説明

トリチウムモニタ

【課題】キャリヤガス中にラドン・トロン及びその子孫核種その他のバックグラウンド核種が存在しない状態でトリチウムを高感度に測定することができ、キャリヤガス消費量を減らすことができると共に、廃棄物処理作業がなく、保守作業を低減することができるトリチウムモニタを提供する。
【解決手段】測定対象のガスをサンプリングするサンプリング手段と、サンプルガス中の水蒸気を分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段5と、水蒸気を含むキャリヤガスから試料水を採取する試料水採取手段9と、採取した試料水のトリチウムを検出するトリチウム検出手段21と、トリチウムを検出した信号を入力してトリチウムを測定するトリチウム測定手段25とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子力炉施設、使用済燃料再処理施設、放射性同位元素使用施設、粒子線使用施設等の建屋内の空気及び排気設備から放出されるガス状廃棄物(空気が主体)に含まれるトリチウムを連続測定する放射線管理用及び放出管理用のトリチウムモニタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリチウムモニタは、上記施設の建屋内の空気及び排気設備の排気をサンプリングし、サンプル空気中に水蒸気の形態で含まれるトリチウムを通気式電離箱で検出し、連続して測定する。
卜リチウムから放射される放射線はβ線で、最大エネルギーが18KeVと低エネルギーであるため、気体の状態で通気式電離箱に通して測定する必要がある。
【0003】
更に、天然放射性核種として環境中に存在するラドン・トロン及びその子孫核種から放射されるα線は、トリチウムから放射される上記β線の約千個分相当の電離を生じるため、高感度でトリチウムを測定しようとすると、上記核種及びその他のエネルギーの高い核種からトリチウムだけを分離して測定する必要がある。
【0004】
従来のトリチウムモニタは、中空糸膜が水蒸気を選択的に透過する性質を利用し、サンプル空気から水蒸気を分離して中空糸膜の外側を流れるキャリヤガス中に放出し、分離された水蒸気を含むキャリヤガスを通気式電離箱に導入することにより、トリチウムを他の放射性核種が混入しない状態で測定している。
【0005】
中空糸膜の水蒸気透過作用はサンプル空気とキャリヤガスの水蒸気の差圧に依存するため、キャリヤガスは乾燥ガスであることが求められる。また、低エネルギーのトリチウムを測定するために他の放射能を含まないことが求められる。窒素ガスは上記条件に適合し、ボンベに封入した形で容易に入手できるため、キャリヤガスをボンベから供給する方法が用いられて来た。
【0006】
しかし、キャリヤガスを常時流しているためその消費量が多くなり、ボンベ交換を頻繁に行う必要がある。例えば、キャリヤガスを3L/minの状態で使用した場合、7m(14.7MPa/cm2G)ボンベを30時間程度の頻度で交換する必要があり、キャリヤガスの消費量削減方法あるいはボンベフリーが求められるようになった。
【0007】
これを解決するために、トリチウムモニタ周辺の空気を吸入してフィルタで粒子状物質を除去し、加圧した空気を中空糸膜に通して水蒸気を除去し、活性炭で残留水蒸気及びラドン・トロンを吸着除去して放射能を含まない清浄空気を精製する清浄空気精製装置を備え、ボンベフリーを実現したトリチウムモニタが提案されている。(例えば特許文献1参照)。
【0008】
一方、排気中の卜リチウムを発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針の測定下限濃度で測定する方法としては、サンプル空気を冷却してトリチウムを含む試料水を採取し、手作業で試料水を精製してラドン・トロンの子孫核種を除去する前処理を行った後に、液体シンチレーションカウンタで測定するのが一般的で、放射性廃棄物を発生させないで連続測定する方法が求められるようになった。
【0009】
これを解決するために、サンプル空気の水蒸気を凝結すると共に、解凍して試料水を取得する湿分採取部を2系統備え、試料水をプラスチックシンチレータと接触させ、トリチウムのβ線がプラスチックシンチレータに入射して発する蛍光を電気信号に変換して連続してトリチウムを測定する方法が提案されている。(例えば特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平3−189587号公報
