説明

ドライマイカテープ及びこれを用いた電気絶縁線輪

【課題】ドライマイカテープと含浸ワニスからなる絶縁材料の耐熱性を向上し、電気絶縁線輪および固定子コイルの高温における電気絶縁性を向上して、回転電機を小型化すること。
【解決手段】補強基材と、該補強基材上に形成され、エポキシ樹脂および硬化促進剤を含むバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸するエポキシ樹脂を含む含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを有することを特徴とするドライマイカテープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライマイカテープ、電気絶縁線輪、固定子コイル及び回転電機に係る。
【背景技術】
【0002】
発電機、車両および一般産業用途の回転電機は、小型化や軽量化、大容量化が要求されている。回転電機の小型化や軽量化の一つの手段として、電流密度を高くすることが挙げられるが、同一容量の場合には導体の発熱量が増大するため、コイルに用いられる絶縁材料には高耐熱化が要求される。
【0003】
回転電機に用いられる電気絶縁線輪や固定子コイルの絶縁処理として、マイカテープと含浸ワニスを用いた単独注入(含浸)方式や、全含浸方式が知られている。
(1)単独注入方式は、規定形状に成型して絶縁被覆した導体に、ドライマイカテープを巻き回して電気絶縁線輪単体とし、この電気絶縁線輪単体に含浸ワニスを真空注入(含浸)後、さらに加圧注入(含浸)し、熱硬化して電気絶縁線輪とする。この電気絶縁線輪を鉄心スロットに収納してサシギ下ライナー、サシギなどで固定して固定子コイルとする方式である。
(2)全含浸方式は、規定形状に成型して絶縁被覆した導体に、ドライマイカテープを巻回して電気絶縁線輪単体とし、この電気絶縁線輪単体を鉄心スロットに組込み、サシギ下ライナー、サシギなどでスロット内に固定し鉄心外端部で接続して一体化して固定子単体とする。この固定子単体に含浸ワニスを真空、加圧により注入した後、熱硬化して固定子コイルとする方式である。
【0004】
以上のように、単独注入方式や全含浸方式は、導体などコイル全体に含浸ワニスが浸透できるため、電気絶縁性能を低下させる要因であるボイドを減らすことができ、電気絶縁信頼性が高い。これらの絶縁処理方式に適用される絶縁材料は、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂を主成分とする含浸ワニスと、フィルムなどの補強基材、マイカペーパーおよびマイカペーパーとフィルム基材とを貼り合わせるバインダ樹脂などからなるドライマイカテープで構成されている。
【0005】
前記注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性は、絶縁材料に用いられている含浸ワニスの硬化物の耐熱性に依存する。含浸ワニスを高耐熱化することで注入方式を用いて作製するコイル絶縁材料を高耐熱化する方法は、例えば、特開平1ー4615号(特許文献1)や特開平9ー316167号(特許文献2)に記載される方法がある。特許文献1や特許文献2では、多官能エポキシ樹脂や多官能硬化剤などの耐熱性に優れている素材を用いた含浸ワニスを採用している。しかし、多官能エポキシ樹脂や多官能硬化剤などは常温(25℃)で固形または高粘度であり、これらを配合した含浸ワニスも常温で高粘度となる。したがって、コイルの導体間や絶縁材料の細部に対する含浸ワニスの注入性が低下するため、例えば、含浸ワニスは注入時に加熱して粘度を低くしてから使用される。さらに、含浸ワニスは、何度も繰り返してコイルの注入に使用される。このため、上述のように注入の度に加熱すると徐々に硬化反応が進むことから、定期的な廃棄が必要となる。この結果、特許文献1や特許文献2に記載された含浸ワニスによって絶縁材料を高耐熱化するには、注入性が低下し、また、廃棄量が増えるという問題が生じる。
【0006】
これに対して、ドライマイカテープのバインダ樹脂を高耐熱化することにより、加熱硬化時における注入方式で作製するコイル絶縁材料の劣化などを要因とする剥離を防止して、200℃以上で連続使用可能とするコイルを作製する方法がある。例えば、特開平03−77203号(特許文献3)、特開平6ー233485号(特許文献4)や特開平6ー233486号(特許文献5)である。特許文献3ではドライマイカテープのバインダ樹脂としてp−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル基を3個以上含む多官能エポキシ樹脂を単独、またはフェノール硬化剤を併用し、特許文献4はバインダ樹脂として不飽和イミド系樹脂組成物を用い、特許文献5はバインダ樹脂としてナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂組成物を用いることで上述の効果を有する。しかし、特許文献3から5はドライマイカテープのバインダ樹脂が固形であるため、注入された含浸ワニスと溶解しにくいので、バインダ樹脂と含浸ワニスの硬化反応が不均一になる問題があった。また、前記特許文献3から5は、ドライマイカテープの補強基材とマイカペーパー(マイカ層)とを一つのバインダ樹脂で接着する構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−4615号公報
【特許文献2】特開平9−316167号公報
【特許文献3】特開平3−77203号公報
【特許文献4】特開平6−233485号公報
