説明

トロイダル型無段変速機

【課題】パワーローラの回転による潤滑油の飛散を防止しつつ、パワーローラのトラクション面およびベアリング部への潤滑油供給路の構造を簡素化できる、冷却性能が高い低コストなトロイダル型無段変速機を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るトロイダル型無段変速機では、トラニオン15から潤滑油ガイドカバー300Aに至る潤滑油供給路29a、400,407,408を有し、潤滑油ガイドカバー300Aから直接パワーローラ11のトラクション面(周面11a)に潤滑油を吹き付けて潤滑油を供給するので、潤滑油が潤滑油ガイドカバー300Aの切欠部321から飛散するのを抑制し、効率的にパワーローラ11を冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や各種産業機械の変速機などに利用可能なトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用変速機として用いるダブルキャビティ式トロイダル型無段変速機は、図14および図15に示すように構成されている。図14に示すように、ケーシング50の内側には入力軸1が回転自在に支持されており、この入力軸1の外周には、2つの入力側ディスク2,2と2つの出力側ディスク3,3とが取り付けられている。また、入力軸1の中間部の外周には出力歯車4が回転自在に支持されている。この出力歯車4の中心部に設けられた円筒状のフランジ部4a,4aには、出力側ディスク3,3がスプライン結合によって連結されている。
【0003】
入力軸1は、図中左側に位置する入力側ディスク2とカム板(ローディングカム)7との間に設けられたローディングカム式の押圧装置12を介して、駆動軸22により回転駆動されるようになっている。また、出力歯車4は、2つの部材の結合によって構成された仕切壁(中間壁)13に対しアンギュラ玉軸受107を介して支持されるとともに、この仕切壁13を介してケーシング50内に支持されており、これにより、入力軸1の軸線Oを中心に回転できる一方で、軸線O方向の変位が阻止されている。
【0004】
出力側ディスク3,3は、入力軸1との間に介在されたニードル軸受5,5によって、入力軸1の軸線Oを中心に回転自在に支持されている。また、図中左側の入力側ディスク2は、入力軸1にボールスプライン6を介して支持され、図中右側の入力側ディスク2は、入力軸1にスプライン結合されており、これら入力側ディスク2は入力軸1と共に回転するようになっている。また、入力側ディスク2,2の内側面(凹面;トラクション面とも言う)2a,2aと出力ディスク3,3の内側面(凹面;トラクション面とも言う)3a,3aとの間には、パワーローラ11(図15参照)が回転自在に挟持されている。
【0005】
図14中右側に位置する入力側ディスク2の内周面2cには、段差部2bが設けられ、この段差部2bに、入力軸1の外周面1aに設けられた段差部1bが突き当てられるとともに、入力側ディスク2の背面(図14の右面)は、入力軸1の外周面に形成されたネジ部に螺合されたローディングナット9に突き当てられている。これによって、入力側ディスク2の入力軸1に対する軸線O方向の変位が実質的に阻止されている。また、カム板7と入力軸1の鍔部1dとの間には、皿ばね8が設けられており、この皿ばね8は、各ディスク2,2,3,3の凹面2a,2a,3a,3aとパワーローラ11,11の周面11a,11aとの当接部に押圧力を付与する。
【0006】
図14のA−A線に沿う断面図である図15に示すように、ケーシング50の内側であって、出力側ディスク3,3の側方位置には、両ディスク3,3を両側から挟む状態で一対のヨーク23A,23Bが支持されている。これら一対のヨーク23A,23Bは、鋼等の金属のプレス加工あるいは鍛造加工により矩形状に形成されている。そして、後述するトラニオン15の両端部に設けられた枢軸14を揺動自在に支持するため、ヨーク23A,23Bの四隅には、円形の支持孔18が設けられるとともに、ヨーク23A,23Bの幅方向の中央部には、円形の係止孔19が設けられている。
【0007】
一対のヨーク23A,23Bは、ケーシング50の内面の互いに対向する部分に形成された支持ポスト64,68により、支持ポスト64,68を支点として揺動できるように支持されている。これらの支持ポスト64,68はそれぞれ、入力側ディスク2の内側面2aと出力側ディスク3の内側面3aとの間にある第1キャビティ221および第2キャビティ222にそれぞれ対向する状態で設けられている。
【0008】
したがって、ヨーク23A,23Bは、各支持ポスト64,68に支持された状態で、その一端部が第1キャビティ221の外周部分に対向するとともに、その他端部が第2キャビティ222の外周部分に対向している。
【0009】
第1および第2のキャビティ221,222は同一構造であるため、以下、第1キャビティ221のみについて説明する。
【0010】
図15に示すように、ケーシング50の内側において、第1キャビティ221には、入力軸1に対し捻れの位置にある一対の枢軸(傾転軸)14,14を中心として揺動する一対のトラニオン15,15が設けられている。なお、図15においては、入力軸1の図示は省略している。各トラニオン15,15は、その本体部である支持板部16の長手方向(図15の上下方向)の両端部に、この支持板部16の内側面側に折れ曲がる状態で形成された一対の折れ曲がり壁部20,20を有している。そして、この折れ曲がり壁部20,20によって、各トラニオン15,15は、パワーローラ11を収容するための凹状の収容空間であるポケット部Kを形成している。また、各折れ曲がり壁部20,20の外側面には、各枢軸14,14が互いに同心的に設けられている。
【0011】
