説明

ナノインプリント方法およびそれに用いるモールド

【課題】モールドと樹脂との離型性に優れ、樹脂のパターン欠陥を生じないもしくは低減させたナノインプリント方法、およびそれに用いるモールドを提供する。
【解決手段】凹凸パターン12を表面に有するモールド11を、被加工基板14上の光硬化性樹脂15に押し付けると共に、前記モールド11を介して前記光硬化性樹脂15を感光させる光を照射することによって前記光硬化性樹脂15を硬化させて前記凹凸パターン12を転写するナノインプリント方法であって、前記モールド11表面の表面自由エネルギーと、前記硬化した後の光硬化性樹脂15表面の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な凹凸パターンを形成するナノインプリント方法において、樹脂によるパターン欠陥を生じないもしくは低減させた離型性に優れたナノインプリント方法、およびそれに用いるモールドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に半導体デバイスについては、微細化の一層の進展により高速動作、低消費電力動作が求められ、また、システムLSIという名で呼ばれる機能の統合化などの高い技術が求められている。このような中、半導体デバイスのパターンを作製する要となるリソグラフィ技術は、パターンの微細化が進むにつれ、露光装置などが極めて高価になってきており、また、それに用いるマスク価格も高価になっている。
【0003】
これに対して、1995年Princeton大学のChouらによって提案されたナノインプリント法は、装置価格や使用材料などが安価でありながら、10nm程度の高解像度を有する微細パターン形成技術として注目されている(特許文献1参照)。
【0004】
ナノインプリント法は、予め表面にナノメートルサイズの凹凸パターンを形成したモールド(テンプレート、スタンパ、金型とも呼ばれる)を、被加工材表面に塗布形成された樹脂(本発明ではレジストとも言う)に押し付けて力学的に変形させて微細パターンを精密に転写し、パターン形成された樹脂をレジストマスクとして被加工材を加工する技術である。一度モールドを作製すれば、ナノ構造が簡単に繰り返して成型できるため高いスループットが得られて経済的であるとともに、有害な廃棄物が少ないナノ加工技術であるため、近年、半導体デバイスに限らず、さまざまな分野への応用が期待されている。
【0005】
このようなナノインプリント法には、熱可塑性樹脂を用いて熱により凹凸パターンを転写する熱ナノインプリント法や、光硬化性樹脂を用いて紫外線により凹凸パターンを転写する光ナノインプリント法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。転写材料である樹脂としては、熱ナノインプリント法では熱可塑性樹脂、光ナノインプリント法では光硬化性樹脂が用いられる。光ナノインプリント法は、室温で低い印加圧力でパターン転写でき、熱ナノインプリント法のような加熱・冷却サイクルが不要でモールドや樹脂の熱による寸法変化が生じないために、解像性、アライメント精度、生産性などの点で優れていると言われている。
【0006】
ナノインプリント法で用いられるモールドには、パターン寸法の安定性、耐薬品性、加工特性などが求められる。光ナノインプリント法の場合を例に取ると、一般的には光硬化に用いる紫外線を透過する石英ガラスが用いられている。ナノインプリント法においては、モールドのパターン形状を忠実に転写材料である樹脂に転写しなければならない。そのためには、モールド形状を樹脂に転写してから、モールドを離すときに、樹脂に形状変化を与えずに離型する必要がある。
【0007】
しかし、通常、石英ガラスなどによるモールドはパターン転写材料である樹脂との離型性が低いので、モールドと樹脂との離型性を向上させる方法として、例えば、モールドの凹凸パターン表面にフッ素樹脂などの離型剤の薄膜を塗布形成して離型性を高める方法が提案されている。図6は、一例として、合成石英製モールドの表面にフルオロアルキル基を有する離型剤の単分子膜が形成された状態を示す模式図である。
【0008】
しかし、たとえ離型剤を用いたとしても、連続してインプリントすることにより離型剤が消耗して離型性が低下し、樹脂とモールドとの間の付着力や摩擦力が大きくなってパターン欠陥が発生するという問題があった。
【0009】
図7は、離型剤を塗布形成して離型層72としたナノインプリント用モールド71を、被加工基板73上の被転写材料の樹脂74に押し圧し、光硬化後に引き離すとき(図7(a))と、その直後の状態(図7(b))を説明するための部分断面模式図である。このとき、樹脂74とモールド71の間には付着力Aと摩擦力Fが働く。図7(b)に示すように、モールドを樹脂に押圧した後、モールドを離型する際にモールド側に樹脂の一部が付着してしまうため、樹脂の凹凸パターンに欠け欠陥75を生じるという問題が生じていた。また樹脂が付着したモールド71は、モールド71に付着した樹脂76を取り除かない限り、以後のパターン転写に使えなくなるという問題があった。
【0010】