【特許文献5】特開平6−233486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献3から5では、本発明で明記した補強基材とマイカペーパーを接着するバインダ樹脂層Aが単独で硬化反応して硬化する機能を有する記載はない。さらに、前記特許文献3から5はマイカペーパー表面に前記バインダ樹脂と組成が異なる第二のバインダ樹脂を存在させて、含浸ワニスと硬化反応するといった記載もない。従って、前記特許文献3から5は、本発明における組成の異なる二つのバインダ樹脂を用いる構成については記載がなく、さらに、硬化反応前にマイカパーパーと補強基材を接着し、硬化反応後にマイカパーパーと補強基材を硬化する機能を有するバインダ樹脂層Aと、マイカペーパー表面に存在し、含浸ワニスと溶解、硬化反応する機能を有するバインダ樹脂層Bを用いる構成は開示されていないことは明白である。
【0009】
本発明の目的は、ドライマイカテープと含浸ワニスを用いて、注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性を向上し、電気絶縁線輪および固定子コイルの高温における電気絶縁性を向上して、回転電機を小型化することである。また、含浸ワニスが導体に巻回したドライマイカテープ絶縁層等に確実に含浸され、それによって電気特性の優れた電気絶縁線輪、固定子コイル及び回転電機を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、補強基材と、該補強基材上に形成され、エポキシ樹脂を含むバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸する含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを含むことを特徴とするドライマイカテープを提供するものである。また、本発明のドライマイカテープは、巻回したドライマイカテープに含浸する含浸ワニスやバインダ樹脂層を硬化反応するのための硬化促進剤を含むことができる。
本発明は更に、規定形状に成型し絶縁被覆した導体に、本発明のドライマイカテープを巻回して電気絶縁線輪単体とし、前記電気絶縁線輪単体を鉄心スロットに組み込み、複数の前記電気絶縁線輪を鉄心外端部で接続して、前記複数の電気絶縁線輪と鉄心とを一体にした状態で、エポキシ樹脂及び酸硬化剤を含む含浸ワニスを注入して硬化した固定子コイルを提供するものである。さらに本発明は、上記固定子コイルを用いた回転電機を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のドライマイカテープと含浸ワニスを含むコイル絶縁材料は耐熱性を向上できる。また、本発明のドライマイカテープを用いた電気絶縁線輪、固定子コイルは電気絶縁性を向上できる。したがって、本発明の電気絶縁線輪、固定子コイルを適用した回転電機は小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のドライマイカテープの断面図である。
【図2A】本発明による電気絶縁線輪の外観図である。
【図2B】図2Aの円で示した部分の内部の断面拡大図である。
【図3A】本発明による固定子コイルの断面正面図である。
【図3B】図3Aの円で示した部分の鉄心スロットの断面拡大図である。
【図4】本発明の固定子コイルを用いた回転電機の断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の好ましい実施態様のいくつかの例について説明する。前記ドライマイカテープにおいて、前記バインダ樹脂層Bは、巻回した前記ドライマイカテープに含浸する含浸ワニスと反応して、前記含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるエポキシ樹脂を含むことが必要である。エポキシ樹脂や硬化剤を含む含浸ワニスと反応してより高いガラス転移点を有する硬化物を形成するのに適したものは脂環式エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂などである。
【0014】
前記バインダ樹脂層A及びバインダ樹脂層Bにはエポキシ樹脂の硬化促進剤を含有することができる。含浸ワニスやドライマイカテープのバインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bなどに用いるエポキシ樹脂を硬化するのには、一般的に硬化促進剤が必要で、これを含浸ワニス或いはドライマイカテープのバインダ樹脂層A及び/またはバインダ樹脂層Bに添加する。含浸ワニスの保存寿命という観点からすれば、含浸ワニスには硬化促進剤を添加しないで、ドライマイカテープのバインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bなどの構成材に含有することが好ましい。
【0015】
前記バインダ樹脂層Aに含まれるエポキシ樹脂はエポキシ基を三つ以上有する多官能エポキシ樹脂を含み、前記バインダ樹脂層Bに含まれるエポキシ樹脂は脂環式エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0016】
該バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bはエポキシ樹脂と硬化促進剤を含むことが好ましい。該バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bに含まれる硬化促進剤は、アミン系硬化促進剤がより好ましい。ここで、アミン系硬化促進剤はイミダゾール類を含むものとする。前記バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bに含まれる硬化促進剤は、コアがアミン化合物であって、シェルがエポキシ樹脂からなるカプセル型硬化促進剤が好ましい。ここで、アミン化合物はイミダゾール類を含むものとする。また、該バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bに含まれる硬化促進剤は、金属アセチルアセトネートであってもよい。