【特許文献2】特開平8−75863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のボンベフリー型トリチウムモニタは、清浄空気精製装置の吸着剤に吸着されたラドン・トロン及びその娘核種の一部が離脱してキャリヤガス中に排出されるという問題点があった。更に、モニタ設置場所の周辺空気にトリチウム及びラドン・トロン以外の気体状の放射能が存在する場合は、これを十分除去できないという問題点があった。
【0012】
トリチウムの測定を行う測定用電離箱とバックグラウンドの測定を行う補償用電離箱の出力電流の差をとって正味の電流値を求め、その結果に基づきトリチウムの放射能を求める測定方法において、吸着剤から離脱したラドン・トロンとその子孫核種及びその他の気体状放射能は、バックグラウンド電流値のゆらぎを増大させる原因となり、トリチウム測定の障害となっていた。
【0013】
また、ラドン・トロンとその子孫核種及び水蒸気の吸着除去の目的で吸着剤を使用するため、吸着剤の交換作業という新たな保守作業が発生するという問題点があった。更に、空気を加圧することにより発生するドレンは放射性廃棄物として処理する必要があり、ドレンレス化が課題となっていた。
【0014】
また、通気式電離箱は高圧電極が剥き出しのため、安定した測定を行うためには低湿度を維持する必要があり、そのために10000cmの内容積の通気式電離箱で許容される水蒸気量は数gのオーダと微量であるため、通気式電離箱では高感度化が本質的に困難であった。
【0015】
更に、従来の試料水採取型シンチレーション式トリチウムモニタは、ラドン・トロンの子孫核種が試料水に混入すること、同位体交換によりプラスチックシンチレータがトリチウムに汚染されてバックグラウンドが上昇することにより、発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針の排気中のトリチウム測定下限濃度の4×10−5Bq/cmを満たすことが困難であった。更にまた、試料水を採取することにより発生するドレンは放射性廃棄物として処理する必要があり、ドレンレス化が課題であった。
【0016】
この発明は上記のような問題点や課題に対処するためになされたもので、キャリヤガスに純度の高い窒素ガスを使用し、サンプルガスからトリチウムを含む水蒸気を選択分離してキャリヤガス中に放出させることで、キャリヤガス中にラドン・トロン及びその子孫核種、その他のバックグラウンド核種が存在しない状態を実現すると共に、発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針の排気中のトリチウム測定下限濃度を満たしてトリチウムを高感度で測定でき、キャリヤガス消費量を大幅に削減することができて廃棄物処理作業がなく、保守作業を大幅に低減することができるトリチウムモニタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係わるトリチウムモニタは、測定対象のガスをサンプリングするサンプリング手段と、サンプルガス中の水蒸気を分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段と、水蒸気を含むキャリヤガスから試料水を採取する試料水採取手段と、採取した試料水のトリチウムを検出するトリチウム検出手段と、トリチウムを検出した信号を入力してトリチウムを測定するトリチウム測定手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係わるトリチウムモニタは上記のように構成され、キャリヤガスに純度の高い窒素ガスを使用し、サンプルガスからトリチウムを含む水蒸気を選択分離してキャリヤガス中に放出させることで、キャリヤガス中にラドン・トロン及びその子孫核種、その他のバックグラウンド核種が存在しない状態を実現することができる。
【0019】