支持板部16の中央部には円孔21が形成され、この円孔21には支軸としての変位軸23の基端部(第1の軸部)23aが支持されている。そして、各枢軸14,14を中心として各トラニオン15,15を揺動させることにより、これら各トラニオン15,15の中央部に支持された変位軸23の傾斜角度を調節できるようになっている。また、各トラニオン15,15の内側面から突出する変位軸23の先端部(第2の軸部)23bの周囲には、各パワーローラ11が回転自在に支持されており、各パワーローラ11,11は、各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の間に挟持されている。なお、各変位軸23,23の基端部23aと先端部23bとは、互いに偏心している。
【0012】
また、前述したように、各トラニオン15,15の枢軸14,14はそれぞれ、一対のヨーク23A,23Bに対して揺動自在および軸方向(図15の上下方向)に変位自在に支持されており、各ヨーク23A,23Bにより、トラニオン15,15はその水平方向の移動を規制されている。前述したように、各ヨーク23A,23Bの四隅には円形の支持孔18が4つ設けられており、これら支持孔18にはそれぞれ、トラニオン15の両端部に設けた枢軸14がラジアルニードル軸受(傾転軸受)30を介して揺動自在(傾転自在)に支持されている。また、前述したように、ヨーク23A,23Bの幅方向(図14の左右方向)の中央部には、円形の係止孔19が設けられており、この係止孔19の内周面は円筒面として、支持ポスト64,68を内嵌している。すなわち、上側のヨーク23Aは、ケーシング50に固定部材52を介して支持されている球面ポスト64によって揺動自在に支持されており、下側のヨーク23Bは、球面ポスト68およびこれを支持する駆動シリンダ31の上側シリンダボディ61によって揺動自在に支持されている。
【0013】
なお、各トラニオン15,15に設けられた各変位軸23,23は、入力軸1に対し、互いに180度反対側の位置に設けられている。また、これらの各変位軸23,23の先端部23bが基端部23aに対して偏心している方向は、両ディスク2,2,3,3の回転方向に対して同方向(図15で上下逆方向)となっている。また、偏心方向は、入力軸1の配設方向に対して略直交する方向となっている。したがって、各パワーローラ11,11は、入力軸1の長手方向に若干変位できるように支持される。その結果、押圧装置12が発生するスラスト荷重に基づく各構成部材の弾性変形等に起因して、各パワーローラ11,11が入力軸1の軸方向に変位する傾向となった場合でも、各構成部材に無理な力が加わらず、この変位が吸収される。
【0014】
また、パワーローラ11の外側面とトラニオン15の支持板部16の内側面との間には、パワーローラ11の外側面の側から順に、スラスト転がり軸受であるスラスト玉軸受24と、スラストニードル軸受25とが設けられている。このうち、スラスト玉軸受24は、各パワーローラ11に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、これら各パワーローラ11の回転を許容するものである。このようなスラスト玉軸受24はそれぞれ、複数個ずつの玉(転動体)26,26と、これら各玉26,26を転動自在に保持する円環状の保持器27と、円環状の外輪28とから構成されている。また、各スラスト玉軸受24の内輪軌道は各パワーローラ11の外側面(大端面)に、外輪軌道は各外輪28の内側面にそれぞれ形成されている。
【0015】
また、スラストニードル軸受25は、トラニオン15の支持板部16の内側面と外輪28の外側面との間に挟持されている。このようなスラストニードル軸受25は、パワーローラ11から各外輪28に加わるスラスト荷重を支承しつつ、これらパワーローラ11および外輪28が各変位軸23の基端部23aを中心として揺動することを許容する。
【0016】
さらに、各トラニオン15,15の一端部(図15の下端部)にはそれぞれ駆動ロッド(枢軸14から延びる軸部)29,29が設けられており、各駆動ロッド29,29の中間部外周面に駆動ピストン(油圧ピストン)33,33が固設されている。そして、これら各駆動ピストン33,33はそれぞれ、上側シリンダボディ61と下側シリンダボディ62とによって構成された駆動シリンダ31内に油密に嵌装されている。これら各駆動ピストン33,33と駆動シリンダ31とで、各トラニオン15,15を、これらトラニオン15,15の枢軸14,14の軸方向に変位させる駆動装置32を構成している。
【0017】
このように構成されたトロイダル型無段変速機の場合、駆動軸22の回転は、押圧装置12を介して、各入力側ディスク2,2および入力軸1に伝えられる。そして、これら入力側ディスク2,2の回転が、一対のパワーローラ11,11を介して各出力側ディスク3,3に伝えられ、更にこれら各出力側ディスク3,3の回転が、出力歯車4より取り出される。
【0018】
入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比を変える場合には、一対の駆動ピストン33,33を互いに逆方向に変位させる。これら各駆動ピストン33,33の変位に伴って、一対のトラニオン15,15が互いに逆方向に変位(オフセット)する。例えば、図15の左側のパワーローラ11が同図の下側に、同図の右側のパワーローラ11が同図の上側にそれぞれ変位する。その結果、これら各パワーローラ11,11の周面11a,11aと各入力側ディスク2,2および各出力側ディスク3,3の内側面2a,2a,3a,3aとの当接部に作用する接線方向の力の向きが変化する。そして、この力の向きの変化に伴って、各トラニオン15,15が、ヨーク23A,23Bに枢支された枢軸14,14を中心として、互いに逆方向に揺動(傾転)する。
【0019】