【0017】
前記バインダ樹脂層A又はバインダ樹脂層Bは、更に(式1)で表わされる酸無水物骨格を有する酸硬化剤を含むことができる。
【0018】
【化1】

【0019】
また、前記バインダ樹脂層Aに含まれる酸硬化剤は(式2)で表されるメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物にすれば、得られる硬化物をより高いガラス転移点にすることができるので好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
該バインダ樹脂層Bに含まれるエポキシ樹脂は、(式3)で表わされる骨格を有するエポキシ樹脂を含んでもよい。
【0022】
【化3】

【0023】
該バインダ樹脂層Bに含まれる硬化促進剤は、エポキシアダクトイミダゾールまたは金属アセチルアセトネートが好ましい。
【0024】
また、前記バインダ樹脂層Bはエポキシ樹脂及び硬化促進剤に加えて、化学構造に(式1)で表わされる酸無水物骨格を有する酸硬化剤を含むことができる。
【0025】
本発明によれば、絶縁被覆して規定形状に成型した導体に、補強基材と、該補強基材上に形成され、エポキシ樹脂を含むバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸するエポキシ樹脂を含む含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを有するドライマイカテープを巻回して電気絶縁線輪単体とし、前記電気絶縁線輪単体にエポキシ樹脂を含む含浸ワニスを注入して硬化する電気絶縁線輪を提供する。
【0026】
上記電気絶縁線輪の製造方法において、前記含浸ワニスにはエポキシ樹脂の硬化剤が含まれるが硬化促進剤が含まれず、前記バインダ樹脂層A及びバインダ樹脂層Bに硬化促進剤が含まれるという構成を取ることができる。バインダ樹脂層A及びバインダ樹脂層Bの硬化性を損なうことなく、含浸ワニスの保存寿命が長くなり、コスト低減に貢献する。
【0027】
本発明は、絶縁被覆して規定形状に成型した導体に、補強基材と、該補強基材上に形成されたバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸するエポキシ樹脂を含む含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを有するドライマイカテープを巻回して形成された電気絶縁線輪単体を、鉄心スロットに組込み、前記複数の電気絶縁線輪単体を鉄心外端部で接続して、前記電気絶縁線輪単体と鉄心とを一体にして固定子コイル単体とし、前記固定子コイル単体にエポキシ樹脂を含む含浸ワニスを含浸、硬化した固定子コイルを提供する。
【0028】
上記固定子コイルにおいて、前記含浸ワニスにはエポキシ樹脂の硬化剤を含み、前記バインダ樹脂層A及びバインダ樹脂層Bは硬化促進剤を含むという構成を取ることができる。
【0029】
上記固定子コイルと、回転子コイルから耐熱性及び電気的特性に優れた回転電機を構成することができる。
【0030】
本発明のドライマイカテープは、バインダ樹脂層A、バインダ樹脂層B、補強基材およびマイカペーパーを図1に示すような積層構造にする。すなわち、本発明のドライマイカテープのバインダ樹脂層Aは、エポキシ樹脂、硬化促進剤(特に熱潜在性硬化促進剤が好ましい)を含んでいるため、加熱硬化前に補強基材とマイカペーパーを接着する機能と、加熱硬化後に補強基材とマイカペーパーを硬化する機能がある。さらに、前記バインダ樹脂層Aの組成を多官能エポキシ樹脂、多官能性酸硬化剤、および熱潜在性硬化促進剤を含む組成にすれば、加熱硬化後にバインダ樹脂層Aの硬化物の耐熱性を向上できる効果がある。
【0031】
次に、本発明のドライマイカテープのバインダ樹脂層Bは、マイカペーパーの表面に存在しているため、ドライマイカテープに注入された含浸ワニスと溶解しやすく、均一に硬化反応できる。さらに、前記バインダ樹脂層Bの組成を脂環式エポキシ樹脂および潜在性硬化促進剤を含む組成にすれば、加熱硬化前は硬化反応がほとんど進まず保管寿命を長くでき、さらに加熱硬化後に含浸ワニスとバインダ樹脂層Bの硬化物は、含浸ワニスのみの硬化物よりも耐熱性を向上できる効果がある。
【0032】
本発明のドライマイカテープのバインダ樹脂としては、多官能エポキシ樹脂、多官能性酸硬化剤、および熱潜在性硬化促進剤を含む組成のバインダ樹脂層Aと、脂環式エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂と多官能エポキシ樹脂との混合物および熱潜在性硬化促進剤を含む組成のバインダ樹脂層Bを用いることが、本発明のドライマイカテープと含浸ワニスを含むコイル絶縁材料の耐熱性を向上する効果を大きくできるため、より好ましい。
【0033】
以上のように、本発明のドライマイカテープは注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性を向上できるため、本発明の電気絶縁線輪や固定子コイルの高温における電気絶縁性が向上でき、回転電機を小型化できる。
【0034】
以下において、本発明のドライマイカテープ、電気絶縁線輪、固定子コイル及び回転電機について詳細に説明する。
【0035】
<ドライマイカテープ>
本発明のドライマイカテープの断面図を図1に示す。本発明のドライマイカテープは、マイカペーパー、補強基材、バインダ樹脂層A、バインダ樹脂層Bを含む。本発明のドライマイカテープは、フィルムなどの補強基材とマイカペーパーをメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶かしたバインダ樹脂層Aで接着されている。さらに、前記マイカペーパーの表面からメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶かしたバインダ樹脂層Bを塗布する。
