説明

トラクタのステアリング及びブレーキングペダル装置

トラクタのステア・バイ・ブレーキング(SBF)ペダル装置(10)は、一方の側で右側サイドペダル(12)に接続され他方の側で左側サイドペダル(13)に接続された中央ブレーキペダル(11)を有する。中央ブレーキペダル(11)は、ブレーキシステム(SBF)に作用して所望の制動動作を生じさせる。2つのサイドペダル(12、13)のそれぞれは、運転者が足で操作すると、電子ブレーキシステムを作動させる作動信号を生じさせ、この作動信号が所望の方向(右方向又は左方向)におけるステア・バイ・ブレーキング(SBF)に必要なブレーキのみを作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタのステアリング及びブレーキングペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトラクタは、ステア・バイ・ブレーキングペダル装置を備え、この装置は通常、いわゆるステア・バイ・ブレーキング機能(SBF)を可能とする2つのブレーキペダルを備える。
【0003】
この種のブレーキペダル装置では、例えば(畑の)畔での方向転換に際して、運転者が左側(又は右側)のペダルのみを踏むと、ブレーキシステムが左側(又は右側)の後輪のみを制動して、トラクタの旋回半径を減じる。
【0004】
現在、このような2つのペダルは、道路上での使用に際して又はSBFが必要とされない場合にこれらのペダルを一体的に接続するための、運転者によって操作される機械的ロック装置を有するに過ぎない。
【0005】
この機械的ロックは、道路上を走行する際、トラクタが高速で走行しているときに運転者が不注意から2つのペダルのうち一方しか踏まず、車両がしり振りしたり横転さえしたりするのを防ぐために常に使用されるべきである。
【0006】
即ち、道路上を走行する際、2つのブレーキペダルはロック装置によって一体的に接続され、車両を全体として減速させ又は停止させるために同時に踏むことができるだけである。
【0007】
この解決法は長く適用されてきたが、主に2つの欠点がある。
(1)運転者がロック装置を作動させて2つのブレーキペダルを一体的に接続するのを怠ったまま車両が高速度に達することがあり、これにより、非常制動を行う場合に、先に述べたように極めて危険な状況となる(1つのペダルしか踏まない場合は、高速で走行する車両にしり振りが生じる)。
(2)現在のシステムを使用する場合に、ステア・バイ・ブレーキング機能(SBF)を電子ブレーキシステム(例えばABS(アンチロック・ブレーキング・システム))に効果的に適用することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しよとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、前述の欠点を除去するように設計され、同時に安価で生産が容易なトラクタペダル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載したトラクタペダル装置が提供される。
【0010】
本発明の限定するものでない実施例を、添付の図面を参照しつつ例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係わるペダル装置の正面図である。
【図2】図1に示すペダル装置の背面図である。
【図3】図1及び図2に示すペダル装置の第1の状態の平面図である。
【図4】図1及び図2に示すペダル装置の第2の状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1の縮尺は他の図のものとは異なることに留意すべきである。
【0013】
添付の図面における符号10は、本発明に係わるトラクタ(不図示)のペダル装置を全体として示す。
【0014】
ペダル装置10は中央ブレーキペダル11を備え、中央ブレーキペダル11は右側サイドペダル12及び左側サイドペダル13に接続されている。
【0015】
右側サイドペダル12及び左側サイドペダル13は、それぞれの蝶番HN1及びHN2を介して中央ブレーキペダル12に接続されている。
【0016】
中央ブレーキペダル11は、ブレーキシステム(不図示)のマスターシリンダ(不図示)に実際に作用して所望の制動動作を生じさせる一方、右側サイドペダル12は、運転者(不図示)によって踏み込まれると、右側へのステア・バイ・ブレーキング機能を作動させるとの運転者の意図を制御システムに伝える作動信号を生じさせる。
【0017】
従って、トラクタの電子システムは、車両の右側後輪(不図示)のブレーキのみを作動させる。
【0018】
左側サイドペダル13についても同様であり、左側サイドペダル13は、運転者によって踏み込まれると、左側後輪のブレーキのみを作動させるための信号を生じさせる。
