御部140eから第1、第2クラッチアクチュエータ61、62に「変速指令」が発せられ、第1クラッチ51と第2クラッチ52のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えられて変速が実行される。
【0057】
図4に示されるように、増速方向に向かって(速度が低い方から速度が高い方に向かって)順に、第2速アップシフト線、第2速アップ変速線、第3速アップシフト線、第3速アップ変速線が設定されている。また、減速方向に向かって(速度が高い方から低い方に向かって)順に、第2速ダウンシフト線、第2速ダウン変速線、第1速ダウンシフト線、第1速ダウン変速線が設定されている。これ以上の変速段(第3速〜第7速)についても、同様に、「変速線」及び「シフト線」が設定されている。
【0058】
「シフト線」は、シフトが実行される際に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段へのシフトの要否を判断するための基準線である。図4に示されるように、「アップシフト線」は増速方向に向かってこれに対応する「アップ変速線」の手前側に存在する。一方で、「ダウンシフト線」は減速方向に向かってこれに対応する「ダウン変速線」の手前側に存在する。
【0059】
変速制御部140eが、アクセル開度Aと車速Vからなる車両100の走行状態から「シフト線」を越えたと判断した場合には、変速制御部140eは「シフト指令」を発し、シフトを実行する。具体的には、変速制御部140eが、第1、第2選択機構40−1〜40−4のいずれかのシフトアクチュエータに「シフト指令」を出力し、前記アクチュエータが第1、第2選択機構40−1〜40−4のいずれかを作動させ、第1変速機構A30−1、B30−2及び第2変速機構A20−3、B20−4のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の「変速部材」を選択させることにより変速段を形成し、シフト(プレシフト)を実行する。例えば、車両100が第2速段で走行中に、第3速アップシフト線を越えた場合には(図4のjの領域からkの領域に遷移した場合に)、変速制御部140eは、第3速段への「シフト指令」を発し、第3速段を形成する。
【0060】
「変速線」は車両100の変速時に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段への変速の要否を判断するための基準線である。変速制御部140eが、アクセル開度Aと車速Vからなる車両100の走行状態が「変速線」を越えたと判断した場合には、変速制御部140eは「変速指令」を発し、変速を実行する。この変速の実行については、後で詳細に説明する。なお、本実施形態では、車両100の減速時において、アクセル開度Aが0の場合には、「ダウン変速線」によらずに、後述の判断方法により、より低い変速段に変速するか否かが判断される。
【0061】
(デュアルクラッチの繋ぎ替えの説明)
次に、変速の実行、即ち、デュアルクラッチ50の繋ぎ替えについて説明する。変速が実行される場合には、変速制御部140eは、第1、2クラッチアクチュエータ61、62に「変速指令」を出力し、第1、2クラッチアクチュエータ61、62を制御することにより、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11から離脱される入力軸に対応するクラッチを離脱状態にする「離脱制御」を行う。それと同時に、変速制御部140eは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と接続される入力軸に対応するクラッチを徐々に係合させることにより、入力軸と駆動軸11の回転を同期させて前記入力軸と駆動軸11を係合させる「係合制御」を行うことにより変速を実行する。
【0062】
次に、図6を用いて、具体的に説明する。車両100が第1速で走行中している状態では、第1クラッチ51は完全に係合している状態であり、一方で、第2クラッチ52は完全に離脱している状態である。車両100が第1速で走行中に、第2速への「変速指令」が発せられると、第1ドライバ61eは、「変速指令」に基づき、駆動電流を電動モータ61aに供給して第1クラッチアクチュエータを作動させることにより、ストロークL1を徐々に減少させ、クラッチ伝達トルクTc1を徐々に減少させ、第1入力軸21を駆動軸11から離脱させる(「離脱制御」)。
【0063】
これと同時に、第2ドライバ62eは、「変速指令」に基づき、駆動電流を電動モータ62aに供給して第2クラッチアクチュエータ62を作動させることにより、ストロークL2を徐々に増大させ、第2クラッチ伝達トルクTc2を徐々に増大させる。この際に、第2入力軸22と駆動軸11との回転差が、徐々に無くなり、同期されて一致する。そして、第2クラッチ伝達トルクTc2が最大(Tc max)となると、第2入力軸22と駆動軸11が完全に係合(直結)し、第2速への変速が完了する。このようにして、第1クラッチ51から第2クラッチへの繋ぎ替えが行われて、第1速から第2速への変速が実行される。このように、回転差のある第2入力軸22と駆動軸11とが徐々に同期されるので、変速時の変速ショックが緩和される。
【0064】
これ以上への変速段への変速や、より低い変速段への変速も、同様に、第1クラッチ51と第2クラッチ52のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えられることにより行われる。
【0065】
(デュアルクラッチ式自動返送機の動作の説明)
次に、自動変速機120の動作について説明する。
<不作動状態→第1速段>
不作動状態において、第1、第2選択機構40−1〜40−4は中立位置にあり、第1、第2クラッチ51、52は、離脱状態となっている。
【0066】
停車状態においてエンジン110を起動させた場合にも、上記不作動状態と同様の状態を維持する。そして、停車状態においてエンジン110を起動させた後に、自動変速機120のシフトレバー160を前進位置とすれば、TCU140の変速制御部140eは、「シフト指令」を第1選択機構A40−1のシフトアクチュエータに出力し、スリーブMを第1速係合部材S1に係合させて第1副軸23と第1速従動ギヤ31bとを一体的に連結して第1速段を形成させる。このとき、その他の各選択機構40−2〜40−4は中立位置にある。
【0067】
この状態でアクセル開度Aが増大し、変速制御部140eが、エンジン回転数検出センサ121で検知されたエンジン回転数Neが所定の回転数を越えたと判断した場合には、アクセル開度Aに合わせてデュアルクラッチ50の第1クラッチ51のクラッチ伝達トルクTcを徐々に増加させる指令を、第1クラッチアクチュエータ61に出力する。これにより駆動軸11の回転駆動力は、第1クラッチ51から第1入力軸21、第1速ギヤ列31a、31b、第1選択機構A40−1の第1速係合部材S1、第1副軸23、第1リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に伝達され、車両100は第1速で走行し始める。
【0068】
<第2速段へのアップシフト>
車両の車速が増大する等して、変速制御部140eが「第2速アップシフト線」(図4示)を越えたと判断した場合には(mの領域からnの領域に遷移したと判断した場合には)、変速制御部140eは、第2選択機構A40−3のシフトアクチュエータに「シフト指令」を出力し、スリーブMを第2速係合部材S2に係合させて第2副軸24と第2速従動ギヤ32bとを一体的に連結して第2速段を形成させる。
【0069】
<第1速段→第2速段へのアップ変速>
変速制御部140eが「第2速アップ変速線」(図4示)を越えたと判断した場合には(hの領域からiの領域に遷移したと判断した場合には)、変速制御部140eは、「変速指令」を第1クラッチアクチュエータ61及び第2クラッチアクチュエータ62に出力し、デュアルクラッチ50を第1クラッチ51側から第2クラッチ52側に繋ぎ替える。
【0070】
これにより駆動軸11の回転駆動力は、第2クラッチ52から第2入力軸22、第2速ギヤ列32a、32b、第2選択機構A40−3の第2速係合部材S2、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39a、39cを介して出力軸25に伝達され、車両100は第2速で走行する。
【0071】
同様にして、変速制御部140eは、「第3速〜7速アップシフト線」や「第6速〜第1速ダウンシフト線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、各シフトアクチュエータに「シフト指令」を出力して、第1速段〜第7速段を形成する。
また、変速制御部140eは、「第3速〜第7速アップ変速線」、「第6速〜第1速ダウン変速線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、第1クラッチアクチュエータ61や第2クラッチアクチュエータ62に「変速指令」を出力して、第1クラッチアクチュエータ61や第2クラッチアクチュエータ62を作動させて、第1クラッチ51と第2クラッチ52を交互に繋ぎ替えて、第1速段〜第7速段での走行が行われるようにする。
【0072】
(本発明による変速動作の概要)
本発明では、車両100の減速時に現在の変速段より低い変速段への「変速指令」が発せられた場合に、変速制御部140e(減速時クラッチ係合力抑制手段)が、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62の動作量(ストロークL1、L2)を制御することにより、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1、Tc2を抑制して、エンジン110の回転の上昇を抑制する。
【0073】
つまり、車両100の減速時に現在の変速段より低い変速段に変速する際に、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチが所謂半クラッチ状態とされ、この半クラッチ状態が維持される。この結果、エンジン110の回転の上昇が抑制され、エンジン110の回転数の上昇に伴うエンジンの回転抵抗が減少する。また、クラッチ51、52の係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制される。このように、エンジン110の回転抵抗自体が減少すること、及びエンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制されることから、車両100の急激な減速が緩和される。以下に、車両100の減速時に現在の変速段より低い変速段に変速する際に、クラッチ51、52の係合力を抑制するとともに、エンジン110の回転数の上昇を抑制する制御方法について詳細に説明する。
【0074】
(減速時変速制御開始・終了処理の説明)
上述した本発明の自動変速機120の作動について図7〜図12を参照して説明する。自動変速機120は作動状態となると、図7に示される「減速時変速制御開始・終了処理」を順次実行する。まず、ステップ20において、TCU140は、ECU111から入力されるアクセル開度A、及び、車速検出部140aで算出された車速Vに基づき、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であるか否かを判断する。TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であると判断した場合には(ステップ20で「YES」と判断)、プログラムをステップ30以降に進める。一方で、TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中でないと判断した場合には(ステップ20で「NO」と判断)、ステップ20の処理を繰り返す。
【0075】
そして、TCU140は、ステップ30において「減速時将来入力軸情報算出処理」(図8示)を開始させ、ステップ40において「目標エンジン回転数情報算出処理」(図9示)を開始させ、ステップ60において「減速時変速制御処理」(図10示)を開始させ、プログラムをステップ60に進める。
【0076】
ステップ60において、TCU140は、ECU111から入力されるアクセル開度A、及び、車速検出部140aで算出された車速Vに基づき、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であるか否かを判断する。TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であると判断した場合には(ステップ60で「YES」と判断)、ステップ60の処理を繰り返す。一方で、TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中でないと判断した場合には(ステップ60で「NO」と判断)、プログラムをステップ70に進める。
【0077】
ステップ70において、TCU140は、「減速時将来入力軸情報算出処理」、「目標エンジン回転数情報算出処理」、「減速時変速制御処理」の各種処理を終了させ、プログラムをステップ20に戻す。
【0078】
(減速時将来入力軸情報算出処理の説明)
図8を用いて、図7の「減速時将来入力軸情報算出処理開始」(ステップ30)により開始する「減速時将来入力軸情報算出処理」について説明する。「減速時将来入力軸回転数情報算出処理」が開始されると、ステップ302において、将来車速情報算出部140b(将来車速情報検出手段)は、減速時将来車速情報FVTを算出する。減速時将来車速情報FVTは、図11に示されるように、車両100の減速時における将来の車速Vと将来の時刻との関係を表した情報である。具体的には、将来車速情報算出部140bは、車速検出部140aで算出された車両100の車速Vの変化に基づき、減速時将来車速情報FVTを算出する。ステップ302が終了すると、TCU140は、プログラムをステップ304に進める。
【0079】
ステップ304において、将来入力軸回転数情報算出部140c(将来入力軸回転数情報算出手段)は、減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2(図11、図12示)を算出する。減速時将来入力軸回転数情報FN1は、車両100の減速時における、第1入力軸21の回転数と将来の時刻との関係を表した情報である。また、減速時将来入力軸回転数情報FN2は、車両100の減速時における、第2入力軸22の回転数と将来の時刻との関係を表した情報である。具体的には、将来入力軸回転数情報算出部140cは、減速時将来車速情報FVTと現在の変速段の減速比及び現在よりも1つ低い変速段の減速比に基づき、減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2を算出する。ステップ304が終了すると、TCU140は、プログラムをステップ302に戻す。将来車速情報算出部140bや将来入力軸回転数情報算出部140cは、それぞれステップ302、ステップ304の処理を、数ミリ秒毎に実行する。これにより、リアルタイムで、減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2が算出される。
【0080】
(目標エンジン回転数情報算出処理の説明)
図9を用いて、図7の「目標エンジン回転数情報算出処理開始」(ステップ40)により開始する「目標エンジン回転数情報算出処理」について説明する。この「目標エンジン回転数情報算出処理」において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、目標エンジン回転数情報TNe(目標エンジン回転数)を算出する。なお、目標エンジン回転数情報TNeとは、図11や図12に示されるように、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段に変速する際における、係合される側の入力軸21、22と駆動軸11との同期中のエンジン110の目標となる回転数と、将来の時刻との関係を表した情報である。つまり、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の入力軸21、22に駆動軸11を同期させるための目標となるエンジン110の回転数である。
【0081】
