ナノ構造体を用いたセンサ素子、分析チップ、分析装置、センサ素子の製造方法、分析方法
【課題】流路において露出したナノ構造体を有するセンサ素子であり、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を提供する。
【解決手段】センサ素子1は、溝部5が設けられた面を有する基板2と、溝部5内で当該溝部5の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板5と一体に構成されたシリコンナノワイヤ3と、を有し、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底面から離間している。
【解決手段】センサ素子1は、溝部5が設けられた面を有する基板2と、溝部5内で当該溝部5の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板5と一体に構成されたシリコンナノワイヤ3と、を有し、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底面から離間している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体を用いたセンサ素子に関し、特にシリコンナノワイヤを用いたセンサ素子及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤのようなナノ構造体は、電極間に配置することによりトランジスタを構成し、センサ等に利用されている。例えば特許文献1には、ナノワイヤを基板上に配置し、試料を流すための流路を形成したPDMS(ポリメチルシロキサン)板を、上記基板に張り合わせることにより、流路中にナノワイヤを配置させたバイオセンサが開示されている。
【0003】
このようなナノワイヤの製造方法は2つに大別され、一方は、金属触媒等を用いてナノワイヤを成長させ、塗布及び配列技術を用いて基板に配置させるボトムアップの製造方法である。他方は、シリコン基板またはSOI基板などに、半導体微細加工技術を用いてナノワイヤを形成するトップダウンの製造方法である。
【特許文献1】特表2004−515782号公報(2004年5月27日公表)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ナノワイヤを用いたセンサにおいて、ボトムアップの製造方法でナノワイヤを形成すると、ナノワイヤを成長により形成し、塗布や配列技術を用いて電極間に配置するため、ナノワイヤを流路の所定位置に精度よく配置することは困難である。つまり、微細なレベルでの配置制御を行うことは困難である。よって、信頼性の高いラベルフリーセンサを提供できない。他方、トップダウンの製造方法を用いた場合でも、シリコン系樹脂であるPDMS等のカバー層に流路を形成し、人為的な張り合わせにてセンサチップを作成するため、流路とナノワイヤの位置を精度よく制御することが困難である。よって、いずれの方法でも、高性能のセンサを作成することが困難である。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、流路において露出したナノ構造体を有するセンサ素子であり、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセンサ素子は、上記課題を解決するために、溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有し、上記ナノ構造体は、上記溝部の底部から離間していることを特徴としている。
【0007】
上記構成によると、ナノ構造体は基板に設けられた溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板と一体に構成されている。つまり、ナノ構造体は基板を加工することにより形成され、基板と一体不可分に形成される。
【0008】
ここで、溝部が設けられた基板の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中に上記ナノ構造体を露出して配置させることができる。なお、流路とは、試料等の溶液を流すための通路である。
【0009】
よって、上記構成によると、ナノ構造体を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、高性能な検出が可能となる。また、本発明に係るセンサ素子では、ナノ構造体と基板とが一体であるため、ナノ構造体を成長により形成し塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子と比べて、流路に流れる溶液によるナノ構造体のズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0010】
以上のことから、本発明に係るセンサ素子により、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を提供することができる。
【0011】
なお、ナノ構造体は、上記溝部の延伸方向に対して垂直に配置されていてもよいし、斜めに配置されていてもよい。
【0012】
また、上記センサ素子では、上記構成に加え、上記ナノ構造体は、上記溝部の上端部から離間していてもよい。
【0013】
上記構成によると、ナノ構造体は、溝部の底部から離間しており、さらに溝部の上端部から離間している。このような構造であると、溝部に上記したカバー層を被せて流路を形成すると、ナノ構造体の上部と下部とに流路ができる。よって、ナノ構造体の流路で露出される表面積がさらに多くなる。そのため、この増加した表面積のナノ構造体と、流路を流れる物質とを、反応させることができる。例えば、ナノ構造体にリガンドを固定化する場合、リガンドをより多く固定化できる。よって、このリガンドと反応する標的分子とも、より多く反応させることができる。その結果、センサの感度を上げることができ、より高性能な検出を行うことができる。
【0014】
ここで、上記ナノ構造体は、ナノスケールの構造体であればよく、上記ナノ構造体及び上記基板は、半導体からなっていてもよい。特に、上記ナノ構造体及び上記基板は、シリコンからなっていてもよい。
【0015】
また、上記センサ素子では、上記構成に加え、上記溝部内に、さらに、当該溝部の両壁面に懸架して設けられた金属から成る金属ナノ構造体が設けられていてもよい。
【0016】
上記構成によると、金属ナノ構造体をヒータとして用いることができる。このヒータにより、溝部からなる流路を流れる溶液の温度を変化させることができ、温度を変化させて場合の、ナノ構造体に固定したリガンドと標的分子との反応を、計測することができる。
【0017】
なお金属ナノ構造体を用いず、標的分子検出用の上記ナノ構造体をヒータとして兼用してもよい。
【0018】
また、上記センサ素子では、上記構成に加え、上記溝部に、上記ナノ構造体を複数形成するのがよい。溝部に複数のナノ構造体が形成されることにより、流路にナノ構造体が複数配置される。よって、流路内の一部のナノ構造体でキャッチできない標的分子を、流路内の複数のナノ構造体でキャッチすることにより標的分子を均一的に検出することができ、より信頼性が高いセンサを提供することが可能となる。つまり、複数のナノ構造体が配置されることで、全体的に分布した標的分子をその複数のナノ構造体でキャッチでき、平均を取り評価できるので、好ましい。
【0019】
また、上記センサ素子では、上記ナノ構造体は、マトリクス形状に設けられていてもよい。マトリクス形状であると、シングル形状に比べて、シリコンナノワイヤの欠損を防止し、シリコンナノワイヤの欠損によるセンサ素子の動作不具合を防止できる。よって、マトリクス形状のシリコンナノワイヤのセンサ素子を用いた測定時の安定性が向上する。さらに、マトリクス形状のシリコンナノワイヤであると、ナノワイヤの表面積を大きくすることができ、センサの感度をさらに向上させることができる。なお、シングル形状でもマトリクス形状でも、シリコンナノワイヤの本数に限定はない。
【0020】
また、本発明に係るセンサ素子は、上記ナノ構造体が設けられた上記溝部二つ有していてもよい。二つの溝部にそれぞれ設けられた基板と一体のナノ構造体は、上記のように、大きさが揃って精度よく配置されているため、差動型分析システムに用いることができるセンサ素子を提供することができる。
【0021】
本発明に係る分析チップは、上記何れか1つのセンサ素子を有している。また、本発明に係る分析装置は、上記分析チップを用いて、上記ナノ構造体にリガンドを固定し、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する。よって、これら分析チップや分析装置を用いることで、精度よく、また感度を上げて、標的分子の分析や検出を行うことができる。
【0022】
また、本発明に係る差動型分析チップは、上記ナノ構造体が設けられた上記溝部を二つ有するセンサ素子を有し、上記二つの溝部のうち、一方の溝部の上記ナノ構造体にはリガンドを修飾して検出部として使用し、他方の溝部のナノ構造体にはリガンドを固定せずに参照検出部として使用する、ことを特徴としている。
【0023】
ここで、サンプル溶液中にはイオン等、電極のインピータンス変化に影響を与える分子が含まれるため、標的分子がナノ構造体に固定化されているリガンドと結合することによるインピータンス変化のみを計測するためには、参照検出部を設ける必要がある。本発明に係るセンサ素子は、ナノ構造体を基板に一体に形成することで、大きさの揃ったナノ構造体の配置を精度よく行うことができるので、差動型センサ素子を実現可能である。よって、差動型センサ素子を用いた差動型分析チップや、この差動型分析チップを用い、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析装置により、検出部及び参照検出部のインピーダンス変化を測定し、検出部のインピーダンス変化量から参照検出部のインピーダンス変化量を差し引くことで、より正確な標的分子の検出が可能になる。
【0024】
本発明に係る分析装置は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析装置であって、上記ナノ構造体に電圧を印加する電圧印加部と、印加する電圧を制御する電圧制御部とを備えたことを特徴としている。
【0025】
上記構成によると、ナノ構造体に電圧を印加することで上記ナノ構造体に電流を流して、上記ナノ構造体の温度を変化させることができ、印加する電圧を制御することで、ナノ構造体の温度制御することができる。
【0026】
よって、上記構成によると、ナノ構造体の温度を制御して、ナノ構造体に固定したリガンドと標的分子との反応を計測することができる。ナノ構造体の温度制御により、ナノ構造体を含む微細空間での溶液の温度制御ができ、例えば、様々な生体分子、特に生体機能分子であるタンパク質における温度変化による単分子レベルでの反応及び生体分子間作用を調べることで、分子の構造や反応機構などを解明することができる。
【0027】
さらに、例えば、タンパク質の検出において、生化学反応は35度から40度の間で最も活性をもつので、ナノ構造体に電圧を印加しジュールヒーティングすることで、微細空間内の溶液の温度を上記のような生化学反応に最適な温度に制御すると、標的分子とリガンドとの結合(免疫反応や酵素反応など)を、より効率的に行わせることができる。このように、標的分子とリガンドとの反応を向上させることができ、よって、検出感度を高めることができる。
【0028】
上記分析装置は、電圧印加により温度を変化させることができるナノ構造体を備えたセンサ素子であれば用いることができる。なお、ナノ構造体を効率よく発熱させるためには、架橋形のナノ構造体を有するセンサ素子が好ましく、上記したいずれかのセンサ素子を用いてもよい。
【0029】
本発明に係る分析装置は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析装置であって、上記ナノ構造体を振動させる振動手段と、上記ナノ構造体の振動数を測定する測定手段とを備えたことを特徴としている。
【0030】
ナノ構造体の固有振動数は、標的分子がナノ構造体の表面に固定化されたリガンドと結合すると、この結合前と後とでは、変化する。よって、結合前のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、結合後のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、振動数の変化を計測することで、標的分子を検出することができる。なお、結合していなければ振動数は変化しない。
【0031】
さらに、ナノ構造体の固有振動数の変化はナノ構造体に固定化されたリガンドと標的分子の結合量に比例し変化するため、ナノ構造体の固有振動数の変化を計測することによりサンプル中の標的分子の検量が可能になる。
【0032】
ここで、上記振動手段は、上記ナノ構造体に光を照射し、上記ナノ構造体を光熱励振させてもよい。このように、光を照射してナノ構造体を光熱励振させる光熱励振法を用いることで、効果的にナノ構造体を振動させることができる。上記光はレーザ光を用いることができる。
【0033】
上記分析装置は、固有振動数を有するナノ構造体を備えたセンサ素子であれば用いることができる。なお、振動数を測定するためには、架橋形のナノ構造体を有するセンサ素子が好ましく、上記したいずれかのセンサ素子を用いてもよい。
【0034】
本発明に係るセンサ素子の製造方法は、上記課題を解決するために、溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有するセンサ素子の製造方法であって、上記溝部と上記ナノ構造体とを同時に、かつ、上記ナノ構造体を上記溝部の底面から離間して、形成するステップを含むことを特徴としている。
【0035】
上記方法によると、上記センサ素子と同様の効果を奏し、上記方法により、簡易に、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を製造することができる。
【0036】
本発明に係る分析方法は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析方法であって、上記ナノ構造体に印加する電圧を制御することで、上記ナノ構造体の温度制御を行うステップを含むことを特徴としている。
【0037】
上記方法によると、ナノ構造体に電圧を印加することで上記ナノ構造体に電流を流して、上記ナノ構造体の温度を変化させることができる。よって、印加する電圧を制御することで、ナノ構造体の温度制御することができる。そのため、ナノ構造体の温度を制御して、ナノ構造体に固定したリガンドと標的分子との反応を計測することができる。さらに、温度制御によって、標的分子とリガンドとの反応を向上させることができ、検出感度を高めることができる。
【0038】
本発明に係る分析方法は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析方法であって、
上記ナノ構造体を振動させる振動ステップと、上記ナノ構造体の振動数の変化を計量する計量ステップとを含むことを特徴としている。
【0039】
ナノ構造体の固有振動数は、標的分子がナノ構造体の表面に固定化されたリガンドと結合すると、この結合前と後とでは、変化する。よって、結合前のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、結合後のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、振動数の変化を計測することで、標的分子を検出することができる。なお、結合していなければ振動数は変化しない。
【0040】
さらに、ナノ構造体の固有振動数の変化はナノ構造体に固定化されたリガンドと標的分子の結合量に比例し変化するため、ナノ構造体の固有振動数の変化を計測することによりサンプル中の標的分子の検量が可能になる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るセンサ素子は、以上のように、溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有し、上記ナノ構造体は、上記溝部の底部から離間している。
【0042】
上記構成によると、ナノ構造体は基板に設けられた溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板と一体に構成されている。つまり、ナノ構造体は基板を加工することにより形成され、基板と一体不可分に形成される。
【0043】
ここで、溝部が設けられた基板の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中に上記ナノ構造体を露出して配置させることができる。なお、流路とは、試料等の溶液を流すための通路である。
【0044】
よって、上記構成によると、ナノ構造体を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、高性能の検出が可能となる。また、本発明に係るセンサ素子では、ナノ構造体と基板が一体であるため、ナノ構造体を成長により形成し塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子と比べて、流路に流れる溶液によるナノ構造体のズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0045】
以上のことから、本発明に係るセンサ素子により、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、ナノ構造体は、ナノスケールの構造体であればよく、以下の実施形態では、検出に用いるナノ構造体をシリコンナノワイヤとする。しかし、検出に用いるナノ構造体は、例えば、窒化ガリウムナノワイヤ、ガリウム砒素ナノワイヤ、酸化亜鉛ナノワイヤ等であってもよく、半導体材料であれば適用可能である。
【0047】
〔実施の形態1〕
<センサの構造>
初めに、本発明に係るセンサ素子の構造について説明する。図1は本実施形態1のセンサ素子1が有するシリコンナノワイヤ3近傍を示す斜視図である。また、図2は、センサ素子1の上面図である。
【0048】
図1に示すように、センサ素子1は、溝部5が設けられた面を有する基板2と、ナノ構造体であるシリコンナノワイヤ3を有している。またセンサ素子1には、カバー層4が設けられている。
【0049】
シリコンナノワイヤ3は、溝部5内で溝部5の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板2と一体に構成されている。さらに、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底部(底面)からも、溝部5の上端部からも離間している。なお、本実施形態では、図1に示すようにシリコンナノワイヤ3は、溝部3の延伸方向に対して垂直に配置されているが、斜めに配置されていてもよい。
【0050】
基板2にカバー層4が張り合わされ、溝部5とカバー層の下面とから流路が形成される。このように、センサ素子1では、流路は基板2及びカバー層4が張り合わされた面内に構成される。ここで、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底部(底面)と上端部とから離間して、溝部5(流路)の両側壁を架橋する形状である。よって、溝部5にカバー層4を被せることで形成される流路は、シリコンナノワイヤ3の上と下との両側に形成される。本実施形態では、流路の上面をなす層であるカバー層4は、PDMSからなる。また、流路の底面及び側面となる溝部5を成す基板2は、SOI(Silicon On Insulator)基板から形成される。
【0051】
図2では、流路となる溝部5は、後述する断面図における溝部5の側面を説明するために、上面からの形状をコの字形としているが、例えば、直線状となっていてもよい。
【0052】
流路となる溝部5には絶縁体で支持されたシリコンナノワイヤ3が露出して形成されており、センサ素子1は、このシリコンナノワイヤ3を用いて流路を流れる試料(サンプル)を測定することができる。図2の矢印はこの資料(サンプル)の流路での流れを示している。
【0053】
また、図1、2に示すように、シリコンナノワイヤ3の両端部(溝部の両側壁)にソース電極及びドレイン電極となる半導体領域がそれぞれ形成され、それぞれの半導体領域はシリコンナノワイヤと反対側で金属電極6と電気的に接続され、配線されている。本実施形態では、シリコンナノワイヤ、ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8が形成されている部分以外の流路は、絶縁膜(シリコン酸化膜)で形成されている。シリコンナノワイヤ3、ソース半導体領域7、及び、ドレイン半導体領域8は半導体(シリコン)で形成される。ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8は、シリコンナノワイヤ3と反対側で金属電極6と接続しているため、流路に面することなく、金属電極6を形成することができる。したがって、金属電極6の腐食及び流路に面することによる短絡の問題のない、信頼性の高いセンサを提供することができる。
【0054】
さらに、上記シリコンナノワイヤ3は流路内に露出し、基板2であるSOI基板と一体に構成されている。すなわち、シリコンナノワイヤはSOI基板の絶縁膜上の半導体膜(SOI膜)を加工することにより形成されており、一体不可分に形成されている。ここで、溝部5が設けられた基板2の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層4を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中にシリコンナノワイヤ3を露出して配置させることができる。なお、流路とは、試料等の溶液を流すための通路である。
【0055】
よって、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、センサ素子1を用いると、高性能な検出が可能となる。また、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3と基板2とが一体であるため、シリコンナノワイヤを成長により形成し、塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子と比べて、流路に流れる溶液によるシリコンナノワイヤのズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0056】
さらに、シリコンナノワイヤ3が溝部5の底部(底面)からも溝部5の上端部からも離間して、溝部5の両側壁を懸架しているため、溝部5にカバー層4を被せることで形成される流路内でのシリコンナノワイヤ3の表面積が、底部に設置された(底部と接続した)シリコンナノワイヤに比べて、増加する。よって、この増加した表面積のシリコンナノワイヤ3と、流路を流れる物質とを、反応させることができる。例えば、ナノ構造体にリガンドを固定化する場合、リガンドをより多く固定化できる。よって、このリガンドと反応する標的分子とも、より多く反応させることができる。その結果、センサの感度を上げることができ、より高性能な検出を行うことができる。
【0057】