【0036】
前記補強基材としては、要求される耐熱性や絶縁仕様に対応した有機物フィルムやガラスクロスなどを用いることができる。
【0037】
前記マイカペーパーとしては、単独注入方式や一体注入方式などの絶縁処理方式に応じた最適な粒径の集成マイカやフレークマイカなどで作製したものを用いることができる。
【0038】
前記バインダ樹脂層Aは、エポキシ樹脂、硬化促進剤を含み、要求される特性に応じて硬化剤を加えることができる。前記エポキシ樹脂は、エポキシ基が一つ以上有するエポキシ樹脂を1種類、もしくは2種類以上を同時に用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)プロパン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)プロパン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらエポキシ樹脂の中では、エポキシ基を三つ以上有するトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂や1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂などが、ドライマイカテープのバインダ樹脂Aの耐熱性を向上することができ、注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性を向上できるため、より好ましい。
【0039】
上記バインダ樹脂層Aの硬化促進剤は、エポキシ樹脂を硬化できる化合物であれば良い。前記硬化促進剤としては、例えば、金属アセチルアセトネート、イミダゾール化合物をエポキシ樹脂で置換したエポキシアダクトイミダゾール、ナフテン酸やオクチル酸などの金属塩、コアがアミン化合物で、シェルがエポキシ樹脂からなるカプセル硬化促進剤などを1種類もしくは、2種類以上を同時に用いることができる。これら硬化促進剤の中では、金属アセチルアセトネートやカプセル型硬化促進剤などが、ドライマイカテープの保管寿命や注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性を向上できるため、より好ましい。
【0040】
上記バインダ樹脂層Aは、エポキシ樹脂と硬化促進剤との単独重合系で硬化することも可能であるが、硬化反応性を向上するためにエポキシ樹脂、硬化促進剤に加えて硬化剤を用いることがより好ましい。このようなバインダ樹脂層Aに用いる硬化剤としては、前記(式1)に示す酸無水物骨格を一つ以上有する酸硬化剤を1種類、または2種類以上を同時に用いることができる。前記酸硬化剤としては、例えば、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビス(ヒドロトリメリテート)モノアセテート、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。このような酸硬化剤の中では、前記(式2)に示すようなメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物がドライマイカテープのバインダ樹脂層Aの耐熱性を向上することができ、注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性を向上できるため、より好ましい。
【0041】
上記バインダ樹脂層Bは、エポキシ樹脂、硬化促進剤を含み、要求される特性に応じて硬化剤を加えることができる。前記エポキシ樹脂は、エポキシ基を一つ以上有するエポキシ樹脂を1種類、もしくは2種類以上を同時に用いることができる。例えば、(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2ーエポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)プロパン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂、テトラキス(ヒドロキシフェニル)プロパン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂の中では、(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが、バインダ樹脂層Bと含浸レジンとの溶解性を向上して注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性が向上でき、ドライマイカテープの保管寿命などを向上できるため、より好ましい。
【0042】
上記バインダ樹脂層Bの硬化促進剤は、エポキシ樹脂を硬化できる化合物であれば良い。このような硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物をエポキシ樹脂で置換したエポキシアダクトイミダゾール、金属アセチルアセトネート、ナフテン酸やオクチル酸などの金属塩、カプセル型硬化促進剤などを1種類もしくは、2種類以上を同時に用いることができる。
【0043】
これら硬化促進剤の中では、エポキシアダクトイミダゾールや、金属アセチルアセトネートなどが、注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性、ドライマイカテープの保管寿命などを向上できるため、より好ましい。
【0044】