上記のように、モールドの凹凸パターンと転写材料との離型性が良いかどうかは、インプリントされる製品の品質・歩留・生産性を左右する上で極めて重要であるが、たとえ離型剤を用いたとしても、離型剤の種類により離型性は異なり、インプリント前にあらかじめ離型剤の離型性の良否を判断するのが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2004−504718号公報
【特許文献2】特開2002−93748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、モールドと樹脂との離型性に優れ、樹脂のパターン欠陥を生じないもしくは低減させたナノインプリント方法、およびそれに用いるモールドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明に係るナノインプリント方法は、凹凸パターンを表面に有するモールドを、被加工基板上の光硬化性樹脂に押し付けると共に、前記モールドを介して前記光硬化性樹脂を感光させる光を照射することによって前記光硬化性樹脂を硬化させて前記凹凸パターンを転写するナノインプリント方法であって、前記モールド表面の表面自由エネルギーと、前記硬化した後の光硬化性樹脂表面の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の発明に係るナノインプリント方法は、請求項1に記載のナノインプリント方法において、前記モールドの凹凸パターンが、離型層で被覆されていることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の発明に係るナノインプリント方法は、請求項1または請求項2に記載のナノインプリント方法において、前記表面自由エネルギーは、前記モールドまたは前記硬化した光硬化性樹脂と2種類の液体との接触角により測定することを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の発明に係るナノインプリント方法は、請求項3に記載のナノインプリント方法において、前記2種類の液体が、純水およびジヨードメタンであることを特徴とするものである。
【0017】
請求項5の発明に係るナノインプリント用モールドは、表面に凹凸パターンを有し、前記凹凸パターンが離型層で被覆されているナノインプリント用モールドであって、前記離型層で被覆されているモールドの表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のナノインプリント方法によれば、離型層で被覆されているモールド表面の表面自由エネルギーと、光硬化した後の光硬化性樹脂表面の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下としてインプリントすることにより、樹脂との離型性に優れ、樹脂のパターン欠陥を生じないもしくは低減させたナノインプリント方法が可能となる。
【0019】
本発明のナノインプリント用モールドによれば、離型性に優れ、被加工材表面に塗布形成されたナノインプリント用樹脂の引き抜き欠陥を低減でき、高精度で微細な樹脂のパターン形成が可能なナノインプリント用モールドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のナノインプリント方法の一例を示す部分断面模式図である。
【図2】モールドとナノインプリント用レジストとの付着仕事を説明する図である。
【図3】モールド表面のナノインプリント用レジストに働く力を説明する模式図である。
【図4】モールドと樹脂の離型力測定に用いた測定器の斜視外観図である。
【図5】各種の離型層を設けたモールドと離型力を示す図である。
【図6】石英製モールド表面にフルオロアルキル基を有する離型剤の単分子膜が形成された状態を示す模式図である。
【図7】離型剤を塗布形成したモールドを樹脂に押し圧した後、引き離したときに働く力と樹脂欠陥を説明するための部分断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明のナノインプリント用モールドと光硬化性樹脂を表面に塗布形成した被加工基板の一例を示す部分断面模式図である。ナノインプリント用モールド10は、基板11の一表面に凹凸パターン12を有し、凹凸パターン12が離型層13で被覆されている。被加工基板14は表面に光硬化性樹脂15が塗布形成されている。本発明のナノインプリント方法は、図1に示す例では、離型層13で被覆されている状態でのモールド11の表面自由エネルギーと、硬化後の光硬化性樹脂15の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下であることを特徴とするものである。モールド11が離型層12で被覆されていない場合には、モールド自体の表面自由エネルギーを上記の数値範囲内とすればよい。
【0023】
本発明において、モールド11の表面自由エネルギーと、硬化後の光硬化性樹脂15の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由エネルギーが30mJ/m2を超えると、モールドと硬化した光硬化性樹脂との離型性が低下し、樹脂のパターン欠陥が生じてくるからである。また、硬化後の光硬化性樹脂15の表面自由エネルギーが5mJ/m2未満となると、被加工基板と該基板上に塗布し硬化した光硬化性樹脂との接着性が低下し、基板からの樹脂の剥がれが生じてくるおそれがあるからである。
