説明

トーションビーム

【課題】ねじり剛性を確保しつつ、トーションビームのせん断中心を高い位置に設定する。
【解決手段】トーションビームは、頭頂部106が開口側端部108Aおよび開口側端部108Bよりも上側に位置するように配置される。上板110および下板112は、頭頂部106を含む頭頂部106周辺の領域(頭頂部領域)に、それぞれ上側肉厚板部114および下側肉厚板部116を有し、開口側端部108Aおよび開口側端部108Bを含む、開口側端部108Aおよび開口側端部108B周辺の領域(開口側端部領域)に、それぞれ上側肉薄板部118Aおよび上側肉薄板部118Bと、下側肉薄板部120Aおよび下側肉薄板部120Bとを有している。上板110および下板112は、開口側端部108Aおよび開口側端部108Bにおいて連続した、閉断面構造を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションビームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、質量の増加を抑えつつねじり剛性を向上させるために、略U字の開き断面形状を有するトーションビームに、板状部材を用いて閉断面構造を形成させたトーションビーム式サスペンション構造が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
また、溶接部の応力集中を緩和するために、溶接部両側に特定のノッチを設けたテーラードブランク材が提案されている(たとえば特許文献2参照)。
【0004】
また、旋回特性変化を抑制するために、車体横方向に延びる中央部の両側に、車両斜め後方に延びる両端部を設けたクロスビーム(トーションビーム部材)を有するリアサスペンション装置が提案されている(たとえば特許文献3参照)。
【0005】
また、残留応力を少なく、プレス成型後の焼きなまし処理を不要とするために、パイプからプレス成形により形成され、略V字状もしくは略U字状の断面形状を有するトーションビームを備えた、トーションビーム式サスペンションの製造方法が提案されている(たとえば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−088525号公報
【特許文献2】特開2006−306211号公報
【特許文献3】特開2000−177349号公報
【特許文献4】特開2007−237784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1に開示されるトーションビームのせん断中心は、それほど高く設定されていない。そのため、車体の居住スペースを確保するためにトーションビームの設置位置を下げると、それに伴ってせん断中心、つまりねじり入力に対する断面のねじり中心となる点が下がり過ぎるため、ステア特性が悪化するという問題があった。
【0008】
また、燃費規制によって、車体全体の質量低減、および操作性向上のためにバネ下の質量低下が求められていることから、質量を増加させることなく、ねじり剛性を確保し、かつせん断中心を高い位置に設定することが望ましい。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ねじり剛性を確保しつつ、せん断中心を高い位置に設定するトーションビームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のトーションビームは、断面が略V字もしくは略U字形状であり、頭頂部領域に、開口側端部領域よりも板厚が厚い肉厚部を有する。
【0011】
この態様によると、ねじり剛性を確保し、せん断中心を高く設定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ねじり剛性を確保しつつ、せん断中心を高い位置に設定するトーションビームを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るトーションビームを備えたトーションビーム式サスペンション構造の一部を示すための斜視図である。
【図2】図1に示すトーションビームの軸方向に垂直な断面図である。
【図3】実施形態に係るトーションビームの製造工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、実施形態に係るトーションビーム12を備えたトーションビーム式サスペンション10の一部を示す。図1では、矢印方向が車両前方を示し、トーションビーム式サスペンション10の車両左側の構造が示される。トーションビーム式サスペンション10は左右対称に形成され、トーションビーム式サスペンション10の車両右側およびトーションビーム12の中央部付近の構造の図示は省略する。トーションビーム式サスペンション10は車両リア側に配置され、左右の後輪の各々に連結される。なお、トーションビーム式サスペンション10は、フロント側に配置されてもよい。