また、バックグラウンド核種が存在しないキャリヤガス中にサンプルガスから分離された水蒸気を放出し、放出された水蒸気を含むキャリヤガスを冷却して水の形態にしてからトリチウムを検出するようにしたので、妨害核種を排除すると共に、トリチウムを水蒸気から水の形に濃縮することにより、また、トリチウムに対して同位体交換反応のないシンチレータを使用することにより、発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針の排気中のトリチウム測定下限濃度を満たしてトリチウムを高感度で測定することができる。
【0020】
更に、キャリヤガスは循環させて使用し、循環路で漏洩して減った分を自動補充するようにしたので、キャリヤガス消費量を大幅に削減することができ、吸着材等は使用せず、また、トリチウム試料水は蒸発させて排気するようにしたので、廃棄物処理作業がなくなり、保守作業を大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1を図に基づいて説明する。図1は、実施の形態1による卜リチウムモニタの構成を示すブロック図である。図1において、測定点(図示せず)からサンプリングされたサンプルガスはサンプルガスフィルタ1でサンプルガス中に含まれる粒子状のダストが除去され、サンプルガス流量計2によりサンプルガスの流量が測定され、サンプルガス露点計3によりサンプルガスの露点が測定されてサンプルガス圧力計4によりサンプルガスの圧力が測定される。
【0022】
露点の測定はサンプルガスを*1で示すように、また、圧力の測定はサンプルガスを*2で示すように、後述する測定部に入力して行なわれる。露点が測定されたサンプルガスは水蒸気分離器5に導入され、サンプルガスから水蒸気の一部が分離されて図中のc、dを含む流路を循環しているキャリヤガス中に放出される。
【0023】
キャリヤガス中に放出された水蒸気は、キャリヤガス露点計6によりキャリヤガスの露点が測定される。また、キャリヤガス圧力計7によりキャリヤガスの圧力が測定され、キャリヤガスコンプレッサ8で加圧されてキャリヤガスに含まれる水蒸気が濃縮され、冷却器9に導入される。冷却器9に導入されたキャリヤガスは、水蒸気が凝縮されて試料水として採取される。
【0024】
冷却器9から排出されたキャリヤガスは、除湿器10に導入されて残留する水蒸気が除去される。除湿器10で水蒸気が除去されたキャリヤガスは2つに分流され、一方は第1の減圧弁11に導入され、他方は第1の電磁弁12に導入される。第1の減圧弁11に導入されたキャリヤガスは大気圧近くまで減圧されると共に、減圧されることで乾燥した状態となる。乾燥したキャリヤガスは、除湿器10に導入され、除去された水蒸気をパージしてキャリヤガスコンプレッサ8の吸気側に戻される。
【0025】
また、第1の電磁弁12に導入され、この電磁弁から排出されたキャリヤガスは、加圧キャリヤガス圧力計13で圧力を測定され、第2の減圧弁14に導入される。第2の減圧弁14に導入されたキャリヤガスは大気圧近くまで減圧され、減圧されることで乾燥した状態となる。
【0026】
第2の減圧弁14から排出された乾燥したキャリヤガスは、キャリヤガスフィルタ15でキャリヤガス中のダストが除去されて再生され、キャリヤガス流量計16で流量が測定され水蒸気分離器5に導入される。キャリヤガスフィルタ15で除去されるダストは、主にキャリヤガスコンプレッサ8の内部で、可動部材が磨耗することにより発生するものである。
【0027】
キャリヤガスが流れる上記の各機器は上述したキャリヤガス露点計6、キャリヤガスコンプレッサ8などを含めて閉ループとなる循環路を形成し、キャリヤガスはこの循環路に沿って流れる。窒素ガスボンベ17からは、キャリヤガスとしての窒素が上記循環路に、定圧調整弁18及び第2の電磁弁19を経由して自動的に供給される。定圧調整弁18は、窒素ガスボンベ17から所定の圧力に減圧してキャリヤガスを上記循環路に供給する。
【0028】
第1の電磁弁12を開から閉に切換え、第3の電磁弁20を閉から開に切換えることにより、必要に応じて循環路内のキャリヤガスを入れ換えることができる。運転中に循環路から漏洩したキャリヤガスは、定圧調整弁18が動作して窒素ガスボンベ17から減った分を自動補給する。
【0029】
通常の配管接続で漏洩量を0.1cm3/sec以下に抑制することは容易であり、キャリヤガス流量3L/minの時、再生しないで窒素ガスを供給した場合に対し、キャリヤガスを再生して利用する場合の窒素ガスの消費量は2/1000以下に節減でき、従来7m(14.7MPa/cmG)の窒素ガスボンベ21を30時間で交換していたのが、1年程度まで延長できるようになる。