ここで、上記では、図3(a)のように、センサ素子において、シリコンナノワイヤ3は、ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8の間に直線の形状(シングル形状)で配置されているものとして説明したが、図3(b)に示すように、シリコンナノワイヤをマトリクス形状にしてもよい。マトリクス形状であると、シングル形状に比べて、シリコンナノワイヤの欠損を防止し、シリコンナノワイヤの欠損によるセンサ素子の動作不具合を防止できる。よって、マトリクス形状のシリコンナノワイヤのセンサ素子を用いた測定時の安定性が向上する。さらに、マトリクス形状のシリコンナノワイヤであると、ナノワイヤの表面積を大きくすることができ、センサの感度をさらに向上させることができる。なお、シングル形状でもマトリクス形状でも、シリコンナノワイヤの本数に限定はない。さらに、シリコンナノワイヤ3、ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8の不純物の導電型については同じ導電型を有していてもよく、ソース半導体領域及びドレイン半導体領域の導電型は、シリコンナノワイヤ3と異なる導電型であってもよい。
【0058】
<センサの製造方法>
次に、本実施形態のセンサ素子1の製造方法について、図4,5を用いて順に説明する。図4(a1)〜(e1)及び図5(a1)〜(f1)は、図2に示すセンサ素子1のAA’断面を製造工程順に説明する図である。また、図4(a2)〜(e2)及び図5(a2)〜(f2)は、図2に示すセンサ素子1のBB’断面を製造工程順に説明する図である。
【0059】
また、図4(a3)、(d3)は、センサ素子1の製造工程での上面図(俯瞰図)である。また、図4(a4)、(e4)は、フォトレジストの上面図である。ここで、図4において同じ英字の図面(例えば、(a1)、(a2)、(a3)及び(a4))は、同じ工程における図面である。同様に、図5(a3)、(c3)、(d3)、(e3)、(f3)は、センサ素子1の製造工程での上面図(俯瞰図)であり、図5(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。図4においても、同じ英字の図面は、同じ工程における図面である。
【0060】
まず、図4(a1)、(a2)に示すように、SOI基板である基板2上に、シリコン窒化膜24をCVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着法)にて堆積する。当該シリコン窒化膜24は後の工程であるCMP(Chemical Mechanical Polishing)工程におけるストッパーとして用いるため、ストッパーとして充分な膜厚であればよい。よって、シリコン窒化膜24は、例えば100nmほど堆積すればよい。そして、ソース半導体領域、ドレイン半導体領域、シリコンナノワイヤ(SiNW)部分を含む流路、及びメタル形成部分を覆うようにフォトリソグラフィ技術を用いて、図4(a4)に示すレジスト25を形成する。次に、このレジスト25をマスクとしてシリコン窒化膜24をエッチングすることによりレジスト25と同形にシリコン窒化膜24をパターニングする。パターニングされたシリコン窒化膜24を、図4(a3)に示す。
【0061】
なお、絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)は、例えばp型の導電型を高濃度にドープされている基板を用いるのが好ましい。このような基板を用いることにより、後のメタル形成工程において好適な接続が得られるからである。また、メタル形成工程で不純物注入を別途行うことにより、適宜ソース半導体領域及びドレイン半導体領域と、シリコンナノワイヤ3領域の不純物濃度をそれぞれ調整できるため、検出に適したシリコンナノワイヤの不純物濃度及び不純物種などを調整できるので、好ましい。
【0062】
また、基板2としては、SOI基板における絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)23の膜厚がその後形成される流路の高さに影響するため、必要とされる流路高さに応じて、膜厚が10μmから1000μm程度のSOI膜23の、SOI基板を準備するとよい。本実施形態ではSOI膜厚は50μmとした。
【0063】
次に、図4(b1)、(b2)に示すように、基板2の絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)23を、レジスト25をマスクとしてエッチングし、レジスト25及びシリコン窒化膜24と同形にSOI膜23をパターニングする。また、このパターニングにより、SOI膜23に、流路高さとして必要とされる10μm以上のエッチングをしなければならない。従って、通常の半導体製造工程で用いられるような微細なエッチングを行うとかなり時間がかかってしまう。そこで、シリコンの深堀エッチング装置たとえばICPエッチング装置などを用いてエッチングするのが好ましい。その後、レジスト25を剥離する。なお、レジスト25をマスクとしてシリコン窒化膜24をエッチングした後、レジスト25を剥離して、シリコン窒化膜24をマスクとしてSOI膜23をエッチングしても構わない。
【0064】
次に、図4(c1)、(c2)に示すように、シリコン酸化膜26を、CVDを用いて堆積する。この堆積には、厚膜形成に最適化されたTEOS−CVD装置を用いるのが好ましい。TEOS−CVD装置により10μm以上の厚膜のシリコン酸化膜を形成することができる。また、5μm以下のアモルファスシリコン膜またはエピシリコン膜のCVD堆積工程と、当該アモルファスシリコン膜またはエピシリコン膜の熱酸化工程と、を繰り返すことにより、厚膜のシリコン酸化膜形成をより早く完了することができる。
【0065】
次に、図4(d1)、(d2)に示すように、シリコン窒化膜24をストッパーにしてCMPを行う。その後、残ったシリコン窒化膜24を、リン酸等を用いた選択的ウエットエッチングを用いて除去する。なお、シリコン窒化膜は除去せずに次の工程で用いるSOI膜のエッチングマスクに用いるためのシリコン窒化膜に流用してもよい。図4(d3)は、シリコン窒化膜24が残ったままの状態を示している。
【0066】
次に、図4(e1)、(e2)に示すように、溝部5(シリコンナノワイヤ3が形成される部分も含む)のみ露出するように、フォトリソグラフィ技術を用いてレジスト30をパターニングする。このとき用いるレジスト30を図4(e4)に示す。そして、シリコンナノワイヤ3の高さを調整するため、すなわち、シリコンナノワイヤ3の上側にも流路となる空間を設けるため、露出した流路部(SiNW部も含む)のシリコンをエッチングし、薄膜化する。すなわち、このエッチングにより、SOI膜23に、流路高さとして必要とされる10μm以上のエッチングをしなければならない。従って、通常の半導体製造工程で用いられるような微細なエッチング技術を行うとかなり時間がかかってしまい生産効率が悪くなる。そこで、シリコンの深堀エッチング装置たとえばICPエッチング装置などを用いてエッチングするのが好ましい。なお、KOHを用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行ってもよい。本実施形態では、エッチング深さは25μm程度とした。ここで行うシリコンエッチングの深さを変えることにより、最終的に形成されるシリコンナノワイヤ3の高さを調整することができる。
【0067】
その後、図5(a1)、(a2)に示すように、シリコン窒化膜27をCVDにて堆積する。シリコン窒化膜27上にフォトリソグラフィ技術を用いて、図5(a4)に示すレジストを形成する。このレジストはシリコンナノワイヤ領域及びソース・ドレイン半導体領域を形成する領域を規定するものであり、シリコンナノワイヤ領域及びソース・ドレイン半導体領域にレジストが残るようにパターニングする。このときの上面図を図5(a3)に示す。なお、ここでシリコン窒化膜27を堆積したが、前の工程におけるCMPのストッパーに用いたシリコン窒化膜24を除去せずに流用してもよい。
【0068】
次に、図5(b1)、(b2)に示すように、KOHを用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行い、SOI膜23をエッチングする。ここではKOH溶液は、例えば40w%、60℃で用いるとよい。KOHを用いることにより、面方位による異方性エッチングが可能となるため、シリコンの微細な細線を形成することができる。本工程は上記以外にも、RIEを用いたドライエッチングによる異方性エッチングを行うことにより、シリコン窒化膜27の形状に応じたシリコンの微細な細線を形成することもできる。ここでのシリコンエッチング深さは、SiNWのおおよその高さ方向の大きさを規定することとなる。そのため、ここでのエッチング深さは数nmから数百nmの範囲で適切に選択することができる。ここでは、500nm程度の深さをエッチングした。なお、後の工程のKOHによるSiNWの下のシリコンを除去する際に、多少のエッチングもあるため、当該エッチング深さより多少小さくなる。
【0069】
次に、図5(c1)、(c2)に示すように、シリコン窒化膜27を耐酸化膜として酸化(LOCOS酸化:local oxidation of silicon)を行う。すなわち、シリコン窒化膜27を耐酸化膜として用いて、シリコンの露出部分を熱酸化し、シリコンの露出部分に酸化膜28を形成する。当該熱酸化工程により、シリコンナノワイヤをより細線化することができる。熱酸化を用いるために微細な、数nmレベルの、シリコンナノワイヤ径を制御することができる。
【0070】
次に、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域を覆うよう、レジスト29をフォトリソグラフィを用いて形成する。この際、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域の設計に合わせてレジストを形成するのではなく、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域の側壁も覆うようにオーバーハング量を調整しレジスト29をパターニングする必要がある。このようにすることにより、後の工程で当該レジスト29をマスクにエッチングするシリコン酸化膜がSiNW及びソース・ドレイン半導体領域より大きめに残るため、さらに後の工程でシリコンをウェットエッチングするときのマスクとしてのシリコン酸化膜が、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域の側壁部にも形成される。したがって、シリコンをウエットエッチングする際に、所望の形状にシリコンを除去でき、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域は所望の形状に残すことができる。
【0071】
次に、図5(d1)、(d2)に示すように、所望の形状にパターニングしたレジスト29をマスクにBHF溶液を用いてシリコン酸化膜28をウエットエッチし、除去する。ここで用いるBHF溶液は、例えば、濃度22%で、25℃にて用いるとよい。なお、ここでウエットエッチングを用いる以外に、RIEドライエッチングを用いてレジスト29をマスクにシリコン酸化膜28を除去することもできる。
【0072】
次に、図5(e1)、(e2)に示すように、レジスト29を除去し、残ったシリコン窒化膜27及びシリコン酸化膜28をマスクにKOH溶液を用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行い、シリコン酸化膜28及びシリコン窒化膜27に覆われていないSOI膜23をウエットエッチングする。すなわち、シリコン酸化膜28及びシリコン窒化膜27に覆われていないシリコンナノワイヤ3の下部のSOI膜23がウエットエッチングにより除去される。ここでは、KOH溶液は、例えば40w%、60℃で用いるとよい。
【0073】
次に、図5(f1)、(f2)に示すように、バッファードフッ酸(BHF)溶液を用いてシリコン酸化膜28を除去し、リン酸溶液を用いてシリコン窒化膜27を除去する。BHF溶液またはリン酸溶液を用いると、シリコンナノワイヤの表面を、良好に、つまり荒さが無く保てるために好ましい。その後、メタル形成工程を行う。具体的には、ソース・ドレイン半導体領域に電気的に接続するように金属電極6の形成を行う。このときの上面図は図5(f3)に示す。本実施形態においては、既にエッチングによりそれぞれのソース・ドレイン半導体領域のシリコンナノワイヤ3と反対側に、メタル形成領域を形成しているため、流路に面することなく、金属電極6を形成することができる。したがって、メタルの腐食及び流路に面することによる短絡の問題のない、信頼性の高いセンサ素子を提供することができる。
【0074】
上記製造方法により、溝部3の深さ方向(流路での高さ方向)での位置を任意に調整できるセンサ素子1を形成することができる。なお、本実施形態では、シリコンナノワイヤ3は、1つの流路に2つ形成したが、1つでもよいし3つ以上形成してもよい。
【0075】
以上説明したように、本実施形態のセンサ素子1では、基板2の溝部5(カバー層で覆われることにより流路が形成される部分)とシリコンナノワイヤ3とが同時に形成される。シリコンナノワイヤ3は溝部5内で溝部5の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板と一体に構成されている。ここで、溝部5が設けられた基板2の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層4を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中にシリコンナノワイヤ3を露出して配置させることができる。
【0076】
このように、センサ素子1は、シリコンナノワイヤ3を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、高性能の検出が可能となる。また、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3と基板2が一体であるため、シリコンナノワイヤ3を成長により形成し塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子(ボトムアップ製法のセンサ素子)と比べて、流路に流れる溶液によるトップダウン製法のズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0077】
さらに、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底部(底面)と上端部とから離間して、溝部5(流路)の両側壁を架橋する形状である。よって、溝部5にカバー層4を被せることで形成される流路が、シリコンナノワイヤ3の上と下との両側に形成される。よって、流路内で露出されるシリコンナノワイヤ3の表面積が増加する。よってシリコンナノワイヤの上下の両側にリガンドを固定でき、上下両側で標的分子の捕獲をすることができる。よって、標的分子を効率的に捕獲でき、センサ素子1の検出精度を上げることができる。
【0078】
なお、トップダウン製法(基板にナノワイヤを微細加工技術により形成する製法)によっても、PDMS等のカバー層により流路を形成し、人為的な張り合わせにてチップを作成していたため、流路とナノワイヤの位置制御を精度良く制御することが困難であった。しかし、本実施形態では、カバー層4には流路が形成されていないので、基板2との位置合わせ制度よく行う必要がないため、センサを簡易に作成することができる。
【0079】
<センサ素子の使用例>
(リガンドの固定化)
次に、上記センサ素子1のシリコンナノワイヤ3へのリガンドの固定化方法について説明する。まず、シランカップリング剤を溝部5とカバー層4とからなる流路に流し、シリコンナノワイヤ3の表面を修飾する。ここで、シランカップリング剤は末端に官能基として、COOH,NH2,OH,CHO,SH基が修飾されているものを用いるのが望ましい。次に、シリコンナノワイヤ3表面の官能基を活性化させる。その後、標的分子を特異的に認識して結合するリガンド溶液を流路に導入し、シリコンナノワイヤ3表面にリガンドを共有結合により固定化する。リガンドとしては、例えば、抗体、ペプチド、DNA、RNA,アプタマー、リセプター、細胞等が挙げられる。リガンドの固定化後、リガンドと結合してない活性化した官能基を不活性化する。その後、バッファにより洗浄し、シリコンナノワイヤ3表面にリガンドを固定化する。リガンドの固定化方法で光架橋剤を用いることもできる。なお、上記固定化方法は単なる一例であり、上記に限定されることはない。
【0080】
(試料の測定)
次に、本実施形態のセンサ素子1を用いた試料の測定について説明する。シリコンナノワイヤ3が形成された溝部5を有するSOI基板である基板2と、サンプル溶液や試薬溶液を注入する注入口と排出口が設けられたPDMS基板であるカバー層4とを、例えば、100W、酸素流量30sccm、60秒の条件で、酸素プラズマ処理を行い、基板2とカバー層4とを活性化させ、張り合わせる。基板2とカバー層4とを張り合わせるために必ずしも酸素プラズマ処理を行う必要はなく、PDMSの自然密着性を用いて、カバー層4を基板2に張り合わせることもできる。溝部5がカバー層4で覆われることにより、シリコンナノワイヤを備えた流路が形成される。
【0081】
標的分子を特異的に認識し結合するリガンドをシリコンナノワイヤ3の表面に固定化してから、シリコンナノワイヤ3の表面に標的分子が非特異的に吸着することを防ぐため、ブロッキングを行う。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA;Bovine Serum Albumin)溶液を用いてブロッキングを行えばよい。ブロッキング剤としてはBSA以外に高分子やタンパク質を用いることもできる。ブロッキング後、標的分子が含まれるサンプル溶液(試料)を流路内に導入する。導入されたサンプル溶液中の標的分子はシリコンナノワイヤ3と結合し、ソース電極とドレイン電極間の電気的な特性の変化を引き起こす。またサンプル溶液導入後、シリコンナノワイヤの表面に固定化されたリガンドと結合してない標的分子を洗い流すため、緩衝液を注入するのもよい。ソース電極とドレイン電極間のインピーダンス(シリコンナノワイヤのインピーダンス)の変化は、サンプル溶液に含まれる標的分子の濃度に比例し変化する。よって、ソース電極とドレイン電極間のインピーダンスの変化を測定することで、サンプル溶液中の標的分子の検量が可能になる。
【0082】
(複数の標的分子の測定)
上記では、基板2に、シリコンナノワイヤ3が露出した1つの溝部5を形成したが、シリコンナノワイヤ3が露出した複数の溝部5を形成してもよい。これら複数の溝部5からなる流路にそれぞれに形成されたシリコンナノワイヤ3の表面に、異なる標的分子をそれぞれ特異的に認識する異なるリガンドを、上記リガンドの固定化方法により、それぞれ固定化する。複数の標的分子が含まれたサンプル溶液を、上記複数の流路に導入することで、同時に複数の標的分子を測定することが可能になる。この場合、異なるリガンドを固定させるために、複数の流路は、それぞれ独立した注入口を持ち、異なる注入口に繋がっているものとする。注入口とは、溶液を流路に注入させるための入り口である。
【0083】
また、異なる注入口に繋がった複数の流路にそれぞれの注入口から異なるリガンドを導入する。形成されたそれぞれのシリコンナノワイヤ3の表面に、ある標的分子を特異的に認識するリガンドを固定すると、異なるサンプル溶液について、それらに含まれる標的分子を、同時に測定することができる。また複数の標的分子を含むサンプル溶液中の複数の標的分子を同時に測定することもできる。
【0084】
(振動数測定)
次に、本実施形態のセンサ素子1を用いて、サンプル溶液の標的分子を、シリコンナノワイヤ3の固有振動数変化を用いて検出する方法(分析方法)について説明する。シリコンナノワイヤ3の固有振動数は、サンプル溶液中の標的分子がシリコンナノワイヤ3表面に固定化されたリガンドと結合することで、変化する。そのため、シリコンナノワイヤ3の固有振動数の変化は、シリコンナノワイヤ3に固定化されたリガンドと、サンプル中の標的分子との結合量に比例し変化する。よって、ナノワイヤの固有振動数の変化を計量することによりサンプル中の標的分子の検出、そして、検量が可能になる。
【0085】
本実施形態のセンサ素子1では、シリコンナノワイヤ3が流路(溝部5)両面を架橋しているため、ナノワイヤの固有振動数を良好に測定することができる。以下では、固有振動数の変化の測定について、具体的に説明する。
【0086】
まず、シリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定するため、シリコンナノワイヤ3を励振させる必要がある。本実施形態では、半導体レーザを用いた光熱励振法(photothemal excitation)を採用する。ただし、これ以外の方法を用いて励振動させてもよい。本実施形態では、励振させるために、405nmの半導体レーザを用いた。
【0087】
レーザ光をナノワイヤ(シリコンナノワイヤ3)に照射すると、ナノワイヤの表面に熱が発生する。この熱はナノワイヤの内部に伝達し、ナノワイヤの内部に不均一な温度分布を発生する。温度の上昇によるナノワイヤの膨張率の変化から、ナノワイヤ歪みが生じる。レーザ光の照射を止めると、膨張したシリコンナノワイヤ3が元に戻るため縮小する際、ナノワイヤに振動が生じる。この光熱励振法では、ナノワイヤに直接力を発生させるために、寄生振動のない良好な固有振動数(周波数特性)を得ることができる。なお、本実施形態では、振動数の変化は数MHz以下であるが、これには限定されない。
【0088】
また、本実施形態では、固有振動数を測定する装置として、レーザドップラー干渉計(Laser Doppler Interferometer)を用いる。ただし、別の測定装置を用いてもよい。本実施形態で用いたレーザドップラー干渉計は、光源が633nm、出力2nWのHe−Neレーザである。
【0089】
本実施形態のセンサ素子1を用いて、シリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定するにあたり、予め、標的分子に特異的に結合するリガンドをシリコンナノワイヤ3表面に固定化する(固定化法には前述リガンドの固定化法と同様)。そして、サンプル導入口から標準溶液の緩衝液をシリコンナノワイヤ3が設けられた流路内に導入し、流路内を緩衝液に満たし、停止状態でシリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定する。標準溶液は、緩衝液以外に純水を用いることもできる。
【0090】
次に、標的分子を含むサンプル溶液を流路内に導入し、サンプル中の標的分子と流路内のシリコンナノワイヤ3の表面に固定化されたリガンドと反応させる。サンプル溶液を流路内から除去してから、再び標準溶液を流路内に導入し、リガンドと反応してないサンプル溶液中の標的分子を取り除いた状態で標準溶液に満たした流路内のシリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定する。
【0091】
サンプル溶液との反応後の振動数から、最初の標準溶液での固有振動数を差し引くことで、標的分子の結合による固有振動数の変化を求められる。つまり、シリコンナノワイヤ3の固有振動数はシリコンナノワイヤ3の表面に固定化されたリガンドと標的分子の結合量に比例し変化するため、シリコンナノワイヤ3の固有振動数の変化を測定することでサンプル溶液中の標的分子の検量ができる。
【0092】
また流路内に複数のシリコンナノワイヤ3を形成し、一部のシリコンナノワイヤ3を参照検出部として使用することもできる(後段の実施の形態4参照)。この場合、参照検検出部のシリコンナノワイヤ3には標的分子と特異的に結合するリガンドを固定化しない。参照検出部を用いてサンプル溶液を測定する時は、前述のように標準溶液を用いて参照検出部と検出部のナノワイヤの振動数を測定する。次に、サンプル溶液を導入し、参照検出部と検出部のシリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定する。参照検出部と検出部の振動数の変化をそれぞれ求める。検出部の振動数の変化から参照検出部の振動数の変化差し引いた振動数の変化が標的分子とリガンドの結合による振動数の変化となる。参照検出部を用いることで溶液の粘度や温度などによるシリコンナノワイヤ3振動数への影響を防ぐことができる。
【0093】
