ナノ構造体およびその製造方法
【課題】細孔とセル径を制御可能とし、大面積基板に対して適用可能で、低コスト且つ簡易な装置によるナノ構造体を得る方法、及び該ナノ構造体を鋳型として金属ナノ構造体を得る方法及び金属ナノ構造体の提供。
【解決手段】アルミニウム等の基体2を陽極酸化し、細孔拡大処理により孔径を拡大させたアルミナ皮膜3からなる多孔質酸化皮膜ナノ構造体1を鋳型とし、金属M2よりも酸化還元電位の低い金属M3のイオンを含む溶液に超音波をかけながら鋳型を浸漬して鋳型に金属イオンM3を担持させる工程、金属M2のイオンを含む溶液に超音波をかけながら金属イオンM3を担持した鋳型を浸漬して鋳型に金属M2のコロイドを担持させる工程、金属M1のイオン、還元剤及び平滑化剤を含む溶液に金属M2のコロイドを担持した鋳型を浸漬する無電解めっき工程、及び、酸化皮膜3を選択的にエッチング除去する工程とを含む方法により金属ナノ構造体4を得る。
【解決手段】アルミニウム等の基体2を陽極酸化し、細孔拡大処理により孔径を拡大させたアルミナ皮膜3からなる多孔質酸化皮膜ナノ構造体1を鋳型とし、金属M2よりも酸化還元電位の低い金属M3のイオンを含む溶液に超音波をかけながら鋳型を浸漬して鋳型に金属イオンM3を担持させる工程、金属M2のイオンを含む溶液に超音波をかけながら金属イオンM3を担持した鋳型を浸漬して鋳型に金属M2のコロイドを担持させる工程、金属M1のイオン、還元剤及び平滑化剤を含む溶液に金属M2のコロイドを担持した鋳型を浸漬する無電解めっき工程、及び、酸化皮膜3を選択的にエッチング除去する工程とを含む方法により金属ナノ構造体4を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ナノ構造体およびその製造方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、陽極酸化法を用いて基体上に規則的に配列した高い比表面積をもつ多孔質酸化皮膜ナノ構造体を製造し、ナノ構造体中に無電解めっき法により種々の触媒性金属をコーティングして、金属ナノ構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーにより得られるナノ構造体は電子デバイスやマイクロデバイスなどの新規機能材料として、また、量子効果デバイスや、高性能触媒等、あらゆる分野で応用可能であることから、近年、ナノテクノロジーに関する研究が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では数十nm以下の細孔径を有する柱状微細構造を形成することができるナノ構造体の製造方法が開示されている。具体的には、触媒活性を有する下地膜付き基板の表面に形成されたアルミニウム(Al)を主成分とする柱状部材と、Alを主成分とする柱状部材の側面を囲むように配置されるシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、シリコンゲルマニウム(SiGe)のいずれかを主成分とするマトリックスからなる構造体を有するAl(Si、Ge)混合薄膜を形成した基体中からAlを主成分とする柱状部材を除去して、基体中に細孔を形成し、無電解めっき浴に基体を浸して柱状構造体(ナノ構造体)を形成するようにしている。
【特許文献1】特開2005−60755
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のナノ構造体製造方法においては、細孔の底部にのみ触媒活性を有するようにしているため、無電解めっきを行っても、ナノ構造体としては所謂ナノワイヤーのような形状のものしか得られないという問題があった。
【0005】
さらに、上記のナノ構造体製造方法においては、Al細線を作製するためのAl−Si等の成膜時にRFマグネトロンスパッタリングを用いているため、非常に大がかりで、且つ極めて高価な装置が必要である上に、細線の径の制御、大面積基板への成膜が困難であるという問題があった。また、このような物理的手法は、製造時間が極めて長いという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、細孔径とセル径を制御可能とし、しかも大面積基板に対しても適用可能で、低コスト且つ大がかりな装置を必要としないナノ構造体の製造方法およびそのナノ構造体を鋳型として用いて様々な大きさ、形状の金属ナノ構造体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明のナノ構造体の製造方法は、ナノサイズの細孔を有するナノ構造体を鋳型とし、金属M2よりも酸化還元電位の低い金属M3のイオンを含む溶液に超音波をかけながら鋳型を浸漬して鋳型に金属イオンM3を担持させる工程と、金属イオンM3を担持した鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、金属M2のイオンを含む溶液に超音波をかけながら金属イオンM3を担持した鋳型を浸漬して鋳型に金属M2のコロイドを担持させる工程と、金属イオンM2のコロイドを担持した鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、金属M1のイオン及び還元剤を含み、平滑化剤の濃度を50ppm以下とした溶液に金属M2のコロイドを担持した鋳型を浸漬する無電解めっき工程とを含むようにしている。
【0008】
したがって、触媒活性勾配に応じて無電解めっきが進行するため、鋳型の最表面(凸部)だけでなく、細孔内部の壁面や細孔底部(凹部)にまでむらなく均一に金属M1をコーティングすることが可能となる。しかも、そのコーティング量を制御することが可能となる。
【0009】
また、本発明のナノ構造体の製造方法は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜あるいは当該多孔質酸化皮膜を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大したものを鋳型とするようにしている。
【0010】
したがって、様々な種類の金属ナノ構造体、様々なセル径を有する金属ナノ構造体を製造することが可能となる。
【0011】
また、上記製造方法においては、無電解めっき処理工程の時間および撹拌強さを制御することで、鋳型中に従来技術では形成可能であったナノワイヤーのみの形状に限らず、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッドを形成することが可能となる。
【0012】
さらに、鋳型を除去してナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーを形成することも可能である。
【0013】
ここで、金属M1は高触媒活性金属であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の製造方法により得られる金属を高触媒活性金属であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金とした金属ナノ構造体は、触媒や電極として好適な材料となり、電気化学セル、硫酸電解法による水素製造用電気化学セル、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セルに供することが可能である。
【0015】
次に、本発明の多孔質酸化皮膜ナノ構造体の製造方法は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜を形成するようにしている。
【0016】
さらに、上記の方法により得られた多孔質酸化皮膜ナノ構造体を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大するようにしている。
【0017】
したがって、多孔質酸化皮膜の細孔径が20〜900nm、セル径が130〜950nmであることを特徴とする多孔質酸化皮膜ナノ構造体が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上、請求項1に記載の発明によれば、ナノサイズの細孔を有するナノ構造体を鋳型として、その最表面(凸部)から細孔底部(凹部)までの領域の触媒活性勾配を制御すること、例えば、細孔底部(凹部)に近づくに従って触媒活性勾配を高めることができるので、鋳型の最表面(凸部)だけでなく、細孔内部の壁面や細孔底部(凹部)にまで金属をコーティングすることが可能となる。しかも、金属はナノメートルレベルの大きさの粒子状もしくは針状であるから、鋳型の形状を保ちつつ、しかも表面が粗な状態でコーティングすることができ、鋳型の表面積をさらに増加させることが可能である。さらには、最表面(凸部)から細孔底部(凹部)までの領域の触媒活性勾配を制御することで、細孔底部(凹部)に金属がほとんどコーティングされないような状態にすることも可能である。即ち、種々の形状の金属ナノ構造体を得ることが可能である。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、陽極酸化法により形成された細孔径が20〜600nm、セル径が130〜950nmの多孔質酸化皮膜を鋳型とすることができ、請求項3に記載の発明によれば、細孔径をセル径とほぼ近い径まで制御した多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型として用いるので、陽極酸化を制御して細孔径とセル径を制御した鋳型を得ることができ、所望の径を有する金属ナノ構造体を得ることが可能となる。しかも、陽極酸化法、無電解めっき法は、非常に簡易に、しかも低コストで行える上に、大がかりな装置を必要とせず、大面積基板にも簡易に適用することができる。従って、従来の金属ナノ構造体の製造方法と比較して非常に高効率に金属ナノ構造体を製造することが可能となる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、鋳型中にナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を形成することが可能である。すなわち、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーのみならず、例えば、細孔下部がナノ粒子で細孔上部がナノポーラス膜といったような形状の金属ナノ構造体を得ることも可能である。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を鋳型中から取り出すことが可能であり、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーのみならず、例えば、ナノ粒子とナノポーラス膜が複合した形状の金属ナノ構造体を得ることも可能である。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)およびニッケル(Ni)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金は触媒活性が高い。したがって、本発明の金属ナノ構造体に適用することで、高触媒活性な材料を提供することが可能となる。
【0023】
請求項7〜11に記載の発明によれば、金属ナノ構造体の金属が高触媒活性金属であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金であり、ナノメートルレベルの大きさの粒子状もしくは針状であって、鋳型の形状を保ちつつ、しかも表面が粗な状態でコーティングされているから、鋳型の表面積がさらに増加したものとなる。したがって、触媒や電極として好適な材料となり、電気化学セル、硫酸電解法による水素製造用電気化学セル、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セルに供することが可能である。
【0024】
請求項12に記載の発明によれば、基体の腐食を防ぐ観点から、20〜40Vの低い電圧でしか行うことができなかった従来の陽極酸化法において、困難とされていた細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜を形成することが可能となる。しかも、陽極酸化法を用いているので、非常に簡易に行うことができる上に、大面積基板にも効率よくナノサイズの細孔例えば鋳型用として利用可能な多孔質酸化皮膜ナノ構造体を形成することができる。
【0025】
請求項13に記載の発明によれば、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大すること、即ち、細孔径を広い範囲で制御をすることが可能である。
【0026】
請求項12あるいは請求項13の製造方法により得られる請求項14に記載の細孔径が20〜900nm、セル径が130〜950nmの多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、種々の金属を用いた金属ナノ構造体を形成するための鋳型として用いることが可能であり、また、ナノデバイス用材料、ガスセンサー、フィルター、フォトニックス材料、可視光触媒担体、蛍光材料担体、バイオセンサー、複合陽極酸化マスクとしても利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1に本発明の金属ナノ構造体の製造方法の一実施形態を示す。本発明の金属ナノ構造体の製造方法は、鋳型となる多孔質酸化皮膜ナノ構造体を製造する工程と、多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型として無電解めっきを行う工程とを含むものである。さらに詳述すると、鋳型となる多孔質酸化皮膜ナノ構造体1を製造する工程は、基体2、例えばアルミニウム(Al)の脱脂工程(1)と、ポーラスアルミナ(Al2O3)皮膜3を形成する陽極酸化工程(2)とを含むものであり、ポーラスアルミナ皮膜3の細孔を拡大する工程(3)により細孔径を拡大することが可能である。また、無電解めっきを行う工程は、前記工程により得られた鋳型に触媒性処理を行う工程(4)と、無電解めっきを行う工程(5)とを含むものである。さらに、選択エッチング工程(6)によりポーラスアルミナ皮膜3の一部あるいは全部をエッチングして金属ナノ構造体4を取り出すことができる。
【0029】
鋳型となる多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化することにより製造され、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御される。
【0030】
ここで、陽極酸化法について説明する。陽極酸化法は、その表面に生成する酸化皮膜が、一方向にのみ電流を流し、反対方向には電流を非常に流しにくい整流作用をもつ金属であるバルブメタルに適用できる。さらに詳細には、緻密な酸化皮膜が形成しやすい傾向をもつ第一種バルブメタルと多孔質酸化皮膜が形成しやすい傾向をもつ第二種バルブメタルに分類される。第一種バルブメタルとしては、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、希土類元素等が挙げられる。第二種バルブメタルとしては亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。
【0031】
ここで、一例としてアルミニウム金属の陽極酸化法を挙げ、図12に示す電解装置5の概念図を用いて説明する。陽極酸化処理を行いたいアルミニウム金属2をプラス電極に、対極に例えばカーボン等の電極7を配置し、これらを電解液6に浸して、外部電源から電気を流すと以下に示す反応が生じて、(a)〜(d)に示す過程によりアルミナ酸化皮膜3が形成される。
(化学式1) Al → Al3+ + 3e−
(化学式2) Al3+ + 3OH− → Al(OH)3
(化学式3) 2Al(OH)3 → Al2O3(固体)+ 3H2O
【0032】
次に、定電流条件で陽極酸化した場合に成膜される酸化皮膜の厚さについて説明する。定電流条件で陽極酸化した場合に成膜される酸化皮膜の厚さは、数式1で表すことができる。
(数式1) d=(Mit)/(zFρ)
ここで、dは酸化皮膜の厚さ、Mは酸化物の分子量、Fはファラデー定数、zは酸化物生成に必要な反応電子数、ρは酸化物の密度、iは電流密度、tは電解時間である。
【0033】
数式1から理解できるように、生成する酸化物の厚さは電解時間に比例して直線的に成長する。しかし、生成する酸化膜の比(電気)抵抗は、常に厚さ方向に均一とは限らない。したがって、酸化膜の成長とともに皮膜両端にかかる電圧が、時間とともに直線的上昇するとは限らず、一般的には時間とともに傾斜が緩くなって、やがて飽和値に達するか、また絶縁破壊を起こして激しく変動する。この値がバルブメタルを陽極酸化するときの限界膜厚又は限界高電位と呼ばれる。この限界高電位は、金属の陽極酸化速度と陽極溶解速度とのバランスにより決定されるため、電解液の種類、濃度、温度、溶存酸素濃度(撹拌速度)、溶存金属イオン濃度などにより異なり、一般的には、設備的な面と生産コストなどを考慮に入れた上で、皮膜が形成できる必要な電位、例えば、硫酸では20Vの低電位、又は、例えば、シュウ酸では40Vの中電位で行う。
【0034】
陽極酸化法により形成した酸化皮膜には、構造的に見てバリヤー皮膜とポーラス皮膜がある。バリヤー皮膜とは酸化物皮膜が緻密で孔がなく、電流は高い電場のもとで、絶縁性の酸化物被膜の中を流れて厚く成長する。バリヤー型皮膜が生成する条件については、容積分率という概念がある。容積分率とは、酸化物の容積/金属の容積=容積分率という定義となっている。下地の金属が酸化物に変化するとき、もとの金属容積に比べて生成した酸化物の容積が小さくなる場合、すなわち容積分率<1の場合には、原理的に緻密な酸化物は得られず、陽極酸化により厚い酸化皮膜の成長が不可能である。一方、容積分率>1の場合には、生成した酸化物層は隙間無く下地金属を覆うので、バリヤー皮膜が生成する条件が成立する。多孔質皮膜はバリヤー皮膜の一種であり、ある極限条件のみで形成できる特有な酸化物構造体である。表1に一般的な金属の容積分率を示す。合金等も、これらの組み合わせから、バリヤー皮膜か、ポーラス皮膜か推測することができ、陽極酸化した金属の微細構造を制御する重要な因子となる。
【0035】
【表1】
【0036】
ポーラス皮膜は、最初にできたバリヤー皮膜が高電場による作用と、電解液の溶解作用を受けて局部的に孔を形成し、多孔質となったものである。したがって、このタイプの皮膜は、バリヤー型の部分とポーラス型の部分の二重構造を取るので、複合皮膜とも呼ばれている。例えば、図12(d)が典型的なポーラス型酸化皮膜の構造モデル図である。
【0037】
ここで、アルミニウムの多孔質酸化皮膜の成長を例に挙げて説明する。図13に定電位で陽極酸化を行ったときの電流(ia)の時間(ta)変化(a)および低電流で陽極酸化を行ったときの電圧(Ea)の時間(ta)変化(b)を示す。また、図14に過渡期A、B、C、Dにおける陽極酸化状態を示す。過渡期Aでは、酸化物の均一溶解を伴って、バリヤー型の皮膜の厚さが増大する。過渡期Bでは、皮膜の成長とともに酸化物の局所的な溶解が起こり、無数の微細孔が発生する。この現象は、皮膜厚さの増大により皮膜にかかるアノード電場が減少し、プロトンが皮膜表面に局所的に入り込むことが原因であると考えられている。過渡期Cでは、初期に発生した微細孔の一部のみが芽孔により成長し、大部分は成長を停止する。定常的には六角セル構造が完成し、多孔質アノード酸化皮膜が定常的な速度で成長する。
【0038】
陽極酸化の際、アノード電場は、細孔の底部に素地金属と接して存在する半円球状のバリアー層と呼ばれる薄い緻密な層にかかる。バリアー層にかかるアノード電場によって、Al3+イオンがバリアー層を横切って、素地金属から孔底に向かって移動する。また、O2−イオンは、孔底から素地金属に向かって移動する。バリアー層/素地金属界面に到達したO2−イオンは、Al3+イオンと反応して新しい酸化物を形成する。孔底に達したAl3+イオンは、そこで酸化物を形成せずに直接溶液中に移行する。これらの現象により、最初できた芽孔は深さ方向に進行し、柱状の多孔質ナノ構造体となる。Al3+イオン輸率(一般的には0.2〜0.4の範囲)は、電流密度およびアノード酸化温度が高い程、増大する。
【0039】
ここで、図15に電流密度と印加電位の関係を示す。一般的には、S字曲線を示し、低電流領域では“粉ふき現象”、高電流領域では“やけ現象”が起こり、皮膜の定常的な成長を阻害する。つまり、低電流領域(すなわち低電位領域)や高電流領域(すなわち高電位領域)では、これらの現象が生じて、皮膜の定常的な成長が阻害される虞があった。
【0040】
多孔質皮膜の細孔の数および半径は、陽極酸化条件により大きく変化する。ここで、陽極酸化電位に対して多孔質皮膜の細孔の数と半径をプロットした一例について図16に示す。アノード電位が高くなるに従い、細孔径は増加し(b)、細孔の数が減少する(a)ことが判る。したがって陽極酸化の電位−電流条件により、細孔数および細孔径を制御することが可能である。
【0041】
陽極酸化の場合、皮膜両端にかかる電場勾配に流れる電流は、指数関数的に増加する。このように高電場下における皮膜中の電導は、イオン電導が主体なので、ファラデーの法則に従い、電解電流に比例して酸化物の厚さは厚くなると同時に、皮膜の両端にかかる電圧は非常に高くなる。この電圧を支えきれなくなって、前記したように、ある値以上になると酸化皮膜は、高い電圧を支えきれなくなって絶縁破壊を起こす。この絶縁破壊が起こった時点で、酸化物の成長は止まり、皮膜成長の限界となる。