その結果、各パワーローラ11,11の周面(トラクション面)11a,11aと各内側面2a,3aとの当接位置が変化し、入力軸1と出力歯車4との間の回転速度比が変化する。また、これら入力軸1と出力歯車4との間で伝達するトルクが変動し、各構成部材の弾性変形量が変化すると、各パワーローラ11,11およびこれら各パワーローラ11,11に付属の外輪28,28が、各変位軸23,23の基端部23a、23aを中心として僅かに回動する。これら各外輪28,28の外側面と各トラニオン15,15を構成する支持板部16の内側面との間には、それぞれスラストニードル軸受25,25が存在するため、前記回動は円滑に行われる。したがって、前述のように各変位軸23,23の傾斜角度を変化させるための力が小さくて済む。
【0020】
ところで、上記構成のトロイダル型無段変速機において、パワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の動力伝達は、これらの部材表面の損傷を防止するべく、油膜を介したトラクション力により非接触で行なわれる(以下、油膜によって形成されるパワーローラ11と入出力側ディスク2,3との間の界面をトラクション面と称し、本明細書中では、便宜上、パワーローラ11の周面11aをトラクション面と称することがある)。そのため、パワーローラ11と入出力側ディスクとの間に形成されるトラクション面には、トルクを非接触で伝達するための油膜を形成できる十分な量の潤滑油(トラクション油)を供給する必要がある。
【0021】
また、このような油膜を介したディスク2,3とパワーローラ11との間の動力伝達では、ディスク2,3とパワーローラ11との接触部やパワーローラ11のベアリング部(例えば、スラスト玉軸受24等)で滑りが生じるため、熱が発生する。そのため、パワーローラ11のベアリング部にも潤滑油を十分に供給する必要がある。
【0022】
従来、パワーローラ11のトラクション面およびベアリング部に対する潤滑油の供給は、例えば特許文献1に開示されるように、トラニオンに形成され且つパワーローラ11のトラクション面へと延びる油路と、トラニオンに形成され且つパワーローラ11のベアリング部へと延びる油路とを通じて行なわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2007−154952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
特許文献1に開示された構造では、パワーローラ11のトラクション面に潤滑油を供給するための油路とパワーローラ11のベアリング部に潤滑油を供給するための油路とがトラニオンに交差した状態で一括して形成されている。このように異なる部位へ向かう複数経路の油路がトラニオンに交錯して設けられていると、製造コストが嵩んでしまう。
【0025】
また、前記油路を介してトラクション面に対してトラニオン側から潤滑油を噴射すると、パワーローラの回転により潤滑油が弾かれて飛散してしまうため、トラクション面を効率良く潤滑することができず、トラクション面の冷却不足を招いたり、あるいは、冷却不足とならないように潤滑油の供給量を増大させなければならなくなる。
【0026】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、パワーローラの回転による潤滑油の飛散を防止しつつ、パワーローラのトラクション面およびベアリング部への潤滑油供給路の構造を簡素化できる、冷却性能が高い低コストなトロイダル型無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
前記目的を達成するために、本発明のトロイダル型無段変速機は、回転力を受ける入力軸に結合され且つ入力軸と一体で回転する入力側ディスクと、入力側ディスクとの間に設けられたパワーローラを介して入力側ディスクの回転力を所定の変速比で受ける出力側ディスクと、前記ディスクの中心軸に対し捻れの位置にある枢軸を中心として揺動し且つ前記パワーローラを支持するトラニオンとを備え、前記パワーローラと前記ディスクとの間の動力伝達が油膜を介して行なわれるトロイダル型無段変速機において、
前記入力軸側に面して前記パワーローラの表面と対向位置されるとともに、前記トラニオンに装着され、前記ディスクとの間で油膜を介した動力伝達を成すパワーローラのトラクション面へと潤滑油を案内するように延在する潤滑油ガイドカバーと、
前記トラニオンから前記潤滑油ガイドカバーに至る潤滑油供給路を有し、前記潤滑油ガイドカバーから直接前記パワーローラのトラクション面に潤滑油を吹き付けて潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、潤滑油供給手段は、トラニオンから潤滑油ガイドカバーに至る潤滑油供給路を有し、潤滑油ガイドカバーから直接パワーローラのトラクション面に潤滑油を吹き付けて潤滑油を供給するようになっているので、潤滑油が潤滑油ガイドカバーの切欠部から飛散するのを抑制し、効率的にパワーローラを冷却することができる。
また、トラクション面への潤滑油の供給が潤滑油ガイドカバーによって成されるため、パワーローラのトラクション面に潤滑油を供給するための油路をトラニオンに設けないで済み(言い換えると、パワーローラのベアリング部への潤滑油路をトラニオンに設けるだけで済み)、トラニオンにおける油路の構造が簡素化される。つまり、パワーローラの回転による潤滑油の飛散を防止しつつ、パワーローラのトラクション面およびベアリング部への潤滑油供給路の構造を簡素化できる、冷却性能が高い低コストなトロイダル型無段変速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明以外の発明の第1例に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図2】本発明以外の発明の第1例に係るトロイダル型無段変速機の要部斜視図である。
【図3】図1のトロイダル型無段変速機におけるトラクション面およびスラスト玉軸受への潤滑油供給経路を示す断面図である。