また、上記バインダ樹脂層Bの硬化剤は、前記(式1)で示される酸無水物骨格を1つ以上有する酸硬化剤を1種類、または2種類以上を同時に用いることができる。前記酸硬化剤としては、例えば、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリンビス(ヒドロトリメリテート)モノアセテート、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、無水ピロメリット酸、メチルナジック酸無水物、水素化メチルナジック酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。
【0045】
<電気絶縁線輪>
電気絶縁線輪は、規定形状に成型して絶縁被覆した導体に本発明のドライマイカテープを巻き回して電気絶縁線輪単体を作製し、注入タンク内などで電気絶縁線輪単体に含浸ワニスを真空注入後に加圧注入し、熱硬化して作製される。
【0046】
<固定子コイル>
固定子コイルは、規定形状に成型して絶縁被覆した導体に本発明のドライマイカテープを巻き回して電気絶縁線輪単体を作製し、この電気絶縁線輪単体を鉄心スロットに組込み、サシギ下ライナー、サシギなどを用いてスロット内に固定し鉄心外端部で接続して、電気絶縁線輪単体と鉄心とを一体にして固定子コイル単体とする。注入タンク内などで前記固定子コイル単体に含浸ワニスを真空注入後に加圧注入し、熱硬化して固定子コイルが作製される。
【0047】
<電気絶縁線輪を用いた回転電機>
上記の如く作製した電気絶縁線輪を適用した回転電機は、上記電気絶縁線輪を鉄心スロットに組込み、サシギ下ライナー、サシギなどでスロット内に固定して、鉄心外端部で接続して作製した固定子コイルと回転子を組立てて作製される。
【0048】
<固定子コイルを用いた回転電機>
上記の如く作製した固定子コイルと回転子を組立てて回転電機が作製される。以下、本発明のドライマイカテープ、本発明のドライマイカテープを用いて電気絶縁線輪、固定子コイルおよび回転電機を作製した例を、それぞれ実施例で具体的に説明する。
【0049】
本実施例のドライマイカテープに含浸ワニスを注入した時の絶縁材料の特性は、以下の測定方法および条件で評価した。
【0050】
(1)絶縁材料の動的粘弾性評価(DMA:Dynamic Mechanical Analysis、以下DMAと略す)による耐熱性評価
エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性の一つの目安として、ガラス転移点(以下Tgと略す)がある。前記硬化物のTgが高いほど高温における回転電機用コイルの電気特性や機械特性が高くできる。そこで、本発明のドライマイカテープと含浸ワニスで作製する絶縁材料の耐熱性をTgで評価した。絶縁材料のTgは、Tgの評価方法の一つである動的粘弾性測定(DMA)を用いて力学的損失正接(tanδDMA)を測定し、tanδDMAのピーク温度で評価した。
【0051】
絶縁材料は、幅30mm×長さ100mm×厚さ0.20mmのドライマイカテープを5層重ねて金属板の間に挟んで、含浸ワニス[ビスフェノールA型エポキシ樹脂jER828(ジャパンエポキシレジン社製)を100重量部、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸硬化剤HN−5500(日立化成工業社製)を100重量部、マンガン[III]アセチルアセトネート(和光純薬社製)を2重量部としたエポキシ樹脂組成物を一例として用いた]を380Pa/1hの真空注入と0.4MPa/5hの加圧注入した後に、25℃から120℃までを30minで昇温して120℃/1h保持した後、120℃から210℃までを2h掛けて昇温して210℃/8h保持して製作した。DMAのサンプルは前記絶縁材料を長さ25mm×幅5mm×厚さ0.5mmの寸法に加工して作製した。
【0052】
DMAは、レオスペクトラDVE−V4(レオロジ社製)を用いて、引張りモードにより25℃から300℃までを2℃/minで昇温し、スパン間20mm、測定周波数10Hz、変位振幅0.5μmの条件で力学的損失正接(tanδDMA)を測定した。判定方法はtanδDMAのピーク値の温度が170℃以上の時は、高温域(170℃以上)での機械的特性やコイルなどの電気絶縁性が向上できるので○と表示し、170℃より低い時は×と表示し、tanδDMAのピーク値の温度を( )内に併記した。
【0053】
(2)電気絶縁線輪および固定子コイルの電気絶縁性試験(tanδ)
180℃に保持した恒温槽内に電気絶縁線輪、固定子コイルを静置して、定格電圧1kVを印加したときのtanδを測定した。180℃におけるtanδの判定基準は電気絶縁性が優れるので15%以下とした。判定はtanδが15%以下の場合は○、15%を超える場合は×と表示した。
【0054】
以下の実施例及び比較例において用いられたエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を表1,2,3においては略号で示したが、略号の意味は以下のとおりである。
(a)エポキシ樹脂
E1;トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂
E2;ビスフェノールA型エポキシ樹脂
E3;(3’、4’−エポキシシクロヘキサン)メチル―3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート
E4;2,2−ビス(ヒドロキシメチル―1−ブタノールの1,2−エポキシ―4−(2−オクチルシラニル)
E5;1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂
(b)硬化剤
C1;メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物