なお、ナノ構造体に振動を与え、その振動数を測定することができる分析装置も、本発明に含まれる。この分析装置は、固有振動数を有するナノ構造体を備えたセンサ素子であれば、本実施形態のセンサ素子1以外の、ナノ構造体を備えたセンサ素子にも用いることができる。本実施の形態のセンサ素子1は、シリコンナノワイヤ3が溝部5の底部からも上端部からも離間して設けられているので、固有振動数の測定に好適に用いることができる。
【0094】
(温度制御)
次に、本実施形態のセンサ素子1を用いて、シリコンナノワイヤ3をジュールヒーティングによって温度制御して生体分子を検出する方法(分析方法)について説明する。さらに、温度制御により、反応、特に生化学反応が向上することについて説明する。
【0095】
初めに、センサ素子1のシリコンナノワイヤ3の両端に電圧を印加するため金属の電極部を設ける。この電極部として、上記<センサの製造方法>に記載した、センシング素子に設けた金属電極6を用いることができる。電極部の材料はAu、Cu、Ni、Ag、Alなどが望ましい。この電極部を通し電圧を印加し、シリコンナノワイヤ3に電流を流すことで、シリコンナノワイ3がジュールヒーティングによる加熱する。よって、印加する電圧を制御することで、シリコンナノワイヤ3の温度制御が行える。
【0096】
ここで、シリコンナノワイヤ3の温度制御のために、予め、シリコンナノワイヤ3表面上温度分布を計測しておく。この温度分布の計測は、例えば、シリコンナノワイヤ3表面に温度変化により蛍光強度が変化する標識物質を固定化し、シリコンナノワイヤ3に印加する電圧を変化させて、標識物質の蛍光強度を測定することで、行うことができる。標識物質としては量子ドット、ナノ粒子、トーダミンなどが用いられる。このようにして測定された、温度分布の結果を用いて、希望する温度となるよう印加電圧を制御することで、温度制御を行うことができる。ここで、印加する電圧の条件(電圧の大きさ、印加時間、等)は、シリコンナノワイヤ3の種 類、形状、寸法によって異なる。
【0097】
温度分布の測定の具体例を示すと、温度変化による発光特性をもつ量子ドットを利用し、シリコンナノワイヤ3の表面に親水性ポリマーを皮膜し、量子ドットを固定化する。シリコンナノワイヤに電圧を印加し、シリコンナノワイヤ3の温度変化によって変化する量子ドットの蛍光スペクトルをマッピングすることで、シリコンナノワイヤ3の温度分布の観察ができる。また、生体分子の反応、タンパク質の高次構造解析、分子間相互作用などの計測には、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer;蛍光共鳴エネルギー移動法)観察を併用することで可能になる。シリコンナノワイヤ3の温度制御ができる温度範囲は、本実施形態では、20度から90度までになるが、これには限定されない。
【0098】
センサ素子1を用いて、サンプル溶液で溝部5とカバー層4からなる流路内を満たしたら、シリコンナノワイヤ3に電流を印加し、例えば、標的分子が生体分子であれば、サンプル溶液の温度が30度から40度になるようにジュール加熱を行うよう、電圧を印加する。サンプル溶液が所定の温度に到るとサンプル溶液に含まれた標的分子とナノワイヤに固定化されたリガンドの反応が向上する。標的分子とリガンドの反応結合によるナノワイヤの電気的な信号を測定することによりサンプル溶液中の標的分子を検量することは、上記(試料の測定)で記載した通りである。
【0099】
以上のように、シリコンナノワイヤ3に印加する電圧を制御することで、シリコンナノワイヤ3の温度制御を行うことができ、シリコンナノワイヤ3のジュールヒーティングによりサンプル溶液の温度を変化させて、シリコンナノワイヤ3に固定したリガンドと標的分子との反応を計測することができる。シリコンナノワイヤ3のジュールヒーティングを用いて微細空間での溶液の温度制御ができることで、様々な生体分子、特に生体機能分子であるタンパク質における温度変化による単分子レベルでの反応及び生体分子間作用を調べ、分子の構造や反応機構などを解明することができる。さらにタンパク質の検出において、生化学反応は35度から40度の間で最も活性をもつため、ナノワイヤに電流を印加し、ジュールヒーティングすることで微細空間内の溶液の温度を生化学反応に最適な温度に制御することで、標的分子とリガンドとの結合(免疫反応や酵素反応など)をより効率的に反応させることができる。
【0100】
なお、本実施形態では、シリコンナノワイヤ3を、標的分子を検出する検出部とヒータ部として兼用しているが、ヒーティング用の金属のナノ構造体が、上記シリコンナノワイヤ3とは別に、センサ素子1の溝部に設けられていてもよい。
【0101】
さらに、ナノ構造体に印加する電圧を制御することで、ナノ構造体の温度制御することができる分析装置も、本発明に含まれる。この分析装置は、電圧印加により温度を変化させることができるナノ構造体を備えたセンサ素子であれば、本実施形態のセンサ素子1以外の、ナノ構造体を備えたセンサ素子にも用いることができる。
〔実施の形態2〕
<センサの構造>
本発明に係るセンサ素子のさらに他の構造について説明する。図6は本実施形態のセンサ素子10が有するシリコンナノワイヤ3’近傍を示す斜視図である。また、センサ素子10の上面図を図7に示す。なお、実施の形態1と同じ部材には同じ番号を付し説明は省略する。
【0102】
センサ素子10は、基板2として、SOI基板は<100>基板を用いる。これは、後段で説明するシリコンナノワイヤ3’の製造におけるKOHによる異方性エッチング工程が、面方位による異方性をもったエッチング技術を用いるため、面方位はその技術が適切に機能するべく決定する必要があるためである。
【0103】
センサ素子10では、シリコンナノセンサ3’は溝部5の底面と接続しており、その断面形状は三角形となっている。このように断面形状は三角形となるのも、後段で説明するシリコンナノワイヤ3’の製造におけるKOHによる異方性エッチング工程が、面方位による異方性をもったエッチング技術を用いるためである。
【0104】
<センサの製造方法>
次に、本実施形態のセンサ素子10製造方法について、図9を用いて順に説明する。図9(a1)〜(f1)は、図7に示すセンサ素子10のAA’断面を製造工程順に説明する図である。また、図9(a2)〜(f2)は、図7に示すセンサ素子10のBB’断面を製造工程順に説明する図である。また、図9(a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子10の製造工程での上面図(俯瞰図)である。また、図9(a4)、(c4)、(d4)は、フォトレジストの上面図である。ここで、図9において同じ英字の図面(例えば、(a1)、(a2)、(a3)及び(a4))は、同じ工程における図面である。
【0105】
絶縁体により流路のおおよその外壁を成す酸化膜を作製する工程は、当製造方法でも、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4を用いて示した工程を用いることができるので、ここでは説明を省略する。ただし、基板2として使用するSOI基板は<100>基板を用いる。これは、ナノワイヤを作製する工程におけるKOHによる異方性エッチング工程が、面方位による異方性をもったエッチング技術を用いるため、面方位はその技術が適切に機能するべく決定する必要があるためである。また、本製造方法では、基板2である基板2における絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)23の膜厚は、500nm以下のものを用いる。
【0106】
図9(a1)、(a2)は、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(a1)、(a2)を用いて説明した工程を用いて、基板2として面方位の決まったSOI基板に、シリコン窒化膜24をパターニングしている構造を示すものである。また、図9(b1)、(b2)は、基板2として面方位の決まったSOI基板を用いて、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4の(d1)、(d2)を用いて説明した工程にて形成した構造を示すものである。
【0107】
次に、図9(c1)、(c2)に示すように、溝部5(シリコンナノワイヤ3が形成される部分も含む)のみ露出するように、フォトリソグラフィ技術を用いてレジストをパターニングする。このとき用いるレジスト30を図9(c4)に示す。そして、溝部を確保するため及びSiNWの微細化のために、露出している溝部5(シリコンナノワイヤ3が形成される部分も含む)のみをシリコンをエッチングし、薄膜化する。このエッチングにより、SOI膜23に、流路高さとして必要とされる10μm以上のエッチングをしなければならない。従って、通常の半導体製造工程で用いられるような微細なエッチング技術を行うとかなり時間がかかってしまい生産効率が悪くなる。そこで、シリコンの深堀エッチング装置たとえばICPエッチング装置などを用いてエッチングするのが好ましい。なお、KOH溶液を用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行ってもよい。
【0108】
ここでは、残されたシリコン膜厚が200nm程度となるようにエッチング工程を実施するとよい。それにより、ナノワイヤが所望の微細な形状に形成することができる。
【0109】
次に、図9(d1)、(d2)に示すように、シリコン窒化膜31をCVDにて堆積する。このシリコン窒化膜31上に、フォトリソグラフィ工程によりSiNW部、ソース・ドレイン半導体領域部を覆うようにレジストをパターニングする。このレジストを、図9(d4)に示す。ここで、SiNW部のパターンは、2本のSiNWを覆うように1本のレジストを形成する。また、後のナノワイヤ形成工程におけるKOH溶液による異方性エッチングを良好に行うため、SiNW部のシリコン窒化膜の延伸方向(シリコンナノワイヤの延伸方向)が<110>方向に沿うようにする。その後、レジストを除去する。
【0110】
次に、図9(e1)、(e2)に示すように、第1のKOH異方性エッチング工程を行う。すなわち、シリコン窒化膜31をマスクにKOH溶液で露出部のシリコンから異方性エッチングを行う。KOH溶液は、例えば濃度40w%で、60℃で処理するとよい。このエッチングにおいては、エッチングの異方性の影響により<111>面が現れるかたちでエッチングが進行する。なお、このエッチングにより、1本のナノワイヤを形成するのではなく、2本のナノワイヤとなる部分を含んだ帯状のシリコン32が形成される。
【0111】
次に、図9(f1)、(f2)に示すように、シリコン窒化膜32を耐酸化膜としてLOCOS酸化を行なう。すなわち、シリコン窒化膜32を耐酸化膜として用いて、シリコンの露出部分を熱酸化し、シリコンの露出部分に酸化膜33を形成する。ここでのシリコン酸化膜3の膜厚は、後の工程の第2のKOH異方性エッチングに耐える程度の膜厚が有れば充分であり、ここでは100〜500nm程度の膜厚のシリコン酸化膜を形成する。
【0112】
次に、図9(g1)、(g2)に示すように、ソース・ドレイン半導体領域部を覆うようにレジストをパターニングし、そのレジストをマスクに露出部のシリコン窒化膜31をRIEエッチング装置を用いてエッチングすることによりレジストと同形にシリコン窒化膜31をパターニングする。このレジストを図9(g4)に示す。その後、レジストの除去を行う。
【0113】
次に、図9(h1)、(h2)に示すように、第2のKOH異方性エッチング工程を行う。すなわち、シリコン窒化膜31及びシリコン酸化膜33をマスクにKOH溶液で露出部のシリコン32から異方性エッチングを行う。KOH溶液は、例えば、濃度40w%で、60℃で処理するとよい。ここでは、エッチングの異方性の影響により断面が三角形のシリコンナノワイヤ3’が形成されることになる。また、異方性エッチングの影響により、大きさのバラツキが抑制されたSiNWを形成することができる。すなわち、図9(f1)に示すような形状になるまでエッチングされやすい面方位の表面から除去されてゆくが、一旦図9(f1)に示すような形状になると、SiNW部分はエッチングに強い面方位が露出する事となり極端にエッチングレートが落ちる。このエッチンレートの変化により、断面三角のSiNWの形状はバラツキが抑制される。
【0114】
次に、図9(i1)、(i2)に示すように、シリコン窒化膜31をリン酸溶液を用いた除去方法を用いて除去し、シリコン酸化膜33をフッ酸溶液を用いた除去方法を用いて除去する。その後、メタル形成工程を行う。具体的には、ソース・ドレイン半導体領域に電気的に接続するように金属電極6の形成を行う。本実施形態においては、既にエッチングによりそれぞれのソース・ドレイン半導体領域のシリコンナノワイヤと反対側に、メタル形成領域を形成しているため、流路に面することなく、金属電極6を形成することができる。したがって、メタルの腐食及び流路に面することによる短絡の問題のない、信頼性の高いセンサ素子を提供することができる。
【0115】
なお、本実施形態の製造方法によると、1本の帯状のシリコン窒化膜マスクにより、2本のシリコンナノワイヤ3’を形成することができる。したがって、加工寸法の最小線幅あたり、2本のシリコンナノワイヤ3’の形成が可能なので、他の製法(例えば、実施の形態1<センサの製造方法>)と比較して、2倍の集積度でシリコンナノワイヤの形成が可能となる。したがって、単位面積あたりの標的分子の捕獲量を上げることができ、ひいては高精度のセンシングに寄与することが可能となる。また、一つのパターンでほぼ同様の二つのシリコンナノワイヤが同時に形成されるのでシリコンナノワイヤの各パターンによるバラつきを減少することができる。
【0116】
<センサ素子の使用例>
本実施形態のセンサ素子10の使用例については、実施の形態1の<センサ素子の使用例>に記載した内容と同じである。よって、記載は省略する。
【0117】
〔実施形態3〕
<センサの構造>
本発明に係るセンサ素子の他の構造について説明する。図8は本実施形態のセンサ素子1’が有するシリコンナノワイヤ3近傍を示す斜視図である。また、センサ素子1’の上面図は、実施し形態1と同様であり、図2に示す。なお、実施の形態1と同じ部材には同じ番号を付し説明は省略する。
【0118】
センサ素子1’は、実施の形態1で説明したセンサ素子1と基本的に同じであるが、シリコンナノワイヤ3の上端部の面が、溝部5の上端部の面と同一面となっている点が異なっている。このような構造であることにより、以下で示すように、シリコンナノワイヤ3の溝部5での高さ(深さ)方向の配置を調整する必要が無く、製造がより容易になる。
【0119】
ここで、センサ素子1’は、カバー層4を有していても有していなくてもよい。センサ素子1’は、カバー層4を有していなくても、溝部5からなる流路がシリコンナノワイヤ3の下にのみ形成されることで、サンプル溶液などを直接この流路に滴下することで、流路の表面張力を考慮してリガンド溶液やサンプル溶液等を流すことで、試料の測定を行うことができる。また、カバー層4有していない場合、カバー層4に振動が伝わらないため、好適に、実施の形態1で説明した固有振動数の測定を行うことができる。また、カバー層4有していない場合、カバー層4に熱が伝わらないため、好適に温度制御を行うことができる。
【0120】
<センサの製造方法>
次に、本実施形態のセンサ素子1の製造方法について、図10を用いて順に説明する。図10(a1)〜(d1)は、図2に示すセンサ素子1’のAA’断面を製造工程順に説明する図である。また、図10(a2)〜(d2)は、図2に示すセンサ素子1’のBB’断面を製造工程順に説明する図である。また、図10(a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子1’の製造工程での上面図(俯瞰図)である。また、図10(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。ここで、図10において同じ英字の図面(例えば、(a1)、(a2)、(a3)及び(a4))は、同じ工程における図面である。
【0121】
本実施形態での製造方法は、シリコンナノワイヤ3の溝部5での高さ(深さ)方向の配置を調整する必要が無いだけで、基本的には、実施の形態1の<センサの製造方法>に記載の方法を用いることができる。よって、ここでは、実施の形態1の<センサの製造方法>に記載の工程と同様の工程については説明を省略し、実施の形態1の<センサの製造方法>に記載の工程と異なる工程のみ詳細に説明する。
【0122】
絶縁体により流路のおおよその外壁を成す酸化膜を作製する工程は、本製造方法でも、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4を用いて示した工程を用いることができるので、ここでは説明を省略する。なお、図10(a1)、(a2)は、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(a1)、(a2)を用いて説明した、シリコン窒化膜24をパターニングしている構造を示すものである。また、図10(b1)、(b2)は、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(d1)、(d2)を用いて説明した工程にて形成した構造を示すものである。
【0123】
本製造方法では、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(e1)、(e2)を用いて説明した工程は行わず、その後、実施の形態1の<センサの製造方法>にて図5(a1)、(a2)から図5(f1)、(f2)を用いて説明した工程と同様の工程を行う。これによって、図10(d1)、(d2)に示すような、シリコンナノワイヤ3の下側に流路が設けられる流路一体形成のセンサ素子1’を形成することができる。このときの上面図は図10(d3)に示す。
【0124】
<センサ素子の使用例>
本実施形態のセンサ素子1’の使用例については、実施の形態1の<センサ素子の使用例>に記載した内容と同じである。よって、記載は省略する。
【0125】
〔実施の形態4〕
流路内のシリコンナノワイヤに、標的分子を特異的に認識して結合するリガンドを固定化し、標的分子を含むサンプル溶液を流路内に導入することで標的分子を測定する方法は、サンプル溶液中のイオンや標的分子がシリコンナノワイヤに非特異的に吸着することによる影響で、シリコンナノワイヤのインピーダンスの変化にバラつきが大きくなる。そのため、標的分子を特異的に認識して結合するリガンドを固定化しないシリコンナノワイヤを用いて、マイナスコントロールとして同じサンプル溶液を測定する必要がある。
【0126】
そこで、本実施形態では、図11に示すように、基板上に異なる2つの溝部5を形成し、それぞれの溝部5,5に、シリコンナノワイヤ3(3’)を形成した差動型センサ素子について説明する。
【0127】
差動型センサ素子における、それぞれの溝部5,5、及びシリコンナノワイヤ3(3’)の製造方法は、実施の形態1〜3のいずれかで説明した方法と同様である。よって、実施の形態1〜3と同じ部材番号を用いる。また、溝部5をカバー層4で覆うことで流路が形成されることも実施の形態1〜3と同様である。なお、一つの差動型センサ素子内では、同じ方法で、それぞれシリコンナノワイヤ3(3’)が形成された溝部5,5が、形成されているものとする。
【0128】
差動型センサ素子において、一方の溝部5からなる流路のシリコンナノワイヤ3には標的分子を特異的に認識して結合するリガンドを固定化し、検出部60として使用する。固定の方法は、実施の形態1に記載した方法と同様である。他方の溝部5からなる流路のシリコンナノワイヤ3にはリガンドを固定化せず、参照検出部61とする。但し、参照検出部61に、BSA溶液を用いてシリコンナノワイヤ表面にブロッキングを行う。このように、一方の流路のシリコンナノワイヤ3にはリガンドを固定し、他方にはリガンドを固定しないので、2つの流路は、それぞれ異なる注入口と繋がっているものとする。
【0129】
ここで、同一溝部(流路)内に検出部及び参照検出部を設置すると、参照検出部のシリコンナノワイヤ3にもリガンドが固定されてしまう。しかし、図11に示すように、溝部5,5を並列配置することで、一方にのみリガンドを流入できる。よって、上記のように溝部5,5を並列配置することで、検出部60にのみリガンドを固定することが容易となる。ただし、2つの溝部(流路)は、シリコンナノワイヤ3の検出部を通過した下流(吸収部または排出側)では、図11に示すように1つになっていてもよい。
【0130】
この差動型センサ素子を用いて、標的分子を含むサンプル溶液を溝部5からなる流路に導入すると、サンプル溶液が二つの流路内に流れ、検出部60では、サンプル溶液中の標的分子がシリコンナノワイヤ3(3’)に固定化されているにリガンドと結合し、シリコンナノワイヤ3(3’)のインピーダンスの変化が起きる。他方、参照検出部61では、リガンドが固定されていないため、標的分子との特異的な結合によるシリコンナノワイヤ3(3’)のインピーダンスの変化は起きない。よって、検出部60のインピーダンス変化量から参照検出部61のインピーダンス変化量を差し引くことで、より正確な標的分子の検出が可能になる。
【0131】
従来は、差動型センサの実現は困難であったが、本実施形態では、実施の形態1〜3と同様に、シリコンナノワイヤ3と流路になる溝部5とを基板に同時に形成することで、大きさの揃ったシリコンナノワイヤ3の配置を精度よく行うことができるので、差動型センサを実現可能である。
【0132】
〔実施の形態5〕
本実施形態では、実施の形態1〜3で説明したセンサ素子1,1’10のいずれかを用いた分析チップについて、図12(a)、(b)を用いて説明する。
【0133】
本実施形態のマイクロ分析チップは、図12(a)にその正面図を示すカバー層40と、図12(b)にその正面図を示す分析用基板20とが、張り合わされて成っている。
【0134】
カバー層40は、透明性及び加工性が高いものが好ましく、ガラス、石英、高分子樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など)、フィルム等を用いることができる。なかでも、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等であるのが好ましく、本実施形態では、シリコン系樹脂であるPDMSを用いる。カバー層40には、分析用基板20の液溜51に液体を注入できるように、注入口50が貫通して設けられている。
【0135】
注入口50の大きさは特に限定されず、毛細管力が働かない程度の大きさである場合、注入口50が疎水性を有していても液溜51に液体を注入することができる。注入口50が、毛細管力が働く程度の大きさである場合には、注入口50に親水性を施すことによって、毛細管力により液体を液溜51に注入することができる。
【0136】
また、注入口50は大気開放されていればよい。なお、注入口50にあらかじめ液体を充填したカートリッジを接続する方法で液体を注入することもできる。その場合であっても、液体注入時にはカートリッジは液体を充分に排出できるよう、注入口50との接続口またはそれ以外の部分で大気開放された構成を有するとよい。
【0137】
分析用基板20は、シリコンナノワイヤや電極等を形成可能な材料として、SOI基板を用いる。分析用基板20には、シリコンナノワイヤ3を有する検出部60、液溜51、を全て同一基板上に、同時に形成できる。分析用基板20には、液溜51、検出部60、吸収部54が上面を開口して設けられている。吸収部54には開口された空間から吸収体を充填される。そして、これら開口部分はカバー層40が張り合わされることで、上面を封じらされ、空間が形成される。また、分析用基板20には、外部接続端子55が設けられている。
【0138】
液溜51は、注入口50から注入された溶液を溜めるものであり、毛細管力が働く程度の大きさを有するのが好ましい。この場合、高さ方向が充分小さく設計されていればよい。液溜51が溶液でいっぱいになると、検出部60に向かって流れる。
【0139】