【0016】
トーションビーム式サスペンション10は、トーションビーム12、アーム14、アーム14の車両前方側端部に設けられたアーム支持部20、キャリア16、およびスプリング支持部18を有する。トーションビーム12は、左右の後輪が相互に異なる高さに位置したときにねじれ、左右の後輪の各々にねじれによる反力を与える。
【0017】
アーム14は、パイプ状に形成されている。アーム14は車両の前後方向に延在し、延在方向の略中央においてトーションビーム12の端部に結合されている。アーム14の延在方向はトーションビーム12の軸方向と略直交する。
【0018】
キャリア16は、アーム14とトーションビーム12との結合部よりも車両後方において、アーム14から上方に延びるように設けられている。キャリア16はアーム14と車輪とを連結する機能を有し、左側のキャリア16には左後輪が取り付けられ、図示しない右側のキャリアには右後輪が取り付けられる。
【0019】
スプリング支持部18は、トーションビーム12とアーム14との結合部よりも車両後方において、板状に形成された部材の2つの辺の各々がトーションビーム12およびアーム14に結合され、残りの辺に上方に立ち上がるフランジ部が形成される。スプリング支持部18は、トーションビーム式サスペンション10と車体本体とを接続するコイルスプリングを支持する。
【0020】
図2(a)は、図1に示すトーションビームの軸方向に垂直な断面図である。図2(b)は、図2(a)の断面の略V字形状をさらに説明するための図である。なお、図2(a)と同じ記号は図示を省略する。
【0021】
図2(a)に示すように、実施形態に係るトーションビーム12は、断面が略V字もしくは略U字形状のトーションビームであって、断面の中央付近に頭頂部106を有し、断面の端部に開口側端部108Aおよび開口側端部108Bを有する。頭頂部106周辺には肉厚部102が形成され、開口側端部108Aおよび開口側端部108Bの周辺には、それぞれ肉薄部104Aおよび肉薄部104Bが形成される。肉厚部102の板厚は、肉薄部104Aおよび肉薄部104Bの板厚よりも厚くなるように設定される。
【0022】
本実施形態のトーションビーム12は、上板110および下板112からなる二重構造であるが、一重構造、もしくは三重以上の構造であってもよい。また、二重以上の構造を有する場合、断面は閉断面構造であっても開断面構造であってもよい。
【0023】
トーションビーム12は、トーションビーム式サスペンション10において、頭頂部106が開口側端部108Aおよび開口側端部108Bよりも上側に位置するように配置される。上板110および下板112は、頭頂部106を含む頭頂部106周辺の領域(頭頂部領域)に、それぞれ上側肉厚板部114および下側肉厚板部116を有し、開口側端部108Aおよび開口側端部108Bを含む、開口側端部108Aおよび開口側端部108B周辺の領域(開口側端部領域)に、それぞれ上側肉薄板部118Aおよび上側肉薄板部118Bと、下側肉薄板部120Aおよび下側肉薄板部120Bとを有している。上板110および下板112は、開口側端部108Aおよび開口側端部108Bにおいて連続した、閉断面構造を形成している。肉薄部104Aおよび肉薄部104Bは、肉厚部102に比べて板厚が薄く、上板110および下板112に挟まれた中空構造を形成している。
【0024】
図2(b)に示すように、頭頂部106から肉厚部102の下端までの上下方向の距離をL、頭頂部106から開口側端部108Aおよび開口側端部108Bまでの上下方向の距離をdとすると、Lとdは、L≦0.7dという関係を満たすのが望ましい。
【0025】
本実施形態では、トーションビーム12の断面は、頭頂部106を上下方向に通る直線を中心として、上板110および下板112がいずれも線対称の構造を有している。上板110および下板112は、それぞれが平行となるように構成された平面領域122Aおよび平面領域122Bを有する。図2(b)に示すように、これらの平面領域122Aと平面領域122Bとがなす角度を、トーションビーム12の開き角度θと定義する。
【0026】
ここで、開き角度θを小さくすれば、せん断中心を上げることができる。しかし、開き角度θを小さくしすぎると、ねじり剛性が低下しすぎてしまう。ねじり剛性の低下を解消するためには、板厚を厚くする必要があるが、上板110および下板112全体の板厚を厚くすると、トーションビーム12の質量が増加し、コストも増大する。
【0027】