【0042】
従来の陽極酸化技術においては、基体の腐食を防ぐため、20〜40V程度の低電位から中電位領域で行うことが一般的であり、セル径が100nm以下であったが、本発明では、電解液の濃度と温度を制御することにより、限界高電位、即ち、皮膜の焼け電位または孔食電位に近い、安定に均一な陽極酸化皮膜を形成できる最大電圧で陽極酸化を行うことにより、細孔径を20〜300nm、多孔質酸化皮膜のセル径を130〜950nmに制御することを可能としている。
【0043】
図1における脱脂処理工程では、陽極酸化を行う際の障害となる虞がある無機物あるいは有機物(特に、人体から出る油脂等)を基体から洗浄・除去する。具体的には、無機物あるいは有機物を除去できるような洗浄剤、例えばアセトンや水酸化ナトリウム溶液を用いて多孔質基材を超音波洗浄し、無機物および有機物を洗浄・除去する。尚、基体が無機物および有機物により汚染されていない場合には、脱脂処理工程を省略することができる。
【0044】
陽極酸化工程で用いる電解液としては、酸性の溶液を用いればよいが、酸性度が高くなるにつれて、陽極酸化電圧を上げると基体の腐食が起こりやすくなってしまう、即ち、限界高電位が小さくなってしまうため、高電圧を印加することが困難になる。従って、限界高電位を大きくして、より高電圧を印加し、細孔径を20〜300nm、セル径を130〜950nmにするという観点から、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の弱酸を用いることが好ましい。酸の種類としては、例えば、強い酸であるリン酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、ふう酸、弱酸であるクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、琥珀酸、マライ酸、ホウ酸等を挙げることができるがこれらに限られるものではない。尚、硫酸やシュウ酸等の強酸を用いても、上記範囲の細孔径およびセル径となる多孔質酸化皮膜を形成することは可能ではあるが、この場合、陽極溶解が起こりやすいため、陽極酸化電圧を高くするためには、温度を低く、例えば、0℃近くまで冷却することが好ましい。
【0045】
一例として、リン酸を電解液とした場合について説明すると、電解液の濃度および温度については、濃度を10vol%、温度を5℃以下とすることが好ましいが、所望の陽極酸化電圧で発熱反応により酸化皮膜が腐食しない程度の濃度および温度にすればよく、これらの範囲に限られるものではない。
【0046】
次に、陽極酸化電圧は、低電圧にすればセル径が減少(細孔径も減少)し、高電圧にすればセル径は増加(細孔径も増加)する。即ち、陽極酸化電位を制御することにより所望のセル径および細孔径を有する多孔質酸化皮膜ナノ構造体を得ることができる。
【0047】
上記により得られた多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、そのまま用いてもよいが、細孔拡大処理を行ってから鋳型として供しても良い。即ち、10重量%以下の希薄酸性溶液もしくは希薄アルカリ性溶液中に浸漬して、その時間を制御することで、セル径に近い大きさまで細孔を拡大することが可能となる。つまり、浸漬時間を長くすることにより、細孔はより拡大し、最大でセル径に近い大きさまで拡大する。また、希薄酸性溶液もしくは希薄アルカリ性溶液の濃度を増加させること、これら溶液の温度を高くすることによっても細孔はより拡大し易くなる。
【0048】
ここで、陽極酸化により得られたポーラスアルミナ皮膜は、セルとセルの境界に向かうにしたがってアルミナの純度が高くなり、硫酸やシュウ酸などの強酸には溶解するが、弱酸や弱アルカリに溶解し難くなる。つまり、例えば10重量%以下のリン酸溶液を細孔拡大処理に用いれば、セルとセルの境界のみが溶解し難いので、細孔拡大処理の際に、浸漬時間が長すぎることにより細孔が消失するのを容易に防ぐことができる。
【0049】
上記のようにして得られた多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、細孔拡大処理により、あるいは細孔拡大処理せずに、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノロッド、ナノワイヤーを製造する鋳型として使用することができる。細孔径は本発明の制御範囲である5nm〜900nmにしておけばよい。ナノチューブを形成する鋳型として使用する場合には、20nm〜800nmが好ましく、望ましくは50nm〜600nm、更に望ましくは80nm〜500nmの直径のものが好適ではあるが、これら範囲に限定されるものではない。
【0050】
また、多孔質酸化皮膜の厚さは、特に限定されないが、高い比表面積を得るために、また、高アスペクト比の金属ナノ構造体を得るための鋳型とするために、300nm以上のものが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましく、2μm〜20μmであることがさらに好ましい。
【0051】
次に、本発明の多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型とした無電解めっき法による金属ナノ構造体の製造方法について説明する。
【0052】
無電解めっき法は、基本的には4つの前処理工程、即ち、脱脂処理工程、酸性化処理工程、感受性化処理工程および活性化処理工程と、目的の金属をコーティングする無電解めっき処理工程よりなる。しかしながら、上述の陽極酸化法により得られた鋳型は脱脂処理する必要は無く、しかも表面は酸性となっているので酸性化処理する必要が無い。また、細孔拡大処理した場合も、希薄酸溶液を用いれば酸性化処理をする必要はない。ただし、希薄アルカリ溶液処理した場合には中和処理もしくは酸性化処理が必要である。
【0053】
希薄アルカリ溶液処理により細孔拡大処理をした場合の中和処理もしくは酸性化処理は、具体的には、例えば濃度を5〜10重量%としたリン酸水溶液を用いて、5分間以下浸漬することにより行う。浸漬処理の際には、浸漬後に1分程度超音波処理を行った後に3〜4分間放置するのがより好ましい。超音波をかけながら浸漬処理することで、鋳型の細孔内に残存したアルカリ溶液等が除去されやすくなり、表面が効率的に酸性化する。尚、リン酸溶液の濃度を5重量%以下とした場合には、以下のような問題が生じる虞があるので好ましくない。
【0054】
まず、細孔拡大処理で用いた水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液が鋳型の細孔内に残存している場合、アルカリ溶液が十分に中和されないため、感受性化処理工程時に酸性である主塩と中和反応を起こしたり、沈殿を起こしたりしてしまう。ここでは、主塩として塩化スズを用いた場合について説明するが、これ以外の主塩を用いた場合にも同様の問題が生じる虞がある。
(中性処理又は酸性化処理)
(化学式4)
OH− + H+ = H2O
(感受性化処理)
(化学式5)
Sn2+ + 2OH− =Sn(OH)2↓
したがって、鋳型の感受性化処理に必要なSn2+が得られないため、感受性化処理液が無効になり、次工程の活性化処理ができなくなるという虞がある。
【0055】
また、鋳型の酸性度が十分に高まらないため、感受性化処理の際、Sn2+が水と反応し、水酸化スズ沈殿物が生成される。
(化学式6)
Sn2++2H2O = Sn(OH)2↓+2H+
この結果、塩化スズ溶液が白濁し、感受性化処理能力を失ってしまう虞がある。
【0056】
次に、リン酸水溶液の濃度が10重量%を超える場合には、アルミナ皮膜の細孔サイズを大幅に変化し、ナノポーラス構造を壊す虞があり好ましくない。以上より、リン酸水溶液の濃度は5〜10重量%とするのが好適である。
【0057】
また、酸性化処理工程に用いる溶液はリン酸水溶液に限られず、例えば、低濃度硫酸やクロム酸又はクロム酸を含む混酸液を、鋳型表面を酸性に変える程度、細孔拡大処理工程時にアルカリ溶液を用いた場合にはそのアルカリ溶液が十分に中和される程度の濃度にして使用することで、リン酸水溶液を用いた場合と同様の効果を発揮する。
【0058】
ここで、酸性化処理及び以降の処理において、超音波洗浄を長時間、高パワーで行うと、鋳型のナノポーラス構造が破壊される虞がある。したがって、超音波洗浄時間はナノポーラス構造が破壊されない程度の時間、例えば1分以内とすることが好ましい。また、超音波の周波数は、小強度(100kHz以上)程度より大きい低パワーで行うことが好ましい。
【0059】
多孔質酸化皮膜ナノ構造体鋳型は、図2に示す一連の処理、即ち、触媒性処理を行う。触媒性処理は、(a)感受性化処理、(b)希薄酸浸漬処理、(c)活性化処理及び(d)希薄酸浸漬処理(2回目)からなり、これら一連の処理により、鋳型の細孔開口部(凸部)から細孔底部にかけて触媒勾配を付与することにより、例えば、鋳型の細孔開口部(凸部)から細孔底部に向かうにつれて触媒勾配が大きくなるようにすることで、無電解めっき時にめっきすべき金属を細孔底部まで被覆するようにする。
【0060】
感受性化処理工程は、次工程の活性化処理に対する感受性を付与する工程であり、鋳型に直接成膜することが極めて困難なパラジウム等の貴な金属を成膜可能なものとするための工程である。ここでは、主塩として塩化スズを用いた場合について説明する。反応浴、即ち、感受性化処理液には、パラジウム等の貴金属よりも酸化還元電位の小さいスズを含む塩化スズと塩酸を混合して用い、その溶液のpHが1以下になるようにする。溶液のpHが1を超える場合には、溶液中の+2価のスズイオンを安定化させることができないので好ましくない。また、塩化スズと塩酸の混合比については、例えば、塩化スズ溶液濃度を10〜60g/L、塩酸(36重量%)と純水により塩酸溶液濃度を10〜50mL/Lとして、塩化スズ1gに対して塩酸(36重量%)を1〜4mlの割合とすればよいが、これに限られるものではなく、溶液のpHを1以下にして、+2価のスズイオンを安定化させることが重要である。尚、感受性化処理温度は、10℃〜40℃とすればよいが、20℃〜30℃とすることが好ましい。10℃未満では鋳型との濡れ性が低く、スズイオンの均一吸着が難しくなってしまい、また、40℃を超えると感受性化処理液と酸素との反応速度が極めて速くなってしまい、液の使用寿命が短くなるので好ましくない。
【0061】
上記の感受性化処理液に超音波をかけながら、酸性化処理を施した鋳型を浸漬して感受性化処理を行う(以後、これを超音波感受性化処理と呼ぶ)。これにより、感受性化処理液を細孔内部に進入させ、鋳型の最表面(凸部)だけでなく、開口部から細孔底部までの領域にも、Sn2+が均一に吸着される。尚、浸漬処理の際には、超音波をかけ続ける必要はなく、少なくとも細孔内部まで感受性化処理液が行き渡れば、その後は超音波をかける必要はない。超音波をかける時間が長すぎる場合には、Sn2+の吸着に悪影響を及ぼし、Sn2+が均一に吸着されなくなるので好ましくない。つまり、超音波をかける時間は、Sn2+の吸着に悪影響を及ぼさない範囲で、少なくとも細孔内部まで感受性化処理液が行き渡る程度に行えばよい。例えば、浸漬後に1分程度超音波処理を行った後に5分間放置することで、十分に感受性化する。また、超音波は浸漬初期のみかけ続けるようにしてもよいし、間欠的に超音波をかけて細孔内部まで感受性化処理液を行き渡るようにしてもよい。また、Sn2+の吸着に悪影響を及ぼさなければ、浸漬中に超音波をかけ続けても良い。
【0062】
次に、Sn2+が吸着された鋳型を希薄酸溶液、例えば、1重量%塩酸溶液中に数秒〜1分間浸漬する(以後、これを希薄酸浸漬処理と呼ぶ)。この処理により、鋳型に吸着されたSn2+の吸着量に勾配を与える。より詳細に説明すると以下のようになる。鋳型を希塩酸溶液中に浸漬した場合、Sn2+の吸着量は最表面(凸部)、開口部、細孔底部の順、即ち、最表面(凸部)に近づくに従って減少し易くなる。したがって、多孔質基材を希薄酸中に浸漬することにより、細孔底部、開口部、最表面(凸部)の順、即ち、細孔底部に近づくに従って感受性が高い状態となる。次工程の活性化処理においては、パラジウムイオンは感受性の高い領域で反応し易いので、イオン輸送しやすい最表面(凸部)よりも多くの触媒核を細孔底部に形成できるようになる。つまり、希薄酸浸漬処理をおこなうことで、次工程の活性化処理において、細孔底部、開口部、最表面(凸部)の順、即ち、細孔底部に近づくに従って、触媒活性が高い状態となる。最終的に鋳型にパラジウムなどの金属がコーティングされる際、パラジウムめっき反応は触媒活性の高い領域で反応し易くなり、細孔底部に近づくに従ってイオン輸送が遅くなるにも関わらず、鋳型の全面に均一にコーティングされることになる。
【0063】
尚、希薄酸溶液中への浸漬時間については数秒〜3分間としているが、この範囲に限られるものではなく、最適な浸漬時間は鋳型のアスペクト比により適宜変動する。即ち、アスペクト比が小さければ、細孔底部に存在するSn2+の吸着量が減少しやすいので浸漬時間を短くする必要があるし、アスペクト比が大きければ、細孔底部に存在するSn2+の吸着量が減少しにくいので浸漬時間をある程度長くしても問題はない。また、希薄酸以外に純水(蒸留水、イオン交換水)等を用いた場合には、ナノ細孔中のpH値が大きく変化して、吸着されたスズイオンが沈殿等を生じる虞があり、以降の活性化処理ができなかったり、不均一になったりする虞がある。しかし、不均一に活性化処理された場合には触媒活性勾配が不均一になり、その後の無電解めっき処理においても不均一な状態で金属がコーティングされ、金属膜厚が不均一な金属ナノ構造体を形成することが可能である。
【0064】
また、上記の感受性化処理工程(超音波感受性付与処理工程、希塩酸浸漬処理工程)では、主塩として塩化スズを用いた場合について説明したが、スズ以外にもめっきに対する活性化核としての金属より酸化還元電位が小さく、鋳型に担持され得る金属を含むものであれば適用可能であり、例えば亜鉛(Zn)等を採用できるが、これらに限られるものではない。さらに、塩化物ではなく、硫酸化物や硝酸化物等であっても適用可能である。
【0065】
活性化処理工程では、めっきしようとする金属に対するめっき反応を引き起こす触媒性を有する金属核を形成する。ここでは、パラジウムを触媒核として形成する場合の活性化処理工程について説明する。反応浴、即ち、活性化処理液として、0.5〜2.0g/Lの濃度の塩化パラジウム水溶液と濃塩酸(36重量%)を10〜50mL/Lとした塩酸溶液を混合して用いる。ここで、塩化パラジウムと濃塩酸の混合比は1g:2〜100mLとする。塩化パラジウム溶液の濃度が0.5g/Lより小さい場合、形成されるパラジウム触媒核が少ないため、次工程において、無電解めっき反応が起きない又は不均一になる。また、塩酸溶液の濃度に関しては、10mL/Lより小さい場合は塩化パラジウムが溶けにくく、50mL/Lより大きくなると設備の耐食性などに問題があるため好ましくない。また、塩化パラジウム溶液の濃度が2.0g/Lより大きい場合、パラジウム触媒核が過剰に形成されてしまい、連続めっき膜になってしまうかもしくはめっき液を安定化させることができないので好ましくない。上記活性化処理液に前工程の感受性付与処理により細孔底部に近づくに従って感受性が高い状態とした鋳型を超音波をかけながら浸漬する。温度に関しては、10℃〜40℃とすればよいが、20℃〜30℃とすることが好ましい。10℃未満では反応速度が非常に遅くなってしまい、また、40℃を超えると反応速度が速くなってしまい、特に最表面(凸部)や開口部付近の反応速度(イオン輸送速度)が極めて速くなってしまい、感受性化処理工程により形成した感受性勾配の効果が減少してしまう虞があるので好ましくない。浸漬時間に関しては、2〜20分間で行いばよいが、3〜10分間とすることが好ましい。尚、鋳型が高アスペクト比の場合、細孔の底部まで充分に触媒核を乗せるために、長い浸漬することが好ましい。また、この場合にも、浸漬処理の際には、超音波をかけ続ける必要はなく、少なくとも細孔内部まで活性化処理液が行き渡れば、その後は超音波をかける必要はない。超音波をかける時間が長すぎる場合には、パラジウム触媒核の吸着に悪影響を及ぼし、パラジウム触媒核が均一に吸着されなくなるので好ましくない。つまり、超音波をかける時間は、パラジウム触媒核の吸着に悪影響を及ぼさない範囲で、少なくとも細孔内部まで活性化処理液が行き渡る程度に行えばよい。例えば、浸漬後に1分程度超音波処理を行った後に残りの時間は放置することで、十分に活性化する。また、超音波は浸漬初期のみかけ続けるようにしてもよいし、間欠的に超音波をかけて細孔内部まで活性化処理液を行き渡るようにしてもよい。また、パラジウム触媒核の吸着に悪影響を及ぼさなければ、浸漬中に超音波をかけ続けても良い。この活性化処理により、吸着している+2価のスズイオンを+4価に酸化させ、このとき、パラジウムイオンが金属コロイドに変化し、鋳型表面の+4価のスズイオンが、コロイド状のパラジウム金属の回りを囲むように移動する。ここで、金属核を露出するために、1重量%塩酸溶液等の希薄酸溶液中で30秒〜5分間洗浄して、コロイド状のパラジウム金属の回りの塩化スズを洗い流すようにする。希薄酸溶液で処理することにより、コロイド状のパラジウム金属の回りの塩化スズを洗い流すことにより、次工程の無電解めっき時に用いるめっき浴の劣化が防止される。尚、スズ吸着量の濃度勾配は、Pdコロイドの濃度勾配に反映される。即ち、鋳型の細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態となる。さらに、当該希薄酸浸漬処理により、最表面(凸部)や開口部付近のPdコロイドが減少して、鋳型の細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態がより顕著となる。
【0066】
ここで、感受性化処理、希薄酸浸漬処理および活性化処理工程は、通常1サイクル行えば、細孔底部から開口部までの領域にPdコロイドの触媒核が形成され、且つ細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態となる。しかし、アスペクト比が大きく、細孔底部から開口部までの領域にPdコロイドの触媒核が形成されない虞がある場合又は細孔底部側の触媒活性をより高めたい場合には、2サイクル以上行うことでより確実に細孔底部から開口部までの領域にPdコロイドの触媒核が形成され、且つ細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態とすることが可能である。尚、これら一連の処理により、細孔底部側の触媒活性をそれほど高めない状態にすることで、即ち、無電解めっき時に細孔底部までめっきされないような触媒活性勾配をもたせることで、両端が閉塞されていないようなナノチューブを形成することも可能であるし、また、金属ナノ構造体のアスペクト比も触媒活性勾配により制御可能である。
【0067】
尚、活性化処理工程で用いられる金属は、パラジウムには限られず、感受性化処理に用いた金属よりも酸化還元電位が高い金属であれば適用可能であり、例えば銀、銅、ニッケルなども採用することができるが、これらに限られるものではない。また、塩化物以外にも、硫酸化物や硝酸化物等を適用することが可能である。
【0068】
無電解めっき処理工程では、前処理工程により触媒性表面を有するようになった鋳型に無電解めっき反応により目的の金属をコーティングする。ここではパラジウムをコーティングする場合について説明する。めっき浴として安定な金属塩素錯化イオンを得るために、主塩として塩化パラジウム溶液を用い、その濃度を3〜10g/Lとすればよく、5g/Lとすることがより好ましい。主還元剤としては、環境に優しく且つ安価な次亜リン酸ナトリウム溶液を3〜15g/Lの濃度で用いればよく、10g/Lとすることがより好ましい。塩化パラジウム溶液と次亜リン酸ナトリウム溶液の濃度がそれぞれ上記範囲より大きくなると、反応速度が速くなる、即ち、パラジウムの析出速度が速くなりすぎて鋳型の最表面のみにパラジウムイオンがコーティングされ、鋳型のナノ構造全体にパラジウムがコーティングされなくなる虞がある。また、濃度がそれぞれ上記範囲より小さくなると反応速度が遅くなり、パラジウムの析出速度が遅くなりすぎて、細孔内部に均一コーティングができなくなってしまう。次に、次亜リン酸ナトリウムと塩化パラジウムとの濃度比については、1.2〜1.8のモル比が好適で、それより小さい場合には、還元力が不十分で、パラジウムを全部析出できない虞がある。一方、それより大きい場合、めっき液が不安定になり、自発反応が起きやすく、鋳型にめっきすることができなくなる虞がある。
【0069】
上記めっき浴を攪拌しながら前処理工程により触媒性表面を有するようになった鋳型を浸漬する。液温は25〜60℃で行えばよく、40℃程度とすることがより好ましい。25℃未満では反応速度が非常に遅くなってしまい、また、60℃を超えるとめっき溶液の自発反応が生じ、鋳型へのめっきができなくなる虞がある。
【0070】
ここで、めっきされた金属の粒径は、前処理工程、めっき液濃度、温度、基体種類などの影響も大きいが、反応時間により簡易に制御することができる。即ち、反応時間を長くすれば金属粒径は大きくなり、反応時間を短くすれば金属の粒径は小さくなる。例えば、上記パラジウムめっき条件であれば30秒で50nm程度、2分間で200nm程度になる。勿論、反応時間以外の条件を変えることにより粒径の大きさを制御することも可能である。
【0071】