【0030】
一方、上述した冷却器9で生成された試料水はトリチウム検出部21に導入され、試料水に含まれるトリチウムが検出される。トリチウム検出部21から排出された試料水は、オートドレン22に溜められ、間欠的に排出されて蒸発器23に排出される。試料水は蒸発器23で加熱され、蒸発して水蒸気となり、サンプルガスと共にサンプルガスポンプ24に吸引され、サンプルガスに戻されて排出される。
【0031】
トリチウム検出部21から出力された信号*3は、測定装置25に入力され、この信号に基づいてトリチウム濃度が演算されて出力される。なお、上記は、冷却器9から排出された試料水をトリチウム検出部21に導入し、トリチウム検出部21から排出された試料水をオートドレン22に導入し、オートドレン22から排出された試料水を蒸発器23に導入するようにしたが、冷却器9から排出された試料水をオートドレン22に導入し、オートドレン22から排出された試料水をトリチウム検出部21に導入してトリチウム検出部21から排出された試料水を蒸発器23に導入するようにしてもよい。
【0032】
水蒸気分離器5及び除湿器10はそれぞれ同じ構成とされており、その具体例を図2に示す。上端及び下端の符号a、b、h、iは図1のa、b、h、iに対応する。サンプルガス露点計3からの湿潤ガスは被除湿ガス入口51から導入され、多数の管状中空糸膜52の内側を分流して流れ、被除湿ガス出口53から排出される。乾燥ガスはパージガス入口54から導入されて管状中空糸膜52の外面と外筒55の間を流れ、パージガス出口56から排出される。符号c、d、j、kは図1のc、d、j、kに対応する。
【0033】
図3は、中空糸膜52の水蒸気分離の動作を説明するための図で、中空糸膜52は水蒸気を選択的に透過させる性質を持っており、水蒸気は被除湿ガス側からcまたはj、dまたはkの矢印のように流れるパージガス側に透過する。このため、水蒸気分離器5は、サンプルガス中のラドン・トロンの子孫核種、その他のガス状放射性物質からトリチウムを含む水蒸気を分離することができる。
【0034】
透過する水蒸気量は中空糸膜52の各微小部位における差圧に依存している。このため、水蒸気分離器5の中空糸膜52の面積あるいは除湿器10の中空糸膜52の面積、サンプルガス流量、キャリヤガス流量、加圧キャリヤガス圧力を適切に設定することにより、冷却器9における除湿効率を好適な状態に維持することができる。
【0035】
水蒸気分離器5、除湿器10の中空糸膜52としては、市販されている宇部興産(株)製のポリイミド膜を使用することができる。この膜は、微多孔質膜で、膜を隔てて水蒸気圧の高い側の膜面から水蒸気が膜に溶解し、膜の中を拡散移動して水蒸気圧の低い側の膜面から水蒸気が拡散される。
【0036】
ガス成分の種類によって透過速度に差が生じ、水蒸気の透過速度が空気(酸素と窒素)のそれに比べて数千倍大きいので、選択的な水蒸気分離が可能となる。ただし、ポリイミド膜にミス卜状の水が浸入すると透過せずに排出されるため水蒸気分離効率が低下する。
【0037】
中空糸膜52としては、他に、旭硝子エンジニアリング(株)製のパーフロロスルフォン酸樹脂膜も使用可能である。この膜は、非多孔質のイオン交換膜で、親水性の官能基-SOHが付いており、近接するフッ素原子の効果で酸性度が高められ、その結果吸水力が高められて水分を多量に吸着する性質がある。この膜は水蒸気の透過速度が空気(酸素と窒素)のそれに比べて数十万倍大きいので、選択的な水蒸気分離の点ではポリイミド膜より優れている。
【0038】
一方、ポリイミド膜は、同一容積で膜面積が大きくとれるため小型化が可能で、かつ水蒸気分離効率が高いという点で優れている。また、パーフロロスルフォン酸樹脂膜は吸水力が高いため、ミス卜状の水が浸入しても水蒸気分離効率が低下しない。したがって、水蒸気分離器5の中空糸膜52にパーフロロスルフォン酸樹脂膜を使用し、除湿器10の中空糸膜52にポリイミド膜を使用することにより目的に適合した水蒸気分離及び除湿が可能となる。
【0039】
なお、サンプルガス露点計3及びサンプルガス圧力計4の測定結果から得られるサンプルガスの水蒸気密度と、キャリヤガス露点計6及びキャリヤガス圧力計7の測定結果から得られる水蒸気密度の比を定期的にチェックすることにより水蒸気分離器5の健全性を確認できる。