【図4】本発明以外の発明の第2例に係るトロイダル型無段変速機の要部斜視図である。
【図5】図4のトロイダル型無段変速機におけるトラクション面およびスラスト玉軸受への潤滑油供給経路を示す断面図である。
【図6】本発明以外の発明の第3例に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図7】本発明以外の発明の第4例に係るトロイダル型無段変速機の要部斜視図である。
【図8】図7のトロイダル型無段変速機におけるトラクション面およびスラスト玉軸受への潤滑油供給経路を示す断面図である。
【図9】本発明以外の発明の第5例に係るトロイダル型無段変速機に適用される潤滑油ガイドカバーの斜視図である。
【図10】本発明以外の発明の第5例に係るトロイダル型無段変速機の要部斜視図である。
【図11】本発明以外の発明の第6例に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図12】本発明以外の発明の第6例に係るトロイダル型無段変速機に適用される潤滑油ガイドカバーの斜視図である。
【図13】本発明の実施形態に係るトロイダル型無段変速機の要部断面図である。
【図14】従来のトロイダル型無段変速機における要部断面図である。
【図15】図14のA−A線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の特徴は、パワーローラのトラクション面への潤滑油の供給形態にあり、その他の構成および作用は前述した従来の構成および作用と同様であるため、以下においては、本発明の特徴部分についてのみ言及し、それ以外の部分については、図14および図15と同一の符号を付して簡潔に説明するに留める。
なお、図1〜図12は、本発明以外の発明に係るハーフトロイダル型の無段変速機の複数の例を示すものであり、まず、これらの例について説明する。
【0031】
図1〜図3は第1例を示している。第1例はハーフトロイダル型の無段変速機を示しており、パワーローラ11のトラクション面(周面11aの最外径側の一部)近傍には樹脂製または金属製の潤滑油ガイドカバー300が設けられている。具体的に、潤滑油ガイドカバー300は、入力軸1側に面してパワーローラ11の表面と対向位置されており、ディスク2,3との間で油膜を介した動力伝達を成すパワーローラ11のトラクション面へと潤滑油を案内するように延在している。更に具体的には、潤滑油ガイドカバー300は、パワーローラ11の小端面(入力軸1と対向する平面部位)と対向する円形平面部300aと、ディスク2,3と油膜接触するトラクション面以外のパワーローラ11の周面11a部位を覆う(周面11aと隙間を存して対向する)周面対向部300bとから成っている。また、潤滑油ガイドカバー300は、パワーローラ11を回転自在に支持する支軸としての変位軸23(第1例では、外輪28と一体の軸として形成されている)に対して例えばスナップ結合により嵌め込み装着されている。そのため、第1例では、潤滑油ガイドカバー300の円形平面部300aの中心付近に、変位軸23の端面の係合部に例えば弾性的に係合する係止片300dが設けられている。無論、変位軸23に対する潤滑油ガイドカバー300の装着形態はこれに限定されず、例えば金属製の潤滑油ガイドカバー300を外輪28と一体の変位軸23に対して止め輪などで固定しても同様の効果を得ることができる。
【0032】
また、第1例では、潤滑油ガイドカバー300の中心付近へと潤滑油を供給するための潤滑油供給手段が設けられている。具体的に、この潤滑油供給手段は、トラニオン11の支持板部16に結合された潤滑油供給パイプ304と、支持板部16に形成され且つ潤滑油供給パイプ304に連通する第1の油路302と、変位軸23に形成され且つ第1の油路302に連通するとともに潤滑油ガイドカバー300の中心付近で開口する第2の油路(図1には図示せず;図3参照)とから成る。
【0033】
また、第1例において、前記潤滑油供給手段は、スラスト玉軸受24へ潤滑油を供給するための軸受潤滑油路390を備えている。この軸受潤滑油路390は前記第2の油路から分岐している
【0034】
したがって、このような構成では、トラクション油は、図3に矢印Pで示すように、トラニオン15に装着された潤滑油供給パイプ304から供給され、トラニオン15の第1の油路302および変位軸23の第2の油路に導入された後、第2の油路の端部開口を通じて潤滑油ガイドカバー300の中心付近に供給される。潤滑油ガイドカバー300の中心付近に供給されたトラクション油は、入力軸1側に面するパワーローラ11の表面(小端面)と潤滑油ガイドカバー300との間の隙間をパワーローラ11の回転により径方向外側へと運ばれ、トラクション面まで到達する。この場合、潤滑油ガイドカバー300がパワーローラ11のトラクション面(図2において潤滑油ガイドカバー300により覆われていないパワーローラ11の周面11aの部位)へと潤滑油を案内するように延在しているため、すなわち、ディスク2,3とパワーローラ11とが油膜接触するトラクション面以外のパワーローラ11の部位が潤滑油ガイドカバー300によって覆われているため、トラクション油はトラクション面に達するまでパワーローラ11の表面部位に沿って流れる。一方、前記第2の油路に導入された潤滑油の一部は、図3に矢印P1で示すように、軸受潤滑油路390を通じてスラスト玉軸受24へと供給される。
【0035】
