説明

ドラム式乾燥機

【課題】溶液を乾燥させる効率のよいドラム式乾燥機を提供する。
【解決手段】ドラム乾燥機100は、横向きに配置された中空のドラム8と、ドラムを回転させるモータ12と、ドラム8の中へ溶液を供給する溶液供給管19と、高温ガス供給管21と、スクレイパ20と、コンベア22を備える。高温ガス供給管21が吹き出す高温ガスによって、回転しているドラム8の内面に付着した溶液が加熱され乾燥する。スクレイパ20は、ドラム8の内面に摺接しており、回転しているドラム8の内面に付着した溶液乾燥後の残留物を掻き落とす。コンベア22は、スクレイパ20の下方でスクレイパ20に沿って伸びているとともにドラム外側へと延設されており、スクレイパ20によって掻き落とされた残留物を受けてドラム外へと搬出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液を乾燥させるドラム式乾燥機に関する。なお、本明細書にいう「溶液」という用語は、不揮発性成分含有の溶液の他、液体と不溶性の固形物質が混在した懸濁液(いわゆるスラリー)を含む。
【背景技術】
【0002】
溶液を乾燥させ、溶液中の不揮発性成分の残留物を得る装置の一つのタイプに、ドラム式乾燥機と呼ばれる装置がある。従来のドラム式乾燥機は、ドラム外周面に溶液を塗布し、ドラムを回転させながら溶液を加熱し乾燥させ、ドラム外面に固着した残留物を回転しているドラム外周面と摺接するスクレイパで掻き落とす。特許文献1や特許文献2に、そのようなタイプのドラム式乾燥機の例が開示されている。
【0003】
従来のドラム式乾燥機が対象とする溶液の例としては、工場などで製品製造に用いられた後の使用後の塗料がある。使用後の塗料を乾燥させれば容量が減るので廃棄などその後の処理のコストが低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−248966号公報
【特許文献2】特開2005−326053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発明者らが調査した限りでは、特許文献1又は特許文献2に例示されるように、ドラム外周面に溶液を塗布するタイプは散見されたが、内周面に塗布するタイプは見出していない。発明者らは発想を転換し、溶液をドラム内周面に塗布するように構成すると、従来の外周面利用型のドラム式乾燥機よりもいくつかの利点が得られることを見出した。本明細書は、溶液乾燥用にはその外周面が利用されていた従来のドラム式乾燥機よりも優れた利点を有するドラム式乾燥機を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示するドラム式乾燥機の一態様は、横向きに配置された中空のドラムと、ドラムを回転させる駆動手段と、溶液を供給する溶液供給手段と、溶液を加熱し乾燥させる加熱手段と、スクレイパと、残留物をドラム外へ搬出する搬出手段を備える。
【0007】
「ドラムを横向きに配置する」とは、ドラム軸線(中心線)が横方向(典型的には水平方向)を向くようにドラムを配置することをいう。なお、ドラム軸線が厳密に水平方向を向くことに限定されないことに留意されたい。ドラムは、その内部に供給される溶液が重力の作用により際立って偏らない程度に横方向を向いていればよい。即ち、溶液の粘度が高ければ、ある程度(例えば水平に対して10度程度)ドラムを傾けて配置してもよい。
【0008】
溶液供給手段は、ドラムの外部(軸方向外側)からドラムの中へ溶液を供給する。加熱手段は、回転しているドラムの内面に付着した溶液を加熱し乾燥させる。スクレイパは、ドラム内部でドラム軸線に平行に配設されている。スクレイパは、ドラム外部から伸びている支持部材によって固定されており、回転するドラム内面に摺接する。スクレイパは、回転しているドラム内面に付着した溶液乾燥後の残留物を掻き落とす。
【0009】
搬出手段は、スクレイパの下方(典型的には直下)でスクレイパに沿って配設されている。搬出手段は、さらに、ドラム軸線方向外側へと伸びており、スクレイパによって掻き落とされた残留物を受けてドラム外へと搬出する。搬出手段は、簡単には、ドラム内側からドラム外側に向かって下方に傾斜している樋(U字状の部材)でよい。或いは、搬出手段は、ベルトコンベアや振動型コンベアであってもよい。