検出部60には、実施の形態1〜3のいずれかで説明したセンサ素子1,1’,10が用いられる。ここで、センサ素子の基板2は、分析基板20の一部であり、分析基板20と一体になっており、また、センサ素子のカバー層4は、カバー層40の一部であり、カバー層40と一体となっている。また、本実施形態では、溝部5は直線状となっている。検出部60は被検出物質(標的分子)を直接的に検出することができる。被検出物質を直接検出できる構成であるため、例えば抗原抗体反応を別途行うような反応部を有さない構成とすることができる。
【0140】
吸収部54は、液体を吸収する物質である吸収体で充填されており、吸収体は、高分子吸収体、多孔性物質、親水性メッシュ、海綿体、綿、濾紙等、その他毛細管力を利用し液体を吸収する物質であれば、どのような物質でも構わない。吸収部54で液体を効率的に吸収することができるよう、吸収部54と検出部60との接続部またはそれ以外の部分で、大気開放されている(大気と接している状態)のがよい。
【0141】
外部接続端子55は、検出部60やその他電気制御される部材への電気的制御信号の入力や、検出部60からの検出信号の出力を行うための導電性端子である。例えば、金電極をもちると、検出電極などと併用でき工程が簡易化されるので好ましい。その他、白金、アルミニウムや、銅などの材料を含んだ導電性材料を用いて形成してもよい。
【0142】
図12(b)に示すように、シリコンナノワイヤを有する検出部60と外部接続端子55が電気的に接続されている。また、液溜等にバルブが設けられこれを電気的に制御する場合にも、外部接続端子55と接続させる。外部接続端子55は、図示しない外部の制御回路や集積回路と接続される。この構成により、マイクロ分析チップ自体には電源やICなどの制御回路を設けなくてよく、そのためコストパフォーマンスに優れたチップを提供することができる。
【0143】
本実施形態では1つの注入口を有する場合を説明したが、注入口は適宜2つ以上にしてそれにあわせて液溜を形成してもよい。また、液溜からの溶液の流れはバルブ等で制御するようになってもよい。これらは、公知の方法で形成することができる。
【0144】
以上のように、本実施形態の分析チップでは、分析用基板20はSOI基板からなり、検出用シリコンナノワイヤ、それが配置される流路になる溝部、等を全て同一基板上に、同時に形成できる。よって、シリコンナノワイヤの配置がナノレベルで制御可能となり、非常に精度が高く、また、検出感度がよいシリコンナノワイヤを用いたセンサを有する分析チップの形成が可能である。また、本実施形態の分析チップでは、シリコンナノワイヤ3を用いたラベルフリーの検出を行うことができる。
【0145】
また、実施の形態4で説明した差動型センサ素子を用いたした分析チップも上記分析チップと同様に構成することができる。
【0146】
〔実施の形態6〕
次に、本発明に係る分析装置の一実施形態である、ハンディ型マイクロ分析装置について、図13を用いて説明する。
【0147】
図13は、本実施形態のマイクロ分析装置(分析装置)100の構成を示す図である。マイクロ分析装置100は、マイクロ分析チップ2302を用いて測定を行う、携帯可能なハンディ型マイクロ分析装置である。ここで用いるマイクロ分析チップ2302は、上記実施の形態5で説明した分析チップである。
【0148】
ハンディ機器2301の下部に、上記実施の形態5で説明した分析チップであるマイクロ分析チップ(分析チップ)2302の接続口であるチップ接続口2303が設けられている。マイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306と電気的に接続できる外部入出力端子(図示せず)が、ハンディ機器2301内のチップ接続口2303の奥に設けられており、チップ接続口2303にマイクロ分析チップ2302を挿入することにより、ハンディ機器2301内の外部入出力端子とマイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306とが電気的に接続される。ハンディ機器2301の内部には電源(図示せず、例えば電池)が備えられている。また、ハンディ機器2301には、被検出物質の測定結果を表示することができる表示部2304、及び、測定の開始、停止や、測定パラメータを特定するための様々なデータの入力などをすることのできる入力部2305が設けられる。その他、ハンディ機器には、図示しないが、データを処理することのできるCPUや入力情報及び出力情報を処理するI/O論理回路などの情報処理システムが構築されている。
【0149】
マイクロ分析チップ2302をハンディ機器2301に接続し、各種データを入力し、測定開始ボタンを押すことにより、測定開始状態となり、試料(サンプル)を注入口2307から注入することで測定できる状態となる。
【0150】
測定者がサンプルを注入口2307に注入すると、マイクロ分析チップ2302内に設けられる流路内を毛細管現象により、溝部5からなる流路の末端部に設けられる吸収体が充填された吸収部2308に向かってサンプルが流入する。そして、シリコンナノワイヤ3(3’)により構成される検出部2309において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をマイクロ分析チップの外部接続端子2306から出力する。ハンディ機器における外部入出力端子より入力された電気信号を分析することにより、被検出物質の量または種類などを特定することができる。
【0151】
さらに、ハンディ機器2301の電源から、ハンディ機器2301の外部入出力端子及びマイクロ分析チップの外部接続端子2306を介して、マイクロ分析チップ2302の検出部2309に設けられたシリコンナノワイヤ3(3’)に、所定の電圧を印加するようになっていてもよい。このような構成であると、実施の形態1で説明したように、サンプル溶液の温度を制御し、反応を向上させることができ、感度を上げて標的分子を検出することができる。なお、印加する電圧の大きさは、予め設定されたものが記憶されており、図示しないCPUがそれに従って制御してもよい。
【0152】
また、マイクロ分析チップ2302には、サンプルの流路内への流入を停止させるバルブを設けてもよい。このような構成により、測定者がサンプルをあらかじめ注入口から注入しておくことができる。そして、マイクロ分析チップ2302をハンディ機器2301に接続し、測定開始することにより、ハンディ機器2301より外部入出力端子及びマイクロ分析チップの外部接続端子2306を介してマイクロ分析チップ2302のバルブに一定の電気信号を与える。それによりバルブを開状態にして、サンプルの溝部5からなる流路内への流入を開始する。したがって、より簡易に測定をすることができる。
【0153】
ハンディ機器2301は、例えば、は携帯電話やPDAなどの携帯電子機器とすることができる。ここでは携帯電話を例に挙げて説明する。携帯電話で、マイクロ分析チップ2302の電気的な変化を分析可能な回路、及びデータ処理分析ソフトを起動させることでハンディ機器として動作させることができる。すなわち、専用回路とソフトにより携帯電話をハンディ機器として利用する。すなわち、専用ソフトにより仮想的に携帯電話をハンディ機器として利用する。マイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306は、携帯電話の外部入出力端子に接続可能なように構成するとよい。
【0154】
マイクロ分析チップ2302を携帯電話に接続し、各種データを携帯電話のボタン等により入力し、測定開始ボタンとして設定されたボタンを押すことにより、測定開始状態となり、測定者がサンプルを注入口2307に注入し、結果として検出部において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をマイクロ分析チップの外部接続端子2306から出力し、携帯電話においてマイクロ分析チップの外部接続端子2306と電気的に接続する外部入出力端子より入力された電気信号を処理することにより、被検出物質の量又は種類などを特定することができる。そして測定結果を携帯電話の表示画面に表示する。また、マイクロ分析チップ2302にバルブを設けている場合には、あらかじめマイクロ分析チップ2302に準備されておりバルブで流入を停止されていた試薬や試料(サンプル)などのバルブ流入を携帯電話の測定開始ボタンが押されることにより、順次開始し、結果として検出部において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をマイクロ分析チップの外部接続端子2306から出力し、携帯電話においてマイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306と電気的に接続する外部入出力端子より入力された電気信号を処理することにより、被検出物質の量又は種類などを特定することができる。そして測定結果を携帯電話の表示画面に表示する。
【0155】
ハンディ機器2301を携帯電話とすることにより、コストパフォーマンスに優れたマイクロ分析装置を提供することができる。またユーザーは測定が必要な時にどこでも測定が可能になる。携帯電話の保有率が上昇し、測定者(ユーザー)に充分携帯電話が普及するようになると多くのユーザーが便益を享受することができる。すなわち、携帯電話保有者のハンディ機器のコストは不要となる。ただし、代わりに携帯電話で動作させることのできる電気的な回路やデータ処理分析ソフトのコストが必要となるが、測定者側では、データ処理分析ソフトをネットワーク上でダウンロードすることが可能であり、携帯電話の高機能化により電気的回路をあらかじめ搭載することができる。ユーザーは低コストで携帯電話をハンディ機器として利用することが可能となる。以上より、携帯電話保有者は容易にハンディ機器2301を準備でき、ハンディ機器を準備できた後は、マイクロ分析チップ2302のコストのみで試料(サンプル)の分析が可能となる。
【0156】
〔実施の形態7〕
さらに、本発明に係る分析装置の別の実施形態である、独立型マイクロ分析装置について、図14を用いて説明する。
【0157】
図14は、本実施形態のマイクロ分析装置(分析装置)200の構成を示す図である。このマイクロ分析装置200は独立して試料(サンプル)の採取、検出データの分析、及び出力が可能な独立型マイクロ分析装置である。マイクロ分析装置200は、図14に示すように、サンプル採取部2401、液体流路部2402、駆動分析処理部2403、入出力論理処理部2404及び出入力部2405を有する。それぞれの部分が、順次積層されるか、または組み合わされる(接続する)ことによりマイクロ分析装置200となる。
【0158】
サンプル採取部2401には、毛細管の貫通している針が設けられており、被検体や試料体に針を刺す又は導入することにより、血液や試料等を採取する。なお、サンプル採取部2401には、直接、針が設けられていてもよいし、針を固定する穴が設けられていてもよい。
【0159】
針は、低侵襲のマイクロプローブであれば、被検体に針を刺し血液等の体液を抽出する際に痛みが緩和されるため好ましい。また、針の代わりに非侵襲型の皮膚表面の汗口腔内の唾液、涙や尿等を採取する吸収体等であってもよい。
【0160】
液体流路部(分析チップ)2402は、上記実施の形態5にて説明したマイクロ分析チップと同じ流路構造が形成されている。さらに、液体流路部2402でも、検出部60に設けられたシリコンナノワイヤ3と接続した外部接続端子(図示せず)を有しており、この外部接続端子と、駆動分析処理部2403の外部入出力端子(図示せず)とが電気的に接続している。
【0161】
サンプル採取部2401の毛細管は、液体流路部2042の液溜2414と接続されており、針に設けられている毛細管の毛管現象によりサンプルが液溜2414に流入するように構成されている。
【0162】
液体流路部2042は、複数の流路構造を形成することも可能である。また、検出部60を、実施の形態4で示したような差動型の構成とすることもできる。さらに、検出部60を複数形成することも可能である。図14では、吸収体を充填した吸収部54が左右の流路構造で分離しているが、左右の流路構造で1つの吸収部54を共用することもできる。それによりスペースの削減が可能となる。
【0163】
駆動分析処理部2403には、CPU24031、メモリ、及びバッテリー24032が設けられており、液体流路部2042の検出部60や、後で説明するI/O論理回路などと接続され、各種測定に対応したバルブコントロールや、測定データの処理や、出入力部の制御等が可能となっている。また、CPU2403の制御により、バッテリー24032から、駆動分析処理部2403の外部入出力端子と液体流路部2042の外部接続端子を介して、検出部60に設けられたシリコンナノワイヤ3(3’)に、所定の電圧を印加するようになっていてもよい。このような構成であると、実施の形態1で説明したように、サンプル溶液の温度を制御し、反応を向上させることができ、感度を上げて被検出物質(標的分子)を検出することができる。なお、印加する電圧の大きさは、予め設定されたものがメモリ等に記憶されており、CPUがそれに従って制御してもよい。
【0164】
測定開始されると、バルブ(図示なし)で流入を停止されていた試薬や試料(サンプル)などのバルブ流入を順次開始し、結果として検出部60において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をCPU24031にて処理することにより、被検出物質の量または種類などを特定することができる。そして、次に説明するCPU24031と接続されたI/O論理回路24041にデータを出力し、出入力部2405にて測定結果を表示することができる。
【0165】
入出力論理処理部2404は、CPU24031に接続されたI/O論理回路24041を有している。I/O論理回路24041に接続する電気接続線は、出入力部2405の各ボタン24052又は表示部24051等と接続されており、CPU24031と協働し、I/Oデータを適切に処理することができる。すなわち、I/O論理回路24041はCPU24031と協働し、出入力部2405で入力された各種データ及び測定開始信号が入力されると、液体流路部2402で検出された試料の被検出物質に応じて出力される電気信号を処理し、被検出物質の量や種類を特定し、出入力部2405の表示部24051に当該情報を表示する。
【0166】
出入力部2405には、各種データ入力用ボタン24052及び表示部24051が設けられている。
【0167】
表示部24051には、液晶表示モジュールまたは有機EL表示モジュール等を用いることができる。表示部24051は、駆動ドライバー回路(図示せず)をI/O論理回路とCPUが協働し駆動することで表示動作を行なうことが可能である。表示は数値を表示する形式や、グラフを用いて経時変化と共に表示することもできる。また、陽性・陰性等といった形式で表示することもできる。
【0168】
さらに、出入力部2045には、図示しないが、外部との入出力を処理する端子、または、無線送受信機を設けることができる。そうすることにより、パソコンやPDA端末などと接続でき測定データの加工、分析及び保存などができ、さらに、ネットワーク接続もできるため、双方向の情報のやり取りを行うことも可能となる。このように、双方向の情報のやり取りを行なうことにより、測定者の測定結果により得られる健康に関する情報を病院や健康管理センターなどとネットワーク接続し、双方向の情報提供ができるようになるため、高度な医療に直結したアドバイスや診断・治療を測定者は享受でき、医療提供側では豊富な健康情報からの適格な診断・治療が可能となる。
【0169】
なお、マイクロ分析装置200は、図示しないが、シリコンナノワイヤ3(3’)に、振動を与える振動源と(振動手段)、その振動数を測定する測定手段とを備えた、振動数測定部を備えていてもよい。ここで、シリコンナノワイヤ3(3’)を振動させるには、レーザ光を用いた光熱励振法を用いることができ、その場合、例えば、振動源として半導体レーザ、測定手段として、レーザドップラー干渉計を採用すればよい。マイクロ分析装置200がこのような振動測定部を有することで、実施の形態1で説明したように、ナノワイヤの固有振動数の変化を測定でき、サンプル中の標的分子の検量が可能になる。
【0170】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、ナノ構造体を用いて各種標的を検出し、これら標的の定性や定量を行う、バイオセンサや化学センサ等の標的検出装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】本発明の一実施形態のセンサ素子1におけるシリコンナノワイヤ付近を拡大した斜視図である。
【図2】図1に示すセンサ素子1または図5に示すセンサ素子1’の上面図である。
【図3】(a)はシングル形状の、(b)はマトリクス形状のシリコンナノワイヤを示す図である。
【図4】(a1)〜(e1)は、図2のセンサ素子1のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(e2)は、図2のセンサ素子1のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、(a3)、(d3)は、センサ素子1の製造工程での上面図であり、(a4)、(e4)は、フォトレジストの上面図である
【図5】(a1)〜(f1)は、図2(a)のセンサ素子のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(f2)は、図2(a)のセンサ素子のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、(a3)、(c3)、(d3)、(e3)、(f3)は、センサ素子1の製造工程での上面図であり、(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。
【図6】本発明の他の実施形態のセンサ素子10におけるシリコンナノワイヤ付近を拡大した斜視図である。
【図7】図6に示すセンサ素子10の上面図である。
【図8】本発明の他の実施形態のセンサ素子1’におけるシリコンナノワイヤ付近を拡大した斜視図である。
【図9】(a1)〜(i1)は、図8のセンサ素子10のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(i2)は、図8のセンサ素子10のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、(a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子10の製造工程での上面図であり、(a4)、(c4)、(d4)は、フォトレジストの上面図である。
【図10】(a1)〜(d1)は、図2のセンサ素子1’のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(d2)は、図2のセンサ素子1’のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子1’の製造工程での上面図であり、(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。
【図11】本発明の他の実施形態の差動型センサ素子を示す図である。
【図12】(a),(b)は、センサ素子を用いた分析チップの構成図である。
【図13】本発明の他の実施形態のハンディ型マイクロ分析装置の構成図である。
【図14】本発明の他の実施形態の独立型マイクロ分析装置の構成図である。
【符号の説明】
【0173】
1,1’,10 センサ素子
2 基板
3,3’ シリコンナノワイヤ(ナノ構造体)
4 カバー層
5 溝部
20 基板
40 カバー層
50 注入口
51 液溜
54 吸収部
55 外部接続端子
60 検出部
61 参照検出部
100,200 マイクロ分析装置(分析装置)
2302 マイクロ分析チップ(分析チップ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造体を用いたセンサ素子に関し、特にシリコンナノワイヤを用いたセンサ素子及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤのようなナノ構造体は、電極間に配置することによりトランジスタを構成し、センサ等に利用されている。例えば特許文献1には、ナノワイヤを基板上に配置し、試料を流すための流路を形成したPDMS(ポリメチルシロキサン)板を、上記基板に張り合わせることにより、流路中にナノワイヤを配置させたバイオセンサが開示されている。
【0003】
このようなナノワイヤの製造方法は2つに大別され、一方は、金属触媒等を用いてナノワイヤを成長させ、塗布及び配列技術を用いて基板に配置させるボトムアップの製造方法である。他方は、シリコン基板またはSOI基板などに、半導体微細加工技術を用いてナノワイヤを形成するトップダウンの製造方法である。
【特許文献1】特表2004−515782号公報(2004年5月27日公表)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記ナノワイヤを用いたセンサにおいて、ボトムアップの製造方法でナノワイヤを形成すると、ナノワイヤを成長により形成し、塗布や配列技術を用いて電極間に配置するため、ナノワイヤを流路の所定位置に精度よく配置することは困難である。つまり、微細なレベルでの配置制御を行うことは困難である。よって、信頼性の高いラベルフリーセンサを提供できない。他方、トップダウンの製造方法を用いた場合でも、シリコン系樹脂であるPDMS等のカバー層に流路を形成し、人為的な張り合わせにてセンサチップを作成するため、流路とナノワイヤの位置を精度よく制御することが困難である。よって、いずれの方法でも、高性能のセンサを作成することが困難である。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、流路において露出したナノ構造体を有するセンサ素子であり、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセンサ素子は、上記課題を解決するために、溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有し、上記ナノ構造体は、上記溝部の底部から離間していることを特徴としている。
【0007】
上記構成によると、ナノ構造体は基板に設けられた溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板と一体に構成されている。つまり、ナノ構造体は基板を加工することにより形成され、基板と一体不可分に形成される。
【0008】
ここで、溝部が設けられた基板の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中に上記ナノ構造体を露出して配置させることができる。なお、流路とは、試料等の溶液を流すための通路である。
【0009】
よって、上記構成によると、ナノ構造体を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、高性能な検出が可能となる。また、本発明に係るセンサ素子では、ナノ構造体と基板とが一体であるため、ナノ構造体を成長により形成し塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子と比べて、流路に流れる溶液によるナノ構造体のズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0010】
以上のことから、本発明に係るセンサ素子により、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を提供することができる。
【0011】
なお、ナノ構造体は、上記溝部の延伸方向に対して垂直に配置されていてもよいし、斜めに配置されていてもよい。
【0012】