【0024】
本発明のナノインプリント方法によれば、離型層で被覆されているモールド表面の表面自由エネルギーあるいは硬化した後の光硬化性樹脂表面の表面自由エネルギーを測定することにより、離型層の離型性あるいは光硬化性樹脂の離型性を評価することが可能となり、離型層として好適な離型剤あるいは離型性の良い光硬化性樹脂の評価、選定が容易になる。表面自由エネルギーが上記の5mJ/m2以上で30mJ/m2以下の範囲内にある場合には離型性が良いと判断され、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下の範囲内にない場合には離型性が悪く、インプリントには不適と判断される。
【0025】
図1において、基板11は、凹凸パターン12を保持する部材であり、パターン寸法の安定性、耐薬品性、加工特性などが求められ、基板11を構成する材料としては、光学研磨された合成石英ガラス、ソーダガラス、蛍石、フッ化カルシウムなどが挙げられるが、一般的には光硬化に用いる紫外線を透過する合成石英ガラスが用いられている。基板材料として合成石英ガラスは、フォトマスク用基板としての使用実績が高く品質が安定しており、基板11と凹凸パターン12を一体化した光透過性の構造とすることができ、高精度の微細な凹凸パターンを形成できるのでより好ましい。
【0026】
モールドを離型層で被覆した場合の離型層の膜厚は、離型層を形成することによるモールドの凹凸パターン寸法への影響を小さくするために、薄い層とするのが好ましい。離型層の膜厚測定は原子間力顕微鏡(AFM)などにより行うことができる。
【0027】
ここで、モールドとナノインプリント用光硬化性樹脂(以下、レジストとも称する)との離型の程度を示す付着性について述べる。図2は、モールドとレジストとの付着仕事を求めるための説明図である。図面上の凹凸パターンは省略してある。図2において、21はモールド、22はレジストを示す。
【0028】
ここで、図2(a)に示すように、接触している2つの媒質であるモールド21とレジスト22の単位面積を、図2(b)に示すように、引き離すのに必要な自由エネルギーの変化を示す付着仕事は、レジスト表面からモールドを引き離す付着仕事をWmold/resistとし、モールドの界面エネルギー(表面自由エネルギー)をγmold 、レジストの界面エネルギー(表面自由エネルギー)をγresist、モールドとレジスト間の界面エネルギーをγmold/resistとすると、次の数式(1)で表される。
Wmold/resist =γmold resist−γmold/resist …(1)
【0029】
一方、レジストとモールドの固体表面との間の現象は、簡単にはレジストの固体表面への濡れの程度で表される。本発明において、表面自由エネルギーを求めるのに用いる接触角は、固体表面上におかれた液滴の表面と固体表面との交点において、液滴に引いた接線と固体表面とのなす角度で、液滴を含む側の角度を示す。
【0030】
図3は、モールド表面のレジストに働く力を説明する模式図である。図3に示すように、モールド31の表面にレジスト32が形成されたとき、濡れ性すなわち親水性、疎水性の程度を表す接触角に関して、図2と同じ符号であるモールドの表面自由エネルギーをγmold、モールドとレジスト間の界面エネルギーをγmold/resist、レジストの表面自由エネルギーをγresist、接触角をθとすると、3つの矢印で示す力関係が釣り合い、次のヤング−デュプレ(Young-Dupre)の式(2)が成り立つ。
γmold =γresistcosθ+γmold/resist …(2)
【0031】
上記の数式(1)、数式(2)より、付着仕事Wmold/resistは、次の数式(3)で表される。したがって、γresistとθがわかれば、レジスト表面からモールドを引き離す付着仕事Wmold/resistを求めることができる。γresistとθは計測により求めることができる。
Wmold/resist =γresist(1+cosθ) …(3)
【0032】
したがって、レジスト表面からモールドを容易に引き離すには、数式(3)より付着仕事Wmold/resistを小さくすること、すなわちレジストの表面自由エネルギーγresist(表面張力)の小さい材料を使用すること、また数式(2)よりモールドの表面自由エネルギーγmoldを小さくすること、例えば、モールド表面に表面自由エネルギーの小さい離型層を設ければよいことになる。
【0033】
一方、オーエンス(Owens)の式から(D.K.Owens et al.,J.Appl.Polym.Sci.,13,1741-1747(1969))、表面自由エネルギーγを分散相互作用による表面自由エネルギーγdと極性相互作用による表面自由エネルギーγpとの和(γ=γdp)とすると、下記の数式(4)、(5)が成り立つ。
γmold/resist =γmold resist −2(√(γdresist γdasl)+√(γpresist γpasl))
…(4)
Wmold/resist =2√(γdresist γdasl)+2√(γpresist γpasl
…(5)
ただし、γdresistおよびγpresistは、それぞれレジストの表面自由エネルギーの分散成分と極性成分であり、γdaslおよびγpaslは、それぞれ離型層(離型層がない場合はモールド自体)の表面自由エネルギーの分散成分と極性成分である。