また、めっき浴のpHは6〜9とすればよいが、8程度(すなわち中性に近い)とすることがより好ましい。その範囲を超えると、錯化イオンの安定性とめっき酸化還元反応バランスが崩れ、また、鋳型であるナノポーラス膜の溶解が起ってしまい、細孔壁にめっきできなくなる虞があるため好ましくない。
【0072】
尚、ここでは主塩として塩化パラジウムを用いた場合について説明したが、無電解めっきできる金属であればパラジウム以外、被覆しようとする金属、例えば、白金、ニッケル等にも適用することが可能である。また、塩化物ではなく、硫酸化物や硝酸化物等であっても適用可能である。
【0073】
また、還元剤には、次亜リン酸ナトリウム溶液を用いたが、例えば、これ以外にも水酸化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等を主還元剤として、採用することができるが、これらに限られるものではない。尚、次亜リン酸ナトリウムと水酸化ホウ素ナトリウムを用いた場合には、めっきされる金属中にリンまたはホウ素を固溶するようになる。リンまたはホウ素を固溶すると、耐食性が向上し、結晶サイズが小さくなる傾向を導くため好ましい。
【0074】
さらに、めっきする金属イオンを安定にして、析出を穏やかに進行させ、均一なめっき層を得るために、錯化剤を添加してもよい。錯化剤としては、例えばエチレンジアミン、有機酸(酢酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸等)のアルカリ塩、チオグリコール酸、アンモニア、ヒドラジン、トリエタノールアミン、グリシン、o−アミノフェノール、ピリジン等を採用できるが、これに限られるものではない。尚、エチレンジアミンを用いる場合には錯化剤としての効果を効率よく得るために5〜20mL/L程度とすればよいが、10mL/L程度とすることがより好ましい。
【0075】
また、金属膜の表面は平滑ではなく、粒状もしくは針状として粗にすることが重要である。したがって、表面活性剤と平滑化剤は、微量(50ppm)以下にするのが好ましい。これを超える量を添加すると、めっき層と基材と間の密着性は改善されるものの、平滑なめっき膜になってしまい、目的の金属粒子や針状金属が得られない。また、鋳型を被覆する能力を低下させる虞がある。しかしながら、平滑なめっき膜を得たい場合には、平滑剤を50ppmよりも多く添加することを否定するものではなく、被覆能力が大幅に低下しない範囲で添加しても良い。尚、平滑化剤としては、例えばチオ二酢酸等を用いることができる。
【0076】
pHが安定化するように、緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤としては、例えば、酢酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等のオキシカルボン酸系のもの、ホウ酸や炭酸等の無機酸でいずれも解離定数の小さいもの、有機酸や無機酸のアルカリ塩等を採用することができるがこれらに限られるものではない。尚、酢酸ナトリウムを用いる際には緩衝剤としての効果を効率よく発揮するため、8〜32g/L程度とすればよく、16g/L程度とすることがより好ましい。また、副還元剤及び緩衝剤としてヒドラジンを用いることもできるが、ヒドラジンは、環境に悪影響を与えるので、好ましくない。
【0077】
また、pHを所望の値に調整するためにpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、例えば、酢酸ナトリウムや水酸化アンモニウム等の塩基性化合物、無機酸、有機酸等を採用することができるがこれらに限られるものではない。
【0078】
ここで、無電解めっき法の工程における攪拌の効果について説明する。無電解めっき工程では、めっき金属の結晶を数多くめっき対象物にめっきする核形成と核の結晶成長を促す結晶成長の反応が起こっている。そのため、めっき浴を撹拌することにより、金属や還元剤などのイオン輸送率が高くなり、通常めっき金属の結晶の核形成と結晶成長の両方を促進することになる。特に、ナノ細孔有する鋳型に対しては、細孔内のイオン輸送率を高めることが重要である。一方、撹拌しない場合、あるいは攪拌が弱い場合、イオン輸送率が低いため、ナノ細孔の毛管効果のみでは大きいアスペクト比のナノ構造体の作製が困難である。また、核形成と結晶成長のうち必要なエネルギーの小さい反応が優先的に(支配的に)起こりやすくなり、大きい粒子になったり、針状析出物質になったり、細孔をふさいでしまったりする。したがって、これらの現象を利用して、例えば、撹拌を弱くしてナノ細孔の底部にコーティングされないようにし、細孔底部側の金属ナノ構造体が閉塞していないようなものを形成したり、金属ナノ構造体のアスペクト比を撹拌強度により制御するといったことも可能である。また、この現象を利用して金属ナノ複合体を形成することも可能である。例えば、撹拌強さを弱くすれば、細孔底部と最表面のイオン輸送速度に差が生じる、即ち、細孔底部に向かうに従ってイオン輸送速度が低下し、細孔の上部と下部でナノ構造体の状態が異なるようになる。例えば、細孔下部がナノ粒子で細孔上部がナノポーラス膜である複合体の形成が可能である。
【0079】
撹拌強度については、撹拌装置による撹拌子の回転数の制御、撹拌子の大きさ、溶液量により調整することができる。例えば、撹拌子の回転数を高く、撹拌子を大きく、溶液量を少なくすれば、撹拌強度を強くすることができる。逆に、撹拌子の回転数を低く、撹拌子を小さく、溶液量を多くすることで、撹拌強度は小さくなる。例えば、本発明においては、溶液が泡立つ程度の撹拌強さを強い撹拌とした。
【0080】
次に、図3に示すナノ構造体A〜Eを用いて金属ナノ構造体を製造するフローの一例について説明する。ナノ構造体Aは陽極酸化直後の多孔質酸化皮膜ナノ構造体である。ナノ構造体Aは細孔拡大処理により細孔をそのセル径近くまで拡大した多孔質酸化皮膜ナノ構造体となる(ナノ構造体B)。次に、ナノ構造体Bを鋳型として触媒活性勾配を与えることにより、無電解めっき処理によりナノ構造体Bの最表面から細孔底部に至る領域まで金属ナノ粒子が均一に分散する(ナノ構造体C)。さらに無電解めっき処理を続けることによりナノ構造体Bの最表面から細孔底部に至る領域まで金属ナノ粒子が連続膜として均一にコーティングされ、ナノポーラス膜となる(ナノ構造体D)。そして、ナノ構造体Dから最表面(凸部)に存在する金属を化学的(溶液処理)或いは物理的(研磨等)に除去し、さらに鋳型を部分的に除去してナノチューブが得られる(ナノ構造体E)。鋳型の除去は酸性溶液或いはアルカリ性溶液により行うことができる。
【0081】
例えば、本実施形態では、最表面(凸部)に存在する金属を除去するために、1μmのアルミナ研磨紙により機械研磨し、15vol%KOH溶液で25℃、5〜10分間、もしくは5vol%リン酸+3vol%CrO3溶液で75℃、1〜10分間浸漬して鋳型のアルミナのみを選択的に除去したが、これらに限られるものではない。
【0082】
ここで、図3のナノ構造体Eにおいては、その下部領域において多孔質酸化皮膜の鋳型により支持されている状態であるが、さらに鋳型を除去すれば、ナノ構造体Eを鋳型から取り出すことも可能である。また、最表面(凸部)に存在する金属を除去せずに、ナノ構造体が形成された金属膜として、例えば高性能触媒等として用いることも可能である。
【0083】
尚、無電解めっき処理時間を制御することにより、金属ナノ構造体をナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはそれらの複合体とすることが可能である。例えば、無電解めっき処理時間を短くすれば、ナノ細孔内には粒子がまばらに付着したような構造になり、無電解めっき処理時間を長くするにつれて、ナノ細孔内に金属粒子が充填されていき、最終的にはナノロッドやナノワイヤーとなる。
【0084】
このようにして得られた金属ナノ構造体であるナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーは、電子デバイスやマイクロデバイス、量子効果デバイスや発光デバイス、高機能性触媒、分子分別素子や分子認識素子、電気化学センサー、バイオセンサー等として利用可能である。
【0085】
また、本発明により得られる金属ナノ構造体は、電極として非常に好適な材料であり、硫酸電解法による水素製造用電気化学セルの電極や硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セル用電極に供することができる。
【0086】
ここで、硫黄サイクルハイブリッド法の温度と各反応工程を図26に示す。硫黄サイクルハイブリッド法は、熱分解工程(熱化学法)と電気分解工程(電気分解法)で構成されている。熱分解工程では、電気分解により得られた硫酸(H2SO4)が80℃を越える温度で蒸発し始める。
H2SO4 (液相) → H2SO4 (気相) (熱分解工程1)
【0087】
次に、500℃付近で、硫酸は三酸化硫黄(SO3)と水(H2O)に分解する。
H2SO4(気相) → SO3(気相)+H2O(気相) (熱分解工程2)
【0088】
さらに、三酸化硫黄は850℃付近で、二酸化硫黄(SO2)と酸素(O2)に分解する。
SO3(気相) → SO2(気相) + 1/2 O2(気相) (熱分解工程3)
【0089】
次に、このSO2とO2の混合ガスからSO2を分離し、もう一度電気分解槽に送り込むと水との平衡反応により亜硫酸(H2SO3)が生成する。
SO2(気相) + H2O(液相) → H2SO3(液相) (亜硫酸再生工程)
【0090】
電気分解では、カソード(陰極)側で水素イオンが還元され、水素ガスを生成する。
アノード(陽極)側で亜硫酸(SO2ガス)が酸化され、副生成物として硫酸ができる。
電気分解工程:カソード(陰極)反応:2H+ +2e → H2(気相)
アノード(陽極)反応:SO2 + 2H2O → 2H++ H2SO4+2e
Total反応: SO2 + 2H2O → H2 + H2SO4
【0091】
硫酸は熱分解工程により再び分解され、上記サイクルの中で繰り返し使用される。電極は、電気分解で副生成物として得られた硫酸に曝されることになるため、高い耐硫酸特性が不可欠となる。また、電流の増加とともに得られる水素量も増加するので、ジュール熱による効率低下を防ぐため、高い電子導電性を有することが重要である。
【0092】
本発明の金属ナノ構造体は、金属がナノメートルレベルの大きさの粒子状もしくは針状であり、表面が粗な状態であるから、表面積が非常に大きい。したがって、反応ガスと金属の接触面積の向上により反応場が増大し、電極及び触媒特性が向上する。さらには、高コストな金属であっても少量でナノ構造体を形成できるので、低コスト化も可能となる。この点からも、非常に優れた電極を提供でき、特に、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用の電気化学セルの陽極電極として非常に好適な電極を提供できる。また、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属或いは2種以上を含む合金で形成された金属ナノ構造体は水素に対しても高い触媒能を持ち、且つ高い表面積であるため、水素析出に対する陰極過電位も低くなり、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用水素製造用の電気化学セルの陰極電極としても非常に好適な電極を提供できる。
【0093】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本発明の多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型として用いる以外にも、他の方法で得られたナノ細孔を有する鋳型、例えば、フォトリソグラフィー等によりパターンを形成した基板を化学エッチングや電解エッチングにより微細加工したナノ細孔を有する鋳型を用いてもよい。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜発明の範囲内で変更できるものである。
【0095】
(実施例1)
リン酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは高純度アルミニウム板(和光、アルミニウムー板状、99.99%)を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を陽極酸化に供した。アルミニウムの陽極酸化は、5℃の10vol%のリン酸溶液中に160Vで1時間、定電位電解により行った。次に、5vol%、30℃のリン酸溶液中に50分間浸漬してアルミナ陽極酸化皮膜の細孔拡大を行った。この試料をFE−SEM(日本電子、JSM−6340F)により観察した結果を図4(b)に示す。細孔径約300nm、セルサイズ(細孔間距離)約400nmで、基板とほぼ垂直に並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体が形成されていることが確認された。
【0096】
(実施例2)
実施例1で作製した多孔質アルミナナノ構造体を2価のスズイオンを含む酸溶液(塩化スズ20g/L、濃塩酸(36重量%)20mL/L)中に25℃で超音波をかけながら10秒間浸漬した後、さらに5分間、超音波をかけずに浸漬した(感受性化処理)。次に、1重量%の希薄塩酸溶液中に10秒間浸漬した。続いて、パラジウムを含む酸溶液(塩化パラジウム0.5g/L、濃塩酸(36重量%)10mL/L)中に25℃で超音波をかけながら5秒間浸漬した後、さらに10分間、超音波をかけずに浸漬して、再び1重量%の希薄塩酸溶液中に10秒間浸漬した(活性化処理)。これら一連の処理により、触媒核(パラジウム金属コロイド)の量をアルミナ細孔開口部に比べて細孔内(底)部の方が多くなるようにした。
【0097】
続いて、パラジウムめっき浴で無電解めっきを行い、パラジウム金属をアルミナ細孔の壁に析出させた。めっき浴には、主塩として塩化パラジウム5g/L、還元剤として次亜りん酸ナトリウム10g/L、錯化剤としてエチレンジアミン10mL/L、添加剤(平滑化剤、密着性改善剤)としてチオ二酢酸を30ppm、pH調整剤およびpH緩衝剤として酢酸ナトリウムを10g/L用い、温度40℃で撹拌(中程度)しながら30秒間浸漬した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図5に示す。アルミナ皮膜の最表面(凸部)と細孔内部でイオン輸送速度に差がある(最表面(凸部)の方がイオン輸送速度が速い)にも関わらず、アルミナ皮膜の最表面(凸部)に比べて細孔内部に触媒核をより多く担持させているため、パラジウムめっきはアルミナ皮膜の最表面と細孔内部にほぼ同一な速度で進行し、多孔質アルミナナノ構造体の形状を反映した、表面開放口を有する貫通型のナノポーラス構造体(外径約300nm、内径約220nm、長さ約3.0μm、アスペクト比約7)ができていることが確認された(図5(c)参照)。したがって、めっき時間を短くすることで、細孔底部までめっきされなくなり、その両端が開口している貫通型のナノチューブ配列構造体を作製できることが確認された。また、チューブ下部に5〜80nm径のナノ粒子が分散していることが確認された(図5(d)参照))。つまり、本実施例で得られたナノ構造体はナノチューブとナノ粒子の複合体であることが確認された。尚、図5(b)の矢印に示されるように、表面のPd層は連結しており、表面にアルミナ壁が露出していないことが確認された。したがって、本実施例で得られたナノチューブ配列構造体を電極材料として利用できることが明らかとなった。
【0098】
(実施例3)
実施例1で作製した多孔質アルミナナノ構造体を用い、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を1分間で行うことにより、アルミナ細孔内部とアルミナ皮膜の最表面の触媒活性勾配をさらに大きくして、アルミナ細孔内部の触媒活性を更に高い状態とした。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、実施例2よりも低い温度(35℃)、強い撹拌で2分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図6に示す。パラジウムがアルミナ細孔中に開口部から底部まで全体的に均一に析出し、一端が閉塞した高いアスペクト比(約13)を有する片閉鎖型パラジウムナノチューブ(外径300nm、内径約50nm、長さ5μm)の配列構造体が形成されることが確認された。
【0099】
(実施例4)
実施例1で作製した多孔質アルミナナノ構造体を用い、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を1分間で行うことにより、アルミナ細孔内部とアルミナ皮膜の最表面の触媒活性勾配をさらに大きくして、アルミナ細孔内部の触媒活性を更に高い状態とした。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、実施例3よりも更に低い温度(30℃)、弱い撹拌で5分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図7に示す。アルミナ皮膜の細孔の開口部と内部のイオン輸送率の差によって、皮膜の上部にはパラジウム粒子が集合して連続なナノポーラス膜が形成され、多孔質アルミナナノ構造体の皮膜下部にはナノ粒子が分散した状態となり、複合ナノ構造体をできることが確認された。
【0100】
以上、実施例2〜4の結果から、感受性化処理〜活性化処理までのサイクル数の増減によりアルミナ細孔内部とアルミナ皮膜の最表面の触媒活性勾配を制御すること、温度と撹拌強度を制御してアルミナ皮膜の細孔の開口部と内部のイオン輸送率の差を制御することにより、パラジウムナノ構造体の構造制御を行うことが可能であることが明らかとなった。
【0101】
(実施例5)
実施例3で作製したパラジウムナノチューブ配列構造体をEDS(日本電子、JXA−8900R)により分析した結果を図8に示す。2keV付近にリン原子のKαピークが検出されたことから、無電解めっきにより形成したパラジウムは、リン元素を取り込んでいることが確認された。すなわち、作製したパラジウムナノチューブ配列構造体は、純パラジウムではなく、Pd−P合金であることが明らかになった。更に、EPMA定量分析(日本電子、JXA−8900R)をおこなった結果、リンは無電解めっきPd−P合金の中におよそ7〜12原子%を占めることがわかった。
【0102】
(実施例6)
実施例3で作製したパラジウムナノチューブ配列構造体をXRD(日本電子、JDX8030)により分析した結果を図9(a)に示す。尚、図9(b)はガラス上に形成した粉末状パラジウムのXRD分析結果である。これらの結果から、パラジウムナノチューブが多結晶構造であり、ピークの積分強度から見ると、ガラス上に形成した粉末状パラジウムと比べ、「111」結晶面に優先的に配向する傾向があることが確認された。また、パラジウムとリンの化合物ピークが検出されなかったため、リンは固溶状態としてPd−P合金に存在していることが示唆された。
【0103】
(実施例7)
クエン酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、20℃、4vol%のクエン酸溶液中で、370V、1時間定電位電解することにより陽極酸化した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図10に示す。細孔径約200nm、セルサイズ(細孔間距離)約950nmで、基板とほぼ垂直して並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体が形成されることが確認された。
【0104】
(実施例8)
硫酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、−0.1℃、10vol%の硫酸溶液中で70V、1時間定電位電解することにより陽極酸化した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図11に示す。細孔径約40nm、セルサイズ(細孔間距離)約130nm、垂直方向と平面方向の両方とも規則的並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体が形成されることが確認された。
【0105】
(実施例9)
シュウ酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、20℃の2重量%のシュウ酸溶液中に80Vで20分間、定電位電解して陽極酸化を行った。次に、5vol%、30℃のリン酸溶液中に20分間浸漬してアルミナ陽極酸化皮膜の細孔拡大を行った。この試料をFE−SEM(により観察した結果を図4(a)に示す。、細孔径約80〜100nm、セルサイズ(細孔間距離)約200nm、膜厚さが15μm、垂直方向と平面方向の両方とも規則的並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体を形成した。
【0106】