以上説明したように、第1例では、潤滑油ガイドカバー300がパワーローラ11のトラクション面へと潤滑油を案内するように延在しているため、すなわち、ディスク2,3とパワーローラ11とが油膜接触するトラクション面以外のパワーローラ11の部位が潤滑油ガイドカバー300によって覆われているため、トラクション油はトラクション面に達するまでパワーローラ11の表面部位に沿って流れる。そのため、トラクション油は飛散することなく長くにわたりトラクション面近傍に存在するため、効率良くパワーローラ11を冷却することができる。また、トラクション面への潤滑油の供給が潤滑油ガイドカバー300によって成されるため、パワーローラ11のトラクション面へと直接に潤滑油を導く油路をトラニオン15に設けないで済み(あるいは、パワーローラ11のスラスト玉軸受(ベアリング部)24への潤滑油路をトラニオン15に設けるだけで済み)、トラニオン15における油路の構造が簡素化される。つまり、パワーローラ11の回転による潤滑油の飛散を防止しつつ、パワーローラ11のトラクション面およびスラスト玉軸受24への潤滑油供給路の構造を簡素化できる、冷却性能が高い低コストなトロイダル型無段変速機を提供できる。
【0036】
図4および図5は第2例を示している。図示のように、第2例では、トラニオン15の一対の折れ曲がり壁部20,20の先端縁同士が潤滑油ガイドカバー300Aにより連結されている。このように、一対の折れ曲がり壁部20,20の先端縁同士を潤滑油ガイドカバー300Aにより連結することにより、パワーローラ11から支持板部16に加わるスラスト荷重にかかわらず、この支持板部16(トラニオン15)が弾性変形することを抑制することができる。つまり、第2例において、潤滑油ガイドカバー300Aは、第1例で説明した潤滑油ガイドカバー特有の作用効果を奏するのみならず、トラニオン補強部材としての機能も兼ね備えている。そして、具体的には、第2例において、潤滑油ガイドカバー300Aは、パワーローラ11の小端面(入力軸1と対向する平面部位)と対向する略U字形状の対向面部300aaと、ディスク2,3と油膜接触するトラクション面以外のパワーローラ11の周面11a部位を覆う(周面11aと隙間を存して対向する)周面対向部300bとから成っている。また、第2例において、パワーローラ11の小端面は開口しておらず凹陥部を形成するように閉塞しており、当該凹陥部内に変位軸23が位置している。また、凹陥部を形成する、パワーローラ11の小端面の一部には前記第2の油路を潤滑油ガイドカバー300A側に向けて開口させる貫通穴が形成されている。
【0037】
このような構成の第2例では、第1例と同様、トラクション油は、図5に矢印Pで示すように、トラニオン15に装着された潤滑油供給パイプ304から供給され、トラニオン15の第1の油路302および変位軸23の第2の油路に導入された後、第2の油路の端部開口(パワーローラ11の小端面の前記貫通穴)を通じて潤滑油ガイドカバー300の中心付近に供給される。潤滑油ガイドカバー300の中心付近に供給されたトラクション油は、入力軸1側に面するパワーローラ11の表面(小端面)と潤滑油ガイドカバー300との間の隙間をパワーローラ11の回転により径方向外側へと運ばれ、トラクション面まで到達する。この場合、潤滑油ガイドカバー300がパワーローラ11のトラクション面(図4において潤滑油ガイドカバー300により覆われていないパワーローラ11の周面11aの部位)へと潤滑油を案内するように延在しているため、すなわち、ディスク2,3とパワーローラ11とが油膜接触するトラクション面以外のパワーローラ11の部位が潤滑油ガイドカバー300によって覆われているため、トラクション油はトラクション面に達するまでパワーローラ11の表面部位に沿って流れる。一方、前記第2の油路に導入された潤滑油の一部は、図5に矢印P1で示すように、前記凹陥部を形成するパワーローラ11の小端面の内側面部と変位軸23との間の隙間を通じて、変位軸23とパワーローラ11との間に介挿されたスラストニードル軸受202へと流れ、その後、スラスト玉軸受24へと達する。
したがって、第2例においても、第1例と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
図6は第3例を示している。図示のように、第3例において、前記潤滑油供給手段は、トラニオン15の枢軸14から潤滑油ガイドカバー300A(第2例と同様、トラニオン15の補強部材としての機能も兼ね備えている)の中心付近へと延びる潤滑油供給路29a,400,406を有し、軸受潤滑油路402,404,392が前記潤滑油供給路から分岐している。したがって、枢軸14の潤滑油供給路29aから供給される潤滑油は、図6に矢印P,P1で示される経路を経てトラクション面およびスラスト玉軸受24へと供給される。
【0039】
図7および図8は第4例を示している。第4例では、潤滑油ガイドカバー300Bがトラニオン15に装着されている。この場合、潤滑油ガイドカバー300は、トラニオン15に対して例えば加締めまたはスナップ結合により装着されている。そのため、第4例では、潤滑油ガイドカバー300Bの円形平面部300aの4つの隅部に、トラニオン15へと延びる加締め部またはスナップ係止脚部300cが設けられている。無論、トラニオン15に対する潤滑油ガイドカバー300Bの装着形態はこれに限定されない。なお、第4例において、トラクション面およびスラスト玉軸受24への潤滑油の供給経路P,P1は第2例と同じである。
【0040】
図9および図10は第5例を示している。図示のように、第5例において、潤滑油ガイドカバー300Cには、パワーローラ11と対向する面に、潤滑油を導くための油溝500が形成されている。この油溝500は、パワーローラ11のトラクション面に向けて延びて(カバー中心から、カバーの側方開放部付近に延びて)おり、トラクション接触部の出口側に向かって形成されている。
【0041】
このように構成することで、トラクション油はトラクション接触部出口付近に多く導入される。トラクション接触部の出口では、動力伝達仕事をした直後で高温となっているため、そこに多くの潤滑油を導くことにより、効率的に熱伝達(冷却)を行なうことができる。また、出口部に導入された油は反対側の開口部に達するため、パワーローラ11の表面に沿って流れる(図中、Qはパワーローラ11の回転方向、Cはトラクション接触部を示している)。したがって、潤滑油が長時間トラクション面に接しているため、更に良い冷却を行なうことができる。なお、第5例の構成は、前述した第1ないし第4例の全ての潤滑油ガイドカバーに適用できる。