【0019】
より詳細には、図2、3及び4に示されるように、右側サイドペダル12が突出部12aを有し、この突出部12aに対して連接棒12cが関節継手12bを介して蝶番式に接続されている。
【0020】
連接棒12cは、フォーク形の第1の部分12c(図2)と第2の部分12cとから成り、第2の部分12cは、第1の部分12cと一体的に且つ雌ねじ付スリーブの形態で形成されている。
【0021】
ボルトヘッド12cは、第2の部分12cの一端に設けられている。
【0022】
左側サイドペダル13の連接棒13cも同様の部分を有する。
【0023】
便宜上、連接棒13cの部分について明細書では説明しないが、添付の図面には適宜に符号が付されている。
【0024】
連接棒12cと連接棒13cとの間の装置14は、一方のサイドペダル13、12が運転者によって操作されたときに、他方のサイドペダル12、13の回転を実質的に阻止する。
【0025】
言い換えれば、装置14の主な目的は、運転者がサイドペダル12及び13の双方を不注意から同時に踏むのを防止するように、運転者が右側サイドペダル12を踏み込んでいる間に左側サイドペダル13の所定の方向における無作為な回転を防止し、逆に運転者が左側サイドペダル13を踏み込んでいる間に右側サイドペダル12の所定の方向における無作為な回転を防止することにある。
【0026】
より詳細には、装置14はブシュ15(図2、3及び4)を備え、ブシュ15は受台16を介して中央ブレーキペダル11の後面11aに固定されている。
【0027】
レバーLV(図1及び2)は、ブシュ15に固定されており、マスターブレーキシリンダを作動させる。
【0028】
ブシュ15にはロッドASTが通され、ロッドASTのねじ付端部AST及びASTは、連接棒12cの第2の部分12c及び連接棒13cの第2の部分13cに夫々螺合されている。
【0029】
ロッドASTは拡大中央部ASTを有し、拡大中央部ASTは図3に示す静止位置においてブシュ15の内部に配置される。
【0030】
装置14は、ブシュ15の両側に配置された2つの蔓巻ばねSP1及びSP2を備え、蔓巻ばねSP1及びSP2の各々は、ロッドASTの対応する部分に巻回され、端部17a、18aを有するそれぞれのスリーブ17、18の内部に少なくとも部分的に収容されている。
【0031】
端部17aは貫通穴17bを有し、端部18aは貫通穴18bを有する。
【0032】
実際に使用する際には、貫通穴17a及び18aにロッドASTを挿通させる。
【0033】
図3に示される静止位置では、端部17aはブシュ15の側面及び拡大中央部ASTの側面に突き当たっている。
【0034】
同様に図3に示される静止位置では、端部18aはブシュ15の側面及び拡大中央部ASTの側面に突き当たっている。
【0035】
第1の肩部19はロッドASTのねじ付端部ASTに形成され、第2の肩部20はロッドASTのねじ付端部ASTに形成されている。
【0036】
図3に示されるように、プレート21はボルトヘッド12cと肩部19とによって挟持され、プレート22はボルトヘッド13cと肩部20とによって挟持されている。
【0037】
図3及び4において明らかに示されるように、ばねSP1の第1の端部SP1はスリーブ17の端部17aに突き当たり、ばねSP1の第2の端部SP1はプレート21に突き当たっている。
【0038】
同様に、ばねSP2の第1の端部SP2はスリーブ18の端部18aに突き当たり、ばねSP2の第2の端部SP2はプレート22に突き当たっている。
【0039】
実際に使用する際には、図4に示されるように、運転者が左側サイドペダル13に踏力F1をかけると、左側サイドペダル13は中央ブレーキペダル11と略同一平面に配置される。
【0040】
ばねSP2の抗力が小さい場合は、左側サイドペダル13がほぼ瞬時に中央ブレーキペダル11と並ぶように動かされるので、運転者が左側サイドペダル13及び中央ブレーキペダル11に同時に踏力をかけ続けると、システムは直ちに制動動作を開始する。
【0041】
左側サイドペダル13が蝶番HN2を中心に回転すると、突出部13aが矢印ARW1の方向にロッドASTを押すことで、右側サイドペダル12は矢印ARW2の方向に蝶番HN1を中心に僅かに回転する。
【0042】
矢印ARW2の方向は、右側サイドペダル12及び対応するブレーキを作動させるのに必要な方向とは反対であることが分かる。
【0043】
図3のシステム形態と図4のシステム形態とを比較すると分かるように、プレート22は左側サイドペダル13の操作によってスリーブ18の自由端に突き当たるまでばねSP2の第2の端部SP2を押圧し、これによってスリーブ18の端部18aがブシュ15の側面に突き当たる。
【0044】