なお、定期的に水蒸気分離器5の中空糸膜52を取り替える場合は、キャリヤガス露点計6及びキャリヤガス圧力計7を設置しなくてもよい。
【0040】
図4は冷却器9の構成を示す断面図である。水蒸気を含むキャリヤガスは冷却器入口91から導入され、冷却室92を通って冷却器出口93から排出される。冷却室92の開口部にペルチェ素子94が、その冷却面とキャリヤガスが接触するように取り付けられ、冷却室92の外面は断熱材95で覆われて保温されている。
【0041】
キャリヤガス中の水蒸気は凝縮されてペルチェ素子94の冷却面に結露する。冷却面に生成された水膜Waは次第に厚くなり重力で落下して試料水出口96から試料水が排出される。ペルチェ素子94は、冷却面の熱を電子で運搬して放熱面に取り付けられた放熱フィン97に伝熱し、冷却ファン98で送風された空気を放熱フィン97に当てて排熱する。ペルチェ素子94は小容量の局部的な冷却に好適で、温度制御が容易なため冷却器9を小型化できる。
【0042】
図5はトリチウム検出部21の構成を示す概略図である。試料水入口211から導入された試料水は、試料水容器212に導入され、試料水容器212の側壁の開口部を塞ぐように対面に配列された第1のシンチレータ213a及び第2のシンチレータ213bの間を流れ落ちて試料水出口214から排出される。
【0043】
第1のシンチレータ213aは、試料水中のトリチウムから放射されたβ線を入射して蛍光を発し、この蛍光を第1のライトガイド215aが集光して第1の光電子増倍管216aに導入して電流パルスに変換し、この電流パルスを第1の前置増幅器217aが電圧パルスに変換して同時計数回路218に入力する。
【0044】
第1のシンチレータ213aが発した蛍光は、試料水中を伝達して対面の第2のシンチレータ213bを経由して第2のライトガイド215bにも入射し、同様に第2のライトガイド215bは上記蛍光を集光して第2の光電子増倍管216bに導入して電流パルスに変換し、この電流パルスを第2の前置増幅器217bが電圧パルスに変換して同時計数回路218に入力する。
【0045】
同時計数回路218は、第1の前置増幅器217aと第2の前置増幅器217bから同時に所定の電圧以上の電圧パルスの入力があった時に、トリチウムを検出したとして計数を行う。第2のシンチレータ213bにトリチウムのβ線が入射した場合には、第2のシンチレータ213bの蛍光が第2のライトガイド215bと第1のライトガイド215aに入射され、同様にしてトリチウムが検出される。
【0046】
第1のシンチレータ213aと第2のシンチレータ213bの間隔は、その間を埋めるだけの水量では表面張力で落下せず、シンチレータの上部に試料水が溜まると重力で落下するように、近接して設定される。万一、過剰な試料水が流入した場合は、オートドレン22へ過剰な試料水をバイパスするようにオーバーフローバイパス管219が設けられている。
【0047】
トリチウムのβ線は微弱のため、第1のシンチレータ213a及び第2のシンチレータ213bは試料水に直接触れるように配置し、その表面近傍のトリチウムを検出する。そのため、第1のシンチレータ213a及び第2のシンチレータ213bは潮解性がなく、耐食性を有し、量子効率が高く、更に、トリチウムに対して同位体交換反応しないことが要求される。
【0048】
CaF(Eu)及びYAlO(Ce)は上記条件を満たす好適なシンチレータである。また、片方のシンチレータで発した蛍光を両方の光電子増倍管に入射させるため、試料水はダスト等を含まない精製されたものが望ましい。この点でサンプルガスから水蒸気を選択分離させる中空糸膜52は、その中でも特に、非多孔質のイオン交換膜は目的に適合している。
【0049】
測定装置25は、サンプルガス露点計3から出力されたサンプルガス露点*1、サンプルガス圧力計4から出力されたサンプルガス圧力*2、トリチウム検出部21の同時計数回路218から出力された計数データ*3を定周期でそれぞれ入力し、露点に対する水蒸気密度テーブルから、サンプルガス露点*1に対応するサンプルガスの水蒸気密度が求められ、この水蒸気密度とサンプルガス圧力*2とから大気圧換算されたサンプルガスの水蒸気密度Wが求められる。
【0050】