また、上記センサ素子では、上記構成に加え、上記ナノ構造体は、上記溝部の上端部から離間していてもよい。
【0013】
上記構成によると、ナノ構造体は、溝部の底部から離間しており、さらに溝部の上端部から離間している。このような構造であると、溝部に上記したカバー層を被せて流路を形成すると、ナノ構造体の上部と下部とに流路ができる。よって、ナノ構造体の流路で露出される表面積がさらに多くなる。そのため、この増加した表面積のナノ構造体と、流路を流れる物質とを、反応させることができる。例えば、ナノ構造体にリガンドを固定化する場合、リガンドをより多く固定化できる。よって、このリガンドと反応する標的分子とも、より多く反応させることができる。その結果、センサの感度を上げることができ、より高性能な検出を行うことができる。
【0014】
ここで、上記ナノ構造体は、ナノスケールの構造体であればよく、上記ナノ構造体及び上記基板は、半導体からなっていてもよい。特に、上記ナノ構造体及び上記基板は、シリコンからなっていてもよい。
【0015】
また、上記センサ素子では、上記構成に加え、上記溝部内に、さらに、当該溝部の両壁面に懸架して設けられた金属から成る金属ナノ構造体が設けられていてもよい。
【0016】
上記構成によると、金属ナノ構造体をヒータとして用いることができる。このヒータにより、溝部からなる流路を流れる溶液の温度を変化させることができ、温度を変化させて場合の、ナノ構造体に固定したリガンドと標的分子との反応を、計測することができる。
【0017】
なお金属ナノ構造体を用いず、標的分子検出用の上記ナノ構造体をヒータとして兼用してもよい。
【0018】
また、上記センサ素子では、上記構成に加え、上記溝部に、上記ナノ構造体を複数形成するのがよい。溝部に複数のナノ構造体が形成されることにより、流路にナノ構造体が複数配置される。よって、流路内の一部のナノ構造体でキャッチできない標的分子を、流路内の複数のナノ構造体でキャッチすることにより標的分子を均一的に検出することができ、より信頼性が高いセンサを提供することが可能となる。つまり、複数のナノ構造体が配置されることで、全体的に分布した標的分子をその複数のナノ構造体でキャッチでき、平均を取り評価できるので、好ましい。
【0019】
また、上記センサ素子では、上記ナノ構造体は、マトリクス形状に設けられていてもよい。マトリクス形状であると、シングル形状に比べて、シリコンナノワイヤの欠損を防止し、シリコンナノワイヤの欠損によるセンサ素子の動作不具合を防止できる。よって、マトリクス形状のシリコンナノワイヤのセンサ素子を用いた測定時の安定性が向上する。さらに、マトリクス形状のシリコンナノワイヤであると、ナノワイヤの表面積を大きくすることができ、センサの感度をさらに向上させることができる。なお、シングル形状でもマトリクス形状でも、シリコンナノワイヤの本数に限定はない。
【0020】
また、本発明に係るセンサ素子は、上記ナノ構造体が設けられた上記溝部二つ有していてもよい。二つの溝部にそれぞれ設けられた基板と一体のナノ構造体は、上記のように、大きさが揃って精度よく配置されているため、差動型分析システムに用いることができるセンサ素子を提供することができる。
【0021】
本発明に係る分析チップは、上記何れか1つのセンサ素子を有している。また、本発明に係る分析装置は、上記分析チップを用いて、上記ナノ構造体にリガンドを固定し、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する。よって、これら分析チップや分析装置を用いることで、精度よく、また感度を上げて、標的分子の分析や検出を行うことができる。
【0022】
また、本発明に係る差動型分析チップは、上記ナノ構造体が設けられた上記溝部を二つ有するセンサ素子を有し、上記二つの溝部のうち、一方の溝部の上記ナノ構造体にはリガンドを修飾して検出部として使用し、他方の溝部のナノ構造体にはリガンドを固定せずに参照検出部として使用する、ことを特徴としている。
【0023】
ここで、サンプル溶液中にはイオン等、電極のインピータンス変化に影響を与える分子が含まれるため、標的分子がナノ構造体に固定化されているリガンドと結合することによるインピータンス変化のみを計測するためには、参照検出部を設ける必要がある。本発明に係るセンサ素子は、ナノ構造体を基板に一体に形成することで、大きさの揃ったナノ構造体の配置を精度よく行うことができるので、差動型センサ素子を実現可能である。よって、差動型センサ素子を用いた差動型分析チップや、この差動型分析チップを用い、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析装置により、検出部及び参照検出部のインピーダンス変化を測定し、検出部のインピーダンス変化量から参照検出部のインピーダンス変化量を差し引くことで、より正確な標的分子の検出が可能になる。
【0024】
本発明に係る分析装置は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析装置であって、上記ナノ構造体に電圧を印加する電圧印加部と、印加する電圧を制御する電圧制御部とを備えたことを特徴としている。
【0025】
上記構成によると、ナノ構造体に電圧を印加することで上記ナノ構造体に電流を流して、上記ナノ構造体の温度を変化させることができ、印加する電圧を制御することで、ナノ構造体の温度制御することができる。
【0026】
よって、上記構成によると、ナノ構造体の温度を制御して、ナノ構造体に固定したリガンドと標的分子との反応を計測することができる。ナノ構造体の温度制御により、ナノ構造体を含む微細空間での溶液の温度制御ができ、例えば、様々な生体分子、特に生体機能分子であるタンパク質における温度変化による単分子レベルでの反応及び生体分子間作用を調べることで、分子の構造や反応機構などを解明することができる。
【0027】
さらに、例えば、タンパク質の検出において、生化学反応は35度から40度の間で最も活性をもつので、ナノ構造体に電圧を印加しジュールヒーティングすることで、微細空間内の溶液の温度を上記のような生化学反応に最適な温度に制御すると、標的分子とリガンドとの結合(免疫反応や酵素反応など)を、より効率的に行わせることができる。このように、標的分子とリガンドとの反応を向上させることができ、よって、検出感度を高めることができる。
【0028】
上記分析装置は、電圧印加により温度を変化させることができるナノ構造体を備えたセンサ素子であれば用いることができる。なお、ナノ構造体を効率よく発熱させるためには、架橋形のナノ構造体を有するセンサ素子が好ましく、上記したいずれかのセンサ素子を用いてもよい。
【0029】
本発明に係る分析装置は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析装置であって、上記ナノ構造体を振動させる振動手段と、上記ナノ構造体の振動数を測定する測定手段とを備えたことを特徴としている。
【0030】
ナノ構造体の固有振動数は、標的分子がナノ構造体の表面に固定化されたリガンドと結合すると、この結合前と後とでは、変化する。よって、結合前のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、結合後のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、振動数の変化を計測することで、標的分子を検出することができる。なお、結合していなければ振動数は変化しない。
【0031】
さらに、ナノ構造体の固有振動数の変化はナノ構造体に固定化されたリガンドと標的分子の結合量に比例し変化するため、ナノ構造体の固有振動数の変化を計測することによりサンプル中の標的分子の検量が可能になる。
【0032】
ここで、上記振動手段は、上記ナノ構造体に光を照射し、上記ナノ構造体を光熱励振させてもよい。このように、光を照射してナノ構造体を光熱励振させる光熱励振法を用いることで、効果的にナノ構造体を振動させることができる。上記光はレーザ光を用いることができる。
【0033】
上記分析装置は、固有振動数を有するナノ構造体を備えたセンサ素子であれば用いることができる。なお、振動数を測定するためには、架橋形のナノ構造体を有するセンサ素子が好ましく、上記したいずれかのセンサ素子を用いてもよい。
【0034】
本発明に係るセンサ素子の製造方法は、上記課題を解決するために、溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有するセンサ素子の製造方法であって、上記溝部と上記ナノ構造体とを同時に、かつ、上記ナノ構造体を上記溝部の底面から離間して、形成するステップを含むことを特徴としている。
【0035】
上記方法によると、上記センサ素子と同様の効果を奏し、上記方法により、簡易に、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を製造することができる。
【0036】
本発明に係る分析方法は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析方法であって、上記ナノ構造体に印加する電圧を制御することで、上記ナノ構造体の温度制御を行うステップを含むことを特徴としている。
【0037】
上記方法によると、ナノ構造体に電圧を印加することで上記ナノ構造体に電流を流して、上記ナノ構造体の温度を変化させることができる。よって、印加する電圧を制御することで、ナノ構造体の温度制御することができる。そのため、ナノ構造体の温度を制御して、ナノ構造体に固定したリガンドと標的分子との反応を計測することができる。さらに、温度制御によって、標的分子とリガンドとの反応を向上させることができ、検出感度を高めることができる。
【0038】
本発明に係る分析方法は、ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析方法であって、
上記ナノ構造体を振動させる振動ステップと、上記ナノ構造体の振動数の変化を計量する計量ステップとを含むことを特徴としている。
【0039】
ナノ構造体の固有振動数は、標的分子がナノ構造体の表面に固定化されたリガンドと結合すると、この結合前と後とでは、変化する。よって、結合前のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、結合後のナノ構造体を振動させて振動数を測定し、振動数の変化を計測することで、標的分子を検出することができる。なお、結合していなければ振動数は変化しない。
【0040】
さらに、ナノ構造体の固有振動数の変化はナノ構造体に固定化されたリガンドと標的分子の結合量に比例し変化するため、ナノ構造体の固有振動数の変化を計測することによりサンプル中の標的分子の検量が可能になる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るセンサ素子は、以上のように、溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有し、上記ナノ構造体は、上記溝部の底部から離間している。
【0042】
上記構成によると、ナノ構造体は基板に設けられた溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板と一体に構成されている。つまり、ナノ構造体は基板を加工することにより形成され、基板と一体不可分に形成される。
【0043】
ここで、溝部が設けられた基板の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中に上記ナノ構造体を露出して配置させることができる。なお、流路とは、試料等の溶液を流すための通路である。
【0044】
よって、上記構成によると、ナノ構造体を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、高性能の検出が可能となる。また、本発明に係るセンサ素子では、ナノ構造体と基板が一体であるため、ナノ構造体を成長により形成し塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子と比べて、流路に流れる溶液によるナノ構造体のズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0045】
以上のことから、本発明に係るセンサ素子により、簡易に形成でき、信頼性が高く、検出が高性能で行えるセンサ素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を用いて詳細に説明する。なお、ナノ構造体は、ナノスケールの構造体であればよく、以下の実施形態では、検出に用いるナノ構造体をシリコンナノワイヤとする。しかし、検出に用いるナノ構造体は、例えば、窒化ガリウムナノワイヤ、ガリウム砒素ナノワイヤ、酸化亜鉛ナノワイヤ等であってもよく、半導体材料であれば適用可能である。
【0047】
〔実施の形態1〕
<センサの構造>
初めに、本発明に係るセンサ素子の構造について説明する。図1は本実施形態1のセンサ素子1が有するシリコンナノワイヤ3近傍を示す斜視図である。また、図2は、センサ素子1の上面図である。
【0048】
図1に示すように、センサ素子1は、溝部5が設けられた面を有する基板2と、ナノ構造体であるシリコンナノワイヤ3を有している。またセンサ素子1には、カバー層4が設けられている。
【0049】
シリコンナノワイヤ3は、溝部5内で溝部5の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板2と一体に構成されている。さらに、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底部(底面)からも、溝部5の上端部からも離間している。なお、本実施形態では、図1に示すようにシリコンナノワイヤ3は、溝部3の延伸方向に対して垂直に配置されているが、斜めに配置されていてもよい。
【0050】
基板2にカバー層4が張り合わされ、溝部5とカバー層の下面とから流路が形成される。このように、センサ素子1では、流路は基板2及びカバー層4が張り合わされた面内に構成される。ここで、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底部(底面)と上端部とから離間して、溝部5(流路)の両側壁を架橋する形状である。よって、溝部5にカバー層4を被せることで形成される流路は、シリコンナノワイヤ3の上と下との両側に形成される。本実施形態では、流路の上面をなす層であるカバー層4は、PDMSからなる。また、流路の底面及び側面となる溝部5を成す基板2は、SOI(Silicon On Insulator)基板から形成される。
【0051】
図2では、流路となる溝部5は、後述する断面図における溝部5の側面を説明するために、上面からの形状をコの字形としているが、例えば、直線状となっていてもよい。
【0052】
流路となる溝部5には絶縁体で支持されたシリコンナノワイヤ3が露出して形成されており、センサ素子1は、このシリコンナノワイヤ3を用いて流路を流れる試料(サンプル)を測定することができる。図2の矢印はこの資料(サンプル)の流路での流れを示している。
【0053】
また、図1、2に示すように、シリコンナノワイヤ3の両端部(溝部の両側壁)にソース電極及びドレイン電極となる半導体領域がそれぞれ形成され、それぞれの半導体領域はシリコンナノワイヤと反対側で金属電極6と電気的に接続され、配線されている。本実施形態では、シリコンナノワイヤ、ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8が形成されている部分以外の流路は、絶縁膜(シリコン酸化膜)で形成されている。シリコンナノワイヤ3、ソース半導体領域7、及び、ドレイン半導体領域8は半導体(シリコン)で形成される。ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8は、シリコンナノワイヤ3と反対側で金属電極6と接続しているため、流路に面することなく、金属電極6を形成することができる。したがって、金属電極6の腐食及び流路に面することによる短絡の問題のない、信頼性の高いセンサを提供することができる。
【0054】
さらに、上記シリコンナノワイヤ3は流路内に露出し、基板2であるSOI基板と一体に構成されている。すなわち、シリコンナノワイヤはSOI基板の絶縁膜上の半導体膜(SOI膜)を加工することにより形成されており、一体不可分に形成されている。ここで、溝部5が設けられた基板2の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層4を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中にシリコンナノワイヤ3を露出して配置させることができる。なお、流路とは、試料等の溶液を流すための通路である。
【0055】
よって、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、センサ素子1を用いると、高性能な検出が可能となる。また、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3と基板2とが一体であるため、シリコンナノワイヤを成長により形成し、塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子と比べて、流路に流れる溶液によるシリコンナノワイヤのズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0056】
さらに、シリコンナノワイヤ3が溝部5の底部(底面)からも溝部5の上端部からも離間して、溝部5の両側壁を懸架しているため、溝部5にカバー層4を被せることで形成される流路内でのシリコンナノワイヤ3の表面積が、底部に設置された(底部と接続した)シリコンナノワイヤに比べて、増加する。よって、この増加した表面積のシリコンナノワイヤ3と、流路を流れる物質とを、反応させることができる。例えば、ナノ構造体にリガンドを固定化する場合、リガンドをより多く固定化できる。よって、このリガンドと反応する標的分子とも、より多く反応させることができる。その結果、センサの感度を上げることができ、より高性能な検出を行うことができる。
【0057】
ここで、上記では、図3(a)のように、センサ素子において、シリコンナノワイヤ3は、ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8の間に直線の形状(シングル形状)で配置されているものとして説明したが、図3(b)に示すように、シリコンナノワイヤをマトリクス形状にしてもよい。マトリクス形状であると、シングル形状に比べて、シリコンナノワイヤの欠損を防止し、シリコンナノワイヤの欠損によるセンサ素子の動作不具合を防止できる。よって、マトリクス形状のシリコンナノワイヤのセンサ素子を用いた測定時の安定性が向上する。さらに、マトリクス形状のシリコンナノワイヤであると、ナノワイヤの表面積を大きくすることができ、センサの感度をさらに向上させることができる。なお、シングル形状でもマトリクス形状でも、シリコンナノワイヤの本数に限定はない。さらに、シリコンナノワイヤ3、ソース半導体領域7及びドレイン半導体領域8の不純物の導電型については同じ導電型を有していてもよく、ソース半導体領域及びドレイン半導体領域の導電型は、シリコンナノワイヤ3と異なる導電型であってもよい。
【0058】
<センサの製造方法>
次に、本実施形態のセンサ素子1の製造方法について、図4,5を用いて順に説明する。図4(a1)〜(e1)及び図5(a1)〜(f1)は、図2に示すセンサ素子1のAA’断面を製造工程順に説明する図である。また、図4(a2)〜(e2)及び図5(a2)〜(f2)は、図2に示すセンサ素子1のBB’断面を製造工程順に説明する図である。
【0059】
また、図4(a3)、(d3)は、センサ素子1の製造工程での上面図(俯瞰図)である。また、図4(a4)、(e4)は、フォトレジストの上面図である。ここで、図4において同じ英字の図面(例えば、(a1)、(a2)、(a3)及び(a4))は、同じ工程における図面である。同様に、図5(a3)、(c3)、(d3)、(e3)、(f3)は、センサ素子1の製造工程での上面図(俯瞰図)であり、図5(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。図4においても、同じ英字の図面は、同じ工程における図面である。
【0060】
まず、図4(a1)、(a2)に示すように、SOI基板である基板2上に、シリコン窒化膜24をCVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着法)にて堆積する。当該シリコン窒化膜24は後の工程であるCMP(Chemical Mechanical Polishing)工程におけるストッパーとして用いるため、ストッパーとして充分な膜厚であればよい。よって、シリコン窒化膜24は、例えば100nmほど堆積すればよい。そして、ソース半導体領域、ドレイン半導体領域、シリコンナノワイヤ(SiNW)部分を含む流路、及びメタル形成部分を覆うようにフォトリソグラフィ技術を用いて、図4(a4)に示すレジスト25を形成する。次に、このレジスト25をマスクとしてシリコン窒化膜24をエッチングすることによりレジスト25と同形にシリコン窒化膜24をパターニングする。パターニングされたシリコン窒化膜24を、図4(a3)に示す。
【0061】
なお、絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)は、例えばp型の導電型を高濃度にドープされている基板を用いるのが好ましい。このような基板を用いることにより、後のメタル形成工程において好適な接続が得られるからである。また、メタル形成工程で不純物注入を別途行うことにより、適宜ソース半導体領域及びドレイン半導体領域と、シリコンナノワイヤ3領域の不純物濃度をそれぞれ調整できるため、検出に適したシリコンナノワイヤの不純物濃度及び不純物種などを調整できるので、好ましい。
【0062】
また、基板2としては、SOI基板における絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)23の膜厚がその後形成される流路の高さに影響するため、必要とされる流路高さに応じて、膜厚が10μmから1000μm程度のSOI膜23の、SOI基板を準備するとよい。本実施形態ではSOI膜厚は50μmとした。
【0063】
次に、図4(b1)、(b2)に示すように、基板2の絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)23を、レジスト25をマスクとしてエッチングし、レジスト25及びシリコン窒化膜24と同形にSOI膜23をパターニングする。また、このパターニングにより、SOI膜23に、流路高さとして必要とされる10μm以上のエッチングをしなければならない。従って、通常の半導体製造工程で用いられるような微細なエッチングを行うとかなり時間がかかってしまう。そこで、シリコンの深堀エッチング装置たとえばICPエッチング装置などを用いてエッチングするのが好ましい。その後、レジスト25を剥離する。なお、レジスト25をマスクとしてシリコン窒化膜24をエッチングした後、レジスト25を剥離して、シリコン窒化膜24をマスクとしてSOI膜23をエッチングしても構わない。
【0064】
次に、図4(c1)、(c2)に示すように、シリコン酸化膜26を、CVDを用いて堆積する。この堆積には、厚膜形成に最適化されたTEOS−CVD装置を用いるのが好ましい。TEOS−CVD装置により10μm以上の厚膜のシリコン酸化膜を形成することができる。また、5μm以下のアモルファスシリコン膜またはエピシリコン膜のCVD堆積工程と、当該アモルファスシリコン膜またはエピシリコン膜の熱酸化工程と、を繰り返すことにより、厚膜のシリコン酸化膜形成をより早く完了することができる。
【0065】