【0042】
図11および図12は第5例を示している。第5例に係るトロイダル型無段変速機は、潤滑油ガイドカバー300Dにパワーローラ11の小端面(小径側端面)に形成された環状の凹部310に対して隙間を持って嵌り合う凸部320が形成されている以外は、第1例のトロイダル型無段変速機と同様の構成を有するものとなっている。
そして、潤滑油ガイドカバー300Dには、図2に示す第1例の潤滑油ガイドカバー300と同様に入力側ディスク2または出力側ディスク3と対向する部分に切欠部が設けられている。すなわち、図12に示すように、潤滑油ガイドカバー300Dの円形平面部300aの外周部分からパワーローラ11のトラクション面に沿って延出する周面対向部300b同士の間に切欠部321が形成されている。
【0043】
この切欠部321は、潤滑油ガイドカバー300Dが入力側ディスク2および出力側ディスク3に接触しないように設けられたもので、この切欠部321の部分において、パワーローラ11と入力側ディスク2もしくは出力側ディスク3との間でトルク伝達が行われることになる。
なお、周面対向部300bの先端部には、二つの周面対向部300bどうしの間(周方向に沿った間)に設けられた前記切欠部321より小さい切欠部が設けられるが、これは、潤滑油ガイドカバー300Dが、トラニオン15の折れ曲がり壁部20に接触するのを防止するためのものであり、パワーローラ11のこの小さな切欠部で露出する部分は、折れ曲がり壁部20と近接することで、潤滑油の飛散が抑制される。
【0044】
ここで、潤滑油ガイドカバー300D(300)を設けることで、パワーローラ11からの潤滑油の飛散を大幅に防止できるが、この潤滑油ガイドカバー300Dの切欠部321においては、パワーローラ11のトラクション面(周面11a)が潤滑油ガイドカバー300Dで覆われておらず、入力側ディスク2もしくは出力側ディスク3と接触もしくは近接していない部分で潤滑油が飛散する虞がある。
【0045】
そこで、潤滑油ガイドカバー300Dにおいては、切欠部321からの潤滑油の飛散を防止するために、パワーローラ11の小端面に環状の凹部310が形成され、潤滑油ガイドカバー300Dの前記パワーローラ11の環状の凹部310に対向し、かつ、前記切欠部321に対応する位置に、前記凹部310内面との間に隙間を持って当該凹部310と嵌り合う凸部320が設けられている。
【0046】
パワーローラ11の小端面には、図1に示すように、第1例のトロイダル型無段変速機においても、環状の凹部310が設けられており、この例ではパワーローラ11の小端面に形成された凹部310を利用するようになっている。この環状の凹部310は、パワーローラ11の小端面内に形成されており、トラクション面(周面11a)よりは回転中心側に設けられ、変位軸23の先端部23bよりは外側に設けられている。
また、凹部310の断面形状は、幅方向の中央部がほぼ平板状で。幅方向の左右側縁部は、端に行くほど浅くなる(薄くなる)形状となっている。
【0047】
前記凸部320は、潤滑油ガイドカバー300Dの中央部で、パワーローラ11の小端面に対向する円形平面部300aのパワーローラ11の小端面に対向する部分に設けられている。そして、凸部320は、円形平面部300aのパワーローラ11に対向する面で、かつ、前記凹部310に対向する位置に設けられている。また、凸部320は、潤滑油ガイドカバー300Dの切欠部321の径方向の中心側に対応する位置に設けられている。
【0048】
また、前記切欠部321は、潤滑油ガイドカバー300Dの円形平面部300aの径方向外側となる部分の入力側ディスク2に対向する部分と、出力側ディスク3に対向する部分との両方に設けられている。そして、凸部320も2つの切欠部321に対応して2つ形成されている。また、凸部320は、パワーローラ11の小端面の円環状の凹部310に隙間を持って嵌り込む形状とされており、その断面形状が凹部310の断面形状とほぼ同じで、幅方向の中央部が板状で、幅方向の左右端部が端に行くほど薄くなる形状となっている。
【0049】
また、凸部320の平面形状は、凹部310の帯状で、かつ、円環状の形状に対応して、帯状で円弧状の形状となっている。すなわち、2つの凸部320は、パワーローラ11の回転中心の延長線上にある円形平面部300aの中心を中心とする円環の一部となる円弧状の平面形状を有するとともに、2つの凸部320が互いに周方向に離れた位置にある。また、2つの凸部320は、これらの間の中央を通り、かつ円形平面部300aの直径となる線分に対して対象になるように配置されている。
【0050】
潤滑油ガイドカバー300Dは、第1例と同様に変位軸23(支軸)に固定されている。
そして、パワーローラ11の支軸に潤滑油ガイドカバー300Dを固定した状態で潤滑油ガイドカバー300Dの凸部320がパワーローラ11の小端面の凹部310に入り込んで嵌り込んだ状態となる。しかし、凹部310の内面と、凸部320の外面とは接触することがなく、凹部310の内面と凸部320との間には、僅かに隙間が有る状態となっている。
【0051】
したがって、回転するパワーローラ11に対して固定の潤滑油ガイドカバー300Dの凸部320が、パワーローラ11に摺動する状態とはならず、非接触の状態で相対的に環状の凹部310内を円弧状の凸部320が周方向に移動する状態となる。すなわち、潤滑油ガイドカバー300Dと、パワーローラ11とは、接触することなく、それらの間には明らかな隙間が設けられている。そして、第1例のように第2の油路のパワーローラ11の小端面の中心部の開口から潤滑油が吐出された状態となると、潤滑油は、パワーローラ11の回転による遠心力によって小端面の中心側から径方向外側に向かうことになる。
【0052】