【0034】
上記のように、固体の表面自由エネルギーγの各成分(γd;γp)は、同一の固体表面上において表面張力の異なる2種類の液体との接触角を測定することにより求めることができ、表面自由エネルギーγは分散相互作用による表面自由エネルギーγdと極性相互作用による表面自由エネルギーγpとの和(γ=γdp)として得られる。本発明の好ましい形態としては、上記の2種類の液体として、純水とジヨードメタン(CH22)が挙げられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0035】
表1に、本発明のナノインプリント方法において用いた各材料の実測した接触角と、その接触角より求めた表面自由エネルギーγ(γ=γdp)の値を示す。接触角の測定は、角度を読み取れるゴニオメータ付きの光学顕微鏡を用い、液滴を側面から観察して接触角を直接測定する方法や、液滴の輪郭を撮影し、画像解析により角度を測定する方法など、従来公知の方法が用いられる。本実施例においては、接触角測定装置としては協和界面科学社製Drop Masterを用いた。接触角を求めるのに用いた2種の液体としては、純水とジヨードメタン(CH22)を用いた。測定試料としては、4種類の離型層で被覆されたモールド、離型層なしのモールドおよび1種類のレジストである。
【0036】
【表1】

【0037】
表1において、4種類の離型層としては、フッ素系シラン化合物を主成分とする商品名オプツールDSX(Optool:ダイキン工業社製)、オクタデシルトリメトキシシラン(ODS:CH3(CH2)17Si(OCH3)3)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)をそれぞれ合成石英基板上に気相成長法により形成して離型層とする測定試料を作製した。HMDSは塗布条件の異なる2種類を用いており、HMDS−1、HMDS−2は気相成長処理時間が、それぞれ30分、5分として離型層を設けたサンプルである。離型層なしのモールドは、硫酸/過酸化水素水(H2SO4/H2O2)で洗浄後の合成石英基板(Qz:6インチ角、厚さ0.25インチ)を用いている。レジストは、商品名PAK-01(東洋合成工業社製)を用いた。表1において、接触角を求めるのに用いた2種類の液体のうち、純水はγ=72.8、γd=21.8、γp=51.0(単位:mJ/m2)であり、ジヨードメタンはγ=50.8、γd=48.5、γp=2.3(単位:mJ/m2)である。
【0038】
表1に示される測定試料の中では、離型層1のフッ素系シラン化合物を主成分とするオプツールDSX(Optool)が最も小さい表面自由エネルギーγ=12.4を示している。一方、離型層を設けていない合成石英基板のモールド(Qz)は、高い表面自由エネルギーγ=72.4を示している。
【0039】
次に、石英モールド表面を上記の離型層1〜離型層4でそれぞれに被覆して試料1〜試料4を作製し、離型層を設けていない石英モールドを試料5として5種類のモールド試料とし、それぞれのモールドの離型力の測定を行った。離型力の測定には、谷口等により提案されている図4に示す測定装置を作製して用いた(J.Taniguchi et al.,Jpn. J.Appl. Phys. Vol.41 (2002)pp.4194-4197)。被加工基板となるシリコンウェハ41上に光(紫外線)硬化性樹脂42を塗布し、図4に示す測定装置に設置し、上記のモールド43を押し付け、各モールド試料を紫外線照射した。光硬化性樹脂42としてはPAK-01(東洋合成工業社製)を用い、紫外線照射量はいずれも200mJ/cm2であり、光硬化性樹脂42が硬化する照射量を照射した。
【0040】
次いで、図4に示す測定装置により、シリコンウェハ41側に荷重44をかけ、各々の試料の離型力(Separation Force)を求めた。その結果を図5に示す。離型力の測定には、市販の商品名フォースゲージDPS-50R(イマダ社製)を用いた。離型力(MPa)は、モールドと付着している硬化した光硬化性樹脂とを離型するのに要する力であり、下記の数式(6)で表され、単位面積(mm2)当たりの離型に要する最大荷重(N)で示される。また、離型層を設けていない石英モールドを試料5として比較のために測定した。
単位面積当たりの離型力(MPa)=離型力(最大荷重,N)/樹脂面積(mm2
……(6)
【0041】
図5において、各試料(横軸)の離型力(縦軸)における黒点は測定した各試料のサンプル数による計測値のバラつきを示し、横実線およびその脇の数値は離型力(kPa)の平均値を示す。図5に示すように、離型層を設けていない合成石英基板のモールド(Ref Qz/Pak)は、高い離型力14.6kPaを示しているが、離型層を設けた4種類のモールドはいずれも離型力が低下しており、中でもオプツールDSX(Optool)とオクタデシルトリトキシシラン(ODS)の離型力は、それぞれ2.7kPa、1.9kPaと低く、両者はモールドとレジストの離型性が良い好適な離型剤であることが示された。
【0042】