「目標エンジン回転数情報算出処理」が開始されると、ステップ204において、目標エンジン回転数情報算出部140dは「係合処理」の実行中であるか否かを判断する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1、第2入力軸回転数検出センサ125、126から入力される第1、第2入力軸回転数N1、N2と、エンジン回転数検出センサ121で検出されたエンジン回転数Neに基づき、駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2とエンジン回転数Neが一致していない場合には、「係合処理」の実行中と判断し(ステップ204で「YES」と判断)、プログラムをステップ220に進める。一方で、目標エンジン回転数情報算出部140dが、駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2とエンジン回転数Neが一致している場合には、「係合処理」の実行中でないと判断し(ステップ204で「NO」と判断)、プログラムをステップ206に進める。
【0082】
ステップ206において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、フューエルカット終了時刻Tfc1を算出する。フューエルカット終了時刻Tfc1とは、エンジン110の回転数(つまり、駆動軸11と係合している入力軸21、22の回転数)が、フューエルカット下限回転数(図11や図12に示す)に達する時刻である。なお、ここでフューエルカット下限回転数とは、エンジン110への燃料の供給が停止又は開始される下限の回転数(閾値)である。つまり、車両100の減速時であって、且つ、アクセル開度Aが0である場合において、エンジン回転数がフューエルカット下限回転数よりも高い場合には、エンジン110への燃料の供給が停止されて、無駄な燃料消費が防止される一方で、エンジン回転数がフューエルカット下限回転数よりも低い場合には、エンジン110への燃料の供給が開始されて、エンジン110の停止(エンジン ストール)が防止されるようになっている。このフューエルカット下限回転数は、エンジン110の水温、車両100に供給される電気の負荷、車両100に搭載されるエアーコンディショナ(不図示)のON・OFF等により変動し、概ね800〜1500rpmである。このフューエルカット下限回転数は、ECU111で算出され、TCU140に出力される。目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と係合中の入力軸の減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2(図8のステップ304で算出)に基づき、減速時将来入力軸回転数情報(図12においてはFN1)が、フューエルカット下限回転数に達する将来の時刻を、フューエルカット終了時刻Tfc1として算出する(図12の(1))。ステップ206が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ210に進める。
【0083】
ステップ210において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2を算出する。変速後フューエルカット終了時刻Tfc2とは、変速完了後(「係合処理」処理完了後)の回転数が、フューエルカット下限回転数に達する時刻である。つまり、つまり、離脱状態にある入力軸21、22が駆動軸11に係合したと仮定した場合における前記入力軸の回転数が、フューエルカット下限回転数に達する時刻である。目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と離脱状態にある入力軸の減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2(図8のステップ304で算出)に基づき、減速時将来入力軸回転数情報(図12においてはFN2)が、フューエルカット下限回転数に達する将来の時刻を、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2として算出する(図12の(2))。ステップ210が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ214に進める。
【0084】
ステップ214において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、「係合制御」における入力軸21、22と駆動軸11との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻Tsを算出する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2から、係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻を、同期完了目標時刻Tsとして算出する(図12の(3))。なお、係合応答遅れ時間Tdとは、「ダウン変速指令」が発せられた時から実際にクラッチ51、52の係合が開始されるまでの応答遅れ時間である。係合応答遅れ時間Tdは、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62の応答遅れ(ギヤのバックラッシュ等)や、センタープレート55から離間している第1クラッチディスク51aや第2クラッチディスク52aがセンタープレート55に接するまでの経過時間等により生じ、目標エンジン回転数情報算出部140dは係合応答遅れ時間Tdを認識している。ステップ214が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ216に進める。
【0085】
ステップ216において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、「係合制御」における入力軸21、22と駆動軸11との同期完了時のエンジン100の回転数である同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する。具体的には目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と離脱中の入力軸の減速時将来入力軸回転数情報(図12においてはFN2)に、同期完了目標時刻Tsを代入することにより、同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する(図12の(4))。ステップ216が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ218に進める。
【0086】
ステップ218において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、目標エンジン回転数情報TNeを算出する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、ステップ206で算出されたフューエルカット終了時刻Tfc1及びフューエルカット下限回転数に基づき、係合開始目標座標Aを認識するとともに、ステップ214、216で算出された同期完了目標時刻Ts及び同期完了目標エンジン回転数SNeに基づき、同期完了目標座標Bを認識する。そして、目標エンジン回転数情報算出部140dは、係合開始目標座標A及び同期完了目標座標Bを通る直線又は曲線(図12の(5))を、目標エンジン回転数情報TNeとして算出する。なお、係合開始目標座標Aは、時刻FT(横軸)がフューエルカット終了時刻Tfc1であり、回転数N(縦軸)がフューエルカット下限回転数である座標である。また、同期完了目標座標Bは、時刻FT(横軸)が同期完了目標時刻Tsであり、回転数N(縦軸)が同期完了目標エンジン回転数SNeである座標である。このようにして、目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチの係合が開始するエンジン110の回転数がフューエルカット下限回転数となり、係合される入力軸21、22と駆動軸11との同期完了時が同期完了目標時刻Tsとなり、且つ、同期完了時のエンジン110の回転数が同期完了目標エンジン回転数SNeとなる目標エンジン回転数情報TNeを算出する。ステップ218が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムを204に戻す。
【0087】
ステップ220において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、上述したステップ210と同様の処理により、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2を算出する。ステップ220が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ224に進める。
【0088】
ステップ224において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、上述したステップ214と同様の処理により、同期完了目標時刻Tsを算出する。ステップ224が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ226に進める。
【0089】
ステップ226において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、上述したステップ216と同様の処理により、同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する。ステップ226が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ228に進める。
【0090】
ステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、目標エンジン回転数情報TNeを算出する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、現在の時刻及びエンジン回転数検出センサ121で検出されたエンジン回転数Neに基づき現在座標Cを認識するとともに、ステップ224、226で算出された同期完了目標時刻Ts及び同期完了目標エンジン回転数SNeに基づき、同期完了目標座標Bを認識し、現在座標C及び同期完了目標座標Bを通る直線又は曲線(図12の(6))を、目標エンジン回転数情報TNeとして算出する。ステップ228が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ204に戻す。このように、ステップ220〜228の処理により、「係合処理」が実行中に車両100の車速Vの減速度が変化した場合であっても、リアルタイムで、目標エンジン回転数情報TNeが補正されて算出される。
【0091】
(減速時変速制御処理)
図10を用いて、図7の「減速時変速制御処理開始」(ステップ50)により開始する「減速時変速制御処理」について説明する。「減速時変速制御処理」が開始すると、ステップ104において、TCU140は、車両100の走行状態が、より低い変速段への「変速指令」(「ダウン変速指令」)を発する状態になったか否かを判断する。具体的には、TCU140は、ステップ206(図9示)で算出されたフューエルカット終了時刻Tfc1よりも係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻に達したか否かを判断する。TCU140が、フューエルカット終了時刻Tfc1よりも係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻に達したと判断した場合には(ステップ104で「YES」と判断)、プログラムをステップ106に進める。一方で、TCU140が、フューエルカット終了時刻Tfc1よりも係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻に達していないと判断した場合には(ステップ104で「NO」と判断)、ステップ104の処理を繰り返す。
【0092】
ステップ106において、変速制御部140eは、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62に「ダウン変速指令」を出力して、「離脱・係合制御」を開始させる(図12の(7))。具体的には、変速制御部140eは、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のいずれかを制御することにより、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11から離脱される入力軸に対応するクラッチ51、52を離脱状態にする「離脱制御」を行う。これと同時に、変速制御部140eは、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のいずれかを制御することにより、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と係合される入力軸21、22に対応するクラッチ51、52を、入力軸21、22と駆動軸11の回転が徐々に同期するように係合させる「係合制御」を開始させる。この「係合制御」において、変速制御部140eは、係合される入力軸21、22に対応するクラッチ51、52による係合力が目標クラッチ伝達トルクTcaとなるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のストロークL1、L2を制御する。
なお、目標クラッチ伝達トルクTcaは下記[数1]により演算される。
【0093】
[数1]
Tca =Te
Tca:目標クラッチ伝達トルク
Te:現在のエンジン回転抵抗(トルク換算)
【0094】
変速制御部140eは、エンジン回転数検出センサ121によって検出されたエンジン回転数Neに基づき、現在のエンジン回転抵抗Teを算出し、この現在のエンジン回転抵抗Teを目標クラッチトルクTcaとする。このように、目標クラッチ伝達トルクTcaを現在のエンジン回転抵抗Teと等しい値とすることにより、エンジン110の回転数の低下が防止される。また、初期値として目標クラッチトルクTcaとなるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のストロークL1、L2を制御することにより、後述のステップ108、〜116において、早期にエンジン回転数Neを目標エンジン回転数情報TNeに一致させることができる。
ステップ106が終了すると、TCU140は、プログラムをステップ108に進める。
【0095】
ステップ108において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、エンジン回転数検出センサ121によって検出されたエンジン回転数Neとステップ218又はステップ228の処理(図9示)で算出された目標エンジン回転数情報TNeに現在の時刻を代入して導き出される現在の「目標エンジン回転数」と比較する。変速制御部140eが、エンジン回転数Neと「目標エンジン回転数」が一致していると判断した場合には(ステップ108で「一致」と判断)、プログラムを110の処理に進める。一方で、変速制御部140eが、エンジン回転数Neが「目標エンジン回転数」に対して低いと判断した場合には(ステップ108で「低い」と判断)、プログラムを112の処理に進める。また、変速制御部140eが、エンジン回転数Neに対して「目標エンジン回転数」が高いと判断した場合には(ステップ108で「高い」と判断)、プログラムを114の処理に進める。
【0096】
ステップ110において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1、Tc2が維持されるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62を制御する。ステップ110が終了すると、変速制御部140eは、プログラムをステップ116に進める。
【0097】
ステップ112において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1、Tc2が上がるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62を制御する。ステップ112が終了すると、変速制御部140eは、プログラムをステップ116に進める。
【0098】
ステップ114において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1又はクラッチ伝達トルクTc2が下がるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62を制御する。ステップ114が終了すると、変速制御部140eは、プログラムをステップ116に進める。
【0099】