そして、この潤滑油のうちパワーローラ11の径方向に沿って潤滑油ガイドカバー300Dの切欠部321に向かう潤滑油は、パワーローラ11の小端面の中心から周面11aに向かう途中で、凹部310と凸部320との間の隙間に入りこみ、これによって、パワーローラ11の径方向外側への移動が抑制される。
すなわち、間に隙間を有する凹部310と凹部310と凸部320との嵌り合った部分が所謂ラビリンスシールとして機能し、凹部310および凸部320の部分より外側への潤滑油の移動を阻害することになる。なお、凹部31と凸部320との間には、径方向に連続する隙間があり、潤滑油の径方向に沿った移動を完全に止めるものではないが、移動は抑制される。
【0053】
これにより、潤滑油が回転するパワーローラ11の小端面の中心部から径方向外側に移動して周面11aに至り、さらに周面11aを小径側端面(小端面)から大径側端面方向に移動する際に、潤滑油ガイドカバー300Dの切欠部321側に向かう潤滑油は、前記凹部310と凸部320とからなるラビリンスシールにより移動が抑止され、周面11aに至る潤滑油量が少なくなる。
【0054】
それに対して、潤滑油ガイドカバー300Dの切欠部321ではなく、周面対向部300bに向かう潤滑油は、二つの凸部320の間を通り抜けて周面11aに向かう状態となり、凹部310と凸部320が嵌り合った部分の影響を受けることなく、円滑に周面11aに向かうことになる。
【0055】
これにより、パワーローラ11の潤滑油ガイドカバー300Dの周面対向部300bと対向する周面11a部分に供給される潤滑油量が多くなり、潤滑油ガイドカバー300Dの周面対向部300b同士の間の切欠部321で露出するパワーローラ11の周面11aの部分、すなわち、切欠部321と重なる部分に供給される潤滑油量が少なくなる。
したがって、パワーローラ11の周面11aの周面対向部300bに覆われた部分に供給される潤滑油量より、切欠部321で開放された状態の周面11aに供給される潤滑油量が少なくなる。
【0056】
そして、切欠部321で飛散する潤滑油の量が大幅に低減され、潤滑油を効率的に使用することができ、第1例と同じ潤滑油量でもパワーローラ11の冷却等の潤滑油による効果をより高めることができる。また、供給する潤滑油量のさらなる低減を図ることも可能となる。
【0057】
また、この例の潤滑油ガイドカバー300Dでは、第5例と同様に、潤滑油ガイドカバー300Dの円形平面部300aのパワーローラ11の小端面に対向する部分に、円形平面部300a(パワーローラ11)の径方向に沿って油溝510が形成されている。
この例では、油溝510は、その両端がそれぞれ周面対向部300bに向かう方向で、油溝510は、左右の切欠部321の間で、さらに左右の凸部320の間を通るように配置されている。
【0058】
また、概略円筒状の係止片300dには、油溝510と交差する部分に潤滑油を通すための切欠部が設けられており、支軸(変位軸23)の先端面の中央部で開口する第2の油路から吐出された潤滑油が係止片300d内から油溝510へ流出する際に流出が容易となっている。
また、概略円筒の係止片300dの切欠部321は、油溝510と交差する部分にだけ形成され、かつ、切欠部は、周面対向部300bの方向に臨むように形成され、凸部320および切欠部321に臨む方向には形成されていない。これによっても、切欠部321側に潤滑油が流れるのを抑制することができる。
【0059】
また、上記油溝510は、潤滑油を周面対向部300b側に誘導することになり、これによっても、切欠部321側に流れる潤滑油量を減少され、周面対向部300b側に流れる潤滑油量を増加させることができる。
以上のことから、潤滑油ガイドカバー300Dの切欠部321からの潤滑油の飛散を抑制し、効率良くパワーローラ11を冷却可能となる。
【0060】
なお、この例において油溝510は、一方の周面対向部300bの中心(パワーローラ11の回転方向の中央)から他方の周面対向部300bの中心に向かう方向(入力軸1と直交する方向)となっているが、第5例のように、油溝510の半径方向外側が、パワーローラ11の入力側ディスク2または出力側ディスク3とのトラクション接触部の出口側に向かうように斜めに配置されるものとしてもよい。
【0061】
すなわち、油溝510の両端が、この例のように周面対向部300bの中央ではなく、周方向の一方の端部(側縁部)側に配置されるようにしてもよい。この際に、周面対向部300bの周方向の両端部(側縁部)のうちの一方の端部が他方の端部に対してパワーローラ11の回転方向の逆側(逆回転方向側)となる。
なお、このような凹部310と凸部320とは、上述の第1例のパワーローラ11および潤滑油ガイドカバー300だけではなく、第2例から第5例のパワーローラ11および潤滑油ガイドカバー300A、300Bにも適用可能であり、この例と同様の作用効果を得ることができる。
また、凹部310および凸部320を、半径方向に一段ずつ設ける構成としたが、径方向に複数段ずつ設ける構成としてもよい。この際、複数の凹部310は、パワーローラ11の回転中心を中心として同軸上に複数円環状に形成され、複数の凸部320は、各凹部310内に挿入された状態で各凹部310内を周方向に相対的に移動可能に円弧状に形成されることになる。
【0062】
図13は本発明の実施形態を示している。本実施形態に係るトロイダル型無段変速機は、その潤滑油供給手段の構成が異なる以外は、図4および図5に示す第2例および図6に示す第3例と同様の構成を有している。すなわち、前記潤滑油ガイドカバー300Aが前記トラニオン15に装着されている。そして、これら第2および第3例と同様に、トラニオン15の一対の折れ曲がり壁部20,20の先端縁同士が潤滑油ガイドカバー300Aにより連結されている。
【0063】