表2に、図5に示した上記の試料1〜試料5の離型力(kPa)と、計算により求めた付着仕事の値(mJ/cm2)、および目視および光学顕微鏡による外観検査により得られた樹脂のパターン欠陥の有無の結果を示す。付着仕事の値は、上記の数式(5)から求めた。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示す付着仕事の値が小さい試料1のオクタデシルトリメトキシシラン(ODS)および試料2のオプツールDSX(Optool)を設けたモールドは、いずれも硬化した光硬化性樹脂を離型するのが容易であり、離型により樹脂によるパターン欠陥は生じなかった。一方、試料4のHMDSを気相法で成膜したモールドは、3kPaと比較的低い離型力を示したが、離型時に部分的に樹脂のパターン欠陥を生じた。
【0045】
表1に示されるように、試料1の離型剤であるオプツールDSX(Optool)および試料2のオクタデシルトリメトキシシラン(ODS)の表面自由エネルギーは、それぞれ12.4mJ/m2、29.64mJ/m2である。したがって、離型時の樹脂によるパターン欠陥を生じさせないためには、モールドの表面自由エネルギーは30mJ/m2以下であることが示される。
【0046】
一方、モールド側ではなく、硬化した後の光硬化性樹脂表面の表面自由エネルギーが30mJ/m2以下であっても、上記の数式(1)〜(5)において説明したように、離型時の樹脂のパターン欠陥を生じさせないもしくは低減することが可能である。
【0047】
したがって、樹脂との離型性に優れ、樹脂のパターン欠陥を生じないもしくは低減したナノインプリント方法を行うには、モールド表面の表面自由エネルギーと、硬化した後の光硬化性樹脂(レジスト)表面の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由ルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下であることが求められる。モールド、レジストのいずれか一方が、30mJ/m2以下であれば、付着仕事を小さくすることができ、離型性を向上させることができる。また、光硬化性樹脂(レジスト)表面をアルキルやフルオロアルキルが緻密に並んだ膜とし表面自由エネルギーを30mJ/m2以下とすることにより、レジストとモールドの離型性を高めることができる。上記に説明したように、モールド表面は離型層で被覆されていてもよい。
【0048】
本発明のナノインプリント方法によれば、離型層で被覆したモールドの表面自由エネルギー、あるいは被加工基板上の紫外線硬化した光硬化性樹脂の表面自由エネルギーを測定し、少なくとも一方の表面自由エネルギーが上記の所定の範囲内にあれば離型性が良いと判定し、所定の範囲内にないときには離型性が悪く樹脂のパターン欠陥が生じるおそれがあると判定することができ、離型層や光硬化性樹脂の適否を評価することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 モールド
11 基板
12 凹凸パターン
13 離型層
14 被加工基板
15 光硬化性樹脂
21、31 モールド
22、32 レジスト
41 シリコンウェハ
42 光硬化性樹脂
43 合成石英基板
44 荷重
71 モールド
72 離型層
73 被加工基板
74 樹脂
75 欠け欠陥
76 付着した樹脂
A 付着力
F 摩擦力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸パターンを表面に有するモールドを、被加工基板上の光硬化性樹脂に押し付けると共に、前記モールドを介して前記光硬化性樹脂を感光させる光を照射することによって前記光硬化性樹脂を硬化させて前記凹凸パターンを転写するナノインプリント方法であって、
前記モールド表面の表面自由エネルギーと、前記硬化した後の光硬化性樹脂表面の表面自由エネルギーとの少なくとも一方の表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下であることを特徴とするナノインプリント方法。
【請求項2】
前記モールドの凹凸パターンが、離型層で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のナノインプリント方法。
【請求項3】
前記表面自由エネルギーは、前記モールドまたは前記硬化した光硬化性樹脂と2種類の液体との接触角により測定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナノインプリント方法。
【請求項4】
前記2種類の液体が、純水およびジヨードメタンであることを特徴とする請求項3に記載のナノインプリント方法。
【請求項5】
表面に凹凸パターンを有し、前記凹凸パターンが離型層で被覆されているナノインプリント用モールドであって、
前記離型層で被覆されているモールドの表面自由エネルギーが、5mJ/m2以上で30mJ/m2以下であることを特徴とするナノインプリント用モールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−171471(P2011−171471A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33232(P2010−33232)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】