C2;水素化メチルナジック酸
C3;フェノールノボラック樹脂
C4;エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート
(c)硬化促進剤
CP1;カプセル型硬化促進剤(コア:アミン化合物、シェル:エポキシ樹脂)
CP2;エポキシアダクトイミダゾール
CP3;マンガン[III]アセチルアセトネート
(実施例1〜10)、(比較例1〜3)
本発明の実施例1〜10のドライマイカテープを作製し、注入方式で作製する絶縁材料の耐熱性を評価した例を説明する。
【0055】
本発明の実施例1〜10のドライマイカテープは、表1および表2に示した組成のバインダ樹脂層Aおよびバインダ樹脂層Bを用い、補強基材(ポリイミドフィルム)とマイカペーパーをバインダ樹脂層Aで接着し、マイカペーパーの表面にバインダ樹脂層Bを塗布して作製した。
バインダン樹脂層Aの調合は、エポキシ樹脂としてトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、製品名jER1032H60)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(旭化成ケミカルズ社製、製品名AER−260)、1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、製品名jER1031S)を[ ]内の数値の割合で混合して用いた。酸硬化剤としてメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物(DIC社製、製品名エピクロンB−4400)、水素化メチルナジック酸無水物(新日本理化社製、製品名リカシッドHNA−100)、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート(新日本理化社製、製品名TMEG−500)を[ ]内の数値の割合で混合して用いた。硬化促進剤としてカプセル型硬化促進剤(旭化成イーマテリアルズ社製、ノバキュアHX3088)、マンガン[III]アセチルアセトネート(和光純薬工業社製)を用いた。エポキシ樹脂と酸硬化剤は当量比1:1で混合し、硬化促進剤は前記エポキシ樹脂と酸硬化剤の総重量に対して表1および表2に記載した濃度で添加した。
バインダ樹脂層Bの調合は、エポキシ樹脂として(3’,4’−エポキシシクロヘキサン)メチル3,4ーエポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル化学工業社製、製品名CEL2021P)、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ―4−(2−オキシラニル)(ダイセル化学工業社製、製品名EHPE3150)、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を[ ]内の数値の割合で混合して用いた。酸硬化剤として水素化メチルナジック酸無水物を用いた。硬化促進剤としてエポキシアダクトイミダゾール(ジャパンエポキシレジン製、商品名P200)、マンガン[III]アセチルアセトネートを用いた。硬化促進剤の塗布量はマイカテープに対して1〜1.2g/mとし、エポキシ樹脂を単独、またはエポキシ樹脂と酸硬化剤を当量比1:1で混合したものに添加して用いた。なお、硬化促進剤は、バインダ樹脂層Bの前記エポキシ樹脂単独、あるいは前記エポキシ樹脂と酸硬化剤の混合物に添加せずに別に用意し、バインダ樹脂層Bを塗布する前後に、硬化促進剤をマイカペーパー表面へ塗布することもできる。
【0056】
比較例1〜2のドライマイカテープは、マイカペーパーと補強基材(ポリイミドフィルム)を表3に示した組成のバインダ樹脂層Aを用いて接着し、硬化促進剤としてエポキシアダクトイミダゾールをマイカペーパー表面に対して1g/m塗布して作製した。バインダ樹脂層Aの調合は、エポキシ樹脂として1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を[ ]内の数値の割合で混合して用いた。
【0057】
比較例3のドライマイカテープは、マイカペーパーと補強基材(ポリイミドフィルム)を表3に示した組成のバインダ樹脂層Aを用いて接着し、硬化促進剤としてエポキシアダクトイミダゾールをマイカペーパー表面に対して1g/m塗布して作製した。
バインダ樹脂層Aの調合は、エポキシ樹脂として1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を[ ]内の数値の割合で混合して用い、硬化剤としてフェノールノボラック型硬化剤(明和化成社製、製品名MF−1M)を用い、エポキシ樹脂と硬化剤を当量比1:1で混合して用いた。
【0058】
作製した本実施例および比較例のドライマイカテープは寸法を幅30mm×長さ20mとした。本実施例および比較例のドライマイカテープを用いて注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性を表1〜3に記載した。
実施例1〜10の絶縁材料の耐熱性は、いずれも170℃以上であった。一方、比較例1〜3のドライマイカテープの耐熱性は、いずれも170℃未満であり判定値を満足しなかった。これら比較例のドライマイカテープは、多官能エポキシ樹脂などの耐熱性を高くできるバインダ樹脂を用いたが、固形のバインダ樹脂が補強基材とマイカペーパーの間に存在しているだけであったために含浸ワニスが十分に浸透せず、それらの相互溶解性が悪く、耐熱性が向上しなかった。
【0059】
以上、本実施例のドライマイカテープは、バインダ樹脂層A、バインダ樹脂層B、補強基材、マイカペーパーが積層構造であったため、注入方式で作製するコイル絶縁材料の耐熱性(動的粘弾性によるtanδDMAのピークの温度で判定)を170℃以上にできる効果があった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