また、トリチウム検出部21の同時計数回路218から出力された同時計数データに基づき計数率が求められ、この計数率に濃度換算係数を乗じて試料水1g当たりのトリチウムの放射能濃度が求められる。また、試料水の放射能濃度に水蒸気密度Wを乗じて測定点のサンプルガス1cm当たりのトリチウム濃度が求められる。
【0051】
求められた測定点のトリチウム濃度は測定装置25で表示されると共に、定周期で出力される。なお、サンプルガス露点計3及びキャリヤガス露点計6については、露点計の代わりに温度計と湿度計を設置してもよい。
【0052】
以上のように、この発明によれば、キャリヤガスとして窒素ガスボンベ17から供給された純度の高い窒素ガスを使用することにより、トリチウム測定においてラドン・トロン及びその子孫核種、更にその他の放射性核種を本質的に遮断し、トリチウムを含む水蒸気を、冷却器9でトリチウムを含む試料水に濃縮し、トリチウム検出部21で試料水中のトリチウムを測定するようにしたので、トリチウムを高感度に測定することができる。
【0053】
また、第1のシンチレータ213a、第2のシンチレータ213bには、潮解性がなく、耐食性を有して物理的に安定な、かつ量子効率が高いCaF(Eu)シンチレータまたはYAlO(Ce)シンチレータを試料水に直接触れるようにしてトリチウムの微弱なβ線を検出するようにしたため、更に、CaF(Eu)シンチレータまたはYAlO(Ce)シンチレータはトリチウムとの同位体交換反応がなく、シンチレータが汚染されてバックグラウンドが上昇することがないため、トリチウムを高感度で測定することができる。
【0054】
また、第1のシンチレータ213a、第2のシンチレータ213bのどちらかで発した蛍光を両方の第1の光電子増倍管216a及び第2の光電子増倍管216bの両方に入射させるため、中空糸膜52、その中でも特に非多孔質のイオン交換膜を使用してサンプル空気中のダストを遮断してシンチレータ表面の汚れを抑制したので、トリチウムを高感度で安定して測定することができる。
【0055】
また、光電子増倍管のノイズは同時発生の確率が低いことを利用し、第1の光電子増倍管216aと第2の光電子増倍管216bからの出力を同時計数することにより、低エネルギーのβ線まで測定できるようにしたため、トリチウムを高感度で測定することができる。
【0056】
また、冷却器9と除湿器10でキャリヤガスを除湿してキャリヤガスを循環させて再利用するようにし、窒素ガスボンベ17からは循環路で漏洩した分のキャリヤガスを自動補給するようにしたので、窒素ガスの消費量を従来に比べて大幅に削減でき、それにより窒素ガスボンベ17の交換頻度を従来の日単位から1年以上と減らすことができ、保守作業を大幅に省力化できる。
【0057】
また、冷却器9で捕集した試料水をトリチウム検出後に蒸発器23で蒸発させてサンプルガスに戻すようにしたので、周辺空気を精製してキャリヤガスを生成したときの放射性液体廃棄物としてのドレン処理及び吸着剤の交換作業が不要となり、この点についても保守作業を省力化することができる。
【0058】
更に、窒素ガスの消費量を大幅に削減できるので、運用に係わる経費を大幅に削減できるのは言うまでもなく、小型のボンベで長時間運転が可能となり、トリチウムモニタを小型化できる。更に、ドレン配管が不要になり設備工事費が低減できると共に、容易に可搬型のトリチウムモニタが実現できる。
【0059】
また、除湿器10の中空糸膜52として微多孔質膜のポリイミド膜を使用することにより、高効率でキャリヤガスを除湿することが可能となり、試料水の入れ替わりが速くなり、トリチウム測定の応答性が速くなると共に除湿器10を小型化できる。
【0060】
また、サンプルガス露点計3でサンプルガス露点を測定し、サンプルガス圧力計4でサンプルガス圧力を測定して測定装置25に入力し、定周期で測定点のトリチウム濃度を求めて出力する動作を全て自動で行うようにしたので、例えば、日オーダの頻度で測定点の露点をマニュアル測定し、測定装置25に入力する場合に比べて、高精度で測定点のトリチウム濃度を測定することができる。
【0061】
また、キャリヤガスを冷却する冷却器9としてペルチェ素子94を備えたので冷却器10を小型にすることができる。更に、トリチウム検出手段として、対面する複数のシンチレータで試料水の流れる隙間を構成し、その隙間を試料水が重力で落下するようにしたので、試料水の入れ替わりが早く、良好な応答性が得られると共に、少量の試料水で測定を行えるため、サンプルガスポンプ24またはキャリヤガスコンプレッサ8を小型化でき、コストを低減することができる。