続いて、この多孔質アルミナナノ構造体を鋳型として、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を3サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2、3サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、50℃、強い撹拌で15秒間または3分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図17に示す。図17(a)は無電解めっき時間が15秒間、(b)は3分間である。図17に示すように、シュウ酸溶液により陽極酸化を行った多孔質アルミナナノ構造体を鋳型とした場合には、細孔拡大処理しても、細孔径が100nm程度と小さいため、細孔内部までめっき液が循環しにくく、Pdイオンなどの補給が不足して、Pdがアルミナ皮膜の最表面(凸部)に優先的に析出することがわかった。
【0107】
(実施例10)
クエン酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、20℃の2重量%のクエン酸溶液中に300Vで1.5時間、定電位電解して陽極酸化を行った。次に、70℃の5容積%リン酸+3重量%のクロム酸の混合酸溶液中に25分間浸漬してアルミナ陽極酸化皮膜の細孔拡大を行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図4(c)(d)に示す。、細孔径約600nm、セルサイズ(細孔間距離)約700nm、垂直方向と平面方向の両方とも規則的並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体を形成した。
【0108】
続いて、この多孔質アルミナナノ構造体を鋳型として、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、50℃、強い撹拌で6分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図18に示す。図18に示すように、クエン酸溶液により陽極酸化を行った多孔質アルミナナノ構造体を細孔拡大処理して鋳型とした場合には、その細孔径が600nm程度と大きいため、細孔内部へのめっき液の循環とイオン補給が容易となり、細孔内部とアルミナ皮膜の最表面(凸部)での析出速度の差が小さくなり、均一なめっき膜が得られることが確認された。また、めっき時間が6分間と比較的長いにも関わらず、表面細孔を封鎖することなく、約6μm程度の貫通型ナノチューブを形成可能であることが確認された。
【0109】
(実施例11)
実施例9と同様の方法でシュウ酸中で陽極酸化して得られたアルミナ皮膜を、細孔拡大処理20分間した後に鋳型として用い、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。続いて、白金めっき浴で無電解めっきを行い、白金をアルミナ細孔の壁に析出させた。めっき浴には、主塩として塩化白金酸カリウムを0.01mol/L、還元剤として次亜りん酸ナトリウム0.2mol/L、副還元剤としてヒドラジン50ml/L、錯化剤として塩酸ヒドロキシルアミン50mL/L、pH調整剤およびpH緩衝剤としてアンモニア水溶液を100ml/L用い、めっき添加剤と促進剤としてPdイオン100ppm程度を添加し、pH11−13、温度70℃で強い撹拌をしながら30秒間浸漬した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図19に示す。この場合には、Ptは主にアルミナ皮膜の最表面(凸部)に被覆され、Ptナノ粒子が内部に間欠的に担持されていることが確認された。
【0110】
(実施例12)
【0111】
実施例1のリン酸陽極酸化アルミナ皮膜を、細孔拡大したものとしないものの2種類を鋳型として、実施例11と同様の処理により白金をアルミナ細孔の壁に析出させた。これら試料をFE−SEMにより観察した結果を図20に示す。図20において、(a)、(b)は無電解めっき時間が2分間で、細孔拡大処理をした鋳型を用いた場合、(c)、(d)は無電解めっき時間が6分間で、細孔拡大処理していない鋳型を用いた場合の結果である。この場合には、細孔拡大処理の有無に依らず、アルミナ細孔壁に沿って細孔底部までPt薄膜を被覆可能であることが確認された。
【0112】
以上、実施例11及び12の結果から、鋳型である多孔質アルミナナノ構造体の細孔径が50nm以上の場合には、細孔拡大処理をせずとも、細孔内部から多孔質アルミナ皮膜の最表面(凸部)にかけて均一にPt被覆することが可能であることが確認された。
【0113】
(実施例13)
実施例10と同様の方法によりクエン酸陽極酸化と細孔拡大して得られた多孔質アルミナナノ構造体を鋳型とし、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。続いて、実施例11と同様の条件で白金めっき浴で無電解めっきを行い、白金をアルミナ細孔の壁に析出させた。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図21に示す。図21において、(a)は無電解めっき時間3分間、(b)及び(c)は無電解めっき時間6分間、(d)は無電解めっき時間8分間である。
【0114】
図21に示されるように、アルミナ被膜最表面から細孔壁に沿って細孔底部までPt薄膜を被覆できることが確認され、内孔径400〜500nm、外径約600nm、長さ約4〜10μmのナノチューブ配列構造体が得られた。図21(d)に示すDの塔状結晶は、図21(c)に示すAの触媒核からBの枝状結晶に成長し、続いてCのように疑集し形成されたものである。なお、枝状結晶の成長過程はめっき時間に依存することがわかった。Ptナノチューブ内壁面は集合粒子Cで覆われ、壁の内部に向かって枝状結晶Bが形成されていた。このことから、Pdナノチューブより大きい表面積を有することが推測できる。さらに、皮膜表面は塔状結晶で覆われているため、Pdナノ粒子層のように緻密でなく、めっき時間を長くしても、細孔表面を封鎖せず、容易に表面積を増加させることができることが判った。
【0115】
(実施例14)
実施例10で得られたPdナノチューブ配列構造体と、実施例13で得られたPtナノチューブ配列構造体をEDX(日本電子、JXA−8900R)により分析した。結果を図22に示す。Pdナノチューブは、2keV付近にリン原子のKαピークが検出され、定量した結果、5〜10原子%のPを含み、Pd−P合金が形成されていることがわかった。一方、Ptナノチューブは、Pt Mαピークの他に、Pd Lαピークも検出され、Pd元素がPtに取り込まれており、Pt中に約10原子%のPdを含有していた。これは、活性化処理により形成した触媒核、並びにめっき添加剤のPdイオンが還元されたことに起因と考えられる。つまり、無電解めっきで得られたPtは、Pt−Pd合金であることがわかった。この結果から、二種金属の合金めっきをアルミナ細孔の表面に被覆することが可能であることが確認された。
【0116】
(実施例15)
実施例10で得られたPdナノチューブ配列構造体と、実施例13で得られたPtナノチューブ配列構造体をXRDにより分析した。結果を図23に示す。Pd、Ptナノチューブともに結晶質であることが判った。また、ピーク位置から結晶構造を推定すると、双方とも立方晶系の単相合金であり、取り込まれたPおよびPd元素は、固溶状態として存在していることがわかった。また、ピーク強度から判断すると、Pt層の結晶化度はPd層よりも比較的高いことが明らかとなった。
【0117】
(実施例16)
実施例2及び実施例3により得られたPdナノチューブ配列構造体を25℃の50重量%硫酸中で電解してサイクリックボルタンメトリー測定(北斗電工株式会社、電気化学測定システムHZ−3000、Scan speed:20mV/s。作用電極:Pdナノチューブ配列構造体、対電極:白金。参照電極:Hg/HgSO4)をおこない、対極に対して作用電極の電位を変化させることによる作用電極の電極反応のメカニズムについて調査した。得られたサイクリックボルタンメトリー曲線を図24に示す。尚、図24において、(a)は実施例2のPdナノチューブ配列構造体を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果、(b)は実施例3のPdナノチューブ配列構造体を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果であり、グラフの横軸は標準水素電極に準じる電位を示す。
【0118】
図24に示される結果から、陽極側に電位を変化させた場合と陰極側に電位を変化させた場合の両方とも大電流が流れることが確認されたことから、いずれのPdナノチューブ配列構造体も優れた導電性が持つことが判明した。また、めっき層は、6Vまで電解しても溶解が起こらず、また、80℃の50重量%の硫酸溶液に1000時間に浸漬しても溶解が起こらず、高い化学的安定性を有することが判明した。これらの結果から、Pdナノチューブ配列構造体は、硫酸電解において陽極に限らず陰極としても利用できることがわかった。
【0119】
また、電流密度200mA/cm2時のアノードおよびカソード側の過電圧は、それぞれ、1750mVと−750mVであり、陽極に比べて陰極の方が高電流が流れることが確認された。すなわち、パラジウム金属の水素に対する高触媒性により水素の還元反応が促進されることに起因するものであり、Pdナノチューブ配列構造体を陰極と陽極として利用すればより高い水素製造効率を得られることが判明した。
【0120】
さらに、皮膜細孔底部までPdチューブ状になった試料(実施例3、図24(b))、部分的にPdチューブ状になった試料(実施例2、図24(a)ともボルタモグラムの再現性に優れたことから、Pdナノチューブ配列構造体が長期間の使用に耐えうる電極となることが明らかとなった。
【0121】
また、図24に示すように、水素吸収―放出ピークが観察され、水素放出電流密度が、それぞれ、162mA/cm2(図24(a))と123mA/cm2(図24(b))の値を示した。これは、部分的にチューブ状になった試料の方が細孔径が大きく、細孔下部もPdナノ粒子で覆われているため、より大きい表面積を有するためと考えられる。一方、両者のボルタモグラムの水素放出面積はほとんど変わらないことから、完全なチューブを形成しなくても、水素吸蔵量は同等であることがわかった。つまり、Pdナノチューブ配列構造体は、触媒電極のほかに、水素吸蔵材料としても応用できる可能性があることが明らかとなった。
【0122】
(実施例16)
実施例13により得られたPtナノチューブ配列構造体を25℃の50重量%硫酸中で電解してサイクリックボルタンメトリー測定(北斗電工株式会社、電気化学測定システムHZ−3000、Scan speed:20mV/s。作用電極:Ptナノチューブ配列構造体、対電極:白金。参照電極:Hg/HgSO4)をおこない、対極に対して作用電極の電位を変化させることによる作用電極の電極反応のメカニズムについて調査した。得られたサイクリックボルタンメトリー曲線を図25に示す。尚、図25において、実線は実施例13のPdナノチューブ配列構造体を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果、点線は標準試料としたPt板を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果であり、グラフの横軸は標準水素電極に準じる電位を示す。
【0123】
図25に示される結果から、Ptナノチューブ配列構造体は、陽極側に電位を変化させた場合と陰極側に電位を変化させた場合の両方とも大電流が流れることが確認されたことから、優れた導電性が持つことが判明した。特に、陽極側に電位を変化させた場合、Pt板より低い電位を示したことから、陽極として利用する際にPt板より高い電解効率を得られることが考えられる。また、めっき層は、6Vまで電解しても溶解が起こらず、高い化学的安定性を有することが判明した。これらの結果から、Ptナノチューブ配列構造体は、Pdナノチューブ配列構造体と同様、硫酸電解において陽極と陰極として利用できることがわかった。
【0124】
また、バルク材料である白金板の測定結果と比較すると、Ptナノチューブ配列構造体の膜厚は格段に薄いにも関わらず、基材の細孔内に均一にしかも粒子状にめっきされることによる表面積の増加の効果により、ほとんど電気特性がかわらなかった。つまり、本発明により作製したPtナノチューブ配列構造体は、白金の様な貴金属を少量用いるだけでもバルク材料とそれほど遜色のない過電圧を得ることができるため低コスト化を図ることが可能であることが確認された。
【0125】
以上、アルミニウムの陽極酸化と無電解めっきの併用により、内径80〜500nm、外径100〜600nm、長さ3〜10μmを有するPdとPtナノチューブ複合電極の作製が可能であることが確認された。また、ナノチューブ複合電極の硫酸電解における過電圧は、水素製造用の電解電極として十分に利用可能なものであった。さらに、PdとPtナノチューブなの構造体は、燃料電池電極、水素吸蔵材料及び電気化学合成電極などへの応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の基体に接合した金属ナノチューブ配列構造体の製造プロセス(触媒性工程を除く)を示す図である。
【図2】本発明の基体への触媒性処理工程を示す図である。
【図3】本発明で作製することが可能なナノ構造体の一例を示す図である。
【図4】本発明のアルミニウム板を陽極酸化し、細孔拡大処理した後のナノポーラスアルミナ皮膜の表面電子顕微鏡写真であり、(a)はシュウ酸、(b)はリン酸、(c)及び(d)はクエン酸を陽極酸化の電解液として用いた場合である。
【図5】本発明の複合プロセスにより作製した両端開口型のパラジウムナノチューブ配列構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)、(c)及び(d)は破断面である。
【図6】本発明の複合プロセスにより作製した一端閉塞型のパラジウムナノチューブ配列構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図7】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブと分散しているパラジウムナノ粒子を共存する複合ナノ構造体の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体のEDSスペクトルである。
【図9】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体のXRDパターンである。
【図10】クエン酸中で限界高電位陽極酸化による形成したナノポーラスアルミナ皮膜の破断面電子顕微鏡写真である。
【図11】硫酸中で高電場陽極酸化による形成した規則化ナノポーラスアルミナ皮膜の表面電子顕微鏡写真である。
【図12】Al陽極酸化の基本原理について示した図である。
【図13】定電位で陽極酸化を行ったときの電流の時間変化(a)および低電流で陽極酸化を行ったときの電圧の時間変化(b)を示す図である。
【図14】図13の過渡期A、B、C、Dにおける陽極酸化状態を示す図である。
【図15】10℃〜40℃において陽極酸化した場合の電流と印加電位の関係を示す図である。
【図16】アノード電位に対する細孔数の変化(a)と細孔径の変化(b)を示す図である。
【図17】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブと分散しているパラジウムナノ粒子を共存する複合ナノ構造体の破断面の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図18】本発明の複合プロセスにより作製した両端開口型のパラジウムナノチューブ配列構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図19】本発明の複合プロセスにより作製した白金ナノチューブと分散している白金ナノ粒子を共存する複合ナノ構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図20】本発明の複合プロセスにより作製した白金ナノチューブの電子顕微鏡写真であり、(a)及び(c)は表面、(b)及び(d)は破断面である。
【図21】本発明の複合プロセスにより作製した白金ナノチューブの電子顕微鏡写真であり、(a)及び(d)は表面、(b)及び(c)は破断面である。
【図22】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体(a)と白金ナノチューブ配列構造体(b)のEDXスペクトルである。
【図23】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体(a)と白金ナノチューブ配列構造体(b)のXRDスペクトルである。
【図24】パラジウムナノチューブ配列構造体のサイクリックボルタモグラムである。
【図25】白金ナノチューブ配列構造体のサイクリックボルタモグラムである。
【図26】硫黄サイクルハイブリッド法の概念図である。
【符号の説明】
【0127】
2 基体
3 アルミナ皮膜
4 ナノ構造体
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ナノ構造体およびその製造方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、陽極酸化法を用いて基体上に規則的に配列した高い比表面積をもつ多孔質酸化皮膜ナノ構造体を製造し、ナノ構造体中に無電解めっき法により種々の触媒性金属をコーティングして、金属ナノ構造体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーにより得られるナノ構造体は電子デバイスやマイクロデバイスなどの新規機能材料として、また、量子効果デバイスや、高性能触媒等、あらゆる分野で応用可能であることから、近年、ナノテクノロジーに関する研究が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では数十nm以下の細孔径を有する柱状微細構造を形成することができるナノ構造体の製造方法が開示されている。具体的には、触媒活性を有する下地膜付き基板の表面に形成されたアルミニウム(Al)を主成分とする柱状部材と、Alを主成分とする柱状部材の側面を囲むように配置されるシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、シリコンゲルマニウム(SiGe)のいずれかを主成分とするマトリックスからなる構造体を有するAl(Si、Ge)混合薄膜を形成した基体中からAlを主成分とする柱状部材を除去して、基体中に細孔を形成し、無電解めっき浴に基体を浸して柱状構造体(ナノ構造体)を形成するようにしている。
【特許文献1】特開2005−60755
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のナノ構造体製造方法においては、細孔の底部にのみ触媒活性を有するようにしているため、無電解めっきを行っても、ナノ構造体としては所謂ナノワイヤーのような形状のものしか得られないという問題があった。
【0005】
さらに、上記のナノ構造体製造方法においては、Al細線を作製するためのAl−Si等の成膜時にRFマグネトロンスパッタリングを用いているため、非常に大がかりで、且つ極めて高価な装置が必要である上に、細線の径の制御、大面積基板への成膜が困難であるという問題があった。また、このような物理的手法は、製造時間が極めて長いという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、細孔径とセル径を制御可能とし、しかも大面積基板に対しても適用可能で、低コスト且つ大がかりな装置を必要としないナノ構造体の製造方法およびそのナノ構造体を鋳型として用いて様々な大きさ、形状の金属ナノ構造体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、本発明のナノ構造体の製造方法は、ナノサイズの細孔を有するナノ構造体を鋳型とし、金属M2よりも酸化還元電位の低い金属M3のイオンを含む溶液に超音波をかけながら鋳型を浸漬して鋳型に金属イオンM3を担持させる工程と、金属イオンM3を担持した鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、金属M2のイオンを含む溶液に超音波をかけながら金属イオンM3を担持した鋳型を浸漬して鋳型に金属M2のコロイドを担持させる工程と、金属イオンM2のコロイドを担持した鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、金属M1のイオン及び還元剤を含み、平滑化剤の濃度を50ppm以下とした溶液に金属M2のコロイドを担持した鋳型を浸漬する無電解めっき工程とを含むようにしている。
【0008】
したがって、触媒活性勾配に応じて無電解めっきが進行するため、鋳型の最表面(凸部)だけでなく、細孔内部の壁面や細孔底部(凹部)にまでむらなく均一に金属M1をコーティングすることが可能となる。しかも、そのコーティング量を制御することが可能となる。
【0009】
また、本発明のナノ構造体の製造方法は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜あるいは当該多孔質酸化皮膜を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大したものを鋳型とするようにしている。
【0010】
したがって、様々な種類の金属ナノ構造体、様々なセル径を有する金属ナノ構造体を製造することが可能となる。