(実施例11〜13)、(比較例4〜5)
本発明のドライマイカテープを用いた電気絶縁線輪の製法および得られた電気絶縁線輪の特性を説明する。図2(a)は本実施例11〜13の電気絶縁線輪5の外観図で、図2(b)が図2(a)の円で示した部分の内部断面拡大図である。
【0064】
実施例11の電気絶縁線輪は、規定形状に成型して絶縁被覆した導体に、実施例2のドライマイカテープ(厚0.15mm×幅25mm)を5回巻回して電気絶縁線輪単体を作製した。この電気絶縁線輪単体を25℃に保持した含浸槽内に静置して含浸ワニス(jER828を100重量部、HN−5500を100重量部、マンガン[III]アセチルアセトネートを2重量部とした含浸ワニスを一例として用いた)を380Pa/1hの真空注入と0.4MPa/5hの加圧注入した後に、熱硬化[25℃から120℃までを30minで昇温して120℃/1h保持した後、120℃から210℃までを2h掛けて昇温して210℃/8h保持]して実施例11の電気絶縁線輪を製作した。実施例12の電気絶縁線輪単体は実施例4のドライマイカテープを用いた以外は実施例11と同様の方法で作製し、この電気絶縁線輪単体に実施例11と同様の方法で含浸ワニスを注入して実施例12の電気絶縁線輪を作製した。実施例13の電気絶縁線輪単体は実施例6のドライマイカテープを用いて最終硬化温度を230℃に変えた以外は実施例11と同様の方法で作製し、この電気絶縁線輪単体に実施例11と同様の方法で含浸ワニスを注入して実施例13の電気絶縁線輪を作製した。
【0065】
一方、比較例4の電気絶縁線輪単体は比較例1の構成のドライマイカテープを用いた以外は本実施例11と同様な方法で作製し、この電気絶縁線輪単体に実施例11と同様の方法で含浸ワニスを注入して、比較例4の電気絶縁線輪を作製した。比較例5の電気絶縁線輪単体は比較例3の構成のドライマイカテープを用いた以外は本実施例11と同様の方法で作製し、この電気絶縁線輪単体に本実施例11と同様の方法で含浸ワニスを注入して比較例5の電気絶縁線輪を作製した。
【0066】
実施例11〜13、比較例4〜5の電気絶縁線輪の180℃におけるtanδ(印加電圧1kV)を測定した。その結果を表4に示す。本実施例11〜13の電気絶縁線輪のtanδは13.2〜14.1%の範囲であった。一方、比較例4〜5の電気絶縁線輪は比較例1、3のドライマイカテープを用いたため、耐熱性が低くなってしまいtanδがそれぞれ24.2%、22.3%であった。
【0067】
以上、本実施例11〜13は、絶縁材料の耐熱性が向上できるドライマイカテープを用いることにより、電気絶縁性に優れた電気絶縁線輪が得られた。
【0068】
【表4】

【0069】
(実施例14〜16)
本発明に示すドライマイカテープを用いて固定子コイルを作製した例について説明する。図3(a)は本発明の固定子コイルの断面正面図、図3(b)が本発明の図3(a)の楕円で示した部分の鉄心スロット(電機絶縁線輪単体挿入後)断面拡大図である。
【0070】
実施例14の固定子コイルは、実施例1のドライマイカテープを用いて実施例7と同様の方法で電気絶縁線輪単体を作製し、この電気絶縁線輪単体を鉄心9の鉄心スロット10に挿入した後、図3(b)に示すサシギ下ライナー11及びサシギ12を電気絶縁線輪単体の固定のために各々挿入して固定子コイル単体を作製した。この固定子コイル単体を25℃に保持した含浸槽内に静置して、実施例11と同様の含浸ワニスを用いて実施例11と同様の注入条件と熱硬化条件にて、本実施例14の固定子コイルを作製した。次に、実施例15の固定子コイルは、実施例3のドライマイカテープを用いた以外は本実施例11と同様の方法で作製した。さらに、実施例16の固定子コイルは、実施例5のドライマイカテープを用いた以外は本実施例11と同様の方法で作製した。
【0071】
実施例14〜16の固定子コイルの180℃におけるtanδ(印加電圧1kV)を測定した。その結果を表5に示した。本実施例14〜16の固定子コイルはtanδが12.2〜14.0%であった。
【0072】
以上、本実施例14〜16は、絶縁材料の耐熱性が向上できるドライマイカテープを用いることにより、電気絶縁性に優れた固定子コイルが得られた。
【0073】
【表5】

【0074】
(実施例17)
本発明に示すドライマイカテープを用いて作製した固定子コイルを、本発明の回転電機に適用した例について説明する。実施例17の回転電機は、実施例14と同様の方法で作製した固定子コイルを用いて、図4に示すように、前記固定子コイル13と回転子コイル14等を組立てて結線して回転電機15を作製した。
【0075】
以上、本実施例17の回転電機は、高温(180℃)における電気絶縁性が向上できる固定子コイルを用いているため、固定子コイルのサイズを変えることなく出力を高くできるので、本発明の回転電機を小型化できる効果が得られた。
【符号の説明】
【0076】
1…補強基材、2…バインダ樹脂層A、3…マイカペーパー、4…バインダ樹脂層B
5…電気絶縁線輪、6…導体、7…ドライマイカテープに含浸ワニスを注入し硬化した絶縁材料、8…コロナシールド、9…鉄心、10…鉄心スロット、11…サシギ下ライナー、12…サシギ、13…固定子コイル、14…回転子、15…回転電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強基材と、該補強基材上に形成され、エポキシ樹脂および硬化促進剤を含むバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸する、エポキシ樹脂を含む含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを有することを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項2】