次に、図4(d1)、(d2)に示すように、シリコン窒化膜24をストッパーにしてCMPを行う。その後、残ったシリコン窒化膜24を、リン酸等を用いた選択的ウエットエッチングを用いて除去する。なお、シリコン窒化膜は除去せずに次の工程で用いるSOI膜のエッチングマスクに用いるためのシリコン窒化膜に流用してもよい。図4(d3)は、シリコン窒化膜24が残ったままの状態を示している。
【0066】
次に、図4(e1)、(e2)に示すように、溝部5(シリコンナノワイヤ3が形成される部分も含む)のみ露出するように、フォトリソグラフィ技術を用いてレジスト30をパターニングする。このとき用いるレジスト30を図4(e4)に示す。そして、シリコンナノワイヤ3の高さを調整するため、すなわち、シリコンナノワイヤ3の上側にも流路となる空間を設けるため、露出した流路部(SiNW部も含む)のシリコンをエッチングし、薄膜化する。すなわち、このエッチングにより、SOI膜23に、流路高さとして必要とされる10μm以上のエッチングをしなければならない。従って、通常の半導体製造工程で用いられるような微細なエッチング技術を行うとかなり時間がかかってしまい生産効率が悪くなる。そこで、シリコンの深堀エッチング装置たとえばICPエッチング装置などを用いてエッチングするのが好ましい。なお、KOHを用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行ってもよい。本実施形態では、エッチング深さは25μm程度とした。ここで行うシリコンエッチングの深さを変えることにより、最終的に形成されるシリコンナノワイヤ3の高さを調整することができる。
【0067】
その後、図5(a1)、(a2)に示すように、シリコン窒化膜27をCVDにて堆積する。シリコン窒化膜27上にフォトリソグラフィ技術を用いて、図5(a4)に示すレジストを形成する。このレジストはシリコンナノワイヤ領域及びソース・ドレイン半導体領域を形成する領域を規定するものであり、シリコンナノワイヤ領域及びソース・ドレイン半導体領域にレジストが残るようにパターニングする。このときの上面図を図5(a3)に示す。なお、ここでシリコン窒化膜27を堆積したが、前の工程におけるCMPのストッパーに用いたシリコン窒化膜24を除去せずに流用してもよい。
【0068】
次に、図5(b1)、(b2)に示すように、KOHを用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行い、SOI膜23をエッチングする。ここではKOH溶液は、例えば40w%、60℃で用いるとよい。KOHを用いることにより、面方位による異方性エッチングが可能となるため、シリコンの微細な細線を形成することができる。本工程は上記以外にも、RIEを用いたドライエッチングによる異方性エッチングを行うことにより、シリコン窒化膜27の形状に応じたシリコンの微細な細線を形成することもできる。ここでのシリコンエッチング深さは、SiNWのおおよその高さ方向の大きさを規定することとなる。そのため、ここでのエッチング深さは数nmから数百nmの範囲で適切に選択することができる。ここでは、500nm程度の深さをエッチングした。なお、後の工程のKOHによるSiNWの下のシリコンを除去する際に、多少のエッチングもあるため、当該エッチング深さより多少小さくなる。
【0069】
次に、図5(c1)、(c2)に示すように、シリコン窒化膜27を耐酸化膜として酸化(LOCOS酸化:local oxidation of silicon)を行う。すなわち、シリコン窒化膜27を耐酸化膜として用いて、シリコンの露出部分を熱酸化し、シリコンの露出部分に酸化膜28を形成する。当該熱酸化工程により、シリコンナノワイヤをより細線化することができる。熱酸化を用いるために微細な、数nmレベルの、シリコンナノワイヤ径を制御することができる。
【0070】
次に、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域を覆うよう、レジスト29をフォトリソグラフィを用いて形成する。この際、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域の設計に合わせてレジストを形成するのではなく、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域の側壁も覆うようにオーバーハング量を調整しレジスト29をパターニングする必要がある。このようにすることにより、後の工程で当該レジスト29をマスクにエッチングするシリコン酸化膜がSiNW及びソース・ドレイン半導体領域より大きめに残るため、さらに後の工程でシリコンをウェットエッチングするときのマスクとしてのシリコン酸化膜が、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域の側壁部にも形成される。したがって、シリコンをウエットエッチングする際に、所望の形状にシリコンを除去でき、SiNW及びソース・ドレイン半導体領域は所望の形状に残すことができる。
【0071】
次に、図5(d1)、(d2)に示すように、所望の形状にパターニングしたレジスト29をマスクにBHF溶液を用いてシリコン酸化膜28をウエットエッチし、除去する。ここで用いるBHF溶液は、例えば、濃度22%で、25℃にて用いるとよい。なお、ここでウエットエッチングを用いる以外に、RIEドライエッチングを用いてレジスト29をマスクにシリコン酸化膜28を除去することもできる。
【0072】
次に、図5(e1)、(e2)に示すように、レジスト29を除去し、残ったシリコン窒化膜27及びシリコン酸化膜28をマスクにKOH溶液を用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行い、シリコン酸化膜28及びシリコン窒化膜27に覆われていないSOI膜23をウエットエッチングする。すなわち、シリコン酸化膜28及びシリコン窒化膜27に覆われていないシリコンナノワイヤ3の下部のSOI膜23がウエットエッチングにより除去される。ここでは、KOH溶液は、例えば40w%、60℃で用いるとよい。
【0073】
次に、図5(f1)、(f2)に示すように、バッファードフッ酸(BHF)溶液を用いてシリコン酸化膜28を除去し、リン酸溶液を用いてシリコン窒化膜27を除去する。BHF溶液またはリン酸溶液を用いると、シリコンナノワイヤの表面を、良好に、つまり荒さが無く保てるために好ましい。その後、メタル形成工程を行う。具体的には、ソース・ドレイン半導体領域に電気的に接続するように金属電極6の形成を行う。このときの上面図は図5(f3)に示す。本実施形態においては、既にエッチングによりそれぞれのソース・ドレイン半導体領域のシリコンナノワイヤ3と反対側に、メタル形成領域を形成しているため、流路に面することなく、金属電極6を形成することができる。したがって、メタルの腐食及び流路に面することによる短絡の問題のない、信頼性の高いセンサ素子を提供することができる。
【0074】
上記製造方法により、溝部3の深さ方向(流路での高さ方向)での位置を任意に調整できるセンサ素子1を形成することができる。なお、本実施形態では、シリコンナノワイヤ3は、1つの流路に2つ形成したが、1つでもよいし3つ以上形成してもよい。
【0075】
以上説明したように、本実施形態のセンサ素子1では、基板2の溝部5(カバー層で覆われることにより流路が形成される部分)とシリコンナノワイヤ3とが同時に形成される。シリコンナノワイヤ3は溝部5内で溝部5の両側壁に懸架して設けられ、かつ、基板と一体に構成されている。ここで、溝部5が設けられた基板2の表面上に、溝部を形成しない平坦なカバー層4を張り合わせるだけで、流路を形成することができ、この流路中にシリコンナノワイヤ3を露出して配置させることができる。
【0076】
このように、センサ素子1は、シリコンナノワイヤ3を、流路の所定位置へ、微細なレベルで、精度よく配置することが可能となる。そのため、高性能の検出が可能となる。また、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3と基板2が一体であるため、シリコンナノワイヤ3を成長により形成し塗布や配列技術を用いて電極間に配置したセンサ素子(ボトムアップ製法のセンサ素子)と比べて、流路に流れる溶液によるトップダウン製法のズレや剥がれなどの問題がなく、耐久性が高くなる。
【0077】
さらに、センサ素子1では、シリコンナノワイヤ3は、溝部5の底部(底面)と上端部とから離間して、溝部5(流路)の両側壁を架橋する形状である。よって、溝部5にカバー層4を被せることで形成される流路が、シリコンナノワイヤ3の上と下との両側に形成される。よって、流路内で露出されるシリコンナノワイヤ3の表面積が増加する。よってシリコンナノワイヤの上下の両側にリガンドを固定でき、上下両側で標的分子の捕獲をすることができる。よって、標的分子を効率的に捕獲でき、センサ素子1の検出精度を上げることができる。
【0078】
なお、トップダウン製法(基板にナノワイヤを微細加工技術により形成する製法)によっても、PDMS等のカバー層により流路を形成し、人為的な張り合わせにてチップを作成していたため、流路とナノワイヤの位置制御を精度良く制御することが困難であった。しかし、本実施形態では、カバー層4には流路が形成されていないので、基板2との位置合わせ制度よく行う必要がないため、センサを簡易に作成することができる。
【0079】
<センサ素子の使用例>
(リガンドの固定化)
次に、上記センサ素子1のシリコンナノワイヤ3へのリガンドの固定化方法について説明する。まず、シランカップリング剤を溝部5とカバー層4とからなる流路に流し、シリコンナノワイヤ3の表面を修飾する。ここで、シランカップリング剤は末端に官能基として、COOH,NH2,OH,CHO,SH基が修飾されているものを用いるのが望ましい。次に、シリコンナノワイヤ3表面の官能基を活性化させる。その後、標的分子を特異的に認識して結合するリガンド溶液を流路に導入し、シリコンナノワイヤ3表面にリガンドを共有結合により固定化する。リガンドとしては、例えば、抗体、ペプチド、DNA、RNA,アプタマー、リセプター、細胞等が挙げられる。リガンドの固定化後、リガンドと結合してない活性化した官能基を不活性化する。その後、バッファにより洗浄し、シリコンナノワイヤ3表面にリガンドを固定化する。リガンドの固定化方法で光架橋剤を用いることもできる。なお、上記固定化方法は単なる一例であり、上記に限定されることはない。
【0080】
(試料の測定)
次に、本実施形態のセンサ素子1を用いた試料の測定について説明する。シリコンナノワイヤ3が形成された溝部5を有するSOI基板である基板2と、サンプル溶液や試薬溶液を注入する注入口と排出口が設けられたPDMS基板であるカバー層4とを、例えば、100W、酸素流量30sccm、60秒の条件で、酸素プラズマ処理を行い、基板2とカバー層4とを活性化させ、張り合わせる。基板2とカバー層4とを張り合わせるために必ずしも酸素プラズマ処理を行う必要はなく、PDMSの自然密着性を用いて、カバー層4を基板2に張り合わせることもできる。溝部5がカバー層4で覆われることにより、シリコンナノワイヤを備えた流路が形成される。
【0081】
標的分子を特異的に認識し結合するリガンドをシリコンナノワイヤ3の表面に固定化してから、シリコンナノワイヤ3の表面に標的分子が非特異的に吸着することを防ぐため、ブロッキングを行う。例えば、ウシ血清アルブミン(BSA;Bovine Serum Albumin)溶液を用いてブロッキングを行えばよい。ブロッキング剤としてはBSA以外に高分子やタンパク質を用いることもできる。ブロッキング後、標的分子が含まれるサンプル溶液(試料)を流路内に導入する。導入されたサンプル溶液中の標的分子はシリコンナノワイヤ3と結合し、ソース電極とドレイン電極間の電気的な特性の変化を引き起こす。またサンプル溶液導入後、シリコンナノワイヤの表面に固定化されたリガンドと結合してない標的分子を洗い流すため、緩衝液を注入するのもよい。ソース電極とドレイン電極間のインピーダンス(シリコンナノワイヤのインピーダンス)の変化は、サンプル溶液に含まれる標的分子の濃度に比例し変化する。よって、ソース電極とドレイン電極間のインピーダンスの変化を測定することで、サンプル溶液中の標的分子の検量が可能になる。
【0082】
(複数の標的分子の測定)
上記では、基板2に、シリコンナノワイヤ3が露出した1つの溝部5を形成したが、シリコンナノワイヤ3が露出した複数の溝部5を形成してもよい。これら複数の溝部5からなる流路にそれぞれに形成されたシリコンナノワイヤ3の表面に、異なる標的分子をそれぞれ特異的に認識する異なるリガンドを、上記リガンドの固定化方法により、それぞれ固定化する。複数の標的分子が含まれたサンプル溶液を、上記複数の流路に導入することで、同時に複数の標的分子を測定することが可能になる。この場合、異なるリガンドを固定させるために、複数の流路は、それぞれ独立した注入口を持ち、異なる注入口に繋がっているものとする。注入口とは、溶液を流路に注入させるための入り口である。
【0083】
また、異なる注入口に繋がった複数の流路にそれぞれの注入口から異なるリガンドを導入する。形成されたそれぞれのシリコンナノワイヤ3の表面に、ある標的分子を特異的に認識するリガンドを固定すると、異なるサンプル溶液について、それらに含まれる標的分子を、同時に測定することができる。また複数の標的分子を含むサンプル溶液中の複数の標的分子を同時に測定することもできる。
【0084】
(振動数測定)
次に、本実施形態のセンサ素子1を用いて、サンプル溶液の標的分子を、シリコンナノワイヤ3の固有振動数変化を用いて検出する方法(分析方法)について説明する。シリコンナノワイヤ3の固有振動数は、サンプル溶液中の標的分子がシリコンナノワイヤ3表面に固定化されたリガンドと結合することで、変化する。そのため、シリコンナノワイヤ3の固有振動数の変化は、シリコンナノワイヤ3に固定化されたリガンドと、サンプル中の標的分子との結合量に比例し変化する。よって、ナノワイヤの固有振動数の変化を計量することによりサンプル中の標的分子の検出、そして、検量が可能になる。
【0085】
本実施形態のセンサ素子1では、シリコンナノワイヤ3が流路(溝部5)両面を架橋しているため、ナノワイヤの固有振動数を良好に測定することができる。以下では、固有振動数の変化の測定について、具体的に説明する。
【0086】
まず、シリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定するため、シリコンナノワイヤ3を励振させる必要がある。本実施形態では、半導体レーザを用いた光熱励振法(photothemal excitation)を採用する。ただし、これ以外の方法を用いて励振動させてもよい。本実施形態では、励振させるために、405nmの半導体レーザを用いた。
【0087】
レーザ光をナノワイヤ(シリコンナノワイヤ3)に照射すると、ナノワイヤの表面に熱が発生する。この熱はナノワイヤの内部に伝達し、ナノワイヤの内部に不均一な温度分布を発生する。温度の上昇によるナノワイヤの膨張率の変化から、ナノワイヤ歪みが生じる。レーザ光の照射を止めると、膨張したシリコンナノワイヤ3が元に戻るため縮小する際、ナノワイヤに振動が生じる。この光熱励振法では、ナノワイヤに直接力を発生させるために、寄生振動のない良好な固有振動数(周波数特性)を得ることができる。なお、本実施形態では、振動数の変化は数MHz以下であるが、これには限定されない。
【0088】
また、本実施形態では、固有振動数を測定する装置として、レーザドップラー干渉計(Laser Doppler Interferometer)を用いる。ただし、別の測定装置を用いてもよい。本実施形態で用いたレーザドップラー干渉計は、光源が633nm、出力2nWのHe−Neレーザである。
【0089】
本実施形態のセンサ素子1を用いて、シリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定するにあたり、予め、標的分子に特異的に結合するリガンドをシリコンナノワイヤ3表面に固定化する(固定化法には前述リガンドの固定化法と同様)。そして、サンプル導入口から標準溶液の緩衝液をシリコンナノワイヤ3が設けられた流路内に導入し、流路内を緩衝液に満たし、停止状態でシリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定する。標準溶液は、緩衝液以外に純水を用いることもできる。
【0090】
次に、標的分子を含むサンプル溶液を流路内に導入し、サンプル中の標的分子と流路内のシリコンナノワイヤ3の表面に固定化されたリガンドと反応させる。サンプル溶液を流路内から除去してから、再び標準溶液を流路内に導入し、リガンドと反応してないサンプル溶液中の標的分子を取り除いた状態で標準溶液に満たした流路内のシリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定する。
【0091】
サンプル溶液との反応後の振動数から、最初の標準溶液での固有振動数を差し引くことで、標的分子の結合による固有振動数の変化を求められる。つまり、シリコンナノワイヤ3の固有振動数はシリコンナノワイヤ3の表面に固定化されたリガンドと標的分子の結合量に比例し変化するため、シリコンナノワイヤ3の固有振動数の変化を測定することでサンプル溶液中の標的分子の検量ができる。
【0092】
また流路内に複数のシリコンナノワイヤ3を形成し、一部のシリコンナノワイヤ3を参照検出部として使用することもできる(後段の実施の形態4参照)。この場合、参照検検出部のシリコンナノワイヤ3には標的分子と特異的に結合するリガンドを固定化しない。参照検出部を用いてサンプル溶液を測定する時は、前述のように標準溶液を用いて参照検出部と検出部のナノワイヤの振動数を測定する。次に、サンプル溶液を導入し、参照検出部と検出部のシリコンナノワイヤ3の固有振動数を測定する。参照検出部と検出部の振動数の変化をそれぞれ求める。検出部の振動数の変化から参照検出部の振動数の変化差し引いた振動数の変化が標的分子とリガンドの結合による振動数の変化となる。参照検出部を用いることで溶液の粘度や温度などによるシリコンナノワイヤ3振動数への影響を防ぐことができる。
【0093】
なお、ナノ構造体に振動を与え、その振動数を測定することができる分析装置も、本発明に含まれる。この分析装置は、固有振動数を有するナノ構造体を備えたセンサ素子であれば、本実施形態のセンサ素子1以外の、ナノ構造体を備えたセンサ素子にも用いることができる。本実施の形態のセンサ素子1は、シリコンナノワイヤ3が溝部5の底部からも上端部からも離間して設けられているので、固有振動数の測定に好適に用いることができる。
【0094】
(温度制御)
次に、本実施形態のセンサ素子1を用いて、シリコンナノワイヤ3をジュールヒーティングによって温度制御して生体分子を検出する方法(分析方法)について説明する。さらに、温度制御により、反応、特に生化学反応が向上することについて説明する。
【0095】
初めに、センサ素子1のシリコンナノワイヤ3の両端に電圧を印加するため金属の電極部を設ける。この電極部として、上記<センサの製造方法>に記載した、センシング素子に設けた金属電極6を用いることができる。電極部の材料はAu、Cu、Ni、Ag、Alなどが望ましい。この電極部を通し電圧を印加し、シリコンナノワイヤ3に電流を流すことで、シリコンナノワイ3がジュールヒーティングによる加熱する。よって、印加する電圧を制御することで、シリコンナノワイヤ3の温度制御が行える。
【0096】
ここで、シリコンナノワイヤ3の温度制御のために、予め、シリコンナノワイヤ3表面上温度分布を計測しておく。この温度分布の計測は、例えば、シリコンナノワイヤ3表面に温度変化により蛍光強度が変化する標識物質を固定化し、シリコンナノワイヤ3に印加する電圧を変化させて、標識物質の蛍光強度を測定することで、行うことができる。標識物質としては量子ドット、ナノ粒子、トーダミンなどが用いられる。このようにして測定された、温度分布の結果を用いて、希望する温度となるよう印加電圧を制御することで、温度制御を行うことができる。ここで、印加する電圧の条件(電圧の大きさ、印加時間、等)は、シリコンナノワイヤ3の種 類、形状、寸法によって異なる。
【0097】
温度分布の測定の具体例を示すと、温度変化による発光特性をもつ量子ドットを利用し、シリコンナノワイヤ3の表面に親水性ポリマーを皮膜し、量子ドットを固定化する。シリコンナノワイヤに電圧を印加し、シリコンナノワイヤ3の温度変化によって変化する量子ドットの蛍光スペクトルをマッピングすることで、シリコンナノワイヤ3の温度分布の観察ができる。また、生体分子の反応、タンパク質の高次構造解析、分子間相互作用などの計測には、FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer;蛍光共鳴エネルギー移動法)観察を併用することで可能になる。シリコンナノワイヤ3の温度制御ができる温度範囲は、本実施形態では、20度から90度までになるが、これには限定されない。
【0098】
センサ素子1を用いて、サンプル溶液で溝部5とカバー層4からなる流路内を満たしたら、シリコンナノワイヤ3に電流を印加し、例えば、標的分子が生体分子であれば、サンプル溶液の温度が30度から40度になるようにジュール加熱を行うよう、電圧を印加する。サンプル溶液が所定の温度に到るとサンプル溶液に含まれた標的分子とナノワイヤに固定化されたリガンドの反応が向上する。標的分子とリガンドの反応結合によるナノワイヤの電気的な信号を測定することによりサンプル溶液中の標的分子を検量することは、上記(試料の測定)で記載した通りである。
【0099】
以上のように、シリコンナノワイヤ3に印加する電圧を制御することで、シリコンナノワイヤ3の温度制御を行うことができ、シリコンナノワイヤ3のジュールヒーティングによりサンプル溶液の温度を変化させて、シリコンナノワイヤ3に固定したリガンドと標的分子との反応を計測することができる。シリコンナノワイヤ3のジュールヒーティングを用いて微細空間での溶液の温度制御ができることで、様々な生体分子、特に生体機能分子であるタンパク質における温度変化による単分子レベルでの反応及び生体分子間作用を調べ、分子の構造や反応機構などを解明することができる。さらにタンパク質の検出において、生化学反応は35度から40度の間で最も活性をもつため、ナノワイヤに電流を印加し、ジュールヒーティングすることで微細空間内の溶液の温度を生化学反応に最適な温度に制御することで、標的分子とリガンドとの結合(免疫反応や酵素反応など)をより効率的に反応させることができる。
【0100】
なお、本実施形態では、シリコンナノワイヤ3を、標的分子を検出する検出部とヒータ部として兼用しているが、ヒーティング用の金属のナノ構造体が、上記シリコンナノワイヤ3とは別に、センサ素子1の溝部に設けられていてもよい。
【0101】
さらに、ナノ構造体に印加する電圧を制御することで、ナノ構造体の温度制御することができる分析装置も、本発明に含まれる。この分析装置は、電圧印加により温度を変化させることができるナノ構造体を備えたセンサ素子であれば、本実施形態のセンサ素子1以外の、ナノ構造体を備えたセンサ素子にも用いることができる。
〔実施の形態2〕
<センサの構造>
本発明に係るセンサ素子のさらに他の構造について説明する。図6は本実施形態のセンサ素子10が有するシリコンナノワイヤ3’近傍を示す斜視図である。また、センサ素子10の上面図を図7に示す。なお、実施の形態1と同じ部材には同じ番号を付し説明は省略する。
【0102】
センサ素子10は、基板2として、SOI基板は<100>基板を用いる。これは、後段で説明するシリコンナノワイヤ3’の製造におけるKOHによる異方性エッチング工程が、面方位による異方性をもったエッチング技術を用いるため、面方位はその技術が適切に機能するべく決定する必要があるためである。
【0103】
センサ素子10では、シリコンナノセンサ3’は溝部5の底面と接続しており、その断面形状は三角形となっている。このように断面形状は三角形となるのも、後段で説明するシリコンナノワイヤ3’の製造におけるKOHによる異方性エッチング工程が、面方位による異方性をもったエッチング技術を用いるためである。