【0011】
また、上記製造方法においては、無電解めっき処理工程の時間および撹拌強さを制御することで、鋳型中に従来技術では形成可能であったナノワイヤーのみの形状に限らず、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッドを形成することが可能となる。
【0012】
さらに、鋳型を除去してナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーを形成することも可能である。
【0013】
ここで、金属M1は高触媒活性金属であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の製造方法により得られる金属を高触媒活性金属であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金とした金属ナノ構造体は、触媒や電極として好適な材料となり、電気化学セル、硫酸電解法による水素製造用電気化学セル、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セルに供することが可能である。
【0015】
次に、本発明の多孔質酸化皮膜ナノ構造体の製造方法は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜を形成するようにしている。
【0016】
さらに、上記の方法により得られた多孔質酸化皮膜ナノ構造体を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大するようにしている。
【0017】
したがって、多孔質酸化皮膜の細孔径が20〜900nm、セル径が130〜950nmであることを特徴とする多孔質酸化皮膜ナノ構造体が得られる。
【発明の効果】
【0018】
以上、請求項1に記載の発明によれば、ナノサイズの細孔を有するナノ構造体を鋳型として、その最表面(凸部)から細孔底部(凹部)までの領域の触媒活性勾配を制御すること、例えば、細孔底部(凹部)に近づくに従って触媒活性勾配を高めることができるので、鋳型の最表面(凸部)だけでなく、細孔内部の壁面や細孔底部(凹部)にまで金属をコーティングすることが可能となる。しかも、金属はナノメートルレベルの大きさの粒子状もしくは針状であるから、鋳型の形状を保ちつつ、しかも表面が粗な状態でコーティングすることができ、鋳型の表面積をさらに増加させることが可能である。さらには、最表面(凸部)から細孔底部(凹部)までの領域の触媒活性勾配を制御することで、細孔底部(凹部)に金属がほとんどコーティングされないような状態にすることも可能である。即ち、種々の形状の金属ナノ構造体を得ることが可能である。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、陽極酸化法により形成された細孔径が20〜600nm、セル径が130〜950nmの多孔質酸化皮膜を鋳型とすることができ、請求項3に記載の発明によれば、細孔径をセル径とほぼ近い径まで制御した多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型として用いるので、陽極酸化を制御して細孔径とセル径を制御した鋳型を得ることができ、所望の径を有する金属ナノ構造体を得ることが可能となる。しかも、陽極酸化法、無電解めっき法は、非常に簡易に、しかも低コストで行える上に、大がかりな装置を必要とせず、大面積基板にも簡易に適用することができる。従って、従来の金属ナノ構造体の製造方法と比較して非常に高効率に金属ナノ構造体を製造することが可能となる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、鋳型中にナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を形成することが可能である。すなわち、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーのみならず、例えば、細孔下部がナノ粒子で細孔上部がナノポーラス膜といったような形状の金属ナノ構造体を得ることも可能である。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を鋳型中から取り出すことが可能であり、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーのみならず、例えば、ナノ粒子とナノポーラス膜が複合した形状の金属ナノ構造体を得ることも可能である。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)およびニッケル(Ni)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金は触媒活性が高い。したがって、本発明の金属ナノ構造体に適用することで、高触媒活性な材料を提供することが可能となる。
【0023】
請求項7〜11に記載の発明によれば、金属ナノ構造体の金属が高触媒活性金属であるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属、或いは2種以上を含む合金であり、ナノメートルレベルの大きさの粒子状もしくは針状であって、鋳型の形状を保ちつつ、しかも表面が粗な状態でコーティングされているから、鋳型の表面積がさらに増加したものとなる。したがって、触媒や電極として好適な材料となり、電気化学セル、硫酸電解法による水素製造用電気化学セル、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セルに供することが可能である。
【0024】
請求項12に記載の発明によれば、基体の腐食を防ぐ観点から、20〜40Vの低い電圧でしか行うことができなかった従来の陽極酸化法において、困難とされていた細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜を形成することが可能となる。しかも、陽極酸化法を用いているので、非常に簡易に行うことができる上に、大面積基板にも効率よくナノサイズの細孔例えば鋳型用として利用可能な多孔質酸化皮膜ナノ構造体を形成することができる。
【0025】
請求項13に記載の発明によれば、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大すること、即ち、細孔径を広い範囲で制御をすることが可能である。
【0026】
請求項12あるいは請求項13の製造方法により得られる請求項14に記載の細孔径が20〜900nm、セル径が130〜950nmの多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、種々の金属を用いた金属ナノ構造体を形成するための鋳型として用いることが可能であり、また、ナノデバイス用材料、ガスセンサー、フィルター、フォトニックス材料、可視光触媒担体、蛍光材料担体、バイオセンサー、複合陽極酸化マスクとしても利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1に本発明の金属ナノ構造体の製造方法の一実施形態を示す。本発明の金属ナノ構造体の製造方法は、鋳型となる多孔質酸化皮膜ナノ構造体を製造する工程と、多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型として無電解めっきを行う工程とを含むものである。さらに詳述すると、鋳型となる多孔質酸化皮膜ナノ構造体1を製造する工程は、基体2、例えばアルミニウム(Al)の脱脂工程(1)と、ポーラスアルミナ(Al2O3)皮膜3を形成する陽極酸化工程(2)とを含むものであり、ポーラスアルミナ皮膜3の細孔を拡大する工程(3)により細孔径を拡大することが可能である。また、無電解めっきを行う工程は、前記工程により得られた鋳型に触媒性処理を行う工程(4)と、無電解めっきを行う工程(5)とを含むものである。さらに、選択エッチング工程(6)によりポーラスアルミナ皮膜3の一部あるいは全部をエッチングして金属ナノ構造体4を取り出すことができる。
【0029】
鋳型となる多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化することにより製造され、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御される。
【0030】
ここで、陽極酸化法について説明する。陽極酸化法は、その表面に生成する酸化皮膜が、一方向にのみ電流を流し、反対方向には電流を非常に流しにくい整流作用をもつ金属であるバルブメタルに適用できる。さらに詳細には、緻密な酸化皮膜が形成しやすい傾向をもつ第一種バルブメタルと多孔質酸化皮膜が形成しやすい傾向をもつ第二種バルブメタルに分類される。第一種バルブメタルとしては、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、希土類元素等が挙げられる。第二種バルブメタルとしては亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。
【0031】
ここで、一例としてアルミニウム金属の陽極酸化法を挙げ、図12に示す電解装置5の概念図を用いて説明する。陽極酸化処理を行いたいアルミニウム金属2をプラス電極に、対極に例えばカーボン等の電極7を配置し、これらを電解液6に浸して、外部電源から電気を流すと以下に示す反応が生じて、(a)〜(d)に示す過程によりアルミナ酸化皮膜3が形成される。
(化学式1) Al → Al3+ + 3e−
(化学式2) Al3+ + 3OH− → Al(OH)3
(化学式3) 2Al(OH)3 → Al2O3(固体)+ 3H2O
【0032】
次に、定電流条件で陽極酸化した場合に成膜される酸化皮膜の厚さについて説明する。定電流条件で陽極酸化した場合に成膜される酸化皮膜の厚さは、数式1で表すことができる。
(数式1) d=(Mit)/(zFρ)
ここで、dは酸化皮膜の厚さ、Mは酸化物の分子量、Fはファラデー定数、zは酸化物生成に必要な反応電子数、ρは酸化物の密度、iは電流密度、tは電解時間である。
【0033】
数式1から理解できるように、生成する酸化物の厚さは電解時間に比例して直線的に成長する。しかし、生成する酸化膜の比(電気)抵抗は、常に厚さ方向に均一とは限らない。したがって、酸化膜の成長とともに皮膜両端にかかる電圧が、時間とともに直線的上昇するとは限らず、一般的には時間とともに傾斜が緩くなって、やがて飽和値に達するか、また絶縁破壊を起こして激しく変動する。この値がバルブメタルを陽極酸化するときの限界膜厚又は限界高電位と呼ばれる。この限界高電位は、金属の陽極酸化速度と陽極溶解速度とのバランスにより決定されるため、電解液の種類、濃度、温度、溶存酸素濃度(撹拌速度)、溶存金属イオン濃度などにより異なり、一般的には、設備的な面と生産コストなどを考慮に入れた上で、皮膜が形成できる必要な電位、例えば、硫酸では20Vの低電位、又は、例えば、シュウ酸では40Vの中電位で行う。
【0034】
陽極酸化法により形成した酸化皮膜には、構造的に見てバリヤー皮膜とポーラス皮膜がある。バリヤー皮膜とは酸化物皮膜が緻密で孔がなく、電流は高い電場のもとで、絶縁性の酸化物被膜の中を流れて厚く成長する。バリヤー型皮膜が生成する条件については、容積分率という概念がある。容積分率とは、酸化物の容積/金属の容積=容積分率という定義となっている。下地の金属が酸化物に変化するとき、もとの金属容積に比べて生成した酸化物の容積が小さくなる場合、すなわち容積分率<1の場合には、原理的に緻密な酸化物は得られず、陽極酸化により厚い酸化皮膜の成長が不可能である。一方、容積分率>1の場合には、生成した酸化物層は隙間無く下地金属を覆うので、バリヤー皮膜が生成する条件が成立する。多孔質皮膜はバリヤー皮膜の一種であり、ある極限条件のみで形成できる特有な酸化物構造体である。表1に一般的な金属の容積分率を示す。合金等も、これらの組み合わせから、バリヤー皮膜か、ポーラス皮膜か推測することができ、陽極酸化した金属の微細構造を制御する重要な因子となる。
【0035】
【表1】
【0036】
ポーラス皮膜は、最初にできたバリヤー皮膜が高電場による作用と、電解液の溶解作用を受けて局部的に孔を形成し、多孔質となったものである。したがって、このタイプの皮膜は、バリヤー型の部分とポーラス型の部分の二重構造を取るので、複合皮膜とも呼ばれている。例えば、図12(d)が典型的なポーラス型酸化皮膜の構造モデル図である。
【0037】
ここで、アルミニウムの多孔質酸化皮膜の成長を例に挙げて説明する。図13に定電位で陽極酸化を行ったときの電流(ia)の時間(ta)変化(a)および低電流で陽極酸化を行ったときの電圧(Ea)の時間(ta)変化(b)を示す。また、図14に過渡期A、B、C、Dにおける陽極酸化状態を示す。過渡期Aでは、酸化物の均一溶解を伴って、バリヤー型の皮膜の厚さが増大する。過渡期Bでは、皮膜の成長とともに酸化物の局所的な溶解が起こり、無数の微細孔が発生する。この現象は、皮膜厚さの増大により皮膜にかかるアノード電場が減少し、プロトンが皮膜表面に局所的に入り込むことが原因であると考えられている。過渡期Cでは、初期に発生した微細孔の一部のみが芽孔により成長し、大部分は成長を停止する。定常的には六角セル構造が完成し、多孔質アノード酸化皮膜が定常的な速度で成長する。
【0038】
陽極酸化の際、アノード電場は、細孔の底部に素地金属と接して存在する半円球状のバリアー層と呼ばれる薄い緻密な層にかかる。バリアー層にかかるアノード電場によって、Al3+イオンがバリアー層を横切って、素地金属から孔底に向かって移動する。また、O2−イオンは、孔底から素地金属に向かって移動する。バリアー層/素地金属界面に到達したO2−イオンは、Al3+イオンと反応して新しい酸化物を形成する。孔底に達したAl3+イオンは、そこで酸化物を形成せずに直接溶液中に移行する。これらの現象により、最初できた芽孔は深さ方向に進行し、柱状の多孔質ナノ構造体となる。Al3+イオン輸率(一般的には0.2〜0.4の範囲)は、電流密度およびアノード酸化温度が高い程、増大する。
【0039】
ここで、図15に電流密度と印加電位の関係を示す。一般的には、S字曲線を示し、低電流領域では“粉ふき現象”、高電流領域では“やけ現象”が起こり、皮膜の定常的な成長を阻害する。つまり、低電流領域(すなわち低電位領域)や高電流領域(すなわち高電位領域)では、これらの現象が生じて、皮膜の定常的な成長が阻害される虞があった。
【0040】
多孔質皮膜の細孔の数および半径は、陽極酸化条件により大きく変化する。ここで、陽極酸化電位に対して多孔質皮膜の細孔の数と半径をプロットした一例について図16に示す。アノード電位が高くなるに従い、細孔径は増加し(b)、細孔の数が減少する(a)ことが判る。したがって陽極酸化の電位−電流条件により、細孔数および細孔径を制御することが可能である。
【0041】
陽極酸化の場合、皮膜両端にかかる電場勾配に流れる電流は、指数関数的に増加する。このように高電場下における皮膜中の電導は、イオン電導が主体なので、ファラデーの法則に従い、電解電流に比例して酸化物の厚さは厚くなると同時に、皮膜の両端にかかる電圧は非常に高くなる。この電圧を支えきれなくなって、前記したように、ある値以上になると酸化皮膜は、高い電圧を支えきれなくなって絶縁破壊を起こす。この絶縁破壊が起こった時点で、酸化物の成長は止まり、皮膜成長の限界となる。
【0042】
従来の陽極酸化技術においては、基体の腐食を防ぐため、20〜40V程度の低電位から中電位領域で行うことが一般的であり、セル径が100nm以下であったが、本発明では、電解液の濃度と温度を制御することにより、限界高電位、即ち、皮膜の焼け電位または孔食電位に近い、安定に均一な陽極酸化皮膜を形成できる最大電圧で陽極酸化を行うことにより、細孔径を20〜300nm、多孔質酸化皮膜のセル径を130〜950nmに制御することを可能としている。
【0043】
図1における脱脂処理工程では、陽極酸化を行う際の障害となる虞がある無機物あるいは有機物(特に、人体から出る油脂等)を基体から洗浄・除去する。具体的には、無機物あるいは有機物を除去できるような洗浄剤、例えばアセトンや水酸化ナトリウム溶液を用いて多孔質基材を超音波洗浄し、無機物および有機物を洗浄・除去する。尚、基体が無機物および有機物により汚染されていない場合には、脱脂処理工程を省略することができる。
【0044】
陽極酸化工程で用いる電解液としては、酸性の溶液を用いればよいが、酸性度が高くなるにつれて、陽極酸化電圧を上げると基体の腐食が起こりやすくなってしまう、即ち、限界高電位が小さくなってしまうため、高電圧を印加することが困難になる。従って、限界高電位を大きくして、より高電圧を印加し、細孔径を20〜300nm、セル径を130〜950nmにするという観点から、10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の弱酸を用いることが好ましい。酸の種類としては、例えば、強い酸であるリン酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、ふう酸、弱酸であるクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、琥珀酸、マライ酸、ホウ酸等を挙げることができるがこれらに限られるものではない。尚、硫酸やシュウ酸等の強酸を用いても、上記範囲の細孔径およびセル径となる多孔質酸化皮膜を形成することは可能ではあるが、この場合、陽極溶解が起こりやすいため、陽極酸化電圧を高くするためには、温度を低く、例えば、0℃近くまで冷却することが好ましい。
【0045】
一例として、リン酸を電解液とした場合について説明すると、電解液の濃度および温度については、濃度を10vol%、温度を5℃以下とすることが好ましいが、所望の陽極酸化電圧で発熱反応により酸化皮膜が腐食しない程度の濃度および温度にすればよく、これらの範囲に限られるものではない。
【0046】
次に、陽極酸化電圧は、低電圧にすればセル径が減少(細孔径も減少)し、高電圧にすればセル径は増加(細孔径も増加)する。即ち、陽極酸化電位を制御することにより所望のセル径および細孔径を有する多孔質酸化皮膜ナノ構造体を得ることができる。
【0047】
上記により得られた多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、そのまま用いてもよいが、細孔拡大処理を行ってから鋳型として供しても良い。即ち、10重量%以下の希薄酸性溶液もしくは希薄アルカリ性溶液中に浸漬して、その時間を制御することで、セル径に近い大きさまで細孔を拡大することが可能となる。つまり、浸漬時間を長くすることにより、細孔はより拡大し、最大でセル径に近い大きさまで拡大する。また、希薄酸性溶液もしくは希薄アルカリ性溶液の濃度を増加させること、これら溶液の温度を高くすることによっても細孔はより拡大し易くなる。
【0048】
ここで、陽極酸化により得られたポーラスアルミナ皮膜は、セルとセルの境界に向かうにしたがってアルミナの純度が高くなり、硫酸やシュウ酸などの強酸には溶解するが、弱酸や弱アルカリに溶解し難くなる。つまり、例えば10重量%以下のリン酸溶液を細孔拡大処理に用いれば、セルとセルの境界のみが溶解し難いので、細孔拡大処理の際に、浸漬時間が長すぎることにより細孔が消失するのを容易に防ぐことができる。
【0049】
上記のようにして得られた多孔質酸化皮膜ナノ構造体は、細孔拡大処理により、あるいは細孔拡大処理せずに、ナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノロッド、ナノワイヤーを製造する鋳型として使用することができる。細孔径は本発明の制御範囲である5nm〜900nmにしておけばよい。ナノチューブを形成する鋳型として使用する場合には、20nm〜800nmが好ましく、望ましくは50nm〜600nm、更に望ましくは80nm〜500nmの直径のものが好適ではあるが、これら範囲に限定されるものではない。
【0050】
また、多孔質酸化皮膜の厚さは、特に限定されないが、高い比表面積を得るために、また、高アスペクト比の金属ナノ構造体を得るための鋳型とするために、300nm以上のものが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましく、2μm〜20μmであることがさらに好ましい。
【0051】
次に、本発明の多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型とした無電解めっき法による金属ナノ構造体の製造方法について説明する。
【0052】
無電解めっき法は、基本的には4つの前処理工程、即ち、脱脂処理工程、酸性化処理工程、感受性化処理工程および活性化処理工程と、目的の金属をコーティングする無電解めっき処理工程よりなる。しかしながら、上述の陽極酸化法により得られた鋳型は脱脂処理する必要は無く、しかも表面は酸性となっているので酸性化処理する必要が無い。また、細孔拡大処理した場合も、希薄酸溶液を用いれば酸性化処理をする必要はない。ただし、希薄アルカリ溶液処理した場合には中和処理もしくは酸性化処理が必要である。
【0053】
希薄アルカリ溶液処理により細孔拡大処理をした場合の中和処理もしくは酸性化処理は、具体的には、例えば濃度を5〜10重量%としたリン酸水溶液を用いて、5分間以下浸漬することにより行う。浸漬処理の際には、浸漬後に1分程度超音波処理を行った後に3〜4分間放置するのがより好ましい。超音波をかけながら浸漬処理することで、鋳型の細孔内に残存したアルカリ溶液等が除去されやすくなり、表面が効率的に酸性化する。尚、リン酸溶液の濃度を5重量%以下とした場合には、以下のような問題が生じる虞があるので好ましくない。