従って、ばねSP2はプレート22と、結果としてブシュ15に突き当たっているスリーブ18の端部18aとによって挟持される。
【0045】
同時に、スリーブ17もロッドASTの拡大中央部ASTの側面に依然として突き当たった状態で矢印ARW1の方向に動いている。
【0046】
ばねSP2を前述の範囲でしか押すことができないことは、ロッドについても矢印ARW1の方向において相応の範囲でしか滑動させることができないことを意味し、これによって他方の右側サイドペダル12の蝶番HN1を中心とした(矢印ARW2の方向への)回転が制限される。
【0047】
これと同様のことは、運転者が右側サイドペダル12を踏み込む場合についても当て嵌まる。
【0048】
図3と図4とを比較すると分かるように、装置14、特に2つのサイドペダル12及び13を接続するロッドASTは、双方のサイドペダル12及び13を同時に踏み込むことを不可能にする。
【0049】
ばねSP1及びSP2は、運転者がサイドペダル12及び13の一方から踏力を除いた場合に、それぞれのサイドペダル12及び13を図3の静止位置に復帰させる役割を果たすことが明らかである。
【0050】
図2に示されるように、右側サイドペダル12はまた、それぞれのカムCM1及び伝達部材50によってそれぞれのスイッチSWT1を作動させる。
【0051】
同様に、左側サイドペダル13の回転は、それぞれのカムCM2及び伝達部材51を介してそれぞれのスイッチSWT2を作動させる。
【0052】
運転者がいずれのサイドペダル12及び13をも踏み込んでいないときは、スイッチSWT1及びSWT2はいずれもオフに設定され、ペダル装置10に接続された電子システムは、これを運転者が単に中央ブレーキペダル11を踏み込むことによる「通常」の制動動作を要求していると解釈する。
【0053】
他方、運転者がサイドペダル12及び13のいずれか一方に踏力をかけると、対応するスイッチSWT1又はSWT2がオンに切り換わり、制御システムは、これを運転者が2方向のうち一方にステア・バイ・ブレーキング機能(SBF)を作動させようとしていると解釈する。
【0054】
本発明の1つの好ましい実施例おいて、トラクタの電子制御システムは、トラクタが所与の速度を超えて走行している状態でのステア・バイ・ブレーキング機能の作動を防ぎ、潜在的に危険なしり振りが車両に生ずるのを防止する。
【0055】
スイッチSWT1及びSWT2は、電位差計又はこれと同様な機能を奏する他のいかなる装置と置き換えてもよく、例えば2つのサイドペダル12及び13の相対位置を求めるための電子機器、又は、矢印ARW1の方向若しくはその反対の方向におけるロッドASTの変位を求めるための電子装置に置き換えることができる。
【0056】
本発明の主な利点をまとめると、次のようである。
(1)本発明は、車両が高速に至る前に2つのブレーキペダルを一体的に接続することを怠るという運転者の問題を解決する。
(2)本発明は、電子制御システム(例えばABS(アンチロック・ブレーキング・システム))にステア・バイ・ブレーキング機能(SBF)を適用することを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクタのステアリング及びブレーキングペダル装置(10)であって、
一側において右側サイドペダル(12)に接続され、他側において左側サイドペダル(13)に接続された中央ブレーキペダル(11)を備え、
前記中央ブレーキペダル(11)は、ブレーキシステムに作用して所望の制動動作を生じさせ、前記2つのサイドペダル(12、13)の各々は、運転者によって足で操作されたときに、前記中央ブレーキペダル(11)を用いるブレーキシステムを作動させる作動信号を発生させて、所望の方向のステア・バイ・ブレーキングに必要なブレーキのみを作動させることを特徴とするペダル装置(10)。
【請求項2】
前記右側サイドペダル(12)及び前記左側サイドペダル(13)は、それぞれの蝶番(HN1、HN2)を介して前記中央ブレーキペダル(11)に機械的に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のペダル装置(10)。
【請求項3】
前記右側サイドペダル(12)は、第1のスイッチ(SWT1)を作動させ、
同様に前記左側サイドペダル(13)の回転が第2のスイッチ(SWT2)を作動させることを特徴とする請求項1又は2に記載のペダル装置(10)。
【請求項4】
前記第1のスイッチ(SWT1)は、第1のカム(CM1)及び第1の伝達部材(50)によって起動され、
前記第2のスイッチ(SWT2)は、第2のカム(CM2)及び第2の伝達部材(51)によって起動されることを特徴とする請求項3に記載のペダル装置(10)。
【請求項5】
前記右側サイドペダル(12)は、第1の電位差計を作動させ、