請求項1記載のドライマイカテープにおいて、前記バインダ樹脂層Bはエポキシ樹脂の硬化促進剤を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項3】
請求項2記載のドライマイカテープにおいて、前記バインダ樹脂層Aに含まれるエポキシ樹脂はエポキシ基を三つ以上有する多官能エポキシ樹脂を含み、前記バインダ樹脂層Bは脂環式エポキシ樹脂を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、該バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bはエポキシ樹脂とアミン系硬化促進剤を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項5】
請求項4記載のドライマイカテープにおいて、該バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bに含まれるアミン系硬化促進剤は、コアがアミン化合物であって、シェルがエポキシ樹脂からなるカプセル型硬化促進剤であることを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項6】
請求項3記載のドライマイカテープにおいて、該バインダ樹脂層A及び/又はバインダ樹脂層Bに含まれる硬化促進剤は、金属アセチルアセトネートであることを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項7】
請求項4又は5記載のドライマイカテープにおいて、前記バインダ樹脂層A又はバインダ樹脂層Bは、更に(式1)で表わされる酸無水物骨格を有する酸硬化剤を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【化1】

【請求項8】
請求項7記載のドライマイカテープにおいて、前記バインダ樹脂層Aに含まれる酸硬化剤は(式2)で表されるメチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【化2】

【請求項9】
請求項2〜5のいずれかに記載のドライマイカテープにおいて、該バインダ樹脂層Bに含まれるエポキシ樹脂は、(式3)で表わされる骨格を有するエポキシ樹脂を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【化3】

【請求項10】
請求項2に記載のドライマイカテープにおいて、該バインダ樹脂層Bに含まれる硬化促進剤は、エポキシアダクトイミダゾールまたは金属アセチルアセトネートを含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項11】
請求項2〜7のいずれかに記載のドライマイカテープにおいて、前記バインダ樹脂層Bはエポキシ樹脂及び硬化促進剤に加えて、化学構造に(式1)で表わされる酸無水物骨格を有する酸硬化剤を含むことを特徴とするドライマイカテープ。
【請求項12】
絶縁被覆して規定形状に成型した導体に、補強基材と、該補強基材上に形成され、エポキシ樹脂を含むバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸するエポキシ樹脂を含む含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを有するドライマイカテープを巻回して電気絶縁線輪単体とし、前記電気絶縁線輪単体にエポキシ樹脂を含む含浸ワニスを注入して硬化することを特徴とする電気絶縁線輪。
【請求項13】
前記含浸ワニスは硬化促進剤を含まず、前記バインダ樹脂層A及びバインダ樹脂層Bに硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項12記載の電気絶縁線輪。
【請求項14】
請求項12又は13記載の電気絶縁線輪を鉄心スロットに組込み、該電気絶縁線輪を鉄心外端部で接続したことを特徴とする固定子コイル。
【請求項15】
絶縁被覆して規定形状に成型した導体に、補強基材と、該補強基材上に形成され、エポキシ樹脂を含むバインダ樹脂層A、該バインダ樹脂層Aに接して形成されたマイカペーパー層、及び前記マイカペーパー層に接して形成され、エポキシ樹脂を含み、導体に巻回したドライマイカテープに含浸するエポキシ樹脂を含む含浸ワニスと反応して、含浸ワニスのみの硬化物よりも高いガラス転移点を有する硬化物を与えるバインダ樹脂層Bを有するドライマイカテープを巻回して電気絶縁線輪単体とし、前記電気絶縁線輪単体を鉄心スロットに組込み、前記電気絶縁線輪単体を鉄心外端部で接続して前記電気絶縁線輪単体と鉄心とを一体にして固定子コイル単体とし、前記固定子コイル単体にエポキシ樹脂を含む含浸ワニスを注入して硬化したことを特徴とする固定子コイル。
【請求項16】
前記含浸ワニスは硬化促進剤を含まず、前記バインダ樹脂層A及びバインダ樹脂層Bに硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項15記載の固定子コイル。
【請求項17】
請求項14〜16のいずれかに記載の固定子コイルと、回転子コイルを備えることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−38681(P2012−38681A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180223(P2010−180223)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】