【0054】
まず、細孔拡大処理で用いた水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液が鋳型の細孔内に残存している場合、アルカリ溶液が十分に中和されないため、感受性化処理工程時に酸性である主塩と中和反応を起こしたり、沈殿を起こしたりしてしまう。ここでは、主塩として塩化スズを用いた場合について説明するが、これ以外の主塩を用いた場合にも同様の問題が生じる虞がある。
(中性処理又は酸性化処理)
(化学式4)
OH− + H+ = H2O
(感受性化処理)
(化学式5)
Sn2+ + 2OH− =Sn(OH)2↓
したがって、鋳型の感受性化処理に必要なSn2+が得られないため、感受性化処理液が無効になり、次工程の活性化処理ができなくなるという虞がある。
【0055】
また、鋳型の酸性度が十分に高まらないため、感受性化処理の際、Sn2+が水と反応し、水酸化スズ沈殿物が生成される。
(化学式6)
Sn2++2H2O = Sn(OH)2↓+2H+
この結果、塩化スズ溶液が白濁し、感受性化処理能力を失ってしまう虞がある。
【0056】
次に、リン酸水溶液の濃度が10重量%を超える場合には、アルミナ皮膜の細孔サイズを大幅に変化し、ナノポーラス構造を壊す虞があり好ましくない。以上より、リン酸水溶液の濃度は5〜10重量%とするのが好適である。
【0057】
また、酸性化処理工程に用いる溶液はリン酸水溶液に限られず、例えば、低濃度硫酸やクロム酸又はクロム酸を含む混酸液を、鋳型表面を酸性に変える程度、細孔拡大処理工程時にアルカリ溶液を用いた場合にはそのアルカリ溶液が十分に中和される程度の濃度にして使用することで、リン酸水溶液を用いた場合と同様の効果を発揮する。
【0058】
ここで、酸性化処理及び以降の処理において、超音波洗浄を長時間、高パワーで行うと、鋳型のナノポーラス構造が破壊される虞がある。したがって、超音波洗浄時間はナノポーラス構造が破壊されない程度の時間、例えば1分以内とすることが好ましい。また、超音波の周波数は、小強度(100kHz以上)程度より大きい低パワーで行うことが好ましい。
【0059】
多孔質酸化皮膜ナノ構造体鋳型は、図2に示す一連の処理、即ち、触媒性処理を行う。触媒性処理は、(a)感受性化処理、(b)希薄酸浸漬処理、(c)活性化処理及び(d)希薄酸浸漬処理(2回目)からなり、これら一連の処理により、鋳型の細孔開口部(凸部)から細孔底部にかけて触媒勾配を付与することにより、例えば、鋳型の細孔開口部(凸部)から細孔底部に向かうにつれて触媒勾配が大きくなるようにすることで、無電解めっき時にめっきすべき金属を細孔底部まで被覆するようにする。
【0060】
感受性化処理工程は、次工程の活性化処理に対する感受性を付与する工程であり、鋳型に直接成膜することが極めて困難なパラジウム等の貴な金属を成膜可能なものとするための工程である。ここでは、主塩として塩化スズを用いた場合について説明する。反応浴、即ち、感受性化処理液には、パラジウム等の貴金属よりも酸化還元電位の小さいスズを含む塩化スズと塩酸を混合して用い、その溶液のpHが1以下になるようにする。溶液のpHが1を超える場合には、溶液中の+2価のスズイオンを安定化させることができないので好ましくない。また、塩化スズと塩酸の混合比については、例えば、塩化スズ溶液濃度を10〜60g/L、塩酸(36重量%)と純水により塩酸溶液濃度を10〜50mL/Lとして、塩化スズ1gに対して塩酸(36重量%)を1〜4mlの割合とすればよいが、これに限られるものではなく、溶液のpHを1以下にして、+2価のスズイオンを安定化させることが重要である。尚、感受性化処理温度は、10℃〜40℃とすればよいが、20℃〜30℃とすることが好ましい。10℃未満では鋳型との濡れ性が低く、スズイオンの均一吸着が難しくなってしまい、また、40℃を超えると感受性化処理液と酸素との反応速度が極めて速くなってしまい、液の使用寿命が短くなるので好ましくない。
【0061】
上記の感受性化処理液に超音波をかけながら、酸性化処理を施した鋳型を浸漬して感受性化処理を行う(以後、これを超音波感受性化処理と呼ぶ)。これにより、感受性化処理液を細孔内部に進入させ、鋳型の最表面(凸部)だけでなく、開口部から細孔底部までの領域にも、Sn2+が均一に吸着される。尚、浸漬処理の際には、超音波をかけ続ける必要はなく、少なくとも細孔内部まで感受性化処理液が行き渡れば、その後は超音波をかける必要はない。超音波をかける時間が長すぎる場合には、Sn2+の吸着に悪影響を及ぼし、Sn2+が均一に吸着されなくなるので好ましくない。つまり、超音波をかける時間は、Sn2+の吸着に悪影響を及ぼさない範囲で、少なくとも細孔内部まで感受性化処理液が行き渡る程度に行えばよい。例えば、浸漬後に1分程度超音波処理を行った後に5分間放置することで、十分に感受性化する。また、超音波は浸漬初期のみかけ続けるようにしてもよいし、間欠的に超音波をかけて細孔内部まで感受性化処理液を行き渡るようにしてもよい。また、Sn2+の吸着に悪影響を及ぼさなければ、浸漬中に超音波をかけ続けても良い。
【0062】
次に、Sn2+が吸着された鋳型を希薄酸溶液、例えば、1重量%塩酸溶液中に数秒〜1分間浸漬する(以後、これを希薄酸浸漬処理と呼ぶ)。この処理により、鋳型に吸着されたSn2+の吸着量に勾配を与える。より詳細に説明すると以下のようになる。鋳型を希塩酸溶液中に浸漬した場合、Sn2+の吸着量は最表面(凸部)、開口部、細孔底部の順、即ち、最表面(凸部)に近づくに従って減少し易くなる。したがって、多孔質基材を希薄酸中に浸漬することにより、細孔底部、開口部、最表面(凸部)の順、即ち、細孔底部に近づくに従って感受性が高い状態となる。次工程の活性化処理においては、パラジウムイオンは感受性の高い領域で反応し易いので、イオン輸送しやすい最表面(凸部)よりも多くの触媒核を細孔底部に形成できるようになる。つまり、希薄酸浸漬処理をおこなうことで、次工程の活性化処理において、細孔底部、開口部、最表面(凸部)の順、即ち、細孔底部に近づくに従って、触媒活性が高い状態となる。最終的に鋳型にパラジウムなどの金属がコーティングされる際、パラジウムめっき反応は触媒活性の高い領域で反応し易くなり、細孔底部に近づくに従ってイオン輸送が遅くなるにも関わらず、鋳型の全面に均一にコーティングされることになる。
【0063】
尚、希薄酸溶液中への浸漬時間については数秒〜3分間としているが、この範囲に限られるものではなく、最適な浸漬時間は鋳型のアスペクト比により適宜変動する。即ち、アスペクト比が小さければ、細孔底部に存在するSn2+の吸着量が減少しやすいので浸漬時間を短くする必要があるし、アスペクト比が大きければ、細孔底部に存在するSn2+の吸着量が減少しにくいので浸漬時間をある程度長くしても問題はない。また、希薄酸以外に純水(蒸留水、イオン交換水)等を用いた場合には、ナノ細孔中のpH値が大きく変化して、吸着されたスズイオンが沈殿等を生じる虞があり、以降の活性化処理ができなかったり、不均一になったりする虞がある。しかし、不均一に活性化処理された場合には触媒活性勾配が不均一になり、その後の無電解めっき処理においても不均一な状態で金属がコーティングされ、金属膜厚が不均一な金属ナノ構造体を形成することが可能である。
【0064】
また、上記の感受性化処理工程(超音波感受性付与処理工程、希塩酸浸漬処理工程)では、主塩として塩化スズを用いた場合について説明したが、スズ以外にもめっきに対する活性化核としての金属より酸化還元電位が小さく、鋳型に担持され得る金属を含むものであれば適用可能であり、例えば亜鉛(Zn)等を採用できるが、これらに限られるものではない。さらに、塩化物ではなく、硫酸化物や硝酸化物等であっても適用可能である。
【0065】
活性化処理工程では、めっきしようとする金属に対するめっき反応を引き起こす触媒性を有する金属核を形成する。ここでは、パラジウムを触媒核として形成する場合の活性化処理工程について説明する。反応浴、即ち、活性化処理液として、0.5〜2.0g/Lの濃度の塩化パラジウム水溶液と濃塩酸(36重量%)を10〜50mL/Lとした塩酸溶液を混合して用いる。ここで、塩化パラジウムと濃塩酸の混合比は1g:2〜100mLとする。塩化パラジウム溶液の濃度が0.5g/Lより小さい場合、形成されるパラジウム触媒核が少ないため、次工程において、無電解めっき反応が起きない又は不均一になる。また、塩酸溶液の濃度に関しては、10mL/Lより小さい場合は塩化パラジウムが溶けにくく、50mL/Lより大きくなると設備の耐食性などに問題があるため好ましくない。また、塩化パラジウム溶液の濃度が2.0g/Lより大きい場合、パラジウム触媒核が過剰に形成されてしまい、連続めっき膜になってしまうかもしくはめっき液を安定化させることができないので好ましくない。上記活性化処理液に前工程の感受性付与処理により細孔底部に近づくに従って感受性が高い状態とした鋳型を超音波をかけながら浸漬する。温度に関しては、10℃〜40℃とすればよいが、20℃〜30℃とすることが好ましい。10℃未満では反応速度が非常に遅くなってしまい、また、40℃を超えると反応速度が速くなってしまい、特に最表面(凸部)や開口部付近の反応速度(イオン輸送速度)が極めて速くなってしまい、感受性化処理工程により形成した感受性勾配の効果が減少してしまう虞があるので好ましくない。浸漬時間に関しては、2〜20分間で行いばよいが、3〜10分間とすることが好ましい。尚、鋳型が高アスペクト比の場合、細孔の底部まで充分に触媒核を乗せるために、長い浸漬することが好ましい。また、この場合にも、浸漬処理の際には、超音波をかけ続ける必要はなく、少なくとも細孔内部まで活性化処理液が行き渡れば、その後は超音波をかける必要はない。超音波をかける時間が長すぎる場合には、パラジウム触媒核の吸着に悪影響を及ぼし、パラジウム触媒核が均一に吸着されなくなるので好ましくない。つまり、超音波をかける時間は、パラジウム触媒核の吸着に悪影響を及ぼさない範囲で、少なくとも細孔内部まで活性化処理液が行き渡る程度に行えばよい。例えば、浸漬後に1分程度超音波処理を行った後に残りの時間は放置することで、十分に活性化する。また、超音波は浸漬初期のみかけ続けるようにしてもよいし、間欠的に超音波をかけて細孔内部まで活性化処理液を行き渡るようにしてもよい。また、パラジウム触媒核の吸着に悪影響を及ぼさなければ、浸漬中に超音波をかけ続けても良い。この活性化処理により、吸着している+2価のスズイオンを+4価に酸化させ、このとき、パラジウムイオンが金属コロイドに変化し、鋳型表面の+4価のスズイオンが、コロイド状のパラジウム金属の回りを囲むように移動する。ここで、金属核を露出するために、1重量%塩酸溶液等の希薄酸溶液中で30秒〜5分間洗浄して、コロイド状のパラジウム金属の回りの塩化スズを洗い流すようにする。希薄酸溶液で処理することにより、コロイド状のパラジウム金属の回りの塩化スズを洗い流すことにより、次工程の無電解めっき時に用いるめっき浴の劣化が防止される。尚、スズ吸着量の濃度勾配は、Pdコロイドの濃度勾配に反映される。即ち、鋳型の細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態となる。さらに、当該希薄酸浸漬処理により、最表面(凸部)や開口部付近のPdコロイドが減少して、鋳型の細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態がより顕著となる。
【0066】
ここで、感受性化処理、希薄酸浸漬処理および活性化処理工程は、通常1サイクル行えば、細孔底部から開口部までの領域にPdコロイドの触媒核が形成され、且つ細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態となる。しかし、アスペクト比が大きく、細孔底部から開口部までの領域にPdコロイドの触媒核が形成されない虞がある場合又は細孔底部側の触媒活性をより高めたい場合には、2サイクル以上行うことでより確実に細孔底部から開口部までの領域にPdコロイドの触媒核が形成され、且つ細孔底部に近づくに従って触媒活性が高い状態とすることが可能である。尚、これら一連の処理により、細孔底部側の触媒活性をそれほど高めない状態にすることで、即ち、無電解めっき時に細孔底部までめっきされないような触媒活性勾配をもたせることで、両端が閉塞されていないようなナノチューブを形成することも可能であるし、また、金属ナノ構造体のアスペクト比も触媒活性勾配により制御可能である。
【0067】
尚、活性化処理工程で用いられる金属は、パラジウムには限られず、感受性化処理に用いた金属よりも酸化還元電位が高い金属であれば適用可能であり、例えば銀、銅、ニッケルなども採用することができるが、これらに限られるものではない。また、塩化物以外にも、硫酸化物や硝酸化物等を適用することが可能である。
【0068】
無電解めっき処理工程では、前処理工程により触媒性表面を有するようになった鋳型に無電解めっき反応により目的の金属をコーティングする。ここではパラジウムをコーティングする場合について説明する。めっき浴として安定な金属塩素錯化イオンを得るために、主塩として塩化パラジウム溶液を用い、その濃度を3〜10g/Lとすればよく、5g/Lとすることがより好ましい。主還元剤としては、環境に優しく且つ安価な次亜リン酸ナトリウム溶液を3〜15g/Lの濃度で用いればよく、10g/Lとすることがより好ましい。塩化パラジウム溶液と次亜リン酸ナトリウム溶液の濃度がそれぞれ上記範囲より大きくなると、反応速度が速くなる、即ち、パラジウムの析出速度が速くなりすぎて鋳型の最表面のみにパラジウムイオンがコーティングされ、鋳型のナノ構造全体にパラジウムがコーティングされなくなる虞がある。また、濃度がそれぞれ上記範囲より小さくなると反応速度が遅くなり、パラジウムの析出速度が遅くなりすぎて、細孔内部に均一コーティングができなくなってしまう。次に、次亜リン酸ナトリウムと塩化パラジウムとの濃度比については、1.2〜1.8のモル比が好適で、それより小さい場合には、還元力が不十分で、パラジウムを全部析出できない虞がある。一方、それより大きい場合、めっき液が不安定になり、自発反応が起きやすく、鋳型にめっきすることができなくなる虞がある。
【0069】
上記めっき浴を攪拌しながら前処理工程により触媒性表面を有するようになった鋳型を浸漬する。液温は25〜60℃で行えばよく、40℃程度とすることがより好ましい。25℃未満では反応速度が非常に遅くなってしまい、また、60℃を超えるとめっき溶液の自発反応が生じ、鋳型へのめっきができなくなる虞がある。
【0070】
ここで、めっきされた金属の粒径は、前処理工程、めっき液濃度、温度、基体種類などの影響も大きいが、反応時間により簡易に制御することができる。即ち、反応時間を長くすれば金属粒径は大きくなり、反応時間を短くすれば金属の粒径は小さくなる。例えば、上記パラジウムめっき条件であれば30秒で50nm程度、2分間で200nm程度になる。勿論、反応時間以外の条件を変えることにより粒径の大きさを制御することも可能である。
【0071】
また、めっき浴のpHは6〜9とすればよいが、8程度(すなわち中性に近い)とすることがより好ましい。その範囲を超えると、錯化イオンの安定性とめっき酸化還元反応バランスが崩れ、また、鋳型であるナノポーラス膜の溶解が起ってしまい、細孔壁にめっきできなくなる虞があるため好ましくない。
【0072】
尚、ここでは主塩として塩化パラジウムを用いた場合について説明したが、無電解めっきできる金属であればパラジウム以外、被覆しようとする金属、例えば、白金、ニッケル等にも適用することが可能である。また、塩化物ではなく、硫酸化物や硝酸化物等であっても適用可能である。
【0073】
また、還元剤には、次亜リン酸ナトリウム溶液を用いたが、例えば、これ以外にも水酸化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン等を主還元剤として、採用することができるが、これらに限られるものではない。尚、次亜リン酸ナトリウムと水酸化ホウ素ナトリウムを用いた場合には、めっきされる金属中にリンまたはホウ素を固溶するようになる。リンまたはホウ素を固溶すると、耐食性が向上し、結晶サイズが小さくなる傾向を導くため好ましい。
【0074】
さらに、めっきする金属イオンを安定にして、析出を穏やかに進行させ、均一なめっき層を得るために、錯化剤を添加してもよい。錯化剤としては、例えばエチレンジアミン、有機酸(酢酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸等)のアルカリ塩、チオグリコール酸、アンモニア、ヒドラジン、トリエタノールアミン、グリシン、o−アミノフェノール、ピリジン等を採用できるが、これに限られるものではない。尚、エチレンジアミンを用いる場合には錯化剤としての効果を効率よく得るために5〜20mL/L程度とすればよいが、10mL/L程度とすることがより好ましい。
【0075】
また、金属膜の表面は平滑ではなく、粒状もしくは針状として粗にすることが重要である。したがって、表面活性剤と平滑化剤は、微量(50ppm)以下にするのが好ましい。これを超える量を添加すると、めっき層と基材と間の密着性は改善されるものの、平滑なめっき膜になってしまい、目的の金属粒子や針状金属が得られない。また、鋳型を被覆する能力を低下させる虞がある。しかしながら、平滑なめっき膜を得たい場合には、平滑剤を50ppmよりも多く添加することを否定するものではなく、被覆能力が大幅に低下しない範囲で添加しても良い。尚、平滑化剤としては、例えばチオ二酢酸等を用いることができる。
【0076】
pHが安定化するように、緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤としては、例えば、酢酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等のオキシカルボン酸系のもの、ホウ酸や炭酸等の無機酸でいずれも解離定数の小さいもの、有機酸や無機酸のアルカリ塩等を採用することができるがこれらに限られるものではない。尚、酢酸ナトリウムを用いる際には緩衝剤としての効果を効率よく発揮するため、8〜32g/L程度とすればよく、16g/L程度とすることがより好ましい。また、副還元剤及び緩衝剤としてヒドラジンを用いることもできるが、ヒドラジンは、環境に悪影響を与えるので、好ましくない。
【0077】
また、pHを所望の値に調整するためにpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、例えば、酢酸ナトリウムや水酸化アンモニウム等の塩基性化合物、無機酸、有機酸等を採用することができるがこれらに限られるものではない。
【0078】
ここで、無電解めっき法の工程における攪拌の効果について説明する。無電解めっき工程では、めっき金属の結晶を数多くめっき対象物にめっきする核形成と核の結晶成長を促す結晶成長の反応が起こっている。そのため、めっき浴を撹拌することにより、金属や還元剤などのイオン輸送率が高くなり、通常めっき金属の結晶の核形成と結晶成長の両方を促進することになる。特に、ナノ細孔有する鋳型に対しては、細孔内のイオン輸送率を高めることが重要である。一方、撹拌しない場合、あるいは攪拌が弱い場合、イオン輸送率が低いため、ナノ細孔の毛管効果のみでは大きいアスペクト比のナノ構造体の作製が困難である。また、核形成と結晶成長のうち必要なエネルギーの小さい反応が優先的に(支配的に)起こりやすくなり、大きい粒子になったり、針状析出物質になったり、細孔をふさいでしまったりする。したがって、これらの現象を利用して、例えば、撹拌を弱くしてナノ細孔の底部にコーティングされないようにし、細孔底部側の金属ナノ構造体が閉塞していないようなものを形成したり、金属ナノ構造体のアスペクト比を撹拌強度により制御するといったことも可能である。また、この現象を利用して金属ナノ複合体を形成することも可能である。例えば、撹拌強さを弱くすれば、細孔底部と最表面のイオン輸送速度に差が生じる、即ち、細孔底部に向かうに従ってイオン輸送速度が低下し、細孔の上部と下部でナノ構造体の状態が異なるようになる。例えば、細孔下部がナノ粒子で細孔上部がナノポーラス膜である複合体の形成が可能である。
【0079】
撹拌強度については、撹拌装置による撹拌子の回転数の制御、撹拌子の大きさ、溶液量により調整することができる。例えば、撹拌子の回転数を高く、撹拌子を大きく、溶液量を少なくすれば、撹拌強度を強くすることができる。逆に、撹拌子の回転数を低く、撹拌子を小さく、溶液量を多くすることで、撹拌強度は小さくなる。例えば、本発明においては、溶液が泡立つ程度の撹拌強さを強い撹拌とした。
【0080】
次に、図3に示すナノ構造体A〜Eを用いて金属ナノ構造体を製造するフローの一例について説明する。ナノ構造体Aは陽極酸化直後の多孔質酸化皮膜ナノ構造体である。ナノ構造体Aは細孔拡大処理により細孔をそのセル径近くまで拡大した多孔質酸化皮膜ナノ構造体となる(ナノ構造体B)。次に、ナノ構造体Bを鋳型として触媒活性勾配を与えることにより、無電解めっき処理によりナノ構造体Bの最表面から細孔底部に至る領域まで金属ナノ粒子が均一に分散する(ナノ構造体C)。さらに無電解めっき処理を続けることによりナノ構造体Bの最表面から細孔底部に至る領域まで金属ナノ粒子が連続膜として均一にコーティングされ、ナノポーラス膜となる(ナノ構造体D)。そして、ナノ構造体Dから最表面(凸部)に存在する金属を化学的(溶液処理)或いは物理的(研磨等)に除去し、さらに鋳型を部分的に除去してナノチューブが得られる(ナノ構造体E)。鋳型の除去は酸性溶液或いはアルカリ性溶液により行うことができる。