【0062】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2を図にもとづいて説明する。図6は、実施の形態2によるトリチウムモニタの構成を示すブロック図である。この図において、図1と同一または相当部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
実施の形態1では、サンプルガスポンプ24の吸入側に水蒸気分離器5を接続していたが、実施の形態2では、図6に示すように図1のサンプルガスポンプ24をサンプルガスコンプレッサ26に置き換え、水蒸気分離器5をサンプルガスコンプレッサ26の吐出側に接続し、加圧したサンプルガスを水蒸気分離器5に導入するようにしたものである。
【0064】
サンプルガス露点計3でサンプルガスの露点が測定され、サンプルガス圧力計4によりサンプルガスの圧力が測定されたサンプルガスは、サンプルガスコンプレッサ26で加圧される。加圧によりサンプルガスに含まれる水蒸気分圧は上昇し、サンプル空気の温度に対応した飽和水蒸気圧になり、飽和水蒸気圧を超える水蒸気は凝縮してミストになり、ミストセパレータ27は上記ミストを除去する。
【0065】
ミストを除去されたサンプルガスは、水蒸気分離器5に導入される。ミストセパレータ27で除去されたミストはドレンとなって第2のオートドレン22bに溜まり、間欠的に蒸発器23に排出される。トリチウム検出部21から排出された試料水も、第1のオートドレン22aから間欠的に蒸発器23に排出される。
【0066】
蒸発器23に排出された上記ドレン及び試料水は加熱されて蒸発する。水蒸気分離器5から排出されたサンプルガスは、第3の減圧弁28で減圧されて蒸発器23に導入され、蒸発した水蒸気はサンプルガスに戻されて排気されることになる。
【0067】
以上のように、サンプルガスコンプレッサ26でサンプルガスを加圧して水蒸気密度を高めたサンプルガスを水蒸気分離器5に導入するようにしたので、測定点のサンプルガスが低湿度の場合でも安定して試料水を採取でき、少量のサンプルガスで良好な応答性が得られるため、装置が小型化でき、かつコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】この発明の実施の形態1によるトリチウムモニタの構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態1における水蒸気分離器の構成を示す概略図である。
【図3】実施の形態1における中空糸膜の動作を説明するための説明図である。
【図4】実施の形態1における冷却器の構成を示す断面図である。
【図5】実施の形態1におけるトリチウム検出部の構成を示す概略図である。
【図6】この発明の実施の形態2によるトリチウムモニタの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0069】
1 サンプルガスフィルタ、 2 サンプルガス流量計、 3 サンプルガス露点計、
4 サンプルガス圧力計、 5 水蒸気分離器、 51 被除湿ガス入口、
52 中空糸膜、 53 被除湿ガス出口、 54 パージガス入口、 55 外筒、
56 パージガス出口、 6 キャリヤガス露点計、 7 キャリヤガス圧力計、
8 キャリヤガスコンプレッサ、 9 冷却器、 91 冷却器入口、
92 冷却室、 93 冷却器出口、 94 ペルチエ素子、 95 断熱材、
96 試料水出口、 97 放熱フィン、 98 冷却ファン、 10 除湿器、
11 第1の減圧弁、 12 第1の電磁弁、 13 加圧キャリヤガス圧力計、
14 第2の減圧弁、 15 キャリヤガスフィルタ、 16 キャリヤガス流量計、 17 窒素ガスボンベ、 18 定圧調整弁、 19 第2の電磁弁、
20 第3の電磁弁、 21 トリチウム検出部、 211 試料水入口、
212 試料水容器、
213a 第1のシンチレータ、 213b 第2のシンチレータ、 214 試料水出口、
215a 第1のライトガイド、 215b 第2のライトガイド、
216a 第1の光電子増倍管、 216b 第2の光電子増倍管、
217a 第1の前置増幅器、 217b 第2の前置増幅器、
218 同時計数回路、 22 オートドレン、 22a 第1のオートドレン、