【0010】
上記のドラム式乾燥機は、スクレイパなどの機材をドラム内部に配置するので乾燥機全体がコンパクトになる。
【0011】
溶液供給手段の一態様は、簡単には、ドラムの内側底部に溶液を供給(例えば滴下)するものであってよい。あるいは溶液供給手段の他の態様では、ドラム軸線に沿って平行に伸びておりドラム内面とギャップを隔てて配置されている箆板を備えているとともに、箆板のドラムの回転方向上流側に溶液が供給され、ドラムの回転に伴って溶液が箆板とドラム内面との間のギャップを通じてドラム内面に均一に付着するように構成されていることが好ましい。後者は、溶液を均一な膜厚でドラムに付着させることができる。後者の典型的なレイアウトは、ドラム内側でドラム軸線に沿って平行に伸びている板であってギャップ側に向かって下方に傾斜して配置されている板でよい。
【0012】
加熱手段の簡単な一態様は、ドラムの一方の端からドラム内部に向かって高温ガスを吹き出すガス供給管であってよい。加熱手段のさらに好適な別の態様は、高温ガスをドラム内面に向かって吹き出す複数の吹出孔を有しており、その複数の吹出孔が、ドラム内面のうちドラム周方向の一部とドラム長手方向の略全長とに亘る部分内面に対向して2次元的に配置されているとよい。あるいは、加熱手段として好適なさらに別の態様は、ドラム内側に配置されたガスチャンバとそのガスチャンバ内に高温ガスを供給するガス供給手段を備えており、ガスチャンバは、ドラム内面のうちドラム周方向の一部とドラム長手方向の略全長とに亘る部分内面と対向する対向面を有するとともに、その対向面に2次元的に複数の吹出孔が設けられているとよい。
【0013】
溶液の乾燥速度は、溶液に触れる気体(ガス)の総括熱伝達率に依存する。総括熱伝達率を上げるには、溶液の表面に高温ガスを高速で流せばよい。上記の2次元的に配置された複数の吹出孔は、溶液の表面に高温ガスを高速で流すのに好適である。従って、複数の吹出孔を備えることによって溶液を効率よく乾燥させることができる。
【0014】
ドラム内面に溶液を付着させる利点の他の一つは、高温ガスを湾曲している面の内側から吹き付けるので、湾曲面の外側から吹き付ける場合と比較すると高温ガスが湾曲面に沿って広がり易く(逆に言えば湾曲面近傍から散逸し難く)、乾燥効率が向上する点が挙げられる。なお、ガスチャンバを採用する場合、前記した対抗面の一典型例は、メッシュ板でよい。また、対抗面は、スクレイパよりもドラム回転方向上流側であり、かつ、被乾燥物付着開始位置より下流側に位置する。
【0015】
本明細書が開示するドラム式乾燥機は、VOC(Volatile Organic Copound:揮発性有機化合物)を含む溶液を乾燥させるのに好適である。揮発した有機化合物のガス(VOCガス)は、比較的高いエネルギを有するため燃料ガスとして再利用が可能である。乾燥によって溶液から揮発するVOCガスを効率よく集めるため、本明細書が開示するドラム式乾燥機は、さらに、次の構成を有すること好ましい。即ち、上記した加熱手段が、ドラム外へ流出した高温ガスを回収し加熱して再びドラム内へ吹き出させるガス循環路を備えているとともに、循環中のガスに外気を混合する混合弁を備えている。そのような構成を有するドラム式乾燥機は、ガス循環路によってVOCガスの濃度を高めることができると同時に、外気の混合弁が、高温ガスの質が溶液乾燥用として適した範囲内に納まるようにガス濃度を調整することができる。
【0016】
ガス循環路を備え、VOCガス濃度を高めることができる場合、ドラム式乾燥機はさらに次の構成を備えることが好ましい。即ち、ドラム式乾燥機は、ドラム内のVOCガスの濃度を計測するガスセンサと、ガスセンサが計測したガス濃度が第1閾値濃度を超えた場合にドラム回転数を低下させるコントローラを備える。さらにコントローラは、ガス濃度が第1閾値濃度よりも高い第2閾値濃度を超えた場合にドラム内に吹き出す高温ガスの流量を低下させることが好ましい。或いはコントローラは、ガス濃度が第1閾値濃度よりも高い第3閾値濃度を超えた場合に循環するガスに混合する外気の導入量を増加させるように前記した混合弁の開度を調整することが好ましい。ドラム回転数を低下させることでVOCガスの発生が抑制される。ドラム回転数の低下だけではガス濃度の上昇を抑制できない場合は、ドラム内へ吹き出す高温ガスの流量を減らして、あるいは、外気の導入量を増やして、ガス濃度が過度に高まるのを防止する。