ステップ116において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、エンジン回転数Neと駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2とを比較して、両者が一致しているか否かを判断する。変速制御部140eが、エンジン回転数Neが、エンジン回転数Neと駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2と一致していると判断した場合には(ステップ116でYESと判断)、プログラムをステップ104に戻す。一方で、変速制御部140eが、エンジン回転数Neと駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2が一致していないと判断した場合には(ステップ116でNOと判断)、プログラムをステップ108に戻す。
【0100】
上述した説明から明らかなように、図10に示されるステップ108〜116の処理において、図11の将来の時刻とクラッチ伝達トルクTcの関係に示されるように、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、車両100の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合の「係合制御」において、係合される側のクラッチ51、52のクラッチアクチュエータ61、62を制御することにより、「離脱制御」が完了した後においても、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち係合される側の入力軸と駆動軸11の回転が同期するまで、係合される側のクラッチ51、52の係合力(クラッチ伝達トルクTc)を抑制した状態を維持する。このように、「離脱制御」が完了した後においても、入力軸21、22と駆動軸11の回転が同期するまで、係合される側のクラッチ51、52の係合力(クラッチ伝達トルクTc)が抑制された状態が維持される。このため、「離脱制御」の完了と同時に「係合制御」が完了する従来のデュアルクラッチ式自動変速機と比較して、エンジンの回転上昇が抑制される。
【0101】
これにより、減速中の車両100がより低い変速段に変速する際における係合制御において、エンジン110の回転数の上昇に伴うエンジン110の回転抵抗が減少する。また、前記係合制御において、クラッチ伝達トルクTcが抑制された状態が維持され、つまり、クラッチ51、52の係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制される。このように、エンジン110の回転抵抗自体が減少すること、及びクラッチ51、52の係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制されることから、図11の将来の時刻と車両加速度の関係に示されるように、前記係合制御において、従来に比べて本発明では、変速(クラッチの繋ぎ替え)に伴う車両加速度(減速度)の急激な変化が抑制される。このため、車両100の減速時により低い変速段の変速する際において、車両100の急激な減速が緩和され、良好な変速フィーリングを得ることができる。なお、エンジン110の回転抵抗には、エンジン110の回転に伴う摺動抵抗、及び、エンジン110の回転上昇に伴うエンジン110の慣性トルクの増大が含まれる。
【0102】
また、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の入力軸21、22に駆動軸11を同期させるための目標エンジン回転数情報TNeを算出する。そして、図10のステップ108〜114において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数情報TNeのエンジン回転数となるように、クラッチアクチュエータ61、62を制御する。このように、目標エンジン回転数情報TNe(目標エンジン回転数)が算出され、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数情報TNeとなるように制御されるので、より精度高く「係合制御」時におけるエンジンの回転数の上昇を制御することができる。
【0103】
また、図8のステップ302において、将来車速情報算出部140b(将来車速情報算出手段)は、車両100の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報FVTを、車速検出部140aで検出された車両100の車速Vの変化に基づき算出する。そして、図8のステップ304において、将来入力軸回転数情報算出部140c(将来入力軸回転数情報算出手段)は、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における第1入力軸21及び第2入力軸22のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報FNを、減速時将来車速情報FVTに基づき算出する。そして、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、目標エンジン回転数情報TNeを、減速時将来入力軸回転数情報FNのエンジン回転数以下となるように算出する。これにより、「係合制御」において、従来の自動変速機と比較して、確実にエンジン110の回転数が低くなる目標エンジン回転数情報TNeが算出される。
【0104】
また、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、エンジン110のフューエルカット下限回転数より高いエンジン回転数を、目標エンジン回転数情報TNeとして算出する。これにより、「係合制御」が行われている間、常にフューエルカットが実行され、燃料が無駄に消費されない。
【0105】
また、図9のステップ210やステップ220において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、減速時将来入力軸回転数情報FNに基づき、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち係合される側の入力軸21、21の回転数がフューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻Tfc2(図12示)を算出する。次に、図9のステップ214やステップ224において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2よりも、「変速指令」が発せられた時から「係合制御」が開始されるまでの係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻を算出し、前記係合制御における入力軸21、21と駆動軸11の同期完了時である同期完了目標時刻Tsを算出する。次に、図9のステップ216やステップ226において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、同期完了目標時刻Tsを減速時将来入力軸回転数情報FNに代入して、同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する。そして、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチの係合が開始するエンジンの回転数がフューエルカット下限回転数となり、係合される入力軸21、22と駆動軸11との同期完了時が同期完了目標時刻Tsとなり、且つ、同期完了時のエンジン110の回転数が同期完了目標エンジン回転数SNeとなるように目標エンジン回転数情報TNeを算出する。これにより、車両の減速時における「係合制御」において、フューエルカットが維持される限度において、エンジン110の回転の上昇を最大限抑制することができる目標エンジン回転数情報TNeが算出される。
【0106】
以上説明した実施形態では、図9に示される「目標エンジン回転数情報算出処理」のステップ206、ステップ210、ステップ220において、変速前後のエンジン110の回転数が、フューエルカット下限回転数に達する時刻を算出しているが、変速前後のエンジン110の回転数が、フューエルカット下限回転数よりも所定の回転数(0〜500rpm程度)だけ高い回転数に達する時刻を算出することにしても差し支え無い。特許請求の範囲に記載の「フューエルカット下限回転数」は、上述したフューエルカット下限回転数よりも所定の回転数だけ高い回転数を含む概念である。
【0107】
図1に示される実施形態では、車両100はFFタイプであるが、後輪が駆動輪TRL、TRRであり、エンジン110の回転駆動力が駆動輪TRL、TRRを駆動するFRタイプの車両であっても差し支え無い。また、全ての車輪が駆動輪TFL、TFR、TRL、TRRであり、エンジン110の回転駆動力が駆動輪TFL、TFR、TRL、TRRを駆動する四輪駆動タイプの車両であっても差し支え無い。
【符号の説明】
【0108】
11…駆動軸 21…第1入力軸、 22…第2入力軸、 25…出力軸(出力部材)
50…デュアルクラッチ、 51…第1クラッチ、 52…第2クラッチ
61…第1クラッチアクチュエータ、 62…第2クラッチアクチュエータ
100…車両、 110…エンジン
120…デュアルクラッチ式自動変速機、 121…エンジン回転数検出センサ
140…TCU(制御部)
140a…車速検出部(車速検出手段)
140b…将来車速情報算出部(将来車速情報算出手段)
140c…将来入力軸回転数情報算出部(将来入力軸回転数情報算出手段)
140d…目標エンジン回転数情報算出部(目標エンジン回転数算出手段)
140e…変速制御部(減速時クラッチ係合力抑制手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つのクラッチを備えるデュアルクラッチ式自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の自動変速機の1つに、特許文献1に示されるようなデュアルクラッチ式自動変速機が普及しつつある。このようなデュアルクラッチ式自動変速機は、奇数段と偶数段の2系統に分かれた変速機構を有し、それぞれの変速機構にエンジンからの回転駆動力を離脱係合するクラッチを有している。このデュアルクラッチ式自動変速機では、車両の走行中に、回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の変速段を予め成立(プレシフト)させておき、変速指令が発せられた場合に、前記変速機構側のクラッチに繋ぎ替えることにより高速な変速を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−144872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のデュアルクラッチ式自動変速機では、現在走行中の変速段からより低い変速段に変速する際、つまり、現在走行中のクラッチからより低い変速段が成立されている変速機構側のクラッチに繋ぎ替える際に、前記繋ぎ替えられる側のクラッチが、高い変速比の変速段に繋がれるため、エンジンの回転数が急激に上昇する。そして、エンジンの回転数の急激な上昇により、エンジンの回転抵抗が急激に増大するとともに、増大したエンジンの回転抵抗が駆動輪に伝達される。このため、車両が急激に減速されることによる変速ショックが発生し、良好な変速フィーリングを得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の減速時により低い変速段の変速する際において、良好な変速フィーリングを得ることが可能なデュアルクラッチ式自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、車両に搭載されたエンジンの回転駆動力が伝達される駆動軸と、同心に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、前記駆動軸と前記第1入力軸とを離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸と前記第2入力軸とを離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うクラッチアクチュエータと、前記駆動輪に回転駆動力を伝達する出力部材と、前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材を有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記複数の奇数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材を有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記複数の偶数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、前記車両の車速を検出する車速検出手段と、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、変速指令が発せられると、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸から離脱される入力軸に対応するクラッチを離脱状態にする離脱制御を行うとともに、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸と係合される入力軸に対応するクラッチ係合させる係合制御を行うことにより変速を実行する制御部と、を備え、
前記制御部に、前記車両の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報を、前記車速検出手段で検出された前記車両の車速の変化に基づき算出する将来車速情報算出手段と、前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報を、前記減速時将来車速情報に基づき算出する将来入力軸回転数情報算出手段と、前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の前記入力軸に前記駆動軸を同期させるための目標となる前記エンジンの回転数である目標エンジン回転数を、前記将来入力軸回転数情報算出手段によって算出された前記減速時将来入力軸回転数情報の前記入力軸の回転数以下となり、且つ、前記エンジンのフューエルカット下限回転数より高い回転数となるように算出する目標エンジン回転数算出手段と、前記車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合に、前記係合制御において、前記エンジン回転数検出手段によって検出される前記エンジンの回転数が前記目標エンジン回転数のエンジン回転数となるように、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記離脱制御が完了した後においても、前記入力軸と前記駆動軸の回転が同期するまで、前記係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する減速時クラッチ係合力抑制手段と、を設けたことである。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記目標エンジン回転数算出手段は、前記減速時将来入力軸回転数情報に基づき、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数が前記フューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻を算出し、前記変速後フューエルカット終了時刻から、前記変速指令が発せられた時から前記係合制御が開始されるまでの係合応答遅れ時間だけ前の時刻を算出することにより、前記係合制御における前記入力軸と前記駆動軸との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻を算出し、前記同期完了目標時刻と前記減速時将来入力軸回転数情報に基づいて、前記同期完了時における目標エンジン回転数を算出することである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によると、減速時クラッチ係合力抑制手段は、車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合に、係合制御において、クラッチアクチュエータを制御することにより、離脱制御が完了した後においても、入力軸と駆動軸の回転が同期するまで、係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する。このように、離脱制御が完了した後においても、入力軸と駆動軸の回転が同期するまで、係合される側のクラッチの係合力が抑制された状態が維持される。このため、離脱制御の完了と同時に係合制御が完了する従来のデュアルクラッチ式自動変速機と比較して、エンジンの回転上昇が抑制される。これにより、減速中の車両がより低い変速段に変速する際における係合制御において、エンジンの回転数の上昇が抑制されることにより、エンジンの回転抵抗が減少する。また、クラッチの係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジンの回転抵抗の駆動輪への伝達が抑制される。このように、エンジンの回転抵抗自体が減少すること、及びエンジンの回転抵抗の駆動輪への伝達が抑制されることから、車両の減速時により低い変速段の変速する際において、車両の急激な減速が緩和され、良好な変速フィーリングを得ることができる。