そして、この例においては、潤滑油供給手段の構成が、第3例に類似する構成となっているが、最終的に潤滑油が吐出される位置が、パワーローラ11の小端面の回転中心に対向する潤滑油ガイドカバー300Aの中心付近ではなく、潤滑油ガイドカバー300Aの周面対向部300bの基端部(潤滑油ガイドカバー300Aのパワーローラ11の小端面と対向する対向面部300aaとの接続部分)側でパワーローラ11の周面11aの小端面側となる部分に対向する部分となっている。
【0064】
すなわち、この例における潤滑油供給手段では、枢軸14側から供給される潤滑油が潤滑油供給路29a、400、407、408を通るようになっている、また、当該潤滑油供給路29a、400、407、408から軸受潤滑油路402,404,392が分岐している。すなわち、図13に示すように、潤滑油は、軸受潤滑油路402,404,392を通るP1の経路を通ってスラスト玉軸受24に至るとともに、第3例のPの経路に代わり、潤滑油供給路29a、400、407,408を通るP2の経路をとってパワーローラ11のトラクション面に至るようになっている。
【0065】
なお、P1の経路は、第3例と同様の経路となる。
P2の経路は、枢軸14に設けられた潤滑油供給路29aの当該枢軸14の基端側の端部から、トラニオン15の折れ曲がり壁部20に、当該折れ曲がり壁部20の先端側に向かって形成された潤滑油供給路400に至る。そして、当該潤滑油供給路400の折れ曲がり壁部20の先端側端部近傍から潤滑油ガイドカバー300Aの対向面部300aaに略全幅に渡って設けられた潤滑油供給路407に至るようになっている。
【0066】
そして、潤滑油供給路407には、2つの折れ曲がり壁部20の近傍にそれぞれ至る両端部に潤滑油供給路408がそれぞれ接続されている。当該潤滑油供給路408は、潤滑油ガイドカバー300Aの対向面部300aaの周面対向部300b側端部から周面対向部300bの対向面部300aa側端部に至るように当該潤滑油ガイドカバー300Aに形成されている。
【0067】
そして、潤滑油供給路408は、周面対向部300b側の端部が、周面対向部300bの対向面部300aa側端部のパワーローラ11の周面11aに対向する部分に開口している。そして、潤滑油供給路408の前記開口からパワーローラ11の11aの小端面側の側縁部分に、潤滑油が吐出して吹き付けられるようになっている。
すなわち、この例の潤滑油供給手段は、前記トラニオン15から前記潤滑油ガイドカバー300Aに至る潤滑油供給路29a、400,407,408を有し、前記潤滑油ガイドカバー300Aから直接パワーローラ11のトラクション面(周面11a)に潤滑油を吹き付けて潤滑油を供給するようになっている。
【0068】
これにより、直接的にパワーローラ11の周面11aの潤滑油ガイドカバー300Aの周面対向部300bで覆われた部分に潤滑油が供給されるので、潤滑油が潤滑油ガイドカバー300Aの切欠部321から飛散するのを抑制し、効率的にパワーローラ11を冷却することができる。
なお、潤滑油供給路408の潤滑油ガイドカバー300Aの周面対向部300bの開口位置は、周面対向部300bの周方向の中央部である必要はなく、周方向の一方の側縁側に配置されるようにしてもよい。この際に、周面対向部300bの周方向の両側縁のうちの一方の側縁が他方の側縁に対してパワーローラ11の回転方向の逆側となる。この場合に、パワーローラ11の周面11aの切欠部231で露出して入力側ディスク2もしくは出力側ディスク3とトラクション接触した部分が回転して周面対向部300bと重なる位置となった際に潤滑油が吹き付けられることになり、より効率的にパワーローラ11を冷却可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 入力軸
2 入力側ディスク
3 出力側ディスク
11 パワーローラ
14 枢軸
15 トラニオン
16 支持板部
20 折れ曲がり壁部
23 変位軸(支軸)
24 スラスト軸受
28 外輪
300,300A,300B,300C,300D 潤滑油ガイドカバー
302 第1の油路
304 潤滑油供給パイプ
310 凹部
320 凸部
321 切欠部
390,392 軸受潤滑油路
400,407,408 潤滑油供給路
500 油溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転力を受ける入力軸に結合され且つ入力軸と一体で回転する入力側ディスクと、入力側ディスクとの間に設けられたパワーローラを介して入力側ディスクの回転力を所定の変速比で受ける出力側ディスクと、前記ディスクの中心軸に対し捻れの位置にある枢軸を中心として揺動し且つ前記パワーローラを支持するトラニオンとを備え、前記パワーローラと前記ディスクとの間の動力伝達が油膜を介して行なわれるトロイダル型無段変速機において、
前記入力軸側に面して前記パワーローラの表面と対向位置されるとともに、前記トラニオンに装着され、前記ディスクとの間で油膜を介した動力伝達を成すパワーローラのトラクション面へと潤滑油を案内するように延在する潤滑油ガイドカバーと、
前記トラニオンから前記潤滑油ガイドカバーに至る潤滑油供給路を有し、前記潤滑油ガイドカバーから直接前記パワーローラのトラクション面に潤滑油を吹き付けて潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、を備えていることを特徴とするトロイダル型無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−19546(P2013−19546A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−242307(P2012−242307)
【出願日】平成24年11月2日(2012.11.2)
【分割の表示】特願2008−318123(P2008−318123)の分割
【原出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】