【発明の効果】
【0017】
本明細書は、ドラム外周面が利用されていた従来のドラム式乾燥機よりも優れた利点を有するドラム式乾燥機を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例のドラム式乾燥機の横断面図を示す。
【図2】図1のII−II線に沿った縦断面図を示す。
【図3】図1のIII−III線に沿った縦断面図を示す。
【図4】ドラム端部の略式斜視図を示す。
【図5】第2実施例のドラム式乾燥機の横断面図を示す。
【図6】第3実施例のドラム式乾燥機の縦断面図を示す。
【図7】第4実施例のドラム式乾燥機の横断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に、第1実施例のドラム式乾燥機100の横断面図を示す。ここで、「横断面」とは、ドラム軸線(中心線)に直交する断面を意味する。図2は図1のII−II線に沿った縦断面を示し、図3は図1のIII−III線に沿った縦断面を示している。まず、ドラム式乾燥機100の概要を説明する。ドラム式乾燥機100は、塗装工場や印刷工場で使われる塗料などの溶液であり、VOC(Volatile Organic Copound:揮発性有機化合物)を含む溶液を乾燥させるのに用いられる。溶液を乾燥させ、その容量を減少させるとともに、溶液から気化したVOCガスを集め、エネルギとして利用する。
【0020】
ドラム式乾燥機100は、筐体7内に配置されたドラム8の内周面に溶液を塗布し、ドラム8が回転するうちに高温ガスで溶液を乾燥させ、スクレイパ20で溶液乾燥後の残留物を掻き落とす。なお、「乾燥」とは、水分を完全に除去する場合だけでなく、泥状程度に乾燥させる場合も含む。図1の符号A1がドラム8内に供給される溶液を示しており、符号A2はドラム8の内面に塗布された溶液を示しており、符号A3はスクレイパ20で掻き落とされた乾燥後の残留物を示している。溶液に含まれるVOCは溶液乾燥に伴って溶液から揮発する。揮発したVOC含有のガス(VOCガス)は、VOCガス回収管14を通じて回収され、ガス利用機器、例えば、ガス発電機や暖房装置などへ送られる。即ち、このドラム式乾燥機100は、VOC(揮発性有機化合物)を含む溶液を乾燥させ、気化したVOCガスを回収するVOCガス回収用の乾燥機であるともいえる。
【0021】
以下、ドラム式乾燥機100の構造を詳細に説明する。なお、簡単のため、ドラム式乾燥機100を単に乾燥機100と称する。ドラム8は、中空であるとともに、その両端は開放している。ドラム8は、密閉された筐体7の内部に横向き(水平)に配置されている。ドラム8は、ローラ9、10に支持されており、その軸線を回転軸として回転する。モータ12が駆動ベルトを介して一方のローラ10に連結しており、このモータ12がドラム8を回転させる。図1において、ドラム8は時計回りに回転する。
【0022】
VOCを含む溶液は、溶液供給管19を通じて筐体外部からドラム8の内部に供給される。図3に示すように、ドラム8は、その両端が開放されており、溶液供給管19は、ドラム8の一方の開口端からドラム8の内部へと通じている。溶液供給管19の途中には溶液供給量調整バルブ18が設けられている。ドラム8の内部において、溶液供給管19の開口の直下に、箆板24が配置されている。図3に示すように箆板24は、ドラム8の開口端を通じて筐体7から伸びている支持柱によって支持されている。図3に示すように、箆板24は、ドラム長手方向のほぼ全長に亘って、ドラム軸線に平行に伸びている。図1に示されているように、箆板24は、ドラム内面に近い一方のサイドへ向かって下方に傾斜するように配置されている。その一方のサイドは、ドラム8の内面とギャップGを隔てている。ギャップGの大きさは、1.0mmから10.0mm程度である。溶液A1は、箆板24の上側(ドラム回転方向上流側)に供給される。供給された溶液A1は、ドラム8の回転に伴ってギャップGの間からドラム8内面に沿って均一の厚みで流れ出す。即ち、ドラム8の内面には、ギャップGに相当する厚みで均等に溶液が付着する(図1の符号A2参照)。なお、ドラム8の内面には微細な凹凸が設けられており、溶液が付着し易いようになっている。