【0104】
<センサの製造方法>
次に、本実施形態のセンサ素子10製造方法について、図9を用いて順に説明する。図9(a1)〜(f1)は、図7に示すセンサ素子10のAA’断面を製造工程順に説明する図である。また、図9(a2)〜(f2)は、図7に示すセンサ素子10のBB’断面を製造工程順に説明する図である。また、図9(a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子10の製造工程での上面図(俯瞰図)である。また、図9(a4)、(c4)、(d4)は、フォトレジストの上面図である。ここで、図9において同じ英字の図面(例えば、(a1)、(a2)、(a3)及び(a4))は、同じ工程における図面である。
【0105】
絶縁体により流路のおおよその外壁を成す酸化膜を作製する工程は、当製造方法でも、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4を用いて示した工程を用いることができるので、ここでは説明を省略する。ただし、基板2として使用するSOI基板は<100>基板を用いる。これは、ナノワイヤを作製する工程におけるKOHによる異方性エッチング工程が、面方位による異方性をもったエッチング技術を用いるため、面方位はその技術が適切に機能するべく決定する必要があるためである。また、本製造方法では、基板2である基板2における絶縁膜上シリコン膜(SOI膜)23の膜厚は、500nm以下のものを用いる。
【0106】
図9(a1)、(a2)は、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(a1)、(a2)を用いて説明した工程を用いて、基板2として面方位の決まったSOI基板に、シリコン窒化膜24をパターニングしている構造を示すものである。また、図9(b1)、(b2)は、基板2として面方位の決まったSOI基板を用いて、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4の(d1)、(d2)を用いて説明した工程にて形成した構造を示すものである。
【0107】
次に、図9(c1)、(c2)に示すように、溝部5(シリコンナノワイヤ3が形成される部分も含む)のみ露出するように、フォトリソグラフィ技術を用いてレジストをパターニングする。このとき用いるレジスト30を図9(c4)に示す。そして、溝部を確保するため及びSiNWの微細化のために、露出している溝部5(シリコンナノワイヤ3が形成される部分も含む)のみをシリコンをエッチングし、薄膜化する。このエッチングにより、SOI膜23に、流路高さとして必要とされる10μm以上のエッチングをしなければならない。従って、通常の半導体製造工程で用いられるような微細なエッチング技術を行うとかなり時間がかかってしまい生産効率が悪くなる。そこで、シリコンの深堀エッチング装置たとえばICPエッチング装置などを用いてエッチングするのが好ましい。なお、KOH溶液を用いたウエットエッチングによる異方性エッチングを行ってもよい。
【0108】
ここでは、残されたシリコン膜厚が200nm程度となるようにエッチング工程を実施するとよい。それにより、ナノワイヤが所望の微細な形状に形成することができる。
【0109】
次に、図9(d1)、(d2)に示すように、シリコン窒化膜31をCVDにて堆積する。このシリコン窒化膜31上に、フォトリソグラフィ工程によりSiNW部、ソース・ドレイン半導体領域部を覆うようにレジストをパターニングする。このレジストを、図9(d4)に示す。ここで、SiNW部のパターンは、2本のSiNWを覆うように1本のレジストを形成する。また、後のナノワイヤ形成工程におけるKOH溶液による異方性エッチングを良好に行うため、SiNW部のシリコン窒化膜の延伸方向(シリコンナノワイヤの延伸方向)が<110>方向に沿うようにする。その後、レジストを除去する。
【0110】
次に、図9(e1)、(e2)に示すように、第1のKOH異方性エッチング工程を行う。すなわち、シリコン窒化膜31をマスクにKOH溶液で露出部のシリコンから異方性エッチングを行う。KOH溶液は、例えば濃度40w%で、60℃で処理するとよい。このエッチングにおいては、エッチングの異方性の影響により<111>面が現れるかたちでエッチングが進行する。なお、このエッチングにより、1本のナノワイヤを形成するのではなく、2本のナノワイヤとなる部分を含んだ帯状のシリコン32が形成される。
【0111】
次に、図9(f1)、(f2)に示すように、シリコン窒化膜32を耐酸化膜としてLOCOS酸化を行なう。すなわち、シリコン窒化膜32を耐酸化膜として用いて、シリコンの露出部分を熱酸化し、シリコンの露出部分に酸化膜33を形成する。ここでのシリコン酸化膜3の膜厚は、後の工程の第2のKOH異方性エッチングに耐える程度の膜厚が有れば充分であり、ここでは100〜500nm程度の膜厚のシリコン酸化膜を形成する。
【0112】
次に、図9(g1)、(g2)に示すように、ソース・ドレイン半導体領域部を覆うようにレジストをパターニングし、そのレジストをマスクに露出部のシリコン窒化膜31をRIEエッチング装置を用いてエッチングすることによりレジストと同形にシリコン窒化膜31をパターニングする。このレジストを図9(g4)に示す。その後、レジストの除去を行う。
【0113】
次に、図9(h1)、(h2)に示すように、第2のKOH異方性エッチング工程を行う。すなわち、シリコン窒化膜31及びシリコン酸化膜33をマスクにKOH溶液で露出部のシリコン32から異方性エッチングを行う。KOH溶液は、例えば、濃度40w%で、60℃で処理するとよい。ここでは、エッチングの異方性の影響により断面が三角形のシリコンナノワイヤ3’が形成されることになる。また、異方性エッチングの影響により、大きさのバラツキが抑制されたSiNWを形成することができる。すなわち、図9(f1)に示すような形状になるまでエッチングされやすい面方位の表面から除去されてゆくが、一旦図9(f1)に示すような形状になると、SiNW部分はエッチングに強い面方位が露出する事となり極端にエッチングレートが落ちる。このエッチンレートの変化により、断面三角のSiNWの形状はバラツキが抑制される。
【0114】
次に、図9(i1)、(i2)に示すように、シリコン窒化膜31をリン酸溶液を用いた除去方法を用いて除去し、シリコン酸化膜33をフッ酸溶液を用いた除去方法を用いて除去する。その後、メタル形成工程を行う。具体的には、ソース・ドレイン半導体領域に電気的に接続するように金属電極6の形成を行う。本実施形態においては、既にエッチングによりそれぞれのソース・ドレイン半導体領域のシリコンナノワイヤと反対側に、メタル形成領域を形成しているため、流路に面することなく、金属電極6を形成することができる。したがって、メタルの腐食及び流路に面することによる短絡の問題のない、信頼性の高いセンサ素子を提供することができる。
【0115】
なお、本実施形態の製造方法によると、1本の帯状のシリコン窒化膜マスクにより、2本のシリコンナノワイヤ3’を形成することができる。したがって、加工寸法の最小線幅あたり、2本のシリコンナノワイヤ3’の形成が可能なので、他の製法(例えば、実施の形態1<センサの製造方法>)と比較して、2倍の集積度でシリコンナノワイヤの形成が可能となる。したがって、単位面積あたりの標的分子の捕獲量を上げることができ、ひいては高精度のセンシングに寄与することが可能となる。また、一つのパターンでほぼ同様の二つのシリコンナノワイヤが同時に形成されるのでシリコンナノワイヤの各パターンによるバラつきを減少することができる。
【0116】
<センサ素子の使用例>
本実施形態のセンサ素子10の使用例については、実施の形態1の<センサ素子の使用例>に記載した内容と同じである。よって、記載は省略する。
【0117】
〔実施形態3〕
<センサの構造>
本発明に係るセンサ素子の他の構造について説明する。図8は本実施形態のセンサ素子1’が有するシリコンナノワイヤ3近傍を示す斜視図である。また、センサ素子1’の上面図は、実施し形態1と同様であり、図2に示す。なお、実施の形態1と同じ部材には同じ番号を付し説明は省略する。
【0118】
センサ素子1’は、実施の形態1で説明したセンサ素子1と基本的に同じであるが、シリコンナノワイヤ3の上端部の面が、溝部5の上端部の面と同一面となっている点が異なっている。このような構造であることにより、以下で示すように、シリコンナノワイヤ3の溝部5での高さ(深さ)方向の配置を調整する必要が無く、製造がより容易になる。
【0119】
ここで、センサ素子1’は、カバー層4を有していても有していなくてもよい。センサ素子1’は、カバー層4を有していなくても、溝部5からなる流路がシリコンナノワイヤ3の下にのみ形成されることで、サンプル溶液などを直接この流路に滴下することで、流路の表面張力を考慮してリガンド溶液やサンプル溶液等を流すことで、試料の測定を行うことができる。また、カバー層4有していない場合、カバー層4に振動が伝わらないため、好適に、実施の形態1で説明した固有振動数の測定を行うことができる。また、カバー層4有していない場合、カバー層4に熱が伝わらないため、好適に温度制御を行うことができる。
【0120】
<センサの製造方法>
次に、本実施形態のセンサ素子1の製造方法について、図10を用いて順に説明する。図10(a1)〜(d1)は、図2に示すセンサ素子1’のAA’断面を製造工程順に説明する図である。また、図10(a2)〜(d2)は、図2に示すセンサ素子1’のBB’断面を製造工程順に説明する図である。また、図10(a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子1’の製造工程での上面図(俯瞰図)である。また、図10(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。ここで、図10において同じ英字の図面(例えば、(a1)、(a2)、(a3)及び(a4))は、同じ工程における図面である。
【0121】
本実施形態での製造方法は、シリコンナノワイヤ3の溝部5での高さ(深さ)方向の配置を調整する必要が無いだけで、基本的には、実施の形態1の<センサの製造方法>に記載の方法を用いることができる。よって、ここでは、実施の形態1の<センサの製造方法>に記載の工程と同様の工程については説明を省略し、実施の形態1の<センサの製造方法>に記載の工程と異なる工程のみ詳細に説明する。
【0122】
絶縁体により流路のおおよその外壁を成す酸化膜を作製する工程は、本製造方法でも、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4を用いて示した工程を用いることができるので、ここでは説明を省略する。なお、図10(a1)、(a2)は、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(a1)、(a2)を用いて説明した、シリコン窒化膜24をパターニングしている構造を示すものである。また、図10(b1)、(b2)は、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(d1)、(d2)を用いて説明した工程にて形成した構造を示すものである。
【0123】
本製造方法では、実施の形態1の<センサの製造方法>で図4(e1)、(e2)を用いて説明した工程は行わず、その後、実施の形態1の<センサの製造方法>にて図5(a1)、(a2)から図5(f1)、(f2)を用いて説明した工程と同様の工程を行う。これによって、図10(d1)、(d2)に示すような、シリコンナノワイヤ3の下側に流路が設けられる流路一体形成のセンサ素子1’を形成することができる。このときの上面図は図10(d3)に示す。
【0124】
<センサ素子の使用例>
本実施形態のセンサ素子1’の使用例については、実施の形態1の<センサ素子の使用例>に記載した内容と同じである。よって、記載は省略する。
【0125】
〔実施の形態4〕
流路内のシリコンナノワイヤに、標的分子を特異的に認識して結合するリガンドを固定化し、標的分子を含むサンプル溶液を流路内に導入することで標的分子を測定する方法は、サンプル溶液中のイオンや標的分子がシリコンナノワイヤに非特異的に吸着することによる影響で、シリコンナノワイヤのインピーダンスの変化にバラつきが大きくなる。そのため、標的分子を特異的に認識して結合するリガンドを固定化しないシリコンナノワイヤを用いて、マイナスコントロールとして同じサンプル溶液を測定する必要がある。
【0126】
そこで、本実施形態では、図11に示すように、基板上に異なる2つの溝部5を形成し、それぞれの溝部5,5に、シリコンナノワイヤ3(3’)を形成した差動型センサ素子について説明する。
【0127】
差動型センサ素子における、それぞれの溝部5,5、及びシリコンナノワイヤ3(3’)の製造方法は、実施の形態1〜3のいずれかで説明した方法と同様である。よって、実施の形態1〜3と同じ部材番号を用いる。また、溝部5をカバー層4で覆うことで流路が形成されることも実施の形態1〜3と同様である。なお、一つの差動型センサ素子内では、同じ方法で、それぞれシリコンナノワイヤ3(3’)が形成された溝部5,5が、形成されているものとする。
【0128】
差動型センサ素子において、一方の溝部5からなる流路のシリコンナノワイヤ3には標的分子を特異的に認識して結合するリガンドを固定化し、検出部60として使用する。固定の方法は、実施の形態1に記載した方法と同様である。他方の溝部5からなる流路のシリコンナノワイヤ3にはリガンドを固定化せず、参照検出部61とする。但し、参照検出部61に、BSA溶液を用いてシリコンナノワイヤ表面にブロッキングを行う。このように、一方の流路のシリコンナノワイヤ3にはリガンドを固定し、他方にはリガンドを固定しないので、2つの流路は、それぞれ異なる注入口と繋がっているものとする。
【0129】
ここで、同一溝部(流路)内に検出部及び参照検出部を設置すると、参照検出部のシリコンナノワイヤ3にもリガンドが固定されてしまう。しかし、図11に示すように、溝部5,5を並列配置することで、一方にのみリガンドを流入できる。よって、上記のように溝部5,5を並列配置することで、検出部60にのみリガンドを固定することが容易となる。ただし、2つの溝部(流路)は、シリコンナノワイヤ3の検出部を通過した下流(吸収部または排出側)では、図11に示すように1つになっていてもよい。
【0130】
この差動型センサ素子を用いて、標的分子を含むサンプル溶液を溝部5からなる流路に導入すると、サンプル溶液が二つの流路内に流れ、検出部60では、サンプル溶液中の標的分子がシリコンナノワイヤ3(3’)に固定化されているにリガンドと結合し、シリコンナノワイヤ3(3’)のインピーダンスの変化が起きる。他方、参照検出部61では、リガンドが固定されていないため、標的分子との特異的な結合によるシリコンナノワイヤ3(3’)のインピーダンスの変化は起きない。よって、検出部60のインピーダンス変化量から参照検出部61のインピーダンス変化量を差し引くことで、より正確な標的分子の検出が可能になる。
【0131】
従来は、差動型センサの実現は困難であったが、本実施形態では、実施の形態1〜3と同様に、シリコンナノワイヤ3と流路になる溝部5とを基板に同時に形成することで、大きさの揃ったシリコンナノワイヤ3の配置を精度よく行うことができるので、差動型センサを実現可能である。
【0132】
〔実施の形態5〕
本実施形態では、実施の形態1〜3で説明したセンサ素子1,1’10のいずれかを用いた分析チップについて、図12(a)、(b)を用いて説明する。
【0133】
本実施形態のマイクロ分析チップは、図12(a)にその正面図を示すカバー層40と、図12(b)にその正面図を示す分析用基板20とが、張り合わされて成っている。
【0134】
カバー層40は、透明性及び加工性が高いものが好ましく、ガラス、石英、高分子樹脂(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など)、フィルム等を用いることができる。なかでも、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等であるのが好ましく、本実施形態では、シリコン系樹脂であるPDMSを用いる。カバー層40には、分析用基板20の液溜51に液体を注入できるように、注入口50が貫通して設けられている。
【0135】
注入口50の大きさは特に限定されず、毛細管力が働かない程度の大きさである場合、注入口50が疎水性を有していても液溜51に液体を注入することができる。注入口50が、毛細管力が働く程度の大きさである場合には、注入口50に親水性を施すことによって、毛細管力により液体を液溜51に注入することができる。
【0136】
また、注入口50は大気開放されていればよい。なお、注入口50にあらかじめ液体を充填したカートリッジを接続する方法で液体を注入することもできる。その場合であっても、液体注入時にはカートリッジは液体を充分に排出できるよう、注入口50との接続口またはそれ以外の部分で大気開放された構成を有するとよい。
【0137】
分析用基板20は、シリコンナノワイヤや電極等を形成可能な材料として、SOI基板を用いる。分析用基板20には、シリコンナノワイヤ3を有する検出部60、液溜51、を全て同一基板上に、同時に形成できる。分析用基板20には、液溜51、検出部60、吸収部54が上面を開口して設けられている。吸収部54には開口された空間から吸収体を充填される。そして、これら開口部分はカバー層40が張り合わされることで、上面を封じらされ、空間が形成される。また、分析用基板20には、外部接続端子55が設けられている。
【0138】
液溜51は、注入口50から注入された溶液を溜めるものであり、毛細管力が働く程度の大きさを有するのが好ましい。この場合、高さ方向が充分小さく設計されていればよい。液溜51が溶液でいっぱいになると、検出部60に向かって流れる。
【0139】
検出部60には、実施の形態1〜3のいずれかで説明したセンサ素子1,1’,10が用いられる。ここで、センサ素子の基板2は、分析基板20の一部であり、分析基板20と一体になっており、また、センサ素子のカバー層4は、カバー層40の一部であり、カバー層40と一体となっている。また、本実施形態では、溝部5は直線状となっている。検出部60は被検出物質(標的分子)を直接的に検出することができる。被検出物質を直接検出できる構成であるため、例えば抗原抗体反応を別途行うような反応部を有さない構成とすることができる。
【0140】
吸収部54は、液体を吸収する物質である吸収体で充填されており、吸収体は、高分子吸収体、多孔性物質、親水性メッシュ、海綿体、綿、濾紙等、その他毛細管力を利用し液体を吸収する物質であれば、どのような物質でも構わない。吸収部54で液体を効率的に吸収することができるよう、吸収部54と検出部60との接続部またはそれ以外の部分で、大気開放されている(大気と接している状態)のがよい。
【0141】
外部接続端子55は、検出部60やその他電気制御される部材への電気的制御信号の入力や、検出部60からの検出信号の出力を行うための導電性端子である。例えば、金電極をもちると、検出電極などと併用でき工程が簡易化されるので好ましい。その他、白金、アルミニウムや、銅などの材料を含んだ導電性材料を用いて形成してもよい。
【0142】
図12(b)に示すように、シリコンナノワイヤを有する検出部60と外部接続端子55が電気的に接続されている。また、液溜等にバルブが設けられこれを電気的に制御する場合にも、外部接続端子55と接続させる。外部接続端子55は、図示しない外部の制御回路や集積回路と接続される。この構成により、マイクロ分析チップ自体には電源やICなどの制御回路を設けなくてよく、そのためコストパフォーマンスに優れたチップを提供することができる。
【0143】
本実施形態では1つの注入口を有する場合を説明したが、注入口は適宜2つ以上にしてそれにあわせて液溜を形成してもよい。また、液溜からの溶液の流れはバルブ等で制御するようになってもよい。これらは、公知の方法で形成することができる。
【0144】
以上のように、本実施形態の分析チップでは、分析用基板20はSOI基板からなり、検出用シリコンナノワイヤ、それが配置される流路になる溝部、等を全て同一基板上に、同時に形成できる。よって、シリコンナノワイヤの配置がナノレベルで制御可能となり、非常に精度が高く、また、検出感度がよいシリコンナノワイヤを用いたセンサを有する分析チップの形成が可能である。また、本実施形態の分析チップでは、シリコンナノワイヤ3を用いたラベルフリーの検出を行うことができる。
【0145】
また、実施の形態4で説明した差動型センサ素子を用いたした分析チップも上記分析チップと同様に構成することができる。
【0146】
〔実施の形態6〕
次に、本発明に係る分析装置の一実施形態である、ハンディ型マイクロ分析装置について、図13を用いて説明する。
【0147】
図13は、本実施形態のマイクロ分析装置(分析装置)100の構成を示す図である。マイクロ分析装置100は、マイクロ分析チップ2302を用いて測定を行う、携帯可能なハンディ型マイクロ分析装置である。ここで用いるマイクロ分析チップ2302は、上記実施の形態5で説明した分析チップである。
【0148】
ハンディ機器2301の下部に、上記実施の形態5で説明した分析チップであるマイクロ分析チップ(分析チップ)2302の接続口であるチップ接続口2303が設けられている。マイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306と電気的に接続できる外部入出力端子(図示せず)が、ハンディ機器2301内のチップ接続口2303の奥に設けられており、チップ接続口2303にマイクロ分析チップ2302を挿入することにより、ハンディ機器2301内の外部入出力端子とマイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306とが電気的に接続される。ハンディ機器2301の内部には電源(図示せず、例えば電池)が備えられている。また、ハンディ機器2301には、被検出物質の測定結果を表示することができる表示部2304、及び、測定の開始、停止や、測定パラメータを特定するための様々なデータの入力などをすることのできる入力部2305が設けられる。その他、ハンディ機器には、図示しないが、データを処理することのできるCPUや入力情報及び出力情報を処理するI/O論理回路などの情報処理システムが構築されている。
【0149】
マイクロ分析チップ2302をハンディ機器2301に接続し、各種データを入力し、測定開始ボタンを押すことにより、測定開始状態となり、試料(サンプル)を注入口2307から注入することで測定できる状態となる。
【0150】
測定者がサンプルを注入口2307に注入すると、マイクロ分析チップ2302内に設けられる流路内を毛細管現象により、溝部5からなる流路の末端部に設けられる吸収体が充填された吸収部2308に向かってサンプルが流入する。そして、シリコンナノワイヤ3(3’)により構成される検出部2309において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をマイクロ分析チップの外部接続端子2306から出力する。ハンディ機器における外部入出力端子より入力された電気信号を分析することにより、被検出物質の量または種類などを特定することができる。
【0151】
さらに、ハンディ機器2301の電源から、ハンディ機器2301の外部入出力端子及びマイクロ分析チップの外部接続端子2306を介して、マイクロ分析チップ2302の検出部2309に設けられたシリコンナノワイヤ3(3’)に、所定の電圧を印加するようになっていてもよい。このような構成であると、実施の形態1で説明したように、サンプル溶液の温度を制御し、反応を向上させることができ、感度を上げて標的分子を検出することができる。なお、印加する電圧の大きさは、予め設定されたものが記憶されており、図示しないCPUがそれに従って制御してもよい。
【0152】