【0081】
例えば、本実施形態では、最表面(凸部)に存在する金属を除去するために、1μmのアルミナ研磨紙により機械研磨し、15vol%KOH溶液で25℃、5〜10分間、もしくは5vol%リン酸+3vol%CrO3溶液で75℃、1〜10分間浸漬して鋳型のアルミナのみを選択的に除去したが、これらに限られるものではない。
【0082】
ここで、図3のナノ構造体Eにおいては、その下部領域において多孔質酸化皮膜の鋳型により支持されている状態であるが、さらに鋳型を除去すれば、ナノ構造体Eを鋳型から取り出すことも可能である。また、最表面(凸部)に存在する金属を除去せずに、ナノ構造体が形成された金属膜として、例えば高性能触媒等として用いることも可能である。
【0083】
尚、無電解めっき処理時間を制御することにより、金属ナノ構造体をナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはそれらの複合体とすることが可能である。例えば、無電解めっき処理時間を短くすれば、ナノ細孔内には粒子がまばらに付着したような構造になり、無電解めっき処理時間を長くするにつれて、ナノ細孔内に金属粒子が充填されていき、最終的にはナノロッドやナノワイヤーとなる。
【0084】
このようにして得られた金属ナノ構造体であるナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーは、電子デバイスやマイクロデバイス、量子効果デバイスや発光デバイス、高機能性触媒、分子分別素子や分子認識素子、電気化学センサー、バイオセンサー等として利用可能である。
【0085】
また、本発明により得られる金属ナノ構造体は、電極として非常に好適な材料であり、硫酸電解法による水素製造用電気化学セルの電極や硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セル用電極に供することができる。
【0086】
ここで、硫黄サイクルハイブリッド法の温度と各反応工程を図26に示す。硫黄サイクルハイブリッド法は、熱分解工程(熱化学法)と電気分解工程(電気分解法)で構成されている。熱分解工程では、電気分解により得られた硫酸(H2SO4)が80℃を越える温度で蒸発し始める。
H2SO4 (液相) → H2SO4 (気相) (熱分解工程1)
【0087】
次に、500℃付近で、硫酸は三酸化硫黄(SO3)と水(H2O)に分解する。
H2SO4(気相) → SO3(気相)+H2O(気相) (熱分解工程2)
【0088】
さらに、三酸化硫黄は850℃付近で、二酸化硫黄(SO2)と酸素(O2)に分解する。
SO3(気相) → SO2(気相) + 1/2 O2(気相) (熱分解工程3)
【0089】
次に、このSO2とO2の混合ガスからSO2を分離し、もう一度電気分解槽に送り込むと水との平衡反応により亜硫酸(H2SO3)が生成する。
SO2(気相) + H2O(液相) → H2SO3(液相) (亜硫酸再生工程)
【0090】
電気分解では、カソード(陰極)側で水素イオンが還元され、水素ガスを生成する。
アノード(陽極)側で亜硫酸(SO2ガス)が酸化され、副生成物として硫酸ができる。
電気分解工程:カソード(陰極)反応:2H+ +2e → H2(気相)
アノード(陽極)反応:SO2 + 2H2O → 2H++ H2SO4+2e
Total反応: SO2 + 2H2O → H2 + H2SO4
【0091】
硫酸は熱分解工程により再び分解され、上記サイクルの中で繰り返し使用される。電極は、電気分解で副生成物として得られた硫酸に曝されることになるため、高い耐硫酸特性が不可欠となる。また、電流の増加とともに得られる水素量も増加するので、ジュール熱による効率低下を防ぐため、高い電子導電性を有することが重要である。
【0092】
本発明の金属ナノ構造体は、金属がナノメートルレベルの大きさの粒子状もしくは針状であり、表面が粗な状態であるから、表面積が非常に大きい。したがって、反応ガスと金属の接触面積の向上により反応場が増大し、電極及び触媒特性が向上する。さらには、高コストな金属であっても少量でナノ構造体を形成できるので、低コスト化も可能となる。この点からも、非常に優れた電極を提供でき、特に、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用の電気化学セルの陽極電極として非常に好適な電極を提供できる。また、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属或いは2種以上を含む合金で形成された金属ナノ構造体は水素に対しても高い触媒能を持ち、且つ高い表面積であるため、水素析出に対する陰極過電位も低くなり、硫黄サイクルハイブリッド水素製造用水素製造用の電気化学セルの陰極電極としても非常に好適な電極を提供できる。
【0093】
尚、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本発明の多孔質酸化皮膜ナノ構造体を鋳型として用いる以外にも、他の方法で得られたナノ細孔を有する鋳型、例えば、フォトリソグラフィー等によりパターンを形成した基板を化学エッチングや電解エッチングにより微細加工したナノ細孔を有する鋳型を用いてもよい。
【実施例】
【0094】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれに限定されるものではなく、適宜発明の範囲内で変更できるものである。
【0095】
(実施例1)
リン酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは高純度アルミニウム板(和光、アルミニウムー板状、99.99%)を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を陽極酸化に供した。アルミニウムの陽極酸化は、5℃の10vol%のリン酸溶液中に160Vで1時間、定電位電解により行った。次に、5vol%、30℃のリン酸溶液中に50分間浸漬してアルミナ陽極酸化皮膜の細孔拡大を行った。この試料をFE−SEM(日本電子、JSM−6340F)により観察した結果を図4(b)に示す。細孔径約300nm、セルサイズ(細孔間距離)約400nmで、基板とほぼ垂直に並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体が形成されていることが確認された。
【0096】
(実施例2)
実施例1で作製した多孔質アルミナナノ構造体を2価のスズイオンを含む酸溶液(塩化スズ20g/L、濃塩酸(36重量%)20mL/L)中に25℃で超音波をかけながら10秒間浸漬した後、さらに5分間、超音波をかけずに浸漬した(感受性化処理)。次に、1重量%の希薄塩酸溶液中に10秒間浸漬した。続いて、パラジウムを含む酸溶液(塩化パラジウム0.5g/L、濃塩酸(36重量%)10mL/L)中に25℃で超音波をかけながら5秒間浸漬した後、さらに10分間、超音波をかけずに浸漬して、再び1重量%の希薄塩酸溶液中に10秒間浸漬した(活性化処理)。これら一連の処理により、触媒核(パラジウム金属コロイド)の量をアルミナ細孔開口部に比べて細孔内(底)部の方が多くなるようにした。
【0097】
続いて、パラジウムめっき浴で無電解めっきを行い、パラジウム金属をアルミナ細孔の壁に析出させた。めっき浴には、主塩として塩化パラジウム5g/L、還元剤として次亜りん酸ナトリウム10g/L、錯化剤としてエチレンジアミン10mL/L、添加剤(平滑化剤、密着性改善剤)としてチオ二酢酸を30ppm、pH調整剤およびpH緩衝剤として酢酸ナトリウムを10g/L用い、温度40℃で撹拌(中程度)しながら30秒間浸漬した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図5に示す。アルミナ皮膜の最表面(凸部)と細孔内部でイオン輸送速度に差がある(最表面(凸部)の方がイオン輸送速度が速い)にも関わらず、アルミナ皮膜の最表面(凸部)に比べて細孔内部に触媒核をより多く担持させているため、パラジウムめっきはアルミナ皮膜の最表面と細孔内部にほぼ同一な速度で進行し、多孔質アルミナナノ構造体の形状を反映した、表面開放口を有する貫通型のナノポーラス構造体(外径約300nm、内径約220nm、長さ約3.0μm、アスペクト比約7)ができていることが確認された(図5(c)参照)。したがって、めっき時間を短くすることで、細孔底部までめっきされなくなり、その両端が開口している貫通型のナノチューブ配列構造体を作製できることが確認された。また、チューブ下部に5〜80nm径のナノ粒子が分散していることが確認された(図5(d)参照))。つまり、本実施例で得られたナノ構造体はナノチューブとナノ粒子の複合体であることが確認された。尚、図5(b)の矢印に示されるように、表面のPd層は連結しており、表面にアルミナ壁が露出していないことが確認された。したがって、本実施例で得られたナノチューブ配列構造体を電極材料として利用できることが明らかとなった。
【0098】
(実施例3)
実施例1で作製した多孔質アルミナナノ構造体を用い、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を1分間で行うことにより、アルミナ細孔内部とアルミナ皮膜の最表面の触媒活性勾配をさらに大きくして、アルミナ細孔内部の触媒活性を更に高い状態とした。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、実施例2よりも低い温度(35℃)、強い撹拌で2分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図6に示す。パラジウムがアルミナ細孔中に開口部から底部まで全体的に均一に析出し、一端が閉塞した高いアスペクト比(約13)を有する片閉鎖型パラジウムナノチューブ(外径300nm、内径約50nm、長さ5μm)の配列構造体が形成されることが確認された。
【0099】
(実施例4)
実施例1で作製した多孔質アルミナナノ構造体を用い、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を1分間で行うことにより、アルミナ細孔内部とアルミナ皮膜の最表面の触媒活性勾配をさらに大きくして、アルミナ細孔内部の触媒活性を更に高い状態とした。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、実施例3よりも更に低い温度(30℃)、弱い撹拌で5分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図7に示す。アルミナ皮膜の細孔の開口部と内部のイオン輸送率の差によって、皮膜の上部にはパラジウム粒子が集合して連続なナノポーラス膜が形成され、多孔質アルミナナノ構造体の皮膜下部にはナノ粒子が分散した状態となり、複合ナノ構造体をできることが確認された。
【0100】
以上、実施例2〜4の結果から、感受性化処理〜活性化処理までのサイクル数の増減によりアルミナ細孔内部とアルミナ皮膜の最表面の触媒活性勾配を制御すること、温度と撹拌強度を制御してアルミナ皮膜の細孔の開口部と内部のイオン輸送率の差を制御することにより、パラジウムナノ構造体の構造制御を行うことが可能であることが明らかとなった。
【0101】
(実施例5)
実施例3で作製したパラジウムナノチューブ配列構造体をEDS(日本電子、JXA−8900R)により分析した結果を図8に示す。2keV付近にリン原子のKαピークが検出されたことから、無電解めっきにより形成したパラジウムは、リン元素を取り込んでいることが確認された。すなわち、作製したパラジウムナノチューブ配列構造体は、純パラジウムではなく、Pd−P合金であることが明らかになった。更に、EPMA定量分析(日本電子、JXA−8900R)をおこなった結果、リンは無電解めっきPd−P合金の中におよそ7〜12原子%を占めることがわかった。
【0102】
(実施例6)
実施例3で作製したパラジウムナノチューブ配列構造体をXRD(日本電子、JDX8030)により分析した結果を図9(a)に示す。尚、図9(b)はガラス上に形成した粉末状パラジウムのXRD分析結果である。これらの結果から、パラジウムナノチューブが多結晶構造であり、ピークの積分強度から見ると、ガラス上に形成した粉末状パラジウムと比べ、「111」結晶面に優先的に配向する傾向があることが確認された。また、パラジウムとリンの化合物ピークが検出されなかったため、リンは固溶状態としてPd−P合金に存在していることが示唆された。
【0103】
(実施例7)
クエン酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、20℃、4vol%のクエン酸溶液中で、370V、1時間定電位電解することにより陽極酸化した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図10に示す。細孔径約200nm、セルサイズ(細孔間距離)約950nmで、基板とほぼ垂直して並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体が形成されることが確認された。
【0104】
(実施例8)
硫酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、−0.1℃、10vol%の硫酸溶液中で70V、1時間定電位電解することにより陽極酸化した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図11に示す。細孔径約40nm、セルサイズ(細孔間距離)約130nm、垂直方向と平面方向の両方とも規則的並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体が形成されることが確認された。
【0105】
(実施例9)
シュウ酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、20℃の2重量%のシュウ酸溶液中に80Vで20分間、定電位電解して陽極酸化を行った。次に、5vol%、30℃のリン酸溶液中に20分間浸漬してアルミナ陽極酸化皮膜の細孔拡大を行った。この試料をFE−SEM(により観察した結果を図4(a)に示す。、細孔径約80〜100nm、セルサイズ(細孔間距離)約200nm、膜厚さが15μm、垂直方向と平面方向の両方とも規則的並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体を形成した。
【0106】
続いて、この多孔質アルミナナノ構造体を鋳型として、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を3サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2、3サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、50℃、強い撹拌で15秒間または3分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図17に示す。図17(a)は無電解めっき時間が15秒間、(b)は3分間である。図17に示すように、シュウ酸溶液により陽極酸化を行った多孔質アルミナナノ構造体を鋳型とした場合には、細孔拡大処理しても、細孔径が100nm程度と小さいため、細孔内部までめっき液が循環しにくく、Pdイオンなどの補給が不足して、Pdがアルミナ皮膜の最表面(凸部)に優先的に析出することがわかった。
【0107】
(実施例10)
クエン酸溶液によりアルミニウムを陽極酸化して多孔質アルミナナノ構造体を作製した。アルミニウムは実施例1と同様の高純度アルミニウム板を用い、前処理としてアセトン中で10分間超音波洗浄した試料を、20℃の2重量%のクエン酸溶液中に300Vで1.5時間、定電位電解して陽極酸化を行った。次に、70℃の5容積%リン酸+3重量%のクロム酸の混合酸溶液中に25分間浸漬してアルミナ陽極酸化皮膜の細孔拡大を行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図4(c)(d)に示す。、細孔径約600nm、セルサイズ(細孔間距離)約700nm、垂直方向と平面方向の両方とも規則的並列する細孔を有する多孔質アルミナナノ構造体を形成した。
【0108】
続いて、この多孔質アルミナナノ構造体を鋳型として、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。そして、実施例2と同様のパラジウムめっき浴中に、50℃、強い撹拌で6分間無電解めっきを行った。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図18に示す。図18に示すように、クエン酸溶液により陽極酸化を行った多孔質アルミナナノ構造体を細孔拡大処理して鋳型とした場合には、その細孔径が600nm程度と大きいため、細孔内部へのめっき液の循環とイオン補給が容易となり、細孔内部とアルミナ皮膜の最表面(凸部)での析出速度の差が小さくなり、均一なめっき膜が得られることが確認された。また、めっき時間が6分間と比較的長いにも関わらず、表面細孔を封鎖することなく、約6μm程度の貫通型ナノチューブを形成可能であることが確認された。
【0109】
(実施例11)
実施例9と同様の方法でシュウ酸中で陽極酸化して得られたアルミナ皮膜を、細孔拡大処理20分間した後に鋳型として用い、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。続いて、白金めっき浴で無電解めっきを行い、白金をアルミナ細孔の壁に析出させた。めっき浴には、主塩として塩化白金酸カリウムを0.01mol/L、還元剤として次亜りん酸ナトリウム0.2mol/L、副還元剤としてヒドラジン50ml/L、錯化剤として塩酸ヒドロキシルアミン50mL/L、pH調整剤およびpH緩衝剤としてアンモニア水溶液を100ml/L用い、めっき添加剤と促進剤としてPdイオン100ppm程度を添加し、pH11−13、温度70℃で強い撹拌をしながら30秒間浸漬した。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図19に示す。この場合には、Ptは主にアルミナ皮膜の最表面(凸部)に被覆され、Ptナノ粒子が内部に間欠的に担持されていることが確認された。
【0110】
(実施例12)
【0111】
実施例1のリン酸陽極酸化アルミナ皮膜を、細孔拡大したものとしないものの2種類を鋳型として、実施例11と同様の処理により白金をアルミナ細孔の壁に析出させた。これら試料をFE−SEMにより観察した結果を図20に示す。図20において、(a)、(b)は無電解めっき時間が2分間で、細孔拡大処理をした鋳型を用いた場合、(c)、(d)は無電解めっき時間が6分間で、細孔拡大処理していない鋳型を用いた場合の結果である。この場合には、細孔拡大処理の有無に依らず、アルミナ細孔壁に沿って細孔底部までPt薄膜を被覆可能であることが確認された。
【0112】
以上、実施例11及び12の結果から、鋳型である多孔質アルミナナノ構造体の細孔径が50nm以上の場合には、細孔拡大処理をせずとも、細孔内部から多孔質アルミナ皮膜の最表面(凸部)にかけて均一にPt被覆することが可能であることが確認された。
【0113】
(実施例13)
実施例10と同様の方法によりクエン酸陽極酸化と細孔拡大して得られた多孔質アルミナナノ構造体を鋳型とし、実施例2に記載した感受性化処理〜活性化処理を2サイクル行った。ここで、1サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒、2サイクル目の希薄酸浸漬処理を30秒で行った。続いて、実施例11と同様の条件で白金めっき浴で無電解めっきを行い、白金をアルミナ細孔の壁に析出させた。この試料をFE−SEMにより観察した結果を図21に示す。図21において、(a)は無電解めっき時間3分間、(b)及び(c)は無電解めっき時間6分間、(d)は無電解めっき時間8分間である。
【0114】
図21に示されるように、アルミナ被膜最表面から細孔壁に沿って細孔底部までPt薄膜を被覆できることが確認され、内孔径400〜500nm、外径約600nm、長さ約4〜10μmのナノチューブ配列構造体が得られた。図21(d)に示すDの塔状結晶は、図21(c)に示すAの触媒核からBの枝状結晶に成長し、続いてCのように疑集し形成されたものである。なお、枝状結晶の成長過程はめっき時間に依存することがわかった。Ptナノチューブ内壁面は集合粒子Cで覆われ、壁の内部に向かって枝状結晶Bが形成されていた。このことから、Pdナノチューブより大きい表面積を有することが推測できる。さらに、皮膜表面は塔状結晶で覆われているため、Pdナノ粒子層のように緻密でなく、めっき時間を長くしても、細孔表面を封鎖せず、容易に表面積を増加させることができることが判った。
【0115】
(実施例14)