【0023】
ドラム8の内側には、ガスチャンバ23が備えられている。図2に示すようにガスチャンバ23は、ドラム8の開口端を通じて筐体7から伸びる支持柱によって支持されている。ガスチャンバ23は、その内部に貯めた高温ガスを多数の吹出孔23aから吹き出す。ガスチャンバ23は、ドラム8の全長と概ね同じ長さを有している。ガスチャンバ23の側面の一部は、ドラム8の内面のうち、ドラム周方向の一部とドラム長手方向の略全長とに亘る部分内面と対向している。対向している面を対向面と称する。そしてその対向面に、複数の吹出孔23aが2次元的に配置されている。図1〜図3から明らかなとおり、複数の吹出孔23aは、ドラム長手方向に沿って並んでいるとともに、ドラム周方向にも並んでいる。複数の吹出孔23aは、ドラム8の内面に付着した溶液A2に向かって高温ガスを吹き出す。当然ながら、複数の吹出孔23aは(対向面は)、箆板24よりもドラム回転方向下流側であり、かつ、スクレイパ20(後述)よりもドラム回転方向上流側に配置されている。ガスチャンバ23には、ガス供給管21を通じて高温ガスが供給される。図2に示すように、ガス供給管21は、ドラム8の一方の開口端からドラム8の内部へと通じている。高温ガスを供給するための構造については後に詳しく説明する。
【0024】
複数の吹出孔23aから吹き出される高温ガスによって、ドラム内面に付着した溶液からVOCが気化し、溶液は乾燥する。図1〜図3から明らかなように、複数の吹出孔23aは、ドラム8の内側から、湾曲しているドラム内面に向かって高温ガスを吹き出すので、吹き出された高温ガスは、ドラム内面に沿って高速に流れる。一般に液体の気化速度は、液体に接している気体の総括熱伝達率に依存するが、総括熱伝達率は、気体の速度が速いほど大きい。即ち、この乾燥機100は、ドラム内面に溶液を塗布することによって、溶液を効率よく乾燥させることができる。
【0025】
ドラム8が回転するうちに付着溶液は乾燥し、スクレイパ20の付近に到着するまでには固化する(少なくとも泥状化する)。スクレイパ20は、ドラム軸線に沿ってほぼドラム長手方向の全長に亘って伸びている。図示を省略しているが、スクレイパ20も、箆板24やガスチャンバ23と同様に、ドラム8の開口端を通じて筐体7から伸びる支持柱によって支持されている。スクレイパ20の一方のサイドはドラム8の内面に接しており、ドラム8の回転に伴って摺動する。スクレイパ20に達した溶液残留物は、ドラム8の回転に伴ってスクレイパ20によって掻き落とされる。スクレイパ20の直下には、振動型コンベア22が配置されている。コンベア22は、ドラム8の一方の開口端を通じて、筐体7に支持されている。コンベア22は、スクレイパ20に沿って伸びているとともに、ドラム8の軸線方向外側へと延設されている。掻き落とされた残留物A3は、コンベア22上に落下する。掻き落とされた残留物A3は、コンベア22によってドラム内から筐体7の外へと搬出され、貯留タンク50に貯められる。
【0026】
次に、溶液を乾燥させるための高温ガスの供給路について説明する。ガスチャンバ23から吹き出した高温ガスは、ドラム8の内面に沿って流れた後、ドラム8の端部開口からドラム8の外へと流れる。ドラム8の外へ流れた高温ガスには、溶液から気化したVOCガスが含まれている。筐体7の壁面にはガス還流管6が取り付けられており、ドラム外へと流れた高温ガスはガス還流管6を通じてヒータ2へと送られる。ヒータ2は、回収された高温ガスを加熱し、溶液を乾燥させるのに適した温度まで昇温させる。ヒータ2からは前述したガス供給管21がガスチャンバ23へと伸びている。即ち、ガス還流管6とガス供給管21は、ヒータ2とともに高温ガスの循環路30を構成しており、その循環路30は、ドラム外へ排出される高温ガスを回収加熱して再びドラム内へ吹き出させる。ガス還流管6の途中には、高温ガスに外気を混合するための混合弁4と、ドラム内へ吹き出す高温ガスの流量を調整するためのファン3が備えられている。符号5は、外気を導入する外気管を示している。ドラム8の内面に付着した溶液が乾燥するにつれて、溶液からVOCガスが気化し、高温ガスと混ざる。ガス循環路30によって、高温ガスに含まれるVOC濃度を高められる。筐体7はドラム8を密封しており、ガス循環路30が、ドラム8の内部から筐体7へと流れ出た高温ガスを再び加熱してドラム8内へ還流させる。