【0009】
また、請求項1に係る発明によると、エンジン回転数検出手段はエンジンの回転数を検出し、目標エンジン回転数算出手段は車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の入力軸に駆動軸を同期させるための目標エンジン回転数を算出する。そして、減速時クラッチ係合力抑制手段は、エンジン回転数検出手段によって検出されるエンジンの回転数が目標エンジン回転数のエンジン回転数となるように、クラッチアクチュエータを制御する。このように、目標エンジン回転数が算出され、エンジンの回転数が目標エンジン回転数となるように制御されるので、より精度高く係合制御時におけるエンジンの回転数の上昇を制御することが可能となる。
【0010】
また、請求項1に係る発明によると、車速検出手段は車両の車速を検出し、将来車速情報算出手段は、車両の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報を、車速検出手段で検出された前記車両の車速の変化に基づき算出する。そして、将来入力軸回転数情報算出手段は、車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報を、減速時将来車速情報に基づき算出する。そして、目標エンジン回転数算出手段は、目標エンジン回転数を、前記減速時将来入力軸回転数情報のエンジン回転数以下となるように算出する。これにより、減速中の車両がより低い変速段に変速する際における係合制御において、従来のデュアルクラッチ式自動変速機と比較して、確実にエンジンの回転数が低くなる目標エンジン回転数が算出される。このため、前記係合制御において、エンジンの回転数の上昇が抑制され、エンジンの回転抵抗が減少する。
【0011】
また、請求項1に係る発明によると、目標エンジン回転数算出手段は、エンジンのフューエルカット下限回転数より高い回転数を目標エンジン回転数として算出する。これにより、係合制御が行われている間、常にフューエルカットが実行され、燃料が無駄に消費されない。
【0012】
また、請求項2に係る発明によると、目標エンジン回転数算出手段は、減速時将来入力軸回転数情報に基づき、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数がフューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻を算出する。次に、目標エンジン回転数算出手段は、フューエルカット終了時刻よりも、変速指令が発せられた時から前記係合制御が開始されるまでの係合応答遅れ時間だけ前の時刻を算出することにより、前記係合制御における前記入力軸と前記駆動軸との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻を算出する。次に、目標エンジン回転数算出手段は、前記同期完了目標時刻と前記減速時将来入力軸回転情報に基づいて、前記同期完了時における目標エンジン回転数を算出する。これにより、車両の減速時における係合制御において、フューエルカットが維持される限度において、エンジンの回転の上昇を最大限抑制することができる目標エンジン回転数を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機を装備した車両を模式的に説明した説明図である。
【図2】本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機の全体構成を説明するスケルトン図である。
【図3】本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機のデュアルクラッチを模式的に説明する断面図であって、第1クラッチが係合している状態を示している。
【図4】横軸を車速、縦軸をアクセル開度としたグラフであり、デュアルクラッチ式自動変速機の変速マップデータを表したグラフである。
【図5】デュアルクラッチの第1及び第2クラッチの伝達トルクとストロークとの関係を示すグラフである。
【図6】デュアルクラッチの繋ぎ替え時における、経過時間とクラッチ伝達トルクとの関係を表したグラフである。
【図7】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである減速時変速制御開始・終了処理のフローチャートである。
【図8】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである減速時将来入力軸情報算出処理のフローチャートである。
【図9】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである目標エンジン回転数情報算出処理のフローチャートである。
【図10】図1に示されるTCUにて実行される制御プログラムである減速時変速制御処理のフローチャートである。
【図11】将来の時刻FTの時間軸を横軸とし、各種回転数を縦軸とした座標における、将来の時刻FTと、減速時将来入力軸回転数FN1、減速時将来入力軸回転数FN2、目標エンジン回転数情報TNe、クラッチ伝達トルクTc、及び車両加速度との関係を表したグラフである。
【図12】図11を拡大したグラフであり、将来の時刻FTの時間軸を横軸とし、各種回転数を縦軸とした座標における、将来の時刻FTと、減速時将来入力軸回転数FN1、減速時将来入力軸回転数FN2、及び、目標エンジン回転数情報TNeとの関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜図12に基づき、本発明の一実施形態によるデュアルクラッチ式自動変速機120(以下、自動変速機120と略す)について説明する。本実施形態は、FFタイプ(フロントエンジン・フロントドライブ方式)の車両100に自動変速機120を装備した実施形態である。
【0015】
<実施形態>
(車両全体の構成)
図1に示されように、本実施形態の車両100は、エンジン110、自動変速機120を有している。エンジン110は、車両100に搭載され、駆動輪である左前輪TFL及び右前輪TFRに付与される回転駆動力を生成する。エンジン110が生成した回転駆動力は、自動変速機120を介して左前輪TFL及び右前輪TFRに伝達される。
【0016】
車両100は、アクセルペダル150、アクセルペダル150のアクセル開度Aを検出するアクセル開度センサ151を有している。図1や図2に示される駆動軸11には、エンジン110の回転駆動力が伝達される。自動変速機120は、エンジン110の回転数(駆動軸11の回転数)であるエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数検出センサ121を備えている。
【0017】
ECU(Engine Control Unit)111は、アクセル開度A、エンジン回転数Neからなる車両情報を取得している。そして、ECU111は、これらの車両情報に基づいて、スロットル開度や燃料噴射量を調整してエンジン110の出力(回転駆動力)を制御する。
【0018】
車両100は、第1入力軸21の第1入力軸回転数N1を検出する第1入力軸回転数検出センサ125、第2入力軸22の第1入力軸回転数N1を検出する第2入力軸回転数検出センサ126(図2示)を備えている。第1入力軸回転数N1、第2入力軸回転数N2は、TCU140に入力される。また、車両100は、シフトレバー160、シフトレバー160の位置を検出するシフト位置検出センサ161を備えている。運転者は、シフトレバー160を操作することによって、自動変速機120の変速段(ギヤ位置)を自動又は手動で選択することができる。運転者がシフトレバー160を操作したときシフト位置の情報は、シフト位置検出センサ161によって検出され、TCU140に入力される。車両100は、前左右の2つの車輪TFL、TFRのそれぞれの車輪速度を検出する車速センサFL、FR(車速検出手段)を備えている。
【0019】
TCU(Transmission Control Unit)140は、自動変速機120の統合制御を行うものである。TCU140とECU111とは、CAN(Controller Area Network)によって相互に通信可能となっている。アクセル開度A、エンジン回転数Neからなる車両情報は、ECU111を介して、TCU140に入力されるようになっている。TCU140は、CPU、記憶装置、入出力インターフェース(図略)を有している。なお、TCU140は、特許請求の範囲に記載の「制御部」、「減速時クラッチ係合力抑制手段」、「将来車速情報算出手段」、「将来入力軸回転数情報算出手段」、「目標エンジン回転数算出手段」に相当し得るものである。CPUは、TCU140を制御する中央演算処理装置で、システムバス(図略)を介して記憶装置や入出力インターフェースに接続されている。
【0020】
記憶装置は、いわゆるRAM、ROM、不揮発性メモリ等の記憶装置で、図略のシステムバスを介してCPUに接続されている。ROMや不揮発性メモリには、CPUを制御するシステムプログラムのほかに、図4に示される「変速マップデータ」、後述の車速検出部140a(車速検出手段)、将来車速情報算出部140b(将来車速情報算出手段)、将来入力軸回転数情報算出部140c(将来入力軸回転数情報算出手段)、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)、変速制御部140e、後述する「減速時変速制御開始・終了処理」(図7示)、「減速時将来入力軸情報算出処理」(図8示)、「目標エンジン回転数情報算出処理」(図9示)、「減速時変速制御処理」(図10示)の実行を可能にする各種制御プログラムが格納されている。RAMは、前記プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。入出力インターフェースは、シフト位置検出センサ161、車速センサFL、FR、第1入力軸回転数検出センサ125、第2入力軸回転数検出センサ126、及び、ECU111とCPUとのデータの入出力を仲介する装置で、システムバスに接続されている。
【0021】
車速検出部140a(車速検出手段)には、左前輪車速センサFL(車速検出手段)で検出した左前輪TFLの車輪速度VFL、右前輪車速センサFR(車速検出手段)で検出した右前輪TFRの車輪速度VFRが入力される。そして、車速検出部140aは、車輪速度VFL、VFRを平均して車両100の車速Vを算出する。なお、左後輪TRLの車輪速度VRLや右後輪TRRの車輪速度VRRを検出する車速センサを設け、車速検出部140aが、これら車輪速度VRL、VRRを平均し、或いは、車輪速度VFL、VFR、VRL、VRRを平均して車速Vを算出することにして差し支え無い。或いは、出力軸25等の出力部材の回転速度を検出する回転速度センサを設け、車速検出部140aが、前記回転速度センサで検出された出力部材の回転速度に基づき、車速Vを算出することにしても差し支え無い。算出された車速VはTCU140の記憶装置に記憶される。
【0022】
(デュアルクラッチ式自動変速機の説明)
TCU140の動作については後ほど詳述することとし、まずは、図2及び図3に基づいて、自動変速機120の全体構成について説明する。図2に示される自動変速機120は、前進7段、後進1段のFFタイプのデュアルクラッチ式自動変速機(DCT)である。自動変速機120は、図示しないケースに回転可能に指示された回転軸である第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸23、第2副軸24、及び、出力軸25(出力部材)を有している。出力軸25は、デファレンシャルギヤ(図示省略)に回転駆動力を伝達する。そして、デファレンシャルギヤは、駆動輪TFL、TFRに回転駆動力を伝達する。本実施形態では、エンジン110からの回転駆動力を駆動輪TFL、TFRに伝達する出力部材は、出力軸25及びデファレンシャルギヤとから構成されているが、出力軸25を有さず、第1副軸23、第2副軸24に伝達された回転駆動力が直接デファレンシャルヤに伝達され、デファレンシャルギヤが出力部材である実施形態であっても差し支え無い。
【0023】
第2入力軸22は、筒状に形成されており、第1入力軸21を同軸的に囲んで、第1入力軸21に対して相対回転可能に同心に設けられている。ここで、第1入力軸21の車両左側(図2中左方)の端部は、第2入力軸22の車両左側の端部よりも突出する長さに形成されている。第1副軸23、第2副軸24、及び、出力軸25は、両入力軸21、22に対して平行に配置されている。
【0024】
自動変速機120の車両右側(図2中右方)には、エンジン110の駆動軸11により回転駆動されるデュアルクラッチ50が配設されている。デュアルクラッチ50は、摩擦クラッチである第1クラッチ51と第2クラッチ52とを備えている。第1クラッチ51の入力側と第2クラッチ52の入力側は、それぞれ駆動軸11と連結されている。そして、第1クラッチ51の出力側は、第1入力軸21に連結されており、第2クラッチ52の出力側は、第2入力軸22に連結されている。第1クラッチ51は、駆動軸11と第1入力軸21とを離脱・係合するものである。第2クラッチ52は、駆動軸11と第2入力軸22とを離脱・係合するものである。
【0025】
第1クラッチ51は、TCU140の変速制御部140eからの指令(「変速指令」)に基づいて、第1クラッチアクチュエータ61(図3示)の動作量が制御されることにより、離脱及びその係合量であるクラッチ伝達トルクTc1(図5示)が制御される。そして、第1クラッチ51は、係合状態において、駆動軸11に伝達された回転駆動力を第1入力軸21に伝達する。また、第2クラッチ52は、TCU140の変速制御部140eからの指令(「変速指令」)に基づいて、第2クラッチアクチュエータ62(図3示)の動作量が制御されることにより、離脱及び係合量であるクラッチ伝達トルクTc2(図5示)が制御される。そして、第2クラッチ52は、係合状態において、駆動軸11に伝達された回転駆動力を第2入力軸22に伝達する。
【0026】
(デュアルクラッチの詳細構造の説明)
図3を用いて、デュアルクラッチ50の詳細構造について説明する。デュアルクラッチ50は、第1クラッチ51、第2クラッチ52の他に、センタープレート55を有している。第1クラッチ51は、第1クラッチディスク51a、第1プレッシャプレート51b、第1ダイアフラムスプリング51cを有している。第2クラッチ52は、第2クラッチディスク52a、第2プレッシャプレート52b、第2ダイアフラムスプリング52cを有している。第1クラッチディスク51aは、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク52aは、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
【0027】
センタープレート55は、第1クラッチディスク51aと第2クラッチディスク52aとの間にその面が第1、第2クラッチディスク51a、52aの面と平行に対向して配置されている。センタープレート55は、第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられ、駆動軸11に連結されて、駆動軸11と一体に回転する。
【0028】
第1、第2プレッシャプレート51b、52bは、センタープレート55との間で、それぞれ第1、第2クラッチディスク51a、52aを挟持し、第1、第2クラッチディスク51a、52aを圧着可能に配置されている。
【0029】