実施例10で得られたPdナノチューブ配列構造体と、実施例13で得られたPtナノチューブ配列構造体をEDX(日本電子、JXA−8900R)により分析した。結果を図22に示す。Pdナノチューブは、2keV付近にリン原子のKαピークが検出され、定量した結果、5〜10原子%のPを含み、Pd−P合金が形成されていることがわかった。一方、Ptナノチューブは、Pt Mαピークの他に、Pd Lαピークも検出され、Pd元素がPtに取り込まれており、Pt中に約10原子%のPdを含有していた。これは、活性化処理により形成した触媒核、並びにめっき添加剤のPdイオンが還元されたことに起因と考えられる。つまり、無電解めっきで得られたPtは、Pt−Pd合金であることがわかった。この結果から、二種金属の合金めっきをアルミナ細孔の表面に被覆することが可能であることが確認された。
【0116】
(実施例15)
実施例10で得られたPdナノチューブ配列構造体と、実施例13で得られたPtナノチューブ配列構造体をXRDにより分析した。結果を図23に示す。Pd、Ptナノチューブともに結晶質であることが判った。また、ピーク位置から結晶構造を推定すると、双方とも立方晶系の単相合金であり、取り込まれたPおよびPd元素は、固溶状態として存在していることがわかった。また、ピーク強度から判断すると、Pt層の結晶化度はPd層よりも比較的高いことが明らかとなった。
【0117】
(実施例16)
実施例2及び実施例3により得られたPdナノチューブ配列構造体を25℃の50重量%硫酸中で電解してサイクリックボルタンメトリー測定(北斗電工株式会社、電気化学測定システムHZ−3000、Scan speed:20mV/s。作用電極:Pdナノチューブ配列構造体、対電極:白金。参照電極:Hg/HgSO4)をおこない、対極に対して作用電極の電位を変化させることによる作用電極の電極反応のメカニズムについて調査した。得られたサイクリックボルタンメトリー曲線を図24に示す。尚、図24において、(a)は実施例2のPdナノチューブ配列構造体を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果、(b)は実施例3のPdナノチューブ配列構造体を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果であり、グラフの横軸は標準水素電極に準じる電位を示す。
【0118】
図24に示される結果から、陽極側に電位を変化させた場合と陰極側に電位を変化させた場合の両方とも大電流が流れることが確認されたことから、いずれのPdナノチューブ配列構造体も優れた導電性が持つことが判明した。また、めっき層は、6Vまで電解しても溶解が起こらず、また、80℃の50重量%の硫酸溶液に1000時間に浸漬しても溶解が起こらず、高い化学的安定性を有することが判明した。これらの結果から、Pdナノチューブ配列構造体は、硫酸電解において陽極に限らず陰極としても利用できることがわかった。
【0119】
また、電流密度200mA/cm2時のアノードおよびカソード側の過電圧は、それぞれ、1750mVと−750mVであり、陽極に比べて陰極の方が高電流が流れることが確認された。すなわち、パラジウム金属の水素に対する高触媒性により水素の還元反応が促進されることに起因するものであり、Pdナノチューブ配列構造体を陰極と陽極として利用すればより高い水素製造効率を得られることが判明した。
【0120】
さらに、皮膜細孔底部までPdチューブ状になった試料(実施例3、図24(b))、部分的にPdチューブ状になった試料(実施例2、図24(a)ともボルタモグラムの再現性に優れたことから、Pdナノチューブ配列構造体が長期間の使用に耐えうる電極となることが明らかとなった。
【0121】
また、図24に示すように、水素吸収―放出ピークが観察され、水素放出電流密度が、それぞれ、162mA/cm2(図24(a))と123mA/cm2(図24(b))の値を示した。これは、部分的にチューブ状になった試料の方が細孔径が大きく、細孔下部もPdナノ粒子で覆われているため、より大きい表面積を有するためと考えられる。一方、両者のボルタモグラムの水素放出面積はほとんど変わらないことから、完全なチューブを形成しなくても、水素吸蔵量は同等であることがわかった。つまり、Pdナノチューブ配列構造体は、触媒電極のほかに、水素吸蔵材料としても応用できる可能性があることが明らかとなった。
【0122】
(実施例16)
実施例13により得られたPtナノチューブ配列構造体を25℃の50重量%硫酸中で電解してサイクリックボルタンメトリー測定(北斗電工株式会社、電気化学測定システムHZ−3000、Scan speed:20mV/s。作用電極:Ptナノチューブ配列構造体、対電極:白金。参照電極:Hg/HgSO4)をおこない、対極に対して作用電極の電位を変化させることによる作用電極の電極反応のメカニズムについて調査した。得られたサイクリックボルタンメトリー曲線を図25に示す。尚、図25において、実線は実施例13のPdナノチューブ配列構造体を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果、点線は標準試料としたPt板を作用電極としてサイクリックボルタンメトリー測定を行った結果であり、グラフの横軸は標準水素電極に準じる電位を示す。
【0123】
図25に示される結果から、Ptナノチューブ配列構造体は、陽極側に電位を変化させた場合と陰極側に電位を変化させた場合の両方とも大電流が流れることが確認されたことから、優れた導電性が持つことが判明した。特に、陽極側に電位を変化させた場合、Pt板より低い電位を示したことから、陽極として利用する際にPt板より高い電解効率を得られることが考えられる。また、めっき層は、6Vまで電解しても溶解が起こらず、高い化学的安定性を有することが判明した。これらの結果から、Ptナノチューブ配列構造体は、Pdナノチューブ配列構造体と同様、硫酸電解において陽極と陰極として利用できることがわかった。
【0124】
また、バルク材料である白金板の測定結果と比較すると、Ptナノチューブ配列構造体の膜厚は格段に薄いにも関わらず、基材の細孔内に均一にしかも粒子状にめっきされることによる表面積の増加の効果により、ほとんど電気特性がかわらなかった。つまり、本発明により作製したPtナノチューブ配列構造体は、白金の様な貴金属を少量用いるだけでもバルク材料とそれほど遜色のない過電圧を得ることができるため低コスト化を図ることが可能であることが確認された。
【0125】
以上、アルミニウムの陽極酸化と無電解めっきの併用により、内径80〜500nm、外径100〜600nm、長さ3〜10μmを有するPdとPtナノチューブ複合電極の作製が可能であることが確認された。また、ナノチューブ複合電極の硫酸電解における過電圧は、水素製造用の電解電極として十分に利用可能なものであった。さらに、PdとPtナノチューブなの構造体は、燃料電池電極、水素吸蔵材料及び電気化学合成電極などへの応用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の基体に接合した金属ナノチューブ配列構造体の製造プロセス(触媒性工程を除く)を示す図である。
【図2】本発明の基体への触媒性処理工程を示す図である。
【図3】本発明で作製することが可能なナノ構造体の一例を示す図である。
【図4】本発明のアルミニウム板を陽極酸化し、細孔拡大処理した後のナノポーラスアルミナ皮膜の表面電子顕微鏡写真であり、(a)はシュウ酸、(b)はリン酸、(c)及び(d)はクエン酸を陽極酸化の電解液として用いた場合である。
【図5】本発明の複合プロセスにより作製した両端開口型のパラジウムナノチューブ配列構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)、(c)及び(d)は破断面である。
【図6】本発明の複合プロセスにより作製した一端閉塞型のパラジウムナノチューブ配列構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図7】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブと分散しているパラジウムナノ粒子を共存する複合ナノ構造体の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図8】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体のEDSスペクトルである。
【図9】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体のXRDパターンである。
【図10】クエン酸中で限界高電位陽極酸化による形成したナノポーラスアルミナ皮膜の破断面電子顕微鏡写真である。
【図11】硫酸中で高電場陽極酸化による形成した規則化ナノポーラスアルミナ皮膜の表面電子顕微鏡写真である。
【図12】Al陽極酸化の基本原理について示した図である。
【図13】定電位で陽極酸化を行ったときの電流の時間変化(a)および低電流で陽極酸化を行ったときの電圧の時間変化(b)を示す図である。
【図14】図13の過渡期A、B、C、Dにおける陽極酸化状態を示す図である。
【図15】10℃〜40℃において陽極酸化した場合の電流と印加電位の関係を示す図である。
【図16】アノード電位に対する細孔数の変化(a)と細孔径の変化(b)を示す図である。
【図17】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブと分散しているパラジウムナノ粒子を共存する複合ナノ構造体の破断面の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図18】本発明の複合プロセスにより作製した両端開口型のパラジウムナノチューブ配列構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図19】本発明の複合プロセスにより作製した白金ナノチューブと分散している白金ナノ粒子を共存する複合ナノ構造体の電子顕微鏡写真であり、(a)は表面、(b)は破断面である。
【図20】本発明の複合プロセスにより作製した白金ナノチューブの電子顕微鏡写真であり、(a)及び(c)は表面、(b)及び(d)は破断面である。
【図21】本発明の複合プロセスにより作製した白金ナノチューブの電子顕微鏡写真であり、(a)及び(d)は表面、(b)及び(c)は破断面である。
【図22】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体(a)と白金ナノチューブ配列構造体(b)のEDXスペクトルである。
【図23】本発明の複合プロセスにより作製したパラジウムナノチューブ配列構造体(a)と白金ナノチューブ配列構造体(b)のXRDスペクトルである。
【図24】パラジウムナノチューブ配列構造体のサイクリックボルタモグラムである。
【図25】白金ナノチューブ配列構造体のサイクリックボルタモグラムである。
【図26】硫黄サイクルハイブリッド法の概念図である。
【符号の説明】
【0127】
2 基体
3 アルミナ皮膜
4 ナノ構造体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノサイズの細孔を有するナノ構造体を鋳型とし、金属M2よりも酸化還元電位の低い金属M3のイオンを含む溶液に超音波をかけながら前記鋳型を浸漬して前記鋳型に金属イオンM3を担持させる工程と、前記金属イオンM3を担持した前記鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、前記金属M2のイオンを含む溶液に超音波をかけながら前記金属イオンM3を担持した前記鋳型を浸漬して前記鋳型に金属M2のコロイドを担持させる工程と、前記金属イオンM2のコロイドを担持した前記鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、金属M1のイオン及び還元剤を含み平滑化剤の濃度を50ppm以下とした溶液に前記金属M2のコロイドを担持した前記鋳型を浸漬する無電解めっき工程とを含むことを特徴とする金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径を20〜300nm、セル径を130〜950nmに制御した多孔質酸化皮膜を鋳型とする請求項1に記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質酸化皮膜を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大して鋳型とする請求項2に記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記無電解めっき処理工程の時間および撹拌強さを制御して、前記鋳型中にナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を形成する請求項1〜3いずれかに記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記鋳型を除去してナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を形成する請求項1〜4いずれかに記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記金属M1がパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属或いは2種以上を含む合金である請求項1〜5いずれかに記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた触媒。
【請求項8】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極。
【請求項9】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極により構成された電気化学セル。
【請求項10】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極により構成された硫酸電解法による水素製造用電気化学セル。
【請求項11】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極により構成された硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セル。
【請求項12】
アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜を形成することを特徴とする多孔質酸化皮膜ナノ構造体の製造方法。
【請求項13】
前記多孔質酸化皮膜ナノ構造体を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大することを特徴とする請求項12に記載の多孔質酸化皮膜ナノ構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項12または13の製造方法により得られる、細孔径が20〜900nm、セル径が130〜950nmである多孔質酸化皮膜ナノ構造体。
【請求項1】
ナノサイズの細孔を有するナノ構造体を鋳型とし、金属M2よりも酸化還元電位の低い金属M3のイオンを含む溶液に超音波をかけながら前記鋳型を浸漬して前記鋳型に金属イオンM3を担持させる工程と、前記金属イオンM3を担持した前記鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、前記金属M2のイオンを含む溶液に超音波をかけながら前記金属イオンM3を担持した前記鋳型を浸漬して前記鋳型に金属M2のコロイドを担持させる工程と、前記金属イオンM2のコロイドを担持した前記鋳型を希薄酸溶液に浸漬する工程と、金属M1のイオン及び還元剤を含み平滑化剤の濃度を50ppm以下とした溶液に前記金属M2のコロイドを担持した前記鋳型を浸漬する無電解めっき工程とを含むことを特徴とする金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項2】
アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径を20〜300nm、セル径を130〜950nmに制御した多孔質酸化皮膜を鋳型とする請求項1に記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質酸化皮膜を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大して鋳型とする請求項2に記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項4】
前記無電解めっき処理工程の時間および撹拌強さを制御して、前記鋳型中にナノ粒子、ナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を形成する請求項1〜3いずれかに記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項5】
前記鋳型を除去してナノポーラス膜、ナノチューブ、ナノロッド、ナノワイヤーもしくはこれらの複合体を形成する請求項1〜4いずれかに記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記金属M1がパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、金(Au)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)の群より選ばれた1種もしくは2種以上の金属或いは2種以上を含む合金である請求項1〜5いずれかに記載の金属ナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた触媒。
【請求項8】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極。
【請求項9】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極により構成された電気化学セル。
【請求項10】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極により構成された硫酸電解法による水素製造用電気化学セル。
【請求項11】
請求項6に記載の製造方法により得られる金属ナノ構造体を用いた電極により構成された硫黄サイクルハイブリッド水素製造用電気化学セル。
【請求項12】
アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(Hf)からなる群より選ばれた1種の金属もしくは2種以上を含む合金或いはシリコン(Si)、窒化ガリウム(GaN)、リン化インジウム(InP)を含む基体を、電解液の濃度と温度を制御しつつ、70〜500Vで陽極酸化して、細孔径が20〜300nm、セル径が130〜950nmに制御された多孔質酸化皮膜を形成することを特徴とする多孔質酸化皮膜ナノ構造体の製造方法。
【請求項13】
前記多孔質酸化皮膜ナノ構造体を希薄酸性溶液または希薄アルカリ性溶液に浸漬して多孔質構造を保ちつつ、細孔径をセル径に近い大きさまで拡大することを特徴とする請求項12に記載の多孔質酸化皮膜ナノ構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項12または13の製造方法により得られる、細孔径が20〜900nm、セル径が130〜950nmである多孔質酸化皮膜ナノ構造体。
【図3】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図22】
【図23】
【図24】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図25】
【図26】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図22】
【図23】
【図24】
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図10】
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【図12】
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【図20】
【図21】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2007−98563(P2007−98563A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63410(P2006−63410)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月8日 社団法人電気化学会発行の「2005年電気化学秋季大会 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月3日、4日 社団法人電気化学会共催の「EPTM2005国際シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月8日 社団法人電気化学会発行の「2005年電気化学秋季大会 講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月3日、4日 社団法人電気化学会共催の「EPTM2005国際シンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】
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