同様に前記左側サイドペダル(13)の回転が第2の電位差計を作動させることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のペダル装置(10)。
【請求項6】
前記2つのサイドペダル(12、13)の相対位置を検出する電子装置を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のペダル装置(10)。
【請求項7】
前記2つのサイドペダル(12、13)は、運転者がこれらのうち一方のサイドペダル(13、12)を作動させたときに他方のサイドペダル(12、13)が回転するのを実質的に阻止する装置(14)を介して機械的に接続されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のペダル装置(10)。
【請求項8】
前記装置(14)がロッド(AST)を備え、
前記ロッドは、その端部(AST、AST)が前記右側サイドペダル(12)及び前記左側サイドペダル(13)に対して夫々機械的に接続されていることを特徴とする請求項7に記載のペダル装置(10)。
【請求項9】
一方向(ARW1)又はその反対の方向における前記ロッド(AST)の変位を検出する電子装置を備えることを特徴とする請求項8に記載のペダル装置(10)。
【請求項10】
前記ロッド(AST)は、静止位置においてブシュ(15)の内部に配置される拡大中央部(AST)を有することを特徴とする請求項8に記載のペダル装置(10)。
【請求項11】
前記装置(14)が前記ブシュ(15)の両側に配置された2つの蔓巻ばね(SP1、SP2)を更に備え、
各蔓巻ばね(SP1、SP2)は、前記ロッド(AST)のうち対応する部分に巻回されてそれぞれのスリーブ(17、18)に少なくとも部分的に収容され、
各スリーブ(17、18)は、対応する端部(17a、18a)を有し且つ各端部(17a、18a)に孔が設けられていることを特徴する請求項10に記載のペダル装置(10)。
【請求項12】
前記端部(17a、18a)のそれぞれは、使用に際して前記ロッド(AST)が挿通される貫通穴(17b、18b)を有することを特徴とする請求項11に記載のペダル装置(10)。
【請求項13】
静止状態において、前記端部(17a、18a)のそれぞれが前記ブシュ(15)の対応する側面と前記拡大中央部(AST)の対応する側面とに突き当たることを特徴とする請求項11に記載のペダル装置(10)。
【請求項14】
使用に際し、運転者が前記左側サイドペダル(13)に所与の踏力(F1)をかけた場合に、前記左側サイドペダル(13)が前記中央ブレーキペダル(11)と略同一平面に配置され、前記左側サイドペダル(13)の蝶番(HN2)を中心とする回転によって前記ロッド(AST)が第1の方向(ARW1)に押され、これによって前記右側サイドペダル(12)を蝶番(HN1)を中心として第2の方向(ARW2)に僅かに回転させることを特徴とする請求項13に記載のペダル装置(10)。
【請求項15】
前記左側サイドペダル(13)が踏み込まれたときに、プレート(22)が前記対応するスリーブ(18)の自由端に突き当たるまで前記対応するばね(SP2)の一端(SP2)を押圧し、これによって前記スリーブ(18)の前記端部(18a)が前記ブシュ(15)の側面に突き当たり、更に前記ばね(SP2)が前記プレート(22)と前記スリーブ(18)の前記端部(18a)とによって挟持されてブシュ(15)に突き当たることを特徴とする請求項14に記載のペダル装置(10)。
【請求項16】
前記トラクタの電子制御システムが、前記トラクタの速度が所定を超える場合にステア・バイ・ブレーキング機能の作動を防止することを特徴とする請求項1から15のいずれか1つに記載のペダル装置(10)。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1つに記載の少なくとも1つのペダル装置(10)を備えることを特徴とする電子制御ブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−514861(P2011−514861A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547149(P2010−547149)
【出願日】平成21年2月11日(2009.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2009/051572
【国際公開番号】WO2009/103642
【国際公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(505271781)シーエヌエイチ・イタリア・ソシエタ・ペル・アチオニ (4)
【Fターム(参考)】