第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cは、所謂皿バネの一種で、円環状に形成され、その外縁部から軸心に向かってその厚さ方向に傾斜する複数のダイヤフラムが形成されている。第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cは、その複数のダイヤフラムにより、その厚さ方向に付勢力を発生する。第1ダイアフラムスプリング51cは、センタープレート55を挟んで、入力軸方向に第1プレッシャプレート51bと反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング51cの外径部と第1プレッシャプレート51bとは円筒状の連結部51dによって連結されている。また第1ダイアフラムスプリング51cは、センタープレート55から延在している腕部55aの先端部に支持されている。
【0030】
第1クラッチアクチュエータ61の非作動時には、第1ダイアフラムスプリング51cの付勢力によって、連結部51dがエンジン110側に付勢され、第1プレッシャプレート51bが第1クラッチディスク51aから離間している。
【0031】
一方で、第1クラッチアクチュエータ61の作動により、第1ダイアフラムスプリング51cの内径部がエンジン110側に向かって押圧されると、第1ダイアフラムスプリング51cの外径部のエンジン110方向への付勢力は減衰する。それとともに、センタープレート55から延在している腕部55aの先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング51cの外径部は、エンジン110とは反対方向に移動される。これによって第1プレッシャプレート51bは、第1クラッチディスク51a方向に移動し、やがてセンタープレート55との間で第1クラッチディスク51aを挟持して圧着する。そして完全に係合してエンジン110の回転駆動力が第1入力軸21に伝達される(図3示)。
【0032】
また、第2ダイアフラムスプリング52cは、センタープレート55の腕部55aのエンジン110側に配置され、第2プレッシャプレート52bを挟んで、入力軸方向に第2クラッチディスク52aと反対側に配置されている。通常時においては、第2プレッシャプレート52bと第2クラッチディスク52aとは離間していて互いに圧着されない(図3示)。
【0033】
そして、第2ダイアフラムスプリング52cの内径部がエンジン110側に向かって押圧されると、腕部55aに接触する第2ダイアフラムスプリング52cの外径部を支点として、第2プレッシャプレート52bが第2ダイアフラムスプリング52cに押されて第2クラッチディスク52a方向に移動し、やがてセンタープレート55との間で第2クラッチディスク52aを挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン110の回転駆動力が第2入力軸22に伝達される。
【0034】
上述した第1ダイアフラムスプリング51cの内径部、及び、第2ダイアフラムスプリング52cの内径部の押圧は、それぞれ、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62によって行われる。第1、第2クラッチアクチュエータ61、62は、それぞれ電動モータ61a、62a、ロッド61b、62b、伝達部61c、62c、ストロークセンサ61d、62d、第1、第2ドライバ61e、62eを有している。
【0035】
電動モータ61a、62aは、それぞれ、第1、第2ドライバ61e、62eから供給される駆動電流により回転する。第1、第2ドライバ61e、62eは、変速制御部140eから出力される指令(「変速指令」)に基づき、電動モータ61a、62aに駆動電流を供給する。電動モータ61a、62aが回転すると、図示しない動力伝達機構により、ロッド61b、62bは、直線運動(進退動)する。なお、動力伝達機構には、ボールネジ、ウォームギヤ及びウォームホイール、ラック・アンド・ピニオン等が含まれる。伝達部61c、62cは、それぞれ、ロッド61b、62bの先端に形成され、第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cの内径部と当接し、ロッド61b、62bの直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング51c、52cの内径部に伝達する。
【0036】
ストロークセンサ61d、62dは、ロッド61b、62bの直線運動のストロークL1、L2(動作量)を検出する。そして、ストロークセンサ61d、62dにより検出されたロッド61b、62bの直線運動のストロークL1、L2(クラッチ伝達トルクTc1、Tc2に関する情報)は、図1に示されるように、TCU140の変速制御部140eに出力される。
【0037】
図5に示されるように、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62の各ストロークL1、L2が増大するにつれて、第1、第2クラッチ51、52のそれぞれ第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2は増大する。なお、第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2とは、それぞれ、第1、第2クラッチ51、52による係合力のことを言い、第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2が最大(Tc max)の場合には、駆動軸11とそれぞれ第1入力軸21、第2入力軸22が完全に係合し直結状態となる。変速制御部140eは、ストロークセンサ61d、62dから入力されるストロークL1、L2に基づき、電動モータ61a、62aに供給される駆動電流を調整する指令(「変速指令」)を第1、第2ドライバ61e、62eに出力し、所望の第1、第2クラッチ伝達トルクTc1、Tc2となるように、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62のストロークL1、L2を制御する。
【0038】
(デュアルクラッチ式自動変速機の詳細構造の説明)
次に、図2に戻って、自動変速機120の詳細構造について説明する。
自動変速機120は、第1入力軸21と出力軸25との間に設けられた第1変速機構A30−1、B30−2、第2入力軸22と出力軸25との間に設けられた第2変速機構A30−3、B30−4、第1副軸23と出力軸25とを連結する第1リダクションギヤ列39b、39cと、第2副軸24と出力軸25とを連結する第2リダクションギヤ列39a、39cを備えている。
【0039】
第1変速機構A30−1、B30−2は、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速ギヤ列31a、31b、33a、33b、35a、35b、37a、37b(奇数段変速部材)と、これら複数の奇数段ギヤ列から1つの奇数段ギヤ列を選択する第1選択機構A40−1、B40−2とから構成されている。
【0040】
第1変速機構A30−1は、第1速ギヤ列31a、31bと、第3速ギヤ列33a、33bと、第1選択機構A40−1とから構成されている。第1速ギヤ列31a、31bは、第1入力軸21に固定された第1速駆動ギヤ31aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第1速従動ギヤ31bとから構成されている。第3速ギヤ列33a、33bは、第1入力軸21に固定された第3速駆動ギヤ33aと、第1副軸23に回転自在に設けられた第3速従動ギヤ33bとから構成されている。
【0041】
第1選択機構A40−1は、クラッチハブLと、第1速係合部材S1と、第3速係合部材S3と、シンクロナイザリングOと、スリーブMとにから構成されている。クラッチハブLは、第1速従動ギヤ31bと第3速従動ギヤ33bとの軸方向間となる第1副軸23にスプライン固定されている。第1速係合部材S1及び第3速係合部材S3は、第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bのそれぞれに、例えば圧入などにより固定されている。シンクロナイザリングOは、クラッチハブLと軸方向両側の各係合部材S1、S3との間にそれぞれ介在されている。スリーブMは、クラッチハブLの外周に軸方向移動自在にスプライン係合されている。
【0042】
この第1選択機構A40−1は、第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bの一方と第1副軸23との係合を可能とし、かつ、第1速従動ギヤ31b及び第3速従動ギヤ33bの両者を第1副軸23に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0043】
第1選択機構A40−1は、シフトフォークNを移動させるシフトアクチュエータ(図示せず)を備えている。シフトアクチュエータには、電気モータや油圧により駆動されるアクチュエータが含まれる。変速制御部140eがシフトアクチュエータに後述の「シフト指令」を出力すると、シフトアクチュエータはシフトフォークNを第1速従動ギヤ31b又は第3速従動ギヤ33bのいずれかの方向に移動させる。
【0044】
第1選択機構A40−1のスリーブMは、中立位置ではいずれの係合部材S1、S3とも係合されていない。シフトフォークNによりスリーブMが第1速従動ギヤ31b側にシフトされれば、スリーブMは、まずそちら側のシンクロナイザリングOにスプライン係合して第1副軸23と第1速従動ギヤ31bとの回転を同期させ、次いで第1速係合部材S1の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸23と第1速従動ギヤ31bとを一体的に連結して第1速段を形成する。また、シフトフォークNによりスリーブMが第3速従動ギヤ33b側にシフトされれば、同様にして第1副軸23と第3速従動ギヤ33bとの回転を同期させた後に、この両者を一体的に連結して第3速段を形成する。
【0045】
第1変速機構B30−2は、第5速ギヤ列35a、35bと、第7速ギヤ列37a、37bと、第1選択機構B40−2とから構成されている。第5速ギヤ列35a、35bは、第1入力軸21に固定された第5速駆動ギヤ35aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第5速従動ギヤ35bとから構成されている。第7速ギヤ列37a、37bは、第1入力軸21に固定された第7速駆動ギヤ37aと、第2副軸24に回転自在に設けられた第7速従動ギヤ37bとから構成されている。
【0046】
第1選択機構B40−2は、実質的に第1選択機構A40−1と同じ構造により構成されている。第1選択機構B40−2においては、第5速係合部材S5及び第7速係合部材S7がそれぞれ第5速従動ギヤ35b及び第7速従動ギヤ37bに固定されている点が第1選択機構A40−1と相違する。この第1選択機構B40−2は、第1選択機構A40−1と同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0047】
第1選択機構B40−2において第5速段及び第7速段を形成する動作は、実質的に第1選択機構A40−1において第1速段及び第3速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0048】
第2変速機構A30−3、B30−3は、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速ギヤ列32a、32b、34a、34b、36a、36b(偶数段変速部材)と、これら複数の偶数段ギヤ列から1つの偶数段ギヤ列を選択する第2選択機構A40−3、B40−3とから構成されている。
【0049】
第2変速機構A30−3は、第2速ギヤ列32a、32bと、第6速ギヤ列36a、36bと、後進段駆動ギヤ38aと、第2選択機構A40−3とから構成されている。第2速ギヤ列32a、32bは、第2入力軸22に固定された第2速駆動ギヤ32aと第2副軸24に回転自在に設けられた第2速従動ギヤ32bとから構成されている。第6速ギヤ列36a、36bは、第2入力軸22に固定された第6速駆動ギヤ36aと第2副軸24に回転自在に設けられた第6速従動ギヤ36bとから構成されている。
【0050】
後進段駆動ギヤ38aは、第2速従動ギヤ32bに一体に形成されており、第2速従動ギヤ32bよりも車両右側(図2中右方)に設けられ、第2副軸24に回転自在に設けられている。この後進段駆動ギヤ38aは、第1副軸23に回転自在に設けられている後進段従動ギヤ38bに噛合している。
【0051】
第2選択機構A40−3は、実質的に第1選択機構A40−1と同じ構造より構成されている。第2選択機構A40−3においては、第2速係合部材S2及び第6速係合部材S6がそれぞれ第2速従動ギヤ32b及び第6速従動ギヤ36bに固定されている点が第1選択機構A40−1と相違する。この第2選択機構A40−3は、第1選択機構A40−1と同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0052】
第2選択機構A40−3において第2速段及び第6速段を形成する動作は、実質的に第1選択機構A40−1において第1速段及び第3速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0053】
第2変速機構B30−4は、第4速ギヤ列34a、34bと、後進段従動ギヤ38bと、第2選択機構B40−4とから構成されている。第4速ギヤ列34a、34bは、第2入力軸22に固定された第4速駆動ギヤ34a(上述した第6速駆動ギヤ36aを兼ねる)と、第1副軸23に回転自在に設けられた第4速従動ギヤ34bとから構成されている。後進段従動ギヤ38bは、第1副軸23に回転自在に設けられている。
【0054】
第2選択機構B40−4は、実質的に第1選択機構A40−1と同じ構造より構成されている。第2選択機構B40−4においては、第4速係合部材S4及び後進係合部材SRがそれぞれ第4速従動ギヤ34b及び後進段従動ギヤ38bに固定されている点が第1選択機構A40−1と相違する。この第2選択機構B40−4は、第1選択機構A40−1と同様の周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0055】
第2選択機構B40−4において第4速段及び後進段を形成する動作は、実質的に第1選択機構A40−1において第1速段及び第3速段を形成する動作と同じであるため、説明を省略する。
【0056】
(変速マップデータの説明)
次に、図4を用いて「変速マップデータ」の説明をする。図4に示されるように、「変速マップデータ」は、アクセル開度と車速との関係を表した線である「シフト線」及び「変速線」を複数有している。車両100の走行状態が「シフト線」を越えると、変速制御部140eからシフトアクチュエータに「シフト指令」が発せられ、上述の変速段が形成され、シフトが実行される。また、車両100の走行状態が「変速線」を越えると、変速制御部140eから第1、第2クラッチアクチュエータ61、62に「変速指令」が発せられ、第1クラッチ51と第2クラッチ52のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えられて変速が実行される。
【0057】
図4に示されるように、増速方向に向かって(速度が低い方から速度が高い方に向かって)順に、第2速アップシフト線、第2速アップ変速線、第3速アップシフト線、第3速アップ変速線が設定されている。また、減速方向に向かって(速度が高い方から低い方に向かって)順に、第2速ダウンシフト線、第2速ダウン変速線、第1速ダウンシフト線、第1速ダウン変速線が設定されている。これ以上の変速段(第3速〜第7速)についても、同様に、「変速線」及び「シフト線」が設定されている。
【0058】
「シフト線」は、シフトが実行される際に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段へのシフトの要否を判断するための基準線である。図4に示されるように、「アップシフト線」は増速方向に向かってこれに対応する「アップ変速線」の手前側に存在する。一方で、「ダウンシフト線」は減速方向に向かってこれに対応する「ダウン変速線」の手前側に存在する。
【0059】
変速制御部140eが、アクセル開度Aと車速Vからなる車両100の走行状態から「シフト線」を越えたと判断した場合には、変速制御部140eは「シフト指令」を発し、シフトを実行する。具体的には、変速制御部140eが、第1、第2選択機構40−1〜40−4のいずれかのシフトアクチュエータに「シフト指令」を出力し、前記アクチュエータが第1、第2選択機構40−1〜40−4のいずれかを作動させ、第1変速機構A30−1、B30−2及び第2変速機構A20−3、B20−4のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されていない側の変速機構の「変速部材」を選択させることにより変速段を形成し、シフト(プレシフト)を実行する。例えば、車両100が第2速段で走行中に、第3速アップシフト線を越えた場合には(図4のjの領域からkの領域に遷移した場合に)、変速制御部140eは、第3速段への「シフト指令」を発し、第3速段を形成する。