【0027】
筐体7には、また、VOCを含む高温ガスを筐体7から回収し、他のガス利用機器へ導くガス回収管14が連結されている。ガス回収管の途中には、回収するガスの流量を調整するファン16が設置されている。
【0028】
乾燥機100が備えるその他の構造を説明する。筐体7には、ドラム内(筐体内)のVOC濃度を計測するガスセンサ17が設置されている。筐体7にはまた、筐体7内に直接外気を導き入れる外気管が配設されており、その途中に、外気管を開閉する閉止ダンパ13が設置されている。さらに、図4に示すように、ドラム8の端部には、ドラム内面から中心に向かって立ち上がる堰板8aが設けられている。堰板8aは、ドラム8の両端に設けられており、塗布した溶液がドラム外へ漏れるのを防ぐとともに、ドラム内面に沿って流れる高温ガスがそのままドラム外へ流れ出すのを防いでいる。堰板8aはドラム中心まで伸びている必要はなく、溶液の漏洩、及び、ドラム内面付近の高温ガスの漏洩を阻止する程度の高さがあればよい。例えば堰板8aの高さは、10cm程度でよい。乾燥機100は、また、溶液の供給量や高温ガスの流量を制御するコントローラ(不図示)を備える。
【0029】
コントローラの機能を説明する。コントローラは、溶液供給量調整バルブ18の開度を制御し、ドラム内への溶液供給量を調整する。またコントローラは、モータ12を制御し、ドラム8の回転数を制御する。また、コントローラは、ヒータ2の加熱温度、混合弁4、ファン3を制御し、ドラム8内へ吹き出す高温ガスの温度、高温ガスに含まれるVOC濃度、流量を制御する。なお、混合弁4によって高温ガスに混合する外気の量が調整され、それによって高温ガスに含まれるVOC濃度が調整される。
【0030】
ガス循環路30を備えることによって、乾燥機100の内部ではVOCを高濃度に含む高温ガスが循環する。コントローラは、乾燥機の安全性を高めるため、次の制御を行う。コントローラは、ガスセンサ17が計測したVOC濃度が第1閾値濃度を超えた場合にドラム回転数を低下させる。ドラム8の回転数を低下させると、結果的にドラム8に供給される溶液の量が減り、気化するVOCの量も減る。さらにコントローラは、VOC濃度が第1閾値濃度よりも高い第2閾値濃度を超えた場合、ファン3を制御し、ドラム8内に吹き出す高温ガスの流量を低下させる。或いは、コントローラは、VOC濃度が第1閾値濃度よりも高い第3閾値濃度を超えた場合、混合弁4を制御し、循環する高温ガスに混合する外気の導入量を増加させる。ここで、第1閾値濃度<第2閾値濃度であり、第1閾値濃度<第3閾値濃度である。即ち、コントローラは、VOC濃度が高まったときにまずドラム回転数によってVOC濃度上昇を抑制する。ドラム回転数の調整だけではVOC濃度上昇を抑制しきれない場合、コントローラは、高温ガスの流量或いは高温ガスへの外気導入量によってVOC濃度を調整する。コントローラのこれらの制御により、高温ガスに含まれるVOC濃度が所定の濃度以下に維持される。上記の制御によってもVOC濃度が下がらない場合、コントローラは、閉止ダンパ13を開放し、筐体7内に直接外気を導き入れる。第1、第2、及び、第3閾値濃度は、乾燥機100のサイズや各配管の大きさや強度に応じて適宜に設定される。
【0031】
乾燥機100の利点を整理する。乾燥機100は、ドラム内面に溶液を塗布するドラム式である。上記したように、箆板24、ガスチャンバ23、スクレイパ20、コンベア22等をドラム内部に配置できるので、装置全体がコンパクトになる。溶液が塗布されたドラム内面に対して高温ガスの吹出孔23aが2次元的に配置されているため、溶液の乾燥効率がよい。特に、吹き出した高温ガスが湾曲面の内側(曲率半径の中心が存在する側)であるドラム内面に沿って流れ、ドラム内面付近から散逸し難く、この点が乾燥効率を向上させる要因の一つとなっている。乾燥機100は、溶液を乾燥させる際に溶液からVOCを気化させる。乾燥機100は、溶液を乾燥させるための高温ガスを循環させる。ガス循環路を備えることによって、高温ガスに含まれるVOCの濃度を高め、即ちエネルギ密度を高めて、高温ガスの他の機器での利用価値を上げる。
【0032】