22b 第2のオートドレン、 23 蒸発器、 24 サンプルガスポンプ、
25 測定装置、 26 サンプルガスコンプレッサ、 27 ミストセパレータ、
28 第3の減圧弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のガスをサンプリングするサンプリング手段と、サンプルガス中の水蒸気を分離してキャリヤガス中に放出する水蒸気分離手段と、水蒸気を含むキャリヤガスから試料水を採取する試料水採取手段と、採取した試料水のトリチウムを検出するトリチウム検出手段と、トリチウムを検出した信号を入力してトリチウムを測定するトリチウム測定手段とを備えたことを特徴とするトリチウムモニタ。
【請求項2】
上記サンプリング手段は、サンプルガス中の水蒸気密度を測定するサンプルガス水蒸気密度測定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のトリチウムモニタ。
【請求項3】
上記水蒸気分離手段は、水蒸気を分離する中空糸膜を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のトリチウムモニタ。
【請求項4】
上記水蒸気分離手段の中空糸膜は、非多孔質のイオン交換膜を使用したことを特徴とする請求項3記載のトリチウムモニタ。
【請求項5】
上記試料水採取手段は、キャリヤガスを冷却するペルチェ素子を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。
【請求項6】
上記試料水採取手段は、キャリヤガスを加圧するキャリヤガスコンプレッサを設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。
【請求項7】
上記試料水採取手段は、中空糸膜を有する除湿器を設け、キャリヤガスコンプレッサで加圧したキャリヤガスをペルチェ素子で冷却して試料水を採取すると共に、試料水を採取した後のキャリヤガスから残留水蒸気を上記中空糸膜で分離して上記キャリヤガスコンプレッサの吸入側に戻すようにしたことを特徴とする請求項1記載のトリチウムモニタ。
【請求項8】
上記除湿器の中空糸膜は、微多孔質膜を使用したことを特徴とする請求項7記載のトリチウムモニタ。
【請求項9】
上記試料水採取手段は、キャリヤガスボンベを有し、上記キャリヤガスボンベから供給されたキャリヤガスが上記試料水採取手段内を循環するようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。
【請求項10】
上記トリチウム検出手段は、対向する複数のシンチレータで隙間を構成し、その隙間を試料水が重力で落下するようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。
【請求項11】
上記トリチウム検出手段は、対向する2個のシンチレータの同時計数でトリチウムを検出するようにしたことを特徴とする請求項10記載のトリチウムモニタ。
【請求項12】
上記トリチウム検出手段は、対向する2個のシンチレータがCaF(Eu)またはYAlO3(Ce)であることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。
【請求項13】
上記トリチウム検出手段は、トリチウム検出の終わった試料水を蒸発させて排気する蒸発器を有することを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。
【請求項14】
上記サンプリング手段は、サンプルガスコンプレッサを備え、サンプルガスコンプレッサでサンプルガスを加圧して湿りガスとし、上記湿りガスを水蒸気分離手段に導入するようにしたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項記載のトリチウムモニタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−183136(P2007−183136A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−773(P2006−773)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】