【0060】
「変速線」は車両100の変速時に利用されるマップデータであり、一の変速段から他の変速段への変速の要否を判断するための基準線である。変速制御部140eが、アクセル開度Aと車速Vからなる車両100の走行状態が「変速線」を越えたと判断した場合には、変速制御部140eは「変速指令」を発し、変速を実行する。この変速の実行については、後で詳細に説明する。なお、本実施形態では、車両100の減速時において、アクセル開度Aが0の場合には、「ダウン変速線」によらずに、後述の判断方法により、より低い変速段に変速するか否かが判断される。
【0061】
(デュアルクラッチの繋ぎ替えの説明)
次に、変速の実行、即ち、デュアルクラッチ50の繋ぎ替えについて説明する。変速が実行される場合には、変速制御部140eは、第1、2クラッチアクチュエータ61、62に「変速指令」を出力し、第1、2クラッチアクチュエータ61、62を制御することにより、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11から離脱される入力軸に対応するクラッチを離脱状態にする「離脱制御」を行う。それと同時に、変速制御部140eは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と接続される入力軸に対応するクラッチを徐々に係合させることにより、入力軸と駆動軸11の回転を同期させて前記入力軸と駆動軸11を係合させる「係合制御」を行うことにより変速を実行する。
【0062】
次に、図6を用いて、具体的に説明する。車両100が第1速で走行中している状態では、第1クラッチ51は完全に係合している状態であり、一方で、第2クラッチ52は完全に離脱している状態である。車両100が第1速で走行中に、第2速への「変速指令」が発せられると、第1ドライバ61eは、「変速指令」に基づき、駆動電流を電動モータ61aに供給して第1クラッチアクチュエータを作動させることにより、ストロークL1を徐々に減少させ、クラッチ伝達トルクTc1を徐々に減少させ、第1入力軸21を駆動軸11から離脱させる(「離脱制御」)。
【0063】
これと同時に、第2ドライバ62eは、「変速指令」に基づき、駆動電流を電動モータ62aに供給して第2クラッチアクチュエータ62を作動させることにより、ストロークL2を徐々に増大させ、第2クラッチ伝達トルクTc2を徐々に増大させる。この際に、第2入力軸22と駆動軸11との回転差が、徐々に無くなり、同期されて一致する。そして、第2クラッチ伝達トルクTc2が最大(Tc max)となると、第2入力軸22と駆動軸11が完全に係合(直結)し、第2速への変速が完了する。このようにして、第1クラッチ51から第2クラッチへの繋ぎ替えが行われて、第1速から第2速への変速が実行される。このように、回転差のある第2入力軸22と駆動軸11とが徐々に同期されるので、変速時の変速ショックが緩和される。
【0064】
これ以上への変速段への変速や、より低い変速段への変速も、同様に、第1クラッチ51と第2クラッチ52のうち駆動軸11からの回転駆動力が伝達されている側のクラッチから前記回転駆動力が伝達されていない側のクラッチに繋ぎ替えられることにより行われる。
【0065】
(デュアルクラッチ式自動返送機の動作の説明)
次に、自動変速機120の動作について説明する。
<不作動状態→第1速段>
不作動状態において、第1、第2選択機構40−1〜40−4は中立位置にあり、第1、第2クラッチ51、52は、離脱状態となっている。
【0066】
停車状態においてエンジン110を起動させた場合にも、上記不作動状態と同様の状態を維持する。そして、停車状態においてエンジン110を起動させた後に、自動変速機120のシフトレバー160を前進位置とすれば、TCU140の変速制御部140eは、「シフト指令」を第1選択機構A40−1のシフトアクチュエータに出力し、スリーブMを第1速係合部材S1に係合させて第1副軸23と第1速従動ギヤ31bとを一体的に連結して第1速段を形成させる。このとき、その他の各選択機構40−2〜40−4は中立位置にある。
【0067】
この状態でアクセル開度Aが増大し、変速制御部140eが、エンジン回転数検出センサ121で検知されたエンジン回転数Neが所定の回転数を越えたと判断した場合には、アクセル開度Aに合わせてデュアルクラッチ50の第1クラッチ51のクラッチ伝達トルクTcを徐々に増加させる指令を、第1クラッチアクチュエータ61に出力する。これにより駆動軸11の回転駆動力は、第1クラッチ51から第1入力軸21、第1速ギヤ列31a、31b、第1選択機構A40−1の第1速係合部材S1、第1副軸23、第1リダクションギヤ列39b、39cを介して出力軸25に伝達され、車両100は第1速で走行し始める。
【0068】
<第2速段へのアップシフト>
車両の車速が増大する等して、変速制御部140eが「第2速アップシフト線」(図4示)を越えたと判断した場合には(mの領域からnの領域に遷移したと判断した場合には)、変速制御部140eは、第2選択機構A40−3のシフトアクチュエータに「シフト指令」を出力し、スリーブMを第2速係合部材S2に係合させて第2副軸24と第2速従動ギヤ32bとを一体的に連結して第2速段を形成させる。
【0069】
<第1速段→第2速段へのアップ変速>
変速制御部140eが「第2速アップ変速線」(図4示)を越えたと判断した場合には(hの領域からiの領域に遷移したと判断した場合には)、変速制御部140eは、「変速指令」を第1クラッチアクチュエータ61及び第2クラッチアクチュエータ62に出力し、デュアルクラッチ50を第1クラッチ51側から第2クラッチ52側に繋ぎ替える。
【0070】
これにより駆動軸11の回転駆動力は、第2クラッチ52から第2入力軸22、第2速ギヤ列32a、32b、第2選択機構A40−3の第2速係合部材S2、第2副軸24、第2リダクションギヤ列39a、39cを介して出力軸25に伝達され、車両100は第2速で走行する。
【0071】
同様にして、変速制御部140eは、「第3速〜7速アップシフト線」や「第6速〜第1速ダウンシフト線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、各シフトアクチュエータに「シフト指令」を出力して、第1速段〜第7速段を形成する。
また、変速制御部140eは、「第3速〜第7速アップ変速線」、「第6速〜第1速ダウン変速線」を越えたか否かを判断し、これらの線を越えたと判断した場合には、第1クラッチアクチュエータ61や第2クラッチアクチュエータ62に「変速指令」を出力して、第1クラッチアクチュエータ61や第2クラッチアクチュエータ62を作動させて、第1クラッチ51と第2クラッチ52を交互に繋ぎ替えて、第1速段〜第7速段での走行が行われるようにする。
【0072】
(本発明による変速動作の概要)
本発明では、車両100の減速時に現在の変速段より低い変速段への「変速指令」が発せられた場合に、変速制御部140e(減速時クラッチ係合力抑制手段)が、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62の動作量(ストロークL1、L2)を制御することにより、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1、Tc2を抑制して、エンジン110の回転の上昇を抑制する。
【0073】
つまり、車両100の減速時に現在の変速段より低い変速段に変速する際に、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチが所謂半クラッチ状態とされ、この半クラッチ状態が維持される。この結果、エンジン110の回転の上昇が抑制され、エンジン110の回転数の上昇に伴うエンジンの回転抵抗が減少する。また、クラッチ51、52の係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制される。このように、エンジン110の回転抵抗自体が減少すること、及びエンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制されることから、車両100の急激な減速が緩和される。以下に、車両100の減速時に現在の変速段より低い変速段に変速する際に、クラッチ51、52の係合力を抑制するとともに、エンジン110の回転数の上昇を抑制する制御方法について詳細に説明する。
【0074】
(減速時変速制御開始・終了処理の説明)
上述した本発明の自動変速機120の作動について図7〜図12を参照して説明する。自動変速機120は作動状態となると、図7に示される「減速時変速制御開始・終了処理」を順次実行する。まず、ステップ20において、TCU140は、ECU111から入力されるアクセル開度A、及び、車速検出部140aで算出された車速Vに基づき、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であるか否かを判断する。TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であると判断した場合には(ステップ20で「YES」と判断)、プログラムをステップ30以降に進める。一方で、TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中でないと判断した場合には(ステップ20で「NO」と判断)、ステップ20の処理を繰り返す。
【0075】
そして、TCU140は、ステップ30において「減速時将来入力軸情報算出処理」(図8示)を開始させ、ステップ40において「目標エンジン回転数情報算出処理」(図9示)を開始させ、ステップ60において「減速時変速制御処理」(図10示)を開始させ、プログラムをステップ60に進める。
【0076】
ステップ60において、TCU140は、ECU111から入力されるアクセル開度A、及び、車速検出部140aで算出された車速Vに基づき、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であるか否かを判断する。TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中であると判断した場合には(ステップ60で「YES」と判断)、ステップ60の処理を繰り返す。一方で、TCU140が、アクセル開度Aが0であり、且つ、車両100の車速Vが減速中でないと判断した場合には(ステップ60で「NO」と判断)、プログラムをステップ70に進める。
【0077】
ステップ70において、TCU140は、「減速時将来入力軸情報算出処理」、「目標エンジン回転数情報算出処理」、「減速時変速制御処理」の各種処理を終了させ、プログラムをステップ20に戻す。
【0078】
(減速時将来入力軸情報算出処理の説明)
図8を用いて、図7の「減速時将来入力軸情報算出処理開始」(ステップ30)により開始する「減速時将来入力軸情報算出処理」について説明する。「減速時将来入力軸回転数情報算出処理」が開始されると、ステップ302において、将来車速情報算出部140b(将来車速情報検出手段)は、減速時将来車速情報FVTを算出する。減速時将来車速情報FVTは、図11に示されるように、車両100の減速時における将来の車速Vと将来の時刻との関係を表した情報である。具体的には、将来車速情報算出部140bは、車速検出部140aで算出された車両100の車速Vの変化に基づき、減速時将来車速情報FVTを算出する。ステップ302が終了すると、TCU140は、プログラムをステップ304に進める。
【0079】
ステップ304において、将来入力軸回転数情報算出部140c(将来入力軸回転数情報算出手段)は、減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2(図11、図12示)を算出する。減速時将来入力軸回転数情報FN1は、車両100の減速時における、第1入力軸21の回転数と将来の時刻との関係を表した情報である。また、減速時将来入力軸回転数情報FN2は、車両100の減速時における、第2入力軸22の回転数と将来の時刻との関係を表した情報である。具体的には、将来入力軸回転数情報算出部140cは、減速時将来車速情報FVTと現在の変速段の減速比及び現在よりも1つ低い変速段の減速比に基づき、減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2を算出する。ステップ304が終了すると、TCU140は、プログラムをステップ302に戻す。将来車速情報算出部140bや将来入力軸回転数情報算出部140cは、それぞれステップ302、ステップ304の処理を、数ミリ秒毎に実行する。これにより、リアルタイムで、減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2が算出される。
【0080】
(目標エンジン回転数情報算出処理の説明)
図9を用いて、図7の「目標エンジン回転数情報算出処理開始」(ステップ40)により開始する「目標エンジン回転数情報算出処理」について説明する。この「目標エンジン回転数情報算出処理」において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、目標エンジン回転数情報TNe(目標エンジン回転数)を算出する。なお、目標エンジン回転数情報TNeとは、図11や図12に示されるように、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段に変速する際における、係合される側の入力軸21、22と駆動軸11との同期中のエンジン110の目標となる回転数と、将来の時刻との関係を表した情報である。つまり、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の入力軸21、22に駆動軸11を同期させるための目標となるエンジン110の回転数である。
【0081】
「目標エンジン回転数情報算出処理」が開始されると、ステップ204において、目標エンジン回転数情報算出部140dは「係合処理」の実行中であるか否かを判断する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1、第2入力軸回転数検出センサ125、126から入力される第1、第2入力軸回転数N1、N2と、エンジン回転数検出センサ121で検出されたエンジン回転数Neに基づき、駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2とエンジン回転数Neが一致していない場合には、「係合処理」の実行中と判断し(ステップ204で「YES」と判断)、プログラムをステップ220に進める。一方で、目標エンジン回転数情報算出部140dが、駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2とエンジン回転数Neが一致している場合には、「係合処理」の実行中でないと判断し(ステップ204で「NO」と判断)、プログラムをステップ206に進める。
【0082】
ステップ206において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、フューエルカット終了時刻Tfc1を算出する。フューエルカット終了時刻Tfc1とは、エンジン110の回転数(つまり、駆動軸11と係合している入力軸21、22の回転数)が、フューエルカット下限回転数(図11や図12に示す)に達する時刻である。なお、ここでフューエルカット下限回転数とは、エンジン110への燃料の供給が停止又は開始される下限の回転数(閾値)である。つまり、車両100の減速時であって、且つ、アクセル開度Aが0である場合において、エンジン回転数がフューエルカット下限回転数よりも高い場合には、エンジン110への燃料の供給が停止されて、無駄な燃料消費が防止される一方で、エンジン回転数がフューエルカット下限回転数よりも低い場合には、エンジン110への燃料の供給が開始されて、エンジン110の停止(エンジン ストール)が防止されるようになっている。このフューエルカット下限回転数は、エンジン110の水温、車両100に供給される電気の負荷、車両100に搭載されるエアーコンディショナ(不図示)のON・OFF等により変動し、概ね800〜1500rpmである。このフューエルカット下限回転数は、ECU111で算出され、TCU140に出力される。目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と係合中の入力軸の減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2(図8のステップ304で算出)に基づき、減速時将来入力軸回転数情報(図12においてはFN1)が、フューエルカット下限回転数に達する将来の時刻を、フューエルカット終了時刻Tfc1として算出する(図12の(1))。ステップ206が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ210に進める。