図5を参照して、第2実施例の乾燥機200を説明する。乾燥機200は、ガスチャンバの形態が第1実施例の乾燥機100とは異なる。他の部品については第1実施例の乾燥機100と同じである。図5では、第1実施例の乾燥機100と同じ部品には同じ符号を付している。第2実施例の乾燥機200は、複数の小さいガスチャンバ223を備えている。夫々のガスチャンバ223には、ガス供給管21から高温ガスが供給される。複数のガスチャンバ223の夫々は、溶液が塗布されているドラム8の内面に向いて開口しているガス吹出口を有している。複数のガス吹出口(複数のガスチャンバ223)は、ドラム8の内面のうちドラム周方向の一部とドラム長手方向とに亘る部分内面に対向して2次元的に配置されている。即ち、乾燥機200も、高温ガスの吹出孔の形態としては第1実施例の乾燥機100と同じである。乾燥機200は、小さなガスチャンバ223を複数備えるので、第1実施例のガスチャンバ23よりも高温ガスの利用効率が良い。
【0033】
図6を参照して、第3実施例の乾燥機300を説明する。図6は、第1実施例の図2に対応する図である。乾燥機300は、ガスチャンバを備えない点で第1、第2実施例の乾燥機とは異なる。他の部品については第1実施例の乾燥機100と同じである。図6では、第1実施例の乾燥機100と同じ部品には同じ符号を付している。第3実施例の乾燥機300は、ガス供給管321が、ドラム8の端面付近でドラム内面に向かって開口している。ガス供給管321から吹き出した高温ガスは、図6の矢印Pが示すように、ドラム内面に沿って流れた後に、ドラムの反対側の端部から流れ出る。乾燥機300は、第1、第2実施例の乾燥機と比較して構造が簡単である。
【0034】
図7を参照して、第4実施例の乾燥機400を説明する。乾燥機400は、箆板24を備えない点で第1、第2実施例の乾燥機とは異なる。他の部品については第1実施例の乾燥機100と同じである。図7では、第1実施例の乾燥機100と同じ部品には同じ符号を付している。なお、ガスチャンバ323は、その形状は第1実施例のガスチャンバ23と同じであるが、配置が第1実施例とは異なる。但し、ガスチャンバ323の配置は、複数の高温ガス吹出孔323aが、溶液付着開始位置のドラム回転方向下流側とスクレイパ20のドラム回転方向上流側の間で2次元的に配置されている点において第1実施例のガスチャンバ23と同じである。
【0035】
第4実施例の乾燥機400では、ドラム8の内部に溶液を供給する溶液供給管319が、ドラム8の底付近まで伸びており開口している。溶液供給管319から供給される溶液A1は、ドラム8の底に溜まる。なお、溶液は、ドラム8の両端に設けられた堰板8a(図4参照)によって、堰き止められ、ドラム8の外へは漏れない。図7では、ドラム8は反時計回りに回転する。ドラム8の回転に伴って、ドラム内面には溶液が付着する(図7の符号A2が付着した溶液を示している)。ドラム8の回転に伴って付着した溶液が乾燥固化し、スクレイパ20が固化した残留物をドラム内面から掻き落とす。第4実施例の乾燥機400は、堰板8aの高さにもよるが、ドラム8内に多量の溶液を貯めることができる。
【0036】
実施例で説明した乾燥機についての留意点を述べる。ドラム内へ溶液を供給する溶液供給管(19、319)が、溶液供給手段の一例に相当する。乾燥機が箆板24を有する場合、箆板24も溶液供給手段の構成部品の一つである。
【0037】
高温ガスをドラム内に供給するガス供給管(21、321)が、溶液を加熱・乾燥させる加熱手段の一例に相当する。ドラム内面に向かって高温ガスを吹き出す吹出孔を有するガスチャンバ(23、223、323)を備える場合は、ガスチャンバも加熱手段の一部である。
【0038】
実施例のコンベア22が、スクレイパ20によって掻き落とされた残留物を受けてドラム外へと搬出する搬出手段の一例に相当する。なお、乾燥機は、振動型コンベアに換えてベルトタイプのコンベアを備えていてもよい。或いは、搬出手段は、貯留タンク50に向かって鉛直下方に傾斜している樋であってもよい。貯留タンク50に向かって鉛直下方に傾斜していれば、落下した残留物は重力により貯留タンク50まで滑り落ちる。
【0039】
第1実施例の乾燥機100は、複数の吹出孔23aを有するガスチャンバ23を備えた。複数の吹出孔23aを有する対向面は、メッシュ板で形成されてもよい。メッシュ板は、吹出孔23aを極端に多数設けた形態に相当する。メッシュ板は、ドラム内面に向かって吹き出される高温ガスの流れを一様に整える整流板の機能も果す。