また、マイクロ分析チップ2302には、サンプルの流路内への流入を停止させるバルブを設けてもよい。このような構成により、測定者がサンプルをあらかじめ注入口から注入しておくことができる。そして、マイクロ分析チップ2302をハンディ機器2301に接続し、測定開始することにより、ハンディ機器2301より外部入出力端子及びマイクロ分析チップの外部接続端子2306を介してマイクロ分析チップ2302のバルブに一定の電気信号を与える。それによりバルブを開状態にして、サンプルの溝部5からなる流路内への流入を開始する。したがって、より簡易に測定をすることができる。
【0153】
ハンディ機器2301は、例えば、は携帯電話やPDAなどの携帯電子機器とすることができる。ここでは携帯電話を例に挙げて説明する。携帯電話で、マイクロ分析チップ2302の電気的な変化を分析可能な回路、及びデータ処理分析ソフトを起動させることでハンディ機器として動作させることができる。すなわち、専用回路とソフトにより携帯電話をハンディ機器として利用する。すなわち、専用ソフトにより仮想的に携帯電話をハンディ機器として利用する。マイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306は、携帯電話の外部入出力端子に接続可能なように構成するとよい。
【0154】
マイクロ分析チップ2302を携帯電話に接続し、各種データを携帯電話のボタン等により入力し、測定開始ボタンとして設定されたボタンを押すことにより、測定開始状態となり、測定者がサンプルを注入口2307に注入し、結果として検出部において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をマイクロ分析チップの外部接続端子2306から出力し、携帯電話においてマイクロ分析チップの外部接続端子2306と電気的に接続する外部入出力端子より入力された電気信号を処理することにより、被検出物質の量又は種類などを特定することができる。そして測定結果を携帯電話の表示画面に表示する。また、マイクロ分析チップ2302にバルブを設けている場合には、あらかじめマイクロ分析チップ2302に準備されておりバルブで流入を停止されていた試薬や試料(サンプル)などのバルブ流入を携帯電話の測定開始ボタンが押されることにより、順次開始し、結果として検出部において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をマイクロ分析チップの外部接続端子2306から出力し、携帯電話においてマイクロ分析チップ2302の外部接続端子2306と電気的に接続する外部入出力端子より入力された電気信号を処理することにより、被検出物質の量又は種類などを特定することができる。そして測定結果を携帯電話の表示画面に表示する。
【0155】
ハンディ機器2301を携帯電話とすることにより、コストパフォーマンスに優れたマイクロ分析装置を提供することができる。またユーザーは測定が必要な時にどこでも測定が可能になる。携帯電話の保有率が上昇し、測定者(ユーザー)に充分携帯電話が普及するようになると多くのユーザーが便益を享受することができる。すなわち、携帯電話保有者のハンディ機器のコストは不要となる。ただし、代わりに携帯電話で動作させることのできる電気的な回路やデータ処理分析ソフトのコストが必要となるが、測定者側では、データ処理分析ソフトをネットワーク上でダウンロードすることが可能であり、携帯電話の高機能化により電気的回路をあらかじめ搭載することができる。ユーザーは低コストで携帯電話をハンディ機器として利用することが可能となる。以上より、携帯電話保有者は容易にハンディ機器2301を準備でき、ハンディ機器を準備できた後は、マイクロ分析チップ2302のコストのみで試料(サンプル)の分析が可能となる。
【0156】
〔実施の形態7〕
さらに、本発明に係る分析装置の別の実施形態である、独立型マイクロ分析装置について、図14を用いて説明する。
【0157】
図14は、本実施形態のマイクロ分析装置(分析装置)200の構成を示す図である。このマイクロ分析装置200は独立して試料(サンプル)の採取、検出データの分析、及び出力が可能な独立型マイクロ分析装置である。マイクロ分析装置200は、図14に示すように、サンプル採取部2401、液体流路部2402、駆動分析処理部2403、入出力論理処理部2404及び出入力部2405を有する。それぞれの部分が、順次積層されるか、または組み合わされる(接続する)ことによりマイクロ分析装置200となる。
【0158】
サンプル採取部2401には、毛細管の貫通している針が設けられており、被検体や試料体に針を刺す又は導入することにより、血液や試料等を採取する。なお、サンプル採取部2401には、直接、針が設けられていてもよいし、針を固定する穴が設けられていてもよい。
【0159】
針は、低侵襲のマイクロプローブであれば、被検体に針を刺し血液等の体液を抽出する際に痛みが緩和されるため好ましい。また、針の代わりに非侵襲型の皮膚表面の汗口腔内の唾液、涙や尿等を採取する吸収体等であってもよい。
【0160】
液体流路部(分析チップ)2402は、上記実施の形態5にて説明したマイクロ分析チップと同じ流路構造が形成されている。さらに、液体流路部2402でも、検出部60に設けられたシリコンナノワイヤ3と接続した外部接続端子(図示せず)を有しており、この外部接続端子と、駆動分析処理部2403の外部入出力端子(図示せず)とが電気的に接続している。
【0161】
サンプル採取部2401の毛細管は、液体流路部2042の液溜2414と接続されており、針に設けられている毛細管の毛管現象によりサンプルが液溜2414に流入するように構成されている。
【0162】
液体流路部2042は、複数の流路構造を形成することも可能である。また、検出部60を、実施の形態4で示したような差動型の構成とすることもできる。さらに、検出部60を複数形成することも可能である。図14では、吸収体を充填した吸収部54が左右の流路構造で分離しているが、左右の流路構造で1つの吸収部54を共用することもできる。それによりスペースの削減が可能となる。
【0163】
駆動分析処理部2403には、CPU24031、メモリ、及びバッテリー24032が設けられており、液体流路部2042の検出部60や、後で説明するI/O論理回路などと接続され、各種測定に対応したバルブコントロールや、測定データの処理や、出入力部の制御等が可能となっている。また、CPU2403の制御により、バッテリー24032から、駆動分析処理部2403の外部入出力端子と液体流路部2042の外部接続端子を介して、検出部60に設けられたシリコンナノワイヤ3(3’)に、所定の電圧を印加するようになっていてもよい。このような構成であると、実施の形態1で説明したように、サンプル溶液の温度を制御し、反応を向上させることができ、感度を上げて被検出物質(標的分子)を検出することができる。なお、印加する電圧の大きさは、予め設定されたものがメモリ等に記憶されており、CPUがそれに従って制御してもよい。
【0164】
測定開始されると、バルブ(図示なし)で流入を停止されていた試薬や試料(サンプル)などのバルブ流入を順次開始し、結果として検出部60において検出された被検出物質の量に応じた電気信号をCPU24031にて処理することにより、被検出物質の量または種類などを特定することができる。そして、次に説明するCPU24031と接続されたI/O論理回路24041にデータを出力し、出入力部2405にて測定結果を表示することができる。
【0165】
入出力論理処理部2404は、CPU24031に接続されたI/O論理回路24041を有している。I/O論理回路24041に接続する電気接続線は、出入力部2405の各ボタン24052又は表示部24051等と接続されており、CPU24031と協働し、I/Oデータを適切に処理することができる。すなわち、I/O論理回路24041はCPU24031と協働し、出入力部2405で入力された各種データ及び測定開始信号が入力されると、液体流路部2402で検出された試料の被検出物質に応じて出力される電気信号を処理し、被検出物質の量や種類を特定し、出入力部2405の表示部24051に当該情報を表示する。
【0166】
出入力部2405には、各種データ入力用ボタン24052及び表示部24051が設けられている。
【0167】
表示部24051には、液晶表示モジュールまたは有機EL表示モジュール等を用いることができる。表示部24051は、駆動ドライバー回路(図示せず)をI/O論理回路とCPUが協働し駆動することで表示動作を行なうことが可能である。表示は数値を表示する形式や、グラフを用いて経時変化と共に表示することもできる。また、陽性・陰性等といった形式で表示することもできる。
【0168】
さらに、出入力部2045には、図示しないが、外部との入出力を処理する端子、または、無線送受信機を設けることができる。そうすることにより、パソコンやPDA端末などと接続でき測定データの加工、分析及び保存などができ、さらに、ネットワーク接続もできるため、双方向の情報のやり取りを行うことも可能となる。このように、双方向の情報のやり取りを行なうことにより、測定者の測定結果により得られる健康に関する情報を病院や健康管理センターなどとネットワーク接続し、双方向の情報提供ができるようになるため、高度な医療に直結したアドバイスや診断・治療を測定者は享受でき、医療提供側では豊富な健康情報からの適格な診断・治療が可能となる。
【0169】
なお、マイクロ分析装置200は、図示しないが、シリコンナノワイヤ3(3’)に、振動を与える振動源と(振動手段)、その振動数を測定する測定手段とを備えた、振動数測定部を備えていてもよい。ここで、シリコンナノワイヤ3(3’)を振動させるには、レーザ光を用いた光熱励振法を用いることができ、その場合、例えば、振動源として半導体レーザ、測定手段として、レーザドップラー干渉計を採用すればよい。マイクロ分析装置200がこのような振動測定部を有することで、実施の形態1で説明したように、ナノワイヤの固有振動数の変化を測定でき、サンプル中の標的分子の検量が可能になる。
【0170】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明は、ナノ構造体を用いて各種標的を検出し、これら標的の定性や定量を行う、バイオセンサや化学センサ等の標的検出装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0172】
【図1】本発明の一実施形態のセンサ素子1におけるシリコンナノワイヤ付近を拡大した斜視図である。
【図2】図1に示すセンサ素子1または図5に示すセンサ素子1’の上面図である。
【図3】(a)はシングル形状の、(b)はマトリクス形状のシリコンナノワイヤを示す図である。
【図4】(a1)〜(e1)は、図2のセンサ素子1のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(e2)は、図2のセンサ素子1のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、(a3)、(d3)は、センサ素子1の製造工程での上面図であり、(a4)、(e4)は、フォトレジストの上面図である
【図5】(a1)〜(f1)は、図2(a)のセンサ素子のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(f2)は、図2(a)のセンサ素子のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、(a3)、(c3)、(d3)、(e3)、(f3)は、センサ素子1の製造工程での上面図であり、(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。
【図6】本発明の他の実施形態のセンサ素子10におけるシリコンナノワイヤ付近を拡大した斜視図である。
【図7】図6に示すセンサ素子10の上面図である。
【図8】本発明の他の実施形態のセンサ素子1’におけるシリコンナノワイヤ付近を拡大した斜視図である。
【図9】(a1)〜(i1)は、図8のセンサ素子10のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(i2)は、図8のセンサ素子10のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、(a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子10の製造工程での上面図であり、(a4)、(c4)、(d4)は、フォトレジストの上面図である。
【図10】(a1)〜(d1)は、図2のセンサ素子1’のAA’断面を製造工程順に説明する図であり、(a2)〜(d2)は、図2のセンサ素子1’のBB’断面を製造工程順に説明する図であり、a3)、(b3)、(d3)は、センサ素子1’の製造工程での上面図であり、(a4)、(c4)は、フォトレジストの上面図である。
【図11】本発明の他の実施形態の差動型センサ素子を示す図である。
【図12】(a),(b)は、センサ素子を用いた分析チップの構成図である。
【図13】本発明の他の実施形態のハンディ型マイクロ分析装置の構成図である。
【図14】本発明の他の実施形態の独立型マイクロ分析装置の構成図である。
【符号の説明】
【0173】
1,1’,10 センサ素子
2 基板
3,3’ シリコンナノワイヤ(ナノ構造体)
4 カバー層
5 溝部
20 基板
40 カバー層
50 注入口
51 液溜
54 吸収部
55 外部接続端子
60 検出部
61 参照検出部
100,200 マイクロ分析装置(分析装置)
2302 マイクロ分析チップ(分析チップ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝部が設けられた面を有する基板と、
上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有し、
上記ナノ構造体は、上記溝部の底部から離間していることを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
上記ナノ構造体は、上記溝部の上端部から離間していることを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
上記ナノ構造体及び上記基板は、半導体からなることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
上記ナノ構造体及び上記基板は、シリコンからなることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
上記溝部内に、さらに、当該溝部の両壁面に懸架して設けられた金属から成る金属ナノ構造体が設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載のセンサ素子。
【請求項6】
上記ナノ構造体は複数設けられることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
上記ナノ構造体は、マトリクス形状に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のセンサ素子。
【請求項8】
上記ナノ構造体が設けられた上記溝部を二つ有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のセンサ素子。
【請求項9】
上記請求項1から8の何れか1項に記載のセンサ素子を有することを特徴とする分析チップ。
【請求項10】
請求項8に記載のセンサ素子を有し、上記二つの溝部のうち、一方の溝部の上記ナノ構造体にはリガンドを修飾して検出部として使用し、他方の溝部のナノ構造体にはリガンドを固定せずに参照検出部として使用する、ことを特徴とする差動型分析チップ。
【請求項11】
請求項9に記載の分析チップを用いて、上記ナノ構造体にリガンドを固定し、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出することを特徴とする分析装置。
【請求項12】
請求項10に記載の差動型分析チップを用い、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出することを特徴とする分析装置。
【請求項13】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析装置であって、
上記ナノ構造体に電圧を印加する電圧印加部と、印加する電圧を制御する電圧制御部とを備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項14】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析装置であって、
上記ナノ構造体を振動させる振動手段と、上記ナノ構造体の振動数を測定する測定手段とを備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項15】
上記振動手段は、上記ナノ構造体に光を照射し、上記ナノ構造体を光熱励振させることを特徴とする請求項14の記載の分析装置。
【請求項16】
前記センサ素子として、請求項1から7の何れか1項に記載のセンサ素子を用いることを特徴とする請求項13から15の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項17】
溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有するセンサ素子の製造方法であって、
上記溝部と上記ナノ構造体とを同時に、かつ、上記ナノ構造体を上記溝部の底面から離間して、形成するステップを含むことを特徴とするセンサ素子の製造方法。
【請求項18】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析方法であって、
上記ナノ構造体に印加する電圧を制御することで、上記ナノ構造体の温度制御を行うステップを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項19】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析方法であって、
上記ナノ構造体を振動させる振動ステップと、
上記ナノ構造体の振動数の変化を計量する計量ステップとを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項1】
溝部が設けられた面を有する基板と、
上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有し、
上記ナノ構造体は、上記溝部の底部から離間していることを特徴とするセンサ素子。
【請求項2】
上記ナノ構造体は、上記溝部の上端部から離間していることを特徴とする請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
上記ナノ構造体及び上記基板は、半導体からなることを特徴とする請求項1または2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
上記ナノ構造体及び上記基板は、シリコンからなることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
上記溝部内に、さらに、当該溝部の両壁面に懸架して設けられた金属から成る金属ナノ構造体が設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載のセンサ素子。
【請求項6】
上記ナノ構造体は複数設けられることを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載のセンサ素子。
【請求項7】
上記ナノ構造体は、マトリクス形状に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のセンサ素子。
【請求項8】
上記ナノ構造体が設けられた上記溝部を二つ有することを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のセンサ素子。
【請求項9】
上記請求項1から8の何れか1項に記載のセンサ素子を有することを特徴とする分析チップ。
【請求項10】
請求項8に記載のセンサ素子を有し、上記二つの溝部のうち、一方の溝部の上記ナノ構造体にはリガンドを修飾して検出部として使用し、他方の溝部のナノ構造体にはリガンドを固定せずに参照検出部として使用する、ことを特徴とする差動型分析チップ。
【請求項11】
請求項9に記載の分析チップを用いて、上記ナノ構造体にリガンドを固定し、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出することを特徴とする分析装置。
【請求項12】
請求項10に記載の差動型分析チップを用い、上記ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出することを特徴とする分析装置。
【請求項13】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析装置であって、
上記ナノ構造体に電圧を印加する電圧印加部と、印加する電圧を制御する電圧制御部とを備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項14】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析装置であって、
上記ナノ構造体を振動させる振動手段と、上記ナノ構造体の振動数を測定する測定手段とを備えたことを特徴とする分析装置。
【請求項15】
上記振動手段は、上記ナノ構造体に光を照射し、上記ナノ構造体を光熱励振させることを特徴とする請求項14の記載の分析装置。
【請求項16】
前記センサ素子として、請求項1から7の何れか1項に記載のセンサ素子を用いることを特徴とする請求項13から15の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項17】
溝部が設けられた面を有する基板と、上記溝部内で当該溝部の両側壁に懸架して設けられ、かつ、上記基板と一体に構成されたナノ構造体と、を有するセンサ素子の製造方法であって、
上記溝部と上記ナノ構造体とを同時に、かつ、上記ナノ構造体を上記溝部の底面から離間して、形成するステップを含むことを特徴とするセンサ素子の製造方法。
【請求項18】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該ナノ構造体の電気的特性の変化を測定することで標的分子を検出する分析方法であって、
上記ナノ構造体に印加する電圧を制御することで、上記ナノ構造体の温度制御を行うステップを含むことを特徴とする分析方法。
【請求項19】
ナノ構造体を有するセンサ素子を用いて、当該ナノ構造体にリガンドを固定し、当該リガンドと反応する標的分子を検出する分析方法であって、
上記ナノ構造体を振動させる振動ステップと、
上記ナノ構造体の振動数の変化を計量する計量ステップとを含むことを特徴とする分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−264904(P2009−264904A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114261(P2008−114261)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月27日 社団法人応用物理学会発行の「2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月27日 社団法人応用物理学会発行の「2008年(平成20年)春季 第55回応用物理学関係連合講演会予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
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