【0083】
ステップ210において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2を算出する。変速後フューエルカット終了時刻Tfc2とは、変速完了後(「係合処理」処理完了後)の回転数が、フューエルカット下限回転数に達する時刻である。つまり、つまり、離脱状態にある入力軸21、22が駆動軸11に係合したと仮定した場合における前記入力軸の回転数が、フューエルカット下限回転数に達する時刻である。目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と離脱状態にある入力軸の減速時将来入力軸回転数情報FN1、FN2(図8のステップ304で算出)に基づき、減速時将来入力軸回転数情報(図12においてはFN2)が、フューエルカット下限回転数に達する将来の時刻を、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2として算出する(図12の(2))。ステップ210が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ214に進める。
【0084】
ステップ214において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、「係合制御」における入力軸21、22と駆動軸11との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻Tsを算出する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2から、係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻を、同期完了目標時刻Tsとして算出する(図12の(3))。なお、係合応答遅れ時間Tdとは、「ダウン変速指令」が発せられた時から実際にクラッチ51、52の係合が開始されるまでの応答遅れ時間である。係合応答遅れ時間Tdは、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62の応答遅れ(ギヤのバックラッシュ等)や、センタープレート55から離間している第1クラッチディスク51aや第2クラッチディスク52aがセンタープレート55に接するまでの経過時間等により生じ、目標エンジン回転数情報算出部140dは係合応答遅れ時間Tdを認識している。ステップ214が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ216に進める。
【0085】
ステップ216において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、「係合制御」における入力軸21、22と駆動軸11との同期完了時のエンジン100の回転数である同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する。具体的には目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と離脱中の入力軸の減速時将来入力軸回転数情報(図12においてはFN2)に、同期完了目標時刻Tsを代入することにより、同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する(図12の(4))。ステップ216が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ218に進める。
【0086】
ステップ218において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、目標エンジン回転数情報TNeを算出する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、ステップ206で算出されたフューエルカット終了時刻Tfc1及びフューエルカット下限回転数に基づき、係合開始目標座標Aを認識するとともに、ステップ214、216で算出された同期完了目標時刻Ts及び同期完了目標エンジン回転数SNeに基づき、同期完了目標座標Bを認識する。そして、目標エンジン回転数情報算出部140dは、係合開始目標座標A及び同期完了目標座標Bを通る直線又は曲線(図12の(5))を、目標エンジン回転数情報TNeとして算出する。なお、係合開始目標座標Aは、時刻FT(横軸)がフューエルカット終了時刻Tfc1であり、回転数N(縦軸)がフューエルカット下限回転数である座標である。また、同期完了目標座標Bは、時刻FT(横軸)が同期完了目標時刻Tsであり、回転数N(縦軸)が同期完了目標エンジン回転数SNeである座標である。このようにして、目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチの係合が開始するエンジン110の回転数がフューエルカット下限回転数となり、係合される入力軸21、22と駆動軸11との同期完了時が同期完了目標時刻Tsとなり、且つ、同期完了時のエンジン110の回転数が同期完了目標エンジン回転数SNeとなる目標エンジン回転数情報TNeを算出する。ステップ218が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムを204に戻す。
【0087】
ステップ220において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、上述したステップ210と同様の処理により、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2を算出する。ステップ220が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ224に進める。
【0088】
ステップ224において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、上述したステップ214と同様の処理により、同期完了目標時刻Tsを算出する。ステップ224が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ226に進める。
【0089】
ステップ226において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、上述したステップ216と同様の処理により、同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する。ステップ226が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ228に進める。
【0090】
ステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、目標エンジン回転数情報TNeを算出する。具体的には、目標エンジン回転数情報算出部140dは、現在の時刻及びエンジン回転数検出センサ121で検出されたエンジン回転数Neに基づき現在座標Cを認識するとともに、ステップ224、226で算出された同期完了目標時刻Ts及び同期完了目標エンジン回転数SNeに基づき、同期完了目標座標Bを認識し、現在座標C及び同期完了目標座標Bを通る直線又は曲線(図12の(6))を、目標エンジン回転数情報TNeとして算出する。ステップ228が終了すると、目標エンジン回転数情報算出部140dは、プログラムをステップ204に戻す。このように、ステップ220〜228の処理により、「係合処理」が実行中に車両100の車速Vの減速度が変化した場合であっても、リアルタイムで、目標エンジン回転数情報TNeが補正されて算出される。
【0091】
(減速時変速制御処理)
図10を用いて、図7の「減速時変速制御処理開始」(ステップ50)により開始する「減速時変速制御処理」について説明する。「減速時変速制御処理」が開始すると、ステップ104において、TCU140は、車両100の走行状態が、より低い変速段への「変速指令」(「ダウン変速指令」)を発する状態になったか否かを判断する。具体的には、TCU140は、ステップ206(図9示)で算出されたフューエルカット終了時刻Tfc1よりも係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻に達したか否かを判断する。TCU140が、フューエルカット終了時刻Tfc1よりも係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻に達したと判断した場合には(ステップ104で「YES」と判断)、プログラムをステップ106に進める。一方で、TCU140が、フューエルカット終了時刻Tfc1よりも係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻に達していないと判断した場合には(ステップ104で「NO」と判断)、ステップ104の処理を繰り返す。
【0092】
ステップ106において、変速制御部140eは、第1、第2クラッチアクチュエータ61、62に「ダウン変速指令」を出力して、「離脱・係合制御」を開始させる(図12の(7))。具体的には、変速制御部140eは、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のいずれかを制御することにより、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11から離脱される入力軸に対応するクラッチ51、52を離脱状態にする「離脱制御」を行う。これと同時に、変速制御部140eは、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のいずれかを制御することにより、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち駆動軸11と係合される入力軸21、22に対応するクラッチ51、52を、入力軸21、22と駆動軸11の回転が徐々に同期するように係合させる「係合制御」を開始させる。この「係合制御」において、変速制御部140eは、係合される入力軸21、22に対応するクラッチ51、52による係合力が目標クラッチ伝達トルクTcaとなるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のストロークL1、L2を制御する。
なお、目標クラッチ伝達トルクTcaは下記[数1]により演算される。
【0093】
[数1]
Tca =Te
Tca:目標クラッチ伝達トルク
Te:現在のエンジン回転抵抗(トルク換算)
【0094】
変速制御部140eは、エンジン回転数検出センサ121によって検出されたエンジン回転数Neに基づき、現在のエンジン回転抵抗Teを算出し、この現在のエンジン回転抵抗Teを目標クラッチトルクTcaとする。このように、目標クラッチ伝達トルクTcaを現在のエンジン回転抵抗Teと等しい値とすることにより、エンジン110の回転数の低下が防止される。また、初期値として目標クラッチトルクTcaとなるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62のストロークL1、L2を制御することにより、後述のステップ108、〜116において、早期にエンジン回転数Neを目標エンジン回転数情報TNeに一致させることができる。
ステップ106が終了すると、TCU140は、プログラムをステップ108に進める。
【0095】
ステップ108において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、エンジン回転数検出センサ121によって検出されたエンジン回転数Neとステップ218又はステップ228の処理(図9示)で算出された目標エンジン回転数情報TNeに現在の時刻を代入して導き出される現在の「目標エンジン回転数」と比較する。変速制御部140eが、エンジン回転数Neと「目標エンジン回転数」が一致していると判断した場合には(ステップ108で「一致」と判断)、プログラムを110の処理に進める。一方で、変速制御部140eが、エンジン回転数Neが「目標エンジン回転数」に対して低いと判断した場合には(ステップ108で「低い」と判断)、プログラムを112の処理に進める。また、変速制御部140eが、エンジン回転数Neに対して「目標エンジン回転数」が高いと判断した場合には(ステップ108で「高い」と判断)、プログラムを114の処理に進める。
【0096】
ステップ110において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1、Tc2が維持されるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62を制御する。ステップ110が終了すると、変速制御部140eは、プログラムをステップ116に進める。
【0097】
ステップ112において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1、Tc2が上がるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62を制御する。ステップ112が終了すると、変速制御部140eは、プログラムをステップ116に進める。
【0098】
ステップ114において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチのクラッチ伝達トルクTc1又はクラッチ伝達トルクTc2が下がるように、第1クラッチアクチュエータ61又は第2クラッチアクチュエータ62を制御する。ステップ114が終了すると、変速制御部140eは、プログラムをステップ116に進める。
【0099】
ステップ116において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、エンジン回転数Neと駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2とを比較して、両者が一致しているか否かを判断する。変速制御部140eが、エンジン回転数Neが、エンジン回転数Neと駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2と一致していると判断した場合には(ステップ116でYESと判断)、プログラムをステップ104に戻す。一方で、変速制御部140eが、エンジン回転数Neと駆動軸11に係合される側の入力軸21、22の第1、第2入力軸回転数N1、N2が一致していないと判断した場合には(ステップ116でNOと判断)、プログラムをステップ108に戻す。
【0100】
上述した説明から明らかなように、図10に示されるステップ108〜116の処理において、図11の将来の時刻とクラッチ伝達トルクTcの関係に示されるように、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、車両100の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合の「係合制御」において、係合される側のクラッチ51、52のクラッチアクチュエータ61、62を制御することにより、「離脱制御」が完了した後においても、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち係合される側の入力軸と駆動軸11の回転が同期するまで、係合される側のクラッチ51、52の係合力(クラッチ伝達トルクTc)を抑制した状態を維持する。このように、「離脱制御」が完了した後においても、入力軸21、22と駆動軸11の回転が同期するまで、係合される側のクラッチ51、52の係合力(クラッチ伝達トルクTc)が抑制された状態が維持される。このため、「離脱制御」の完了と同時に「係合制御」が完了する従来のデュアルクラッチ式自動変速機と比較して、エンジンの回転上昇が抑制される。
【0101】