【0040】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
2:ヒータ
3:ファン
4:混合弁
6:ガス還流管
7:筐体
8:ドラム
8a:堰
12:モータ
13:閉止ダンパ
14:ガス回収管
16:ファン
17:ガスセンサ
18:溶液供給量調整バルブ
19、319:溶液供給管
20:スクレイパ
21、321:ガス供給管
22:コンベア
23、223、323:ガスチャンバ
23a、323a:吹出孔
24:箆板
30:循環路
50:貯留タンク
100、200、300、400:ドラム式乾燥機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横向きに配置された中空のドラムと、
ドラムを回転させる駆動手段と、
ドラムの外部からドラムの中へ溶液を供給する溶液供給手段と、
回転しているドラムの内面に付着した前記溶液を加熱し乾燥させる加熱手段と、
ドラム内面に摺接しており、回転しているドラム内面に付着した溶液乾燥後の残留物を掻き落とすスクレイパと、
スクレイパの下方でスクレイパに沿って伸びているとともにドラム外側へと延設されており、スクレイパによって掻き落とされた残留物を受けてドラム外へと搬出する搬出手段と、
を備えることを特徴とするドラム式乾燥機。
【請求項2】
前記溶液供給手段は、
ドラム軸線に沿って伸びておりドラム内面とギャップを隔てて配置されている箆板を備えており、
箆板のドラム回転方向上流側に前記溶液が供給され、ドラムの回転に伴って前記溶液が前記ギャップを通じてドラム内面に均一に付着するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のドラム式乾燥機。
【請求項3】
前記加熱手段は、高温ガスをドラム内面に向けて吹き出す複数の吹出孔を有しており、前記複数の吹出孔が、ドラム内面のうちドラム周方向の一部とドラム長手方向とに亘る部分内面に対向して2次元的に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラム式乾燥機。
【請求項4】
前記加熱手段は、ドラム内側に配置されたガスチャンバと該ガスチャンバ内に高温ガスを供給するガス供給手段を備えており、前記ガスチャンバは、ドラム内面のうちドラム周方向の一部とドラム長手方向とに亘る部分内面と対向する対向面を有するとともに、該対向面に2次元的に複数の吹出孔が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のドラム式乾燥機。
【請求項5】
揮発性有機化合物(VOC)を含む溶液を乾燥させる請求項1から4のいずれか1項に記載のドラム式乾燥機であり、
前記加熱手段は、ドラム外へ流出した高温ガスを回収し加熱して再びドラム内へ吹き出させるガス循環路を備えているとともに、循環中のガスに外気を混合する混合弁を備えていることを特徴とするドラム乾燥機。
【請求項6】
ドラム内のVOC濃度を計測するガスセンサと、
ガスセンサが計測したVOC濃度が第1閾値濃度を超えた場合にドラム回転数を低下させるコントローラを備えていることを特徴とする請求項5に記載のドラム式乾燥機。
【請求項7】
前記コントローラは、VOC濃度が第1閾値濃度よりも高い第2閾値濃度を超えた場合に、ドラム内に吹き出す高温ガスの流量を低下させることを特徴とする請求項6に記載のドラム式乾燥機。
【請求項8】
前記コントローラは、VOC濃度が第1閾値濃度よりも高い第3閾値濃度を超えた場合に循環する高温ガスに混合する外気の量を増加させるように前記混合弁の開度を調整することを特徴とする請求項6又は7に記載のドラム式乾燥機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−93036(P2012−93036A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241487(P2010−241487)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】