そのため、本実施形態のトーションビーム12は、頭頂部領域にのみ上側肉厚板部114および下側肉厚板部116から構成される肉厚部102を設けた。これにより、質量の増加を抑えつつ、ねじり剛性を確保することができる。また、トーションビーム12の上部に肉厚部102を設けることで、せん断中心を高い位置に設定することができる。
【0028】
また、本実施形態のトーションビーム12では、断面を閉断面構造とすることにより、適切なねじり剛性を確保することができる。なお、トーションビーム12の断面は略V字形状には限られず、たとえば略U字形状に成形されてもよい。
【0029】
図3は、実施形態に係るトーションビームの製造工程を説明するための図である。図3(a)は、製造工程1における鋼板の斜視図である。図3(b)は、図3(a)の鋼板を、矢印Pの方向から見た断面図である。図3(c)は、製造工程2におけるパイプの斜視図である。図3(d)は、図3(c)のパイプを、矢印Qの方向から見た断面図である。図3(e)は、製造工程3におけるトーションビームの斜視図である。図3(f)は、図3(e)のトーションビームを、矢印Rの方向から見た断面図である。
【0030】
まず製造工程1において、テーラードブランク溶接により、差厚を設けた鋼板200を作製する(図3(a))。ここで、テーラードブランク溶接とは、板厚や材質の異なる複数の鋼板をプレス成形前に溶接し、1枚のブランクとすることをいう。実施形態では、鋼板200上に、肉厚板部202と肉厚板部206、および肉薄板部204と肉薄板部208とを形成させた。肉厚板部202の幅m1と肉厚板部206の幅m2とはほぼ等しいことが望ましく、また、肉薄板部204の幅n1と肉薄板部208の幅n2とはほぼ等しいことが望ましい(図3(b))。その理由は後述する。
【0031】
次に、製造工程2において、鋼板200の鋼板端部210と鋼板端部212とを電縫し、パイプ220を形成させる(図3(c))。継ぎ目222は、鋼板端部210と鋼板端部212とが電縫された跡である。ここで、電縫とは、パイプの長手方向の継目(シーム)部分を、電気抵抗溶接により溶接接合することをいう。鋼板200において、肉厚板部202の幅m1と肉厚板部206の幅m2とをほぼ等しくし、肉薄板部204の幅n1と肉薄板部208の幅n2とをほぼ等しくしたことにより、パイプ220においては、肉厚板部202と肉厚板部206、および肉薄板部204と肉薄板部208とが、それぞれ点対称に対向する(図3(d))。
【0032】
次に、製造工程3において、パイプ220を略V字状の断面を有するトーションビーム12に成形する(図3(e))。製造工程3は潰し成形工程であり、潰し工程と成形工程とからなる。まず、潰し工程において、パイプ220を径方向内側に潰し、肉厚板部202と肉厚板部206とが接触するように窪ませられる。次に、成形工程では、図2(b)に示す角θが所望の角度となるまで、押しつぶされたパイプ220に矢印で示す3方向から力を加え、断面略V字形状のトーションビーム12に成形する(図3(f))。上述のとおり、肉厚板部202の幅m1と肉厚板部206の幅m2、および肉薄板部204の幅n1と肉薄板部208の幅n2とをそれぞれほぼ等しくしたことにより、トーションビーム12においては、上側肉厚板部114と下側肉厚板部116の下端がほぼ一致する(図3(f))。なお、トーションビーム12の断面が略U字形状となるよう成形されてもよい。
【0033】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【0034】
10 トーションビーム式サスペンション、 12 トーションビーム、 14 アーム、 16 キャリア、 18 スプリング支持部、 20 アーム支持部、102 肉厚部、 104 肉薄部、 106 頭頂部、 108 開口側端部、 110 上板、 112 下板、 114 上側肉厚板部、 116 下側肉厚板部、 118 上側肉薄板部、 120 下側肉薄板部、 122 平面領域、 200 鋼板、202、206 肉厚板部、 204、208 肉薄板部、 210、212 鋼板端部、 220 パイプ、 222 継ぎ目。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が略V字もしくは略U字形状のトーションビームであって、
頭頂部領域に、開口側端部領域よりも板厚が厚い肉厚部を有することを特徴とするトーションビーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−247694(P2010−247694A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100134(P2009−100134)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】