これにより、減速中の車両100がより低い変速段に変速する際における係合制御において、エンジン110の回転数の上昇に伴うエンジン110の回転抵抗が減少する。また、前記係合制御において、クラッチ伝達トルクTcが抑制された状態が維持され、つまり、クラッチ51、52の係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制される。このように、エンジン110の回転抵抗自体が減少すること、及びクラッチ51、52の係合力が抑制された状態が維持されることから、エンジン110の回転抵抗の駆動輪TFL、TFRへの伝達が抑制されることから、図11の将来の時刻と車両加速度の関係に示されるように、前記係合制御において、従来に比べて本発明では、変速(クラッチの繋ぎ替え)に伴う車両加速度(減速度)の急激な変化が抑制される。このため、車両100の減速時により低い変速段の変速する際において、車両100の急激な減速が緩和され、良好な変速フィーリングを得ることができる。なお、エンジン110の回転抵抗には、エンジン110の回転に伴う摺動抵抗、及び、エンジン110の回転上昇に伴うエンジン110の慣性トルクの増大が含まれる。
【0102】
また、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の入力軸21、22に駆動軸11を同期させるための目標エンジン回転数情報TNeを算出する。そして、図10のステップ108〜114において、「減速時クラッチ係合力抑制手段」である変速制御部140eは、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数情報TNeのエンジン回転数となるように、クラッチアクチュエータ61、62を制御する。このように、目標エンジン回転数情報TNe(目標エンジン回転数)が算出され、エンジン回転数Neが目標エンジン回転数情報TNeとなるように制御されるので、より精度高く「係合制御」時におけるエンジンの回転数の上昇を制御することができる。
【0103】
また、図8のステップ302において、将来車速情報算出部140b(将来車速情報算出手段)は、車両100の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報FVTを、車速検出部140aで検出された車両100の車速Vの変化に基づき算出する。そして、図8のステップ304において、将来入力軸回転数情報算出部140c(将来入力軸回転数情報算出手段)は、車両100の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における第1入力軸21及び第2入力軸22のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報FNを、減速時将来車速情報FVTに基づき算出する。そして、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、目標エンジン回転数情報TNeを、減速時将来入力軸回転数情報FNのエンジン回転数以下となるように算出する。これにより、「係合制御」において、従来の自動変速機と比較して、確実にエンジン110の回転数が低くなる目標エンジン回転数情報TNeが算出される。
【0104】
また、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、エンジン110のフューエルカット下限回転数より高いエンジン回転数を、目標エンジン回転数情報TNeとして算出する。これにより、「係合制御」が行われている間、常にフューエルカットが実行され、燃料が無駄に消費されない。
【0105】
また、図9のステップ210やステップ220において、目標エンジン回転数情報算出部140d(目標エンジン回転数算出手段)は、減速時将来入力軸回転数情報FNに基づき、第1入力軸21及び第2入力軸22のうち係合される側の入力軸21、21の回転数がフューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻Tfc2(図12示)を算出する。次に、図9のステップ214やステップ224において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、変速後フューエルカット終了時刻Tfc2よりも、「変速指令」が発せられた時から「係合制御」が開始されるまでの係合応答遅れ時間Tdだけ前の時刻を算出し、前記係合制御における入力軸21、21と駆動軸11の同期完了時である同期完了目標時刻Tsを算出する。次に、図9のステップ216やステップ226において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、同期完了目標時刻Tsを減速時将来入力軸回転数情報FNに代入して、同期完了目標エンジン回転数SNeを算出する。そして、図9のステップ218やステップ228において、目標エンジン回転数情報算出部140dは、第1クラッチ51及び第2クラッチ52のうち係合される側のクラッチの係合が開始するエンジンの回転数がフューエルカット下限回転数となり、係合される入力軸21、22と駆動軸11との同期完了時が同期完了目標時刻Tsとなり、且つ、同期完了時のエンジン110の回転数が同期完了目標エンジン回転数SNeとなるように目標エンジン回転数情報TNeを算出する。これにより、車両の減速時における「係合制御」において、フューエルカットが維持される限度において、エンジン110の回転の上昇を最大限抑制することができる目標エンジン回転数情報TNeが算出される。
【0106】
以上説明した実施形態では、図9に示される「目標エンジン回転数情報算出処理」のステップ206、ステップ210、ステップ220において、変速前後のエンジン110の回転数が、フューエルカット下限回転数に達する時刻を算出しているが、変速前後のエンジン110の回転数が、フューエルカット下限回転数よりも所定の回転数(0〜500rpm程度)だけ高い回転数に達する時刻を算出することにしても差し支え無い。特許請求の範囲に記載の「フューエルカット下限回転数」は、上述したフューエルカット下限回転数よりも所定の回転数だけ高い回転数を含む概念である。
【0107】
図1に示される実施形態では、車両100はFFタイプであるが、後輪が駆動輪TRL、TRRであり、エンジン110の回転駆動力が駆動輪TRL、TRRを駆動するFRタイプの車両であっても差し支え無い。また、全ての車輪が駆動輪TFL、TFR、TRL、TRRであり、エンジン110の回転駆動力が駆動輪TFL、TFR、TRL、TRRを駆動する四輪駆動タイプの車両であっても差し支え無い。
【符号の説明】
【0108】
11…駆動軸 21…第1入力軸、 22…第2入力軸、 25…出力軸(出力部材)
50…デュアルクラッチ、 51…第1クラッチ、 52…第2クラッチ
61…第1クラッチアクチュエータ、 62…第2クラッチアクチュエータ
100…車両、 110…エンジン
120…デュアルクラッチ式自動変速機、 121…エンジン回転数検出センサ
140…TCU(制御部)
140a…車速検出部(車速検出手段)
140b…将来車速情報算出部(将来車速情報算出手段)
140c…将来入力軸回転数情報算出部(将来入力軸回転数情報算出手段)
140d…目標エンジン回転数情報算出部(目標エンジン回転数算出手段)
140e…変速制御部(減速時クラッチ係合力抑制手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンの回転駆動力が伝達される駆動軸と、
同心に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、
前記駆動軸と前記第1入力軸とを離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸と前記第2入力軸とを離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、
前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うクラッチアクチュエータと、
前記駆動輪に回転駆動力を伝達する出力部材と、
前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材を有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記複数の奇数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材を有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記複数の偶数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
変速指令が発せられると、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸から離脱される入力軸に対応するクラッチを離脱状態にする離脱制御を行うとともに、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸と係合される入力軸に対応するクラッチ係合させる係合制御を行うことにより変速を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部に、
前記車両の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報を、前記車速検出手段で検出された前記車両の車速の変化に基づき算出する将来車速情報算出手段と、
前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報を、前記減速時将来車速情報に基づき算出する将来入力軸回転数情報算出手段と、
前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の前記入力軸に前記駆動軸を同期させるための目標となる前記エンジンの回転数である目標エンジン回転数を、前記将来入力軸回転数情報算出手段によって算出された前記減速時将来入力軸回転数情報の前記入力軸の回転数以下となり、且つ、前記エンジンのフューエルカット下限回転数より高い回転数となるように算出する目標エンジン回転数算出手段と、
前記車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合に、前記係合制御において、前記エンジン回転数検出手段によって検出される前記エンジンの回転数が前記目標エンジン回転数のエンジン回転数となるように、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記離脱制御が完了した後においても、前記入力軸と前記駆動軸の回転が同期するまで、前記係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する減速時クラッチ係合力抑制手段と、
を設けたことを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記目標エンジン回転数算出手段は、
前記減速時将来入力軸回転数情報に基づき、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数が前記フューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻を算出し、
前記変速後フューエルカット終了時刻から、前記変速指令が発せられた時から前記係合制御が開始されるまでの係合応答遅れ時間だけ前の時刻を算出することにより、前記係合制御における前記入力軸と前記駆動軸との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻を算出し、
前記同期完了目標時刻と前記減速時将来入力軸回転数情報に基づいて、前記同期完了時における目標エンジン回転数を算出することを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項1】
車両に搭載されたエンジンの回転駆動力が伝達される駆動軸と、
同心に配置された第1入力軸及び第2入力軸と、
前記駆動軸と前記第1入力軸とを離脱係合する第1クラッチと、前記駆動軸と前記第2入力軸とを離脱係合する第2クラッチとを有するデュアルクラッチと、
前記第1クラッチ及び第2クラッチの離脱係合動作を行うクラッチアクチュエータと、
前記駆動輪に回転駆動力を伝達する出力部材と、
前記第1入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の奇数段の変速比をそれぞれなす複数の奇数段変速部材を有し、前記第1入力軸の回転駆動力を前記複数の奇数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第1変速機構と、
前記第2入力軸と前記出力部材との間に設けられ、変速段のうち複数の偶数段の変速比をそれぞれなす複数の偶数段変速部材を有し、前記第2入力軸の回転駆動力を前記複数の偶数段変速部材のいずれか1つを介して前記出力部材に伝達する第2変速機構と、
前記車両の車速を検出する車速検出手段と、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段と、
変速指令が発せられると、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸から離脱される入力軸に対応するクラッチを離脱状態にする離脱制御を行うとともに、前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち前記駆動軸と係合される入力軸に対応するクラッチ係合させる係合制御を行うことにより変速を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部に、
前記車両の減速時における将来の車速と将来の時刻との関係を表した減速時将来車速情報を、前記車速検出手段で検出された前記車両の車速の変化に基づき算出する将来車速情報算出手段と、
前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段で走行した場合における前記第1入力軸及び前記第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数と将来の時刻との関係を表した減速時将来入力軸回転数情報を、前記減速時将来車速情報に基づき算出する将来入力軸回転数情報算出手段と、
前記車両の減速時に現在の変速段よりも1つ低い変速段において係合する側の前記入力軸に前記駆動軸を同期させるための目標となる前記エンジンの回転数である目標エンジン回転数を、前記将来入力軸回転数情報算出手段によって算出された前記減速時将来入力軸回転数情報の前記入力軸の回転数以下となり、且つ、前記エンジンのフューエルカット下限回転数より高い回転数となるように算出する目標エンジン回転数算出手段と、
前記車両の減速中に現在の変速段より低い変速段への変速指令が発せられた場合に、前記係合制御において、前記エンジン回転数検出手段によって検出される前記エンジンの回転数が前記目標エンジン回転数のエンジン回転数となるように、前記クラッチアクチュエータを制御することにより、前記離脱制御が完了した後においても、前記入力軸と前記駆動軸の回転が同期するまで、前記係合される側のクラッチの係合力を抑制した状態を維持する減速時クラッチ係合力抑制手段と、
を設けたことを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記目標エンジン回転数算出手段は、
前記減速時将来入力軸回転数情報に基づき、第1入力軸及び第2入力軸のうち係合される側の入力軸の回転数が前記フューエルカット下限回転数に達する時刻である変速後フューエルカット終了時刻を算出し、
前記変速後フューエルカット終了時刻から、前記変速指令が発せられた時から前記係合制御が開始されるまでの係合応答遅れ時間だけ前の時刻を算出することにより、前記係合制御における前記入力軸と前記駆動軸との同期完了の目標となる時刻である同期完了目標時刻を算出し、
前記同期完了目標時刻と前記減速時将来入力軸回転数情報に基づいて、前記同期完了時における目標エンジン回転数を算出することを特徴とするデュアルクラッチ式自動変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−79674(P2013−79674A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219807(P2011−219807)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】
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